説明

歩行者衝突判定装置

【課題】 車両が衝突した対象が歩行者であるか軽障害物であるかの判定を衝突後早期に行うことにある。
【解決手段】 車体前部に配設された第1の荷重センサを用いて車体前部に加わる第1の荷重とその時間積分値とを算出する。そして、その第1の荷重センサの出力に基づく第1の荷重とその荷重の時間積分値との関係から定まるポイントが判定マップを超える領域に属する場合に、車両の衝突した対象が歩行者であると判定する。また、第1の荷重センサの配設位置よりも上方の車体前部に配設された第2の荷重センサを用いて第1の荷重センサの配設位置よりも上方の車体前部に加わる第2の荷重を検出する。そして、その第2の荷重センサの出力に基づく第2の荷重が所定値を超える場合は、超えない場合に比して、歩行者衝突判定を行うための判定マップをしきい値のより小さいLowマップへ変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行者衝突判定装置に係り、特に、車両が何らかの障害物などに衝突した際にその衝突対象が歩行者であるか否かを判定するうえで好適な歩行者衝突判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車体前部のフロントバンパ等に配置された荷重センサを用いて車両に加わる荷重を検出し、その検出荷重に基づいて車両の衝突した対象が歩行者であるか歩行者以外であるかを区別して判定する歩行者衝突判定装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この判定装置において、歩行者衝突判定は、具体的には、荷重センサの出力に基づく車両に加わる荷重が一定範囲内の値を示す状態の継続時間に基づいて行われる。かかる状態の継続時間が一定範囲外である場合は、車両が歩行者以外の物体と衝突したと判定され、一方、継続時間が一定範囲内である場合は、車両が歩行者と衝突したと判定される。
【特許文献1】特開平11−28994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の装置では、歩行者衝突判定を行ううえで荷重が一定範囲内の値を示す状態の継続時間を測定する必要があるため、歩行者と特にポストコーンやパイロンなどの軽障害物とを衝突後早期に区別することができないという問題がある。また、車両が歩行者よりも比較的軽いポストコーンなどの軽障害物と高速で衝突したときにも、歩行者との低速での衝突時と同様に、車両に加わる荷重が一定範囲内の値を示すことがあり、また、その状態の継続時間が一定範囲内であることがある。この点、上記従来の装置の如く歩行者衝突判定を車両に加わる荷重とその継続時間とを用いて行う構成では、軽障害物との高速での衝突の結果が歩行者との低速での衝突の結果に近似する可能性があり、その結果として、車両の衝突した対象が歩行者でないにもかかわらず歩行者であると誤判定するおそれがあり、高精度の歩行者衝突判定を行うことが困難であった。
【0004】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、車両の衝突した対象が歩行者であるか軽障害物であるかの判定を早期に行うことが可能な歩行者衝突判定装置を提供することを第1の目的とし、また、車両の衝突した対象が歩行者であるか否かの判定を精度よく行うことが可能な歩行者衝突判定装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記第1の目的は、車体前部に配設され、車両に加わる第1の荷重に応じた信号を出力する第1の荷重センサと、前記第1の荷重センサの出力信号に基づいて検出される前記第1の荷重を用いたパラメータが所定のしきい値を超える場合に、車両と歩行者との衝突が生じたと判定する歩行者衝突判定手段と、を備える歩行者衝突判定装置であって、車体前部の、前記第1の荷重センサの配設位置よりも上方に配設され、車両に加わる第2の荷重に応じた信号を出力する第2の荷重センサと、前記第2の荷重センサの出力信号に基づいて検出される前記第2の荷重を用いたパラメータに応じて、前記所定のしきい値を変更するしきい値変更手段と、を備える歩行者衝突判定装置により達成される。
【0006】
この態様の発明において、車両での歩行者衝突判定は、車体前部に配設された第1の荷重センサの出力に基づく荷重を用いたパラメータが所定のしきい値を超えるか否かに基づいて行われるが、この所定のしきい値は、車体前部の第1の荷重センサの配設位置よりも上方に配設された第2の荷重センサの出力に基づく荷重を用いたパラメータに応じて変更される。
【0007】
一般的に、車両が直立する歩行者と衝突した場合は、車体前部に上下方向にわたって荷重が作用する傾向があるが、車両がポストコーンなどの軽障害物と衝突した場合は、車体前部の下部のみに荷重が作用する傾向がある。従って、本発明の構成によれば、車両の衝突対象が歩行者であるか軽障害物であるかの判定を衝突後早期に行うことが可能である。
【0008】
この場合、上記した歩行者衝突判定装置において、前記しきい値変更手段は、前記第2の荷重センサの出力信号に基づいて検出される前記第2の荷重を用いたパラメータが所定値を超える場合に、該パラメータが該所定値を超えない場合に比して、前記所定のしきい値を小さくすることとしてもよい。
【0009】
また、上記した歩行者衝突判定装置において、前記しきい値変更手段は、前記第2の荷重センサの出力信号に基づいて検出される前記第2の荷重を用いたパラメータが大きいほど、前記所定のしきい値を小さくすることとしてもよい。
【0010】
また、上記第1の目的は、車体前部に配設され、車両に加わる第1の荷重に応じた信号を出力する第1の荷重センサと、車体前部の、前記第1の荷重センサの配設位置よりも上方に配設され、車両に加わる第2の荷重に応じた信号を出力する第2の荷重センサと、前記第2の荷重センサの出力信号に基づいて検出される前記第2の荷重を用いたパラメータが所定値を超えないときは、前記第1の荷重センサの出力信号に基づいて検出される前記第1の荷重を用いたパラメータが第1のしきい値を超える場合に、一方、第2の荷重センサの出力信号に基づいて検出される前記第2の荷重を用いたパラメータが前記所定値を超えるときは、前記第1の荷重センサの出力信号に基づいて検出される前記第1の荷重を用いたパラメータが前記第1のしきい値よりも小さな第2のしきい値を超える場合に、車両と歩行者との衝突が生じたと判定する歩行者衝突判定手段と、を備える歩行者衝突判定装置により達成される。
【0011】
この態様の発明において、車両での歩行者衝突判定は、車体前部に第1の荷重センサよりも上方に配設された第2の荷重センサの出力に基づく第2の荷重を用いたパラメータが所定値を超えないときは、第1の荷重センサの出力に基づく第1の荷重を用いたパラメータが第1のしきい値を超えるか否かに基づいて行われ、一方、第2の荷重センサの出力に基づく第2の荷重を用いたパラメータが所定値を超えるときは、第1の荷重センサの出力に基づく第1の荷重を用いたパラメータが第1のしきい値よりも小さな第2のしきい値を超えるか否かに基づいて行われる。
【0012】
一般的に、車両が直立する歩行者と衝突した場合は、車体前部に上下方向にわたって荷重が作用する傾向があるが、車両がポストコーンなどの軽障害物と衝突した場合は、車体前部の下部のみに荷重が作用する傾向がある。従って、本発明の構成によれば、車両の衝突対象が歩行者であるか軽障害物であるかの判定を衝突後早期に行うことが可能である。
【0013】
更に、上記第2の目的は、車体前部に配設され、車両に加わる第1の荷重に応じた信号を出力する第1の荷重センサと、車体前部の、前記第1の荷重センサの配設位置よりも上方に配設され、車両に加わる第2の荷重に応じた信号を出力する第2の荷重センサと、前記第1の荷重センサの出力信号に基づいて検出される前記第1の荷重を用いたパラメータと前記第2の荷重センサの出力信号に基づいて検出される前記第2の荷重を用いたパラメータとの関係が、予め画定された二次元マップのしきい値変化パターンを超える場合に、車両と歩行者との衝突が生じたと判定する歩行者衝突判定手段と、を備える歩行者衝突判定装置により達成される。
【0014】
この態様の発明において、車両での歩行者衝突判定は、車体前部に配設された第1の荷重センサの出力に基づく第1の荷重を用いたパラメータと、車体前部の第1の荷重センサの配設位置よりも上方に配設された第2の荷重センサの出力に基づく第2の荷重を用いたパラメータとの関係が、予め画定された二次元マップのしきい値変化パターンを超えるか否かに基づいて行われる。
【0015】
一般的に、車両が直立する歩行者と衝突した場合は、車体前部に上下方向にわたって荷重が作用する傾向があるが、車両がポストコーンなどの軽障害物と衝突した場合は、車体前部の下部のみに荷重が作用する傾向がある。従って、本発明の構成によれば、車両の衝突対象が歩行者であるか軽障害物であるかの判定を精度よく行うことが可能である。
【0016】
尚、上記した歩行者衝突判定装置において、前記パラメータが、荷重と荷重の積分値又は荷重の積分値を自車速で除算した値とからなる二次元パラメータであり、前記所定のしきい値、前記第1のしきい値、又は前記第2のしきい値が、予め画定された二次元マップのしきい値変化パターンであることとしてもよいし、また、前記パラメータが、荷重自体、荷重の積分値、又は荷重の積分値を自車速で除算した値であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、車両の衝突した対象が歩行者であるか軽障害物であるかの判定を衝突後早期に行うことができる。また、本発明によれば、車両の衝突した対象が歩行者であるか軽障害物であるかの判定を精度よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を用いて、本発明の具体的な実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の第1実施例である車両に搭載されるシステムの構成図を示す。また、図2は、本実施例のシステムが備える荷重センサの配設位置を模式的に表した図を示す。図1に示す如く、本実施例のシステムは、車両が衝突した際にその衝突対象が歩行者であるか否かを判定する歩行者衝突判定装置10を備えている。歩行者衝突判定装置10は、電子制御ユニット(以下、ECUと称す)12を備えている。ECU12は、入出力回路(I/O)14、中央処理装置(以下、CPUと称す)16、処理プログラムや演算に必要なデーブルが予め格納されているリード・オンリ・メモリ(以下、ROMと称す)18、作業領域として使用されるランダム・アクセス・メモリ(以下、RAMと称す)20、及び、それらの各要素を接続する双方向のバス22により構成されている。
【0020】
ECU12の入出力回路14には、第1及び第2の荷重センサ24,26が接続されている。第1の荷重センサ24は、車体前部のバンパリインフォースメントの前面又は左右のフロントサイドメンバの前端に一つ或いは複数配設されている。第1の荷重センサ24は、車両前方から車両のその配設部位に加わる荷重の大きさに応じた信号を出力する。第1の荷重センサ24の出力信号は、入出力回路14に供給され、CPU16の指示に従って適宜RAM20に格納される。ECU12のCPU16は、第1の荷重センサ24の出力信号に基づいて車両前方から車両の車体前部に加わる荷重の大きさ(第1の荷重)N1を検出する。
【0021】
また、第2の荷重センサ26は、車体前部の、第1の荷重センサ24の配設位置よりも上方(例えばフロントフードの先端やフロントグリルの前面など)に一つ或いは複数配設されている。第2の荷重センサ26は、車両前方から車両のその配設部位に加わる荷重の大きさに応じた信号を出力する。第2の荷重センサ26の出力信号は、入出力回路14に供給され、CPU16の指示に従って適宜RAM20に格納される。CPU16は、第2の荷重センサ26の出力信号に基づいて車両前方から車体前部の第1の荷重センサ24の配設位置よりも上方に加わる荷重の大きさ(第2の荷重)N2を検出する。
【0022】
尚、車体前部に作用する荷重の大きさN1,N2は、複数の第1又は第2の荷重センサ24,26が車両に搭載されている場合には、各荷重センサ24,26の出力に基づく荷重の合計値となる。CPU16は、上記の如く車両に加わる荷重N1,N2を検出すると、ROM18に格納されている処理プログラムに従って、後に詳述する如く、検出した車体前部の荷重N1,N2に基づいて、車両と歩行者とが衝突したか否か、すなわち、車両が衝突した際におけるその衝突対象が歩行者であるか否かを判定する。
【0023】
本実施例のシステムは、また、車両が歩行者に衝突した際にその衝突歩行者を保護するために作動される歩行者保護装置30を備えている。歩行者保護装置30は、例えば、車体前部に設けられたエンジンを覆うエンジンフードをその後端側だけ持ち上げる機構を有する装置であり、又は、かかるエンジンフードから外部の車両前方へ向けて衝突歩行者に加わる衝撃を吸収するエアバッグなどを展開する装置である。
【0024】
歩行者保護装置30は、ECU12の入出力回路14に接続する駆動回路32を有している。ECU12のCPU16は、歩行者衝突判定装置10として車両の衝突した衝突対象が歩行者であるか否かに基づいて、入出力回路14から歩行者保護装置30の駆動回路32への駆動信号の供給を制御する。具体的には、衝突対象が歩行者であると判定した場合には、駆動回路32に対して歩行者保護装置30を作動させるための指令を供給する。駆動回路32は、ECU12から供給される作動指令に従って、エンジンフードの後端側を持ち上げ或いは歩行者保護用のエアバッグを膨張展開させる。
【0025】
次に、本実施例のCPU16において衝突対象が歩行者であるか否かの判定(以下、歩行者衝突判定と称す)を行う処理の具体的内容について説明する。
【0026】
車両が障壁などの重障害物に衝突した場合は、極めて大きな荷重が車両の車体前部に作用する。一方、車両が歩行者に低速で衝突した場合は、その歩行者が体格の大きな大人であっても、車両の車体前部に作用する荷重は重障害物衝突時の荷重よりも小さく抑えられる。従って、車両の衝突した衝突対象が歩行者であるか重障害物であるかを区別するうえでは、車体前部に作用する荷重自体を用いることとすれば十分である。しかし、車両がポストコーンやパイロンなどの軽障害物に高速で衝突した場合は、車体前部に作用する荷重のピーク荷重が、車両が歩行者に低速で衝突したときのピーク荷重と同程度の値を示すことがある。従って、車両の衝突した衝突対象が歩行者であるか軽障害物であるかを区別するうえでは、車体前部に作用する荷重自体(具体的には、ピーク荷重)を用いるだけでは不十分である。
【0027】
一方、車両がポストコーンやパイロンなどの軽障害物に高速で衝突した場合は、その軽障害物が車両のフードに乗り上げることなく車体下に潜り込み若しくは車両から弾き跳ばされるため、車体前部に対して大きな荷重が長時間にわたって継続することはなく、衝突直後に速やかにピーク荷重が現われ、その後、比較的低い荷重が現われる。これに対して、車両が歩行者に低速で衝突した場合は、歩行者が車両のフードに乗り上げるようになるため、車体前部に対して大きな荷重が比較的長時間にわたって継続し、荷重が衝突初期から徐々に立ち上がり、その荷重が比較的大きな値を示す状態が継続する。従って、車両における衝突対象が歩行者であるか軽障害物であるかを区別するうえでは、車体前部に作用する荷重と、その荷重の衝突開始からの時間積分値(力積)との双方を用いることが有効である。
【0028】
しかしながら、かかる構成では、衝突対象が歩行者であるか軽障害物であるかを区別するための判定マップが、予め車体前部に加わる荷重とその時間積分値との関係から画定された2次元マップであって、荷重を基準とすれば荷重の時間積分値に応じて変化し、具体的には、荷重積分値が所定値に達するまでは一定値に維持されかつ荷重積分値が所定値に達するとその荷重積分値が大きくなるほど小さくなるように設定されるものとなるが、この判定マップが一つのしきい値変化パターンを有しているだけでは、車両が実際に歩行者と衝突したときにその歩行者判定を衝突後早期に行うことが困難となるおそれがある。
【0029】
そこで、本実施例の歩行者衝突判定装置10においては、車両衝突対象が歩行者であるかポストコーンなどの軽障害物であるかの区別を衝突後早期に行うことができる点に特徴を有している。以下、図3乃至図6を参照して、本実施例の特徴部について説明する。
【0030】
図3は、車両が歩行者に衝突した場合とポストコーンに衝突した場合との衝突形態の違いを説明するための図を示す。尚、図3(A)には歩行者との衝突時の状況を、また、図3(B)にはポストコーンとの衝突時の状況を、それぞれ表した図を示す。また、図4は、本実施例において歩行者衝突判定を行うための判定マップを表した図を示す。尚、図4には、歩行者との低速での衝突時、及び、歩行者よりも比較的軽いポストコーンなどの軽障害物との高速での衝突時それぞれの実験結果の一例が示されている。
【0031】
本実施例において、歩行者衝突判定を行うための判定マップは、予め車体前部に加わる第1の荷重センサ24の出力に基づく第1の荷重とその時間積分値との関係から画定された図4に示す如き2次元マップである。この2次元マップは、荷重を基準とすれば荷重の時間積分値に応じて変化し、また、荷重の時間積分値を基準とすれば荷重に応じて変化するしきい値変化パターンを2つ有している。これら2つのしきい値変化パターンは共に、予めROM18に格納されている。
【0032】
2つのしきい値変化パターンのうちの一方は、車両が歩行者に衝突した場合と車両がポストコーンなどの軽障害物に衝突した場合とが区別されるようにその境界に設定された変化パターンである。また、2つのしきい値変化パターンのうちの他方は、車両が少なくとも歩行者に衝突した場合と歩行者とは衝突しなかった場合とが区別されるようにその境界に設定された変化パターンであって、上記した一方のしきい値変化パターンよりも低い値に設定されている。以下、これらの2つのしきい値変化パターンのうちしきい値の大きめのものをHighマップと、しきい値の小さめのものをLowマップと、それぞれ称す。Lowマップ及びHighマップは共に、図4に示す如く、車両に加わる第1の荷重に対するしきい値が、荷重の時間積分値が小さいときにはある程度大きな一定値に維持され、荷重の時間積分値が所定値から大きくなるほど小さくなるマップである。
【0033】
本実施例において、CPU16は、上記の如く、第1の荷重センサ24を用いて車両前方から車体前部の比較的下部に作用する第1の荷重の大きさN1を検出すると共に、第2の荷重センサ26を用いて車両前方から車体前部の比較的上部に作用する第2の荷重の大きさN2を検出する。そして、その検出した第1の荷重N1がゼロよりも僅かに大きい所定値に達することにより衝突が開始されたと判断した場合、以後、検出した第1の荷重N1を時間積分することにより荷重の衝突開始からの時間積分値(力積)を算出する。
【0034】
車両が直立する歩行者に衝突した場合は、車両の車体前部に上下方向に関しある程度の長さにわたって荷重が作用する傾向がある一方で、車両がポストコーンなどの軽障害物に衝突した場合は、車体前部の下部のみに荷重が作用する傾向がある。従って、車体前部の下部にある程度の荷重が作用する一方でその上部には荷重があまり作用しないときは、車両がポストコーンなどの軽障害物に衝突した可能性は十分にあるため、歩行者衝突判定の誤判定を防止するうえでその判定マップを比較的高めに設定することが必要である。一方、車体前部の下部だけでなく上部にもある程度の荷重が作用するときは、車両がポストコーンなどの軽障害物に衝突した可能性は極めて低いため、歩行者衝突判定の判定マップを比較的低めに設定してもその誤判定が生ずることはなく、また、その判定マップが低めに設定されれば、衝突対象が歩行者であるか軽障害物であるかの区別を早期に行うことが可能となる。
【0035】
そこで、CPU16は、車体前部の第1の荷重センサ24の配設位置よりも上方に配設された第2の荷重センサ26を用いて検出した第2の荷重N2が予め定められた所定値を超えないことにより衝突対象がポストコーンなどの軽障害物である可能性が十分にあると判断した場合は、歩行者衝突判定を行うための判定マップをHighマップに設定する。また、その検出した第2の荷重N2が所定値を超えることにより衝突対象がポストコーンなどの軽障害物である可能性が極めて低くなったと判断した場合は、歩行者衝突判定を行うための判定マップをHighマップよりしきい値の大きなLowマップに設定する。
【0036】
CPU16は、所定時間(例えば10ms)ごとに、第1の荷重センサ24を用いて検出する第1の荷重N1自体及びその第1の荷重N1の時間積分値に基づいて、両者の関係から定まるポイント(座標)が、上記の如くHighマップ及びLowマップの何れかに選択的に設定される判定マップにより区切られた2つの領域の何れに属するかを判別する。そして、その第1の荷重N1とその時間積分値とから定まるポイントが判定マップ以下の領域に属すると判別した場合は、自車両がポストコーンなどの比較的軽い軽障害物に衝突したものとして、自車両の衝突した衝突対象が歩行者でないと判定する。一方、第1の荷重N1とその時間積分値とから定まるポイントが判定マップを超える領域に属すると判別した場合は、自車両が子供や大人などの歩行者に衝突したとして、自車両の衝突した衝突対象が歩行者であると判定する。
【0037】
図5及び図6はそれぞれ、上記の機能を実現すべく、本実施例の歩行者衝突判定装置10においてCPU16が実行する制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。図5及び図6に示すルーチンはそれぞれ、所定時間ごとに繰り返し起動される。図5に示すルーチンが起動されると、まずステップ100の処理が実行される。また、図6に示すルーチンが起動されると、まずステップ150の処理が実行される。
【0038】
ステップ100では、第1の荷重センサ24の出力信号に基づいて、車両前方から車体前部に加わる第1の荷重N1が検出される。ステップ102では、上記ステップ100で検出された第1の荷重N1が荷重の時間積分を開始するために設けられたゼロよりも僅かに大きな値に設定された所定値を超える場合、その第1の荷重N1に関し時間積分を施すことにより時間積分値を算出する処理が実行される。
【0039】
ステップ104では、上記ステップ102で算出された荷重の時間積分値に基づいて、下記の如く図6に示すルーチンを実行することにより設定される判定マップを参照して、荷重に対するしきい値を算出する処理が実行される。この際、算出される荷重に対するしきい値は、荷重の時間積分値が小さいときはある程度大きな一定値となり、一方、荷重の時間積分値が所定値よりも大きいときにはその時間積分値が大きいほど小さな値となる。
【0040】
ステップ106では、上記ステップ100で検出された第1の荷重N1が判定マップ上の上記ステップ104で算出されたその時点での時間積分値に応じた荷重に対するしきい値を超えたか否かが判別される。その結果、第1の荷重N1がそのしきい値を超えない場合は、車両の車体前部に加わる第1の荷重N1とその時間積分値とから定まるポイントが判定マップを超えた領域に属すると判断することはできないので、かかる判別がなされた場合は、車両の衝突した衝突対象が歩行者であると判定されることはなく、今回のルーチンは終了される。一方、第1の荷重N1が上記のしきい値を超えた場合は、車体前部に加わる第1の荷重N1とその時間積分値とから定まるポイントが判定マップを超えた領域に属すると判断することができるので、かかる判別がなされた場合は、次にステップ108の処理が実行される。
【0041】
ステップ108では、車両の衝突した衝突対象が歩行者であると判定される。本ステップ108の処理が実行されると、以後、歩行者保護装置30の駆動回路へ作動指令がなされ、歩行者保護装置30がエンジンフードの持ち上げや歩行者保護用エアバッグの展開により作動することとなる。本ステップ108の処理が終了すると、今回のルーチンは終了される。
【0042】
尚、このステップ108における衝突対象が歩行者であるとの判定は、衝突対象が他車両や壁などの重障害物であるとの判定を排除したうえで行うことが適切である。例えば、歩行者衝突判定を行うための判定マップとして、上記したHighマップ及びLowマップよりもしきい値の大きな、車両が歩行者に衝突した場合と車両や壁などの重障害物に衝突した場合とが区別されるように設定されたしきい値変化パターン(上限マップ)を設け、そして、車体前部に加わる第1の荷重N1とその時間積分値とから定まるポイントがその上限マップのしきい値変化パターンを超える領域に属しない場合にのみ衝突対象が歩行者であると判定し、その上限マップのしきい値変化パターンを超えた領域に属する場合には衝突対象が重障害物であると判定することとしてもよい。この場合には、衝突開始後、所定時間が経過するまでは、上記のポイントがHighマップを超えた領域に属していても、衝突対象が歩行者であるとの判定を許容しないようにするのがよく、そのポイントが上限マップを超える領域に属しないことを確認してから、衝突対象が歩行者であるとの判定を許容するのが好適である。
【0043】
上記図5に示すルーチンによれば、第1の荷重センサ24を用いて検出される車両前方から車体前部に加わる第1の荷重N1とその荷重の時間積分値とから定まるポイントが、判定マップとして設定されているしきい値変化パターンにより区切られた2つの領域の何れに属するか否かに基づいて、車両の衝突する衝突対象が歩行者であるか否かを判定すること、具体的には、車体前部に加わる第1の荷重N1が、荷重の時間積分値に基づいて設定される荷重に対するしきい値を超える場合に、衝突対象が歩行者であると判定することができる。
【0044】
また、本実施例において、歩行者衝突判定は、車体前部に加わる第1の荷重N1とその荷重の時間積分値とから定まるポイントが判定マップを超える領域に属するか否かに基づいて行われる。そして、この判定マップのしきい値変化パターンは、車体前部に加わる荷重N1とその時間積分値との関係から予め画定されるものであって、図4に示す如く、荷重に対するしきい値が実際の荷重の時間積分値に応じて変化し、荷重の時間積分値が所定値に達するまでは一定値であるが、その所定値に達した後はその時間積分値が大きくなるほど小さくなるように設定されている。
【0045】
この点、本実施例の歩行者衝突判定装置10においては、車両が実際に歩行者と衝突したとき、第1の荷重N1とその荷重の時間積分値とから定まるポイントが判定マップを超える領域に属するまでにあまり時間が費やされることはない。従って、本実施例の歩行者衝突判定装置10によれば、車両が歩行者と衝突した際に、歩行者との低速衝突と軽障害物との高速衝突とを区別するための応答時間を少なくすることができ、かかる区別を衝突後早期に行うことが可能となっている。
【0046】
また、本実施例において、ECU12のCPU16は、上記図5に示すルーチンと並行して図6に示すルーチンを実行する。ステップ150では、第2の荷重センサ26の出力信号に基づいて、車両前方から第1の荷重センサ24の配設位置よりも上方の車体前部に加わる第2の荷重N2が検出される。
【0047】
ステップ152では、上記ステップ150で検出された第2の荷重N2が予め定められた所定値を超えるか否かが判別される。尚、この所定値は、車両がポストコーンなどの軽障害物に衝突した場合に達し得る、車体前部における第2の荷重センサ26の配設位置に作用する荷重の最大値である。その結果、第2の荷重N2がその所定値を超えない場合は、衝突対象がポストコーンなどの軽障害物である可能性が十分にあるので、かかる判別がなされた場合は、次にステップ154の処理が実行される。一方、第2の荷重N2がその所定値を超える場合は、衝突対象がポストコーンなどの軽障害物である可能性は極めて低くなるので、かかる判別がなされた場合は、次にステップ156の処理が実行される。
【0048】
ステップ154では、上記図5に示すルーチン中ステップ104の処理に用いる歩行者衝突判定のための判定マップを、よりしきい値の大きなHighマップに設定する処理が実行される。かかる処理が実行された場合は、上記ステップ104においてHighマップが判定マップとして設定されて、荷重に対するしきい値が算出され、そのHighマップを用いて歩行者衝突判定がなされることとなる。一方、ステップ156では、ステップ104の処理に用いる歩行者衝突判定のための判定マップを、よりしきい値の小さなLowマップに設定する処理が実行される。かかる処理が実行された場合は、上記ステップ104においてLowマップが判定マップとして設定されて、荷重に対するしきい値が算出され、そのLowマップを用いて歩行者衝突判定がなされることとなる。ステップ154又は156の処理が終了すると、今回のルーチンが終了される。
【0049】
上記図6に示すルーチンによれば、歩行者衝突判定を行ううえで必要なパラメータ(第1の荷重N1やその時間積分値)を算出するために車体前部に配設された第1の荷重センサ24の配設位置よりも上方の車体前部に配設された第2の荷重センサ26の出力に基づく第2の荷重N2に応じて、その歩行者衝突判定を行うための判定マップをHighマップとLowマップとで選択的に切り替えて変更することができる。第2の荷重N2が所定値を超えないことで衝突対象がポストコーンなどの軽障害物である可能性が十分にあると判断したときは、判定マップとしてHighマップを選択する一方、第2の荷重N2が所定値を超えることで衝突対象がポストコーンなどの軽障害物である可能性が極めて低くなったと判断したときは、判定マップとしてLowマップを選択することができる。
【0050】
上述の如く、一般に、車両が直立する歩行者に衝突した場合は、車両の車体前部に上下方向に関しある程度の長さにわたって荷重が作用する傾向がある一方で、車両がポストコーンなどの軽障害物に衝突した場合は、車体前部の下部のみに荷重が作用しその上部には荷重があまり作用しない傾向がある。
【0051】
従って、上記した本実施例の構成の如く、車体前部の比較的上部に対する第2の荷重N2が所定値を超えずに小さいときは高めの判定マップ(Highマップ)を用いて歩行者衝突判定を行い、第1の荷重N1がHighマップ上の荷重積分値に応じた荷重に対するしきい値を超える場合に衝突対象が歩行者であると判定し、一方、その第2の荷重N2が所定値を超えて大きいときは低めの判定マップ(Lowマップ)を用いて歩行者衝突判定を行い、第1の荷重N1がLowマップ上の荷重積分値に応じた荷重に対するしきい値を超える場合に衝突対象が歩行者であると判定することとすれば、その誤判定を招くことなく、車両の衝突対象が歩行者であるかポストコーンなどの軽障害物であるかの区別を衝突後早期に行うことができる。このように、本実施例の歩行者衝突判定装置10によれば、車両が実際に歩行者に衝突したときに衝突対象が歩行者であるとの判定を衝突後早期に行うことが可能となっている。
【0052】
尚、上記の第1実施例においては、第1の荷重N1若しくは第2の荷重N2又はその荷重の時間積分値が特許請求の範囲に記載された「パラメータ」に、二次元マップである判定マップ上のしきい値が特許請求の範囲に記載された「所定のしきい値」に、Highマップのしきい値変化パターン上のしきい値が特許請求の範囲に記載された「第1のしきい値」に、Lowマップのしきい値変化パターン上のしきい値が特許請求の範囲に記載された「第2のしきい値」に、それぞれ相当していると共に、ECU12のCPU16が、上記図5に示すルーチン中ステップ108の処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した「歩行者衝突判定手段」が、上記図6に示すルーチン中ステップ152〜156の処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した「しきい値変更手段」が、それぞれ実現されている。
【0053】
ところで、上記の第1実施例においては、歩行者衝突判定を行うための判定マップとして、図4に示す如く、第1の荷重に対するしきい値が荷重の時間積分値が小さいときにはある程度大きな一定値に維持され、荷重の時間積分値が所定値から大きくなるほど小さくなるようにパターン変化するしきい値変化パターンを用いることとしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、歩行者との衝突と軽障害物との衝突とを区別することのできるものであれば、荷重とその時間積分値との2次元マップ上でどのようにパターン変化するものであってもよい。
【0054】
また、上記の第1実施例においては、歩行者衝突判定を行うための判定マップとして、図4に示す如く、HighマップとLowマップとの2つのマップを準備することとしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、3つ以上のマップを準備することとしてもよい。かかる構成においては、第2の荷重センサ26の出力に基づく第2の荷重N2が小さい場合はしきい値の大きなマップを歩行者衝突判定に用いる判定マップとして選択し、第2の荷重N2が大きいほどしきい値の小さなマップを歩行者衝突判定に用いる判定マップとして選択するのが好適である。
【0055】
これは、上記の如く、車両が直立する歩行者に衝突した場合は、車両の車体前部に上下方向に関しある程度の長さにわたって荷重が作用する傾向がある一方で、車両がポストコーンなどの軽障害物に衝突した場合は、車体前部の下部のみに荷重が作用する傾向があることに鑑み、車両が実際に歩行者に衝突したときにその判定を誤ることなく早期に行うためであり、更に、車両が実際に歩行者に衝突した状況においては、第2の荷重センサ26の配設位置の車体前部に大きな荷重が作用する一方で第1の荷重センサ24の配設位置の車体前部にはあまり大きな荷重が作用しない事態も生じ得ることに鑑み、かかる事態が生じても、歩行者衝突判定のための判定マップのしきい値を下げることで確実に衝突対象が歩行者であると判定するためである。
【0056】
また、上記の第1実施例においては、歩行者衝突判定を行ううえでの判定パラメータとして、車体前部に加わる第1の荷重と共に、その時間積分値を用いることとしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、その時間積分値に代えて、荷重の時間積分値を用いて算出されるパラメータ、例えば荷重の時間積分値を自車速で除算することにより得られる衝突対象の有効質量などを用いることとしてもよい。この場合は、その判定パラメータに適したしきい値変化パターンが予め設定されることとなる。車両と歩行者とが衝突する状況では、歩行者が車両に向かって歩いていることは想定できないため、車両進行方向における車両と歩行者との相対速度は車両の速度にほぼ等しいと判断できる。このため、車体前部に加わる荷重の時間積分値を自車速で除算すれば、衝突対象の有効質量を算出することができる。従って、この有効質量と荷重との2次元マップを用いて歩行者衝突判定を行うこととしてもよい。この場合には、第1の荷重N1の時間積分値を自車速で除算して得られる衝突対象の有効質量が特許請求の範囲に記載した「パラメータ」に相当することとなる。
【0057】
更に、上記の第1実施例においては、歩行者衝突判定を行うための判定マップを切り替えるうえでのパラメータとして、第2の荷重N2自体を用いることとしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、その第2の荷重N2の時間積分値や時間積分値を自車速で除算して得られる有効質量などを用いることとしてもよい。
【実施例2】
【0058】
上記した第1実施例では、車体前部に配設された第1の荷重センサ24の出力に基づく第1の荷重N1を用いたパラメータに基づいて歩行者衝突判定を行い、その第1の荷重センサ24の配設位置よりも下方の車体前部に配設された第2の荷重センサ24の出力に基づく第2の荷重N2を用いて歩行者衝突判定を行うための判定マップを変更することとしている。これに対して、本発明の第2実施例においては、それらの第1の荷重センサ24の出力に基づく第1の荷重N1を用いたパラメータと第2の荷重センサ26の出力に基づく第2の荷重N2を用いたパラメータとの双方に基づいて、歩行者衝突判定を行うこととしている。
【0059】
尚、本実施例のシステムは、上記図1に示す構成において、ECU12のCPU16に上記図5及び図6に示すルーチンに代えて図9に示すルーチンを実行させることにより実現される。以下、本実施例のCPU16において歩行者衝突判定を行う処理の具体的内容について説明する。
【0060】
図7(A)は車両がショッピングカートに衝突したときの状況を、また、図7(B)は車両がポストコーンに衝突したときの状況を、それぞれ表した図を示す。車両がショッピングカートなどの地面からある程度高い位置の部分が突出している軽障害物に衝突した場合は、図7(A)に示す如く、車体前部の上部に対してのみ大きな荷重が現われ、その下部に対してはあまり大きな荷重が現われない傾向がある。また、上記した第1実施例で詳述したとおり、車両がポストコーンなどの高さの低い軽障害物に衝突した場合は、逆に、車体前部の下部に対してのみ大きな荷重が現われ、その上部に対してはあまり大きな荷重が現われない傾向がある。一方、上記の如く、車両が直立する歩行者に衝突した場合は、車両の車体前部に上下方向に関しある程度の長さにわたって荷重が作用する傾向がある。
【0061】
従って、車体前部の下部に作用する荷重及び上部に作用する荷重の少なくとも何れか一方が小さいときには衝突対象が歩行者であると判定することはせず、一方、両荷重が共に大きいときには衝突対象が歩行者であると判定するような歩行者衝突判定の判定マップを準備することとすれば、その歩行者衝突判定を精度よく行うことが可能となる。
【0062】
図8は、本実施例において歩行者衝突判定を行うための判定マップを表した図を示す。尚、図8には、歩行者との低速での衝突時、並びに、歩行者よりも比較的軽い軽障害物であるショッピングカートとの高速での衝突時、及び、歩行者よりも比較的軽い軽障害物であるポストコーンとの高速での衝突時それぞれの実験結果の一例が示されている。
【0063】
本実施例において、歩行者衝突判定を行うための判定マップは、予め、第1の荷重センサ24の出力に基づく車体前部に加わる第1の荷重N1の時間積分値と、第1の荷重センサ24の配設位置よりも上方に配設された第2の荷重センサ26の出力に基づく車体前部に加わる第2の荷重N2の時間積分値との関係から画定された図8に示す如き2次元マップである。この2次元マップは、第1の荷重N1側を基準とすれば第2の荷重N2側の値に応じて変化し、また、第2の荷重N2側を基準とすれば第1の荷重N1側の値に応じて変化するしきい値変化パターンであって、予めROM18に格納されている。このしきい値変化パターンは、車両が歩行者に衝突した場合と軽障害物に衝突した場合とが区別されるようにその境界に設定された変化パターンであって、第1の荷重N1の時間積分値又は第2の荷重N2の時間積分値が小さいときはしきい値が極めて大きくなるマップである。
【0064】
本実施例において、CPU16は、第1の荷重センサ24を用いて車両前方から車体前部の比較的下部に作用する第1の荷重の大きさN1を検出し、その検出値を時間積分することにより荷重の衝突開始からの時間積分値を算出する。また、第2の荷重センサ26を用いて車両前方から車体前部の比較的上部に作用する第2の荷重の大きさN2を検出し、その検出値を時間積分することにより荷重の衝突開始からの時間積分値を算出する。
【0065】
そして、CPU16は、所定時間(例えば10ms)ごとに、第1の荷重センサ24を用いて検出する第1の荷重N1の時間積分値と、第2の荷重センサ26を用いて検出する第2の荷重N2の時間積分値とに基づいて、両者の関係から定まるポイント(座標)が、予め設定されている判定マップにより区切られた2つの領域の何れに属するかを判別する。その結果、そのポイントが判定マップ以下の領域に属すると判別した場合は、自車両がポストコーンなどの比較的軽い軽障害物に衝突したものとして、自車両の衝突した衝突対象が歩行者でないと判定する。一方、そのポイントが判定マップを超える領域に属すると判別した場合は、自車両が子供や大人などの歩行者に衝突したとして、自車両の衝突した衝突対象が歩行者であると判定する。
【0066】
図9は、上記の機能を実現すべく、本実施例の歩行者衝突判定装置10においてCPU16が実行する制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。図9に示すルーチンは、所定時間ごとに繰り返し起動される。図9に示すルーチンが起動されると、まずステップ200の処理が実行される。
【0067】
ステップ200では、第1の荷重センサ24の出力信号に基づいて、車両前方から車体前部に加わる第1の荷重N1が検出される。また、ステップ202では、第2の荷重センサ26の出力信号に基づいて、車両前方から第1の荷重センサ24の配設位置よりも上方の車体前部に加わる第2の荷重N2が検出される。
【0068】
ステップ204では、上記ステップ200で検出された第1の荷重N1が荷重の時間積分を開始するために設けられたゼロよりも僅かに大きな値に設定された所定値を超える場合、その第1の荷重N1に関し時間積分を施すことにより時間積分値を算出する処理が実行されると共に、また、上記ステップ202で検出された第2の荷重N2が荷重の時間積分を開始するために設けられたゼロよりも僅かに大きな値に設定された所定値を超える場合、その第2の荷重N2に関し時間積分を施すことにより時間積分値を算出する処理が実行される。尚、この際、第1の荷重N1に関する所定値と第2の荷重N2に関する所定値とは、互いに異なる値であってもよい。
【0069】
ステップ206では、上記ステップ204で算出された第1の荷重N1の時間積分値と第2の荷重N2の時間積分値との関係から定まるポイントが2次元的な判定マップを超えた領域に属するか否かが判別される。その結果、否定判定がなされた場合は、車両の衝突した衝突対象が歩行者であると判定されることはなく、今回のルーチンは終了される。一方、肯定判定がなされた場合は、次にステップ208の処理が実行される。
【0070】
ステップ208では、車両の衝突した衝突対象が歩行者であると判定される。本ステップ208の処理が実行されると、以後、歩行者保護装置30の駆動回路へ作動指令がなされ、歩行者保護装置30がエンジンフードの持ち上げや歩行者保護用エアバッグの展開により作動することとなる。本ステップ208の処理が終了すると、今回のルーチンは終了される。
【0071】
尚、このステップ208における衝突対象が歩行者であるとの判定は、衝突対象が他車両や壁などの重障害物であるとの判定を排除したうえで行うことが適切である。例えば、歩行者衝突判定を行うための判定マップとして、上記した歩行者との衝突と軽障害物との衝突とを切り分けるためのしきい値変化パターン(下限マップ)よりもしきい値の大きな、車両が歩行者に衝突した場合と車両や壁などの重障害物に衝突した場合とが区別されるように設定されたしきい値変化パターン(上限マップ)を設け、そして、第1の荷重N1の時間積分値と第2の荷重N2の時間積分値とから定まるポイントがその上限マップを超える領域に属しない場合にのみ衝突対象が歩行者であると判定し、その上限マップを超えた領域に属する場合には衝突対象が重障害物であると判定することとしてもよい。この場合には、衝突開始後、所定時間が経過するまでは、上記のポイントが下限マップを超えた領域に属していても、衝突対象が歩行者であるとの判定を許容しないようにするのがよく、そのポイントが上限マップを超える領域に属しないことを確認してから、衝突対象が歩行者であるとの判定を許容するのが好適である。
【0072】
上記図9に示すルーチンによれば、車体前部に配設された第1の荷重センサ24の出力に基づく車両に加わる第1の荷重N1の時間積分値と、第1の荷重センサ24の配設位置よりも上方の車体前部に配設された第2の荷重センサ26の出力に基づく車両に加わる第2の荷重N2の時間積分値とから定まるポイントが、判定マップとして設定されているしきい値変化パターンにより区切られた2つの領域の何れに属するか否かに基づいて、車両の衝突する衝突対象が歩行者であるか否かを判定すること、具体的には、車体前部に加わる第1の荷重N1の時間積分値とその荷重位置よりも上方の車体前部に加わる第2の荷重N2の時間積分値とから定まるポイントが判定マップを超える領域に属する場合に、衝突対象が歩行者であると判定することができる。
【0073】
上述の如く、一般に、車両が直立する歩行者に衝突した場合は、車両の車体前部に上下方向に関しある程度の長さにわたって荷重が作用する傾向がある一方で、車両がポストコーンなどの軽障害物に衝突した場合は、車体前部の下部のみに荷重が作用しその上部には荷重があまり作用しない傾向がある。従って、上記した本実施例の構成の如く、車体前部の比較的下部に対する第1の荷重N1の時間積分値と車体前部の比較的上部に対する第2の荷重N2の時間積分値との関係から画定される2次元的な判定マップを用いて歩行者衝突判定を行うこととすれば、その誤判定が招来するのを防止することができる。
【0074】
尚、このように第1の荷重N1の時間積分値と第2の荷重N2の時間積分値との関係から画定される2次元的な判定マップを用いて歩行者衝突判定を行うこととすれば、車両が歩行者に衝突した際の衝突形態が車体前部の下部だけでなく上部にも荷重が作用するようなものとなっても、その2次元マップが適当なしきい値変化パターンを有することで、確実に衝突対象が歩行者であると判定することが可能となる。
【0075】
このように、本実施例の歩行者衝突判定装置10によれば、車両の衝突対象が歩行者であるか軽障害物であるかを精度よく判定することが可能であり、歩行者衝突判定の精度向上を図ることが可能となっている。このため、本実施例によれば、歩行者保護装置30を適正に作動させることができるので、車両が歩行者に衝突した場合にその歩行者を適切に保護すると共に、車両が歩行者以外の軽障害物などに衝突した場合にその誤作動を防止することが可能となっている。
【0076】
尚、上記の第2実施例においては、第1の荷重N1の時間積分値又は第2の荷重N2の時間積分値が特許請求の範囲に記載された「パラメータ」に相当していると共に、ECU12のCPU16が上記図9に示すルーチン中ステップ208の処理を実行することにより特許請求の範囲に記載した「歩行者衝突判定手段」が実現されている。
【0077】
ところで、上記の第2実施例においては、歩行者衝突判定を行ううえでの判定パラメータとして、車体前部に加わる第1の荷重N1の時間積分値と車体前部に加わる第2の荷重の時間積分値とを用いることとしているが、荷重自体や荷重の時間積分値を自車速で除算することにより得られる衝突対象の有効質量などを用いることとしてもよいし、また、例えば第1の荷重N1の時間積分値と第2の荷重N2自体との組み合わせや第1の荷重N1に基づく有効質量と第2の荷重N2の時間積分値との組み合わせ或いはその逆の組み合わせの如く、第1の荷重N1側と第2の荷重N2側とで異種のパラメータを組み合わせることとしてもよい。この場合は、その判定パラメータに適したしきい値変化パターンが予め設定されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の第1実施例である車両に搭載されるシステムの構成図である。
【図2】本実施例のシステムが備える荷重センサの配設位置を模式的に表した図である。
【図3】車両が歩行者に衝突した場合とポストコーンに衝突した場合との衝突形態の違いを説明するための図である。
【図4】本実施例において歩行者衝突判定を行うための判定マップを表した図である。
【図5】本実施例の歩行者衝突判定装置において歩行者衝突判定を行うべく実行される制御ルーチンのフローチャートである。
【図6】本実施例の歩行者衝突判定装置において歩行者衝突判定を行うべく実行される制御ルーチンのフローチャートである。
【図7】図7(A)は車両がショッピングカートに衝突したときの状況を表した図である。また、図7(B)は車両がポストコーンに衝突したときの状況を表した図である。
【図8】本実施例において歩行者衝突判定を行うための判定マップを表した図である。
【図9】本実施例の歩行者衝突判定装置において歩行者衝突判定を行うべく実行される制御ルーチンのフローチャートである。
【符号の説明】
【0079】
10 歩行者衝突判定装置
12 ECU
16 CPU
24 第1の荷重センサ
26 第2の荷重センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部に配設され、車両に加わる第1の荷重に応じた信号を出力する第1の荷重センサと、前記第1の荷重センサの出力信号に基づいて検出される前記第1の荷重を用いたパラメータが所定のしきい値を超える場合に、車両と歩行者との衝突が生じたと判定する歩行者衝突判定手段と、を備える歩行者衝突判定装置であって、
車体前部の、前記第1の荷重センサの配設位置よりも上方に配設され、車両に加わる第2の荷重に応じた信号を出力する第2の荷重センサと、
前記第2の荷重センサの出力信号に基づいて検出される前記第2の荷重を用いたパラメータに応じて、前記所定のしきい値を変更するしきい値変更手段と、
を備えることを特徴とする歩行者衝突判定装置。
【請求項2】
前記しきい値変更手段は、前記第2の荷重センサの出力信号に基づいて検出される前記第2の荷重を用いたパラメータが所定値を超える場合に、該パラメータが該所定値を超えない場合に比して、前記所定のしきい値を小さくすることを特徴とする請求項1記載の歩行者衝突判定装置。
【請求項3】
前記しきい値変更手段は、前記第2の荷重センサの出力信号に基づいて検出される前記第2の荷重を用いたパラメータが大きいほど、前記所定のしきい値を小さくすることを特徴とする請求項1記載の歩行者衝突判定装置。
【請求項4】
車体前部に配設され、車両に加わる第1の荷重に応じた信号を出力する第1の荷重センサと、
車体前部の、前記第1の荷重センサの配設位置よりも上方に配設され、車両に加わる第2の荷重に応じた信号を出力する第2の荷重センサと、
前記第2の荷重センサの出力信号に基づいて検出される前記第2の荷重を用いたパラメータが所定値を超えないときは、前記第1の荷重センサの出力信号に基づいて検出される前記第1の荷重を用いたパラメータが第1のしきい値を超える場合に、一方、第2の荷重センサの出力信号に基づいて検出される前記第2の荷重を用いたパラメータが前記所定値を超えるときは、前記第1の荷重センサの出力信号に基づいて検出される前記第1の荷重を用いたパラメータが前記第1のしきい値よりも小さな第2のしきい値を超える場合に、車両と歩行者との衝突が生じたと判定する歩行者衝突判定手段と、
を備えることを特徴とする歩行者衝突判定装置。
【請求項5】
車体前部に配設され、車両に加わる第1の荷重に応じた信号を出力する第1の荷重センサと、
車体前部の、前記第1の荷重センサの配設位置よりも上方に配設され、車両に加わる第2の荷重に応じた信号を出力する第2の荷重センサと、
前記第1の荷重センサの出力信号に基づいて検出される前記第1の荷重を用いたパラメータと前記第2の荷重センサの出力信号に基づいて検出される前記第2の荷重を用いたパラメータとの関係が、予め画定された二次元マップのしきい値変化パターンを超える場合に、車両と歩行者との衝突が生じたと判定する歩行者衝突判定手段と、
を備えることを特徴とする歩行者衝突判定装置。
【請求項6】
前記パラメータが、荷重と荷重の積分値又は荷重の積分値を自車速で除算した値とからなる二次元パラメータであり、
前記所定のしきい値、前記第1のしきい値、又は前記第2のしきい値が、予め画定された二次元マップのしきい値変化パターンであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項記載の歩行者衝突判定装置。
【請求項7】
前記パラメータが、荷重自体、荷重の積分値、又は荷重の積分値を自車速で除算した値であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項記載の歩行者衝突判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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