説明

機能性ポリカーボネート樹脂積層体

【課題】表面の機能層の厚さが2μm以下と薄いにも拘わらず十分な耐候性を有し、表面の機能層によって当該機能を長期間に亘り発揮することができる機能性ポリカーボネート樹脂積層体を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂からなる基層1の少なくとも片面に、中間樹脂層2を介して、厚さ2μm以下の機能層3を形成した積層体であって、中間樹脂層2が、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂、又は、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂とポリカーボネート樹脂との混合樹脂に、紫外線吸収剤を含有させた層である、機能性ポリカーボネート樹脂積層体とする。中間樹脂層2のシリコーン変性ポリカーボネート樹脂と紫外線吸収剤との相乗作用によって紫外線劣化を大幅に抑制し、耐候性を飛躍的に向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機能性ポリカーボネート樹脂積層体に関し、更に詳しくは、表面の機能層の厚さが2μm以下と薄いにも拘わらず十分な耐候性を有し、表面の機能層によって当該機能を長期間に亘り発揮することができる機能性ポリカーボネート樹脂積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリカーボネート基材と表面硬度の高い合成樹脂塗膜との間に、紫外線吸収剤を含んだ中間樹脂層を介在させることによって、耐候性を付与したポリカーボネート樹脂積層体が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−230127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のポリカーボネート樹脂積層体は、表面硬度の高い合成樹脂塗膜が厚い場合には良好な耐候性を有するものの、合成樹脂塗膜が薄くなると耐候性が低下し、特に、合成樹脂塗膜の厚さが2μm以下になると満足な耐候性を得ることができないという問題があった。
【0005】
本発明者らは、上記問題点の原因を究明すべく研究を重ねた結果、表面硬度の高い合成樹脂塗膜の厚さが2μm以下になると、合成樹脂塗膜で吸収される紫外線量が少なくなるため、中間樹脂層に到達する紫外線量が多くなり、その結果、中間樹脂層に紫外線吸収剤を含有させるだけでは、紫外線による中間樹脂層の劣化を長期間に亘って抑制できないことが主たる原因であると判明した。
【0006】
ところで、ポリカーボネート樹脂からなる基材とポリカーボネート樹脂に紫外線吸収剤を含有させた層を形成した積層体では、紫外線吸収剤含有層の樹脂として通常のポリカーボネート樹脂を使用しても、機械的特性や光学特性等について十分な耐候性を発揮することができた。これは、ポリカーボネート樹脂に紫外線吸収剤を含有させた層全体として機械的特性や光学特性等を維持できるからである。一方、ポリカーボネート樹脂に紫外線吸収剤を含有させた中間層の上に、更に厚さ2μm以下の機能層を設けた場合には、中間層と機能層の間で剥離が生じる。この剥離は、中間層の最表面(機能層と接する面)が十分な耐候性を有していない(つまり、最表面ではポリカーボネート樹脂の劣化が生じている)ために、中間層が機能層を保持できないことから生じるものであることが明らかになった。即ち、従来のポリカーボネート樹脂に紫外線吸収剤を含有させた層は、層全体として機械的特性や光学特性について十分な耐候性を有しているが、その表面に設けた機能層を保持する耐候性は有していなかったのである。
【0007】
本発明は上記事情の下になされたもので、その解決しようとする課題は、樹脂からなる表面の機能層の厚さが2μm以下と薄いにも拘わらず十分な耐候性を有し、表面の機能層によって当該機能を長期間に亘り発揮することができる機能性ポリカーボネート樹脂積層体を提供することにある。そして、熱曲げ加工後も十分な耐候性と当該機能を維持できるポリカーボネート樹脂積層体を提供することも課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、中間樹脂層として、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂、又は、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂とポリカーボネート樹脂との混合樹脂に、紫外線吸収剤を含有させた層を設けると、表面の機能層が2μm以下と薄くても耐候性が飛躍的に向上し、熱曲げ加工後も十分な耐候性を維持するという事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明に係る機能性ポリカーボネート樹脂積層体は、ポリカーボネート樹脂からなる基層の少なくとも片面に、中間樹脂層を介して、樹脂からなる厚さ2μm以下の機能層を形成した積層体であって、上記中間樹脂層が、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂、又は、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂とポリカーボネート樹脂との混合樹脂に、紫外線吸収剤を含有させた層であることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の機能性ポリカーボネート樹脂積層体においては、蛍光X線元素分析法による前記中間樹脂層の珪素の検出量が3〜11kCPSであることが好ましく、また、紫外線吸収剤が前記中間樹脂層の樹脂100質量部に対して2〜20質量部含有されていることが好ましい。
【0011】
前記機能層は樹脂からなる厚さ2μm以下の層であれば、どのような機能を発揮するものでもよいが、代表的な機能層は親水性シリコーン系樹脂又はアクリル系樹脂からなる防汚層である。また、本発明の機能性ポリカーボネート樹脂積層体は、機能層の形成後、曲げ加工された立体的な形状の積層体としてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の機能性ポリカーボネート樹脂積層体のように、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂、又は、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂とポリカーボネート樹脂との混合樹脂に、紫外線吸収剤を含有させた中間樹脂層が、ポリカーボネート樹脂からなる基層と、樹脂からなる厚さ2μm以下の機能層との間に形成されていると、後述の実験データによって裏付けられるように、ポリカーボネート樹脂に紫外線吸収剤を含有させた中間樹脂層が基層と機能層との間に形成されている積層体に比べて、耐候性が飛躍的に向上し、表面の機能層によって当該機能が長期間に亘り発揮されるようになる。このように耐候性が飛躍的に向上するのは、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂と紫外線吸収剤との相乗作用によるものと推測される。
【0013】
中間樹脂層は、蛍光X線元素分析法による珪素の検出量が3〜11kCPSの層であることが好ましく、3kCPS未満の中間樹脂層では十分な耐候性を付与することが困難である。耐候性は珪素の検出量が大きくなるほど向上する傾向にあるが、現在のところ、珪素の検出量が11kCPSよりも大きいシリコーン変性ポリカーボネート樹脂を入手することは困難であるので、中間樹脂層の珪素の検出量の上限は11kCPSである。
ここで、「蛍光X線元素分析法」とは、測定機器として「(株)リガク製の走査型蛍光X線分析装置ZSX PrimusII」を使用し、「測定径:10mm、雰囲気:真空、サンプルスピン:あり」の測定条件の下に測定する方法である。
【0014】
紫外線吸収剤の含有量は、中間樹脂層の樹脂100質量部に対して2〜20質量部であることが好ましく、2質量部未満では十分な耐候性を付与することが困難である。耐候性は紫外線吸収剤の含有量が多くなるほど向上するが、20質量部より多量に含有させても、それに見合うだけの耐候性の顕著な向上が見られず、却って紫外線吸収剤過多による弊害が出てくるので、20質量部を上限とするのが適当である。
【0015】
また、本発明の機能性ポリカーボネート樹脂積層体は、機能層の形成後、曲げ加工して立体的な形状の積層体としたものでも、後述の実験データで裏付けられるように、曲げ加工していない平面的な形状の積層体と同等の耐候性を維持し、機能層本来の機能を十分発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る機能性ポリカーボネート樹脂積層体の模式断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る機能性ポリカーボネート樹脂積層体の模式断面図である。
【図3】山形に熱曲げ加工した実施例17の積層体の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示す実施形態の機能性ポリカーボネート樹脂積層体(以下、単に積層体と記す)は、ポリカーボネート樹脂からなる基層1の片面に、中間樹脂層2を介して厚さ2μm以下の機能層3を形成したものである。中間樹脂層2と表面の機能層3は、基層1の片面だけでなく両面に形成してもよい。また、この実施形態の積層体は平面的な形状をしているが、後述する図2の実施形態のように立体的に曲成された積層体であってもよい。また、積層体を最表層材に用いた中空体でもよい。
【0018】
基層1は、ポリカーボネート樹脂を押出成形したフィルム状もしくはシート状もしくはパネル状の層であり、その厚さは積層体の用途に応じて適宜決定されるが、大抵の場合は0.05〜20mmの範囲内である。この基層1は、大抵の場合、無色透明の層であるが、積層体の用途によっては、光拡散剤や白色系顔料を含有させて白色ないし乳白色の層としたり、染料や顔料を含有させて有色透明又は有色不透明の層としてもよい。
【0019】
表面の機能層3は、厚さが2μm以下と薄くても所期の機能を発揮できるものであることが必要であり、この実施形態の積層体では、そのような機能層の代表例である、親水性シリコーン系樹脂又はアクリル系樹脂からなる防汚層が形成されている。かかる防汚層3は、表面の水の接触角が小さく濡れ性に富むため、汚れを水で流して良好な防汚(汚れ防止)機能を発揮できるものであり、一般的に防汚機能を発揮する水の接触角の上限は40°以下であると言われている。
【0020】
防汚層3の材料樹脂である親水性シリコーン系樹脂としては、例えば、Si−O−Si結合中にOH基を多量に導入したポリシロキサン等が好ましく、このようなポリシロキサンからなる防汚層3は、10〜200nmと極めて薄くても良好な防汚機能を発揮できる。尚、このポリシロキサンには、架橋剤、界面活性剤、シランカップリング剤、コロイダルシリカや紫外線吸収剤等の添加剤を適量配合してもよい。また、防汚層3の他の材料樹脂である親水性アクリル系樹脂としては、例えば、アクリルシリコーン樹脂共重合体等が好ましく使用される。
【0021】
尚、機能層3として、上記の防汚層以外の機能層、例えばハードコート層、抗菌層、帯電防止層、反射防止層、熱線反射層、紫外線反射層、防眩層、耐薬品層、耐油層、ガスバリア層等を2μm以下の厚さで形成してもよいことは言うまでもない。
【0022】
この機能性ポリカーボネート樹脂積層体の最大の特徴は、中間樹脂層2としてシリコーン変性ポリカーボネート樹脂、又は、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂とポリカーボネート樹脂との混合樹脂に、紫外線吸収剤を含有させた層を形成したところにある。このような中間樹脂層2を形成すると、一般のポリカーボネート樹脂に紫外線吸収剤を含有させた中間樹脂層を形成する場合に比べて、耐候性が飛躍的に向上し、表面の防汚層3によって良好な防汚機能を長期間に亘り発揮できるようになる。耐候性が飛躍的に向上する理由は明らかではないが、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂と紫外線吸収剤との相乗作用によって中間樹脂層2の紫外線劣化が大幅に抑制されることが主たる理由であると推測される。
【0023】
中間樹脂層2のシリコーン変性ポリカーボネート樹脂としては、例えば、蛍光X線元素分析法による珪素の検出量が11kCPSであるシリコーン変性ポリカーボネート樹脂(SABICイノベーティブプラスチックス社製のLexan EXL1414T)や、珪素の検出量が10kCPSであるシリコーン変性ポリカーボネート樹脂[出光興産(株)製のRC1700]等が好ましく使用される。
【0024】
また、上記のシリコーン変性ポリカーボネート樹脂と混合されるポリカーボネート樹脂としては、市販されているものが全て使用可能であるが、その中でも、分子量の大きいポリカーボネート樹脂[例えば、住友ダウ(株)製のカリバー 200−3など]が好ましく使用される。
【0025】
後述する実験データによって裏付けられるように、耐候性と蛍光X線元素分析法による中間樹脂層2の珪素の検出量との間には、実質的に正の相関関係があり、珪素の検出量が3kCPS以上になると耐候性の向上が見られ、珪素の検出量が多くなるほど、耐候性は益々向上する傾向にある。従って、中間樹脂層2の樹脂としては、珪素の検出量が3kCPS以上となるように上記のシリコーン変性ポリカーボネート樹脂とポリカーボネート樹脂を混合した混合樹脂を使用するか、或いは、上記のシリコーン変性ポリカーボネート樹脂のみを使用することが重要である。中間樹脂層2の樹脂として、珪素の検出量が11kCPSである上記のシリコーン変性ポリカーボネート樹脂を単独で使用すると、中間樹脂層2の珪素の検出量は最大となり、11kCPSとなる。このように、蛍光X線元素分析法による中間樹脂層2の珪素の検出量が3〜11kCPSとなるように調整すると、耐候性が飛躍的に向上し、後述の実験データ(表1,表2)に示されるように、耐候性促進試験で72〜240時間照射しても、親水性シリコーン系樹脂からなる表面の防汚層の水の接触角が40°以下に維持され、良好な防汚性を発揮できるようになる。
【0026】
中間樹脂層2に含有させる紫外線吸収剤としては、市販されているベンゾフェノン系やベンゾトリアゾール系やトリアジン系の紫外線吸収剤が全て使用可能である。紫外線吸収剤は非反応性のものでもよいが、分子末端又は分子中に、カルボキシル基、水酸基、アミノ基などの反応基、又は、エステル結合を有する反応性のベンゾフェノン系やベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤を含有させると、中間樹脂層2の熱成形時に、当該紫外線吸収剤が中間樹脂層2のシリコーン変性ポリカーボネート樹脂やポリカーボネート樹脂のポリマー分子とエステル結合して固定化されるため、中間樹脂層2と防汚層3との界面にブリードアウトすることがなくなり、しかも、分子レベルで細かく分散するため中間樹脂層2の透明性の低下を抑制できる利点がある。
【0027】
紫外線吸収剤の含有量は、中間樹脂層2の樹脂100質量部に対して2〜20質量部とすることが好ましく、2質量部未満では十分な耐候性を付与することが困難である。耐候性は紫外線吸収剤の含有量が多くなるほど向上するが、20質量部より多量に含有させても、それに見合うだけの耐候性の顕著な向上が見られず、却って紫外線吸収剤過多による弊害(例えば透明性の低下や、成形時の溶融粘度の低下など)が出てくる可能性があるので好ましくない。
【0028】
中間樹脂層2の厚さは特に限定されないが、薄すぎると耐候性を満足に向上させることが難しくなり、厚すぎると材料樹脂の無駄が多くなるので、5〜100μm程度、なかんずく30〜70μm程度の厚さとするのが好ましい。
【0029】
以上のような構成の積層体は、例えば、次の方法によって製造される。
まず、基層1の材料樹脂であるポリカーボネート樹脂と、中間樹脂層2の材料樹脂である前記シリコーン変性ポリカーボネート樹脂、又は、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂とポリカーボネート樹脂との混合樹脂を、二層に重ねて共押出成形し、基層1の片面に中間樹脂層2が積層された二層構造の積層体を得る。次いで、この二層構造の積層体の中間樹脂層2の表面に、防汚層3の材料樹脂である前記親水性シリコーン系樹脂又はアクリル系樹脂の塗料をロールコーター等で薄く塗布し、厚さ2μm以下の防汚層3を中間樹脂層2の表面に形成して三層構造の積層体を製造する。
【0030】
尚、基層1の両面に中間樹脂層2を介して防汚層3を形成した五層構造の積層体を製造する場合は、基層1の材料樹脂であるポリカーボネート樹脂の上下に、中間樹脂層2の材料樹脂であるシリコーン変性ポリカーボネート樹脂又は混合樹脂を重ねて共押出成形することにより、基層1の両面に中間樹脂層2が積層された三層構造の積層体を作製し、それぞれの中間樹脂層2の表面に防汚層3の材料樹脂の塗料を塗布して防汚層3を形成すればよい。
【0031】
また、剥離フィルムの片面に、防汚層3の材料樹脂の塗料を塗布、乾燥すると共に、その上に中間樹脂層2の材料樹脂を塗布、乾燥し、更にその上に接着剤層を形成して転写フィルムを作製し、予め成形された基層1の片面又は両面に転写フィルムを圧着したのち剥離フィルムを除去して、基層1の片面又は両面に中間樹脂層2と防汚層3を転写することにより、目的とする積層体を製造してもよい。この場合は、基層1と中間樹脂層2との間に、接着剤層が介在されることになる。
【0032】
図2に示す実施形態の機能性ポリカーボネート樹脂積層体は、機能層3(防汚層)を形成した後の前記積層体、即ち、基層1の片面に中間樹脂層2を介して機能層3を形成した積層体を、基層1のポリカーボネート樹脂の軟化点以上、融点以下の温度で、機能層3が外表面となるように逆U字形状に熱曲げ加工した立体的な積層体である。熱曲げ加工の形状は逆U字形状に限定されるものではなく、用途に見合った所望の立体形状に熱曲げ加工されることは言うまでもない。また、基層1の両面に中間樹脂層2を介して機能層3が形成された積層体を熱曲げ加工しても勿論よい。なお、基層1、中間樹脂層2、機能層3は前記実施形態の積層体のそれらと同じものであるから、説明を省略する。
【0033】
このように機能層3を形成した後に立体的に熱曲げ加工した積層体でも、中間樹脂層2が前述したシリコーン変性ポリカーボネート樹脂、又は、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂とポリカーボネート樹脂との混合樹脂に、紫外線吸収剤を含有させた層であるため、機能層3にクラックや剥離を生じることがなく、後述する実施例17の実験データ(表4)に示されるように、熱曲げ加工されない積層体と同等の優れた耐候性が得られ、機能層3本来の機能が長期に亘って発揮される。
【0034】
次に、本発明に係る積層体の更に具体的な実施例と比較例を説明する。
【0035】
[実施例1〜7]
基層の材料樹脂としてポリカーボネート樹脂[住友ダウ(株)製のカリバー 200−3]を準備し、中間樹脂層の材料樹脂として珪素の検出量が11kCPSのシリコーン変性ポリカーボネート樹脂(SABICイノベーティブプラスチックス社製のLexan EXL1414T)を準備し、紫外線吸収剤として2‐(4,6‐ジフェニル‐1,3,5‐トリアジン‐2‐イル)‐5‐(ヘキシルオキシ)フェノール(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のtinuvin1577)を準備し、防汚層形成用の塗料としてパナソニック電工(株)製のフレッセラRを準備した。
基層の材料樹脂と、下記表1に示す割合で紫外線吸収剤を含有させた中間樹脂層の材料樹脂を、二層に重ねて共押出成形し、得られた二層構造の積層体の中間樹脂層の表面に、防汚層形成用の塗料をロールコーターで塗布、乾燥することにより、基層の片面に厚さ50μmの中間樹脂層を介して厚さ20nmの極めて薄い防汚層を形成した、三層構造の実施例1〜7の防汚性ポリカーボネート樹脂積層体(全体の厚さ2mm)を作製した。これらの積層体は、中間樹脂層の紫外線吸収剤の含有量が異なるけれども、蛍光X線元素分析法による中間樹脂層の珪素の検出量はいずれも11kCPSである。
上記の実施例1〜7の積層体について、超促進耐候性試験機[岩崎電機(株)製のアイスーパーUVテスター]を用いて耐候性促進試験を行い、下記表1に示す照射時間後の防汚層表面の水の接触角をそれぞれ測定した。その結果を下記表1に示す。
【0036】
[比較例1〜4]
紫外線吸収剤を含まないシリコーン変性ポリカーボネート樹脂で中間樹脂層を形成した以外は、前記実施例1〜7と同様にして比較例1の積層体を作製した。また、中間樹脂層の材料樹脂として、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂に代えてポリカーボネート樹脂[住友ダウ(株)製のカリバー 200−3]を使用し、かつ、紫外線吸収剤を下記表1に示す割合で含有させた以外は、前記実施例1〜7と同様にして比較例2〜4の積層体を作製した。
これら比較例1〜4の積層体について、前記実施例1〜7と同様にして耐候性促進試験を行い、防汚層表面の水の接触角を測定した。その結果を下記表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から、中間樹脂層の材料樹脂としてシリコーン変性されていない一般のポリカーボネート樹脂を使用した比較例2〜4の積層体は、中間樹脂層に紫外線吸収剤が含有されていてもいなくても、72時間の紫外線照射を行うと、防汚層表面の水の接触角が、防汚性を発揮するために必要と言われる上限の40°を越えて、防汚性を発揮できない状態まで劣化しており、耐候性に劣ることが判る。また、中間樹脂層の材料樹脂としてシリコーン変性ポリカーボネート樹脂を使用しても、紫外線吸収剤が含有されていない比較例1の積層体も、同様に72時間照射後の水の接触角が40°を越えており、耐候性に劣ることが判る。
これに対し、中間樹脂層の材料樹脂としてシリコーン変性ポリカーボネート樹脂を使用して紫外線吸収剤を含有させた実施例1〜7の積層体は、紫外線吸収剤の含有量がシリコーン変性ポリカーボネート樹脂100質量部に対して2質量部と少ない実施例7の積層体でも、72時間照射後の防汚層表面の水の接触角が40°以下で防汚機能を持続しており、明らかに耐候性の向上が見られる。そして紫外線吸収剤の含有量が多くなるほど耐候性が益々向上し、紫外線吸収剤の含有量がシリコーン変性ポリカーボネート樹脂100質量部に対して8質量部である実施例1の積層体では、240時間照射後でも防汚層表面の水の接触角が18.6°と小さく、良好な防汚性を維持しており、耐候性が飛躍的に向上していることが判る。
実施例1の積層体と比較例2の積層体を対比すれば明らかなように、紫外線吸収剤の含有量は双方とも8質量部であるにも拘わらず、実施例1の積層体では上記のように耐候性が飛躍的に向上し、比較例2の積層体では耐候性の向上が見られないという大きい差異がある。その理由は、実施例1の積層体では、既述したようにシリコーン変性ポリカーボネート樹脂と紫外線吸収剤との相乗作用によって中間樹脂層の紫外線劣化が大幅に抑制されるのに対し、比較例2の積層体では、ポリカーボネート樹脂と紫外線吸収剤との相乗作用がなく、紫外線吸収剤の単独作用だけでは紫外線劣化を十分に抑制できないためであると推測される。
【0039】
[実施例8〜15]
中間樹脂層の材料樹脂として、実施例1〜7で使用した珪素の検出量が11kCPSのシリコーン変性ポリカーボネート樹脂の他に、珪素の検出量が10kCPSのシリコーン変性ポリカーボネート樹脂[出光興産(株)製のRC1700]と、高分子量のポリカーボネート樹脂[住友ダウ(株)製、カリバー 200−3]を準備し、紫外線吸収剤として、実施例1〜7で使用したものと同じものを準備した。
そして、実施例1〜7の積層体の中間樹脂層に代えて下記表2に示す組成の中間樹脂層を形成した以外は、実施例1〜7と同様にして、基層の片面に厚さ50μmの中間樹脂層を介して厚さ20nmの極めて薄い防汚層を形成した、三層構造の実施例8〜15の防汚性ポリカーボネート樹脂積層体(全体の厚さ2mm)を作製した。これらの積層体は、中間樹脂層の紫外線吸収剤の含有量が8質量部で一定しているが、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂とポリカーボネート樹脂との混合割合や、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂の珪素の検出量の相違によって、蛍光X線元素分析法による中間樹脂層の珪素の検出量が下記表2に示すように異なっている。
これら実施例8〜15の積層体について、前記実施例1〜7と同様にして耐候性促進試験を行い、防汚層表面の水の接触角を測定した。その結果を下記表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2から、蛍光X線元素分析法による中間樹脂層の珪素の検出量が3.0kCPSである実施例15の積層体でも、72時間照射後の防汚層表面の水の接触角が40°以下で防汚機能を発揮しており、前記表1に示す比較例2の積層体(珪素の検出量が0kCPSのポリカーボネート樹脂に紫外線吸収剤を8質量部含有させた中間樹脂層を有するもの)と比較すると、明らかに耐候性が向上している。そして、中間樹脂層の珪素の検出量が4.0〜5.0kCPSである実施例10、11、14の積層体は、144時間照射後でも防汚層表面の水の接触角が40°以下で防汚機能を発揮しており、更に、中間樹脂層の珪素の検出量が7.0〜8.2kCPSである実施例8,9,12,13の積層体は、240時間照射後でも防汚層表面の水の接触角が40°以下で防汚機能を発揮しており、耐候性が飛躍的に向上している。
以上のことから、中間樹脂層の材料樹脂がシリコーン変性ポリカーボネート樹脂とポリカーボネート樹脂との混合樹脂でも、蛍光X線元素分析法による中間樹脂層の珪素の検出量が3.0kCPS以上であれば、耐候性を向上させることができ、しかも、中間樹脂層の珪素の検出量と耐候性との間には実質的に正の相関関係があって、珪素の検出量が多くなるほど耐候性が益々向上することが判る。
【0042】
[実施例16]
下記表3に示すように、紫外線吸収剤の含有量を中間樹脂層の樹脂100質量部に対して10質量部に変更し、親水性アクリル系樹脂の塗料[水谷ペイント(株)製のナノコンポジットw]を用いて厚さ2μmの防汚層を形成した以外は、前記実施例1〜7と同様にして、三層構造の防汚性ポリカーボネート樹脂積層体を作製した。
この積層体について、前記実施例1〜7と同様にして耐候性促進試験を行い、下記表3に示す照射時間後の防汚層の外観を目視で観察した。その結果を下記表3に示す。
【0043】
[比較例5]
上記実施例16の親水性アクリル系樹脂の塗料を用いて厚さ2μmの防汚層を形成した以外は、前記比較例3と同様にして、三層構造の比較用の積層体を作製した。
この積層体について、前記実施例16と同様に耐候性促進試験を行い、防汚層の外観を目視で観察した。その結果を下記表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
表3から、アクリル系樹脂の防汚層を形成した積層体の場合でも、ポリカーボネート樹脂に紫外線吸収剤を含有させた中間樹脂層を有する比較例5の積層体は、120時間照射後に防汚層にクラックや剥離が生じるのに対し、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂に紫外線吸収剤を含有させた中間層を有する実施例16の積層体は、240時間照射後に防汚層にクラックや剥離が生じており、耐候性が飛躍的に向上していることが判る。なお、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂に紫外線吸収剤を含有させた中間層を有する実施例16の積層体では、144時間後の防汚層表面の水の接触角が38.6°であった。
【0046】
[実施例17,18]
基層の材料樹脂としてポリカーボネート樹脂[住友ダウ(株)製のカリバー 200−3]を準備し、中間樹脂層の材料樹脂として珪素の検出量が11kCPSのシリコーン変性ポリカーボネート樹脂(SABICイノベーティブプラスチックス社製のLexan EXL1414T)と上記ポリカーボネート樹脂とを下記表4の割合で混合した混合樹脂(Si検出量7.0kCPS)を準備し、紫外線吸収剤として2‐(4,6‐ジフェニル‐1,3,5‐トリアジン‐2‐イル)‐5‐(ヘキシルオキシ)フェノール(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のtinuvin1577)を準備し、防汚層形成用の塗料としてパナソニック電工(株)製のフレッセラRを準備した。
基層の材料樹脂と、下記表4に示す割合で紫外線吸収剤を含有させた中間樹脂層の材料樹脂を、二層に重ねて共押出成形し、得られた二層構造の積層体の中間樹脂層の表面に、防汚層形成用の塗料をバーコーターで塗布、乾燥することにより、基層の片面に厚さ50μmの中間樹脂層を介して厚さ60nmの薄い防汚層を形成した、三層構造の平坦な実施例18の防汚性ポリカーボネート樹脂積層体(全体の厚さ1mm)を作製した。
また、実施例17として、上記の防汚性ポリカーボネート樹脂積層体を上下のパイプヒーター(温度180℃)で挟んで熱軟化させた後、防汚層が外表面となるように約90°折り曲げて室温で冷却することにより、図3に示すような山形の積層体(頂部の曲率半径:3mm)を作製した。
これら実施例17,18の積層体について、超促進耐候性試験機[岩崎電機(株)製のアイスーパーUVテスター]を用いて耐候性促進試験を行い、下記表4に示す照射時間後の防汚層表面の水の接触角(実施例17の山形に熱曲げ加工した積層体については鎖線の楕円に囲まれた頂部の防汚層表面の水の接触角)をそれぞれ測定した。その結果を下記表4に示す。
【0047】
[比較例6,7]
中間樹脂層の材料樹脂としてポリカーボネート樹脂[住友ダウ(株)製のカリバー 200−3]を用いた以外は、実施例17,18と同様にして、三層構造の平坦な比較例7の積層体(全体の厚さ1mm)と、山形に熱曲げ加工した比較例6の積層体(頂部の曲率半径:3mm)を作製し、実施例17,18と同様にして防汚層表面の水の接触角を測定した。その結果を下記表4に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
表4から、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂とポリカーボネート樹脂との混合樹脂(Si検出量7.0kCPS)100質量部に紫外線吸収剤を8質量部含有させた組成の中間樹脂層を形成した平坦な実施例18の積層体は、ポリカーボネート樹脂100質量部に紫外線吸収剤を8質量部含有させた組成の中間樹脂層を形成した平坦な比較例7の積層体に比べて、耐候性が顕著に向上し、240時間照射後においても接触角が20.3°と小さく、良好な防汚性を維持していることが判る。
そして、山形に熱曲げ加工された実施例17の積層体は、約90°に折り曲げられた頂部の接触角が240時間照射後でも23.3°と小さく、熱曲げ加工されていない実施例18の平坦な積層体の接触角とほぼ同じであり、このことから熱曲げ加工されても優れた耐候性を維持できることが判る。なお、実施例17の山形に熱曲げ加工した積層体の外観を目視で観察したが、240時間照射後でも防汚層にクラックや剥離が生じていなかった。
これに対し、ポリカーボネート樹脂に紫外線吸収剤を含有させた中間樹脂層を形成した比較例6,7の積層体は、熱曲げ加工していない平坦なものも、山形に熱曲げ加工したものも、48時間照射後には接触角が40°を越えて防汚機能が損なわれており、耐候性に劣っていることが判る。
【符号の説明】
【0050】
1 基層
2 中間樹脂層
3 機能層(防汚層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂からなる基層の少なくとも片面に、中間樹脂層を介して、厚さ2μm以下の機能層を形成した積層体であって、上記中間樹脂層が、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂、又は、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂とポリカーボネート樹脂との混合樹脂に、紫外線吸収剤を含有させた層であることを特徴とする、機能性ポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項2】
蛍光X線元素分析法による前記中間樹脂層の珪素の検出量が3〜11kCPSであることを特徴とする、請求項1に記載の機能性ポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項3】
前記紫外線吸収剤が前記中間樹脂層の樹脂100質量部に対して2〜20質量部含有されていることを特徴とする、請求項1に記載の機能性ポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項4】
前記機能層が親水性シリコーン系樹脂又はアクリル系樹脂からなる防汚層であることを特徴とする、請求項1に記載の機能性ポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項5】
前記機能層の形成後、曲げ加工されたことを特徴とする、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の機能性ポリカーボネート樹脂積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−93312(P2011−93312A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214780(P2010−214780)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)
【Fターム(参考)】