説明

止血用具およびその製造方法

【課題】傷口に当ててから止血するまでの時間を短くする。
【解決手段】内部に粒状の吸水ポリマー2が挟まれかつ拡散層の役目をする拡散部1aを有する拡散保水層1の拡散部1a側に、接着により表面層3を設ける。表面層3の吸水率は拡散部1aの吸水率よりも小さい。拡散保水層1の拡散部1aと表面層3とは多数の点状の接着剤4によって接着されている。表面層3に皮膚保護層5が接着されている。拡散保水層1には不透水性フィルムからなる防水層6が接着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は創傷に伴う出血を速やかに止める止血用具およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の止血用具においては、特許文献2、3に示されるように、吸水率の小さい表面層と、吸水率の大きい拡散層と、保水層とを積層している。
【0003】
この止血用具においては、傷口に表面層を当てると、傷口から出た血液が表面層に吸収されるが、表面層の吸水率は小さいから、表面層において血液が拡散することはない。そして、拡散層の吸水率は大きいから、表面層に吸収された血液の血清が拡散層に吸収される。このため、表面層に吸収された血液から血清が除去されて、表面層に血塊が形成される。さらに、拡散層に吸収された血清は保水層に保水され、血清が血塊側に逆流することが防止される。以上のことから、速やかに傷口に近い表面層に血塊が形成されるので、出血を速やかに止めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−141156号公報
【特許文献2】特開2005−204954号公報
【特許文献3】特開2007−125155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような止血用具においては、表面層と拡散層との間に空間が存在するから、傷口から出た血液が表面層に吸収されたのちに、表面層に吸収された血液の血清が拡散層に吸収されまでの時間が長くなるので、傷口に表面層を当ててから、表面層に血塊が形成されるまでの時間が長くなるため、傷口に表面層を当ててから止血するまでの時間が長くなる。
【0006】
本発明は上述の課題を解決するためになされたもので、傷口に当ててから止血するまでの時間が短い止血用具およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するため、本発明に係る止血用具においては、内部に粒状の吸水ポリマーが挟まれ、かつ拡散部を有する拡散保水層と、上記拡散保水層の上記拡散部の吸水率よりも吸水率が小さい表面層とを有し、上記拡散保水層の上記拡散部に上記表面層が接着されていることを特徴とする。
【0008】
また、上記表面層に皮膚保護層が接着されていることを特徴としてもよい。
【0009】
また、上記拡散保水層に防水層が接着されていることを特徴としてもよい。
【0010】
また、上記防水層が熱可塑性樹脂からなることを特徴としてもよい。
【0011】
また、上記拡散部の表面の全面積に対する上記接着剤の合計塗布面積の割合を2〜10%としたことを特徴としてもよい。
【0012】
また、上記拡散部の表面の全面積に対する上記接着剤の合計塗布面積の割合を4〜8%としたことを特徴としてもよい。
【0013】
また、本発明に係る止血用具の製造方法においては、下部のパルプ綿積層体上に粒状の防水ポリマーを層状に設け、上記防水ポリマー上に、下部のパルプ綿積層体よりも厚い上部のパルプ綿積層体を重ね、上記下部のパルプ綿積層体、上記防水ポリマー、上記上部のパルプ綿積層体を重ねたものをプレスすることにより、上記拡散保水層を形成し、上記拡散保水層の上記拡散部の表面に接着剤を付着させ、上記拡散保水層の上記拡散部の表面上に上記表面層を重ねて、上記拡散保水層の上記拡散部の表面上に上記表面層を接着することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る止血用具においては、拡散保水層の拡散部と表面層とは接着剤によって接着されているから、拡散保水層の拡散部と表面層との間に空間が存在しないので、傷口から出た血液が表面層に吸収されたのちに、表面層に吸収された血液の血清が拡散部に吸収されるまでの時間が短くなる。このため、傷口に当ててから、表面層に血塊が形成されるまでの時間が短くなるので、傷口に当ててから止血するまでの時間が短くなる。
【0015】
また、本発明に係る止血用具の製造方法においては、拡散保水層を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る止血用具を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る止血用具の製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1により本発明の実施の形態に係る止血用具を説明する。図に示すように、パルプ綿積層体をプレスした拡散保水層1の中に、層状となった粒状の吸水ポリマー2が挟まれている。そして、拡散保水層1の吸水ポリマー2以外の部分すなわちパルプ綿積層体をプレスした部分の一方は拡散層の役目をする拡散部1aを構成している。また、拡散保水層1の拡散部1a側に接着により表面層3が設けられている。表面層3はパルプ綿積層体からなり、表面層3の吸水率は拡散部1aの吸水率よりも小さい。たとえば、表面層3の吸水特性はバイレック法で10〜70mm、望ましくは30〜50mmであり、拡散部1aの吸水特性はバイレック法で60〜300mm、望ましくは120〜240mmである。また、拡散保水層1の拡散部1aと表面層3とは多数の点状の接着剤4によって接着されている。接着剤4としては、EVA樹脂等を原料とする水溶性の接着剤、熱溶融性の繊維、パウダーなどを用いることができる。また、表面層3に不織布などからなる皮膚保護層5が接着されている。また、拡散保水層1には不透水性フィルムからなる防水層6が接着されている。
【0018】
この止血用具においては、傷口に皮膚保護層5を当てると、傷口から出た血液が皮膚保護層5を介して表面層3に吸収されるが、表面層3の吸水率は小さいから、表面層3においては血液が拡散することはない。そして、拡散保水層1の拡散部1aの吸水率は大きいから、表面層3に吸収された血液の血清が拡散部1aに吸収される。このため、表面層3に吸収された血液から血清が除去されて、表面層3に血塊が形成される。さらに、拡散部1aに吸収された血清は拡散部1aにおいて拡散され、拡散部1aにおいて拡散された血清は吸水ポリマー2に保水され、血清が血塊側に逆流することが防止される。以上のことから、速やかに傷口に近い表面層3に血塊が形成されるので、出血を速やかに止めることができる。
【0019】
また、出血が止まった後においては、表面層3に形成された血塊が乾いてくるが、この場合には吸水ポリマー2から拡散部1aを解して血塊に水分が補給されるから、血塊が常に適度な湿り気を有するので、傷跡がきれいに維持される。
【0020】
このような止血用具においては、拡散保水層1の拡散部1aと表面層3とは接着剤4によって接着されているから、拡散保水層1の拡散部1aと表面層3との間に空間が存在しないので、傷口から出た血液が表面層3に吸収されたのちに、表面層3に吸収された血液の血清が拡散部1aに吸収されるまでの時間が短くなる。このため、傷口に皮膚保護層5を当ててから、表面層3に血塊が形成されるまでの時間が短くなるので、傷口に皮膚保護層5を当ててから止血するまでの時間が短くなる。
【0021】
また、従来のように、表面層と拡散層と保水層とを積層したときには、3枚の層を接着しなければならず、製造が面倒になる。これに対して、図1で説明した止血用具においては、パルプ綿積層体をプレスした拡散保水層1の中に、粒状の吸水ポリマー2を層状に設けているから、拡散保水層1が拡散層の役目と保水層の役目とを行なう。このため、拡散保水層1と表面層3とを接着すれば足りるから、製造が容易である。
【0022】
また、従来のように、表面層と拡散層と保水層とを積層したときには、3枚の層がばらばらになるのを防止するために、防水シートと皮膚保護シートで作られた袋状体の中に表面層と拡散層と保水層とを積層したものを入れなければならず、この場合には製造が面倒になる。これに対して、図1で説明した止血用具においては、拡散保水層1、表面層3等がばらばらになることはないから、拡散保水層1、表面層3等を接着したものを袋状体の中に入れる必要がなく、製造が容易である。
【0023】
つぎに、図2により図1に示した止血用具の製造方法を説明する。まず、下部のパルプ綿積層体上に粒状の防水ポリマー2を層状に設ける。つぎに、防水ポリマー2上に、下部のパルプ綿積層体よりも厚い上部のパルプ綿積層体を重ねる。つぎに、下部のパルプ綿積層体、防水ポリマー2、上部のパルプ綿積層体を重ねたものをプレスすることにより、図2(a)に示すような拡散保水層1を形成する。つぎに、図2(b)に示すように、拡散保水層1の拡散部1aの表面に水溶性の接着剤4を多数の点状に付着させる。つぎに、拡散保水層1の拡散部1aの表面上に表面層3を重ねた後、接着剤4を乾かして、拡散保水層1の拡散部1aの表面上に表面層3を接着する。つぎに、表面層3に皮膚保護層5を接着する。この場合、表面層3の周囲のみに接着剤を塗布する。つぎに、拡散保水層1に防水層6を接着する。
【0024】
このような止血用具の製造方法においては、拡散部1aと保水の役目をする保水部(吸水ポリマー2)とを有する拡散保水層1を容易に形成することができる。
【0025】
なお、上述実施の形態においては、拡散保水層1の拡散部1aの表面に水溶性の接着剤4を多数の点状に付着させたが、拡散保水層1の拡散部1aの表面に水溶性の接着剤4を格子状に付着させてもよい。これらの場合、拡散部1aの表面の全面積に対する接着剤4の合計塗布面積の割合が小さすぎると、拡散保水層1の拡散部1aと表面層3との間に空間が形成されやすくなるから、傷口に皮膚保護層5を当ててから止血するまでの時間が長くなってしまう。また、拡散部1aの表面の全面積に対する接着剤4の合計塗布面積の割合が大きすぎると、接着剤4に邪魔されて、表面層3に吸収された血液の血清が拡散部1aに吸収され難くなるから、傷口に皮膚保護層5を当ててから止血するまでの時間が長くなってしまう。したがって、拡散部1aの表面の全面積に対する接着剤4の合計塗布面積の割合を2〜10%とするのが望ましく、4〜8%とするのがより望ましい。
【0026】
また、上述実施の形態においては、1枚の止血用具を製造する場合について説明したが、図1に示した構造の止血用具用のシートを製造したのち、そのシーを複数に切断することにより、止血用具としてもよい。
【0027】
また、上述実施の形態においては、拡散保水層1、表面層3の材料がパルプ綿である場合について説明したが、拡散保水層、表面層の材料としてパルプ綿と合成繊維との混合物、合成繊維等を用いてもよい。
【0028】
また、粘着テープに止血用具の防水層6を接着し、上記接着テープにより止血用具を患部に貼ってもよい。
【0029】
また、防水層6として熱可塑性樹脂からなるものを用いたときには、包帯に止血用具の防水層6を熱圧着することができる。
【符号の説明】
【0030】
1…拡散保水層、1a…拡散部、2…吸水ポリマー、3…表面層、4…接着剤、5…皮膚保護層、6…防水層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に粒状の吸水ポリマーが挟まれ、かつ拡散部を有する拡散保水層と、上記拡散保水層の上記拡散部の吸水率よりも吸水率が小さい表面層とを有し、
上記拡散保水層の上記拡散部に上記表面層が接着されている
ことを特徴とする止血用具。
【請求項2】
上記表面層に皮膚保護層が接着されていることを特徴とする請求項1に記載の止血用具。
【請求項3】
上記拡散保水層に防水層が接着されていることを特徴とする請求項1または2に記載の止血用具。
【請求項4】
上記防水層が熱可塑性樹脂からなることを特徴とする請求項3に記載の止血用具。
【請求項5】
上記拡散部の表面の全面積に対する上記接着剤の合計塗布面積の割合を2〜10%としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の止血用具。
【請求項6】
上記拡散部の表面の全面積に対する上記接着剤の合計塗布面積の割合を4〜8%としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の止血用具。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の止血用具を製造する方法であって、下部のパルプ綿積層体上に粒状の防水ポリマーを層状に設け、上記防水ポリマー上に、下部のパルプ綿積層体よりも厚い上部のパルプ綿積層体を重ね、上記下部のパルプ綿積層体、上記防水ポリマー、上記上部のパルプ綿積層体を重ねたものをプレスすることにより、上記拡散保水層を形成し、上記拡散保水層の上記拡散部の表面に接着剤を付着させ、上記拡散保水層の上記拡散部の表面上に上記表面層を重ねて、上記拡散保水層の上記拡散部の表面上に上記表面層を接着することを特徴とする止血用具の製造方法。


【図1】
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【図2】
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