説明

歯磨組成物の製造方法

【課題】結晶状態の塩化ナトリウムとフッ化ナトリウムおよびシリカを含有する歯磨組成物を効率的に製造する方法の提供。
【解決手段】塩化ナトリウムやシリカが存在しない条件下でフッ化ナトリウムを溶解し、塩化ナトリウムやシリカと配合することにより中性付近の歯磨組成物を効率的に得ることができる製造方法。塩化ナトリウムの含有量が、歯磨組成物全量に対して5〜35質量%であり、またシリカは研磨性シリカであり、さらにその配合量が、5〜35質量%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ、フッ化ナトリウムおよび塩化ナトリウムを含有する歯磨き組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に歯磨には清浄効果を付与する目的で、通常、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムなどのカルシウム化合物やシリカなどが研磨剤として用いられており、概して炭酸カルシウムなどのカルシウム化合物を使用した歯磨組成物は重厚感のある使用感を与え、シリカを使用した歯磨は軽い磨き心地を与えることが知られている。一方、消費者は口腔衛生の向上を期待できる薬効を歯磨組成物に求めており、そのため、多くの歯磨組成物には単独または複数の薬効成分が配合されている。
【0003】
その中でも、消費者の関心の高い歯周疾患とう蝕に対して、歯肉炎や歯周炎などの歯周疾患に対して予防や治療効果を発揮することが知られている塩化ナトリウムを結晶状態で配合し、かつ齲蝕予防や治療効果を発揮することが知られているフッ素含有化合物を配合する歯磨組成物の提供が期待されている。
【0004】
一方、歯磨組成物の製造方法としては、水溶性高分子などの粘結剤を水で膨潤させてから研磨剤を配合した後に、薬効成分等を配合する方法が古くから知られており、その後製造効率や品質を向上させる目的でいろいろな製造方法が提案されている。例えば、粘結剤と湿潤剤、界面活性剤を混合した後に研磨剤を加え薬効成分などの他の成分を混合する方法(特許文献1)、香料成分以外の成分を同時に配合し混合する方法(特許文献2)が挙げられる。
【0005】
しかし、これらの製造方法を用いて、例えば結晶状態で残る塩化ナトリウムとフッ化ナトリウムやモノフルオロリン酸ナトリウムなどのフッ素化合物、シリカを配合した歯磨組成物を製造すると、希釈しない直接測定では歯磨組成物のpHが低くなることがわかった。酸性の組成物を使用すると歯牙に脱灰などの悪影響を与える可能性があるため、pHを中性付近に調整する必要があるが、通常使用されるクエン酸系やリン酸系のpH調整剤を使用し歯磨組成物のpHを6〜8の中性領域に調整するためには配合量を多くする必要があり、コスト面だけでなく香味に悪影響を与える可能性があった。また水酸化ナトリウムのような強アルカリ剤を使用するとシリカが溶解するという欠点があった。近年の消費者は、歯磨組成物に対して軽い使用感を好む傾向にあり、シリカを歯磨の研磨剤として使用する場合が多くなりつつあるが、上記理由により結晶状態の塩化ナトリウムとフッ素含有化合物を配合した歯磨組成物の研磨剤としてシリカを使用することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−165515号公報
【特許文献2】特開平6−72833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、結晶状態の塩化ナトリウムとフッ化ナトリウムおよびシリカを含有する歯磨組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、驚くべきことに塩化ナトリウムやシリカが存在しない条件下でフッ化ナトリウムを溶解し、塩化ナトリウムやシリカと配合することにより中性付近の歯磨組成物を得ることが出来ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は下記の歯磨組成物の製造方法を提供するものである。
項1.結晶状態の塩化ナトリウム、フッ化ナトリウム及びシリカを含有する歯磨組成物において、塩化ナトリウム及びシリカが存在しない条件下でフッ化ナトリウムを溶解させることを特徴とする歯磨組成物の製造方法。
項2.フッ化ナトリウムを溶解した後に、溶解した組成物に塩化ナトリウムやシリカを混合することを特徴とする項1に記載の歯磨組成物の製造方法。
項3.塩化ナトリウムの含有量が、歯磨組成物全量に対して5〜35質量%であることを特徴とする項1または項2の何れかに記載の歯磨組成物の製造方法。項4.シリカが研磨性シリカであることを特徴とする項1〜3の何れかに記載の歯磨組成物の製造方法。項5.シリカの配合量が、5〜35質量%であることを特徴とする項1〜4の何れかに記載の歯磨組成物の製造方法。
【0010】
本発明における「結晶状態の塩化ナトリウム」とは、歯磨組成物中に不溶状態の塩化ナトリウムの固体が存在していることを意味し、好ましくは何れかの部分が0.5mm〜2mmの大きさを有する固体が存在している状態を意味する。歯磨組成物中の塩化ナトリウムの含有量は特に限定されるものではないが、5〜35質量%が好ましく、10〜25質量%がもっとも好ましい。また、塩化ナトリウムの結晶は、他の成分を内包しているものが好ましく、例えばアズレン、カテキンなどの水溶性成分、茶粉末などの植物由来成分、亜鉛化合物などの水不溶性成分などを内包したものが挙げられる。
【0011】
本発明に使用するフッ化ナトリウムの歯磨組成物中の配合量は、特に限定されるものではないが、0.05〜0.30質量%が好ましく、0.10〜0.25質量%がもっとも好ましい。
【0012】
本発明に使用するシリカは、無水ケイ酸または二酸化ケイ素ともいい、研磨性シリカおよび増粘性シリカを意味する。歯磨組成物中の配合量は5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がもっとも好ましい。
【0013】
本発明における歯磨製造方法は、塩化ナトリウムとシリカが存在しない条件下でフッ化ナトリウムを溶解する工程が存在することを必須要件とする。この要件を満足しておれば、塩化ナトリウム及び/またはシリカを含有している混合物にフッ化ナトリウムを溶解した液体を配合しても良い。そのなかでも、フッ化ナトリウムを溶解させた液体に、塩化ナトリウムやシリカを配合することが好ましく、さらに塩化ナトリウムとシリカが混合される前にフッ化ナトリウムとシリカを混合することがもっとも好ましい。ここにおいて、「塩化ナトリウムとシリカが存在しない条件下」とは、塩化ナトリウムとシリカが存在しないことを意味し、他の成分の存在については問わない。
【0014】
本発明における歯磨組成物には、塩化ナトリウム、フッ化ナトリウム、シリカ以外に、通常歯磨組成物に配合される成分を含有することができる。それら成分の歯磨組成物への配合方法、配合の順番は特に限定されず、任意に設定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法を用いることにより、結晶状態の塩化ナトリウム、フッ化ナトリウムおよびシリカを含有する歯磨組成物であっても、歯磨組成物のpHを容易に中性付近に調整することができる。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0016】
以下、実施例、比較例を示して本発明を具体的に説明する。なお、以下に示す配合量は、特に指定しない限り質量%を示す。
【0017】
(試験例1) 塩化ナトリウム(結晶)25質量%、増粘性シリカ10質量%、フッ化ナトリウム0.2質量%、精製水64.8質量%の組成を有する歯磨組成物を下記の方法Aと方法Bにしたがって調製し、得られた歯磨組成物のpHを測定した。歯磨組成物のpHは、複合型pH電極を用い、20℃における歯磨組成物のpHを希釈せずに直接測定することにより得た。 方法A 精製水、増粘性シリカと塩化ナトリウムを配合し均一にした後に、フッ化ナトリウムを配合し溶解した。得られた歯磨組成物のpHは4.2であった。方法B 精製水にフッ化ナトリウムを配合し溶解した後に、増粘性シリカと塩化ナトリウムを配合し均一に混合した。得られた歯磨組成物のpHは5.8であった。 以上の結果から、フッ化ナトリウムを水に溶解させた後にシリカや塩化ナトリウムを配合する方法により、中性に近いpHの歯磨組成物が得られることがわかった。
【0018】
(試験例2) 同じフッ素含有量を有する下記の歯磨組成物を、精製水にフッ素化合物を溶解した後に、研磨性シリカと塩化ナトリウムを加え、均一混合することで調製した。得られた歯磨組成物Aは5.8、歯磨組成物Bは4.1、歯磨組成物Cは4.6のpHであった。以上の結果より、本発明の製造方法はフッ化ナトリウムにのみ効果があることがわかった。 歯磨組成物A 塩化ナトリウム(結晶)25質量%、研磨性シリカ10質量%、フッ化ナトリウム0.2質量%、精製水64.8質量% 歯磨組成物B 塩化ナトリウム(結晶)25質量%、研磨性シリカ10質量%、フッ化スズ0.4質量%、精製水64.6質量% 歯磨組成物C 塩化ナトリウム(結晶)25質量%、研磨性シリカ10質量%、モノフルオロリン酸ナトリウム0.7質量%、精製水64.3質量%
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の製造方法に従うことで、結晶状態の塩化ナトリウム、シリカおよびフッ化ナトリウムを含有する歯磨組成物を香味に悪影響を与えず低コストで歯磨組成物のpHを中性付近に調整することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶状態の塩化ナトリウム、フッ化ナトリウム及びシリカを含有する歯磨組成物において、塩化ナトリウム及びシリカが存在しない条件下でフッ化ナトリウムを溶解させることを特徴とする歯磨組成物の製造方法。
【請求項2】
フッ化ナトリウムを溶解した後に、溶解した組成物に塩化ナトリウムやシリカを混合することを特徴とする請求項1に記載の歯磨組成物の製造方法。
【請求項3】
塩化ナトリウムの含有量が、歯磨組成物全量に対して5〜35質量%であることを特徴とする請求項1または2の何れかに記載の歯磨組成物の製造方法。
【請求項4】
シリカが研磨性シリカであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の歯磨組成物の製造方法。
【請求項5】
シリカの配合量が、5〜35質量%であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の歯磨組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−235493(P2010−235493A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84203(P2009−84203)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000106324)サンスター株式会社 (200)
【Fターム(参考)】