説明

機能性微粒子及び機能性微粒子の製造方法

【課題】簡単なプロセスで製造可能であり、効果的に機能を発現する機能性有機化合物を含む機能性微粒子を提供する。
【解決手段】機能性有機化合物と、機能性有機化合物を吸着し且つ機能性有機化合物に対し不活性であるとともに吸油量が80ml/100g以上である無機微粒子と、を少なくとも含み、無機微粒子は、機能性微粒子に含まれる成分全体の合計量に対し40重量%〜95重量%の割合で含まれることを特徴とする機能性微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性微粒子等に関し、より詳しくは、操作性が改良された機能性微粒子等に関する。
【背景技術】
【0002】
着色剤、蛍光色素や赤外光吸収色素あるいは生理活性機能材料等は、特有の機能を発現する機能性有機化合物として知られている。このような機能性有機化合物の機能は、例えば、色素に代表される光の吸収や着色、蛍光色素の発色や蛍光、燐光等の発光、殺菌剤、殺虫剤、防腐剤等の医薬や農薬分野における生理活性機能が挙げられる。また、生理活性機能として香料、芳香剤等の嗅覚への作用が知られている。さらに、光熱変換による発熱、光電変換による電荷分離や発電、発色や重合等の反応等も含まれる。機能性有機化合物は常温で固体状態の物が多いが、顔料のような難溶性微粒子の状態や液体状態の物も使用される。
【0003】
機能性有機化合物の操作性を改良する工夫として、例えば、特許文献1には、屈折率2以上且つ平均粒径0.01〜60μmである無機白色顔料を炭酸カルシウムと赤色202号とで強固に被覆する有機−無機複合顔料の製造方法が記載されている。また、特許文献2には、給油量が10ml/g以上80ml/g未満である顔料に最大0.5g/顔料1gの割合で塩基性染料を吸着させた染料吸着顔料が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平07−304997号公報
【特許文献2】特許第2528494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、機能性有機化合物の取扱い性を改良する手法として、通常、水又は適当な有機溶剤に溶解又は分散させた後に微粒子化する方法や、マイクロカプセル化する方法が挙げられる。しかし、これらは製造プロセスが複雑になるという問題がある。
本発明の目的は、簡単なプロセスで製造可能であり、効果的に機能を発現する機能性有機化合物を含む機能性微粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、機能性微粒子であって、機能性有機化合物と、機能性有機化合物を吸着し且つ機能性有機化合物に対し不活性であるとともに吸油量が80ml/100g以上である無機微粒子と、を少なくとも含み、無機微粒子は、機能性微粒子に含まれる成分の全体の合計量に対し40重量%〜95重量%の割合で含まれることを特徴とする機能性微粒子が提供される。
ここで、本発明が適用される機能性微粒子は、融解した状態で機能性有機化合物を溶解又は分散させる熱可融性化合物をさらに含むことが好ましい。
かかる熱可融性化合物は、温度範囲40℃〜230℃の融点を有することが好ましい。
【0007】
また、機能性微粒子に含まれる無機微粒子は、平均粒径が0.2μm〜5μmである炭酸カルシウムから構成されることが好ましい。
さらに、本発明が適用される機能性微粒子は、粒径300μm以下の粒子が、全粒子中に75重量%以上の割合で存在することが好ましい。
また、機能性有機化合物が色素であることが好ましい。
【0008】
次に、本発明によれば、機能性有機化合物と機能性有機化合物に対し不活性であるとともに吸油量が80ml/100g以上である無機微粒子とを混合し、撹拌状態で加熱しつつ機能性有機化合物を融解する加熱融解工程と、加熱融解工程において融解した機能性有機化合物を含む混合物を撹拌状態で冷却し機能性微粒子を調製する冷却工程と、を有することを特徴とする機能性微粒子の製造方法が提供される。
ここで、冷却工程において調製される機能性微粒子は、粒径300μm以下の粒子を全粒子中に75重量%以上の割合で含むことが好ましい。
また、加熱融解工程において、温度範囲40℃〜230℃の融点を有し且つ融解した状態で機能性有機化合物を溶解する熱可融性化合物を加えることが好ましい。特に、機能性有機化合物が液体、または顔料のような難溶性微粒子の場合は熱可融性化合物と共に用いることが必要である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡単なプロセスで操作性が改良され、内部に含まれる機能性有機化合物の機能が効果的に発現する機能性微粒子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、実施の形態について説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
(機能性有機化合物)
本実施の形態で使用する機能性有機化合物は、例えば、着色材、蛍光色素、赤外光吸収色素、生理活性機能材料等が挙げられる。
【0012】
(着色材)
可視光を吸収する色素は、繊維、樹脂、紙、化粧品、医薬品、食品等の着色に用いられ、塗料やインキ、トナー等に添加されている。着色材に用いられる色素は、水や有機溶剤に可溶な色素と、水や有機溶剤に不溶な顔料とに分けられる。
色素のうち、主として繊維用に使用される染料としては、ナフタル酸系染料、キノフタロン染料、アントラキノン染料、アゾ染料、金属錯体染料等の有機溶剤に可溶な油溶性染料;直接染料、酸性染料、塩基性染料、カチオン染料等のスルホン酸基や四級アンモニウム塩等の水溶性部位を含む水溶性染料;キノフタロン染料、アントラキノン染料、アゾ染料等の水への溶解性が低く分散剤を用いて染色する分散染料等が挙げられる。
【0013】
さらに具体例として、Diaresin Orange HS(Solvent Orange 60)、Diaresin Red H(Solvent Red 117)、Diaresin Blue P(Solvent Blue 95)、Diaresin Yellow H2G(Disperse Yellow 160)、Diaresin Blue 4G(Disperse Blue 198)(以上、三菱化学株式会社製);Orasol Yellow 3R(Solvnt Yellow 25)、Orasol Red 2B(Solvent Red 233)、Orasol Blue GL(solvent Blue 70)(以上、チバスペシャリティケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0014】
顔料は、染料用色素を高分子量化又は縮合多環化合物とし、水や有機溶剤に不溶となった色素を微粒子化して用いられる。顔料の具体例として、例えば、不溶性アゾ、アゾレーキ、ぺリノン、キノフタロン、キナクリドン、ぺリレン、ピロロピロール、フタロシアニン等が挙げられる。
尚、本実施の形態では、上記顔料は熱可融性化合物と共に加熱され、融解した熱可融性化合物に顔料が分散した状態で炭酸カルシウム等の無機微粒子の空隙に取り込まれ、その後、撹拌状態で冷却されて微粒子化される。
さらに、天然色素は、食品や化粧品、医薬品の着色に用いられる。天然色素は、ベニバナ色素等、含まれる植物名の色素で呼ばれることも多いが、化学構造による分類では、カロチノイド系、ポルフィリン系、フラビン系、フラボノイド系、キノン系、ジケトン系等が挙げられる。
【0015】
(蛍光色素)
蛍光を発光する蛍光色素は、蛍光インキや蛍光塗料に用いられる。蛍光色素としては、ペリレン系、ナフタルイミド系等の縮合環系蛍光色素;スチルベン系有機蛍光体、ユーロピウム錯体等の希土類イオン錯体系蛍光体等が挙げられる。さらに、樹脂着色用として用いられる有機蛍光色素として、Lumogen Yellow 083、Lumogen Red 305等のぺリレン系化合物;Lumogen Violet 570等のナフタルイミド系化合物(以上、BASF社)等が挙げられる。
【0016】
(赤外光吸収色素)
赤外光吸収色素は、可視光吸収色素より長波長域に吸収帯を有する色素であって、例えば、太陽光やリモコンの赤外光遮断用途に用いる他、光熱変換による発熱機能用途に使用される。赤外光吸収色素の具体例としては、例えば、シアニン系色素(ポリメチン系色素)、スクワリリウム系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、ジチオール金属錯塩系色素、ジインモニウム系色素、アミニウム系色素等が挙げられる。
さらに、シアニン系色素としては、NK−123、NK−1144、NK−1144;ジチオール系色素としては、NK−113、NK−1199、NK−114(以上、林原生物化学研究所社製)等が挙げられる。ジインモニウム系色素、アミニウム系色素としては、IRG−22、IRG−23、IRG−003(以上、日本化薬株式会社製);フタロシアニン系化合物として、イーエクスカラーIR−1、イーエクスカラーIR−2、イーエクスカラーIR−3(以上、日本触媒株式会社製)等が挙げられる。
【0017】
(生理活性機能材料)
生理活性機能材料としては、香料、芳香剤、食品や化粧品への着香料、殺菌剤、防腐剤、殺虫剤、殺ダニ剤等が挙げられる。これらに用いられる化合物として、例えば香料には、バニリン、クマリン、桂皮酸メチル、シトラール、l−メントール、カンファー、リモネン等が挙げられる。殺菌剤又は防腐剤として、クロラミンB、クロラムフェニコール、テブコナゾール、マンネブ、ベノミル、プロシミドン、チモール、安息香酸、サリチル酸、ソルビン酸、デヒドロ酢酸ナトリム等が挙げられる。殺虫剤として、ペルメトリンヤフェンバレレート等のピレスロイド類;カルボスルファン、ベンフラン等のカルバメート類;アバメクチン、アレトリン、セヴィン等が挙げられる。また、ピリダベン、アミトラズ、エトキザゾール等の殺ダニ剤が挙げられる。具体的には、殺菌剤として、トミサイドZPT−100、トミサイドZPT−50;防腐剤として、トミサイド G、KATHON WT;殺虫剤として、サイネピリン222、デオトミゾールA(以上、エイピーアイコーポレーション社製)が挙げられる。
【0018】
本実施の形態で使用する機能性有機化合物は、通常、常温で固体状態の化合物が多いが、常温で液体状態の化合物も使用することができる。ここで、常温とは、通常、5℃〜35℃程度の温度範囲である。
本実施の形態で使用する機能性有機化合物の融点は、通常、230℃以下、好ましくは200℃以下である。
機能性有機化合物の融点が過度に高いと、後述する加熱混合処理において融解が困難になり、機能性有機化合物が有する機能を充分に発現できない傾向がある。機能性有機化合物が常温で液体の場合は、後述する加熱混合処理時に蒸発しないように、その沸点以下、好ましくは20℃以上低い温度で加熱処理を行う。
【0019】
(無機微粒子)
本実施の形態で使用する無機微粒子は、前述した機能性有機化合物に対し不活性である無機微粒子が挙げられる。ここで、機能性有機化合物に対し不活性であるとは、無機微粒子が後述する加熱混合処理において配合される機能性有機化合物と化学反応を起こさないことを意味する。
本実施の形態で使用する無機微粒子の粒径は、通常、5μm以下、好ましくは1μm以下である。但し、通常、0.2μm以上である。無機微粒子の粒径が過度に大きいと、機能性有機化合物の分散性が低下する傾向がある。無機微粒子の粒径が過度に小さいと、操作性が低下する傾向がある。
【0020】
本実施の形態で使用する無機微粒子は、小倉法(「顔料・絵具及インキ」、松本純三、小倉正照著、共立出版株式会社、昭和25年四版印刷発行、第66〜67項参照、JIS K 5421の煮アマニ油使用)に準じて測定した吸油量が80ml/100g以上であることが好ましい。吸油量は、90ml/100g以上がさらに好ましく、130ml/100g以上が特に好ましい。但し、無機微粒子の吸油量は、通常、250ml/100g以下である。無機微粒子の吸油量が過度に小さいと、無機微粒子に吸着する機能性有機化合物の吸着量が減少し粉体状の微粒子が得られない傾向がある。無機微粒子の吸油量が上述した範囲であることにより、無機微粒子に配合する機能性有機化合物の分散が促進され、全体として微粒子化が可能となる。
【0021】
本実施の形態で使用する無機微粒子としては、例えば、中性又はアルカリ性の微粒子が好ましく、多価金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩等が挙げられる。具体的には、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。また、カップリング剤等で処理してアルカリ性にした酸化ケイ素等が挙げられる。
これらの中でも、炭酸カルシウム、二酸化チタン、塩基性酸化ケイ素等が好ましく、炭酸カルシウムが特に好ましい。
【0022】
本実施の形態で使用する無機微粒子の配合量は、機能性微粒子に含まれる成分の全体の合計量に対し40重量%以上、好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上の割合で使用される。但し、通常、95重量%以下、好ましくは90重量%以下、特に好ましくは85重量%以下の割合で使用される。
無機微粒子の配合量が過度に少ないと、機能性微粒子が粉体になりにくく、塊状になる傾向がある。無機微粒子の配合量が過度に多いと、機能性有機化合物が所定の機能を発現しにくくなる傾向がある。
【0023】
本実施の形態が適用される機能性微粒子には、粒径300μm以下の粒子が、全粒子中に少なくとも75重量%の割合で存在することが好ましい。また、粒径300μm以下の粒子が全粒子中に80重量%以上存在することがより好ましく、90重量%以上存在することがさらに好ましく、95重量%以上存在することが特に好ましい。
ここで、粒径300μm以下の粒子の割合は、目開き300μmである篩を通過した微粒子の重量M1の粒子全体の重量M0に対する割合として算出できる。
【0024】
(熱可融性化合物)
本実施の形態が適用される機能性微粒子は、熱可融性化合物を含むことが好ましい。ここで、熱可融性化合物は、後述する加熱混合処理において融解し、且つ融解した状態で機能性有機化合物を溶解し又は分散させる性質を有するものである。熱可融性化合物の融点は、機能性有機化合物よりも低いことが更に好ましい。
このような熱可融性化合物の融点は、通常、40℃〜230℃の範囲であることが好ましい。また、熱可融性化合物は、機能性有機化合物に対し不活性であることが好ましい。
熱可融性化合物の配合量は特に限定されないが、機能性微粒子の全重量に対し、通常、0.01重量%以上、好ましくは1重量%以上、さらに好ましくは5重量%以上である。但し、通常、60重量%以下、好ましくは50重量%以下である。
【0025】
熱可融性化合物の具体例は、例えば、p−ベンジルビフェニル、m−ターフェニル等の芳香族化合物;2−ベンジルナフチルエーテル、1、2−ビス(m−トリルオキシ)エタン、1,2−ジフェノキシエタン等の芳香族エーテル;ジベンジルテレフタレート、p−ベンジルオキシ安息香酸ベンジル、炭酸ジフェニル、ベンジルオキサラート、シュウ酸ジベンジル等のエステル;ステアリン酸アマイド、ベヘン酸アマイド、p−トルアミド、ベンズアミド等のアミド;ジフェニルスルフォン、p、p’−ジベンジルオキシジフェニルスルフォン等のスルフォキシド;ジフェニルスルフォキシド、p−トリルスルフォキシド等のスルフォキシド等が挙げられる。
【0026】
(機能性微粒子の製造方法)
次に、本実施の形態が適用される機能性微粒子の製造方法について説明する。
本実施の形態が適用される機能性微粒子は、好ましくは、機能性有機化合物と機能性有機化合物に対し不活性であるとともに吸油量が80ml/100g以上である無機微粒子と機能性有機化合物より低い温度で融解し且つ融解した状態で当該機能性有機化合物を溶解する熱可融性化合物とを混合させて撹拌状態で加熱し、機能性有機化合物及び熱可融性化合物を融解し無機微粒子に吸着させる加熱融解工程と、加熱融解工程において融解吸着させた後に撹拌状態で冷却し機能性微粒子を調製する冷却工程により製造される。ここで、無機微粒子が、機能性微粒子全体の合計量に対し40重量%〜95重量%の割合で含まれることが好ましい。
【0027】
(加熱融解工程)
通常、先ず、機能性有機化合物と無機微粒子と熱可融性化合物とが混合した粒子状混合物を調製する。次に、得られた粒子状混合物に含まれる熱可融性化合物の融点以上の温度で粒子状混合物を加熱し、機能性有機化合物を熱可融性化合物に溶解又は分散させる。熱可融性化合物を機能性有機化合物と共に配合することで、機能性有機化合物を溶解又は分散させることが可能になる。加熱処理は、粒子状混合物を撹拌状態に保持して行うことが好ましい。
尚、先ず、機能性有機化合物と熱可融性化合物とが混合した粒子状混合物を調製し、加熱融解しながら無機微粒子を添加してもよい。
加熱温度は、使用する熱可融性化合物の融点より高い温度で適宜選択されるが、通常、230℃以下の範囲である。
【0028】
(冷却工程)
続いて、融解した機能性有機化合物を含む粒子状混合物を撹拌状態で冷却することにより粉体化し、機能性微粒子を調製する。ここで、撹拌状態で冷却するとは、粒子状混合物に外部から所定の機械的エネルギーを加えることにより流動させつつ冷却することをいう。
本実施の形態では、融解した機能性有機化合物を含む粒子状混合物を冷却する際に、粒子状混合物に所定の機械的エネルギーを加えつつ冷却することが必要である。このような操作を行うことにより、機能性有機化合物を内部に吸着した無機微粒子の微粉末を調製することができる。
【0029】
撹拌状態を保持する手法は、公知の手段を採用することが可能であり特に限定されない。例えば、所定の加熱容器に設けられた撹拌翼を回転する方法、超音波処理を行う方法、容器全体を振動させる又は回転させる方法等が挙げられる。
また、前述した加熱融解工程における機能性有機化合物の加熱融解処理と、冷却工程における撹拌状態での冷却とを、それぞれ別の装置で行うこともできる。例えば、所定の加熱容器中で機能性有機化合物と無機微粒子を撹拌しながら加熱融解し、次に、機能性有機化合物が融解状態のまま別の容器に移し、撹拌しながら冷却し微粒子化することも可能である。このように加熱と冷却の装置を分離する場合、工業的には、例えばニーダー等の混練機を使用することができる。
【0030】
このような微粒子化の機構を考察するため、機能性有機化合物として色素を用い、熱可融性化合物としてベンジルオキサラートを用い、無機微粒子として一次粒子凝集体の炭酸カルシウムを使用した場合の電子顕微鏡観察を行ったところ、炭酸カルシウムの一次粒子がカルシウムが粒子表面に多く観察された。電子顕微鏡観察の結果、熱可融性化合物は加熱により融解し色素を取り込んだ状態(色素含有熱可融性化合物)で、炭酸カルシウムの一次粒子凝集体の内部にかなりの部分が吸収され、凝集体表面全体を厚く被覆せず凝集体間の有機化合物層が薄いため、冷却時の撹拌等の外力により容易に剥離し、微粒子化した凝集体表面の一次粒子が観測されたことが明らかとなった。
このことから、吸油量の大きい炭酸カルシウムの含有量が所定の割合以上になると、炭酸カルシウム粒子に吸収及び被覆した色素含有熱可融性化合物によって炭酸カルシウム粒子がある程度結合するが、化合物のかなりの部分が粒子内部に吸収されることにより、化合物の被覆部分の厚みが薄くなり、被覆した化合物により結合した幾つかの炭酸カルシウム粒子は、撹拌状態で冷却することにより容易に分離し粉末化されると考えられる。
【0031】
本実施の形態において、機能性有機化合物として着色材を使用すると、色素含有顔料粉体として機能する機能性微粒子を得ることができる。得られた色素含有顔料粉体は、適当なバインダ樹脂を溶解した溶液に分散させ塗布用インクとして使用される。塗布用インクは、例えば、バーコーター、スピンコート、スクリーン印刷等の周知の塗布方法により所定の基板上に塗布される。
ここで、塗布用インクの調製に用いられる溶媒は、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール;前述したアルコールがフッ素化されたフッ素化アルコール;ジブチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル;アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルプロピルケトン等のケトン;酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル等のエステル;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられる。これらは単独又は混合して用いられる。
【0032】
バインダ樹脂としては、具体的には、例えば、ポリビニルアルコール樹脂;ポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール樹脂;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、酢酸セルロース等のセルロース誘導体;ポリエステル樹脂;ポリウレタン樹脂;アクリル樹脂;メタクリル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;フェノキシ樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらを単独もしくは2種以上を混合して用いることができる。
【0033】
バインダ樹脂として、さらに、無溶媒系の紫外線(UV)硬化樹脂を用いることができる。紫外線(UV)硬化樹脂は、例えば、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ウレタンアクリレート等のアクリレートモノマーやメタクリレートモノマーからなる組成に、ベンゾイン系、アセトフェノン系、チオキサンソン系、パーオキシド系等の光重合開始剤を適量添加して硬化重合させる。モノマーが液状であることから無溶媒系の塗布液が使用でき、印刷インキやスクリーン印刷に適している。
バインダ樹脂及び熱架橋性樹脂は、機能性微粒子と各樹脂の性質を勘案し、適宜選択される。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されない。
【0035】
(実施例1)
無機微粒子として炭酸カルシウム(白石工業株式会社製カルライトKT):吸油量135ml/100g)と、熱可融性化合物としてベンジルオキサラート(大日本インキ化学工業株式会社製:融点80℃)と、機能性有機化合物として色素(三菱化学株式会社製Diaresin Blue P)とを用い、これらを下記配合表1に示した重量で混合し、乳鉢にて粗砕し、粒子状混合物を調製した。炭酸カルシウムの機能性微粒子全体に占める割合は85重量%である。
【0036】
<配合表1>
炭酸カルシウム 2.13重量部
ベンジルオキサラート 0.30重量部
色素 0.08重量部
【0037】
次に、この粒子状混合物を撹拌しながら加熱し、90℃で5分間の加熱処理を行った。続いて、この粒子状混合物を撹拌しながら室温まで冷却し微粒子状の色素含有顔料粉体を得た。その後、色素含有顔料粉体を目開き300μmの篩に通過させた。得られた色素含有顔料粉体は、粒径300μm以下の粒子が全粒子中90重量%の割合で含まれていた。
【0038】
次に、上述した色素含有顔料粉体と、ポリビニルアルコール5%水溶液(日本合成株式会社製GL−3)及び1mmジルコニアビーズとを用い、下記配合表2に示した組成に従って分散液を作成し、これをペイントシェカーにて粒径が約3μm以下になるまで分散させ、塗布インクを調製した。続いて、この塗布インクをNo.12バーコーターにて厚さ約80μmのポリエステルフィルム上に塗布し、50℃で10分間乾燥し、厚さ約5μmの着色膜を作製した。この着色膜の拡散反射スペクトルを分光光度計(株式会社日立製作所製U3500)により測定し、最大吸収スペクトル(λmax)のF(R)値を求めた。測定結果を表1に示す。
表1に示す結果から、波長665(λmax)においてF(R)値3.268が得られ、色素(三菱化学株式会社製Diaresin Blue P)の発色性が良好であることが分かる。
【0039】
ここで、F(R)値は、反射率スペクトルを拡散反射関数(Kubeika−Munkの式)の下記式により変換し、拡散反射スペクトルとして求められる。
F(Rλ)=(1−Rλ/2Rλ
(式中、Rλは、試料の反射率である。)
【0040】
<配合表2>
色素含有顔料粉体 1.4重量部
ポリビニルアルコール5%水溶液 2.75重量部
1mmジルコニアビーズ 5cc
【0041】
(比較例1)
実施例1で使用した各化合物を使用し、加熱融解工程を経ずに下記配合表3に示した組成に従って分散液を作成し、これをペイントシェカーにて粒径が約3μm以下になるまで分散させ、塗布インクを調製した。炭酸カルシウムの機能性微粒子全体に占める割合は85重量%である。
次に、実施例1と同様の操作により塗布インクを厚さ約80μmのポリエステルフィルム上に塗布し、得られた厚さ約5μmの着色膜について拡散反射スペクトルを測定し、最大吸収スペクトル(λmax)のF(R)値を求めた。測定結果を表1に示す。
表1に示す結果から、波長665(λmax)においてF(R)値1.593を示し、実施例1と比較して色素(三菱化学株式会社製Diaresin Blue P)の発色性が大幅に低下したことが分かる。これは、配合した色素を融解させずに炭酸カルシウムと混合することにより、色素が粒子状の分散状態で発色せず、本発明の機能性微粒子が実現できていないことに原因があると考えられる。
【0042】
<配合表3>
炭酸カルシウム 1.19重量部
ベンジルオキサラート 0.17重量部
色素 0.04重量部
ポリビニルアルコール5%水溶液 2.75重量部
1mmジルコニアビーズ 5cc
【0043】
(実施例2)
実施例1で使用した化合物を用い、下記配合表4の組成の粒子状混合物について、加熱融解を90℃2分とした以外は実施例1と同様の操作を行い微粒子状の色素含有顔料粉体を得た。炭酸カルシウムの機能性微粒子全体に占める割合は40重量%である。得られた色素含有顔料粉体は、粒径300μm以下の粒子が全粒子中約84重量%の割合で含まれていた。
【0044】
<配合表4>
炭酸カルシウム 4.0重量部
ベンジルオキサラート 5.7重量部
色素 0.3重量部
【0045】
(実施例3)
実施例1で使用した化合物を用い、下記配合表5の組成の粒子状混合物について実施例2と同様の操作を行い微粒子状の色素含有顔料粉体を得た。炭酸カルシウムの機能性微粒子全体に占める割合は50重量%である。得られた色素含有顔料粉体は、粒径300μm以下の粒子が全粒子中約78重量%の割合で含まれていた。
【0046】
<配合表5>
炭酸カルシウム 1.25重量部
ベンジルオキサラート 1.18重量部
色素 0.08重量部
【0047】
(実施例4)
実施例1で使用した化合物を用い、下記配合表6の組成の粒子状混合物について実施例2と同様の操作を行い微粒子状の色素含有顔料粉体を得た。炭酸カルシウムの機能性微粒子全体に占める割合は70重量%である。得られた色素含有顔料粉体は、粒径300μm以下の粒子が全粒子中約79重量%の割合で含まれていた。
【0048】
<配合表6>
炭酸カルシウム 1.75重量部
ベンジルオキサラート 0.68重量部
色素 0.08重量部
【0049】
(実施例5)
実施例1で使用した化合物を用い、下記配合表7の組成の粒子状混合物について実施例2と同様の操作を行い微粒子状の色素含有顔料粉体を得た。炭酸カルシウムの機能性微粒子全体に占める割合は90重量%である。得られた色素含有顔料粉体は、粒径300μm以下の粒子が全粒子中約87重量%の割合で含まれていた。
【0050】
<配合表7>
炭酸カルシウム 2.25重量部
ベンジルオキサラート 0.18重量部
色素 0.08重量部
【0051】
(実施例6)
色素を下記 大日本インク化学社製Fastogen Blue AE−8 (C.I.No. Pigment Blue 15−6)の顔料に換えた以外は実施例2と同様の材料で下記組成比にて炭酸カルシウムが45重量%含有するように混合し、130℃で3分間加熱融解処理を行ったところ、粒径300μm以下の粒子が全粒子中約75重量%の顔料色素含有顔料粉体を得た。
【0052】
<配合表8>
炭酸カルシウム 0.9重量部
ベンジルオキサラート 0.7重量部
顔料 0.4重量部
【0053】
(実施例7)
色素の代わりにオレンジ油の主成分である常温で液体のリモネンに換えた以外は実施例2と同様の材料で下記組成比にて炭酸カルシウムが50重量%含有するように混合し、130℃で3分間加熱融解処理を行ったところ、さらさらとした粉体で粒径300μm以下の粒子が全粒子中約76.5重量%の柑橘系の香りのする粉体を得た。
【0054】
<配合表9>
炭酸カルシウム 0.75重量部
ベンジルオキサラート 0.50重量部
リモネン 0.25重量部
【0055】
(比較例2)
下記配合表10に示すように、炭酸カルシウムの割合が30重量%の組成で配合し、これらを実施例2と同様の操作を行い混合した。得られた混合物は微粒子状にはならず塊状であった。混合物中の炭酸カルシウムの割合が40重量%未満では微粒子状の混合物が得られないことが分かる。
【0056】
<配合表10>
炭酸カルシウム 0.75重量部
ベンジルオキサラート 1.68重量部
色素 0.08重量部
【0057】
(比較例3)
吸油量42ml/100gの炭酸カルシウム(白石工業株式会社製Tunex―E)を使用した以外は実施例2と同様の操作により混合物を調製したが微粒子状にならず塊状であった。混合物中の炭酸カルシウムの吸油量が80ml/100g未満では微粒子状の混合物が得られないことが分かる。
【0058】
<配合表11>
炭酸カルシウム 1.25重量部
ベンジルオキサラート 1.18重量部
色素 0.08重量部
【0059】
(比較例4)
吸油量18ml/100gの炭酸カルシウム(白石工業株式会社製CR−50)を使用した以外は実施例2と同様の操作により混合物を調製したが微粒子状にならず塊状であった。混合物中の炭酸カルシウムの吸油量が80ml/100g未満では微粒子状の混合物が得られないことが分かる。
【0060】
<配合表12>
炭酸カルシウム 1.25重量部
ベンジルオキサラート 1.18重量部
色素 0.08重量部
【0061】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性微粒子であって、
機能性有機化合物と、
前記機能性有機化合物を吸着し且つ当該機能性有機化合物に対し不活性であるとともに吸油量が80ml/100g以上である無機微粒子と、を少なくとも含み、
前記無機微粒子は、機能性微粒子に含まれる成分の全体の合計量に対し40重量%〜95重量%の割合で含まれる
ことを特徴とする機能性微粒子。
【請求項2】
融解した状態で前記機能性有機化合物を溶解又は分散させる熱可融性化合物をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の機能性微粒子。
【請求項3】
前記熱可融性化合物は、温度範囲40℃〜230℃の融点を有することを特徴とする請求項2に記載の機能性微粒子。
【請求項4】
前記無機微粒子は、平均粒径が0.2μm〜5μmである炭酸カルシウムから構成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の機能性微粒子。
【請求項5】
粒径300μm以下の粒子が、全粒子中に75重量%以上の割合で存在することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の機能性微粒子。
【請求項6】
前記機能性有機化合物が色素であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の機能性微粒子。
【請求項7】
機能性有機化合物と当該機能性有機化合物に対し不活性であるとともに吸油量が80ml/100g以上である無機微粒子とを混合し、撹拌状態で加熱しつつ当該機能性有機化合物を融解する加熱融解工程と、
前記加熱融解工程において融解した機能性有機化合物を含む混合物を撹拌状態で冷却し機能性微粒子を調製する冷却工程と、を有する
ことを特徴とする機能性微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記冷却工程において調製される機能性微粒子は、粒径300μm以下の粒子を全粒子中に75重量%以上の割合で含むことを特徴とする請求項7に記載の機能性微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記加熱融解工程において、温度範囲40℃〜230℃の融点を有し且つ融解した状態で機能性有機化合物を溶解又は分散させる熱可融性化合物を加えることを特徴とする請求項7又は8に記載の機能性微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記無機微粒子は、平均粒径が0.2μm〜5μmである炭酸カルシウムから構成されることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の機能性微粒子の製造方法。
【請求項11】
前記機能性有機化合物が色素であることを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項に記載の機能性微粒子の製造方法。

【公開番号】特開2009−286909(P2009−286909A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141517(P2008−141517)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(501495237)三菱化学メディア株式会社 (105)
【Fターム(参考)】