説明

機能性物質の構造決定方法および製造方法

【課題】 標的に対し高い親和性を示す機能性物質の構造を決定し、製造するための新規な技術を提供する。
【解決手段】 標的に対し親和性を有する物質(機能性物質)の候補を合成し、この機能性物質候補の中から、標的に対し親和性を有する機能性物質を選別し、この選別された機能性物質から特定の置換基を脱離し、この特定の置換基を脱離した機能性物質を増幅し、この増幅された機能性物質の構造を決定し、この構造に基づいて、機能性物質を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多種の標的に対し高い親和性および/または認識特異性を示し、薬品、ドラッグデリバリー、バイオセンサー、遺伝子の発現量の制御、遺伝子異常による疾病の克服、遺伝子により翻訳されるタンパク質の機能解明、反応触媒の開発などに応用可能であり、特にタンパク質の解析・スクリーニング等に好適な機能性物質(本発明では、標的に対し親和性を有する物質を機能性物質という)およびその効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオサイエンスの発展に伴い、研究者や科学者の興味の中心は、遺伝子からの遺伝子産物であるタンパク質の解析に移行してきている。タンパク質の解析は、対象となる個々のタンパク質に対し親和性を有する物質の解析を通じてなされる場合が多い。
【0003】
従って、タンパク質の解析は、タンパク質に対し親和性を有する物質が存在して初めて可能になるといっても過言ではない。解析の対象であるタンパク質は、細胞中に非常に多種存在し、そのアミノ酸配列や構造等が全く未知であるものが多数であるので、タンパク質を解析するための物質も多種必要になる。
【0004】
しかしながら、上記タンパク質を解析するための物質を作製または入手するための効率的な方法は、現時点では十分確立されているとは言えない。ある特定のタンパク質に対して親和性のある物質を得る最も一般的な方法としては、動物の免疫系を用いてアフィニティー抗体を選別する方法が知られている。ところが、この方法の場合、動物を使っているため、多量のタンパク質が必要となり、工程数が多く、高コストである。しかも、この方法で選別し入手したアフィニティー抗体は、増幅(すなわち複製)することができない。また、同一標的に対し親和性を有するアフィニティー抗体しか選別することができないという問題がある。したがって、細胞内に存在する多くの種類のタンパク質に対し、親和性を有する個々のアフィニティー抗体を選別し、十分な量入手することは極めて困難である。
【0005】
また、遺伝情報を持つタンパク質の合成に関しては、mRNAの3’末端にピューロマイシンを導入した研究がある(たとえば、特許文献1参照)。これはピューロマイシンが、翻訳系においてアミノ酸と間違われてタンパク質に組み込まれやすいという性質を利用したものである。しかし、現在までのところ、ピューロマイシンの組み込み効率が悪く、ランダムなアミノ酸3残基のライブラリーから機能性物質を選別できたという報告がなされている程度である。
【0006】
一方、抗体を用いたタンパク質の同定法としては、たとえば、immunosensor amperometric法などが開発されている。この方法によれば2ng/L程度の微量なタンパク質でも測定可能である。しかし、上記のような低濃度のタンパク質溶液中では殆どの抗体はタンパク質と結合しておらず、夾雑物を多く含む溶液(たとえば、血清など)中では不特定(non−specific)な反応が多く起こって、測定精度が低下してしまうという問題がある。
【0007】
また、ウイルス等を被覆可能な超分子アセンブリーなども提案されているものの(たとえば、特許文献2参照)、この場合、構造が複雑である上、多種の標的に対し、抗体以上の高い親和性を示すものを効率的に製造することができないという問題がある。
【特許文献1】特開2002−291491号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特表平10−508304号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2004−337022号公報(段落番号[0040])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
標的に対し親和性を有する物質を、そのような物質の多数の候補をそれぞれ極少量ずつ含む混合物を合成し、この物質の候補の中から、標的に対し親和性を有する物質を選別し、ついで選別された物質を何らかの方法で増幅し、この増幅された物質を使用して、その構造を解析し、解析された構造に基づいて目的とする物質を選択的に合成する方法によって製造する方法がある(たとえば、特許文献3参照。)。
【0009】
具体例をあげれば、標的があるタンパク質で、上記のような機能を有する物質がヌクレオチド配列の場合には、候補となる多数のヌクレオチド配列を含む混合物を合成し、その中から、標的であるタンパク質に対し親和性のあるヌクレオチド配列を選別し、増幅し、その後、この増幅されたヌクレオチド配列の塩基配列を決定し、この決定された配列(すなわち、決定された構造)を元に、標的タンパク質に親和性のあるヌクレオチド配列を製造するのである。
【0010】
このようにすれば、少量の機能性物質候補の中から目的とする機能性物質を決定でき、製造に結びつけることができるので、十分な量の新規な機能性物質を迅速に開発することが可能となる。
【0011】
十分な量の機能性物質が入手できれば、その構造を解析することにより、標的の構造(たとえばタンパク質の配列構造)の解析やスクリーニング等を進展させ、この結果を、薬品、ドラッグデリバリー、バイオセンサー、遺伝子の発現量の制御、遺伝子異常による疾病の克服、遺伝子により翻訳されるタンパク質の機能解明、反応触媒の開発などに応用可能となる。
【0012】
しかしながら、選別された機能性物質によってはこの増幅ができず、十分な量の機能性物質を入手できないという問題がある。たとえば、この増幅にはPCR(ポリメラーゼ連鎖反応法:Polymerase Chain Reaction)が利用されることが多いが、選別された機能性物質によってはこのPCRによる増幅が阻害されてしまう場合がある。選別された機能性物質が強い正の電荷を有している場合等にそのような阻害が生じる。増幅が阻害されるとその後の構造の決定も機能性物質の製造も不可能となる。
【0013】
この原因の一つに、たとえば、タンパク質に対する機能性物質の親和性を向上させる等の目的のために導入された置換基によるPCR等の増幅反応の阻害が挙げられる。
【0014】
本発明は、このような問題を解決し、標的に対し高い親和性を示す機能性物質の構造を決定し、製造することを可能とする新規な技術を開発することを目的としている。本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様によれば、標的に対し親和性を有する物質(機能性物質)の候補を合成し、この機能性物質候補の中から、標的に対し親和性を有する機能性物質を選別し、この選別された機能性物質から特定の置換基を脱離し、この特定の置換基を脱離した機能性物質を増幅し、この増幅された機能性物質の構造を決定する、機能性物質の構造決定方法が提供される。
【0016】
本発明の他の一態様によれば、標的に対し親和性を有する物質(機能性物質)の候補を合成し、この機能性物質候補の中から、標的に対し親和性を有する機能性物質を選別し、この選別された機能性物質から特定の置換基を脱離し、この特定の置換基を脱離した機能性物質を増幅し、この増幅された機能性物質の構造を決定し、この構造に基づいて、機能性物質を製造する、機能性物質の製造方法が提供される。
【0017】
これらの発明態様により、標的に対し高い親和性を示す機能性物質の構造を決定し、製造することを可能とする新規な技術が得られる。
【0018】
上記いずれの態様においても、上記特定の置換基が、置換基を有していてもよい、天然または非天然のアミノ酸基、金属錯体基、蛍光色素基、酸化還元色素基、スピンラベル化が可能な基、炭素数1〜10のアルキル基および、式(1)〜(10)で表される基からなる群から選ばれた少なくとも一つの基を有すること、
【0019】
【化3】

シスジオールの過ヨウ素酸酸化による切断、シリル基のフッ素イオンによる切断、酸アルカリによる切断、酵素反応による切断または光反応による切断により、上記特定の置換基を機能性物質から脱離すること、上記機能性物質が、修飾ヌクレオチド配列を含んでなること、上記機能性物質が、修飾DNA配列または修飾RNA配列であること、上記標的が、タンパク質、リポタンパク質、糖タンパク質、ポリペプチド、脂質、多糖類、リポ多糖類、核酸、環境ホルモン、薬物、これらの複合体およびこれらの分解物からなる群から選択される少なくとも一つの物質であること、が好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、標的に対し高い親和性を示す機能性物質の構造を決定し、製造するための新規な技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の実施の形態を図、実施例等を使用して説明する。なお、これらの図、実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0022】
本発明に係る機能性物質の構造決定方法では、機能性物質候補を合成し、この機能性物質候補の中から、標的に対し親和性を有する機能性物質を選別し、この選別された機能性物質から特定の置換基を脱離し、この特定の置換基を脱離した機能性物質を増幅し、この増幅された機能性物質の構造を決定する。
【0023】
また、本発明に係る機能性物質の製造方法では、このようにして得た機能性物質の構造に基づいて、機能性物質を製造する。
【0024】
(標的)
本発明に係る標的としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、たとえば、タンパク質、リポタンパク質、糖タンパク質、ポリペプチド、脂質、多糖類、リポ多糖類、核酸、環境ホルモン、薬物、これらの複合体などが挙げられる。
【0025】
これらは、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、血漿タンパク質、腫瘍マーカー、アポタンパク質、ウイルス、自己抗体、凝固・線溶因子、ホルモン、血中薬物、HLA抗原、環境ホルモン、核酸などが好適に挙げられる。
【0026】
上記血漿タンパク質としては、たとえば、免疫グロブリン(IgG,IgA,IgM,IgD,IgE)、補体成分(C3,C4,C5,C1q)、CRP、α1−アンチトリプシン、α1−マイクログロブリン、β2−マイクログロブリン、ハプトグロビン、トランスフェリン、セルロプラスミン、フェリチンなどが挙げられる。
【0027】
上記腫瘍マーカーとしては、たとえば、α−フェトプロテイン(AFP)、癌胎児性抗原(CEA)、CA19−9、CA125、CA15−3、SCC抗原、前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)、PIVKA−II、γ−セミノプロテイン、TPA、エラスターゼI、神経特異エノラーゼ(NSE)、免疫抑制酸性タンパク質(IAP)などが挙げられる。
【0028】
上記アポタンパク質としては、たとえば、アポA−I、アポA−II、アポB、アポC−II、アポC−III、アポEなどが挙げられる。
【0029】
上記ウイルスとしては、たとえば、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HBC)、HTLV−I、HIVなどが挙げられる。また、ウイルス以外の感染症としては、ASO、トキソプラズマ、マイコプラズマ、STDなどが挙げられ、これらの病原体、および生じたタンパク質も標的として挙げられる。
【0030】
上記自己抗体としては、たとえば、抗マイクロゾーム抗体、抗サイログロブリン抗体、抗核抗体、リュウマチ因子、抗ミトコンドリア抗体、ミエリン抗体などが挙げられる。
【0031】
上記凝固・線溶因子としては、たとえば、フィブリノゲン、フィブリン分解産物(FDP)、プラスミノゲン、α2−プラスミンインヒビター、アンチトロンビンIII、β−トロンボグロブリン、第VIII因子、プロテインC、プロテインSなどが挙げられる。
【0032】
上記ホルモンとしては、たとえば、下垂体ホルモン(LH、FSH、GH、ACTH、TSH、プロラクチン)、甲状腺ホルモン(T3、T4、サイログロブリン)、カルシトニン、副甲状腺ホルモン(PTH)、副腎皮質ホルモン(アルドステロン、コルチゾール)、性腺ホルモン(hCG、エストロゲン、テストステロン、hPL)、膵・消化管ホルモン(インスリン、C−ペプチド、グルカゴン、ガストリン)、その他(レニン、アンジオテンシンI,II、エンケファリン、エリスロポエチン)などが挙げられる。
【0033】
環境ホルモンは、外界に広く存在して生物の生活活動と共に体内に取り込まれてその生殖、発生、行動などを含む生理的な内分泌の諸現象に影響を及ぼす外因性内分泌撹乱化学物質である。上記環境ホルモンとしては、たとえば、ノニルフェノール、オクチルフェノール、ビスフェノールA、フタル酸ブチルベンジル、トリブチルスズ、PCB、ポリ塩化ジベンゾジオキシン、ポリ塩化ジベンゾフラン、ダイオキシン類、DDT、DDE、DDD、エンドスルファン、メトキシクロル、ヘプタクロル、トキサフェン、ディルドリン、リンデン、ジエチルスチベロール(DES)、エチニルエストラジオール(ピルの成分)、クメストロール、フォルモノネテイン、ゲニステインなどが挙げられる。
【0034】
上記血中薬物としては、たとえば、カルバマゼピン、プリミドン、バルプロ酸等の抗てんかん薬、ジゴキシン、キニジン、ジギトキシン、テオフィリン等の循環器疾患薬、ゲンタマイシン、カナマイシン、ストレプトマイシン等の抗生物質などが挙げられる。
【0035】
上記核酸としては、癌関連遺伝子、遺伝病に関連する遺伝子、ウイルス遺伝子〜細菌遺伝子および病気のリスクファクターと呼ばれる多型性を示す遺伝子などが挙げられる。
【0036】
癌関連遺伝子としては、たとえば、k−ras遺伝子、N−ras遺伝子、p53遺伝子、BRCA1遺伝子、BRCA2遺伝子、src遺伝子、ros遺伝子またはAPC遺伝子などが挙げられる。
【0037】
遺伝病に関連する遺伝子としては、たとえば、各種先天性代謝異常症、たとえばフェニールケトン尿症、アルカプトン尿症、シスチン尿症、ハンチントン舞踏病、Down症候群、Duchenne型筋ジストロフィー、血友病などの遺伝子が挙げられる。
【0038】
ウイルス〜細菌としては、たとえば、C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、HIVウイルス、マイコプラズマ、リケッチア、レンサ球菌、サルモネラ菌などが挙げられる。
【0039】
多型性を示す遺伝子とは、病気等の原因とは必ずしも直接は関係のない個体によって異なる塩基配列を持つ遺伝子、たとえば、PS1(プリセリニン1)遺伝子、PS2(プリセリニン2)遺伝子、APP(ベーターアミロイドプレカーサータンパク質)遺伝子、リポプロテイン遺伝子、HLA(Human Leukocyte Antigen)や血液型に関する遺伝子、あるいは高血圧、糖尿病等の発症に関係するとされている遺伝子などが挙げられる。
【0040】
これらの標的は、特定の被検体中に含まれる場合が多い。本発明に係る標的は、このように夾雑物を含んだ状態の被検体として使用してもよい。このような被検体としては、たとえば、細菌、ウイルス等の病原体、生体から分離された血液、唾液、組織病片等、あるいは糞尿等の排泄物が挙げられる。更に、出生前診断を行う場合は、羊水中に存在する胎児の細胞や、試験管内での分裂卵細胞の一部などであってもよい。また、これらの被検体は、直接、または必要に応じて遠心分離操作等により沈渣として濃縮した後、たとえば、酵素処理、熱処理、界面活性剤処理、超音波処理、これらの組合せ等による細胞破壊処理を予め施されていてもよい。
【0041】
(機能性物質)
本発明に係る機能性物質は標的に対し親和性を有する物質である。増幅されるべき機能性物質は、その内、その有するいずれかの置換基を脱離すれば、何らかの方法により増幅できる物質である。本発明により製造される機能性物質は、増幅されるべき機能性物質またはその分解物、あるいは、増幅されるべき機能性物質またはその分解物を含む物質を意味する。
【0042】
本発明に係るこれらの機能性物質は、このような条件を満たす物質であればどのようなものでもよいが、ヌクレオチド結合を含むものが、増幅が容易であり好ましい。より具体的には修飾ヌクレオチド配列(修飾基を有するヌクレオチド配列)を有する物質、たとえば修飾DNA配列または修飾RNA配列、を挙げることができる。この場合の修飾基のいずれかが、本発明に係る特定の置換基に該当する。ヌクレオチド配列のつながりの数については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。たとえば、10〜100量体が好ましく、10〜50量体がより好ましい。なお、本発明においてヌクレオチドはデオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドのいずれでもよい。
【0043】
標的に対する親和性については特に制限はなく、生物学的吸着、物理的吸着、電気的吸引、化学的吸着、化学的結合のいずれであってもよいが、選別のしやすさからは解離定数(Kd)が小さいものが好ましい。たとえばKdが10-9以下のものが好ましい。
【0044】
本発明に係る機能性物質の標的に対する親和性は、特定の一つの標的のみに親和性を示すもの、特定の構造を有する標的に特異的親和性を示すもの(たとえば、特定の塩基配列を有するタンパク質にのみ親和性を示すものや、特定の空間配置を持つタンパク質にのみ親和性を示すもの)というように、特異的親和性を有するものが好ましい。
【0045】
(特定の置換基)
機能性物質には、標的との親和性を高める、安定性を高める、合成を容易にする等の種々の理由から種々の置換基が導入される。
【0046】
本発明に係る特定の置換基は、機能性物質に含まれている置換基であって、その置換基を脱離した機能性物質の増幅が進行し得る置換基であればどのような置換基でも対象足り得る。機能性物質が修飾ヌクレオチド配列を含む場合の修飾基を例示することができる。この修飾基はヌクレオチド配列の全てのヌクレオチド単位に含まれている必要はなく、その一部に含まれていれば十分である。
【0047】
このような特定の置換基は、典型的には、その置換基が存在する場合には増幅が進行せず、その置換基が存在しない場合には増幅が進行するものを指すが、その置換基が存在する場合にも増幅が進行するものであっても差し支えない。増幅の進行を妨げるか否かを問わず、一律に特定の置換基を脱離し、その結果増幅が進行すれば、特定物質の構造を解析するという本発明の目的を達し得るからである。なお、特定の置換基を脱離した結果、その置換基のあった個所に別の種類の置換基が生じる場合もあるが、増幅を進行できる限り、このような別の種類の置換基が生じてもかまわない。
【0048】
このような特定の置換基については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、たとえば、天然または非天然のアミノ酸基、金属錯体基、蛍光色素基、酸化還元色素基、スピンラベル化が可能な基、炭素数1〜10のアルキル基、式(1)〜(10)で表される基を有するものなどが挙げられる。これらは、置換基で更に置換されていてもよい。これらは一種類使用しても複数種類使用してもよい。
【0049】
【化4】

上記天然または非天然のアミノ酸基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、たとえば、バリン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、アルギニン、グルタミン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、システイン、スレオニン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン、グリシン、セリンなどに由来する基が挙げられる。
【0050】
上記金属錯体基としては、金属イオンに配位子が配位した化合物に由来する基であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、たとえば、Ruビピリジル錯体、フェロセン錯体、ニッケルイミダゾール錯体などに由来する基が挙げられる。
【0051】
上記蛍光色素基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、たとえば、フルオレセイン系列、ローダミン系列、エオシン系列、NBD系列等の蛍光色素などに由来する基が挙げられる。
【0052】
上記酸化還元色素基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、たとえば、ロイコアニリン、ロイコアントシアニン、等のロイコ色素などに由来する基が挙げられる。
【0053】
上記スピンラベル化が可能な基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、たとえば、鉄N−(ジチオカルボキシ)サルコシン(sarcosine)、TEMPO(テトラメチルピペリジン)誘導体などに由来する基が挙げられる。
【0054】
上記炭素数1〜10のアルキル基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、たとえば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられる。
【0055】
なお、本明細書において、DNA配列やRNA配列を機能性物質やその候補とする場合には、その合成の際の副反応の防止や有機溶媒への溶解性を付与するため等の目的で置換基(保護基)が導入されることがしばしばある。この保護基と本発明に係る特定の置換基とは、別々の基であっても、同一の基であっても、いずれか一方が他方の一部をなしていてもよい。
【0056】
(機能性物質候補)
本発明に係る機能性物質候補には特に制限はなく、どのようなものを選択してもよいが、たとえば、目的として考えている機能性物質を合成できるであろうと考える原料組成から合成された物質のグループを挙げることができる。この場合、原料の一つとして特定の置換基を有する物質を使用すれば、特定の置換基を有する物質のグループを得ることができる。機能性物質候補の数には特に制限はない。何千、何万の機能性物質候補の中からたった一つの機能性物質を選別することもあり得る。
【0057】
その合成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。修飾ヌクレオチドを使用する場合には、たとえば、ジエステル法、トリエステル法、ホスファイト法、ホスホロアミダイト法、H−ホスホネート法、チオホスファイト法などにより2量体や3量体等のオリゴマーを合成し、これを重合する方法が挙げられる。これらの中でも、ホスホロアミダイト法が好適である。
【0058】
上記ホスホロアミダイト法は、一般的には、テトラゾールを促進剤としたヌクレオシドホスホロアミダイトとヌクレオシドとの縮合反応を鍵反応として用いる。この反応は、通常、糖部分の水酸基とヌクレオシド塩基部のアミノ基との両方に競合的に起こるが、所望のヌクレオチド合成のためには、糖部分の水酸基にのみ選択的に反応を起こさせる。したがって、アミノ基への副反応を防止するため、保護基で修飾する。
【0059】
上記オリゴマーを重合する方法には特に制限はなく、公知の方法の中から目的に応じて適宜選択することができ、たとえば、DNAシンセサイザー(DNA自動合成機)を用いる方法、予め作製しておいたオリゴヌクレオチドランダム配列に対しモノマーブロックを並べてアニーリングし、DNAリガーゼまたはRNAリガーゼを作用させて結合させる方法などが好適である。
【0060】
上記DNAシンセサイザー(DNA自動合成機)を用いる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、たとえば、図1に示すようなDNAシンセサイザー(DNA自動合成機)を用い、合成した修飾ヌクレオチド2量体を複数種混合したものを試薬とし、この試薬をコントローラーの制御に基づきノズル7により吸い上げて重合させることにより、ランダムであらゆる配列順序の修飾ヌクレオチド配列を有する機能性物質候補を作製する方法などが好ましい。この方法は、機能性物質候補を効率よく作製することができる点で有利である。
【0061】
(選別)
本発明に係る選別としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。修飾ヌクレオチド配列を含んでなる機能性物質の場合には、たとえば、アフィニティークロマトグラフィー、フィルター結合、液−液分割、ろ過、ゲルシフト、密度勾配遠心分離などの各種方法が挙げられる。これらは、1種単独で行ってもよく、2種以上行ってもよい。これらの中でも、アフィニティークロマトグラフィーが好ましい。選別される機能性物質は1種類ではなく複数種類であることもあり得る。
【0062】
アフィニティークロマトグラフィーは、特定の成分同士が結合し易い生物学的親和性を利用した分離・精製手段であり、具体的には、機能性物質が修飾ヌクレオチド配列を含んでなる場合には、標的を樹脂等のカラム充填材に固定化し、結合用緩衝液で平衡化してから、機能性物質候補を含む溶液をカラム中に流し込み、一定条件下に放置すると、標的と親和性を有する修飾ヌクレオチド配列がカラムに吸着し、結合用緩衝液で充分洗浄することにより、残留する修飾ヌクレオチド配列以外の成分を除去することができる。その後、上記標的を含む溶液あるいは純水をカラムに流すことにより、上記修飾ヌクレオチド配列を含む機能性物質を回収し、選別することができる。
【0063】
標的自体が未知で2種以上存在する場合(たとえば、臓器や血清など)には、標的を一次元〜三次元の空間配置を持つマトリックス上にマッピングして区画化して固定し、標的が固定され区画化されたマトリックスに対し、機能性物質候補を作用させ、標的と結合した機能性物質を選別してもよい。
【0064】
マトリックス上に標的を固定する方法については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、たとえば、標的がタンパク質である場合には、標的をポリアクリルアミド電気泳動(たとえば、SDS−PAGEなど)処理した後に膜状のマトリックスに転写するウエスタンブロット法、膜状のマトリックスに標的またはその希釈液を直接染み込ませるドットブロット法やスロットブロット法などが挙げられる。これらの中でも、細胞抽出液などの複雑な組成の溶液中に微量に含まれるタンパク質でも明瞭に検出可能な点で、ウエスタンブロット法が好ましい。ウエスタンブロット法は、電気泳動の優れた分離能と抗原抗体反応の高い特異性を組み合わせて、タンパク質混合物から特定のタンパク質を検出する手法であり、SDS−PAGE、等電点電気泳動、二次元電気泳動等の後、ゲルからタンパク質を電気的に膜状のマトリックスに移動・固定化させる方法である。膜状のマトリックスとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、タンパク質が結合し易い疎水性の高いニトロセルロース膜、疎水性に優れたPVDF(ポリビニリデンジフルオライド、Polyvinylidene difluoride)膜などが好適に挙げられる。
【0065】
上記選別工程の前に、合成された機能性物質候補を他の物質から分離する予備精製操作を加えてもよい。この予備精製操作には、標的に対し親和性を有する機能性物質およびその他の機能性物質候補に対し親和性を有し、他の物質には親和性を示さないような条件で、上記選別と同様の技術を適用することができる。
【0066】
また、上記選別工程の際、機能性物質の精製を行ってもよい。精製は、標的と機能性物質との解離定数をモニターしながら機能性物質を標的から遊離させることにより行うのが好ましい。この方法は、最小一回の処理で所望の解離定数を持つ機能性物質を効率よく選別することができる点で有利である。なお、解離定数は、標的に応じて適宜設定することができ、たとえば、サーフェスプラズモン共鳴を用いた測定機器により測定することができる。
【0067】
なお、選別工程においては、たとえば、解離定数の異なる2種以上の物質の相互作用を利用し、小さい解離定数に適応した洗浄操作を行って機能性物質を選別し、大きい解離定数に適応した洗浄操作を行って担体を再生させることもできる。標的が2種以上あっても、担体を再生可能とし、一つの担体で複数種の機能性物質を一括して効率よく選別することもできる。
【0068】
(増幅)
本発明に係る増幅は、特定の基を脱離したあとの機能性物質を増幅できるものであればどのような方法でもよく、公知の方法の中から適宜選択することができるが、機能性物質がヌクレオチド配列を含んでなる場合には、PCR法、LCR(Ligase chain Reaction)法、3SR(Self−sustained Sequence Replication)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法、RT−PCR法、ICAN法、LAMP法などが挙げられる。これらは、1種単独で行ってもよいし、2種以上行ってもよい。これらの中でもPCR法が好ましい。
【0069】
ここで、PCR法について簡単に説明する。PCR法は、DNA複製酵素によるDNA合成反応の試験管内での繰り返しにより、特定のオリゴヌクレオチド領域を数10万倍に増幅可能な方法である。PCR法においては、使用するプライマーの伸長反応は、4種のヌクレオチド三リン酸(デオキシアデノシン三リン酸、デオキシグアノシン三リン酸、デオキシシチジン三リン酸、およびチミジン三リン酸あるいはデオキシウリジン三リン酸(これらの混合物をdNTPということもある))を基質としてプライマーに取り込ませることにより行われる。
【0070】
この伸長反応を行う場合のDNA複製酵素としては、E.coliDNAポリメラーゼI、E.coliDNAポリメラーゼIのクレノウ断片、T4 DNAポリメラーゼ等の任意のDNAポリメラーゼ、Taq DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、Vent DNAポリメラーゼ等を用いることができる。
【0071】
(機能性物質の構造決定)
本発明に係る機能性物質の構造決定の方法については特に制限はなく、公知のどのような方法を採用してもよい。本発明に係る機能性物質の構造決定における「構造の決定」には原子配列等のどのような構造の決定を含めてもよいが、機能性物質がヌクレオチド配列を含んでなる場合の典型例は、このヌクレオチド配列の決定を意味する。
【0072】
ヌクレオチド配列の決定には、たとえば、遺伝子クローニングによる方法、チェーンターミネーター法、サンガー法、ジデオキシ法等によるDNAシーケンサー(DNA塩基配列自動決定装置)などを利用することができる。これらは、1種単独で行ってもよいし、2種以上行ってもよい。
【0073】
上記遺伝子クローニングでは、増幅したヌクレオチド配列を組み込んだ発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、この形質転換体を培養すること等により製造することができる。なお、上記発現ベクターとしては、たとえば、プラスミドベクター、ファージベクター、プラスミドとファージとのキメラベクターなどが挙げられる。また、上記宿主細胞としては、大腸菌、枯草菌等の原核微生物、酵母菌等の真核微生物、動物細胞などが挙げられる。
【0074】
(特定の置換基の脱離)
本発明に係る特定の置換基の脱離には特に制限はなく、公知のどのような方法を採用することもできる。シスジオールの過ヨウ素酸酸化による切断、シリル基のフッ素イオンによる切断、酸アルカリによる切断、酵素反応による切断または光反応による切断を例示することができる。
【0075】
図2の(1)に、シスジオールの過ヨウ素酸酸化による切断を、(2)にシリル基のフッ素イオンによる切断を、(3)に光反応による切断を例示する。いずれの場合も、切断の結果、デオキシ−5−置換ウリジンの置換基の一部がOHに置換される。
【0076】
本発明に係る「特定の置換基の脱離」には、このように、置換基の一部が代わる場合も含まれる。言い換えれば、本発明に係る「特定の置換基の脱離」が生じたか否かは、その後の増幅が可能か否かで判断することができる。
【0077】
なお、上記した保護基も、通常、機能物質の構造決定前に脱離を行う。この脱離には公知の方法を使用することができる。保護基の脱離は、機能性物質以外の物質の除去が容易になる場合が多いので、機能物質の選別前に行うことが多いが、場合によってはその後であってもよい。また、保護基の脱離と特定の置換基の脱離とが同一操作で行われてもよい。
【0078】
(機能性物質の製造)
以上の機能性物質の構造決定方法を利用すれば、その後、この機能性物質を容易に製造することができる。この製造段階に使用できる方法については特に制限はなく、公知のどのような方法を採用することもできる。たとえばヌクレオチド配列を含んでなる機能性物質の場合には、機能性物質候補について説明したのと同様の方法を利用することができる。この場合には、原料組成を選択することにより、機能性物質を収率よく製造することが可能である。
【0079】
以上のようにして、本発明により、標的に対し高い親和性を示す機能性物質の構造を容易に決定し、容易に製造することができる。そのままでは増幅することのできない機能性物質についても、本構造決定方法と製造法とを適用することが可能である。
【0080】
さらに、同時に複数の機能性物質を選別しその構造を決定することや、同時に複数の標的を使用して、同時に複数の機能性物質を選別し、その構造を決定することも可能である場合が多い。また、標的に夾雑物が含まれている場合でも、選別、構造決定を行うことができる場合も多い。
【0081】
本発明により、たとえば、標的の構造(たとえばタンパク質の配列構造)の解析やスクリーニング等を進展させ、この結果を、薬品、ドラッグデリバリー、バイオセンサー、遺伝子の発現量の制御、遺伝子異常による疾病の克服、遺伝子により翻訳されるタンパク質の機能解明、反応触媒の開発などに応用可能となる。
【実施例】
【0082】
次に本発明の実施例を詳述する。
【0083】
[実施例1]
(構造決定方法および製造方法の例)
本発明に係る構造決定方法および製造方法を図3を使用して例示する。図3の(1)は、本発明に係る機能性物質候補のグループを表す模式図である。機能性物質候補として修飾ヌクレオチド配列を使用している。
【0084】
修飾ヌクレオチド配列1は、また、ヌクレオチド固定配列部分2,3と修飾ヌクレオチド配列部分4とから成り立っており、ヌクレオチド固定配列部分2,3の塩基配列が判明しており、修飾ヌクレオチド配列部分4の塩基配列がランダムになっているものとする。
【0085】
この機能性物質候補のグループを図3の(2)に示す標的を担持したアフィニティーカラム5に通す。これにより、標的に対し親和性を有する機能性物質がアフィニティーカラムに捕捉される。その後、標的を含む溶液をアフィニティーカラムに通し、遊離した機能性物質6を回収する。これにより、本発明による選別がなされる。
【0086】
ついで、回収した機能性物質の修飾基を脱離する。たとえば、図2に示すような反応を利用する。その後、この修飾基を脱離した機能性物質を増幅し、増幅された機能性物質の構造を決定し、機能性物質を製造することができる。
【0087】
[実施例2]
(DNA増幅酵素により認識されない塩基を含む場合の増幅)
本実施例では、DNA配列ttatcaacaaaatactccaattgN50gaaagatcccaacgaaaagの配列をDNA自動合成機(アプライド391A)で合成した。
【0088】
具体的には、N50の(数字の50はヌクレオチド単位の数を表す)部分は、dA,dG,dC,dT,dG’およびdT’のアミダイトを使用し、(1)dA,dG,dC,dTの混合物、(2)dA,dG’,dC,dTの混合物および(3)dA,dG,dC,dT’の混合物を準備して合成した。これらの混合物を使用して得た機能性物質候補のグループを、以後、それぞれ、ランダムミックスI,II,IIIと表記する。
【0089】
なお、dA,dG,dC,dT,dG’,dT’のアミダイトの構造を図4−A〜Dに示す。図4−A〜D中、dAアミダイトは、アミダイト(図4−A)のBaseの位置に(41)の構造を有するものであり、dGアミダイトは、アミダイト(図4−A)のBaseの位置に(42)の構造を有するものであり、dCアミダイトは、アミダイト(図4−A)のBaseの位置に(43)の構造を有するものであり、dTアミダイトは、アミダイト(図4−A)のBaseの位置に(44)の構造を有するものであり、dG’アミダイトは、アミダイト(図4−A)のBaseの位置に(45)の構造を有するものであり、dT’アミダイトは、アミダイト(図4−A)のBaseの位置に(46)の構造を有するものである。
【0090】
アフィニティーレジンは、GLサイエンス社製のSNP(一塩基多型)の解析装置SNPsiを使用し、pCAATTGGAGTATTTTGTTGATAAの配列とTTATCAACAAAATACTCCAATTGAACCACTGCTTの配列とから、DNAリガーゼを用いて合成した。このアフィニティーレジンは、上記配列で結合できるDNA配列(本発明に係る機能性物質候補)を他の物質から分離することにより、ランダムミックスI〜IIIの予備精製を行うためのものである。その後、10nMのTris−HCl,pH=7.4,0.3MのNaClの組成の結合用緩衝液で洗浄した。
【0091】
ついで、上記ランダムミックスI,II,IIIのそれぞれから、濃アンモニア水で55℃下、8時間掛けて保護基を脱離した後、このアフィニティーレジンに上記ランダムミックスを通した。なお、本例において脱離される保護基を図4−A〜Dに斜線部で示した。
【0092】
ついで、昇温操作によりこのアフィニティーレジンから脱離したDNA配列を回収した。個々のランダムミックスI,II,IIIのDNA配列の濃度決定はUV吸収強度計を用いて行った。
【0093】
なお、本発明においては、ついで、特定の機能性物質のみを選択的に選別できるアフィニティーレジンを使用して選別を実施するが、本例では、簡便化のため省略した。
【0094】
次に、上記DNA分子が1反応ポット(20μL)中、10の4乗個になるように調整し、ダイナモQPCRKITと、プライマーとして、TTATCAACAAAATACTCCAATTGの配列を0.3μM、CTTTTCGTTGGGATCTTTCの配列を0.3μM使用し、PCRを行った。1サイクルの条件は、95℃×10秒間,57.5℃×20秒間,72℃×60秒間とした。その結果、標準条件アミダイトを用いたランダムミックスIから得た回収液でのみ30サイクル付近で蛍光の増大が観測された。この蛍光はダイナモQPCRKITに含まれるサイバーグリーン1に由来するものである。
【0095】
この結果は、ランダムミックスIから得た回収液のみから、増幅できる機能性物質が得られたことを示している。すなわち、ランダムミックスII,IIIについては、増幅が阻害された。
【0096】
つぎに、ランダムミックスIIから得た回収液について、Human O6−alkylguanine−DNA alkyltransferase(hAGT)を用いて修飾基(本発明に係る置換基)の脱離を行った。この生成物について上記条件でPCRを行った結果、30サイクル付近で蛍光の増大が観測された。なお、このとき脱離される置換基を図4−Dの式45に格子縞部で示した。
【0097】
さらに、m−クロロ過安息香酸を用いてランダムミックスIIIを酸化し、その後濃アンモニア水で置換基を脱離した生成物について上記条件でPCRを行った結果、30サイクル付近で蛍光の増大が観測された。
【0098】
この結果は、ランダムミックスII,IIIから得られた回収液では得られた機能性物質を増幅することができなかったが、その修飾基を脱離することにより、増幅可能になったことを示している。
【0099】
[実施例3]
(置換基の脱離)
dACGT”Tの配列を持つDNA配列を、dA,dC,dG,dT,dT”のアミダイトを用いて合成し、一部をフォスフォジエステラーゼ+アルカリフォスファターゼにより、モノマーまで分解し、HPLC分析により標品と比較した結果、アミノ基は生成しておらず、保護基が脱離されていないことを確認した。
【0100】
このDNA配列をm−クロロ過安息香酸を用いて酸化し、その後濃アンモニア水処理により、置換基(この場合は保護基も兼ねている)を脱離し、フォスフォジエステラーゼ+アルカリフォスファターゼにより、モノマーまで分解した結果、dA、dC、dG、5−プロパルギルアミノdU、dTになることをHPLCにより確認した。
【0101】
なお、図5にdT”のBaseの構造を示す。図5中、本発明に係る置換基を格子縞部で示した。図6は、5−プロパギルアミノdUのBaseの構造を示す。
【0102】
[実施例4]
(置換基が切断されたDNAのDNAポリメレース寛容性の確認)
dT”の置換基が切断された5−プロパルギルアミノdUを通常の保護条件(濃アンモニア水で、55℃下、8時間)で生成するdT’’’アミダイトを用い、DNA自動合成機を使用して、ttatcaacaaaatactccaattggcgatggccctgtccdT’’’ dT’’’adT’’’accagacaaccattacctgtccacacaatctgccctttcgaaagatcccaacgaaaagの配列を合成した。
【0103】
濃アンモニア水で、55℃下、8時間掛けて保護基を脱離した後、ゲル電気泳動で精製(すなわち選別)した。この条件で脱保護が行われることは、dT”同様のオリゴマーを作製して別途確認した。
【0104】
なお、この場合の保護基は本発明に係る置換基の役割も有している。従って置換基の脱離を別途行わなかった。
【0105】
この脱保護したDNA配列を用い、実施例1と同様にして、増幅を行った結果、30サイクル付近で蛍光の増大が観測された。またPCRプロダクトの配列を決定したところdT’’’から修飾基を脱離した塩基の相補塩基としてAが選ばれることが分った。すなわち、dT’’’の修飾基を脱離したDNA配列はPCRで増幅できることが確認された。
【0106】
なお、図7にdT’’’のBaseの構造を示す。図7中、本発明に係る置換基を格子縞部で示した。
【0107】
[実施例5]
(置換基の脱離)
dACGT””Tの配列を持つDNA配列を、dA,dC,dG,dT,dT””のアミダイトを用いて合成し、一部をフォスフォジエステラーゼ+アルカリフォスファターゼにより、モノマーまで分解し、HPLC分析により標品と比較した結果、アミノ基は生成しておらず、本発明に係る置換基が脱離されていないことを確認した。図8にdT””のBaseの構造を示す。
【0108】
このDNA配列をtBu4NF処理することにより、置換基を脱離し、フォスフォジエステラーゼ+アルカリフォスファターゼにより、モノマーまで分解した結果、dA、dC、dG、5−プロパルギルアミノdU、dTになることをHPLCにより確認した。
【0109】
[実施例6]
(置換基の脱離)
dACGT””’Tの配列を持つDNA配列を、dA,dC,dG,dT,dT””’のアミダイトを用いて合成し、一部をフォスフォジエステラーゼ+アルカリフォスファターゼにより、モノマーまで分解し、HPLC分析により標品と比較した結果、アミノ基は生成しておらず、本発明に係る置換基が脱離されていないことを確認した。図9にdT””のBaseの構造を示す。
【0110】
このDNA配列を365nm光照射することにより、置換基を脱離し、フォスフォジエステラーゼ+アルカリフォスファターゼにより、モノマーまで分解した結果、dA、dC、dG、5−プロパルギルアミノdU、dTになることをHPLCにより確認した。
【0111】
なお、上記に開示した内容から、下記の付記に示した発明が導き出せる。
【0112】
(付記1)
標的に対し親和性を有する物質(機能性物質)の候補を合成し、
当該機能性物質候補の中から、標的に対し親和性を有する機能性物質を選別し、
当該選別された機能性物質から特定の置換基を脱離し、
当該特定の置換基を脱離した機能性物質を増幅し、
当該増幅された機能性物質の構造を決定する、
機能性物質の構造決定方法。
【0113】
(付記2)
前記特定の置換基が、置換基を有していてもよい、天然または非天然のアミノ酸基、金属錯体基、蛍光色素基、酸化還元色素基、スピンラベル化が可能な基、炭素数1〜10のアルキル基および、式(1)〜(10)で表される基からなる群から選ばれた少なくとも一つの基を有する、付記1に記載の機能性物質の構造決定方法。
【0114】
【化5】

(付記3)
シスジオールの過ヨウ素酸酸化による切断、シリル基のフッ素イオンによる切断、酸アルカリによる切断、酵素反応による切断または光反応による切断により、前記特定の置換基を機能性物質から脱離する、付記1または2に記載の機能性物質の構造決定方法。
【0115】
(付記4)
前記機能性物質が、修飾ヌクレオチド配列を含んでなる、付記1〜3のいずれかに記載の機能性物質の構造決定方法。
【0116】
(付記5)
前記機能性物質が、修飾DNA配列または修飾RNA配列である、付記1〜4のいずれかに記載の機能性物質の構造決定方法。
【0117】
(付記6)
前記標的が、タンパク質、リポタンパク質、糖タンパク質、ポリペプチド、脂質、多糖類、リポ多糖類、核酸、環境ホルモン、薬物、これらの複合体およびこれらの分解物からなる群から選択される少なくとも一つの物質である、付記1〜5のいずれかに記載の機能性物質の構造決定方法。
【0118】
(付記7)
標的に対し親和性を有する物質(機能性物質)の候補を合成し、
当該機能性物質候補の中から、標的に対し親和性を有する機能性物質を選別し、
当該選別された機能性物質から特定の置換基を脱離し、
当該特定の置換基を脱離した機能性物質を増幅し、
当該増幅された機能性物質の構造を決定し、
当該構造に基づいて、機能性物質を製造する
機能性物質の製造方法。
【0119】
(付記8)
前記特定の置換基が、置換基を有していてもよい、天然または非天然のアミノ酸基、金属錯体基、蛍光色素基、酸化還元色素基、スピンラベル化が可能な基、炭素数1〜10のアルキル基および、式(1)〜(10)で表される基からなる群から選ばれた少なくとも一つの基を有する、付記7に記載の機能性物質の製造方法。
【0120】
【化6】

(付記9)
シスジオールの過ヨウ素酸酸化による切断、シリル基のフッ素イオンによる切断、酸アルカリによる切断、酵素反応による切断または光反応による切断により、前記特定の置換基を機能性物質から脱離する、付記7または8に記載の機能性物質の製造方法。
【0121】
(付記10)
前記機能性物質が、修飾ヌクレオチド配列を含んでなる、付記7〜9のいずれかに記載の機能性物質の製造方法。
【0122】
(付記11)
前記機能性物質が、修飾DNA配列または修飾RNA配列である、付記7〜10のいずれかに記載の機能性物質の製造方法。
【0123】
(付記12)
前記標的が、タンパク質、リポタンパク質、糖タンパク質、ポリペプチド、脂質、多糖類、リポ多糖類、核酸、環境ホルモン、薬物、これらの複合体およびこれらの分解物からなる群から選択される少なくとも一つの物質である、付記7〜11のいずれかに記載の機能性物質の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】DNAシンセサイザーの模式図である。
【図2】シスジオールの過ヨウ素酸酸化による切断と、シリル基のフッ素イオンによる切断と、光反応による切断の反応の例を示す図である。
【図3】本発明に係る構造決定方法および製造方法を例示する図である。
【図4−A】アミダイトの構造を示した図である。
【図4−B】dAおよびdGのアミダイトのBaseの構造を示した図である。
【図4−C】dCおよびdTのアミダイトのBaseの構造を示した図である。
【図4−D】dG’およびdT’のアミダイトのBaseの構造を示した図である。
【図5】dT”のBaseの構造を示した図である。
【図6】5−プロパギルアミノdUのBaseの構造を示した図である。
【図7】dT’’’のBaseの構造を示した図である。
【図8】dT””のBaseの構造を示した図である。
【図9】dT””’のBaseの構造を示した図である。
【符号の説明】
【0125】
1 修飾ヌクレオチド配列
2 ヌクレオチド固定配列部分
3 ヌクレオチド固定配列部分
4 修飾ヌクレオチド配列部分
5 アフィニティーカラム
6 遊離した機能性物質
7 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的に対し親和性を有する物質(機能性物質)の候補を合成し、
当該機能性物質候補の中から、標的に対し親和性を有する機能性物質を選別し、
当該選別された機能性物質から特定の置換基を脱離し、
当該特定の置換基を脱離した機能性物質を増幅し、
当該増幅された機能性物質の構造を決定する、
機能性物質の構造決定方法。
【請求項2】
前記特定の置換基が、置換基を有していてもよい、天然または非天然のアミノ酸基、金属錯体基、蛍光色素基、酸化還元色素基、スピンラベル化が可能な基、炭素数1〜10のアルキル基および、式(1)〜(10)で表される基からなる群から選ばれた少なくとも一つの基を有する、請求項1に記載の機能性物質の構造決定方法。
【化1】

【請求項3】
シスジオールの過ヨウ素酸酸化による切断、シリル基のフッ素イオンによる切断、酸アルカリによる切断、酵素反応による切断または光反応による切断により、前記特定の置換基を機能性物質から脱離する、請求項1または2に記載の機能性物質の構造決定方法。
【請求項4】
前記機能性物質が、修飾ヌクレオチド配列を含んでなる、請求項1〜3のいずれかに記載の機能性物質の構造決定方法。
【請求項5】
標的に対し親和性を有する物質(機能性物質)の候補を合成し、
当該機能性物質候補の中から、標的に対し親和性を有する機能性物質を選別し、
当該選別された機能性物質から特定の置換基を脱離し、
当該特定の置換基を脱離した機能性物質を増幅し、
当該増幅された機能性物質の構造を決定し、
当該構造に基づいて、機能性物質を製造する
機能性物質の製造方法。
【請求項6】
前記特定の置換基が、置換基を有していてもよい、天然または非天然のアミノ酸基、金属錯体基、蛍光色素基、酸化還元色素基、スピンラベル化が可能な基、炭素数1〜10のアルキル基および、式(1)〜(10)で表される基からなる群から選ばれた少なくとも一つの基を有する、請求項5に記載の機能性物質の製造方法。
【化2】

【請求項7】
シスジオールの過ヨウ素酸酸化による切断、シリル基のフッ素イオンによる切断、酸アルカリによる切断、酵素反応による切断または光反応による切断により、前記特定の置換基を機能性物質から脱離する、請求項5または6に記載の機能性物質の製造方法。
【請求項8】
前記機能性物質が、修飾ヌクレオチド配列を含んでなる、請求項5〜7のいずれかに記載の機能性物質の製造方法。
【請求項9】
前記機能性物質が、修飾DNA配列または修飾RNA配列である、請求項5〜8のいずれかに記載の機能性物質の製造方法。
【請求項10】
前記標的が、タンパク質、リポタンパク質、糖タンパク質、ポリペプチド、脂質、多糖類、リポ多糖類、核酸、環境ホルモン、薬物、これらの複合体およびこれらの分解物からなる群から選択される少なくとも一つの物質である、請求項5〜9のいずれかに記載の機能性物質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−A】
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【図4−B】
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【図4−C】
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【図4−D】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−217882(P2006−217882A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−35875(P2005−35875)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】