説明

機能性樹脂粉体の製造システム及び機能性樹脂粉体の製造方法

【課題】 固体状微粒子を分散媒から容易に分離して、熱可塑性樹脂を含む機能性樹脂粉体を連続的且つ効率的に製造することができ、製造コストを格段に低減することができる機能性樹脂粉体の製造システム及び機能性樹脂粉体の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の機能性樹脂粉体の製造システムは、機能性樹脂組成物が固体状微粒子として分散媒中に分散した混合物に展開溶媒を加えて調製された懸濁液から機能性樹脂組成物の固体状粒子として分離回収する際に、粘度が高く混合溶液と固体状微粒子間の比重差が小さい懸濁液に希釈液タンク13内の希釈液を添加して、懸濁液の粘度を低下させると共に固体状微粒子と混合溶液の比重差を大きくして固体状微粒子が混合溶液から分離しやすくした後、分離板型デカンタ15を用いて希釈懸濁液から固体状微粒子を遠心力による沈降分離するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性樹脂粉体の製造システム及び機能性樹脂粉体の製造方法に関し、更に詳しくは、例えば熱可塑性樹脂を媒体として含む機能性樹脂組成物の固体粒子からなる機能性樹脂粉体を連続的に効率よく製造することができる機能性樹脂粉体の製造システム及び機能性樹脂粉体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の粉体を製造する技術としては、特許文献1、2に記載された技術がある。特許文献1には球状複合粉体の製造方法について記載され、特許文献2には生分解性球状複合粉体の製造方法について記載されている。特許文献1の球状複合粉体を更に生分解性球状複合粉体に特定していること以外は、特許文献1の技術と特許文献2の技術は基本的に共通しているため、特許文献1の記載の従来技術について説明する。
【0003】
特許文献1の技術では、熱可塑性樹脂と充填剤を含む熱可塑性複合組成物を、この熱可塑性複合組成物と相溶性のない分散媒と共にこの熱可塑性複合組成物の融点以上の温度に加熱し、熱可塑性複合組成物を分散媒中に分散させた混合物を得た後、この混合物を冷却し、熱可塑性複合組成物に対して貧溶媒で、分散媒に対して良溶媒である展開溶媒と混合して、分散媒を展開溶媒中に溶解させると共に熱可塑性複合組成物の固体状微粒子が分散した懸濁液を得る。この懸濁液を遠心分離、濾過して目的とする複合粉体を得ている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−114901
【特許文献2】特開2002−327066
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、懸濁液から熱可塑性複合組成物の固体状微粒子を回収する際に、熱可塑性複合組成物に対して貧溶媒で、分散媒に対して良溶媒の展開溶媒を用いて、分散媒を展開溶媒へ溶解させた後、遠心分離、濾過、あるいはこれらを組み合わせて懸濁液から熱可塑性複合組成物の固体状微粒子を分離している。このような従来の単なる遠心分離、濾過あるいはこれらを組み合わせて操作する手法では大量の展開溶媒を用いて分散媒の展開溶媒への溶解を促進しない限り、分散媒を熱可塑性複合組成物の固体状微粒子から十分に分離除去することが難しく、しかも分散媒は熱可塑性複合組成物との間に親和性があるため、分散媒を固体状微粒子から十分に除去するためには従来の遠心分離操作や濾過操作あるいはこれらの操作を単に組み合わせた手法ではこれらの操作を何回も繰り返さなくてはならないため、操作工程が複雑になり、固体状微粒子を効率的に得ることができず、延いては複合粉体の製造コストが高くなる。況して、複合粉体が微粒子化するほど分離が困難になる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、固体状微粒子を分散媒から容易に分離して、機能性樹脂組成物から機能性樹脂粉体を連続的且つ効率的に製造することができ、製造コストを格段に低減することができる機能性樹脂粉体の製造システム及び機能性樹脂粉体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に記載の機能性樹脂粉体の製造システムは、少なくとも熱可塑性樹脂を含み所定の機能を発現する機能性樹脂組成物とこの機能性樹脂組成物と相溶性のない分散媒とを、上記機能性樹脂組成物の融点以上の温度に加熱、混合し、この混合物を上記機能性樹脂組成物に対して貧溶媒であって上記分散媒に対して良溶媒である展開溶媒と一緒に攪拌して、上記機能性樹脂組成物の融点以下の温度に冷却すると共に、上記分散媒を上記展開溶媒に溶解させて上記機能性樹脂組成物の懸濁液とし、この懸濁液から上記機能性樹脂組成物の粉体を分離回収する機能性樹脂粉体の製造システムであって、上記懸濁液に希釈液を添加する希釈液添加手段と、上記希釈液で希釈された希釈懸濁液から上記機能性樹脂組成物を機能性樹脂粉体として回収する粉体回収手段と、を備え、上記粉体回収手段は、上記希釈懸濁液から上記機能性樹脂粉体を遠心沈降させる遠心分離機であることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の請求項2に記載の機能性樹脂粉体の製造システムは、請求項1に記載の発明において、上記遠心分離機の下流側に、上記希釈液を回収する蒸留装置を設けたことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の請求項3に記載の機能性樹脂粉体の製造システムは、請求項2に記載の発明において、上記希釈液添加手段と上記蒸留装置を連結したことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の請求項4に記載の機能性樹脂粉体の製造方法は、少なくとも熱可塑性樹脂を含み所定の機能を発現する機能性樹脂組成物とこの機能性樹脂組成物と相溶性のない分散媒とを、上記機能性樹脂組成物の融点以上の温度に加熱、混合し、この混合物を上記機能性樹脂組成物に対して貧溶媒であって上記分散媒に対して良溶媒である展開溶媒と一緒に攪拌して、上記機能性樹脂組成物の融点以下の温度に冷却すると共に、上記分散媒を上記展開溶媒に溶解させて上記機能性樹脂組成物の懸濁液とし、この懸濁液から上記機能性樹脂組成物の粉体を分離回収することにより機能性樹脂粉体を製造する方法であって、上記懸濁液を希釈液で希釈する工程と、上記希釈液で希釈された懸濁液から上記機能性樹脂組成物を機能性樹脂粉体として遠心沈降させる工程と、を備えたことを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の請求項5に記載の機能性樹脂粉体の製造方法は、請求4に記載の発明において、上記遠心沈降により分離された分離液を蒸留して上記希釈液を回収する工程を備えたことを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の請求項6に記載の機能性樹脂粉体の製造方法は、請求項4または請求項5に記載の発明において、上記希釈液として、アルコール類またはケトン類を用いることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の請求項7に記載の機能性樹脂粉体の製造方法は、請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載の発明において、10μm以下の平均粒径を有する機能性樹脂粉体を回収することを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の請求項8に記載の機能性樹脂粉体の製造方法は、請求項4〜請求項7のいずれか1項に記載の発明において、上記機能性樹脂粉体がトナーであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、固体状微粒子を分散媒から容易に分離して、熱可塑性樹脂を含む機能性樹脂粉体を連続的且つ効率的に製造することができ、製造コストを格段に低減することができる機能性樹脂粉体の製造システム及び機能性樹脂粉体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図1〜図3に示す実施形態に基づいて本発明を説明する。尚、図1は本発明の機能性樹脂粉体の製造システムの一実施形態を示す構成図、図2は図1に示す遠心分離機を示す断面図、図3は図1に示す濾過装置を示す構成図である。
【0017】
本発明の機能性樹脂粉体の製造システムは、熱可塑性樹脂を媒体として含む機能性樹脂組成物とこの機能性樹脂組成物と相溶性のない分散媒とを、機能性樹脂組成物の融点以上の温度に加熱、混合し、この混合物を機能性樹脂組成物に対して貧溶媒であって分散媒に対して良溶媒である展開溶媒と攪拌して、機能性樹脂組成物の融点以下の温度に冷却すると共に、分散媒を展開溶媒に溶解させて機能性樹脂組成物の懸濁液とし、この懸濁液から機能性樹脂組成物の粉体を分離回収することにより機能性樹脂粉末を製造するものである。本発明における機能性樹脂は、従来技術における複合粉体に相当し、例えばトナー等のように所定の機能を発現する無機化合物、有機化合物等の物質を含む熱可塑性樹脂のことを云う。
【0018】
機能性樹脂粉体を構成する熱可塑性樹脂は、所定の機能を発現する物質のバインダの役割を有している。所定の機能を発現する物質は、種々の物理的、化学的特性を有し、熱可塑性樹脂を媒体として機能性樹脂粉体に種々の物理的、化学的特性を付与することができる。熱可塑性樹脂は、特に制限されないが、例えばポリアミド(PA)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(SAN)、ポリカプロラクトン(PCL)及びポリ乳酸(PLA)から選択されるいずれか一つを含む熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
【0019】
また、分散媒は、機能性樹脂組成物に対して相溶性のある溶媒であれば、特に制限されず、機能性樹脂組成物によって適宜選択することができる。機能性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂がポリプロピレンやポリエチレンの場合には、分散媒として例えばポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイド類を用いることができる。また、熱可塑性樹脂がポリ乳酸の場合には、分散媒としてポリアクリル酸を用いることができる。
【0020】
展開溶媒は、機能性樹脂組成物を溶解し難い貧溶媒であって分散媒と相溶性のある良溶媒であれば、特に制限されない。展開溶媒としては、例えば、水、有機溶媒及びこれらの混合物を用いることができる。例えば分散媒としてポリアルキレンオキサイド類を用いる場合には、水を展開溶媒として用いることができる。懸濁液から機能性樹脂組成物の固体状微粒子を分離回収すると、この固体状微粒子を洗浄液によって洗浄する。洗浄する場合には、展開溶媒として水を用いる場合には、洗浄液としても水を用いることができる。しかし、分散媒を展開溶媒で溶解することができたとしても、固体状微粒子と分散媒との親和力が強く、固体状微粒子から分散媒を分離することが難しい。
【0021】
そこで、本出願人が共願者と共に特願2006−171206号において、加圧濾過装置を用いて固体状微粒子から分散媒を分離する手法を提案した。しかしながら、その後の検討結果によれば、加圧濾過装置を用いる場合には、固体状微粒子が80〜90μm程度の平均粒径まで分離することができるが、平均粒径が更に小さくなって例えば10μm以下になると、固体状微粒子が濾材に目詰まりし、固体状微粒子を効率的に分離濾過できないことが判った。また、懸濁液を水などの展開溶媒で希釈しても単なる遠心分離等の操作でも固体状微粒子を分離できないことは従来技術でも説明した通りである。
【0022】
本発明者は、懸濁液の粘度が高く、しかも分散媒と展開溶媒の混合液と固体状微粒子の比重差が殆どなく、このことが分離の障害になっているとの知見を得た。そこで、本発明者は、アルコール類やケトン類を懸濁液の希釈液として用いて懸濁液の粘度を低下させると共に混合液と固体状微粒子の比重差を大きくすることにより、固体状微粒子を分離する手法を試みた。その結果、10μm以下の固体状微粒子であっても遠心力により沈降分離できることが判った。本発明は、このような知見に基づいて開発されたものである。
【0023】
即ち、本実施形態の機能性樹脂粉体の製造システム10は、例えば図1に示すように、熱可塑性樹脂としてポリエチレンを含む機能性樹脂組成物とその分散媒(例えば、ポリエチレングリコール)とを加熱、混合してこれら両者の混練物を得る混練機11と、混練機11からの混練物に展開溶媒(例えば、水)を加え、混練物と展開溶媒とを混合、冷却し、展開溶媒中で機能性樹脂組成物から固体状微粒子(以下、必要に応じて単に「固体状微粒子」と称する。)を形成すると共に分散媒を展開溶媒に溶解させた懸濁液を調製する第1の攪拌装置12と、懸濁液を希釈する希釈液(例えば、メタノール溶液)を溜める希釈液タンク13と、第1の攪拌装置12の懸濁液を希釈液タンク13の希釈液で希釈した希釈懸濁液を送る第1のポンプ14と、第1のポンプ14から受給した希釈懸濁液を遠心力により分散媒、展開溶媒及び希釈液の混合液から固体状微粒子を沈降分離して、回収する遠心分離機15と、遠心分離機15からの固体状微粒子に洗浄液(例えば、洗浄水)を加えて固体状微粒子を洗浄すると共にリスラリー化する第2の攪拌装置16と、第2の攪拌装置16からの固体状微粒子を湿式分級して所望の粒径範囲にある固体状微粒子からなる機能性樹脂粉体として得る分級装置17と、分級装置17からの機能性樹脂粉体を洗浄水中で攪拌、洗浄する第3の攪拌装置18と、第3の攪拌装置18からの機能性樹脂粉体の懸濁液を遠心分離すると共に洗浄水で機能性樹脂粉体を洗浄する遠心濾過装置19と、遠心濾過装置19からの機能性樹脂粉体を乾燥する乾燥機20を備え、機能性樹脂組成物から機能性樹脂粉体を製造するように構成されている。
【0024】
上記混練機11は、従来公知の押出機等種々のタイプのものを使用することができる。この混練機11は、機能性樹脂組成物をその供給源11Aから受給すると共に分散媒をその供給源11Bから受給し、機能性樹脂組成物をその融点(例えば、220〜240℃)以上の温度に加熱して機能性樹脂組成物と分散媒とを混練し、機能性樹脂組成物を分散媒中で微粒子状に分散させた混練物を調製する。この混練操作によって機能性樹脂組成物は、分散媒中で微粒子状になって分散する。混練機11は、溶融状態の混練物を第1の攪拌装置12へ供給する。
【0025】
第1の攪拌装置12は、混練機11から混練物を受給すると共に展開溶媒をその供給源12Aから受給し、上記混練物と展開溶媒を攪拌すると共に機能性樹脂組成物から固体状微粒子(10μm以下、例えば平均粒径が5〜7μm)を形成しながら分散媒を展開溶媒に溶解させて冷却することにより、固体状微粒子が展開溶媒中で懸濁した懸濁液として調製する。この懸濁液は、第1のポンプ14を介して遠心分離機15へ供給される時に、希釈液タンク13からの希釈液によって希釈される。希釈された懸濁液(以下、「希釈懸濁液」と称す。)は、希釈液の添加によって粘度が低下すると共に固体状微粒子と混合液(分散媒、展開溶媒及び希釈液の混合液)との比重差が大きくなるため、遠心分離機15において固体状微粒子が分散媒、展開溶媒及び希釈液の混合液中で沈降分離しやすくなる。希釈液は、懸濁液の粘度を低下させ、固体微粒子と混合液の比重差を大きくできる溶媒であれば特に制限されないが、分散媒や展開溶媒より比重の小さいアルコール類、ケトン類等の溶液が好ましい。希釈液の添加量は、本実施形態では展開溶媒と同一容量だけ添加している。
【0026】
本実施形態では、上記遠心分離機15としては、例えば図2に示すように分離板型デカンタを用いている。そこで、以下では遠心分離機15を分離板型デカンタ15として説明する。この分離板型デカンタ15は、同図に示すように、大径に形成された直胴部と直胴部から徐々に縮径するコーン部とからなる回転体15Aと、この回転体15Aの右端面中央から軸芯に従って挿着されたスクリューコンベア15Bと、回転体15Aとスクリューコンベア15Bを所定の速度差で回転させる減速機15Cと、を備え、希釈懸濁液を回転体15Aとスクリューコンベア15Bの間の分離室15Dで固液分離するように構成されている。分離室15D内で遠心力により沈降分離した固体状微粒子は、同図に矢印Xで示すように分離室15Dの左端近傍に形成された孔から外部の第2の攪拌装置16(図1参照)へ排出される。また、分離室15D内で分離された清澄液は、同図に矢印Yで示すように分離室15Dの右端面に形成された孔から外部の蒸留装置21(図1参照)へ排出される。
【0027】
図2に示すようにスクリューコンベア15Bは、軸部と軸部の外周面に螺旋状に形成されたスクリュー羽根とを有し、スクリュウー羽根で固体状微粒子を搬送するようになっている。スクリューコンベア15Gの軸部の右半分には給液室15Eとなる中空部が形成され、この給液室15Eの左端近傍には周面に沿って所定の間隔を空けて複数の孔が形成されている。この給液室15Eには右端から給液管15Fが軸芯に従って挿着され、同図に矢印Zで示すように給液管15Fから希釈懸濁液を供給し、給液室15Eの複数の孔から同図に矢印Uで示すように分離室15Dへ希釈懸濁液を遠心力で分散させる。分離室15D内にはスクリューコンベア15Bの軸部の外周面全面に渡って複数の分離板15Gが軸方向に取り付けられている。これらの分離板15gは、軸部の径方向から傾斜して放射状に装着され、更に、これらの分離板15Gの外周面にスクリューコンベア15Bのスクリュー羽根が配置されている。
【0028】
従って、給液管15Fから希釈懸濁液が供給されると、希釈懸濁液は給液室15Eの孔から分離室15D内へ分散する。分離室15Dでは、希釈懸濁液はスクリューコンベア15Gのスクリュー羽根に沿ってスパイラル状の流れを形成し、加速されながら分離板15G間の隙間に入り、ここで清澄な上澄み液が分離室15Dの右端の孔を経由して外部へ分離液として排出される。一方、分離室15Dで分離された固体状微粒子は分離板15Gに沿って回転体15Aの内周面に向けて移動し、内周面に沿って堆積する。堆積した固体状微粒子は、回転体15Aより僅かに遅い速度で回転するスクリューコンベア15Bの働きで回転体15Aの左方のコーン部へ搬送され、分離室15Dの孔から外部へ排出される。排出直前の固体状微粒子は清澄液が及ばない領域にあって、液分の少ないケーキになって外部へ連続的に排出される。
【0029】
第1の攪拌装置12から分離板型デカンタ15に供給される懸濁液は、上述したように分散媒と展開溶媒の混合液と固体状微粒子の比重差が殆どなく、しかも粘度が高いため、そのままでは分離板型デカンタ15によって固体状微粒子を分離することが難しい。ところが、本実施形態では懸濁液が予め希釈液で希釈され粘度が低下し、更に固体状粒子と混合液との比重差が大きくなっているため、分離板型デカンタ15によって固体状微粒子が混合液から遠心沈降し、固液分離することができる。しかも、この分離板型デカンタ15は、固液分離を連続的に行うことができるため、加圧濾過装置のようなバッチ式の装置と比較して極めて効率よく固液分離することができる。
【0030】
固体状微粒子は分離板型デカンタ15から第2の攪拌装置16へ供給され、分離液は分離板型デカンタ15から蒸留装置21へ供給される。
【0031】
上記第2の攪拌装置16は、分離板型デカンタ15から供給された固体状微粒子と洗浄水の供給源22から供給された洗浄水とを攪拌してリスラリー化すると共に固体状微粒子を洗浄することができる。また、このリスラリーは、第2の攪拌装置16の下流側に配置された第2のポンプ23によって分級装置17へ供給される。
【0032】
上記蒸留装置21は、分離板型デカンタ15から受給する分離液(分散媒、展開溶媒及び希釈液の混合液)を蒸留し、沸点の低い希釈液(本実施形態ではメタノール溶液)を回収する。この希釈液は、ポンプ21Aを介して蒸留装置21から希釈液タンク13供給される。この希釈液は懸濁液の希釈のために繰り返し使用される。
【0033】
分級装置17は、例えば振動式湿式分離装置として構成され、所望の粒径の固体状微粒子からなる機能性樹脂粉体を選別する。分級装置17によって得られた所望の固体状微粒子を含む懸濁液を第3のポンプ24によって第3の攪拌装置18へ供給する。第3の攪拌装置18は、分級装置17から供給された懸濁液を攪拌して固体状微粒子を洗浄水内に均一に分散させる。この懸濁液を第3の攪拌装置18の下流側に配置された第4のポンプ25によって遠心濾過装置19へ供給する。
【0034】
遠心濾過置19は、例えば図3に示すようにバスケット型遠心濾過洗浄装置として構成されている。この遠心濾過装置19は、同図に示すように、内周面に濾材191Aが張設された回転バスケット191と、この回転バスケット191を回転させる回転軸192と、回転バスケット191の濾液側と連通孔193を介して連通するサイホン室194と、サイホン室194内の濾液を吸引排出する浸漬深さを調整できるサイホン管195と、回転バスケット191内に懸濁液を供給する供給管196と、回転バスケット191の内周面に形成された固体状微粒子のケーキ層を掻き取る掻き取りナイフ197と、掻き取りナイフ197で掻き取られた固体状微粒子を機能性樹脂粉体として排出する排出シュート198と、を備え、回転バスケット191を回転させて上記懸濁液に所定の遠心力を付与して、上記懸濁液から洗浄水を分離除去する。
【0035】
また、供給管196は洗浄水源22(図1参照)にも接続され、遠心濾過により濾材191Aに機能性樹脂粉体のケーキ層が形成された後、洗浄水を供給してケーキ層を洗浄するようにしてある。また、サイホン管195は、排水管26(図1参照)に接続され、遠心濾過装置19の濾液を廃水として排出する。尚、図3において、199は、掻き取りナイフ197の濾材191に対する角度を調整する回転軸である。
【0036】
遠心濾過装置19で上記懸濁液から洗浄水を分離除去する場合には、例えば回転バスケット191の回転により機能性樹脂粉体に100〜1500Gの遠心力を付与することによって機能性樹脂粉体に付着する殆どの水分を除去し、機能性樹脂粉体のケーキ層の水分含有率を約5〜10%程度まで低下させることができる。付与する遠心力が100G未満では水分の含有率を十分に低下させることができず、次の乾燥工程での負荷が大きくなり乾燥に長時間を要し、1500Gを超えても水分の含有率に殆ど差がなくなる。しかも、遠心濾過装置19はバスケット型遠心濾過洗浄装置として構成されているため、密閉式であり、外部からの不純物の混入を防止することができ、高純度の機能性樹脂粉体を得ることができる。この遠心濾過装置19において機能性樹脂粉体の水分含有率を約5〜10%程度まで低下させた後、機能性樹脂粉体を乾燥機20へ供給する。
【0037】
乾燥機20は、例えば図1に示すようにダブルコーン型乾燥機として構成されている。この乾燥機20は、同図に示すように、ダブルコーン型の真空引きの容器20Aと、その内部に設けられた解砕羽根20Bと、を備え、容器20Aには温水供給源27が接続されている。そして、乾燥機20では、容器20A内で水分を含んだ機能性樹脂粉体を解砕羽根20Bで攪拌すると共に容器20Aのジャケット部に供給された温水によって機能性樹脂粉体を加熱して乾燥する。この乾燥機20において機能性樹脂粉体は乾燥し、その水分含有率は0.5%程度まで低下する。
【0038】
以上説明したように本実施形態によれば、機能性樹脂組成物と分散媒の混練物に展開溶媒を加えて調製された懸濁液から機能性樹脂組成物の固体状粒子を分離回収する際に、粘度が高く、混合液と固体状微粒子との間の比重差が殆どない懸濁液に希釈液タンク13内の希釈液を添加して、懸濁液の粘度を低下させると共に固体状微粒子と混合液の比重差を大きくして固体状微粒子を混合液から分離しやすくした後、分離板型デカンタ15を用いて希釈懸濁液を固液分離しやすくしたため、平均粒径が5〜7μmの固体状微粒子であっても連続的且つ効率的に分離して機能性樹脂粉体を得ることができる。また、分離板型デカンタ15は濾材がないため、加圧濾過装置のように目詰まりすることなく固体状微粒子を円滑に固液分離することができる。従って、トナーのような平均粒径の小さい機能性樹脂粉体であってもその機能性樹脂組成物から確実に製造することができる。
【0039】
また、本実施形態によれば、分離板型デカンタ15の下流側に蒸留装置21を設け、希釈液を回収して繰り返し使用できるようにしたため、廃液を格段に少なくすることができる。
【0040】
本発明は、上記実施形態に何等制限されるものではなく、必要に応じて各構成要素を適宜設計変更することができ、必要に応じて適宜の機器を付加することもできる。上記実施形態では希釈液としてメタノールを用いたが、エタノール等のアルコール類やケトン類等を使用することもできる。また、上記実施形態では、遠心分離機として分離板型デカンタを用いているが、その他のタイプの遠心分離機を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、種々の物理的、化学的特性を付与した機能性樹脂粉体を製造する場合に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の機能性樹脂粉体の製造システムの一実施形態を示す構成図である。
【図2】図1に示す遠心分離機を断面図である。
【図3】図1に示す遠心濾過装置を示す構成図である。
【符号の説明】
【0043】
10 機能性樹脂粉体の製造システム
13 希釈液タンク(希釈液添加手段)
14 第1のポンプ(希釈液添加手段)
15 分離板型デカンタ(遠心分離機)
21 蒸留装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも熱可塑性樹脂を含み所定の機能を発現する機能性樹脂組成物とこの機能性樹脂組成物と相溶性のない分散媒とを、上記機能性樹脂組成物の融点以上の温度に加熱、混合し、この混合物を上記機能性樹脂組成物に対して貧溶媒であって上記分散媒に対して良溶媒である展開溶媒と一緒に攪拌して、上記機能性樹脂組成物の融点以下の温度に冷却すると共に、上記分散媒を上記展開溶媒に溶解させて上記機能性樹脂組成物の懸濁液とし、この懸濁液から上記機能性樹脂組成物の粉体を分離回収する機能性樹脂粉体の製造システムであって、上記懸濁液に希釈液を添加する希釈液添加手段と、上記希釈液で希釈された希釈懸濁液から上記機能性樹脂組成物を機能性樹脂粉体として回収する粉体回収手段と、を備え、上記粉体回収手段は、上記希釈懸濁液から上記機能性樹脂粉体を遠心沈降させる遠心分離機であることを特徴とする機能性樹脂粉体の製造システム。
【請求項2】
上記遠心分離機の下流側に、上記希釈液を回収する蒸留装置を設けたことを特徴とする請求項1に記載の機能性樹脂粉体の製造システム。
【請求項3】
上記希釈液添加手段と上記蒸留装置を連結したことを特徴とする請求項2に記載の機能性樹脂粉体の製造システム。
【請求項4】
少なくとも熱可塑性樹脂を含み所定の機能を発現する機能性樹脂組成物とこの機能性樹脂組成物と相溶性のない分散媒とを、上記機能性樹脂組成物の融点以上の温度に加熱、混合し、この混合物を上記機能性樹脂組成物に対して貧溶媒であって上記分散媒に対して良溶媒である展開溶媒と一緒に攪拌して、上記機能性樹脂組成物の融点以下の温度に冷却すると共に、上記分散媒を上記展開溶媒に溶解させて上記機能性樹脂組成物の懸濁液とし、この懸濁液から上記機能性樹脂組成物の粉体を分離回収することにより機能性樹脂粉体を製造する方法であって、上記懸濁液を希釈液で希釈する工程と、上記希釈液で希釈された懸濁液から上記機能性樹脂組成物を機能性樹脂粉体として遠心沈降させる工程と、を備えたことを特徴とする機能性樹脂粉体の製造方法。
【請求項5】
上記遠心沈降により分離された分離液を蒸留して上記希釈液を回収する工程を備えたことを特徴とする請求項4に記載の機能性樹脂粉体の製造方法。
【請求項6】
上記希釈液として、アルコール類またはケトン類を用いることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の機能性樹脂粉体の製造方法。
【請求項7】
10μm以下の平均粒径を有する機能性樹脂粉体を回収することを特徴とする請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載の機能性樹脂粉体の製造方法。
【請求項8】
上記機能性樹脂粉体がトナーであることを特徴とする請求項4〜請求項7のいずれか1項に記載の機能性樹脂粉体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−13353(P2009−13353A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−179061(P2007−179061)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000176752)三菱化工機株式会社 (48)
【Fターム(参考)】