説明

歯科充填材料用載置体

【課題】歯科充填材料の、白色練和紙上で観察される環境下での色調だけでなく、口腔内における色調も正確に認識でき、審美性の高い修復を容易に実現できる歯科充填材料用載置体を提供する。
【解決手段】歯科充填材料を載置する載置体であって、JISZ8729で規格されているL*a表色系における{(a+(b1/2値が3以下、L*値が30以下の色調を有する部分と、{(a+(b1/2値が11以下、L*値が90以上の色調を有する部分とが隣接してなる歯科充填材料用載置体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科治療において、歯科用セメント系またはレジン系材料等からなる歯科充填材料を載置して、その色調を確認する際の基材として用いる歯科充填材料用載置体に関し、特に光重合型の歯科用セメント系またはレジン系材料等からなる歯科充填材料を載置する歯科充填材料用載置体に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、生体歯牙組織の治療部分を充填する際に、歯牙組織と充填材料との色調を一致させることが重要である。現在、歯科充填材料としては、一般的に、セメント系またはレジン系材料等が用いられてきており、これまでに、歯牙組織と歯科充填材料との色調を確認するための種々な技術が提案されてきている。
【0003】
当該色調を確認するために最も汎用的に行なわれている方法は、歯科充填材料を、合成紙、プラスチックフィルムまたはプラスチックで被覆された紙等の使い捨ての練和基材に載置する方法である。練和基材には、その練和面に載置した歯科充填材料を容易に採取できるように、ポリプロピレンフィルム若しくはポリエチレンフィルム、またはポリプロピレン若しくはポリエチレン等で被覆された紙等が使用されており、その練和面側の色は一般的には白色である。
【0004】
一方、最近では、光重合型のレジン系材料等からなる歯科充填材料を用いて、審美的に歯牙の修復を行う治療が普及し、当該歯科充填材料を載置するのに適した歯科充填材料用載置体が開発されてきている。その一例として、環境光による必要以上の重合反応を低減することを目的に、歯科充填材料用載置体の練和面側を、波長470nm±80nmの光の反射率が低い色で構成し、その練和面側の色としては、標準光D65下において、L*C*h表色系で表すL*が80以下で、C*が20未満であり、標準光D65下において、L*C*h表色系で表すL*が80以下で、hが50°±80°であり、またL*C*h表色系で表すL*が30以下という条件の一つ以上を満足する歯科充填材料用載置体が知られている。
【特許文献1】特開2000−237207号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、歯科充填材料の色調を確認するのには、一般的には白色の練和紙が適している。すなわち、治療に使用しようとしている歯科充填材料が、確かに自分が選択した色調番号の色調をしているかの照合や、異物の混入の有無等のペースト性状の確認は、環境光の下、白色練和紙上で観察するのが適切である。
【0006】
しかしながら、歯科充填材料自体は半透明であるため、背景色によって、見え方が異なる。例えば、白色の練和紙上で確認した色調と口腔内という暗い環境における色調とでは、見え方が大きく異なる。このため、白色の練和紙上で確認した色調が口腔内で使用した際の色調を必ずしも反映しているとは言えない。
【0007】
歯科充填材料には色味、透明性を調整した色調が用意されている。そして、歯科充填材料を用いた修復には様々な症例があるため、各修復部位で歯牙の色と調和した的確な色調選択が求められる。例を挙げると、臼歯部を修復(1級窩洞、2級窩洞)する場合であれば、歯科充填材料は、前記白色練和紙上で確認される色調ではなく、口腔内の暗色が反映された状態で、該修復部位の歯牙と調和する色調のものを選択することが要される。また、前歯部においても、口腔内に抜けた部位(3級窩洞、4級窩洞)を修復する場合は、上記臼歯部と同様に、歯科充填材料は、背景に広がる口腔内の暗色を帯びた色調になるため、このような状態で、修復部位の歯牙と調和する色調のものを選択することが要される。他方で、前歯部を修復する場合であっても、これが、裏打ちのある前壁部に形成された窩洞(舌側面側まで貫通していない窩洞)である場合には、該歯科充填材料が帯びる暗さは弱められるため、グレーを反映した状態で、修復部位の歯牙と調和する色調のものを選択することが要される。さらには、歯頸部(歯肉に近接した部位)を修復する場合であれば、該歯科充填材料は、単に口腔内の暗さだけではなく、歯肉のピンクの色調も反映された状態で修復部位の歯牙と調和する色調のものを選択することが要されるようになる。
【0008】
このように、従来より、口腔内で視認される状態を想定して色調を選択しなければならない。歯科充填材料において、係る色調の選択を誤ると、歯牙と充填材料との色調が合わず、歯科充填材料の充填、付形、または研磨等の作業をやり直さなければならないという問題が生じる。したがって、歯科充填材料において、前記白色練和紙上での観察と、これが口腔内の治療箇所に充填された場合の色調の調和性の考察とを、効率的に実施することが望まれていた。
【0009】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、歯科充填材料の、白色練和紙上で観察される環境下での色調だけでなく、口腔内における色調も正確に認識でき、審美性の高い修復を容易に実現できる歯科充填材料用載置体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、歯科充填材料を載置する載置体であって、JISZ8729で規格されているL*a表色系における{(a+(b1/2値が3以下、L*値が30以下の色調を有する部分と、{(a+(b1/2値が11以下、L*値が90以上の色調を有する部分とが隣接してなる歯科充填材料用載置体としている。
【0011】
このような歯科充填材料用載置体を採用することにより、歯科充填材料において、環境光の下と口腔内に充填された治療箇所とでの色調の調和性の考察を効率的に実施することできる。すなわち、環境光の下において、歯科充填材料用載置体のL*a表色系における{(a+(b1/2値が11以下、L*値が90以上の色調を有する部分で治療に使用しようとしている歯科充填材料の色調を正確に認識でき、また、口腔内において、歯科充填材料用載置体のL*a表色系における{(a+(b1/2値が3以下、L*値が30以下の色調を有する部分で口腔内の暗色が反映され、修復部位の歯牙と調和する色調を有する歯科充填材料を選択することができる。
【0012】
また、別の本発明は、先の発明におけるa*≧10、b*≧−20、a*>b*/0.88+18.2、90≧L*≧40の範囲の色調を有する部分が前述した色調を有する部分の少なくともいずれか一方と隣接してなる歯科充填材料用載置体としている。
【0013】
歯頸部を修復する場合において、単に口腔内の暗さだけではなく、歯肉のピンクの色調も反映された状態で修復部位の歯牙と調和する色調を有する歯科充填材料を選択することが必要となる。このため、歯科充填材料用載置体のL*a表色系におけるa*≧10、b*≧−20、a*>b*/0.88+18.2、90≧L*≧40という歯肉の色調に近い色調を有する部分を、先の発明の色調部分の少なくともいずれか一方と隣接させることによって、歯肉に近接した部位を治療する際に使用しようとしている歯科充填材料の色調を正確に認識できる。
【0014】
また、別の本発明は、先の発明における3<{(a+(b1/2<11、90>L*>30の範囲の色調を有する部分が前述の色調を有する部分の少なくともいずれか一方と隣接してなる歯科充填材料用載置体としている。
【0015】
裏打ちのある前壁部に形成された窩洞、すなわち、舌側面側まで貫通していない窩洞を有する前歯部を修復する場合において、口腔内の暗さは弱められた状態で修復部位の歯牙と調和する色調を有する歯科充填材料を選択することが必要となる。このため、歯科充填材料用載置体のL*a表色系における3<{(a+(b1/2<11、90>L*>30という色調に近い色調を有する部分を、先の発明の色調部分の少なくともいずれか一方と隣接させることによって、修復部位の歯牙と調和する色調を有する歯科充填材料の色調を正確に認識できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、歯科充填材料の、白色練和紙上で観察される環境下での色調だけでなく、口腔内における色調も正確に認識でき、審美性の高い修復を容易に実現できる歯科充填材料用載置体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明に係る歯科充填材料用載置体の好適な実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に説明する好適な実施の形態に何ら限定されるものではない。
【0018】
本発明の実施の形態に係る歯科充填材料用載置体は、L*a*b*表色系における{(a+(b1/2値が3以下、L*値が30以下の色調、好ましくは{(a+(b1/2値が2.5以下、L*値が25以下の色調を有する部分(第1の色調部分)と、{(a+(b1/2値が11以下、L*値が90以上の色調、好ましくは{(a+(b1/2値が10以下、L*値が92以上の色調を有する部分(第2の色調部分)が隣接してなる。好ましくは、さらに、a*≧10、b*≧−20、a*>b*/0.88+18.2、90≧L*≧40の範囲の色調、好ましくはa*≧12、b*≧−18、a*>b*/0.88+18.2、85≧L*≧45の範囲の色調を有する部分(第3の色調部分)が上記第1の色調部分および第2の色調部分の少なくともいずれか一方と隣接してなる。より好ましくは、さらに、3<{(a+(b1/2<11、90>L*>30の範囲の色調、好ましくは4<{(a+(b1/2<10、70>L*>40の範囲の色調を有する部分(第4の色調部分)が上記3種の色調部分の少なくともいずれか一方と隣接してなる。
【0019】
三次元表色系の代表的なものにL*a*b*表色系がある。L*a*b*表色系は、1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化され、日本ではJISZ8729で規定されている。L*a*b*表色系において、L*は明度を表し、0から100の数値で示す。L*が大きければ明るくなり、逆に小さくなれば暗くなる(L*=0は黒、L*=100は白である。a*、b*は色度を表す。a*は、正の数値が大きいほど赤くなり、負の数値が大きいほど緑になる。b*は、正の数値が大きいほど黄になり、負の数値が大きいほど青になる。{(a+(b1/2は、L*Ch表色系で表すところのCと同じく彩度を表し、無彩色(彩度=0)より均等色空間内(明度面は一定)でどの程度距離が離れているかを示す。
【0020】
{(a+(b1/2値が3以下、L*値が30以下の色調(第1の色調)および{(a+(b1/2値が11以下、L*値が90以上の色調(第2の色調)としては、範囲内の色調をいずれでも好適に採用できる。特に好ましくは、第1の色調および第2の色調として、それぞれ、黒色および白色を用いることである。第2の白色色調は、口腔外の環境下で歯科充填材料を確認するために規定される。また、第1の黒色色調は口腔内の暗い環境下で歯科充填材料を確認するために規定される。また、a*≧10、b*≧−20、a*>b*/0.88+18.2、90≧L*≧40の範囲の色調(第3の色調)としては、ピンク色を好適に採用できる。ただし、上述のピンク色は一例に過ぎず、第3の色調として、数値範囲内の他の色調を採用しても良い。第3の色調は、人間の歯肉の色に基づいて規定される。また、3<{(a+(b1/2<11、90>L*>30の範囲の色調(第4の色調)としては、グレー色を用いることが好ましい。ただし、グレー色に限定せず、第4の色調として、数値範囲内の他の色調も採用できる。第4の色調は、第1の色調と第2の色調との間の色調であって、口腔内において、真暗ではない状況下で歯科充填材料を確認するために規定される。これら各色調部分に対して、歯科充填材料は、第1の色調および第2の色調、さらには歯牙の修復部の背景色の状況に応じて、第3の色調および第4の色調の各色調部分に個別に載置して、それぞれの色調の確認を行なえば良い。より効率的に判断する観点からは、歯科充填材料は、隣接する異なる色調部分の境界部を跨いで、各色調部分に掛かるように載置させると、一度の載置で、これら両色調部分を背景とした見え方の違いを対比しながら観察できるため、好適である。例えば、上記第1の色調と第2の色調の境界部を跨がせて上記の如くに載置した場合には、前者の色調部分上の材料を観察することにより、その本来の色調やペースト性状等の確認ができ、同時に、後者の色調部分上の材料を観察することにより、口腔内の暗色が反映された状態での該歯科充填材料の色調も認識できるため、極めて効率的である。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態に係る歯科充填材料用載置体の各形態を示す図である。
【0022】
本発明の実施の形態に係る歯科充填材料用載置体の形態は、上述した範囲内の色調を有すれば、歯科充填材料の色調を正確に認識すると共に、歯牙の治療作業を容易に行うことができる。具体的な例としては、図1に示すように、白色調の部分と黒色調の部分とを隣接してなる形態(図1(A))、白色調の部分と黒色調の部分とピンク色調の部分を有し、互いに隣接してなる形態(図1(B))、中央が白色調で、その周囲にグレー色調の部分と黒色調の部分とピンク色調の部分を有し、その周囲にある色調部分が互いに隣接してなる形態(図1(C))、また、白色調の部分と黒色調の部分とピンク色調の部分とグレー色調の部分を有し、一種類の色調部分が他の二種類の色調部分とそれぞれ隣接してなる形態(図1(D))、白色調の部分、黒色調の部分、ピンク色調の部分およびグレー色調の部分がそれぞれ帯状に並んだ形態(図1(E))、グレー色調の部分とピンク色調の部分とを上下方向端部に配置し、その間に挟まれた領域に、白色調の部分と黒色調の部分を左右方向に分けて配置した形態(図1(F))、図1(D)に示す形態のように、4種の色調部分を配置し、中央に、いずれか1色調の部分を配置した形態(図1(G))が挙げられる。特に、図1(C)に示す形態を採用することが好ましい。上述の各形態を有する歯科充填材料用載置体を使用した場合には、歯科充填材料の色調の認識効果が得られやすいので好適である。ただし、上述の歯科充填材料用載置体の形態は一例に過ぎず、必要に応じて、他の色調を有する歯科充填材料用載置体の形態を採用しても良い。
【0023】
本発明の実施の形態に係る歯科充填材料用載置体の各色調部分の面積は、0.25cm以上9cm以下の範囲であり、特に、好ましくは1cm以上4cm以下の範囲である。0.25cm以上9cm以下の面積を有する各色調部分を有する歯科充填材料用載置体を用いることにより、各使用環境における歯科充填材料の色調も正確に認識でき、審美性の高い修復を容易に実現できる。
【0024】
図2は、図1に示す形態の一種を、一枚のプラスチックシート若しくはプラスチックフィルムを貼った紙に印刷した歯科充填材料用載置体の平面図である。
【0025】
長方形の歯科充填材料用載置体には、大きさの異なる8つの模様1a,1b,1c,1d,1e,1f,1g,1hが描かれている。これらの模様は大きさのみ異なり、図1(C)に示す共通の形態を持つ。かかる載置体は、充填材料の練和の際に、各種大きさの充填材料を作製するのに役立つ。なお、8つの模様は、図1に示す他の形態から選択される1または2以上の形態であっても良い。また、別の応用例としては、例えば、シリンジタイプの歯科用充填材料容器の押し子端面部分、パレットの中、パレットの蓋あるいは歯科用充填材料容器の蓋に前述した色調を有する歯科充填材料用載置体の形態を形成しても良い。
【0026】
本発明の実施の形態に係る歯科充填材料用載置体に使用する材料は、特に限定されない。特に歯科充填材料が付着し難いプラスチック、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、またはポリテトラフルオロエチレン等を好適に採用できる。また、プラスチックフィルム、ポリプロピレンまたはポリエチレン等で被覆された紙、ポリプロピレンフィルムまたはポリエチレンフィルム等のプラスチックフィルム、あるいは合成紙等の従来の練和基材と同様のものを使用することができる。
【0027】
本発明の実施の形態に係る歯科充填材料用載置体に載置する歯科充填材料は、歯科用セメントのみならず、レジン系材料、例えば、欠損した歯牙の充填修復材料としての歯科充填修復用コンポジットレジン、または歯冠修復材料としての歯冠修復用コンポジットレジン及びそれを用いて作成した硬化体等を好適に用いることができる。また、上述の歯科充填材料は、化学重合するタイプ、光重合するタイプのいずれのタイプでも良い。特に、硬化前後において、歯科充填材料の色調の変化が小さい材料が好ましい。一般的に、歯科充填材料は、無機フィラーとマトリックスを構成する有機モノマーを主成分とし、その他の成分として、重合開始剤、顔料または重合禁止剤等が添加されている。モノマーは、硬化により屈折率が変化する。このため、無機フィラーとモノマーとの屈折率を調整するのが歯科充填材料の硬化前後の色調変化に影響を及ぼす。硬化前後において、色調の変化が小さい歯科充填材料を用いることによって、色調の認識効果がより顕著に得られる。
【実施例】
【0028】
次に、本発明の各実施例によって、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の各実施例に限定されるものではない。
【0029】
各実施例および各比較例で使用した材料および評価方法について、以下に説明する。
【0030】
1.歯科充填材料用載置体の、L*a表色系における色調の測定方法
測色計として色差計TC−1800mkII(東京電色社製)を用い、歯科充填材料用載置体の練和面における各色調部分を測定して求めた。
【0031】
2.歯牙窩洞に歯科充填材料に充填して、その色調の見え方を、口腔外から観察する方法
【0032】
レジン歯{リアルクラウン前歯(C5)及びエンデュラポステリオ(臼歯、M30)、松風社}を用いて、各実施例において歯科充填材料の充填対象とする歯牙に窩洞を形成した(左下6番の遠心2級窩洞、左上2番の歯肉に近接した5級窩洞、及び右上1番の裏打ちのある3級窩洞)。次いで、レジン歯を顎模型に配列し、配列後の顎模型を口腔内を模擬的に再現できる基礎教育実習用の模型(ファントムDST、株式会社モリタ製作所製)に装着した。各窩洞に歯科充填材料を充填し、その色調を観察した。
【0033】
表1は、本発明に係る歯科充填材料用載置体の実施例1〜4において、採用された色調の特性を示す。
【0034】
【表1】

【0035】
(実施例1)
歯科充填材料用載置体として、ポリプロピレンで被覆された紙からなり、練和面側に、図1(A)に示した、白色調部分と黒色調部分とが隣接して設けられた練和紙を用いた。この練和紙において、白色調部分と黒色調部分のL*a*b*表色系における色調は、それぞれ表1に示した値であり、各色調部分の面積は、いずれも6.3cmであった。
【0036】
この練和紙の、白色調部分と黒色調部分の境界部に、市販の光重合型コンポジットレジン(エステライトΣ、株式会社トクヤマデンタル製)におけるA3番(色調番号)ペースト0.1gを載置して、各色調部分に均等な面積になるように展延した。展延されたペーストの直径は8mmであり、厚みは1mmであった。
【0037】
次に、白色調部分上のペーストの見え方を観察することにより、このペーストが、確かに、前記光重合型コンポジットレジンのA3番の色調であることや、異物等が混入していないことを確認した。続いて、黒色調部分上のペーストの見え方を観察した。そして、この黒色調部分の見え方を、口腔内における、左下6番の遠心2級窩洞(奥歯における、側壁部まで到達している大きな窩洞)に充填された、上記と同じ光重合型コンポジットレジンのペーストの見え方と、色調を対比した。結果は、両ペーストの色調は大変良く一致していた。すなわち、上記練和紙によれば、口腔外の環境下での観察によるペーストの品質確認が行えるだけでなく、これを歯牙の修復に適用、特に、奥歯等の暗い環境の歯牙の修復に適用した時に、口腔内でどのような色調に見えるかの評価を、併せて行うことができ、大変効率的であった。
【0038】
(実施例2)
実施例1において、練和紙として、練和面側に、図1(B)に示した、白色調部分、黒色調部分、およびピンク色調部分が隣接して設けられた練和紙を用いる以外同様に実施した。なお、この練和紙において、白色調部分、黒色調部分、およびピンク色調部分のL*a*b*表色系における色調は、それぞれ表1に示した値であり、各色調部分の面積は、いずれも4.2cmであった。また、光重合型コンポジットレジンのペーストは、白色調部分と黒色調部分の境界部に載置して展延した。その結果、実施例1と同様に、上記連和紙上で、口腔外の環境下でのペーストの品質確認を行うことができ、併せて、これを歯牙の修復に適用、特に、奥歯等の暗い環境の歯牙の修復に適用した時に、どのような色調に見えるかの評価も行うことができた。
【0039】
さらに、練和紙の白色調部分とピンク調部分の境界部にも、ペーストを載置して展延した。そして、白色調部分上のペーストの見え方を観察して品質確認すると同時に、ピンク色調部分上の見え方を観察した。この見え方を、口腔内における、左上2番の歯肉に近接した5級窩洞(前歯における歯肉と近接する部分の窩洞)に、上記と同じ光重合型コンポジットレジンのペーストを充填した状態において、口腔内を覗いて観察される見え方と、色調を対比したところ、両者は良く一致していた。すなわち、この練和紙によれば、ペーストを歯肉と近接する歯牙の修復に適用した時に、口腔内でどのような色調に見えるかの評価も行うことができた。
【0040】
(実施例3)
実施例2において、光重合型コンポジットレジンのペーストを、練和紙における、白色調部分、黒色調部分、およびピンク色調部分に区分けされた円の中心部分に載置して、これらの各色調部分に各々均等な面積になるように展延した。そして、各色調部分上のペーストの見え方を観察し、それぞれを実施例2と同様にして評価した。
【0041】
その結果、白色調部分上のペーストの観察による品質確認、黒色調部分上のペーストの観察による、奥歯の修復に適用した時にどのような色調に見えるかの評価、およびピンク色調部分上のペーストの観察による、歯肉と近接する歯牙の修復に適用した時にどのような色調に見えるかの評価のそれぞれを、ペーストの練和紙への一度の載置で行うことができた。
【0042】
(実施例4)
実施例1において、練和紙として、練和面側に、図1(C)に示した、白色調部分、黒色調部分、ピンク色調部分、およびグレー色調部分が隣接して設けられた練和紙を用いる以外同様に実施した。なお、この練和紙において、白色調部分、黒色調部分、ピンク色調部分、およびグレー色調部分のL*a*b*表色系における色調は、それぞれ表1に示した値であり、各色調部分の面積は、黒色調部分、ピンク色調部分、およびグレー色調部分についてはいずれも3.9cmであり、白色調部分は0.8cmであった。また、光重合型コンポジットレジンのペーストは、白色調部分、黒色調部分、およびグレー色調部分のそれぞれに各均等な面積で展延されるように載置し、これらの各色調部分に各々均等な面積になるように展延した。
【0043】
その結果、白色調部分上のペーストの見え方を観察することにより、ペーストの品質確認を行うことができた。また、黒色調部分上のペーストの見え方を観察することにより、奥歯等の暗い環境の歯牙の修復に適用した時に、口腔内でどのような色調に見えるかの評価を行うことができた。
【0044】
さらに、グレー色調部分上のペーストの見え方を観察し、口腔内における、右上1番の裏打ちのある窩洞(前歯の前壁部における、舌側面側まで貫通していない窩洞)に充填された、上記と同じ光重合型コンポジットレジンのペーストの見え方と、色調を対比した。結果は、両ペーストの色調は大変良く一致していた。すなわち、上記練和紙によれば、ペーストを、前歯の裏打ちのある窩洞等の奥歯よりも明るい環境にある歯牙の治療に適用した時に、その口腔内での見え方がどのように変わるかも評価できた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、歯科充填材料用載置体を製造する産業および歯科治療の分野において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の形態に係る歯科充填材料用載置体の各形態を示す図である。
【図2】図1に示す形態の模様を複数有する歯科充填材料用載置体の平面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科充填材料を載置する載置体であって、
JISZ8729で規格されているL*a表色系における{(a+(b1/2値が3以下、L*値が30以下の色調を有する部分と、{(a+(b1/2値が11以下、L*値が90以上の色調を有する部分とが隣接してなることを特徴とする歯科充填材料用載置体。
【請求項2】
a*≧10、b*≧−20、a*>b*/0.88+18.2、90≧L*≧40の範囲の色調を有する部分が前記色調を有する部分の少なくともいずれか一方と隣接してなることを特徴とする請求項1に記載の歯科充填材料用載置体。
【請求項3】
3<{(a+(b1/2<11、90>L*>30の範囲の色調を有する部分が前記色調を有する部分の少なくともいずれか一方と隣接してなることを特徴とする請求項1または2に記載の歯科充填材料用載置体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−22433(P2009−22433A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186989(P2007−186989)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】