説明

歯牙漂白用トレー、歯牙漂白剤及び歯牙漂白方法

【課題】 好適な漂白効果を得ることが可能な歯牙漂白用トレー及び歯牙漂白剤を提供する。漂白後の再着色を抑制することが可能な歯牙漂白方法を提供する。
【解決手段】 歯牙漂白用トレー10は、歯牙の表面を覆う凹部11を有している。この凹部11には歯牙を漂白するための歯牙漂白剤が注入される。また、凹部11の内面には歯牙漂白剤を含浸させるための浸潤材12が歯牙の表面に密着するように設けられている。歯牙漂白剤は、漂白成分及び再石灰化成分の各成分を含んでおり、前記漂白成分は過酸化水素及び過ホウ酸ナトリウムであり、前記再石灰化成分はフッ化ナトリウムである。歯牙漂白方法は、始期漂白過程と終期漂白過程とを備える複数の漂白過程からなり、前記終期漂白過程では前記始期漂白過程に比べて前記漂白成分の含量を減らし、且つ前記再石灰化成分の含量を増やした歯牙漂白剤が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美容を目的とした歯牙の漂白に使用する歯牙漂白用トレー、歯牙漂白剤及び歯牙漂白方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、美容目的で歯牙を漂白する際、歯牙を覆う歯牙漂白用トレーと、歯牙を漂白する歯牙漂白剤とが用いられている。歯牙漂白用トレーは、合成樹脂により馬蹄状に形成されており、歯牙を挿入するための凹部が設けられている。なお、この凹部は歯牙を個々に挿入するものではなく、全ての歯牙を挿入することができるように、歯牙漂白用トレーの全体にわたってU字状に形成されている。一方、歯牙漂白剤は、主な漂白成分として過酸化尿素を含んでいる。歯牙の漂白は、歯牙漂白用トレーの凹部内に歯牙漂白剤を充填した後、同凹部内に歯牙が挿入されるように口腔内に歯牙漂白用トレーを装着して行われる。
【0003】
上記の歯牙漂白用トレーは、多数の使用者に対応可能なフリーサイズとすべく、凹部のサイズが歯牙よりも大きく設定されており、凹部に歯牙を挿入した状態で凹部の内面と歯牙の表面との間に大きな隙間が形成されている。この隙間が歯牙漂白剤を停滞させるスペースとなる。しかし、当該歯牙漂白用トレーにおいては、凹部の内面と歯牙の表面との間のみならず、凹部の内面と歯頸(歯牙と歯茎との境目)との間にも隙間が形成されており、口腔内に歯牙漂白用トレーが装着された状態で、同凹部は開口されたままとなっている。従って、上記の歯牙漂白用トレーでは、凹部の開口から歯牙漂白剤が漏れ出したり、同開口から凹部内に入り込んだ唾液等により歯牙漂白剤が希釈される等して所望の漂白効果が得られない。
【0004】
特許文献1及び特許文献2に示される歯牙漂白用トレーは、使用者の歯形を型取りして得られた石質模型を用い、同石質模型の表面に合成樹脂を塗布し、硬化させることによって作製されている。これにより、凹部が使用者個人の個々の歯牙の形状に対応しており、同凹部の内面が歯頸の表面に接触されるため、当該歯牙漂白用トレーが口腔内に装着された状態で、凹部は閉塞される。また、歯牙漂白剤には、カルボキシポリメチレンから構成される粘着性マトリックスを含有するものを用いている。そして、歯牙の漂白は、凹部の内面に歯牙漂白剤を塗布した後、同凹部内に歯牙を嵌め込んで口腔内に歯牙漂白用トレーを装着することにより、歯牙漂白剤の一部が漂白しようとする歯牙に接することで行われる。
【特許文献1】特開平8−113520号公報
【特許文献2】特開平9−224963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1及び特許文献2の歯牙漂白用トレー及び歯牙漂白剤においては、歯牙漂白剤を停滞させるスペースとして凹部内にレザボアが形成されている。しかし、このようなレザボアを設けようとも、凹部内に歯牙を嵌め込む際、粘着性マトリックスを含有する歯牙漂白剤は、凹部の内面上でのび広がる等することにより、レザボアから位置ずれしてしまう。また、歯牙漂白用トレーを歯に装着する際、のび広がった歯牙漂白剤が凹部からはみ出すおそれもある。従って、漂白しようとする歯牙の一部にのみ歯牙漂白剤が接し、同歯牙の一部のみが漂白される等の不具合が生じ得ることから、好適な漂白効果を十分に得られているとは言い難いものであった。さらに、歯牙を漂白した後、該歯牙の再着色までは考慮されておらず、再着色の抑制に劣っていた。
【0006】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、好適な漂白効果を得ることが可能な歯牙漂白用トレー及び歯牙漂白剤を提供することにある。その他の目的とするところは、漂白後の再着色を抑制することが可能な歯牙漂白方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の歯牙漂白用トレーの発明は、歯牙の表面を覆う凹部を有し、同凹部には前記歯牙を漂白する歯牙漂白剤が注入されるとともに、当該凹部の内面には前記歯牙漂白剤を含浸させる浸潤材を前記歯牙の表面に密着するように設けたことを要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、凹部の内面に浸潤材を設け、同浸潤材に歯牙漂白剤を含浸させることにより、当該歯牙漂白剤の凹部からの漏れ出しを抑制することが可能となる。さらに、浸潤材を歯牙の表面に密着させることにより、歯牙の表面に対する歯牙漂白剤の停滞性を向上させることが可能となる。従って、歯牙漂白剤の凹部からの漏れ出しを抑制しつつ、歯牙の表面に対する歯牙漂白剤の停滞性を向上させることにより、好適な漂白効果を得ることが可能となる。
【0009】
請求項2に記載の歯牙漂白用トレーの発明は、請求項1に記載の発明において、前記浸潤材を不織布で形成したことを要旨とする。
上記構成によれば、浸潤材を不織布で形成することにより、同浸潤材を薄くしつつ、歯牙漂白剤の含浸性能の向上を図ることが可能となる。従って、凹部の内面と歯牙の表面との間に隙間が形成されることを抑制しつつ、歯牙漂白剤の停滞性を向上させることが可能となる。
【0010】
請求項3に記載の歯牙漂白用トレーの発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記凹部を複数有し、該複数の凹部のうち漂白対象とする歯牙を覆う凹部の内面に前記浸潤材を設けたことを要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、複数の凹部で複数の歯牙を覆うことにより、口腔内における歯牙漂白用トレーの保持性能の向上を図るとともに、漂白対象とする歯牙を覆う凹部の内面にのみ前記浸潤材を設けたことにより、所望外の歯牙が漂白されることを抑制することが可能となる。
【0012】
請求項4に記載の歯牙漂白剤の発明は、歯牙を漂白するために使用する歯牙漂白剤であって、漂白成分及び再石灰化成分の各成分を含み、前記漂白成分が過酸化水素及び過ホウ酸ナトリウムであり、前記再石灰化成分がフッ化ナトリウムであることを要旨とする。
【0013】
上記構成によれば、過ホウ酸ナトリウムは、経時とともに分解して過酸化水素を発生させる。このため、過酸化水素が短期的な漂白性能を発揮するとともに、過ホウ酸ナトリウムが長期的な漂白性能を発揮することにより、漂白の始期から終期に至るまで十分な漂白性能を維持することが可能となる。さらに、フッ化ナトリウムが漂白後の歯牙の再石灰化を促進させることにより、好適に歯牙を白くすることが可能となる。従って、歯牙の表面を漂白しつつ、歯牙の表面で再石灰化を促進させることにより、好適な漂白効果を得ることが可能となる。
【0014】
請求項5に記載の歯牙漂白剤の発明は、請求項4に記載の発明において、前記過酸化水素の含量が0.8〜4.5質量%、前記過ホウ酸ナトリウムの含量が5〜7.5質量%、前記フッ化ナトリウムの含量が0.55〜0.6質量%であることを特徴とすることを要旨とする。
【0015】
上記構成によれば、歯牙漂白剤は、漂白性能及び再石灰化性能を好適に発揮することが可能となる。
請求項6に記載の歯牙漂白方法の発明は、歯牙の表面を覆う凹部と、前記凹部の内面に設けられ前記歯牙の表面に密着する浸潤材とを有する歯牙漂白用トレーを用い、前記浸潤材に漂白成分及び再石灰化成分を含む歯牙漂白剤を含浸させて歯牙を漂白する歯牙漂白方法であって、始期漂白過程と終期漂白過程とを備える複数の漂白過程からなり、前記終期漂白過程では前記始期漂白過程に比べて前記漂白成分の含量を減らし、且つ前記再石灰化成分の含量を増やした歯牙漂白剤を用いることを要旨とする。
【0016】
上記構成によれば、終期漂白過程では始期漂白過程に比べて前記漂白成分の含量を減らし、且つ前記再石灰化成分の含量を増やした歯牙漂白剤を用いている。即ち、始期漂白過程では歯牙の表面を白くすべく、歯牙の表面の着色物質を分解するための漂白を重点的に行う。一方、終期漂白過程では漂白により白くなった歯牙の表面を石灰成分で覆い、同歯牙の表面を保護すべく、再石灰化を重点的に行う。従って、漂白後の歯牙の表面が石灰成分によって保護されるため、漂白後の再着色を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、好適な漂白効果を得ることが可能な歯牙漂白用トレー及び歯牙漂白剤を提供することができる。また、漂白後の再着色を抑制することが可能な歯牙漂白方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態の歯牙漂白用トレーを示す斜視図である。歯牙漂白用トレー10は、歯牙を漂白する際に歯牙漂白剤とともに使用されるものである。この歯牙漂白用トレー10は、合成樹脂を材料として、馬蹄状に形成されている。歯牙漂白用トレー10の上面には、複数の凹部11が形成されている。これら凹部11は、それぞれの形状が中切歯、側切歯、犬歯、小臼歯、大臼歯等といった個々の歯牙の形状と対応するように形成されている。また、各凹部11は、歯牙の並び方向でそれぞれの内部が連通されている。そして、歯牙を漂白する際、各凹部11にはそれぞれの形状に対応する歯牙が挿入されるようになっており、歯牙が挿入された凹部11は、同歯牙の表面を覆うものとなる。
【0019】
なお、前記中切歯及び側切歯は一般に前歯と呼称されており、口腔内で唇側を前側、喉側を奥側として、最も前側に位置する一対の前歯が中切歯であり、これら中切歯の隣にそれぞれ位置する前歯が側切歯である。そして、側切歯から奥側へ向かって並ぶ歯牙は、前側から順番に、犬歯、第1小臼歯、第2小臼歯、第1大臼歯、第2大臼歯及び第3大臼歯である。第1小臼歯から第3大臼歯までは、一般に奥歯と呼称されている。また、図1に示す歯牙漂白用トレー10は、第2大臼歯及び第3大臼歯にそれぞれ対応する凹部11が省かれた構成となっている。
【0020】
前記歯牙漂白用トレー10は、歯牙を漂白する際、前記の各凹部11のうち、漂白対象とする歯牙の表面を覆う凹部11の内部に前記歯牙漂白剤を注入して使用するものである。本実施形態では、歯牙のうち犬歯及び第1小臼歯を漂白対象とする。そして、漂白対象とした犬歯及び第1小臼歯の表面をそれぞれ覆うこととなる各凹部11の内面には、浸潤材12が設けられている。
【0021】
図2は、歯牙漂白用トレー10が装着された状態の犬歯を示す断面図である。前記凹部11は、歯牙である犬歯13の表面で歯茎14から露出した部分、つまりは犬歯13の歯頸13aから咬合面13bまでを覆っている。この凹部11の内面に前記浸潤材12は、前記歯茎14に接触しないように貼り付けられている。浸潤材12は、犬歯13の表面で前側の面では歯頸13aから咬合面13bまでを覆い、奥側の面では咬合面13bの近傍を覆っている。そして、凹部11の形状が犬歯13の形状と対応していることから、凹部11に歯牙が挿入された状態で、浸潤材12は犬歯13の表面に密着されている。
【0022】
浸潤材12は、歯牙漂白剤を吸着する材料から形成されている。そして、この浸潤材12は、凹部11の内部に注入された歯牙漂白剤が含浸されることにより、当該凹部11の内部で同歯牙漂白剤を歯牙の表面に停滞させるよう機能する。浸潤材12は、その厚みが厚くなるに従って凹部11を広げてしまうことから、浸潤材12の厚みによっては凹部11の内面と歯頸13aとの間に隙間が形成され、同隙間から歯牙漂白剤が漏れ出すおそれがある。加えて、浸潤材12は、その厚みが厚くなるに従って潰れやすくなることから、浸潤材12の一部に歯牙の表面へ密着しない箇所が形成されてしまうおそれもある。従って、浸潤材12の厚みは、好ましくは0.5mm以下であり、より好ましくは0.4mm以下であり、さらに好ましくは0.3mm以下である。なお、浸潤材12は、歯牙漂白剤の吸着能と、凹部11に歯牙を挿入するときに破れない程度の強度とを備えた厚みであれば、その厚みの下限が特に限定されるものではない。
【0023】
浸潤材12に用いる材料としては、織布、編布、不織布、紙等が挙げられる。これら材料の中でも、不織布が浸潤材12の材料としてより好適である。浸潤材12の材料として不織布が好適な理由として、歯牙の挿入時に破れることを抑制することが可能な程度の適度な強度を維持しつつ、厚みを薄くすることが可能であることが挙げられる。また、浸潤材12に用いる材質としては、成形性及び吸着能に優れるという観点から、ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン等が好適である。これら材質の中でもナイロンは、成形性及び吸着能に加えて親水性にも優れることからより好適である。
【0024】
次に、前記歯牙漂白用トレーの製造方法について説明する。
歯牙漂白用トレーの製造は、使用者の歯形を型取りして得られた石膏製の作業用模型を使用し、同作業用模型を使用者の各歯牙に見立てて行われる。そして、当該製造は、作業用模型の表面に浸潤材を貼り付ける第1工程と、歯牙漂白用トレーを成形する第2工程とを備える。なお、この歯牙漂白用トレーの製造において、漂白対象とする歯牙と、同漂白対象の表面における漂白範囲とは製造前に予め選定されている。作業用模型は、歯頸から歯茎に該当する部分を0.5〜1.5cmの厚み分を残して除去し、且つ歯牙同士の隙間を石膏、合成樹脂等で埋めることにより、歯牙漂白用トレーの製造で使用する前に形が整えられている。また、表面とは、特に指定の無い限り、歯牙が前歯又は犬歯であれば前側となる面と奥側となる面との両方を示し、歯牙が奥歯であれば口腔内で頬側となる面と舌側となる面との両方を示す。
【0025】
前記第1工程では、まず前記漂白対象の漂白範囲に対して余剰分を有するように、同漂白範囲よりも広く浸潤材を裁断し、この浸潤材を作業用模型上で漂白範囲と該当する箇所に水溶性の接着剤を用いて接着する。次に、この浸潤材を覆うように同浸潤材の表面に保護膜を配置する。そして、加圧成形機を用いることにより、保護膜を介して作業用模型の表面に浸潤材を圧接させる。このとき、浸潤材は作業用模型の表面に密接して貼り付く。なお、保護膜を介して作業用模型の表面に浸潤材を圧接させる理由として、加圧成形機を用いた圧接により、浸潤材を皺等が形成されることのないように、作業用模型上に隙間無く密着させることが挙げられる。
【0026】
前記第2工程では、まず第1工程で作業用模型の表面に密接して貼り付けられた浸潤材から前記余剰分を切除する。このとき、前述のように浸潤材が歯茎に接触しないように、浸潤材は、その切端が歯頸よりも咬合面側に位置するように切除される。次に、浸潤材の表面から前記保護膜を除去し、同浸潤材の表面に合成樹脂製のシート材を配置する。次に、加圧成形機を用い、シート材を作業用模型の表面に圧接させることにより、同シート材を各歯牙の形状と対応する形状となるように成形する。そして、歯頸に沿ってシート材の端部を切除し、形を整えることにより、同シート材から歯牙漂白用トレーが成形される。
【0027】
その後、作業用模型は、歯牙漂白用トレーが装着された状態のまま水中に浸漬される。この水中への浸漬により、作業用模型に浸潤材を接着していた接着剤が溶解されることから、浸潤材を作業用模型の表面から剥離することが可能となる。また、浸潤材は、加圧成形機を用いたシート材の成形時に同シート材に圧着されており、作業用模型から歯牙漂白用トレーを脱着するとき、同歯牙漂白用トレーとともに作業用模型から脱着される。
【0028】
次に、前記歯牙漂白剤について説明する。
歯牙漂白剤は、前記歯牙漂白用トレーとともに使用することで歯牙を漂白するものである。本実施形態の歯牙漂白剤は、漂白成分、再石灰化成分及び増粘剤の各成分を含んでいる。
【0029】
前記漂白成分は、歯牙の表面に付着した着色物質を分解し、歯牙を漂白するために配合される。この漂白成分は、過酸化水素及び過ホウ酸ナトリウムである。過酸化水素は、その分解時に発生したオゾンによる強度の漂白効果により、前記着色物質に対する分解能を発揮する。また、過酸化水素は、過酸化尿素等の過酸化物に比べて強度の漂白効果を有していることから、過酸化尿素等の過酸化物を含む従来の歯牙漂白剤に比べ、歯牙漂白剤の使用量の低減を図ることが可能となる。
【0030】
過ホウ酸ナトリウムは、その分解時に過酸化水素を発生させることから、前記過酸化水素による着色物質の分解能を補い、歯牙漂白剤の漂白性能を長時間にわたって維持する。即ち、前記過酸化水素は、着色物質に対して強度の分解能を発揮するものの、同分解能を発揮可能な時間は短い。一方、過ホウ酸ナトリウムは、その分解時に過酸化水素を発生させることから、前記過酸化水素よりも遅れて漂白性能を発揮する。従って、過酸化水素及び過ホウ酸ナトリウムを漂白成分として含む歯牙漂白剤は、過酸化水素が漂白効果を発揮するまでの時間と、過ホウ酸ナトリウムが漂白効果を発揮するまでの時間との間に時間差があるため、漂白性能を長時間にわたって維持する。なお、過ホウ酸ナトリウムは、着色物質の分解能を補う効果以外に、殺菌効果及び防腐効果を有する。
【0031】
歯牙漂白剤中の過酸化水素の含量は、好ましくは0.8〜4.5質量%である。過酸化水素の含量が0.8質量%未満の場合、歯牙漂白剤が十分な漂白性能を発揮することができなくなるおそれがある。一方、過酸化水素を4.5質量%を超える含量としても、歯牙に対する漂白性能の目立った向上は図りにくく、却って歯牙漂白用トレー或いは浸潤材が過酸化水素によって風化されるおそれがある。また、歯牙漂白剤中の過ホウ酸ナトリウムの含量は、好ましくは5〜7.5質量%である。過ホウ酸ナトリウムの含量が5質量%未満の場合、着色物質の分解能を十分に補うことができなくなるおそれがある。一方、過ホウ酸ナトリウムを7.5質量%を超える含量としても、着色物質の分解能を補う効果が目立って向上することはない。
【0032】
前記再石灰化成分は、漂白により白くなった歯牙の表面を石灰成分で覆い、同歯牙の表面を保護することにより、歯牙が再び着色されること(漂白後の後戻り)を抑制するために配合される。ここで、漂白後の後戻りについて説明する。この漂白後の後戻りは、着色物質の生成源(主には有機物)が歯牙の表面を形成するエナメル質へ物理的に吸着することによって起こると発明者等は推察している。また、エナメル質への生成物質の物理的な吸着は、脱灰によってエナメル質の結晶構造中に欠落が発生し、この結晶構造中の欠落に生成源が侵入することによって生じると考えられている。従って、発明者等は、再石灰化により、エナメル質の結晶構造中の欠落が修復されたり、被覆されたり等することにより、漂白後の後戻りを抑制することが可能であると考えている。
【0033】
この再石灰化成分は、フッ化ナトリウムである。フッ化ナトリウムは、歯牙の表面でカルシウム等を取り込みやすくする能力を有することから、エナメル質の結晶構造であるヒドロキシアパタイトの生長促進能を発揮する。さらに、フッ化ナトリウムは、ヒドロキシアパタイト中の水酸基をフッ素基へと置換することにより、フルオロアパタイト構造を形成する。このフルオロアパタイト構造は耐酸性が高いことから、同フルオロアパタイト構造を表面に有する歯牙は、エナメル質が強化されることにより、前記漂白成分のみならず、口腔中に存在する生成源から生じた有機酸等に対する耐性も高まる。歯牙漂白剤中のフッ化ナトリウムの含量は、好ましくは0.55〜0.6質量%である。フッ化ナトリウムの含量が0.55質量%未満の場合、歯牙漂白剤に十分な再石灰化性能を付与することができなくなるおそれがある。一方、フッ化ナトリウムの含量が0.6質量%を超える場合、歯牙に対する再石灰化性能が向上しにくくなる。
【0034】
前記増粘剤は、歯牙漂白剤に粘性を付与することにより前記浸潤材に吸着させやすくするとともに、歯牙漂白剤のpHを調整するために配合される。この増粘剤には主に歯磨剤が用いられる。また、この増粘剤により、歯牙漂白剤はpHを5.5を超えるように調整することが好ましい。これは、前記エナメル質はpHが5.5以下で脱灰され、その結晶構造中に欠落を生じるためである。
【0035】
次に、歯牙漂白用トレー及び歯牙漂白剤を使用した歯牙漂白方法について説明する。
まず、歯牙漂白方法における歯牙漂白用トレーの使い方について説明する。歯牙を漂白するときには、歯牙漂白用トレーの各凹部のうち、浸潤材が設けられた凹部の内部で同浸潤材の表面に歯牙漂白剤が塗布される。浸潤材に塗布された歯牙漂白剤は、同浸潤材に吸着され、含浸されることとなる。歯牙漂白剤を塗布した後、歯牙漂白用トレーは、各凹部の内部にそれぞれ対応する歯牙を挿入することによって口腔内に装着される。歯牙漂白用トレーが装着された状態で、歯牙漂白剤を含浸した浸潤材は、歯牙の表面に密着される。そして、歯牙漂白用トレーの凹部の内部で、浸潤材が同浸潤材に含浸された歯牙漂白剤を歯牙の表面に停滞させることにより、歯牙漂白剤は、凹部の内部でのび広がったり、凹部の内部から漏れだしたり等することを抑制される。
【0036】
さて、この歯牙漂白方法は、始期漂白過程と終期漂白過程とを備える複数の漂白過程からなる。即ち、この歯牙漂白方法において、歯牙は複数の漂白過程に分けて段階的に漂白される。漂白過程の数は、2以上に設定され、歯牙の着色の度合いが濃くなるに従って過程数が増すように設定される。例えば、歯牙の着色の度合いが淡ければ、始期漂白過程及び終期漂白過程の2つの漂白過程で歯牙漂白方法を行い、歯牙の着色の度合いが濃ければ、始期漂白過程、第1漂白過程、第2漂白過程及び終期漂白過程の4つの漂白過程で歯牙漂白方法を行う。
【0037】
ここで、歯牙漂白方法を複数の漂白過程に分けて行う理由について説明する。前述のように、歯牙を形成するエナメル質はpHが5.5以下、つまりは酸性条件下で脱灰されやすくなるという性質を有する。一方、歯牙漂白剤中には漂白成分として過酸化水素が含まれ、この過酸化水素は酸性を示すことから、歯牙漂白剤の使用時に歯牙の表面は酸性となりやすい。従って、歯牙漂白を複数の過程に分けず、一息的に行おうとする場合、着色物質が分解されるのみに留まらず、エナメル質も脱灰されやすくなり、同エナメル質の結晶構造が侵され、この結晶構造に欠陥が生じやすくなる。このようにエナメル質の結晶構造に欠陥が生じた歯牙の表面は、その欠陥に着色物質の生成源が吸着されることにより、漂白後の後戻りが起こりやすくなる。
【0038】
本実施形態の歯牙漂白方法は、漂白過程を複数に分け、各漂白過程を行う時期に応じ、歯牙の表面の漂白又は歯牙の表面の再石灰化の何れかに重点がおかれることで、歯牙の表面の漂白が効率的に行われつつ、漂白後の後戻りが抑制される。即ち、複数の漂白過程のうち最も始期となる始期漂白過程では、歯牙の表面に大量の着色物質が付着していることから、この大量の着色物質を分解して歯牙の表面を白くすべく、漂白に重点がおかれる。また一方で、歯牙の表面で着色物質が分解された箇所、或いは着色物質が付着されていなかった箇所へ新たな着色物質が付着してしまう等のような着色物質の増加を抑制すべく、始期漂白過程では再石灰化も行われる。これに対し、複数の漂白過程のうち最も終期となる終期漂白過程では、この終期漂白過程よりも前の漂白過程までの間に着色物質の大半が除去されていることから、エナメル質の結晶構造中の欠陥を修復して漂白後の後戻りを抑制すべく、再石灰化に重点がおかれる。なお、この終期漂白過程までに除去されなかった着色物質、或いは漂白過程の途中で生じた若干の着色物質をも除去すべく、終期漂白過程では漂白も行われる。
【0039】
この歯牙漂白方法においては、各漂白過程を行う時期に応じて漂白又は再石灰化の何れかを重点的に行うべく、歯牙漂白剤には、各漂白過程に応じて歯牙漂白剤中における漂白成分及び再石灰化成分の含量をそれぞれ異ならせたものが使用される。始期漂白過程では、歯牙の着色の度合いに応じ、漂白成分である過酸化水素の含量が4.5質量%以下、過ホウ酸ナトリウムの含量が7.5質量%以下となるように設定される。そして、歯牙漂白剤の使用量に基づき、過酸化水素及び過ホウ酸ナトリウムの含量に応じて、再石灰化成分であるフッ化ナトリウムの含量が0.55質量%以上となるように設定される。
【0040】
一方、始期漂白過程と終期漂白過程との間の各漂白過程では、歯牙の漂白の度合いに応じ、漂白成分及び再石灰化成分の含量が設定される。例えば、始期漂白過程で所望以上に歯牙が漂白された場合、始期漂白過程に比べて漂白成分の含量を減らし、且つ再石灰化成分の含量を増やした歯牙漂白剤が用いられる。これとは逆に、始期漂白過程で所望以上に歯牙が漂白されていなかった場合、始期漂白過程に比べ、漂白成分の含量を等量又は増やし、同漂白成分の含量に応じて再石灰化成分の含量を等量又は減らした歯牙漂白剤が用いられる。そして、終期漂白過程では、始期漂白過程に比べて漂白成分の含量を減らし、且つ再石灰化成分の含量を増やした歯牙漂白剤が用いられる。なお、各漂白過程及び終期漂白過程において、漂白成分である過酸化水素の含量は0.8質量%以上とされ、過ホウ酸ナトリウムの含量は5質量%以上とされる。さらに、各漂白過程及び終期漂白過程において、再石灰化成分であるフッ化ナトリウムの含量は、0.6質量%以下とされる。
【0041】
前記の実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 実施形態の歯牙漂白用トレー10によれば、凹部11の内面には浸潤材12が設けられている。この浸潤材12は、歯牙漂白用トレー10の製造時に使用者の歯形を型取りして得られた作業用模型に接着し、且つ圧接させることにより、歯牙の表面に応じた形状となるように成形されている。凹部11もまた、シート材を作業用模型に圧接させることによって形成されたものであり、歯牙に応じた形状となるように成形されている。そして、凹部11を成形する際、浸潤材12は、凹部11の内面に圧接されている。従って、凹部11の内部に歯牙漂白剤を停滞させる空間等を設けずとも、浸潤材12に歯牙漂白剤を含浸させることにより、この浸潤材12を歯牙漂白剤を停滞させる部位として機能させることが可能となる。
【0042】
・ また、各凹部11は個々の歯牙に応じた形状に成形されている。このため、凹部11の開口部分においては、凹部11の内面が歯頸に接しており、歯牙漂白剤の凹部11からの漏れ出しを抑制することができる。さらに、各凹部11にはそれぞれに対応しない歯牙を挿入することはできず、歯牙漂白用トレー10が口腔内で誤った箇所に装着されることを抑制することができる。
【0043】
・ また、作業用模型は、歯牙同士の隙間が石膏、合成樹脂等で埋められていることから、各凹11部は、歯牙の並び方向でそれぞれの内部が連通されることとなる。この場合、歯牙漂白用トレーは、各凹部11の間で歯牙同士の隙間に入り込む部分を有していないことから、口腔内への装着及び脱着を簡易なものとすることができる。
【0044】
・ また、浸潤材12は、歯牙の表面に応じた形状に成形されており、同歯牙の表面に確実に密接される。そして、歯牙漂白剤を含浸した浸潤材12を歯牙の表面に密接させることにより、歯牙の表面に対する歯牙漂白剤の停滞性を向上させることが可能となる。従って、歯牙の表面に対する歯牙漂白剤の停滞性が向上し、好適な漂白効果を得ることができる。
【0045】
・ また、浸潤材12は、不織布で形成されていることから、薄くしつつ、歯牙漂白剤の含浸性能の向上を図ることが可能となる。このため、凹部11の内面と歯牙の表面との間に浸潤材12を設けたことによる隙間の形成を抑制しつつ、歯牙漂白剤の停滞性を向上させることができる。
【0046】
・ また、前記歯牙漂白用トレー10には、漂白対象である犬歯及び第1小臼歯以外の歯牙をも凹部11で覆うことができるように、複数の凹部11が設けられている。このため、複数の凹部11で複数の歯牙を覆うことにより、口腔内における歯牙漂白用トレー10の脱着を抑制し、保持性能の向上を図ることができる。
【0047】
・ また、漂白対象である犬歯及び第1小臼歯を覆う凹部11の内面にのみ浸潤材12を設けたことにより、漂白を所望しない歯牙に歯牙漂白剤が影響を与えることを抑制することができる。なお、万が一ではあるが、歯牙漂白剤が凹部11から漏れ出た場合、漂白対象以外の歯牙は、前述のように凹部11によって覆われているため、この場合にも漂白を所望しない歯牙に歯牙漂白剤が影響を与えることを抑制することができる。
【0048】
・ また、歯牙漂白剤には漂白成分として過酸化水素と過ホウ酸ナトリウムとが含まれている。そして、過ホウ酸ナトリウムは、経時とともに分解して過酸化水素を発生させるため、過酸化水素が短期的な漂白性能を発揮し、過ホウ酸ナトリウムが長期的な漂白性能を発揮する。このため、歯牙漂白剤は、漂白の始期から終期に至るまで十分な漂白性能を維持することができる。
【0049】
・ また、歯牙漂白剤には再石灰化成分としてフッ化ナトリウムが含まれる。このフッ化ナトリウムは、再石灰化により歯牙のエナメル質の結晶構造中に生じた欠陥を修復し、着色物質の生成源が同エナメル質に吸着することを抑制する。このため、歯牙の表面を漂白しつつ、歯牙の表面で再石灰化を促進させることにより、漂白後の後戻りの発生を抑制することができ、好適な漂白効果を得ることが可能となる。
【0050】
・ また、歯牙漂白方法においては、始期漂白過程では歯牙の表面を白くすべく、歯牙の表面の着色物質を分解するための漂白が重点的に行われる。一方、終期漂白過程では漂白により白くなった歯牙の表面を石灰成分で覆い、同歯牙の表面を保護すべく、再石灰化が重点的に行われる。従って、漂白後の歯牙の表面が石灰成分によって保護されるため、漂白後の再着色を抑制することが可能となる。
【実施例】
【0051】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
<歯牙漂白用トレーの成形>
まず、使用者の歯形を型取りし、石膏製の模型を得た。この模型で歯頸から歯茎に該当する部分を1cmの厚み分を残して除去し、さらに歯牙同士の隙間にブロックアウトレジンを塗布し、同ブロックアウトレジンを光重合させ、硬化させることにより、作業用模型を得た。次に、長方形状に裁断した不織布を漂白対象となる歯牙の前側となる面に当て、歯牙の前側となる面に該当する部分と同歯牙の咬合面から1.5〜2.0mmの余剰部分とを残して不織布の周縁を切除した。なお、この不織布が浸潤材となる。
【0052】
次いで、歯牙同士の間となる部分で不織布に切り込みを形成し、さらに前記余剰部分を歯牙の奥側となる面へ折り返した後、不織布に水溶性の接着剤を塗布し、同不織布を作業用模型に接着した。次に、不織布の表面に保護膜(製品名:イソフランホイル(R)、Biostar、Rockey Mountain Morita製)を当て、この保護膜を介し、加圧成形機(製品名:Biostar、Rockey Mountain Morita製)により、作業用模型の表面に不織布を圧接した。そして、不織布の表面に各歯牙の歯頸による線を明示した。
【0053】
次いで、前記歯頸による線よりも咬合面寄りに0.5mmの位置で不織布を切断した。これは、浸潤材である不織布が歯頸からはみ出し、歯茎に接触することを防止するためである。次に、前記保護膜を除去した。次に、不織布の表面にシート材(製品名:バイオプラスト(R)、Biostar、Rockey Mountain Morita製)を当て、前記加圧成形機により、同シート材を作業用模型の表面に圧接した。次に、歯頸による線に沿ってシート材の端部を切除した。この後、作業用模型を水中に浸漬して、作業用模型に不織布を接着していた前記水溶性の接着剤を水に溶解させた。そして、作業用模型からシート材を取り外すことにより、歯牙漂白用トレーを得た。
【0054】
<歯牙漂白剤の調剤>
漂白成分として濃度30%の過酸化水素水(和光純薬工業製)、過ホウ酸ナトリウム(和光純薬工業製)を用いた。再石灰化成分として、濃度2%のフッ化ナトリウム・リン酸酸性溶液(製品名:フロアーゲル(R)、白水貿易製)を用いた。増粘剤として、歯磨剤(製品名:REMBRANDT(R)、Denmat製と製品名:White&White、ライオン製との混和物)を用いた。これら各成分を表1に示す添加量(g)で混合し、A〜Dの4種類の歯牙漂白剤を得た。各歯牙漂白剤中の各成分の含量(質量%)及び各歯牙漂白剤のpH値を表2に示す。
【0055】
なお、表1中の添加量は計測器(製品名:デジタルポケッタブルスケール(R)、タニタ製)を用いて測定した。また、表2中のpH値は、pH計(製品名:LACOM TESTER pH Scan3(R)、井内盛栄堂製)を用いて測定した。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

<漂白効果の確認>
抜歯した小臼歯を紅茶に12時間浸漬し、着色歯を得た。この着色歯を以下のグループ1〜4の方法で漂白した。なお、各グループにおいては、35℃に調節した恒温器内で各歯牙漂白剤に5時間浸漬させることとする。
【0058】
グループ1:着色歯をAの歯牙漂白剤のみに浸漬させる。
グループ2:着色歯をA、Bの順番で歯牙漂白剤に浸漬させる。
グループ3:着色歯をA、B、Cの順番で歯牙漂白剤に浸漬させる。
【0059】
グループ4:着色歯をA、B、C、Dの順番で歯牙漂白剤に浸漬させる。
上記の各グループ1〜4について、目視により、歯牙の表面を観察した。その結果、全てのグループについて、十分な漂白効果を確認することができた。
【0060】
各グループ1〜4について、走査型電子顕微鏡(JSM−5300LV、日本電子製)を使用し、歯牙の表面を観察した。その結果、グループ1及び2では、歯牙の表面にエナメル小柱と推察される多くの構造物が確認された。なお、グループ1に比べ、グループ2の方が構造物の数は少なかった。また、グループ3では少量の構造物が確認された。そして、グループ4では構造物がほとんど確認されなかった。これらの結果から、漂白過程が終期となるに従い、歯牙漂白剤中の漂白成分の含量を減らし、再石灰化成分の含量を増やすことで、エナメル質の結晶構造中における欠陥を修復可能であると考えられる。
【0061】
また、複数人の被験者に対し、歯牙漂白用トレー及びA〜Dの各歯牙漂白剤を用い、グループ4の方法で歯牙漂白を行った。なお、この場合にはA〜Dの各歯牙漂白剤をそれぞれ1週間ずつ使用し、就寝時に歯牙漂白用トレーを装着することとした。
【0062】
被験者に対し歯牙漂白を行った結果、歯牙漂白の開始から1週間で歯牙の表面の明度が顕著に増し、歯牙漂白中も明度が増していった。この結果から、好適な漂白効果が得られたことが伺える。さらに、漂白期間中における歯肉炎様の症状について観察したが、これら症状は全く見られなかった。この結果から、歯牙漂白剤による歯茎への影響は全くなく、歯牙漂白用トレーからの歯牙漂白剤の漏れ出しがないことを確認した。一方、知覚過敏の症状については、Aの歯牙漂白剤を使用中に一部の被験者で観察された。しかし、B、C、Dの順番で歯牙漂白剤を使用するに従い、症状が軽減し、歯牙漂白の終了時には症状が消失した。この結果から、歯牙の表面において、再石灰化によりエナメル質が修復されたことを確認した。
【0063】
加えて、複数人の被験者に対し、歯牙漂白用トレー及び歯牙漂白剤を用い、グループ1又はグループ4の方法で歯牙漂白を行った後、漂白後の後戻りを促進すべく、歯牙漂白用トレー内の不織布に紅茶を浸漬させ、この歯牙漂白用トレーを1週間使用させた。その結果、グループ1については再着色が認められたが、グループ4については再着色が認められなかった。この結果から、漂白過程が終期となるに従い、歯牙漂白剤中の漂白成分の含量を減らし、再石灰化成分の含量を増やすことで、漂白後の後戻りを防止可能であることが確認された。
【0064】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 実施形態の歯牙漂白用トレー10は、漂白対象以外の歯牙を覆う凹部11を有していたが、これに限らず、漂白対象を覆う凹部のみを有する歯牙漂白用トレーを構成してもよい。
【0065】
・ 実施形態の歯牙漂白剤には増粘剤を含ませたが、漂白成分及び再石灰化成分のみで歯牙漂白剤を調剤してもよい。
・ 実施形態では浸潤材を歯牙の前側となる面の全てに密接させたが、これに限らず、前側となる面の一部にのみ浸潤材を密接させてもよい。すなわち、浸潤材は歯牙の表面で漂白を所望する部分にのみ密接させればよい。
【0066】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・歯牙の表面を覆う凹部と、前記凹部の内面に設けられ前記歯牙の表面に密着する浸潤材とを有する歯牙漂白用トレーとともに用いられ、前記浸潤材に含浸させて使用する歯牙漂白剤であって、漂白成分及び再石灰化成分の各成分を含み、前記漂白成分が過酸化水素及び過ホウ酸ナトリウムであり、前記再石灰化成分がフッ化ナトリウムであることを特徴とする歯牙漂白剤。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】歯牙漂白用トレーを示す斜視図。
【図2】歯牙に歯牙漂白用トレーを装着した状態を示す断面図。
【符号の説明】
【0068】
10…歯牙漂白用トレー、11…凹部、12…浸潤材、13…歯牙としての犬歯。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯牙の表面を覆う凹部を有し、当該凹部には前記歯牙を漂白する歯牙漂白剤が注入されるとともに、該凹部の内面には前記歯牙漂白剤を含浸させる浸潤材を前記歯牙の表面に密着するように設けたことを特徴とする歯牙漂白用トレー。
【請求項2】
前記浸潤材を不織布で形成したことを特徴とする請求項1に記載の歯牙漂白用トレー。
【請求項3】
前記凹部を複数有し、該複数の凹部のうち漂白対象とする歯牙を覆う凹部の内面に前記浸潤材を設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の歯牙漂白用トレー。
【請求項4】
歯牙を漂白するために使用する歯牙漂白剤であって、
漂白成分及び再石灰化成分の各成分を含み、前記漂白成分が過酸化水素及び過ホウ酸ナトリウムであり、前記再石灰化成分がフッ化ナトリウムであることを特徴とする歯牙漂白剤。
【請求項5】
前記過酸化水素の含量が0.8〜4.5質量%、前記過ホウ酸ナトリウムの含量が5〜7.5質量%、前記フッ化ナトリウムの含量が0.55〜0.6質量%であることを特徴とする請求項4に記載の歯牙漂白剤。
【請求項6】
歯牙の表面を覆う凹部と、前記凹部の内面に設けられ前記歯牙の表面に密着する浸潤材とを有する歯牙漂白用トレーを用い、前記浸潤材に漂白成分及び再石灰化成分を含む歯牙漂白剤を含浸させて歯牙を漂白する歯牙漂白方法であって、
始期漂白過程と終期漂白過程とを備える複数の漂白過程からなり、
前記終期漂白過程では前記始期漂白過程に比べて前記漂白成分の含量を減らし、且つ前記再石灰化成分の含量を増やした歯牙漂白剤を用いる
ことを特徴とする歯牙漂白方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−26106(P2006−26106A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209184(P2004−209184)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(504272501)医療法人 日進会 名古屋矯正歯科診療所 (1)
【Fターム(参考)】