説明

歯付ベルトの製造装置、及び歯付ベルトの製造方法

【課題】歯付ベルトの歯数を確実に計測する技術を提供すると共に、この技術を、実際の歯付ベルトの製造装置、及び歯付ベルトの製造方法に好適に活用するアイデアを提供する。
【解決手段】歯付ベルト40の製造装置1は、長手方向に所定間隔で配置された複数の歯部41を有する歯付ベルト40を前記長手方向に移動させる第一ローラ2及び第二ローラ3(移動手段)と、前記歯付ベルト40の前記歯部41側の所定位置に配置され、前記所定位置から前記長手方向に移動している前記歯付ベルト40の前記歯部41側表面までの距離を測定する光学式センサ5と、前記光学式センサ5により測定された前記距離に対して微分処理を行なう微分処理部21と、前記微分処理部21により算出された微分値が所定の閾値Rを超えた数を歯数として計測する計数部22と、前記計数部22が計測した前記歯数が所定歯数に到達したかを判定する歯数判定部26と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長手方向に所定間隔で配置された複数の歯部を有する歯付ベルトの、製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、歯付ベルトを長手方向に移動させながら、歯付ベルトの歯数を計測する歯数計数方法が種々提案されている。例えば、特許文献1(特開2002−166482号公報)に開示されている歯数計数方法では、歯付ベルトを1対の歯付プーリによって走行移動させながら、歯付ベルトの歯部側上方に配置された光学式センサにより、歯部側表面に光を照射し、その反射光に基づいて歯部側表面までの距離を測定して、歯部側表面の凹凸形状の高さの変化を検出する。そして、検出された凹凸形状の高さに対して、予め設定された判別高さを用いて歯部の有無を判別している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
歯数を計測する際に、歯付ベルトを長手方向に移動させる手段としては、歯付ベルトを1対の回転ローラで挟んで移動させたり、歯付ベルトをプーリに巻き掛けて走行移動させる手段が採用されている。しかしながら、回転ローラを用いた場合、走行速度の変化などによって、歯付ベルトが局部的に厚み方向に変位する(うねる)場合がある。また、プーリを用いた場合には、走行移動に伴って歯付ベルトが厚さ方向に振動する場合がある。
【0004】
特許文献1の方法の場合、歯付ベルトに上述したような振れが生じると、光学式センサから歯部側表面までの距離が変動し、光学式センサによって検出された歯底面が、振動がない場合の歯先面と同程度の位置まで変位する場合がある。この場合、歯底部を歯部と誤判定してしまうため、歯数を確実に計測することが困難であった。また、このような誤判定は、特に、歯高さの小さい歯付ベルトで生じやすい。
【0005】
そこで、本願発明の目的は、歯付ベルトの歯数を確実に計測する技術を提供すると共に、この技術を、実際の歯付ベルトの製造装置、及び歯付ベルトの製造方法に好適に活用するアイデアを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本願発明の第一の観点によれば、以下のように構成される、歯付ベルトの製造装置が提供される。即ち、歯付ベルトの製造装置は、長手方向に所定間隔で配置された複数の歯部を有する歯付ベルトを前記長手方向に移動させる移動手段と、前記歯付ベルトの前記歯部側の所定位置に配置され、前記所定位置から前記長手方向に移動している前記歯付ベルトの前記歯部側表面までの距離を測定する光学式センサと、前記光学式センサにより測定された前記距離に対して微分処理を行なう微分処理部と、前記微分処理部により算出された微分値が所定の閾値を超えた数を歯数として計測する計数部と、前記計数部が計測した前記歯数が所定歯数に到達したかを判定する歯数判定部と、を備える。この構成によると、歯先面及び歯底面はそれぞれ凸状及び凹状の頂点部分であるため、歯先面及び歯底面における、前記所定位置から歯部側表面までの距離の変化量、即ち微分値は0となる。また、歯側面は、前記所定位置から歯部側表面までの距離の変化が最も大きい領域であるため、歯側面における前記距離の変化量、即ち微分値は、プラス側又はマイナス側のピーク値となる。従って、所定の閾値を、ピーク値と0との間の値に設定し、微分値が所定の閾値を超えた数を歯数としてカウントすることにより、歯数を計測することができる。また、たとえ歯付ベルトにうねりや振れが生じて、歯付ベルトの歯部側表面の位置が厚み方向に変位した場合であっても、歯底面又は歯先面に対応する部分の微分値は、閾値を超えるほど大きくなりにくく、うねり等が生じていない場合と同様に、微分値は1歯ごとに閾値を1回超えることとなる。従って、歯数を確実に計数することができる。また、前記歯数判定部による上記の判定は、所望の歯数を有する歯付ベルトの製造に資する。
【0008】
上記の歯付ベルトの製造装置は、更に、以下のように構成される。即ち、前記計数部が計測した前記歯数が上記所定歯数に到達したと前記歯数判定部が判定したら、前記移動手段による前記歯付ベルトの移動を停止させる停止部を備える。以上の構成によれば、前記歯付ベルトの製造に従事する作業員が、前記歯付ベルトを、所望の歯数となるように切断することが可能となる。
【0009】
上記の歯付ベルトの製造装置は、更に、以下のように構成される。即ち、前記停止部は、前記歯付ベルトの歯数が所望の歯数となるために切断すべき切断位置が第二所定位置に来るように、前記移動手段による前記歯付ベルトの移動を停止させる。以上の構成によれば、前記歯付ベルトの歯数が所望の歯数となるために切断すべき上記の切断位置が上記第二所定位置となったとき、前記歯付ベルトの移動が停止する。従って、前記作業員が上記第二所定位置において前記歯付ベルトを切断するだけで、所望の歯数を正確に有する歯付ベルトを製造することができる。
【0010】
本願発明の第二の観点によれば、歯付ベルトの製造は、以下のような方法で行われる。即ち、歯付ベルトの製造方法は、長手方向に所定間隔で配置された複数の歯部を有する歯付ベルトを前記長手方向に移動させながら、前記歯付ベルトの前記歯部側の所定位置に配置した光学式センサにより、前記所定位置から前記歯部側表面までの距離を測定する距離測定工程と、前記距離測定工程で測定した前記距離に対して微分処理を行なう微分処理工程と、前記微分処理工程で算出した微分値が所定の閾値を超えた数を歯数として計測する計数工程と、前記計数工程で計測した前記歯数が所定歯数に到達したかを判定する歯数判定工程と、を含む。この構成によると、歯先面及び歯底面はそれぞれ凸状及び凹状の頂点部分であるため、歯先面及び歯底面における、前記所定位置から歯部側表面までの距離の変化量、即ち微分値は0となる。また、歯側面は、前記所定位置から歯部側表面までの距離の変化が最も大きい領域であるため、歯側面における前記距離の変化量、即ち微分値は、プラス側又はマイナス側のピーク値となる。従って、所定の閾値を、ピーク値と0との間の値に設定し、微分値が所定の閾値を超えた数を歯数としてカウントすることにより、歯数を計測することができる。また、たとえ歯付ベルトにうねりや振れが生じて、歯付ベルトの歯部側表面の位置が厚み方向に変位した場合であっても、歯底面又は歯先面に対応する部分の微分値は、閾値を超えるほど大きくなりにくく、うねり等が生じていない場合と同様に、微分値は1歯ごとに閾値を1回超えることとなる。従って、歯数を確実に計数することができる。また、前記歯数判定工程における上記の判定は、所望の歯数を有する歯付ベルトの製造に資する。
【0011】
上記の歯付ベルトの製造は、更に、以下のような方法で行われる。即ち、歯付ベルトの製造方法は、更に、前記計数工程で計測した前記歯数が上記所定歯数に到達したと前記歯数判定工程で判定したら、前記歯付ベルトの移動を停止させる停止工程を含む。これによれば、前記歯付ベルトの製造に従事する作業員が、前記歯付ベルトを、所望の歯数となるように切断することが可能となる。
【0012】
上記の歯付ベルトの製造は、更に、以下のような方法で行われる。即ち、前記停止工程では、前記歯付ベルトの歯数が所望の歯数となるために切断すべき切断位置が第二所定位置に来るように、前記歯付ベルトの移動を停止させる。これによれば、前記歯付ベルトの歯数が所望の歯数となるために切断すべき上記の切断位置が上記第二所定位置となったとき、前記歯付ベルトの移動が停止する。従って、前記作業員が上記第二所定位置において前記歯付ベルトを切断するだけで、所望の歯数を正確に有する歯付ベルトを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。図1に示すように本実施形態に係る歯付ベルトの製造装置1は、第一ローラ2と、第二ローラ3と、ベルトガイド4と、光学式センサ5と、制御部6と、レーザポインタ7と、を備える。本実施形態では、オープンエンド歯付ベルト(即ち、有端状の歯付ベルト40。以下、単に歯付ベルトという)を材料として、所望の歯数(本実施形態では1260歯とする。)を有する歯付ベルト40を製造する場合について説明する。
【0014】
図2に示すように歯付ベルト40は、長手方向に所定間隔で配置された複数の歯部41を有する。歯付ベルト40の歯部41側の面を歯面40aとし、歯部41と反対側の面を背面40bとする。また、歯付ベルト40の歯高さをH、ベルト厚さをDとする。
【0015】
歯面40aは、歯先面42と、歯側面43と、歯先面42と歯側面43との間の歯先側コーナー面45と、歯底面44と、歯側面43と歯底面44との間の歯底側コーナー面46とから構成される。歯先面42及び歯底面44は、それぞれ背面40bと平行に平坦状に形成されている。歯側面43は、平坦に形成されている。歯先側コーナー面45及び歯底側コーナー面46は、それぞれ曲面状に形成されている。なお、製造装置1の製造対象となる歯付ベルト40は、上記の形状のものに限定されない。例えば、歯先面42又は歯側面43が、曲面状に形成されている歯付ベルトであってもよい。
【0016】
図1に示すように、第一ローラ2及び第二ローラ3は、歯付ベルト40を長手方向に移動させる移動手段であって、それぞれ歯付ベルト40の走行方向(長手方向)の上流側と下流側に配置されている。第一ローラ2及び第二ローラ3は、モータ50、51によって回転駆動される駆動ローラ2a、3aと、回転自在に設けられた従動ローラ2b、3bと、からそれぞれ構成されている。上記のモータ50、51は上記の制御部6に接続され、モータ50、51の回転(角変位、角速度を含む。)は、この制御部6によって制御されるようになっている。第一ローラ2及び第二ローラ3は、駆動ローラ2a、3aと従動ローラ2b、3bとの間で歯付ベルト40を挟持しつつ、制御部6によって駆動ローラ2a、3aの回転が制御されることにより、歯付ベルト40を主として一定の速度で走行移動させる。換言すれば、制御部6は、第一ローラ2及び第二ローラ3、モータ50、51を介して、歯付ベルト40を走行移動させる。
【0017】
図1に示すようにベルトガイド4は、第一ローラ2と第二ローラ3との間に配置されており、歯付ベルト40が挿通される。図3(a)に示すように、ベルトガイド4は、両側面部10、11と上面部12と底面部13とから構成されている。上面部12は、歯付ベルト40の長手方向に延在する2つの板部材12a、12bで構成され、これら2つの板部材12a、12bは、ベルト幅方向に関して互いに隙間を空けて配置されている。これにより、歯付ベルト40がベルトガイド4内に挿通された状態で、歯付ベルト40の歯面40aの幅方向中央部が外部に露出している。ベルトガイド4の内面のベルト厚み方向の長さ、即ち、上面部12と底面部13との間隔は、歯付ベルト40の厚みDとほぼ同じである。また、ベルトガイド4は、ベルト幅方向の長さが調整可能となっている。具体的には、図3(b)に示すように、底面部13は、両側面部10、11にそれぞれ連結され、ベルト幅方向に延在する2つのラック部材13a、13bを有している。ラック部材13a、13bの対向する端面には、それぞれ複数の歯が形成されており、2つのラック部材13a、13bの間には、ピニオン13cが配置されている。ピニオン13cの回転角度は、ネジ14によって調整される。ピニオン13cを図3(b)中の時計回り又はその反対方向に回転させることにより、側面部11、12が互いに近接又は離隔する方向に移動する。ベルトガイド4の内面の幅、即ち、側面部11、12の間隔は、歯付ベルト40の幅とほぼ同じになるように設定されている。このベルトガイド4は、例えば金属材料で構成されており、歯付ベルト40が接触する内面には、摩擦係数を低減させる表面加工が施されているか、摩擦係数の小さい部材が貼り付けられている。
【0018】
光学式センサ5は、公知のレーザー式変位センサが用いられている。図1に示すように、光学式センサ5は、ベルトガイド4の上面部12側、即ち、歯付ベルト40の歯面40a側の所定位置に設置されている。光学式センサ5は、ベルトガイド4の2つの板部材12a、12bの間から外部に露出している歯面40aに光を照射し、その反射光に基づいて上記所定位置から歯面40aまでの距離を測定する。また、光学式センサ5は、制御部6に接続されており、測定された距離に応じた信号を制御部6に送信する。換言すれば、制御部6は光学式センサ5を介して、上記距離を取得できるようになっている。
【0019】
レーザポインタ7は、図1に示されるように、ベルトガイド4と第二ローラ3との間に配置される。このレーザポインタ7は、上記ベルトガイド4に対するレーザポインタ7の相対的な位置が固定するように、ベルトガイド4に対して固定される。そして、レーザポインタ7は、歯付ベルト40に対して可視光を照射する。歯付ベルト40に対するレーザポインタ7の照射の位置(第二所定位置)は、ベルトガイド4から離れた位置とされる。詳しくは、歯付ベルト40に対する光学式センサ5の照射の位置(第一所定位置)と、上記の第二所定位置と、は、上記歯付ベルト40の長手方向において概ね150mmズレている。この第一所定位置と第二所定位置との間の、歯付ベルト40の長手方向におけるズレ量は、本明細書において「第一走行距離」とも称する。
【0020】
制御部6は、演算処理装置としてのCPU(Central Processing Unit)と、歯付ベルトの製造プログラム及びこの製造プログラムの実行時に使用されるデータが記憶されるROM(Read Only Memory)と、上記製造プログラムの実行時にデータを一時記憶するためのRAM(Random Access Memory)と、キーボードなどの公知の入力手段、を主として備える。そして、ROMに記憶された上記の製造プログラムが上記CPUに読み込まれ、CPU上で実行されることで、上記製造プログラムは、CPUなどのハードウェアを、図1に示される速度制御部20と、微分処理部21と、計数部22と、歯数判定部26と、停止部28と、して機能させるようになっている。
【0021】
速度制御部20は、歯付ベルト40の走行速度が所定速度となるように、モータ50、51、第一ローラ2及び第二ローラ3などを介して、歯付ベルト40の走行速度をフィードバック制御する。
【0022】
微分処理部21は、制御部6が光学式センサ5を用いて測定した上記の距離を微分処理して上記距離の微分値を算出する。
【0023】
計数部22は、微分値判定部23とカウンター24、閾値記憶部25を含んで構成される。閾値記憶部25は、上記のキーボードを介して制御部6に入力された所定の閾値Rを記憶する。微分値判定部23は、微分処理部21によって算出された微分値が閾値記憶部25に記憶された所定の閾値Rを超えるか否かを判定し、所定の閾値Rを超えた場合には、計数信号をカウンター24へ送信する。カウンター24は、判定部22から送られた計数信号を累積して歯数を計数し、計数した歯数は累積歯数として上記RAMに記憶する。
【0024】
歯数判定部26は、所定歯数記憶部27を含んで構成される。所定歯数記憶部27は、上記のキーボードを介して制御部6に入力された所定歯数(本実施形態では1260歯)を記憶する。なお、本実施形態において、製造しようとする歯付ベルト40の歯数(所望の歯数)と、上記所定歯数と、は一致している。そして、歯数判定部26は、上記RAMに記憶される累積歯数が上記の所定歯数に到達したかを判定する。
【0025】
停止部28は、第一走行距離記憶部29を含んで構成される。第一走行距離記憶部29は、上記のキーボードを介して制御部6に入力された前記の第一走行距離(本実施形態では150mm)を記憶する。そして、停止部28は、上記の累積歯数が上記所定歯数に到達したと歯数判定部26が判定したら、第一ローラ2及び第二ローラ3(移動手段)による歯付ベルト40の移動を停止させる。具体的には、停止部28は、歯付ベルト40の歯数が所望の歯数となるために切断すべき切断位置が上記の第二所定位置に来るように、第一ローラ2及び第二ローラ3(移動手段)による歯付ベルト40の移動を停止させる。
【0026】
<測定原理>
次に、上記製造装置1における歯数の計測原理を説明する。
【0027】
光学式センサ5から距離信号を受信した微分処理部21は、歯面40aの凹凸形状の高さ(以下、歯面40aの凹凸高さという)を検出する。これにより、図4(a)に示すようなグラフを得ることができる。図4(a)の縦軸(y軸)は、歯面40aの凹凸高さを示し、横軸(x軸)は、歯付ベルト40の走行時間と光学式センサ5の測定時刻から求められた歯付ベルト40の長手方向の距離を示している。
【0028】
なお、図4(a)中、Δx1は歯底面44に対応しており、Δx2、Δx8はそれぞれ歯底側コーナー面46に対応し、Δx3、Δx7は歯側面43に対応し、Δx4、Δx6はそれぞれ歯先側コーナー面45に対応し、Δx5は歯先面42に対応している。
【0029】
次に、微分処理部21は、歯面40aの凹凸高さを時間で1次微分する。これにより、図4(b)に示すようなグラフを得ることができる。図4(b)の縦軸(y´軸)は、歯面40aの凹凸高さの微分値を示し、横軸(x軸)は、歯付ベルト40の長手方向距離を示している。
【0030】
図4(b)に示すように、歯面40aの凹凸高さの微分値は、歯先面42と歯底面44に対応する部分おいて0になり、歯側面43に対応する部分において、プラス側とマイナス側のピーク値となる。つまり、微分値は1歯ごとにプラス側とマイナス側でピークが生じている。
【0031】
詳しく言えば、図4(a)に示すように、歯底面44に対応するΔx1では、歯面40aの高さが一定であるため、図4(b)に示すように、Δx1の微分値(傾き)は0となる。また、歯底面44から歯側面43へ向かう歯底側コーナー面46に対応するΔx2では、歯面40aの高さが右上がりに上昇し、且つ、歯面40aの傾きが徐々に大きくなるため、Δx2の微分値はプラス側で上昇する。歯側面43に対応するΔx3は、歯面40aの傾きが最も大きい領域であるため、Δx3の微分値はプラス側のピーク値を示す。さらに、歯側面43は平坦状であり、傾きが一定であるため、Δx3の微分値は一定となる。歯側面43から歯先面42へ向かう歯先側コーナー面45に対応するΔx4では、歯面40aの高さが右上がりに上昇し、且つ、歯面40aの傾きが徐々に小さくなるため、Δx4の微分値はプラス側で低下する。歯先面42に対応するΔx5では、歯面40aの高さが一定であるため、Δx5の微分値は0となる。歯先面42から歯側面43へ向う歯先側コーナー面45に対応するΔx6では、歯面40aの高さが右下がりに低下し、且つ、歯面40aの傾きが徐々に小さくなるため、Δx6の微分値はマイナス側で低下する。歯側面43に対応するΔx7は、歯面40aの傾きが最も小さい領域であるため、Δx7の微分値はマイナス側のピーク値を示す。さらに、歯側面43は平坦状であり、傾きが一定であるため、Δx7の微分値は一定となる。歯側面43から歯底面44に向う歯底側コーナー面46に対応するΔx8では、歯面40aの高さが右下がりに低下し、且つ、歯面40aの傾きが徐々に大きくなるため、Δx4の微分値はマイナス側で上昇する。
【0032】
微分値判定部23は、微分処理部21によって算出された微分値と、閾値記憶部25に記憶される所定の閾値Rとを比較する。図4(b)に示すように、上記所定の閾値Rは、微分値のプラス側のピーク値と0との間の値の適切な値に予め設定される。従って、微分値は、1歯ごとにこの所定の閾値Rを1回超える(跨ぐ)こととなる。微分値判定部23は、微分値が所定の閾値Rを超えた(跨いだ)ときに、1歯をカウントするための計数信号をカウンター24へ送信する。そして、カウンター24は受信した計数信号を歯数として累積し、計数した歯数は累積歯数として上記RAMに記憶していく。
【0033】
以上に、製造装置1における歯数の計測原理を説明した。
【0034】
なお、歯付ベルト40を走行移動させると、歯付ベルト40にうねりが生じて、歯付ベルト40の歯面40aの高さが変動する場合がある。この場合の歯面40aの凹凸形状の高さは、図5(a)に示すようなものとなり、うねりが生じている箇所の歯底面44の高さが、うねりが生じていない箇所の歯先面42の高さとほぼ同じになる場合がある。従来の歯数計数方法のように、歯面40aの凹凸高さについて予め閾値Sを設定して、歯部41の有無を判定しようとすると、うねりが生じている箇所の歯底面44の高さは閾値Sを超えるため、この歯底面44を歯部41として判定してしまい、歯数を確実に計測することができない。一方、歯付ベルト40にうねりが生じている場合の歯面40aの凹凸高さの微分値のグラフは、図5(b)に示すようなものになる。うねりが生じた箇所の歯底面44及び歯先面42に対応する部分の微分値(傾き)は、閾値を超えるほど大きくならず、うねりが生じていない場合と同様に、微分値は1歯ごとに閾値を1回超えている(跨いでいる)。従って、たとえ歯付ベルト40にうねりが生じた場合であっても、歯数を確実に計数することができる。
【0035】
次に、図6を参照しつつ、上記製造装置1を用いた歯付ベルト40の製造方法について説明する。図6は、製造プログラムのフローである。
【0036】
歯付ベルト40の製造に従事する作業員は、先ず、スパイラルカットされた渦巻き状の歯付ベルトの先端を、光学式センサ5の照射位置(第一所定位置)に設置する。次に、作業員は、上記のキーボードを介して、所定の閾値Rと、所定歯数と、第一走行距離と、を制御部6に入力する。所定の閾値Rは閾値記憶部25に、所定歯数は所定歯数記憶部27に、第一走行距離は第一走行距離記憶部29に、夫々記憶される。所定の閾値Rは、歯付ベルトの断面形状に応じて適宜に定める。所定歯数は、原則として、製造しようとする歯付ベルト40の歯数とする。第一走行距離は製造装置1の設計図に基づいて定める。
【0037】
そして、前述の製造プログラムが制御部6のCPU上で実行されることで、図6に示されるフローがスタートする。即ち、制御部6は、先ず、上記RAM内にフラグを立て、このフラグを0とする(S310)。次に、制御部6は、第一ローラ2及び第二ローラ3を回転させて、歯付ベルト40を長手方向に移動させながら(S320)、光学式センサ5を用いて、所定位置から歯面40aまでの距離を例えば0.5秒ごとに測定し取得する(S330)。
【0038】
次に、微分処理部21は、光学式センサ5を介して取得した上記の距離に基づいて歯面40aの凹凸高さを検出し、この歯面40aの凹凸高さを微分して、凹凸高さの微分値を算出する(S340)。
【0039】
ここで、制御部6は、微分処理部21が算出した上記微分値が所定の閾値R未満であるかを判定し(S350)、上記微分値が所定の閾値R未満である場合(S350、YES)は、上記フラグを0とし(S360)、S370へと処理を進める。一方、上記微分値が所定の閾値R未満でない場合(S350、NO)は、そのままS370へと処理を進める。
【0040】
次に、制御部6は、上記のフラグが0であるかを判定し(S370)、上記のフラグが0である場合(S370、YES)は、S380へと処理を進める。一方、上記のフラグが0でない場合(S370、NO)は、S330へと処理を戻す。
【0041】
次に、微分値判定部23は、上記の微分値と、閾値記憶部25に記憶されている所定の閾値Rと、を比較して、上記の微分値が所定の閾値Rを上回っているかを判定し(S380)、上記の微分値が所定の閾値Rを上回っている場合(S380、YES)は、S390へと処理を進め、上記の微分値が所定の閾値Rを上回っていない場合(S380、NO)は、S330へと処理を戻す。
【0042】
次に、制御部6は、上記フラグを1とし(S390)、S400へと処理を進める。
【0043】
次に、カウンター24は、上記RAM上に記憶されている累積歯数をインクリメントし(S400)、S410へと処理を進める。
【0044】
次に、歯数判定部26は、上記RAM上に記憶されている累積歯数と、所定歯数記憶部27に記憶されている所定歯数と、を比較して、上記の累積歯数が所定歯数に到達したかを判定し(S410)、上記の累積歯数が所定歯数に到達した場合(S410、YES)は、S420へと処理を進め、上記の累積歯数が所定歯数に到達していない場合(S410、NO)は、S330へと処理を戻す。
【0045】
次に、停止部28は、第一走行距離記憶部29に記憶されている第一走行距離分だけ、歯付ベルトを走行させた上で(S420)、第一ローラ2及び第二ローラ3(移動手段)による歯付ベルトの移動を停止させる(S430)。
【0046】
最後に、作業員は、レーザポインタ7による照射位置で歯付ベルトを鋏を用いて切断し、第二ローラ3に挟持される歯付ベルト40を回収する。この回収した歯付ベルト40の歯数は、所望の歯数と正確に一致している。
【0047】
なお、図6に示されるフラグ(変数名:flag)は、歯数を計測するのに必要となる便宜上の変数である。
【0048】
また、距離測定工程はS320〜S330に相当する。微分処理工程はS340に相当する。計数工程はS380〜S400に相当する。歯数判定工程はS410に相当する。停止工程はS420〜S430に相当する。
【0049】
(まとめ)
(請求項1、請求項4)
以上説明したように、上記実施形態において、歯付ベルト40の製造装置1は、長手方向に所定間隔で配置された複数の歯部41を有する歯付ベルト40を前記長手方向に移動させる第一ローラ2及び第二ローラ3(移動手段)と、前記歯付ベルト40の前記歯部41側の所定位置に配置され、前記所定位置から前記長手方向に移動している前記歯付ベルト40の前記歯部41側表面までの距離を測定する光学式センサ5と、前記光学式センサ5により測定された前記距離に対して微分処理を行なう微分処理部21と、前記微分処理部21により算出された微分値が所定の閾値Rを超えた数を歯数として計測する計数部22と、前記計数部22が計測した前記歯数が所定歯数に到達したかを判定する歯数判定部26と、を備える。この構成によると、歯先面42及び歯底面44はそれぞれ凸状及び凹状の頂点部分であるため、歯先面42及び歯底面44における、前記所定位置から歯部側表面までの距離の変化量、即ち微分値は0となる。また、歯側面43は、前記所定位置から歯部側表面までの距離の変化が最も大きい領域であるため、歯側面43における前記距離の変化量、即ち微分値は、プラス側又はマイナス側のピーク値となる。従って、所定の閾値Rを、ピーク値と0との間の値に設定し、微分値が所定の閾値Rを超えた数を歯数としてカウントすることにより、歯数を計測することができる。また、たとえ歯付ベルト40にうねりや振れが生じて、歯付ベルト40の歯部側表面の位置が厚み方向に変位した場合であっても、歯底面42又は歯先面44に対応する部分の微分値は、閾値を超えるほど大きくなりにくく、うねり等が生じていない場合と同様に、微分値は1歯ごとに所定の閾値Rを1回超えることとなる。従って、歯数を確実に計数することができる。また、前記歯数判定部26による上記の判定は、所望の歯数を有する歯付ベルト40の製造に資する。
【0050】
(請求項2、請求項5)
また、上記の製造装置1は、前記計数部22が計測した前記歯数が上記所定歯数に到達したと前記歯数判定部26が判定したら、第一ローラ2及び第二ローラ3(移動手段)による前記歯付ベルト40の移動を停止させる停止部28を備える。以上の構成によれば、前記歯付ベルト40の製造に従事する作業員が、前記歯付ベルト40を、所望の歯数となるように切断することが可能となる。
【0051】
(請求項3、請求項6)
また、上記の製造装置1は、更に、以下のように構成される。即ち、前記停止部28は、前記歯付ベルト40の歯数が所望の歯数となるために切断すべき切断位置が第二所定位置に来るように、第一ローラ2及び第二ローラ3(移動手段)による前記歯付ベルト40の移動を停止させる。以上の構成によれば、前記歯付ベルト40の歯数が所望の歯数となるために切断すべき上記の切断位置が上記第二所定位置となったとき、前記歯付ベルト40の移動が停止する。従って、前記作業員が上記第二所定位置において前記歯付ベルト40を切断するだけで、所望の歯数を正確に有する歯付ベルト40を製造することができる。
【0052】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、上記の実施形態は以下のように変更して実施することができる。
【0053】
(A)上記実施形態では、第一ローラ2及び第二ローラ3によって、歯付ベルト40を長手方向に移動させているが、歯付ベルト40を長手方向に移動させる移動手段はこれに限定されるものではない。例えば、計測対象が無端歯付ベルトの場合には、1対の歯付プーリ、または、外周面が平坦な1対のプーリに歯付ベルトを巻き掛けて、歯付ベルトを走行移動させる構成であってもよい。
【0054】
(B)上記実施形態では、光学式センサ5は、所定位置から歯面40aまでの距離を測定しているが、歯面40aの凹凸高さの変化を検出できれば、光学式センサ5は、必ずしも前記距離を測定しなくてもよい。例えば、光学式センサ5が位置検出素子(PSD)を用いたものである場合、反射光を受光したときの位置検出素子上の光スポットの位置に基づいて、歯面の凹凸高さの変化を検出する構成であってもよい。また、光学式センサ5が歯面40aに光を照射してからその反射光を受光するまでの時間に基づいて、歯面40aの凹凸高さを検出する構成であってもよい。本発明の光学式センサによる「前記所定位置から前記歯部側表面までの距離を測定する」とは、上述したように、照射から反射光を受光するまでの時間を検出したり、位置検出素子上の光スポットの位置を検出することを含むものとする。
【0055】
(C)上記実施形態では、歯面40aの凹凸高さは、微分処理部21によって検出されているが、光学式センサ5によって検出される構成であってもよい。
【0056】
(D)上記実施形態では、微分処理部21は、歯面40aの凹凸高さを微分しているが、光学式センサ5によって測定された歯面40aまでの距離を微分する構成であってもよい。
【0057】
(E)上記実施形態では、所定の閾値Rはプラス側の値に設定され、微分値が所定の閾値Rを上回ったとき歯数をカウントする構成であるが、所定の閾値Rを、微分値のマイナス側のピーク値と0との間の適切な値に設定し、微分値が該閾値Rを下回ったときに歯数をカウントするように構成されていてもよい。
【0058】
(F)歯数の計測は、歯付ベルト40の先端(前端)の歯部41から開始してもよいが、予め歯付ベルト40の所定の歯部41にマークを付しておき、マークが付された歯部41から計測を開始してもよい。ただし、この場合は、作業員が上記キーボードを介して制御部6に入力し、所定歯数記憶部27に記憶される上記の所定歯数は、製造しようとする歯付ベルト40の所望の歯数よりも少ない歯数とすることが好ましい。
【0059】
(G)上記実施形態に係る製造装置1は、主として、スパイラルカットされた渦巻き状の歯付ベルトを材料とし、この渦巻き状の歯付ベルトを適宜に切断し、所望の歯数を有する歯付ベルト40を得るために用いられるものであるが、所望の歯数よりも若干多い歯数を有する歯付ベルトから、所望の歯数を有する歯付ベルト40を得るのに用いてもよい。
【0060】
最後に、上記実施形態では、歯付ベルト40は、幅方向に関して、ベルトガイド4の側面部10、11によって挟まれているため、歯付ベルト40の蛇行を抑制することができる。また、歯付ベルト40は、厚み方向に関して、ベルトガイド4の上面部12と底面部13とによって挟まれているため、歯付ベルト40のうねりや、歯付ベルト40の先端(前端又は後端)の反りを抑制することができる。従って、歯付ベルト40のうねり等に起因する歯数の有無の誤判定を防止することができ、より確実に歯数を計測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態の歯数計数装置の概略図
【図2】歯付ベルトの断面図
【図3】(a)はベルトガイドの側面図であって、(b)は(a)のA―A線断面図
【図4】(a)は歯面の凹凸高さを示すグラフであって、(b)は歯面の凹凸高さの微分値を示すグラフ
【図5】歯付ベルトにうねりが生じたときの図4に相当する図
【図6】製造プログラムのフロー
【符号の説明】
【0062】
1 歯数計数装置
2 第一ローラ
3 第二ローラ
4 ベルトガイド
5 光学式センサ
6 制御部
7 レーザポインタ
21 微分処理部
26 歯数判定部
24 カウンター
40 歯付ベルト
41 歯部
42 歯先面
43 歯側面
44 歯底面
45 歯先側コーナー面
46 歯底側コーナー面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に所定間隔で配置された複数の歯部を有する歯付ベルトを前記長手方向に移動させる移動手段と、
前記歯付ベルトの前記歯部側の所定位置に配置され、前記所定位置から前記長手方向に移動している前記歯付ベルトの前記歯部側表面までの距離を測定する光学式センサと、
前記光学式センサにより測定された前記距離に対して微分処理を行なう微分処理部と、
前記微分処理部により算出された微分値が所定の閾値を超えた数を歯数として計測する計数部と、
前記計数部が計測した前記歯数が所定歯数に到達したかを判定する歯数判定部と、
を備える、
ことを特徴とする歯付ベルトの製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の歯付ベルトの製造装置であって、
前記計数部が計測した前記歯数が上記所定歯数に到達したと前記歯数判定部が判定したら、前記移動手段による前記歯付ベルトの移動を停止させる停止部を備える、
ことを特徴とする歯付ベルトの製造装置。
【請求項3】
請求項2に記載の歯付ベルトの製造装置であって、
前記停止部は、前記歯付ベルトの歯数が所望の歯数となるために切断すべき切断位置が第二所定位置に来るように、前記移動手段による前記歯付ベルトの移動を停止させる、
ことを特徴とする歯付ベルトの製造装置。
【請求項4】
長手方向に所定間隔で配置された複数の歯部を有する歯付ベルトを前記長手方向に移動させながら、前記歯付ベルトの前記歯部側の所定位置に配置した光学式センサにより、前記所定位置から前記歯部側表面までの距離を測定する距離測定工程と、
前記距離測定工程で測定した前記距離に対して微分処理を行なう微分処理工程と、
前記微分処理工程で算出した微分値が所定の閾値を超えた数を歯数として計測する計数工程と、
前記計数工程で計測した前記歯数が所定歯数に到達したかを判定する歯数判定工程と、
を含む、
ことを特徴とする歯付ベルトの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の歯付ベルトの製造方法であって、
前記計数工程で計測した前記歯数が上記所定歯数に到達したと前記歯数判定工程で判定したら、前記歯付ベルトの移動を停止させる停止工程を含む、
ことを特徴とする歯付ベルトの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の歯付ベルトの製造方法であって、
前記停止工程では、前記歯付ベルトの歯数が所望の歯数となるために切断すべき切断位置が第二所定位置に来るように、前記歯付ベルトの移動を停止させる、
ことを特徴とする歯付ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−105225(P2010−105225A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277768(P2008−277768)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】