説明

橋梁の火災防護構造

【課題】例えば高架橋等の橋梁が車両火災等によって劣化・損傷等するのを防止するための火災防護構造に係り、上記の車両火災等による橋梁、特に床版や橋桁の劣化・損傷等を極力防止できるようにする。
【解決手段】隣り合う橋台3上に架け渡した橋桁4の上に床版2を載置固定してなる橋梁の火災防護構造であって、上記橋桁4の下部に野縁受け6及びパネル支持フレーム7を介して遮炎パネル5を、上記床版2および橋桁4の下面を覆うように吊下して取付け、これにより上記床版2の下面との間にメンテナンス用の空間を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高架橋等の橋梁の火災防護構造に関する。更に詳しくは橋梁が車両火災等によって劣化・損傷等するのを防止するための火災防護構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来たとえば道路や線路などの交通路を立体的に交差させる等の目的で跨道橋や跨線橋もしくは高架橋等の橋梁が設けられている。特に都市部では、交通量の多い道路や線路の上に跨道橋や跨線橋を架設したり、一般道路の上に高速道路などの高架橋を長い区間並行して設けたり、高架橋を上下多段に構成するなど交通量の増加に伴って橋梁の構造も複雑化する傾向にある。
【0003】
また上記のような橋梁は、橋脚や橋台上に渡した橋桁の上にコンクリート等で形成された床版を設けるのが一般的であり、その床版や橋脚の下で交通事故等が発生して自動車等の車両が炎上すると、その際に発生する熱や可燃性の生成物等によって、橋梁が変質したり劣化する等のおそれがある。特にコンクリート製の床版にあっては、コンクリート中のセメント系材料が熱で変質して耐久性が低下する等の不具合がある。
【0004】
そこで、上記のような橋梁の火災対策として、橋桁や床版等の下面に液状の耐火材を塗布または吹付けるか、或いは予め所定の形状に成形したプレキャスト製の耐火材を橋桁や床版等の下面に取付けることが考えられるが、上記のように耐火材で被覆することは、橋梁構造のメンテナンスの面からは好ましくない。すなわち、上記のような橋梁は、車両火災等の危険に晒されているだけでなく、特にコンクリート製の床版にあっては、自動車の排気ガスや交通振動等によって、コンクリートが次第に劣化する要因にも晒されており、床版下部のコンクリート剥落が起きないように、躯体を常時監視および管理する必要があるが、上記のように橋桁や床版等を耐火材で覆ってしまうと、上記の監視や管理に支障を来すおそれがあるからである。
【0005】
なお、下記特許文献1〜3には、橋梁の腐食、特に海岸地帯での飛来塩分による腐食を防止することを目的として橋桁の下側と側面を覆うようにしてパネルカバーや遮蔽板を敷設することが提案されている。しかし、上記文献1〜3は、いずれも床版の下側に設けた橋桁の下面と両側面をパネルカバーや遮蔽板で隙間なく覆うことによって橋桁が外気に触れないようにしたもので、それによって橋梁の腐食を防止することができたとしても、前記のような火災による橋梁の変質や劣化を防ぐことはできない。特に自動車事故でガソリン等の燃料に引火したり、タンクローリーの積荷の可燃性の油類に引火した場合には、火力も強く、橋梁の耐熱温度を超えて床版や橋桁が変形したり損傷する場合が少なくない。それを修復するには多大な時間と労力を要し、しかも、その間は橋梁が不通となってしまうので交通の利便性や経済的にも多大な不利・不便や損失を被る等の不具合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−324230号公報
【特許文献2】特開2007−154572号公報
【特許文献3】特開2007−154576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の問題点に鑑みて提案されたもので、高架橋等の橋梁、特に床版や橋桁のメンテナンスに支障をきたすことなく、車両火災等による劣化・損傷を極力防止することのできる橋梁の火災防護構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために本発明による橋梁の火災防護構造は、以下の構成としたものである。即ち、隣り合う橋台上に架け渡した橋桁の上に床版を載置固定してなる橋梁の火災防護構造であって、上記橋桁の下部に野縁受け及びパネル支持フレームを介して遮炎パネルを、上記床版の下面および橋桁の下面を覆うように吊下して取付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記のように本発明による橋梁の火災防護構造は、床版を載置固定した橋桁の下部に、その床版の下面と橋桁の下面を覆うように吊下して遮炎パネルを取付けたから、万一橋桁の下側で自動車事故等によって火災が発生した場合にも、その火炎や熱が上記遮炎パネルで遮られて橋桁や床版に直接作用するのが防止され、それらが火炎や熱で劣化もしくは損傷等するのを防ぐことができる。従って例えば橋桁と床版の両方に耐火処理を施す等の面倒がなく、また施工に際しても、橋桁や床版の下面に作業者が上向きで耐火材を吹き付ける等の苦渋の作業を行わなくて済む利点がある。さらに上記遮炎パネルは工場等で予め所定の大きさ形状に形成した、いわゆるプレキャスト製のものを使用できるので、現場での取付時に耐火材や粉塵等が飛散することなく良好な作業環境で施工することができる。
【0010】
また上記遮炎パネルを橋梁の下部に吊下するように取付けたから、遮炎パネルと床版の下面との間にメンテナンス用の空間を形成することができ、そのメンテナンス用の空間によって、コンクリート等よりなる床版やI型鋼等よりなる橋桁の劣化診断や剥落防護のためのメンテナンス作業を容易に行うことができると共に、火災発生時には上記メンテナンス用空間が断熱空間となって橋桁や床版の温度上昇が抑制され、それらが火炎や熱で劣化もしくは損傷等するのを更に低減することができる。さらに上記遮炎パネルを、橋桁の下部に野縁受けを介して取付けたパネル支持フレームに取付けるようにしたから、構造が簡単で容易・迅速に取付け作業を行うことができると共に、遮炎パネルが劣化もしくは損傷した場合には容易に交換することもできる。
【0011】
なお、上記野縁受けは、より好ましくは、その長手方向が橋桁の長手方向とほぼ直交するように配置した状態で該橋桁の長手方向に所定の間隔をおいて該橋桁の下面に複数取付け、その橋桁の長手方向に隣り合う野縁受け間に上記パネル支持フレームを野縁受けの長手方向に並べた状態で複数取付けると共に、その各パネル支持フレームにそれぞれ複数枚の遮炎パネルを取付けるようにするとよい。このように構成すると、多数枚の遮炎パネルを簡単な構造で取付けることができると共に、各遮炎パネルの維持管理や交換等のメンテナンスを容易に行うことが可能となる。
【0012】
また上記遮炎パネルは、防振ゴムを介して上記パネル支持フレームに取付けるとよく、そのようにすると、橋梁の床版上を通過する自動車等の振動が遮炎パネルに波及するのを可及的に低減することが可能となり、上記遮炎パネルによる火災防護効果およびその耐久性能を向上させることができる。さらに上記遮炎パネルとしては、例えばけい酸カルシウム系の耐火板本体の橋桁側の面に金属薄板を被覆したものを用いることができる。このような遮炎パネルを用いると、上記の火災防護効果およびその耐久性を更に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による火災防護構造の一実施形態を示す橋梁の斜視図。
【図2】図1の橋梁の一部の拡大縦断正面図。
【図3】(a)は図2の更に一部の拡大図、(b)はその底面図、
【図4】(a)は図3(a)の更に一部の拡大図、(b)はその底面図。
【図5】(a)は図4(a)の一部の拡大分解図、(b)は組付状態の同上図。
【図6】遮炎パネルの一部の拡大図。
【図7】図3(a)におけるA−A断面図。
【図8】野縁受けやパネル支持フレームおよび遮炎パネル等の分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明による橋梁の火災防護構造を、図に示す実施形態に基づいて具体的に説明する。実施形態は橋梁1として図1に示すように高速道路の高架橋、特に床版2を上下2段に設けた高架橋に適用したもので、その各床版2は隣り合う橋台(橋脚)3・3間に渡したI型鋼よりなる橋桁(主桁)4の上面に載置固定されている。上記各床版2の上面には、車道としての舗装が施されているが、図には省略した。図中、2sは地覆である。
【0015】
上記のI型鋼よりなる橋桁4は、その長手方向が床版2の長手方向(図2で前後方向)とほぼ平行になるようにして床版2の下面側に配置され、上記各床版2の幅方向(図2で左右方向)にそれぞれ複数本(図の場合は6本)ずつ設けられている。その複数本の橋桁4は、その下部フランジ部4bを橋台3の上面に載置すると共に、上部フランジ部4aの上面に上記各床版2bを載置した構成である。
【0016】
そして本発明は上記各床版2の下面側に配置した橋桁4の下方に、各床版2の下面との間に所定の間隔Sをおいて遮炎パネル5を配置したもので、本実施形態においては所定大きさ形状(図の場合は縦横約980mmの方形板状)の遮炎パネル5を、図2において前後および左右方向に多数並べて配置した状態で、上記各床版2の下面側に設けた複数本の橋桁4の下部に、複数本取付けられた野縁受け6及びパネル支持フレーム7等を介して取付けたものである。
【0017】
上記野縁受け6は、本実施形態においては図1〜図6に示すようにH型鋼を所定の長さに切断し、必要に応じて適宜の連結部材等で継ぎ足すことによって、上記各床版2の幅方向の寸法とほぼ同じ長さに形成したもので、その野縁受け6は上記各床版2の下面側に設けた複数本の橋桁4の下部フランジ部4bに不図示の取付金具やボルト・ナット等で取付けられている。
【0018】
上記パネル支持フレーム7は、本実施形態においては一対の野縁受け6・6間に渡した一対のアングル材よりなる縦材71・71と、その両縦材71・71間に溶接等で固着した複数本(図の場合は3本)の横材72等で構成され、そのパネル支持フレーム7は、図4および図5に示すように上記各縦材71の両端部にボルト7a・ナット7bで取付けたアングル材よりなるブラケット73を介して図5に示すようにボルト6a・ナット6bによって上記一対の野縁受け6・6間に多数並べて取付けられている。
【0019】
そして上記各パネル支持フレーム7に前記の遮炎パネル5を取付けたもので、本実施形態においては、図4および図8に示すように1つのパネル支持フレーム7にそれぞれ3つの遮炎パネル5が取付けられている。特に図の場合は上記各遮炎パネル5の四隅を上記縦材71に、各遮炎パネル5の中央部を上記横材72に、それぞれ図5に示すように脱落防止用の非ねじ円周溝5a1を有するボルト5aとナット5bとで取付けると共に、そのボルト5aに挿通した防振ゴム8を上記縦材71または横材72と遮炎パネル5との間に介在させた構成である。
【0020】
上記遮炎パネル5の材質や厚さは適宜であるが、本実施形態においては図6に示すように厚さ27mmのプレス成形法で製造されたけい酸カルシウム系の耐火板本体50の上面(上記パネル支持フレーム7と反対側の面)に厚さ1.5mmのステンレス鋼板よりなる金属薄板51を被覆したものが用いられている。
【0021】
上記のように構成された本発明による橋梁の火災防護構造を施工するに際の手順等は適宜であるが、例えば以下の要領で施工すればよい。先ず、野縁受け6を所定の長さに切断し、若しくは適宜継ぎ足して所定長さに形成し、その長手方向を橋桁4の長手方向と直交する方向に向けた状態で該野縁受け6を橋桁4の下部フランジ4bに不図示の取付金具やボルト・ナット等で取付ける。
【0022】
次いで、その野縁受け6の下面側に上記縦材71と横材72およびブラケット73とからなるパネル支持フレーム7を野縁受け6の長手方向に並べた状態でボルト6a・ナット6bで取付け、その各パネル支持フレーム7の下面側に遮炎パネル5をボルト5a・ナット5bで取付ければよい。なお、上記各パネル支持フレーム7に遮炎パネル5を予め取付けてから、その各パネル支持フレーム7を野縁受け6に取付けてもよく、或いは野縁受け6に各パネル支持フレーム7と遮炎パネル5を予め取付けてから、その野縁受け6を橋脚4に取付けてもよい。
【0023】
上記のように本発明による橋梁の火災防護構造は、橋桁4の下方に該橋桁4の下面側を覆うようにして遮炎パネル5を設けたから、その遮炎パネル5によって橋桁4と床版2の両方の下面側が覆われた状態となる。そのため、万一橋桁4の下側で自動車事故等によって火災が発生した場合には、その火炎や熱が上記遮炎パネル5で遮られて橋桁4や床版2に直接作用することがなく、橋桁4や床版2が火炎や熱で劣化もしくは損傷等するのを良好に防ぐことができる。
【0024】
また上記遮炎パネル5を床版2の下面との間に所定の間隔Sをおいて橋梁4の下部に吊下するように取付けたから、遮炎パネル5と床版2の下面との間にメンテナンス用の空間Sを形成することができ、そのメンテナンス用の空間Sによって、コンクリート等よりなる床版2やI型鋼等よりなる橋桁4の劣化診断や剥落防護のためのメンテナンス作業を容易に行うことができると共に、上記メンテナンス用の空間Sが断熱空間となって上記橋桁4や床版2が火炎や熱で劣化もしくは損傷等するのを更に低減することができる。
【0025】
さらに上記遮炎パネル5によって橋桁4と床版2の両方の耐火性能を向上させることができるから、例えば橋桁4と床版2の両方に、それぞれ耐火処理を施す面倒がなく、また施工に際しても、橋桁4や床版2の下面に作業者が上向きで耐火材を吹き付ける等の苦渋の作業を行わなくてよく、また例えば遮炎パネル5は工場等で予め所定の大きさ形状に形成した、いわゆるプレキャスト製のものを使用することができるので、取付時に耐火材や粉塵等が飛散することがなく、良好な作業環境で施工できる等の効果がある。
【0026】
なお、図の実施形態のように床版2の幅方向(図2で左右方向)両側に位置する橋桁4の下側の外側面をも図2および図3のように遮炎パネル5の立ち上がり部5sで覆うようにすると、火炎が遮炎パネル5の幅方向両端部から橋桁4側に回り込むのを防ぐことができる。図2および図3において、6sは上記遮炎パネル5の立ち上がり部5sを支持する野縁受け6の立ち上がり部、6tはその立ち上がり部6sを支持するステーである。
【0027】
さらに上記遮炎パネル5を橋桁4の下側に、野縁受け6やパネル支持フレーム7等を介して取付けるようにすると、例えば隣り合う野縁受け6・6間や野縁受け6とパネル支持フレーム7との間に少なからず隙間や空間を形成することができる共に、上記立ち上がり部5sの上端を床版2よりも下方に離間させると、遮光パネル5の下側で火災が発生した場合に、その遮炎パネル5を介してそれと床版2との間の空気が加熱された場合にも、それらの加熱された空気を上記立ち上がり部5sと床版2との間の隙間から外部に排出することが可能となり、上記床版2や橋桁4の温度上昇を更に抑制することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上のように本発明による橋梁の火災防護構造は、橋桁4の下方に該橋桁4の下面側を覆うように吊下して遮炎パネル5を敷設するようにしたから、その遮炎パネル5によって万一橋桁4の下側で自動車事故等によって火災が発生した場合に、その火炎や熱が橋桁4や床版2に直接作用するのが防止され、上記橋桁4や床版2が火炎や熱で劣化もしくは損傷等するのを良好に防ぐことができる。従って昨今問題となっている火災による橋梁の劣化・損傷や不通、特に一般道や高速道路が上下に錯綜する都市部での高架橋等の橋梁の劣化・損傷や長期間の不通を未然に防止することが可能となり、産業上も有効に利用できるものである。
【符号の説明】
【0029】
1 橋梁
2 床版
2s 地覆
3 橋台(橋脚)
4 橋桁(主桁)
4a 上部フランジ
4b 下部フランジ
5 遮炎パネル
6 野縁受け
7 パネル支持フレーム
8 防振ゴム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣り合う橋台上に架け渡した橋桁の上に床版を載置固定してなる橋梁の火災防護構造であって、上記橋桁の下部に野縁受け及びパネル支持フレームを介して遮炎パネルを、上記床版の下面および橋桁の下面を覆うように吊下して取付けたことを特徴とする橋梁の火災防護構造。
【請求項2】
上記野縁受けを、その長手方向が橋桁の長手方向とほぼ直交するように配置した状態で該橋桁の長手方向に所定の間隔をおいて該橋桁の下面に複数取付け、その橋桁の長手方向に隣り合う野縁受け間に上記パネル支持フレームを野縁受けの長手方向に多数取付け、その各パネル支持フレームに複数枚の遮炎パネルを取付けてなる請求項1に記載の橋梁の火災防護構造。
【請求項3】
上記遮炎パネルを防振ゴムを介して上記パネル支持フレームに取付けてなる請求項2に記載の橋梁の火災防護構造。
【請求項4】
上記遮炎パネルはけい酸カルシウム系の耐火板本体の橋桁側の面に金属薄板を被覆してなる請求項1〜3のいずれかに記載の橋梁の火災防護構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−236225(P2010−236225A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84185(P2009−84185)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)
【出願人】(000126609)株式会社エーアンドエーマテリアル (99)
【Fターム(参考)】