説明

止水壁基礎の構築方法

【課題】設置が容易であり、かつ設置後の取り扱いが容易な型枠を用いて止水壁の基礎を構築する方法を提供すること。
【解決手段】止水壁の基礎構築方法は、敷地の一部を岩盤まで掘削する掘削工程と、掘削工程により排出された土砂を土嚢袋に詰めて複数の土嚢を作成する土嚢作成工程と、岩盤の上に水中コンクリートを流し込んで基盤を形成する基盤形成工程と、基盤の上に土嚢のそれぞれを互いに隣接するように並べ、該基盤の上の前記土嚢の上にさらに土嚢を積み上げて第1型枠を形成し、第1型枠と所定の間隔を空けて形成される第2型枠と、により構成される土嚢型枠を形成する土嚢型枠形成工程と、土嚢型枠に水中コンクリートを打設して基礎を形成する基礎形成工程と、水中コンクリートが硬化した後に土嚢袋を裂いて除去し、土嚢袋に詰められた土砂を前記基礎に沿って排出する土嚢袋除去工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止水壁基礎の構築方法に関し、特に水中における止水壁基礎の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、海洋などの水中に止水壁の基礎のような構造物を形成する際には、海底を掘削して鋼製の型枠を水中に設置し、この型枠内に水中コンクリートを打設する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。水中コンクリートを打設する箇所は常時水中となるため、水中コンクリートが水中で分散しないように鋼製の型枠で水中コンクリートを形成する空間を形成し、型枠を固定する必要がある。
【0003】
しかしながら、かかる型枠の設置は、起伏のある海底に設置し水中で行うため、安定性が悪く、作業が効率的に進まないことがあった。また、設置の最中にも絶えず海水が流入するため、掘削した法面が崩壊する恐れがあった。さらに、鋼製の型枠の搬送や設置、撤去にかかる製造コストも多くかかっていた。
【0004】
一方、山地などの土砂の崩壊を防止するための砂防ダムの構築に関し、土嚢を積み上げて型枠とし、該型枠を用いてコンクリートを打設する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、陸上で構築する土嚢の型枠は、設置後撤去して廃棄される場合には土嚢の撤去や廃棄にかかる手間や費用がかかる。一方、設置後、土嚢を設置した場所に据え置かれる場合には、山地などの傾斜部においては積み上げた土嚢が風雨によりずれたり、崩落するなどの危険があった。
【特許文献1】特開平1−174727号公報
【特許文献2】特開平2001−40629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
海洋などの水中に止水壁を構築する際に、設置が容易であり、かつ設置後の取り扱いが容易な型枠を用いて止水壁の基礎を構築する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 海岸線の延びる方向に沿って形成され、敷地への海水の流入を防止する止水壁の基礎構築方法であって、
前記敷地の一部を岩盤まで掘削する掘削工程と、
前記掘削工程により排出された土砂を土嚢袋に詰めて複数の土嚢を作成する土嚢作成工程と、
前記岩盤の上に水中コンクリートを流し込んで基盤を形成する基盤形成工程と、
前記基盤の上に前記土嚢のそれぞれを互いに隣接するように並べ、該基盤の上の前記土嚢の上にさらに前記土嚢を積み上げて第1型枠を形成し、前記第1型枠と、これと所定の間隔を空けて前記基盤の上の前記土嚢の上にさらに前記土嚢を積み上げて形成される第2型枠と、により構成される土嚢型枠を形成する土嚢型枠形成工程と、
前記土嚢型枠に水中コンクリートを打設して基礎を形成する基礎形成工程と、
前記水中コンクリートが硬化した後に前記土嚢袋を裂いて、前記土嚢袋に詰められた前記土砂を前記基礎に沿って排出し、該土嚢を除去する土嚢袋除去工程と、を有する止水壁の基礎構築方法。
【0008】
(1)の止水壁の基礎構築方法によれば、次のような工程により基礎を構築する。まず、海水の流入を防止しようとする敷地の一部を岩盤まで掘削する。掘削により排出された土砂を土嚢袋に収納して複数の土嚢を作成する。掘削により現れた岩盤に、水中コンクリートを流し込んで基盤を形成する。この基盤の上に、作成した土嚢を、それぞれが互いに隣接するように並べ、さらにその上に土嚢を積み上げて第1型枠を形成する。第1型枠と同様の方法で、第1型枠と所定の間隔を空けて第2型枠とを形成する。この第1型枠と第2型枠により構成される土嚢型枠に、水中コンクリートを打設する。そしてこの水中コンクリートが硬化した後に土嚢袋を切り裂いて除去し、土嚢袋に詰められた土砂を止水壁の基礎に沿って排出する。
【0009】
(1)の止水壁の基礎構築方法によれば、土嚢袋に収納する土砂は、止水壁を設置する海底を掘削した土砂であるため、他所から搬送する必要がない。また、掘削により排出した土砂を他所へ移動させる必要がない。水中コンクリートが硬化した後、土嚢袋を引き裂いて除去すると、内部の土砂は海中に分散する。土嚢袋だけ除去すれば、この土砂はもともと止水壁を設置するために掘削された海底に存在していたものであるため、環境に大きな被害を及ぼすことがない。また、土砂は、海中の波や潮の満ち引きの動きによって適宜分散可能である。
【0010】
(2) 前記基礎形成工程において、前記基礎は前記基盤から東京湾中等潮位プラスマイナス0mからプラス0.5mの範囲の高さまで形成される(1)記載の止水壁基礎の構築方法。
【0011】
(2)の止水壁基礎の構築方法によれば、止水壁の基礎は、基礎の下方に形成される基盤より、東京湾中等潮位プラスマイナス(T.P)0mからプラス0.5mの範囲の高さに形成される。このような構成により、止水壁の基礎の上に止水壁を構築する作業は、大気中で行うことができるため、水中で行う場合と比べて作業が簡易にできる。
【0012】
(3) 前記所定の間隔は、前記止水壁の寸法の前記海岸線の延びる方向に対して直交する方向の長さよりも長いことを特徴とする(1)または(2)記載の止水壁基礎の構築方法。
【0013】
(3)の止水壁基礎の構築方法によれば、前記止水壁の寸法の前記海岸線の延びる方向に対して直交する方向の長さよりも、第1型枠と、第2型枠との間の間隔の方が長い。このような構成により、止水壁よりも基礎の方が海岸線に直交する長さが長く、止水壁を構築するための作業スペースが確保できるとともに、安定して止水壁を支持することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、海洋などの水中に止水壁を構築する際に、設置が容易であり、かつ設置後の取り扱いが容易な型枠を用いて止水壁の基礎を構築する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明の実施形態は、下記の実施形態に何ら限定されることなく、本発明の技術的範囲は、これに限定されるものではない。
【0016】
図1は本発明に係る止水壁10の基礎1を構築している状態を示す斜視図である。基礎1は土嚢型枠50に水中コンクリートを打設して構築される。
【0017】
図2に示すように、本発明に係る止水壁10の基礎1は、工事を行う敷地の海側に、実質的に海岸線Cの延びる方向に沿って形成される。敷地内の建物などの施設がある側をPで示す。建物Pと海岸線Cの間の敷地Fは低地であり、陸である、しかしながら、止水壁10を構築するために掘削すると、海面より低地であるため海水Wが出てくる。このため、止水壁10の基礎1は、止水壁10を設置する箇所の海底の岩盤を土台として水中に形成される。
【0018】
図3から図8は、基礎1を構築する工程を示す模式図である。図3は、掘削工程および土嚢作成工程を示す。これらの図に示されている陸地部分は、上述の建物Pから海岸線Cまでの間の敷地Fである。掘削工程において、止水壁10を設置する箇所の海底が岩盤2まで掘削される。上述の通り敷地Fは低地であるため、掘削すると海水が湧き出る。Wは掘削後に生じた水面を示す。掘削は、クラムシェルなどの掘削機械により行われる。土嚢作成工程において、掘削により排出された土砂4は、土嚢袋3に収納され、複数の土嚢5が作成される。掘削機械は、止水壁を設置する箇所の地形や土砂の性質によって適宜選択される。
【0019】
本実施形態において、土嚢袋3は、内部に土砂4が収納されない状態で、長手方向の長さが1.0m、短手方向の長さが1.0m、マチ部分の最大の幅が1.0mである。土砂を収納可能量いっぱいに収納すると、直径が0.8m程度になる。土嚢袋3に土砂4が収納された状態の土嚢5の一つは、900kgになる。
【0020】
図4は、基盤形成工程を示す。基盤形成工程において、掘削により現れた岩盤2の上に、水中コンクリートを流し込んで基盤6が形成される。この際、基盤6の面がほぼ平らになるように、建設機械で均して形成するとよい。基盤6を形成することにより、基盤6の上に土嚢5を設置する際、安定して設置することができる。
【0021】
図5は、土嚢型枠形成工程を示す。基盤6の水中コンクリートが硬化する前に、複数の目印棒7が差し込まれる。目印棒7は、所定の止水壁基礎1の幅に対応するよう、基盤6の一方と他方に所定の間隔を空けて二列になるように差し込まれる。必要に応じて、一方の列の目印棒7と他方の列の目印棒7とにさらに棒を渡し、目印棒7の列の間隔が均等になるように計測してよい。目印棒7により、予め設定した止水壁10の幅を形成する寸法に対応した所定の間隔を空けて土嚢5を並べることができる。なお、本実施形態では、所定の幅とは4mから5mの範囲である。
【0022】
土嚢型枠形成工程において、土嚢5は、上記の目印棒7の列に沿って基盤6の上に互いに隣接するように並べられる。目印棒7の一方の列に沿って並べられた土嚢5は、第1型枠51を形成する。目印棒7の他方の列に沿って並べられた土嚢5は、第2型枠52を形成する。第1型枠51と、第2型枠52とにより、土嚢型枠50が構成される。
【0023】
土嚢5は、基盤6の上に一段のみならず、三段程度まで重ねられる。また、第1型枠51、第2型枠52それぞれにおいて、土嚢5は一列のみでなくてもよく、必要に応じて土嚢5が複数列並べられてよい。例えば、基盤6の上に配置される土嚢5は、土台となるため3列ほど並べられる。2段目は2列、最上部に配置される土嚢5は一列とするように並べられる。このように配置すると、それぞれの型枠51、52において、土嚢5が安定して並べられ、一列のみ配置する場合よりも崩れる可能性が相対的に低くなる。
【0024】
土嚢5は、クレーンなどの建設機械によって持ち上げられ、基盤6の上に並べられる。このほか、土嚢5が隙間なく正確な位置に並べられるように、潜水士が土嚢5を移動させてもよい。土嚢5は、塩分を含む海水中では、浮力を受けるため、陸上よりも土嚢5を並べることが容易である。一方、土嚢袋3は透水性であるため、海中に沈んで水を含むと重くなる。このため、適切に設置された後は、陸中に比べて滑ったりずれたりすることが少ない。
【0025】
図6は、基礎形成工程を示す。基礎形成工程において、上記の土嚢型枠50に、水中コンクリートが打設される。これにより、止水壁10の基礎1が形成される。水中コンクリートを硬化しやすくするため、打設は複数回に分けて行ってよい。例えば、一回目、水中コンクリートを基盤から1.2mの高さまで打設する。その後、水中コンクリートが硬化するのを待って、硬化した水中コンクリートからさらに1.3mまで打設する。基礎1は、基盤6からT.Pプラスマイナス0mから0.5mの範囲の高さまで形成される。具体的には、基盤6から2.5m(TP−2.0mからTP+0.5m)の範囲の高さまで形成される。このように形成することで、潮の満ち干きの影響は受けるものの、止水壁10を基礎1の上に構築する作業をほぼ大気中で行うことができる。このため、止水壁10の構築作業が容易になる。
【0026】
図7に示すように、第1型枠51と第2型枠52との間隔の長さBLは、止水壁10の海岸線に直交する方向の長さTLよりも長い。このため、止水壁10は、基礎1の上に安定して構築することができる。長さの例示として、第1型枠51と第2型枠52との間隔の長さBLは4.5m、止水壁10の海岸線に直交する方向の長さTLは2.5mを挙げることができる。また、止水壁10は、T.Pプラス3.0mの高さまで形成される。
【0027】
図8は、土嚢袋除去工程において、土嚢袋3が引き裂かれて除去された後を示す工程図である。土嚢袋3は、バックホーなどの建設機械によって引き裂かれ、中身の土砂4は基礎1の近傍に分散される。土砂4は、もともと基礎1を形成するために敷地の一部を掘削した土砂であるため、当該敷地の一部の付近に存在する土砂と同じ性質を有する土砂である。したがって、この土砂が基礎1の付近の海中に分散されても、この海中における生態系や環境を破壊することがない。
【0028】
なお、土嚢袋3は、生分解性繊維で製造することもできる。生分解性繊維は、麻や竹などの天然繊維のほか、土砂の重量に耐える強度を有する観点から、トウモロコシを原料とするポリ乳酸樹脂などの脂肪酸ポリエステル樹脂による繊維を用いることが好ましい。土嚢袋3が生分解性繊維により製造されていると、建設機械による土嚢袋3の除去作業において、土嚢袋3の切れ端が浮遊するようなことがあっても、微生物によって分解されるため周辺環境を破壊する恐れが少なくて済む。
【0029】
本発明によれば、水中に止水壁の基礎を構築する場合において、鋼製の型枠を他所から搬送し、海底に設置する必要がない。止水壁の基礎を構築するために掘削した箇所から排出された土砂を土嚢袋に収納した土嚢が型枠として用いられるため、型枠にかかるコストが低減できる。また、岩盤の上に流した水中コンクリートの基盤の上に土嚢を並べて積むことにより型枠が形成されるため、形枠の設置が容易である。さらに、基礎を形成する水中コンクリートが硬化した後は、土嚢袋を引き裂いて除去するのみで、土嚢袋の内部の土砂が海中に分散しても環境を破壊する恐れがない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の止水壁の基礎を示す斜視図である。
【図2】本発明の止水壁および基礎が形成される区域を示す平面図である。
【図3】本発明の止水壁の構築方法による工程図である。
【図4】本発明の止水壁の構築方法による工程図である。
【図5】本発明の止水壁の構築方法による工程図である。
【図6】本発明の止水壁の構築方法による工程図である。
【図7】本発明の止水壁の構築方法による工程図である。
【図8】本発明の止水壁の構築方法による工程図である。
【符号の説明】
【0031】
1 止水壁基礎
2 岩盤
3 土嚢袋
4 土砂
5 土嚢
6 基盤
7 目印棒
10 止水壁
50 土嚢型枠
51 第1型枠
52 第2型枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海岸線の延びる方向に沿って形成され、敷地への海水の流入を防止する止水壁の基礎構築方法であって、
前記敷地の一部を岩盤まで掘削する掘削工程と、
前記掘削工程により排出された土砂を土嚢袋に詰めて複数の土嚢を作成する土嚢作成工程と、
前記岩盤の上に水中コンクリートを流し込んで基盤を形成する基盤形成工程と、
前記基盤の上に前記土嚢のそれぞれを互いに隣接するように並べ、該基盤の上の前記土嚢の上にさらに前記土嚢を積み上げて第1型枠を形成し、前記第1型枠と、これと所定の間隔を空けて前記基盤の上の前記土嚢の上にさらに前記土嚢を積み上げて形成される第2型枠と、により構成される土嚢型枠を形成する土嚢型枠形成工程と、
前記土嚢型枠に水中コンクリートを打設して基礎を形成する基礎形成工程と、
前記水中コンクリートが硬化した後に前記土嚢袋を裂いて、前記土嚢袋に詰められた前記土砂を前記基礎に沿って排出し、該土嚢を除去する土嚢袋除去工程と、を有する止水壁の基礎構築方法。
【請求項2】
前記基礎形成工程において、前記基礎は前記基盤から東京湾中等潮位プラスマイナス0mからプラス0.5mの範囲の高さまで形成される請求項1記載の止水壁基礎の構築方法。
【請求項3】
前記所定の間隔は、前記止水壁の寸法の前記海岸線の延びる方向に対して直交する方向の長さよりも長いことを特徴とする請求項1または2記載の止水壁基礎の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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