説明

歯周炎における抗生物質の調整物及び使用方法

【課題】経口投与による抗生物質は、歯肉への薬剤移行は低く、抗生物質の除菌及び殺菌作用を期待するには、有効血中濃度を獲得する上で、薬剤の副作用、特に胃腸障害を考慮して、大量には投与できない等問題がある。そこで薬剤の特性を最大限に活用する投与方法と抗生物質の組成を検討し、最も優れた除菌、殺菌作用を期待する投与方法と配合比を提供する。
【解決手段】合成ペニシリン系抗生物質のうち、アモキシリン(ABPC)、14員環マクロライド系抗生物質のうち、エリスロマイシン(EM)、クラリスロマイシン(CAM)、およびその塩それらの混合物から選択される一定の乾燥用量を含む抗生物質を選択し、3剤の抗生物質は軟膏剤、クリーム剤、水溶液剤の各剤型とし、歯周ポケットへの深部注入を容易とする剤型を選択する。合成ペニシリン系抗生物質:14員環マクロライド系抗生物質=2:1とする配合比が最も優れた除菌、殺菌作用を期待できる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
【本発明の属する技術分野】
【0002】
本発明は、歯科領域の患者がもっとも罹患する、歯周炎において、歯周ポケットへの抗生物質調整物含有剤の直接注入による処置方法に関する。
【0003】
また、本発明は、消化性潰瘍の根治療法として確立している抗生物質である、アモキシリン及びクラリスロマイシン、エリスロマイシン併用療法により、グラム陰性桿菌類であるヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)の除菌療法に着目し、歯周炎における起炎菌である、グラム陰性桿菌類の実態に即し、歯周炎の起炎菌の除菌及び殺菌作用を目的とする抗生物質投与および配合方法に関する。
【背景技術】
【0004】
一般的な歯周炎の起炎菌は、グラム陰性桿菌が主たる菌種のため、従来より、歯周炎の根治療法としては、薬物療法である抗生物質が投与され、薬物療法の多くは経口投与であり、散剤、顆粒剤、丸剤、錠剤、カプセル剤等の固形製剤が治療の主たる製剤であり、補助薬剤として口腔洗浄剤、含嗽剤などが使用されている。
【0005】
しかし、経口投与による抗生物質は、歯周への薬剤移行は低く、抗生物質の除菌及び殺菌作用を期待するには、有効血中濃度を獲得する上で、大量投与が必要であり、多量の薬剤投与の副作用としては、特に胃腸障害に対して考慮を要し、大量には投与できない等問題がある。
【0006】
また、元々固形薬剤の服用を嫌う、老人の他、高度の脳障害を罹患する患者においては、抗生物質の有効血中濃度の維持は困難を極めた。
【0007】
しかも、歯周炎の補助薬剤の口腔洗浄剤、含嗽剤などは塩化ベンゼトニウム、水溶性アズレン等を主成分とし、洗浄による口腔内の清浄効果しか期待できなかった。
【0008】
従って、歯周炎は歯槽膿漏への進展、抜歯へと進む等、薬物療法の模索がされてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来の歯周炎治療剤には次ぎのような問題点があり、根治療法として抗生物質の投与が行われるが、歯肉への薬剤移行を期待するまでには、薬剤投与量と有効血中濃度が用量依存的に関与している報告、図3により投与量を優先すると、胃腸障害など副作用が課題となる。
【0010】
そこで、本発明が解決すべき課題は、薬剤の特性を最大限に活用する投与方法と抗生物質の組成を検討し、最も優れた除菌、殺菌作用を期待する投与方法と配合比を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するため、種々の検討を重ねた結果、複数の抗生物質を利用し、その配合比を検討し、前記課題を解決でき、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の歯周炎における抗生物質の調整物及び使用方法は、複数の異なる抗生物質の配合比として、合成ペニシリン系抗生物質のうち、アモキシリン(ABPC)、14員環マクロライド系抗生物質のうち、エリスロマイシン(EM)、クラリスロマイシン(CAM)、およびその塩それらの混合物から選択される一定の乾燥用量を含む抗生物質を選択し、3剤の抗生物質は軟膏剤、クリーム剤、水溶液剤の各剤型とし、歯周ポケットへの深部注入を容易とする剤型を選択し、歯周炎における起炎菌としてのグラム陰性桿菌への、選択的な除菌及び殺菌作用が獲得できた。
【0013】
また、上記、3剤の抗生物質の配合比は、合成ペニシリン系抗生物質:14員環マクロライド系抗生物質=2:1とする配合が、最も優れた除菌及び殺菌作用を獲得できた。
【0014】
なお、他の抗生物質の調整物としては、合成ペニシリン系抗生物質である、アモキシリン(ABPC)にメトロニダゾール、オーグメンチン及びアモキシリン(ABPC)オフロキサシン、スパルフロキサシンも有用な調整物と考えられる。
【0015】
また、直接歯周ポケットへ注入する方法は、歯周ポケットへの薬剤の深部注入を目的とする、特性注入シリンジを用い、患部である歯周ポケット深部への抗生物質の定着を獲得でき、有効血中濃度は高位に維持することができた。
【0016】
このことは、抗生物質の限局的な局所注入のため、抗生物質は高濃度で維持されるため、菌交代現象等は起こり難く、耐性菌の出現を抑える事ができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
【0017】
本発明に係る、歯周炎における抗生物質の調整物及び使用方法について、その実施例としては次において説明する。
【0018】
歯周炎とは歯ぐきから血や膿が出る、歯ぐきが腫れた、歯ぐきが下がって根っこが伸びたようにみえる、歯がぐらぐら動く、または、ぐらぐらが大きくなって歯が抜けた(または抜かれた)、口臭がするなどの症状があれば歯周病を疑い、歯槽膿漏(=しそうのうろう)とも呼ばれるものである。
【0019】
人によって症状は様々で、歯ぐきの炎症が強い人や、一見健康そうにみえるけれども歯と歯肉の境目(歯周ポケット)が深くなっている人も散見され、レントゲン写真を撮ると、骨が吸収してみえることもあります。
【0020】
歯周病の原因はプラーク(歯垢)であり、プラークとは、歯を磨かないでいると、粘着質のゲル状物質が付着するが、単なる食べカスではなく、70%は細菌群の塊であり、プラーク中には約300種類の細菌が存在し、そのほとんどは常在菌であり、無害な菌であるが、プラークが付きっぱなしになっていると、無害な菌には住みにくい環境となり、歯ぐきに近いところでは歯周病の原因と考えられている菌群の勢力が拡大し、これが歯ぐきの炎症の原因となります。
【0021】
上記、プラーク中に存在する、歯周病の起炎細菌群として、グラム陰性桿菌である、Actinobacillusactinomycetemcomitans(以下、ACCと略する)及びPorphyromonas gingivalis(以下、PGと略する)が主に顕在化していることが解ってきた。
【0022】
従来、歯周病は進行度や原因、進行時期や速度などによって分類されているが、まだ統一されていないのが現状であるが、1999年11月にシカゴで開催されたAAP(米国歯周病学会)会議において、歯周炎を疾患の病態と進行性から4つに分類した。
【0023】
その4分類が以下であるが、
TypeI:破壊進行性歯周炎;A限局型、B広汎型
TypeII:慢性歯周炎;A限局型、B広汎型
TypeIII:全身疾患由来の歯周炎
TypeIV:壊死性歯周炎
【0024】
上記、4分類いずれも薬物療法は必須事項であるが、通常、歯肉縁上のプラークコントロールが確立された後、歯周ポケットの中(歯肉縁下=しにくえんか)にあるプラーク及び歯石をスケーリング(歯石除去)します。
【0025】
スケーリングの後、歯周ポケットの中に存在する、歯周炎の起炎細菌群として、グラム陰性桿菌である、ACC及びPGが顕在していることは前述したが、この菌群に有用性の高い、本発明の配合比図1を特徴とする、抗生物質を含む調整物を用いる。
【0026】
本発明の抗生物質の調整物を、特性注入シリンジを用い、患部である歯周ポケットへ抗生物質調整物の注入を行い、定着をさせるが、1週間に1ないし2度の限局的な局所注入処置で、歯周ポケットの細菌群は除菌、殺菌される。
【0027】
除菌、殺菌作用は、合成ペニシリン系抗生物質である、アモキシリン(ABPC)が6mg、14員環マクロライド系抗生物質において、エリスロシン(EM)は10mg、クラリスロマイシン(CAM)20mg、の配合比、図2が最も優れたものであることが分かった。
【発明の効果】
【0028】
本発明の歯周炎における抗生物質の調整物及び使用方法は、複数の異なる抗生物質の配合比として、合成ペニシリン系抗生物質のうち、アモキシリン(ABPC)、14員環マクロライド系抗生物質のうち、エリスロマイシン(EM)、クラリスロマイシン(CAM)、およびその塩それらの混合物から選択される一定の乾燥用量を含む抗生物質を選択し、3剤の抗生物質は軟膏剤、クリーム剤、水溶液剤型とし、歯周ポケットへの深部注入を容易とする剤型を選択し、歯周炎における起炎菌として、グラム陰性桿菌への選択的な除菌及び殺菌作用が獲得できた。
【0029】
また、上記効果の他、14員環マクロライド系抗生物質中、エリスロマイシン(EM)、クラリスロマイシン(CAM)に確認されている作用機序として、炎症部位の上皮再生効果として、好中球エラスターゼ等が傷害上皮因子に対し抑制的に働き、結果として上皮再生を促す効果が認められているが、本発明においても、歯周ポケットの内縁上皮細胞の再生効果が確認されている。
【0030】
臨床試験においては、1週間に1ないし2度の限局的な局所注入処置のため、1週間での治癒効果としては、95%の症例に肉眼的所見として、腫脹、発赤、出血、プローピングディプス(歯肉ポケット)に改善効果が認められ、また、自覚所見としては疼痛の緩解、発熱の緩解に著しい効果が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【0032】
【図1】病原微生物に対する薬剤選択の指標
【図2】3種抗生物質の配合比検討表
【図3】14員環マクロライド系抗生物質中のクラリスロマイシン用量別の除菌率表

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯周炎に直接局所(歯周ポケット)に、合成ペニシリン系抗生物質のうち、アモキシリン(ABPC)を、14員環マクロライド系抗生物質のうち、エリスロマイシン(EM)、クラリスロマイシン(CAM)、及びその塩それらの混合物から選択される一定の乾燥用量を含む、軟膏剤、クリーム剤、水溶液剤を注入投与することを含み、抗生物質含有の軟膏剤、クリーム剤、水溶液剤は、経口抗生物質が慣用の胃腸吸収により、血液を介して歯周ポケットに到達される場合より、実質的に高用量レベルの抗生物質を維持し、一定用量を直接歯周ポケットへ深部注入する限局処置方法。
【請求項2】
合成ペニシリン系抗生物質のうち、アモキシリン(ABPC)、14員環マクロライド系抗生物質のうち、エリスロマイシン(EM)、クラリスロマイシン(CAM)、およびその塩それらの混合物から選択される一定の乾燥用量を含む軟膏剤、クリーム剤、水溶液剤に含有する2種類群抗生物質の配合比率を、合成ペニシリン系抗生物質が2、14員環マクロライド系抗生物質群が1、すなわち2:1とする配合比率をもつ、請求項1記載の医薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−1915(P2006−1915A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205298(P2004−205298)
【出願日】平成16年6月14日(2004.6.14)
【出願人】(504267312)
【Fターム(参考)】