欠陥アデノウイルスおよび対応補足系
【課題】宿主細胞または生物における外来ヌクレオチド配列の移入および発現用の新規欠陥アデノウイルスを提供する。
【解決手段】複製に欠陥があり、補足細胞中に包膜することができて、5´から3´にかけて5´ITR、包膜化領域、E1A領域、E1B領域、E2領域、E3領域、E4領域、および3´ITRを含んだアデノウイルスのゲノムから、(i)E1A領域の全部または一部、および初期タンパク質をコードするE1B領域の部分全体、または(ii)E1A領域の全部または一部、およびE2およびE4領域から選択される少くとも1つの領域の全部または一部、または(iii)E1A領域の全部または一部、および包膜化領域の部分の欠失により誘導される、アデノウイルスベクター。
【解決手段】複製に欠陥があり、補足細胞中に包膜することができて、5´から3´にかけて5´ITR、包膜化領域、E1A領域、E1B領域、E2領域、E3領域、E4領域、および3´ITRを含んだアデノウイルスのゲノムから、(i)E1A領域の全部または一部、および初期タンパク質をコードするE1B領域の部分全体、または(ii)E1A領域の全部または一部、およびE2およびE4領域から選択される少くとも1つの領域の全部または一部、または(iii)E1A領域の全部または一部、および包膜化領域の部分の欠失により誘導される、アデノウイルスベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は宿主真核細胞または生物への対象遺伝子の移入と発現とが可能な新規欠陥アデノウイルスベクター、およびこれら組換えアデノウイルスのゲノムから欠失された必須ウイルス機能をイントランス(in trans)で補う新規補足系に関する。本発明は、特にヒトにおける、遺伝子治療の展望上特別な関心がもたれるものである。
【0002】
アデノウイルスは広い宿主範囲を示すDNAウイルスである。それらは多数の動物種および多数の細胞で実証されている。ゲノム配列に関して特に異なる多数の血清型が存在する。ほとんどのヒトアデノウイルスはほんのわずかに病原性であり、通常良性の症状を示すだけである。
【0003】
アデノウイルスは特定レセプターを介して受容宿主細胞に入り、その後それはエンドソーム中に取り込まれる。それらの酸性化が、ウイルスのコンホメーション変化と細胞質中へのその出現に寄与している。複製サイクルの第一工程に必要とされるある種のウイルスタンパク質に関係するウイルスDNAが、次いで感染細胞の核に入り、そこでその転写が細胞酵素により開始される。アデノウイルスDNAの複製は感染細胞の核で起こり、細胞複製を必要としない。新たなビリオンのアセンブリーも核で起こる。第一段階において、ウイルスタンパク質は二十面体構造の中空キャプシドを形成するように集合化して、それからアデノウイルスDNAが包膜(encapsidated)される。ウイルス粒子またはビリオンが感染細胞から放出され、他の受容細胞に感染することができる。
【0004】
アデノウイルスの感染サイクルは二つの工程、即ち:
‐アデノウイルスゲノムの複製の開始の前であって、かつウイルスDNAの複製および転写に関与する調節タンパク質の生産が行なわれる前期、および
‐構造タンパク質の合成を導く後期
で生じる。
【0005】
一般的には、アデノウイルスゲノムは、30以上のタンパク質をコードする配列を含んだ、長さ約36kbの二本直鎖DNA分子からなる。その両末端には、ITR(逆方向末端反復)と呼ばれる、血清型に応じた100〜150ヌクレオチドの短逆方向配列が存在している。ITRはアデノウイルスゲノムの複製に関与する。約300ヌクレオチドの包膜化領域は、ゲノムの5´末端において5´ITRの直後に位置している。
【0006】
初期遺伝子は、アデノウイルスゲノム中に分散した、E1〜E4(Eは“初期”を表す)と表示される4領域に分布している。初期領域はそれら自体のプロモーターを有した少くとも6つの転写単位を含んでいる。初期遺伝子の発現はそれ自体調節され、一部の遺伝子は他よりも前に発現される。3つの領域E1、E2およびE4は各々ウイルス複製にとり必須である。このため、アデノウイルスがこれら機能の1つに欠陥がある場合、即ちアデノウイルスがこれら領域の1つによりコードされる少くとも1つのタンパク質を生産できない場合には、このタンパク質はイントランスでそれに供給されねばならない。
【0007】
E1初期領域はアデノウイルスゲノムの5´末端に位置し、2つのウイルス転写単位E1AおよびE1Bを各々含んでいる。この領域はウイルスサイクルに非常に初期に関与するタンパク質をコードし、アデノウイルスのほぼすべての他の遺伝子の発現にとり必須である。特に、E1A転写単位は、他のウイルス遺伝子の転写をトランス活性化するタンパク質をコードしており、E1B、E2A、E2BおよびE4領域のプロモーターからの転写を誘導する。
【0008】
2つの転写単位E2AおよびE2Bをもまた含んだE2領域の産物は、ウイルスDNAの複製に直接関与している。この領域は、一本鎖DNAと強い親和性を示す72kDa タンパク質と、DNAポリメラーゼの合成とを特に支配している。
【0009】
E3領域はウイルスの複製にとり必須ではないがアデノウイルス感染の際に宿主免疫反応の阻害に関与するらしい少くとも6つのタンパク質をコードしている。特に、gp19kDa 糖タンパク質は、宿主細胞毒性T細胞による感染細胞の細胞溶解に関与するCTL応答を妨げると考えられる。
【0010】
E4領域はアデノウイルスゲノムの3´末端に位置する。そして、それは後期遺伝子の発現、後期メッセンジャーRNA(mRNA)の安定性、前期から後期への移行、そして更に細胞タンパク質合成の阻害に関与する多数のポリペプチドをコードしている。
【0011】
ウイルスDNAの複製が開始されると、後期遺伝子の転写が始まる。これらはアデノウイルスゲノムの大部分を占め、初期遺伝子の転写単位と一部重複している。しかし、それらは異なるプロモーターから別のスプライシング様式に従い転写され、そのため同一配列が異なる目的に用いられる。後期遺伝子のほとんどは主要後期プロモーター(MLP)から転写される。このプロモーターは長鎖一次転写産物の合成を行い、その後これは約20のメッセンジャーRNA(mRNA)の形で成熟化され、そこからビリオンのキャプシドタンパク質が生産される。キャプシドを構成する構造タンパク質IXをコードする遺伝子は、アデノウイルスゲノムの5´末端に位置し、その3´末端でE1B領域と重っている。タンパク質IX転写単位は、E1B転写単位と同じ転写終結シグナルを利用している。
【0012】
いくつかのアデノウイルスは現在遺伝的および生化学的にかなり特徴付けされている。ヒトアデノウイルスタイプ5(Ad5)の場合、その配列は参照番号M73260としてGenebankデータバンクで開示されている。アデノウイルスゲノムで異なる遺伝子を正確に位置決めすることができた。そこでは5´から3´にかけて103bp5´ITR、その後に約300bp包膜化領域(Hearing et al.,1987,J.Virol.,61,2555-2558)、次いでその位置が図1に示されている初期および後期領域と、最後に3´ITRを含んでいる。
【0013】
アデノウイルスが、対象遺伝子移入用の選択ベクターとしうる有利な特徴を備えていることは、前記から明らかである。多数の組換えアデノウイルスが文献に記載されている(Rosenfeld et al.,1991,Science,252,431-434;Rosenfeld et al.,1992,Cell,68,143-155)。一般的に言えば、それらはAd5から誘導され、環境および宿主生物でのそれらの伝播を避けうるようにE1機能に欠陥がある。加えて、非必須E3領域も欠失させることができる。外来配列が、E1またはE3領域に代えて組み込まれる。
【0014】
このため、これらの欠陥アデノウイルスは、ウイルス複製に必須であるE1機能をイントランスで補うセルラインでのみ増殖させることができる。現在、使用しうる唯一の補足系は胚腎臓系293(Graham et al.,1977,J.Gen .Virol.,36,59-72)であって、これは特にウイルスゲノムの5´末端を含んだAd5ゲノムの断片の染色体への組込みにより得られ、それによって系293はE1機能に欠陥があるアデノウイルスを補う。293細胞は欠陥組換えアデノウイルスにおいてまた見出される配列、例えば5´ITRと、包膜化領域と、初期タンパク質をコードする配列を含んだE1B領域の3´末端側の部分とを含んでいる。
【0015】
アデノウイルスを用いた遺伝子移入の実施の可能性は現在確立されている。しかしながら、それらの安全性の問題はなお解決されていない。実際に、それらは培養で一部の細胞系を形質転換することができ、少くとも一部の血清型において、本質的にE1とおそらくE4領域におけるアデノウイルスゲノムの発現産物の一部のものとしての潜在的な発癌性がもたらされる。更に、従来の欠陥アデノウイルス(特に組換えアデノウイルス)と、天然もしくは野生型アデノウイルス(宿主生物の偶発的汚染または日和見感染に起因する)または補足系293に組込まれたアデノウイルスゲノム断片との間の遺伝子組換えの蓋然性は微々たるものではない。実際に、1回の組換え現象は、E1機能を回復させ、環境に伝播しうる非欠陥組換えアデノウイルスを生じるのに十分である。欠陥アデノウイルスと同様の細胞に同時感染する野生型天然アデノウイルスがE1機能に関して前者を補って、2ウイルスの同時伝播を起こすという状況も考えられるさらに、一部タイプの真核細胞はE1A様活性を示すタンパク質を生産し、これはそれらに感染する欠陥アデノウイルスを部分的に補うこともできる。
【0016】
このため、有効な治療方法がないin vivo の重度の遺伝子欠陥を修正して、ある障害を治療するための遺伝子治療に用いるにあたり、最少の危険性を示し、自由に扱える有用なアデノウイルスベクターが望まれている。ヒトに適用される遺伝子治療の成否は、それを入手できるかどうかに依存している。
【0017】
更に、系293の入手に関しては疑問が存在している。その疑問により、それに由来するヒト用とされる産物の受容性が損なわれる傾向にある。ヒト用の組換えアデノウイルス粒子を生産するためには、起源および由来が正確に知られている、自由に扱える補足系があることが有用である。
【0018】
今般、(1)アデノウイルスゲノムのある特定領域が欠失された、インビボでの外来ヌクレオチド配列の移入により適した新規欠陥アデノウイルスベクター、および(2)薬学的観点から許容され、このためヒト用の産物の生産上要求されるすべての安全性を示す、新規の特徴付けされた補足系が見出された。
【0019】
これら新規ベクターの価値は、それらが1以上の大きな対象遺伝子の挿入が可能な高いクローニング能力を示し、かつ使用上最大の安全性を示すことである。有害変異は、対象遺伝子を移入および発現しうるそれらの能力を損うことなく、アデノウイルスを自律複製および細胞形質転換できなくする。
【0020】
このため、本発明の主題は、複製に欠陥があり、補足細胞中に包膜することができて、5´から3´にかけて5´ITR、包膜化領域、E1A領域、E1B領域、E2領域、E3領域、E4領域、および3´ITRを含んだアデノウイルスのゲノムから、
(i) E1A領域の全部または一部、および初期タンパク質をコードするE1B領域の部分全体、または
(ii) E1A領域の全部または一部、およびE2およびE4領域から選択される少くとも1つの領域の全部または一部、または
(iii) E1A領域の全部または一部、および包膜化領域の部分
の欠失により誘導される、アデノウイルスベクターである。
【0021】
本発明の目的において、“欠失”または“欠く”という用語は標的領域における少くとも1つのヌクレオチドの除去に関し、欠失は当然ながら連続でもまたは不連続でもよい。全部または一部とは、該当する領域の全体または部分のみの場合を意味する。上記領域によりコードされる少くとも1つの発現産物の生産を妨げる欠失が好ましい。このため、それらはコード領域または調節領域、例えばプロモーター領域に存在してよく、遺伝子の読取枠を壊すかまたはプロモーター領域を無機能化するように少くとも1つのヌクレオチドに影響を与えてもよい。欠失には、上記領域の1以上の遺伝子の部分的欠失またはその領域の全体の部分的欠失をも含む。
【0022】
本発明によるアデノウイルスベクターは複製に欠陥があるが、しかし補足細胞で複製および包膜することができる。宿主細胞にそのベクターを送達しうる能力を有しているために、宿主細胞で自律複製できないにもかかわらず感染性であるアデノウイルス粒子(欠陥アデノウイルスとも呼ぶこととする)を生じるように、欠陥があるものに産物をイントランスでそれを提供する。
【0023】
第一の例によると、本発明によるアデノウイルスベクターは、E1A領域の全部または一部、および初期タンパク質をコードする配列の全体を含んだE1B領域部分の欠失により、天然または野生型アデノウイルスのゲノムから誘導される。好ましい態様によれば、欠失はE1B領域の発現産物(即ち初期タンパク質をコードする配列)とプロモーターとに影響を与え、後期タンパク質IXをコードする配列と重複する転写終結シグナルの全部または一部を含まない。ヒトアデノウイルスタイプ5から誘導される本発明によるアデノウイルスベクターに関して、上記欠失にはアデノウイルスゲノムのヌクレオチド1634〜3509間にある配列から少くともなり、その配列は参照番号M73260としてGenebankデータバンクで開示されている。この欠失の目的は、本発明によるアデノウイルスベクターと、補足系(例えば系293)に組み込まれるアデノウイルスゲノム断片とに共通した配列を減少または消失させることである。更に、少くともE1A領域の発現産物と一緒に、発現産物が潜在的に発癌性である配列を本発明によるアデノウイルスベクターから除去することである。
【0024】
しかも、本発明によるアデノウイルスベクターは、天然または野生型アデノウイルスのゲノムから、:
‐E3領域の、および/または
‐E2領域の、および/または
‐E4領域の
全部または一部の欠失によって更に誘導される。
【0025】
本発明によるアデノウイルスベクターが上記3欠失のうち1つ、またはいずれかの組合せでそれらのうち2つ、またはすべての欠失を含むことができることは自明である。
【0026】
特に有利な態様によると、E3領域の一部のみ、好ましくはgp19kDa タンパク質、をコードする配列を含まない部分が、本発明によるアデノウイルスベクターから欠失される。本発明によるアデノウイルスベクターにgp19kDa タンパク質をコードする配列が存在することにより、感染細胞は宿主の免疫監視(即ち治療プロトコールがいくつかの反復投与を要するときの重要な基準)からのがれることができる。選択は、gp19kDa をコードする配列を、宿主細胞でそれらを発現させる適切な要素、即ちmRNAへの上記配列の転写とタンパク質への後者の翻訳に必要な要素のコントロール下において行うことが好ましい。これらの要素には特にプロモーターがある。このようなプロモーターは当業者に周知であり、遺伝子工学の慣用的技術で上記コード配列の上流に挿入される。選択されるプロモーターはE1A領域の発現産物の1つにより活性化されない構成プロモーターであることが好ましい。例として、HMG(ヒドロキシメチルグルタリル補酵素Aレダクターゼ)遺伝子プロモーター、SV40(シミアンウイルス40)ウイルス初期プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)LTR(長反復末端)または高等真核生物のPGK(ホスホグリセリン酸キナーゼ)遺伝子のプロモーターが挙げられる。
【0027】
更に、プロモーター領域に相当するE3領域の部分は本発明によるアデノウイルスベクターから場合により欠失させることができ、そのプロモーター領域は上記のような異種プロモーター領域に代えられる。
【0028】
第二の例によると、本発明によるアデノウイルスベクターは、E1A領域の全部または一部と、少くともE2および/またはE4領域の全部または一部とにおける連続または不連続欠失により、天然または野生型アデノウイルスのゲノムから誘導される。このような欠失により、対象遺伝子のクローニング可能性を増加させることができる。更に、E4領域の全部または一部の除去により、潜在的な発癌性産物をコードする配列を減少または消失させることもできる。
【0029】
上記のように、本発明によるアデノウイルスベクターは、特に上記のような態様に従い、E1Bおよび/またはE3領域の全部または一部を更に欠くことができる(例えば、初期タンパク質をコードする配列の全体を含むE1B領域の部分、およびgp19kDa タンパク質をコードしないE3領域の部分の欠失)。
【0030】
最後に、第三の例によると、本発明によるアデノウイルスベクターは、E1A領域の全部または一部と、包膜化領域の部分の欠失とにより、アデノウイルスのゲノムから誘導される。
【0031】
包膜化領域の部分的欠失により、本発明によるアデノウイルスベクターの無制御の伝播の可能性を、野生型アデノウイルスの存在下にあるとき有意に減少させることができる。このような欠失は、野生型アデノウイルスによるベクターの欠陥機能のイントランス相補によっても、競合野生型アデノウイルスのゲノムと比べて効率的に包膜できないように、その包膜化機能に影響を与えることができる。
【0032】
包膜化領域からの欠失は、2つの基準、即ち包膜される能力の減少と、同時に工業的生産に適合する残りの効力とに基づいて選択される。換言すれば、本発明によるアデノウイルスベクターの包膜化機能は実質上、但しもっと低い程度に維持される。弱毒化は、慣用的滴定技術により、適切な系を感染させて溶解プラークの数を調べることにより判定できる。このような技術は当業者に知られている。本発明において、包膜化効力は、野生株包膜化領域を有するコントロールアデノウイルスと比較して、2〜50分の1、有利には3〜20分の1、好ましくは5〜10分の1に減少している。
【0033】
当然ながら、本発明による弱毒化アデノウイルスベクターは上記欠失の少くとも1つまたは何らかの組合せも更に含むことができる。
【0034】
本発明によるアデノウイルスベクターは、天然または野生型アデノウイルス、有利にはイヌ、トリまたはヒトアデノウイルス、好ましくはヒトアデノウイルスタイプ2、3、4、5または7、最も好ましくはヒトアデノウイルスタイプ5(Ad5)のゲノムから誘導される。この後者の場合には、本発明によるアデノウイルスベクターの欠失は参照番号M73260としてGenebankデータバンクで特定されているAd5ゲノムのヌクレオチドの位置を参照して示される。
【0035】
ヒトアデノウイルスタイプ5のゲノムから、
(i) E1B領域の初期タンパク質をコードし、ヌクレオチド1634から始まり、ヌクレオチド4047で終わる部分の全体、および/または
(ii) ヌクレオチド32800〜35826にわたるE4領域、および/または
(iii) ヌクレオチド27871〜30748にわたるE3領域の部分、および/または
(iv) 下記包膜化領域の部分:
‐ヌクレオチド270〜ヌクレオチド346の範囲、または
‐ヌクレオチド184〜ヌクレオチド273の範囲、または
‐ヌクレオチド287〜ヌクレオチド358の範囲
の欠失により誘導される本発明によるアデノウイルスベクターが最も好ましい。
【0036】
好ましくは、本発明によるアデノウイルスベクターは野生型または天然アデノウイルスのゲノムから、そのゲノムの少くとも18%、少くとも22%、少くとも25%、少くとも30%、少くとも40%、少くとも50%、少くとも60%、少くとも70%、少くとも80%、少くとも90%または少くとも95%、特に98.5%の欠失により誘導される。
【0037】
特に好ましい態様によると、本発明によるアデノウイルスベクターは、5´および3´ITRと、包膜化領域の全部または一部とを除いたアデノウイルスゲノムの全体の欠失により、アデノウイルスのゲノムから誘導される。この例によると、それは組換えのリスクおよび発癌性のリスクを制限して最大のクローニング能力を有するような最少数のウイルス配列のみを含んでいる。このようなベクターは“最小”アデノウイルスベクターと称され、30kb以内の外来ヌクレオチド配列を挿入することが可能である。本発明による好ましいアデノウイルスベクターは、ヌクレオチド459〜35832にわたるウイルスゲノムの部分の欠失により、ヒトアデノウイルスタイプ5から誘導される。
【0038】
本発明に関して、本発明によるアデノウイルスベクターは、宿主細胞への外来ヌクレオチド配列の移入と、そこでのその発現をその目的として有する。“外来ヌクレオチド配列”は、コード配列とそのコード配列を発現させる調節配列を含んだ、コード配列がアデノウイルスのゲノムに通常存在しない配列である核酸を意味すると理解されている。調節配列はいかなる起源であってもよい。外来ヌクレオチド配列は、包膜化領域と3´ITRとの間に、遺伝子工学の標準技術で本発明によるアデノウイルスベクター中に導入される。
【0039】
外来ヌクレオチド配列は対象の、好ましくは治療対象の遺伝子1以上からなる。本発明に関して、対象遺伝子はアンチセンスRNA、または対象タンパク質に翻訳されるmRNAのいずれかをコードすることができる。対象遺伝子はゲノムタイプ、相補性DNA(cDNA)タイプまたは混合タイプ(少くとも1つのイントロンが欠失されているミニ遺伝子)である。それは成熟タンパク質、成熟タンパク質の前駆体、特に分泌されてこのためシグナルペプチドを含む前駆体、別起源の配列の融合によるキメラタンパク質、あるいは改善または改質された生物学的性質を示す天然タンパク質の変異体をコードすることができる。このような変異体は天然タンパク質をコードする遺伝子の1以上のヌクレオチドの変異、欠失、置換および/または付加により得られる。
【0040】
対象遺伝子は、宿主細胞でのその発現に適した要素のコントロール下においてよい。“適切な要素”とは、RNA(アンチセンスRNAまたはmRNA)へのその転写とタンパク質へのmRNAの翻訳とに必要な一連の要素を意味すると理解されている。転写に必要な要素の中では、プロモーターが特に重要と思われる。それは構成プロモーターまたは調節プロモーターであって、真核生物またはウイルス起源と更にはアデノウイルス起源の遺伝子から単離することができる。一方、それは該当する対象遺伝子の天然プロモーターであってもよい。一般的に言えば、本発明で用いられるプロモーターは調節配列を含むように修飾してもよい。例として、本発明で使用の対象遺伝子は、リンパ球宿主細胞へのその移入を目標にすることが望まれるときに、免疫グロブリン遺伝子のプロモーターのコントロール下におかれる。多数の細胞タイプで発現を行う、TK‐HSV‐1(ヘルペスウイルス、タイプ1チミジンキナーゼ)遺伝子プロモーター、または一方で特にヒトアデノウイルスタイプ2のアデノウイルスMLPプロモーターも挙げられる。
【0041】
本発明に関して使用しうる対象遺伝子の中では、以下が挙げられる:
‐サイトカイン、例えばインターフェロンα、インターフェロンγ、インターロイキンをコードする遺伝子、 ‐膜レセプター、例えば病原生物(ウイルス、細菌または寄生虫)、好ましくはHIVウイルス(ヒト免疫不全ウイルス)により認識されるレセプターをコードする遺伝子、
‐凝固因子、例えば因子VIIIおよび因子IXをコードする遺伝子、
‐ジストロフィンをコードする遺伝子、
‐インスリンをコードする遺伝子、
‐細胞イオンチャンネルに直接または間接的に関与するタンパク質、例えばCFTR(嚢胞性繊維症経膜伝達レギュレーター)タンパク質をコードする遺伝子、
‐病原生物のゲノムに存在する病原遺伝子によるかまたは発現が調節解除される細胞遺伝子、例えば癌遺伝子により生産されるタンパク質の活性を阻害できるアンチセンスRNAまたはタンパク質をコードする遺伝子、
‐酵素活性を阻害するタンパク質、例えばα1‐アンチトリプシンまたはウイルスプロテアーゼ阻害物質をコードする遺伝子、
‐生物学的機能を損うように変異された病原タンパク質の変異体、例えば標的配列に結合する上で天然タンパク質と競合して、それによりHIVの活性化を妨げうる、例えばHIVウイルスのTATタンパク質のトランス優性変異体をコードする遺伝子、
‐宿主細胞免疫を増加させるために抗原性エピトープをコードする遺伝子、
‐主要組織適合性複合体クラスIおよびIIタンパク質をコードする遺伝子と、これら遺伝子のインデューサーであるタンパク質をコードする遺伝子、
‐細胞酵素または病原生物により生産されるものをコードする遺伝子、および
‐自殺遺伝子。TK‐HSV‐1自殺遺伝子が特に挙げられる。ウイルスTK酵素は、あるヌクレオシドアナログ(例えば、アシクロビアまたはガンシクロビア)に対して細胞TK酵素と比べ著しく大きな親和性を示す。それはそれらを一リン酸分子に変換するが、これは毒性であるヌクレオチド前駆体にそれ自体が細胞酵素により変換されうる。これらのヌクレオチドアナログは合成中のDNA分子、ひいては主に複製状態にある細胞のDNA中に組み込むことができる。この組込みにより分裂細胞、例えば癌細胞を特に破壊することができる。
【0042】
上記リストは限定的なものではなく、他の対象遺伝子も本発明に関して用いてよい。
【0043】
更に、本発明のもう1つの態様によると、本発明によるアデノウイルスベクターは、非アデノウイルス転写をトランス活性化するタンパク質をコードする非治療遺伝子を更に含むことができる。当然ながら、トランス活性化タンパク質をコードするE1A領域の遺伝子、その発現はアデノウイルスを非欠陥にするリスクを生じる、は避けられる。Saccharomyces cerevisiae Gal4 タンパク質をコードする遺伝子が選択されることが好ましい。その発現により、ベクターを補足系、例えば下記で増殖させることができる。このような系はより洗練させて、アデノウイルス補足性タンパク質の連続生産による起こりうる毒性の問題を軽減することができる。転写をトランス活性化するタンパク質をコードする遺伝子は、必要であれば、その発現に適した要素、例えば対象遺伝子を発現させる要素のコントロール下においてもよい。
【0044】
本発明は、アデノウイルス粒子に加えて、本発明によるアデノウイルスベクターを含んだ真核宿主細胞にも関する。上記細胞は有利には哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞であり、ゲノム中に組込み形で、または好ましくは非組込み(エピソーム)形で上記ベクターを含むことができる。
【0045】
本発明によるアデノウイルス粒子は、本発明によるアデノウイルスベクターに欠陥がある機能をイントランスで付与するいずれかの補足系、例えば従来の系293、で継代により生産してもよい。これらの生産技術は当業者に知られている(Graham and Prevec,1991,Methods inMolecular Biology,vol.7,109-128,Ed:E.J.Murey,The Human Press Inc.) 。場合により、本発明によるアデノウイルス粒子は、下記のような本発明による補足系で作製してもよい。
【0046】
よって、本発明は、特に5´ITRを除くアデノウイルスのゲノムのE1領域の部分を含む補足要素を含んだ補足系にも関し、上記補足要素は欠陥アデノウイルスベクターをイントランスで補い、上記補足系のゲノムに組込むかまたは発現ベクター中に挿入することができる。
【0047】
本発明に関して、“補足系”という用語は、アデノウイルスベクターに欠陥がある機能をイントランスで付与しうる真核細胞に関する。換言すれば、それは上記アデノウイルスベクターの複製および包膜に必要なタンパク質、それ自ら生産できないウイルス粒子を作る上で要求される初期および/または後期タンパク質を生産することができる。当然ながら、上記部分はヌクレオチドの変異、欠失および/または付加により修飾してもよいが、但しこれらの修飾は補足性に関してその能力を損ってはならない。このため、E1機能に欠陥があるアデノウイルスベクターは(ベクターが生産できないE1領域によりコードされるタンパク質または一連のタンパク質をイントランスで供給できる)E1用の補足系で増殖されなければならず、E1およびE4機能に欠陥があるベクターは(E1およびE4領域によりコードされる必要タンパク質を供給する)E1およびE4用の補足系で増殖され、最後にE1、E2およびE4機能に欠陥があるベクターはその3機能用の補足系で増殖される。冒頭に挙げられたE3領域は非必須であり、特に補足される必要はない。
【0048】
本発明による補足系は、無制限に分裂しうる不死化細胞系または一次系から誘導される。本発明により追求される目的によると、本発明による補足系はいずれかの欠陥アデノウイルスベクター、特に本発明による欠陥アデノウイルスベクターの包膜に有用である。このため、“欠陥アデノウイルスベクター”という用語が以下で用いられるとき、それは従来または本発明いずれかの欠陥ベクターに関すると理解されるべきである。
【0049】
“補足要素”は、本発明に関して使用上アデノウイルスゲノムの部分を少くとも含んだ核酸を意味すると理解される。それは例えばプラスミドまたはウイルスタイプのベクター、例えばレトロウイルスまたはアデノウイルスベクター、あるいはポックスウイルスに由来するものに挿入することができる。それでも、それが本発明による補足系のゲノムに組込まれている場合が好ましい。ベクターまたは核酸を細胞系中に導入して、できればそれを細胞のゲノムに組込む方法は、このような目的に使用できるベクターのように、当業者に周知の慣用的技術である。補足要素は本発明による補足系中に予めまたは欠陥アデノウイルスベクターに伴い導入することができる。
【0050】
特別の態様によると、本発明による補足系はE1機能に関して欠陥アデノウイルスベクターをイントランスで補うように考えられている。このような系は組換えのリスクを減少させるという利点を有しているが、その理由は従来の系293と異なりベクター中に存在する5´ITRを欠いているからである。
【0051】
本発明に関して、本発明による補足系はアデノウイルスのゲノムのE1A領域の全部または一部と、
(i)E1B、E2およびE4領域から選択されるアデノウイルスのゲノムのうち少くとも1領域の全部または一部、または
(ii)上記ゲノムのE1B、E2およびE4領域のうち少くとも2領域の全部または一部、または
(iii) 上記ゲノムのE1B、E2およびE4領域の全部または一部
を含むことができる。
【0052】
本発明に関して、上記領域はそれらを発現させる適切な要素のコントロール下に必要であればおいてもよいが、E1A領域によりコードされる転写をトランス活性化するタンパク質により誘導しうるそれら自体のプロモーターのコントロール下にそれらをおくことが好ましい。
【0053】
指針として、E1A、E1BおよびE4領域を含んだ例(ii)による補足系は、E1およびE4領域に欠陥があって対応領域の全部または一部が欠失されたアデノウイルスの生産に向けられる。
【0054】
有利な態様によると、本発明による補足系は、特にE1A領域の全部または一部と、E1B領域の初期タンパク質をコードする配列の全体を含んでいる。
【0055】
更に、この態様の例によると、本発明による補足系はE1A領域のプロモーター領域を更に欠くことができる。この場合に、上記E1A領域の初期タンパク質をコードするアデノウイルスのゲノムの部分は、上記補足系で機能する適切な異種プロモーターのコントロール下におかれる。それはいずれの真核またはウイルス遺伝子からも単離することができる。しかしながら、初期領域のアデノウイルスプロモーターの使用は避けうる。該当するプロモーターは構成プロモーターである。例として、SV40ウイルス、TK‐HSV‐1遺伝子およびネズミPGK遺伝子プロモーターも挙げられる。
【0056】
一方、選択されるプロモーターは、非アデノウイルス転写をトランス活性化するタンパク質により調節および有利には誘導しうる。それは天然誘導性遺伝子から単離されたプロモーターであっても、あるいは上記トランス活性化タンパク質に応答する活性化配列(または上流活性化配列を表すUAS)の付加により修飾されたいずれのプロモーターであってもよい。更に具体的には、Saccharomyces cerevisiae Gal4 タンパク質により誘導されうるプロモーター、好ましくは何らかの種類の遺伝子(例えば、TK‐HSV‐1遺伝子またはAd2 MLP)の転写開始配列(TATAボックスおよび開始部位)のみを含むいわゆる“最小”プロモーターからなるハイブリッドプロモーターを用いることが好ましく、その上流にはSaccharomyces cerevisiae Gal10遺伝子の少くとも1つの活性化配列が挿入される(Webster et al.,1988,Cell,52,169-178) 。後者の配列は化学的に合成しても、または遺伝子工学の標準技術に従いGal10 遺伝子から単離してもよい。こうしてハイブリッドプロモーターは活性化され、Gal4タンパク質の存在下のみで、そのコントロール下におかれたE1A領域によりコードされる遺伝子の発現を誘導する。次いでE1A領域の発現産物は、本発明による補足系に場合により含まれる他のE1B、E2および/またはE4初期領域の発現を誘導することができるようになる。本発明のこの具体的態様は、補足性に必要なアデノウイルスタンパク質の構成的生産(おそらく毒性)を回避する。このため、誘導はGal4タンパク質を発現する本発明による欠陥アデノウイルスベクターの存在下で誘発される。しかしながら、このような系はイントランスでGal4タンパク質を供給する条件でいずれかの欠陥アデノウイルスベクターを生産するために用いてもよい。イントランスでタンパク質を供給する手段は当業者に知られている。
【0057】
一般的に、補足系は動物アデノウイルスから有利に誘導されるアデノウイルス、例えばイヌまたはトリアデノウイルス、あるいは好ましくはヒトアデノウイルス、最も好ましくはタイプ2または5のゲノムの部分を含んでなる。
【0058】
本発明による補足系は、
(i) 参照番号M73260としてGenebankデータバンクで開示されている配列のヌクレオチド100〜ヌクレオチド5297、または
(ii) ヌクレオチド100〜ヌクレオチド4034、または
(iii) ヌクレオチド505〜ヌクレオチド4034
にわたるヒトアデノウイルスタイプ5のゲノムの部分を特に含んでいる。
【0059】
有利には、(ii)によるゲノムの部分は転写終結シグナル、例えばSV40(シミアンウイルス40)またはウサギβ‐グロビン遺伝子のポリアデニル化シグナルの上流に挿入される。一方、E1A領域のプロモーター配列もE1B領域の転写終結シグナルも含まない(iii) の部分は、適切なプロモーター、特にGal4タンパク質により誘導しうるプロモーターと、転写終結シグナル、例えばウサギβ‐グロビン遺伝子とのコントロール下におかれる。このような補足系は特に安全であると考えられ、その理由はそれが欠陥アデノウイルスと共通した配列の大部分を欠いているからである。
【0060】
更に、本発明による補足系は、参照番号M73260としてGenebankデータバンクで開示されている配列のヌクレオチド32800から始まりヌクレオチド35826で終わるヒトアデノウイルスタイプ5のE4領域の部分を含むことができる。
【0061】
更に、本発明による補足系は、包膜化領域と、5´および3´ITRと、そして最も好ましくは参照番号M73260としてGenebankデータバンクで開示されている配列のヌクレオチド505から始まりヌクレオチド35826で終わるヒトアデノウイルスタイプ5のゲノムの部分とを除いて、天然アデノウイルスのゲノムの全体を含むことができる。本発明の目的から、この部分は適切なプロモーターのコントロール下におかれる。Saccharomyces cerevisiae Gal4 タンパク質により誘導されうるプロモーターを用いるのが好ましい。このような系によれば、E1、E2およびE4機能に欠陥があるアデノウイルスベクター、特に本発明による最小アデノウイルスベクターの複製および包膜化に必須な機能のすべてをイントランスで補うことができる。
【0062】
好ましい態様によると、本発明による補足系は、それを含有した細胞を検出および単離できる選択マーカーをコードする遺伝子を更に含んだ補足要素を含有することができる。本発明に関して、これは選択マーカーをコードするいずれの遺伝子であってもよく、このような遺伝子、有利には抗生物質耐性に関する遺伝子、好ましくはプロマイシン耐性を付与するプロマイシンアセチルトランスフェラーゼ(pac遺伝子)をコードする遺伝子は通常当業者に知られている。
【0063】
本発明に関して、選択マーカーをコードする遺伝子は、その発現を行う適切な要素のコントロール下においてもよい。これらには構成プロモーター、例えばSV40ウイルス初期プロモーターがある。しかしながら、E1A領域によりコードされるトランス活性化タンパク質で誘導されうるプロモーター、特にE2Aアデノウイルスプロモーターが好ましい。このような組合せは、本発明による補足系でE1A領域の遺伝子の発現を維持するための選択の圧力を誘導する。本発明の目的から、選択されるプロモーターはヌクレオチドの欠失、変異、置換および/または付加により修飾されていてもよい。
【0064】
最も好ましい態様によると、本発明による補足系は薬学的観点から許容される細胞系から誘導される。“薬学的観点から許容される細胞系”は、特徴付けられて(その起源および由来が知られている)および/またはヒト用の産物の大規模生産(高度臨床試験用バッチまたは販売用バッチのアセンブリー)に既に用いられた細胞系を意味すると理解されている。このような系はATCCのような組織から入手できる。この点においては、Veroアフリカミドリザル腎臓、BHKゴールデンまたはSyrianハムスター腎臓系、肺癌腫に由来するA549ヒト系と、MRC5ヒト肺、W138ヒト肺およびCHOチャーニーズハムスター卵巣系が挙げられる。
【0065】
一方、本発明による補足系は一次細胞、特にヒト胚から採取される網膜細胞から誘導することができる。
【0066】
本発明は本発明によるアデノウイルス粒子の生産方法にも関し、それによれば
‐本発明によるアデノウイルスベクターが、トランスフェクトされた補足系を得るために、上記ベクターをイントランスで補える補足系中に導入され、
‐上記補足系が上記アデノウイルス粒子の生産を行うために適した条件に従い培養され、および
‐上記粒子が細胞培養で回収される。
【0067】
当然ながら、アデノウイルス粒子は培養上澄から、但し慣用的プロトコールにより細胞からも回収される。
【0068】
好ましくは、本発明による方法では本発明による補足系を用いる。
【0069】
本発明の主題は、本発明によるアデノウイルスベクター、アデノウイルス粒子、真核宿主細胞または補足系の治療または予防のための使用にも関する。
【0070】
最後に、本発明は、薬学的観点から許容されるビヒクルとともに、本発明によるアデノウイルスベクター、アデノウイルス粒子、真核細胞または相補細胞を治療または予防剤として含んでなる、医薬組成物に関する。
【0071】
本発明による組成物は、疾患、例えば
‐遺伝障害、例えば血友病、嚢胞性繊維症またはデュシェーヌおよびベッカータイプ筋障害、
‐癌、例えば癌遺伝子またはウイルスにより誘導される癌、
‐レトロウイルス疾患、例えばエイズ(HIV感染に起因する後天性免疫不全症候群)、および
‐再発ウイルス疾患、例えばヘルペスウイルス誘導感染の予防または治療用として特に考えられている。
【0072】
本発明による医薬組成物は常法で製造される。特に、治療有効量の治療または予防剤が、ビヒクル、例えば希釈剤と組み合わされる。本発明による組成物はエアゾールにより、あるいは当業界で使用上慣用的ないずれかの経路、特に経口、皮下、筋肉内、静脈内、腹腔内、肺内または気管内経路により投与される。投与は1回分の用量で、またはある時間間隔後に1回以上繰返される用量で行う。適切な投与経路および投与量は様々なパラメーター、例えば治療される個体または治療される障害、あるいは移入される対象遺伝子に応じて変わる。一般的に言えば、本発明による医薬組成物は104〜1014、有利には105〜1013、好ましくは106〜1011の本発明によるアデノウイルスの投与量を含む。医薬組成物、特に予防目的に用いられるものは、薬学的観点から許容されるアジュバントを更に含むことができる。
【0073】
本発明は、本発明によるアデノウイルスベクター、アデノウイルス粒子、真核細胞または補足系の治療有効量がこのような治療を要する患者に投与される治療方法も包含している。
【実施例】
【0074】
下記例は本発明の一態様のみを示している。
【0075】
下記構築は、Maniatis et al.(1989,Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY) で詳述された遺伝子工学および分子クローニングの一般的技術に従い行う。細菌プラスミドを用いるクローニングの選択工程はEscherichia coli (E.coli)株5KまたはBJで継代により行なわれ、一方ファージM13から誘導されたベクターを用いる場合はE.coli NM522で継代により行なわれる。PCR増幅の工程に関しては、PCR Protocols - A guide to methods and applications(1990,edited by Innis, Gelfand,Sninsky and White,Academic Press Inc.)で記載されたプロトコールが適用される。
【0076】
更に、細胞は当業者に周知の標準技術に従いトランスフェクトする。リン酸カルシウム技術(Maniatis et al.,supra) も挙げられる。しかしながら、核酸を細胞内に 導入させうる他のプロトコール、例えばDEAEデキストラン技術、エレクトロポレーション、浸透圧ショックに基づく方法、選択細胞のマイクロインジェクションまたはリポソームの使用に基づく方法も用いてよい。
【0077】
下記の異なる構築体に挿入された断片は、
‐参照番号M73260としてGenebankデータバンクで開示されているAd5ゲノム、
‐参照番号J01949としてGenebankデータバンクで開示されているアデノウイルスタイプ2(Ad2)ゲノム、 ‐参照番号J02400としてGenebankデータバンクで開示されているSV40ウイルスゲノム
のヌクレオチド配列でそれらの位置に従い正確に示されている。
【0078】
例1:包膜化領域の部分の欠失を含んだ“弱毒化”アデノウイルスの作製
1.包膜化領域のヌクレオチド184〜ヌクレオチド273の欠失を含んだ“弱毒化”ベクターの組立て
以下を含んだベクター:
‐Ad5ゲノムの5´ITR(ヌクレオチド1〜ヌクレオチド103)、
‐ヌクレオチド184〜ヌクレオチド273にわたる部分が欠失されて、176位のチミン(T)がAatII制限部位を作るためにシトシン(C)に変えられた、ヌクレオチド104〜458にあるAd5包膜化領域、
‐5´から3´にかけてAd2 MLP(ヌクレオチド5779〜6038)、KpnI‐XbaI‐HindIII およびBamHI制限部位、CFTRタンパク質をコードするヒトcDNA(Riordan et al.,1989,Science,245,1066-1073で公表された配列に相当するアミノ酸組成;但し470位はメチオニンの代わりにバリン)、PstI、XhoIおよびSalI部位と、最後にSV40ウイルス転写終結シグナル(ヌクレオチド2665〜2538)を含んでなる、対象遺伝子の発現用カセット、および
‐ヌクレオチド3329〜ヌクレオチド6241にわたるAd5ゲノムの断片
を組み立てる。
【0079】
第一段階では、pMLP11から単離されたEcoRI‐SmaI断片をベクターM13TG131(Kieny et al.,1983,Gene,26,91-99) のEcoRIおよびEcoRV部位間に組み込んでクローニングする。この組立てはpMLP10(Levrero et al.,1991,Gene,101,195-202)から始めるが、HindIII 部位におけるSmaI部位の導入により親ベクターとは異なる。ベクターM13TG6501を得る。後者は、包膜化領域のヌクレオチド184〜273間にある配列を欠失させるために、特定部位変異誘発に付す。特定部位変異誘発では供給業者の勧めに従い市販キット(Amersham)を用いて行い、配列確認No.1(配列番号1)で示されたオリゴヌクレオチドOTG4174を用いる。変異ベクターをM13TG6502と命名した。こうして欠失された包膜化領域はEcoRIおよびSmaIで切断されたベクターpMLP11中にEcoRI‐BglII断片の形で再導入するが、そのBglII部位はクレノウDNAポリメラーゼ処理で平滑化されている。
【0080】
得られたベクターpTG6500をPstIで部分的に切断し、ファージT4 DNAポリメラーゼで処理し、その後PvuIで切断する。(pMLP11から誘導された)pTG5955から単離されたPvuI‐HpaI断片をこのベクター中に挿入する。この断片はSV40ウイルス転写終結シグナルとヌクレオチド3329〜ヌクレオチド6241にわたるAd5ゲノムの部分を含んでいる。こうして形成されたベクターpTG6505をSphIで部分的に切断し、ファージT4 DNAポリメラーゼで処理し、再結合させるが、この目的はポリリンカーの5´末端に位置するSphI部位を壊すことである。これによりpTG6511を得て、その中に、BamHI切断およびクレノウDNAポリメラーゼ処理後に、ヒトCFTR cDNAをXhoI‐AvaI切断およびクレノウDNAポリメラーゼ処理により形成された平滑末端化断片の形で組み込んでクローニングする。pTG6525を得る。指針として、CFTR cDNAは従来のプラスミド、例えばpTG5960(Dalemans et al.,1991,Nature,354,526-528) から単離する。
【0081】
2.包膜化領域のヌクレオチド270〜ヌクレオチド346の欠失を含んだ“弱毒化”ベクターの組立て
ベクターM13TG6501を、オリゴヌクレオチドOTG4173(配列番号2)を用いる特定部位変異誘発に付す。次いで変異断片を前記のようにpMLP11中に再導入して、ベクターpTG6501を得る。後者をSphIで切断し、ファージT4 DNAポリメラーゼ、その後PvuIで処理する。pTG6546(図2)は、pTG6525から単離されたPvuI‐KpnI断片(KpnI部位は平滑化されている)をクローニングして、ヒトCFTR cDNAを含有させることにより得る。
【0082】
3.包膜化領域のヌクレオチド287〜ヌクレオチド358の欠失を含んだ“弱毒化”ベクターの組立て
ベクターM13TG6501を、包膜化領域のヌクレオチド287〜358間にある配列を欠失させるために特定部位変異誘発に付し、NcoI部位を導入するために275および276位のチミンをグアニンに変えて、NcoI部位を導入する。変異誘発はオリゴヌクレオチドOTG4191(配列番号3)を用いて行い、M13TG6507を得る。後者をBglIIで開裂させ、クレノウDNAポリメラーゼで処理し、その後EcoRIで切断し、対応変異断片を精製し、EcoRIおよびSmaIで切断されたpMLP11中に導入する。pTG6504を得て、それからSphI(ファージT4 DNAポリメラーゼ処理で平滑化された部位)‐PvuI断片を単離し、pTG6511のKpnI部位(T4ポリメラーゼ処理で平滑化)とPvuI部位との間に挿入する。pTG6513を得て、これをBamHIおよびクレノウDNAポリメラーゼで処理してから、pTG5960のAvaIおよびXhoI断片を挿入して、pTG6526を得る。
【0083】
4.欠陥および弱毒化組換えアデノウイルスの作製
欠陥組換えアデノウイルスは、相同的組換えで組換えウイルスを得るために、ClaIおよびAd‐dl324ゲノムDNA(Thimmappaya et al.,1982,Cell,31,543-551) で直鎖化されて更にClaIで切断されたpTG6525、pTG6526またはpTG6546の293細胞中へのコトランスフェクションにより作製する。8〜10日後、個々のプラークを単離し、293細胞で増幅させ、制限地図作製により分析する。ウイルスストック(AdTG6525、AdTG6526およびAdTG6546)を集め、それらの力価を慣用的技術に従い調べる。
【0084】
AdTG6546ウイルスは、野生型包膜化領域を含むAd‐CFTR(Rosenfeld et al.,1992,Cell,68,143-155) との同時感染により、競合状況下におく。293細胞を細胞当たり5pfu(プラーク形成単位)のAd‐CFTRおよび5pfu のAdTG6546で感染させる。並行して、全ウイルスDNAをHirt´s法(Gluzman and Van Doren,1983,J.Virol.,45,91-103)により単離し、包膜化ウイルスDNAを0.2%デオキシコール酸とその後10μg/mlのデオキシリボヌクレアーゼ(DNアーゼ)Iで細胞を処理した後に単離して、ビリオンで保護されていないDNAを除去する。全Ad‐CFTRおよびAdTG6546 DNAの量は同一であるが、包膜化AdTG6546 DNAの約3倍の包膜化Ad‐CFTR DNAがある。
【0085】
AdTG6546感染293細胞の細胞抽出物中におけるCFTRタンパク質の発現のレベルを測定する。分析はDalemans et al.(1991,Nature,supra)に記載された技術に従いウエスタンブロッティングによりモノクローナル抗体MATG1031を用いて行う。しかしながら、CFTRタンパク質の抗原性エピトープを認識するいずれの他の抗体も用いてよい。約170kDa の予想分子量の産物を検出する。指針として、生産のレベルは未弱毒化Ad‐CFTRウイルスで感染された細胞抽出物で得られる場合におおよそ等しい。
【0086】
例2:E1A領域とE1B領域の初期タンパク質をコードする配列の全体が欠失された欠陥アデノウイルスの作製
1.CFTRタンパク質発現用の組換えアデノウイルス(AdTG6581)の生産
このようなアデノウイルスは、5´から3´にかけて‐Ad5 5´ITR(ヌクレオチド1〜103)、‐Ad5包膜化領域(ヌクレオチド104〜458)、‐下記要素を含んだ発現カセットを含む外来ヌクレオチド:
・Ad2 MLP(ヌクレオチド5779〜6038)、その後Ad2の3つの三部分リーダー(ヌクレオチド6039〜6079;ヌクレオチド7101〜7175;ヌクレオチド9637〜9712);これらのリーダーは下流に挿入された配列の翻訳の効率を増加させるために含まれる、
・対象遺伝子のクローニングに使用しうるXbaI、HindIII 、BamHI、EcoRV、HpaIおよびNotI制限部位を5´から3´にかけて含んだポリリンカー、
・対象遺伝子、例えばCFTRタンパク質をコードする遺伝子、
・SV40ウイルスから単離された転写終結シグナル(ヌクレオチド2543〜2618)、
‐ヌクレオチド4047〜6241にわたるAd5アデノウイルスゲノムの部分
を含んだプラスミドベクターpTG6581から作製する。
【0087】
ヌクレオチド4047〜ヌクレオチド4614にわたるAd5ゲノムの断片をAd5ゲノムDNAからPCRにより増幅させる。PCR反応では、後のクローニング工程を容易にするためにBamHI部位を5´末端に含むセンスプライマーOTG5021(配列番号4)とアンチセンスプライマーOTG5157(配列番号5)を用いる。こうして形成された断片をクレノウDNAポリメラーゼで処理してから、M13mp18(Gibco BRL) のSmaI部位中に組み込んでクローニングして、M13TG6517を得る。PCRで形成された断片の配列は、標準酵素方法(Sanger et al.,1977,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,74,5463)に従い確認する。
【0088】
別に、PvuI‐SmaI断片をpMLP11から単離する。それをpTG6511(例1.1)のPvuIと〜pnI部位間に組み込んでクローニングするが、KpnI部位は標準方法に従いファージT4 DNAポリメラーゼ処理で平滑化されている。ベクターpTG6547はこうして形成する。
【0089】
後者を酵素SalIおよびBstXIで切断し、2つの断片に結合させるが、一方はM13TG6517の精製BamHI‐BstXI断片で、他方はpTG6185のXhoI‐BglII断片である。後者はXhoIおよびBglII制限部位に隣接するSV40ウイルス転写終結シグナルを特に含んでいる。しかしながら、同様の終結配列と適切な制限部位を含んだいずれか他のプラスミドも使用できる。ベクターpTG6555を得るが、その中に、2つの制限部位形成平滑末端EcoRVおよびHpaIを含むアダプターを唯一のBamHI部位に挿入する。このアダプターはオリゴヌクレオチドOTG5564およびOTG5565(配列番号:6および7)の組換えから形成する。pTG6580を得る。最後に、末端が平滑化されてヒトCFTR cDNAを含むpTG6525のSacI‐PstI断片を、pTG6580のEcoRV部位中に組み込んでクローニングする。pTG6581(図3)を得る。
【0090】
対応組換えアデノウイルスAdTG6581は、標準プロトコールに従い、E1機能用の補足系、例えば系293または例6の系中への、双方ともClaIで開裂されたpTG6581およびAd d1324のコトランスフェクションにより得る。
【0091】
2.IFN‐γ発現用の組換えアデノウイルスの生産
ベクターpTG6303(図4)を、M13TG2437のHpaI‐SmaI断片をpTG6580のHpaI部位中に組み込んでクローニングすることにより得る。上記断片は、配列がGray et al.(1982,Nature,295,503-508)で特定されているインターフェロンγ(IFN‐γ)をコードする遺伝子をベクターM13TG130(Kieny et al.,1983,supra) に組み込んでクローニングすることにより得る。組換えアデノウイルスAdTG6303は、標準技術に従い、E1機能に関する補足系中へのClaIで直鎖化されたpTG6303およびAd d1324のコトランスフェクションに基づく相同的組換えにより得る。
【0092】
3.E1領域が欠失されてE3領域が構成プロモーターのコントロール下におかれているアデノウイルスの作製
ベクターpTG1670は、ベクターpポリII(Lathe et al.,1987,Gene,57,193-201) のAatII〜BamHI部位間にRSVウイルス(ラウス肉腫ウイルス)3´LTR(長末端反復)を含むPCR断片をクローニングすることにより得る。PCR反応では、鋳型としてベクターpRSV/L(De Wet et al.,1987,Mol.Cell.Biol.7,725-737)と、プライマーOTG5892およびOTG5893(配列番号8および9)を用いる。
【0093】
別に、E3領域の5´部分(ヌクレオチド27588〜28607)は、ベクターpTG1659からプライマーOTG5920およびOTG5891(配列番号10および11) を用いたPCRにより増幅させる。後者のベクターは数工程で組み立てる。BamHI‐AvrII断片(ヌクレオチド21562〜28752)をAd5ゲノムDNAから得て、その後pTG7457の同部位間に組み込んでクローニングして、pTG1649を得る。ベクターpTG7457は、特にAvrII部位を含むようにポリリンカー中で修飾されたpUC19(Gibco BRL) である。次いでM13TG1646(例8)のEcoRI(クレノウ)‐AvrII断片をAvrII‐NdeI(クレノウ)で開裂されたpTG1649中に導入して、ベクターpTG1651を得る。最後に、pTG1659を、AvrIIで直鎖化されたpTG1651中にAd5ゲノムDNAの精製AvrII断片(ヌクレオチド28752〜35463)を挿入することにより得る。PCR断片をpポリIIのXbaI〜BamHI部位間に組み込んで、pTG1671を得る。次いでpTG1670から得られたEcoRV‐AatII断片をpTG1671のAatII部位に挿入して、pTG1676を得る。
【0094】
ヌクレオチド27331〜30049に相当するAd5のEcoRI断片をゲノムDNA調製物から単離し、EcoRIで既に開裂されたpBluescript‐Sk+ (Stratagene)中に組み込んでサブクローニングする。pTG1669を得る。後者は27867位(変異原性オリゴヌクレオチドOTG6079;配列番号12)または28249位(変異原性オリゴヌクレオチドOTG6080;配列番号13)でBamHI部位を導入することにより変異させる(Amersham kit)。pTG1672およびpTG16733を各々得る。RSV 3´LTRに続いてE3領域の5´部分を含むBamHI‐BsiWI断片をベクターpTG1676から単離し、先の工程で得られたベクターのBamHI部位(27331または30049位)とBsiW部位(28390位)との間に挿入して、pTG1977およびpTG1978を得る。次いでこれら2つのベクターの各々から得られたEcoRI断片を野生型EcoRI断片の代わりとしてpTG1679に組込む。pTG1679‐E3+ を得る。参考のため、ベクターpTG1679はpTG6584(例3.1)のBstEII部位とBamHI部位(クレノウポリメラーゼ処理により平滑化された部位)との間に組み込まれたpTG6590(例3.1)のBstEII‐KpnI断片(T4ポリメラーゼ処理により平滑化された部位)のクローニングから得る。
【0095】
アデノウイルス粒子は、pTG1679‐E3+ のAatII断片とアデノウイルスベクター、例えばAd d1324またはAd‐RSVβ‐galとの間でE1機能用の補足系における相同的組換えにより作製する。後者はE1領域の代わりにβ‐ガラクトシダーゼ遺伝子を含んでいる(Stratford-Perricaudet et al.,1992,J.Clin.Invest.,90,626-630)。
【0096】
例3:E1およびE3領域の部分的欠失による改善されたクローニング能力を有した組換えアデノウイルスベクターの組立て
1.pTG6590ΔE3の組立て
ヌクレオチド27325〜27871間にあるAd5ゲノムの部分を有した断片を、Ad5ゲノムDNA調製物からプライマーOTG6064およびプライマーOTG6065(配列番号14および15)を用いたPCRにより増幅させる。OTG6065はその5´末端にBsmI部位を含むが、これはE3領域でも(30750位に)存在している。
【0097】
増幅された断片をM13mp18のSmaI部位に組み込んでクローニングし、M13TG6523を得る。EcoRI‐BsmI断片を後者から単離し、同酵素で開裂されたベクターpTG6590中に導入する。pTG6590Δ3が得られ、これはアデノウイルスゲノムの3´部分(ヌクレオチド27082〜35935)を含んでいるが、その部分からはヌクレオチド27872〜30740間にあるE3領域が欠失され、一方E3領域のもっと小さな部分(28592〜30470位)はpTG6590から欠失されていた。ベクターpTG6590は下記のようにして得る。ヌクレオチド35228〜35935にわたる断片(3´ITRを含む)をAd5ゲノム調製物からプライマーOTG5481およびOTG5482(配列番号16および17) によるPCRで形成する。次いでこの断片をM13mp18のSmaI部位に組み込んでクローニングし、M13TG6519を得る。別に、ベクターpTG6584をXbaIで切断し、その後E3領域の対応断片を除去するために再結合させる。pTG6589を得て、これをBamHIで開裂させ、クレノウで処理し、その後BstEIIで切断する。M13TG6519の精製EcoRI(クレノウ)‐BstEII断片をこうして処理されたベクター中に導入して、pTG6590を得る。
【0098】
参考のため、ベクターpTG6584は唯一のSpeI部位(27082位)〜E4領域のプロモーター領域の開始部(35826位)にわたるAd5配列を含んだpUC19ベクター(Gibco BRL) である。それはpTG1659(例2.3)をSalIおよびSpeIで切断し、クレノウDNAポリメラーゼで処理し、その後再結合させることにより得る。
【0099】
2.E1領域とgp19kDa タンパク質を発現しないE3の部分が欠失されたアデノウイルスベクターの組立て
gp19kDa をコードするAd5のE3領域の部分(ヌクレオチド28731〜29217)を、Ad5ゲノムDNA調製物からプライマーOTG5455およびOTG5456(配列番号18および19) を用いたPCRにより得る。形成された断片をM13mp18のSmaI部位中に導入して、M13TG6520を得る。後者のEcoRI‐XbaI断片を単離して、pTG1670(例2.3)のAatII部位に組み込んでクローニングするが、その部位はクレノウDNAポリメラーゼ処理で平滑化されている。次いで先の工程のベクターの精製XbaI断片をベクターpTG6590ΔE3(例3.1)のXbaI部位中に挿入する。
【0100】
3.アデノウイルス粒子の生産
組換えウイルス粒子を、AdTG6303またはAdTG6581ゲノムDNAから単離されたSpeI断片と例3.1および3.2のベクターのどれかとの結合により得る。次いで結合混合物をE1機能に関する補足系中にトランスフェクトする。
【0101】
例4:E1およびE4領域が欠失されたアデノウイルスの作製
ヌクレオチド31803〜32799および35827〜35935にわたるアデノウイルスゲノムの部分を、Ad5ゲノムDNA調製物からプライマーOTG5728およびOTG5729(配列番号20および21) とOTG5730およびOTG5781(配列番号22および16) を各々用いて増幅させる。約10回の増幅サイクル後に、反応はオリゴヌクレオチドOTG5728およびOTG5781を用いて2反応混合物の一部に基づき続ける。増幅断片はヌクレオチド31803〜35935にわたり、E4領域の全部(32800〜35826位)が欠失している。EcoRIおよびHindIII 切断後に、それをM13mp18の同部位間に組み込んでクローニングし、M13TG6521を得る。
【0102】
M13TG6521をEcoRIで切断し、クレノウDNAポリメラーゼで処理し、その後BstXIで開裂する。3´LTRを含んだ0.46kb断片をクレノウDNAポリメラーゼ処理で平滑化されたBamHI部位とpTG6584(例3.1)のBstXI部位との間に挿入する。pTG6587を得て、これをXbaIで切断し、その後それ自体と再結合させ、pTG6588(E3の欠失)を得る。
【0103】
オリゴヌクレオチドOTG6060、OTG6061、OTG6062およびOTG6063(発列番号23〜26)の組換えから得た合成DNA断片をpTG6588のPacI部位中に導入する。これによりpTG8500を得て、その中におけるL5後期遺伝子の転写終結シグナルを改善する。
【0104】
E4領域の全部(ヌクレオチド32800〜35826)とE3領域のXbaI断片(ヌクレオチド28592〜30470)が欠失されたゲノムを有するアデノウイルス粒子(AdΔE4)を、pTG8500またはpTG6588とAd5から単離されたSpeI断片の結合により形成する。結合混合物をE4機能に関する相補細胞系、例えば系W162(Weinberg and Ketner,1983,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,80,5383-5386)中にトランスフェクトする。E1およびE4機能に欠陥があるアデノウイルス(ΔE1、ΔE4)は、Ad d1324ゲノムとSpeIで直鎖化されたプラスミドpTG8500またはpTG6588との結合混合物のE1およびE4に関する補足系(例えば、例8の系)中へのトランスフェクションにより得る。
【0105】
更に、下記のように行うことも可能である。pTG1659(例2.3)から単離されたSpeI‐ScaI断片をこれら同酵素で開裂されたベクターpTG6588中に組み込んでクローニングし、pTG6591を得る。後者はヌクレオチド21062〜35935のAd5配列を含んでいるが、そこからは上記のようにE4領域の全部とE3領域のXbaI断片が欠失されている。上記の合成DNA断片をPacIで切断されたベクターpTG6591中に導入して、pTG6597を形成する。アデノウイルス粒子は、SpeIで開裂されたAd d1324ゲノムDNAとBamHIで開裂されたプラスミドpTG6591またはpTG6597との相同的組換えにより得てもよい。
【0106】
例5:“最小”ウイルスの作製
いわゆる“最小”アデノウイルスベクターは、プラスミド中に下記要素:
‐Ad5 5´ITR(ヌクレオチド1〜103)、
‐Ad5包膜化領域(ヌクレオチド104〜458)、‐下記を含む外来ヌクレオチド配列:
・自然調節にできるだけ近い発現の調節を得るために、好ましくは自己のプロモーターの存在下におかれた、治療対象の第一遺伝子、
・TK‐HSV‐1遺伝子からなる対象の第二遺伝子、
・場合により、包膜化されるゲノムの全サイズが30〜36kbであるような包膜化または複製の効率の理由から加えられる、何らかの種類のヌクレオチド配列、
・高等真核細胞で機能的なプロモーターのコントロール下におかれたSaccharomyces cerevisiae Gal4 タンパク質(Laughon and Gesteland,1984,Mol.Cell.Biol.,4, 260-267)をコードする配列、および‐Ad5 3´ITR(ヌクレオチド35833〜35935)
を組み込んでクローニングすることにより形成する。
【0107】
これらの異なる要素のアセンブリーは分子生物学の標準技術に従い行う。このようなベクターを含んだ感染性ビリオンの生産は例7の補足系で上記のように行う。
【0108】
例6:E1機能をイントランスで補える相補細胞の形成
1.ヌクレオチド100〜5297のE1領域(pTG6533)を含んだ相補細胞の形成
この細胞は以下を含んでいる:
‐遺伝子がSV40ウイルス初期プロモーター(ヌクレオチド5171〜5243)のコントロール下におかれて、3´末端にSV40転写終結シグナル(ヌクレオチド2543〜2618)を含んだ、pac遺伝子の発現用カセット。用いられたpac遺伝子は、Lacalle et al.(1989,Gene,79,375-380)に開示された配列のヌクレオチド252〜ヌクレオチド905にわたり、公表配列と比べて4つの変更点(305位でCの代わりにA;367位でCの代わりにT;804位でGの挿入;820位でGの欠失)を含んだ断片に相当する。
【0109】
‐ヌクレオチド100〜5297にわたるAd5ゲノムの断片。この断片は、自己のプロモーターおよび転写終結シグナルをもったE1AおよびE1B領域と、E2領域のフラクションを含んでおり、このためタンパク質IXをコードする配列と重複している。指針として、系293は機能性タンパク質IXを生産することができないらしい。
【0110】
組立ては以下で詳述されたいくつかの工程で行う。ベクターpポリIII-I* (Lathe et al.,1987,Gene,57, 193-201)を酵素AccIおよびEcoRIによる切断に付す。プラスミドpTG6164から単離されたEcoRI‐ClaI断片をこうして処理されたベクター中に組み込んでクローニングする。ベクターpTG6528を得る。
【0111】
プラスミドpTG6164はpLXSN(Miller D,1989,Bio/Techniques,7,980)から誘導し、SV40ウイルス初期プロモーターのコントロール下におかれたpac遺伝子を含んでいる。簡単に言えば、pLXSNのHindIII-KpnI断片をM13TG131中に導入して、M13TG4194を得る。pMPSV H2 K IL2R(Takeda et al.,1988,Growth Factors, 1,59-66) のNheI‐KpnI断片を後者に挿入し、NheIおよびKpnIで切断して、M13TG4196を得る。後者をHindIII-KpnIで切断し、HindIII 切断および部分的KpnI切断から得たpLXSNの精製断片をクローニングする。pTG5192を得る。後者をHindIII と部分的にNheIで切断し、pBabe Puro(Land et al.,1990,Nucleic Acids Res.,18,3587)のHindIII-NheI断片を導入して、pTG6164を得る。
【0112】
ベクターpTG6528をPstIで切断し、SV40転写終結シグナルを含んだpTG6185(例2.1)から単離されたPstI断片をこの部位に導入する。pTG6529を得る。後者をEcoRI‐HpaI切断に付し、2断片と結合させるが、一方はAd5ゲノムDNAの精製BspEI‐BcgI断片(826〜5297位)で、他方はEcoRIおよびBspEI末端でPCRにより形成された断片であって、pTG6531を得る。PCR断片はAd5ゲノムDNAとプライマーOTG4564およびOTG4565(SEQ ID NO:27および28で記載)からの遺伝子増幅により得る。増幅断片を酵素EcoRIおよびBspEIで切断し、先の段落で記載されたように結合させる。
【0113】
ベクターpTG6531は同方向に2つの転写単位(E1領域の単位とpac遺伝子の単位)を含んでいる。転写で干渉を避けるためには、それらはpTG6531をBamHIで処理して再結合させることにより頭‐尾(互いに逆)方向におく。ベクターpTG6533は2単位の逆方向を示すクローンに相当する。
【0114】
ベクターpTG6533をリン酸カルシウム技術により哺乳動物細胞系、例えばVero(ATCC,CCL81)またはA549(ATCC,CCL185) 系中にトランスフェクトする。トランスフェクトされた細胞を供給業者の勧めに従い培養し、プロマイシン(濃度6μg/ml)含有選択培地にトランスフェクション後24時間おく。耐性クローンを選択し、そこではE1領域の遺伝子の発現について最も生産的なクローンを調べるために評価するが、これはE1機能に欠陥があるアデノウイルス、例えば例2で詳述されたものの生産用の補足系として用いてよい。
【0115】
E1領域の初期タンパク質をコードする配列の発現は、アイソトープ32Pで標識された適切なプローブを用いて、ノーザンブロッティングにより分析する。E1A領域でコードされたタンパク質の生産は、細胞をアイソトープ35Sで標識した後に市販抗体(Oncogene Science Inc.,reference DP11)を用いた免疫沈降により検出する。
【0116】
(E1B mRNAのノーザンブロット分析により)E1B領域のプロモーターを活性化するか、または(E2プロモーターのコントロール下におかれたCAT(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)を含む“リポーター”プラスミドの一時トランスフェクション後に酵素活性を調べることにより)E2領域のプロモーターを活性化する、E1A領域の発現産物の能力を確認することもできる。
【0117】
最後に、これらの細胞をAd‐RSV‐βgal(Stratford-Perricaudet et al.,1992,supra) で感染させて、細胞変性効果が観察されるとすぐに寒天技術でウイルスを滴定することができる。一般的に、操作は下記のとおりである。細胞を10のmoi(感染多重度)で感染させる。感染の約48時間後、細胞変性効果がみられたときに、細胞を溶解させて、β‐ガラクトシダーゼ活性を慣用的プロトコールに従い調べる(例えば、Maniatis et al.,1989,supra参照)。陽性クローンをもっと低いmoi で再感染させる。感染の約48時間後に、上澄および細胞を標準技術に従い集める。ウイルス力価は293細胞を用いて寒天積層法により決める。得られた力価対初期力価の比率が増幅ファクターになる。
【0118】
2.ヌクレオチド505〜4034のE1領域を含んだ補足系(pTG6557、pTG6558、pTG6559、pTG6564およびpTG6565)の組立て
ベクターpTG6557、pTG6558およびpTG6559は以下を含んでいる:
(i) 以下のコントロール下にあるpac遺伝子(前記のようなヌクレオチド252〜905)の発現用カセット:
‐Ad2 E2Aプロモーター(ヌクレオチド27341〜27030)(pTG6558の場合)
‐ヌクレオチド27163〜27182間にある配列が欠失されたAd2 E2Aプロモーター(pTG6557の場合)。このような変異から、E1Aでコードされたトランス活性化タンパク質による誘導能に影響を与えることなく、E2Aプロモーターの基準レベルを減少させることができる。または
‐pTG6559の場合SV40初期プロモーター
【0119】
上記3つの場合において、それは3´末端にSV40ウイルス転写終結シグナル(ヌクレオチド2543〜2618)も含んでいる;および
(ii) ヌクレオチド505〜4034にわたるAd5 E1領域の部分を含んだ発現カセット。アデノウイルスゲノムのこの部分は、E1A領域の初期タンパク質をコードする配列の全部、E1A単位の転写終結シグナル、E1Bプロモーター(E1Aでコードされるトランス活性化タンパク質により誘導しうる)と、E1B領域のコード配列の全部を含んでいる。それはタンパク質IXをコードする配列も含んでおり、E1B領域と重複している。しかしながら、それはE1A領域のプロモーターとE1BおよびIX転写単位の転写終結シグナルを欠く。E1領域の配列を発現させるためには、ネズミPGK遺伝子プロモーターをアデノウイルス断片の5´末端に導入し、ウサギβ‐グロビン遺伝子の転写終結シグナル(Genebankデータバンクで参照番号K03256として開示されている配列のヌクレオチド1542〜2064)を3´末端に導入する。
【0120】
場合により、何らかの種類の、例えばpBR322(Bolivar et al.,1977,Gene,2,95-113) から単離されたヌクレオチド配列も、転写で生じうる干渉を避けるために、pac遺伝子とE1領域との発現用カセット間に導入してよい。
【0121】
これらベクターの組立ては下記のいくつかの工程で行う。
【0122】
最初に、ヌクレオチド505〜ヌクレオチド826にわたるAd5ゲノムの部分は、ゲノム調製物から、後のクローニング工程に有用なPstI部位を5´末端に含むプライマーOTG5013(配列番号29)とBspEI部位と重複するOTG4565(配列番号28)を用いたPCRにより増幅させる。PCRにより形成された断片をクレノウDNAポリメラーゼで処理し、その後M13mp18のSmaI部位中に挿入して、M13TG6512を得る。PCR断片の配列を確認する。
【0123】
ベクターpTG6533(例6.1)を酵素EcoRIおよびBspEIで切断する。こうして処理されたベクターを、一方ではM13TG6512から単離されたPstI‐BspEI断片、他方ではpKJ‐1から単離されたEcoRI‐PstI断片と結合させる。後者の断片はヌクレオチド−524〜−19間にあるネズミPGK遺伝子プロモーターの部分を含んでいるが、その配列はAdra et al.(1987,Gene,60,65-74) で報告されている。この工程ではpTG6552を生じ、ヌクレオチド505で始まるAd5のE1領域の上流にネズミPGK遺伝子プロモーターを挿入することができる。 別に、XhoIで形成された末端がクレノウDNAポリメラーゼ処理後に平滑化されているXhoI‐BamHI断片を、pBCMG Neo(Karasuyama et al.,1989,J.Exp.Med.,169,13-25) から精製する。ウサギβ‐グロビン遺伝子の転写終結シグナルを含んだこの断片を、ベクターpポリII-Sfi/Not-14 * (Lathe et al.,1987,Gene,57,193-201) のSmaIおよびBamHI部位間に導入する。得られたベクターpTG6551は、ヌクレオチド3665〜ヌクレオチド4034にわたるAd5ゲノムの断片をその中に挿入するために、酵素SphIおよびEcoRVでその一部について切断する。この断片は標準プロトコールに従いPCRで形成する。用いられた操作では、鋳型としてAd5ゲノムDNA調製物と、3665位で内部SphI部位と重複するプライマーOTG5015(配列番号30)および5´末端にBglII部位を含むOTG5014(配列番号31)を用いる。
【0124】
PCR断片をクレノウDNAポリメラーゼで処理してから、M13mp18のSmaI部位中に組み込んでクローニングし、M13TG6516を得る。その配列の確認後に、PCR断片をBglII切断、クレノウDNAポリメラーゼ処理およびSphI切断により抽出する。それをpTG6551のSphIおよびEcoRV部位間に挿入する。これによりpTG6554を得る。
【0125】
別に、ベクターpTG6529(例6.1)を酵素HpaIおよびHindIII 切断に付す。pac遺伝子とその後にSV40ウイルス転写終結シグナルを含んだ2.9kb断片を精製する。この断片を、Ad2 E2Aプロモーターを有するpE2 Lac(Boeuf et al.,1990,Oncogene,5,691-699)から単離されたSmaI‐HindIII 断片に結合させる。ベクターpTG6556を得る。一方、それはAd2の変異E2Aプロモーターを有するpE2 Lac D9170(Zajchowski et al.,1985,EMBO J,,4,1293-1300)から単離されたSmaI‐HindIII 断片に結合させてもよい。この場合には、ベクターpTG6550を得る。
【0126】
pTG6556を酵素EcoRIおよびBamHIで切断する。pTG6552から単離されたEcoRI‐SacII断片とpTG6554から単離されたSacII‐BamHI断片をこれらの部位間に挿入する。ベクターpTG6558を得る。pTG6550およびpTG1643(例7.1)で行う同様の工程では、各々pTG6557およびpTG6559を得る。
【0127】
pTG6557およびpTG6558をEcoRVで切断するが、唯一の部位は2つの発現カセット(pac遺伝子およびE1領域)間に位置している。pBR322(Bolivar et al.,supra)から単離された1.88kbEcoRV‐PvuII断片は、2プロモーター間の距離をあけるために、この部位中に組み込んでクローニングする。pTG6564およびpTG6565を各々得る。
【0128】
ベクターpTG6557、pTG6558、pTG6559、pTG6564およびpTG6565を細胞系A549中にトランスフェクトする。前記のように、プロマイシン耐性クローンを選択し、E1領域の発現を確認する。E1発現クローンは、E1機能に欠陥があるアデノウイルスを増幅および増殖させるためにある。E1発現産物の生産には細胞毒性効果を伴うが、サザン分析ではベクター再配列を実証できない。Ad‐RSV‐βgal感染後、いくつかのクローンはウイルスを100倍以上増幅させることができる。
【0129】
3.Saccharomyces cerevisiae Gal4 タンパク質により誘導しうる相補細胞の作製
これらのベクターは、前記のように、ヌクレオチド505〜4034にわたるAd5 E1領域の部分を含んでいる。しかしながら、E1A領域の配列の発現は、一方ではAd2 MLP最小プロモーター(TATAボックスおよび転写開始シグナル;ヌクレオチド−34〜+33)と他方ではGal4タンパク質により活性化できるGal10遺伝子の活性化配列からなる誘導性プロモーターのコントロール下におかれている。Gal4結合部位に相当する17ヌクレオチド(17MX)の共通活性化配列はWebster et al.(1988,Cell,52,169)で特定されている。ウサギβ‐グロビン遺伝子の転写終結シグナルをE1B転写単位の3´末端におく。
【0130】
17MX配列のダイマー(配列番号32および33)とその後にAd2 MLP最小プロモーターを含み、その5´末端にSalI部位およびその3´末端にBamHI部位を含んだ第一DNA断片を合成する。SalI部位をクレノウDNAポリメラーゼ処理により平滑化する。別に、配列のペンタマーとその後に同様のプロモーターを含み、その5´および3´末端にXbaIおよびBamHI部位を含んだ第二DNA断片を合成する。XbaI切断後に、その末端をクレノウポリメラーゼ処理で平滑化する。
【0131】
これら断片の各々をpポリIIのBglII部位中に導入して、pTG1656およびpTG1657を各々得る。次いで下記2断片、即ちpTG6552(例6.2)から単離されたPstI‐XbaI断片とpTG6559(例6.2)から単離されたXbaI‐BamHI断片をPstI‐BamHIで既に切断されたベクターの各々の中に導入する。pTG1660およびpTG1661を各々得る(図5)。
【0132】
A549細胞をpTG1643(pac遺伝子発現用のベクター)とpTG1660またはpTG1661でコトランスフェクトする。クローンをそれらのプロマイシン耐性について選択し、上記のように試験する。A549‐1660およびA549‐1661の約50%はE1領域の発現産物を生産する。しかしながら、生産には細胞毒性効果を伴い、細胞の形態的外観を変える。
【0133】
細胞ゲノムにおけるプラスミドの組込みおよび非再配列をサザン分析により確認する。組込みプラスミド(pTG1643、pTG1660およびpTG1661)の実質的変化は、分析された生産クローンで実証できない。Gal4の存在下でE1A領域によりコードされた配列の発現の誘導能も(Gal4タンパク質の構成的発現を行うプラスミドでの形質転換により)確認することができる。
【0134】
約2のmoi でAd‐RSV‐βgalによるいくつかの生産クローンの感染後に、2つのA549‐1660クローンはウイルスストックを100倍以上増幅させることができる。
【0135】
例7:アデノウイルスの複製に必須な機能のすべてに関する補足系の形成
5´ITR、3´ITRおよび包膜化領域を除いてAd5アデノウイルスゲノムの全部を含んだベクターを組み立てる。
【0136】
ベクターpTG6528(例6.1)を酵素PstIおよびBglIIで切断するが、その間にはOTG5039およびOTG5040(配列番号34および35)のオリゴヌクレオチドからなる標準プロトコールに従い化学的に合成されたDNA断片が挿入されている。オリゴヌクレオチド配列はPstIクローニング部位を再形成せずにEcoRV部位を導入できるようにデザインされている。pTG1639を得て、これをEcoRV切断で直鎖化し、末端がクレノウDNAポリメラーゼ処理で平滑化されたXbaI‐BamHI断片に結合させる。この断片はSV40ウイルス転写終結シグナルを有している。適切な制限部位で囲まれたシグナルを含むいずれのプラスミドもこの工程で用いてよい。
【0137】
こうして形成されたベクターpTG1640をBamHIおよびBglIIで切断し、pac遺伝子発現用のカセットを有する断片をベクターpポリII-Sfi/Not-14 * のBglII部位中に導入する。pTG1641を得る。後者をNotIで直鎖化し、クレノウDNAポリメラーゼで処理する。pBR322(Bolivar et al.,supra)から単離されて更にクレノウDNAポリメラーゼで処理された0.276kbBamHI‐SalI断片を導入する。これによりpTG1643を得る。
【0138】
pTG1643をXhoIで直鎖化し、17MXダイマーとその後にTK‐HSV‐1遺伝子最小プロモーター(Genebankデータバンクで参照番号V00467として開示された配列のヌクレオチド303〜450、3´末端においてXhoI部位で補充されている)を含んだXhoIハイブリッド断片をこの部位中に挿入する。pTG1647を得るが、そこでは2×17MX‐TK‐HSV‐1ハイブリッドプロモーターがpac遺伝子発現用のカセットと同方向に挿入されている。
【0139】
この組立体pTG1647は、ヌクレオチド505〜ヌクレオチド35826にわたるAd5ゲノムの断片をPstIおよびBamHI部位間に導入するための親ベクターとして用いる。第一段階では、pTG1647をPstIおよびBamHIで切断し、その後一方ではヌクレオチド505〜918のAd5ゲノムの部分を含んだpTG6552(例6.2)のPstI‐ClaI断片と、他方ではAd5ゲノムDNAから調製されたClaI‐BamHI断片(918〜21562位)とに結合させる。それにより得られたベクターは、5´ITRおよび包膜化領域を除いたAd5の5´部分を含んでいる。
【0140】
別に、Ad5ゲノムの3´部分をベクターpポリII-Sfi/Not-14* でアセンブリー化する。後者をBamHIで直鎖化し、Ad5ゲノムのBamHI‐AvrII断片(ヌクレオチド21562〜28752)とAd5のヌクレオチド35463〜35826に相当するPCR断片を導入する。後者の断片はAd5ゲノムDNAからプライマーOTG5024(配列番号36)およびOTG5025(配列番号37)を用いて形成し、5´末端にBamHI部位を含んでいる。得られたベクターをAvrIIで切断し、Ad5ゲノムDNAから単離された28753〜35462位にわたるAvrII断片を挿入する。
【0141】
アデノウイルス配列を含んだBamHI断片を、5´ITRおよび包膜化領域を欠くアデノウイルスゲノムの5´部分を含んだ先の工程のベクターのBamHI部位中に導入する。
【0142】
欠陥アデノウイルスの機能のすべてを補える補足系は、前例で記載されたプロトコールに従い、細胞系、例えばA549中へのトランスフェクションにより形成する。
【0143】
アデノウイルスゲノムの事実上全体を含む下記4つのベクターを組み立てることにより行うことも可能であり、これは最終工程において単一ベクターでリアセンブリー化させる:
‐pTG1665は、Ad5ゲノムDNA調製物から単離されたBspEI断片(ヌクレオチド826〜7269)をpポリII-Sfi/Not-14* のXmaI部位中に組込むクローニングに相当する;
‐pTG1664は、Ad5ゲノムDNA調製物から単離されたNotI断片(ヌクレオチド6503〜1504)を同ベクターのNotI部位中に挿入することにより形成する;
‐pTG1662は、Ad5ゲノムDNA調製物から単離されたAatII断片(ヌクレオチド10754〜23970)をpポリIIのAatII部位中に導入することにより得る;
‐Ad5ゲノムの3´部分を含むpTG1659(例2.3)
【0144】
次いで誘導発現系、例えばGal4により誘導しうる例6.3または7で記載されたプロモーター、あるいは従来のプロモーター、例えばメタロチオネインまたはテトラサイクリンプロモーターを含んだ断片を導入する。このような断片はAatIIおよびClaIで切断されたベクターpTG1665においてAd5の5´配列(ヌクレオチド505〜918)の上流に位置させる。最後に、pTG1664のNotI断片、pTG1662のAatII断片と、最後にpTG1659のBamHI断片を上記ベクター中に対応部位で連続的に組み込んでクローニングする。
【0145】
補足系を上記ベクターおよびpTG1643のコトランスフェクションにより形成し、プロマイシン耐性クローンを単離する。この系は、更に詳しく言うと、E1、E2およびE4機能と後期機能に欠陥がある例5のアデノウイルスベクターを増幅および包膜化するためにある。
【0146】
例8:E1およびE4機能に関する補足系の形成
ベクターpTG1647(例7)を酵素PstI‐BamHIで切断し、下記3つの断片:
‐ヌクレオチド505〜ヌクレオチド1339のAd5配列を有するpTG6552(例6.2)のPstI‐XbaI断片、
‐ヌクレオチド1340〜ヌクレオチド3665のAd5配列を有するpTG6552のXbaI‐SphI断片、および
‐ヌクレオチド3665〜ヌクレオチド4034のAd5配列と転写終結シグナルを有するpTG6554(例6.2)のSphI‐BamHI断片をこうして処理されたベクター中に導入する。
【0147】
それにより得られたベクターをBamHIで切断し、下記3つの断片:
‐32800〜33104位間に位置するAd5配列に相当する、PCRにより形成される、BamHI‐AflIIで切断された断片。用いられる操作では、鋳型としてAd5ゲノムDNAとプライマーOTG5078(配列番号38)およびOTG5079(配列番号39)を用いる。
【0148】
‐Ad5ゲノムDNAから単離されたAflII‐AvrII断片(ヌクレオチド33105〜35463)、
‐プライマーOTG5024およびOTG5025 (例7参照)を用いるPCRにより形成されたAvrII‐BamHI断片
をこの部位中に導入する。
【0149】
これにより形成されたベクターを上記プロトコールに従い細胞系中に導入して、E1およびE4機能に関する補足系を形成する。
【0150】
しかも、このような系は下記プロトコールに従い得てもよい:
Ad5ゲノムのE4領域(ヌクレオチド32800〜35826)をいくつかの工程で再形成させる。ヌクレオチド33116〜32800にわたる部分をAd5ゲノムDNAからプライマー対OTG5078およびOTG5079(配列番号38および39)でPCRにより合成し、その後M13TG130のEcoRV部位中に挿入して、M13TG1645を得る。
【0151】
後者のBamHI‐AflII断片をAd5のAflII‐AvrII断片(ヌクレオチド33104〜35463)との結合反応に付し、ベクターpTG7457をBamHIおよびAvrIIで切断する。pTG1650を得る。
【0152】
次いでE4領域を、Ad5ゲノムDNA調製物からプライマーOTG5024およびOTG5025(配列番号36および37)を用いるPCRでヌクレオチド35826〜35457に相当する断片を得ることにより完成させる。この断片をM13mp18のSmaI部位に挿入して、M13TG1646を得る。AvrII‐EcoRI断片を後者から単離し、pTG1650のAvrIIおよびEcoRI部位間に組み込んでクローニングする。pTG1652を得る。
【0153】
Ad5のE4領域を含んだBamHI断片をpTG1652から単離し、pTG1643およびpTG6559(例6.2)のBamHI部位またはpTG6564(例6.2)のSspI部位中に、その部位が平滑化された後に組み込んでクローニングし、pTG1653、pTG1654およびpTG1655(図6)を各々得る。
【0154】
E1およびE4機能をイントランスで補える相補細胞は、慣用的技術で:
(1) 細胞系293へのpTG1653の形質転換、または
(2) 細胞系A549へのpTG1654またはpTG1655の形質転換
により作製する。
【0155】
一般的に言えば、E1およびE4領域の産物の発現には細胞毒性効果を伴う。いくつかの293‐1653クローンは、E1が欠失されたアデノウイルスとE4が欠失されたアデノウイルスの双方を補うことができる。
【0156】
別法では下記のように行う。
【0157】
ベクターM13TG1646を、E4領域のプロモーターを欠失させてHpaI部位を挿入する目的から、変異原性オリゴヌクレオチドOTG5991(配列番号40)で特定部位変異誘発に付す。変異ベクターはM13TG6522と命名する。それをPstIで切断し、ファージT4 DNAポリメラーゼとその後AvrIIで処理し、pTG1652(例8)の精製EcoRI(クレノウ)‐AvrII断片と結合させて、pTG6595を得る。後者をHpaIで開裂し、BglIIおよびBamHI切断とクレノウ処理後にpTG5913(図7)から得られた0.8kb断片を導入する。pTG6596を得るが、そこではE4領域(32800〜35826位)はTKプロモーターのコントロール下にある。参考のため、pTG5913はTK‐HSV‐1遺伝子を有し、BglII‐BamHI断片はこの遺伝子のプロモーターに相当する(Wagner et al.,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,78,1441-1445) 。
【0158】
並行して、ベクターpTG1643およびpTG6559(例6)をBamHIで直鎖化し、オリゴヌクレオチドOTG6141およびOTG6142(配列番号41および42)の組換えから得た合成断片を挿入して、pTG8508およびpTG8507を各々得る。
【0159】
これらの後者をBamHIで開裂してから、E4発現用のカセットを含んだpTG6596の精製BamHI断片を導入する。ベクターpTG8512(図8)およびpTG8513(例9)を得る。
【0160】
更に、同酵素で直鎖化されたベクターpTG8508またはpTG8507中へのpTG1652のBamHI断片の導入から、pTG8514およびpTG8515を各々得る(図10および11)。
【0161】
pTG8512またはpTG8515でトランスフェクトされた細胞系はE4機能に欠陥があるアデノウイルスを補うことができ、一方pTG8513またはpTG8514トランスフェクションによるものはE1およびE4機能に欠陥があるアデノウイルスを増幅および増殖させるためにある。同様に、293細胞中へのpTG8512またはpTG8515のトランスフェクションでは、E1およびE4に欠陥があるアデノウイルスを補うことができる。
【0162】
[配列表]
【図面の簡単な説明】
【0163】
本発明は下記図面を参照して下記例により詳細に記載されている。
【図1】図1は、異なる遺伝子の位置を示した、ヒトアデノウイルスタイプ5のゲノムの(0〜100の任意単位で表される)略図である。
【図2】図2はベクターpTG6546の略図である。
【図3】図3はベクターpTG6581の略図である。
【図4】図4はベクターpTG6303の略図である。
【図5】図5はベクターpTG1660およびpTG1661の略図である。
【図6】図6はベクターpTG1653、pTG1654およびpTG1655の略図である。
【図7】図7はベクターpTG5913の略図である。
【図8】図8はベクターpTG8512の略図である。
【図9】図9はベクターpTG8513の略図である。
【図10】図10はベクターpTG8514の略図である。
【図11】図11はベクターpTG8515の略図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は宿主真核細胞または生物への対象遺伝子の移入と発現とが可能な新規欠陥アデノウイルスベクター、およびこれら組換えアデノウイルスのゲノムから欠失された必須ウイルス機能をイントランス(in trans)で補う新規補足系に関する。本発明は、特にヒトにおける、遺伝子治療の展望上特別な関心がもたれるものである。
【0002】
アデノウイルスは広い宿主範囲を示すDNAウイルスである。それらは多数の動物種および多数の細胞で実証されている。ゲノム配列に関して特に異なる多数の血清型が存在する。ほとんどのヒトアデノウイルスはほんのわずかに病原性であり、通常良性の症状を示すだけである。
【0003】
アデノウイルスは特定レセプターを介して受容宿主細胞に入り、その後それはエンドソーム中に取り込まれる。それらの酸性化が、ウイルスのコンホメーション変化と細胞質中へのその出現に寄与している。複製サイクルの第一工程に必要とされるある種のウイルスタンパク質に関係するウイルスDNAが、次いで感染細胞の核に入り、そこでその転写が細胞酵素により開始される。アデノウイルスDNAの複製は感染細胞の核で起こり、細胞複製を必要としない。新たなビリオンのアセンブリーも核で起こる。第一段階において、ウイルスタンパク質は二十面体構造の中空キャプシドを形成するように集合化して、それからアデノウイルスDNAが包膜(encapsidated)される。ウイルス粒子またはビリオンが感染細胞から放出され、他の受容細胞に感染することができる。
【0004】
アデノウイルスの感染サイクルは二つの工程、即ち:
‐アデノウイルスゲノムの複製の開始の前であって、かつウイルスDNAの複製および転写に関与する調節タンパク質の生産が行なわれる前期、および
‐構造タンパク質の合成を導く後期
で生じる。
【0005】
一般的には、アデノウイルスゲノムは、30以上のタンパク質をコードする配列を含んだ、長さ約36kbの二本直鎖DNA分子からなる。その両末端には、ITR(逆方向末端反復)と呼ばれる、血清型に応じた100〜150ヌクレオチドの短逆方向配列が存在している。ITRはアデノウイルスゲノムの複製に関与する。約300ヌクレオチドの包膜化領域は、ゲノムの5´末端において5´ITRの直後に位置している。
【0006】
初期遺伝子は、アデノウイルスゲノム中に分散した、E1〜E4(Eは“初期”を表す)と表示される4領域に分布している。初期領域はそれら自体のプロモーターを有した少くとも6つの転写単位を含んでいる。初期遺伝子の発現はそれ自体調節され、一部の遺伝子は他よりも前に発現される。3つの領域E1、E2およびE4は各々ウイルス複製にとり必須である。このため、アデノウイルスがこれら機能の1つに欠陥がある場合、即ちアデノウイルスがこれら領域の1つによりコードされる少くとも1つのタンパク質を生産できない場合には、このタンパク質はイントランスでそれに供給されねばならない。
【0007】
E1初期領域はアデノウイルスゲノムの5´末端に位置し、2つのウイルス転写単位E1AおよびE1Bを各々含んでいる。この領域はウイルスサイクルに非常に初期に関与するタンパク質をコードし、アデノウイルスのほぼすべての他の遺伝子の発現にとり必須である。特に、E1A転写単位は、他のウイルス遺伝子の転写をトランス活性化するタンパク質をコードしており、E1B、E2A、E2BおよびE4領域のプロモーターからの転写を誘導する。
【0008】
2つの転写単位E2AおよびE2Bをもまた含んだE2領域の産物は、ウイルスDNAの複製に直接関与している。この領域は、一本鎖DNAと強い親和性を示す72kDa タンパク質と、DNAポリメラーゼの合成とを特に支配している。
【0009】
E3領域はウイルスの複製にとり必須ではないがアデノウイルス感染の際に宿主免疫反応の阻害に関与するらしい少くとも6つのタンパク質をコードしている。特に、gp19kDa 糖タンパク質は、宿主細胞毒性T細胞による感染細胞の細胞溶解に関与するCTL応答を妨げると考えられる。
【0010】
E4領域はアデノウイルスゲノムの3´末端に位置する。そして、それは後期遺伝子の発現、後期メッセンジャーRNA(mRNA)の安定性、前期から後期への移行、そして更に細胞タンパク質合成の阻害に関与する多数のポリペプチドをコードしている。
【0011】
ウイルスDNAの複製が開始されると、後期遺伝子の転写が始まる。これらはアデノウイルスゲノムの大部分を占め、初期遺伝子の転写単位と一部重複している。しかし、それらは異なるプロモーターから別のスプライシング様式に従い転写され、そのため同一配列が異なる目的に用いられる。後期遺伝子のほとんどは主要後期プロモーター(MLP)から転写される。このプロモーターは長鎖一次転写産物の合成を行い、その後これは約20のメッセンジャーRNA(mRNA)の形で成熟化され、そこからビリオンのキャプシドタンパク質が生産される。キャプシドを構成する構造タンパク質IXをコードする遺伝子は、アデノウイルスゲノムの5´末端に位置し、その3´末端でE1B領域と重っている。タンパク質IX転写単位は、E1B転写単位と同じ転写終結シグナルを利用している。
【0012】
いくつかのアデノウイルスは現在遺伝的および生化学的にかなり特徴付けされている。ヒトアデノウイルスタイプ5(Ad5)の場合、その配列は参照番号M73260としてGenebankデータバンクで開示されている。アデノウイルスゲノムで異なる遺伝子を正確に位置決めすることができた。そこでは5´から3´にかけて103bp5´ITR、その後に約300bp包膜化領域(Hearing et al.,1987,J.Virol.,61,2555-2558)、次いでその位置が図1に示されている初期および後期領域と、最後に3´ITRを含んでいる。
【0013】
アデノウイルスが、対象遺伝子移入用の選択ベクターとしうる有利な特徴を備えていることは、前記から明らかである。多数の組換えアデノウイルスが文献に記載されている(Rosenfeld et al.,1991,Science,252,431-434;Rosenfeld et al.,1992,Cell,68,143-155)。一般的に言えば、それらはAd5から誘導され、環境および宿主生物でのそれらの伝播を避けうるようにE1機能に欠陥がある。加えて、非必須E3領域も欠失させることができる。外来配列が、E1またはE3領域に代えて組み込まれる。
【0014】
このため、これらの欠陥アデノウイルスは、ウイルス複製に必須であるE1機能をイントランスで補うセルラインでのみ増殖させることができる。現在、使用しうる唯一の補足系は胚腎臓系293(Graham et al.,1977,J.Gen .Virol.,36,59-72)であって、これは特にウイルスゲノムの5´末端を含んだAd5ゲノムの断片の染色体への組込みにより得られ、それによって系293はE1機能に欠陥があるアデノウイルスを補う。293細胞は欠陥組換えアデノウイルスにおいてまた見出される配列、例えば5´ITRと、包膜化領域と、初期タンパク質をコードする配列を含んだE1B領域の3´末端側の部分とを含んでいる。
【0015】
アデノウイルスを用いた遺伝子移入の実施の可能性は現在確立されている。しかしながら、それらの安全性の問題はなお解決されていない。実際に、それらは培養で一部の細胞系を形質転換することができ、少くとも一部の血清型において、本質的にE1とおそらくE4領域におけるアデノウイルスゲノムの発現産物の一部のものとしての潜在的な発癌性がもたらされる。更に、従来の欠陥アデノウイルス(特に組換えアデノウイルス)と、天然もしくは野生型アデノウイルス(宿主生物の偶発的汚染または日和見感染に起因する)または補足系293に組込まれたアデノウイルスゲノム断片との間の遺伝子組換えの蓋然性は微々たるものではない。実際に、1回の組換え現象は、E1機能を回復させ、環境に伝播しうる非欠陥組換えアデノウイルスを生じるのに十分である。欠陥アデノウイルスと同様の細胞に同時感染する野生型天然アデノウイルスがE1機能に関して前者を補って、2ウイルスの同時伝播を起こすという状況も考えられるさらに、一部タイプの真核細胞はE1A様活性を示すタンパク質を生産し、これはそれらに感染する欠陥アデノウイルスを部分的に補うこともできる。
【0016】
このため、有効な治療方法がないin vivo の重度の遺伝子欠陥を修正して、ある障害を治療するための遺伝子治療に用いるにあたり、最少の危険性を示し、自由に扱える有用なアデノウイルスベクターが望まれている。ヒトに適用される遺伝子治療の成否は、それを入手できるかどうかに依存している。
【0017】
更に、系293の入手に関しては疑問が存在している。その疑問により、それに由来するヒト用とされる産物の受容性が損なわれる傾向にある。ヒト用の組換えアデノウイルス粒子を生産するためには、起源および由来が正確に知られている、自由に扱える補足系があることが有用である。
【0018】
今般、(1)アデノウイルスゲノムのある特定領域が欠失された、インビボでの外来ヌクレオチド配列の移入により適した新規欠陥アデノウイルスベクター、および(2)薬学的観点から許容され、このためヒト用の産物の生産上要求されるすべての安全性を示す、新規の特徴付けされた補足系が見出された。
【0019】
これら新規ベクターの価値は、それらが1以上の大きな対象遺伝子の挿入が可能な高いクローニング能力を示し、かつ使用上最大の安全性を示すことである。有害変異は、対象遺伝子を移入および発現しうるそれらの能力を損うことなく、アデノウイルスを自律複製および細胞形質転換できなくする。
【0020】
このため、本発明の主題は、複製に欠陥があり、補足細胞中に包膜することができて、5´から3´にかけて5´ITR、包膜化領域、E1A領域、E1B領域、E2領域、E3領域、E4領域、および3´ITRを含んだアデノウイルスのゲノムから、
(i) E1A領域の全部または一部、および初期タンパク質をコードするE1B領域の部分全体、または
(ii) E1A領域の全部または一部、およびE2およびE4領域から選択される少くとも1つの領域の全部または一部、または
(iii) E1A領域の全部または一部、および包膜化領域の部分
の欠失により誘導される、アデノウイルスベクターである。
【0021】
本発明の目的において、“欠失”または“欠く”という用語は標的領域における少くとも1つのヌクレオチドの除去に関し、欠失は当然ながら連続でもまたは不連続でもよい。全部または一部とは、該当する領域の全体または部分のみの場合を意味する。上記領域によりコードされる少くとも1つの発現産物の生産を妨げる欠失が好ましい。このため、それらはコード領域または調節領域、例えばプロモーター領域に存在してよく、遺伝子の読取枠を壊すかまたはプロモーター領域を無機能化するように少くとも1つのヌクレオチドに影響を与えてもよい。欠失には、上記領域の1以上の遺伝子の部分的欠失またはその領域の全体の部分的欠失をも含む。
【0022】
本発明によるアデノウイルスベクターは複製に欠陥があるが、しかし補足細胞で複製および包膜することができる。宿主細胞にそのベクターを送達しうる能力を有しているために、宿主細胞で自律複製できないにもかかわらず感染性であるアデノウイルス粒子(欠陥アデノウイルスとも呼ぶこととする)を生じるように、欠陥があるものに産物をイントランスでそれを提供する。
【0023】
第一の例によると、本発明によるアデノウイルスベクターは、E1A領域の全部または一部、および初期タンパク質をコードする配列の全体を含んだE1B領域部分の欠失により、天然または野生型アデノウイルスのゲノムから誘導される。好ましい態様によれば、欠失はE1B領域の発現産物(即ち初期タンパク質をコードする配列)とプロモーターとに影響を与え、後期タンパク質IXをコードする配列と重複する転写終結シグナルの全部または一部を含まない。ヒトアデノウイルスタイプ5から誘導される本発明によるアデノウイルスベクターに関して、上記欠失にはアデノウイルスゲノムのヌクレオチド1634〜3509間にある配列から少くともなり、その配列は参照番号M73260としてGenebankデータバンクで開示されている。この欠失の目的は、本発明によるアデノウイルスベクターと、補足系(例えば系293)に組み込まれるアデノウイルスゲノム断片とに共通した配列を減少または消失させることである。更に、少くともE1A領域の発現産物と一緒に、発現産物が潜在的に発癌性である配列を本発明によるアデノウイルスベクターから除去することである。
【0024】
しかも、本発明によるアデノウイルスベクターは、天然または野生型アデノウイルスのゲノムから、:
‐E3領域の、および/または
‐E2領域の、および/または
‐E4領域の
全部または一部の欠失によって更に誘導される。
【0025】
本発明によるアデノウイルスベクターが上記3欠失のうち1つ、またはいずれかの組合せでそれらのうち2つ、またはすべての欠失を含むことができることは自明である。
【0026】
特に有利な態様によると、E3領域の一部のみ、好ましくはgp19kDa タンパク質、をコードする配列を含まない部分が、本発明によるアデノウイルスベクターから欠失される。本発明によるアデノウイルスベクターにgp19kDa タンパク質をコードする配列が存在することにより、感染細胞は宿主の免疫監視(即ち治療プロトコールがいくつかの反復投与を要するときの重要な基準)からのがれることができる。選択は、gp19kDa をコードする配列を、宿主細胞でそれらを発現させる適切な要素、即ちmRNAへの上記配列の転写とタンパク質への後者の翻訳に必要な要素のコントロール下において行うことが好ましい。これらの要素には特にプロモーターがある。このようなプロモーターは当業者に周知であり、遺伝子工学の慣用的技術で上記コード配列の上流に挿入される。選択されるプロモーターはE1A領域の発現産物の1つにより活性化されない構成プロモーターであることが好ましい。例として、HMG(ヒドロキシメチルグルタリル補酵素Aレダクターゼ)遺伝子プロモーター、SV40(シミアンウイルス40)ウイルス初期プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)LTR(長反復末端)または高等真核生物のPGK(ホスホグリセリン酸キナーゼ)遺伝子のプロモーターが挙げられる。
【0027】
更に、プロモーター領域に相当するE3領域の部分は本発明によるアデノウイルスベクターから場合により欠失させることができ、そのプロモーター領域は上記のような異種プロモーター領域に代えられる。
【0028】
第二の例によると、本発明によるアデノウイルスベクターは、E1A領域の全部または一部と、少くともE2および/またはE4領域の全部または一部とにおける連続または不連続欠失により、天然または野生型アデノウイルスのゲノムから誘導される。このような欠失により、対象遺伝子のクローニング可能性を増加させることができる。更に、E4領域の全部または一部の除去により、潜在的な発癌性産物をコードする配列を減少または消失させることもできる。
【0029】
上記のように、本発明によるアデノウイルスベクターは、特に上記のような態様に従い、E1Bおよび/またはE3領域の全部または一部を更に欠くことができる(例えば、初期タンパク質をコードする配列の全体を含むE1B領域の部分、およびgp19kDa タンパク質をコードしないE3領域の部分の欠失)。
【0030】
最後に、第三の例によると、本発明によるアデノウイルスベクターは、E1A領域の全部または一部と、包膜化領域の部分の欠失とにより、アデノウイルスのゲノムから誘導される。
【0031】
包膜化領域の部分的欠失により、本発明によるアデノウイルスベクターの無制御の伝播の可能性を、野生型アデノウイルスの存在下にあるとき有意に減少させることができる。このような欠失は、野生型アデノウイルスによるベクターの欠陥機能のイントランス相補によっても、競合野生型アデノウイルスのゲノムと比べて効率的に包膜できないように、その包膜化機能に影響を与えることができる。
【0032】
包膜化領域からの欠失は、2つの基準、即ち包膜される能力の減少と、同時に工業的生産に適合する残りの効力とに基づいて選択される。換言すれば、本発明によるアデノウイルスベクターの包膜化機能は実質上、但しもっと低い程度に維持される。弱毒化は、慣用的滴定技術により、適切な系を感染させて溶解プラークの数を調べることにより判定できる。このような技術は当業者に知られている。本発明において、包膜化効力は、野生株包膜化領域を有するコントロールアデノウイルスと比較して、2〜50分の1、有利には3〜20分の1、好ましくは5〜10分の1に減少している。
【0033】
当然ながら、本発明による弱毒化アデノウイルスベクターは上記欠失の少くとも1つまたは何らかの組合せも更に含むことができる。
【0034】
本発明によるアデノウイルスベクターは、天然または野生型アデノウイルス、有利にはイヌ、トリまたはヒトアデノウイルス、好ましくはヒトアデノウイルスタイプ2、3、4、5または7、最も好ましくはヒトアデノウイルスタイプ5(Ad5)のゲノムから誘導される。この後者の場合には、本発明によるアデノウイルスベクターの欠失は参照番号M73260としてGenebankデータバンクで特定されているAd5ゲノムのヌクレオチドの位置を参照して示される。
【0035】
ヒトアデノウイルスタイプ5のゲノムから、
(i) E1B領域の初期タンパク質をコードし、ヌクレオチド1634から始まり、ヌクレオチド4047で終わる部分の全体、および/または
(ii) ヌクレオチド32800〜35826にわたるE4領域、および/または
(iii) ヌクレオチド27871〜30748にわたるE3領域の部分、および/または
(iv) 下記包膜化領域の部分:
‐ヌクレオチド270〜ヌクレオチド346の範囲、または
‐ヌクレオチド184〜ヌクレオチド273の範囲、または
‐ヌクレオチド287〜ヌクレオチド358の範囲
の欠失により誘導される本発明によるアデノウイルスベクターが最も好ましい。
【0036】
好ましくは、本発明によるアデノウイルスベクターは野生型または天然アデノウイルスのゲノムから、そのゲノムの少くとも18%、少くとも22%、少くとも25%、少くとも30%、少くとも40%、少くとも50%、少くとも60%、少くとも70%、少くとも80%、少くとも90%または少くとも95%、特に98.5%の欠失により誘導される。
【0037】
特に好ましい態様によると、本発明によるアデノウイルスベクターは、5´および3´ITRと、包膜化領域の全部または一部とを除いたアデノウイルスゲノムの全体の欠失により、アデノウイルスのゲノムから誘導される。この例によると、それは組換えのリスクおよび発癌性のリスクを制限して最大のクローニング能力を有するような最少数のウイルス配列のみを含んでいる。このようなベクターは“最小”アデノウイルスベクターと称され、30kb以内の外来ヌクレオチド配列を挿入することが可能である。本発明による好ましいアデノウイルスベクターは、ヌクレオチド459〜35832にわたるウイルスゲノムの部分の欠失により、ヒトアデノウイルスタイプ5から誘導される。
【0038】
本発明に関して、本発明によるアデノウイルスベクターは、宿主細胞への外来ヌクレオチド配列の移入と、そこでのその発現をその目的として有する。“外来ヌクレオチド配列”は、コード配列とそのコード配列を発現させる調節配列を含んだ、コード配列がアデノウイルスのゲノムに通常存在しない配列である核酸を意味すると理解されている。調節配列はいかなる起源であってもよい。外来ヌクレオチド配列は、包膜化領域と3´ITRとの間に、遺伝子工学の標準技術で本発明によるアデノウイルスベクター中に導入される。
【0039】
外来ヌクレオチド配列は対象の、好ましくは治療対象の遺伝子1以上からなる。本発明に関して、対象遺伝子はアンチセンスRNA、または対象タンパク質に翻訳されるmRNAのいずれかをコードすることができる。対象遺伝子はゲノムタイプ、相補性DNA(cDNA)タイプまたは混合タイプ(少くとも1つのイントロンが欠失されているミニ遺伝子)である。それは成熟タンパク質、成熟タンパク質の前駆体、特に分泌されてこのためシグナルペプチドを含む前駆体、別起源の配列の融合によるキメラタンパク質、あるいは改善または改質された生物学的性質を示す天然タンパク質の変異体をコードすることができる。このような変異体は天然タンパク質をコードする遺伝子の1以上のヌクレオチドの変異、欠失、置換および/または付加により得られる。
【0040】
対象遺伝子は、宿主細胞でのその発現に適した要素のコントロール下においてよい。“適切な要素”とは、RNA(アンチセンスRNAまたはmRNA)へのその転写とタンパク質へのmRNAの翻訳とに必要な一連の要素を意味すると理解されている。転写に必要な要素の中では、プロモーターが特に重要と思われる。それは構成プロモーターまたは調節プロモーターであって、真核生物またはウイルス起源と更にはアデノウイルス起源の遺伝子から単離することができる。一方、それは該当する対象遺伝子の天然プロモーターであってもよい。一般的に言えば、本発明で用いられるプロモーターは調節配列を含むように修飾してもよい。例として、本発明で使用の対象遺伝子は、リンパ球宿主細胞へのその移入を目標にすることが望まれるときに、免疫グロブリン遺伝子のプロモーターのコントロール下におかれる。多数の細胞タイプで発現を行う、TK‐HSV‐1(ヘルペスウイルス、タイプ1チミジンキナーゼ)遺伝子プロモーター、または一方で特にヒトアデノウイルスタイプ2のアデノウイルスMLPプロモーターも挙げられる。
【0041】
本発明に関して使用しうる対象遺伝子の中では、以下が挙げられる:
‐サイトカイン、例えばインターフェロンα、インターフェロンγ、インターロイキンをコードする遺伝子、 ‐膜レセプター、例えば病原生物(ウイルス、細菌または寄生虫)、好ましくはHIVウイルス(ヒト免疫不全ウイルス)により認識されるレセプターをコードする遺伝子、
‐凝固因子、例えば因子VIIIおよび因子IXをコードする遺伝子、
‐ジストロフィンをコードする遺伝子、
‐インスリンをコードする遺伝子、
‐細胞イオンチャンネルに直接または間接的に関与するタンパク質、例えばCFTR(嚢胞性繊維症経膜伝達レギュレーター)タンパク質をコードする遺伝子、
‐病原生物のゲノムに存在する病原遺伝子によるかまたは発現が調節解除される細胞遺伝子、例えば癌遺伝子により生産されるタンパク質の活性を阻害できるアンチセンスRNAまたはタンパク質をコードする遺伝子、
‐酵素活性を阻害するタンパク質、例えばα1‐アンチトリプシンまたはウイルスプロテアーゼ阻害物質をコードする遺伝子、
‐生物学的機能を損うように変異された病原タンパク質の変異体、例えば標的配列に結合する上で天然タンパク質と競合して、それによりHIVの活性化を妨げうる、例えばHIVウイルスのTATタンパク質のトランス優性変異体をコードする遺伝子、
‐宿主細胞免疫を増加させるために抗原性エピトープをコードする遺伝子、
‐主要組織適合性複合体クラスIおよびIIタンパク質をコードする遺伝子と、これら遺伝子のインデューサーであるタンパク質をコードする遺伝子、
‐細胞酵素または病原生物により生産されるものをコードする遺伝子、および
‐自殺遺伝子。TK‐HSV‐1自殺遺伝子が特に挙げられる。ウイルスTK酵素は、あるヌクレオシドアナログ(例えば、アシクロビアまたはガンシクロビア)に対して細胞TK酵素と比べ著しく大きな親和性を示す。それはそれらを一リン酸分子に変換するが、これは毒性であるヌクレオチド前駆体にそれ自体が細胞酵素により変換されうる。これらのヌクレオチドアナログは合成中のDNA分子、ひいては主に複製状態にある細胞のDNA中に組み込むことができる。この組込みにより分裂細胞、例えば癌細胞を特に破壊することができる。
【0042】
上記リストは限定的なものではなく、他の対象遺伝子も本発明に関して用いてよい。
【0043】
更に、本発明のもう1つの態様によると、本発明によるアデノウイルスベクターは、非アデノウイルス転写をトランス活性化するタンパク質をコードする非治療遺伝子を更に含むことができる。当然ながら、トランス活性化タンパク質をコードするE1A領域の遺伝子、その発現はアデノウイルスを非欠陥にするリスクを生じる、は避けられる。Saccharomyces cerevisiae Gal4 タンパク質をコードする遺伝子が選択されることが好ましい。その発現により、ベクターを補足系、例えば下記で増殖させることができる。このような系はより洗練させて、アデノウイルス補足性タンパク質の連続生産による起こりうる毒性の問題を軽減することができる。転写をトランス活性化するタンパク質をコードする遺伝子は、必要であれば、その発現に適した要素、例えば対象遺伝子を発現させる要素のコントロール下においてもよい。
【0044】
本発明は、アデノウイルス粒子に加えて、本発明によるアデノウイルスベクターを含んだ真核宿主細胞にも関する。上記細胞は有利には哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞であり、ゲノム中に組込み形で、または好ましくは非組込み(エピソーム)形で上記ベクターを含むことができる。
【0045】
本発明によるアデノウイルス粒子は、本発明によるアデノウイルスベクターに欠陥がある機能をイントランスで付与するいずれかの補足系、例えば従来の系293、で継代により生産してもよい。これらの生産技術は当業者に知られている(Graham and Prevec,1991,Methods inMolecular Biology,vol.7,109-128,Ed:E.J.Murey,The Human Press Inc.) 。場合により、本発明によるアデノウイルス粒子は、下記のような本発明による補足系で作製してもよい。
【0046】
よって、本発明は、特に5´ITRを除くアデノウイルスのゲノムのE1領域の部分を含む補足要素を含んだ補足系にも関し、上記補足要素は欠陥アデノウイルスベクターをイントランスで補い、上記補足系のゲノムに組込むかまたは発現ベクター中に挿入することができる。
【0047】
本発明に関して、“補足系”という用語は、アデノウイルスベクターに欠陥がある機能をイントランスで付与しうる真核細胞に関する。換言すれば、それは上記アデノウイルスベクターの複製および包膜に必要なタンパク質、それ自ら生産できないウイルス粒子を作る上で要求される初期および/または後期タンパク質を生産することができる。当然ながら、上記部分はヌクレオチドの変異、欠失および/または付加により修飾してもよいが、但しこれらの修飾は補足性に関してその能力を損ってはならない。このため、E1機能に欠陥があるアデノウイルスベクターは(ベクターが生産できないE1領域によりコードされるタンパク質または一連のタンパク質をイントランスで供給できる)E1用の補足系で増殖されなければならず、E1およびE4機能に欠陥があるベクターは(E1およびE4領域によりコードされる必要タンパク質を供給する)E1およびE4用の補足系で増殖され、最後にE1、E2およびE4機能に欠陥があるベクターはその3機能用の補足系で増殖される。冒頭に挙げられたE3領域は非必須であり、特に補足される必要はない。
【0048】
本発明による補足系は、無制限に分裂しうる不死化細胞系または一次系から誘導される。本発明により追求される目的によると、本発明による補足系はいずれかの欠陥アデノウイルスベクター、特に本発明による欠陥アデノウイルスベクターの包膜に有用である。このため、“欠陥アデノウイルスベクター”という用語が以下で用いられるとき、それは従来または本発明いずれかの欠陥ベクターに関すると理解されるべきである。
【0049】
“補足要素”は、本発明に関して使用上アデノウイルスゲノムの部分を少くとも含んだ核酸を意味すると理解される。それは例えばプラスミドまたはウイルスタイプのベクター、例えばレトロウイルスまたはアデノウイルスベクター、あるいはポックスウイルスに由来するものに挿入することができる。それでも、それが本発明による補足系のゲノムに組込まれている場合が好ましい。ベクターまたは核酸を細胞系中に導入して、できればそれを細胞のゲノムに組込む方法は、このような目的に使用できるベクターのように、当業者に周知の慣用的技術である。補足要素は本発明による補足系中に予めまたは欠陥アデノウイルスベクターに伴い導入することができる。
【0050】
特別の態様によると、本発明による補足系はE1機能に関して欠陥アデノウイルスベクターをイントランスで補うように考えられている。このような系は組換えのリスクを減少させるという利点を有しているが、その理由は従来の系293と異なりベクター中に存在する5´ITRを欠いているからである。
【0051】
本発明に関して、本発明による補足系はアデノウイルスのゲノムのE1A領域の全部または一部と、
(i)E1B、E2およびE4領域から選択されるアデノウイルスのゲノムのうち少くとも1領域の全部または一部、または
(ii)上記ゲノムのE1B、E2およびE4領域のうち少くとも2領域の全部または一部、または
(iii) 上記ゲノムのE1B、E2およびE4領域の全部または一部
を含むことができる。
【0052】
本発明に関して、上記領域はそれらを発現させる適切な要素のコントロール下に必要であればおいてもよいが、E1A領域によりコードされる転写をトランス活性化するタンパク質により誘導しうるそれら自体のプロモーターのコントロール下にそれらをおくことが好ましい。
【0053】
指針として、E1A、E1BおよびE4領域を含んだ例(ii)による補足系は、E1およびE4領域に欠陥があって対応領域の全部または一部が欠失されたアデノウイルスの生産に向けられる。
【0054】
有利な態様によると、本発明による補足系は、特にE1A領域の全部または一部と、E1B領域の初期タンパク質をコードする配列の全体を含んでいる。
【0055】
更に、この態様の例によると、本発明による補足系はE1A領域のプロモーター領域を更に欠くことができる。この場合に、上記E1A領域の初期タンパク質をコードするアデノウイルスのゲノムの部分は、上記補足系で機能する適切な異種プロモーターのコントロール下におかれる。それはいずれの真核またはウイルス遺伝子からも単離することができる。しかしながら、初期領域のアデノウイルスプロモーターの使用は避けうる。該当するプロモーターは構成プロモーターである。例として、SV40ウイルス、TK‐HSV‐1遺伝子およびネズミPGK遺伝子プロモーターも挙げられる。
【0056】
一方、選択されるプロモーターは、非アデノウイルス転写をトランス活性化するタンパク質により調節および有利には誘導しうる。それは天然誘導性遺伝子から単離されたプロモーターであっても、あるいは上記トランス活性化タンパク質に応答する活性化配列(または上流活性化配列を表すUAS)の付加により修飾されたいずれのプロモーターであってもよい。更に具体的には、Saccharomyces cerevisiae Gal4 タンパク質により誘導されうるプロモーター、好ましくは何らかの種類の遺伝子(例えば、TK‐HSV‐1遺伝子またはAd2 MLP)の転写開始配列(TATAボックスおよび開始部位)のみを含むいわゆる“最小”プロモーターからなるハイブリッドプロモーターを用いることが好ましく、その上流にはSaccharomyces cerevisiae Gal10遺伝子の少くとも1つの活性化配列が挿入される(Webster et al.,1988,Cell,52,169-178) 。後者の配列は化学的に合成しても、または遺伝子工学の標準技術に従いGal10 遺伝子から単離してもよい。こうしてハイブリッドプロモーターは活性化され、Gal4タンパク質の存在下のみで、そのコントロール下におかれたE1A領域によりコードされる遺伝子の発現を誘導する。次いでE1A領域の発現産物は、本発明による補足系に場合により含まれる他のE1B、E2および/またはE4初期領域の発現を誘導することができるようになる。本発明のこの具体的態様は、補足性に必要なアデノウイルスタンパク質の構成的生産(おそらく毒性)を回避する。このため、誘導はGal4タンパク質を発現する本発明による欠陥アデノウイルスベクターの存在下で誘発される。しかしながら、このような系はイントランスでGal4タンパク質を供給する条件でいずれかの欠陥アデノウイルスベクターを生産するために用いてもよい。イントランスでタンパク質を供給する手段は当業者に知られている。
【0057】
一般的に、補足系は動物アデノウイルスから有利に誘導されるアデノウイルス、例えばイヌまたはトリアデノウイルス、あるいは好ましくはヒトアデノウイルス、最も好ましくはタイプ2または5のゲノムの部分を含んでなる。
【0058】
本発明による補足系は、
(i) 参照番号M73260としてGenebankデータバンクで開示されている配列のヌクレオチド100〜ヌクレオチド5297、または
(ii) ヌクレオチド100〜ヌクレオチド4034、または
(iii) ヌクレオチド505〜ヌクレオチド4034
にわたるヒトアデノウイルスタイプ5のゲノムの部分を特に含んでいる。
【0059】
有利には、(ii)によるゲノムの部分は転写終結シグナル、例えばSV40(シミアンウイルス40)またはウサギβ‐グロビン遺伝子のポリアデニル化シグナルの上流に挿入される。一方、E1A領域のプロモーター配列もE1B領域の転写終結シグナルも含まない(iii) の部分は、適切なプロモーター、特にGal4タンパク質により誘導しうるプロモーターと、転写終結シグナル、例えばウサギβ‐グロビン遺伝子とのコントロール下におかれる。このような補足系は特に安全であると考えられ、その理由はそれが欠陥アデノウイルスと共通した配列の大部分を欠いているからである。
【0060】
更に、本発明による補足系は、参照番号M73260としてGenebankデータバンクで開示されている配列のヌクレオチド32800から始まりヌクレオチド35826で終わるヒトアデノウイルスタイプ5のE4領域の部分を含むことができる。
【0061】
更に、本発明による補足系は、包膜化領域と、5´および3´ITRと、そして最も好ましくは参照番号M73260としてGenebankデータバンクで開示されている配列のヌクレオチド505から始まりヌクレオチド35826で終わるヒトアデノウイルスタイプ5のゲノムの部分とを除いて、天然アデノウイルスのゲノムの全体を含むことができる。本発明の目的から、この部分は適切なプロモーターのコントロール下におかれる。Saccharomyces cerevisiae Gal4 タンパク質により誘導されうるプロモーターを用いるのが好ましい。このような系によれば、E1、E2およびE4機能に欠陥があるアデノウイルスベクター、特に本発明による最小アデノウイルスベクターの複製および包膜化に必須な機能のすべてをイントランスで補うことができる。
【0062】
好ましい態様によると、本発明による補足系は、それを含有した細胞を検出および単離できる選択マーカーをコードする遺伝子を更に含んだ補足要素を含有することができる。本発明に関して、これは選択マーカーをコードするいずれの遺伝子であってもよく、このような遺伝子、有利には抗生物質耐性に関する遺伝子、好ましくはプロマイシン耐性を付与するプロマイシンアセチルトランスフェラーゼ(pac遺伝子)をコードする遺伝子は通常当業者に知られている。
【0063】
本発明に関して、選択マーカーをコードする遺伝子は、その発現を行う適切な要素のコントロール下においてもよい。これらには構成プロモーター、例えばSV40ウイルス初期プロモーターがある。しかしながら、E1A領域によりコードされるトランス活性化タンパク質で誘導されうるプロモーター、特にE2Aアデノウイルスプロモーターが好ましい。このような組合せは、本発明による補足系でE1A領域の遺伝子の発現を維持するための選択の圧力を誘導する。本発明の目的から、選択されるプロモーターはヌクレオチドの欠失、変異、置換および/または付加により修飾されていてもよい。
【0064】
最も好ましい態様によると、本発明による補足系は薬学的観点から許容される細胞系から誘導される。“薬学的観点から許容される細胞系”は、特徴付けられて(その起源および由来が知られている)および/またはヒト用の産物の大規模生産(高度臨床試験用バッチまたは販売用バッチのアセンブリー)に既に用いられた細胞系を意味すると理解されている。このような系はATCCのような組織から入手できる。この点においては、Veroアフリカミドリザル腎臓、BHKゴールデンまたはSyrianハムスター腎臓系、肺癌腫に由来するA549ヒト系と、MRC5ヒト肺、W138ヒト肺およびCHOチャーニーズハムスター卵巣系が挙げられる。
【0065】
一方、本発明による補足系は一次細胞、特にヒト胚から採取される網膜細胞から誘導することができる。
【0066】
本発明は本発明によるアデノウイルス粒子の生産方法にも関し、それによれば
‐本発明によるアデノウイルスベクターが、トランスフェクトされた補足系を得るために、上記ベクターをイントランスで補える補足系中に導入され、
‐上記補足系が上記アデノウイルス粒子の生産を行うために適した条件に従い培養され、および
‐上記粒子が細胞培養で回収される。
【0067】
当然ながら、アデノウイルス粒子は培養上澄から、但し慣用的プロトコールにより細胞からも回収される。
【0068】
好ましくは、本発明による方法では本発明による補足系を用いる。
【0069】
本発明の主題は、本発明によるアデノウイルスベクター、アデノウイルス粒子、真核宿主細胞または補足系の治療または予防のための使用にも関する。
【0070】
最後に、本発明は、薬学的観点から許容されるビヒクルとともに、本発明によるアデノウイルスベクター、アデノウイルス粒子、真核細胞または相補細胞を治療または予防剤として含んでなる、医薬組成物に関する。
【0071】
本発明による組成物は、疾患、例えば
‐遺伝障害、例えば血友病、嚢胞性繊維症またはデュシェーヌおよびベッカータイプ筋障害、
‐癌、例えば癌遺伝子またはウイルスにより誘導される癌、
‐レトロウイルス疾患、例えばエイズ(HIV感染に起因する後天性免疫不全症候群)、および
‐再発ウイルス疾患、例えばヘルペスウイルス誘導感染の予防または治療用として特に考えられている。
【0072】
本発明による医薬組成物は常法で製造される。特に、治療有効量の治療または予防剤が、ビヒクル、例えば希釈剤と組み合わされる。本発明による組成物はエアゾールにより、あるいは当業界で使用上慣用的ないずれかの経路、特に経口、皮下、筋肉内、静脈内、腹腔内、肺内または気管内経路により投与される。投与は1回分の用量で、またはある時間間隔後に1回以上繰返される用量で行う。適切な投与経路および投与量は様々なパラメーター、例えば治療される個体または治療される障害、あるいは移入される対象遺伝子に応じて変わる。一般的に言えば、本発明による医薬組成物は104〜1014、有利には105〜1013、好ましくは106〜1011の本発明によるアデノウイルスの投与量を含む。医薬組成物、特に予防目的に用いられるものは、薬学的観点から許容されるアジュバントを更に含むことができる。
【0073】
本発明は、本発明によるアデノウイルスベクター、アデノウイルス粒子、真核細胞または補足系の治療有効量がこのような治療を要する患者に投与される治療方法も包含している。
【実施例】
【0074】
下記例は本発明の一態様のみを示している。
【0075】
下記構築は、Maniatis et al.(1989,Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY) で詳述された遺伝子工学および分子クローニングの一般的技術に従い行う。細菌プラスミドを用いるクローニングの選択工程はEscherichia coli (E.coli)株5KまたはBJで継代により行なわれ、一方ファージM13から誘導されたベクターを用いる場合はE.coli NM522で継代により行なわれる。PCR増幅の工程に関しては、PCR Protocols - A guide to methods and applications(1990,edited by Innis, Gelfand,Sninsky and White,Academic Press Inc.)で記載されたプロトコールが適用される。
【0076】
更に、細胞は当業者に周知の標準技術に従いトランスフェクトする。リン酸カルシウム技術(Maniatis et al.,supra) も挙げられる。しかしながら、核酸を細胞内に 導入させうる他のプロトコール、例えばDEAEデキストラン技術、エレクトロポレーション、浸透圧ショックに基づく方法、選択細胞のマイクロインジェクションまたはリポソームの使用に基づく方法も用いてよい。
【0077】
下記の異なる構築体に挿入された断片は、
‐参照番号M73260としてGenebankデータバンクで開示されているAd5ゲノム、
‐参照番号J01949としてGenebankデータバンクで開示されているアデノウイルスタイプ2(Ad2)ゲノム、 ‐参照番号J02400としてGenebankデータバンクで開示されているSV40ウイルスゲノム
のヌクレオチド配列でそれらの位置に従い正確に示されている。
【0078】
例1:包膜化領域の部分の欠失を含んだ“弱毒化”アデノウイルスの作製
1.包膜化領域のヌクレオチド184〜ヌクレオチド273の欠失を含んだ“弱毒化”ベクターの組立て
以下を含んだベクター:
‐Ad5ゲノムの5´ITR(ヌクレオチド1〜ヌクレオチド103)、
‐ヌクレオチド184〜ヌクレオチド273にわたる部分が欠失されて、176位のチミン(T)がAatII制限部位を作るためにシトシン(C)に変えられた、ヌクレオチド104〜458にあるAd5包膜化領域、
‐5´から3´にかけてAd2 MLP(ヌクレオチド5779〜6038)、KpnI‐XbaI‐HindIII およびBamHI制限部位、CFTRタンパク質をコードするヒトcDNA(Riordan et al.,1989,Science,245,1066-1073で公表された配列に相当するアミノ酸組成;但し470位はメチオニンの代わりにバリン)、PstI、XhoIおよびSalI部位と、最後にSV40ウイルス転写終結シグナル(ヌクレオチド2665〜2538)を含んでなる、対象遺伝子の発現用カセット、および
‐ヌクレオチド3329〜ヌクレオチド6241にわたるAd5ゲノムの断片
を組み立てる。
【0079】
第一段階では、pMLP11から単離されたEcoRI‐SmaI断片をベクターM13TG131(Kieny et al.,1983,Gene,26,91-99) のEcoRIおよびEcoRV部位間に組み込んでクローニングする。この組立てはpMLP10(Levrero et al.,1991,Gene,101,195-202)から始めるが、HindIII 部位におけるSmaI部位の導入により親ベクターとは異なる。ベクターM13TG6501を得る。後者は、包膜化領域のヌクレオチド184〜273間にある配列を欠失させるために、特定部位変異誘発に付す。特定部位変異誘発では供給業者の勧めに従い市販キット(Amersham)を用いて行い、配列確認No.1(配列番号1)で示されたオリゴヌクレオチドOTG4174を用いる。変異ベクターをM13TG6502と命名した。こうして欠失された包膜化領域はEcoRIおよびSmaIで切断されたベクターpMLP11中にEcoRI‐BglII断片の形で再導入するが、そのBglII部位はクレノウDNAポリメラーゼ処理で平滑化されている。
【0080】
得られたベクターpTG6500をPstIで部分的に切断し、ファージT4 DNAポリメラーゼで処理し、その後PvuIで切断する。(pMLP11から誘導された)pTG5955から単離されたPvuI‐HpaI断片をこのベクター中に挿入する。この断片はSV40ウイルス転写終結シグナルとヌクレオチド3329〜ヌクレオチド6241にわたるAd5ゲノムの部分を含んでいる。こうして形成されたベクターpTG6505をSphIで部分的に切断し、ファージT4 DNAポリメラーゼで処理し、再結合させるが、この目的はポリリンカーの5´末端に位置するSphI部位を壊すことである。これによりpTG6511を得て、その中に、BamHI切断およびクレノウDNAポリメラーゼ処理後に、ヒトCFTR cDNAをXhoI‐AvaI切断およびクレノウDNAポリメラーゼ処理により形成された平滑末端化断片の形で組み込んでクローニングする。pTG6525を得る。指針として、CFTR cDNAは従来のプラスミド、例えばpTG5960(Dalemans et al.,1991,Nature,354,526-528) から単離する。
【0081】
2.包膜化領域のヌクレオチド270〜ヌクレオチド346の欠失を含んだ“弱毒化”ベクターの組立て
ベクターM13TG6501を、オリゴヌクレオチドOTG4173(配列番号2)を用いる特定部位変異誘発に付す。次いで変異断片を前記のようにpMLP11中に再導入して、ベクターpTG6501を得る。後者をSphIで切断し、ファージT4 DNAポリメラーゼ、その後PvuIで処理する。pTG6546(図2)は、pTG6525から単離されたPvuI‐KpnI断片(KpnI部位は平滑化されている)をクローニングして、ヒトCFTR cDNAを含有させることにより得る。
【0082】
3.包膜化領域のヌクレオチド287〜ヌクレオチド358の欠失を含んだ“弱毒化”ベクターの組立て
ベクターM13TG6501を、包膜化領域のヌクレオチド287〜358間にある配列を欠失させるために特定部位変異誘発に付し、NcoI部位を導入するために275および276位のチミンをグアニンに変えて、NcoI部位を導入する。変異誘発はオリゴヌクレオチドOTG4191(配列番号3)を用いて行い、M13TG6507を得る。後者をBglIIで開裂させ、クレノウDNAポリメラーゼで処理し、その後EcoRIで切断し、対応変異断片を精製し、EcoRIおよびSmaIで切断されたpMLP11中に導入する。pTG6504を得て、それからSphI(ファージT4 DNAポリメラーゼ処理で平滑化された部位)‐PvuI断片を単離し、pTG6511のKpnI部位(T4ポリメラーゼ処理で平滑化)とPvuI部位との間に挿入する。pTG6513を得て、これをBamHIおよびクレノウDNAポリメラーゼで処理してから、pTG5960のAvaIおよびXhoI断片を挿入して、pTG6526を得る。
【0083】
4.欠陥および弱毒化組換えアデノウイルスの作製
欠陥組換えアデノウイルスは、相同的組換えで組換えウイルスを得るために、ClaIおよびAd‐dl324ゲノムDNA(Thimmappaya et al.,1982,Cell,31,543-551) で直鎖化されて更にClaIで切断されたpTG6525、pTG6526またはpTG6546の293細胞中へのコトランスフェクションにより作製する。8〜10日後、個々のプラークを単離し、293細胞で増幅させ、制限地図作製により分析する。ウイルスストック(AdTG6525、AdTG6526およびAdTG6546)を集め、それらの力価を慣用的技術に従い調べる。
【0084】
AdTG6546ウイルスは、野生型包膜化領域を含むAd‐CFTR(Rosenfeld et al.,1992,Cell,68,143-155) との同時感染により、競合状況下におく。293細胞を細胞当たり5pfu(プラーク形成単位)のAd‐CFTRおよび5pfu のAdTG6546で感染させる。並行して、全ウイルスDNAをHirt´s法(Gluzman and Van Doren,1983,J.Virol.,45,91-103)により単離し、包膜化ウイルスDNAを0.2%デオキシコール酸とその後10μg/mlのデオキシリボヌクレアーゼ(DNアーゼ)Iで細胞を処理した後に単離して、ビリオンで保護されていないDNAを除去する。全Ad‐CFTRおよびAdTG6546 DNAの量は同一であるが、包膜化AdTG6546 DNAの約3倍の包膜化Ad‐CFTR DNAがある。
【0085】
AdTG6546感染293細胞の細胞抽出物中におけるCFTRタンパク質の発現のレベルを測定する。分析はDalemans et al.(1991,Nature,supra)に記載された技術に従いウエスタンブロッティングによりモノクローナル抗体MATG1031を用いて行う。しかしながら、CFTRタンパク質の抗原性エピトープを認識するいずれの他の抗体も用いてよい。約170kDa の予想分子量の産物を検出する。指針として、生産のレベルは未弱毒化Ad‐CFTRウイルスで感染された細胞抽出物で得られる場合におおよそ等しい。
【0086】
例2:E1A領域とE1B領域の初期タンパク質をコードする配列の全体が欠失された欠陥アデノウイルスの作製
1.CFTRタンパク質発現用の組換えアデノウイルス(AdTG6581)の生産
このようなアデノウイルスは、5´から3´にかけて‐Ad5 5´ITR(ヌクレオチド1〜103)、‐Ad5包膜化領域(ヌクレオチド104〜458)、‐下記要素を含んだ発現カセットを含む外来ヌクレオチド:
・Ad2 MLP(ヌクレオチド5779〜6038)、その後Ad2の3つの三部分リーダー(ヌクレオチド6039〜6079;ヌクレオチド7101〜7175;ヌクレオチド9637〜9712);これらのリーダーは下流に挿入された配列の翻訳の効率を増加させるために含まれる、
・対象遺伝子のクローニングに使用しうるXbaI、HindIII 、BamHI、EcoRV、HpaIおよびNotI制限部位を5´から3´にかけて含んだポリリンカー、
・対象遺伝子、例えばCFTRタンパク質をコードする遺伝子、
・SV40ウイルスから単離された転写終結シグナル(ヌクレオチド2543〜2618)、
‐ヌクレオチド4047〜6241にわたるAd5アデノウイルスゲノムの部分
を含んだプラスミドベクターpTG6581から作製する。
【0087】
ヌクレオチド4047〜ヌクレオチド4614にわたるAd5ゲノムの断片をAd5ゲノムDNAからPCRにより増幅させる。PCR反応では、後のクローニング工程を容易にするためにBamHI部位を5´末端に含むセンスプライマーOTG5021(配列番号4)とアンチセンスプライマーOTG5157(配列番号5)を用いる。こうして形成された断片をクレノウDNAポリメラーゼで処理してから、M13mp18(Gibco BRL) のSmaI部位中に組み込んでクローニングして、M13TG6517を得る。PCRで形成された断片の配列は、標準酵素方法(Sanger et al.,1977,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,74,5463)に従い確認する。
【0088】
別に、PvuI‐SmaI断片をpMLP11から単離する。それをpTG6511(例1.1)のPvuIと〜pnI部位間に組み込んでクローニングするが、KpnI部位は標準方法に従いファージT4 DNAポリメラーゼ処理で平滑化されている。ベクターpTG6547はこうして形成する。
【0089】
後者を酵素SalIおよびBstXIで切断し、2つの断片に結合させるが、一方はM13TG6517の精製BamHI‐BstXI断片で、他方はpTG6185のXhoI‐BglII断片である。後者はXhoIおよびBglII制限部位に隣接するSV40ウイルス転写終結シグナルを特に含んでいる。しかしながら、同様の終結配列と適切な制限部位を含んだいずれか他のプラスミドも使用できる。ベクターpTG6555を得るが、その中に、2つの制限部位形成平滑末端EcoRVおよびHpaIを含むアダプターを唯一のBamHI部位に挿入する。このアダプターはオリゴヌクレオチドOTG5564およびOTG5565(配列番号:6および7)の組換えから形成する。pTG6580を得る。最後に、末端が平滑化されてヒトCFTR cDNAを含むpTG6525のSacI‐PstI断片を、pTG6580のEcoRV部位中に組み込んでクローニングする。pTG6581(図3)を得る。
【0090】
対応組換えアデノウイルスAdTG6581は、標準プロトコールに従い、E1機能用の補足系、例えば系293または例6の系中への、双方ともClaIで開裂されたpTG6581およびAd d1324のコトランスフェクションにより得る。
【0091】
2.IFN‐γ発現用の組換えアデノウイルスの生産
ベクターpTG6303(図4)を、M13TG2437のHpaI‐SmaI断片をpTG6580のHpaI部位中に組み込んでクローニングすることにより得る。上記断片は、配列がGray et al.(1982,Nature,295,503-508)で特定されているインターフェロンγ(IFN‐γ)をコードする遺伝子をベクターM13TG130(Kieny et al.,1983,supra) に組み込んでクローニングすることにより得る。組換えアデノウイルスAdTG6303は、標準技術に従い、E1機能に関する補足系中へのClaIで直鎖化されたpTG6303およびAd d1324のコトランスフェクションに基づく相同的組換えにより得る。
【0092】
3.E1領域が欠失されてE3領域が構成プロモーターのコントロール下におかれているアデノウイルスの作製
ベクターpTG1670は、ベクターpポリII(Lathe et al.,1987,Gene,57,193-201) のAatII〜BamHI部位間にRSVウイルス(ラウス肉腫ウイルス)3´LTR(長末端反復)を含むPCR断片をクローニングすることにより得る。PCR反応では、鋳型としてベクターpRSV/L(De Wet et al.,1987,Mol.Cell.Biol.7,725-737)と、プライマーOTG5892およびOTG5893(配列番号8および9)を用いる。
【0093】
別に、E3領域の5´部分(ヌクレオチド27588〜28607)は、ベクターpTG1659からプライマーOTG5920およびOTG5891(配列番号10および11) を用いたPCRにより増幅させる。後者のベクターは数工程で組み立てる。BamHI‐AvrII断片(ヌクレオチド21562〜28752)をAd5ゲノムDNAから得て、その後pTG7457の同部位間に組み込んでクローニングして、pTG1649を得る。ベクターpTG7457は、特にAvrII部位を含むようにポリリンカー中で修飾されたpUC19(Gibco BRL) である。次いでM13TG1646(例8)のEcoRI(クレノウ)‐AvrII断片をAvrII‐NdeI(クレノウ)で開裂されたpTG1649中に導入して、ベクターpTG1651を得る。最後に、pTG1659を、AvrIIで直鎖化されたpTG1651中にAd5ゲノムDNAの精製AvrII断片(ヌクレオチド28752〜35463)を挿入することにより得る。PCR断片をpポリIIのXbaI〜BamHI部位間に組み込んで、pTG1671を得る。次いでpTG1670から得られたEcoRV‐AatII断片をpTG1671のAatII部位に挿入して、pTG1676を得る。
【0094】
ヌクレオチド27331〜30049に相当するAd5のEcoRI断片をゲノムDNA調製物から単離し、EcoRIで既に開裂されたpBluescript‐Sk+ (Stratagene)中に組み込んでサブクローニングする。pTG1669を得る。後者は27867位(変異原性オリゴヌクレオチドOTG6079;配列番号12)または28249位(変異原性オリゴヌクレオチドOTG6080;配列番号13)でBamHI部位を導入することにより変異させる(Amersham kit)。pTG1672およびpTG16733を各々得る。RSV 3´LTRに続いてE3領域の5´部分を含むBamHI‐BsiWI断片をベクターpTG1676から単離し、先の工程で得られたベクターのBamHI部位(27331または30049位)とBsiW部位(28390位)との間に挿入して、pTG1977およびpTG1978を得る。次いでこれら2つのベクターの各々から得られたEcoRI断片を野生型EcoRI断片の代わりとしてpTG1679に組込む。pTG1679‐E3+ を得る。参考のため、ベクターpTG1679はpTG6584(例3.1)のBstEII部位とBamHI部位(クレノウポリメラーゼ処理により平滑化された部位)との間に組み込まれたpTG6590(例3.1)のBstEII‐KpnI断片(T4ポリメラーゼ処理により平滑化された部位)のクローニングから得る。
【0095】
アデノウイルス粒子は、pTG1679‐E3+ のAatII断片とアデノウイルスベクター、例えばAd d1324またはAd‐RSVβ‐galとの間でE1機能用の補足系における相同的組換えにより作製する。後者はE1領域の代わりにβ‐ガラクトシダーゼ遺伝子を含んでいる(Stratford-Perricaudet et al.,1992,J.Clin.Invest.,90,626-630)。
【0096】
例3:E1およびE3領域の部分的欠失による改善されたクローニング能力を有した組換えアデノウイルスベクターの組立て
1.pTG6590ΔE3の組立て
ヌクレオチド27325〜27871間にあるAd5ゲノムの部分を有した断片を、Ad5ゲノムDNA調製物からプライマーOTG6064およびプライマーOTG6065(配列番号14および15)を用いたPCRにより増幅させる。OTG6065はその5´末端にBsmI部位を含むが、これはE3領域でも(30750位に)存在している。
【0097】
増幅された断片をM13mp18のSmaI部位に組み込んでクローニングし、M13TG6523を得る。EcoRI‐BsmI断片を後者から単離し、同酵素で開裂されたベクターpTG6590中に導入する。pTG6590Δ3が得られ、これはアデノウイルスゲノムの3´部分(ヌクレオチド27082〜35935)を含んでいるが、その部分からはヌクレオチド27872〜30740間にあるE3領域が欠失され、一方E3領域のもっと小さな部分(28592〜30470位)はpTG6590から欠失されていた。ベクターpTG6590は下記のようにして得る。ヌクレオチド35228〜35935にわたる断片(3´ITRを含む)をAd5ゲノム調製物からプライマーOTG5481およびOTG5482(配列番号16および17) によるPCRで形成する。次いでこの断片をM13mp18のSmaI部位に組み込んでクローニングし、M13TG6519を得る。別に、ベクターpTG6584をXbaIで切断し、その後E3領域の対応断片を除去するために再結合させる。pTG6589を得て、これをBamHIで開裂させ、クレノウで処理し、その後BstEIIで切断する。M13TG6519の精製EcoRI(クレノウ)‐BstEII断片をこうして処理されたベクター中に導入して、pTG6590を得る。
【0098】
参考のため、ベクターpTG6584は唯一のSpeI部位(27082位)〜E4領域のプロモーター領域の開始部(35826位)にわたるAd5配列を含んだpUC19ベクター(Gibco BRL) である。それはpTG1659(例2.3)をSalIおよびSpeIで切断し、クレノウDNAポリメラーゼで処理し、その後再結合させることにより得る。
【0099】
2.E1領域とgp19kDa タンパク質を発現しないE3の部分が欠失されたアデノウイルスベクターの組立て
gp19kDa をコードするAd5のE3領域の部分(ヌクレオチド28731〜29217)を、Ad5ゲノムDNA調製物からプライマーOTG5455およびOTG5456(配列番号18および19) を用いたPCRにより得る。形成された断片をM13mp18のSmaI部位中に導入して、M13TG6520を得る。後者のEcoRI‐XbaI断片を単離して、pTG1670(例2.3)のAatII部位に組み込んでクローニングするが、その部位はクレノウDNAポリメラーゼ処理で平滑化されている。次いで先の工程のベクターの精製XbaI断片をベクターpTG6590ΔE3(例3.1)のXbaI部位中に挿入する。
【0100】
3.アデノウイルス粒子の生産
組換えウイルス粒子を、AdTG6303またはAdTG6581ゲノムDNAから単離されたSpeI断片と例3.1および3.2のベクターのどれかとの結合により得る。次いで結合混合物をE1機能に関する補足系中にトランスフェクトする。
【0101】
例4:E1およびE4領域が欠失されたアデノウイルスの作製
ヌクレオチド31803〜32799および35827〜35935にわたるアデノウイルスゲノムの部分を、Ad5ゲノムDNA調製物からプライマーOTG5728およびOTG5729(配列番号20および21) とOTG5730およびOTG5781(配列番号22および16) を各々用いて増幅させる。約10回の増幅サイクル後に、反応はオリゴヌクレオチドOTG5728およびOTG5781を用いて2反応混合物の一部に基づき続ける。増幅断片はヌクレオチド31803〜35935にわたり、E4領域の全部(32800〜35826位)が欠失している。EcoRIおよびHindIII 切断後に、それをM13mp18の同部位間に組み込んでクローニングし、M13TG6521を得る。
【0102】
M13TG6521をEcoRIで切断し、クレノウDNAポリメラーゼで処理し、その後BstXIで開裂する。3´LTRを含んだ0.46kb断片をクレノウDNAポリメラーゼ処理で平滑化されたBamHI部位とpTG6584(例3.1)のBstXI部位との間に挿入する。pTG6587を得て、これをXbaIで切断し、その後それ自体と再結合させ、pTG6588(E3の欠失)を得る。
【0103】
オリゴヌクレオチドOTG6060、OTG6061、OTG6062およびOTG6063(発列番号23〜26)の組換えから得た合成DNA断片をpTG6588のPacI部位中に導入する。これによりpTG8500を得て、その中におけるL5後期遺伝子の転写終結シグナルを改善する。
【0104】
E4領域の全部(ヌクレオチド32800〜35826)とE3領域のXbaI断片(ヌクレオチド28592〜30470)が欠失されたゲノムを有するアデノウイルス粒子(AdΔE4)を、pTG8500またはpTG6588とAd5から単離されたSpeI断片の結合により形成する。結合混合物をE4機能に関する相補細胞系、例えば系W162(Weinberg and Ketner,1983,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,80,5383-5386)中にトランスフェクトする。E1およびE4機能に欠陥があるアデノウイルス(ΔE1、ΔE4)は、Ad d1324ゲノムとSpeIで直鎖化されたプラスミドpTG8500またはpTG6588との結合混合物のE1およびE4に関する補足系(例えば、例8の系)中へのトランスフェクションにより得る。
【0105】
更に、下記のように行うことも可能である。pTG1659(例2.3)から単離されたSpeI‐ScaI断片をこれら同酵素で開裂されたベクターpTG6588中に組み込んでクローニングし、pTG6591を得る。後者はヌクレオチド21062〜35935のAd5配列を含んでいるが、そこからは上記のようにE4領域の全部とE3領域のXbaI断片が欠失されている。上記の合成DNA断片をPacIで切断されたベクターpTG6591中に導入して、pTG6597を形成する。アデノウイルス粒子は、SpeIで開裂されたAd d1324ゲノムDNAとBamHIで開裂されたプラスミドpTG6591またはpTG6597との相同的組換えにより得てもよい。
【0106】
例5:“最小”ウイルスの作製
いわゆる“最小”アデノウイルスベクターは、プラスミド中に下記要素:
‐Ad5 5´ITR(ヌクレオチド1〜103)、
‐Ad5包膜化領域(ヌクレオチド104〜458)、‐下記を含む外来ヌクレオチド配列:
・自然調節にできるだけ近い発現の調節を得るために、好ましくは自己のプロモーターの存在下におかれた、治療対象の第一遺伝子、
・TK‐HSV‐1遺伝子からなる対象の第二遺伝子、
・場合により、包膜化されるゲノムの全サイズが30〜36kbであるような包膜化または複製の効率の理由から加えられる、何らかの種類のヌクレオチド配列、
・高等真核細胞で機能的なプロモーターのコントロール下におかれたSaccharomyces cerevisiae Gal4 タンパク質(Laughon and Gesteland,1984,Mol.Cell.Biol.,4, 260-267)をコードする配列、および‐Ad5 3´ITR(ヌクレオチド35833〜35935)
を組み込んでクローニングすることにより形成する。
【0107】
これらの異なる要素のアセンブリーは分子生物学の標準技術に従い行う。このようなベクターを含んだ感染性ビリオンの生産は例7の補足系で上記のように行う。
【0108】
例6:E1機能をイントランスで補える相補細胞の形成
1.ヌクレオチド100〜5297のE1領域(pTG6533)を含んだ相補細胞の形成
この細胞は以下を含んでいる:
‐遺伝子がSV40ウイルス初期プロモーター(ヌクレオチド5171〜5243)のコントロール下におかれて、3´末端にSV40転写終結シグナル(ヌクレオチド2543〜2618)を含んだ、pac遺伝子の発現用カセット。用いられたpac遺伝子は、Lacalle et al.(1989,Gene,79,375-380)に開示された配列のヌクレオチド252〜ヌクレオチド905にわたり、公表配列と比べて4つの変更点(305位でCの代わりにA;367位でCの代わりにT;804位でGの挿入;820位でGの欠失)を含んだ断片に相当する。
【0109】
‐ヌクレオチド100〜5297にわたるAd5ゲノムの断片。この断片は、自己のプロモーターおよび転写終結シグナルをもったE1AおよびE1B領域と、E2領域のフラクションを含んでおり、このためタンパク質IXをコードする配列と重複している。指針として、系293は機能性タンパク質IXを生産することができないらしい。
【0110】
組立ては以下で詳述されたいくつかの工程で行う。ベクターpポリIII-I* (Lathe et al.,1987,Gene,57, 193-201)を酵素AccIおよびEcoRIによる切断に付す。プラスミドpTG6164から単離されたEcoRI‐ClaI断片をこうして処理されたベクター中に組み込んでクローニングする。ベクターpTG6528を得る。
【0111】
プラスミドpTG6164はpLXSN(Miller D,1989,Bio/Techniques,7,980)から誘導し、SV40ウイルス初期プロモーターのコントロール下におかれたpac遺伝子を含んでいる。簡単に言えば、pLXSNのHindIII-KpnI断片をM13TG131中に導入して、M13TG4194を得る。pMPSV H2 K IL2R(Takeda et al.,1988,Growth Factors, 1,59-66) のNheI‐KpnI断片を後者に挿入し、NheIおよびKpnIで切断して、M13TG4196を得る。後者をHindIII-KpnIで切断し、HindIII 切断および部分的KpnI切断から得たpLXSNの精製断片をクローニングする。pTG5192を得る。後者をHindIII と部分的にNheIで切断し、pBabe Puro(Land et al.,1990,Nucleic Acids Res.,18,3587)のHindIII-NheI断片を導入して、pTG6164を得る。
【0112】
ベクターpTG6528をPstIで切断し、SV40転写終結シグナルを含んだpTG6185(例2.1)から単離されたPstI断片をこの部位に導入する。pTG6529を得る。後者をEcoRI‐HpaI切断に付し、2断片と結合させるが、一方はAd5ゲノムDNAの精製BspEI‐BcgI断片(826〜5297位)で、他方はEcoRIおよびBspEI末端でPCRにより形成された断片であって、pTG6531を得る。PCR断片はAd5ゲノムDNAとプライマーOTG4564およびOTG4565(SEQ ID NO:27および28で記載)からの遺伝子増幅により得る。増幅断片を酵素EcoRIおよびBspEIで切断し、先の段落で記載されたように結合させる。
【0113】
ベクターpTG6531は同方向に2つの転写単位(E1領域の単位とpac遺伝子の単位)を含んでいる。転写で干渉を避けるためには、それらはpTG6531をBamHIで処理して再結合させることにより頭‐尾(互いに逆)方向におく。ベクターpTG6533は2単位の逆方向を示すクローンに相当する。
【0114】
ベクターpTG6533をリン酸カルシウム技術により哺乳動物細胞系、例えばVero(ATCC,CCL81)またはA549(ATCC,CCL185) 系中にトランスフェクトする。トランスフェクトされた細胞を供給業者の勧めに従い培養し、プロマイシン(濃度6μg/ml)含有選択培地にトランスフェクション後24時間おく。耐性クローンを選択し、そこではE1領域の遺伝子の発現について最も生産的なクローンを調べるために評価するが、これはE1機能に欠陥があるアデノウイルス、例えば例2で詳述されたものの生産用の補足系として用いてよい。
【0115】
E1領域の初期タンパク質をコードする配列の発現は、アイソトープ32Pで標識された適切なプローブを用いて、ノーザンブロッティングにより分析する。E1A領域でコードされたタンパク質の生産は、細胞をアイソトープ35Sで標識した後に市販抗体(Oncogene Science Inc.,reference DP11)を用いた免疫沈降により検出する。
【0116】
(E1B mRNAのノーザンブロット分析により)E1B領域のプロモーターを活性化するか、または(E2プロモーターのコントロール下におかれたCAT(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)を含む“リポーター”プラスミドの一時トランスフェクション後に酵素活性を調べることにより)E2領域のプロモーターを活性化する、E1A領域の発現産物の能力を確認することもできる。
【0117】
最後に、これらの細胞をAd‐RSV‐βgal(Stratford-Perricaudet et al.,1992,supra) で感染させて、細胞変性効果が観察されるとすぐに寒天技術でウイルスを滴定することができる。一般的に、操作は下記のとおりである。細胞を10のmoi(感染多重度)で感染させる。感染の約48時間後、細胞変性効果がみられたときに、細胞を溶解させて、β‐ガラクトシダーゼ活性を慣用的プロトコールに従い調べる(例えば、Maniatis et al.,1989,supra参照)。陽性クローンをもっと低いmoi で再感染させる。感染の約48時間後に、上澄および細胞を標準技術に従い集める。ウイルス力価は293細胞を用いて寒天積層法により決める。得られた力価対初期力価の比率が増幅ファクターになる。
【0118】
2.ヌクレオチド505〜4034のE1領域を含んだ補足系(pTG6557、pTG6558、pTG6559、pTG6564およびpTG6565)の組立て
ベクターpTG6557、pTG6558およびpTG6559は以下を含んでいる:
(i) 以下のコントロール下にあるpac遺伝子(前記のようなヌクレオチド252〜905)の発現用カセット:
‐Ad2 E2Aプロモーター(ヌクレオチド27341〜27030)(pTG6558の場合)
‐ヌクレオチド27163〜27182間にある配列が欠失されたAd2 E2Aプロモーター(pTG6557の場合)。このような変異から、E1Aでコードされたトランス活性化タンパク質による誘導能に影響を与えることなく、E2Aプロモーターの基準レベルを減少させることができる。または
‐pTG6559の場合SV40初期プロモーター
【0119】
上記3つの場合において、それは3´末端にSV40ウイルス転写終結シグナル(ヌクレオチド2543〜2618)も含んでいる;および
(ii) ヌクレオチド505〜4034にわたるAd5 E1領域の部分を含んだ発現カセット。アデノウイルスゲノムのこの部分は、E1A領域の初期タンパク質をコードする配列の全部、E1A単位の転写終結シグナル、E1Bプロモーター(E1Aでコードされるトランス活性化タンパク質により誘導しうる)と、E1B領域のコード配列の全部を含んでいる。それはタンパク質IXをコードする配列も含んでおり、E1B領域と重複している。しかしながら、それはE1A領域のプロモーターとE1BおよびIX転写単位の転写終結シグナルを欠く。E1領域の配列を発現させるためには、ネズミPGK遺伝子プロモーターをアデノウイルス断片の5´末端に導入し、ウサギβ‐グロビン遺伝子の転写終結シグナル(Genebankデータバンクで参照番号K03256として開示されている配列のヌクレオチド1542〜2064)を3´末端に導入する。
【0120】
場合により、何らかの種類の、例えばpBR322(Bolivar et al.,1977,Gene,2,95-113) から単離されたヌクレオチド配列も、転写で生じうる干渉を避けるために、pac遺伝子とE1領域との発現用カセット間に導入してよい。
【0121】
これらベクターの組立ては下記のいくつかの工程で行う。
【0122】
最初に、ヌクレオチド505〜ヌクレオチド826にわたるAd5ゲノムの部分は、ゲノム調製物から、後のクローニング工程に有用なPstI部位を5´末端に含むプライマーOTG5013(配列番号29)とBspEI部位と重複するOTG4565(配列番号28)を用いたPCRにより増幅させる。PCRにより形成された断片をクレノウDNAポリメラーゼで処理し、その後M13mp18のSmaI部位中に挿入して、M13TG6512を得る。PCR断片の配列を確認する。
【0123】
ベクターpTG6533(例6.1)を酵素EcoRIおよびBspEIで切断する。こうして処理されたベクターを、一方ではM13TG6512から単離されたPstI‐BspEI断片、他方ではpKJ‐1から単離されたEcoRI‐PstI断片と結合させる。後者の断片はヌクレオチド−524〜−19間にあるネズミPGK遺伝子プロモーターの部分を含んでいるが、その配列はAdra et al.(1987,Gene,60,65-74) で報告されている。この工程ではpTG6552を生じ、ヌクレオチド505で始まるAd5のE1領域の上流にネズミPGK遺伝子プロモーターを挿入することができる。 別に、XhoIで形成された末端がクレノウDNAポリメラーゼ処理後に平滑化されているXhoI‐BamHI断片を、pBCMG Neo(Karasuyama et al.,1989,J.Exp.Med.,169,13-25) から精製する。ウサギβ‐グロビン遺伝子の転写終結シグナルを含んだこの断片を、ベクターpポリII-Sfi/Not-14 * (Lathe et al.,1987,Gene,57,193-201) のSmaIおよびBamHI部位間に導入する。得られたベクターpTG6551は、ヌクレオチド3665〜ヌクレオチド4034にわたるAd5ゲノムの断片をその中に挿入するために、酵素SphIおよびEcoRVでその一部について切断する。この断片は標準プロトコールに従いPCRで形成する。用いられた操作では、鋳型としてAd5ゲノムDNA調製物と、3665位で内部SphI部位と重複するプライマーOTG5015(配列番号30)および5´末端にBglII部位を含むOTG5014(配列番号31)を用いる。
【0124】
PCR断片をクレノウDNAポリメラーゼで処理してから、M13mp18のSmaI部位中に組み込んでクローニングし、M13TG6516を得る。その配列の確認後に、PCR断片をBglII切断、クレノウDNAポリメラーゼ処理およびSphI切断により抽出する。それをpTG6551のSphIおよびEcoRV部位間に挿入する。これによりpTG6554を得る。
【0125】
別に、ベクターpTG6529(例6.1)を酵素HpaIおよびHindIII 切断に付す。pac遺伝子とその後にSV40ウイルス転写終結シグナルを含んだ2.9kb断片を精製する。この断片を、Ad2 E2Aプロモーターを有するpE2 Lac(Boeuf et al.,1990,Oncogene,5,691-699)から単離されたSmaI‐HindIII 断片に結合させる。ベクターpTG6556を得る。一方、それはAd2の変異E2Aプロモーターを有するpE2 Lac D9170(Zajchowski et al.,1985,EMBO J,,4,1293-1300)から単離されたSmaI‐HindIII 断片に結合させてもよい。この場合には、ベクターpTG6550を得る。
【0126】
pTG6556を酵素EcoRIおよびBamHIで切断する。pTG6552から単離されたEcoRI‐SacII断片とpTG6554から単離されたSacII‐BamHI断片をこれらの部位間に挿入する。ベクターpTG6558を得る。pTG6550およびpTG1643(例7.1)で行う同様の工程では、各々pTG6557およびpTG6559を得る。
【0127】
pTG6557およびpTG6558をEcoRVで切断するが、唯一の部位は2つの発現カセット(pac遺伝子およびE1領域)間に位置している。pBR322(Bolivar et al.,supra)から単離された1.88kbEcoRV‐PvuII断片は、2プロモーター間の距離をあけるために、この部位中に組み込んでクローニングする。pTG6564およびpTG6565を各々得る。
【0128】
ベクターpTG6557、pTG6558、pTG6559、pTG6564およびpTG6565を細胞系A549中にトランスフェクトする。前記のように、プロマイシン耐性クローンを選択し、E1領域の発現を確認する。E1発現クローンは、E1機能に欠陥があるアデノウイルスを増幅および増殖させるためにある。E1発現産物の生産には細胞毒性効果を伴うが、サザン分析ではベクター再配列を実証できない。Ad‐RSV‐βgal感染後、いくつかのクローンはウイルスを100倍以上増幅させることができる。
【0129】
3.Saccharomyces cerevisiae Gal4 タンパク質により誘導しうる相補細胞の作製
これらのベクターは、前記のように、ヌクレオチド505〜4034にわたるAd5 E1領域の部分を含んでいる。しかしながら、E1A領域の配列の発現は、一方ではAd2 MLP最小プロモーター(TATAボックスおよび転写開始シグナル;ヌクレオチド−34〜+33)と他方ではGal4タンパク質により活性化できるGal10遺伝子の活性化配列からなる誘導性プロモーターのコントロール下におかれている。Gal4結合部位に相当する17ヌクレオチド(17MX)の共通活性化配列はWebster et al.(1988,Cell,52,169)で特定されている。ウサギβ‐グロビン遺伝子の転写終結シグナルをE1B転写単位の3´末端におく。
【0130】
17MX配列のダイマー(配列番号32および33)とその後にAd2 MLP最小プロモーターを含み、その5´末端にSalI部位およびその3´末端にBamHI部位を含んだ第一DNA断片を合成する。SalI部位をクレノウDNAポリメラーゼ処理により平滑化する。別に、配列のペンタマーとその後に同様のプロモーターを含み、その5´および3´末端にXbaIおよびBamHI部位を含んだ第二DNA断片を合成する。XbaI切断後に、その末端をクレノウポリメラーゼ処理で平滑化する。
【0131】
これら断片の各々をpポリIIのBglII部位中に導入して、pTG1656およびpTG1657を各々得る。次いで下記2断片、即ちpTG6552(例6.2)から単離されたPstI‐XbaI断片とpTG6559(例6.2)から単離されたXbaI‐BamHI断片をPstI‐BamHIで既に切断されたベクターの各々の中に導入する。pTG1660およびpTG1661を各々得る(図5)。
【0132】
A549細胞をpTG1643(pac遺伝子発現用のベクター)とpTG1660またはpTG1661でコトランスフェクトする。クローンをそれらのプロマイシン耐性について選択し、上記のように試験する。A549‐1660およびA549‐1661の約50%はE1領域の発現産物を生産する。しかしながら、生産には細胞毒性効果を伴い、細胞の形態的外観を変える。
【0133】
細胞ゲノムにおけるプラスミドの組込みおよび非再配列をサザン分析により確認する。組込みプラスミド(pTG1643、pTG1660およびpTG1661)の実質的変化は、分析された生産クローンで実証できない。Gal4の存在下でE1A領域によりコードされた配列の発現の誘導能も(Gal4タンパク質の構成的発現を行うプラスミドでの形質転換により)確認することができる。
【0134】
約2のmoi でAd‐RSV‐βgalによるいくつかの生産クローンの感染後に、2つのA549‐1660クローンはウイルスストックを100倍以上増幅させることができる。
【0135】
例7:アデノウイルスの複製に必須な機能のすべてに関する補足系の形成
5´ITR、3´ITRおよび包膜化領域を除いてAd5アデノウイルスゲノムの全部を含んだベクターを組み立てる。
【0136】
ベクターpTG6528(例6.1)を酵素PstIおよびBglIIで切断するが、その間にはOTG5039およびOTG5040(配列番号34および35)のオリゴヌクレオチドからなる標準プロトコールに従い化学的に合成されたDNA断片が挿入されている。オリゴヌクレオチド配列はPstIクローニング部位を再形成せずにEcoRV部位を導入できるようにデザインされている。pTG1639を得て、これをEcoRV切断で直鎖化し、末端がクレノウDNAポリメラーゼ処理で平滑化されたXbaI‐BamHI断片に結合させる。この断片はSV40ウイルス転写終結シグナルを有している。適切な制限部位で囲まれたシグナルを含むいずれのプラスミドもこの工程で用いてよい。
【0137】
こうして形成されたベクターpTG1640をBamHIおよびBglIIで切断し、pac遺伝子発現用のカセットを有する断片をベクターpポリII-Sfi/Not-14 * のBglII部位中に導入する。pTG1641を得る。後者をNotIで直鎖化し、クレノウDNAポリメラーゼで処理する。pBR322(Bolivar et al.,supra)から単離されて更にクレノウDNAポリメラーゼで処理された0.276kbBamHI‐SalI断片を導入する。これによりpTG1643を得る。
【0138】
pTG1643をXhoIで直鎖化し、17MXダイマーとその後にTK‐HSV‐1遺伝子最小プロモーター(Genebankデータバンクで参照番号V00467として開示された配列のヌクレオチド303〜450、3´末端においてXhoI部位で補充されている)を含んだXhoIハイブリッド断片をこの部位中に挿入する。pTG1647を得るが、そこでは2×17MX‐TK‐HSV‐1ハイブリッドプロモーターがpac遺伝子発現用のカセットと同方向に挿入されている。
【0139】
この組立体pTG1647は、ヌクレオチド505〜ヌクレオチド35826にわたるAd5ゲノムの断片をPstIおよびBamHI部位間に導入するための親ベクターとして用いる。第一段階では、pTG1647をPstIおよびBamHIで切断し、その後一方ではヌクレオチド505〜918のAd5ゲノムの部分を含んだpTG6552(例6.2)のPstI‐ClaI断片と、他方ではAd5ゲノムDNAから調製されたClaI‐BamHI断片(918〜21562位)とに結合させる。それにより得られたベクターは、5´ITRおよび包膜化領域を除いたAd5の5´部分を含んでいる。
【0140】
別に、Ad5ゲノムの3´部分をベクターpポリII-Sfi/Not-14* でアセンブリー化する。後者をBamHIで直鎖化し、Ad5ゲノムのBamHI‐AvrII断片(ヌクレオチド21562〜28752)とAd5のヌクレオチド35463〜35826に相当するPCR断片を導入する。後者の断片はAd5ゲノムDNAからプライマーOTG5024(配列番号36)およびOTG5025(配列番号37)を用いて形成し、5´末端にBamHI部位を含んでいる。得られたベクターをAvrIIで切断し、Ad5ゲノムDNAから単離された28753〜35462位にわたるAvrII断片を挿入する。
【0141】
アデノウイルス配列を含んだBamHI断片を、5´ITRおよび包膜化領域を欠くアデノウイルスゲノムの5´部分を含んだ先の工程のベクターのBamHI部位中に導入する。
【0142】
欠陥アデノウイルスの機能のすべてを補える補足系は、前例で記載されたプロトコールに従い、細胞系、例えばA549中へのトランスフェクションにより形成する。
【0143】
アデノウイルスゲノムの事実上全体を含む下記4つのベクターを組み立てることにより行うことも可能であり、これは最終工程において単一ベクターでリアセンブリー化させる:
‐pTG1665は、Ad5ゲノムDNA調製物から単離されたBspEI断片(ヌクレオチド826〜7269)をpポリII-Sfi/Not-14* のXmaI部位中に組込むクローニングに相当する;
‐pTG1664は、Ad5ゲノムDNA調製物から単離されたNotI断片(ヌクレオチド6503〜1504)を同ベクターのNotI部位中に挿入することにより形成する;
‐pTG1662は、Ad5ゲノムDNA調製物から単離されたAatII断片(ヌクレオチド10754〜23970)をpポリIIのAatII部位中に導入することにより得る;
‐Ad5ゲノムの3´部分を含むpTG1659(例2.3)
【0144】
次いで誘導発現系、例えばGal4により誘導しうる例6.3または7で記載されたプロモーター、あるいは従来のプロモーター、例えばメタロチオネインまたはテトラサイクリンプロモーターを含んだ断片を導入する。このような断片はAatIIおよびClaIで切断されたベクターpTG1665においてAd5の5´配列(ヌクレオチド505〜918)の上流に位置させる。最後に、pTG1664のNotI断片、pTG1662のAatII断片と、最後にpTG1659のBamHI断片を上記ベクター中に対応部位で連続的に組み込んでクローニングする。
【0145】
補足系を上記ベクターおよびpTG1643のコトランスフェクションにより形成し、プロマイシン耐性クローンを単離する。この系は、更に詳しく言うと、E1、E2およびE4機能と後期機能に欠陥がある例5のアデノウイルスベクターを増幅および包膜化するためにある。
【0146】
例8:E1およびE4機能に関する補足系の形成
ベクターpTG1647(例7)を酵素PstI‐BamHIで切断し、下記3つの断片:
‐ヌクレオチド505〜ヌクレオチド1339のAd5配列を有するpTG6552(例6.2)のPstI‐XbaI断片、
‐ヌクレオチド1340〜ヌクレオチド3665のAd5配列を有するpTG6552のXbaI‐SphI断片、および
‐ヌクレオチド3665〜ヌクレオチド4034のAd5配列と転写終結シグナルを有するpTG6554(例6.2)のSphI‐BamHI断片をこうして処理されたベクター中に導入する。
【0147】
それにより得られたベクターをBamHIで切断し、下記3つの断片:
‐32800〜33104位間に位置するAd5配列に相当する、PCRにより形成される、BamHI‐AflIIで切断された断片。用いられる操作では、鋳型としてAd5ゲノムDNAとプライマーOTG5078(配列番号38)およびOTG5079(配列番号39)を用いる。
【0148】
‐Ad5ゲノムDNAから単離されたAflII‐AvrII断片(ヌクレオチド33105〜35463)、
‐プライマーOTG5024およびOTG5025 (例7参照)を用いるPCRにより形成されたAvrII‐BamHI断片
をこの部位中に導入する。
【0149】
これにより形成されたベクターを上記プロトコールに従い細胞系中に導入して、E1およびE4機能に関する補足系を形成する。
【0150】
しかも、このような系は下記プロトコールに従い得てもよい:
Ad5ゲノムのE4領域(ヌクレオチド32800〜35826)をいくつかの工程で再形成させる。ヌクレオチド33116〜32800にわたる部分をAd5ゲノムDNAからプライマー対OTG5078およびOTG5079(配列番号38および39)でPCRにより合成し、その後M13TG130のEcoRV部位中に挿入して、M13TG1645を得る。
【0151】
後者のBamHI‐AflII断片をAd5のAflII‐AvrII断片(ヌクレオチド33104〜35463)との結合反応に付し、ベクターpTG7457をBamHIおよびAvrIIで切断する。pTG1650を得る。
【0152】
次いでE4領域を、Ad5ゲノムDNA調製物からプライマーOTG5024およびOTG5025(配列番号36および37)を用いるPCRでヌクレオチド35826〜35457に相当する断片を得ることにより完成させる。この断片をM13mp18のSmaI部位に挿入して、M13TG1646を得る。AvrII‐EcoRI断片を後者から単離し、pTG1650のAvrIIおよびEcoRI部位間に組み込んでクローニングする。pTG1652を得る。
【0153】
Ad5のE4領域を含んだBamHI断片をpTG1652から単離し、pTG1643およびpTG6559(例6.2)のBamHI部位またはpTG6564(例6.2)のSspI部位中に、その部位が平滑化された後に組み込んでクローニングし、pTG1653、pTG1654およびpTG1655(図6)を各々得る。
【0154】
E1およびE4機能をイントランスで補える相補細胞は、慣用的技術で:
(1) 細胞系293へのpTG1653の形質転換、または
(2) 細胞系A549へのpTG1654またはpTG1655の形質転換
により作製する。
【0155】
一般的に言えば、E1およびE4領域の産物の発現には細胞毒性効果を伴う。いくつかの293‐1653クローンは、E1が欠失されたアデノウイルスとE4が欠失されたアデノウイルスの双方を補うことができる。
【0156】
別法では下記のように行う。
【0157】
ベクターM13TG1646を、E4領域のプロモーターを欠失させてHpaI部位を挿入する目的から、変異原性オリゴヌクレオチドOTG5991(配列番号40)で特定部位変異誘発に付す。変異ベクターはM13TG6522と命名する。それをPstIで切断し、ファージT4 DNAポリメラーゼとその後AvrIIで処理し、pTG1652(例8)の精製EcoRI(クレノウ)‐AvrII断片と結合させて、pTG6595を得る。後者をHpaIで開裂し、BglIIおよびBamHI切断とクレノウ処理後にpTG5913(図7)から得られた0.8kb断片を導入する。pTG6596を得るが、そこではE4領域(32800〜35826位)はTKプロモーターのコントロール下にある。参考のため、pTG5913はTK‐HSV‐1遺伝子を有し、BglII‐BamHI断片はこの遺伝子のプロモーターに相当する(Wagner et al.,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,78,1441-1445) 。
【0158】
並行して、ベクターpTG1643およびpTG6559(例6)をBamHIで直鎖化し、オリゴヌクレオチドOTG6141およびOTG6142(配列番号41および42)の組換えから得た合成断片を挿入して、pTG8508およびpTG8507を各々得る。
【0159】
これらの後者をBamHIで開裂してから、E4発現用のカセットを含んだpTG6596の精製BamHI断片を導入する。ベクターpTG8512(図8)およびpTG8513(例9)を得る。
【0160】
更に、同酵素で直鎖化されたベクターpTG8508またはpTG8507中へのpTG1652のBamHI断片の導入から、pTG8514およびpTG8515を各々得る(図10および11)。
【0161】
pTG8512またはpTG8515でトランスフェクトされた細胞系はE4機能に欠陥があるアデノウイルスを補うことができ、一方pTG8513またはpTG8514トランスフェクションによるものはE1およびE4機能に欠陥があるアデノウイルスを増幅および増殖させるためにある。同様に、293細胞中へのpTG8512またはpTG8515のトランスフェクションでは、E1およびE4に欠陥があるアデノウイルスを補うことができる。
【0162】
[配列表]
【図面の簡単な説明】
【0163】
本発明は下記図面を参照して下記例により詳細に記載されている。
【図1】図1は、異なる遺伝子の位置を示した、ヒトアデノウイルスタイプ5のゲノムの(0〜100の任意単位で表される)略図である。
【図2】図2はベクターpTG6546の略図である。
【図3】図3はベクターpTG6581の略図である。
【図4】図4はベクターpTG6303の略図である。
【図5】図5はベクターpTG1660およびpTG1661の略図である。
【図6】図6はベクターpTG1653、pTG1654およびpTG1655の略図である。
【図7】図7はベクターpTG5913の略図である。
【図8】図8はベクターpTG8512の略図である。
【図9】図9はベクターpTG8513の略図である。
【図10】図10はベクターpTG8514の略図である。
【図11】図11はベクターpTG8515の略図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5´ITR以外のアデノウイルスのゲノムのE1領域の一部を含む補足要素を含んでなる補足系であって、
上記補足要素が欠陥アデノウイルスベクターをトランスで補うことができ、かつ、上記補足要素が、上記補足系のゲノムに組込まれているかまたは発現ベクター中に挿入されてなる、補足系。
【請求項2】
欠陥アデノウイルスベクターを補う補足要素を含んでなる補足系であって、
該補足要素が、発現ベクター中に挿入されてなるか、または、補足系のゲノムに組込まれており、かつ、該補足要素が、5´ITRを欠いてE1遺伝子産物をコードしているアデノウイルスのゲノムの断片を含んでなる、補足系。
【請求項3】
(i) アデノウイルスのゲノムのE1A領域の全部または一部、および
(ii) E1B、E2およびE4領域から選択される上記ゲノムの1つの領域の全部または一部
を含んでなる、請求項1または2に記載の補足系。
【請求項4】
(i) アデノウイルスのゲノムのE1A領域の全部または一部、および
(ii) 上記ゲノムのE1B、E2およびE4領域のうちの2つの全部または一部
を含んでなる、請求項1または2に記載の補足系。
【請求項5】
(i) アデノウイルスのゲノムのE1A領域の全部または一部、および
(ii) 上記ゲノムのE1B、E2およびE4領域の全部または一部
を含んでなる、請求項1または2に記載の補足系。
【請求項6】
E1A領域の全部または一部、および初期タンパク質をコードするアデノウイルスのゲノムのE1B領域の全体を含んでなる、請求項3〜5のいずれか一項に記載の補足系。
【請求項7】
イヌ、トリおよびヒトアデノウイルスから選択されるアデノウイルスのゲノムの部分を含んでなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の補足系。
【請求項8】
ヒトアデノウイルスタイプ5のゲノムの部分を含んでなる、請求項7に記載の補足系。
【請求項9】
(i) ヌクレオチド100〜ヌクレオチド5297、
(ii) ヌクレオチド100〜ヌクレオチド4034、または
(iii)ヌクレオチド505〜ヌクレオチド4034
にわたるヒトアデノウイルスタイプ5のゲノムの部分を含んでなる、請求項8に記載の補足系。
【請求項10】
ヌクレオチド32800〜ヌクレオチド35826にわたるヒトアデノウイルスタイプ5のゲノムのE4領域の部分を含んでなる、請求項8または9に記載の補足系。
【請求項11】
ヌクレオチド505〜ヌクレオチド35826にわたるヒトアデノウイルスタイプ5のゲノムの部分を含んでなる、請求項8に記載の補足系。
【請求項12】
天然プロモーターを欠くアデノウイルスのゲノムのE1A領域の部分を含み、その部分が適切なプロモーターのコントロール下におかれてなる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の補足系。
【請求項13】
E1A領域の部分が、非アデノウイルス転写をトランス活性化するタンパク質により誘導しうるプロモーターのコントロール下におかれてなる、請求項12に記載の補足系。
【請求項14】
E1A領域の部分が、下記のアデノウイルスベクターによりコードされる転写をトランス活性化するタンパク質により誘導しうるプロモーターのコントロール下におかれてなる、請求項13に記載の補足系であって、
前記アデノウイルスベクターが、補足系中における増殖に必要な複製に欠陥がある、アデノウイルスベクターであって、
5´から3´にかけて、5´ITR、包膜化領域、E1A領域、E1B領域、E3領域、E4領域、および3´ITRを含んでなるアデノウイルスのゲノムから、
E1A領域の全部または一部、E1B領域の全部または一部、およびE4領域の全部または一部、および必要に応じてE3領域の全部または一部の欠失(ここでE4の欠失は、E4機能の補足が必要となるようにE4機能を妨げている)
により誘導されてなる、アデノウイルスベクターであり、
転写のトランス活性化剤である非アデノウイルス性タンパク質をコードする遺伝子をさらに含んでなり、その遺伝子が宿主細胞で上記タンパク質の発現に必要な要素のコントロール下におかれてなる、アデノウイルスベクターである、補足系。
【請求項15】
E1A領域の部分が、転写をトランス活性化するSaccharomyces cerevisiae Gal4 タンパク質により誘導しうるプロモーターのコントロール下におかれてなる、請求項13または14に記載の補足系。
【請求項16】
選択マーカーをコードする遺伝子をさらに含んでなる、請求項1〜15のいずれか一項に記載の補足系。
【請求項17】
選択遺伝子がプロマイシンアセチルトランスフェラーゼをコードするものである、請求項16に記載の補足系。
【請求項18】
選択遺伝子が、野生型アデノウイルスのゲノムのE1A領域によりコードされる転写をトランス活性化するタンパク質により誘導されうるプロモーターのコントロール下におかれてなる、請求項16または17に記載の補足系。
【請求項19】
選択遺伝子が、野生型アデノウイルスのゲノムのE2領域のプロモーターのコントロール下におかれてなる、請求項18に記載の補足系。
【請求項20】
薬学的観点から許容される細胞系に由来する、請求項1〜19のいずれか一項に記載の補足系。
【請求項21】
Vero、BHK、A549、MRC5、W138およびCHO系から選択される細胞系に由来する、請求項20に記載の補足系。
【請求項22】
ヒト胚網膜細胞に由来する、請求項1〜19のいずれか一項に記載の補足系。
【請求項23】
アデノウイルスベクターを含んでなるアデノウイルス粒子の生産方法であって、
前記アデノウイルスベクターが、補足系中における増殖に必要な複製に欠陥がある、アデノウイルスベクターであって、
5´から3´にかけて、5´ITR、包膜化領域、E1A領域、E1B領域、E3領域、E4領域、および3´ITRを含んでなるアデノウイルスのゲノムから、
E1A領域の全部または一部、E1B領域の全部または一部、およびE4領域の全部または一部、および必要に応じてE3領域の全部または一部の欠失(ここでE4の欠失は、E4機能の補足が必要となるようにE4機能を妨げている)
により誘導されてなる、アデノウイルスベクターであり、
(i) 前記アデノウイルスベクターが、トランスフェクトされた補足系を得るために、上記アデノウイルスベクターをトランスで補える補足系中に導入され、
ここで、請求項1〜22のいずれか一項に記載の補足系が用いられ、
(ii) 上記トランスフェクトされた補足系がアデノウイルス粒子の生産を行うために適した条件下で培養され、
(iii) 上記アデノウイルス粒子が細胞培養物中で回収される、
ことを含んでなる方法。
【請求項24】
請求項1〜22のいずれか一項に記載の補足系を、治療または予防剤として、薬学的観点から許容されるビヒクルとともに含んでなる、医薬組成物であって、
遺伝障害、癌、レトロウイルス疾患、および再発ウイルス疾患の遺伝子治療による予防または治療処置を行うための、医薬組成物。
【請求項1】
5´ITR以外のアデノウイルスのゲノムのE1領域の一部を含む補足要素を含んでなる補足系であって、
上記補足要素が欠陥アデノウイルスベクターをトランスで補うことができ、かつ、上記補足要素が、上記補足系のゲノムに組込まれているかまたは発現ベクター中に挿入されてなる、補足系。
【請求項2】
欠陥アデノウイルスベクターを補う補足要素を含んでなる補足系であって、
該補足要素が、発現ベクター中に挿入されてなるか、または、補足系のゲノムに組込まれており、かつ、該補足要素が、5´ITRを欠いてE1遺伝子産物をコードしているアデノウイルスのゲノムの断片を含んでなる、補足系。
【請求項3】
(i) アデノウイルスのゲノムのE1A領域の全部または一部、および
(ii) E1B、E2およびE4領域から選択される上記ゲノムの1つの領域の全部または一部
を含んでなる、請求項1または2に記載の補足系。
【請求項4】
(i) アデノウイルスのゲノムのE1A領域の全部または一部、および
(ii) 上記ゲノムのE1B、E2およびE4領域のうちの2つの全部または一部
を含んでなる、請求項1または2に記載の補足系。
【請求項5】
(i) アデノウイルスのゲノムのE1A領域の全部または一部、および
(ii) 上記ゲノムのE1B、E2およびE4領域の全部または一部
を含んでなる、請求項1または2に記載の補足系。
【請求項6】
E1A領域の全部または一部、および初期タンパク質をコードするアデノウイルスのゲノムのE1B領域の全体を含んでなる、請求項3〜5のいずれか一項に記載の補足系。
【請求項7】
イヌ、トリおよびヒトアデノウイルスから選択されるアデノウイルスのゲノムの部分を含んでなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の補足系。
【請求項8】
ヒトアデノウイルスタイプ5のゲノムの部分を含んでなる、請求項7に記載の補足系。
【請求項9】
(i) ヌクレオチド100〜ヌクレオチド5297、
(ii) ヌクレオチド100〜ヌクレオチド4034、または
(iii)ヌクレオチド505〜ヌクレオチド4034
にわたるヒトアデノウイルスタイプ5のゲノムの部分を含んでなる、請求項8に記載の補足系。
【請求項10】
ヌクレオチド32800〜ヌクレオチド35826にわたるヒトアデノウイルスタイプ5のゲノムのE4領域の部分を含んでなる、請求項8または9に記載の補足系。
【請求項11】
ヌクレオチド505〜ヌクレオチド35826にわたるヒトアデノウイルスタイプ5のゲノムの部分を含んでなる、請求項8に記載の補足系。
【請求項12】
天然プロモーターを欠くアデノウイルスのゲノムのE1A領域の部分を含み、その部分が適切なプロモーターのコントロール下におかれてなる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の補足系。
【請求項13】
E1A領域の部分が、非アデノウイルス転写をトランス活性化するタンパク質により誘導しうるプロモーターのコントロール下におかれてなる、請求項12に記載の補足系。
【請求項14】
E1A領域の部分が、下記のアデノウイルスベクターによりコードされる転写をトランス活性化するタンパク質により誘導しうるプロモーターのコントロール下におかれてなる、請求項13に記載の補足系であって、
前記アデノウイルスベクターが、補足系中における増殖に必要な複製に欠陥がある、アデノウイルスベクターであって、
5´から3´にかけて、5´ITR、包膜化領域、E1A領域、E1B領域、E3領域、E4領域、および3´ITRを含んでなるアデノウイルスのゲノムから、
E1A領域の全部または一部、E1B領域の全部または一部、およびE4領域の全部または一部、および必要に応じてE3領域の全部または一部の欠失(ここでE4の欠失は、E4機能の補足が必要となるようにE4機能を妨げている)
により誘導されてなる、アデノウイルスベクターであり、
転写のトランス活性化剤である非アデノウイルス性タンパク質をコードする遺伝子をさらに含んでなり、その遺伝子が宿主細胞で上記タンパク質の発現に必要な要素のコントロール下におかれてなる、アデノウイルスベクターである、補足系。
【請求項15】
E1A領域の部分が、転写をトランス活性化するSaccharomyces cerevisiae Gal4 タンパク質により誘導しうるプロモーターのコントロール下におかれてなる、請求項13または14に記載の補足系。
【請求項16】
選択マーカーをコードする遺伝子をさらに含んでなる、請求項1〜15のいずれか一項に記載の補足系。
【請求項17】
選択遺伝子がプロマイシンアセチルトランスフェラーゼをコードするものである、請求項16に記載の補足系。
【請求項18】
選択遺伝子が、野生型アデノウイルスのゲノムのE1A領域によりコードされる転写をトランス活性化するタンパク質により誘導されうるプロモーターのコントロール下におかれてなる、請求項16または17に記載の補足系。
【請求項19】
選択遺伝子が、野生型アデノウイルスのゲノムのE2領域のプロモーターのコントロール下におかれてなる、請求項18に記載の補足系。
【請求項20】
薬学的観点から許容される細胞系に由来する、請求項1〜19のいずれか一項に記載の補足系。
【請求項21】
Vero、BHK、A549、MRC5、W138およびCHO系から選択される細胞系に由来する、請求項20に記載の補足系。
【請求項22】
ヒト胚網膜細胞に由来する、請求項1〜19のいずれか一項に記載の補足系。
【請求項23】
アデノウイルスベクターを含んでなるアデノウイルス粒子の生産方法であって、
前記アデノウイルスベクターが、補足系中における増殖に必要な複製に欠陥がある、アデノウイルスベクターであって、
5´から3´にかけて、5´ITR、包膜化領域、E1A領域、E1B領域、E3領域、E4領域、および3´ITRを含んでなるアデノウイルスのゲノムから、
E1A領域の全部または一部、E1B領域の全部または一部、およびE4領域の全部または一部、および必要に応じてE3領域の全部または一部の欠失(ここでE4の欠失は、E4機能の補足が必要となるようにE4機能を妨げている)
により誘導されてなる、アデノウイルスベクターであり、
(i) 前記アデノウイルスベクターが、トランスフェクトされた補足系を得るために、上記アデノウイルスベクターをトランスで補える補足系中に導入され、
ここで、請求項1〜22のいずれか一項に記載の補足系が用いられ、
(ii) 上記トランスフェクトされた補足系がアデノウイルス粒子の生産を行うために適した条件下で培養され、
(iii) 上記アデノウイルス粒子が細胞培養物中で回収される、
ことを含んでなる方法。
【請求項24】
請求項1〜22のいずれか一項に記載の補足系を、治療または予防剤として、薬学的観点から許容されるビヒクルとともに含んでなる、医薬組成物であって、
遺伝障害、癌、レトロウイルス疾患、および再発ウイルス疾患の遺伝子治療による予防または治療処置を行うための、医薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−50267(P2009−50267A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248884(P2008−248884)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【分割の表示】特願平7−500317の分割
【原出願日】平成6年5月27日(1994.5.27)
【出願人】(599082883)トランジェーヌ、ソシエテ、アノニム (32)
【氏名又は名称原語表記】TRANSGENE S.A.
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【分割の表示】特願平7−500317の分割
【原出願日】平成6年5月27日(1994.5.27)
【出願人】(599082883)トランジェーヌ、ソシエテ、アノニム (32)
【氏名又は名称原語表記】TRANSGENE S.A.
【Fターム(参考)】
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