説明

機能物質分散体の製造方法

【課題】小粒径の分散体の生成濃度を高くし、使用する溶媒量を減らして製造コストを低減できる機能物質分散体の製造方法を提供する。
【解決手段】多環系化合物からなる機能物質の分散体の製造方法であって、多環系化合物に、カルボン酸エステル基、カルボキシル基及び金属カルボキシル基から選ばれた少なくとも1種の官能基が導入された多環系化合物誘導体を用意する工程、前記多環系化合物誘導体が有機溶媒に溶解している第1の溶液を用意する工程、前記多環系化合物誘導体に対し貧溶媒からなる第2の溶液を用意する工程、第1および第2の溶液を分散剤の存在下で混合して多環系化合物誘導体を析出させると共に該多環系化合物誘導体の分散体を得る工程、および前記多環系化合物誘導体の分散体に熱処理、酸処理または塩基処理を施して多環系化合物誘導体の官能基を脱離させて多環系化合物を得る工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種機能物質材料として有用な機能物質分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機能性物質を含有する水性分散材料には、従来から機能性材料として、除草剤、殺虫剤等の農薬、抗がん剤、抗アレルギー剤、消炎剤等の医薬、また着色剤を有するインク、トナー等の色材が良く知られている。近年、デジタル印刷技術は非常な勢いで進歩している。このデジタル印刷技術は、電子写真技術、インクジェット技術と言われるものがその代表例であるが、近年オフィス、家庭等における画像形成技術としてその存在感をますます高めてきている。
【0003】
インクジェット技術はその中でも直接記録方法として、コンパクト、低消費電力という大きな特徴がある。また、ノズルの微細化等により急速に高画質化が進んでいる。インクジェット技術の一例は、インクタンクから供給されたインクをノズル中のヒーターで加熱することで蒸発発泡し、インクを吐出させて記録媒体に画像を形成させるという方法である。他の例はピエゾ素子を振動させることでノズルからインクを吐出させる方法である。
【0004】
これらの方法に使用されるインクは通常染料水溶液が用いられるため、色の重ね合わせ時ににじみが生じたり、記録媒体上の記録箇所に紙の繊維方向にフェザリングと言われる現象が現れたりする場合があった。これらを改善するために顔料分散インクを使用することが、特許文献1に開示されている。
【0005】
ところが顔料分散インクは染料インクと比較して発色が劣る場合が多い。それは、顔料粒子による光散乱や光反射が生じるため、一般に顔料インクにより形成された画像は染料インクによる画像と比較して発色性が低いという傾向がある。また、粗大顔料粒子はインクジェットヘッドのノズル詰まりの要因となる。これら顔料インクの課題を改善する方法のひとつとして顔料粒子を微細化する試みがなされている。100nm以下に微細化された顔料は、光散乱の影響が小さく、かつ比表面積が増大するため、発色性の改善が期待されている。
【0006】
一般的に顔料分散インクは、通常水不溶性の有機顔料を水性媒体に分散して得られるが、顔料を分散剤を含む水性媒体に添加後、硬質ビーズを使用し、サンドミル、ボールミルなどの分散機によって微細化する工程を経る。そこで、いかに微細かつ安定な顔料分散物を得るかが大きな課題になっている。特許文献2には、ビーズを用い、高速ミル分散により、粒径100nm以下の有機顔料粒子分散物を得る方法が開示されている。この手法によれば、確かに微細な分散物が得られるが、分散に多大なるエネルギーを要し、煩雑な分散液とビーズの分離工程も必要である。
【0007】
一方、顔料を一度溶解させた後に再び析出させて顔料の微粒子を作るという方法が提案されている。特許文献3では硫酸を用いて一度有機顔料を溶解させるアシッドペースティング法による微粒子化が提案されているが、100ナノメートル以下の顔料を得るには至っていない。また、特許文献4、特許文献5には塩基存在下の非プロトン性極性溶剤に有機顔料を溶解した後、酸で中和して微細な顔料粒子を得る方法が記載されている。しかし、顔料の微細化と分散安定化処理を同時に行っていないため、始め微細であった顔料粒子も分散時には既に凝集を起こしており、実質ナノメートルオーダーの顔料分散体を得ることは必ずしも容易ではない。特許文献6、特許文献7、特許文献8ではアルカリ存在下で非プロトン性極性溶剤に有機顔料と界面活性剤や樹脂などの分散剤を一緒に溶解させた後、酸で中和して顔料を析出させて微細な顔料粒子を得ている。
【0008】
しかしながら、これらの方法は溶解性の乏しい顔料を溶解しているため、顔料を溶解するのに必要な溶媒量が多くなり高濃度で分散体を生成するのは必ずしも容易ではない。例えば、特許文献7の第1実施例においては顔料30部に対してジメチルスルホキシドを300部使用している。また、多量の有機溶媒を使用することはコスト高につながり、また廃液の処理費用もかかってしまう恐れがある。また、分散体生成後に溶媒の減圧留去や限外ろ過等により濃縮をすることは可能ではあるが、高濃度の分散体にしていくには多大な労力と時間を要すため、なお多くの改善が望まれている。
【特許文献1】米国特許第5085698号明細書
【特許文献2】特開平9−176543号公報
【特許文献3】特開平9−221616号公報
【特許文献4】特公平4−29707号公報
【特許文献5】特公平6−4476号公報
【特許文献6】特公平5−27664公報
【特許文献7】特公平6−96679公報
【特許文献8】特開平11−130974公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、この様な背景技術を鑑みてなされたものであり、小粒径の分散体の生成濃度を高くし、製造工程において使用する溶解に要する溶媒量を減らして製造コストを低減できる機能物質分散体の製造方法を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、小粒径分散した色材として有用な顔料分散体を生成することができるため、高発色な顔料分散体を得ることができる機能物質分散体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の課題を解決するための多環系化合物からなる機能物質の分散体の第一の製造方法は、多環系化合物からなる機能物質の分散体の製造方法であって、多環系化合物に、カルボン酸エステル基、カルボキシル基および金属カルボキシル基から選ばれた少なくとも1種の官能基が導入された多環系化合物誘導体を用意する工程、前記多環系化合物誘導体が有機溶媒に溶解している第1の溶液を用意する工程、前記多環系化合物誘導体に対し貧溶媒からなる第2の溶液を用意する工程、前記第1および第2の溶液を分散剤の存在下で混合して前記多環系化合物誘導体を析出させると共に該多環系化合物誘導体の分散体を得る工程、および前記多環系化合物誘導体の分散体に熱処理、酸処理または塩基処理を施して前記多環系化合物誘導体の官能基を脱離させて多環系化合物を得る工程を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の課題を解決するための多環系化合物からなる機能物質の分散体の第二の製造方法は、多環系化合物からなる機能物質の分散体の製造方法であって、多環系化合物に、カルボン酸エステル基、カルボキシル基および金属カルボキシル基から選ばれた少なくとも1種の官能基が導入された多環系化合物誘導体を用意する工程、前記多環系化合物誘導体が有機溶媒に溶解している第1の溶液を用意する工程、前記多環系化合物誘導体に対し貧溶媒からなる第2の溶液を用意する工程、前記第1および第2の溶液を分散剤の存在下で混合しながら、熱処理、酸処理または塩基処理を施して、前記多環系化合物誘導体を析出させて分散体とすると共に前記多環系化合物誘導体の官能基を脱離させて多環系化合物を得る工程を有することを特徴とする。
【0013】
前記第1および第2の溶液の少なくとも一方に分散剤が含まれていることが好ましい。
前記機能物質分散体は、内側に多環系化合物誘導体が位置し、その外側を前記官能基が脱離した多環系化合物が被覆している多環系化合物からなるのが好ましい。
【0014】
前記多環系化合物がアミノ基を有することが好ましい。
前記多環系化合物誘導体は、アミノ基を有する多環系化合物のアミノ基の窒素原子にカルボン酸エステル基、カルボキシル基または金属カルボキシル基が導入されていることが好ましい。
【0015】
前記多環系化合物は顔料であるが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、小粒径の分散体の生成濃度を高くし、製造工程において使用する溶解に要する溶媒量を減らして製造コストを低減できる機能物質分散体の製造方法を提供できる。
また、本発明は、小粒径分散した色材として有用な顔料分散体を生成することができるため、高発色な顔料分散体を得ることができる機能物質分散体の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の機能物質分散体の製造方法は、多環系化合物に、カルボン酸エステル基、カルボキシル基および金属カルボキシル基から選ばれた少なくとも1種の官能基が導入された多環系化合物誘導体を用意する工程、前記多環系化合物誘導体が有機溶媒に溶解している、分散剤が含まれていてもよい第1の溶液を用意する工程、前記多環系化合物誘導体に対し貧溶媒からなる、分散剤が含まれていてもよい第2の溶液を用意する工程、前記第1および第2の溶液のいずれか一方に分散剤が含まれている第1および第2の溶液を混合して前記多環系化合物誘導体を析出させると共に該多環系化合物誘導体の分散体を得る工程、および前記多環系化合物誘導体の分散体に、還元処理、水素添加処理、熱処理、酸処理または塩基処理を施して前記多環系化合物誘導体の官能基を脱離させて多環系化合物を得る工程を有することを特徴とする。
【0018】
まず、最初の工程は、多環系化合物に、カルボン酸エステル基、カルボキシル基および金属カルボキシル基から選ばれた少なくとも1種の官能基が導入された多環系化合物誘導体を用意する。
【0019】
下記の一般式(1)に多環系化合物にカルボン酸エステル基をが導入された多環系化合物誘導体、一般式(2)に多環系化合物にカルボキシル基をが導入された多環系化合物誘導体、および一般式(3)に多環系化合物に金属カルボキシル基をが導入された多環系化合物誘導体を示す。
【0020】
【化1】

【0021】
上記の一般式(1)から(3)において、R1は多環系化合物分子を表す。R2は炭素数1から18までの直鎖状、分岐状または環状の飽和もしくは不飽和のアルキル基、脂肪族基または芳香族基を表す。M+はナトリウムやカリウム等の金属カチオンを表す。
【0022】
多環系化合物に官能基を導入することによって、導入前の多環系化合物よりも溶媒に対する溶解性が高くなりやすくなる。これは多環系化合物の分子内にアミノ基とカルボニル基を有する化合物を例に挙げると、アミノ基上の水素がこれら官能基と置き換わることによって分子間のアミノ基上の水素とカルボニル酸素との間に生じていた水素結合が阻害される。また、官能基の嵩高さによる立体障害によって分子間に働くπ電子間でのスタッキングが阻害されることによって凝集性は低下し溶媒への溶解性が高くなると推定される。したがって高濃度に多環系化合物誘導体が溶解した溶液を調製することができる。
【0023】
また、これらの方法で溶解し再び沈殿等で析出すると、析出した多環系化合物誘導体の一次粒径は小さくなる。さらに、凝集性が低下していることにより、分散剤共存下での沈殿等による析出においては一次粒子が凝集し二次粒子へと成長し、粗大な二次粒子になる前の二次粒子径の小さな状態での分散が容易になると推定される。
【0024】
本発明で使用する多環系化合物の種類は特に限定されず、公知の多環系化合物を用いることができる。例示すると、アントラセン、フェナントレン、ピレン、クリセン、ぺリレン、コロネン、ルブレン、キナクリドン、クオーターフェニルなどのオリゴフェニレン系化合物、ナフタレン、フェナスレン、ピレン、フタロシアニン化合物、ジスアゾ化合物、ポリフィリン系化合物、ベンゾオキサゾール系化合物、クマリン系化合物、ジフェニルキノン系化合物等が挙げられるがこれらに限定するものではない。
【0025】
また本発明においては機能物質として、好ましくは色材が用いられる。本発明例においては色材としては染料と顔料のどちらでも使用可能である。顔料として次のものが例として挙げられる。
【0026】
本発明で使用する顔料の種類は特に限定されず、公知の顔料を用いることができる。例示すると、無金属フタロシアニン、銅フタロシアニン、ハロゲン化銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料;不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料などのアゾ系顔料;キナクリドン系顔料;イソインドリノン系顔料;インダンスロン系顔料;ジケトピロロピロール系顔料;ジオキサジン系顔料;ペリレン系顔料;ペリノン系顔料;アントラキノン系顔料等が挙げられるが、使用可能な顔料はこれらに限定されるわけではない。本発明のために、新規に合成した顔料を用いてもよい。
【0027】
上記顔料としては、市販されている顔料を用いても良く、シアン、マゼンタ、イエローにおいて、市販されている顔料を以下に例示する。
シアン色の顔料としては、C.I.Pigment Blue−1、C.I.Pigment Blue−2、C.I.Pigment Blue−3、C.I.Pigment Blue−15、C.I.Pigment Blue−15:2、C.I.Pigment Blue−15:3、C.I.Pigment Blue−15:4、C.I.Pigment Blue−16、C.I.Pigment Blue−22、C.I.Pigment Blue−60等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
マゼンタ色の顔料としては、C.I.Pigment Red−5、C.I.Pigment Red−7、C.I.Pigment Red−12、C.I.Pigment Red−48、C.I.Pigment Red−48:1、C.I.Pigment Red−57、C.I.Pigment Red−112、C.I.Pigment Red−122、C.I.Pigment Red−123、C.I.Pigment Red−146、C.I.Pigment Red−168、C.I.Pigment Red−184、C.I.Pigment Red−202、C.I.Pigment Red−207、C.I.Pigment Red−254等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
黄色の顔料としては、C.I.Pigment Yellow−12、C.I.Pigment Yellow−13、C.I.Pigment Yellow−14、C.I.Pigment Yellow−16、C.I.Pigment Yellow−17、C.I.Pigment Yellow−74、C.I.Pigment Yellow−83、C.I.Pigment Yellow−93、C.I.Pigment Yellow−95、C.I.Pigment Yellow−97、C.I.Pigment Yellow−98、C.I.Pigment Yellow−114、C.I.Pigment Yellow−128、C.I.Pigment Yellow−129、C.I.Pigment Yellow−151、C.I.Pigment Yellow−154、C.I.Pigment Yellow−180等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
本発明の多環系化合物はアミノ基を有することが好ましい。アミノ基を有する多環系化合物は、ペプチド合成において一般的に用いられる官能基(保護基)を導入する手法にて容易に官能基の導入を行なうことができる。アミノ基としては第一級アミノ基または第二級アミノ基であることが好ましいが、容易に官能基変換が行なえる官能基を有していれば第三級アミノ基を用いても良い。
【0031】
本発明の機能物質分散体の製造方法において使用できる官能基としてカルボン酸エステル基、カルボキシル基または金属カルボキシル基が使用できる。これらの官能基は酸処理、塩基処理、熱処理や接触還元等の処理にて容易に脱離させることが可能である。
【0032】
カルボン酸エステル基の種類は特に限定されず、公知のカルボン酸エステル基を用いることができる。例示すると、ベンジルオキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、9−フルオレニルメトキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、1,1−ジオキソベンゾ[b]チオフェン−2−イルメトキシカルボニル基、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基、2−ニトロフェニルスルフェニル基、3−ニトロ−2−ピリジンスルフェニル基等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0033】
これら官能基は容易に多環系化合物のアミノ基に導入することができる。また、金属カルボキシル基としては−COO-Na+、−COO-+等を用いることができる。これら金属カルボキシル基はカルボキシル基をアルカリ処理して得ることが可能である。
【0034】
本発明の機能物質分散体においては多環系化合物誘導体を有機溶媒に溶解させ第1の溶液を得る。本発明では少なくとも第1および第2の溶液のどちらか一方に分散剤が含まれる。また、第1および第2の溶液の両方に分散剤を含んでもよい。
【0035】
分散剤としては、第1の溶液に溶解するものを用いる。分散剤は第2の溶液に対して溶解性であっても非溶解性であってもよい。分散剤として、親水性疎水性両部を持つ樹脂あるいは界面活性剤を使用することが可能である。親水性疎水性両部を持つ樹脂としては、例えば、親水性モノマーと疎水性モノマーの共重合体が挙げられる。
【0036】
親水性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、または前記カルボン酸モノエステル類、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルアルコール、アクリルアミド、メタクリロキシエチルホスフェート等が挙げられる。疎水性モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン誘導体、ビニルシクロヘキサン、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類等が挙げられる。共重合体は、ランダム、ブロック、およびグラフト共重合体等の様々な構成のものが使用できる。もちろん、親水性、疎水性モノマーとも、前記に示したものに限定されない。
【0037】
界面活性剤としては、アニオン性、非イオン性、カチオン性、両イオン性活性剤を用いることができる。
アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルジアリールエーテルジスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸塩、ナフタレンスルホン酸フォルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩、グリセロールボレイト脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0038】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、フッ素系、シリコン系等が挙げられる。
【0039】
カチオン性活性剤としては、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルイミダゾリウム塩等が挙げられる。
両イオン性界面活性剤としては、アルキルベタイン、アルキルアミンオキサイド、ホスファジルコリン等が挙げられる。
【0040】
なお、界面活性剤についても同様、前記に限定されるものではない。
本発明で使用する多環系化合物誘導体を溶解する有機溶媒としては、多環系化合物誘導体を溶解させるものであればいかなるものでも使用可能である。有機溶媒は、多環系化合物誘導体に対し貧溶媒である第2の溶液に対する溶解度が5質量%以上であるものが好ましく用いられ、さらには第2の溶液に対して自由に混合するものが好ましい。第2の溶液に対する溶解度が5質量%より小さい有機溶媒を用いて顔料を可溶化した場合は、第2の溶液と混合する際に有機顔料が析出しにくく、粗大な粒子になり易い点で不利である。また、得られる顔料分散体の分散安定性に対して悪影響を及ぼす傾向があるという点でも不利である。
【0041】
有機溶媒の一例として、ジメチルスルホキシド、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、ジオキサン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミド、ヘキサメチルホスホロトリアミド、ピリジン、プロピオニトリル、ブタノン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジアセテート、γ−ブチロラクトン等が好ましい溶剤として挙げられ、中でもジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、アセトンまたはアセトニトリルが好ましい。また、これらは1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。
【0042】
また、多環系化合物誘導体の溶解性を増すためにアルカリや酸を添加しても良い。アルカリの一例として、有機溶媒中で有機顔料を可溶化するものであればいかなるものでも使用可能である。特に、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属のアルコキシド、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属のアルコキシド及び有機強塩基が、有機顔料の可溶化能力が高いことから好ましい。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、カリウム−tert−ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等の第4級アンモニウム化合物、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン、1,8−ジアザビシクロ[4,3,0]−7−ノネン、グアニジンなどを使用することが出来るがこれらに限定するものではない。また、これらのアルカリは、1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。
【0043】
酸としては、酸単独または有機溶媒中で多環系化合物誘導体を可溶化するものであればいかなるものでも使用可能であり、有機プロトン酸、無機プロトン酸を使用することが可能である。
【0044】
有機プロトン酸の一例として、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸等のアルキルスルホン酸;これらがハロゲンで置換されたトリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル等のハロゲン化アルキルスルホン酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸等のアルキルカルボン酸;これらがハロゲンで置換されたトリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、クロロカプロン酸、ブロモカプロン酸、クロロウンデカン酸等のハロゲン化アルキルカルボン酸;安息香酸、テトラフルオロ安息香酸等の芳香族カルボン酸;ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、クロロベンゼンスルホン酸等の芳香族スルホン酸を好ましく利用することができる。
【0045】
無機酸としては、硫酸、硝酸、リン酸、ポリリン酸、塩化水素酸、過塩素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、クロロスルホン酸が使用することができる。
また、これらの酸は、1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。
【0046】
酸もしくはアルカリとを有機溶媒を混合して用いる際に、完全に溶解させるために、若干の水や低級アルコールおよびグリセリンなどの酸に対して高い溶解度をもつ溶剤を、有機溶媒に添加することが出来る。これにより酸もしくはアルカリの溶解度が低い有機溶媒であっても多環系化合物誘導体の溶解が容易になる。
【0047】
本発明の多環系化合物誘導体に対し貧溶媒である第2の溶液として一例を挙げると、水、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロビレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の一価アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールエーテル類、N−メチル−2−ピロリドン、置換ピロリドン、トリエタノールアミン等の含窒素溶媒類、酢酸ブチル、セロソルブアセテートなどのエステル類、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタンなどの炭化水素類を用いることもできる。
【0048】
水もpHに関しても全ての範囲で使用可能であるが、好ましくはpHは1から14の間である。また、これらの第2の溶液は1種類単独でまたは2種類以上の混合物として用いてもよい。
【0049】
さらに沈殿反応速度や得られる分散体の分散安定性を増すためpH調製に、上記貧溶媒中に酸やアルカリを添加して用いてもよい。
本発明において第1および第2の溶液を混合し前記誘導体を析出させると共に、該誘導体の分散体を得る。第1の溶液に溶解した多環系化合物誘導体は貧溶媒である第2の溶液と混合されることによって析出する。その際に共に溶解させていた分散剤により析出した多環系化合物誘導体の粒子は速やかに分散剤にて分散される。
【0050】
混合方法としては分散体のサイズ均一性の高いナノメートルオーダーの分散体を得るためには、第1の溶液と第2の溶液の混合を可能な限り速やかに行うことが好ましい。超音波振動子やフルゾーン攪拌羽、内部循環型攪拌装置、外部循環型攪拌装置、流量およびイオン濃度制御装置等の従来公知の攪拌、混合、分散、昌析に使用される装置をいずれをも混合様式として適用することができる。また、連続して流れる第2の溶液に第1の溶液を混合してもよい。第1の溶液の第2の溶液への投入法としては、従来公知の液体注入法をいずれも利用できる。例えば、シリンジやニードル、チューブなどのノズルから噴射流として第2の溶液中、もしくは第2の溶液上から投入するのが好ましい。なお、短時間で投入するために複数のノズルから投入することも出来る。
【0051】
また、混合方法としてマイクロリアクターを用いても良い。マイクロリアクターは、マイクロスケールの複数の流路を有する反応や混合装置を一般に総称するものである。例えば、“Microreactors New Technologyfor Modern Chemistry”(Wolfgang Ehrfeld、Volker Hessel、Holger Loewe著、WILEY−VCH社、2000年発行)等に詳細に記載されている。
【0052】
本発明において多環系化合物誘導体の分散体に熱処理、酸処理または塩基処理から選択される処理を施す。その際、多環系化合物誘導体は固体粒子であるため熱処理、酸処理または塩基処理は粒子表面から行なわれカルボン酸エステル基またはカルボキシル基の官能基が脱離される。特に酸または塩基処理の場合、多環系化合物誘導体は固体粒子であることにより酸または塩基は粒子中心でなく粒子表面と反応する。粒子表面と反応し反応生成物が溶解しなければ酸または塩基は粒子の深部(中心部)に到達できない。したがって粒子の深部においては官能基の脱離が行なわれず多環系化合物誘導体として残る。特に多環系化合物が顔料の場合、官能基の脱離によって官能基より難溶化していくので粒子の深部においては官能基の脱離されにくいと推定される。また熱処理においても同様ではあるが、これら官能基の脱離処理条件を制御することにより誘導体の分散体粒子の深部付近に位置する誘導体分子の官能基を残すことは可能である。このように粒子の深部に未反応部分(官能基が脱離しないで多環系化合物誘導体として残る)があっても機能物質分散体の用途によっては殆ど差し支えない。例えば、機能物質分散体を触媒として使う場合、一般的に固体触媒は粒子表面で触媒作用を行う。また機能物質分散体が顔料分散体であり、これを色材として用いた場合においても発色は主に粒子表面の色に由来するものである。また顔料としての耐候性においても表面が官能基が脱離した顔料であるため殆ど影響はないと推定される。
【0053】
また本発明においては機能物質として、好ましくは色材が用いられ、その中でも顔料粒子の場合においては主に発色に寄与しているのは顔料表面である。顔料にカルボン酸エステル基またはカルボキシル基が導入されると色調が変わってしまう。例えばC.I.Pigment Red−254の窒素上にt−ブトキシカルボニル基が導入されたC.I.Pigment Red−254の誘導体は黄色を呈する。したがってC.I.Pigment Red−254の発色を得ることはできなくなる。ところが、本発明の方法では発色に寄与する顔料表面に存在する顔料分子にはカルボン酸エステル基またはカルボキシル基が脱離されているため、これら官能基が導入される前の発色を呈することができる。さらに、耐候性においても、外光やガスに触れる顔料粒子表面は官能基が脱離した顔料であるため著しい耐候性の低下は起こりにくい。
【0054】
本発明の多環系化合物誘導体からカルボン酸エステル基を脱離させるのに用いる酸としては、希塩酸、塩化水素、臭化水素、フッ酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、酢酸等が挙げられる。しかし、これらに限定するものではない。また、前記官能基を脱離させるのに用いる塩基としてはヒドラジン、ピペリジン、モルホリン、ジエチルアミン、ピリジン、アンモニア、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン、フッ素化テトラブチルアンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられるがこれらに限定するものではない。またこれら単独もしくはこれら2種類以上の混合物または他の有機溶媒と混合して脱離を行なっても良い。また、パラジウムカーボンと水素ガスあるいはナトリウムとアンモニアによる接触還元で脱離を行なっても良い。
【0055】
本発明の多環系化合物誘導体からカルボン酸エステル基またはカルボキシル基または金属カルボキシル基を脱離させるのに用いる加熱方法としてはウォーターバス、オイルバス浴にて加熱してもよい。また、加熱オーブン中に一定時間静置する方法、流体を高温の雰囲気中を通過させる方法、ハロゲンランプヒーター、赤外および遠赤外ランプヒーターなどに接触させたりする方法が挙げられる。加熱における雰囲気として常圧でも加圧下、減圧下で行なってもよい。特にカルボキシル基においてはこれら加熱による脱炭酸によって脱離させることが可能である。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
実施例1
本実施例では、多環系化合物としてC.I.Pigment Red−254のジケトピロロピロールを用いジケトピロロピロールのアミノ基上にベンジルオキシカルボニル基が導入された多環系化合物誘導体を用いる。ベンジルオキシカルボニル基が導入された多環系化合物誘導体の合成は一般的な方法である塩化ベンジルオキシカルボニルと4−ジメチルアミノピリジンを用いて合成した。多環系化合物誘導体10質量部にテトラヒドロフラン70質量部を加え、つづいて分散剤としてラウリル硫酸ナトリウムを15質量部加え、第1の溶液を調製した。第2の溶液はイオン交換水を用いた。
【0057】
超音波処理しながらスターラーを用いて攪拌している第2の溶液100質量部中に、第1の溶液をシリンジを用いて速やかに投入し多環系化合物誘導体の析出と分散を行なった。多環系化合物誘導体の分散体は高い濃度で得られ黄色を呈した。
【0058】
多環系化合物誘導体の分散体をスターラーを用いて攪拌しながら塩基である10%の水酸化カリウム水溶液を滴下していき多環系化合物誘導体の分散体表面のベンジルオキシカルボニル基の脱離を行なったところ分散体は赤色を呈してきた。
【0059】
得られた分散体の粒径をDLS−7000(大塚電子社製)を用いて測定したところ平均粒子径は40nmであった。分散された分散物をインクジェット用インクとして用いBJプリンターS530(キヤノン社製)のインクタンクに充填し、普通紙に記録すると文字がきれいに印字できた。さらに分散物をX線光電子分光分析(XPS)にてアルゴンエッチングし観察したところ分散体粒子の中心付近においてはベンジルオキシカルビニル基由来のスペクトルが観察され分散体粒子の表層に位置する部分のベンジルオキシカルビニル基が脱離し分散体がC.I.Pigment Red−254由来の赤色を呈していることが分かった。
【0060】
実施例2
本実施例では、多環系化合物としてC.I.Pigment Red−122のジメチルキナクリドンをジメチルキナクリドンのアミノ基上にt−ブトキシカルボニル基が導入された多環系化合物誘導体を用いる。
【0061】
多環系化合物誘導体10質量部にテトラヒドロフラン50質量部を加え、つづいて分散剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテルを15質量部加え、これらが溶解するまで25%水酸化カリウム水溶液を加えていき第1の溶液を調製した。第2の溶液はイオン交換水を用いた。
【0062】
超音波処理しながらスターラーを用いて攪拌している第2の溶液100質量部中に、第1の溶液をシリンジを用いて速やかに投入し多環系化合物誘導体の析出と分散を行なった。多環系化合物誘導体の分散体は高い濃度で得られ黄色を呈した。多環系化合物誘導体の分散体をスターラーを用いて攪拌しながらトリフルオロ酢酸を滴下していき多環系化合物誘導体の分散体表面のt−ブトキシカルボニル基の脱離を行なったところ分散体はマゼンタ色を呈してきた。その後、水酸化カリウム水溶液にて中和し限外ろ過にて精製した。
【0063】
得られた分散体の粒径をDLS−7000(大塚電子社製)を用いて平均粒子径を測定したところ50nmであった。分散された分散物をインクジェット用インクとして用いBJプリンターS530(キヤノン社製)のインクタンクに充填し、普通紙に記録すると文字がきれいに印字できた。さらに分散物をX線光電子分光分析(XPS)にてアルゴンエッチングし観察したところ分散体粒子の中心付近においてはt−ブトキシカルボニル基由来のスペクトルが観察され分散体粒子の表層に位置する部分のt−ブトキシカルボニル基が脱離し分散体がC.I.Pigment Red−122由来のマゼンタ色を呈していることが分かった。
【0064】
実施例3
本実施例では、多環系化合物としてC.I.Pigment Red−122のジメチルキナクリドンをジメチルキナクリドンのアミノ基上にt−ブトキシカルボニル基が導入された多環系化合物誘導体を用いる。
【0065】
多環系化合物誘導体10質量部にテトラヒドロフラン50質量部を加え、つづいて分散剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテルを15質量部加え、これらが溶解するまで25%水酸化カリウム水溶液を加えていき第1の溶液を調製した。第2の溶液はイオン交換水を用いた。超音波処理しながらスターラーを用いて攪拌している第2の溶液100質量部中に、第1の溶液をシリンジを用いて速やかに投入し多環系化合物誘導体の析出と分散を行なった。多環系化合物誘導体の分散体は高い濃度で得られ黄色を呈した。
【0066】
得られた多環系化合物誘導体の分散体のt−ブトキシカルボニル基の脱離を25MPa、180℃の高温高圧チャンバー内を通過させることによって行なった。本実施例ではt−ブトキシカルボニル基の脱離を行なうにあたり酸試薬を添加しなくてよいことと、添加した酸を中和するのに塩基試薬を添加しなくてよいためより分散体液が希釈されることなく高い濃度でマゼンタ色を呈する分散体を得ることができた。得られた分散体の平均粒子径および印字も実施例2と同様な結果が得られた。
【0067】
実施例4
本実施例ではC.I.Pigment Blue−15:3の多環系化合物の銅フタロシアニンの誘導体である下記の化学式(4)に示す銅フタロシアニンにカルボキシル基が導入された多環系化合物誘導体を用いる。
【0068】
【化2】

【0069】
銅フタロシアニンにカルボキシル基が導入された多環系化合物誘導体10質量部にテトラヒドロフラン10質量部を加えた。つづいて分散剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテルを15質量部加え、60℃に加熱しながら、これらが溶解するまで5%水酸化カリウム水溶液を加えていき第1の溶液を調製した。第2の溶液は3%の希塩酸を用いた。
【0070】
60℃に加熱した第1の溶液を、超音波処理しながらスターラーを用いて攪拌している第2の溶液50質量部中に、シリンジを用いて速やかに投入し多環系化合物誘導体の分散を行なった。多環系化合物誘導体の分散体は高い濃度で得られ青色を呈した。
【0071】
得られた多環系化合物誘導体の分散体にN,N−ジメチルアニリンを添加し、20MPa、200℃の内壁が銅製の高温高圧チャンバー内を通過させカルボキシル基を脱炭酸することによって脱離を行なった。本実施例では多環系化合物誘導体を加熱することによってより溶解度が増すため高濃度に多環系化合物誘導体が溶解した分散体溶液を調製することができた。
【0072】
カルボキシル基の脱離を行なうにあたり酸試薬を添加しなくてよいことと、添加した酸を中和するのに塩基試薬を添加しなくてよいため、分散体液が希釈されることなく高い濃度でC.I.Pigment Blue−15:3のシアン色を呈する分散体を得ることができた。得られた分散体の平均粒子径および印字も実施例2と同様な効果が得られた。
【0073】
実施例5
本実施例では実施例4と同様に化学式(4)に示す多環系化合物誘導体を用いる。
銅フタロシアニンにカルボキシル基が導入された多環系化合物誘導体10質量部にテトラヒドロフラン10質量部を60℃に加熱し、第1の溶液を調製した。第2の溶液はラウリル硫酸ナトリウムが15%溶解したイオン交換水にN,N−ジメチルアニリンを添加したものを用いた。60℃に加熱した第1の溶液と第2の溶液を25MPa、200℃の内壁が銅製の高温高圧チャンバー内を通過させた。本実施例では多環系化合物誘導体を加熱することによってより溶解度が増すため高濃度に多環系化合物誘導体が溶解した分散体溶液を調製することができた。本実施例ではチャンバーにおいて多環系化合物誘導体の分散とカルボキシル基の脱炭酸による脱離が行なわれ、高い濃度でC.I.Pigment Blue−15:3のシアン色を呈する分散体を得ることができた。得られた分散体の平均粒子径および印字も実施例2と同様な効果が得られた。本実施例では、分散と官能基の脱離を同一の工程で行え官能基の脱離は熱処理のため高濃度で分散体を生成することができた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、小粒径の分散体の生成濃度を高くすることができる機能物質分散体の製造方法を提供することができるので、インクジェット記録装置用の顔料インクをはじめとする色材ならびに電子材料の製造に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多環系化合物からなる機能物質の分散体の製造方法であって、多環系化合物に、カルボン酸エステル基、カルボキシル基および金属カルボキシル基から選ばれた少なくとも1種の官能基が導入された多環系化合物誘導体を用意する工程、前記多環系化合物誘導体が有機溶媒に溶解している第1の溶液を用意する工程、前記多環系化合物誘導体に対し貧溶媒からなる第2の溶液を用意する工程、前記第1および第2の溶液を分散剤の存在下で混合して前記多環系化合物誘導体を析出させると共に該多環系化合物誘導体の分散体を得る工程、および前記多環系化合物誘導体の分散体に熱処理、酸処理または塩基処理を施して前記多環系化合物誘導体の官能基を脱離させて多環系化合物を得る工程を有することを特徴とする機能物質分散体の製造方法。
【請求項2】
多環系化合物からなる機能物質の分散体の製造方法であって、多環系化合物に、カルボン酸エステル基、カルボキシル基および金属カルボキシル基から選ばれた少なくとも1種の官能基が導入された多環系化合物誘導体を用意する工程、前記多環系化合物誘導体が有機溶媒に溶解している第1の溶液を用意する工程、前記多環系化合物誘導体に対し貧溶媒からなる第2の溶液を用意する工程、前記第1および第2の溶液を分散剤の存在下で混合しながら、熱処理、酸処理または塩基処理を施して、前記多環系化合物誘導体を析出させて分散体とすると共に前記多環系化合物誘導体の官能基を脱離させて多環系化合物を得る工程を有することを特徴とする機能物質分散体の製造方法。
【請求項3】
前記第1および第2の溶液の少なくとも一方に分散剤が含まれていることを特徴とする請求項1または2に記載の機能物質分散体の製造方法。
【請求項4】
前記機能物質分散体は、内側に多環系化合物誘導体が位置し、その外側を前記官能基が脱離した多環系化合物が被覆している多環系化合物からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の機能物質分散体の製造方法。
【請求項5】
前記多環系化合物がアミノ基を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載の機能物質分散体の製造方法。
【請求項6】
前記多環系化合物誘導体は、アミノ基を有する多環系化合物のアミノ基の窒素原子にカルボン酸エステル基、カルボキシル基または金属カルボキシル基が導入されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの項に記載の機能物質分散体の製造方法。
【請求項7】
前記多環系化合物は顔料であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかの項に記載の機能物質分散体の製造方法。

【公開番号】特開2008−45007(P2008−45007A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220559(P2006−220559)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】