説明

櫛型構造を有する構造体の製造方法、樹脂構造体成形用金型の製造方法および樹脂成形体

【課題】大面積かつ表面に微細な櫛型の形状を有する構造体の製造方法、その構造体によって作製される樹脂成形用金型の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた積層流を上下に2分割した後左右に配列させる工程を、左右を替えながら交互に繰り返して積層構造体を形成する工程(1)と、前記積層構造体の主面に、前記2種類以上の異なる熱可塑性樹脂が配列して露出した表面を形成する工程(2)と、前記表面から前記積層構造体を構成する熱可塑性樹脂の内の少なくとも1種類の樹脂を優先的に除去することで前記表面上に櫛型の凹凸構造を形成する工程(3)とを、含むことを特徴とする櫛型構造を有する樹脂構造体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノインプリント用の成形型およびその原型などに用いられる微細な櫛型の凹凸構造を有する樹脂構造体の製造方法およびそれにより得られる樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイス、エネルギー貯蔵デバイス、センサー等の小型化および高性能化に伴い、大きさが50nmを下回る構造を有するデバイスの開発が盛んに行われている。また、ナノメートルスケールの三次元微細構造物に特有な現象を利用する、新しいデバイスの開発が盛んに行われている。光の反射を低減する光反射防止ナノ構造や人工的に光の進行方向を制御するフォトニック結晶、他の光学部品の表面に作り込むことのできる1/4波長板など、様々な応用が検討されている。
【0003】
一般的にこのような微細構造デバイスの作製にはリソグラフィーという微細パターンを描画する技術が用いられている。リソグラフィー技術とは、少なくとも以下の工程有するものである。被加工基板の上に感光性樹脂の層を形成した後、感光性樹脂層上の所定の領域のみに該感光性樹脂層が感光する放射線、例えば、紫外線、X線、電子線、イオン線などを選択的に照射し、さらに必要ならば熱処理を行うことにより、照射領域に化学的な変化をもたらし、潜像を形成する。このようにして潜像を形成した後、現像液に浸漬する。照射領域内における感光性樹脂の化学的変化により、照射領域を非照射領域との現像液に対する溶解速度の違いが生じ、この溶解速度の遅い領域が、パターンとして残る。これにより、所望の深さまで溝が掘られた微細構造体を有する母型が得られる。この母型を原型として、スタンパーの作製が行われる。現在、真空紫外光などの短波長の光を用いた光リソグラフィー法や電子線を用いた電子線リソグラフィー法などが利用されている。
【0004】
しかしながら、光リソグラフィー法では、より微細な構造を作製するために光源をさらに短波長化することが近年困難となり、周辺技術を含めて開発には莫大な投資が必要となっている。
【0005】
一方、電子線リソグラフィー法は、10nm程度の微細な描画が可能であるが、解像性を上げるにはビーム径を小さく絞る必要があり、描画速度が遅く大面積化に時間がかかる。例えば、40nmピッチのドットパターンを1mm×1mmの範囲に描画するとしても数時間必要になる。また、電子線発生のための装置が大型で莫大な投資が必要となる。
【0006】
また、このような状況のもと、物質が自然に構造を形成する現象、いわゆる自己組織化現象を応用した手法が注目を集めている。特に高分子ブロック共重合体の自己組織化現象、いわゆるミクロ相分離現象を応用した手法は、簡便な塗布プロセスにより数十ナノメートル〜数百ナノメートルの種々の形状を有する微細規則構造を形成できる点で優れた手法である。
【0007】
ここで、高分子ブロック共重合体をなす異種の高分子セグメントが互いに混じり合わない場合、これらの高分子セグメントのミクロ相分離により、特定の規則性を持った微細構造が自己組織化される。そして、このような自己組織化現象を利用して、高分子ブロック共重合体薄膜をエッチングマスクとして用い、微細な孔やラインアンドスペースなどの構造を基板上に形成した公知技術が知られている(例えば、非特許文献2、非特許文献3参照)。
【0008】
高分子ブロック共重合体のミクロ相分離現象によると、球状や柱状のミクロドメインが連続相中に規則的に配列した構造を有する高分子薄膜を得ることができる。このようなミクロ相分離構造をエッチングマスク等のパターン転写体として利用する場合、連続相中に柱状ミクロドメインが基板に直立する方向に配向して規則的に配列していることが望ましい。なぜならば、柱状ミクロドメインが基板に直立する方向に配向して配列したに配向して配列した構造の場合、球状ミクロドメインが基板表面に規則的に配列した構造に比べて、得られる構造のアスペクト比が自由に調整できるからである。
【0009】
しかしながら、高分子ブロック共重合体のミクロ相分離現象による柱状ミクロドメイン構造は、その多くは膜表面に対して平行方向に配向した構造を示すものである。
【0010】
膜表面に対して平行方向に配向しやすい柱状ミクロドメインを基板に直立する方向に配向させるための従来方法としては次のようなものが挙げられる。
第1の従来方法は、高分子ブロック共重合体の膜に、膜面を貫通する方向に極めて高い電界を印加することにより、柱状ミクロドメインを電界の方向へ配向させ、膜表面に直立した構造を得る方法である(例えば非特許文献4参照)。しかし、前記した第1の従来方法では、高分子ブロック共重合体の膜に高電界を印加するには、膜表面に電極を密着させ非常に狭いギャップ間でこの膜に電圧を印加する必要があるなど特別の工程あるいは設備が必要である。
【0011】
また、第2の従来方法は、基板表面を化学的に修飾し高分子ブロック共重合体の各セグメントに対して等しい親和性を持つように処理して柱状ミクロドメインが基板に直立した構造を得る方法である(例えば非特許文献5参照)。しかし、基板表面を高分子ブロック共重合体の各セグメントに対して等しい親和性を持つように処理するのは一般的に容易でない。
すなわち、これら従来方法では柱状ミクロドメインを膜表面に対して直立する方向に配向して配列させることは現実的でないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平4−278324公報
【特許文献2】特開2005−349681公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】SPIE Advanced Lithography, Feb. 2008.
【非特許文献2】Science 276 (1997)1401
【非特許文献3】Polymer 44 (2003) 6725
【非特許文献4】Macromolecules 24(1991) 6546
【非特許文献5】Macromolecules 32(1999) 5299
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、将来の高機能デバイスとして期待されている単電子トランジスタや発光素子などのデバイスを効率よく運転させるためには、数nmサイズのナノ構造を、nmオーダーの間隔で形成させることが必要である。また、生産性向上に向けた生産時間の短縮化、かつ大面積による作製が必要である。このような高解像、かつ高密度かつ大面積のパターンの形成は、既存のリソグラフィー技術のようなトップダウン技術や自己組織化現象を応用したプロセスでは作製することは困難である。
【0015】
本発明の目的は、多層押出成形によって作製した積層構造体を用いることで、前記従来の課題を解決し、大面積かつ表面に微細な櫛型の形状を有する構造体の製造方法、その構造体によって作製される樹脂成形用金型の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた積層流を、上下に2分割し、分割した上部の積層流を第1の積層流、下部の積層流を第2の積層流とし、前記第1の積層流を流動方向に向かって左方向に導き、前記第2の積層流を流動方向に向かって右方向に導き、次いで、前記第1の積層流を流動方向の中心に向けて右下方向に、前記第2の積層流を流動方向の中心に向けて左上方向に導き、その後、前記第1の積層流と前記第2の積層流とを左右方向に隣接して再配置し合流させる工程L(L流路)と、少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた積層流を、上下に2分割し、分割した上部の積層流を第3の積層流とし、下部の積層流を第4の積層流とし、前記第3の積層流を流動方向に向かって右方向に導き、前記第4の積層流を流動方向に向かって左方向に導き、次いで、前記第3の積層流を流動方向の中心に向けて左下方向に、前記第4の積層流を流動方向の中心に向けて右上方向に導き、その後、前記第3の積層流と前記第4の積層流とを左右方向に隣接して再配置し合流させる工程R(R流路)と、を有し、
前記工程L(L流路)、前記工程R(R流路)をこの順で少なくとも3工程以上、交互に繰り返すことを特徴とする積層構造体を形成する工程(1−1)と、前記積層構造体の主面に、前記2種類以上の異なる熱可塑性樹脂が配列して露出した表面を形成する工程(2)と、前記表面から前記積層構造体を構成する熱可塑性樹脂の内の少なくとも1種類の樹脂を優先的に除去することで前記表面上に櫛型の凹凸構造を形成する工程(3)とを、含むことを特徴とする櫛型構造を有する樹脂構造体の製造方法である。ここで、工程(2)は工程(1−1)と同時に行われていても良いし、別途行われていても良い。
【0017】
また、少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた積層流を、上下に2分割し、分割した上部の積層流を第1の積層流、下部の積層流を第2の積層流とし、前記第1の積層流を流動方向に向かって右方向に導き、前記第2の積層流を流動方向に向かって左方向に導き、次いで、前記第1の積層流を流動方向の中心に向けて左下方向に、前記第2の積層流を流動方向の中心に向けて右上方向に導き、その後、前記第1の積層流と前記第2の積層流とを左右方向に隣接して再配置し合流させる工程R(R流路)と、
少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた積層流を、上下に2分割し、分割した上部の積層流を第3の積層流、下部の積層流を第4の積層流とし、前記第3の積層流を流動方向に向かって左方向に導き、前記第4の積層流を流動方向に向かって右方向に導き、次いで、前記第3の積層流を流動方向の中心に向けて右下方向に、前記第4の積層流を流動方向の中心に向けて左上方向に導き、その後、前記第3の積層流と前記第4の積層流とを左右方向に隣接して再配置し合流させる工程L(L流路)と、を有し、
前記工程R(R流路)、前記工程L(L流路)をこの順で少なくとも3工程以上、交互に繰り返すことを特徴とする積層構造体を形成する工程(1−2)と、前記積層構造体の主面に、前記2種類以上の異なる熱可塑性樹脂が配列して露出した表面を形成する工程(2)と、前記表面から前記積層構造体を構成する熱可塑性樹脂の内の少なくとも1種類の樹脂を優先的に除去することで前記表面上に櫛型の凹凸構造を形成する工程(3)とを、含むことを特徴とする櫛型構造を有する樹脂構造体の製造方法である。ここで、工程(2)は工程(1−1)と同時に行われていても良いし、別途行われていても良い。
【0018】
また、上記の樹脂構造体の製造方法において、
前記工程(3)が、前記積層構造体の切断面から除去速度の差を利用して前記積層構造体を構成する熱可塑性樹脂の内の少なくとも1種類の樹脂を優先的に除去する工程であってもよい。
【0019】
また、上記の樹脂構造体の製造方法において、
前記工程(3)に次いで、櫛型の凹凸構造を有する前記積層構造体の前記表面に被樹脂製の転写体を密着させて、前記櫛型構造を前記被転写体に転写する工程(4)を含んでいてもよく、前記櫛型構造が転写された被転写体を樹脂成形品としても良い。
【0020】
さらに、別の本発明は、
少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた積層流を、上下に2分割し、分割した上部の積層流を第1の積層流、下部の積層流を第2の積層流とし、前記第1の積層流を流動方向に向かって左方向に導き、前記第2の積層流を流動方向に向かって右方向に導き、次いで、前記第1の積層流を流動方向の中心に向けて右下方向に、前記第2の積層流を流動方向の中心に向けて左上方向に導き、その後、前記第1の積層流と前記第2の積層流とを左右方向に隣接して再配置し合流させる工程L(L流路)と、少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた積層流を、上下に2分割し、分割した上部の積層流を第3の積層流とし、下部の積層流を第4の積層流とし、前記第3の積層流を流動方向に向かって右方向に導き、前記第4の積層流を流動方向に向かって左方向に導き、次いで、前記第3の積層流を流動方向の中心に向けて左下方向に、前記第4の積層流を流動方向の中心に向けて右上方向に導き、その後、前記第3の積層流と前記第4の積層流とを左右方向に隣接して再配置し合流させる工程R(R流路)と、を有し、前記工程L(L流路)、前記工程R(R流路)をこの順で少なくとも3工程以上、交互に繰り返すことを特徴とする積層構造体を形成する工程(1−1)、
または、少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた積層流を、上下に2分割し、分割した上部の積層流を第1の積層流、下部の積層流を第2の積層流とし、前記第1の積層流を流動方向に向かって右方向に導き、前記第2の積層流を流動方向に向かって左方向に導き、次いで、前記第1の積層流を流動方向の中心に向けて左下方向に、前記第2の積層流を流動方向の中心に向けて右上方向に導き、その後、前記第1の積層流と前記第2の積層流とを左右方向に隣接して再配置し合流させる工程R(R流路)と、少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた積層流を、上下に2分割し、分割した上部の積層流を第3の積層流、下部の積層流を第4の積層流とし、前記第3の積層流を流動方向に向かって左方向に導き、前記第4の積層流を流動方向に向かって右方向に導き、次いで、前記第3の積層流を流動方向の中心に向けて右下方向に、前記第4の積層流を流動方向の中心に向けて左上方向に導き、その後、前記第3の積層流と前記第4の積層流とを左右方向に隣接して再配置し合流させる工程L(L流路)と、を有し、前記工R2(R流路)、前記工程L(L流路)をこの順で少なくとも3工程以上、交互に繰り返すことを特徴とする積層構造体を形成する工程(1−2)と、
前記積層構造体の対向する2つの主面に、前記2種類以上の異なる熱可塑性樹脂が配列して露出した対向する2つの表面を有する積層体を得る工程(5)と、
前記対向する2つの表面を有する積層体を構成する熱可塑性樹脂の内の少なくとも1種類の樹脂を完全に除去する工程(6)と、
前記工程(6)で残存した他の樹脂をマスクとして用い、被成形体をエッチングすることにより、前記被成形体表面に櫛型の凹凸構造を形成する工程(7)と
を含むことを特徴とする櫛型構造を有する構造体の製造方法である。ここで、工程(5)は工程(1−1)または工程(1−2)と同時に行われていても良いし、別途行われていても良い。
【0021】
また、本発明は上記した樹脂構造体の製造方法を含む工程を用いて得られた構造体から電鋳法により製造した櫛型構造を有する樹脂成形用の金型であり、前記金型を用いて製造した櫛型樹脂成形体である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、生産性に優れる大面積かつ微細な櫛型構造を有する樹脂構造体を有する基板の製造方法を提供することができる。また、前記樹脂構造体を母型とし、樹脂成形用金型、およびその金型の作製方法、櫛型構造を有する樹脂成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る櫛型構造を有する樹脂構造体の製造方法の工程を示した模式図である。
【図2】積層体構造の製造装置の模式図である。
【図3】積層体構造の製造装置の模式図である。
【図4】1組のプレート(LME)の模式図である。
【図5】129層積層構造体の中央から切断した片側断面の写真である。
【図6】切り出した積層構造体を基板上に配列させた状態を示す模式図である。
【図7】本発明の実施形態に係る櫛型構造を有する樹脂構造体の製造方法の工程を示した模式図、および樹脂成形用金型の製造方法の工程を示した工程図である。
【図8】本発明の実施形態に係る櫛型構造を有する樹脂構造体の製造方法の工程を示した模式図である
【図9】実施例1にかかる樹脂構造体の表面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1を用いて、本発明の実施形態に係る櫛型構造を有する樹脂構造体を作製する方法を説明する。
多層押出成形技術を用いて、異なる2種類の樹脂(樹脂1および樹脂2)を交互に並べた積層構造体3を作製し、該積層構造体3の主面に、前記2種類の異なる熱可塑性樹脂が配列して露出した積層構造体3の断面を図1(a)に示す。積層構造体3を構成する各樹脂は、エッチング方向に対して平行に配向して積層している。
【0025】
ここで示す積層構造体3の作製方法としては、図2に示す少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた積層流を、上下に2分割し、分割した上部の積層流を第1の積層流、下部の積層流を第2の積層流とし、前記第1の積層流を流動方向に向かって左方向に導き、前記第2の積層流を流動方向に向かって右方向に導き、次いで、前記第1の積層流を流動方向の中心に向けて右下方向に、前記第2の積層流を流動方向の中心に向けて左上方向に導き、その後、前記第1の積層流と前記第2の積層流とを左右方向に隣接して再配置し合流させる工程L(L流路)と、図3に示す少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた積層流を、上下に2分割し、分割した上部の積層流を第3の積層流とし、下部の積層流を第4の積層流とし、前記第3の積層流を流動方向に向かって右方向に導き、前記第4の積層流を流動方向に向かって左方向に導き、次いで、前記第3の積層流を流動方向の中心に向けて左下方向に、前記第4の積層流を流動方向の中心に向けて右上方向に導き、その後、前記第3の積層流と前記第4の積層流とを左右方向に隣接して再配置し合流させる工程R(R流路)と、を有し、前記工程L(L流路)、前記工程R(R流路)をこの順で少なくとも3工程以上、交互に繰り返す方法、もしくは、図3に示す少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた積層流を、上下に2分割し、分割した上部の積層流を第1の積層流、下部の積層流を第2の積層流とし、前記第1の積層流を流動方向に向かって右方向に導き、前記第2の積層流を流動方向に向かって左方向に導き、次いで、前記第1の積層流を流動方向の中心に向けて左下方向に、前記第2の積層流を流動方向の中心に向けて右上方向に導き、その後、前記第1の積層流と前記第2の積層流とを左右方向に隣接して再配置し合流させる工程R(R流路)と、図2に示す少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた積層流を、上下に2分割し、分割した上部の積層流を第3の積層流、下部の積層流を第4の積層流とし、前記第3の積層流を流動方向に向かって左方向に導き、前記第4の積層流を流動方向に向かって右方向に導き、次いで、前記第3の積層流を流動方向の中心に向けて右下方向に、前記第4の積層流を流動方向の中心に向けて左上方向に導き、その後、前記第3の積層流と前記第4の積層流とを左右方向に隣接して再配置し合流させる工程L(L流路)と、を有し、前記工程R(R流路)、前記工程L(L流路)をこの順で少なくとも3工程以上、交互に繰り返す作製方法である。
【0026】
本発明の前記の積層構造体を形成するために用いられる前記工程L(L流路)および前記工程R(R流路)は、少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた所定の幅と厚みの積層流を形成し、
分割点において、前記積層流を上下に2分割し、分割した上部の積層流を第1の積層流とし、下部の積層流を第2の積層流とし、
分岐点において、前記第1の積層流と前記第2の積層流を左右に分岐し、
合流点において、前記第1の積層流と前記第2の積層流を左右に隣接して再配置し合流させる流路であり、前記積層流の幅と前記厚みのうち長い方の長さをL1とし、前記分岐点から前記合流点までの流動進行方向の長さをL2としたとき、前記所定の幅と厚みを有する積層流が、L2/L1≧1.1の関係を満たすことが好ましい。
【0027】
上記の積層体構造3の作製方法に用いられる工程L(L流路)および工程R(R流路)について詳細に説明する。
【0028】
図2に示すように、少なくとも2つの溶融樹脂、すなわち、2層以上の流体が縦に配列された樹脂流をこの装置に通過させる。分割機構111においては、分割点Aで、積層流P1を縦方向に対して直交方向に、すなわち上下に2分割し、上部の積層流を第1の積層流P2とし、下部の積層流を第2の積層流P3とする分割操作が行われる。分割機構111で分割された積層流P2、P3は、分岐機構112において、樹脂分割点Aと流動方向の中間点Bを結ぶ線を基準に、積層流P2を流動方向に向かって左方向に導き、積層流P3を流動方向に向かって右方向に導くことで分岐される。これが分岐操作である。次に、分岐された積層流P2、P3は、再配置合流機構113において、積層流P2を合流点Cへと、流動方向の中心に向かって、右下方向に導き、積層流P3を合流点Cへと、流動方向の中心に向かって、左上方向に導くことで、積層流P2、P3を左右方向に隣接して再配置が行われ、積層流P4が形成される。この時、積層流P2、P3は、左右方向、上下方向ともに、中心へ導かれることが好ましい。その後、再配置合流された積層流P4は、安定機構114において、合流操作が行われる。
【0029】
この一連の工程L(図2参照)を左回転流路110(以下、L流路という。)とする。
【0030】
次いで、上記のL流路110によって得られた積層流P4を、図3のように入れ替えることによって、積層数を増やしていく。
【0031】
図3に示すように、図2の分割機構111、分岐機構112、および再配置合流機構113および安定機構114で作製された積層流P4を導入する。
【0032】
図3に示す分割機構121の分割点Dで、積層流P4を縦方向に対して直交方向に、すなわち上下に2分割し、第3の積層流P5、第4の積層流P6を形成する分割操作が行われる。分割機構121で分割された積層流P5、P6は、分岐機構122で、樹脂分割点Dと流動方向の中間点Eを結ぶ線を基準に、第3の積層流P5を流動方向に向かって右方向に導き、第4の積層流P6を流動方向に向かって左方向に導くことで分岐される。これが分岐操作である。次に、分岐された積層流P5、P6は、再配置合流機構123において、積層流P5を合流点Fへと、流動方向の中心に向かって、左下方向に導き、積層流P6を合流点Fへと、流動方向の中心に向かって、右上方向に導くことで、積層流P5、P6を左右方向に隣接して再配置が行われ、積層流P7が形成される。この時、積層流P5、P6は、左右方向、上下方向ともに、中心へ導かれることが好ましい。その後、再配置合流された積層流P7は、安定機構124において、合流操作が行われる。
【0033】
この一連の工程R(図3参照)を右回転流路120(以下、R流路という。)とする。
【0034】
L流路110とR流路120を組み合わせた工程によって積層数を増やしていくことで、従来多積層体を形成させる流路形状内で生じていた局所的な流速ムラを小さくすることが可能となり、積層に乱れが生じにくく、各層の厚みのムラが低減される。すなわち、分割・配列の操作を繰り返すことにより、さらに多層積層させることが可能となる。
【0035】
なお、上記説明では積層流P1を工程L(L流路110)を通過させた後作製される積層流P4を工程R(R流路120)に導入しているが、工程L(L流路110)と工程R(R流路120)の順番を逆にすると積層流P1が工程R(R流路120)に導入され、作製された積層流P4が工程L(L流路110)に導入される。
【0036】
図4に、1組のプレートの模式図を示す。
分割プレートと配列プレートと並列プレートを1組にした装置(以下、LMEという。)、すなわち、L流路110を有する1組のプレートと、R流路120を有する1組のプレートを交互に組み合わせた2組以上を配置させて多積層体の製造装置が形成される。
【0037】
図2〜4を参照しつつ、LME(Layer Multipling Element)の各プレートを用いた多積層体の製造方法について説明する。
【0038】
まず、L流路110を有する1組のプレートについて説明する。
分割プレートは、少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた積層流P1を、上下に2分割する。配列プレート(L流路110)は、上記の分割プレートで分割された上部の積層流(第1の積層流:P2)を左方向に導く流路と、下部の積層流(第2の積層流:P3)を右方向に導く流路と、次いで、第1の積層流P2を中心に向けて右下方向に導く流路と、第2の積層流P3を中心に向けて左上方向に導く流路を有する。並列プレートは、上記の配列プレートで左右方向に配列させた積層流P2、P3を再配置しP4として合流する。
【0039】
次に、R流路120を有する1組のプレートについて説明する。
分割プレートは、少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた積層流P4を、上下に2分割する。配列プレート(R流路120)は、上記の分割プレートで分割された上部の積層流(第3の積層流:P5)を右方向に導く流路と、下部の積層流(第4の積層流:P6)を左方向に導く流路と、次いで、第3の積層流P5を中心に向けて左下方向に導く流路と、第4の積層流P6を中心に向けて右上方向に導く流路を有する。並列プレートは、上記の配列プレートで左右方向に配列させた積層流P5、P6をP7として再配置し合流する。
【0040】
このL流路110を有する1組のプレートと、R流路120を有する1組のプレートを交互に組み合わせた2組以上を配置させて多積層体の製造装置を形成する。
【0041】
ここで、分割プレート、配列プレート、並列プレートを1組とした装置の組数と配列数の関係は下記式(1)となる。
層配列数=2n+1+1 (1)
(ここで、nはLMEの組数を示す。)
【0042】
次に、図4を参照しつつ、LMEの各プレートについて説明する。
図4に示すように、分割プレート12は、少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた積層流が導入される側の面に、断面形状が矩形の1つの開口部を有するとともに、分割プレートの上記反対側の面(流出面)に、上下方向に所定間隔おいて配列して形成した断面形状が矩形の2つの開口部15を有する。また、配列プレート13は、上記の分割プレートに隣接する側の面に、分割プレートの流出面と同一形状の2つの開口部を有するとともに、上記の分割プレートに隣接する側とは反対側の面(流出面)に、左右方向に所定間隔をおいて配列して形成した断面形状が矩形の2つの開口部16を有する。さらに、並列プレート14は、上記の配列プレートに隣接する側の面に、配列プレートの流出面と同一形状の2つの開口部を有するとともに、上記の配列プレートに隣接する側とは反対側の面(流出面)に、断面形状が矩形の1つの開口部17を有する。
【0043】
なお、これらのプレートの形状、プレートに形成される開口部の形状、大きさは特に限定されるものではない。
【0044】
ここで示す積層構造体3の大きさは、その用途によって変化させることが可能である。また、複数の積層構造体3同士をエッチング方向に対して垂直に複数接着させて並べることによって、大面積の樹脂構造体を作製することを可能とする。積層構造体3の配列数は、特に問わないが、好ましくは配列方向に対して、1つであることが望ましい。
【0045】
本発明において使用される樹脂は、溶融流動性があり、硬化性がある高分子材料を用いることができるが、その種類は特に限定されるものではない。高分子材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン;ポリスチレンのようなポリ芳香族ビニル;ポリメチルメタクリレートのようなアクリル樹脂;ポリビニルアルコール;塩化ビニル樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル;ナイロン6、ナイロン66のようなポリアミド;ポリビスフェノールAカーボネートのようなポリカーボネート;ポリオキシメチレン;ポリスルフォン;シクロオレフィン系樹脂;フッ素樹脂;ポリジメチルシロキサン等のシリコーン系樹脂等の熱可塑性樹脂等の単独重合体あるいはこれらの共重合体、例えば、アクリル・スチレン系共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体を主成分とする樹脂等を挙げることができる。また、これらを2種以上組み合わせた混合物であってもよい。
【0046】
ポリエステル共重合体を使用する場合、その共重合成分はジカルボン酸成分であってもグリコール成分であってもよく、ジカルボン酸成分としては、例えばイソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等のような芳香族ジカルンボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等のような脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環族ジカルボン酸等を挙げることができ、グリコール成分としては、例えば、ブタンジオール、ヘキサンジオール等のような脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノールのような脂環族ジオール等を挙げることができる。
【0047】
また、エラストマーとしては、天然ゴム、イソプレンゴム、ポリアミド系・オレフィン系・スチレン系・ウレタン系等の熱可塑性エラストマー、あるいは、これらの組合せが挙げられる。
【0048】
上記の樹脂の中でも、樹脂間に溶融粘度差による影響の少ないものが好ましい。
【0049】
これらの樹脂は必要に応じて、例えば、液体、滑剤、光安定剤、難燃剤、膠着防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、光開始剤、防曇剤、顔料、帯電防止剤、ブロッキング剤などの有機あるいは無機の添加剤を、単独でも、あるいは、これらの組み合わせを含有することができる。
【0050】
図5に、上記記載の積層構造体3の作製方法においてL流路/R流路/L流路/R流路/L流路/R流路の6組のLMEを用いて作製した層数129層の積層構造体の中央から片側半分の断面写真を示す。
【0051】
また工程(2)により、工程(1−1)または工程(1−2)(以下、これらを合わせて工程(1)と称する。)で得られる積層構造体の主面に前記2種類以上の異なる熱可塑性樹脂が配列して露出した表面が形成される。この工程(2)は、工程(1)と同時に行われても良いし、工程(1)に引き続き別途行われても良い。工程(2)を工程(1)と同時に行う場合には、上記した製造方法において、得られる積層構造体3の主面が平面性の良い各樹脂が露出した表面となるよう製造条件を制御することにより実施される。一方、工程(1)とは別に工程(2)を行う場合は、上記した製造方法において、得られる積層構造体3の主面を切削、エッチング等により加工することで実施される。
【0052】
また、図1(a)の代わりに、図6(a)に示すように基板4上に、積層構造体3の2種類以上の異なる熱可塑性樹脂が配列して露出した対向する2つの表面のうちの一方が基板に密着し、積層構造を構成する樹脂が基板に対して垂直に立つように配置する形態をとることも可能である。
【0053】
このとき基板4は、Siウエハ、ガラス、ITO、樹脂など、その目的に合わせて選択することができる。
【0054】
次に、工程(3)において図1(a)の積層構造体3から、目的とする樹脂2を選択的に除去して図1(b)に示すような樹脂1が規則的に配列した櫛型の構造体を得ることができる。なお、図では示さないが、積層構造体3から、目的とする樹脂1を選択的に除去し、樹脂2が規則的に配列した櫛型構造を有する樹脂構造体5を得ることもできる。このように、樹脂1または2が規則的に配列した櫛型構造を有する樹脂構造体5は基板として用いることができ、本工程において、櫛型構造を有する樹脂構造体5を備えた基板が製造されたことになる。また、図では示さないが、この工程は、図6(a)に示すような形態でも適用が可能である。
【0055】
ところで、本発明に用いる2種類の樹脂には、目的とする樹脂を選択的に除去できるものを用いる。この場合、反応性イオンエッチング(RIE)またはウエットエッチング等その他のエッチング手法に対する除去速度の差を利用することが好ましい。例えば、ポリスチレンとポリブタジエンを用いた場合には、オゾン処理によりポリスチレンのみを残すように現像処理が可能である。ポリスチレンとポリメチルメタクリレート用いた場合には、ポリスチレンの方がポリメチルメタクリレートより酸素やCFをエッチャントとして用いるRIEに対するエッチング耐性が高い。このため、RIEによりポリメチルメタクリレートのみを選択的に除去することが可能である。
【0056】
ここでエッチングの方法について説明する。エッチング方法としては、不活性ガスを利用したスパッタリング現象による物理的なドライエッチングや、酸素、塩素系ガス、フッ素系ガスなどの反応性ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)を用いることがきる。また、プラズマの生成法として、電子サイクロトロン共鳴(ECR)によるプラズマや、誘導結合によるプラズマ(ICP)などがある。
【0057】
また、エッチングガスとしては、Ar,H,N,O,CO,CO,CF,CHF,CH,C,C,C,NH,Cl,BCl,及びSFなどの、よく知られたドライエッチングに使用するガスを単独もしくは混合して用いることができる。
【0058】
一方、薬品でのウエットエッチングを用いる場合、例えばポリスチレンの溶解には各種有機溶媒を利用することが可能であるが、ベンゼン、トルエン、キシレン、四塩化炭素、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどを用いることが好ましい。
【0059】
上記工程(3)で得られる積層構造体に樹脂製の被転写体を密着させて前記櫛型構造を前記被転写体に転写する工程(4)により櫛型構造を有する樹脂構造体を得ることができる。工程(4)において被転写体として使用される樹脂は流動性があり、硬化性があるいかなる材料にも適用されるけれども、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル・スチレン系共重合体、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリアミド系・オレフィン系・スチレン系・ウレタン系等の熱可塑性エラストマー、軟質塩化ビニル樹脂、フッソ系樹脂、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン系樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂等の熱硬化性樹脂、多官能アクリル系樹脂等の光硬化性樹脂を挙げることができる。
【0060】
これらの樹脂は必要に応じて、例えば、液体、滑剤、光安定剤、難燃剤、膠着防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、光開始剤、防曇剤、顔料、帯電防止剤、ブロッキング剤などの有機あるいは無機の添加剤を、単独でも、あるいは、これらの組み合わせを含有することができる。
【0061】
次に、図7を用いて、櫛型構造を有する基板の製造方法に係る工程(8)を含む他の実施形態について説明する。
図7(a)〜(b)にかけての工程は、すでに説明した図1(a)〜(b)にかけての工程と同等であるので、説明を省略する。
そして、図7(c)に示すように櫛型構造を有する樹脂構造体5を母型とし、前記構造体5上に、導電性膜6を堆積させる。次に、図7(d)に示すように所望の厚さに電鋳により電鋳層7を堆積させる。その後、図7(e)に示すように樹脂構造体5を剥離することにより櫛型構造を有する基板8を得ることができる。該櫛型構造を有する基板8は、櫛型構造を有する樹脂成形品の成形用金型として利用することができる。この図7(c)〜(e)は工程(8)に相当する。また、図6(a)〜(b)の工程で得られる櫛型構造を有する樹脂構造体5も前記金型の母型として用いることができる。
【0062】
ここで、導電性膜の形成方法は特に限定されないが、好ましくは真空蒸着、スパッタリング法を用いることができる。導電性膜としては、ニッケル、金、銀、白金、銅、アルミニウムなどが挙げることができる。
【0063】
また、電鋳により堆積される金属は特に限定されないが、ニッケル、銅、金、ニッケル−コバルト合金を挙げることができ、経済性、耐久性の観点からニッケルが好ましく用いられている。
【0064】
前記櫛型構造を有する樹脂成形品の成形用金型を用いて、樹脂成形品を形成することができる。樹脂成形品の成形方法は特に限定されないが、例えば熱インプリントや光インプリント等のインプリント法、射出成形、プレス成形、モノマーキャスト成形、溶剤キャスト成形、ホットエンボス成形、押出成形によるロール転写法等を挙げることができる。
【0065】
次に、図8を用いて、櫛型構造を有する基板の製造方法に係る他の実施形態について説明する。
図8(a)、(b)の工程は、すでに説明した図6(a)の工程と同等であるので、説明を省略する。なお上記図6(a)の説明において、工程(2)は工程(5)と同等である。
基板4上の積層構造体3から、目的とする樹脂2を選択的に完全に除去する工程(6)により図8(b)に示すような樹脂1が規則的に配列した櫛型構造を有する樹脂構造体5を得る。
そして、図8(c)に示すように前記櫛型構造を有する樹脂構造体5のうち、残存した樹脂1からなる樹脂列をマスクとして用いて、被成形体9を反応性イオンエッチング(RIE)またはその他のエッチング手法を用いてエッチング加工する工程(7)により、図8(d)に示すように被成形体9上に櫛型構造を有するの構造体10が形成される。この構造体10の表面に残存した樹脂1をRIEや溶媒で除去すると、図8(e)に示すように、櫛型構造を有する基板11が得られることになる。
【0066】
ここで、被成形体9は基板4と同じ物であっても良いし、異なっていても良い。被成形体9の材料としては、エッチング加工が可能なものであれば樹脂に限らず種々の材料が使用でき、Siウエハ、ガラス、樹脂など、その目的に合わせて選択することができる。
【0067】
上記工程(7)で得られた基板11に、樹脂製の被転写体を密着させて前記櫛型構造を前記被転写体に転写する工程(4)により櫛型構造を有する樹脂構造体を得ることができる。
【0068】
前記櫛型構造を有する基板11も図7(b)の樹脂構造体5に替えて、工程(8)の電鋳による櫛型構造を有する基板8の母型として利用でき、得られた櫛型構造を有する基板8は櫛型構造を有する樹脂成形品の成形用金型として利用できる。
【0069】
以上述べた櫛型構造を有する構造体の製造方法により、アスペクト比が大きく、かつ大面積の櫛型構造を有する構造体を製造することができる。
【0070】
また、前記の積層構造体3を構成する2種類の樹脂のピッチ間や層幅、ならびに積層構造体3のサイズは、目的とするパターンのサイズに応じて選択する必要がある。本発明の目的は従来のトップダウン的手法、自己組織化を応用した手法では困難な大面積、かつ微細な櫛型構造を形成することにある。積層構造体3を構成する2種類の樹脂のピッチ間や層幅は、積層構造体3作製時の、2種類の樹脂の押出量を調整することや、積層数を変化させることで簡便に制御することができる。
【0071】
本発明の製造方法により得られた櫛型構造を有する基板は、容易に作製、かつ大面積化できることから、様々な用途に適用することが可能である。例えば、無反射板、波長選択フィルター、偏光変換素子等の光学部品、細胞培養、筋繊維の分析等のバイオデバイスや、太陽電池の半導体部品、情報録媒体や磁気記録媒体等への適用が可能である。
【実施例】
【0072】
次に本発明の実施例を説明する。ただし、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0073】
<実施例1> 使用する材料としてポリメチルメタクリレート(PMMA、株式会社クラレ社製、パラペットG)を樹脂Aとし、樹脂Bとしてポリスチレン(PS、東洋スチレン社製、HRM−1に)を準備した。樹脂Aは、一昼夜80℃で乾燥した後、樹脂AおよびBを押出機に供給した。
【0074】
樹脂AおよびBは、それぞれ押出機にて温度240℃の溶融状態とし、ギヤポンプにて吐出比が樹脂A/樹脂B=1/1になるように計量しながら、積層流入り口から、L流路とR流路とを交互に、すなわち、L流路/R流路/L流路・・・/L流路/R流路と合計10段組み合わせた金型(プレート)を用いた多積層押出成形機に導入した。
これにより、幅3mm×長さ30mmの樹脂構造体の中に幅方向に樹脂Aの層と樹脂Bの層が交互に2049層積層された構造体を作製した。
【0075】
上記の構造体から、精密低速切断機を用いて積層構造が断面に表出するように断片(幅方向−厚み方向断面)を切り出し、ミクロトームを用いて切り出した断片の表面の平坦化を行った。
【0076】
次に、得られた積層体の切り出し断片表面を500Wの出力で酸素プラズマエッチングし、PMMA層を除去した。得られた構造体の表面を走査電子顕微鏡(SEM)により観察した。図5に示したSEM像において、表面にはPMMA層が分解、除去され、PSt層が残ったことによって、PMMA層によるPMMA領域とPS層によるPS領域とが、樹脂構造体表面に深さ890nm、幅1000nmの微細な櫛型形状が長さ方向30mmに渡って配列した状態が観察された。
【符号の説明】
【0077】
1、2 異なる2種類の樹脂
3 積層構造体
4 基板
5 櫛型構造を有する樹脂構造体
6 導電性膜
7 電鋳層
8 櫛型構造を有する基板
9 被成形体
10 櫛型構造を有する樹脂構造体
11 櫛型構造を有する基板
110 L流路の全工程
111 L流路の分割機構
112 L流路の分岐機構
113 L流路の再配置合流機構
114 L流路の安定機構
A L流路の分割機構の分割点
B L流路の流動方向の中間点
C L流路の再配置合流機構の合流点
P1 積層流
P2 L流路の分割機構で上方向に分割された積層流
P3 L流路の分割機構で下方向に分割された積層流
P4 L流路の再配置合流機構で合流した積層流
120 R流路の全工程
121 R流路の分割機構
122 R流路の分岐機構
123 R流路の再配置合流機構
124 R流路の積層流安定機構
D R流路の分割機構の分割点
E R流路の流動方向の中間点
F R流路の再配置合流機構の合流点
P5 R流路の分割機構で上方向に分割された積層流
P6 R流路の分割機構で下方向に分割された積層流
P7 R流路の再配置合流機構で合流した積層流
12 分割プレート
13 配列プレート
14 並列プレート
15 開口部
16 開口部
17 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた積層流を、上下に2分割し、分割した上部の積層流を第1の積層流、下部の積層流を第2の積層流とし、前記第1の積層流を流動方向に向かって左方向に導き、前記第2の積層流を流動方向に向かって右方向に導き、次いで、前記第1の積層流を流動方向の中心に向けて右下方向に、前記第2の積層流を流動方向の中心に向けて左上方向に導き、その後、前記第1の積層流と前記第2の積層流とを左右方向に隣接して再配置し合流させる工程L(L流路)と、
少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた積層流を、上下に2分割し、分割した上部の積層流を第3の積層流とし、下部の積層流を第4の積層流とし、前記第3の積層流を流動方向に向かって右方向に導き、前記第4の積層流を流動方向に向かって左方向に導き、次いで、前記第3の積層流を流動方向の中心に向けて左下方向に、前記第4の積層流を流動方向の中心に向けて右上方向に導き、その後、前記第3の積層流と前記第4の積層流とを左右方向に隣接して再配置し合流させる工程R(R流路)と、を有し、
前記工程L(L流路)、前記工程R(R流路)をこの順で少なくとも3工程以上、交互に繰り返すことを特徴とする積層構造体を形成する工程(1−1)と、前記積層構造体の主面に、前記2種類以上の異なる熱可塑性樹脂が配列して露出した表面を形成する工程(2)と、前記表面から前記積層構造体を構成する熱可塑性樹脂の内の少なくとも1種類の樹脂を優先的に除去することで前記切断面上に櫛型の凹凸構造を形成する工程(3)とを、含むことを特徴とする櫛型構造を有する樹脂構造体の製造方法。
【請求項2】
少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた積層流を、上下に2分割し、分割した上部の積層流を第1の積層流、下部の積層流を第2の積層流とし、前記第1の積層流を流動方向に向かって右方向に導き、前記第2の積層流を流動方向に向かって左方向に導き、次いで、前記第1の積層流を流動方向の中心に向けて左下方向に、前記第2の積層流を流動方向の中心に向けて右上方向に導き、その後、前記第1の積層流と前記第2の積層流とを左右方向に隣接して再配置し合流させる工程R(R流路)と、
少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた積層流を、上下に2分割し、分割した上部の積層流を第3の積層流、下部の積層流を第4の積層流とし、前記第3の積層流を流動方向に向かって左方向に導き、前記第4の積層流を流動方向に向かって右方向に導き、次いで、前記第3の積層流を流動方向の中心に向けて右下方向に、前記第4の積層流を流動方向の中心に向けて左上方向に導き、その後、前記第3の積層流と前記第4の積層流とを左右方向に隣接して再配置し合流させる工程L(L流路)と、を有し、
前記工程R(R流路)、前記工程L(L流路)をこの順で少なくとも3工程以上、交互に繰り返すことを特徴とする積層構造体を形成する工程(1−2)と、前記積層構造体の主面に、前記2種類以上の異なる熱可塑性樹脂が配列して露出した表面を形成する工程(2)と、前記表面面から前記積層構造体を構成する熱可塑性樹脂の内の少なくとも1種類の樹脂を優先的に除去することで前記切断面上に櫛型の凹凸構造を形成する工程(3)とを、含むことを特徴とする櫛型構造を有する樹脂構造体の製造方法。
【請求項3】
前記工程L(L流路)および前記工程R(R流路)が、少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた所定の幅と厚みの積層流を形成し、
分割点において、前記積層流を上下に2分割し、分割した上部の積層流を第1の積層流とし、下部の積層流を第2の積層流とし、
分岐点において、前記第1の積層流と前記第2の積層流を左右に分岐し、
合流点において、前記第1の積層流と前記第2の積層流を左右に隣接して再配置し合流させる流路であり、前記積層流の幅と前記厚みのうち長い方の長さをL1とし、前記分岐点から前記合流点までの流動進行方向の長さをL2としたとき、前記所定の幅と厚みを有する積層流が、L2/L1≧1.1の関係を満たすことを特徴とする
請求項1または2記載の櫛形構造を有する樹脂構造体の製造方法。
【請求項4】
前記工程(3)において、前記積層構造体の表面から除去速度の差を利用して前記積層構造体を構成する熱可塑性樹脂の内の少なくとも1種類の樹脂を優先的に除去する工程を含むことを特徴とする請求項1〜3に記載の櫛型構造を有する樹脂構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の前記工程(3)に次いで、櫛型の凹凸構造を有する前記積層構造体の前記表面に樹脂製の被転写体を密着させて、前記櫛型構造を前記被転写体に転写する工程(4)を含むことを特徴とする櫛型構造を有する樹脂構造体の製造方法。
【請求項6】
前記請求項1または2に記載の積層構造体を形成する工程(1−1)または工程(1−2)と、前記積層構造体の対向する2つの主面に、前記2種類以上の異なる熱可塑性樹脂が配列して露出した対向する2つの表面を有する積層体を得る工程(5)と、前記対向する2つの表面を有する積層体を構成する熱可塑性樹脂の内の少なくとも1種類の樹脂を完全に除去する工程(6)と、前記工程(6)で残存した他の樹脂をマスクとして用い、被成形体をエッチングすることにより、前記被成形体表面に櫛型の凹凸構造を形成する工程(7)を含むことを特徴とする櫛型構造を有する構造体の製造方法。
【請求項7】
前記工程L(L流路)および前記工程R(R流路)が、少なくとも2つの溶融樹脂を縦方向に配列して隣接させた所定の幅と厚みの積層流を形成し、
分割点において、前記積層流を上下に2分割し、分割した上部の積層流を第1の積層流とし、下部の積層流を第2の積層流とし、
分岐点において、前記第1の積層流と前記第2の積層流を左右に分岐し、
合流点において、前記第1の積層流と前記第2の積層流を左右に隣接して再配置し合流させる流路であり、前記積層流の幅と前記厚みのうち長い方の長さをL1とし、前記分岐点から前記合流点までの流動進行方向の長さをL2としたとき、前記所定の幅と厚みを有する積層流が、L2/L1≧1.1の関係を満たすことを特徴とする
請求項7記載の櫛形構造を有する構造体の製造方法。
【請求項8】
前記工程(7)に次いで、櫛型の凹凸構造を有する前記被成形対表面に樹脂製の被転写体を密着させて、前記櫛型構造を前記被転写体に転写する工程(4)を含むことを特徴とする櫛型構造を有する樹脂構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の構造体の製造方法により得られる構造体の表面構造を電鋳法により転写する工程(8)を含むことを特徴とする樹脂構造体成形用金型の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の樹脂構造体成形用金型の製造方法により得られる金型を用いて製造した櫛型構造を有する樹脂成形体。
【請求項11】
請求項5または8に記載の櫛型の凹凸構造を有する構造体の製造方法により得られる櫛型構造を有する樹脂成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−186276(P2012−186276A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47654(P2011−47654)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】