説明

歯を白くするための過酸化水素産生菌の使用

本発明は、被験体の歯を白くするための組成物および方法であって、1種以上の単離された非病原性の過酸化水素産生菌株を、被験体の口腔に投与するステップを含む組成物および方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる2008年6月13日に出願された米国出願番号第61/061,264号の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
歯の表面は、吸収性であり、タバコ製品の使用、特定の食物および飲料(例えば、コーヒー、お茶および赤ワイン)の飲食、歯垢の形成、加齢の過程、疾患、外傷、医薬、先天性症状およびその他の環境効果によって染色または変色され得る。歯は、内部象牙質層、外部エナメル層および獲得被膜からなる。獲得被膜は、歯のエナメルの表面に形成する、唾液に由来するタンパク質層である。
【0003】
歯の外因性および内因性染色が起こり得る。外因性染色は、タンニンおよびポリフェノール化合物などの化合物が、飲食または喫煙の際に歯と接触するときに起こり得る獲得被膜の染色である。次いで、これらの化合物は、歯の表面のタンパク質層に捕捉され、強固に結合される。外因性染色は、ブラッシングまたはデンタルフロスできれいにすることなどの歯磨きの機械的な方法によって、また化学的洗浄法によって除去され得る。定期的にブラッシングおよびデンタルフロスできれいにすることを行っても、急速な、またはゆっくりとした蓄積が、目に見える内因性の歯の変色に発達し得る。内因性染色は、エナメル層および象牙質層を浸透する染色化合物によって引き起こされる場合もあり、または歯内の供給源に起因する場合もある。内因性染色は、除去することが困難であり、通常、歯磨きの機械的な方法によっては除去できないが、高い化学物質の濃度および/または長期の化学的洗浄法を使用して、この種の染色の一部またはすべてを除去することができる。
【0004】
白い、染色されていない歯は、美容上望ましいと考えられる。歯は、例えば、機械的洗浄法、歯の上に置かれるベニアおよび化学的漂白によって白くすることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歯を白くする製品は、当技術分野で公知であり、これらの製品は、白い歯の美容上の利益を求めるものによって従来使用されている。しかし、より白い歯ならびに/またはより清潔な歯、より健康な歯茎およびより少ない口臭をはじめとするより多い口腔の利益を求める異なる消費者集団がある。したがって、歯を白くすることに加えて、口腔ケアの利益をもたらし得る口腔衛生製品を提供する要望がある。さらに、口腔衛生時間は、通常、限られており、そのため、これらの口腔ケアの利益を、毎日の口腔衛生法の一部として迅速に、都合よくもたらす要望がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、被験体の歯を白くする方法であって、被験体の口腔へ、1種以上の単離された非病原性の過酸化水素産生菌種または株を含む組成物を投与することを含む方法を提供する。1種以上の単離された非病原性の過酸化水素産生菌種または株は、乳酸桿菌、ビフィズス菌または緑色連鎖球菌、ロイコノストック、ラクトコッカス、ペディオコッカスまたはそれらの組合せであり得る。1種以上の単離された非病原性の過酸化水素産生菌種または株は、(a)1種以上の単離ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)株または(b)ストレプトコッカス・ウベリス(streptococcus uberis)の1種以上の単離株または(c)それらの組合せであり得る。1種以上の単離された非病原性の過酸化水素産生菌種または株は、もっぱら、被験体の口腔の歯の表面および、歯の表面の周囲の軟部組織に直接投与され得る。被験体は、哺乳類であり得る。組成物は、被験体に、1日に約1回または2回、週に約1回または月に約1回投与してもよい。組成物は、ストレプトコッカス・ラッタス(Streptococcus rattus)などの1種以上の乳酸デヒドロゲナーゼ欠損ミュータンス菌種または株をさらに含み得る。組成物は、1種以上の代謝可能な炭素供給源をさらに含み得る。
【0007】
本発明の別の実施形態は、染色された歯、虫歯、歯周炎、口腔細菌感染、口腔内の傷、カンジダまたは真菌の異常増殖、口臭、口内乾燥誘発性虫歯および関連歯周病の治療法を提供する。この方法は、被験体の口腔に、1種以上の単離された非病原性の過酸化水素産生菌種または株と、1種以上の乳酸デヒドロゲナーゼ欠損ミュータンス菌種または株を含む組成物を投与することを含む。1種以上の単離された非病原性の過酸化水素産生菌種または株と、1種以上の乳酸デヒドロゲナーゼ欠損ミュータンス菌種または株は、もっぱら、被験体の口腔の歯の表面および、歯の表面の周囲の軟部組織に直接投与され得る。組成物は、1種以上の代謝可能な炭素供給源をさらに含み得る。
【0008】
さらに、本発明の別の実施形態は、被験体の歯を白くすることにおいて使用するための歯科治療装置を提供する。この装置は、1種以上の単離された非病原性の過酸化水素産生菌種または株を含む歯を白くする組成物と、(b)歯を白くする組成物に隣接する障壁層を含む。障壁層は、U型またはL型トラフを規定する少なくとも1つの側壁および底壁を含む歯科治療トレイを含み得る。この障壁層は、柔軟性のあるストリップを含み得る。歯を白くする組成物は、1種以上の代謝可能な炭素供給源をさらに含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】染色された歯科用セラミックディスクの明度値を経時的に示す図である。群A(実験)、群B(+カタラーゼ)、群C(−デキストロース)、D(−KJ3sm)。
【図2】4週間の治療後の染色されたセラミックディスクの外観を示す図である。群A(実験)、群B(+カタラーゼ)、群C(−デキストロース)、D(−KJ3sm)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において用いる場合、「冠詞」および「不定冠詞」は、文脈が明確に他を示すのでない限り、複数の言及を含む。
【0011】
本発明は、例えば、歯を白くすることを含む口腔の健康の維持のための方法および組成物を提供する。本発明の組成物は、1種以上の、細菌の単離された非病原性の過酸化水素産生種または株と、場合により、LDH欠損ミュータンス菌を含む。本明細書においてはじめて示されるように、特定の細菌は、過酸化水素を、歯を白くできるレベルで産生できる。本発明の組成物は、歯の表面の外観および/または構造に影響を及ぼす、または所望の変化を達成し得る。外観および構造変化の例として、白くすること、染色の漂白、染色の除去、歯垢除去および歯石除去が挙げられるが、必ずしもこれに限定されない。さらに、本発明の組成物は、虫歯、歯周炎、口腔細菌感染および疾患の治療および/もしくは予防、口腔内の傷、カンジダもしくは真菌の異常増殖、口臭または口内乾燥誘発性虫歯および関連歯周病、創傷治癒の促進またはそれらの組合せなどのさらなる口腔ケアの利益を、被験体に提供し得る。
【0012】
本発明の組成物
本発明は、1種以上の非病原性の過酸化水素産生緑色連鎖球菌種もしくは株および/または1種以上の非病原性の過酸化水素産生乳酸桿菌種もしくは株、および/または1種以上の非病原性の過酸化水素産生ビフィズス菌種もしくは株および/または1種以上の非病原性の過酸化水素産生ラクトコッカス種もしくは株および/または1種以上の非病原性の過酸化水素産生ペディオコッカス種もしくは株および/または1種以上の非病原性の過酸化水素産生ロイコノストック種もしくは株を含む組成物を使用して、歯の表面を白くする方法を提供する。本発明の一実施形態では、細菌株は、通常、安全と認識され得(GRAS)、静電相互作用、ファン・デル・ワールス相互作用によって歯の表面と、または歯の表面上に存在する分子を認識し相互作用する細菌表面上のタンパク質もしくは多糖アドヘシンと、一時的に結合もしくは付着し得る。緑色連鎖球菌種の例として、それだけには限らないが、サンギス菌(S.sanguis)、S.パラサンギス(parasanguis)、S.ゴルドニ(gordonii)、S.オラリス(oralis)、S.ウベリス(uberis)、S.ミティス(mitis)、S.ラッタス(rattus)、S.サリバリオウス(salivariaus)、S.ベスチブラリス(vestibularis)、S.アンギノサス(angionosus)、S.コンステラツス(constellatus)、S.インターメディウス(intermedius)、S.ミュータンス(mutans)、S.ソブリナス(sobrinus)、S.ミレリ(milleri)、S.クリセツス(cricetus)およびS.ミチオール(mitior)が挙げられる。乳酸桿菌種の例として、それだけには限らないが、L.アシドフィルス(acidophilus)、L.ジェンセニー(jensenii)、L.カテナフォルメ(catenaforme)、L.ライヒマニ(leichmanni)、L.プランタルム(plantarum)、L.ジョンソニー(johnsonii)、L.ガセリ(gasseri)、L.デルブリュッキ(delbrueckii)、L.カゼイ(casei)、L.ブレビス(brevis)、L.サリバリウス(salivarius)、L.ガセリ(gasseri)、L.ソブリウス(sobrius)、L.ラムノサス(rhamnosus)、L.ロイテリ(reuteri)、L.ファメンタム(fermentum)、L.パラカゼイ(paracasei)、L.デキストラニカム(dextranicum)およびL.ヘルベティカス(helveticus)が挙げられる。ビフィズス菌種の例として、それだけには限らないが、B.アングラツム(angulatum)、B.アニマリス(animalis)、B.アステロイデス(asteroides)、B.ビフィダム(bifidum)、B.ボウム(boum)、B.ブレブ(breve)、B.カテヌラツム(catenulatum)、B.コエリナム(choerinum)、B.コリネフォルメ(coryneforme)、B.クニクリ(cuniculi)、B.デンチウム(dentium)、B.ガリクム(gallicum)、B.ガリナルム(gallinarum)、B.インディクム(indicum)、B.ロングム(longum)、B.マグヌム(magnum)、B.メリシクム(merycicum)、B.ミニマム(minimum)、B.シュードカテヌラツム(pseudocatenulatum)、B.シュードロングム(pseudolongum)、B.サイコラエロフィラム(psychraerophilum)、B.プローラム(pullorum)、B.ルミナンチウム(ruminantium)、B.サエクラレ(saeculare)、B.スカルドビ(scardovii)、B.シミエ(simiae)、B.サブチル(subtile)、B.サーマシドフィルム(thermacidophilum)、B.サーモフィルム(thermophilum)およびB.ウリナリ(urinali)が挙げられる。その他の過酸化水素を産生し得る非病原性菌の例として、限定するものではないが、P.アシジラクチシ(acidilactici)などのペディオコッカス種、L.メセンテロイデス(mesenteroides)などのロイコノストック種、L.ラクティス(lactis)などのラクトコッカス種が挙げられる。
【0013】
細菌によって産生される過酸化水素の量は、実験的に決定できる。例えば、HillmanおよびShivers,Arch.Oral.Biol.,33:395〜401頁(1988年)参照。酸素の存在下で増殖させた細胞の培養液を、40μg/mlの西洋ワサビペルオキシダーゼおよび0.4μmol/mlのo−ジアニシジンとともにインキュベートする。2分後、0.02mlの5N HClの添加によって反応を停止する。サンプルの光学濃度を410nmで測定し、標準過酸化水素を使用して調製した標準曲線および81M-1cm-1という230nmでの吸光係数から、サンプルの過酸化水素濃度を算出する。本発明の一実施形態では、細菌は、少なくとも約0.5、1、2、5mM以上のH22または約0.1から約5mMの間の任意の範囲もしくは値を産生できる。
【0014】
本発明の一実施形態では、本発明の組成物は、1種以上の単離ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)株および/または1種以上のS.ウベリス株を含む。本発明の組成物は、所望により、LDH欠損であるミュータンス菌の1種以上の単離株または種を含み得る。非病原性の過酸化水素産生菌および/またはミュータンス菌の組合せは、その組合せが、例えば、歯を白くすると同時に、虫歯、歯周炎、口腔細菌感染および疾患、口腔内の傷、カンジダもしくは真菌の異常増殖、口臭または口内乾燥誘発性虫歯もしくは歯周病を予防および治療するために使用できるという点で、相当な実用上の利点を提供する。
【0015】
ストレプトコッカス・オラリス(以前は、サンギス菌II型としても知られている)およびS.ウベリスは、歯周細菌叢を含む微生物の正常な健常なバランスの維持における重要な成分である。Socranskyら、Oral Microbiol.Immunol.3:1〜7頁(1988年);HillmanおよびShivers、Arch.Oral.Biol.、33:395〜401頁(1988年);Hillmanら、Arch.Oral.Biol.30:791〜795頁(1985年)参照。S.オラリスはまた、歯垢中にも見ることができ、特に、アグリゲトバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregetobacter actinomycetemcomitans)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、ペプトストレプトコッカス・ミクロス(Peptostreptococcus micros)およびカンピロバクター・レクタス(Campylobacter rectus)などの歯周の病原菌によるコロニー形成に干渉することによって歯周の健康と相関することが実証されている。本発明の組成物は、S.オラリスの1種以上の単離株、例えば、ATCC35037、ATCC55229、ATCC700233、ATCC700234およびATCC9811を含み得る。S.オラリスのその他の株として、KJ3およびKJ3smを挙げられる。KJ3smは、1mg/mlのストレプトマイシンに対して耐性である、KJ3の天然に存在する遺伝子変異体である。ストレプトマイシン耐性は、細菌の容易な単離のためのマーカーを提供するので有利である。さらに、ストレプトマイシン耐性株は、わずかに弱毒化されており、口腔において野生型株ほど長くは生存しない。この特性は、目的が、細菌を用いて動物の口腔に非持続性にコロニー形成することである場合には有用である。
【0016】
S.ウベリスはまた、歯垢中にも見ることができ、特に、タンネレラ・フォーサイセンシス(Tannerella forsythensis)、P.ミクロス(micros)、C.レクタス(rectus)およびプレボテラ・メラニノゲニカ(Prevotella melaninogenica)などの歯周の病原菌によるコロニー形成に干渉することによって歯周の健康と相関することが実証されている。本発明の組成物は、S.ウベリスの1種以上の単離株、例えば、ATCC13386、ATCC13387、ATCC19435、ATCC27958、ATCC35648、ATCC700407、ATCC9927、株KJ2または株KJ2smを含み得る。KJ2smは、1mg/mlのストレプトマイシンに対して耐性である、KJ2の天然に存在する遺伝子変異体であり、S.オラリスのストレプトマイシン耐性株と同様の利点を提供する。S.オラリスの1種以上の単離株またはS.ウベリスの1種以上の単離株または両方を、本発明の組成物および方法において使用できる。
【0017】
本発明の組成物は、乳酸の産生を欠く1種以上の単離されたミュータンス菌細菌種を含み得る。これらの種として、例えば、S.ラッタス、S.クリセツス、S.ミュータンス、S.ソブリナス、S.ドウニー(downeii)、S.マカケ(macacae)およびS.フェルス(ferus)が挙げられる。本発明のミュータンス菌は、L(+)乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)を実質的に産生しない。このような株は、LDH欠損株と呼ばれる。ミュータンス菌のLDH欠損株は、ミュータンス菌の野生型株より75%、80%、90%、95%、98%、99%または100%少ない乳酸しか産生しない。LDH欠損ミュータンス菌株は、ミュータンス菌の天然に存在する株である場合も、ミュータンス菌の遺伝子改変された株である場合もある。LDH欠損ミュータンス菌は、口腔中で、S.ミュータンス、虫歯の主な原因菌などの病原性細菌と競合でき、および/またはそれに取って代わることができる。LDH欠損ミュータンス菌株は、同一栄養分、コロニー形成部位などについてS.ミュータンスと競合する。したがって、LDH欠損ミュータンス菌株を使用して、例えば、虫歯を予防および/または治療できる。ミュータンス菌のLDH欠損株は、非病原性であり、口腔の微小環境を変更して病原生物のコロニー形成または増殖を予防し、かつ/または、病原体が宿主の常在性細菌叢の一部である場合には、口腔由来の病原生物に取って代わる。
【0018】
LDH欠損ミュータンス菌株の例として、例えば、S.ラッタスJH145(ATCC31377)(自発性の、天然に存在するLDH欠損変異株)およびJH140(ATCC31341)(化学的に改変されたLDH欠損変異株)が挙げられる。例えば、Stanshenko & Hillman、Microflora of plaque in rats following infection with an LDH−deficient mutant of Streptococcus rattus、Caries Res. 23:375〜377頁(1989年);Hillman、Lactate dehydrogenase mutants of Streptococcus mutans:Isolation and preliminary characterization.Infect.Immun.21:206〜212頁(1978年)参照;Abhyankarら、Serotype c Streptococcus mutans mutatable to lactate dehydrogenase deficiency.J.Dent.Res.64:1267〜71頁(1985年)も参照。
【0019】
ミュータンス菌のLDH欠損株は、例えば、化学的または物理的突然変異誘発技術を使用して、ミュータンス菌株から誘導できる。これらの技術を使用して突然変異を起こされた株は、遺伝子改変された株と考えられる。例えば、ミュータンス菌株を、亜硝酸、ギ酸、重硫酸ナトリウム、UV光、例えば、5−ブロモ−デオキシウリジン(5BU)をはじめとする塩基類似体変異誘発物質、エチルメタンスルホネート(EMS)、メチルメタンスルホネート(MMS)、ジエチルスルフェート(DES)およびニトロソグアニジン(NTG、NG、MNNG)などのアルキル化剤といった変異誘発物質に付すことができる。例えば、In Vitro Mutagenesis Protocols、Braman編、Humana Press、2002年参照。
【0020】
天然に存在する自発性のLDH欠損ミュータンス菌株は、例えば、Hillman、Lactate dehydrogenase mutants of Streptococcus mutans:isolation and preliminary characterization.Infect.Immun.21:206〜212頁(1978年)に開示される方法を使用して調製できる。自発性のLDH欠損突然変異体は、およそ10-5発生頻度という割合で生じる。Johnsonら、Cariogenic potential in vitro in man and in vivo in the rat of lactate dehydrogenase mutants of Streptococcus mutans. Arch.Oral Biol.25:707〜713頁(1980年)参照。
【0021】
天然に存在するミュータンス菌の自発性のLDH欠損株は、グルコーステトラゾリウム培地上に細菌をプレーティングすることによってミュータンス菌のLDH産生株と区別することができる。LDH欠損ミュータンス菌コロニーは、グルコーステトラゾリウム培地上では、明るい赤であり、白色で比較的サイズの小さい親株のコロニーよりも比較的サイズが大きい。ミュータンス菌の天然に存在する、自発性のLDH欠損株は、本発明の組成物において使用できる。
【0022】
S.ラッタスのLDH欠損株を、単離した。手短には、S.ラッタスBHT−2の培養物を、Todd Hewitt培養液中で飽和まで一晩増殖させ、希釈したサンプルをグルコーステトラゾリウム培地に広げ、プレートあたり、およそ300個のコロニーを得た。野生型の、酸産生コロニーは、この培地で白色である。LDH欠損突然変異体は、明るい赤である。S.ラッタスJH145は、スクリーニングされたおよそ100,000個の白色コロニーの中、1個の赤色コロニーであった。したがって、S.ラッタスJH145は、天然に存在するLDH欠損変異株である。
【0023】
S.ラッタスBHT−2のLDH欠損突然変異体などのミュータンス菌のLDH欠損株は、グルコースおよびその他の糖またはポリオールの存在下でインキュベートする場合には、少ない総滴定可能酸しか産生せず、休止および増殖培養の場合にグルコースの存在下でインキュベートすると、実質的に、少ない乳酸しか作らず、ヒドロキシアパタイトとより良好に付着し、スクロースの存在下で増殖すると、より多くの歯垢を蓄積する。LDH活性は、Brown & Wittenberger(J.Bacteriol.110:604、1972年)によって記載されるようにアッセイできる。
【0024】
1%グルコースを含有するTodd−Hewitt培養液で株を継代培養(1:100)することによって、終末pHを決定できる。キャンドルジャー(candle jars)中、37℃で48時間インキュベートした後、培養物の580nmでの吸光度およびpHを決定できる。培養物の乳酸濃度は、ガス−液体クロマトグラフィーによって決定できる。Salanitro & Muirhead、Quantitative method for the gas chromatographic analysis of short−chain monocarboxylic and dicarboxylic acids in fermentation media. Appl.Microbiol.29:374〜381頁(1975年);Hillmanら、Acetoin production by wild−type strains and a lactate dehydrogenase−deficient mutant of Streptococcus mutans.Infect.Immun.55:1399〜1402頁(1987年)参照。さらに、当業者に公知の任意の遺伝子改変技術を使用して、LDH産生ミュータンス菌親株からLDH欠損ミュータンス菌株を作製できる。例えば、挿入突然変異誘発技術を含めて、例えば、LDH遺伝子またはLDH遺伝子の一部を欠失または変異誘発できる。その他の突然変異誘発技術として、例えば、相同組換え、再帰的配列組換え、オリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発、位置指定突然変異誘発、エラー−プローンPCR、ホスホチオエート修飾DNA突然変異誘発、ウラシル含有鋳型突然変異誘発、ギャップドデュプレックス(gapped duplex)突然変異誘発、点ミスマッチ修復突然変異誘発、修復−欠損宿主株突然変異誘発、放射性突然変異誘発、欠失突然変異誘発、制限選択突然変異誘発、制限精製突然変異誘発、部位飽和突然変異誘発、アンサンブル突然変異誘発、再帰的アンサンブル突然変異誘発およびキメラ核酸作製が挙げられる。したがって、LDH遺伝子を無効にする任意の遺伝子改変技術を使用して、LDH欠損ミュータンス菌株を製造できる。本発明の一実施形態では、LDH欠損株は、天然に存在する突然変異体か、遺伝子改変された突然変異体にかかわらず、10-7未満の復帰変異発生頻度を有し、乳酸デヒドロゲナーゼ活性の親レベルの約10%未満しか産生しない。
【0025】
2種以上の異なる細菌種の使用によって、単一の種を使用することを上回る利点を提供できる。これは、異なる細菌種が、歯の異なる表面または部分にコロニー形成するからである。したがって、1種のみの細菌種の使用は、コロニー形成されていない歯の特定の表面または部分をもたらし得るが、2種以上の細菌種の使用を用いて、歯の表面のすべてまたはほとんどを「覆う」ことができる。したがって、歯のすべての表面が、白くする作用に曝露される。
【0026】
本発明の組成物は、1種以上の単離された非病原性の過酸化水素産生菌種もしくは株または1種以上の乳酸デヒドロゲナーゼ欠損ミュータンス菌種もしくは株またはその両方の種類の種もしくは株によって代謝可能である、1種以上の炭素供給源をさらに含み得る。炭素供給源として、それだけには限らないが、例えば、グルコース、ソルビトール、マンニトール、フルクトース、ガラクトース、マルトース、スクロース、キシロース、ラクトース、グリセロールまたはそれらの組合せが挙げられる。
【0027】
本発明の組成物は、医薬上許容される、または栄養上許容される担体を含み得る。担体は、それが投与される被験体の口腔と生理学的に適合する。担体は、錠剤、カプセル剤、ロゼンジ剤または粉末の形態に製剤するための固体をベースとする乾燥材料からなり得る。担体はまた、液体、ゲルおよびチューイングガムの形態に製剤するための液体またはゲルをベースとする材料からなり得る。適した液体またはゲルをベースとする担体として、それだけには限らないが、水、生理食塩水、尿素、アルコールおよび誘導体ならびにグリコール(例えば、エチレングリコールまたはプロピレングリコール)が挙げられる。担体の組成は、本発明の細菌株の治療活性を大幅に干渉しない限り変更してもよい。
【0028】
組成物は、さまざまな方法で、例えば、固体、半固体、液体(例えば、粘性液体、ペースト、ゲルまたは溶液を含む)、乾燥塊、歯磨剤、マウスウォッシュ、含嗽液、液体懸濁液、局所剤、粉末食品サプリメント、ペースト、ゲル、固体食品、含嗽液、加工食品、ウエハー、ロゼンジ剤、チューイングガムなどで、経口投与に適しているよう製剤できる。当業者には、その他の製剤は、容易にわかる。本発明の組成物は、栄養分補給成分を含み得、また、ビタミン、ミネラル、必須および非必須アミノ酸、炭水化物、脂質、食品、栄養補助食品などをはじめとするさまざまな栄養剤のいずれかを含み得るが、これも同様に周知である。
【0029】
本発明の組成物はまた、すべて、本発明の細菌種または株の生存力の維持と適合する、天然または合成の矯味剤および食品品質の着色剤も含み得る。
【0030】
本発明の組成物は、組成物を歯と付着させるための接着剤として作用し得る1種以上のゲル化剤を含み得る。ゲル化剤の濃度は、組成物の約2、4、6、8、10、15、20、30、40、50、60、70、80重量%超または約80、70、60、50、40、30もしくは20重量%未満であり得る。
【0031】
本発明において有用な適したゲル化剤および接着剤として、例えば、シリコン、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、Gantrez AN119、AN139およびS−97などのポリアルキルビニルエーテル−マレイン酸共重合体(PVM/MA共重合体)、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、Poloxamer407(Pluronic)、Luviskol VAおよびPlasdone S PVP/VAなどのポリビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体(PVP/VA共重合体)、ポリビニルピロリドン(PVP、例えば、K−15〜K−120)、Polyquaterium−11(Gafquat 755N)、Polyquaterium−39(Merquat plus 3330)、カルボマーまたはカルボキシポリメチレン(Carbopol)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、コーンスターチ、カルボキシメチルセルロース、ゼラチンおよびアルギン酸ナトリウムなどのアルギン酸塩、カラヤゴム、キサンタンゴム、グアーガム、アラビアガム、トラガカントゴムおよびそれらの混合物などの天然ゴムが挙げられる。
【0032】
保湿剤または可塑剤が、本発明の組成物中に存在し得る。保湿剤または可塑剤として、例えば、グリセリン、グリセロール、ソルビトール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールおよびその他の食用多価アルコールが挙げられる。保湿剤または可塑剤は、組成物の、約1重量%〜約99重量%、約10重量%〜約95重量%の間で、または約50重量%〜約80重量%の間(または1重量%から99重量%の間の任意の範囲)で存在し得る。
【0033】
本発明の細菌は、例えば、発酵槽中で調製できる。細菌は、発酵槽から回収でき、例えば、濃縮できる。本発明の細菌は、例えば、脱水または噴霧乾燥によって使用するために調製できる。噴霧乾燥は、通常、細菌の懸濁液を、容器中、高温空気流下で噴霧することを含む。細菌はまた、マイクロカプセル化(例えば、米国特許第6,251,478号参照)、凍結乾燥によって、または例えば、トリアシルグリセロール、ワックス、有機エステル、ダイズオイル、綿実油、パーム核油および長鎖脂肪酸とアルコールのエステルなどの脂質物質などの保護物質でのコーティングによって使用するために調製できる。
【0034】
歯を白くする方法
本発明は、歯を白くすることをはじめとする1以上の口腔ケアの利益を提供する組成物を、口腔の表面に送達する方法であって、本発明の組成物を、被験体の歯および/または隣接する軟部組織に適用することを含む方法を提供する。
【0035】
細菌種または株は、治療上有効な量で本発明の組成物中に存在し得る。治療上有効なとは、虫歯、歯周炎、細菌感染もしくは疾患、口腔内の傷、カンジダもしくは真菌の異常増殖、口臭または口内乾燥誘発性虫歯もしくは歯周病のうち1種以上の症状を軽減、低減、予防および/または寛解するのに、あるいは、歯上の染色または変色を、永久または一時的のいずれかで、軽減、低減、予防または寛解するのに有効であることを意味する。治療上有効なとはまた、口腔において創傷治癒を促進するのに有効であることを意味する。
【0036】
治療上有効な量とは、健全な医学的/歯科的判断の範囲内の、予防および/または治療される状態を大幅に改善するのに十分に高いレベルであるが、重篤な副作用を避けるよう十分に低い(妥当なベネフィット/リスク比の)本発明の組成物の量である。本発明の組成物の治療上有効な量は、治療されている個々の状態、治療されている患者の年齢および健康状態、状態の重篤度、治療期間、併用療法の性質、使用される供給源の特定の形態、および組成物が適用される個々のビヒクルによって変わり得る。
【0037】
本発明の組成物は、染色および/または変色された歯の治療および/または予防のために、口腔の粘膜組織に、口腔の歯肉組織に、歯の表面および/またはそれらの任意の組合せに治療上有効な量で適用できる。本発明の組成物は、嚥下してもよく、または口腔周囲をすすぎ、吐き出してもよい。治療とは、歯の変色または染色の量または強度の低減を意味する。予防とは、例えば、治療期間の間、一時的に(治療後の一定期間の間)または永久に、歯にさらなる染色または変色の形態が実質的にないことを意味する。本発明の一実施形態では、組成物は、口腔中のその他の組織を除外して、もっぱら歯の表面に(所望により、直接、歯の周囲の軟部組織に)適用される。これは、例えば、歯の表面上に直接、本発明の組成物を直接塗布することによって、または、例えば、障壁層を用いて歯上に本発明の組成物を保持することによって達成できる。
【0038】
VITA 3D Master(商標)Shade Guideは、極めて明るいから極めて暗いまで変化する歯のシェードの範囲を提供する。合計29種の歯のシェードが、明度の段階でこれら2つ終点の間の色の全範囲を構成する。本発明の一実施形態では、本発明の方法は、明度の約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15以上(または1から29の間の任意の値または範囲)のVITA 3D Master(商標)シェードの変化を提供する。
【0039】
本発明の細菌株は、口腔の一過性または常在性細菌叢の少なくとも一部を形成し、口腔においてさらなる有益な予防および/または治療効果を示し得る。本発明の組成物のさらなる口腔ケアの利益として、例えば、被験体における、虫歯、歯周炎(例えば、早期発症性歯周炎、限局性および全身性若年性歯周炎および急速進行性、成人歯周炎を含む)、口腔細菌感染および疾患、口腔内の傷、カンジダもしくは真菌の異常増殖、口臭または口内乾燥誘発性虫歯、創傷治癒の促進またはそれらの組合せの治療および/または予防が挙げられる。治療とは、これらの疾患/状態のうち1以上の症状が、永久または一時的のいずれかで軽減、低減または寛解されることを意味する。
【0040】
本発明の一実施形態では、本発明の組成物を、障壁層とともに被験体の歯に適用して、組成物を、歯および周囲の口腔組織と接触させることができる。障壁層は、固体または変形可能であり得、本発明の組成物を、歯の舌表面、顔表面、咬合表面および/または切端表面と接触させることができる。障壁層は、U型またはL型トラフを規定する少なくとも1つまたは2つの側壁および底壁を含む、適合するように特別に作った、または適合するように特別に作っていない歯科治療トレイを含み得る。本発明の組成物は、障壁のトラフ領域中に存在し、障壁は、本発明の組成物が歯と接触しているように歯にくっつけて置くことができる。
【0041】
あるいは、障壁層は、材料の柔軟性のあるストリップを含み得る。材料のストリップは、例えば、1種以上のポリマー、ポリマー薄膜、ワックス、発泡体、天然および合成の織った材料、織っていない材料、金属の薄片、紙、ゴムおよびそれらの組合せをはじめとする任意の材料を含み得る。材料のストリップは、単一層の材料または2層以上を含む積層板であり得る。例えば、材料のストリップは、2以上のポリマー薄膜の積層板を含み得る、またはワックスおよび織っていない材料を含み得る。
【0042】
材料のストリップは、複数の歯の顔表面、咬合表面、切歯表面、咬合表面および/もしくは舌表面ならびに/または複数の歯の顔表面、切歯表面、咬合表面および/もしくは舌表面に隣接する軟部組織の一部を覆う任意の形状および大きさを有し得る。
【0043】
材料のストリップは、材料のストリップに適用される、その上にコーティングされる、それと混ぜられる本発明の組成物または任意のその他の組成物によって提供される接着性付着によって口腔表面に適所に保つことができる。あるいは、材料のストリップは、材料のストリップを、歯の顔表面、切端表面、咬合表面および/または舌表面の周囲に変形させることに由来する機械的圧力によって適所に保つことができる。材料のストリップは、溶けるまたは浸食され得るものであり得る。材料のストリップの溶解または浸食後、本発明の組成物を、歯の顔表面、咬合表面、切端表面、および/もしくは舌表面ならびに/または軟部組織表面に残し、それらの表面に作用し続けることができる。
【0044】
組成物は、哺乳類をはじめとする動物、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ウマ、ヤギまたはウサギなどの被験体の口腔に投与できる。
【0045】
本発明の組成物は、例えば、食物、水、歯磨剤、ゲル、ペースト、エマルジョン、エアゾールスプレー、チューイングガム、ロゼンジ剤、錠剤、カプセル剤または液体懸濁液中で経口投与できる。細菌は、食物、水、ゲルまたはその他の担体中にすでに製剤されることができるか、または消費に先立って使用者によって担体に加えられる組成物であり得る。
【0046】
本発明の一実施形態は、治療上有効な細菌を用いて、被験体の口腔に非持続性にコロニー形成する方法であって、本発明の組成物を被験体の口腔に投与することを含む方法を提供する。本発明の一実施形態では、投与される細菌株は、口腔に永久にコロニー形成せず、むしろ、この株は、細菌の投与後、約1日、約1週間、約2週間、約3週間、約1ヶ月、約3ヶ月または約12ヶ月間口腔中に存在する。
【0047】
本発明の組成物は、約1×103、1×105、1×107、1×109または1×1011CFU(または約1×103から約1×1011の間の任意の範囲もしくは値)の生菌の用量で投与できる。本発明の組成物の用量は、1日に3回、1日に2回、1日に1回、1日おき、1週間に2回、毎週、隔週、毎月投与できる。1日あたり、本発明の組成物の1、2またはそれ以上の用量を、約1週間、約2週間、約1ヶ月、約2ヶ月、約3ヶ月、約1年またはそれ以上投与できる。
【0048】
本発明の組成物を、口腔ケア法の一部として毎日使用できる。毎日の口腔ケア法の一部として本発明の組成物を使用することで、使用者が、それだけには限らないが、白い、歯石のない歯をはじめとするさまざまな所望の口腔ケアの利益を達成および持続することが可能となる。
【0049】
本発明の組成物は、歯および/または軟部組織に、約1分から約8時間の間適用できる。いくつかの実施形態では、組成物は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、90、120、150、180、210、240、270、300、330、360、390、420、450、480分を超えて(または約1から約480分の間の任意の範囲もしくは値)および/または480、450、420、390、360、330、300、270、240、210、180、150、120、90、60、50、40、30、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2もしくは1分未満(または約480から約1分の間の任意の範囲もしくは値)ならびにこれらの任意の組合せの間、適用でき、細菌種または株は、組成物の約0.01重量%から約50重量%または約0.1重量%から約25重量%または約1.0重量%から約10重量%の間または0.01重量%から50重量%の間の任意の範囲もしくは値の濃度を有する。このような投与計画を、1日1回、約1ヶ月、2ヶ月、4ヶ月、6ヶ月、12ヶ月、18ヶ月、2年、5年、8年、10年を超えて、および/または15年、10年、8年、5年、2年、18ヶ月、12ヶ月、6ヶ月、4ヶ月、2ヶ月、1ヶ月未満およびそれらの任意の組合せの間、使用することは有利であり得る。もう1つの実施形態では、このような投与計画を、1日に1回または2回、約1ヶ月を超えて、約5年未満の間、使用することは有利であり得る。
【0050】
本発明のキットは、本発明の組成物の1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月または12ヶ月の供給を含有し得る。本発明の組成物は、パッケージングすることができ、次いで、複数のパッケージングされた組成物を、保存容器またはその他のパッケージもしくは大型容器中で提供することができる。
【0051】
本明細書においていずれかで参照されるすべての特許、特許出願およびその他の科学文書または技術文書は、参照によってその全文が組み込まれる。本明細書に例示的に記載される本発明は、本明細書に具体的に開示されていない任意の要素または複数の要素、制限または複数の制限の不在下で適宜実施できる。したがって、例えば、本明細書における各例では、用語「含む(comprising)」、「本質的にからなる(consisting essentially of)」および「からなる(consisting of)」は、他の2種の用語のいずれかと置き換わってもよい。使用されてきた用語および表現は、説明の用語として使用されるものであって、制限ではなく、このような用語および表現の使用において、示され、記載される特徴またはその一部の任意の同等物を排除するという意図はないが、特許請求される本発明の範囲内で種々の改変が可能であると認識される。したがって、本発明は、実施形態によって具体的に開示されているが、当業者によって開示される本明細書における概念の任意選択の特徴、改変および変法を行ってもよいということ、およびこのような改変および変法は、説明および添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲内にあると考えられるということは理解されるべきである。
【0052】
さらに、本発明の特徴または態様が、マーカッシュグループまたは代替のその他のグループ分けの用語で記載されている場合には、当業者ならば、それによって本発明もまた、マーカッシュグループまたはその他のグループの任意の個々のメンバーまたはメンバーの下位グループの用語で記載されるということは認識されよう。
【実施例】
【0053】
天然の緑色連鎖球菌株ストレプトコッカス・オラリス(KJ3sm)およびストレプトコッカス・ウベリス(KJ2sm)は、歯周の病原菌の増殖を阻害する過酸化水素の産生によって歯周の健康を増進できる。過酸化水素産生は、これらの微生物が、グルコースまたはスクロースなどの糖の存在下でインキュベートされ、雰囲気中に存在する酵素がある場合の解糖の正常な最終生成物である。
【0054】
染色された歯科用セラミック材料、染色された歯のエナメル質を代理するものを、S.オラリスの懸濁液を用いて処理し、S.オラリスが歯を白くすることを増進できるかどうかを調べた。したがって、グルコースおよび酸素の存在下、in vitroでS.オラリスの懸濁液をインキュベートし、歯に類似した染色されたセラミックディスクに対する測定可能な白くする効果を可能にするのに十分な過酸化水素を産生できたかどうかを調べた。
【0055】
10の歯科用セラミックディスク(Dr. Kenneth J. Anusavice、University of Florida、Gainesville、FLからの無料提供)を、茶(Lipton)およびクロルヘキシジン(0.12%、Hi Tech Phamacal Co.、Amityville、NY)を用い、8週間かけて染色した。各ディスクを、50mlのコニカル(Falcon)プラスチック試験管中に入れた。3mlの入れたLiptonティー(200mlの沸騰水へ、ファミリーサイズのLiptonティーバッグを5分間添加することによって調製した)を加えて、このディスクを覆った。室温で24時間インキュベートした後、デカントによって茶を除去し、5mlの水道水でディスクをすすぎ、茶溶液を3mlの0.12%クロルヘキシジンで24時間置換した。ステップ2および3を、月曜から金曜まで4週間反復し、週末にかけては、ディスクを金曜の溶液中に残しておいた。Chroma Meter CR−400比色計(Minolta、Ramsey、NJ)を使用して、ディスクの明度を定量的に測定した。ディスクの明度値は、装置の測定ヘッドをディスクの上に直接置くことによって作製した。標準色プレートを使用して、比色計を較正した。
【0056】
処理相は、最終比色計読み取りを行った1日後に開始した。スタータープレートから播種されたS.オラリス、株KJ3smの9つの別個の培養物を、37℃の環境シェーカー(200rpm)中、30mlの、0.1%炭酸水素ナトリウム/0.5%グルコース/1mg/ml硫酸ストレプトマイシンを補給したTodd Hewitt培養液(Difco;Bactoカタログ番号249240)中で増殖させた。一晩インキュベートした後、室温で遠心分離によって細胞を回収し、10mlのAmies培地で1回洗浄し、表1に示されるように、デキストロース(グルコース;Fisher Scientific、カタログ番号D16)およびカタラーゼ(Sigma Aldrichカタログ番号C93225G)を含むか含まないAmies培地30mlに再懸濁した。対照(群D)は、デキストロースおよび不活化カタラーゼを含むAmies培地30mlを含んでいた。示される場合には、カタラーゼを、沸騰水浴中で5分間加熱することによって不活化した。ステップ2および図1中に記載される全30mlアリコートを、試験管あたり1個の染色された歯科用セラミックディスクを含有する50mlのFalcon試験管に加えた。これらの処理ステップを、月曜から金曜まで4週間反復し、週末にかけては、ディスクを金曜の溶液中に残しておいた。
【0057】
【表1】

【0058】
各ディスクの明度値を、4週間にわたって実施した処理相の間、毎週測定した。平均群値(±S.D.;図1)を使用し、L値(明度)を時間の関数としてプロットした。群Aデータのトレンドラインは、2.37の傾斜を有しており、群B(−0.54)、群C(0.52)および群D(−0.84)のトレンドラインの傾斜よりも相当に大きく、このことは、群Aのディスクが、他の群のディスクよりも、かなり速い速度で経時的に明るくなったまたは白くなったことを示す。4週間の実験期間の終わりには、群Aのセラミックディスクが明るくなることまたは白くなることは、肉眼で容易に明らかであった(図2)。
【0059】
群間および群内L値を、統計的に有意な差を求めて比較した。4(処理:A、B、C、D)×5(時間:週0、1、2、3、4)混合モデル反復測定ANOVAを、Greenhouse−Geisser補正を用いて実施し、時間にわたってL値に対する種々の処理の差次的影響を調べた。フォローアップ解析によって、各時点での処理効果を調べた。ポストホックBonferroni補正したt検定を使用して、処理間の有意差を調べた。すべての分析は、ファミリーごとのp=.05を使用した。結果は、処理F(3、6)=6.0、p<.05、および時間、F(1.3、24)=12.7、p=.005の有意な効果を示したが、これは処理×時間相互作用、F(4、24)=58.7、p<.001に取って代わられた。この相互作用の分解によって、ベースライン(時間0)および週1で有意でない知見が得られた、F(3、6)<4.4、p>.05。週2〜4では、処理群Aは、処理BおよびDよりも有意に大きな効果をもたらし、t(3)>8.1、p.01、週4の間のみ、処理Cよりも有意に大きな効果をもたらした、t(2)=4.1、p=.015。処理B、CおよびD間では有意差は観察されなかった(p>.05)。
【0060】
グルコースおよび空気の存在下でインキュベートしたS.オラリスは、S.オラリスに対する4週間の曝露後に、茶およびクロルヘキシジン染色されたセラミックディスクに対して統計的に有意な白くする効果を引き起こした。インキュベーション培地にカタラーゼを含めることによって、任意の白くする効果が大幅に低減されたが、このことは、白くする機序が、細胞による過酸化水素産生と関与していることを示唆する。過酸化物産生ひいては白くする効果は、グルコースなどの代謝可能な炭素供給源の存在に応じて変わる。群Cにおいて観察された小さい白くする効果は、貯蔵された炭水化物(例えば、細胞内多糖の形態で)の代謝に起因する残存する過酸化物産生によるものであり得る。図1中の群Aの時間の関数としてのL値のプロットは、頭打ちにならず、このことは、最大の白くする効果が、研究の時間枠内には生じなかったということ、およびKJ3smでのより長い処理はより大きな白くする効果を達成する可能性が高いことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の歯を白くする方法であって、1種以上の単離された非病原性の過酸化水素産生菌種または株を含む組成物を、被験体の口腔に投与するステップを含む方法。
【請求項2】
1種以上の単離された非病原性の過酸化水素産生菌種または株が、乳酸桿菌、ビフィズス菌、緑色連鎖球菌、ロイコノストック、ペディオコッカス、ラクトコッカスまたはそれらの組合せである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1種以上の単離された非病原性の過酸化水素産生菌種または株が、(a)1種以上の単離されたストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)株または(b)ストレプトコッカス・ウベリス(Streptococcus uberis)の1種以上の単離株または(c)それらの組合せである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1種以上の単離された非病原性の過酸化水素産生菌種または株を、もっぱら、被験体の口腔の歯の表面および、歯の表面の周囲の軟部組織に直接投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
被験体が哺乳類である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
組成物を、被験体に、1日に約1回または2回、週に約1回または月に約1回投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
組成物が、1種以上の乳酸デヒドロゲナーゼ欠損ミュータンス菌種または株をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
1種または1種以上の乳酸デヒドロゲナーゼ欠損ミュータンス菌種が、ストレプトコッカス・ラッタス(Streptococcus rattus)を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
組成物が、1種以上の単離された非病原性の過酸化水素産生菌種または株によって代謝可能である1種以上の炭素供給源をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
染色された歯、虫歯、歯周炎、口腔細菌感染、口腔内の傷、カンジダもしくは真菌の異常増殖、口臭および口内乾燥誘発性虫歯を治療する方法であって、1種以上の単離された非病原性の過酸化水素産生菌種または株および1種以上の乳酸デヒドロゲナーゼ欠損ミュータンス菌種または株を含む組成物を、被験体の口腔に投与するステップを含む方法。
【請求項11】
1種以上の単離された非病原性の過酸化水素産生菌種または株が、乳酸桿菌、ビフィズス菌または緑色連鎖球菌、ロイコノストック、ペディオコッカス、ラクトコッカスまたはそれらの組合せである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
1種以上の単離された非病原性の過酸化水素産生菌種または株および1種以上の乳酸デヒドロゲナーゼ欠損ミュータンス菌種または株を、もっぱら、被験体の口腔の歯の表面および、歯の表面の周囲の軟部組織に直接投与する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
被験体が哺乳類である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
組成物を、被験体に、1日に約1回または2回、週に約1回または月に約1回投与する、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
1種以上の乳酸デヒドロゲナーゼ欠損ミュータンス菌種が、ストレプトコッカス・ラッタス(Streptococcus rattus)を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
組成物が、1種以上の単離された非病原性の過酸化水素産生菌種もしくは株または1種以上の乳酸デヒドロゲナーゼ欠損ミュータンス菌種もしくは株または両方によって代謝可能である1種以上の炭素供給源をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
被験体の歯を白くすることにおいて使用するための歯科治療装置であって、
(a)1種以上の単離された非病原性の過酸化水素産生菌種または株を含む歯を白くする組成物と
(b)歯を白くする組成物に隣接する障壁層と
を含む装置。
【請求項18】
障壁層が、U型またはL型トラフを規定する少なくとも1つの側壁および底壁を含む歯科治療トレイを含む、請求項17に記載の歯科治療装置。
【請求項19】
障壁層が、柔軟性のあるストリップを含む、請求項17に記載の歯科治療装置。
【請求項20】
1種以上の単離された非病原性の過酸化水素産生菌種または株が、乳酸桿菌、ビフィズス菌、緑色連鎖球菌、ロイコノストック、ペディオコッカス、ラクトコッカスまたはそれらの組合せである、請求項17に記載の歯科治療装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−524364(P2011−524364A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513687(P2011−513687)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際出願番号】PCT/US2009/047040
【国際公開番号】WO2009/152331
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(506047905)オラジェニックス,インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】