説明

止血活性を有する組換え酵母由来の微小胞およびその使用

組織因子を担持する酵母由来の微小胞であって、酵母膜および組織因子タンパク質もしくはそのフラグメント、または凝固促進活性を有する融合タンパク質として別のペプチドと融合された組織因子タンパク質またはそのフラグメントを含んでなる酵母由来微小胞が開示される。該生成物は被検体における出血の処置に凝固促進薬として使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
技術分野
本発明は、一般に、凝固促進薬を用いた被検体の出血の処置に関する。より詳しくは、本発明は、酵母膜と組織因子タンパク質もしくはそのフラグメント、または凝固促進活性を有する融合タンパク質として別のタンパク質と融合された組織因子タンパク質またはそのフラグメントとを含んでなる組織因子担持酵母由来微小胞、ならびに被検体において出血を処置するため、および脈管形成および細胞遊走を促進するために有用な凝固促進薬としてのその適用に関する。本発明はさらに、該組織因子担持酵母由来微小胞の製造方法に関する。
【0002】
背景技術
止血は、生物が出血に応答する機構であり、傷害直後に機能的となるプロセスと長時間活性を留めるプロセスの2つのプロセスの関与を含む。1つ目のものは一次止血として知られ、血管傷害部位における血管収縮の発生と血小板凝集塊の形成を特徴とする。2つ目のものは二次止血として知られ、種々の凝固カスケードタンパク質分解酵素の作用のために繊維素血餅が形成される段階である。
【0003】
この血液凝固プロセスの第二段階には、いくつかの補因子とタンパク質分解酵素が関与し、総て凝固因子と呼ばれ、いくつかの段階からなり、トロンビンの作用によるフィブリノゲン加水分解からの繊維素形成で終わる。トロンビンは、アポ酵素であるプロトロンビンのタンパク質分解性加水分解により事前に形成される。このタンパク質分解は活性化された凝固因子X(FXa)により起こるが、この因子は活性化された血小板の表面に、その補因子、活性化された凝固因子V(FVa)およびカルシウムイオンの存在下でのみ結合し、プロトロンビンを加水分解することができる。凝固因子X(FX)の活性化は、内因性経路と外因性経路の2つの独立した経路で起こり得る。
【0004】
内因性経路は、各プロ酵素が加水分解されてその活性プロテアーゼ型を生じる一連の反応からなる。各段階では、新しく形成されたタンパク質分解酵素が以降のプロ酵素の活性化を触媒して首尾よく活性型を生じる。
【0005】
血液凝固の外因性経路では、傷害部位の外膜細胞に曝された組織因子(TF)が循環凝固因子VII/活性化凝固因子VII(FVII/FVIIa)と結合してTF::FVIIa複合体を形成し、それがカルシウムの存在下で、FXの活性化が起こるように基質として働く。この外因性経路は、現在、血液凝固における最も関連のある経路と考えられており、血管傷害によって起こる出血事象では、TFとそのリガンドであるFVII/FVIIaの相互作用を含む外因性経路の活性化によって凝固が誘発されることが受け入れられている。
【0006】
TFは、タンパク質成分(これまでには組織因子アポタンパク質−IIIと呼ばれていた)とリン脂質からなる。TFは、FVII/FVIIaと特異的に結合し、血液凝固の外因性経路に関連のある役割を果たす。TFに割り当てられている生理学的役割はよく知られており、一方、それはFVIIaに特異的な受容体であり、一度、TF::FVIIa複合体が形成されると、FXの活性化が起こるように基質として働く。実際、血管傷害後、通常は血管の外を取り巻いている外膜細胞の表面に隔離されているTFが、血管内に存在するそのリガンドであるFVIIと接触して相互作用するようになり、TF::FVII複合体が形成される。一度、この複合体が形成されると、FVIIの自己活性化が起こり、その活性型(FVIIa)が生じる。
【0007】
グリコシル化は、脂質およびタンパク質に糖類が付加される酵素により指示される部位特異的プロセスである。このプロセスは安定性、折りたたみおよび輸送に関与すると考えられるが、TFに関してその真の機能の証拠はまだ記載されていない。
【0008】
TFが、凝固が開始される中枢を担う主要な要素であることは広く受け入れられている。凝固の開始には、FXが活性化され、プロトロンビンの加水分解が始まることが絶対必要である。このFXaの供給源は主として、FVIIaとその受容体であるTFの相互作用にあるとされてきた。
【0009】
TFの精製は、ヒト脳、ウシ脳、ヒト胎盤、ヒツジ脳および肺などの種々の組織から報告されている。TFタンパク質の構造には種間で違いがあるが、in vitro凝固アッセイによって評価した場合、機能的な違いはないことが広く受け入れられている。
【0010】
生物活性を実証するためには、TFはin vitroでリン脂質と会合されなければならないことが広く受け入れられている。例えばホスホリパーゼの使用によりTFのリン脂質成分を除去すると、そのin vitro生物活性が消失することが示されている。再脂質化するとin vitroTF活性が回復し得る。
【0011】
ある量の「精製」TFタンパク質は種々の組織から得られたものが利用可能であるが、血液および組織中のTFタンパク質が低濃度であること、および組織からこのタンパク質を精製するコストが、経済的にも労力的にも高くつくことから、これは十分な材料ではない。従って、TFタンパク質、有利には脂質化TFタンパク質の別の供給源を探す必要がある。
【0012】
TFタンパク質は、クローニングされたヒトcDNAを用いて種々の系で発現されている。例えば、大腸菌(E. coli)におけるTFタンパク質の過剰発現が報告されている(Paborsky et al., Biochemistry 28, 8072 (1989))。さらに、米国特許第6,261,803号は、原核宿主生物において機能的組換えTFを産生する方法を開示している。完全なTFタンパク質の高い発現収量が大腸菌で達成されている。
【0013】
大腸菌におけるタンパク質の異種発現はいくつかの有利な点があるが、この細菌での真核生物タンパク質の発現には、主として発現されるタンパク質がグリコシル化されている真核生物タンパク質である場合に、細菌にそれら固有のグリコシル化系が無いために、数多くの問題が伴う。
【0014】
よって、もう1つの戦略は、膜貫通ドメインを欠いている変異TFタンパク質を発現させることからなる。このいわゆる「可溶」TF(または「末端切断型」TF)は、細菌細胞の細胞質に蓄積し、比較的大量に発現させることができる。しかしながら、この系では、このようにして発現されるTFタンパク質が通常、大腸菌中に、いわゆる封入体の形態の準結晶状態で存在する。これがその場合である時には、極めて大量のカオトロピック剤を用いることで、これらの封入体を可溶化させ、このようにして単量体化されたタンパク質を次に、もう一度、再折りたたみして活性のある復元型(renatured confirmation)にしなければならず、多大な労力がかかり、通常収量も低い。さらに、原則的に、可溶性TFは、リン脂質との相互作用のためのドメインを欠いているので、プロトロンビン時間測定試薬に用いるのに適さない。
【0015】
TFタンパク質を過剰発現させるためのもう1つのアプローチは、遺伝子融合生成物(例えば、β−ガラクトシダーゼ、MaIE、グルタチオントランスフェラーゼ、His−タグなどとの)をコードする既知かつ首尾よく使用される多数の発現系を使用するものである。しかしながら、これらの系は、生物学的に活性なTFを発現するのには適さない。このような系を用いた場合、発現生成物は検出可能であり、その発現レベルも増強可能であるが、このようにして得られた発現生成物は完全な機能欠失と関連し、巧妙な復元法を用いても復元することができない。
【0016】
大腸菌におけるTFタンパク質の過剰発現の問題は、真核生物系で該タンパク質の発現を行うことによって回避することができる。よって、酵母細胞、ベクターとしてバキュロウイルスを用いる昆虫細胞培養物、または培養哺乳類細胞、例えば、ハムスター卵巣細胞もしくはヒト細胞系統での発現が原則的に好適である。しかしながらこれらの系には重大な欠点があり、とりわけ、組換え大腸菌生産に比べて組換えタンパク質囚虜がはるかに低い。
【0017】
酵母株は、上記の異なる宿主系の利点を併せ持つ。一方で、それらは真核生物タンパク質の本来の生理学を大腸菌よりも厳密に模倣し、他方で、取扱いが容易、培養が容易であり、増殖がはるかに速く、経済性が優れている。同様に、いくつかの因子が酵母でのタンパク質発現に影響を及ぼす。これらの因子としては、限定されるものではないが、以下のものがある:
・異種タンパク質の発現を制御するプロモーターなどの遺伝子調節配列の選択;異種発現を制御するために用いられるプロモーター配列は一般に「強力」でなければならず、すなわち、それらは極めて高いタンパク質発現を果たさなければならず、まず、培養物の最適バイオマスに達するまで発現が効率的に抑制され、その後、すぐさまスイッチが入ってタンパク質発現を果たすように適宜制御可能でなければならない。
・発現された異種タンパク質の効率的分泌;発現されたタンパク質の分泌(細胞外発現)は多くの場合、細胞内発現よりも好ましく、細胞内発現は、まず、細胞を破壊開放し、全細胞内容物を放出させ、その後、細胞材料や残渣の汚水から目的のタンパク質を単離することを必要とする。そして、タンパク質のいっそう効率的な分泌は、(i)シグナル配列−ペプチド配列(通常、本来分泌されるN末端領域であり、タンパク質を細胞分泌経路へ向ける)の選択、および(ii)シグナル配列と相互作用し、付着したタンパク質の分泌を果たす分泌経路の特異的成分を含むいくつかの因子に依存する。
【0018】
Stone M.J. et al (Biochem. J. (1995) 310, 605-614)は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)におけるTFの表面ドメイン(末端切断型TF)の発現を記載している。TFの精製に関しては、抗TF抗体をコンジュゲートさせたイムノアフィニティーカラムに培養物をのせ、タンパク質を溶出させ、透析する。このアッセイにより、ミリグラム量の末端切断型TFを得ることができる。
【0019】
Brucato CL. et al. (Protein Expression and Purification 26 (2002), 386-393)は、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)における成熟全長組換えウサギTFタンパク質の発現を記載している。TFタンパク質の精製は固定化金属アフィニティークロマトグラフィーによって行われる。
【0020】
酵母から高収率で大量の生物学的に活性組換えTFを製造するためにこれまで知られている方法はない。有利には、該組換えTFは、高レベルの活性、好ましくは治療使用のために好適なレベルの活性で得なければならない。ゆえに、本発明の目的は、組換え技術を用いて有用な量の脂質化TFタンパク質を生成することである。有利には、該組換えTFタンパク質は治療適用に有用でなければならない。
【発明の概要】
【0021】
第一の態様において、本発明は、組織因子(TF)を担持する酵母由来の微小胞であって、(i)酵母膜と、(ii)組織因子(TF)タンパク質または凝固促進活性を有するその変異体とを含んでなり、該組織因子(TF)タンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントの一部が該膜に組み込まれている、酵母由来微小胞に関する。
【0022】
さらなる態様において、本発明は、TF担持酵母由来微小胞を含んでなる組成物、薬剤としてのTF担持酵母由来微小胞、TF担持酵母由来微小胞を含んでなる医薬組成物、被検体における出血の処置のためのTF担持酵母由来微小胞、および被検体において細胞遊走および/または脈管形成を促進する必要がある疾病を処置するためのTF担持酵母由来微小胞に関する。
【0023】
さらなる態様において、本発明は、本発明の凝固促進活性を有するTF担持酵母由来微小胞を製造する方法に関し、その方法は、
a)TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントを発現する組換え酵母細胞の培養物を、該TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントの発現を可能とする条件下での発酵に供する工程;
b)工程a)の発酵から生じた生成物をペレット化して発酵生成物とする工程;
c)工程b)からの発酵生成物にホモジナイゼーションを施して発酵ホモジネートとする工程;および
d)工程c)からの発酵ホモジネートに分離を施して、ペレットと、凝固促進活性を有する該TF担持酵母由来微小胞を含有する清澄酵母抽出液(CYE)とする工程;
e)凝固促進活性を有するTF担持酵母由来微小胞を含有する清澄酵母抽出液(CYE)を回収する工程;および、所望により、
f)望ましければ、凝固促進活性を有するTF担持酵母由来微小胞を単離または精製する工程
を含む。
【0024】
さらなる態様において、本発明は、目的の膜タンパク質を含んでなる微小胞を真核宿主細胞から製造するための方法に関し、その方法は、
a)該真核宿主細胞の培養物を、目的の膜タンパク質の発現を可能とする条件下で増殖させる工程;
b)a)の培養物の細胞画分にホモジナイゼーションを施す工程;
c)工程b)から得られたホモジネートに分離を施して、ペレットと、目的の膜タンパク質を含有する該細胞由来微小胞を含有する清澄細胞抽出液とする工程;および
d)該細胞由来微小胞をサイズ分画により精製する工程
を含む。
【0025】
別の態様において、本発明は、
(i)凝固促進活性を有する、FVIIaとの結合を担うドメインの全部または一部を欠いている末端切断型組織因子(TF)、
(ii)FVIIaとの結合を担うドメインが機能的でない、凝固促進活性を有するTFタンパク質変異体、および
(iii)少なくとも1つの非機能的N−グリコシル化部位を有する、凝固促進活性を有するTFタンパク質変異体
の群から選択される、修飾組織因子(TF)脂質化タンパク質に関する。
【0026】
さらなる態様において、本発明は、薬剤として用いるための本発明の修飾TF脂質化タンパク質、修飾TF脂質化タンパク質と薬学上許容されるビヒクルを含んでなる医薬組成物、被検体における出血の処置のため、および被検体において細胞遊走および/または脈管形成を促進する必要がある疾病を処置するための修飾TF脂質化タンパク質に関する。
【0027】
さらなる態様において、本発明は、凝固促進活性を有する、FVIIaとの結合を担うドメインの全部または一部を欠いている末端切断型組織因子(TF)をコードする、また、FVIIaとの結合を担うドメインが機能的でない、凝固促進活性を有するTFタンパク質変異体をコードする、また、少なくとも1つの非機能的N−グリコシル化部位を有する、凝固促進活性を有するTFタンパク質変異体をコードするポリヌクレオチド配列に関する。
【0028】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチド配列を含んでなるベクター、本発明のポリヌクレオチドを含んでなる宿主細胞、および本発明の修飾TFタンパク質と特異的に結合する抗体に関する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】pTT10301の作製のためのクローニング戦略を示す。図1Aは、pTT10301プラスミドのマップを示す。GPDプロモーター(pGPD)、ユニークなBamH1部位およびPGKターミネーター(PGKt)を含む1,050bpのDNAフラグメントを、HindIIIおよびXbaI DNA制限酵素で消化した後にプラスミドpG1から切り出した。このDNAフラグメントをアガロースゲル電気泳動により単離し、DNA抽出キット(Qiagen)で精製し、予めHindIIIおよびXbaIで消化したYep352プラスミドにクローニングした。得られたプラスミドpTT10301プラスミドを大腸菌で増殖させ、および市販のDNA精製JETstarキット(Genomed Gmbh)で精製した。図1Bは、作製されたpTT10301プラスミドの制限エンドヌクレアーゼ分析を示す。
【図2】ヒトTFタンパク質のハイドロパシープロットを示す。このタンパク質の4つのドメイン(リーダー配列、細胞外ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメイン)を示す。
【図3】ヒトTFタンパク質のcDNA配列(Gene Bank #BC011029)を示す。オープンリーディングフレーム(ORF)が開始コドン(ATG)および終結コドン(TAA)とともに枠で囲まれている。このcDNA配列は、ヒトTF(hTF)タンパク質の4つのドメイン(シグナルペプチド、細胞外ドメイン、膜貫通領域および細胞質テール)を含む。矢印は、プライマーA(配列番号2)[シグナルペプチドを欠き、TF ORFのフレーム内に開始コドンATGを含む成熟hTFの最初の4つのアミノ酸をコードする上流プライマー]およびB(配列番号2)[下流プライマー、太字の終結コドンを有する](双方とも制限BamHI部位(下線)を含む)のアニーリング位置を示す。
【図4】pTT10302プラスミドを作製するためのクローニング戦略の概略図を示す(図4A)。PCR反応から得られたDNAフラグメントをBamHIで消化し、予めBamHIで消化し、脱リン酸化したpTT10301プラスミドにクローニングした。得られたプラスミド(pTT10302)を大腸菌で増殖させ、市販のDNA精製JETstarキット(Genomed Gmbh)で精製した。図4Bは、作製されたpTT10302プラスミドの制限分析を示す。
【図5】種々の組換え酵母クローンにおけるrTFの発現を示す。エンプティプラスミドpTT10301(C−)で、また、組換え成熟hTFタンパク質を含有する発現ベクターpTT10302(レーン1〜8)で形質転換された酵母からの抽出液のウエスタンブロット分析を、精製マウス抗ヒトCD142モノクローナル抗体(BID Biosciences Pharmingen)を用いて行った。分子量マーカー(kDa)を図の左側に示す。
【図6】yTT10301抽出液のエンドグリコシラーゼ処理後のウエスタンブロットの結果を示す。例えば、rTF発現酵母(yTT10301)からの抽出液を、製造業者の説明書に従い、37℃で1時間、500ユニットのエンドグリコシラーゼH(Endo H)(レーン2)またはN−グルコシダーゼF(PNGase F)(レーン3)で処理した。これらのサンプルおよび非処理抽出液(レーン1)を、抗ヒトTFmAbを用い、ウエスタンブロットにより分析した。分子量マーカー(kDa)を図の左側に示す。
【図7】yTT10301組換え酵母によるrTFの発現を示す共焦点レーザー顕微鏡写真である。rTFを発現する組換え酵母からのスフェロプラストを4%パラホルムアルデヒドで固定し、酵母ATPアーゼ(図7A)または抗ヒトTFmAb(図7B)に対するmAbとともにインキュベートした。フルオレセインコンジュゲート二次ヤギ抗マウス抗体とのインキュベーション後、共焦点顕微鏡(1、3、5および7)または位相差(2、4、6および8)により細胞を観察した。BIO−RAD Radiance 2000共焦点レーザー顕微鏡で画像を採取した。
【図8】組換え酵母によるrTFの発現がpTT10302プラスミドの存在に依存することを示す共焦点レーザー顕微鏡写真。エンプティ発現プラスミドpTT10301を担持する組換え酵母(yTT10300)からのスフェロプラストを4%パラホルムアルデヒドで固定し、酵母ATPアーゼ(図8A)または抗ヒトTFmAb(図8B)に対するmAbとともにインキュベートした。フルオレセインコンジュゲート二次ヤギ抗マウス抗体とのインキュベーション後、共焦点顕微鏡(1および3)または位相差(2および4)により細胞を観察した。BIO−RAD Radiance 2000共焦点レーザー顕微鏡で画像を採取した。
【図9】rTFは酵母膜に関連していることを示す。yTT10301からの抽出液をTriton X114で処理し、遠心分離の後に水相と洗剤ペレットを別々に採取した。水相を再びTriton X114(終濃度1%)で処理し、前記のように二層に分けた。2回目の洗剤ペレットを1回目のものと混合した。全抽出液(レーン1)、1回目(レーン2)、2回目(レーン3)の水相および洗剤相(レーン4)をSDS−PAGEおよびクーマシー染色(図9A)により、またはヒトTFに対するmAbと反応させるウエスタンブロット(図9B)により分析した。
【図10】発酵プロセス中の主要パラメーターの進行を示すグラフ。唯一制御できないパラメーターである酸素圧(PO)は、このプロセス中の細胞が受ける酸素要求の変化を反映する。POが定常状態に達した際に発酵を停止させた(18時間)。
【図11】CYE−TFを産生するための発酵プロセスの一般スキームを表す図である。
【図12】1回目の発酵試験から得られた調製物におけるTFの存在を判定するためのウエスタンブロット分析の結果を示す。各レーンは、図11に記載の手順によって得られた上清(sn)またはペレット(pp)いずれか5μlに相当する。タンパク質サンプルを、ヒトTFに対する特異的mAbを用い、ウエスタンブロットにより分析した。陽性対照(rTF)は、大腸菌で生産された市販の組換えTF(American Diagnostica, Inc.)(10ng)である。分子量マーカー(kDa)を図の左側に示す。
【図13】CYE−TFサンプルの電子顕微鏡写真を示す。CYE−TF生成物を、予めグロー放電により処理した炭素コーティング銅格子に吸着させた。この格子を、hTFに対する特異的mAbまたは無関連の抗体とインキュベートする1時間前に、3%ウシ血清アルブミン(BSA)を含有するPBSとともにインキュベートした。格子をPBSでよく洗浄し、金コンジュゲートウサギ抗マウスIgG二次抗体とともにインキュベートした。格子を洗浄し、サンプルに、1%酢酸ウラニルで処理することでネガティブ染色を行った。画像はJEOL 1200 EXII電子顕微鏡で得た。矢印はコロイド金粒子の位置を示す。
【図14】タンジェンシャルフロー濾過(Tangential Flow Filration)によるCYE−TFの明澄化手順のスキームを示す。A)CYE−TFに、クロスフロー濾過システム(Sartorius sartoflow Slice 200 Benchtop)にてタンジェンシャルフロー濾過(TFF)を施した。CYE−TFを0.45μm、0.2μmおよび0.1μm膜(Sartorius,ポリスルホン)で順次濾過した。これらの膜は予めリン酸バッファー(20mMリン酸ナトリウムpH7.4、500mM NaCl)で平衡化した。0.2μm膜での濾過の後、0.10μm膜の前に保持されたままとなる材料を回収し、一連の精製工程の出発材料として用いた。B)動的光散乱を用いて微小胞のサイズ分布を測定した。
【図15】セファクリルS−500カラムで行ったCYE−TF生成物のサイズ排除クロマトグラフィープロフィールを示す。溶出は4℃でリン酸バッファーを用いて行い、流速1mL/分で4mL画分を採取した。タンパク質溶出は280nmで光学密度を測定することによりモニタリングした。
【図16】rTFを検出するためのウエスタンブロットアッセイを示す。各画分15μLを12.5%−SDS−PAGE Tris−グリシンゲルでの電気泳動に付した。電気泳動後、タンパク質をニトロセルロース膜に移した。次に、これらの膜を抗TF市販マウスモノクローナル抗体(American Diagnostica)とともに1時間インキュベートした。その後、これらの膜をウサギ抗マウスIgG抗体とともにインキュベートした後、セイヨウワサビペルオキシダーゼコンジュゲートヤギ抗ウサギIgG抗体とともにインキュベートした。免疫反応性タンパク質を、ECL Advancedウエスタンブロッティングキット(GE Healthcare)を用い、化学発光により検出した。
【図17】サイズ排除クロマトグラフィーにより精製されたrTFを含有する、種々のロットの微小胞のタンパク質プロフィールを示す。rTFを含有する種々の4つの異なるロットの精製微小胞からのタンパク質(図の上に示されている通り)をSDS−PAGEにより分画し、そのゲルをクーマシーブルーで染色した。分子量マーカーを図の左側に示す。B)染色したゲルの走査後に行った各ロットの種々のタンパク質バンドの濃度測定分析。
【図18】薄層クロマトグラフィー(TLC)分析を示す。PA:ホスファチジン酸(Sigma)、PS:ホスファチジルセリン(Fluka)、PG:ホスファチジルグリセロール(Sigma)、CAR:カルジオリピン(Sigma)、ERG:エルゴステロール(Fluka)、PE:ホスファチジルエタノールアミン(Sigma)、PI:ホスファチジルイノシトール(Sigma)、PC:ホスファチジルコリナ(Phosphatydilcolina)(Sigma)、TAG:トリアシルクリセリド(Triacylclycerides)(Sigma)。
【図19】ヒトTFタンパク質のcDNA配列(Gene Bank #BC011029)を示す。オープンリーディングフレーム(ORF)が開始コドン(ATG)および終結コドン(TAA)とともに枠で囲まれている。このcDNA配列は、ヒトTF(hTF)タンパク質の4つのドメイン(シグナルペプチド、細胞外ドメイン、膜貫通領域および細胞質テール)を含む。矢印は、プライマーA(配列番号1)[シグナルペプチドを欠き、TF ORFのフレーム内に開始コドンATGを含む成熟hTFの最初の4つのアミノ酸をコードする上流プライマー]およびE(配列番号3)[下流プライマー、太字の終結コドンを有する](双方とも制限BamHI部位(下線)を含む)のアニーリング位置を示す。
【図20】pTT10303を作製するためのクローニング戦略を示す。図20Aは、PCR反応から得られたDNAフラグメントをBamHIで消化し、予めBamHIで消化し、脱リン酸化したpTT10301プラスミドにクローニングした。得られたプラスミドpTT10303を大腸菌で増殖させ、市販のDNA精製JETstarキット(Genomed Gmbh)で精製した。図20Bは、作製されたpTT10303の制限分析を示す。
【図21】rTF−hisタグの発現のウエスタンブロット分析の結果を示す。組換え酵母yTT10302の培養物からの抽出液(レーン1〜4、クローン2〜5に相当)および大腸菌(C+)により産生されたrTFのウエスタンブロット分析。ブロットを精製マウス抗ヒトCD142モノクローナル抗体(BD Biosciences Pharmingen)と反応させた。分子量マーカー(kDa)を図の左側に示す。
【図22】これもまたrTF−hisタグの発現の結果を示す。図22Aは、酵母yTT10300(レーン1)、rTFを発現するyTT10301(レーン2)またはrTF−hisタグを発現するyTT10302(クローン#5)(レーン3)からの抽出液のSDS−PAGEおよびクーマシーブルー染色を示す。大腸菌で産生されたrTF5ngに相当する陽性対照(レーン4)。図22Bは、精製マウス抗ヒトCD142モノクローナル抗体(BD Biosciences Pharmingen)を用いた、図17Aで示されるものと同じサンプルのウエスタンブロット分析である。分子量マーカー(kDa)を図の左側に示す。
【図23】6HT−TF精製のための方法を概略的に示す。
【図24】アフィニティークロマトグラフィーによる6HT−TF精製の結果を示す。CYE−6HT−TFを出発材料として用いた。抽出液を孔径0.2μmのフィルターでタンジェンシャル濾過により濾過し、市販の5ml金属キレートアフィニティークロマトグラフィーカラム(HiTrap(登録商標), Pharmacia Biotech)に適用した。このカラムを、開始バッファー(20mMリン酸バッファー、500mM NaCl、pH7.4)の、それぞれイミダゾールを含まないもの、10mMイミダゾールを含むもの、および100mMイミダゾールを含むもので3回連続洗浄した。1Mイミダゾールを含有する同じバッファーで6HT−TFを溶出し、2.5ml溶出画分(レーン4〜7、それぞれ画分#1、#2、#3および#4に相当する)を回収し、20mMリン酸バッファー、50mM NaCl、pH7.4に対して透析した。出発濾過酵母抽出液(レーン1)、非結合材料(レーン2)、100mMを含有する出発バッファーによる最後の洗液および最初の4つの溶出画分をSDS−PAGEおよびウエスタンブロット(図24A)または銀染色(図24B)により分析した。分子量マーカー(kDa)を図の左側に示す。
【図25】エンドグリコシラーゼ処理後の精製6HT−TFのウエスタンブロット分析の結果を示す。6HT−TFの精製画分を、製造業者の説明書に従い、500ユニットのPNGase F(レーン2)またはEndo H(レーン3)で処理した。これらのサンプルおよび非処理溶出液(レーン1)を、抗ヒトTFmAbを用いたウエスタンブロットにより分析した。分子量マーカー(kDa)を図の左側に示す。
【図26】アフィニティークロマトグラフィーによる精製6HT−TFの免疫電子顕微鏡観察の結果を示す。最初の溶出画分をコロジオンコーティング銅格子に吸着させた。この格子を免疫金標識のために抗TFモノクローナル抗体で処理した。
【図27】本発明のTF担持酵母由来微小胞の概略図である。図22Aは、酵母由来膜(1)と、該酵母由来膜(1)に組み込まれたTFタンパク質(2)(または凝固促進活性を有するそのフラグメント)を含んでなる本発明のTF担持酵母由来微小胞の概略図を示す。微小胞空間内(3)および微小胞空間外(4)を表す。図22Bおよび22Cは、本発明のTF担持酵母由来微小胞の基本構造を示す。この酵母由来膜脂質二重層の脂質は両親媒性であり、微小胞空間外(4)に向いている親水性極性ヘッド(5)と、微小胞空間内(3)に向いている2つの疎水性炭化水素テール(6)を有する。図22Bに示されている実施態様では、TFタンパク質(2)または凝固促進活性を有するそのフラグメントのN末端ドメインは微小胞空間外(4)に面している。図22Cに示されている実施態様では、TFタンパク質(2)または凝固促進活性を有するそのフラグメントのN末端ドメインは微小胞空間内(3)に面している。
【図28】ヒトTFタンパク質のcDNA配列(Gene Bank #BC011029)を示す。オープンリーディングフレーム(ORF)が開始コドン(ATG)および終結コドン(TAA)とともに枠で囲まれている。このcDNA配列は、ヒトTF(hTF)タンパク質の4つのドメイン(シグナルペプチド、細胞外ドメイン、膜貫通領域および細胞質テール)を含む。矢印は、プライマーF(配列番号4)[シグナルペプチドを欠き、TF ORFのフレーム内に開始コドンATGを含む成熟hTFの最初の4つのアミノ酸をコードする上流プライマー]およびE(配列番号3)[下流プライマー、太字はヒスチジンコードヌクレオチド](双方とも制限BamHI部位(下線)を含む)のアニーリング位置を示す。
【図29】pTT10304の作製のためのクローニング戦略。A)PCR反応から得られたDNAフラグメントをBamHIで消化し、予めBamHIで消化し、脱リン酸化したpTT10301プラスミドにクローニングした。得られたプラスミドpTT10304を大腸菌で増殖させ、市販のDNA精製JETstarキット(Genomed Gmbh)で精製した。B)作製されたpTT10304ベクターの制限分析。
【図30】ヒト(humnan)TFにおけるグリコシル化部位の点変異の概略図を示す。
【図31】抗TF1抗体(antobody)でプローブしたウエスタンブロットを示す。PM1は11番におけるAla−Asn変化を示し、PM2は124番におけるAla−Asn変化を示し、PM3は137番におけるAsn−Ala変化を示す。PM1、2;1、3;および1、2、3はそれらの組合せを示す。TT103MHは野生型TFである。
【図32】TT−103と再脂質化rTFの凝固促進活性の用量応答曲線。凝固促進活性は、プールした正常なヒト血漿および種々の濃度の種々のプールまたは再脂質化rTFいずれかを用い、凝固計で測定した。
【図33】in vitroにおける、非処理TT−103(1)、Triton X−100処理を施したTT−103(2)、透析後にTriton X−100処理を施し、rTFを再脂質化させたTT−103(3)、エンプティリポソーム(4)およびrTFを発現しない組換え酵母からの微小胞(5)の凝固促進活性を示す。ELISAにより測定されたrTFの量はサンプル1、2および3で同じであった(120ng/mL)。
【図34】再脂質化rTF、トロンビンおよびトロボレルSと比較したヘパリン処理血漿中のTT−103(TT−103)の凝固促進活性を示す。
【発明の具体的説明】
【0030】
本発明のTF担持酵母由来微小胞
一態様において、本発明は、(i)酵母膜と、(ii)組織因子(TF)タンパク質または凝固促進活性を有するその変異体とを含んでなり、該組織因子(TF)タンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントの一部が該脂質二重層に組み込まれている、組織因子担持酵母由来微小胞(以下、「本発明のTF担持酵母由来微小胞」と呼ぶ)に関する。本発明のTF担持酵母由来微小胞は凝固促進活性を有し、従って、被検体における出血の処置のための薬剤として使用可能である。
【0031】
本明細書において、「酵母由来微小胞」とは、酵母由来の膜またはそのフラグメントから実質的になる小さな閉じられたコンパートメントである。膜とは一般に、細胞の境界(すなわち、細胞膜または原形質膜)または細胞内オルガネラの境界を形成している数分子の厚さの組織化された層を指す。
【0032】
本発明のTF担持酵母由来微小胞の成分(i)は、本発明のTF担持酵母由来微小胞の生産に用いる酵母細胞から生じる酵母膜である。一般に膜は2つの方向を向いた脂質層(すなわち、脂質二重層)からなり、そこにタンパク質が埋め込まれ得る。細胞の膜の基本構造である脂質二重層は、通常、水性環境中で両親媒性分子(例えば、リン脂質、脂肪酸など)により形成され、各分子は層の外側に親水基を向け、層の内側に疎水基を向けている。一般に、この脂質二重層にタンパク質が埋め込まれており、従って、本発明のTF担持酵母由来微小胞は酵母細胞由来のタンパク質を含有し、通常、該酵母細胞膜に組み込まれている。
【0033】
特定の実施態様では、該酵母由来微小胞は、酵母細胞膜またはそのフラグメント、例えば、酵母細胞原形質膜またはそのフラグメントに由来する。別の特定の実施態様では、該酵母由来微小胞は、核、ゴルジ体、小胞体などの細胞内酵母細胞オルガネラ膜またはそのフラグメントに由来する。
【0034】
該酵母由来微小胞は、一般に、その生産に用いられる酵母細胞から生じる(例えば、実施例1に開示されている方法に示されているように酵母発酵生成物にホモジナイゼーション処理を施した後)。事実上、いずれも酵母細胞でも、該酵母由来微小胞、有利には、非綿状酵母細胞、好ましくは、ヒト消費に関して米国医薬品局(The Federal Drug Administration, FDA)により「一般に安全とみなされる(Generally Regarded as SafeまたはGRAS)」酵母細胞として分類されている酵母細胞(該GRAS認可物質は、ヒトを含む動物に実質的に無害(inocuous)であるので、FDAによる販売前承認の必要がない)を生産するために使用可能である。本発明のTF担持酵母由来微小胞の生産するための方法に使用可能な、例示的、非限定的な酵母細胞の例は、醸造材料液を代謝することによりアルコール、炭酸ガスを生産するいわゆる酒造酵母種、パン酵母などがある。特に好ましい酵母細胞としては、サッカロミセス種由来の酵母細胞、例えば、S.セレビシエT73 ura3株、S.セレビシエT73株の誘導体、ワイン製造に広く用いられている株(実施例1)またはピキア種が挙げられる。
【0035】
本発明のTF担持酵母由来微小胞の成分(ii)は、組織因子(TF)タンパク質または凝固促進活性を有するその変異体である。
【0036】
本明細書において「TF変異体」は、1以上のアミノ酸の置換、挿入または付加によるTFに由来する任意のポリペプチドに関する。
【0037】
特定の実施態様では、本発明のTF担持酵母由来微小胞の成分(ii)はTFタンパク質である。
【0038】
本明細書において「組織因子」または「TF」には、ヒトを含むいずれかの動物の天然または野生型(wt)TF、ならびに該wtTFの少なくとも1つの機能、有利には、凝固に関するwtTFの機能を維持するその変異体が含まれる。
【0039】
TFタンパク質は、天然に見られるようにタンパク質成分(タンパク質)とリン脂質からなる、動物界に広く分布している内在性膜糖タンパク質である。TFタンパク質には、そのタンパク質にオリゴ糖側鎖を付加してグリコシル化形態のTFタンパク質とするためのいくつかのグリコシル化部位が存在する。グリコシル化程度によって、種々のグリコシル化形態のTFタンパク質が利用可能である。これに関して、成熟TFは、Asn−Xaa−Ser/Thr型の、可能性のある3つのN−結合グリコシル化部位(Asn11−Leu12−Thr13、Asn124−Val125−Thr126およびAsn137−Asn138−Thr139)を含む。酵母におけるN−結合グリコシル化は一般に、2つのGIlNAc残基を介してアスパラギンに結合されている約10個のマンノース残基の内部コアと50〜100個のマンノース残基の分枝した外部側鎖を含む。よって、N−結合グリコシル化は300といった多くのマンノース残基をTFに潜在的に付加することができ、分子量増加は約60kDaとなる。さらに、種々の(25を超える)O結合グリコシル化部位には数個のマンノース残基が付加することができる。特定の実施態様では、本発明のTF担持酵母由来微小胞はグリコシル化されているTFタンパク質を含んでなる。本明細書において「グリコシル化されている」とは、任意のグリコシル化度を含む。
【0040】
本発明のTF担持酵母由来微小胞の概略図を図27に示す。
【0041】
TFタンパク質はドメイン構造を有し、すなわち、それは独立した機能性領域を有するタンパク質である。特定の実施態様では、該TFタンパク質はヒトTF(hTF)タンパク質である。このhTFタンパク質の各ドメインはユニークな構造的および機能的特徴:(1)タンパク質が未熟型から成熟型へプロセシングされる際に翻訳後プロセシングを受ける32アミノ酸のリーダー配列を有するシグナルペプチドまたは領域;(2)約219の末端アミノ酸を含んでなるN−グリコシル化親水性細胞外ドメイン;(3)膜貫通ドメインアミノ酸と考えられる主として疎水性の約23のアミノ酸のフラグメント;および(4)タンパク質細胞質フラグメントの部分をなすアミノ酸と考えられる21アミノ酸のカルボキシル末端を有する。hTFタンパク質のドメイン構造は、例えば、タンパク質またはその機能的フラグメントの細胞外ドメインの生産を可能とする。hTFタンパク質のアミノ酸配列は既知であり、例えばNCBI(hTF、受託番号P13726)などのタンパク質データベースで調べることができる。
【0042】
さらに、該TFタンパク質は融合タンパク質のメンバーであってもよく、この融合タンパク質は、別のペプチドまたはタンパク質を含んでなる第二の領域と結合された、TFタンパク質を含んでなる第一の領域を含む。該第二の領域は該TFタンパク質のアミノ末端領域と結合されていてもよいし、あるいは該第二の領域は該TFタンパク質のカルボキシル末端領域に結合されていてもよい。第一および第二の双方の領域は、互いに直接結合されていてもよいし、あるいは第一と第二の領域の間のリンカーポリペプチドを介して結合されていてもよい。
【0043】
特定の実施態様では、該融合タンパク質はTFタンパク質と、該TFタンパク質のC末端またはN末端ドメインと結合されたタグ、通常にはペプチドタグを含んでなる。該タグは一般に、該融合タンパク質の単離または精製に使用可能なペプチドまたはアミノ酸配列である。よって、該タグは、例えば高い親和性を有するクロマトグラフィー支持体またはビーズなどのアフィニティーマトリックスの1以上のリガンドなどの1以上のリガンドと結合することができる。該タグの例としては、高い親和性でニッケル(Ni2+)またはコバルト(Co2+)のカラムと結合することができる、6残基のヒスチジン(His6またはH6)を含んでなるタグなどの、ヒスチジンタグ(HisタグまたはHT)がある。実施例2および3に示されるHisタグは、ほとんどのタンパク質を変性し、ほとんどのタンパク質−タンパク質相互作用を破壊する条件下でそのリガンドと結合可能であるという望ましい特徴を有する。よって、それは、ベイト(bait)が関与していたタンパク質−タンパク質相互作用の破壊後にH6タグを有するベイトタンパク質を除去するために使用可能である。
【0044】
融合タンパク質を単離および精製するのに有用なタグのさらなる例示的、非限定的な例としては、Argタグ、FLAGタグ、Strepタグ、抗体により認識可能なエピトープ、例えば、c−mycタグ(抗c−myc抗体により認識される)、SBPタグ、Sタグ、カルモジュリン結合ペプチド、セルロース結合ドメイン、キチン結合ドメイン、グルタチオンS−トランスフェラーゼタグ、マルトース結合タンパク質、NusA、TrxA、DsbA、Aviタグなど(Terpe K., Appl. Microbiol. Biotechnol. (2003), 60:523-525)、Ala−His−Gly−His−Arg−Pro;Pro−Ile−His−Asp−His−Asp−His−Pro−His−Leu−Val−Ile−His−Ser;Gly−Met−Thr−Cys−X−X−Cysなどのアミノ酸配列;β−ガラクトシダーゼなどが挙げられる。
【0045】
特定の実施態様では、該タグは、該TFタンパク質のC末端ドメインと結合されているHisタグである。もう1つの実施態様では、該タグは、該TFタンパク質のN末端ドメインと結合されているHisタグである。
【0046】
該融合タンパク質もまた凝固促進活性を有する。該融合タンパク質の凝固促進活性は、血漿におけるin vitro凝固アッセイ、または非抗凝固処理全血におけるin vitro凝固アッセイ、または重度出血動物モデルにおけるin vivoアッセイ、または実施例4に述べられているアッセイなどの、致死的出血動物モデルにおけるin vivoアッセイによるなどの、実施例4に述べられている凝固アッセイのいずれかによって、これまでに述べられているようにアッセイすることができる。
【0047】
該融合タンパク質は、例えば、好適な酵母細胞における、該融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列の遺伝子発現によるなどの慣例の手段によって得ることができる。最終的なタグは、望ましければ、該融合タンパク質の単離または精製に使用可能である。
【0048】
別の特定の実施態様では、本発明のTF担持酵母由来微小胞の該成分(ii)は、TF凝固促進活性を有するフラグメントである。
【0049】
本明細書において「凝固促進活性を有するTFタンパク質のフラグメント」とは、脂質化された際に凝固促進活性を有するTF由来の任意のペプチドを含む。TFフラグメントの凝固促進活性は、慣例のアッセイのいずれによっても、例えば、実施例4に述べられている凝固アッセイのいずれによっても、容易にアッセイすることができる。単に例であるが、TFフラグメントの凝固促進活性は、血漿におけるin vitro凝固アッセイ、または非抗凝固処理全血におけるin vitro凝固アッセイ、または重度出血動物モデルにおけるin vivoアッセイ、または実施例4に述べられているアッセイなどの、致死的出血動物モデルにおけるin vivoアッセイによって測定することができる。
【0050】
凝固促進活性を有するTFタンパク質のフラグメントのアミノ酸配列は、天然TFタンパク質の対応するフラグメントと同一であり得るか、あるいは得られるTFタンパク質のフラグメントが凝固促進活性を有する限り、天然TFタンパク質に対して1以上のアミノ酸の挿入、欠失または修飾を有してもよい。
【0051】
特定の実施態様では、凝固促進活性を有するTFのフラグメントは成熟TFタンパク質を含んでなる。本明細書において「成熟TF」とは、アミノ酸配列がシグナルペプチドを欠くTFタンパク質を指す。好ましい実施態様では、該成熟TFタンパク質はヒト成熟TFタンパク質を含んでなる。さらに、特定の実施態様では、該ヒト成熟TFタンパク質は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する。
【0052】
別の特定の実施態様では、凝固促進活性を有するTFタンパク質のフラグメントは、FVIIaとの結合を担うドメインの全部または一部を欠いているTFタンパク質であり、結果として、得られたタンパク質はFVIIaと結合することができない。凝固促進活性を有するが、FVIIaとの結合を担うドメインを欠いているTFタンパク質の該フラグメントは、本明細書では、「末端切断型TFタンパク質」または「TFの末端切断型」と呼ばれる場合がある。拡張すれば、該「末端切断型TFタンパク質」は、FVIIaとの結合を担うドメインが機能的でない、凝固促進活性を有するTFタンパク質変異体も含み得る。
【0053】
特定の実施態様では、該末端切断型TFタンパク質は、因子Xに対する相互作用ドメイン、膜貫通領域および細胞質テールを含み、かつ、FVIIaとの結合を担うドメインを部分的にまたは完全に欠いている。さらに、特定の実施態様では、該末端切断型TFタンパク質は、因子Xに対する相互作用ドメイン(aa174〜251)、膜貫通領域(aa252〜274)および細胞質テール(aa275〜295)および付加的ヒスチジンタグ(実施例3)を含む、末端切断型のヒトTFタンパク質である。本発明者らは、今般、驚くべきことに、FVIIaとの結合を担うドメインを欠いている末端切断型のTFタンパク質が凝固促進活性を有することを発見した(実施例4表3)。
【0054】
本発明の著者らは、驚くべきことに、FVIIaとの結合を担うドメインの全部または一部を欠いているTFのフラグメントが凝固促進活性を有することを見出した。この結果は、TFが、傷害部位において外膜細胞に曝されて、循環凝固因子VII/活性化凝固因子VII(FVII/FVIIa)と結合してTF::FVIIa複合体を形成し、これがカルシウムの存在下で、FXの活性化が起こるように基質として働くことで、血液凝固外因性経路で働くことが周知であることから、驚くべきことであった。血管傷害によって起こる出血の事象では、凝固は、TFとリガンドであるFVII/FVIIaの相互作用を含む外因性経路の活性化によって誘発されることが受け入れられている。
【0055】
もう1つの実施態様では、これらの修飾TFは、FVIIaとの結合を担うドメインに1以上の変異を含み、その結果、この修飾TFはFVIIaと結合することができないか、または実質的に低い親和性でしか結合しない。該FVIIaとの結合を無効にすることが知られているTFのFVIIa結合ドメインにおける点突然変異が当技術分野で知られている(例えば、引用することによりその内容がそのまま本明細書の一部とされるKelley, R.F. et al., 1995, Biochemistry, 34:10383-10392によって記載されているもの)。
【0056】
本発明の著者らはまた、TFの凝固促進活性ならびに酵母宿主細胞におけるその発現が、該TFがそのグリコシル化部位に、野生型TFで見られる3つのN−結合グリコシル鎖のうち少なくとも1つの結合を妨げる変異を有する場合に増強されることも見出した。よって、特定の実施態様では、本発明のTF担持酵母由来微小胞は、凝固促進活性を有するTFタンパク質の非グリコシル化フラグメントを含んでなる。上述のように、「グリコシル化」とは、いずれの程度のグリコシル化も含む。好ましい実施態様では、該TF変異体は、TFのN−グリコシル化部位のうち少なくとも1つが、それを非機能的とするように、すなわち、グリコシド鎖の付加のためのアクセプター部位として働くことができないように修飾されているポリペプチドである。修飾可能なTF配列のN−グリコシル化部位は前述のもの、すなわち、Asn11−Leu12−Thr13部位、Asn124−Val125−Thr126部位および/またはAsn137−Asn138−Thr139部位である。N−グリコシル化コンセンサス領域の修飾はいずれも、N−結合グリコシル鎖の付加が無効となるか、または実質的に阻害される限り好適である。好ましくは、この修飾は成熟ヒトTFの11、124および/または136番に相当するAsn残基に導入されるが、それはこれがグリコシル鎖の結合のためのアクセプターとして働く残基であるからである。本発明において「成熟ヒトTFの11、124および/または136番に相当する部位」とは、ヒト配列とオーソログ配列が配列類似性に基づいてアラインされた際に、そのポリペプチド鎖の異なる位置に見られることがあるが、成熟ヒトTFのN−グリコシル化部位と一致する、他のTFオーソログのN−グリコシル化部位を指す。アライメントまたはマルチプルTF配列のため、従って、ヒト成熟TFにおける部位に相当するTFオーソログにおけるN−グリコシル化部位を同定するために好適なアルゴリズムは、GCGソフトウエアパッケージ(Genetics Computer Group, Program Manual for the GCG Package, Version 7, Madison, Wis.)の一部となっているPILEUPプログラムである。PILEUPは、累進型ペアワイズアライメントを用い、関連の配列群からマルチプル配列アラインメントを作成し、関係と配列同一性を示す。それはまた、アライメントを作成するために用いたクラスタリング関係を示す樹状図または系統樹もプロットする。PILEUPは、Feng and Doolittle, J. Mol. Evol., 35: 351-360 (1987)の累進型アライメント法の簡略化を用いる。好ましくは、11、124および/または136番のAsn残基はAlaで置換される。よって、好ましい実施態様では、微小胞の一部をなすTF変異体は、ヒト成熟TFのN11A、N124A、N137A、N11AとN124A、N11AとN137A、N124AとN137A、およびN11AとN124AとN137Aの群から選択される。他のいずれのTFオーソログでも、変異は、N−結合グリコシル化コンセンサス部位を形成する、対応するAsn残基で起こる。
【0057】
さらに、TFタンパク質の場合と同様、本発明を行う際に用いられる凝固促進活性を有するTFタンパクのフラグメントは融合タンパク質のメンバーであってもよく、この融合タンパク質は、別のペプチドまたはタンパク質を含んでなる第二の領域と結合された、凝固促進活性を有するそのTFタンパク質フラグメントを含んでなる第一の領域を含む。該第二の領域は該TFタンパク質フラグメントのアミノ末端領域と結合されていてもよいし、あるいは該第二の領域は該TFタンパク質フラグメントのカルボキシル末端領域に結合されていてもよい。第一および第二の双方の領域は、互いに直接結合されていてもよいし、あるいは第一と第二の領域の間のリンカーポリペプチドを介して結合されていてもよい。
【0058】
特定の実施態様では、該融合タンパク質は、凝固促進活性を有するTFタンパク質のフラグメントと、該TFタンパク質フラグメントのC末端またはN末端ドメインに結合されたタグを含んでなる。該タグは一般に、該融合タンパク質の単離または精製に使用可能なペプチドまたはアミノ酸配列である。この融合タンパク質の生産に好適なタグの例示的、非限定的な例としては、第一の領域がTFタンパク質であった融合タンパク質に関して上述されたものがある。特定の実施態様では、該タグは、凝固促進活性を有するTFタンパク質またはそのフラグメントのC末端ドメインと結合されたHisタグである。もう1つの実施態様では、該タグは、TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントのN末端ドメインと結合されたHisタグである。この融合タンパク質もまた凝固促進活性を有し、その凝固促進活性は前述のように、例えば実施例4に述べられている凝固アッセイのいずれかによってアッセイすることができる。
【0059】
本発明によれば、該TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントの一部は該酵母膜に組み込まれている。通常、該部分は該タンパク質またはフラグメントの親油性領域(すなわち、TFの中央ドメイン)を含んでなるが、その親水性領域(すなわち、該TFタンパク質のアミノ末端領域およびカルボキシル末端領域)は膜の外質側または内質側に面している。TFタンパク質の親油性領域および親水性領域に関する情報は、TFタンパク質のハイドロパシープロットを示す図2から得ることができる。実施例1セクション1.4は、該TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントは膜に組み込まれている(すなわち、それが膜関連タンパク質である)。
【0060】
特定の実施態様では、TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントのN末端ドメインはこの膜の外質側に面しているが、別の特定の実施態様では、TFタンパク質または凝固促進活性を有するフラグメントのN末端ドメインはこの膜の内質側に面している(図27)。
【0061】
本発明のTF担持酵母由来微小胞の大きさは比較的広範囲で可変であり、通常、この大きさは1μm以下であり、一般には0.1μm以下である。特定の実施態様では、本発明のTF担持酵母由来微小胞の大きさは、電子顕微鏡で測定した場合(実施例1セクション1.6)、0.1〜0.01μmの範囲である。
【0062】
本発明のTF担持酵母由来微小胞の産生方法
本発明のTF担持酵母由来微小胞は、一般に、組換え技術によって得ることができる。よって、他の態様では、本発明は、凝固促進活性を有するTF担持酵母由来微小胞(すなわち、本発明のTF担持酵母由来微小胞)の製造方法(以下、「本発明の方法」と呼ぶ)に関し、その方法は、
a)TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントを発現する組換え酵母細胞の培養物を、該TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントの発現を可能とする条件下での発酵に供すること;
b)工程a)の発酵から生じた生成物をペレット化して発酵生成物とすること;
c)工程b)からの発酵生成物にホモジナイゼーションを施して発酵ホモジネートとすること;および
d)工程c)からの発酵ホモジネートに分離を施して、ペレットと、凝固促進活性を有する該TF担持酵母由来微小胞(すなわち、本発明のTF担持酵母由来微小胞)を含有する清澄酵母抽出液(CYE)とすること;
e)凝固促進活性を有する該TF担持酵母由来微小胞を含有する清澄酵母抽出液(CYE)を回収すること;および所望により、
f)望ましければ、凝固促進活性を有する該TF担持酵母由来微小胞を単離または精製することを含む。
【0063】
TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントを発現する組換え酵母細胞は、当業者に公知の慣例の組換え方法によって得ることができる。要するに、酵母細胞を、酵母機能的プロモーターに作動可能なように連結されたTFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントをコードするヌクレオチド配列を含んでなる酵母発現ベクターで形質転換する。
【0064】
TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントをコードするcDNAを、鋳型としてのcDNAライブラリーと適当なプライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅することができる。実施例1は、成熟hTFタンパク質をコードするcDNAの増幅を開示し;実施例2は、3’末端に18の付加的ヌクレオチド(6つのヒスチジンをコードする)を有する成熟hTFタンパク質をコードするcDNAの増幅を開示し;実施例3は、3’末端の18の付加的ヌクレオチド(6つのヒスチジンをコードする)とともに因子Xに対する相互作用ドメイン、膜貫通領域および細胞質テールを含む末端切断型型のhTFタンパク質(TTF)をコードするcDNAの増幅を開示している。
【0065】
本明細書において「ベクター」とは、それに連結されている別の核酸を運ぶことができる核酸分子を指す。本明細書において「酵母発現ベクター」とは、酵母中のベクターにより担持されている個々の組換え遺伝子(すなわち、TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメント)によりコードされている対象タンパク質を合成することができる、例えば、核酸セグメント、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルスまたはウイルス粒子などのDNA発現構築物を指す。あるいは、目的遺伝子が酵母ゲノムに安定的に組み込まれる無指向性または相同組換えを用いてトランスジェニック酵母細胞を作出するために核酸セグメントを用いてもよい。通常、この酵母発現ベクターは、酵母細胞で機能的なプロモーター(すなわち、酵母機能的プロモーター)に作動可能なように連結されたTFまたは凝固促進活性を有するそのフラグメントをコードするヌクレオチド配列を含んでなる。
【0066】
本発明とともに用いるためのベクターは例えば、酵母細胞において、それに連結されている核酸の自律的複製および/または発現が可能なベクターである。本明細書において「プラスミド」および「ベクター」は、プラスミドは最も一般に用いられる形態のベクターであるので、互換的に用いられる。さらに、本発明は、同等の機能を果たし、これに関しては以降、当技術分野で知られるようになる他の形態の発現ベクターを含むものとする。該酵母発現ベクターは、酵母エピソーム発現ベクターまたは酵母組み込み発現ベクターであってもよく、それらは当業者に公知の慣例の技術によって得ることができる。
【0067】
よって、一つの実施態様では、該酵母発現ベクターは酵母エピソーム発現ベクターである。本明細書において「酵母エピソーム発現ベクター」とは、酵母の細胞質で染色体外DNA分子として維持される発現ベクターを指す。特定の実施態様では、該酵母エピソーム発現ベクターは、酵母機能的プロモーターに作動可能なように連結されたTFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントをコードするヌクレオチド配列の他、(i)酵母選択遺伝子;(ii)酵母複製開始点;(iii)細菌選択遺伝子;および(iv)酵母転写終結シグナルをさらに含んでなる。有利には、該酵母エピソーム発現ベクターは、酵母機能的プロモーターの制御下の、選択された遺伝子(TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメント)をクローニングするためのユニークな制限部位と、その後に酵母転写終結シグナルをさらに含んでなる。
【0068】
事実上、該酵母エピソーム発現ベクターの作製には、いずれの酵母機能的プロモーター、酵母選択遺伝子、酵母複製開始点、細菌選択遺伝子、酵母転写終結シグナルおよびクローニングのための制限部位も使用可能であるが、やはり、特定の実施態様では、酵母機能的プロモーターとしてグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター(pGPD)が用いられ;別の特定の実施態様では、酵母選択遺伝子としてURA3遺伝子(URA3)が用いられ;別の特定の実施態様では、酵母複製開始点として酵母2ミクロン(2μ)複製開始点が用いられ;別の特定の実施態様では、細菌選択遺伝子としてアンピシリン耐性遺伝子(Amp)が用いられ;別の特定の実施態様では、特異的酵母転写終結シグナルとしてホスホグリセレートキナーゼ(PGKt)の転写終結シグナルが用いられる。よって、特定の実施態様(実施例1〜3)では、酵母エピソーム発現ベクターは、(i)URA3遺伝子;(ii)大腸菌においてベクターを選択および増殖させるためのAmp遺伝子;(iii)酵母2μ複製開始点;(iv)pGPD;(v)PGKtの特異的酵母転写終結シグナル:および(vi)pGPDの制御下で選択された遺伝子のクローニングを可能とするユニークなBamHI制限部位と、その後にPGKt配列を含んでなる。
【0069】
他の実施態様では、該酵母発現ベクターは酵母組み込み発現ベクターである。本明細書において「酵母組み込み発現ベクター」とは、酵母ゲノムに組み込み可能なベクターを指す。特定の実施態様では、該酵母組み込み発現ベクターは、(i)細菌選択遺伝子;および(ii)酵母選択遺伝子に挿入された発現カセットを含んでなり、該発現カセットは、酵母機能的プロモーター、酵母転写終結シグナルおよび選択された遺伝子(TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメント)をクローニングするためのユニークな制限部位をさらに含んでなる。
【0070】
事実上、該酵母組み込み発現ベクターの作製には、いずれの細菌選択遺伝子、酵母選択遺伝子に挿入された発現カセット、酵母機能的プロモーター、酵母転写終結シグナルおよび選択された遺伝子をクローニングするためのユニークな制限部位も使用可能であるが、やはり、特定の実施態様では、細菌選択遺伝子としてアンピシリン耐性遺伝子(Amp)が用いられ;別の特定の実施態様では、酵母機能的プロモーター(pGDP)と酵母転写終結シグナル(PGKt)とURA3遺伝子の中央領域の選択される遺伝子をクローニングするためのユニークな制限部位(BamHI)を含む発現カセットとして、URA3遺伝子の中央領域に挿入された発現カセットpGPD−BamHI−PGKtが用いられる。
【0071】
本発明では、酵母機能的プロモーターに作動可能なように連結されたTFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントをコードするヌクレオチド配列を含んでなる該酵母発現ベクターで形質転換され得る、事実上、いずれの酵母細胞も使用可能である。該酵母発現ベクターでの酵母細胞の形質転換は、当業者に公知の慣例の手段によって行うことができる(Sambrook et al., 2001, Molecular Cloning: A Laboratory Manual)。
【0072】
好ましい実施態様では、該酵母は非綿状酵母(すなわち、発酵工程で分散された際に綿状(凝集塊)とならない酵母細胞)である。有利には、該酵母細胞はGRAS酵母細胞である。本発明の方法に使用可能な酵母細胞の例示的、非限定的な例は、醸造材料液を代謝することによりアルコール、炭酸ガスを生産するいわゆる酒造酵母種(酒造に用いられる酵母)、パン酵母などがある。特に好ましいものは、S.セレビシエから選択される。このような酒造酵母の例としては、ビール酵母細胞、ワイン酵母細胞および酒酵母細胞が挙げられる。本発明の好ましい実施態様では、酵母細胞は、S.セレビシエT73 ura3(実施例1〜3)などのワイン酵母細胞である。
【0073】
ひと度、酵母細胞が形質転換されると、次の工程は、TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントを発現する組換え酵母細胞の培養物を、該TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントの発現を可能とする条件下で発酵に供することからなる。特定の実施態様では、該酵母細胞は、該酵母細胞が所望の異種生成物(TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメント)を発現することができる適当な培養培地で増殖させる。酵母細胞の増殖に適当な培養培地は当業者に周知であり、培養される酵母細胞に関して最も適当なものから選択する。発酵生成物を製造するには、用いる非凝集性酵母細胞によって起こる発酵に好適なものである限りいずれの材料も使用可能であり、既知の材料を随意に使用することができる。例えば、麦芽、果汁、糖液、穀類糖化液などが通常には単独で、あるいは酒造においては適宜組み合わせて用いられる。また、必要であれば、適当な栄養素などを添加してもよい。
【0074】
発酵条件は本質において既知の条件と変わらず、当業者ならば決定することができる。特定の実施態様では、発酵の後、その発酵プロセスの主要パラメーターの進行を制御し、酸素圧(PO)が定常状態に達した際に発酵を停止させる。
【0075】
次に、発酵工程a)から得られた発酵生成物を、遠心分離などの慣例の方法によってペレット化し、好適な溶解バッファーに再懸濁させた後、該生成物にホモジナイゼーションを施す。酵母は、例えば、ホモジナイザーで高圧によるなどの慣例の方法によりホモジナイズして発酵ホモジネートとする。
【0076】
次に、この発酵ホモジネートに、遠心分離などの慣例の方法によって分離を施し、個別ペレットと、凝固促進活性を有するTF担持酵母由来微小胞(すなわち、本発明のTF担持酵母由来微小胞)を含有する清澄酵母抽出液(CYE)とする(これらは個別回収可能である)。本発明の方法の一般スキームを図11に示す。
【0077】
TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントの存在は、特異的抗TFタンパク質モノクローナル抗体(mAb)を用いることで、ウエスタンブロット分析などの慣例の方法によって判定することができる。さらに、CYEの凝固促進活性は、実施例4に述べられている凝固アッセイのいずれか、例えば、血漿における、または非抗凝固処理全血におけるin vitro凝固アッセイなどによる任意の凝固アッセイで測定することができる。
【0078】
免疫電子顕微鏡によりCYEサンプルをさらに検討したところ、微小胞の表面に、抗TFmAbにより標識された酵母由来微小胞の存在が示された。TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントを含んでなるこの微小胞もまた凝固促進活性を有し、本発明のTF担持酵母由来微小胞に相当する。
【0079】
所望により、望ましければ、本発明の方法に従ってこれまでに得られた凝固促進活性を有するTF担持酵母由来微小胞は、当業者に公知の慣例の方法により濃縮、単離または精製することができる。例として、C末端またはN末端のいずれかにペプチドタグ(例えば、Hisタグなど)を含むタンパク質のアフィニティークロマトグラフィー精製が、多くのタンパク質の、精製度の高い調製物を得るために用いられる十分標準化された方法である。いずれのクロマトグラフィー法としても、この方法は容易にスケールアップすることができる。イムノアフィニティークロマトグラフィーなどの別の精製手順も実施可能であるが、特に大規模生産のためには、特異的抗TFモノクローナルまたはポリクローナル抗体の十分標準化されたストックが利用可能である必要がある。
【0080】
よって、この単離および精製方法は、とりわけ、TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントの性質、すなわち、それがクロマトグラフィー支持体またはビーズなどのアフィニティーマトリックスの1以上のリガンドと高い親和性で結合するためのタグ(例えば、Hisタグなど)、またはc−mycタグ(抗c−myc抗体により認識される)などの、抗体により認識可能なエピトープを有する融合タンパク質であるかどうかに依存する。
【0081】
図23は、Hisタグと融合された融合タンパク質の形態の組換えTFタンパク質(または凝固促進活性を有するそのフラグメント)を担持する酵母由来微小胞[すなわち、図23に述べられているような(TF−Hisタグタンパク質)担持酵母由来微小胞または「6HT−TF薬剤生成物」]を精製するための方法の概略を示す。要するに、これまでに開示されている方法に従って得られた、(TF−hisタグタンパク質)担持酵母由来微小胞を含有する清澄酵母抽出液(CYE)を濾過(例えば、タンジェンシャルフロー濾過により孔径0.2μmのフィルターで)した後に、適当なアフィニティーカラム(例えば、HiTrap(登録商標)アフィニティーカラム)にのせ、次に、サンプルを適用した後に、流出液(非結合材料)を回収し、このカラムを数回洗浄し、最後の洗浄の後に、カラムに適当なバッファー(例えば、イミダゾールを含有するバッファー)を加えることで(TF−Hisタグタンパク質)担持酵母由来微小胞を溶出させ、溶出画分を回収し、透析して、単離または精製された(TF−hisタグタンパク質)担持酵母由来微小胞とする。
【0082】
また、別の実施態様では、本発明のTF担持酵母由来微小胞はAKTAプライム装置によって精製することができる。このAKTAプライムは、大量生産向けに容易にスケールアップ可能な標準精製プロトコールの開発に使用可能なGeneral Electric Healthcareからの自動液体クロマトグラフィーシステムである。
【0083】
真核生物宿主から目的の膜タンパク質を含んでなる微小胞を精製するための方法
本発明の著者らはまた、TFを発現する細胞に由来する清澄抽出液中に存在する小胞がサイズ分画を用いてさらに富化可能であることを見出した。特定の理論に何ら縛られるものではないが、定義された孔径を有する膜を用いたサイズ分画は、タンパク質の凝固促進活性に悪影響を及ぼす細胞抽出液の他の成分の排除を可能とすると考えられる。本発明者らによって開発された方法は一般に、真核生物宿主(wherein said membrane)のいずれの膜タンパク質の精製にも適用可能であると考えられる。よって、別の態様において、本発明は、目的の膜タンパク質を含んでなる微小胞の調製物を作製するための方法に関し、その方法は、
a)真核宿主細胞の培養物を目的の膜タンパク質の発現を可能とする条件下で増殖させる工程;
b)a)の培養物の細胞にホモジナイゼーションを施す工程;
c)工程b)から得られたホモジネートに分離を施して、ペレットと、目的の膜タンパク質を含有する該細胞由来微小胞を含有する清澄細胞抽出液とする工程;
d)該細胞由来微小胞をサイズ分画により精製する工程
を含む。
【0084】
工程(a):真核生物宿主細胞の培養物の増殖
本発明に関して使用可能な真核生物の宿主としては、研究室または生産プラントで培養可能ないずれの細胞も含むが、細胞内で目的の膜タンパク質の発現を可能とするように遺伝的に操作することができる細胞がより好ましい。本発明において使用可能な宿主としては、酵母(例えば、サッカロミセス、ピキア)、昆虫細胞、植物細胞または哺乳類細胞系(例えば、COS、CHO、BHK、293、3T3)が挙げられる。
【0085】
用いられる真核生物宿主は、通常のプロテオームの一部としてそれらのタンパク質を発現することができるか、または目的の膜タンパク質をコードする外来核酸を導入することによって改変されたものであり得る。両場合とも、細胞を目的の膜タンパク質の発現を可能とする条件下で培養する必要がある。目的の膜タンパク質が核酸によりコードされている場合は、この核酸をベクター内の、プロモーターの制御下に置けばよい。本発明の実施に好適な周知のプロモーターの例としては、数種の真核生物ウイルス(ポリオーマウイルス、アデノウイルス、SV40、CMV、トリ肉腫ウイルス、B型肝炎ウイルス)で見られるもの、メタロチオネインgenプロモーター、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼプロモーター、レトロウイルスLTR領域、免疫グロブリンプロモーター、アクチンプロモーター、EF−1αプロモーターなどの構成プロモーター、ならびにテトラサイクリンプロモーター、NFκB/UV光、Cre/lox、熱ショックプロモーター、WO/2006/135436に記載の調節型RNAポリメラーゼIIプロモーターなど、下流遺伝子の発現に、培養物への外因性シグナル物質の添加が必要な誘導プロモーター、ならびにWO2006012221に記載のPSAプロモーターなどの組織特異的プロモーターが挙げられる。
【0086】
これらの細胞を任意の好適な培養培地を用いて培養する。当業者であれば、培養培地は用いる宿主細胞のタイプに応じて選択しなければならないことが分かるであろう。しかしながら、Sambrook, J. et al. (Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2nd, ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY (1989))およびAusubel et al. (Current Protocols in Molecular Biology, eds. Ausubel et al, John Wiley & Sons (1992))に記載されているように、当業者であれば、各細胞種に対して広範な培地を利用可能である。
【0087】
事実上、本発明の方法によれば、いずれの膜タンパク質も発現および精製可能である。目的タンパク質が膜タンパク質であれば、それがシグナル配列を含む限り、宿主細胞の膜系が標的となるので、それ自体発現可能である。本発明の方法を用いて発現可能な膜タンパク質としては、受容体、輸送体、例えば、エストロゲン受容体、アミノ酸輸送体、アンドロゲン受容体、下垂体受容体、トランスフェリン受容体、プロゲステロン受容体およびグルコース輸送体が挙げられる。また、本発明の方法を用い、可溶性タンパク質も、これらの可溶性タンパク質がN末端でシグナル配列と、そしてC末端で膜貫通ドメインと融合されていれば、発現させることができる。このようにして、この融合タンパク質を宿主細胞の膜に挿入し、微小胞において精製する。好ましい実施態様では、目的の膜タンパク質は、上記のようなrTF、そのフラグメントまたはそのN−グリコシル化変異体である。
【0088】
工程(b):ホモジナイゼーション
工程(b)において、培養細胞をホモジナイズして、ホモジネートを得る。これらの細胞は、当業者に利用可能ないずれかの技術(遠心分離、沈降、濾過など)を用いて培養培地から分離する必要がある。ひと度、細胞が単離されれば、これらに、細胞壁および原形質膜を壊し、細胞内容物をバッファー中に放出させ、そこでホモジナイゼーションが行われるようにホモジナイゼーションを施す。細胞の破砕は、高圧、窒素空洞法、低張バッファーを用いた浸透圧ショック、超音波処理、機械的ホモジナイゼーション、酵素的破砕法、音波処理などの当技術分野で公知の好適な方法のいずれかを用いて行う。このホモジナイゼーションは洗剤の不在下で行う。好ましくは、このホモジナイゼーションは高圧により行う。
【0089】
工程(c):ホモジネートの分離
次に、ホモジネートを、細胞から放出された内容物から壊れていない細胞および大きな凝集塊を分離するために、慣例の手段で分画する。好ましくは、この分画は13000xgでの遠心分離により行う。遠心分離後に得られた上清は、可溶性材料と細胞膜系の断片化から生じた異なるサイズの種々の微小胞集団を含んでなる清澄細胞抽出液である。
【0090】
工程(d):サイズ分画精製
次に、工程(c)で得られた清澄細胞抽出液をその抽出液を形成している微小胞のサイズに基づいて分画し、特定の直径を有するものを選択する。本発明の著者らは、サイズ分画精製技術を用いれば、クロマトグラフィーおよびこれまでに必要とみなされた他の方法などの付加的精製工程を行わずに治療投与することができる十分な純度の微小胞調製物が得られることを見出した。本発明の特定の理論に縛られるものではないが、サイズ分画により清澄細胞抽出液を処理する工程の結果、夾雑物の混入が減った生成物が得られると考えられる。さらに、これらの夾雑物は、簡単なサイズ分画精製工程により微小胞から容易に分離できるサイズおよび性質のものである。
【0091】
膜濾過はバイオプロセシング分野で周知の技術である。膜は、多様な駆動力下でそれを経て物質の移動が起こり得る、その厚さよりもはるかに大きな横寸法を有する構造として定義される。多くのフィルターが膜とみなされるが、その横寸法が深さの通常100倍を超えず、その分離機能が主としてその深さによる種または粒子の捕捉によるものである材料も含まれる。膜を特徴付けるために用いられる最も一般的なパラメーターは3つの一般カテゴリーに属す。これらには輸送特性、孔の(幾何学的)特徴、および表面(または主に化学的)特性がある。しかしながらやはり、輸送特性は孔および表面の特徴に著しく依存する。膜分離は他の分離方法よりもゆっくりした、低容量の方法であり得るが、その有効性により、少量の有益な生成物を回収するために使用できる方法となる。
【0092】
膜フィルター系は、種々の濾過特性を持つように種々の様式で設計することができる。設計基準には、終端(攪拌の有無)またはクロスフロー様式の取扱い;フィード混合物の全回収か部分回収か;ポンプ、不活性ガスブランケットまたは装置の透過側の排出による外部膜間差圧の適用;およびフラットシート(一重または多重)、中空繊維束または管状膜の使用が含まれる。サイズ分画分離法は、当業者に知られているような、透析または他の類似の膜であり得るサイズ分画膜を用いる。本発明のサイズ分画膜濾過に有用な好適な透析膜素材としては、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ナイロン、ポリプロピレン製のものなどの市販品が含まれる。これらの透析膜素材の供給者としては、例えば、Akzo-Nobel、Millipore, Inc., Poretics, Inc.およびPall Corp.が挙げられる。
【0093】
好ましい実施態様では、膜に基づくサイズ分画は、クロスフロー型濾過としても知られるタンジェンシャルフロー濾過(TFF)である。タンジェンシャルフロー濾過は、膜の表面の長手接線上に液体がポンピングされる加圧型分離方法である。適用される圧力は夾雑物を含む液体の一部を膜を経て濾過物となるサイズにする働きをする。膜の孔を通過するには大きすぎる粒子および高分子は上流側に保持される。保持された成分が膜の表面に堆積するノーマルフロー濾過(NFF)技術とは対照的に、タンジェンシャルフロー濾過は保持された成分を液体の流れに沿って洗い流す。
【0094】
TFFは、分離される成分のサイズに基づいて分類される。膜の孔径表示は一般にミクロン値として示され、表示よりも大きい粒子が膜に保持されることを示す。他方、公称分子量限界(NMWL)は、NMWLより大きい分子量を有する溶解高分子の大部分とNMWLより小さい分子量を有するものがいくらか膜に保持されることを示す。成分の形状、その変形能、およびその溶液中の他の分子との相互作用は総て保持に影響を及ぼす。膜の製造業者が異なれば、系列の膜にNMWL表示を割り当てる基準が違うが、当業者であれば、適当な表示を経験的に決定することができる。
【0095】
限外濾過は最も広く用いられている形態のTFFの1つであり、バッファー交換、脱塩または濃縮のためにバッファー成分からタンパク質を分離するために使用されるが、本発明の清澄細胞抽出液の濾過にも使用可能である。微小胞濾過の典型的な孔径は0.2〜0.1ミクロンの範囲である。好ましい実施態様では、TFFは0.2ミクロンの孔径を有する第一の膜と0.1ミクロンの孔径を有する第二の膜を含み、その結果、膜間空間に0.2〜0.1ミクロンの間の直径を有する微小胞が蓄積する。
【0096】
TFFユニット操作では、ポンプを用いて、2つの膜表面の間のチャネルにフィード流の流れを作り出す。液体が膜の表面を通過するたび、適用された圧力が液体の一部を膜から濾過物流へ押しやる。この結果として、チャネルの中央でのバルク状態から膜表面のより濃縮された壁条件まで供給原料濃度に勾配ができる。また、入口から出口(保持物)まで、フィードチャネルの長さに沿って濃度勾配があり、徐々にたくさんの液体が濾過物側へ送られる。膜の長さに沿った供給原料流はチャネルのフィード端から保持物端へ圧力低下が起こる。膜の濾過物側の流れは一般に低く、制限はほとんどなく、従って、濾過物側での膜の長さに沿った圧力はほぼ一定である。
【0097】
膜は種々の材料から製造可能であり、流水特徴および化学適合性に選択肢を与える。好適な材料としては、セルロース、ポリエーテルスルホンおよび当業者に公知の他の材料が含まれる。ある特定の実施態様では、ポリエーテルスルホンが用いられる。典型的なポリエーテルスルホン膜は、タンパク質ならび他の生体成分を吸着し、膜の汚れや流れの低下をもたらす傾向がある。Biomax(Millipore)など、いくつかの膜は耐汚染性が増すように親水性修飾されている。
【0098】
当業者であれば、様々な種類のTFFモジュールが本発明の実施に有用であることが分かるであろう。有用なTFFモジュールとしては、限定されるものではないが、平板モジュール(カセットとしても知られる)、スパイラル型モジュールおよび忠君繊維モジュールが挙げられる。
【0099】
与えられた任意のモジュールに対して、当業者であれば、鍵となるプロセスパラメーターを容易に最適化することができる。このようなパラメーターとして、クロスフロー流速、膜間差圧(TMP)、濾過物制御、膜面積およびダイアフィルトレーション設計が挙げられる。クロスフロー流速はどのモジュールが選択されるかによって異なる。一般に、同じTMではクロスフロー流速が大きいほど、流束が大きく、膜の洗い流し作用が増し、膜表面に向かう濃度勾配が小さくなる。多くのTFF適用がクロスフローを用い、クロスフローおよび圧力設定点を用い、モジュールの外では濾過物は無制御かつ無制限に流れる。これは最も簡単なタイプの作動であるが、状況によっては、単に保持物バルブで圧力を調節することによって達成されるもの以上に、数種の濾過物制御を使用することが望ましい場合がある。膜面積はプロセスフローおよび処理される総量を決定した後に選択し、これもまた処理時間に依存する。
【0100】
濃縮は一般に、2000〜4500g、例えば2500〜4000gの間、または2750〜3500gの間、または3000〜3500gの間、例えば、3000gまたは3100gまたは3200gまたは3300gまたは3400gまたは3500gでの遠心分離によって行うことができる。
【0101】
一般にこの遠心分離は数時間、例えば、1時間より長い時間、例えば、1〜10時間行うことができる。
【0102】
目的のポリペプチドの安定性に対する負の作用を最小化するために、遠心分離は特に2〜200℃の範囲、例えば3〜15℃の範囲、または3〜10℃の範囲、または3〜6℃の範囲の温度で行うことができる。
【0103】
TFFに用いるのに好ましいバッファーはリン酸バッファー、HEPESバッファーまたはTRISバッファーである。しかしながら、ある特定の実施態様では、このバッファーは、少なくとも5mM、6mM、7mM、8mM、9mM、10mM、11mM、12mM、13mM、14mMおよび15mMの濃度を含み、さらにこの間のmM濃度を含む5mM〜15mMの濃度を有する。ある特定の実施態様では、このバッファーは約7.2〜7.5の間のpHを有する。よって、ある実施態様では、バッファーは7.2、7.3、7.4または7.5のpH、またはその間の端数pHを有する。もう1つの実施態様では、バッファーは、0.10M〜0.20MのNaClおよび3.5%〜4.5%のスクロースをさらに含んでなるバッファーに置き換わる。
【0104】
好ましい実施態様では、サイズ分画工程の後に得られた微小胞調製物を、サンプル中に存在する他のいずれかの生成物から、最も高いタンパク質量/活性を有する微小胞の分離を可能とする第二の精製工程に適用する。
【0105】
一つの実施態様では、この第二の精製工程は、第二のサイズ分画工程によって行われる。もう1つの実施態様では、この第二の精製工程はアフィニティークロマトグラフィーによって行うことができる。微小胞がTFを含んでいれば、アフィニティークロマトグラフィーは、TFに対して親和性を示す化合物(例えば、抗体)を用いて行う。微小胞がTFとタグを含んでなる融合タンパク質を含む場合には、アフィニティークロマトグラフィーは、該タグに対して親和性を示すリガンドを用いることによって行うことができる。好ましくは、このタグはヘキサヒスチジンタグであり、この場合、アフィニティークロマトグラフィーは、金属親和性カラムを用いて行う。ひと度、微小胞調製物が精製されれば、次に、この分画工程の溶出液を目的タンパク質の存在に関して試験し、その後、最高量のタンパク質または最高活性を含有する画分をプールし、そのまま用いる。カラムの溶出プロフィールは、与えられたタンパク質の存在を検出するために当技術分野で公知の利用可能ないずれかの手段(ELISA、ウエスタンブロット、RIAなど)を用いてタンパク質の存在に関して試験することができるか、または目的タンパク質の活性の存在に関して試験することができる。当業者であれば、活性試験が精製されるタンパク質によって異なることが分かるであろう。好ましい実施態様では、目的タンパク質はTFであり、該タンパク質を含んでなる小胞を含有する画分を同定するために検出可能な活性は実施例5に説明されている凝固促進活性である。
【0106】
本発明のTF担持酵母由来微小胞の治療的使用
種々のアッセイが、本発明のTF担持酵母由来微小胞が凝固促進活性を示すことを示した。効果的には、実施例4は下記を含む。
a)本発明のTF担持酵母由来微小胞は、健常状態および罹患状態の双方で、繊維素血餅の形成および血液凝固を起こすことを示すin vitroアッセイ;すなわち、該アッセイは、本発明のTF担持酵母由来微小胞が
・健常被検体からの血漿(血漿における凝固アッセイ);
・血漿のFVIII、FIXまたはFXI欠損(血漿における凝固アッセイ);
・後天性血小板欠乏症からの血漿(血小板減少症血漿における凝固アッセイ);
・抗FVII抗体の存在下でのFXI欠損血漿からの血漿(血漿における凝固アッセイ);
・健常被検体からの血液(非抗凝固処理全血における凝固アッセイ);および
・血友病患者からの血液(非抗凝固処理全血における凝固アッセイ)
を凝固可能であることを示す。
b)本発明のTF担持酵母由来微小胞が重度出血モデルにおける局所的抗血友病処置に有用な薬剤であることを示すin vivoアッセイ(予め切断された血管に直接適用することによる);すなわち、該アッセイは、該TF担持酵母由来微小胞が非処理およびヘパリン処理実験動物において局所的止血剤として有用であることを示す。
c)本発明のTF担持酵母由来微小胞が致死的出血モデルにおける局所的抗血友病処置に有用な薬剤であることを示すin vivoアッセイ(予め切断された血管に直接適用することによる);すなわち、該TF担持酵母由来微小胞が、FVIII欠損マウス尾の基部切断による致死的出血モデル動物モデルにおいて局所的止血剤として有用であることを示す。
【0107】
これらの結果は本発明のTF担持酵母由来微小胞が被検体における出血の局所的処置に有用な凝固促進薬または抗血友病薬であることを示す。
【0108】
よって、本発明のTF担持酵母由来微小胞は、被検体における出血の処置において、薬剤として、すなわち、凝固促進薬または抗血友病薬として、特には、局所的適用用の抗血友病薬として使用可能である。
【0109】
従って、別の態様では、本発明は、薬剤としての本発明のTF担持酵母由来微小胞に関する。特定の実施態様では、本発明は、被検体において出血を処置するのに好適な凝固促進(抗出血)活性を有する局所的薬剤としての本発明のTF担持酵母由来微小胞に関する。
【0110】
本発明のTF担持酵母由来微小胞は、被検体において出血を処置するために局所的に、すなわち、薬学上許容されるビヒクルと混合することなく、適用することができるが、本発明の方法に従って得られたTF担持酵母由来微小胞を含んでなる清澄酵母抽出液(CYE)の成分は、一般に被検体への投与に関して、被検体に実質的に無害であるので、本発明のTF担持酵母由来微小胞は、その投与に、好ましくは、出血の局所的(局部的)処置のためのその局所投与に好適な医薬投与形で処方される。
【0111】
よって、別の態様において、本発明は、本発明のTF担持酵母由来微小胞と薬学上許容されるビヒクル、担体または賦形剤とを含んでなる医薬組成物、(以下、本発明の医薬組成物)に関する。該医薬組成物は次に、被検体に対するその投与に好適な医薬投与形として処方される。
【0112】
そして、被検体に対するその投与のためには、本発明のTF担持酵母由来微小胞は、医薬投与形、好ましくは、この目的のために所望の医薬投与形の作製に好適な薬学上許容される担体および賦形剤が組み込まれている、その局所投与に好適な医薬投与形として処方される。本発明の生成物の投与に好適な担体および賦形剤ならびに投与形についての情報は生薬学論文に見出すことができる。一般的な薬剤の種々の医薬投与形およびそれらの製法に関する総説は、C. Fauli i Trillo, 1st Edition, 1993, Luzan 5, S.A. of Edicionesmによる、"Tratado de Farmacia Galenica" ("Galenic Pharmacy Treatise")と題された書籍に見出すことができる。
【0113】
本発明のTF担持酵母由来微小胞の種々の医薬投与形が使用可能であるが、該生成物の局所投与が実施上最も有利であり、従って、本発明のTF担持酵母由来微小胞はその局所投与に好適な医薬形として処方される。該医薬形の例示的、非限定的な例としては、エアゾール、溶液、懸濁液、エマルション、ゲル、膏薬、クリーム、包帯、パッチ剤、軟膏、マウスウォッシュなどが挙げられる。この目的のため、本発明の医薬組成物は、局所投与用の本発明のTF担持酵母由来微小胞の医薬投与形を製造するのに必要な薬学上許容されるビヒクル、担体および/または賦形剤を含む。
【0114】
よって、特定の実施態様では、本発明の医薬組成物は、該生成物と本発明のTF担持酵母由来微小胞の局所投与に好適な薬学上許容されるビヒクル、担体または賦形剤とを含んでなる本発明のTF担持酵母由来微小胞の局所投与のための医薬組成物である。該TF担持酵母由来微小胞の局所投与に好適な薬学上許容されるビヒクル、担体または賦形剤の例示的、非限定的な例は生薬学論文に見出すことができる。
【0115】
特定の実施態様では、本発明の医薬組成物は、ヒトTFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメント、例えば、成熟ヒトTFまたは末端切断型ヒトTF(すなわち、FVIIaとの結合を担うドメインの全部または一部を欠いているヒトTFタンパク質、またはFVIIaとの結合を担うドメインが機能的でない、凝固促進活性を有するヒトTFタンパク質変異体)などを含んでなるTF担持酵母微小胞を含んでなる。
【0116】
本発明のTF担持酵母由来微小胞は、本発明の医薬組成物中に治療上有効な量で存在する。この量は広範囲で可変であり、例えば、活性タンパク質約1.0pg/ml〜活性タンパク質1.0mg/mlの間、好ましくは、活性タンパク質0.05μg/ml〜活性タンパク質10μg/mlの間、いっそうより好ましくは、活性タンパク質約0.1μg/ml〜活性タンパク質2.0μg/mlの間である。
【0117】
被検体に投与される本発明のTF担持酵母由来微小胞の用量は極めて広範囲で可変であり、例えば、活性タンパク質約1.0pg/ml〜活性タンパク質1.0mg/mlの間、好ましくは、活性タンパク質0.05μg/ml〜活性タンパク質10μg/mlの間、いっそうより好ましくは、約活性タンパク質0.1μg/ml〜活性タンパク質2.0μg/mlの間である。投与される本発明のTF担持酵母由来微小胞の用量は、とりわけ、用いるTFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントの特徴、例えば、その活性および生体半減期、処方物中のTFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントの濃度、被検体または患者の臨床症状、処置される出血性障害などを含むいくつかの因子によって異なる。この理由のため、当業者は本明細書で述べられる用量を単に指針としてみなすべきであり、当業者はこれまでに述べられた変数に従って用量を調整しなければならない。しかしながらやはり、本発明の医薬組成物は、予防目的または治療目的で1日に1回以上投与することができる。
【0118】
本発明の医薬組成物は、出血素因の予防および/または処置に有用な他の付加的薬剤(例えば、凝固因子、ヒト血漿など)とともに用いて併用療法を提供することができる。これらの付加的薬剤は同じ医薬組成物の一部であってもよいし、あるいは本発明の医薬組成物の投与に関して、それらの同時投与または連続投与(逐次投与)のための別個の組成物の形態で提供することもできる。
【0119】
本発明の医薬組成物は、支持体上に置くこともできる。よって、別の態様では、本発明は、本発明の医薬組成物と支持体とを含んでなる生成物に関する。本明細書において「支持体」とは、本発明の医薬組成物を付着させ、それを担持させ、それを所望の部位、例えば、本発明の医薬組成物がその治療効果を発揮する部位で放出する好適な材料の基質を指す。該支持体は固相支持体または非固相支持体であってよく、例えば、液体支持体または気体支持体であってもよい。固相支持体の例示的、非限定的な例としては、包帯、バンドエード、圧縮剤、硬膏などが挙げられる。液体支持体の例示的、非限定的な例としては、ゲル、スプレー、マウスウォッシュなどが挙げられる。気体支持体の例示的、非限定的な例としては、空気、噴射剤などが挙げられる。
【0120】
特定の実施態様では、本発明の医薬組成物は、ヒトTFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメント、例えば、成熟ヒトTFまたは末端切断型ヒトTF(すなわち、FVIIaとの結合を担うドメインの全部または一部を欠いているヒトTFタンパク質、またはFVIIaとの結合を担うドメインが機能的でない、凝固促進活性を有するヒトTFタンパク質変異体)を含んでなるTF担持酵母微小胞を含んでなる。
【0121】
支持体に付着された本発明の医薬組成物を含んでなるこの生成物は、例えば、本発明の医薬組成物と支持体を混合することよるなどの慣例の方法によって得ることができる。本発明の医薬組成物と支持体の間の相互作用は、本発明の医薬組成物の性質および用いる支持体によって、物理的または化学的相互作用であり得る。
【0122】
他の態様では、本発明は、被検体における出血の処置のため、特に、健常な被検体または出血素因を有する被検体における出血の局所的処置のための薬剤の製造における、本発明のTF担持酵母由来微小胞の使用に関する。
【0123】
本明細書において「局所的処置」とは、それが必要な部位、例えば、開放創傷、外科術などによる静脈および動脈出血、ならびに粘膜皮膚出血および微小血管出血における、皮膚(切断など)および血管組織(血管破裂など)の不連続部における直接的処置の適用を指す。
【0124】
本発明によれば、また、実施例4に示されているように、本発明のTF担持酵母由来微小胞は凝固促進薬または抗血友病薬として作用することができ、結果として、該生成物が出血性障害、特に出血素因を伴う出血性障害を処置または矯正するために使用可能である。
【0125】
「出血素因」とは、出血性障害を引き起こし、その結果、時として長期かつ過度な出血を伴って起こり得る出血症候群の発生をもたらすプロセスを指す。出血素因は先天性または後天性凝固障害により、および/または先天性および後天性血小板障害により起こり得る。
【0126】
「凝固障害」とは、凝固因子障害を指す。この障害は特異的凝固因子の欠乏または欠損によるか(その結果として出血症候群が起こる)、または凝固因子障害によるものであり得る。凝固障害は一般に先天性凝固障害または後天性凝固障害であり得る。
【0127】
先天性凝固障害の例示的、非限定的な例として、凝固因子V(FV)、凝固因子VII(FVII)、その欠損または欠乏が血友病Aを引き起こす凝固因子VIII(FVIII)、その欠損または欠乏が血友病Bを引き起こす凝固因子IX(FIX)、凝固因子X(FX)、その欠損または欠乏が血友病Cを引き起こす凝固因子XI(FXI)、凝固因子XII(FXII)、凝固因子XIII(FXIII)およびそれらの組合せから選択される凝固因子の欠乏が挙げられる。
【0128】
後天性凝固障害は、種々の起源を持ち得る。例示としては、重度の肝不全、抗凝固薬療法(ヘパリン、低分子量ヘパリン、ワーファリン、クマリン誘導体、ジクマリンなど)における凝固因子合成欠損が挙げられる。もう1つの機構は凝固因子の極度の消耗に基づくものであり、その結果、それらは出血傷害部において血餅の形成に利用できない。この機構は播種性血管内凝固症候群または複数の微小血栓の形成を伴う、血小板および凝固因子を活性化する微小循環内皮を傷害する重度の敗血症;胎盤放出などのTFによる血管侵入;死亡胎児の保持;組織の破壊を伴う多重外傷;有毒のヘビの噛みつきなどの多重疾患において起こる消耗による凝固障害で見られる。脈管炎では、体壁および内皮の損傷が凝固アクチベーターを放出する。凝固因子の消耗は、PDFの放出を伴うプラスミン(抗血小板薬および抗凝固薬)の作用による多くの微小血栓の繊維素の溶解により悪化する。
【0129】
「血小板障害」とは、血小板の数および機能的能力の双方の障害を指し、その結果、出血症候群が起こる。この血小板障害は先天性または後天性であり得る。
【0130】
特定の実施態様では、該血小板障害は先天性血小板障害である。先天性血小板障害の例示的、非限定的な例としては、Glanzmann病、Bernard Soulier病、Bolin-Jamieson症候群、Wiskott-Aldrich症候群、Paris-Trousseau-Jacobsen症候群、X染色体血小板減少症、Gray血小板症候群、Sebastian症候群およびFanconi貧血が挙げられる。
【0131】
別の特定の実施態様では、該血小板障害は後天性血小板障害である。後天性血小板障害の例示的、非限定的な例としては、血小板血症、赤血球増加症、慢性骨髄球性白血病などの骨髄増殖性障害が挙げられ、出血時間の延長、ガラスビーズ保持欠損、血小板凝集欠損、異常な放出および血小板因子III欠損を伴う骨髄化性における機能的血小板障害がある。機能的血小板欠損は、壊血病ならびに先天性心疾患および硬変における異常タンパク質血症で見られている。
【0132】
「後天性凝固障害」および「後天性血小板障害」とは、医原性または他の疾病の続発性であり得る障害の起源を指す。
【0133】
本明細書において「被検体」とは、ヒト種を含む動物種のいずれのメンバーも含み、例示的、非限定的な例としては、該被検体は霊長類、家庭内動物、齧歯類などの哺乳類であり得、該被検体は好ましくは、任意の年齢および人種の男性または女性である。特定の実施態様では、該被検体は、止血障害の履歴のないヒト、例えば、凝固障害または血小板障害を有していない個体である。別の特定の実施態様では、該被検体は、止血障害の履歴のあるヒト、例えば、凝固障害(先天性もしくは後天性凝固障害など)、または血小板障害(先天性もしくは後天性血小板障害など)などの出血素因を有する個体である。
【0134】
よって、特定の実施態様では、本発明は、止血障害の履歴のないヒトにおける出血の局所的処置のための薬剤の製造における、本発明のTF担持酵母由来微小胞の使用に関する。別の特定の実施態様では、本発明は、出血素因を有するヒトにおける出血の局所的処置のための薬剤の製造における、本発明のTF担持酵母由来微小胞の使用に関する。
【0135】
上述のように、被検体への局所投与のためには、本発明のTF担持酵母由来微小胞は、被検体における出血の局所的(局部的)処置のためのその局所投与に好適な医薬形で処方される。該医薬形の例示的、非限定的な例としては、エアゾール、溶液、懸濁液、エマルション、ゲル、膏薬、クリーム、包帯、パッチ剤、軟膏、マウスウォッシュなどが挙げられる。この目的のため、本発明のTF担持酵母由来微小胞を含んでなる医薬組成物は、選択された医薬投与形を作製するのに必要な薬学上許容されるビヒクル、担体および賦形剤を含む。医薬組成物に関する情報(医薬投与形、用量、有効成分の量など)は、本発明の医薬組成物に関してすでに述べられている。
【0136】
また、TFは、脈管形成を誘発し、VEGFの産生を増大させることが報告されている(Ollivier et al, 2000, Arterioscler. Thromb. Vase. Biol, 20:1374-1381; Chen et al, 2000, Thromb. Haemost., 86:334-345 y Watanabe et al., 1999, Thromb. Res., 96:183- 189)。よって、別の態様では、本発明は、脈管形成の増大または細胞遊走の増大が必要な疾病の処置のための本発明の酵母由来微小胞に関する。
【0137】
脈管形成の低下に関連し、本発明の脈管形成促進組成物の処置から利益を受け得る疾病としては、冠動脈疾患、例えば、虚血性心筋、心筋梗塞、虚血性心筋症)または末梢動脈疾患、例えば、慢性四肢虚血、跛行(骨格筋)または安静時疼痛/虚血性潰瘍形成/壊疽などが挙げられる。脈管形成の促進は同様に、虚血性脳卒中/神経障害(脳/神経組織など)、例えば、脳卒中/梗塞周囲の虚血性半影帯(ischemic pneumbra)においても必要とされる。あるいは、本発明の組成物の脈管形成促進作用は、血管内管腔表面の治癒および/または内皮化を促進するため、例えば、不安定/潰瘍化アテローム斑の内皮化を促進するため、例えば、冠動脈/頸動脈、または例えば頚動脈内の動脈内膜切除術において、または血栓摘出術(動脈/静脈のいずれか)、血管形成術(バルーン、レーザーまたは低温血管形成術など)、粥腫切除術後、または血栓溶解後に見られるものなどの脱内皮化管腔表面において、酸化窒素剤を含む組成物を投与することにより使用することができる。本発明の脈管形成促進組成物はまた、急性または慢性動脈および/または静脈血栓の消散、例えば、再血管新生および/または新血管新生および/または再疎通にも有用であり得る。別の実施態様では、本発明の組成物は、遺伝子療法適用、臓器再生適用のため、およびバイオ人工ハイブリッド臓器(例えば、膵臓、腎臓、肺、肝臓)置換ならびに創傷治癒の促進のため、および/または増進および/または例えば虚血性、糖尿病性、神経因性、静脈鬱血に基づく創傷に対する顆粒組織の促進のための新毛細血管床の発達を促進する。
【0138】
TFは、細胞遊走を促進することが報告されている(Ott et al., 2005, Circulation, 111:349-355およびWO0105353)。よって、別の態様において、本発明は、それを必要とする患者において細胞遊走を促進するための、本発明のTFを含んでなる組成物に関する。種々の疾病が、その遊走が刺激される細胞種に応じて本発明の組成物で処置可能であると考えられる。例えば、血管、動脈、冠動脈、静脈、食道管腔および尿道などの体腔に傷害を有する患者は内皮細胞の遊走刺激を必要とし;虚血性および出血性脳卒中の双方の結果として中枢神経系に傷害を有する患者および外傷を受けた患者は、その傷害部への神経細胞の遊走刺激を必要とし;例えば糖尿病患者および高齢患者において、慢性および処置耐性であり得る潰瘍(例えば四肢潰瘍および褥瘡)、角膜創傷、火傷、擦過傷、外科的切開、ドナー移植片部位、および感染性病原体により引き起こされる傷害部を有する患者。処置可能な他の医学的症状は慢性症状(例えば、慢性静脈性潰瘍、糖尿病性潰瘍、圧迫性潰瘍、褥瘡、および粘膜表面の潰瘍またはただれなど)であり得、持続的炎症症状または感染により、あるいは遺伝的欠陥(ケロイド形成および凝固異常)により引き起こされる皮膚および内皮表面の傷害は、受傷組織を再増殖させるのに必要な内皮細胞の遊走刺激から利益を受ける。
【0139】
本発明のTF担持酵母由来微小胞を含んでなる組成物
他の態様では、本発明は、本発明のTF担持酵母由来微小胞とビヒクルを含んでなる組成物(以下、「本発明の組成物」と呼ぶ)に関する。
【0140】
事実上、本発明のTF担持酵母由来微小胞に悪影響を及ぼさないビヒクルはいずれも本発明の組成物に使用可能である。
【0141】
一つの実施態様では、該ビヒクルは、本発明の方法を実施することにより得られる本発明のTF担持酵母由来微小胞を取り巻く培地などの実質的に液体培地である。よって、特定の実施態様では、本発明の組成物は、本発明の方法の実施において得られる清澄酵母抽出液を含んでなる。
【0142】
FVIIaとの結合を担うドメインの全部または一部を欠いている末端切断型TF
上述のように、発明者らは驚くべきことに、FVIIaと結合することができない末端切断型TFタンパク質が凝固促進活性を有することを見出した。実施例4に見られるように、発明者らは、末端切断型のTFタンパク質が血漿における凝固アッセイで凝固促進活性を有することを示した。
【0143】
よって、別の態様において、本発明は、FVIIaとの結合を担うドメインの全部または一部を欠いている末端切断型TF(以下、「本発明の、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TF」と呼ぶ)を指し、FVIIaとの結合を担うドメインの全部または一部を欠いており、その結果、それはFVIIaと結合することができないが、凝固促進活性は有する。拡張すれば、この「本発明の、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TF」は、FVIIaとの結合を担うドメインが変異のために機能的でない、凝固促進活性を有するTFタンパク質変異体を含む。
【0144】
本発明の、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TFは、例えば、好適な発現系(酵母、細菌、真核細胞、昆虫細胞など)での該タンパク質をコードするヌクレオチド配列の遺伝子発現によるなどの慣例の手段により得ることができる。
【0145】
本発明の、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TFがFVIIaと結合することができるかどうかを判定するため、国際公開公報WO00/04148に記載されているような結合アッセイを使用することができる。さらに、本発明の、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TFの凝固促進活性は、これまでに述べられているように、例えば、血漿におけるin vitro凝固アッセイによるか、または非抗凝固処理全血におけるin vitro凝固アッセイによるか、または重度出血動物モデルにおけるin vivoアッセイによるか、または実施例4に述べられているアッセイなどの致死的出血モデル動物モデルにおけるin vivoアッセイによるなど、実施例4に述べられている凝固アッセイのいずれかによりアッセイすることができる。
【0146】
特定の実施態様では、本発明の、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TFは、因子Xに対する相互作用ドメイン、膜貫通領域および細胞質テールを含んでなり、かつ、FVIIaとの結合を担うドメインを部分的にまたは完全に欠いている。さらに、特定の実施態様では、本発明の、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TFは、因子Xに対する相互作用ドメイン(aa174〜251)、膜貫通領域(aa252〜274)および細胞質テール(aa275〜295)および付加的ヒスチジンタグ(実施例3)を含有する末端切断型のヒトTFタンパク質である。発明者らは今般、驚くべきことに、FVIIaとの結合を担うドメインを欠いている、該末端切断型のTFタンパク質は凝固促進活性を有することを見出した(実施例4表3)。
【0147】
別の特定の実施態様では、該TFはFVIIa結合ドメインにおける1以上の点変異により改変されており、その結果、該ドメインはもはやFVIIaと結合することができない。該FVIIaとの結合を無効にすることが知られているTFのFVIIa結合ドメインにおける点変異は当技術分野で公知である(例えば、引用することによりそのまま本明細書の一部とされるKelley, R.F. et al, 1995, Biochemistry, 34:10383-10392に記載されているもの)。
【0148】
周知のように、血液凝固外因性経路において、TFは循環FVII/FVIIaと結合してTF::FVIIa複合体を形成し、カルシウムの存在下で、FXの活性化が起こるように基質として働くことから、FVIIaとの結合を担うドメインの全部または一部を欠いている該TFフラグメントは凝固促進活性を有することが、驚くべきことに認められている。血管傷害によって起こる出血事象では、TFとそのリガンドであるFVII/FVIIaの相互作用を含む外因性経路の活性化によって凝固が誘発されることが受け入れられている。
【0149】
本発明の、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TFはグリコシル化されていてもされていなくてもよい。よって、特定の実施態様では、本発明の、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TFはグリコシル化されておらず、一方、別の特定の実施態様では、本発明の、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TFはグリコシル化されている。上述のように、「グリコシル化」とは、いずれの程度のグリコシル化も含む。
【0150】
1以上の非機能的グリコシル化部位を担持するTF変異体
上述のように、本発明の著者らはまた、TFの凝固促進活性ならびに酵母宿主細胞におけるその発現が、該TFがそのグリコシル化部位に、野生型TFで見られる3つのN−結合グリコシル鎖のうち少なくとも1つの結合を妨げる変異を有する場合に増強されることも見出した。よって、特定の実施態様では、本発明のTF担持酵母由来微小胞は、凝固促進活性を有するTFタンパク質の非グリコシル化フラグメントを含んでなる。上述のように、「グリコシル化」とは、いずれの程度のグリコシル化も含む。好ましい実施態様では、該TF変異体は、TFのN−グリコシル化部位のうち少なくとも1つが、それを非機能的とするように、すなわち、グリコシド鎖の付加のためのアクセプター部位として働くことができないように修飾されているポリペプチドである。修飾可能なTF配列のN−グリコシル化部位は前述のもの、すなわち、Asn11−Leu12−Thr13部位、Asn124−Val125−Thr126部位および/またはAsn137−Asn138−Thr139部位である。N−グリコシル化コンセンサス領域の修飾はいずれも、N−結合グリコシル鎖の付加が無効となるか、または実質的に阻害される限り好適である。好ましくは、この修飾は成熟ヒトTFの11、124および/または136番に相当するAsn残基に導入されるが、それはこれがグリコシル鎖の結合のためのアクセプターとして働く残基であるからである。本発明において「成熟ヒトTFの11、124および/または136番に相当する部位」とは、ヒト配列とオーソログ配列が配列類似性に基づいてアラインされた際に、そのポリペプチド鎖の異なる位置に見られることがあるが、成熟ヒトTFのN−グリコシル化部位と一致する、他のTFオーソログのN−グリコシル化部位を指す。アライメントまたはマルチプルTF配列のため、従って、ヒト成熟TFにおける部位に相当するTFオーソログにおけるN−グリコシル化部位を同定するために好適なアルゴリズムは、GCGソフトウエアパッケージ(Genetics Computer Group, Program Manual for the GCG Package, Version 7, Madison, Wis.)の一部となっているPILEUPプログラムである。PILEUPは、累進型ペアワイズアライメントを用い、関連の配列群からマルチプル配列アラインメントを作成し、関係と配列同一性を示す。それはまた、アライメントを作成するために用いたクラスタリング関係を示す樹状図または系統樹もプロットする。PILEUPは、Feng and Doolittle, J. Mol. Evol., 35: 351-360 (1987)の累進型アライメント法の簡略化を用いる。好ましくは、11、124および/または136番のAsn残基はAlaで置換される。よって、好ましい実施態様では、微小胞の一部をなすTF変異体は、ヒト成熟TFのN11A、N124A、N137A、N11AとN124A、N11AとN137A、N124AとN137A、およびN11AとN124AとN137Aの群から選択される。他のいずれのTFオーソログでも、変異は、N−結合グリコシル化コンセンサス部位を形成する、対応するAsn残基で起こる。
【0151】
本発明の、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TF、非機能的FVIIa結合ドメインを担持する変異TFおよび1以上の非機能的N−グリコシル化部位を担持するTF変異体は融合タンパク質のメンバーであり、該融合タンパク質は、別のペプチドまたはタンパク質を含んでなる第二の領域と結合された、本発明の、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TF、該変異TF担持非機能的FVIIa結合ドメインおよび1以上の非機能的N−グリコシル化部位を担持するTF変異体を含んでなる第一の領域を含む。該第二の領域は、本発明の、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TF、非機能的FVIIa結合ドメインを担持する変異TF、および1以上の非機能的N−グリコシル化部位を担持するTF変異体のアミノ末端領域と結合されることができ、あるいは該第二の領域は、本発明の、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TF、非機能的FVIIa結合ドメインを担持する変異TF、および1以上の非機能的N−グリコシル化部位を担持するTF変異体のカルボキシル末端領域と結合されることができる。第一および第二の双方の領域は、直接結合されていてもよいし、あるいは第一と第二の領域の間のリンカーポリペプチドを介して結合されていてもよい。
【0152】
特定の実施態様では、該融合タンパク質は、本発明の、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TFのC末端またはN末端ドメインに結合された、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TF、非機能的FVIIa結合ドメインを担持する変異TFまたは1以上の非機能的N−グリコシル化部位を担持するTF変異体とタグ、通常にはペプチドタグを含んでなる。該タグは一般に、該融合タンパク質の単離または精製に使用可能であるペプチドまたはアミノ酸配列である。このタグの例示的、非限定的な例はこれまでに記載されている。特定の実施態様では、このタグは、TFタンパク質のC末端ドメインに結合されたHisタグである。別の実施態様では、このタグは、TFタンパク質のN末端ドメインに結合されているHisタグである。
【0153】
該融合タンパク質は、例えば、好適な酵母細胞における、該融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列の遺伝子発現によるなどの慣例の手段によって得ることができる。最終的なタグは、望ましければ、該融合タンパク質の単離または精製に使用可能である。
【0154】
FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TF、非機能的FVIIa結合ドメインを担持する変異TF、および1以上の非機能的N−グリコシル化部位を担持するTF変異体は、薬剤として、例えば、被検体における出血の処置において凝固促進薬として使用可能である。
【0155】
よって、別の態様において、本発明は、薬剤としての該FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TF、該非機能的FVIIa結合ドメインを担持する変異TF、および該1以上の非機能的N−グリコシル化部位を担持するTF変異体に関する。特定の実施態様では、本発明は、被検体において出血を処置するために好適な凝固促進活性を有する薬剤としての、該FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TF、該非機能的FVIIa結合ドメインを担持する変異TF、および該1以上の非機能的N−グリコシル化部位を担持するTF変異体に関する。
【0156】
さらに、別の態様において、本発明は、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TF、非機能的FVIIa結合ドメインを担持する変異TFまたは1以上の非機能的N−グリコシル化部位を担持するTF変異体と薬学上許容されるビヒクルとを含んでなる医薬組成物に関する。
【0157】
特定の実施態様では、該医薬組成物は、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TF、非機能的FVIIa結合ドメインを担持する変異TFまたは1以上の非機能的N−グリコシル化部位を担持するTF変異体と、本発明のFVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TFまたは1以上の非機能的N−グリコシル化部位を担持する変異TFの局所投与に好適な薬学上許容される担体の局所投与に好適な医薬組成物である。
【0158】
別の態様において、本発明は、被検体において細胞遊走および/または脈管形成を促進する必要がある疾病の処置のための、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TF、非機能的FVIIa結合ドメインを担持する変異TF、および1以上の非機能的N−グリコシル化部位を担持するTF変異体に関する。別の態様において、本発明は、それを必要とする被検体において脈管形成を促進するため、または細胞遊走を促進するための、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TF、非機能的FVIIa結合ドメインを担持する変異TF、または1以上の非機能的N−グリコシル化部位を担持するTF変異体に関する。
【0159】
一般に、被検体に投与するために、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TF、非機能的FVIIa結合ドメインを担持する変異TF、または1以上の非機能的N−グリコシル化部位を担持するTF変異体は、出血の局所的(局部的)処置のためのその局所投与に好適な医薬形として処方される。該医薬形の例示的、非限定的な例としては、エアゾール、溶液、懸濁液、エマルション、ゲル、膏薬、クリーム、包帯、パッチ剤、軟膏、マウスウォッシュなどが挙げられる。この目的のため、本発明のFVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TFを含んでなる医薬組成物は、選択された医薬投与形を作製するのに必要な薬学上許容される担体および賦形剤を含む。よって、特定の実施態様では、本発明のこの医薬組成物は、本発明の末端切断型TFタンパク質の他、生薬学論文に見出すことができるような薬学上許容されるビヒクルを含んでなる。
【0160】
本発明のFVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TF、本発明の非機能的FVIIa結合ドメインを担持する変異TF、および本発明の1以上の非機能的N−グリコシル化部位を担持するTF変異体は、治療上有効な量でこの医薬組成物中に存在する。この量は広範囲で可変であり、例えば、活性タンパク質約1.0pg/ml〜活性タンパク質1.0mg/mlの間、好ましくは、活性タンパク質0.05μg/ml〜活性タンパク質10μg/mlの間、いっそうより好ましくは、活性タンパク質約0.1μg/ml〜活性タンパク質2.0μg/mlの間である。
【0161】
別の態様において、本発明は、該FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TF、該非機能的FVIIa結合ドメインを担持する変異TF、および該1以上の非機能的N−グリコシル化部位を担持するTF変異体をコードするポリヌクレオチド配列(以下、「本発明のポリヌクレオチド」と呼ぶ)に関する。
【0162】
別の態様において、本発明は、本発明のポリヌクレオチド配列を含んでなるベクター(以下、「本発明のベクター」と呼ぶ)に関する。本発明において用いるのに好適なベクターとしては、原核生物発現ベクター(pUC18、pUC19、Bluescriptおよびそれらの誘導体mp18、mp19、pBR322、pMB9、CoIE1、pCR1、RP4など)、ファージおよびシャトルベクター(pSA3およびpAT28など)、酵母発現ベクター(2ミクロンプラスミド、組込型プラスミド、YEPベクター、セントロメアプラスミドなど)、植物発現ベクター(pIBI、pEarleyGate、pAVA、pCAMBIA、pGSA、pGWB、pMDC、pMY、pOREベクターなど)、昆虫細胞発現ベクター(pACおよびpVLベクターなど)、ウイルスベクター(アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルスおよびレンチウイルスなど)ならびに非ウイルスベクター(pcDNA3、pHCMV/Zeo、pCR3.1、pEF1/His、pIND/GS、pRc/HCMV2、pSV40/Zeo2、pTRACER−HCMV、pUB6/V5−His、pVAX1、pZeoSV2、pCI、pSVLおよびpKSV−10、pBPV−1、pML2dおよびpTDT1など)のいずれかに基づく真核生物発現ベクターが挙げられる。
【0163】
別の態様において、本発明は、本発明のポリヌクレオチドまたは本発明のベクターを含んでなる宿主細胞(以下、「本発明の宿主細胞」と呼ぶ)に関する。本発明の目的のために使用可能な細胞は好ましくは、真核細胞、より好ましくは、脊椎動物または無脊椎動物細胞、昆虫細胞または真菌細胞であり、いっそうより好ましくは、脊椎動物細胞はアフリカツメガエル細胞、ゼブラフィッシュから単離された細胞または哺乳類細胞である。好ましくは、哺乳類細胞は、CHO、VERO、BHK、HeLa、COS、MDCK293、3T3、WI38などの確立された細胞系統に由来の細胞、胚幹細胞、成人幹細胞または体細胞である。
【0164】
別の態様において、本発明は、本発明の、FVIIa結合ドメインを欠いている末端切断型TF、非機能的FVIIa結合ドメインを担持する変異TF、または1以上の非機能的N−グリコシル化部位を担持するTF変異体と特異的に結合する抗体に関する。本発明において用いるのに好適な抗体としては、抗原結合可変領域ならびに軽鎖定常ドメイン(CL)および重鎖定常ドメインCH1、CH2およびCH3を含んでなる「完全」抗体、完全抗体のパパイン消化から得られ、単一の抗原結合部位とCLおよびCH1領域を含んでなる「Fab」フラグメント、完全抗体のペプシン消化から得られ、2つの抗原結合部位を含む「F(ab’)2」フラグメント、軽鎖の定常ドメインと重鎖の第一の定常ドメイン(CH1)を含み、抗原結合部位を1つだけ含む「Fab」フラグメントが挙げられる。Fab’フラグメントは、重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に、抗体ヒンジ領域に由来する1以上のシステインを含む数残基が富化されていることでFabフラグメントと異なり、「Fv」は、完全な抗原認識・抗原結合部位、抗体のVLドメインとVHドメイン(これらのドメインは単鎖ポリペプチド中に存在する)を含んでなる単鎖FVまたは「scFv」抗体フラグメント、を含む最小抗体フラグメントであり、「ダイアボディー」は、同じ鎖上の2つのドメイン間で対合させるには短過ぎるペプチドリンカーによって接続された同じポリペプチド鎖(VH−VL)上の軽鎖可変ドメイン(VL)に接続された重鎖可変ドメイン(VH)を含んでなり、「二重特異性抗体」(BAb)は、
2つの異なる特異性の抗原結合部位を有する単一の二価抗体(またはその免疫療法上有効なフラグメント)である。
【0165】
以下の実施例は本発明を例示するものであり、その限定と考えるべきでない。
【実施例】
【0166】
実施例1〜3は、酵母における(i)所望によりHisタグと融合された融合タンパク質の形態の、成熟ヒトTFタンパク質(実施例3)、(ii)Hisタグと融合された末端切断型のヒトTFタンパク質(実施例4)および(iii)ヒトTFタンパク質のN−グリコシル化変異体(実施例5)の発現に基づく凝固促進生成物の生産を開示している。該凝固促進生成物はひとまとめに実施例6で一般名として呼ばれ、簡単には、微小胞化組織因子、微小胞化TFまたはmTFと呼ばれる。実施例2は、微小胞化TFの精製を教示している。
【0167】
実施例6は、健常被検体および血友病被検体において、該mTFの種々の濃度での繊維素血餅生成能を評価する目的で行ったいくつかのin vitroアッセイならびに重度出血モデルおよび致死的出血モデルにおける該mTFの出血処置能を評価する目的で行ったいくつかのin vivoアッセイを開示している。
【0168】
実施例1
酵母における全長TFタンパク質の発現に基づく凝固促進生成物(CYE−TF)の生産
1.1. 酵母発現ベクター
組換えTF発現のため、図1に示されているクローニング戦略に従い、プラスミドpG1(ATCC#37305)およびYep352(ATCC#37673)から酵母エピソームベクター(pTT−10301)を作製した。プラスミドpTT−10301は以下のエレメントを含む:
i)増殖培地においてウラシルの不在下で組換え酵母の選択を可能とするURA3遺伝子、
ii)大腸菌におけるプラスミドベクターの選択および増殖のためのアンピシリン耐性遺伝子(Amp)、
iii)酵母においてベクターのエピソーム複製を可能とする酵母2ミクロン(2μ)複製開始点、
iv)下流に置かれた遺伝子の転写を制御するグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GPD)プロモーター、
v)ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)の特異的酵母転写終結シグナル、および
vi)GPDプロモーター(pGPD)の制御下で選択された遺伝子のクローニングを可能とするユニークなBamHI制限部位、およびそれに続く、PGK停止配列(PGKt)。
【0169】
図1Aは、プラスミドベクターpTT10301のマップを示す。プラスミド内の総てのエレメントが適正に構成されていることを確認するための制限エンドヌクレアーゼ分析を図1Bに示す。
【0170】
大腸菌DH5α株(Stratagene)をプラスミドの増幅に用いた。プラスミドpTT10301を担持する細菌細胞を37℃にてLuria Broth Ampicilin (LBA)培地(1%トリプトン、1%NaCl、0.5%酵母抽出液、50mg/mlのアンピシリン)で増殖させた。pTT−10301プラスミドを含有する組換え細菌培養物のグリセロール保存株を−80℃で維持した。
【0171】
1.2. 組換え遺伝子
組織因子(TF)は、32アミノ酸(aa)のリーダー配列を含む295aaのタンパク質である。この成熟タンパク質は、細胞外ドメイン(aa33〜251)、膜貫通領域(aa252〜274)および細胞質テール(aa275〜295)の3つのドメインに分けることができる。図2は、ヒトTF(hTF)タンパク質のハイドロパシープロットを示す。
【0172】
成熟hTFタンパク質(aa33〜295)をコードするcDNAを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、816bpのフラグメントとして増幅させた。このPCR反応では、ヒト胎盤cDNAライブラリー(Marathon-Ready cDNA, Clontech Laboratories, Inc.)を鋳型として用い、ヒトTF遺伝子のそれぞれ5’末端または3’末端にアニーリングするオリゴヌクレオチドA(配列番号1)およびB(配列番号2)をプライマーとして用いた。
【0173】
図3は、hTF DNA配列(Gene bank受託番号BC011029)内のプライマーA(配列番号1)およびB(配列番号2)のアニーリング配列を示す。配列番号1で示されるプライマーは、シグナルペプチドを欠き、hTF ORF内に開始コドンATGを含む成熟hTFの最初の4つのアミノ酸をコードする。
【0174】
PCR条件は次の通りであった:35サイクルのPCR(94℃30秒、45℃30秒、72℃1分)および最終伸張工程72℃7分。その後、PCR生成物を精製した(Qiagen DNA purification system)。
【0175】
1.3. rTFプラスミド発現ベクターの作製
第1.2節で述べたようにして得られたPCR増幅DNAフラグメントをBαmHIで消化して末端を除去し、エタノール沈降させ、予めBαmHIで消化したpTT10301ベクターにクローニングした。いくつかのクローンのエンドヌクレアーゼ制限分析の後、組換え成熟hTF(以下、rTFと呼ぶ)遺伝子を、GDPプロモーター(pGDP)に対して適正な配向で含む、pTT10302と呼ばれるプラスミドを選択した(図4)。
inプラスミドpTT10302に含まれるrTFのDNA配列は、公開されている配列(Gene Bank #BC011029)と100%同一であった。rTFをコードするDNAのDNA配列を、プライマーA(配列番号1)とB(配列番号2)およびBig Dye Terminator試薬を用い、自動シーケンサー(ABI prism 370, Applied Biosystems)で求めた。pTT10302プラスミドを担持するDH5α大腸菌細胞を37℃で一晩、LBA培地で増殖させ、グリセロール保存株の調製に用い、これを−80℃で維持した。
【0176】
1.4. 組換え酵母によるrTFの発現
組換え成熟ヒト組織因子(rTF)を発現する組換え酵母を作製するため、発現ベクターpTT10302を用いてT73 ura3酵母細胞を形質転換した。
T73 ura3は、極めてよく特徴付けられたS.セレビシエT73株の誘導体であり、ワイン製造に広く用いられている。T73は、スペインのアリカンテ州で選抜された2倍体株であり(Coleccion Espanola de Cultivos Tipo, 受託番号#CECT1894)、Lallemand Inc. (Montreal, Quebec, Canada)により、食品産業向けに世界中で市販されている。T73 ura3株は、URA3遺伝子が両コピーとも破壊されているT73誘導体である(J. Agric. Food Chem. 1998. 46, 1689-1693)。T73 ura3は、URA3選択マーカー遺伝子を担持するプラスミドベクターを用いたT73組換え酵母の作製を可能にする表現型的に安定なURA−、食品に安全な酵母株である。
【0177】
実施保存株を作製するため、T73 ura3細胞をペトリ皿で増殖させ、単一コロニーを単離し、30℃にてYPD培地(1%酵母抽出液、2%細菌性ペプトン、2%グルコース)で10細胞/mlの密度に達するまで増殖させた。次に、酵母細胞を遠心分離によりペレットとし、最小選択培地(酵母抽出液窒素ベースおよびウラシルを除いた完全合成培地;YNB CSM−URA)中15%のグリセロールに再懸濁させ、アリコートを使用まで−80℃で冷凍した。無作為に選択した3つのアリコートを解凍し、細菌の混入がないか確認した。まず、新鮮なT73ura3アリコートを解凍し、LiAc/SS−DNA/PEGプロトコール(Methods in Enzymology 1994. 350:87-96)に従い、細胞をプラスミドベクターを捕捉しやすい状態にする。エンプティプラスミドpTT10301を担持する対照組換え酵母を作製するため、同様の戦略を行った。
【0178】
組換え酵母クローンを、ウラシルを欠いた培地でのそれらの増殖能により選択した。pTT10302で形質転換された8つの独立したクローンを単離し、ウラシルを含まない培地で一晩培養した。yTT10301と呼ばれるこれらの組換え酵母培養物をペレットとし、ガラスビーズを用いてホモジナイズした。同様に、pTT10301で形質転換された酵母からの独立したクローン(yTT10300と呼ぶ)に対しても同じ手順を施した。
【0179】
両タイプの組換え酵母の種々のクローンに由来するタンパク質をSDS−PAGEにより分離し、ニトロセルロース膜に移し、これに対してウエスタンブロット分析を行った。図5に示されるように、yTT 10301培養物から選択された総てのクローン(クローン1〜8)が、抗ヒトTF特異的モノクローナル抗体(mAb)CD142(BD Biosciences Pharmingen)により認識された数種のポリペプチドを発現した。しかしながら、yTT10300クローンには、特異的抗ヒトTFmAbとの免疫反応性ポリペプチドを示すものはなかった(図5レーンC、これらのクローンの1つに相当)。
【0180】
図5に示されるように、yTT10301における主要な免疫反応性生成物の分子サイズ(レーン1〜8)は約35kDaであった(アスタリスクで示す)。分子量44および46kDaの他の生成物(矢印で示す)および70〜115kDaの範囲の大きさのより大きな凝集塊(矢印)も見られる。35kDaより小さな分子量を持つポリペプチドはおそらくrTF分解生成物に相当する。
【0181】
異なる電気泳動移動度を示すいくつかのTF関連生成物の出現は、タンパク質凝集、グリコシル化度の違い、またはその双方によるものであり得る。これらの可能性を検討するため、yTT10301(クローン#7)からの抽出液をエンドグリコシラーゼEndo HおよびPNGase Fで処理した。図6に示されるように、eitherEndo H(レーン2)またはPNGase F(レーン3)のいずれかとともにインキュベートした後はより大きな凝集塊(75〜150kDa)は消失したが、75kDa生成物は明らかに見られた(レーン1とレーン2および3を比較)。さらに、44および46kDaのタンパク質バンドも両処理で消失した。Endo Hで処理したサンプルでは(レーン2)、44および46kDaの生成物が約36kDaの生成物を生じるものと思われる。sPNGase F処理は、37および39kDaの2つのバンドの出現をもたらした(レーン3)。他方、これらのグリコシラーゼ処理の後も35kDaの生成物は変わらないままであった。よって、この35kDaの生成物は非グリコシル化rTFタンパク質に相当し、エンドグリコシラーゼ処理後に認識できる75kDaの生成物は非グリコシル化タンパク質の二量体を示す可能性がある。非処理サンプルで見られた大きな凝集塊は、同じ二量体であるが、グリコシル化度が異なるものに相当し得る。同様に、44および46kDaのタンパク質は、グリコシル化パターンの異なる35kDaタンパク質に相当すると思われる。
【0182】
アミノ酸配列に従って決定された、シグナルペプチドを欠くhTFの推定分子量は29.8kDaである。推定分子量と測定分子量の間の矛盾は、疎水性アミノ酸の連なりの存在による、SDS−PAGEにおけるタンパク質の変則的な移動のためであり得る。さらに、yTT10301によるrTFの発現をレーザー走査共焦顕微鏡により分析した。これらの試験のため、非発現(yTT10300)およびrTF発現(yTT10301クローン#7)組換え酵母からのスフェロプラスト(すなわち、酵素処理により作製される細胞壁を欠いた酵母)を固定し、抗ヒトTFmAbまたは酵母膜ATPアーゼに対するmAbのいずれかとともにインキュベートした。図7に示されるように、抗ATPアーゼmAbはスフェロプラストの表面のみを特異的に標識した(図7A写真1および3)。しかしながら、抗ヒトTFmAbは細胞全体に分布したシグナルを示し、このことは、rTFが原形質膜だけでなく、おそらくは内部の膜細胞のコンパートメントに結合して、細胞内部にも存在することを示唆する(図7B写真5および7)。他方、図8に示されるように、エンプティプラスミドを担持する酵母細胞(yTT10300)では、抗ATPアーゼmAbはまた細胞表面で特異的シグナルを生じたが(図8A写真1)、予測されたように、抗ヒトTF抗体による標識は検出できなかった(図8B写真3)。
【0183】
rTFは膜結合タンパク質であったことを確認するため、yTT10301酵母細胞を、洗剤Triton X−114(終濃度1%)を含有する溶解バッファーで処理した。4℃で1時間インキュベートした後、このライゼートを6%スクロースクッション上に適用し、30℃3分間温め、300xgで3分間遠心分離して、下方の洗剤相から上方の水相を分離した。水相を回収し、洗剤ペレットを氷上で維持した。次の分析のために小アリコートを採取した後、この水相に対して2回目のTriton X−114抽出を行った。第二の水相を回収し、新しい洗剤ペレットを先のものに加えた。洗剤ペレットおよび2つの水抗ヒトTFmAb相双方の混合物を用いたウエスタンブロットSDS−PAGEおよびクーマシーブルー染色(図9A)により、また、(図9B)で分析した。図9Bに示されるように、特徴的なrTFd由来生成物はもっぱら洗剤相に見られ(レーン4)、2つの水相には見られなかった(レーン2および3)。このクーマシー染色ゲルにおいて、本発明者らは、酵母抽出液由来のほとんどのタンパク質が水相に残っていたことを示すことができる(レーン2および3)。この結果は明らかに、yTT10301により発現されたrTFが膜結合していることを示す。
【0184】
1.5. 発酵プロセス
前工業レベルにおけるyTT10301酵母抽出液の産生を試験するため、発明者らは2リットルのバイオリアクター(Biostat B-2L. BRAUN)で発酵を行った。操作条件および培養培地は次の通りである。
操作条件: T:30℃;攪拌速度:250〜300rpm;pH:4.5;気流:6L/m
培養培地:CSM−URA:0.78g/L;YNB:6.7g/L;スクロース:20g/L
【0185】
図10のグラフは、発酵プロセス中の主要パラメーターの進行を示す。唯一の制御されないパラメーターである酸素圧(PO)の変化は、プロセス中の細胞による酸素要求の変化を反映している。POが定常状態に達した際に発酵を停止させた(矢印で示す)(18時間)。
【0186】
発酵から生じた生成物を3,000rpm(1,200xg)で10分の遠心分離によりペレットとし、200mlの溶解バッファー(25mM PIPES(pH7.8)、50mM NaCl)に再懸濁させた。酵母を高圧(1,000バール(10Pa))(ホモジナイザーNIRO SOAVIS. Panda 2K)によりホモジナイズし、ホモジネートを4℃、13,000rpm(13,000xg)で30分間遠心分離し、ペレット(50ml)および清澄酵母抽出液(CYE)上清(150ml)を個別回収した。この手順の一般スキームを図11に示す。
【0187】
両調製物におけるタンパク質濃度を、標準的な比色定量BCAアッセイ(Pierce)により定量し、rTFの存在をウエスタンブロット分析により判定した。これらのアッセイの結果は、総タンパク質の濃度が両サンプル(ペレット:3.8mg/mlおよびCYE:3.9mg/ml)で同等であり、従って、図12に示されるように、ウエスタンブロットにより検出されたrTFの量もCYEとペレットで同等であったことを示した。
【0188】
実施例4に記載のように測定されたCYEおよびペレットの凝固促進活性もまた、両サンプルを調製と同日に分析した場合には同等であった(活性rTF1,400ng/ml)が、rTFの安定性は、調製後4日目のペレット抽出液では、おそらくはこの画分にプロテアーゼが存在するために、はるかに低かった(1,500に対して199ng/ml)。よって、CYE画分を、次の薬剤生成物産生のために選択した。
【0189】
1.6. 電子顕微鏡
CYE生成物をより浴特徴付けるために、免疫電子顕微鏡分析を行った。CYEサンプルを電子顕微鏡(EM)により調べたところ、種々のサイズ(0.1〜0.01μmの範囲)の多数の酵母由来小胞が存在することが示された。周辺(矢印で示す)における金粒子の存在により見られるように(図13)、これらの小胞の約5〜10%が抗ヒトTFmAbにより標識された。他方、無関連のmAbとともにインキュベートされた対照格子では、見られる金粒子は極めて少なく、それらは小胞と結合していなかった(示されていない)。
【0190】
最適な血液凝固活性にはTFと脂質の結合が必要であることは十分確立されたことであり(Thromb. Haemost. 2001; 86: 66-74)、TFを発現しないyTT10300由来の酵母抽出液は凝固促進活性を示さなかったことから、これらの結果は、CYEの凝固促進活性が、rTFと酵母由来膜性微小胞の結合から生じる脂質化rTF(以下、CYE−TFと呼ぶ(すなわち、凝固促進活性を有し、酵母由来膜性微小胞との結合においてrTFを含むCYE画分))にあることを示唆した。
【0191】
実施例2
全長TFを含む微小胞(mTF)豊富な凝固促進生成物の産生
2.1 精製法
yTT10301から得られたrTFを含有する清澄酵母抽出液(以下、CYE−TFと呼ぶ)をこれまでに記載されている手順に従って産生した(実施例1第1.1節〜第1.5節)。このCYE−TFに対して、孔径を徐々に小さくしたフィルター(0.45μm、0.2μmおよび0.1μm(Sartorius,ポリスルホン))を用いて、クロスフロー濾過システム(Sartorius sartoflow Slice 200 Benchtop)でタンジェンシャルフロー濾過の連続工程を施した。従った手順の概略図を部14Aに示す。
【0192】
rTFを含有する微小胞(mTF)を精製するため、孔径0.1〜0.2μM(0.1μM保持液)の微小胞に相当する濾過CYE−TF抽出液を、予めリン酸バッファーで平衡化し、AKTA−FPLCシステムに連結したサイズ排除クロマトグラフィーカラム(セファクリルS500カラム−HR(60cm−26mm、320mL?General Electric)にのせた。同じバッファーを用い、流速1mL/分で溶出を行い。各4mLの42画分を回収した。280nmにおける画分の吸光度を測定することにより溶出パターンをモニタリングした。異なる精製試験で得られたクロマトグラフィープロフィールは類似していた。図15のグラフは、代表的なクロマトグラフィープロフィールを示す。
【0193】
各画分のアリコートをウエスタンブロットにより、また活性アッセイにより分析し、凝固促進活性を含む画分を同定した。図16は、ウエスタンブロットにより見られたように、mTFを蓄積した画分5〜25は、活性が濃縮された画分でもあった(表1)。
【0194】
【表1】

【0195】
最後に、活性を濃縮するため、各精製工程からの画分5〜43をプールし、0.1μmフィルターで再びTFFを行った。これらの手段により、表2に示されるように、生物学的に活性なmTFの再現性あるロット(14.31、14.32、15.32、15.36)を得ることができ、これらのロットは総て、同じタンパク質プロフィールを示す(図17)。
【0196】
【表2】

【0197】
2.2. サイズ排除クロマトグラフィーにより精製されたrTF含有微小胞の生化学的特性決定
2.2.1. タンパク質含量
rTFが挿入されている微小胞は、rTFの他、酵母宿主細胞に由来する他の内在性膜タンパク質を含む。精製mTFの異なるロットのタンパク質含量をSDS−PAGEおよびクーマシーブルー染色により分析した(図17A)。染色されたゲルを目で比較すると、異なるロットのタンパク質プロフィールはほぼ同じであった。より厳密な比較分析を行うため、ゲルをスキャンし、ゲルの各レーンで濃度測定を行い、異なるタンパク質バンドに相当するピークを示すプロットと各タンパク質の相対強度を各ロットから得た。図17(パネルB)に示されている4つのロットのタンパク質プロフィールは極めて類似していた。
【0198】
2.2.2. 脂質含量
精製mTFの脂質含量を、Hara and Radin (Anal. Biochem. 1978, 90: 420-426)により記載されている手順に改変を加えた(Rodriguez-Sureda y Peinado-Onsurbe, 2005, Anal. Biochem. 343: 277-282)ものに従い、薄層クロマトグラフィーにより分析した。基本的には、ガラス管中の120mgの凍結乾燥生成物をヘキサンおよびイソプロパノール(3:2v:v)の混合物1mLに溶解させた。液体の酸化を防ぐために遮光したこのバイアルをオービタルシェーカーで24時間維持した。この時点で、0.3mLの硫酸ナトリウム(0.47M)を加えた。相分離を助けるために、サンプルを遠心分離した。上相(ヘキサン)は非極性脂質を含むが、境界近くには極性脂質がリン脂質として見られた。この上相を違うバイアルに移し、液体の酸化を防ぐために窒素ガスを用いて蒸発させた。脂質を含有する乾燥抽出物をクロロホルム(0.2mL)に溶解させた。TLCは、シリカゲルプレートで、移動相としてクロロホルム:メタノールおよび水(C:M:W 345:133:21 v:v:v)を用いて行った。これらのサンプルと並行して、脂質標品を同じ条件下で分析した。サンプルをプレート上で泳動させたところで、ヨウ素蒸気を加えることで脂質を可視化した。これらのサンプルの種々の液体成分の同定は、それらの移動度を標品の移動度と比較することによって行った。
【0199】
この技術によれば、5、10および20μg/mlの種々の濃度のCYE−TF(ロット91)ならびに精製品(ロット14.31、5、10および20μg/ml)の双方は、トリアシルグリセリド、エルゴステロール、ホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanoamine)、カルジオリピン、ホスファチジン酸、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン/ホスファチジルイノシトールを含む複雑な複合脂質内容物を含む(図18)。rTF含有微小胞の脂質プロフィールは、とりわけ、Waters, E.K. and Morrisey, J.H. (Biochemistry, 2006, 45:3769-3774)、Brucato, C. et al (Protein Expressionand Ourification, 1998, 26:386-393)、WO9848283およびGuha, A. et al (Proc. Natl. Acad. Sic. USA, 1986, 83:299-302)により記載されている手順に従い、rTFを合成リポソームへ組み込むことによって得られた再脂質化rTFとは異なる。これらの総ての文献に記載されている合成リポソームは本質的にホスファチジルコリンとホスファチジルセリン、またはホスファチジルコリンとホスファチジルセリンとホスファチジルエタノールアミンの組合せを含んでなるが、本発明に従って精製酵母由来微小胞は、rTF含有リポソームには見られないエルゴステロールおよびカルジオリピンなどの付加的成分を含む。
【0200】
実施例3
酵母における全長TFHisタグ修飾タンパク質(6HT−TF)の発現に基づく凝固促進生成物の産生
3.1. カルボキシル末端に6xhisタグを含むrTFの産生
C末端またはN末端のいずれかにヒスチジンタグ(his−タグ)を含むタンパク質のアフィニティークロマトグラフィー精製は十分標準化された方法であり、多数のタンパク質の精製度の高い調製物を得るために広く用いられている。いずれのクロマトグラフィー法とも同様に、この手順は容易にスケールアップすることができる。このため、カルボキシル末端に6xhisタグを含むrTFが作製された。
【0201】
3.2. rTF−hisタグプラスミド発現ベクターの作製
3’末端に18の付加的ヌクレオチド(6つのヒスチジンをコードする)を含む、成熟hTFタンパク質(aa33〜295)をコードするcDNAをPCRにより842bpのフラグメントとして増幅させた。この反応では、実施例1(第1.2節および第1.3節)と同様の戦略に従った。従って、ヒト胎盤cDNAライブラリー(Marathon-Ready cDNA, Clontech Laboratories, Inc.)を鋳型として用い、オリゴヌクレオチドA(配列番号1)およびE(配列番号3)をプライマーとして用いた。オリゴヌクレオチドE(配列番号3)では、hTF DNA配列の終結コドン(TAA)を6つのヒスチジン残基とその後に新しい終結コドン(TAG)をコードするヌクレオチド配列で置換した。図19は、hTF DNA配列(Gene Bank受託番号BC011029)におけるプライマーA(配列番号1)とE(配列番号3)の位置を示す。
【0202】
35回のPCRサイクル(94℃30秒、45℃30秒、72℃1分)および最終伸張工程72℃7分の後、予測された大きさのDNA生成物が精製された(Qiagen DNA Purificationシステム)。
【0203】
PCRにより増幅したDNAフラグメントを、BamHIで消化して末端を除去し、エタノール沈降させ、予めBamHIで消化したpTT10301ベクターにクローニングした。いくつかのクローンのエンドヌクレアーゼ制限分析の後、GDPプロモーター(pGDP)に対して右向きに組換えhTF−hisタグ遺伝子を含むプラスミドpTT10303を選択した(図20)。
【0204】
発明者らはさらに、pTT10301にクローニングされた組換えhTF−his−タグのDNA配列がこれまでに公開されているhTFDNA配列(Gene Bank #BC011029)と100%同一であること、およびそれが3’末端に、予測された18の付加的ヌクレオチドを含むことを確認した。この組換えhTF−hisタグのDNA 配列分析を自動シーケンサー(ABI prism 370, Applied Biosystems)にて、プライマーA(配列番号1)およびE(配列番号3)ならびにBig Dye Terminator試薬を用いて行った。pTT10303プラスミドを担持するDH5α細胞を37℃で一晩、LBA培地で増殖させ、グリセロール保存株の調製に用いた。
【0205】
3.3. rTF−hisタグの発現
組換え成熟hTF−hisタグ(rTF−hisタグ)を発現する組換え酵母を作製するため、発現ベクターpTT10303を用い、実施例1(第1.4節)に記載のように、T73 ura3酵母細胞を形質転換した。組換え酵母クローン(yTT10302と呼ぶ)を、ウラシルを欠く培地でのその増殖能によって選択した。yTT10302の5つの独立したクローンを単離し、一晩、ウラシルを含まない培地で培養した。ウエスタンブロット分析は、選択された総てのクローンが、抗ヒトTFmAbにより認識されるポリペプチドを発現したことを示す(図21)。図22は、選択されたクローン(yTT10302クローン#5)のrTF−hisタグ発現パターンをyTT10300およびyTT10301組換え酵母からの抽出液と比較して示す。示されているように、yTT10302により発現された抗TF免疫反応性生成物の分子サイズは約36、38、45、47および49kDa(矢印で示す)であり、大きな分子量(約100〜115kDa)の他の凝集塊も見られる(矢印)。yTT10301酵母抽出液の場合と同様、これらの移動度の違いは、図20に示されるように、rTFのグリコシル化度の違いに相当する。
【0206】
3.4. クロマトグラフィーによるrTF−hisタグの精製
3.4.1. 精製プロセス
rTF−hisタグの精製のため、発明者らは、これまでに記載されている手順に従い(実施例1第1.5節)、yTT10302から得られたrTF−hisタグを含む清澄抽出液(以下、CYE−6HT−TFと呼ぶ)から出発した。該CYE−6HT−TFを孔径0.2μmのフィルターでタンジェンシャルフロー濾過により濾過した後、予め水で洗浄し、開始バッファー(20mMリン酸バッファー、500mM NaCl、pH7.4)で平衡化した5ml HiTrap(登録商標)アフィニティーカラム(Pharmacia Biotech)にのせた。サンプルを適用した後、流出液(非結合材料)を回収し、カラムを3回洗浄した:1回目の洗浄は、40mlの開始バッファー(20mMリン酸バッファー、500mM NaCl、pH7.4);2回目の洗浄は、10mMのイミダゾールを含有する開始バッファー40ml;3回目の洗浄は、100mMのイミダゾールを添加した開始バッファー40ml。最後の洗浄の後、1Mイミダゾールを含有する開始バッファー25mlをカラムに加えることで、6HT−TFと呼ばれる微小胞化rTF−hisタグタンパク質を溶出させ、2.5mlの溶出画分(画分#1、#2、#3および#4)を回収した。このプロセスの一般スキームを図23に示す。
【0207】
これらの画分を透析バッファー(20mMリン酸バッファー、50mM NaCl、pH7.4)中で透析し、出発抽出液、非結合材料、溶出前の最後の洗液および透析した4つの溶出画分をSDS−PAGEおよび銀染色により、またはbyウエスタンブロットにより分析した。図24Aのウエスタンブロットに示されるように、カラム6HT−TFに結合した後、生成物は、主として最初の3つの溶出画分(レーン4〜6)に首尾よく回収することができる。注目すべきは、同じサンプルからのタンパク質をゲルの銀染色により可視化した際(図24B)、タンパク質バンドは出発酵母抽出液(レーン1)および非結合材料(レーン2)に相当するレーンでのみ見られ、溶出画分(レーン4〜7)には見られなかったことである。さらに、これらのサンプル中の総タンパク質の量は、標準BCA試薬限界(20μg/ml)を下回った。
【0208】
これらの結果は、ウエスタンブロットの結果とともに、このアフィニティークロマトグラフィー手順によって精製度の高い6HT−TF生成物が得られることを明らかに示した。最も重要な、透析溶出画分#1〜3は、実施例4に記載のように測定される凝固促進活性を維持し、著しくは、画分#1が出発抽出液CYE−6HT−TFと同様の凝固促進活性を示した。予測されたように、免疫反応性rTFタンパク質量の少ない画分(画分#4、レーン7)は凝固促進活性を示さなかった。
【0209】
これら2つのサンプルにおける総タンパク質濃度と活性の間の違いは次のようにまとめることができる。
【0210】
【表3】

【0211】
3.4.2. 分析方法
図19のウエスタンブロットに示されるように、溶出画分中の6HT−TF生成物は、全酵母抽出液と同様、rTF−hisタグタンパク質のグリコシル化の違いに起源すると思われる様々な大きさのいくつかのタンパク質バンドからなった。この可能性を検討するため、溶出画分#1にエンドグリコシラーゼ処理を施した。要するに、37℃で1時間、500ユニット(U)のエンドグルコシダーゼH(Endo H)またはN−グルコシダーゼF(PNGase F)で処理したrTF発現酵母(yTT10301)由来の抽出液を、抗ヒトTFmAbを用い、ウエスタンブロットによりさらに分析した。図25は、PNGase F(レーン2)またはEndo H(レーン3)のいずれかで処理した後、両処理に伴って45、47および49kDaのタンパク質バンドが消失したことを示す。PNGase Fインキュベーション後、36kDaと38kDaの2つのポリペプチドが見られ、最もあり得る可能性として、45、47および49kDaの生成物の脱グリコシル化によるものではないかと議論された(レーン1と2の比較)。Endo H処理により、36kDaのユニークな免疫反応性生成物が生じ(レーン3)、これは非グリコシル化rTF−hisタグタンパク質に相当するはずである。
【0212】
さらに、精製6HT−TFを、実施例1(第1.6節)に記載されているように、抗ヒトTFmAbで免疫染色した後にEMにより分析した。図26に示されるように、多数の金粒子が見られ、その大部分は規定のサイズの小さな小胞と結合していた。並行して分析した非rTF発現酵母からの同様のサンプルでは、金粒子の数は極端に少なかった(示されていない)。この結果は、6HT−TF生成物を精製するのに用いたアフィニティークロマトグラフィー手順が、酵母由来膜微小胞と結合した生物学的に活性な6HT−TFの回収を可能とすることを示す。
【0213】
実施例4
酵母における末端切断型hTFタンパク質の発現に基づく凝固促進生成物(CYE−TTF)の産生
4.1. 末端切断型TF−hisタグ(TTF−hisタグ)プラスミド発現ベクターの作製
因子Xに対する相互作用ドメイン(aa174〜251)、膜貫通領域(aa252〜274)および3’末端に18の付加的ヌクレオチド(6つのヒスチジンをコードする)を含む細胞質テール(aa275〜295)を含む末端切断型のhTFタンパク質(TTF)をコードするcDNAは、PCRにより398bpのフラグメントとして増幅させた。実施例1(第1.2節および第1.3節)に記載されているものと同様の戦略に従った。従って、ヒト胎盤cDNAライブラリー(Marathon-Ready cDNA, Clontech Laboratories, Inc.)を鋳型として用い、オリゴヌクレオチドFおよびEをプライマーとして用いた。オリゴヌクレオチドEでは、hTF DNA配列の終結コドン(TAA)を6つのヒスチジン残基とその後に新しい終結コドン(TAG)をコードするヌクレオチド配列で置換した。図28は、hTF DNA配列(Gene Bank受託番号BC011029)におけるプライマーFとEの位置を示す。
【0214】
35回のPCRサイクル(94℃30秒、45℃30秒、72℃1分)および最終伸張工程72℃7分の後、予測された大きさのDNA生成物が精製された(Qiagen DNA Purificationシステム)。
【0215】
PCRにより増幅したDNAフラグメントを、BamHIで消化して末端を除去し、エタノール沈降させ、予めBamHIで消化したpTT10301ベクターにクローニングした。いくつかのクローンのエンドヌクレアーゼ制限分析の後、GDPプロモーター(pGDP)に対して右向きに組換えTTF−hisタグ遺伝子を含むプラスミドpTT10304を選択した(図29)。
【0216】
発明者らはさらに、pTT10301にクローニングされたrTF−his−タグのDNA配列がこれまでに公開されている配列(Gene Bank #BC011029)と100%同一であること、およびそれが3’末端に、予測された18の付加的ヌクレオチドを含むことを確認した(図25)。pTT10304プラスミドを担持するDH5α細胞を37℃で一晩、LBA培地で増殖させ、グリセロール保存株の調製に用いた。
【0217】
4.2. 組換え酵母によるrTTF−hisタグの発現
組換えヒト末端切断型TF−hisタグ(rTTF−hisタグ)を発現する組換え酵母を作製するため、発現ベクターpTT10304を用いて、実施例1(第1.4節)に記載されているようにT73 ura3酵母細胞を形質転換した。組換え酵母クローン(yTT10304と呼ぶ)を、ウラシルを欠いた培地でのそれらの増殖能により選択した。
【0218】
rTTF−hisタグ発現に関して、実施例1(第1.5節)に前記されている手順に従い、yTT10304から得られた、凝固促進活性を有する、清澄酵母抽出液(CYE)(CYE−TTFと呼ぶ、すなわち、微小胞化末端切断型組織因子(TTF)を含有する清澄酵母抽出液(CYE))を調製し、実施例1に記載のように活性に関して分析した。
【0219】
実施例5
N−グリコシル化変異TFプラスミド発現ベクターの作製
TFは、N−グリコシル化が起こる3つの異なる残基、すなわち、N11、N124およびN137を示す。これらの残基(N11A、N124AおよびN137A)を損なう単一変異およびその起こり得る総ての可能性を、標準的な手順を用いて構築した。
オリゴヌクレオチド指定突然変異誘発
【0220】
表3に挙げられているオリゴヌクレオチドを用い、標準的なPCR反応を用いて種々の変異体を作製した(Current Protocols in Molecular Biology, chapter 15th)。プラスミドpTT10302をDNA鋳型として用い、Pfuを、極めて高い適合度と低い誤り率を示すことから、ポリメラーゼとして用いた。
【0221】
【表4】

【0222】
結果
グリコシル化部位に影響を及ぼすTFにおける点突然変異
図31は、グリコシル化部位における種々の変異体と野生型のプロフィールを比較する抗TFウエスタンブロットを示す。示されているように、このプロフィールは、それらの総てで異なり、グリコシラーゼで処理した際には総てのバンドが1つになり、これは見られたプロフィールがグリコシル化状態の違いによるものであることを意味する。
【0223】
これらの変異体の凝固活性を測定し、データを表4にまとめた。データは総て野生型に対してノーマライズし、野生型の活性および発現を100とした。11(PM1)および124(PM2)における単一変異は双方とも活性の増強を示したが、驚くべきことに、最も顕著な作用は、その活性および発現が有意に増強された(それぞれ6倍および2倍)ことから、残基124が変異した際に見られた。PM2が関わるその二重変異および三重変異の活性はもまた増強された。
【0224】
【表5】

【0225】
実施例6
微小胞化組織因子(mTF)の凝固促進活性の評価
簡略のために、本実施例では、「微小胞化組織因子」、「微小胞化TF」または「mTF」は一般に、特に断りのない限り、組織因子、修飾組織因子(1以上のアミノ酸の置換、排除、付加または交換による)、組織因子を含んでなる融合タンパク質、またはFVIIaに対するの一部または全部を欠いている末端切断型組織因子を指し、それらの総てが完全にまたは部分的にグリコシル化されており、酵母由来微小胞と結合している(すなわち、微小胞の脂質層に組み込まれている)。
【0226】
本発明によって提供される微小胞化組織因子の凝固促進活性を評価する目的で、一連のin vitroおよびin vivoアッセイを行った。具体的には、下記の通り。
1. 微小胞化TFは健常状態および罹患状態の双方において繊維素血餅形成および血液凝固を起こすことを示すin vitroアッセイ
1.1 健常被検体からの血漿における凝固アッセイ
1.2 ゲル濾過により精製した小胞の凝固促進作用と再脂質化TFの比較
1.3 FVIII、FIXまたはFXIを欠損した血漿における凝固アッセイ
1.4 血小板減少症血漿における凝固アッセイ
1.5 抗FVII抗体の存在下での、FVIII、FIXおよびFXI欠損血漿における凝固アッセイ
1.6 健常被検体からの非抗凝固処理全血における凝固アッセイ
1.7 血友病患者からの非抗凝固処理全血における凝固アッセイ(非抗凝固処理全血における凝固アッセイ)
【0227】
2. 微小胞化TFが重度出血モデルにおける局所的抗血友病処置(予め切断された血管に直接適用することによる)に有用な薬剤であることを示すin vivoアッセイ
2.1 ラット尾の基部切断による重度出血動物モデルにおけるアッセイ
2.2 予めヘパリンで処理した重度出血動物モデルにおけるアッセイ
【0228】
3. 微小胞化TFが致死的出血モデルにおける局所的抗血友病処置(予め切断された血管に直接適用することによる)に有用な薬剤であることを示すin vivoアッセイ
3.1 FVIII欠損マウス尾の基部切断による致死的出血モデル動物モデルにおけるアッセイ
I. 材料および方法
材料
微小胞化組織因子(mTF)供給源として3つの異なる化合物を用いた。
(i)実施例1に従って得られた微小胞化TFを含有する清澄酵母抽出液(CYE−TF)
(ii)実施例2に従って得られた精製微小胞化TF−ヘキサヒスチジンタグ融合タンパク質(6HT−TF)
(iii)実施例3に従って得られた微小胞化末端切断型組織因子を含有する清澄酵母抽出液(CYE−TTF)
【0229】
市販の凝固因子FVIII、FIXおよびFXI欠損血漿は、Dade Behring Marburg GmbHから購入した。
【0230】
市販のモノクローナル抗ヒトFVII抗体(クローンHVII−1)はSigma Aldrichから購入した。
【0231】
市販の血友病マウス(対立遺伝子:F8tm1Kaz;一般名MFVIII−16;Haig H Kazazian; Reference: Bi L; Lawler AM; Antonarakis SE; High KA; Gearhart JD; Kazazian HH Jr. 1995. Targeted disruption of the mouse factor VIII gene produces a model of haemophilia A, Nat. Genet. 10:119-21により突然変異誘発されたもの)はJackson Laboratoryから購入した。
【0232】
市販のrTFはAmerican Diagnosticaからのものであった。
【0233】
5個体の健常ドナーからの血漿サンプルは、the Blood Bank of Vall d'Hebron Hospital, Department "Banc de Sang i Teixits" (Pg, Vall d'Hebron, 119-129, 08035 Barcelona)から入手した。血漿サンプルはB型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、HIVおよびTPHAに関して確認し、総て陰性であった。これら5つの血漿サンプルをプールし、使用まで1.5mlバイアルで−20℃にて冷凍した。
【0234】
方法
rTFの再脂質化
市販のrTF(American Diagnostica)は、Morrissey (http://www.tf7.org/relipidation2.pdf)により記載されている標準的な手順に従って再質化した(この場合、rTFはリン脂質リポソームに組み込まれている)。サンプル中に存在するrTFの量は、American Diagnostica Inc.(No.845)からのIMUBIND Tissue Factor ELISAキットにより、販売者の明細に従って定量した。
【0235】
in vitroアッセイ
微小胞化末端切断型組織因子がFVIIとの結合ドメインの一部または全部を欠いているかどうかをする判定するため、また、それがなお活性があるかどうかを知るために、まず、FVIIaに対する微小胞化末端切断型組織因子の結合が検出できるかどうかを判定するために、FVIIaに対する微小胞化末端切断型組織因子の結合アッセイを行い、次に、微小胞化末端切断型組織因子が凝固促進剤としてなお活性があるかどうかを判定するためには凝固アッセイを使用することができる。
【0236】
FVIIaに対する微小胞化末端切断型組織因子の結合アッセイ
精製微小胞化TF−ヘキサヒスチジンタグ付き融合タンパク質(6HT−TF)、微小胞化TFを含有する清澄酵母抽出液(CYE−TF)または微小胞化末端切断型TFを含有する清澄酵母抽出液(CYE−TTF)のいずれかと凝固因子VIIa(FVIIa)の間の相互作用を判定するため、本発明の著者らは、国際公開公報WO00/04148に記載されている方法の改変法に従った。これらの手段により、ビオチニル化FVIIaに対する6H−TF、CYE−TFまたはCYE−TTFの結合をELISA試験によりアッセイした。このため、これまでに記載されているように(Kelley et ah, 1995 Biochem. 34:10383-10392)、ビオチニル化FVIIa(BEGR−7a)を作製した。次に、96ウェルマイクロタイタープレートを、捕捉薬剤としてストレプトアビジンを用い、BEGR−7aでコーティングした。ウェルを蒸留水中0.05%のTween 20で2回洗浄し、1%脱脂粉乳を含有するPBS(ブロッキング溶液)で2時間ブロッキングした。その後、一定量のストレプトアビジンコンジュゲートBEGR−7aまたはストレプトアビジン単独のいずれかを含有するTNCバッファー(20mM Tris、pH7.5、100mM NaCl、5mM CaCl)で調製した10μg/ml濃度で始まる10倍希釈の6HT−TF、CYE−TFまたはCYE−TTFをウェルに加えた。室温で2時間インキュベートした後、ウェルを0.05%Tween 20で再び洗浄して非結合材料を排除した。種々のTF含有溶液においてTF−FVIIa複合体を検出するために、特異的抗TFウサギポリクローナル抗血清を用いた。このため、抗TF血清希釈液の1:500希釈液をウェルに加え、37℃で2時間インキュベートした。プレートを5回洗浄した後、検出抗体を加えた。ペルオキシダーゼコンジュゲートヤギ抗ウサギ免疫グロブリンG(IgG)抗体(Southern Biotechnology Associated)ブロッキング溶液で1:1000希釈し、37℃で1時間インキュベートした。これらのプレートを再び5回洗浄し、過酸化水素およびオルトフェニレンジアミン(OPD)0.05%を用いて反応を開始させた。室温で10〜15分インキュベートした後、HSO(2N)を加えることで反応を停止させ、Multiskan Plusプレートリーダー(labsystem)にて492nmで吸光度を測定した。
【0237】
血漿における凝固アッセイ
血漿における自発的凝固促進活性(無刺激)を、4チャネル凝固計(Start 4, Diagnostica Stago)にて二段階凝固アッセイにより測定した。要するに、50μlの血小板プール血漿を、予め強化したキュベットに加え、50μlのサンプル(mTFまたは対照としての蒸留水)を加えた。この混合物を37℃で60秒インキュベートし、50μlの25mM炭酸カルシウムをすぐに加え、凝固計で凝固時間を秒数として測定し、血餅の形成により確認した。血小板プール血漿を遠心分離により得、血小板の数を計数器で測定した。
【0238】
それぞれ血友病A、BまたはC相当する凝固因子欠損血漿(FVIII、FIXまたはFXI)に対するmTFの凝固促進作用を、イムノアフィニティー技術により枯渇させた市販の血漿(Dade Behring Marburg GmbH)を用いることで調べた。各場合で、凝固因子の最終含量は1%未満であった。
【0239】
一連の遠心分離プロセスで血小板から奪った血漿において、血小板減少様症状における凝固促進作用を調べた。
【0240】
全血における凝固アッセイ
非抗凝固処理全血における凝固促進活性を凝固法により測定した。試験する種々の薬剤(mTF)を、0.8mlの非抗凝固処理全血に0.2ml加え、抽出の始めから安定かつ固化した血餅が表れるまでクロノメーターで凝固時間を測定した。種々の薬剤の作用を、血液凝固時間の短長で評価した。
【0241】
全血サンプルは患者または健常なボランティアから得た。
【0242】
in vivoアッセイ
ラット尾の基部の切断による重度出血モデル
体重300〜600グラムのSprage−Dawley雄ラットを2つの処理群に無作為に分けた。
・対照群、生理食塩水で局所的処理を受けた少なくとも3匹からなる
・第二群、mTFで局所的処理を受けたこれもなくとも3匹からなる
【0243】
これらの化合物は総て、ラットを仰臥位にして創傷表面に直接1ml/分で施し、動物の尾の基部切断部と恒常的に作用するように局所接触させた。安定かつ固化した血餅の形成を、さらなる出血がないことを確認する手段により評価した。
【0244】
抗凝固薬で処置した動物におけるラットの尾の基部切断による重度出血モデル
a)6HT−TF処理動物
体重300〜600グラムのSprage−Dawley雄ラットを2つの処理群に無作為に分けた。
・対照群、生理食塩水で局所的処理を受けた少なくとも14匹からなる
・第二群、尾の横断切断術を開始する15分前にヘパリン200U/kgの静脈内(i.v.)投与を受けた5個体からなる。この群は15分後にmTF(6HT−TF)1494ng/mlで処理した。mTFは、プラスチックエッペンドルフピペットで滴下して、動物の尾の基部切断部と恒常的に作用するように局所接触させた。安定かつ固化した血餅の形成を、さらなる出血がないことを確認する手段により評価した。
b)CYE−TF処理動物
体重300〜600グラムのSprage−Dawley雄ラット27匹を5つの処理群に無作為に分けた。
・対照群、生理食塩水で局所的処理を受けた少なくとも14匹からなる
・尾の横断切断術を開始する15分前にヘパリン200U/kgのi.v.投与を受けた2群(CYE−TFで処理(n=3)および生理食塩水溶液で処理(n=5))
・尾の横断切断術を開始する前3日間、ワーファリン0.1mg/kg/日を蛍光投与した他の2群(CYE−TFで処理(n=3)および生理食塩水溶液で処理(n=2))
【0245】
よって、各抗凝固処理の対照処理群があった。CYE−TFは、プラスチックエッペンドルフピペットで施して、動物の尾の基部切断部と恒常的に作用するように局所接触させた。安定かつ固化した血餅の形成を、さらなる出血がないことを確認する手段により評価した。
【0246】
因子VIII欠損マウスを用いたマウスの尾の基部切断による致死的出血モデル
このアッセイの目的は、遺伝子標的変異によって得られた因子VIII欠損マウス(血友病A)を用いた致死的出血モデル(尾静脈の横断切断)におけるmTFの局所投与の作用を評価することである。
【0247】
標的とされるX染色体関連変異体対立遺伝子に関して同形接合性であったマウスは活力があり、繁殖能力があった。同形接合性雌およびキャリアー雄は、正常な因子VIII活性の1%未満であり、長い凝固時間を示した。これらのマウスは血友病Aの重要な特徴を発生反復し、選択的治療戦略を検索する際に用いられる優れたモデルを提供する。
【0248】
各群3〜5匹の下記のような5つの処理群とした。
A群:対照マウス ビヒクル 0ng/ml
B群:血友病雄マウス ビヒクル 0ng/ml
C群:血友病雄マウス mTF 1,494ng/ml
D群:血友病雌マウス ビヒクル 0ng/ml
E群:血友病雌マウス mTF 1,494ng/ml
mTF保存液タンパク質濃度は生物学的に活性な材料1,494ng/mlであった。
【0249】
1用量のみを保存容器から直接用い、希釈は行わなかった。試験品の用量は2段階凝固アッセイを用い、生物学的に活性なタンパク質濃度に基づき算出した。mTFおよびビヒクルをマウス尾の出血部位に、0.25ml/分の速度で最大20分間(5ml)、滴下により局所投与した。
【0250】
II. 結果
1. 微小胞化TFが健常状態および罹患状態の双方において血液凝固を起こすことを示すin vitroアッセイ
健常被検体および血友病被検体において繊維素血餅を生じるmTFの能力を種々の濃度で評価する目的でいくつかのin vitroアッセイを行った。これまでに述べたように、「凝固時間」とは、非抗凝固処理血液サンプル中で血餅が固化するのにかかる時間を指す。
【0251】
1.1 微小胞化TFは健常被検体からの血漿を凝固させることができる(血漿における凝固アッセイ)
健常血漿におけるmTF凝固促進活性に関する種々の濃度での直接的アッセイは、mTFが、明らかに用量応答的に、健常血漿条件での凝固時間を極めて有意に短縮できることを示す。極めて低いmTF濃度(2ng/ml)であっても、健常血漿の凝固時間はほぼ3倍時間短縮される。高濃度(100ng/ml)では、5倍を超えて時間短縮される。表5は、精製微小胞化TF−ヘキサヒスチジンタグ融合タンパク質(6HT−TF)の3回の独立した実験の結果を示し、表6は微小胞化TFを含有する清澄酵母抽出液(CYE−TF)、表7は微小胞化末端切断型TFを含有する清澄酵母抽出液(CYE−TTF)に関して示す。
【0252】
【表6】

【0253】
【表7】

【0254】
【表8】

【0255】
1.2 微小胞化TFは、標準手順に従って再脂質化されたrTFと比較した際、改善された有効性で血漿を凝固させることができる
1.2.1. 標準手順に従って再脂質化された市販のrTF再脂質化と比較したmTFの凝固促進活性
市販のrTF(American Diagnostica)は、Morrissey (http://www.tf7.org/relipidation2.pdf)により記載されている標準的な手順に従って再質化した(この場合、rTFはリン脂質リポソームに組み込まれている)。5人の健常なドナーからの血漿サンプルをthe Blood Bank of Vall d'Hebron Hospital, Department "Banc de Sang i Teixits" (Pg,Vall d'Hebron, 119-129, 08035 Barcelona)から入手した。血漿サンプルはB型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、HIVおよびTPHAに関して確認し、総て陰性であった。これら5つの血漿サンプルをプールし、使用まで1.5mlバイアルで−20℃にて冷凍した。サンプル中に存在するrTFの量は、American Diagnostica Inc.(No.845)からのIMUBIND Tissue Factor ELISAキットにより、販売者の明細に従って定量した。
【0256】
まず、酵母微小胞に組み込まれたrTFまたは合成リポソームに挿入された場合の間の活性のあり得る違いを分析した。これらの実験では、mTFの4つの異なるロット(ロットP4、P7、P8およびP)と1ロットのin vitro再脂質化rTF(総て、ELISAにより測定された既知濃度のrTFを有する)を凝固活性に関して試験した。従って、mTF(4つの異なるロットから)または再脂質化された市販のrTFのいずれかの連続希釈液を、標準的な凝固試験で活性に関して試験した。結果は、試験した全濃度範囲で、供試プールとは独立に、mTFサンプルにおける凝固促進活性は、再脂質化rTFの希釈液に相当するものよりも常に高かった(1桁または2桁の間)(図32)。
【0257】
1.2.2. 合成リポソームに挿入された同じrTFと比較した、酵母由来微小胞(mTF)に挿入されたrTF(mTF)の凝固促進活性
mTF微小胞から抽出されたrTFを再脂質化する試みでは、rTF活性が、rTFを含有する元の酵母微小胞と比較した場合、極めて低いことが示された(図33)。最適な組織因子活性のためにはコンフォメーション的な必要条件があると思われる。
【0258】
1.2.3. ヘパリン処理血漿におけるmTFの凝固促進活性
さらに、再構成調製物中に存在する活性は、出血の特定のin vivoモデル(ヘパリン処理動物)では無視できるものであった(図34)。
【0259】
これらを考え合わせると、1.2に示される結果は、本発明のmTFまたは6H−TF微小胞中に存在する組織因子および酵母膜のユニークな組合せは、従来の合成リポソームへのrTFのin vitro挿入では達成できない一連の止血活性を呈することを示唆する。
【0260】
1.3. 微小胞化TFはFVIII、FIXおよびFXI欠損患者からの血漿を凝固させることができる(血漿における凝固アッセイ)
免疫枯渇により得られた凝固因子FVIII欠損(血友病A)、FIX欠損(血友病B)およびFXI欠損(血友病C)血漿における種々の濃度でのmTF凝固促進活性の直接的アッセイでは、mTFが、明らかに用量応答的に、血友病条件での凝固時間を極めて有意に短縮できることを示す。極めて低いmTF濃度(2ng/ml)であっても、FVIII、FIXまたはFXI欠損血漿の凝固の促進に成功した。高濃度(100ng/ml)では、mTFは、健常血漿と同じレベルで、枯渇血漿の凝固時間を短縮する。表8は、精製微小胞化TF−ヘキサヒスチジンタグ融合タンパク質(6HT−TF)の3回の独立した実験の結果を示し、表9は、微小胞化TFを含有する清澄酵母抽出液(CYE−TF)の結果を示す。
【0261】
【表9】

【0262】
【表10】

【0263】
1.4. 微小胞化TFは後天性血小板欠乏症からの血漿を凝固させることができる(血小板減少症血漿における凝固アッセイ)
後天性血小板欠乏症からの血漿におけるmTF凝固促進活性の直接的アッセイでは、mTFが、種々の血小板数を有する血小板減少症血漿において凝固時間を極めて有意に短縮できる。表10に示されるように、極めて少ない血小板数(<1,000/μl)であっても、微小胞化TFを含有する清澄酵母抽出液(CYE−TF)により、凝固時間は劇的に短縮される。
【0264】
【表11】

【0265】
1.5. 微小胞化TFは抗FVII抗体の存在下で、FVIII、FIXおよびFXI欠損血漿からの血漿を凝固させることができる(血漿における凝固アッセイ)
血漿凝固に対する微小胞化TFの作用を、FVIIに対するモノクローナル抗体の存在下で、健常なボランティアからのFVIII、FIXおよびFXI欠損血漿(FVIII DP、FIX DPおよびFXI DP)を用い、凝固アッセイにより調べた。これらの結果は明らかに、微小胞化TFを含有する清澄酵母抽出液(CYE−TF)は血漿凝固をもたらすことができ、さらには、表11に示されているように、FVIIに対するモノクローナル抗体の存在下、FVIII、FIXまたはFXIの不在下であっても、凝固時間を著しく短縮ことを示す。〜FXの不在下、FVII抗体の存在下での凝固は、驚くべきことに、mTFが内因性凝固経路を介して作用するのでもなく、外因性凝固経路を介して作用するのでもないことを意味する。
【0266】
【表12】

【0267】
1.6 微小胞化TFは健常被検体からの血液を凝固させることができる(非抗凝固処理全血における凝固アッセイ)
健常被検体からの全血における種々の濃度でのmTF凝固促進活性の直接的アッセイでは、mTFが、明らかに用量応答的に、凝固時間を極めて有意に短縮できることを示す。極めて低いmTF濃度(1ng/ml)であっても、健常被検体からの全血の凝固時間の短縮に成功した。高濃度(100ng/ml)では、mTFは、枯渇血漿の凝固時間を8倍を超えて短縮する。表12は、精製微小胞化TF−ヘキサヒスチジンタグ融合タンパク質(6HT−TF)の3回の独立した実験の結果を示し、表13は、微小胞化TFを含有する清澄酵母抽出液(CYE−TF)の結果を示す。
【0268】
【表13】

【0269】
【表14】

【0270】
1.7 微小胞化TFは血友病患者からの血液を凝固させることができる(非抗凝固処理全血における凝固アッセイ)
血友病患者からの全血における種々の濃度でのmTF凝固促進活性の直接的アッセイでは、mTFが、明らかに用量応答的に、凝固時間を極めて有意に短縮できることを示す。極めて低いmTF濃度(2〜5ng/ml)であっても、血友病患者からの全血の凝固時間のノーマライズに成功した。高濃度(20ng/ml)では、mTFは、血友病全血の凝固時間を1分未満にまで短縮する。表14は、精製微小胞化TF−ヘキサヒスチジンタグ融合タンパク質(6HT−TF)の3回の独立した実験の結果を示し、表15は、微小胞化TFを含有する清澄酵母抽出液(CYE−TF)の結果を示す。
【0271】
【表15】

【0272】
【表16】

【0273】
2.微小胞化TFが重度出血モデルにおける局所的抗血友病処置(予め切断した血管への直接的適用による)に有用な薬剤であることを示すin vivoアッセイ
健常被検体および血友病被検体において該mTFの種々の濃度での繊維素血餅生成能を評価する目的でいくつかのin vivoアッセイを行った。
【0274】
2.1 微小胞化TFはラット尾の基部切断による重度出血動物モデルにおいて局所的止血薬として有用である
ラットにおける尾の全横断切断による重度出血モデルを用いたin vivo研究では、出血時間の有意な短縮示された:動物を総タンパク質濃度1494ng/ml〜1.7μgまでの6HT−TFで処置した場合には18.16±1.61から8.36±0.82分、200ng/ml/分のCYE−TFで処置した場合には18.16±5.98から9.33±1.05分。
【0275】
2.2 微小胞化TFはあらかじめヘパリンで処理した重度出血動物モデルにおいて局所的止血薬として有用である
抗凝固薬(すなわち、ヘパリン200IU)で前処理したラットにおける、尾の全切断による重度出血モデルを用いたin vivo研究では、極めて有意な抗出血作用が示された。6HT−TFで処理しなかったラットは放血して90分後に死に至ったが、1494ng/mlの6HT−TFで処理したラットは15.46±1.20分で出血が止まり、100%の生存率を示した。他方、CYE−TFの使用もまた、同様の抗出血作用を示した。ヘパリンで前処理したラットは放血して90分後に死に至ったが、CYE−TFで処理したラットは14.2±2.4(n=5)分で出血が止まり、これもまた100%の生存率を示した。ワーファリンで前処理したラットは、CYE−TF(200ng/ml)で処理した場合に41.6±16.45から5.8±0.64(n=3)へへ凝固時間を短縮した。
【0276】
3. 微小胞化TFが致死的出血モデルにおける局所的抗血友病処置(予め切断した血管への直接的適用による)に有用な薬剤であることを示すin vivoアッセイ
3.1 微小胞化TFはFVIII欠損マウス尾の基部切断による致死的出血動物モデルにおいて局所的止血薬として有用である
血友病マウス(FVIII欠損マウス)の致死的出血モデルにおいて、6HT−TFの局所投与は、正常な非血友病マウスで得られた出血時間(5.0±0.65分)と比較して出血時間の劇的な短縮をもたらした(血友病雄マウスでは31.4±4.74から5.14±0.69分、雌マウスでは43.33±13.48から5.0±2.0分)。この出血時間の短縮は、6HT−TFで処理した群では死亡は無かったが、ビヒクルで処理した血友病マウスは総て死亡した。表16は、精製微小胞化TF−ヘキサヒスチジンタグ融合タンパク質(6HT−TF)の5回/3回の独立した実験の結果を示す。
【0277】
【表17】

【0278】
全体としての結果は、健常被検体において、さらには血友病患者であってもmTFの有効な止血能を示し、これは、in vitro(血友病患者からの血漿および全血)ならびに血友病A遺伝子欠損マウスモデルを用いたin vivoモデルにより実証された。さらに、mTFは内因性経路と外因性経路の双方が遮断されても血漿を凝固させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織因子(TF)を担持する酵母由来の微小胞であって、(i)酵母膜と、(ii)組織因子(TF)タンパク質または凝固促進活性を有するその変異体とを含んでなり、該組織因子(TF)タンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントの一部が該膜に組み込まれている、酵母由来微小胞。
【請求項2】
前記TF因子タンパク質または凝固促進活性を有するその変異体がグリコシル化されている、請求項1に記載の酵母由来微小胞。
【請求項3】
前記TF因子タンパク質または凝固促進活性を有するその変異体が融合タンパク質のメンバーであり、該融合タンパク質が、別のペプチドまたはタンパク質を含んでなる第二の領域と結合された、TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントを含んでなる第一の領域を含有するものである、請求項1または2に記載の酵母由来微小胞。
【請求項4】
前記融合タンパク質が、TFタンパク質または凝固促進活性を有するその変異体とタグを含んでなるものである、請求項3に記載の酵母由来微小胞。
【請求項5】
前記タグがヒスチジンタグ(His−タグ)である、請求項4に記載の酵母由来微小胞。
【請求項6】
成熟TFタンパク質、好ましくはヒト成熟TFタンパク質を含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の酵母由来微小胞。
【請求項7】
凝固促進活性を有する末端切断型TFタンパク質を含んでなり、該末端切断型TFタンパク質が、FVIIaとの結合を担うドメイン(aa32〜174)の全部または一部を欠いている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の酵母由来微小胞。
【請求項8】
前記末端切断型TFタンパク質が、因子Xに対する相互作用ドメイン、膜貫通領域および細胞質テールを含んでなり、かつ、FVIIaとの結合を担うドメインを部分的にまたは完全に欠いている、請求項7に記載の酵母由来微小胞。
【請求項9】
前記末端切断型TFタンパク質が、ヒトTFの因子Xに対する相互作用ドメイン(aa174〜251)、膜貫通領域(aa252〜274)および細胞質テール(aa275〜295)、ならびに付加的ヒスチジンタグを含んでなる、請求項8に記載の酵母由来微小胞。
【請求項10】
前記TFが少なくとも1つの非機能的N−グリコシル化部位を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の酵母由来微小胞。
【請求項11】
前記非機能的N−グリコシル化部位が、成熟ヒトrTFのN−グリコシル化部位である11〜13番のNLT、124〜126番のNVTまたは137〜139番のNNTに相当するものである、請求項10に記載の酵母由来微小胞。
【請求項12】
前記TFが、成熟ヒトTFにおける11、124または137番に相当する位置のAsn残基において1以上のAsnからAlaへの変異を有する、請求項11に記載の酵母由来微小胞。
【請求項13】
前記TFタンパク質または凝固促進活性を有するその変異体のN末端ドメインが、前記膜の外質側に面している、請求項1〜12のいずれか一項に記載の酵母由来微小胞。
【請求項14】
前記TFタンパク質または凝固促進活性を有するその変異体のN末端ドメインが、前記膜の内質側に面している、請求項1〜12のいずれか一項に記載の酵母由来微小胞。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載のTF担持酵母由来微小胞を含んでなる、組成物。
【請求項16】
薬剤としての、請求項1〜14のいずれか一項に記載のTF担持酵母由来微小胞。
【請求項17】
凝固促進活性を有する薬剤としての、請求項16に記載のTF担持酵母由来微小胞。
【請求項18】
請求項1〜14のいずれか一項に記載のTF担持酵母由来微小胞と薬学上許容されるビヒクルとを含んでなる、医薬組成物。
【請求項19】
被検体における出血の処置のための、請求項1〜14のいずれか一項に記載のTF担持酵母由来微小胞。
【請求項20】
被検体における出血の局所的処置のための、請求項19に記載のTF担持酵母由来微小胞。
【請求項21】
被検体において細胞遊走および/または脈管形成を促進する必要がある疾病を処置するための、請求項1〜14のいずれか一項に記載のTF担持酵母由来微小胞。
【請求項22】
請求項1に記載の凝固促進活性を有するTF担持酵母由来微小胞を製造する方法であって、
a)TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントを発現する組換え酵母細胞の培養物を、該TFタンパク質または凝固促進活性を有するそのフラグメントの発現を可能とする条件下での発酵に供すること;
b)工程a)の発酵から生じた生成物をペレット化して発酵生成物とすること;
c)工程b)からの発酵生成物にホモジナイゼーションを施して発酵ホモジネートとすること;および
d)工程c)からの発酵ホモジネートに分離を施して、ペレットと、凝固促進活性を有する該TF担持酵母由来微小胞を含有する清澄酵母抽出液(CYE)とすること;
e)凝固促進活性を有するTF担持酵母由来微小胞を含有する清澄酵母抽出液(CYE)を回収すること;および、所望により、
f)望ましければ、凝固促進活性を有するTF担持酵母由来微小胞を単離または精製すること
を含んでなる、方法。
【請求項23】
前記精製がタグ精製またはイムノアフィニティークロマトグラフィーによって行われる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
目的の膜タンパク質を含んでなる微小胞を真核宿主細胞から製造するための方法であって、
a)該真核宿主細胞の培養物を、目的の膜タンパク質の発現を可能とする条件下で増殖させる工程;
b)a)の培養物の細胞画分にホモジナイゼーションを施す工程;
c)工程b)から得られたホモジネートに分離を施して、ペレットと、目的の膜タンパク質を含有する該細胞由来微小胞を含有する清澄細胞抽出液とする工程;および
d)該細胞由来微小胞をサイズ分画により精製する工程
を含んでなる、方法。
【請求項25】
工程(d)が、タンジェンシャルフロー濾過を用いて、かつ/または直径0.1〜0.2μmの微小胞を保持する膜フィルターを用いて行われる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
サイズ排除クロマトグラフィーによるさらなる濃縮工程、または目的の膜タンパク質に対して親和性を示すリガンドを用いたアフィニティークロマトグラフィーによるさらなる精製工程を含んでなる、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
前記宿主細胞が酵母細胞である、請求項24〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
目的のタンパク質がrTF、そのフラグメントまたはそのN−グリコシル化変異体である、請求項24〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
(i)凝固促進活性を有する、FVIIaとの結合を担うドメインの全部または一部を欠いている末端切断型組織因子(TF)、
(ii)FVIIaとの結合を担うドメインが機能的でない、凝固促進活性を有するTFタンパク質変異体、および
(iii)少なくとも1つの非機能的N−グリコシル化部位を有する、凝固促進活性を有するTFタンパク質変異体
の群から選択される、修飾組織因子(TF)脂質化タンパク質。
【請求項30】
前記末端切断型TFタンパク質が、因子Xに対する相互作用ドメイン、膜貫通領域および細胞質テールを含んでなり、かつ、FVIIaとの結合を担うドメインを部分的にまたは完全に欠いている、請求項29に記載の修飾TF脂質化タンパク質。
【請求項31】
前記末端切断型TFタンパク質が、ヒトTFの因子Xに対する相互作用ドメイン(aa174〜251)、膜貫通領域(aa252〜274)および細胞質テール(aa275〜295)、ならびに付加的ヒスチジンタグを含んでなる、請求項30に記載の修飾TF脂質化タンパク質。
【請求項32】
前記変異TFタンパク質が少なくとも1つの非機能的N−グリコシル化部位を有する、請求項29に記載の修飾TF脂質化タンパク質。
【請求項33】
前記非機能的N−グリコシル化部位が、成熟ヒトrTFのN−グリコシル化部位である11〜13番のNLT、124〜126番のNVTまたは137〜139番のNNTに相当するものである、請求項32に記載の修飾TF脂質化タンパク質。
【請求項34】
前記TFが、成熟ヒトTFにおける11、124または137番に相当する位置のAsn残基において1以上のAsnからAlaへの変異を有する、請求項33に記載の修飾TF脂質化タンパク質。
【請求項35】
薬剤として用いるための、請求項29〜34のいずれか一項に記載の修飾TF脂質化タンパク質。
【請求項36】
凝固促進活性を有する薬剤としての、請求項35に記載の修飾TF脂質化タンパク質。
【請求項37】
請求項29〜34のいずれか一項に記載の修飾TF脂質化タンパク質と薬学上許容されるビヒクルとを含んでなる、医薬組成物。
【請求項38】
被検体における出血の処置のための、請求項29〜34のいずれか一項に記載の修飾TF脂質化タンパク質。
【請求項39】
被検体における出血の局所的処置のための、請求項38に記載の修飾TF脂質化タンパク質。
【請求項40】
被検体において細胞遊走および/または脈管形成を促進する必要がある疾病を処置するための、請求項29〜34のいずれか一項に記載の修飾TF脂質化タンパク質。
【請求項41】
請求項29〜34のいずれか一項に記載の修飾TFタンパク質をコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項42】
請求項41に記載のポリヌクレオチドを含んでなる、ベクター。
【請求項43】
請求項41に記載のポリヌクレオチドまたは請求項42に記載のベクターを含んでなる、宿主細胞。
【請求項44】
請求項29〜34のいずれか一項に記載の修飾TFタンパク質と特異的に結合する、抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20A】
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【図20B】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27(A)】
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【図27(B)】
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【図27(C)】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公表番号】特表2010−514433(P2010−514433A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543483(P2009−543483)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【国際出願番号】PCT/EP2007/064644
【国際公開番号】WO2008/080989
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(508036503)スロムボターゲッツ、エウロペ、ソシエダッド、リミターダ (3)
【氏名又は名称原語表記】THROMBOTARGETS EUROPE, S.L.
【Fターム(参考)】