説明

歯科用コーティング用キット

酸性基含有重合性単量体(a)、水(b)および水溶性溶剤(c)を含有してなるプライマー組成物と、多官能性重合性単量体(f)、揮発性溶剤(g)および光重合開始剤(h)を含有してなる表面滑沢性組成物とを有する、歯に対する接着性に優れた歯科用コーティング用キット、および、酸性基含有重合性単量体(a)、水(b)および水溶性溶剤(c)を含有してなるプライマー組成物と、重合性単量体(d)および光重合開始剤(e)を含有してなるコーティング組成物と、多官能性重合性単量体(f)、揮発性溶剤(g)および光重合開始剤(h)を含有してなる表面滑沢性組成物とを有する、歯に対する接着性に優れ、しかもチッピングや破折の起こりにくい歯科用コーティング用キットが提供される。いずれの歯科用コーティング用キットも漂白後の歯の着色および色の後戻りを防止するためのキットとして特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、歯科用コーティング用キットに係わり、詳しくは、歯の着色および変色を防止する上で有用なコーティング用キット、特に、漂白後の歯の着色および色の後戻りを防止する上で有用な歯科用コーティング用キットに関する。
【背景技術】
歯は、タバコ、コーヒーなどに含まれる有色物質の沈着や色素生成菌の繁殖により、着色されたり、変色したりする。一般に、歯の着色および変色を防止して歯を白く美しく見せたいという願望は、女性の方が男性に比べて強い。近年、女性、とりわけ若い女性に、次に述べる歯の漂白治療を受ける患者が急速に増えているのはこのためである。
歯の漂白治療は、歯を白く美しく見せるという美容の一環として、また着色歯または変色歯を以前の自然歯に復元する手段として行われる。漂白治療には、一般に過酸化水素、過酸化尿素などを主成分とする漂白剤が用いられる。漂白剤には、歯に沈着した色素を分解する脱色作用と、歯の表面を粗造化(粗面化)して光の乱反射を惹起することにより白濁感を出す作用との二つの作用がある。これら二つの作用によって歯を白く見せることができるのである。漂白治療は、審美性を改善するには効果的であるが、歯の表面が粗造化するので、漂白治療後は、プラーク、タンパク質、色素などが歯に付着し易くなる。このため、漂白治療後しばらくの間は、とりわけ漂白後2〜3日間は、着色の原因となり易いコーヒー、カレー、柑橘類系のジュースの摂取や喫煙を控える必要がある。しかし、これらの飲食制限や喫煙制限を行っても短期間に歯が着色してしまう場合がある。また、プラーク、タンパク質、色素などが歯に次第に蓄積したり、漂白治療により粗造化した歯の表面が口腔内の唾液による再石灰化作用によって徐々に自然修復されたりすることにより、漂白後6ヶ月〜2年程度で漂白色が漂白治療前の色に後戻りしてしまう場合が多い。
従来、漂白後の歯の着色や色の後戻りを抑制するために、漂白処理後の歯に仕上げ用コーティング組成物を適用することが提案されている。その種の仕上げ用コーティング組成物としては、例えば、特開2001−271009号公報で、10重量%〜80重量%の多官能アクリレートモノマーと、20重量%〜80重量%の低沸点溶剤と、0.4重量%〜5重量%の可視光重合開始剤とを含有する組成物が、また特開2002−3327号公報で、10重量%〜80重量%の多官能アクリレートモノマーと、20重量%〜80重量%の低沸点溶剤と、0.4重量%〜5重量%の可視光重合開始剤と、0.5重量%〜10重量%の白色無機微粉末とを含有する組成物が、それぞれ提案されている。
しかしながら、上記のいずれの組成物も、歯に対する接着性が良くない。この欠点を解消するための対策として、各組成物に燐酸エステル系接着性モノマー0.1重量%〜5重量%をさらに含有せしめることが提案されている(特開2001−271009号公報、請求項8、〔0030〕および〔0031〕参照;特開2002−3327号公報、請求項10、〔0039〕および〔0040〕参照)。
しかしながら、本発明者らが確認した結果、燐酸エステル系接着性モノマーを所定量含有せしめても、歯に対する接着性はさほど改善されず、むしろ表面硬化性が著しく低下してしまうために、実用可能なコーティング組成物を得ることは困難であることが分かった。
本発明は、上記の課題を解決するべくなされたものであって、その目的とするところは、歯に対する接着性に優れた、歯の着色および変色を防止する上で有用な歯科用コーティング用キットを提供することにある。
【発明の開示】
上記の目的を達成するための本発明に係る歯科用コーティング用キット(以下、「第1キット」と称することがある)は、酸性基含有重合性単量体(a)、水(b)および水溶性溶剤(c)を含有してなるプライマー組成物と、多官能性重合性単量体(f)、揮発性溶剤(g)および光重合開始剤(h)を含有してなる表面滑沢性組成物とを有する。
本発明におけるプライマー組成物は、一般にセルフエッチング型プライマーと呼ばれているものであり、エッチングしながら歯に浸透して、優れた接着性を発現する。特に、漂白後の粗造化した歯に対して深く浸透して、極めて優れた接着性を発現する。なお、歯に対する接着性がプライマー組成物により確保されるため、プライマー組成物を適用した後に適用する表面滑沢性組成物には、燐酸エステル系接着性モノマーを配合する必要がない。表面滑沢性組成物に燐酸エステル系接着性モノマーを配合しない場合には、プライマー組成物により歯に対する接着性に優れるのみならず、表面硬化性にも優れたキットが得られる。
本発明におけるプライマー組成物は、酸性基含有重合性単量体(a)、水(b)および水溶性溶剤(c)を含有してなる。
酸性基含有重合性単量体(a)は、歯に対する接着性を確保する。酸性基含有重合性単量体(a)は、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、カルボン酸基またはスルホン酸基等の酸性基を有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、ビニルベンジル基等の重合可能な不飽和基を有する重合性単量体である。なかでも、不飽和基としてアクリロイル基またはメタクリロイル基を有する重合性単量体が好ましい。
また、酸性基含有重合性単量体(a)としては、そのカルシウム塩の25°Cにおける水に対する溶解度が10重量%以下、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下であるものが、接着性および耐酸性に優れているので好ましい。酸性基含有重合性単量体(a)の具体例としては以下のものが挙げられる。なお、以下においては、メタクリルとアクリルとを(メタ)アクリルと包括的に記し、またメタクリロイルとアクリロイルとを(メタ)アクリロイルと包括的に記すことがある。
リン酸基含有重合性単量体としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキペンチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、4−〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕シクロヘキシルオキシジハイドロジェンホスフェート、ジ〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔5−(メタ)アクリロイルオキシペンチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキシルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル 2’−ブロモオクチルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルオクチルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルノニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルデシルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシブチルデシルハイドロジェンホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート;(8−メタクリロキシ)オクチル−3−ホスホノプロピオネート、(9−メタクリロキシ)ノニル−3−ホスホノプロピオネート、(10−メタクリロキシ)デシル−3−ホスホノプロピオネート、(6−メタクリロキシ)オクチル−3−ホスホノアセテート、(10−メタクリロキシ)デシル−3−ホスホノアセテート;2−メタクリロイルオキシエチル(4−メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2−メタクリロイルオキシプロピル(4−メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、特開昭52−113089号公報、特開昭53−67740号公報、特開昭53−69494号公報、特開昭53−144939号公報、特開昭58−128393号公報または特開昭58−192891号公報に記載のリン酸基含有疎水性重合性単量体およびこれらの酸塩化物が例示される。この外、上記した各リン酸基含有重合性単量体のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩など)、アンモニウム塩が例示される。
ピロリン酸基含有重合性単量体としては、ピロリン酸ジ〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ジ〔3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル〕、ピロリン酸ジ〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ジ〔5−(メタ)アクリロイルオキシペンチル〕、ピロリン酸ジ〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ジ〔7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチル〕、ピロリン酸ジ〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ジ〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕、ピロリン酸ジ〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕、ピロリン酸ジ〔12−(メタ)アクリロイルオキシドデシル〕、およびこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
チオリン酸基含有重合性単量体としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンジチオホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンジチオホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンジチオホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンジチオホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンジチオホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンジチオホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンジチオホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンジチオホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、およびこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
カルボン酸基含有重合性単量体としては、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸およびこれらの酸無水物、6−(メタ)アクリロイルアミノヘキシルカルボン酸、8−(メタ)アクリロイルアミノオクチルカルボン酸、9−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ノナンジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−デカンジカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、(メタ)アクリル酸、マレイン酸およびこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
スルホン酸基含有重合性単量体としては、2−(メタ)アクリルアミドエチルスルホン酸、3−(メタ)アクリルアミドプロピルスルホン酸、4−(メタ)アクリルアミドブチルスルホン酸、6−(メタ)アクリルアミドヘキシルスルホン酸、8−(メタ)アクリルアミドオクチルスルホン酸、10−(メタ)アクリルアミドデシルスルホン酸、スチレンスルホン酸等のスルホン酸基を含有する化合物およびこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
酸性基含有重合性単量体(a)としては、リン酸基含有重合性単量体が接着性に特に優れるので好ましい。なかでも、炭素数6〜25のアルキレン基を有するリン酸基含有重合性単量体並びにアルキル基および/またはフェニル基を有するリン酸基含有重合性単量体がより好ましく、炭素数6〜12のアルキレン基を有するリン酸基含有重合性単量体が最も好ましい。
酸性基含有重合性単量体(a)は、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。酸性基含有重合性単量体(a)が過少でも過多でも歯に対する接着強度が低下する場合がある。酸性基含有重合性単量体(a)の一般的な配合量は、プライマー組成物の全重量に対して1重量%〜90重量%であるが、5重量%〜70重量%が好ましく、10重量%〜50重量%がより好ましい。
水(b)は、酸性基含有重合性単量体(a)の歯に対する脱灰力を増大させる。接着力に悪影響を及ぼす不純物を実質的に含有しないものを使用する必要がある。蒸留水またはイオン交換水が好ましい。水(b)が過少でも過多でも歯に対する接着強度が低下する場合がある。水(b)の一般的な配合量は、プライマー組成物の全重量に対して0.1重量%〜90重量%であるが、1重量%〜70重量%が好ましく、5重量%〜50重量%がより好ましい。
水溶性溶剤(c)は、歯に対する浸透性を向上させる。酸性基含有重合性単量体(a)を溶解することができ、25°Cにおける水に対する溶解度が5重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは任意の割合で水に溶解可能な溶剤を使用する。水溶性溶剤(c)としては、常圧での沸点が150°C以下、好ましくは100°C以下の水溶性揮発性溶剤(c−1)、常圧での沸点が150°Cを超える水溶性溶剤(c−2)、重合可能な不飽和基を有し、25°Cにおける水に対する溶解度が10重量%以上の水溶性溶剤(c−3)(以下、「親水性重合性単量体(c−3)」と記すことがある)が例示される。
水溶性揮発性溶剤(c−1)としては、エタノール、メタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフランが例示される。
水溶性溶剤(c−2)としては、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、ポリエチレングリコールが例示される。
親水性重合性単量体(c−3)としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリルクロライド、(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の数が9以上のもの)が例示される。
水溶性溶剤(c)の中でも、水溶性揮発性溶剤(c−1)および親水性重合性単量体(c−3)が好ましい。水溶性揮発性溶剤(c−1)は、歯科用エアーシリングにて容易に蒸散させることができる点で好ましい。また、親水性重合性単量体(c−3)は、酸性基含有重合性単量体(a)と同時に硬化させることができる点で好ましい。親水性重合性単量体(c−3)の中では、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の数が9)が特に好ましい。
水溶性溶剤(c)は、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。水溶性溶剤(c)が過少でも過多でも歯に対する浸透性や接着強度が低下する場合がある。水溶性溶剤(c)の一般的な配合量は、プライマー組成物の全重量に対して1重量%〜98重量%であるが、5重量%〜90重量%が好ましく、10重量%〜60重量%がより好ましい。
プライマー組成物の接着性、機械的強度および塗布性を向上させる目的で、酸性基含有重合性単量体(a)および親水性重合性単量体(c−3)以外に、25°Cにおける水に対する溶解度が10重量%未満、好ましくは1重量%以下の疎水性重合性単量体を含有せしめてもよい。かかる疎水性重合性単量体としては、α−シアノアクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸エステル、α−ハロゲン化アクリル酸エステル、クロトン酸エステル、桂皮酸エステル、ソルビン酸エステル、マレイン酸エステル、イタコン酸エステル等のエステル類、(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ−N−ビニル誘導体、スチレン誘導体が例示される。なかでも、(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
以下に、(メタ)アクリル酸エステルの具体例を示す。n個(n=1,2,3,…)のオレフィン性二重結合を有する単量体をn官能性単量体と表現し、一官能性単量体、二官能性単量体および三官能性以上の単量体の3種類に分けて示す。
一官能性単量体:
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11−メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン
二官能性単量体:
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス[4−〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、1,2−ビス〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕エタン、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、[2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレート
三官能性以上の単量体:
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、N,N’−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート
疎水性重合性単量体は、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。疎水性重合性単量体が過多であると歯に対する浸透性や接着強度が低下する場合がある。疎水性重合性単量体の一般的な配合量は、プライマー組成物の全重量に対して70重量%以下である。50重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましい。
プライマー組成物に、接着性の向上を目的として、光重合開始剤および/または化学重合開始剤を配合してもよい。光重合開始剤としては、α−ジケトン類、ケタール類、チオキサントン類、アシルホスフィンオキサイド類、α−アミノアセトフェノン類が例示される。
α−ジケトン類としては、カンファーキノン、ベンジル、2,3−ペンタンジオンが例示される。
ケタール類としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールが例示される。
チオキサントン類としては、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントンが例示される。
アシルホスフィンオキサイド類としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(ベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、トリス(2,4−ジメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド、トリス(2−メトキシベンゾイル)ホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネート、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド、特公平3−57916号公報に開示の水溶性のアシルホスフィンオキサイド化合物が例示される。
α−アミノアセトフェノン類としては、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1が例示される。
光重合開始剤は、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。光重合開始剤の配合量は、プライマー組成物中の重合性単量体の合計重量に対して、0.01重量%〜10重量%が好ましく、0.05重量%〜7重量%がより好ましく、0.1重量%〜5重量%が最も好ましい。
光重合開始剤はそれのみを単独で使用してもよく、光硬化性を促進させるために、第3級アミン類、アルデヒド類、チオール基を有する化合物等の重合促進剤と併用してもよい。
第3級アミン類としては、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ビス〔(メタ)アクリロイルオキシエチル〕−N−メチルアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ブチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ブトキシエチル、N−メチルジエタノールアミン、4−ジメチルアミノベンゾフェノン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジンが例示される。
アルデヒド類としては、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドが例示される。
チオール基を有する化合物としては、2−メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、チオ安息香酸が例示される。
重合促進剤は、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。重合促進剤の配合量は、プライマー組成物中の重合性単量体の合計重量に対して、0.01重量%〜10重量%が好ましく、0.05重量%〜7重量%がより好ましく、0.1重量%〜5重量%が最も好ましい。
化学重合開始剤としては、酸化剤と還元剤よりなるレドックス系の重合開始剤が好ましい。レドックス系の重合開始剤を使用する場合は、プライマー組成物の包装形態を酸化剤と還元剤とが離間されるように2分割以上にする必要がある。
酸化剤としては、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類等の有機過酸化物が例示される。
ジアシルパーオキサイド類の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイドが挙げられる。パーオキシエステル類の具体例としては、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートが挙げられる。ジアルキルパーオキサイド類の具体例としては、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドが挙げられる。パーオキシケタール類の具体例としては、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンが挙げられる。ケトンパーオキサイド類の具体例としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイドが挙げられる。ハイドロパーオキサイド類の具体例としては、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、p−ジイソプロピルベンゼンパーオキサイドが挙げられる。
還元剤としては、芳香族第3級アミン、脂肪族第3級アミン並びにスルフィン酸およびその塩が好ましい。
芳香族第3級アミンとしては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジブチルアニリン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(2−メタクリロイルオキシ)エチルが例示される。
脂肪族第3級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、(2−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N−メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N−エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレートが例示される。
スルフィン酸およびその塩としては、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、トルエンスルフィン酸、トルエンスルフィン酸ナトリウム、トルエンスルフィン酸カリウム、トルエンスルフィン酸カルシウム、トルエンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウムが例示される。
酸化剤および還元剤は、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。酸化剤および還元剤の配合量は、プライマー組成物中の重合性単量体の合計重量に対して、いずれも、0.01重量%〜10重量%が好ましく、0.05重量%〜7重量%がより好ましく、0.1重量%〜5重量%が最も好ましい。
プライマー組成物の塗布性、流動性などを調整するために、これにフィラーを配合してもよい。フィラーとしては、無機系フィラー、有機系フィラーまたは無機/有機複合フィラーを用いることができる。
無機系フィラーとしては、シリカおよびカオリン、クレー、雲母、マイカ等のシリカを基材とする鉱物、シリカを基材とし、Al、B、TiO、ZrO、BaO、La、SrO、CaO、Pなどを含有する、セラミックスおよびガラスが好ましい。かかるガラスの具体例としては、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ソーダガラス、リチウムボロシリケートガラス、亜鉛ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、バイオガラスが挙げられる。これらの外、結晶石英、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、酸化チタン、酸化イットリウム、ジルコニア、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウムも好ましい。
有機系フィラーとしては、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、多官能メタクリレートの重合体、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴムが例示される。
無機/有機複合フィラーとしては、有機系フィラーに無機系フィラーを分散させたもの、無機系フィラーの表面を種々の重合性単量体にてコーティングしたものが例示される。
プライマー組成物の流動性を調整したり、その塗布性を向上させたりするために、フィラーをシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理した上でプライマー組成物に配合するようにしてもよい。この場合に用いる表面処理剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランが例示される。
フィラーは、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。フィラーの一般的な配合量は、プライマー組成物の全重量に対して50重量%以下であるが、30重量%以下が好ましい。同配合量が50重量%を越えると、歯に対する浸透性や接着性が低下する場合がある。
また、プライマー組成物の歯に対する脱灰力を増大させるために、pKaが酸性基含有重合性単量体(a)より小さく、且つ重合性基を有しない酸を、プライマー組成物に配合してもよい。かかる酸としては、リン酸、硝酸、硫酸等の無機酸、酢酸、クエン酸、トリクロロ酢酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸が挙げられる。しかし、これらの重合性基を有しない酸を過多に配合すると、歯質に対して損傷を与えたり、適用後に溶出したりして、プライマー組成物の歯に対する接着力を低下させることがある。従って、上記の酸の配合量は、通常、プライマー組成物の全重量に対して10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましい。
プライマー組成物に、重合禁止剤、着色剤、蛍光剤、紫外線吸収剤などを添加してもよい。また、抗菌性を付与する目的で、セチルピリジニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライド、トリクロサン等の抗菌性物質を配合してもよい。
本発明における表面滑沢性組成物は、多官能性重合性単量体(f)、揮発性溶剤(g)および光重合開始剤(h)を含有してなる。
多官能性重合性単量体(f)としては、オレフィン性二重結合を二つ以上有する疎水性重合性単量体が使用される。かかる疎水性重合性単量体としては、プライマー組成物に任意成分として配合する既述した(メタ)アクリル酸エステルの二官能性重合性単量体または三官能性以上の重合性単量体と同じものを使用することができる。表面硬化性の点で、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のオレフィン性二重結合を三つ以上有する重合性単量体が好ましく、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のオレフィン性二重結合を五つ以上有する重合性単量体が特に好ましい。多官能性重合性単量体(f)としては、オレフィン性二重結合を三つ以上有する重合性単量体を、当該多官能性重合性単量体(f)の全重量に対して70重量%以上含有するものが好ましく、80重量%以上含有するものがより好ましい。
多官能性重合性単量体(f)の配合量は、表面滑沢性組成物の全重量に対して、40重量%〜98重量%が好ましく、80重量%〜95重量%がより好ましい。同配合量が、40重量%未満の場合には、表面滑沢性組成物の塗布性や操作性が低下する場合がある。
揮発性溶剤(g)は、多官能性重合性単量体(f)を希釈し、表面滑沢性組成物の塗布性や操作性を向上させる。揮発性溶剤(g)としては、常圧での沸点が150°C以下のものが好ましく、100°C以下のものがより好ましい。常圧での沸点が150°Cを超える揮発性溶剤(g)を用いた場合には、表面滑沢性組成物の表面硬化性が低下する場合がある。揮発性溶剤(g)としてはエタノール、メタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類が例示される。なかでも、多官能性重合性単量体(f)と同時に硬化させることができる点で、(メタ)アクリル酸エステル類が好ましく、さらに毒性が低く、沸点が低い点で、メチルメタクリレートが特に好ましい。
揮発性溶剤(g)は、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。揮発性溶剤(g)の配合量は、塗布性や操作性の点で、表面滑沢性組成物の全重量に対して1重量%〜59重量%が好ましく、5重量%〜50重量%がより好ましく、10重量%〜40重量%が最も好ましい。同配合量が59重量%を超えた場合には、表面滑沢性組成物の流動性が高くなり過ぎて、操作性や塗布性が低下したり、硬化時の臭気が強くなったりする傾向がある。
光重合開始剤(h)としては、プライマー組成物に任意成分として配合する既述した光重合開始剤と同じものを使用することができる。α−ジケトン類およびアシルホスフィンオキサイド類が好ましい。開始剤自身の色が少なく、硬化後の黄変が小さい点で、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドがより好ましい。
光重合開始剤(h)は、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。光重合開始剤(h)の配合量は、表面滑沢性組成物中の重合性単量体の合計重量に対して、0.01重量%〜10重量%が好ましく、1重量%〜5重量%がより好ましい。光重合開始剤(h)はそれのみを単独で使用してもよいが、硬化性を促進させるために重合促進剤と併用してもよい。かかる重合促進剤としては、プライマー組成物に任意成分として配合する既述した重合促進剤と同じものを使用することができる。重合促進剤の配合量は、表面滑沢性組成物中の重合性単量体の合計重量に対して、0.01重量%〜10重量%が好ましく、0.05重量%〜7重量%がより好ましく、0.1重量%〜5重量%が最も好ましい。
表面滑沢性組成物に必要に応じて顔料を配合してもよい。顔料を配合することにより、得られるコーティング層の色調を調整することができる。かかる顔料としては、ベンガラ、フタロシアニンブルー、各種アゾ系顔料および酸化チタンが例示される。例えば、表面滑沢性組成物に酸化チタンを配合することにより、遮蔽性を有する組成物となり、歯の審美性を補うことができる。顔料は、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。顔料の配合量は、コーティング層の色調や審美性を考慮して適宜調節すればよい。
表面滑沢性組成物に必要に応じてフィラーを配合してもよい。フィラーとしては、プライマー組成物に任意成分として配合する既述したフィラーと同じものを使用することができる。フィラーは、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。フィラーの配合量は、表面滑沢性組成物の全重量に対して40重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましい。同配合量が40重量%を超えると、表面滑沢性組成物の塗布性や操作性が低下する場合がある。また、フィラーとしては、一般的に、平均粒径が0.001μm〜50μmのものを使用すればよいが、表面滑沢性組成物に顔料を配合する場合には、顔料の沈降を有効に抑えるために、0.001μm〜0.1μmの超微粒子フィラーを使用することが好ましい。かかる超微粒子フィラーとしては、コロイドシリカ(例えば、日本アエロジル社製、商品名「アエロジル」)が好ましい。表面滑沢性組成物に、必要に応じて、さらに重合禁止剤、蛍光剤、紫外線吸収剤などを添加してもよい。
表面滑沢性組成物の調合にあたっては、それが適当な粘性を有するように、各成分を適宜選択して調合することが好ましい。表面滑沢性組成物の30°Cにおける粘度は、塗布性や操作性の点で、30cP〜3,000cPが好ましく、50cP〜1,000cPがより好ましく、80cP〜500cPが最も好ましい。同粘度が30cP未満の場合には、流動性が高すぎて、歯に適用する際に隣接する歯と歯の隙間に浸透する場合があり、3,000cPを超えた場合には、塗布性が低下する場合がある。
第1キットは、漂白後の歯の着色および色の後戻りを防止する上で特に有用である。そこで、次に、第1キットの使用方法を、漂白後の歯をコーティングする場合を例にして説明する。
先ず、プライマー組成物を漂白後の歯の表面に塗布し、必要に応じて歯科用エアーシリンジなどを用いてプライマー組成物の流動性がなくなるまで乾燥させるか、あるいはプライマー組成物が重合開始剤(光重合開始剤および/または化学重合開始剤)を含有する場合には、塗布層を重合硬化させて、プライマー層を形成する(工程1)。
次いで、プライマー層の上に表面滑沢性組成物を塗布し、塗布した表面滑沢性組成物に光を照射して重合硬化させることにより、漂白後の歯の表面に表面層を形成する(工程2)。プライマー組成物が光重合開始剤を含有する場合には、光照射によりプライマー組成物と表面滑沢性組成物とを同時に重合硬化させてもよい。
表面滑沢性組成物の塗布厚としては、0.005mm〜0.5mmが好ましく、0.01mm〜0.3mmがより好ましい。光を照射する際の好適な光源としては、キセノンランプ、ハロゲンランプ、水銀ランプ、発光ダイオードが例示される。光の照射時間は、光の波長や光量に依存する。歯科専用の照射器を使用すれば3秒〜3分間程度で硬化させることが可能である。なお、漂白後の歯にコーティング層を形成した後、その一部または全部が歯の表面から剥離した場合や着色などにより不具合が生じた場合は、スケーラーなどの歯科用器具を用いて不具合部分を剥がすなどした後、再び歯の表面に適用する。このように繰り返して処置を施すことにより、漂白後の歯の着色および漂白後の歯の色の後戻りを有効に防止することができる。
第1キットは、歯の一部が金属、陶材、セラミックス、コンポジット硬化物等の歯冠修復材料で修復されている歯に対しても使用することができる。また、第1キットは、単独で使用してもよく、市販の歯科用金属プライマー、陶材接着用のプライマー、次塩素酸塩等の歯面清掃剤などと組み合わせて使用してもよい。
上述したように、第1キットによれば、歯に対する接着性がプライマー組成物により確保されるので、歯に対する接着性の良いコーティング層を形成することができる。
しかしながら、第1キットには、表面滑沢性組成物により形成される層(表面層)が硬くて脆いために、咬合時の応力などにより、コーティング層にチッピング(コーティング層の一部が小さく欠けて剥離する現象)や破折が起こりやすいという解決すべき課題がある。
別の本発明に係る歯科用コーティング用キット(以下、「第2キット」と称することがある)は、第1キットが抱える上記の課題をも解決したものである。
すなわち、第2キットは、酸性基含有重合性単量体(a)、水(b)および水溶性溶剤(c)を含有してなるプライマー組成物と、重合性単量体(d)および光重合開始剤(e)を含有してなるコーティング組成物と、多官能性重合性単量体(f)、揮発性溶剤(g)および光重合開始剤(h)を含有してなる表面滑沢性組成物とを有する。
第2キットが有するプライマー組成物及び表面滑沢性組成物は既述した第1キットが有するそれらと同じものである。
そこで、以下においては、第2キットのみが有するコーティング組成物について説明する。
コーティング組成物は、プライマー組成物から形成される層(プライマー層)と、表面滑沢性組成物から形成される層(表面層)との間に中間層を形成するための組成物である。この中間層は、表面滑沢性組成物から形成される最表層のチッピングや破折を防止する緩衝層として機能する。
コーティング組成物は、重合性単量体(d)および光重合開始剤(e)を含有する。
重合性単量体(d)としては、プライマー層の表面に中間層を形成することができる重合性単量体であれば特に制限なく使用することができる。重合性単量体(d)は、得られるコーティング組成物の粘度、重合性、得られるコーティング層の強度などを考慮して適宜選択すればよい。重合性単量体(d)の含有量が過多であるとコーティング組成物(II)の塗布性、流動性、操作性などが低下する場合があるので、コーティング組成物の全重量に対して40〜99.99重量%が好ましく、60〜99.95重量%がより好ましい。
重合性単量体(d)は、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。なかでも、親水性重合性単量体と疎水性重合性単量体とを組み合わせて用いると、歯に対する濡れ性や浸透性に優れ、しかも重合硬化後の靭性が高い緩衝層として有効なコーティング層が得られる。
親水性重合性単量体は、歯に対する濡れ性および浸透性を向上させるばかりでなく、得られるコーティング層の靭性を高める。親水性重合性単量体を配合することにより靭性が高められるのは、親水性重合性単量体を含有する重合硬化後のコーティング層が口腔内の湿潤環境において吸水して膨潤するからである。ここにいう親水性重合性単量体とは、25°Cにおける水に対する溶解度が10重量%以上の重合性単量体である。親水性重合性単量体としては、同溶解度が30重量%以上の重合性単量体が好ましい。
親水性重合性単量体の具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル−1,3−ジ(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル−1,2−ジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、2−トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリルクロライド、(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の数が9以上のもの)が挙げられる。なかでも、2−ヒドロキシエチルメタクリレートが好ましい。
親水性重合性単量体は、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。親水性重合性単量体の配合量は、コーティング組成物の全重量に対して5重量%〜50重量%が好ましい。5重量%未満の場合には、コーティング組成物の濡れ性や得られる硬化物の靭性が低くなる傾向があり、50重量%を超えた場合には、得られる硬化物の強度が低下する場合がある。同配合量は、5重量%〜40重量%がより好ましく、10重量%〜35重量%が最も好ましい。
疎水性重合性単量体は、接着性、機械的強度および塗布性を向上させる。ここにいう疎水性重合性単量体とは、25°Cにおける水に対する溶解度が10重量%未満の重合性単量体である。疎水性重合性単量体としては、同溶解度が1重量%以下の重合性単量体が好ましい。
疎水性重合性単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸エステル、α−シアノアクリル酸エステル、α−ハロゲン化アクリル酸エステル、クロトン酸エステル、桂皮酸エステル、ソルビン酸エステル、マレイン酸エステル、イタコン酸エステル等のエステル類、(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ−N−ビニル誘導体、スチレン誘導体等の重合可能な不飽和基を有する化合物が挙げられる。なかでも、(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルとしては、プライマー組成物に任意成分として含有せしめる既述した(メタ)アクリル酸エステルと同じものを使用することができる。
疎水性重合性単量体の種類は、コーティング組成物の粘度、重合性などを考慮して適宜選択すればよい。疎水性重合性単量体は、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。重合性の点で、二官能性以上の単量体が好ましい。疎水性重合性単量体が過少であるとコーティング組成物の塗布性、流動性、操作性などが低下する場合がある。疎水性重合性単量体の配合量は、コーティング組成物の全重量に対して20重量%〜90重量%が好ましく、40重量%〜80重量%がより好ましい。
親水性重合性単量体および疎水性重合性単量体の外に、さらに重合性単量体(d)として、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、カルボン酸基またはスルホン酸基等の酸性基を一つ以上有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、スチレン基等の重合可能な不飽和基を有する重合性単量体(酸性基含有重合性単量体)を配合することにより、歯に対する接着性をさらに改善することができる。酸性基含有重合性単量体としては、接着性の点で、そのカルシウム塩の25°Cにおける水に対する溶解度が10重量%以下のものが好ましく、1重量%以下のものがより好ましく、0.1重量%以下ものが最も好ましい。酸性基含有重合性単量体としては、プライマー組成物に必須成分として含有せしめる既述した酸性基含有重合性単量体(a)と同じものを使用することができる。酸性基含有重合性単量体としては、リン酸基含有重合性単量体が接着性に優れるので好ましい。なかでも、炭素数6〜25のアルキレン基、アルキル基および/またはフェニル基を有するリン酸基含有重合性単量体がより好ましく、炭素数6〜12のアルキレン基を有するリン酸基含有重合性単量体が最も好ましい。
酸性基含有重合性単量体は、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。酸性基含有重合性単量体が過多であるとコーティング組成物の重合性(表面硬化性)が低下する場合があるので、酸性基含有重合性単量体の配合量は、コーティング組成物の全重量に対して0.1重量%〜30重量%が好ましく、0.1重量%〜20重量%がより好ましい。
コーティング組成物に含有させる光重合開始剤(e)としては、公知の光重合開始剤を用いることができる。光重合開始剤(e)としては、例えば、プライマー組成物に任意成分として含有させる光重合開始剤と同じものを使用することができる。光重合開始剤は、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。光重合開始剤(e)の配合量は、重合性単量体(d)に対して、0.01重量%〜10重量%が好ましく、0.05重量%〜7重量%がより好ましく、0.1重量%〜5重量%が最も好ましい。
光硬化性を促進させるために、光重合開始剤(e)と重合促進剤とを併用してもよい。重合促進剤としては、例えば、プライマー組成物に任意成分として含有させる既述した第3級アミン類、アルデヒド類、チオールを有する化合物を使用することができる。これらの化合物は、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。重合促進剤の含有量は、コーティング組成物の全重量に対して、0.01重量%〜10重量%が好ましく、0.05重量%〜7重量%がより好ましく、0.1重量%〜5重量%が最も好ましい。
必要に応じて、光重合開始剤(e)と化学重合開始剤とを併用してもよい。化学重合開始剤を併用することにより、特に、光が到達しにくいために光重合しにくいコーティング層の内部の重合性を高めることができる。かかる化学重合開始剤としては、酸化剤と還元剤よりなるレドックス系の化学重合開始剤が好ましい。レドックス系の化学重合開始剤を使用する場合は、既述したように、コーティング組成物の包装形態を酸化剤と還元剤とが離間されるように2分割以上にする必要がある。酸化剤および還元剤としては、プライマー組成物に任意成分として含有させる既述した酸化剤および還元剤と同じものを使用することができる。
酸化剤および還元剤は、いずれも、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。酸化剤および還元剤の配合量は、コーティング組成物中の重合性単量体の合計重量に対して、いずれも、0.01重量%〜10重量%が好ましく、0.05重量%〜7重量%がより好ましく、0.1重量%〜5重量%が最も好ましい。
コーティング組成物に屈折率が1.9以上の無機フィラーを添加してもよい。ここにいう屈折率とは、波長589.3nmの光を用いて20°Cで測定したときの屈折率である。屈折率が1.9以上の無機フィラーは、重合硬化後の表面未重合層を薄くさせてコーティング層の表面硬化性を向上させるばかりでなく、歯の変色を遮蔽したり、コーティング層の明度を上げたりするので審美性を改善する上でも極めて有用である。表面硬化性と審美性の改善効果の点で、屈折率が2.1以上の無機フィラーが好ましい。屈折率が1.9未満の場合には、表面硬化性が低下する場合がある。屈折率が1.9以上の無機フィラーとしては、酸化チタン(屈折率:2.49〜2.90)、酸化ジルコニウム(屈折率:2.13〜2.19)、酸化亜鉛(屈折率:2.00〜2.02)が例示される。また、屈折率が1.9以上の無機フィラーの平均粒径は、0.01μm〜100μmが好ましく、0.1μm〜80μmがより好ましい。重合硬化後の表面の未重合層が薄くなる理由は定かでないが、本発明者らは次のように考えている。
すなわち、通常、光重合開始剤を用いて重合性単量体を重合させる際には、空気中に存在している酸素が重合禁止剤として作用し、その結果、空気と接触しているコーティング層の表面部分にミクロン単位の厚さの未重合層が生じる。しかし、コーティング層に屈折率が1.9以上の不透明な無機フィラー(顔料に相当する)が少量含まれていると、この無機フィラーがコーティング層に入射した光(重合開始の際に照射した光)を乱反射させて、光の散乱効果により、その表面部分の重合性を向上させ、その結果、重合硬化後の表面の未重合層が薄くなる。
屈折率が1.9以上の無機フィラーは、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。屈折率が1.9以上の無機フィラーの配合量は、コーティング組成物の全重量に対して0.1重量%〜50重量%が好ましい。同配合量が0.1重量%よりも少ない場合には表面硬化性が低下する傾向があり、同配合量が50重量%を超えた場合には光重合性触媒を用いただけでは硬化深度が浅く、内部まで十分に硬化しなくなる傾向がある。より好ましい配合量は、0.1重量%〜10重量%であり、最も好ましい配合量は0.1重量%〜5重量%である。
屈折率が1.9以上の無機フィラーの沈降を抑制したり、機械的強度、塗布性、容器からの採取性、操作性などを向上させたりするために、他のフィラーを併用してもよい。屈折率が1.9以上の無機フィラーと併用するフィラーとしては、屈折率が1.9未満の、無機系フィラー、有機系フィラーおよび無機/有機複合フィラーが挙げられる。無機系フィラー、有機系フィラーおよび無機/有機複合フィラーとしては、プライマー組成物に任意成分として配合する既述した無機系フィラー、有機系フィラーおよび無機/有機複合フィラーと同じものを使用することができる。
屈折率が1.9以上の無機フィラーと併用するフィラーは、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。屈折率が1.9以上の無機フィラーと併用するフィラーの配合量は、コーティング組成物の全重量に対して60重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましい。屈折率が1.9以上の無機フィラーと併用するフィラーの平均粒径は0.001μm〜50μmが好ましい。屈折率が1.9以上のフィラーの沈降を抑えたり塗布性や操作性を向上させたりするために、平均粒径0.001μm〜0.1μmのコロイドシリカを、コーティング組成物の全重量に対して、好ましくは1重量%〜40重量%、より好ましくは3重量%〜35重量%、最も好ましくは5重量%〜30重量%配合するとよい。かかるコロイドシリカとしては、噴霧熱分解法によって得られる粒子径の小さいシリカ(例えば、日本アエロジル社製、商品名「アエロジル」)、湿式法によって得られるシリカゾル、ゾルゲル法で得られる単分散シリカが例示される。
屈折率が1.9以上の無機フィラーおよびこれと併用するフィラーは、コーティング組成物の機械的強度、塗布性、操作性、流動性などを向上させるために、シランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。かかる表面処理剤としては、プライマー組成物に任意成分として配合するフィラーに使用する既述した表面処理剤と同じものを使用することができる。
コーティング組成物に顔料を配合してもよい。顔料を配合することにより、得られるコーティング層の色調を調整することができる。顔料としては、ベンガラ、フタロシアニンブルー、各種のアゾ系顔料が例示される。顔料は、1種単独を用いてもよく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。顔料の配合量は特に限定されず、コーティング組成物の色調や審美性を考慮して適宜配合すればよい。
コーティング組成物にフッ素イオン放出性物質を配合してもよい。フッ素イオン放出性物質を配合することにより、歯の表面に耐酸性を付与することができる。かかるフッ素イオン放出性物質としては、フルオロアルミノシリケートガラス等のフッ素ガラス、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウム等の金属フッ化物、特開平5−85912号公報に開示されているメタクリル酸メチルとメタクリル酸フルオライドとの共重合体等のフッ素イオン放出性ポリマー、セチルアミンフッ化水素酸塩が例示される。
コーティング組成物に、重合禁止剤、蛍光剤、紫外線吸収剤を添加してもよい。また、抗菌性を付与する目的で、セチルピリジニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライド、トリクロサン等の抗菌性物質を配合してもよい。
コーティング組成物を調合するにあたっては、それが適当な粘性を有するように、各成分を適宜選択することが好ましい。コーティング組成物の30°Cにおける粘度は、歯に対する塗布性、操作性などの点で、300cP〜50,000cPが好ましく、500cP〜30,000cPがより好ましく、1,000cP〜20,000cPが最も好ましい。同粘度が300cP未満の場合には、流動性が高すぎて操作性が低下する場合があり、50,000cPを超えた場合には、塗布性が低下してコーティング層の色調の均一性が低下する場合がある。
次に、第2キットの使用方法、すなわち第2キットを用いたコーティング方法について説明する。
先ず、プライマー組成物を歯の表面に塗布し、必要に応じて歯科用エアーシリンジ等でプライマー組成物の流動性がなくなる程度まで乾燥させるか、あるいはプライマー組成物が重合開始剤(光重合開始剤および/または化学重合開始剤)を含有する場合には、塗布層を重合硬化させて、プライマー層を形成する(工程1)。
次いで、プライマー層の表面にコーティング組成物を塗布し、光照射により塗布層を重合硬化させて中間層を形成する(工程2)。プライマー組成物が光重合開始剤を含有する場合には、光照射によりプライマー組成物とコーティング組成物とを同時に重合硬化させてもよい。
最後に、中間層の表面に、表面滑沢性組成物を塗布し、光照射により塗布層を重合硬化させて表面層を形成することにより、歯の表面に三層構造のコーティング層を形成する(工程3)。
工程2の終了後、中間層の表面に未重合層が多く存在する場合には、工程3の終了後の表面層の表面硬化性が不十分なときがある。このようなことを防止するために、工程2の終了後、例えば、綿球などを用いて、未重合層を拭き取ることが好ましい。
工程2におけるコーティング組成物の塗布厚としては、0.005mm〜1mmが好ましく、0.01mm〜0.7mmがより好ましく、0.1mm〜0.5mmが最も好ましい。
コーティング組成物の塗布層に光照射し、塗布層を重合硬化させる場合には、キセノンランプ、ハロゲンランプ、水銀ランプ、発光ダイオード等の光源が好適に使用される。光照射時間は、光の波長や光量に依存するが、歯科専用の照射器を使用すれば通常3秒から3分間程度で重合硬化させることが可能である。
第2キットも第1キットと同様、無漂白の歯の表面のみならず、漂白後の歯の表面にも適用することができる。歯の漂白は、歯を白くする手段として近年普及しつつあり、漂白により歯の表面が粗造になることが知られているが、第2キットも第1キットと同様、かかる粗造になった歯に対しても好適に用いることができ、漂白の効果を補足する目的や漂白後に色が後戻りする現象を防止することができる。
また、第2キットも第1キットと同様、歯のみならず、金属、陶材、セラミックス、コンポジット硬化物等の歯科用修復材料の表面に対しても使用することができる。
さらに、第2キットも第1キットと同様、市販の歯科用金属プライマー、陶材接着用プライマー、次塩素酸塩等の歯面清掃剤と組み合わせて使用することができる。
【実施例】
実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
先ず、第1キットの実施例を示すが、以下の実施例1〜12(第1キットの実施例)および比較例1〜4における歯の漂白は全て下記の方法により行った。
〔歯の漂白方法〕
漂白剤(Kerativ社製、商品名「PowerGel」)1パックに35%過酸化水素水3.5mlを加えてよく混合し、ゲル状の漂白剤を調製した。このゲル状の漂白剤を、ブラシ(日本歯科工業社製、商品名「ブラシコーン」)を用いて予め清掃しておいた、抜歯された人の中切歯の唇面表面に約1mmの厚さで塗布した。ゲル状の漂白剤を塗布した中切歯の唇面表面に対し、歯科用可視光線照射器(エアーテクニクス社製、商品名「アークライト」)を用いて30秒間光照射し、5分間放置した後、中切歯の唇面表面を流水洗浄した。ゲル状の漂白剤の塗布から流水洗浄までの上記の操作を3回繰り返して、漂白を終了した。
以下に示す略記号は次の通りである。
〔酸性基含有重合性単量体(a)〕
MDP:10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
〔水溶性溶剤(c)〕
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
〔多官能性重合性単量体(f)〕
DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
DPPA:ジペンタエリスリトールペンタアクリレート
PTA:ペンタエリスリトールトリアクリレート
〔揮発性溶剤(g)〕
MMA:メチルメタクリレート
〔光重合開始剤(h)〕
TMDPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
CQ:カンファーキノン
〔重合促進剤〕
DMABE:4−ジメチルアミノ安息香酸エチル
〔燐酸エステル系接着性モノマー〕
PMEAP:フェニル(2−メタクリロキシエチル)アシッドホスフェート
DPMEP:ジフェニル(メタクリロキシエチル)フォスフェート
【実施例1】
MDP(20重量%)、蒸留水(25重量%)およびHEMA(55重量%)からなるプライマー組成物を調製した。また、DPHA(93重量%)、MMA(5重量%)およびTMDPO(2重量%)からなる表面滑沢性組成物を調製した。上記のプライマー組成物と表面滑沢性組成物とからなるコーティング用キットについて、下記(1)の方法により、表面滑沢性組成物の粘度を求めた。また、下記(2)〜(4)の方法により、操作性、臭気および表面硬化性を調べた。それらの結果を表1に示す。なお、以下の実施例および比較例で求めた粘度、操作性、臭気および表面硬化性も、下記(1)〜(4)の方法により求めたものである。
(1)粘度
表面滑沢性組成物を0.6cc採取し、その30°Cにおける粘度をE型粘度計(東機産業製)を用いて測定した。
(2)操作性
漂白後の人の中切歯に対し、実施例1で調製したプライマー組成物を塗布し、そのまま30秒間静置した後、歯科用エアーシリンジにてプライマー組成物の流動性がなくなるまで揮発成分を蒸散させた。次いで、中切歯の唇面平坦部を上向きに地面と平行になるように固定した後、実施例1で調製した表面滑沢性組成物を小筆で唇面の切縁から歯頚線まで塗布し、隣接する歯と歯の隙間や歯根面への液垂れ、切縁付近での液溜まりを目視により評価した。液垂れおよび液溜まりが全く認められなかったものを○、僅かに認められたものを△、明らかに認められたものを×と評価した。
(3)臭気
上記(2)で表面滑沢性組成物を塗布した塗布面に対し、歯科用光照射器(群馬ウシオ電気製、商品コード「ライテルII」)を用いて60秒間光照射を行い、表面滑沢性組成物を硬化させた。この硬化の際、塗布面の上方3cmの位置にパネラーの外鼻口を固定し、表面滑沢性組成物の臭気を評価した。7名のパネラーを用い、臭気を感じなかったパネラーを3点、臭気を感じたが不快ではなかったパネラーを2点、臭気を不快に感じたパネラーを1点として評価し、7名のパネラーの平均値が2点以上のものを○、2点未満のものを×と評価した。
(4)表面硬化性
上記(3)で得た硬化後の表面層の表面をワイパー(株式会社クレシア製、商品コード「JKワイパー」)で強くこすり、表面硬化性を目視により評価した。表面にキズが認められず十分に表面硬化したものを○、表面にキズが生じ表面硬化が不十分だったものを×と評価した。
【実施例2〜7】
DPHA、DPPA、PTA、MMA、エタノール、TMDPO、CQおよびDMABEを表1に示す重量比率で混合して6種類の表面滑沢性組成物を調製した。これらの各表面滑沢性組成物と実施例1で調製したプライマー組成物とからなるコーティング用キットについて、表面滑沢性組成物の粘度を求め、また操作性、臭気および表面硬化性を調べた。結果を表1に示す。

表1より、実施例1〜7の第1キットは、不快な臭気が少なく、しかも操作性に優れていることが分かる。また、実施例1〜7の第1キットは、表面滑沢性組成物に燐酸エステル系接着性モノマーを含有しないために、表面硬化性にも優れる。
【実施例8】
MDP(10重量%)、蒸留水(30重量%)およびHEMA(60重量%)からなるプライマー組成物を調製した。このプライマー組成物と実施例1で調製した表面滑沢性組成物とからなるコーティング用キットを用いて、下記(1)に示す方法により、表面層を形成して、その表面硬化性を評価した。また、下記(2)に示す方法により、表面層の漂白後の歯に対する接着強度を求めた。なお、以下の実施例9〜12および比較例1〜4で求めた接着強度も、下記の方法により求めたものである。結果を表2に示す。
(1)表面層の形成
漂白後の人の中切歯の中央部分に、直径3mmの穴を空けた厚さ150μmのテープを貼り、実施例8で調製したプライマー組成物をテープのその穴の中に塗布した。30秒間静置した後、歯科用エアーシリンジにてプライマー組成物の流動性がなくなるまで揮発成分を蒸散させて、プライマー層を形成した。次いで、そのプライマー層の表面に実施例1で調製した表面滑沢性組成物を塗布し、穴の中を満たした。この塗布面に、歯科用光照射器(群馬ウシオ電気製、商品コード「ライテルII」)を用いて60秒間光照射して重合硬化させて、表面層を形成した。
(2)接着強度
上記の表面層に、市販の歯科用レジンセメント(クラレ製、商品コード「パナビア21」)を用いてステンレス製の円柱の棒(直径5mm、長さ1.5cm)を棒の端面(円面)を接着面にして接着した。30分後に試験片を37°Cの水中に浸漬し、1日後に接着強度を測定した。接着強度の測定は、ステンレス製の円柱棒が引張り方向の軸に対して±5°以下の範囲になるように、数枚の厚さ0.5mmの金属製の板を歯にあてて固定し、ステンレス製の棒を下方向に引張って実施した。なお、接着強度は、引張試験装置(島津製作所社製、商品名「オートグラフ」)のクロス・ヘッドスピードを2mm/分に設定して測定した。接着強度は、試験片8個の測定値の平均値として求めた。
【実施例9〜12】
MDP、蒸留水、HEMA、エタノール、CQおよびDMABEを表2に示す重量比率で混合して4種類のプライマー組成物を調製した。これらの各プライマー組成物と、実施例1で調製した表面滑沢性組成物とからなるコーティング用キットについて、表面層の表面硬化性を評価した。また、漂白後の歯に対する接着強度を求めた。結果を表2に示す。
(比較例1)
漂白後の人の中切歯の中央部分に、直径3mmの穴を空けた厚さ150μmのテープを貼り、実施例1で調製した表面滑沢性組成物をテープのその穴の中に塗布した。テープの穴の中を表面滑沢性組成物で満たした状態で、この塗布面に対して、歯科用光照射器(群馬ウシオ電気製、商品コード「ライテルII」)を用いて60秒間光照射を行い、漂白後の歯の表面にコーティング層を形成し、表面硬化性を評価するとともに、漂白後の歯に対する接着強度を求めた。結果を表2に示す。
(比較例2〜4)
DPHA、MMA、CQ、DMABEおよびリン酸エステル系接着性モノマー(フェニル(2−メタクリロキシエチル)アシッドホスフェートまたはジフェニル(メタクリロキシエチル)フォスフェート)を表2に示す重量比率で混合して4種類の表面滑沢性組成物を調製した。これらの各表面滑沢性組成物を漂白後の人の中切歯の唇面に直接適用してコーティング層を形成し、表面硬化性を評価するとともに、漂白後の歯に対する接着強度を求めた。結果を表2に示す。

表2より、実施例8〜12の第1キットを用いて漂白後の歯の表面にプライマー層と表面層とを順次形成した場合、極めて高い接着強度が得られることが分かる。また、実施例8〜12の第1キットは、表面滑沢性組成物中に燐酸エステル系接着性モノマーを含有しないために、表面硬化性にも優れる。これに対して、プライマー層を形成せずに表面滑沢性組成物を漂白後の歯に直接適用した場合は(比較例1、2)、表面硬化性は優れるものの、接着強度が極めて低い。また、燐酸エステル系接着性モノマーを含有する組成物を、プライマー層を形成せずに漂白後の歯に直接適用した場合は、漂白後の歯に対する接着性は若干改善されるものの、表面硬化性が良くない(比較例3、4)。
上記の実施例では、第1キットを用いて漂白後の歯をコーティングする場合を例に挙げて説明したが、第1キットは無漂白の歯のコーティングにも好適に用いることができる。
次に、第2キットの実施例を記す。以下に示す略記号は次の通りである。
MDP:10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
UDMA:[2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレート
U−4TH:N,N’−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート
Bis−GMA:ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
DPPA:ジペンタエリスリトールペンタアクリレート
MMA:メチルメタクリレート
CQ:カンファーキノン
DMABE:4−ジメチルアミノ安息香酸エチル
TMDPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
【実施例13】
MDP(20重量%)、蒸留水(40重量%)およびHEMA(40重量%)からなるプライマー組成物、UDMA(50重量%)、U−4TH(20重量%)、3G(29重量%)、CQ(0.5重量%)、DMABE(0.5重量%)からなるコーティング組成物、DPHA(73重量%)、MMA(25重量%)およびTMDPO(2重量%)からなる表面滑沢性組成物をそれぞれ調製した。このプライマー組成物、コーティング組成物および表面滑沢性組成物からなるコーティング用キット(第2キット)について、下記の接着力試験方法A1により歯に対する接着強度を測定した。また、下記の耐チッピング性試験方法B1により耐チッピング性を評価した。結果を表3に示す。
〔接着力試験方法A1〕
(1)抜去された人の中切歯の唇面のエナメル質表面をブラシ(日本歯科工業社製、商品名「ブラシコーン」)を用いて清掃した後、エナメル質平坦部の中央部分に、直径3mmの穴を空けた、厚さ150μmのテープを貼り、実施例13で調製したプライマー組成物をテープの穴の中に塗布した。そのまま30秒間静置した後、歯科用エアーシリンジにてプライマー組成物の流動性がなくなる程度まで揮発成分を蒸散させて、プライマー層を形成した。このプライマー層の表面に実施例13で調製したコーティング組成物を塗布し、穴の中を満たした。この塗布面に対して、歯科用光照射器(群馬ウシオ電気社製、商品名「ライテルII」)を用いて30秒間光照射を行って硬化させ、中間層を形成した。さらに、この中間層の表面に、実施例13で調製した表面滑沢性組成物を小筆を用いて塗布し、上記の歯科用光照射器を用いて60秒間光照射を行って硬化させ、表面層を形成した。
(2)表面層の表面に、市販の歯科用レジンセメント(クラレ製、商品コード「パナビア21」)を用いてステンレス製の円柱の棒(直径5mm、長さ1.5cm)を棒の端面(円面)を接着面にして接着した。30分後に試験片を37°Cの水中に浸漬し、1日後に接着強度を測定した。接着強度の測定は、ステンレス製の円柱棒が引張り方向の軸に対して±5°以下の範囲になるように、数枚の厚さ0.5mmの金属製の板を歯にあてて固定し、ステンレス製の棒を下方向に引張って実施した。なお、接着強度は、引張試験装置(島津製作所社製、商品名「オートグラフ」)のクロス・ヘッドスピードを2mm/分に設定して測定した。接着強度は、試験片8個の測定値の平均値として求めた。
〔耐チッピング性試験方法B1〕
(1)抜去された人の前歯の舌側面を唇面のエナメル質平坦部と平行になるように削り、厚さ2mmの板状に加工した。この加工した歯の唇面のエナメル質表面をブラシ(日本歯科工業社製、商品名「ブラシコーン」)を用いて清掃した後、エナメル質平坦部の中央部分に、直径5mmの穴を空けた厚さ150μmのテープを貼り付け、実施例13で調製したプライマー組成物を塗布した。30秒間静置した後、歯科用エアーシリンジにてプライマー組成物の流動性がなくなる程度まで揮発成分を蒸散させて、プライマー層を形成した。このプライマー層の表面に実施例13で調製したコーティング組成物を塗布し、穴の中を満たした。この塗布面に対して、歯科用光照射器(群馬ウシオ電気社製、商品名「ライテルII」)を用いて30秒間光照射を行って硬化させ、中間層を形成した。さらに、この中間層の表面に、実施例13で調製した表面滑沢性組成物を小筆を用いて塗布し、上記の歯科用光照射器を用いて60秒間光照射を行った後、テープを剥すことにより、エナメル質表面に直径5mmの表面層が形成された板状の歯を得た。この表面層が形成された板状の歯を縦3cm、横2cm、厚さ2mmの金型の中央部分に、円板状の表面層を上にして設置し、周囲に歯科用コンポジットレジンを充填して歯を固定し、かかる状態で歯科用コンポジットレジンを重合硬化させて試験片とした。この試験片を、水を満たした水槽の底面に固定し、表面層の表面に歯ブラシ(ライオン社製、商品名「ビトイーン」;硬度:ふつう)の毛を垂直に接触させ、250gの荷重をかけた状態で歯ブラシを振幅10cmで往復滑走させた。
(2)10000往復、20000往復、40000往復の後に、試験片を取り出し、円板状の表面層の周縁部を光学顕微鏡(拡大倍率:10倍)にて観察し、長径が0.1mm以上のチッピングの有無を調べ、下記の評価基準により耐チッピング性を評価した。
(評価基準)
チッピングが認められなかったもの……○
チッピングが認められたもの……×
【実施例14〜17】
表3に示す組成のプライマー組成物、コーティング組成物、表面滑沢性組成物をそれぞれ調製し、4種の歯科用コーティング用キット(第2キット)を作製した。これらの歯科用コーティング用キットについて、上記の接着力試験方法A1により接着強度を求め、また上記の耐チッピング性試験方法B1により耐チッピング性を評価した。結果を表3に示す。
(比較例5、6)
実施例13で調製した表面滑沢性組成物(比較例5)および比較例1で調製した表面滑沢性組成物(比較例6)について、下記の接着力試験方法A2により接着強度を求め、また下記の耐チッピング性試験方法B2により耐チッピング性を評価した。結果を表3に示す。尤も、10000往復の後に、試験片を取り出して、耐チッピング性を評価しようとしたが、比較例5および比較例6のいずれのコーティング層も耐チッピング性試験の10000往復の前に、歯から脱落してしまったので、耐チッピング性については評価することができなかった。
〔接着力試験方法A2〕
(1)抜去された人の中切歯の唇面のエナメル質表面をブラシ(日本歯科工業社製、商品名「ブラシコーン」)を用いて清掃した後、エナメル質平坦部の中央部分に、直径3mmの穴を空けた、厚さ150μmのテープを貼り、実施例13または比較例1で調製した表面滑沢性組成物をテープの穴の中に塗布した。この塗布面に対して、歯科用光照射器(群馬ウシオ電気社製、商品名「ライテルII」)を用いて60秒間光照射を行って硬化させ、コーティング層を形成した。
(2)上記(1)で得られたコーティング層の歯に対する接着強度を、上記の接着力試験方法A1(2)により測定した。
〔耐チッピング性試験方法B2〕
(1)抜去された人の前歯の舌側面を唇面のエナメル質平坦部と平行になるように削り、厚さ2mmの板状に加工した。この加工した歯の唇面のエナメル質表面をブラシ(日本歯科工業社製、商品名「ブラシコーン」)を用いて清掃した後、エナメル質平坦部の中央部分に、直径5mmの穴を空けた厚さ150μmのテープを貼り付け、実施例13または比較例1で調製した表面滑沢性組成物を塗布した。この塗布面に対して、上記の歯科用光照射器を用いて60秒間光照射を行って硬化させた後、テープを剥すことにより、エナメル質表面に直径5mmのコーティング層が形成された板状の歯を得た。
(2)上記(1)で得られたコーティング層の耐チッピング性を上記の耐チッピング性試験方法B1(2)により評価した。

【実施例18〜22】
表4に示す組成のプライマー組成物、コーティング組成物、表面滑沢性組成物をそれぞれ調製し、5種の歯科用コーティング用キット(第2キット)を作製した。これらの歯科用コーティング用キットについて、上記の接着力試験方法A1により接着強度を求め、また上記の耐チッピング性試験方法B1により耐チッピング性を評価した。結果を表4に示す。

【実施例23〜37】
表5に示す組成のプライマー組成物、コーティング組成物、表面滑沢性組成物をそれぞれ調製し、7種の歯科用コーティング用キット(実施例23〜29;第2キット)を作製した。また、表6に示す組成のプライマー組成物、表面滑沢性組成物をそれぞれ調製し、8種の歯科用コーティング用キット(実施例30〜37;第1キット)を作製した。なお、実施例32のキットは実施例7のキットと、実施例33のキットは実施例2のキットと、実施例34のキットは実施例1のキットと、実施例35のキットは実施例8のキットと、実施例36のキットは実施例9のキットと、実施例37のキットは実施例10のキットと、それぞれ互いに同じキットである。これらの歯科用コーティング用キットについて、上記の接着力試験方法A1により接着強度を求め、また上記の耐チッピング性試験方法B1により耐チッピング性を評価した。さらに、下記の明度変化の測定方法により、コーティングによる歯の明度の変化を測定した。結果を表5および表6に示す。
〔明度変化の測定方法〕
(1)抜去された人の前歯の舌側面を唇面のエナメル質平坦部と平行になるように削り、厚さ2mmの板状に加工した。この加工した歯の唇面のエナメル質表面をブラシ(日本歯科工業社製、商品名「ブラシコーン」)を用いて清掃した後、エナメル質平坦部の中央部分に、直径7mmの穴を空けた厚さ150μmのテープを貼り付け、穴部分の明度指数を測定した(L*)。明度指数(L*)の測定は、色差計(日本電色社製、Σ90型、光源はD65光源、視野角2度、測色範囲5mmφ)を用い、背後に標準白板を置いて測定した。ここに示すL*は、JIS−Z 8729に定めたL*a*b*表色系における明度指数を表す。
(2)次いで、テープの穴の中に実施例23〜37で調製したプライマー組成物を塗布した。30秒間静置した後、歯科用エアーシリンジにて流動性がなくなる程度まで揮発成分を蒸散させて、プライマー層を形成した。
(3)次いで、プライマー層の表面に実施例23〜29で調製したコーティング組成物を塗布し、穴の中を満たした。この塗布面に対して、上記の歯科用光照射器を用いて30秒間光照射を行って重合硬化させ、中間層を形成した。コーティング組成物を有しない実施例30〜37のキットについては、この工程(3)を行わずに、次の工程(4)に進んだ。
(4)中間層の表面(実施例30〜37の場合は、プライマー層の表面)に、実施例23〜37で調製した表面滑沢性組成物を小筆を用いて塗布し、上記の歯科用光照射器を用いて60秒間光照射を行った後、テープを剥すことにより、エナメル質表面に直径7mmのコーティング層が形成された板状の歯を得た。
(5)次いで、得られた板状の歯のコーティング部分の明度指数を上記(1)と同様にして測定した(L*)。次式により、コーティングによる明度の変化(ΔL*)を算出した。
明度の変化(ΔL*)=L*−L*


表3〜5に示すように、プライマー組成物、コーティング組成物および表面滑沢性組成物からなる第2キットを用いて歯に3層構造のコーティング層を形成した場合、得られるコーティング層は歯に対して優れた接着強度を示し、しかも耐チッピング性に優れていた(実施例13〜29)。これに対して、表3に示すように、プライマー組成物およびコーティング組成物を適用せずに、表面滑沢性組成物を歯の表面に直接塗布して単層のコーティング層を形成した場合、得られるコーティング層の歯に対する接着性が低かった(比較例5、6)。また、表6に示すように、コーティング組成物を適用せずに、歯の表面にプライマー組成物および表面滑沢性組成物をこの順で塗布して2層構造のコーティング層を形成した場合、接着強度は優れていたが、耐チッピング性が劣っていた。
(実施例30〜37)。
また、表5に示すように、屈折率が1.9以上の無機フィラーを含有するコーティング組成物を有する第2キットを用いて歯に3層構造のコーティング層を形成した場合、コーティングにより歯の明度が向上し、審美性が改善された(実施例23〜29)。
【産業上の利用可能性】
本発明に係る歯科用コーティング用キットは、漂白後の歯の着色および色の後戻りを防止するためのキットとして特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基含有重合性単量体(a)、水(b)および水溶性溶剤(c)を含有してなるプライマー組成物と、多官能性重合性単量体(f)、揮発性溶剤(g)および光重合開始剤(h)を含有してなる表面滑沢性組成物とを有する歯科用コーティング用キット。
【請求項2】
前記プライマー組成物が、酸性基含有重合性単量体(a)を1〜90重量%、水(b)を0.1重量%〜90重量%、水溶性溶剤(c)を1重量%〜98重量%含有し、前記表面滑沢性組成物が、多官能性重合性単量体(f)を40重量%〜98重量%、揮発性溶剤(g)を1重量%〜59重量%、光重合開始剤(h)を当該表面滑沢性組成物中の重合性単量体の合計重量に対して0.01重量%〜10重量%含有する請求項1記載の歯科用コーティング用キット。
【請求項3】
前記光重合開始剤(h)が、アシルホスフィンオキサイドである請求項1または2記載の歯科用コーティング用キット。
【請求項4】
前記アシルホスフィンオキサイドが、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドである請求項3記載の歯科用コーティング用キット。
【請求項5】
前記表面滑沢性組成物の30°Cにおける粘度が、30cP〜3000cPである請求項1〜4のいずれかに記載の歯科用コーティング用キット。
【請求項6】
漂白後の歯のコーティング用キットである請求項1〜5のいずれかに記載の歯科用コーティング用キット。
【請求項7】
歯の表面に、酸性基含有重合性単量体(a)、水(b)、水溶性溶剤(c)および要すれば重合開始剤を含有してなるプライマー組成物を塗布し、乾燥または重合硬化させて、プライマー層を形成し、当該プライマー層の表面に、多官能性重合性単量体(f)、揮発性溶剤(g)および光重合開始剤(h)を含有してなる表面滑沢性組成物を塗布し、光照射により重合硬化させて、表面層を形成する歯科用コーティング方法。
【請求項8】
酸性基含有重合性単量体(a)、水(b)および水溶性溶剤(c)を含有してなるプライマー組成物と、重合性単量体(d)および光重合開始剤(e)を含有してなるコーティング組成物と、多官能性重合性単量体(f)、揮発性溶剤(g)および光重合開始剤(h)を含有してなる表面滑沢性組成物とを有する歯科用コーティング用キット。
【請求項9】
前記プライマー組成物が、酸性基含有重合性単量体(a)を1重量%〜90重量%、水(b)を0.1重量%〜90重量%、水溶性溶剤(c)を1重量%〜98重量%含有し、前記コーティング組成物が、重合性単量体(d)を40重量%〜99.99重量%、光重合開始剤(e)を前記重合性単量体(d)に対して0.01重量%〜10重量%含有し、前記表面滑沢性組成物が、多官能性重合性単量体(f)を40重量%〜98重量%、揮発性溶剤(g)を1重量%〜59重量%、光重合開始剤(h)を当該表面滑沢性組成物中の重合性単量体の合計重量に対して0.01重量%〜10重量%含有する請求項8記載の歯科用コーティング用キット。
【請求項10】
前記コーティング組成物が、屈折率が1.9以上の無機フィラーおよびコロイドシリカをさらに含有する請求項8または9記載の歯科用コーティング用キット。
【請求項11】
前記コーティング組成物の30°Cにおける粘度が300cP〜50,000cPである請求項8〜10のいずれかに記載の歯科用コーティング用キット。
【請求項12】
前記重合性単量体(d)が、疎水性重合性単量体および親水性重合性単量体を含有し、前記コーティング組成物が、当該親水性重合性単量体を5重量%〜50重量%含有する請求項8〜11のいずれかに記載の歯科用コーティング用キット。
【請求項13】
前記親水性重合性単量体が2−ヒドロキシエチルメタクリレートである請求項12記載の歯科用コーティング用キット。
【請求項14】
漂白後の歯のコーティング用キットである請求項8〜13のいずれかに記載の歯科用コーティング用キット。
【請求項15】
歯の表面に、酸性基含有重合性単量体(a)、水(b)、水溶性溶剤(c)および要すれば重合開始剤を含有してなるプライマー組成物を塗布し、乾燥または重合硬化させて、プライマー層を形成し、当該プライマー層の表面に、重合性単量体(d)および光重合開始剤(e)を含有してなるコーティング組成物を塗布し、光照射により重合硬化させて、中間層を形成し、当該中間層の表面に、多官能性重合性単量体(f)、揮発性溶剤(g)および光重合開始剤(h)を含有してなる表面滑沢性組成物を塗布し、光照射により重合硬化させて、表面層を形成する歯科用コーティング方法。

【国際公開番号】WO2004/032884
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【発行日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−542831(P2004−542831)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012798
【国際出願日】平成15年10月6日(2003.10.6)
【出願人】(301069384)クラレメディカル株式会社 (110)
【Fターム(参考)】