説明

歩行補助装具の制御装置

【課題】利用者の運動に伴う歩行補助装具の慣性力影響と該装具に作用する重力の影響とを装具自身で補償しつつ、利用者自身がその脚で床に支えるべき力を適切に軽減し得る補助力(持ち上げ力)を利用者に作用させる歩行補助装置の制御装置を提供する。
【解決手段】歩行補助装具1の運動により歩行補助装具1で実際に発生する上下方向の慣性力と歩行補助装具1に作用する重力とに抗して床側から各脚リンク3L、3Rに作用する支持力の総和を装具自重補償力として推定する。持ち上げ力伝達部2から利用者Aに作用させる持ち上げ力の目標値と装具自重補償力の推定値との総和を目標総持ち上げ力とする。両脚リンクに床側から実際に作用する支持力の総和が目標総持ち上げ力になるように各脚リンク3L、3Rの関節12L、12Rを駆動するアクチュエータ27の駆動力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利用者(人)の歩行などの運動を補助する歩行補助装具の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の装置としては、例えば特許文献1に見られるものが知られている。この特許文献1には、利用者の各脚の大腿部、下腿部、足部に支持部材を装着し、これらの支持部材を連結する関節をアクチュエータにより駆動することによって、利用者に目標とする推進力を前記支持部材を介して付与するようにした装置(歩行介助装置)が記載されている。
【特許文献1】特開平5−329186号公報([0034]〜[0036]、図15および図16)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献1に記載されている装置は、利用者の移動方向に目標とする推進力を発生させることで利用者自身で発生させる必要がある推進力を軽減することは可能である。しかるに、特許文献1の図15を参照して明らかなように、利用者の体重は利用者自身が支えることとなるため、利用者の負担軽減が不十分であった。また、特許文献1のものは、利用者の運動に伴う前記支持部材やアクチュエータの運動によって発生する慣性力や装具に作用する重力の影響を補償する技術を持たない。このため、特に、利用者が俊敏な運動を行なおうとしたときに、装具の慣性力に抗する力を利用者自身が負担しなければならず、却って利用者の負担が増大する恐れがあった。
【0004】
また、特許文献1ものは、目標とする推進力を歩行補助装置の各脚で適切に分配する技術を持たないなため、利用者の各脚の動きに整合しない力が利用者の各脚に作用する恐れがあった。さらに、特許文献1のものは、歩行補助装置の支持部材が利用者の各脚の大腿部、下腿部、足平部にそれぞれ装着され、各脚の大腿部、下腿部、足平部に支持部材から力が作用するため、利用者に不快感を及ぼしやすいものとなっていた。
【0005】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、利用者の運動に伴う装具の慣性力影響と該装具に作用する重力の影響とを装具自身で補償しつつ、利用者自身がその脚で床に支えるべき力を適切に軽減し得る補助力(持ち上げ力)を利用者に作用させることができる歩行補助装具の制御装置を提供することを目的とする。さらに、その補助力を利用者の各脚に対応する脚リンクで適切に分担することができる歩行補助装具の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、本発明の歩行補助装具の制御装置は、利用者の体幹部に上向きの持上げ力を作用させ得るように該体幹部に接触される持上げ力伝達部と、利用者の各脚の足平にそれぞれ装着され、該利用者の各脚が立脚となるときに接地する左右一対の足平装着部と、複数の関節をそれぞれ有し、前記体幹接触部と各足平装着部とをそれぞれ連結する左右一対の脚リンクと、各脚リンクの少なくとも1つの関節を駆動する右側脚リンク用アクチュエータおよび左側脚リンク用アクチュエータとを備えた歩行補助装具の制御装置であって、
前記持上げ力の目標値を設定する目標持上げ力設定手段と、
前記歩行補助装具の運動により該歩行補助装具で実際に発生する上下方向の慣性力と該歩行補助装具に作用する重力とに抗して床側から各脚リンクに作用する支持力の総和を装具自重補償力として推定する装具自重補償力推定手段と、
前記持上げ力の目標値と前記推定された装具自重補償力との総和を前記歩行補助装具の目標総持上げ力として決定する目標総持上げ力決定手段と、
前記歩行補助装具の各脚リンクに床側から実際に作用する支持力の総和が前記目標総持上げ力になるように前記右側脚リンク用アクチュエータおよび左側脚リンク用アクチュエータの駆動力を制御するアクチュエータ制御手段とを備えたことを特徴とする(第1発明)。
【0007】
かかる第1発明によれば、前記持上げ力の目標値と前記推定された装具自重補償力との総和が前記歩行補助装具の目標総持上げ力とされる。そして、歩行補助装具の各脚リンクに床側から実際に作用する支持力の総和が前記目標総持上げ力になるように前記右側脚リンク用アクチュエータおよび左側脚リンク用アクチュエータの駆動力が制御される。
【0008】
この場合、前記持ち上げ力伝達部から利用者Aの体幹部に作用する持ち上げ力は、目標総持ち上げ力から、歩行補助装具の運動により該歩行補助装具で実際に発生する上下方向の慣性力と該歩行補助装具に作用する重力とに抗して床側から各脚リンクに作用する支持力の総和、すなわち、前記推定された装具自重補償力を差し引いた力となる。従って、前記目標持ち上げ力設定手段で設定された持ち上げ力の目標値をそのまま、持ち上げ力伝達部から利用者Aの体幹部に作用させることができることとなる。そして、その持ち上げ力の目標値の分だけ、利用者自身がその脚で床に支えるべき力が軽減されることとなる。
【0009】
従って、第1発明によれば、利用者の運動に伴う装具の慣性力の影響と該装具に作用する重力の影響とを装具自身で補償しつつ、利用者自身がその脚で床に支えるべき力を適切に軽減し得る補助力(持ち上げ力)を利用者に作用させることができる。
【0010】
なお、前記持ち上げ力伝達部としては、例えば、利用者の両脚の付け根の間に配置された状態で該利用者が着座可能な着座部が挙げられる。
【0011】
かかる第1発明では、前記利用者の各脚の踏力を、前記各足平装着部に備えた第1力センサの出力に基づき計測する踏力計測手段と、前記目標総持上げ力を、前記計測された利用者の左脚の踏力と右脚の踏力との比率に応じて分配することにより、該目標総持上げ力のうちの各脚リンクの負担分の目標値である目標負担分を決定する分配手段とを備え、前記アクチュエータ制御手段は、右側脚リンクに床側から実際に作用する支持力が該右側脚リンクに対応する前記目標負担分になるように前記右脚リンク用アクチュエータの駆動力を制御する手段と、前記左側脚リンクに床側から実際に作用する支持力が該左側脚リンクに対応する前記目標負担分になるように前記左側脚リンク用アクチュエータの駆動力を制御する手段とから構成されることが好ましい(第2発明)。
【0012】
この第2発明によれば、前記目標総持上げ力は、前記計測された利用者の左脚の踏力と右脚の踏力との比率に応じて分配され、該目標総持上げ力のうちの各脚リンクの目標負担分が決定される。そして、この目標負担分の支持力が各脚リンクに床側から作用するように各アクチュエータの駆動力が制御される。
【0013】
ここで、前記踏力計測手段で計測された利用者の各脚の踏力は、利用者が自身の体重や慣性力を各脚でどのように床に支えようとしているかの意思を反映している。例えば、右脚の踏力に対して左脚の踏力が大きければ、利用者は主に左脚の自身の重さなどを支えようとしている。
【0014】
従って、上記のように前記計測された利用者の左脚の踏力と右脚の踏力との比率に応じて、総目標持ち上げ力のうちの各脚リンクの目標負担分を決定することにより、利用者の各脚の踏力の比率に合わせて、各脚リンクの目標負担分を決定できる。より具体的には、各脚リンクの目標負担分は、例えば、それらの総和が総目標持ち上げ力に一致すると共に、右側脚リンクの目標負担分と左側脚リンクの目標負担分との比が、利用者の右脚の踏力と左脚の踏力との比に一致するように決定すればよい。
【0015】
これにより、利用者が望んでいる各脚の動作に合わせて、総目標持ち上げ力を各脚リンクに分配して負担させながら、目標とする持ち上げ力を持ち上げ力伝達部から利用者に円滑に作用させることができる。その結果、利用者の負担を効果的に軽減することができる。
【0016】
なお、前記第1力センサは、例えば、利用者の各脚が立脚となるときに、該脚の足平と床との間に介在するように各足平装着部に設ければよい。この場合、各足平装着部の第1力センサは、1つの力センサでもよいが、複数の力センサで構成してもよい。
【0017】
前記第2発明では、より具体的には、前記各脚リンクに床側から実際に作用する支持力を制御対象力として、該脚リンクに備えた第2力センサの出力に基づき計測する制御対象力計測手段を備え、前記右側脚リンク用アクチュエータの駆動力を制御する手段は、前記計測された右側脚リンクの制御対象力を該右側脚リンクに対応する前記目標負担分に近づけるように前記右脚リンク用アクチュエータをフィードバック制御する手段であり、前記左側脚リンク用アクチュエータの駆動力を制御する手段は、前記計測された左側脚リンクの制御対象力を該左側脚リンクに対応する前記目標負担分に近づけるように前記左脚リンク用アクチュエータをフィードバック制御する手段である(第3発明)。
【0018】
この第3発明によれば、各脚リンク毎に、該脚リンクに床側から実際に作用する支持力としての制御対象力を前記第2力センサの出力に基づき計測し、その計測した制御対象力を該脚リンクの目標負担分に近づけるように該脚リンク用のアクチュエータの駆動力がフィードバック制御される。このため、前記制御対象力が目標負担分になるように各アクチュエータの駆動力を制御することを確実に適切に行なうことができる。
【0019】
前記第1発明〜第3発明において、前記各脚リンクは、例えば、前記持上げ力伝達部に第1関節を介して連結された大腿フレームと、該大腿フレームに第2関節を介して連結された下腿フレームと、下腿フレームに前記足平装着部を連結する第3関節とから構成される。このような構造の脚リンクでは、第1関節、第2関節、第3関節は、それぞれ、利用者の股関節、膝関節、足首関節に対応する。この場合、前記第2発明または第3発明にあっては、例えば、次のようにして前記装具自重補償力を推定できる。
【0020】
その1つの例では、前記各脚リンクの第2関節の変位量を計測する関節変位量計測手段を備え、前記装具自重補償力推定手段は、前記計測された利用者の左右の各脚の踏力の総和に対する左側の脚の踏力の割合を、前記計測された左側の脚リンクの第2関節の変位量に乗じてなる値と、前記踏力の総和に対する右側の脚の踏力の割合を、前記計測された右側の脚リンクの第2関節の変位量に乗じてなる値との和である第2関節変位量代表値に基づき、前記歩行補助装具の重心の上下方向位置を逐次推定し、その上下方向位置の推定値の時系列と前記歩行補助装具の重量と重力加速度とから前記装具自重補償力を推定する(第4発明)。
【0021】
かかる第4発明において、前記第2関節変位量代表値は、歩行補助装具の重心の上下方向位置(床面からの高さ方向の位置)と比較的高い相関性を有する。従って、前記第2関節変位量代表値に基づいて、歩行補助装具の重心の上下方向位置を逐次推定できる。そして、歩行補助装具の重心の上下方向位置を推定できれば、その推定値の時系列と歩行補助装具の重量と重力加速度とから前記装具自重補償力を推定できる。すなわち、歩行補助装具の重心の上下方向位置の時系列から該重心の上下方向の運動加速度を特定できるので、例えば、その運動加速度と重力加速度との和に歩行補助装具の重量を乗じたものが、前記装具自重補償力の推定値に相当するものとなる。この第4発明によれば、装具自重補償力を簡易な手法で容易に推定できる。
【0022】
あるいは、他の例では、前記各脚リンクの第2関節の変位量を計測する関節変位量計測手段と、前記持上げ力伝達部の加速度を検出する加速度センサとを備え、前記装具自重補償力推定手段は、前記加速センサの出力と前記歩行補助装具のうちの前記持上げ力伝達部と一体に可動な部分ある装具基部のあらかじめ設定された重量とに基づき、前記装具自重補償力のうちの装具基部の重量に起因する第1成分を推定する手段と、前記歩行補助装具のうちの該右側脚リンクと一体に前記装具基部に対して相対的に可動な部分である装具右脚部の重心の前記装具基部に対する相対的な上下方向位置を前記計測された右側脚リンクの第2関節の変位量に基づき推定する手段と、その推定された装具右脚部の重心の相対的な上下方向位置の時系列と該装具右脚部のあらかじめ設定された重量と前記加速度センサの出力とに基づき、前記装具自重補償力のうちの装具右脚部の重量に起因する第2成分を推定する手段と、前記歩行補助装具のうちの左側脚リンクと一体に前記装具基部に対して相対的に可動な部分である装具左脚部の重心の前記装具基部に対する相対的な上下方向位置を前記計測された左側脚リンクの第2関節の変位量に基づき推定する手段と、その推定された装具左脚部の重心の相対的な上下方向位置の時系列と該装具左脚部のあらかじめ設定された重量と前記加速度センサの出力とに基づき、前記装具自重補償力のうちの装具左脚部の重量に起因する第3成分を推定する手段とを備え、前記推定された第1〜第3成分の総和を前記装具自重補償力として推定する(第5発明)。
【0023】
この第5発明において、前記装具自重補償力は、前記装具基部の重量に起因する第1成分(該装具基部に作用する重力と該装具基部で発生する慣性力との和に抗する支持力)と、前記装具右脚部(該装具右脚部に作用する重力と該装具右脚部で発生する慣性力との和に抗する支持力)と、前記装具左脚部(該装具左脚部に作用する重力と該装具左脚部で発生する慣性力との和に抗する支持力)との総和となる。なお、装具基部に関し、前記持ち上げ力伝達部に固定された部分というのは、該持ち上げ力伝達部に対する相対位置が変化しないか、もしくはその変化が微小な部分を意味する。また、装具右脚部には、前記右側脚リンクが含まれることはもちろん、右側脚リンクと一体に前記第1関節の動作によって持ち上げ力伝達部に対して相対運動が可能な部材(例えば右側脚リンクに連結される足平装着部など)が含まれる。装具左脚部についても装具右脚部と同様である。
【0024】
この場合、前記第1成分については、前記加速度センサの出力が表す加速度(これは重力加速度の成分を含む)が装具基部の加速度を表しているので、該加速度センサの出力と該装具基部の重量とに基づき前記第1成分を推定できる。すなわち、加速度センサの出力が表す加速度(上下方向の加速度)に装具基部の重量を乗じたものが、第1成分の推定値に相当するものとなる。
【0025】
また、前記第2成分に関し、前記計測された右側脚リンクの第2関節の変位量は、装具基部に対する装具右脚部の相対的な上下方向位置と高い相関性を有する。従って、該右側脚リンクの第2関節の変位量を基に、装具右脚部の相対的な上下方向位置を逐次推定できる。そして、該装具右脚部の相対的な上下方向位置の推定値の時系列と該装具右脚部の重量と前記加速度センサの出力とに基づき、前記第2成分を推定できる。すなわち、装具右脚部の重心の相対的な上下方向位置の時系列から、装具基部に対する該重心の上下方向の相対的な運動加速度を特定できるので、例えば、その相対的な運動加速度と加速度センサの出力が表す上下方向の加速度(=装具基部の上下方向の加速度)との和(これは装具右脚部の加速度を意味する)に装具右脚部の重量を乗じたものが、前記第2成分の推定値に相当するものとなる。
【0026】
また、前記第3成分に関しては、前記計測された左側脚リンクの第2関節の変位量は、装具基部に対する装具左脚部の相対的な上下方向位置と高い相関性を有する。従って、該左側脚リンクの第2関節の変位量を基に、装具左脚部の相対的な上下方向位置を逐次推定できる。そして、該装具左脚部の相対的な上下方向位置の推定値の時系列と該装具左脚部の重量と前記加速度センサの出力とに基づき、前記第3成分を推定できる。すなわち、装具左脚部の重心の相対的な上下方向位置の時系列から、装具基部に対する該重心の上下方向の相対的な運動加速度を特定できるので、例えば、その相対的な運動加速度と加速度センサの出力が表す上下方向の加速度との和(これは装具左脚部の加速度を意味する)に装具左脚部の重量を乗じたものが、前記第3成分の推定値に相当するものとなる。
【0027】
そして、上記の如く推定される第1〜第3成分を加え合わせることで、前記装具自重補償力を推定できることとなる。
【0028】
かかる第5発明によれば、各脚リンクの第2関節の変位量に加えて、前記加速度センサの出力を使用することで、より精度よく装具自重補償力を推定できる。その結果、持ち上げ力の目標値への制御をより適切に行なうことができる。
【0029】
なお、前記第1関節は、前記持ち上げ力伝達部に対して、各脚リンクの前後方向の振り出し運動と、内転・外転運動とを可能とする関節であることが好ましい。また、第2関節は、各脚リンクの屈伸運動を可能とする関節であることが好ましい。
【0030】
また、各足平装着部は、利用者の各脚が立脚となるときに、該利用者の足平と床面との間に介在する平板状の部分と、この部分を脚リンクに連結する高剛性の部分とから構成される部材を備えることが好ましい。一例として、各足平装着部は、該足平装着部を装着する利用者の足平をそのつま先側から挿入する高剛性の環状部材(例えば鐙状の部材)を備え、この環状部材を介して脚リンクに連結されることが好ましい。このような部材を足平装着部に備えることにより、歩行補助装具に作用する重力や該歩行補助装具で発生する慣性力を利用者にほとんど作用させることなく、床に作用させるようにすることが可能となる。なお、環状部材の両側壁部のうちの一方の側壁部を除いてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の第1実施形態を以下に図面を参照しつつ説明する。
【0032】
まず、図1〜図3を参照して、本実施形態の歩行補助装具の機構的な構造を説明する。図1は該歩行補助装具1の側面図、図2は図1のII線矢視図、図3は図1のIII−III線断面図である。なお、これらの図1〜図3の歩行補助装具1は、それを利用者A(仮想線で示す)に装備して動作させた状態で示している。この場合、図示の利用者Aはほぼ直立姿勢で起立している。但し、図2では、歩行補助装具1の構造を判り易くするために、利用者Aは、その両脚を左右に開いた姿勢を採っている。
【0033】
図1および図2を参照して、歩行補助装具1は、利用者Aの体重の一部を支持する(利用者が自身の脚(立脚)で支持する重量を自身の体重よりも軽減する)体重免荷アシスト装置である。この歩行補助装具1は、利用者Aが着座する着座部2と、この着座部2に左右一対の脚リンク3L,3Rをそれぞれ介して連結された左右一対の足平装着部15L,15Rとを備えている。脚リンク3L,3Rは互いに同一構造であり、足平装着部15L,15Rは互いに同一構造である。なお、図1では、脚リンク3L,3Rは、同じ姿勢で利用者Aの左右方向(図1の紙面に垂直な方向)に並んでおり、この状態では、図面上、重なっている(左側の脚リンク3Lが図の手前側に位置している)。図1の足平装着部15L,15Rについても同様である。
【0034】
ここで、本明細書の実施形態の説明では、符号「R」は、利用者Aの右脚もしくは歩行補助装具1の右側の脚リンク3Rに関連するものという意味で使用し、符号「L」は、利用者Aの左脚もしくは歩行補助装具1の左側の脚リンク3Lに関連するものという意味で使用する。但し、左右を特に区別する必要が無いときは、符号R,Lをしばしば省略する。
【0035】
着座部2は、サドル状のものであり、利用者Aは着座部2を跨ぐようにして(着座部2を利用者Aの両脚の付け根の間に配置するようにして)、該着座部2の上面(座面)に着座可能とされている。この着座状態では、着座部2は、利用者Aの股下で該利用者Aの体幹部(上体)に接触するので、着座部2から利用者Aに、該利用者Aの体重の一部を支持するための上向きの持上げ力を付与することが可能となっている。従って、着座部2は、本発明における持上げ力伝達部に相当する。
【0036】
また、着座部2の前端部2fと後端部2rとは、図1に示す如く、上方側に突出されており、これにより、利用者Aの着座部2に対する着座位置(前後方向の位置)が着座部2の前端部2fと後端部2rとの間に規制されるようになっている。なお、着座部2の前端部2fは、図2に示す如く二股状に形成されている。
【0037】
また、着座部2の所定の部位、例えば下面部には、加速度センサ80が装着されている。ただし、この加速度センサ80は、後述する第2実施形態で使用するものであり、本実施形態では省略してよい。
【0038】
補足すると、本実施形態では、持上げ力伝達部を着座部2により構成したが、持上げ力伝達部を、例えば利用者Aの体幹部(上体)の外周囲に固定的に装着されるような部材、あるいは、利用者Aの腰部に履かせるように装着される部材(例えば複数の布状部材を連結して構成された部材)により構成してもよい。持上げ力伝達部は、利用者Aの体幹部との間で、上下方向に力(並進力)を作用させ得るように利用者Aの体幹部に接触する部分を備えていればよい。利用者Aの拘束感を軽減すると共に、持上げ力を効率よく利用者Aの体幹部に作用させる上では、持上げ力伝達部は、利用者Aの股下や臀部に下方から接触する部分を有し、その部分から持上げ力の全体もしくは大部分を利用者Aの体幹部に作用させ得る構造であることが好ましい。
【0039】
各脚リンク3は、それぞれ着座部2の下面部に第1関節10を介して連結された大腿フレーム11と、この大腿フレーム11に第2関節12を介して連結された下腿フレーム13と、この下腿フレーム13を足平装着部15に連結する第3関節14とを備えている。
【0040】
各脚リンク3の第1関節10は、利用者Aの股関節に相当する関節であり、該脚リンク3の左右方向の軸回りの揺動運動(脚リンク3の前後方向の振り出し運動)と、前後方向の軸回りの揺動運動(内転・外転運動)とを可能とする関節である。この第1関節10は、着座部2の下側に配置されており、着座部2の下面部の前側寄りの箇所と後端箇所とで図1の一点鎖線で示す前後方向の軸心C上に同軸に配置された一対の軸ピン20f,20rと、この軸ピン20f,20rにそれぞれ回転自在に軸支されたブラケット21f,21rと、これらのブラケット21f,21rの下端部に固定された円弧状のガイドレール22と、このガイドレール22に沿って移動自在に該ガイドレール22に支承されたプレート23とを備えている。そして、このプレート23から斜め前方および下方に向かって前記大腿フレーム11が延設されている。該大腿フレーム11は大略ロッド状の部材であり、プレート23と一体に構成されている。
【0041】
各軸ピン20f,20rは、それぞれの両端部(前後端部)が着座部2の下面部に固定された軸受け24f,24rを介して該着座部2に固定されている。そして、ブラケット21fは、その上端部が軸ピン20fの中間部の外周に嵌合されて該軸ピン20fに軸支され、該軸ピン20fの軸心Cまわりに回転自在とされている。同様に、ブラケット21rは、その上端部が軸ピン20rの中間部の外周に嵌合されて該軸ピン20rに軸支され、該軸ピン20rの軸心Cまわりに回転自在とされている。従って、各第1関節10のガイドレール22は、ブラケット21f,21rと共に、軸ピン20f,20rの軸心Cを回転軸心として、揺動するようになっている。なお、本実施形態では、脚リンク3R,3Lのそれぞれの第1関節10R,10Lは、回転軸心Cを共通としており、軸ピン20f,20rを脚リンク3Rの第1関節10Rと脚リンク3Lの第1関節10Lとで共用している。すなわち、右側の第1関節10Rのブラケット21fRおよび左側の第1関節10Lのブラケット21fLは、いずれも共通の軸ピン20fに軸支され、右側の第1関節10Rのブラケット21rRおよび左側の第1関節10Lのブラケット21rLは、いずれも共通の軸ピン20rに軸支されている。
【0042】
各脚リンク3の第1関節10のプレート23は、ガイドレール22の円弧を含む面に平行な姿勢で該ガイドレール22に近接して配置されている。このプレート23には、図1に示すように複数(例えば4個)の回転自在なローラ25を有するキャリア26が固定されており、このキャリア26のローラ25がガイドレール22の上面(内周面)および下面(外周面)に同数づつ転動自在に係合されている。これにより、プレート23は、ガイドレール22に沿って移動自在とされている。この場合、ガイドレール22と着座部2との位置関係およびガイドレール22の円弧の半径は、ガイドレール22の円弧の中心点Pが、図1に示すように歩行補助装具1を矢状面で見たとき、着座部2の上側に存在するように設定されている。
【0043】
以上説明した第1関節10の構成により、プレート23と一体の大腿フレーム11は、利用者Aの前後方向の回転軸心Cのまわりに揺動自在とされ、この揺動運動により、各脚リンク3の内転・外転運動が可能とされる。また、プレート23と一体の大腿フレーム11は、前記中心点Pを通る左右方向の軸まわりに(より正確にはガイドレール22の円弧を含む面に垂直で中心点Pを通る軸まわりに)揺動自在とされ、この揺動運動により、各脚リンク3の前後の振り出し運動が可能とされる。なお、本実施形態では、第1関節10は、前後方向および左右方向の2軸まわりの回転運動を可能とする関節であるが、さらに、上下方向の軸まわりの回転運動(各脚リンク3の内旋・外旋運動)が可能なように(すなわち、3軸まわりの回転運動が可能なように)第1関節を構成してもよい。あるいは、第1関節は、左右方向の1軸まわりの回転運動だけを可能とする関節(各脚リンク3の前後の揺動運動だけを可能とする関節)であってもよい。
【0044】
また、各脚リンク3の第1関節10のプレート23は、図1に示す如く、歩行補助装具1を矢状面で見たとき、前記キャリア26の箇所から着座部2の後方側に向かって延在しており、このプレート23の後端部には、電動モータ27と、この電動モータ27のロータの回転角(所定の基準位置からの回転角)を検出する回転角検出手段としてのロータリエンコーダ28とが同軸に取り付けられている。本実施形態では、各脚リンク3の第1〜第3関節10,12,14のうちの第2関節12を駆動するようにしており、上記電動モータ27は、第2関節12を駆動するアクチュエータである。また、ロータリエンコーダ28が検出する回転角は、第2関節12の変位量としての回転角(屈曲角度)を計測するために利用される。
【0045】
なお、左側脚リンク3Lの電動モータ27Lと、右側脚リンク3Rの電動モータ27Rとは、それぞれ本発明における左側脚リンク用アクチュエータ、右側脚リンク用アクチュエータに相当する。各アクチュエータは、油圧もしくは空圧アクチュエータを使用してもよい。また、各アクチュエータは、例えば着座部2の後部に適宜のブラケットを介して固定したり、各脚リンク3の大腿フレーム11に固定してもよい。あるいは、各アクチュエータを各脚リンク3の第2関節12に取り付けて、該第2関節12を直接的に駆動するようにしてもよい。また、第2関節12の変位量を検出するセンサ(関節変位量センサ)は、各脚リンク3の第2関節12に直接的に取り付けてあってもよい。さらには、関節変位量センサは、ロータリエンコーダに代えて、ポテンショメータ等により構成してもよい。
【0046】
各脚リンク3の第2関節12は、利用者Aの膝関節に相当する関節であり、該脚リンク3の伸展・屈曲運動を可能とする関節である。この第2関節12は、大腿フレーム11の下端部と下腿フレーム13の上端部とを左右方向の軸心(より正確には、前記ガイドレール22の円弧を含む面に垂直な方向の軸心)を有する軸ピン29を介して連結し、その軸ピン29の軸心まわりに下腿フレーム13を大腿フレーム11に対して相対回転自在としている。なお、第2関節12には、大腿フレーム11に対する下腿フレーム13の回転可能範囲を規制する図示しないストッパが設けられている。
【0047】
各脚リンク3の下腿フレーム13は、該脚リンク3の第2関節12から斜め下方に延在する大略ロッド状のものである。この下腿フレーム13は、より詳しくは、第3関節14寄りの部分を構成する下部下腿フレーム13bと、この下部下腿フレーム13bよりも上側の部分を構成するロッド状の上部下腿フレーム13aとを、これらの間に力センサ30(これは本発明における第2力センサに相当する)を介在させて連結することで構成されている。下部下腿フレーム13bは、上部下腿フレーム13aに比して十分に短いものとされている。従って、力センサ30は、足平装着部15寄りの位置で、各脚リンク3の下腿フレーム13に介装されている。該力センサ30は、3軸の並進力(力センサ30の表面に垂直な軸方向の並進力と該表面に平行で且つ互いに直交する2つの軸方向の並進力)を検出する3軸力センサである。但し、本実施形態では、後述するように、検出される3軸の並進力のうちの2軸の並進力の検出値だけを利用する。従って、力センサ30を2軸の並進力を検出する2軸力センサで構成してもよい。
【0048】
また、下腿フレーム13の上部下腿フレーム13aの上端部には、前記第2関節12の軸ピン29のまわりに該下腿フレーム13と一体に回転自在なプーリ31が固定されている。このプーリ31の外周部には、前記電動モータ27の回転駆動力を該プーリ31に伝達する駆動力伝達手段としての一対のワイヤ32a,32bの端部が固定されている。これらのワイヤ32a,32bは、プーリ31の外周部の直径方向に対向する2箇所からそれぞれ該プーリ31の接線方向に引き出され、大腿フレーム11沿いに配管された図示しないゴム管(ワイヤの保護管)の中を通って、電動モータ27の回転駆動軸(図示省略)に連結されている。この場合、電動モータ27の回転駆動軸の正転によってワイヤ32a,32bの一方がプーリ31に巻き取られつつ他方がプーリ31から引きだされ、また、電動モータ27の回転駆動軸の逆転によってワイヤ32a,32bの他方がプーリ31に巻き取られつつ一方がプーリ31から引き出されるようにこれらのワイヤ32a,32bに電動モータ27から張力が付与されるようになっている。これにより、電動モータ27の回転駆動力がワイヤ32a,32bを介してプーリ31に伝達され、該プーリ31が回転駆動される(該プーリ31を固定した下腿フレーム13が大腿フレーム11に対して第2関節12の軸ピン29の軸心まわりに回転する)ようになっている。
【0049】
なお、下腿フレーム13の下部下腿フレーム13bの下端部は、図3に示す如く、二股状に形成された2股状に形成された二股部13bbとなっている。
【0050】
各脚リンク3の第3関節14は、利用者Aの足首関節に相当する関節である。この第3関節14は、本実施形態では、図3に示す如く、3軸まわりの回転を可能とするフリージョイント33(図3参照)により構成され、このフリージョイント33が下腿フレーム13の下部下腿フレーム13bの前記二股部13bbに介装されて、該下腿フレーム13の下端部(二股部13bb)と足平装着部15の上部の連結部34とを連結している。これにより、足平装着部15は、下腿フレーム13に対して3自由度の回転が可能となっている。
【0051】
各足平装着部15は、利用者Aの各足平に履かせる靴35と、この靴35の内部に収容されて上端部が前記連結部34に固定された鐙形状の環状部材36とを備えている。環状部材36は、高剛性の金属などにより構成され、図3に示す如く、その平坦な底板部を靴35の内部の底面に当接させ、且つその底板部の両端に連なる湾曲部(側壁部)を靴35の側壁に沿わせるようにして靴35の内部に収容されている。また、靴35の内部には、靴35の内部の底面と環状部材36の底板部とを覆うようにして中敷部材37(図1では図示省略)が挿入されている。なお、連結部34は、靴35の靴紐装着部の開口を介して靴35の内部に挿入されている。
【0052】
利用者Aの各足平に各脚リンク3の足平装着部15を装着するときには、その足平のつま先側の部分を、環状部材36の内部を通し、且つ、該足平の底面に前記中敷部材37を敷くようにして、靴35の履き口から利用者Aの足平を靴35の内部に挿入し、さらに靴紐を締め付けることで、該足平に足平装着部15が装着されるようになっている。
【0053】
また、足平装着部15の中敷部材37の下面には、靴35の前部側の箇所(環状部材36の底板部よりも前側の箇所)と後側の箇所(環状部材36の底板部よりも後側の箇所)とに力センサ38,39が取り付けられている。従って、力センサ38,39は、利用者Aの足平の底面と、足平装着部15の接地部である靴35の底部との間に介装されている。前側の力センサ38は、足平装着部15を装着した利用者Aの足平のMP関節(中趾節関節)のほぼ直下に存するように配置され、また、後側の力センサ39は、該足平の踵のほぼ直下に存するように配置されている。これらの力センサ38,39は、本実施形態では、足平装着部15の底面(接地面)に垂直な方向(利用者Aの脚が立脚となる状態ではほぼ床面に垂直な方向)の並進力を検出する1軸力センサである。以降、力センサ38,39をそれぞれMPセンサ38、踵センサ39という。なお、MPセンサ38、踵センサ39は、それらを合わせて本発明における第1力センサを構成する。
【0054】
補足すると、中敷部材37は、柔軟な(可撓性の)材質で構成してもよいが、高剛性の材質で構成してもよい。中敷部材37を柔軟な材質で構成した場合には、その下面側に複数の力センサを設けることで、利用者Aの足平の底面の各部にかかる力を精度良く検出することができる。一方、中敷部材37を高剛性の材質で構成した場合には、利用者Aの足平全体による踏力を検出し易くなるので、中敷部材37の下面側に設置する力センサの個数を減らすことができる。
【0055】
また、利用者Aの各脚の踏力を検出するために、次のような構成を各足平装着部15に備えるようにしてもよい。すなわち、例えば前記環状部材36の内側に、利用者Aの足平をその底面側から支承可能な平板状の足平支承部材(例えば中敷部材37と同様の形状の部材)を配置し、この足平支承部材の両側部などから足平の甲の上側に延設したアーム部材を環状部材36の内面上端部に力センサを介して吊り下げる。この場合、足平支承部材やアーム部材は、環状部材36や靴35の内面に接触しないようにしておく。このようにすると、力センサには、踏力とほぼ同等の力が作用するので、該力センサの出力を基に、踏力を計測できる。
【0056】
以上が本実施形態の歩行補助装具1の機構的な構造である。補足すると、通常的な体型の利用者Aが直立姿勢で起立したとき、各脚リンク3の第2関節12が図1に示す如く利用者Aの脚よりも前方に突き出るようになっている。すなわち、大腿フレーム11の長さと下腿フレーム13の長さとは、それらの長さの和が通常的な体型の利用者Aの脚の股下寸法よりも多少長いものになるように設定されている。このような大腿フレーム11および下腿フレーム13の長さの設定と、上述の第2関節12に設けられたストッパとによって、大腿フレーム11および下腿フレーム13が一直線となってしまう特異点状態や、大腿フレーム11および下腿フレーム13が図1に示す状態とは逆に屈曲した状態が生じないようになっている。この結果、各脚リンク3の特異点状態や逆屈曲状態に起因して、歩行補助装具1の動作制御が不能となってしまうことが防止される。
【0057】
なお、各脚リンク3の第2関節は、直動型の関節であってもよい。
【0058】
以上の如く構成された歩行補助装具1では、詳細は後述するが、利用者Aの各脚の足平に足平装着部15を装着した状態で、各電動モータ27により各第2関節12のトルクを発生させることで、着座部2から利用者Aに上向きの持ち上げ力を作用させる。このとき、各足平装着部15,15の床との接地面に床反力が作用する。各足平装着部15の接地面に作用する床反力の合力は、利用者Aに作用する重力と、歩行補助装具1に作用する重力と、利用者Aおよび歩行補助装具1の運動によって発生する慣性力との和に釣り合うような力、すなわち、これらの重力と慣性力とに抗して床から作用する反力である。なお、利用者Aに作用する重力は、利用者Aの着衣(身に着けているもの)や所持物を含めた利用者Aの全重量に相当する重力(該全重量と重力加速度定数との積)を意味する。また、歩行補助装具1に作用する重力は、後述する制御装置を含めた歩行補助装具1の全重量に相当する重力(該全重量と重力加速度定数との積)を意味する。
【0059】
上記のように重力や慣性力に抗して歩行補助装具1や利用者Aに床側から作用する反力を本明細書では支持力という。そして、各足平装着部15の接地面に作用する床反力の合力を以降、全支持力という。なお、「力」は、一般的には、並進力成分とモーメント成分とから成るが、本明細書では、「力」は並進力を意味する。
【0060】
補足すると、上記慣性力は、利用者Aがほぼ静止している状態、あるいは、利用者Aの運動がゆっくり行なわれている状態では、十分に小さい。この場合には、全支持力は、利用者Aに作用する重力と歩行補助装具1に作用する重力との和に釣り合う力(上下方向の並進力)にほぼ一致する。
【0061】
ここで、本実施形態の歩行補助装具1では、その両足平装着部15,15だけが利用者Aに装着されて拘束されており、また、各足平装着部15には前記環状部材36が備えられている。このため、歩行補助装具1に作用する重力と、該歩行補助装具1が着座部2を介して利用者Aから受ける荷重(下向きの並進力)と、歩行補助装具1で発生する慣性力(より詳しくは上下方向の慣性力)とは、利用者Aにはほとんど作用せずに、両脚リンク3,3から両足平装着部15,15の環状部材36,36を経由して床面に作用する。
【0062】
従って、歩行補助装具1には、前記全支持力のうち、歩行補助装具1に作用する重力と、該歩行補助装具1が着座部2を介して利用者Aから受ける荷重と、該歩行補助装具1で発生する上下方向の慣性力との和に抗する支持力が床側から作用する。この支持力は、前記全支持力のうちの、歩行補助装具1で負担する支持力を意味する。以下、このように歩行補助装具1が負担する支持力を装具負担支持力という。
【0063】
利用者Aの両脚が立脚であるとき(歩行補助装具1の両足平装着部15,15が接地しているとき)は、前記装具負担支持力を左側の脚リンク3Lおよび足平装着部15Lの組と、右側の脚リンク3Rおよび足平装着部15Rの組とで分担して負担することとなる。すなわち、装具負担支持力のうちの一部の支持力を一方の脚リンク3側で負担し、残部の支持力を他方の脚リンク3側で負担することとなる。また、利用者Aの一方の脚だけが立脚であるとき(他方の脚が遊脚であるとき)には、前記装具負担支持力の全てを立脚側の脚リンク3および足平装着部15の組で負担することとなる。以降、装具負担支持力のうちの、各組の脚リンク3および足平装着部15で負担する支持力を脚リンク支持力と言い、右側の脚リンク3Rおよび足平装着部15Rの組で負担する支持力を右側脚リンク支持力、左側の脚リンク3Lおよび足平装着部15Lの組で負担する支持力を左側脚リンク支持力と言う。左側脚リンク支持力と右側脚リンク支持力との総和は装具負担支持力に一致する。
【0064】
なお、前記装具負担支持力のうち、歩行補助装具1に作用する重力と、該歩行補助装具1で発生する上下方向の慣性力との和に抗する支持力、すなわち、着座部2から利用者Aに作用する持上げ力を前記装具負担支持力から差し引いた支持力が、本発明における装具自重補償力に相当する。この装具自重補償力は、歩行補助装具1自身の重量に起因して、歩行補助装具1に作用する支持力を意味する。
【0065】
一方、利用者Aの両脚には、前記全支持力から前記装具負担支持力を差し引いた分の支持力が床面側から作用し、この支持力を利用者Aがその脚で負担することとなる。以下、このように利用者Aが負担する支持力を利用者負担支持力という。なお、利用者Aの両脚が立脚であるときは、前記利用者負担支持力を利用者Aの両脚で分担して負担することとなる。すなわち、利用者負担支持力のうちの一部の支持力を一方の脚で負担し、残部の支持力を他方の脚で負担することとなる。また、利用者Aの一方の脚だけが立脚であるときには、前記利用者負担支持力の全てを該一方の脚で負担することとなる。以降、利用者負担支持力のうちの、各脚で負担する支持力(各脚に床側から作用する支持力)を利用者脚支持力と言う。そして、右脚で負担する支持力を利用者右脚支持力、左脚で負担する支持力を利用者左脚支持力と言う。利用者左脚支持力と利用者右脚支持力との総和は利用者負担支持力に一致する。
【0066】
また、利用者Aが自身を支えるために各脚の足平を床面側に押し付ける力を該脚の踏力という。各脚の踏力は、上記利用者脚支持力に釣り合う力である。
【0067】
補足すると、各脚リンク3に連結された足平装着部15の接地状態において、該脚リンク3に備えた力センサ30には、該脚リンク3に係わる脚リンク支持力から、該脚リンク3の力センサ30の下側の部分(主に足平装着部15)に作用する重力に抗する支持力を差し引いた支持力が作用する。そして、その作用する支持力の3軸方向の成分(あるいは2軸方向の成分)が該力センサ30で検出される。ただし、各脚リンク3に備えた力センサ30の下側の部分(主に足平装着部15)の重量は、歩行補助装具1の全体の重量に比して十分に小さい。このため、該力センサ30に作用する力は、前記脚リンク支持力にほぼ等しい。従って、各脚リンク3の力センサ30は、実質的には、該脚リンク3に対応する脚リンク支持力を検出する。以降の説明では、力センサ30を支持力センサ30という。また、各支持力センサ30に作用する支持力の、両脚リンク3,3についての総和を総持ち上げ力(≒装具負担支持力)と言う。また、この総持ち上げ力のうちの各脚リンク3の負担分を総持ち上げ力負担分(≒脚リンク支持力)と言う。
【0068】
また、左側足平装着部15LのMPセンサ38Lおよび踵センサ39Lに作用する力の総和が前記利用者左脚支持力(あるいは左脚の踏力)に相当し、右側足平装着部15RのMPセンサ38Rおよび踵センサ39Rに作用する力の総和が前記利用者右脚支持力(あるいは右脚の踏力)に相当する。なお、本実施形態では、MPセンサ38および踵センサ39を1軸力センサとしたが、例えば靴33の底面にほぼ平行な方向の並進力をも検出する2軸力センサ、もしくは3軸力センサでもよい。MPセンサ38および踵センサ39は、少なくとも靴33の底面または床面にほぼ垂直な方向の並進力を検出し得るセンサであることが望ましい。
【0069】
なお、本実施形態では、歩行補助装具1に作用する重力と、該歩行補助装具1が着座部2を介して利用者Aから受ける荷重(下向きの並進力)と、歩行補助装具1で発生する慣性力(より詳しくは上下方向の慣性力)とを、利用者Aにほとんど作用せずに床面に作用させるようにするために、環状部材36を用いたが、例えば該環状部材36の両側部(湾曲部)の一方を省略した部材を使用してもよい。
【0070】
次に、上記の如く構成された歩行補助装具1の動作(電動モータ27R,27L)の動作)を制御する制御装置を説明する。
【0071】
図4は、該制御装置50の構成(ハード構成)を概略的に示すブロック図である。図示の如く、制御装置50は、マイクロコンピュータ(CPU、RAM、ROM)および入出力回路(A/D変換器など)により構成された演算処理部51と、前記電動モータ27R,27Lのそれぞれのドライバ回路52R,52Lと、歩行補助装置1による利用者Aの持ち上げ力(着座部2から利用者Aに作用させる上向きの並進力)の大きさの目標値を設定するための持ち上げ力設定用キースイッチ53と、利用者Aの持ち上げ力を発生させるか否かを選択する持ち上げ制御ON・OFFスイッチ54と、電源電池55と、該電源電池55に電源スイッチ56(ON・OFFスイッチ)を介して接続され、電源スイッチ56がON操作(閉成)されたときに電源電池55から制御装置50の各回路51,52R,52Lに電源電力を供給する電源回路57と備えている。
【0072】
この制御装置50は、着座部2の後端部あるいは前記プレート23R,23Lなどにブラケット(図示せず)を介して固定されている。また、持ち上げ力設定用キースイッチ53、持ち上げ制御ON・OFFスイッチ54および電源スイッチ56は、制御装置50の筐体(図示省略)の外面部に操作可能に装着されている。なお、持ち上げ力設定用キースイッチ53は、持ち上げ力の所望の目標値を直接的に設定し、あるいは、あらかじめ用意された複数種類の目標値から選択的に設定し得るように、テン・キースイッチあるいは複数の選択スイッチなどにより構成されている。
【0073】
制御装置50には、図示を省略する接続線を介して前記MPセンサ38R,38L、踵センサ39R,39L、支持力センサ30R,30L、ロータリエンコーダ28R,28Lが接続されている。そして、これらのセンサの出力信号が演算処理部51に入力される。また、演算処理部51には、持ち上げ力設定用キースイッチ53および持ち上げ制御ON・OFFスイッチ54の操作信号(それらのスイッチの操作状態を示す信号)も入力される。また、制御装置50には、前記ドライバ回路52R,52Lからそれぞれ電動モータ27R,27Lに電流を流すべく図示しない接続線を介して該電動モータ27R,27Lに接続されている。そして、演算処理部51は、後述する演算処理(制御処理)によって、各電動モータ27R,27Lの通電電流の指令値(以下、指示電流値という)を決定する。そして、演算処理部51は、この指示電流値で各ドライバ回路52R,52Lを制御することにより各電動モータ27R,27Lの発生トルク(駆動力)を制御するようにしている。
【0074】
なお、前記MPセンサ38R,38L、踵センサ39R,39L、支持力センサ30R,30Lの出力信号(電圧信号)は、これらのセンサの近くでプリアンプにより増幅した後に制御装置50に入力するようにしてもよい。また、前記MPセンサ38R,38L、踵センサ39R,39L、支持力センサ30R,30Lの出力信号は増幅された後、その電圧値がA/D変換されて演算処理部51に取り込まれる。
【0075】
前記演算処理部51は、その主な機能的手段として、図5のブロック図で示すような機能的手段を備えている。この機能的手段は、ROMに格納されたプログラムによって実現される機能である。
【0076】
図5を参照して、演算処理部51は、右側脚リンク3RのMPセンサ38Rおよび踵センサ39Rの出力信号が入力される右側踏力計測処理手段60Rと、左側脚リンク3LのMPセンサ38Lおよび踵センサ39Lの出力信号が入力される左側踏力計測処理手段60Lとを備えている。右側踏力計測処理手段60Rは、MPセンサ38Rおよび踵センサ39Rの出力信号の電圧値から、利用者Aの右脚の踏力の大きさ(前記利用者右脚支持力の大きさ)を計測する処理を行なう手段である。同様に、左側踏力計測処理手段60Lは、MPセンサ38Lおよび踵センサ39Lの出力信号の電圧値から、利用者Aの左脚の踏力の大きさ(前記利用者左脚支持力の大きさ)を計測する処理を行なう手段である。なお、これらの踏力計測処理手段60R,60Lは本発明における踏力計測手段に相当するものである。
【0077】
また、演算処理部51は、ロータリエンコーダ28R,28Lの出力信号(パルス信号)がそれぞれ入力される右側膝角度計測処理手段61Rおよび左側膝角度計測処理手段61Lとを備えている。これらの膝角度計測処理手段61R,61Lは入力された信号から、それぞれに対応する脚リンク3の第2関節12における屈曲角度(第2関節12の変位量)を計測する手段である。なお、各脚リンク3の第2関節12は、該脚リンク3の膝関節に相当するものであるので、以下、第2関節における屈曲角度を膝角度という。また、これらの膝角度計測処理手段61R,61Lは、本発明における関節変位量計測手段に相当するものである。
【0078】
また、演算処理部51は、右側脚リンク3Rの支持力センサ30Rの出力信号と前記右側膝角度計測処理手段61Rにより計測された右側脚リンク3Rの膝角度とが入力される右側支持力計測処理手段62Rと、左側脚リンク3Lの支持力センサ30Lの出力信号(出力電圧)と前記左側膝角度計測処理手段61Lにより計測された左側脚リンク3Lの膝角度とが入力される左側支持力計測処理手段62Lとを備えている。右側支持力計測処理手段62Rは、入力された支持力センサ30Rの出力信号および右側脚リンク3Rの膝角度の計測値を基に、前記右側脚リンク支持力のうちの支持力センサ30Rに作用する支持力、すなわち右側脚リンク3Rの前記総持ち上げ力負担分を計測する処理を行なう手段である。同様に、左側支持力計測処理手段62Lは、入力された支持力センサ30Lの出力信号および左側脚リンク3Lの膝角度の計測値を基に、前記左側脚リンク支持力のうちの支持力センサ30Lに作用する支持力、すなわち左側脚リンク3Lの前記総持ち上げ力負担分を計測する処理を行なう手段である。なお、これらの支持力計測処理手段62R,62Lは、本発明における制御対象力計測手段に相当するものである。
【0079】
また、演算処理部51は、上記各計測処理手段60R,60L,61R,60L,62R,62Lの計測値と、前記持ち上げ力設定用キースイッチ53および持ち上げ制御ON・OFFスイッチ54の操作信号とが入力される左右目標負担分決定手段63を備えている。この左右目標負担分決定手段63は、入力値を基に、前記総持ち上げ力(装具負担支持力)の目標値である目標総持ち上げ力を決定すると共に、その目標総持ち上げ力に対する各脚リンク3の負担分の目標値、すなわち各脚リンク3の前記総持ち上げ力負担分の目標値(以下、単に制御目標値という)を決定する処理を行なう手段である。なお、該制御目標値は、本発明における目標負担分に相当する。また、左右目標負担分決定手段63は、本発明における目標総持ち上げ力決定手段としての機能と分配手段としての機能と装具自重補償力推定手段としての機能とを併せ持つ。
【0080】
さらに、演算処理部51は、前記右側支持力計測処理手段62Rで計測された右側脚リンク3Rの総持ち上げ力負担分と前記左右目標負担分決定手段63で決定された右側脚リンク3Rの制御目標値と前記右側膝角度計測処理手段61Rで計測された右側脚リンク3Rの膝角度とが入力される右側フィードバック操作量決定手段64Rと、前記左側支持力計測処理手段62Lで計測された左側脚リンク3Lの総持ち上げ力負担分と前記左右目標持ち上げ力決定手段63で決定された左側脚リンク3Lの制御目標値と前記左側膝角度計測処理手段61Lで計測された左側脚リンク3Lの膝角度とが入力される左側フィードバック操作量決定手段64Lと、前記右側支持力計測処理手段62Rで計測された右側脚リンク3Rの総持ち上げ力負担分と前記左右目標負担分決定手段63で決定された右側脚リンク3Rの制御目標値と前記右側膝角度計測処理手段61Rにより計測された右側脚リンク3Rの膝角度とが入力される右側フィードフォワード操作量決定手段65Rと、前記左側支持力計測処理手段62Lで計測された左側脚リンク3Lの総持ち上げ力負担分と前記左右目標負担分決定手段63で決定された左側脚リンク3Lの制御目標値と前記左側膝角度計測処理手段61Lにより計測された左側脚リンク3Lの膝角度とが入力される左側フィードフォワード操作量決定手段65Lとを備えている。各フィードバック操作量決定手段64は、入力された総持ち上げ力負担分の計測値と制御目標値との偏差から所定のフィードバック制御則により該偏差を0に収束させるようにフィードバック操作量(各電動モータ27に対する前記指示電流値のフィードバック成分)を算出する手段である。また、各フィードフォワード操作量決定手段65は、入力された総持ち上げ力負担分の計測値と制御目標値と膝角度の計測値とから所定のフィードフォワード制御則によって総持ち上げ力負担分の計測値を制御目標値にするためのフィードフォワード操作量(各電動モータ27に対する前記指示電流値のフィードフォワード成分)を算出する手段である。
【0081】
そして、演算処理部51は、右側フィードバック操作量決定手段64Rで算出されたフィードバック操作量と右側フィードフォワード操作量決定手段65Rで算出されたフィードフォワード操作量とを加算する(フィードフォワード操作量をフィードバック操作量により補正する)ことで右側脚リンク3Rの電動モータ27R用の指示電流値を求める加算処理手段66Rと、左側フィードバック操作量決定手段64Lで算出されたフィードバック操作量と右側フィードフォワード操作量決定手段65Lで算出されたフィードフォワード操作量とを加算する(フィードフォワード操作量をフィードバック操作量により補正する)ことで左側脚リンク3Lの電動モータ27L用の指示電流値を求める加算処理手段66Lとを備えている。
【0082】
なお、前記フィードバック操作量決定手段64R,64L、フィードフォワード操作量決定手段65R,65L、および加算処理手段66R,66Lは、本発明におけるアクチュエータ制御手段に相当するものである。
【0083】
以上が、演算処理部51の演算処理機能の概略である。
【0084】
なお、図4および図5に示した加速度センサ80とこれに対応する破線矢印とは、後述する第2実施形態に関するものであり、本実施形態では不要である。
【0085】
次に、演算処理部51の処理の詳細説明を含めて、本実施形態の制御装置50の制御処理を説明する。本実施形態の歩行補助装具1では、前記電源スイッチ56をOFFにした状態では、各脚リンク3の第2関節12に駆動力が付与されないので、各関節10,12,14が自由に動くことができる状態となっている。この状態では、各脚リンク3は自重によって折りたたまれている。この状態で、利用者Aの各足平に各足平装着部15を装着した後に、該利用者Aもしくは付き添いの補助者が、着座部2を持ち上げて、利用者Aの股下に配置する。
【0086】
次いで、電源スイッチ56をON操作すると、制御装置50の各回路に電源電力が供給され、該制御装置50が起動する。そして、この状態で前記持上げ制御ON・OFFスイッチ54をON操作すると、前記演算処理部51が所定の制御処理周期で、以下に説明する処理を実行する。
【0087】
各制御処理周期において、演算処理部51は、まず、前記踏力計測処理手段60R,60Lの処理を実行する。この処理を図6を参照して説明する。図6は、踏力計測処理手段60R,60Lの処理の流れを示すブロック図である。なお、踏力計測処理手段60R,60Lのそれぞれの処理のアルゴリズムは同じであるので、図6では左側踏力計測処理手段60Lに関するものについては、括弧書きで示している。
【0088】
右側踏力計測処理手段60Rの処理について代表的に説明すると、まず、脚リンク3RのMPセンサ38Rの検出値(MPセンサ38Rの出力電圧値が示す力の検出値)と、踵センサ39Rの検出値(踵センサ39Rの出力電圧が示す力の検出値)とがそれぞれS101、S102においてローパスフィルタに通される。ローパスフィルタは、これらのセンサ38R,39Rの検出値からノイズ等の高周波成分を除去するものである。そのローパスフィルタのカットオフ周波数は例えば100Hzである。
【0089】
次いで、これらのローパスフィルタの出力がS103において加算される。これにより、利用者Aの右脚の踏力の暫定計測値FRF_p_Rが得られる。この暫定計測値FRF_p_Rには、右側足平装着部15Rの靴紐の締め付けなどに伴う誤差分が含まれる。
【0090】
そこで、本実施形態では、さらにS104において、この暫定計測値FRF_p_Rに変換処理を施す。これにより、最終的に利用者Aの右脚の踏力の計測値FRF_Rを得る。S104の変換処理は、図7に示すテーブルに従って行なわれる。すなわち、FRF_p_Rが所定の第1閾値FRF1以下であるときには、計測値FRF_Rが0とされる。これにより、足平装着部15Rの靴紐の締め付けなどに伴う微小な誤差分が計測値FRF_Rとして得られることが防止される。そして、暫定計測値FRF_p_Rが第1閾値FRF1よりも大きく、第2閾値FRF2(>FRF1)以下である場合には、FRF_p_Rの値の増加に伴い、計測値FRF_Rの値がリニアに増加させられる。そして、FRF_p_Rが第2閾値FRF2を超えると、FRF_Rの値が所定の上限値(FRF_p_Rが第2閾値FRF2に等しいときのFRF_Rの値)に保持される。なお、FRF_Rの上限値を設定する理由は後述する。
【0091】
以上が、右側踏力計測処理手段60Rの処理である。左側踏力計測処理手段60Lの処理も同様である。
【0092】
演算処理部51は、次に、前記膝角度計測処理手段61R,61Lの処理と、支持力計測処理手段62R,62Lの処理とを順次行なう。これらの処理を図8および図9を参照して以下に説明する。図8は膝角度計測処理手段61R,61Lの処理および支持力計測処理手段62R,62Lの処理の流れを示すブロック図である。なお、膝角度計測処理手段61R,61Lのそれぞれ処理のアルゴリズムは同じであり、また、支持力計測処理手段62R,62Lのそれぞれの処理のアルゴリズムは同じである。そこで、図8では左側膝角度計測処理手段61Lおよび左側支持力計測処理手段62Lに関するものについては、括弧書きで示している。
【0093】
右側膝角度計測処理手段61Rおよび右側支持力算出手段62Rの処理を以下に代表的に説明する。まず、右側膝角度計測処理手段61Rによって、S201およびS202の処理が実行され、右側脚リンク3Rの膝角度(第2関節12Rにおける脚リンク3Rの屈曲角度)の計測値θ1_Rが得られる。S201では、ロータリエンコーダ28Rの出力から、脚リンク3Rの膝角度の暫定計測値θ1p_Rが算出される。
【0094】
ここで、図9を参照して、本実施形態では、脚リンク3Rの第1関節10Rに係わる前記中心点P(大腿フレーム11Rの前後方向の揺動運動の回転中心となる点P。以下、前後揺動中心点Pという)と第2関節12Rの中心点とを結ぶ線分S1と、該第2関節12Rの中心点と第3関節14Rの中心点とを結ぶ線分S2との成す角度θ1_Rが右側脚リンク3Rの膝角度として計測される。左側脚リンク3Lの膝角度についても同様である。なお、図9では、脚リンク3の要部構成を模式化して示している。
【0095】
この場合、前記S201では、脚リンク3Rの大腿フレーム11Rと下腿フレーム13Rとが所定の姿勢関係になっている状態(例えば図1の姿勢状態)、すなわち、膝角度θ1_Rがある所定値になっている状態での第2関節12Rの回転位置を基準とし、この基準回転位置からの回転量(回転角変化量。これは電動モータ27Rのロータの回転量に比例する)がロータリエンコーダ28Rの出力信号から計測される。そして、この計測した第2関節12Rの回転量を上記基準回転位置での脚リンク3Rの膝角度の値(これはあらかじめ図示しないメモリに記憶保持される)に加算してなる値が前記暫定計測値θ1p_Rとして求められる。
【0096】
この暫定計測値θ1p_Rには、高周波のノイズ成分が含まれることがある。そこで、さらにS202において、このθ1p_Rをローパスフィルタに通すことで、最終的に脚リンク3Rの膝角度の計測値θ1_Rが得られる。
【0097】
以上が、右側膝角度計測処理手段61Rの処理である。左側膝角度計測処理手段61Lの処理も同様である。
【0098】
補足すると、本実施形態で、上記線分S1,S2のなす角度θ1を脚リンク3の膝角度として計測する理由は、その角度θ1の計測値を、詳細を後述する左右目標負担分決定手段63の処理などで使用するからである。
【0099】
ただし、本実施形態の歩行補助装具1では、各脚リンク3の大腿フレーム11の軸心と上記線分S1とのなす角度は一定となる。従って、各膝角度計測処理手段61では、例えば脚リンク3の大腿フレーム11の軸心と下腿フレーム13に係わる前記線分S2とのなす角度を該脚リンク3の膝角度として求めておくようにしてもよい。そして、後述する左右目標負担分決定手段63の処理などで、その膝角度から上記角度θ1を求めるようにしてもよい。
【0100】
上記のように脚リンク3Rの膝角度の計測値θ1_Rが求められた後、S203において、右側支持力計測処理手段62Rの処理が実行される。この処理では、S202で得られた膝角度の計測値θ1_Rと、支持力センサ30Rの検出値(支持力センサ30Rの出力信号の電圧値が示す2軸の力の検出値)とから、該支持力センサ30Rに作用する支持力(すなわち脚リンク3Rの前記総持ち上げ力負担分)の計測値Fankle_Rが算出される。この処理の詳細を前記図9を参照して説明する。
【0101】
脚リンク3Rの支持力センサ30Rに作用する支持力(総持ち上げ力負担分)Fankle_Rは、脚リンク3Rの第3関節14Rから下腿フレーム13Rに作用する並進力にほぼ等しい。そして、その並進力の向き、ひいては、Fankle_Rの向きは、本実施形態の歩行補助装具1では、脚リンク3Rの第3関節14の中心点と前記前後揺動中心点Pとを結ぶ線分S3に平行な方向となる。
【0102】
一方、支持力センサ30Rは、図示の如く、該支持力センサ30Rの表面(上面または下面)に垂直なz軸方向の力Fzと、このz軸に垂直で支持力センサ30Rの表面に平行なx軸方向の力Fxとを検出する。x軸、z軸は、支持力センサ30Rに固定された座標軸であり、前記ガイドレール22の円弧を含む面に平行な軸である。このとき、検出されるFz、Fxは、それぞれFankle_Rのz軸方向成分、x軸方向成分である。従って、図示の如く、Fankle_Rとz軸とのなす角度をθkとおくと、Fankle_Rは、Fz、Fxの検出値と、θkとから次式(1)により算出することができる。
【0103】

Fankle_R=Fx・sinθk+Fz・cosθk ……(1)

また、角度θkは次のように求められる。すなわち、線分S2と線分S3とのなす角度(=Fankleの向きと線分S2とのなす角度)をθ2とすると、線分S1,S2,S3を3辺とする三角形における線分S1,S2のそれぞれの長さL1,L2は、一定値(あらかじめ定められた既知の値)である。そして、線分S1,S2とのなす角度θ1は、右側膝角度計測処理手段61Rで前記したように得られた計測値θ1_Rである。従って、線分S1,S2のそれぞれの長さL1,L2(これらの値はあらかじめメモリに記憶保持される)と角度θ1の計測値θ1_Rとから幾何学的な演算によって、角度θ2が求められる。
【0104】
具体的には、線分S1,S2,S3を3辺とする三角形において、次式(2),(3)の関係式が成り立つ。なお、L3は、線分S3の長さである。
【0105】

L32=L12+L22−2・L1・L2・cosθ1 ……(2)
L12=L22+L32−2・L2・L3・cosθ2 ……(3)

従って、L1,L2の値と、角度θ1の計測値とから式(2)により、L3を算出できる。そして、その算出したL3の値と、L1,L2の値とから式(3)により、角度θ2を算出できる。
【0106】
さらに、z軸と線分S2とのなす角度をθ3とおくと、この角度θ3は、支持力センサ30の下腿フレーム13に対する取り付け角度によってあらかじめ定まる一定値である。そして、この一定値の角度θ3(この値はあらかじめ図示しないメモリに記憶保持されている)から、上記の如く算出された角度θ2を減算することで式(1)の演算に必要な角度θkの値が求められる。
【0107】
従って、本実施形態では、右側支持力計測処理手段62RのS203の処理では、上記の如く算出したθkと脚リンク3Rの支持力センサ30の検出値Fx,Fzとから前記式(1)により、右脚リンク3Rの総持ち上げ力負担分の計測値Fankle_Rが得られる。
【0108】
以上が右側支持力計測処理手段62RのS203の処理の詳細である。左側支持力計測手段62Lの処理も同様である。
【0109】
なお、本実施形態では、支持力センサ30を3軸力センサあるいは2軸力センサとし、前記式(1)により、各脚リンク3の総持ち上げ力負担分の計測値Fankleを得るようにした。ただし、支持力センサ30が1軸力センサであっても、計測値Fankleを得ることが可能である。例えば、支持力センサ30が図9のx軸方向の力Fxのみを検出するセンサである場合には、次式(4)により計測値Fankleを求めることができる。また、支持力センサ30が図9のz軸方向の力Fzのみを検出するセンサである場合には、次式(5)により計測値Fankleを求めることができる。
【0110】

Fankle=Fx/sinθk ……(4)
Fankle=Fz/cosθk ……(5)

但し、これらの式(4)または(5)を使用する場合には、角度θkが0度または90度に近い値になると、Fankleの値の精度が悪くなる。従って、前記式(1)によりFankleの計測値を得ることが望ましい。
【0111】
また、計測値Fankleは、Fxの2乗値とFzの2乗値との和の平方根を求めることによって得るようにしてもよい。この場合には、膝角度の計測値θ1は不要である。
【0112】
補足すると、以上説明した各計測処理手段60,61,62の処理は、必ずしも順番に行なう必要はない。例えば、各計測処理手段60,61,62の処理を時分割等により並列的に行なうようにしてもよい。但し、支持力計測処理手段62R,62Lの処理でθ1を使用する場合には、支持力計測処理手段62R,62Lの処理よりも膝角度計測処理手段61R,61Lの処理を先に行なう必要がある。
【0113】
なお、本実施形態では、各脚リンク3の総持ち上げ力負担分を計測するための支持力センサ30を、第3関節14と下腿フレーム13(より正確には上部下腿フレーム13a)との間に介在させるようにした。ただし、該支持力センサを第3関節14と足平装着部15の間(例えば第3関節14と足平装着部15の連結部34との間)に介在させるようにしてもよい。この場合には、第3関節14の回転角を計測して、第3関節14と足平装着部15の間の支持力センサで検出された支持力を座標変換することで、第3関節14から下腿フレーム13に作用する支持力を計測できる。
【0114】
次いで、演算処理部51は、前記左右目標負担分決定手段63の処理を実行する。この処理を図10を参照して以下に詳説する。図10は左右目標負担分決定手段63の処理の流れを示すブロック図である。
【0115】
S301において、前記キースイッチ53の操作による持ち上げ力の設定値がローパスフィルタに通される。該ローパスフィルタのカットオフ遮断周波数は例えば0.5Hzである。これにより、着座部2から利用者Aに作用させる持上げ力の目標値である目標持上げ力が決定される。S301におけるローパスフィルタは、持上げ力の設定値が変更された場合などに、着座部2から利用者Aに作用する持上げ力が急激に変化するのを防止するためのものである。持ち上げ力の設定値が一定に維持されている状態では、その設定値がそのまま目標持上げ力として決定される。
【0116】
次いで、S302において、歩行補助装具1に作用する重力と、歩行補助装具1で発生する慣性力との和に抗する支持力である前記装具自重補償力を推定する。この推定処理については後述する。
【0117】
そして、S303において、この装具自重補償力の推定値を前記目標持上げ力に加えることにより、前記総持上げ力の目標値である目標総持上げ力を決定する。
【0118】
なお、図示は省略するが、本実施形態では、前記持上げ制御ON・OFFスイッチ54がOFF操作されているときには、各支持力計測処理手段62によって前記したように求められた右側脚リンク3Rの総持ち上げ力負担分の計測値Fankle_Rと、左側脚リンク3Lの総持ち上げ力負担分の計測値Fankle_Lとを加算してなる値(これは総持ち上げ力の計測値に相当する)を、前記S301のローパスフィルタと同特性のローパスフィルタに通すことで、目標総持ち上げ力が決定される。従って、この場合の目標総持ち上げ力は、常に、現状の実際の総持ち上げ力を維持するように決定される。
【0119】
一方、S304において、各踏力計測処理手段60によって前記したように求められた右脚の踏力の計測値FRF_Rの大きさと、左脚の踏力の計測値FRF_Lの大きさとを基に、目標総持ち上げ力を左右の各脚リンク3に分配するための比である分配比が決定される。この分配比は、目標総持ち上げ力の、右側脚リンク3Rへの分配割合である右分配比と、左側脚リンク3Lへの分配割合である左分配比とからなり、両分配比の和は1である。
【0120】
この場合、右分配比は、計測値FRF_Rの大きさと計測値FRF_Lの大きさとの和に対するFRF_Rの大きさの比、すなわち、FRF_R/(FRF_R+FRF_L)に決定される。同様に、左分配比は、計測値FRF_Rの大きさと計測値FRF_Lの大きさと和に対するFRF_Lの大きさの比、すなわち、FRF_L/(FRF_R+FRF_L)に決定される。この場合、利用者Aの一方の脚が立脚となり、他方の脚が遊脚となる状態(すなわち片脚支持状態)では、遊脚となる脚に対応する分配比は0であり、立脚となる脚に対応する分配比は1である。
【0121】
ここで、前記各踏力計測処理手段60のS104の変換処理(図6参照)において、各脚の踏力の計測値FRFに上限値を設定した理由を説明する。利用者Aの両脚が立脚となる状態(すなわち両脚支持期の状態)において、各脚の踏力の前記暫定計測値FRF_pは一般には、滑らかに変化するわけではなく、頻繁な変動を生じやすい。このような場合に、暫定計測値FRF_pを基に、左右の分配比を決定すると、その分配比が頻繁に変化し、目標総持ち上げ力のうちの、各脚リンク3の分担割合が頻繁に変化しやすい。その結果、着座部2から利用者Aに作用する持ち上げ力の微小変動が生じやすい。ひいては、その微小変動が利用者Aに不快感を及ぼす恐れがある。そのために、本実施形態では、各脚の踏力の計測値FRFの上限値を設定し、両脚支持期の状態において、左右の分配比が頻繁に変化するような事態を防止した。この場合、両脚支持期の状態においては、基本的には開始直後の期間と、終了直前の期間とを除いて左右の分配比が共に1/2に維持されるようになり、左右の分配比が安定する。
【0122】
なお、前記図7において、閾値FRF1のみを有し、利用者Aの各脚の踏力の暫定計測値FRF_p_R(L)が閾値FRF1以上である場合にリニアに踏力の計測値FRF_R(L)が増加するように定めたテーブルに基づいて計測値FRF_R(L)を取得するようにしてもよい。暫定計測値FRF_pからFRF_R(L)を得るためのテーブルの閾値FRF1、FRF2等は、利用者Aが好む持ち上げ力のフィーリングや、歩行補助装置1の重量、制御装置50の計算能力などに応じて、適宜決定すればよい。
【0123】
補足すると、S304の処理で決定される右分配比および左分配比は、本実施形態では、前記S302の処理で使用される。このため、S304の処理は、S302、S303の処理よりも前に実行される。
【0124】
図10の説明に戻って、次に、右側脚リンク3Rに関するS305,S306の処理と、左側脚リンク3Lに関するS307,S308の処理とが実行される。右側脚リンク3Rに関するS305,S306の処理では、まず、S305において、前記S303で決定された目標総持ち上げ力に右分配比が乗算される。これにより、目標総持ち上げ力のうちの右側脚リンク3Rによる負担分としての総持ち上げ力負担分の暫定目標値Tp_Fankle_Rが求められる。そして、この暫定目標値Tp_Fankle_RをS306でローパスフィルタに通すことで、最終的に右側脚リンク3Rの総持ち上げ力負担分の目標値である制御目標値T_Fankle_Rが求められる。S306のローパスフィルタは、膝角度θ1の変動等に伴うノイズ成分を除去するためのものである。そのカットオフ周波数は、例えば15Hzである。
【0125】
同様に、左側脚リンク3Lに関するS307,S308の処理では、まず、S307において、前記S303で決定された目標総持ち上げ力に左分配比が乗算される。これにより、目標総持ち上げ力のうちの左側脚リンク3Lによる負担分としての総持ち上げ力負担分の暫定目標値Tp_Fankle_Lが求められる。そして、この暫定目標値Tp_Fankle_LをS308でローパスフィルタに通すことで、最終的に左側脚リンク3Lの総持ち上げ力負担分の目標値である制御目標値T_Fankle_Lが求められる。
【0126】
前記S302の処理は、本実施形態では、次のように実行される。図11は、その推定処理の流れを示すブロック図である。
【0127】
本実施形態におけるS302の処理では、前記各膝角度計測処理手段61で求められた各脚リンク3の膝角度の計測値θ1と、前記S304の処理で決定された分配比とを使用して、装具自重補償力が推定される。具体的には、まず、S1001,S1002の処理が実行される。S1001では、前記右側膝角度計測処理手段61Rで求められた脚リンク3Rの膝角度の計測値θ1_Rに、前記S304で決定された右分配比が乗算される。同様にS1002では、前記左側膝角度計測処理手段61Lで求められた脚リンク3Lの膝角度の計測値θ1_Lに、前記S304で決定された左分配比が乗算される。そして、S1001,S1002のそれぞれの演算結果の値がS1003で加え合わされ、この加算結果の値が、膝代表角度(これは本発明における第2関節変位量代表値に相当する)として求められる。この膝代表角度は、換言すれば、右分配比、左分配比を重み係数とする、膝角度の計測値θ1_R,θ1_Lの重み付き平均値である。このようにして求められる膝代表角度は、歩行補助装具1の重心の上下方向位置(床からの高さ位置)、ひいては装具自重補償力と高い相関関係を有する。
【0128】
そこで、本実施形態では、次に、S1004において、上記膝代表角度を基に、歩行補助装具1の重心(以下、装具重心という)の位置(上下方向位置)を求める。この場合、例えば膝代表角度から、あらかじめ設定された相関テーブル(膝代表角度と歩行補助装具1の重心の上下方向位置との相関関係を表すテーブル)に従って、装具重心の上下方向位置(該重心の床からの高さ)が求められる。なお、例えば、2つの剛体要素を膝関節に相当する関節で連結してなる剛体リンクモデル(2つの剛体要素間の角度が前記膝代表角度に一致し、且つ、一方の剛体要素が歩行補助装具1の各脚リンク3の第2関節12から上側の全体の重量と同等の重量を有し、他方の剛体要素が第2関節12から下側の全体の重量と同等の重量を有するような剛体リンクモデル)を用い、幾何学的な演算によって、歩行補助装具1の重心の上下方向位置を算出するようにしてもよい。
【0129】
次いで、上記の如く求めた装具重心の位置をS1005で2階微分することにより、該装具重心の上下方向の加速度(運動加速度)が算出される。そして、この装具重心の加速度と重力加速度(定数)との和がS1006で算出される。さらに、このS1006の演算結果の値に歩行補助装具1の全体重量である装具総質量がS1007で乗算され、その乗算結果の値が、装具自重補償力の推定値として得られる。
【0130】
上記のように装具自重補償力を推定することにより、簡易な手法で容易に装具自重補償力を推定することができる。
【0131】
以上が、S302を含めた左右目標負担分決定手段63の処理の詳細である。補足すると、S301〜S303の処理は、本発明における目標総持ち上げ力決定手段に相当する。また、S304〜S308の処理は、本発明における分配手段に相当する。また、S302の処理は、本発明における装具自重補償力推定手段に相当する。
【0132】
以上のようにして左右目標負担分決定手段63の処理を実行した後、演算処理部51は、フィードバック操作量決定手段64R,64Lおよびフィードフォワード操作量決定手段65R,65Lの処理を順次、もしくは並行して実行する。
【0133】
フィードバック操作量決定手段64R,64Lの処理を図11を参照して説明する。図12は、フィードバック操作量決定手段64R,64Lの処理の流れを示すブロック図である。なお、フィードバック操作量決定手段64R,64Lのアルゴリズムは同じであるので、図12では左側フィードバック操作量決定手段64Lに関するものについては、括弧書きで示している。
【0134】
右側フィードバック操作量決定手段64Rの処理について代表的に説明すると、まず、前記左右目標負担分決定手段63で決定された右側脚リンク3Rの制御目標値T_Fankle_Rと、前記右側支持力計測処理手段62で計測された右側脚リンク3Rの総持ち上げ力負担分の計測値Fankle_Rとの偏差(T_Fankle_R−Fankle_R)がS401で算出される。そして、この偏差にS402、S403においてそれぞれゲインKp、Kdが乗算される。さらに、S403の演算結果は、S404において微分され(図中の「s」は微分演算子を意味する)、その微分値とS402の演算結果とがS405で加算される。これにより、右側電動モータ27の電流の操作量Ifb_Rが偏差(T_Fankle_R−Fankle_R)を0に収束させるようにフィードバック制御則としてのPD制御則により算出される。操作量Ifb_Rは、右側電動モータ27の指示電流値のフィードバック成分を意味する。
【0135】
この場合、本実施形態では、前記ゲインKp,Kdの値は、S406において、脚リンク3Rの膝角度の計測値θ1_Rに応じて可変的に設定される。この理由は、脚リンク3Rの膝角度によって、電動モータ27Rの電流変化(トルク変化)に対する着座部2の持ち上げ力の変化の感度が変化するためである。この場合、膝角度θ1_Rが大きい程(脚リンク3Rが伸びるほど)、電動モータ27Rの電流変化(トルク変化)に対する着座部2の持ち上げ力の変化の感度が高くなる。このため、S406においては、図示を省略するデータテーブルに基づいて、基本的には、脚リンク3Rの膝角度の計測値θ1_Rが大きいほど、ゲインKp,Kdの値をそれぞれ小さくするように、該ゲインKp,Kdの値が設定される。
【0136】
以上が右側フィードバック操作量決定手段64Rの処理である。左側フィードバック操作量決定手段64Lの処理も同様である。なお、本実施形態では、フィードバック制御則としてPD制御則を用いたが、PD制御則以外のフィードバック制御則(例えばPID制御則)を使用してもよい。
【0137】
次に、フィードフォワード操作量決定手段65R,65Lの処理を図13を参照して説明する。図13は、フィードフォワード操作量決定手段65R,65Lの処理の流れを示すブロック図である。なお、フィードフォワード操作量決定手段65R,65Lのアルゴリズムは同じであるので、図13では左側フィードフォワード操作量決定手段65Lに関するものについては、括弧書きで示している。
【0138】
右側フィードフォワード操作量決定手段65Rの処理について代表的に説明すると、S501において、前記膝角度計測処理手段61Rで計測された脚リンク3Rの膝角度の計測値θ1_Rが微分されて該脚リンク3Rの第2関節12の屈曲角度の角速度ω1_Rが算出される。さらに、S502において、脚リンク3Rの膝角度の計測値θ1_Rと、前記支持力計測処理部62Rで計測された脚リンク3Rの総持ち上げ力負担分の計測値Fankle_Rとを用いて、脚リンク3Rのワイヤ32a,32bの実際の張力である実張力T1が算出される。この実張力T1の算出処理を図14を参照して説明する。なお、図14では、脚リンク3は模式化して記載している。また、図14では、図9と同じ要素には、同一の参照符号を付している。
【0139】
まず、脚リンク3Rの総持ち上げ力負担分の計測値Fankle_Rの線分S2に直交する成分Fankle_aが次式(6)により算出される。
【0140】

Fankle_a=Fankle_R・sinθ2 ……(6)

なお、角度θ2は、Fankle_Rと、線分S2とのなす角度であり、このθ2は、前記図9を参照して説明した通り、計測値θ1_Rを用いて幾何学的演算により算出される(前記式(2)、(3)を参照)。
【0141】
そして、このようにして求めたFankle_aに、次式(7)の通り、線分S2の長さL2が乗算される。これにより、Fankle_Rによって、第2関節12(膝関節)に生じるモーメントM1が算出される。
【0142】

M1=Fankle_a・L2 ……(7)

ワイヤ32a,32bの実張力T1によってプーリ31に発生するモーメントは、定常状態では上記モーメントM1に釣り合う。そこで、さらに、このモーメントM1を次式(8)の通り、プーリ31の有効半径rで除算することにより、ワイヤ32a,32bの実張力T1が算出される。
【0143】

T1=M1/r ……(8)

以上が、S502の処理の詳細である。
【0144】
図13の説明に戻って、さらに、S503において、脚リンク3Rのワイヤ32a,32bの目標張力T2が算出される。この目標張力T2は、前記左右目標持ち上げ力決定手段63の処理で決定された脚リンク3Rの制御目標値(総持ち上げ力負担分の目標値)に対応して、ワイヤ32a,32bに発生させるべき張力である。この目標張力T2の算出は、S502の算出処理と同様である。より具体的には、前記式(6)の右辺のFankle_Rを、前記左右目標持ち上げ力決定手段63の処理で決定された脚リンク3Rの制御目標値T_Fankle_Rに置き換えた式によって、制御目標値T_Fankle_Rの前記線分S2(図14参照)に直交する成分が算出される。そして、その算出した成分を、前記式(7)の右辺のFankle_aの代わりに用いることで、脚リンク3Rの第2関節12の目標モーメントが算出される。さらに、その目標モーメントを前記式(8)の右辺のM1の代わりに用いることで、ワイヤ32a,32bの目標張力T2が算出される。
【0145】
以上がS503の処理である。
【0146】
上記のようにS501〜S503の処理を実行した後、S504において、上記の如く算出された第2関節12の角速度ω1_R、ワイヤ32a,32bの実張力T1および目標張力T2を用いて、所定のフィードフォワード処理により電動モータ27Rの電流の操作量Iff_Rが決定される。操作量Iff_Rは、電動モータ27Rの指示電流値のフィードフォワード成分を意味する。
【0147】
このS504の処理では、次式(9)で表されるモデル式により、操作量Iff_Rが算出される。
【0148】

Iff_R=B1・T2+B2・ω1_R+B3・sgn(ω1_R) ……(9)
但し、B2=b0+b1・T1、B3=d0+d1・T1

ここで、式(9)中のB1は定数の係数、B2,B3は、それぞれ式(9)の但し書きで示す如く、実張力T1の一次関数で表される係数である。なお、b0,b1,d0,d1は定数である。また、sgn( )は、符号関数である。
【0149】
この式(9)は、電動モータ27の電流と、ワイヤ32a,32bの張力と、第2関節12の角速度ω1との関係を表すモデル式である。より詳しくは、式(9)の右辺の第1項は、張力の比例項、第2項はワイヤ32a,32bとプーリ31との間の粘性摩擦力に応じた項、第3項は、ワイヤ32a,32bとプーリ31との間の動摩擦力に応じた項を意味する。なお、式(9)の右辺には、さらに第2関節12の角加速度に応じた項(すなわち慣性力に応じた項)を追加してもよい。
【0150】
補足すると、式(9)の演算に使用する各定数B1,b0,b1,d0,d1は、あらかじめ、式(9)の左辺の値と右辺の値との差の2乗値を最小化するような同定アルゴリズムによって実験的に同定される。そして、同定された各定数B1,b0,b1,d0,d1は、図示しないメモリに記憶保持され、歩行補助装具1の動作時に使用される。
【0151】
以上が、右側フィードフォワード操作量決定手段65Rの処理である。左側フィードフォワード操作量決定手段65Lの処理も同様である。
【0152】
図5を参照して、以上のように、電動モータ27Rの電流の操作量Ifb_R,Iff_Rと、電動モータ27Lの電流の操作量Ifb_L,Iff_Lとを算出した後、演算処理部51は、加算処理手段66Rにより、操作量Ifb_R,Iff_Rを加算することにより、電動モータ27Rの指示電流値を決定する。また、演算処理部51は、加算処理手段66Lにより、操作量Ifb_L,Iff_Lを加算することにより、電動モータ27Lの指示電流値を決定する。そして、演算処理部51は、これらの指示電流値をそれぞれ各電動モータ27に対応するドライバ回路52に出力する。このとき、ドライバ回路52は、与えられた指示電流値に従って電動モータ27に通電する。
【0153】
以上説明した演算処理部51の制御処理が、所定の制御周期で実行される。これにより、各脚リンク3の実際の総持ち上げ力負担分の計測値Fankleが、該脚リンク3に対応する制御目標値T_Fankleに一致するように(収束するように)、電動モータ27の発生トルク、ひいては、該脚リンク3の第2関節12(膝関節)の駆動力が操作されることとなる。
【0154】
この場合、左右の各脚リンク3R,3Lに対応する制御目標値T_Fankle_R,T_Fankle_Lの和は、目標総持ち上げ力に一致する。そして、この目標総持ち上げ力は、持ち上げ力設定用キースイッチ53で設定された持ち上げ力の目標値に、前記装具自重補償力を加えた力である。このため、各脚リンク3R,3Lに床側から作用する支持力の総和(≒前記脚リンク支持力の総和)が、目標総持ち上げ力になるように、電動モータ27R,27Lの発生トルクが制御されることとなる。
【0155】
この結果、歩行補助装具1に作用する重力と、歩行補助装具1で発生する慣性力との和に抗する支持力を歩行補助装具1で負担させつつ、着座部2から利用者Aに実際に作用する持ち上げ力を目標値に適切に制御できる。つまり、歩行補助装具1で発生する慣性力や該歩行補助装具1に作用する重力の影響を適切に補償して、目標とする持ち上げ力を利用者Aに着座部2から作用させることができる。
【0156】
また、目標総持ち上げ力の各脚リンク3による負担分としての前記制御目標値T_Fankleは、右側の制御目標値T_Fankle_Rと左側の制御目標値T_Fankle_Lとの比が、利用者Aの右脚側の踏力の計測値FRF_Rと左脚側の踏力の計測値FRF_Lとの比に一致するように、それらの踏力の計測値FRF_R,FRF_Lの比率に応じて決定される。このため、目標総持ち上げ力の各脚リンク3による負担分を、利用者Aが意図する脚の動作に合わせて設定することができ、着座部2から利用者Aへの持ち上げ力を円滑且つ安定に利用者Aに作用させることができる。
【0157】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。なお、本実施形態は、前記第1実施形態と一部の構成および処理のみが相違するものであるので、その相違点を中心に説明し、第1実施形態と同一構成もしくは同一処理の部分については、説明を省略する。
【0158】
前記図1を参照して、本実施形態では、着座部2の所定の部位(例えば下面部)に装着された加速度センサ80を備え、この加速度センサ80の出力(加速度検出値)が、図4に破線矢印で示す如く、演算処理部51に入力される。なお、加速度センサ80は、上下方向の加速度を検出可能なセンサであり、その加速度検出値には、重力加速度の成分が含まれる。
【0159】
加速度センサ80から演算処理部51に入力される加速度検出値は、左右目標負担分63の処理で使用される(図5の破線矢印を参照)。より詳しくは、本実施形態では、加速度センサ80の加速度検出値(上下方向の加速度検出値)は、前記図10のS302で装具自重補償力を推定するために使用される。
【0160】
図15は、本実施形態における装具自重補償力の推定処理の流れを示すブロック図である。この推定処理では、加速度センサ80の加速度検出値と共に、前記各膝角度計測処理手段61で求められた各脚リンク3の膝角度の計測値θ1が使用される。この推定処理を概略的に説明すると、歩行補助装具1は、着座部2とこれに固定された部材とからなる部分(以下、装具基部という)と、右側脚リンク3Rを含み、着座部2に対して相対的に右側脚リンク3Rと一体に可動な部分(以下、装具右脚部という)と、左側脚リンク3Lを含み、着座部2に対して相対的に該左側脚リンク3Lと一体に可動な部分(以下、装具左脚部という)との集合体として扱われる。前記図1に示した構造の歩行補助装具1では、装具右脚部には、電動モータ27Rや足平装着部15Rが含まれ、装具左脚部には、電動モータ37Lや足平装着部15Lが含まれる。なお、着座部2に対して電動モータ27R,27Lを固定した場合には、該電動モータ27R,27Lは、前記装具基部に含まれることとなる。以降、装具基部、装具右脚部、および装具左脚部のそれぞれを総称的に装具構成部ということがある。
【0161】
そして、各装具構成部の重心の、実際の上下方向加速度(重力加速度の成分を含む)を検出または推定する。さらに、各装具構成部の上下方向加速度(絶対加速度)に、該装具構成部の重量を乗じることにより、該装具構成部に作用する重力と該装具構成部で発生している上下方向の慣性力の和に抗する支持力を推定する。この支持力は、前記装具自重補償力のうちの、当該装具構成部の重量に起因する成分を意味し、以下、装具部分自重補償力という。さらに、この装具部分自重補償力の推定値を、すべての装具構成部について加え合わせることにより、装具自重補償力の推定値を求める。
【0162】
以下にこの推定処理を図15を参照して具体的に説明する。
【0163】
まず、装具右脚部の重心の、着座部2に対する上下方向の相対加速度を求める(推定する)ためのS2001,S2002の処理と、装具左脚部の重心の、着座部2に対する上下方向の相対加速度を求める(推定する)ためのS2003,S2004の処理とが順次、もしくは並行して実行される。
【0164】
すなわち、S2001において、右側膝角度計測処理手段61Rで求められた脚リンク3Rの膝角度の計測値θ1_Rから、着座部2に対する装具右脚部の重心の相対位置(上下方向の相対位置)が求められる。この場合、例えば、脚リンク3Rの下端部(足平装着部15R)が着座部2の直下に位置するような状態における着座部2に対する装具右脚部の重心の相対位置(上下方向の相対位置)と、脚リンク3Rの膝角度との間の相関関係を表す相関データがあらかじめ設定されて、図示しないメモリに記憶保持されている。そして、S2001では、計測値θ1_Rから、この相関データに基づいて、着座部2に対する装具右脚部の重心の相対位置(上下方向の相対位置)が求められる。
【0165】
そして、このようにして求められた装具右脚部の重心の相対位置の時系列を、S2002において2階微分することにより、装具右脚部の重心の、着座部2に対する上下方向の相対加速度が推定される。
【0166】
同様に、S2003において、左側膝角度計測処理手段61Lで求められた脚リンク3Lの膝角度の計測値θ1_Lから、あらかじめ設定された相関データ(脚リンク3Lの下端部(足平装着部15L)が着座部2の直下に位置するような状態における着座部2に対する装具左脚部の重心の相対位置(上下方向の相対位置)と、脚リンク3Lの膝角度との間の相関関係を表す相関データ)に基づいて、着座部2に対する装具左脚部の重心の相対位置(上下方向の相対位置)が求められる。そして、このようにして求められた装具左脚部の重心の相対位置の時系列を、S2004において2階微分することにより、装具左脚部の重心の、着座部2に対する上下方向の相対加速度が推定される。
【0167】
次いで、S2005、S2006の処理が実行される。S2005では、加速度センサ80の加速度検出値を、前記S2002で求められた装具右脚部の相対加速度に加えることにより、装具右脚部の上下方向加速度(絶対加速度)が求められる。同様に、S2006では、加速度センサ80の加速度検出値を、前記S2004で求められた装具左脚部の相対加速度に加えることにより、装具左脚部の上下方向加速度(絶対加速度)が推定される。
【0168】
なお、加速度センサ80は、着座部2に装着されているので、加速度センサ80の加速度検出値は、装具基部の重心の絶対加速度(上下方向の絶対加速度)の検出値を意味する。
【0169】
次いで、S2007、S2008、S2009、S2010の処理が実行される。
【0170】
S2007では、加速度センサ80の加速度検出値、すなわち、装具基部の上下方向加速度の検出値に、装具基部の重量が乗算される。これにより、装具基部に関する装具部分自重補償力が求められる。また、S2008では、S2005で求められた装具右脚部の上下方向加速度の推定値に、装具右脚部の重量が乗算される。これにより、装具右脚部に関する装具部分自重補償力が求められる。また、S2009では、S2006で求められた装具左脚部の上下方向加速度の推定値に、装具左脚部の重量が乗算される。これにより、装具左脚部に関する装具部分自重補償力が求められる。
【0171】
そして、S2010では、上記の如く求められた装具基部、装具右脚部、装具左脚部のそれぞれの装具部分自重補償力が加え合わせられる。これにより、装具自重補償力の推定値が得られる。
【0172】
以上説明した以外の構成および処理は、前記第1実施形態と同一である。
【0173】
かかる本実施形態においても、前記第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、特に、装具自重補償力を推定するに際して、各脚リンク3の膝角度の計測値θ1に加えて、加速度センサ80による加速度検出値を使用することで、装具自重補償力をより精度よく推定することができる。その結果、持ち上げ力の目標値への制御をより精度よく行なうことができる。
【0174】
なお、以上説明した各実施形態では、各脚リンク3は、第1〜第3関節10,12,14を備えたが、より多くの関節を備えるようにしてもよい。ただし、その場合には、脚リンクを着座部(持ち上げ力伝達部)に連結する関節、および該脚リンクを脚平装着部に連結する関節以外の各関節を駆動するためのアクチュエータが必要となる。
【0175】
また、各脚リンクによる支持力の負担分を支持力センサ30を使用して計測するようにしたが、歩行補助装具1の動力学モデルを使用して、該支持力の負担分を推定するようにすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】本発明の第1実施形態における歩行補助装具1の側面図
【図2】図1のII線矢視図。
【図3】図1のIII−III線断面図。
【図4】図1の歩行補助装具の制御装置の構成(ハード構成)を概略的に示すブロック図。
【図5】図4の制御装置に備えた演算処理部51の機能的手段を示すブロック図。
【図6】踏力計測処理手段60R,60Lの処理の流れを示すブロック図。
【図7】図6のS104の処理で使用するテーブルを示すグラフ。
【図8】膝角度計測処理手段61R,61Lの処理の流れを示すブロック図。
【図9】図8のS201,S203の処理を説明するための図。
【図10】左右目標負担分決定手段63の処理の流れを示すブロック図。
【図11】図10のS302の処理の流れを示すブロック図。
【図12】フィードバック操作量決定手段64R,64Lの処理の流れを示すブロック図。
【図13】フィードフォワード操作量決定手段65R,65Lの処理の流れを示すブロック図。
【図14】図13のS502の処理を説明するための図。
【図15】本発明の第2実施形態における図10のS302の処理の流れを示すブロック図。
【符号の説明】
【0177】
1…歩行補助装具、2…着座部(持ち上げ力伝達部)、3…脚リンク、10…第1関節、11…大腿フレーム、12…第2関節、13…下腿フレーム、14…第3関節、15…足平装着部、27…電動モータ(アクチュエータ)、28…ロータリエンコーダ(変位量センサ)、38,39…第1力センサ、30…第2力センサ、50…制御装置、60…踏力計測処理手段(踏力計測手段)、61…膝角度計測処理手段(関節変位量計測手段)、62…支持力計測処理手段(制御対象力計測手段)、63…左右目標負担分決定手段(目標総持ち上げ力決定手段、分配手段、装具自重補償力推定手段)、64,65,66…アクチュエータ制御手段、S301〜S303…目標総持ち上げ力決定手段、S304〜S308…分配手段、S302…装具自重補償力推定手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の体幹部に上向きの持上げ力を作用させ得るように該体幹部に接触される持上げ力伝達部と、利用者の各脚の足平にそれぞれ装着され、該利用者の各脚が立脚となるときに接地する左右一対の足平装着部と、複数の関節をそれぞれ有し、前記体幹接触部と各足平装着部とをそれぞれ連結する左右一対の脚リンクと、各脚リンクの少なくとも1つの関節を駆動する右側脚リンク用アクチュエータおよび左側脚リンク用アクチュエータとを備えた歩行補助装具の制御装置であって、
前記持上げ力の目標値を設定する目標持上げ力設定手段と、
前記歩行補助装具の運動により該歩行補助装具で実際に発生する上下方向の慣性力と該歩行補助装具に作用する重力とに抗して床側から各脚リンクに作用する支持力の総和を装具自重補償力として推定する装具自重補償力推定手段と、
前記持上げ力の目標値と前記推定された装具自重補償力との総和を前記歩行補助装具の目標総持上げ力として決定する目標総持上げ力決定手段と、
前記歩行補助装具の各脚リンクに床側から実際に作用する支持力の総和が前記目標総持上げ力になるように前記右側脚リンク用アクチュエータおよび左側脚リンク用アクチュエータの駆動力を制御するアクチュエータ制御手段とを備えたことを特徴とする歩行補助装具の制御装置。
【請求項2】
前記利用者の各脚の踏力を、前記各足平装着部に備えた第1力センサの出力に基づき計測する踏力計測手段と、前記目標総持上げ力を、前記計測された利用者の左脚の踏力と右脚の踏力との比率に応じて分配することにより、該目標総持上げ力のうちの各脚リンクの負担分の目標値である目標負担分を決定する分配手段とを備え、
前記アクチュエータ制御手段は、右側脚リンクに床側から実際に作用する支持力が該右側脚リンクに対応する前記目標負担分になるように前記右脚リンク用アクチュエータの駆動力を制御する手段と、前記左側脚リンクに床側から実際に作用する支持力が該左側脚リンクに対応する前記目標負担分になるように前記左側脚リンク用アクチュエータの駆動力を制御する手段とから構成されることを特徴とする請求項1記載の歩行補助装具の制御装置。
【請求項3】
前記各脚リンクに床側から実際に作用する支持力を制御対象力として、該脚リンクに備えた第2力センサの出力に基づき計測する制御対象力計測手段を備え、前記右側脚リンク用アクチュエータの駆動力を制御する手段は、前記計測された右側脚リンクの制御対象力を該右側脚リンクに対応する前記目標負担分に近づけるように前記右脚リンク用アクチュエータをフィードバック制御する手段であり、前記左側脚リンク用アクチュエータの駆動力を制御する手段は、前記計測された左側脚リンクの制御対象力を該左側脚リンクに対応する前記目標負担分に近づけるように前記左脚リンク用アクチュエータをフィードバック制御する手段であることを特徴とする請求項2記載の歩行補助装具の制御装置。
【請求項4】
前記各脚リンクは、前記持上げ力伝達部に第1関節を介して連結された大腿フレームと、該大腿フレームに第2関節を介して連結された下腿フレームと、下腿フレームに前記足平装着部を連結する第3関節とから構成され、
前記各脚リンクの第2関節の変位量を計測する関節変位量計測手段を備え、
前記装具自重補償力推定手段は、前記計測された利用者の左右の各脚の踏力の総和に対する左側の脚の踏力の割合を、前記計測された左側の脚リンクの第2関節の変位量に乗じてなる値と、前記踏力の総和に対する右側の脚の踏力の割合を、前記計測された右側の脚リンクの第2関節の変位量に乗じてなる値との和である第2関節変位量代表値に基づき、前記歩行補助装具の重心の上下方向位置を逐次推定し、その上下方向位置の推定値の時系列と前記歩行補助装具の重量と重力加速度とから前記装具自重補償力を推定することを特徴とする請求項2または3記載の歩行補助装具の制御装置。
【請求項5】
前記各脚リンクは、前記持上げ力伝達部に第1関節を介して連結された大腿フレームと、該大腿フレームに第2関節を介して連結された下腿フレームと、下腿フレームに前記足平装着部を連結する第3関節とから構成され、
前記各脚リンクの第2関節の変位量を計測する関節変位量計測手段と、前記持上げ力伝達部の加速度を検出する加速度センサとを備え、
前記装具自重補償力推定手段は、前記加速センサの出力と前記歩行補助装具のうちの前記持上げ力伝達部および該持ち上げ力伝達部に固定された部分からなる装具基部のあらかじめ設定された重量とに基づき、前記装具自重補償力のうちの装具基部の重量に起因する第1成分を推定する手段と、前記歩行補助装具のうちの該右側脚リンクと一体に前記装具基部に対して相対的に可動な部分である装具右脚部の重心の前記装具基部に対する相対的な上下方向位置を前記計測された右側脚リンクの第2関節の変位量に基づき推定する手段と、その推定された装具右脚部の重心の相対的な上下方向位置の時系列と該装具右脚部のあらかじめ設定された重量と前記加速度センサの出力とに基づき、前記装具自重補償力のうちの装具右脚部の重量に起因する第2成分を推定する手段と、前記歩行補助装具のうちの左側脚リンクと一体に前記装具基部に対して相対的に可動な部分である装具左脚部の重心の前記装具基部に対する相対的な上下方向位置を前記計測された左側脚リンクの第2関節の変位量に基づき推定する手段と、その推定された装具左脚部の重心の相対的な上下方向位置の時系列と該装具左脚部のあらかじめ設定された重量と前記加速度センサの出力とに基づき、前記装具自重補償力のうちの装具左脚部の重量に起因する第3成分を推定する手段とを備え、前記推定された第1〜第3成分の総和を前記装具自重補償力として推定することを特徴とする請求項2または3記載の歩行補助装具の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−330299(P2007−330299A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162050(P2006−162050)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】