説明

歯冠修復部材

【課題】従来廃棄されていた抜去歯の有効利用を図るとともに、抜去歯又は抜去歯類似の素材を利用した歯冠部分の修復を好適に行うことができる歯冠修復部材を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る歯冠修復部材10は、天然歯接合用の歯冠修復部材であって、エナメル質からなる表層11と、該表層部内面に積層された象牙質からなる内層13と、を有している。また、本発明に係る歯冠修復部材10は、さらに、前記内層の開放された表面を覆うレジン層15を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯冠部分の修復を好適に行うことができる抜去歯又は抜去歯類似の素材を利用した歯冠修復部材に関する。
【背景技術】
【0002】
智歯は、各人に必ずしも4本すべて揃っているというわけではないが、ほとんどの人が持っている。しかし、智歯は、顎の狭い空間部分に生える例が多々あり、歯並びを悪くし、さらに虫歯や歯肉の炎症を誘発しやすく、口腔内にトラブルが生じやすいという問題がある。トラブルを生じた智歯は治療される場合もあるが、トラブルが再発しやすいということから抜歯される場合が少なくない。また、矯正治療において、小臼歯等が抜去される場合もある。
【0003】
このような抜去歯は、これまで廃棄処分にされるのが通常であったが、特許文献1に、抜去歯を生理食塩氷片とともに粉砕することにより歯槽骨の再生等に適した抜去歯粉砕品を提供するための調整方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-222811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
抜去歯は、素材としてみれば、表層は硬いエナメル質からなり、その表層を裏打ちするようにやや柔らかい象牙質を有し、機械的強度、耐食性、耐久性及び審美性に優れ、歯冠修復部として好適な素材である。しかしながら、抜去歯又は抜去歯類似の素材を利用した歯冠部分の修復について開示する先行技術は見あたらない。
【0006】
本発明は、このような観点から、従来廃棄されていた抜去歯の有効利用を図るとともに、抜去歯又は抜去歯類似の素材を利用した歯冠部分の修復を好適に行うことができる歯冠修復部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る歯冠修復部材は、天然歯接合用の歯冠修復部材であって、エナメル質からなる表層と、該表層部内面に積層された象牙質からなる内層と、を有している。また、本発明に係る歯冠修復部材は、さらに、前記内層の開放された表面を覆うレジン層を有するものである。
【0008】
上記発明において、天然歯接合面の外縁が平坦な形状になっているのがよい。そして、天然歯接合面に、天然歯にはまり込む凹部を有するものとすることができる。また、天然歯接合面に、天然歯にはまり込む凸部を有するものとすることができる。さらに、本発明に係る歯冠修復部材は、インプラントのアバットメントにはまり込む凹部を設けることにより、接合される相手がインプラントであっても使用することができる。
【0009】
本発明に係る天然歯接合用の歯冠修復部材の製造方法は、抜去歯又は抜去歯類似の焼成品を過酸化水素水と次亜塩素酸ナトリウム水とで交互洗浄する工程と、交互洗浄された抜去歯又は抜去歯類似の焼成品を加熱水蒸気で滅菌処理する工程と、滅菌処理された抜去歯又は抜去歯類似の焼成品の歯根側端部の平面加工を行う加工工程と、平面加工された面から象牙質に向かって凹部を形成する加工工程と、加工が終わった抜去歯又は抜去歯類似の焼成品の象牙質の開放面にレジンをコーティングする工程と、を有する方法により実施することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る歯冠修復部材は、機械的強度、耐食性、耐久性及び審美性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る歯冠修復部材の断面を示す模式図である。
【図2】図1の歯冠修復部材と形状が異なる例の模式図である。
【図3】歯冠部分の修復が行われる天然歯の模式図である。
【図4】他の実施例の断面を示す模式図である。
【図5】他の実施例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明を実施するための形態について、図面を基に説明する。図1は、本発明に係る歯冠修復部材の一実施例の断面を示す模式図である。図1に示すように、本歯冠修復部材10は、天然歯30に接合される歯冠修復部材であり、エナメル質からなる表層11と、その表層11の内面に積層された象牙質からなる内層13とを有している。
【0013】
歯冠修復部材10は、エナメル質からなる表層11及び象牙質からなる内層13を有しているものであれば足りる。このため、人の歯牙であると動物の歯牙であるとを問わずそのような歯牙に由来する抜去歯であれば足りる。また、そのような抜去歯に類似する素材を用いて焼成することにより作製されたものであってもよい。
【0014】
歯冠修復部材10の形状は、特に問わない。例えば、図1に示す形状のものであっても、図2に示す形状を有するものであってもよい。図2に示す歯冠修復部材10は、表層11及び内層13と、内層13を形成する象牙質の開放面となる部分に以下に説明するレジン層15とを有する点では、図1の場合と同様であるが、ちょうど図1に示す歯冠修復部材10の一部分であるような形状をしている。
【0015】
また、歯冠修復部材10が接合される天然歯30の形状についても特に問わない。図3(図1)に示すような形状とすることができ、また、他の形状にすることができる。
【0016】
歯冠修復部材10及び天然歯30の形状は、少なくとも両者を接合するために、はめ合うための凹凸部を有するのがよい。例えば、図1に示すように、歯冠修復部材10に凹部18を設け、天然歯30に設けた凸部35(図3)が歯冠修復部材10の凹部18にはまり込むようにすることができる。凸部35は、天然歯30そのものを加工して形成されたものであっても、金属を加工したものから形成されるものであってもよい。
【0017】
また、歯冠修復部材10にあっては平坦な外縁16を有し、天然歯30にあってはこの外縁16に対向する平坦部36を有するのがよい。これにより、歯冠修復部材10と天然歯30とを強固に接合することができる。また、歯冠修復部材10の辺縁が割れやすいという問題を解決することができ、以下に説明する封孔処理を容易にすることができる。
【0018】
歯冠修復部材10は、図1又は図2に示すように、内層13の開放された表面(表層11で覆われていない部分)がレジン層15により覆われているのがよい。これにより、象牙質からなる内層13の封孔処理をするとともに、天然歯30との接合を容易にすることができる。封孔処理により、歯冠修復部材10の腐食、細菌の繁殖等を防止することができ、耐久性を向上させることができる。なお、レジン層15の形成は、公知の歯科用象牙質接着材を使用して行うことができる。
【0019】
本発明に係る歯冠修復部材10は、以下のような方法により製造することができる。すなわち、抜去歯又は抜去歯類似の焼成品を過酸化水素水と次亜塩素酸ナトリウム水とで交互洗浄する工程と、交互洗浄された抜去歯又は抜去歯類似の焼成品を加熱水蒸気で滅菌処理する工程と、滅菌処理された抜去歯又は抜去歯類似の焼成品の歯根側端部の平面加工を行う加工工程と、平面加工された面から象牙質に向かって凹部を形成する加工工程と、加工が終わった抜去歯又は抜去歯類似の焼成品の象牙質の開放面にレジンをコーティングする工程と、により歯冠修復部材10を製造することができる。
【0020】
上記製造方法において、抜去歯又は抜去歯類似の焼成品を過酸化水素水と次亜塩素酸ナトリウム水とで交互洗浄する工程は、歯髄等腐食性の物質や混雑物等を洗浄、除去するために行われる。交互洗浄された抜去歯又は抜去歯類似の焼成品は、加熱水蒸気で滅菌処理される。この滅菌処理工程は、例えば、オートクレーブを使用し、121℃、2気圧の過熱水蒸気による20分間の加熱処理により行うことができる。
【0021】
次に、滅菌処理された抜去歯又は抜去歯類似の焼成品は、天然歯30と接合される部分となる歯根側端部が平面加工される。平面加工とは、図1に示すような、歯冠修復部材10が平坦な外縁16を有するように加工を施すことをいう。
【0022】
次に、平面加工された面から象牙質に向かって凹部18を形成する加工が行われる。この凹部18は、一般に歯科治療で行われる形状にするのが好ましい。このため、所定形状になるように、公知のコンポジットレジンを利用して凹部18の形成を行うことができる。
【0023】
加工が終わった抜去歯又は抜去歯類似の焼成品は、象牙質の開放面になった部分にレジンがコーティングされる。コーティングは、公知の歯科用象牙質接着材を使用して行うことができる。
【0024】
以上、歯冠修復部材10について説明した。本発明に係る歯冠修復部材は、上記の実施例に限定されない。例えば、以下のような歯冠修復部材であってもよい。すなわち、図4に示すように、歯冠修復部材10は、表層11、内層13及びレジン層15を有し、天然歯30に接合される部分に支柱20を有する形態のものであってもよい。なお、支柱20は、天然歯30に設けられた凹部にはまり込むようになっている。
【0025】
また、歯冠修復部材10が、図2に示すような形状のものである場合は、図5に示すような修復を行うことができる。すなわち、本歯冠修復部材10を使用して、う触等により歯冠の一部が欠損した天然歯30の修復を行うことができる。
【0026】
歯冠修復部材10と天然歯30との接合は、公知の方法により接合することができる。接合には、公知の接着性レジンセメントを使用することができ、接合面に金箔等の金属を挟み込んだ上で歯冠修復部材10と天然歯30との接合を行うことができる。
【0027】
上述のように、本発明に係る歯冠修復部材は、天然歯の歯冠部分の各種の修復を行うことができ、機械的強度、耐食性、耐久性及び審美性に優れた修復を行うことができる。また、本発明に係る歯冠修復部材による歯冠部分の修復は、天然歯に限らずインプラントに対しても行うことができる。すなわち、本歯冠修復部材の天然歯接合面に、インプラントのアバットメントにはまり込む凹部を設けることにより、本歯冠修復部材はインプラントに対しても好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0028】
10 歯冠修復部材
11 表層
13 内層
15 レジン層
16 外縁
18 凹部
20 支柱
30 天然歯
35 凸部
36 平面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然歯接合用の歯冠修復部材であって、エナメル質からなる表層と、該表層部内面に積層された象牙質からなる内層と、を有する歯冠修復部材。
【請求項2】
さらに、前記内層の開放された表面を覆うレジン層を有する請求項1に記載の歯冠修復部材。
【請求項3】
天然歯接合面の外縁が平坦な形状になっている請求項2に記載の歯冠修復部材。
【請求項4】
前記天然歯接合面に、天然歯にはまり込む凹部を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の歯冠修復部材。
【請求項5】
前記天然歯接合面に、天然歯にはまり込む凸部を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の歯冠修復部材。
【請求項6】
前記天然歯接合面に、インプラントのアバットメントにはまり込む凹部を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の歯冠修復部材。
【請求項7】
抜去歯又は抜去歯類似の焼成品を過酸化水素水と次亜塩素酸ナトリウム水とで交互洗浄する工程と、
交互洗浄された抜去歯又は抜去歯類似の焼成品を加熱水蒸気で滅菌処理する工程と、
滅菌処理された抜去歯又は抜去歯類似の焼成品の歯根側端部の平面加工を行う加工工程と、
平面加工された面から象牙質に向かって凹部を形成する加工工程と、
加工が終わった抜去歯又は抜去歯類似の焼成品の象牙質の開放面にレジンをコーティングする工程と、を有する天然歯接合用の歯冠修復部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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