説明

橋梁の耐風構造

【課題】簡単な構成にて、風向きが変化した際にも効果的な振動抑制を達成できるようにした橋梁の耐風構造を提供する。
【解決手段】床板2の下部に2枚の主板桁3を有する橋梁1の耐風構造であって、幅方向外側から橋梁1に向かう空気流を主板桁3の下部を通し床板2下部内側に向かわせて剥離渦の発生を抑制するよう主板桁3の下部に間隔6を隔てて設けた導流板7と、幅方向外側から橋梁1に向かう空気流を主板桁3に向かわせるよう床板2の幅方向端部から外側に突設したフェアリング8とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、橋梁、特に2主板桁形式の橋梁における風による振動を抑制するようした橋梁の耐風構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、橋梁の長大化が進められており、橋梁が長大化すると固有振動数が低くなることにより、剥離渦による渦励振やフラッターと呼ばれる激しい発散振動が発現する風速が低くなる傾向にあり、このような風による橋梁の振動を抑制するために従来より種々の空力部材を備えることが試みられている。例えば、特許文献1では、橋桁の幅方向端部にフェアリングを設け、該フェアリングの先端に可動部材を軸支し、橋桁に対する風の迎角が最小となるように前記可動部材を制御するようにしている。特許文献1に示す装置においては、制御が必要であるために、装置が複雑になるという問題がある。
【0003】
又、本発明が対象としている2主板桁形式の橋梁においても、風による振動が設計上の問題となっており、2主板桁形式の橋梁の振動を抑制するために、特許文献2では、橋桁の幅方向端部に、風向きに応じて自由に回動するフェアリング部材を設けるようにしており、又、引用文献3では、主板桁の下部に、橋軸方向に所定の間隔を空けて複数の遮風板を設置しており、又、特許文献4では、主板桁のウェブにおける高さ方向中間部の外側面に制御板を突設し、該制御板の下面とウェブの外側面とに囲まれた空間に、主板桁の下部周辺を流れる空気流により負圧を形成するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−140520号公報
【特許文献2】特開2009−299414号公報
【特許文献3】特開2002−138414号公報
【特許文献4】特開2006−057436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記特許文献2の装置では、風の上下方向の向き、即ち、風の迎角が変化しても振動を抑制できる可能性を有しているが、フェアリング部材が風の迎角に応じて回動するための装置構成が複雑になるという問題がある。
【0006】
又、特許文献3のように、主板桁の下部に、橋軸方向に所定の間隔を空けて複数の遮風板を設置した構成、及び、特許文献4のように、主板桁のウェブにおける高さ方向中間部の外側面に制御板を突設した構成においては、その構成による振動抑制の効果については検討されていない。前記2主板桁形式の橋梁に対しては、水平方向から吹き付ける風と、下向きに吹き付ける風と上向きに吹き付ける風が作用することが考えられるが、このように風の迎角が変化した際の振動抑制については何ら記載されていない。
【0007】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなしたもので、簡単な構成にて、風の迎角が変化した際にも効果的な振動抑制を達成できるようにした橋梁の耐風構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、床板の下部に2枚の主板桁を有する橋梁の耐風構造であって、幅方向外側から橋梁に向かう空気流を主板桁の下部を通し床板下部内側に向かわせて剥離渦の発生を抑制するよう主板桁の下部に間隔を隔てて設けた導流板と、幅方向外側から橋梁に向かう空気流を主板桁に向かわせるよう床板の幅方向端部から外側に突設したフェアリングとを有することを特徴とする橋梁の耐風構造、に係るものである。
【0009】
上記橋梁の耐風構造において、前記導流板が、主板桁の外側から主板桁の下方に向けて下り勾配に形成した傾斜部と、該傾斜部の下端から前記主板桁の下面に沿って内側に延びる内側延設部とを有することは好ましい。
【0010】
又、上記橋梁の耐風構造において、前記フェアリングが、前記床板の上面と平行に形成された上側面と、突出端から床板の内側下方に向けて下り勾配に傾斜した傾斜面とを有することは好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の橋梁の耐風構造によれば、幅方向外側から橋梁に向かう空気流を主板桁の下部を通し床板下部内側に向かわせて剥離渦の発生を抑制するよう主板桁の下部に間隔を隔てて設けた導流板と、幅方向外側から橋梁に向かう空気流を主板桁に向かわせるよう床板の幅方向端部から外側に突設したフェアリングとを備えたので、導流板による下向きの空気流に対する振動抑制効果と、フェアリングによる上向きの空気流に対する振動抑制効果を同時に発揮して、橋梁の振動を効果的に抑制できるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1−a】本発明における橋梁の耐風構造の一実施例を示す切断正面図である。
【図1−b】図1−aの側面図である。
【図1−c】図1−aの耐風構造を備えた橋梁における振動計測試験の結果を示すグラフである。
【図2−a】空力部材を何ら備えない橋梁の切断正面図である。
【図2−b】図2−aの橋梁における振動計測試験の結果を示すグラフである。
【図3−a】本発明における耐風構造の導流板のみを備えた橋梁の切断正面図である。
【図3−b】図3−aの橋梁における振動計測試験の結果を示すグラフである。
【図4−a】本発明における耐風構造のフェアリングのみを備えた橋梁の切断正面図である。
【図4−b】図4−aの橋梁における振動計測試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
【0014】
図1−aは本発明における橋梁の耐風構造の一実施例を示す切断正面図、図1−bは図1−aの側面図であり、図示した橋梁1は、床板2の左右幅端部の夫々の下側に主板桁3を設けた2主板桁形式の橋梁を示している。図中4は床板2の左右幅端部上側に設けられる高欄、5は横桁である。
【0015】
上記2主板桁形式の橋梁1において、橋梁1に対して幅方向外側から向かう空気流Wを主板桁3の下部を通し床板2の下部内側に向かわせて剥離渦の発生を抑制するよう主板桁3の下部に間隔6を隔てて設けた導流板7と、前記橋梁1に対して幅方向外側から向かう空気流Wを主板桁3に向かわせるよう床板2の幅方向端部から外側に突設したフェアリング8(水平フェアリング)とを設ける。
【0016】
前記導流板7は、前記主板桁3の下部に固定部材9を介して間隔6を形成するように固定されており、更に、前記導流板7は、主板桁3の外側から主板桁3の下方に向けて下り勾配に形成した傾斜部7aと、該傾斜部7aの下端から前記主板桁3の下面に沿って内側に延びる内側延設部7bとを有している。図示の導流板7に備える傾斜部7aは、水平面に対して約30゜の傾斜角βを備えた場合を示している。
【0017】
又、前記フェアリング8は、床板2の幅寸法の約1/10程度の長さLを有して床板2の幅方向端部から外側に突出している。例えば、床板2の全幅が20メートルの橋梁1におけるフェアリング8の突出幅は2メートル前後とすることができる。更に、前記フェアリング8は、前記床板2の上面と平行に形成された上側面8aと、突出端から床板2の内側下方に向けて下り勾配に傾斜した傾斜面8bを形成している。
【0018】
本発明者らは、図1−a、図1−bに示した橋梁1に対して幅方向外側から空気流Wを向かわせることによる橋梁1の振動計測試験(風洞試験)を実施した。この振動計測試験では、床板2と平行な水平の空気流Wfと、下向き角α=−3゜の下向きの空気流Wdと、上向き角α=+3゜の上向きの空気流Wuについて、風速を変化させた時の橋梁1の振幅を計測した。
【0019】
上記振動計測試験の結果、図1−cに示すように、この橋梁1の設計風速Fである35.4m/s以下の風速において、水平の空気流Wf、下向きの空気流Wd、上向きの空気流Wuのいずれの風向きに対しても振動を示す振幅は全く計測されず、許容限界値Dを超えるような振動の発生は完全に抑制されていることが分かる。
【0020】
本発明者らは、上記本発明に対する対照例として、図2−aに示すように、空力部材を何ら備えない橋梁1の場合における振動計測試験を実施し、その結果を図2−bに示した。
【0021】
空力部材を何ら備えない図2−aの橋梁1においては、図2−bに示すように、橋梁の設計風速F以下の風速において、水平の空気流Wf、下向きの空気流Wd、上向きの空気流Wuのいずれについても、許容限界値Dを超える大きな振幅を示す振動が計測された。
【0022】
一方、本発明者らは、図3−aに示すように、前記本発明の耐風構造における導流板7のみを備えた橋梁1の場合における振動計測試験を実施し、その結果を図3−bに示した。
【0023】
導流板7のみを備えた図3−aの橋梁1においては、図3−bに示すように、橋梁1の設計風速F以下の風速において、水平の空気流Wf、下向きの空気流Wdの風向きに対しては振動を示す振幅は全く計測されず、上向きの空気流Wuについてのみ、許容限界値Dには届かないが小さい振動の発生が計測された。上記導流板7による振動の抑制効果は、導流板7が、空気流Wを主板桁3下部との間隔6を通して床板2の下部内側に向かわせることにより剥離渦の発生を抑制したことによるものと言える。また、上記試験結果は橋梁固有の結果であり、従って、前記橋梁の規模や形状等が違った場合には前記上向きの空気流Wuによる振動が許容限界値Dに達するように発生する可能性は考えられる。
【0024】
又、本発明者らは、図4−aに示すように、前記本発明の耐風構造におけるフェアリング8のみを備えた橋梁1の場合における振動計測試験を実施し、その結果を図4−bに示した。
【0025】
フェアリング8のみを備えた図4−aの橋梁1においては、図4−bに示すように、橋梁1の設計風速F以下の風速において、下向きの空気流Wdについては許容限界値Dを超える振動が計測され、又、水平の空気流Wfについては許容限界値Dには届かないが小さい振動の発生が計測された。しかし、上向きの空気流Wuについては、振動が全く計測されなかった。
【0026】
従って、前記図3−aに示す導流板7の構成と、図4−aに示すフェアリング8の構成の両方を備えた図1−aの本発明の橋梁1によれば、簡単な構成にて、前記導流板7の機能とフェアリング8の機能が有効に作用し合って、図1−cに示すように、水平の空気流Wf、下向きの空気流Wd、上向きの空気流Wuのいずれの風向きに対しても振幅がなくなり、振動の発生を略完全に抑制することができた。
【0027】
尚、本発明の橋梁の耐風構造は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0028】
1 橋梁
2 床板
3 主板桁
6 間隔
7 導流板
7a 傾斜部
7b 内側延設部
8 フェアリング
8a 上側面
8b 傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床板の下部に2枚の主板桁を有する橋梁の耐風構造であって、幅方向外側から橋梁に向かう空気流を主板桁の下部を通し床板下部内側に向かわせて剥離渦の発生を抑制するよう主板桁の下部に間隔を隔てて設けた導流板と、幅方向外側から橋梁に向かう空気流を主板桁に向かわせるよう床板の幅方向端部から外側に突設したフェアリングとを有することを特徴とする橋梁の耐風構造。
【請求項2】
前記導流板は、主板桁の外側から主板桁の下方に向けて下り勾配に形成した傾斜部と、該傾斜部の下端から前記主板桁の下面に沿って内側に延びる内側延設部とを有することを特徴とする請求項1に記載の橋梁の耐風構造。
【請求項3】
前記フェアリングは、前記床板の上面と平行に形成された上側面と、突出端から床板の内側下方に向けて下り勾配に傾斜した傾斜面とを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の橋梁の耐風構造。

【図1−a】
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【図1−b】
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【図1−c】
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【図2−a】
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【図2−b】
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【図3−a】
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【図3−b】
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【図4−a】
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【図4−b】
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【公開番号】特開2012−52336(P2012−52336A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195474(P2010−195474)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】