説明

歯科用セラミック仮焼体

【課題】 収縮率の安定した歯科用セラミック仮焼体を提供する。
【解決手段】 本焼成時の線収縮率が19.0〜22.0(%)と極めて大きく、仮焼段階における収縮が0.2〜1.0(%)の極めて小さい値に留められているため、仮焼体ブロック10毎の線収縮率のばらつきや、個々の仮焼体ブロック10の場所による線収縮率のばらつきが極めて小さくなる。すなわち、線収縮率の安定した歯科用セラミック仮焼体ブロック10が得られる。したがって、提供された模型に対する寸法差が小さく、歯冠と支台歯との適合性の高い人工歯が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工歯のフレーム等に用いられる歯科用セラミック仮焼体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、口腔内に装着される歯科用補綴物は、金属製フレームの表面に天然歯の色調に調整したセラミック材料(陶材)を被覆することにより構成されていたが、近年、補綴物全体をセラミック材料で構成したオールセラミック補綴物が用いられるようになってきている。このようなオールセラミック補綴物は、例えば、従来の金属製フレームに代えてセラミック焼結体から成るフレームを用いて、その表面にガラス陶材で外装部(すなわちセラミック層)が形成されたもので、生体に金属が接触することに起因する金属アレルギーや、金属色を隠すために設けられる不透明な下地層に起因して天然歯本来の色調が得られない等の問題が解消され或いは緩和される利点がある。
【0003】
上記セラミックフレームは、一般に主原料としてジルコニア(酸化ジルコニウム)を用いてCAD/CAM加工を利用して製造されるが、その製造方法を大別すると、(1)焼結体を切削加工する方法、(2)未焼成の成形体を切削加工し、焼成する方法、(3)仮焼体を切削加工し、焼成する方法の3種類が挙げられる。
【0004】
上記第1の方法は、1300〜1600(℃)程度で焼結させた焼結体または熱間静水圧プレス(HIP)処理した焼結体を切削加工するもので、切削加工後の寸法変化が無いため、計測機や加工機の精度に応じた寸法精度の高いフレームを製造できる利点がある。その反面で、高硬度であることから切削加工時間が長く、ドリル等の工具寿命が短いため製造コストも高くなる問題がある。
【0005】
また、前記第2の方法は、焼成時の収縮率を考慮して切削加工し、その後に1300〜1600(℃)で焼成処理を施すもので、成形条件および成形体の密度管理によって一定の収縮率を保ち得ることから、第1の方法と同様に寸法精度の高いフレームを製造できる。その反面で、脱脂工程を含むことから焼成処理に例えば10時間もの長時間を要する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2003−506191号公報
【特許文献2】米国特許第6354836号明細書
【特許文献3】特開2008−055183号公報
【特許文献4】国際公開第2008/148494号パンフレット
【特許文献5】特開2007−314536号公報
【特許文献6】特開2000−203949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらに対して、前記第3の方法は、仮焼時の収縮率から本焼成の収縮率を算出し、これを考慮して切削加工し、1300〜1600(℃)で焼成処理を施すもので、焼結体よりも低硬度であるから、切削加工時間が短く、工具寿命が長い利点があり、また、脱脂が完了していることから、切削後の焼成時間が短くなる利点がある。そのため、現状では第1の方法は殆ど採られておらず、第2の方法が極一部で、フレームの殆どが第3の方法で作製されている。
【0008】
しかしながら、従来の仮焼体は、仮焼時の収縮率が安定しないため、切削加工前に仮焼体の収縮率を個々に計測する必要があって、これが多大な手間となっていた。しかも、炉内温度ばらつきなどに起因して、1個の仮焼体でも部位により収縮率が異なるため、寸法精度を得ることが困難であった。この結果、歯冠とこれが嵌め合わされる支台歯との適合性が得られ難い問題があった。例えば、実際の線収縮率が想定していた値から0.5(%)以上異なると、フレームを支台歯に嵌め入れられず、或いは緩すぎるという問題が生じる。
【0009】
ところで、上記のような仮焼体を改良することを目的として、従来から種々の提案が為されている。例えば、15〜30(MPa)の強度を有する加工性に優れた仮焼体がある(前記特許文献1を参照。)。また、10〜13(%)の収縮率を有する仮焼体を用いるものがある(前記特許文献2を参照。)。また、仮焼体の曲げ強度を31〜50(MPa)程度としたものがある(前記特許文献3を参照。)。また、例えば、53〜74(MPa)の高い曲げ強度を有する仮焼体を用いるものがある(前記特許文献4を参照。)。これは、上記特許文献1,3に記載されているような低強度では切削加工中に破損し易い一方、高強度では通常の機械で加工できない問題があったのに対し、上記強度範囲が意外にも加工に好適であることを見出したものである。
【0010】
また、着色物質でコーティングした酸化物粉末を加圧成形し、予備焼結(仮焼)することにより、着色された仮焼体を得るものがある(前記特許文献5を参照。)。
【0011】
また、歯科材料に関するものではないが、成形体を焼成温度よりも20〜30(%)だけ低い温度で仮焼することにより、素材強度を高めて切削性やハンドリング性を高めたものがある(前記特許文献6を参照。)。
【0012】
このように、仮焼体の加工性等に関して、様々な提案が為されているが、上記何れにおいても、収縮率のばらつきを改善することは何ら考慮されていなかった。
【0013】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、収縮率の安定した歯科用セラミック仮焼体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
斯かる目的を達成するため、第1発明の歯科用セラミック仮焼体の要旨とするところは、酸化ジルコニウムを主成分とする成形体に脱脂処理および仮焼処理が施されて成り、本焼成時の線収縮率が19.0(%)以上且つ22.0(%)以下であることにある。
【0015】
また、第2発明の歯科用セラミック仮焼体の要旨とするところは、酸化ジルコニウムを主成分とする成形体に脱脂処理および仮焼処理が施されて成り、焼結体の理論密度の47(%)以上且つ49(%)以下の密度を有することにある。
【発明の効果】
【0016】
前記第1発明によれば、本焼成時の線収縮率が19.0〜22.0(%)と極めて大きく、仮焼段階における収縮が極めて小さい値に留められているため、仮焼体毎の線収縮率のばらつきや、個々の仮焼体の場所による線収縮率のばらつきが極めて小さくなる。すなわち、線収縮率の安定した歯科用セラミック仮焼体が得られる。ここで、線収縮率は下記(1)式で求められる。なお、ジルコニアセラミックスの成形体からの線収縮率は例えば22(%)強であり、上記上限値は仮焼による収縮が殆ど進んでいないことを意味する。
線収縮率=(仮焼前寸法−仮焼後寸法)/仮焼前寸法×100 ・・・(1)
【0017】
また、前記第2発明によれば、仮焼体の密度が焼結体の理論密度の47〜49(%)と極めて小さく、仮焼段階における収縮が極めて小さい値に留められているため、仮焼体毎の線収縮率のばらつきや、個々の仮焼体の場所による線収縮率のばらつきが極めて小さくなる。したがって、線収縮率の安定した歯科用セラミック仮焼体が得られる。
【0018】
ここで、好適には、前記仮焼体は、3点曲げ強度が3〜6(MPa)の範囲内である。このようにすれば、取扱いおよび加工が何れも容易な仮焼体が得られる。
【0019】
また、好適には、前記仮焼体は、仮焼温度が800(℃)以上且つ950(℃)以下の範囲内である。前記線収縮率、前記密度、前記曲げ強度は、上記範囲内の温度で仮焼を施すことによって容易に得られる。ジルコニアセラミックスは、例えば1000(℃)程度から急激に収縮が進む傾向を有するため、仮焼温度は950(℃)以下が好ましい。また、原料粒子の結合がある程度進まないと強度が得られないので、800(℃)以上が好ましい。
【0020】
また、好適には、前記仮焼体は、91.00〜98.45(wt%)の酸化ジルコニウムと、1.5〜6.0(wt%)の酸化イットリウムと、0.05〜0.50(wt%)のアルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、インジウムの少なくとも一つの酸化物とを含むものである。本発明の仮焼体を構成するジルコニアの組成は特に限定されず、例えば、安定化材としては、酸化イットリウムの他に酸化セリウムや酸化カルシウム、酸化マグネシウム等も用いられるが、強度や色調等の面から上記のような組成が好ましい。
【0021】
また、好適には、前記仮焼体は着色剤を含むものである。このようにすれば、酸化ジルコニウムの本来の色調のままでは困難な場合にも自然歯に近い色調の人工歯が得ることができる。着色剤としては、4〜6族の遷移金属酸化物、アルミニウム化合物、珪素化合物、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、硫化鉄、硫化マグネシウム、硫化ニッケル、酢酸ニッケル、酢酸鉄、酢酸マグネシウム等を用い得る。これら着色剤は、例えばジルコニア原料に有機結合剤を添加して造粒するに際して同時に添加することができる。また、その造粒の際には、必要に応じて焼結助剤を添加することもできる。
【0022】
また、前記仮焼体を得るための成形体の成形方法は特に限定されず、粉末プレス、射出、射込み等のセラミックスの成形方法として一般に用いられている適宜の方法を用いうる。また、成形後に必要に応じて湿式静水圧(CIP)成形を施すことで、成形密度の均一性を高め延いては仮焼体の密度の均一性を高めて、線収縮率を一層安定させることができる。
【0023】
また、本発明の仮焼体およびこれを用いた人工歯は、例えば以下のようなプロセスで製造される。すなわち、まず、ジルコニア原料顆粒を用意し、これをプレス成形する。次いで、必要に応じてその成形体にCIP成形を施す。この際の加圧力は、例えば100〜500(MPa)である。次いで、これに仮焼処理を施す。仮焼は、室温から緩やかに800〜950(℃)まで昇温し、1〜6時間程度係留するもので、成形体からの線収縮率は例えば0.2〜1.0(%)程度、仮焼後の曲げ強度は3〜6(MPa)程度である。これにより、前述したような収縮ばらつきの小さい歯科用セラミック仮焼体が得られる。
【0024】
また、人工歯は、上記仮焼体を用いて歯科技工士や技工所において、例えば以下のようにして製造される。すなわち、まず、歯科医から供給された模型に基づき、仮焼体毎に予め定められた割掛けでCADを用いてフレーム図面を作成する。なお、「割掛け」とは、仮焼体固有の線収縮率から算出された拡大率で、模型寸法に割掛けを乗ずることで各部の寸法が与えられる。次いで、CAMを用いて仮焼体からフレーム仮焼体を切削加工により得る。次いで、得られたフレーム仮焼体に本焼成処理を施す。これは、例えば1300〜1600(℃)程度の範囲内の温度で30分〜2時間程度係留することにより行われる。次いで、焼結したフレームの表面に陶材を築盛する。これにより、模型と同一形状の人工歯が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施例の円盤状仮焼ブロックを示す図である。
【図2】図1の仮焼ブロックから切り出して作成したフレームの断面構造を示す図である。
【図3】図1の仮焼ブロックの製造方法および使用方法を説明するための工程図である。
【図4】図1の仮焼ブロックの仮焼温度と線収縮率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0027】
図1は、円盤状の歯科用仮焼ブロック10を示す斜視図である。仮焼ブロック10は、例えば酸化ジルコニウムに安定化材として酸化イットリウムを3(mol%)添加したジルコニアセラミックス(TZP)から成るものであって、後述するように成形体に脱脂および低温の仮焼処理を施した仮焼体である。仮焼ブロック10は、直径が94(mm)程度、厚みが14(mm)程度の大きさを備えている。
【0028】
上記の仮焼ブロック10は、例えばブリッジやクラウン等のオールセラミック補綴物のフレームに用いられるものである。図1に一点鎖線12で削り出すフレームの外形の一例を、図2に作製したフレーム14の一例の断面をそれぞれ示す。図2において、フレーム14は、成人臼歯の一歯欠損を補綴するための3本ブリッジに用いられるもので、支台歯に対応するコアエレメント(すなわち所謂コーピング部のフレーム)16,18と、欠損歯に対応するコアエレメント(すなわち所謂ポンティック部のフレーム)20とを連結したものである。
【0029】
図3は、上記の仮焼ブロック10の製造方法およびこれを使用した人工歯の製造方法の要部を説明する工程図である。まず、適宜の合成方法および造粒方法を用いて製造したジルコニア顆粒を用意し、プレス成形工程S1において、一軸加圧プレスにより円盤状に成形する。なお、ジルコニア顆粒には、有機高分子バインダーや可塑剤が添加されるが、これらの他に着色剤を添加しても良い。
【0030】
次いで、CIP成形工程S2では、得られた円盤状の成形体に例えば100〜500(MPa)程度の圧力でCIP成形を施す。この工程は成形体の均一性を高めるためのもので、プレス成形のみで十分な均一性が得られる場合には実施しなくともよい。
【0031】
次いで、仮焼工程S3では、上記の成形体(すなわち生ブロック)に仮焼処理を施す。この仮焼処理は、800〜950(℃)の範囲内の温度まで昇温して1〜6時間程度係留するもので、その昇温過程で顆粒に含まれていた樹脂結合剤(バインダー)が焼失除去され、更に、粒子相互の結合が進んで前記仮焼ブロック10が得られる。これらプレス成形工程S1〜仮焼工程S3が仮焼ブロック10の製造工程である。成形体からの線収縮率は例えば0.2〜1.0(%)で、仮焼ブロック10の密度は2.90〜2.92(g/cm2)になっている。この仮焼ブロック10の密度は、焼結体の理論密度6.089(g/cm3)の47.6〜48.0(%)程度である。また、3点曲げによる曲げ強さは3〜6(MPa)程度で、低強度ではあるが、フレームの切り出し等の加工や焼成までの取扱いには何ら支障の無い強度を備えている。
【0032】
以下の工程は、技工所乃至技工士による工程で、人工歯が装着される患者毎に実施される。フレームデザイン工程S4では、歯科医から提供された模型に従ってCADを用いて仮焼ブロック10毎に定められた所定の割掛でフレームをデザインする。
【0033】
次いで、切削工程S5では、上記デザインに従い、CAMを用いてフレーム仮焼体を仮焼ブロック10から切り出す。仮焼ブロック10は、前述したように十分な強度を備えているので、この切り出し時や切り出し後の取扱い中に破損するような問題は特に生じない。
【0034】
次いで、焼成工程S6では、切り出したフレーム仮焼体に焼成処理を施す。この焼成処理は、1300〜1600(℃)の範囲内の温度まで昇温して30分〜2時間程度係留するもので、これにより、ジルコニア原料が焼結し、前記フレーム14が得られる。上記係留温度は、ジルコニア顆粒に応じて定められるもので、仮焼ブロックから焼結するとき(すなわち本焼成時)の線収縮率は19.0〜22.0(%)の範囲内、例えば21(%)前後である。
【0035】
次いで、築盛工程S7では、上記フレーム14の上に陶材を築盛する。例えば、セラミック粉末をプロピレングリコール水溶液等に分散したスラリーを塗布し、例えば930(℃)程度の温度で焼成してセラミック層を形成する。この工程を必要に応じて繰り返し実施することにより、所望の人工歯が得られる。
【0036】
このとき、本実施例によれば、本焼成時の線収縮率が19.0〜22.0(%)と極めて大きく、仮焼段階における収縮が0.2〜1.0(%)の極めて小さい値に留められているため、仮焼体ブロック10毎の線収縮率のばらつきや、個々の仮焼体ブロック10の場所による線収縮率のばらつきが極めて小さくなる。すなわち、線収縮率の安定した歯科用セラミック仮焼体ブロック10が得られる。したがって、提供された模型に対する寸法差が小さく、歯冠と支台歯との適合性の高い人工歯が得られる。
【0037】
また、本実施例によれば、仮焼ブロック10の密度が焼結体の理論密度の47.6〜48.0(%)程度と極めて小さく、仮焼段階における収縮が上述したとおり0.2〜1.0(%)の極めて小さい値に留められているため、仮焼ブロック10毎の線収縮率のばらつきや、個々の仮焼ブロック10の場所による線収縮率のばらつきが極めて小さい利点がある。
【0038】
また、本実施例によれば、仮焼ブロック10は、仮焼温度が800〜950(℃)の範囲内であるため、前記線収縮率、密度、曲げ強度を実現することができる。
【0039】
ところで、本実施例において、仮焼温度は前述したような線収縮率となるように、以下の試験に基づいて定めた。下記の表1は、仮焼温度と仮焼体の曲げ強さ、線収縮率、密度、および理論密度比をまとめたものである。この試験は、77×23×18(mm)の角柱ブロック(すなわち角柱状の試験片)を形状が異なると共に仮焼時の係留時間を1時間とした他は円盤状ブロックと同様な条件で作製して行った。なお、下記の表1において、曲げ強さは三点曲げ試験により測定し、線収縮率は長さ方向、幅方向、厚み方向のそれぞれについて求めた。また、仮焼密度は試料の寸法から算出した体積と質量とから求め、理論密度比はこれをジルコニア焼結体の理論密度6.089(g/cm3)で除して求めた。
【0040】
【表1】

【0041】
上記の表1において、仮焼温度が800(℃)では、曲げ強さが3.45〜3.62(MPa)、平均値で3.54(MPa)で線収縮率が0.24〜0.26(%)、平均値で0.25(%)、900(℃)では、曲げ強さが3.57〜5.42(MPa)、平均値で4.58(MPa)で線収縮率が0.22〜0.31(%)、平均値で0.28(%)、950(℃)では曲げ強さが4.78〜6.19(MPa)、平均値で5.45(MPa)で線収縮率が0.43〜0.53(%)、平均値で0.50(%)の結果がそれぞれ得られた。曲げ強さは3(MPa)以上あれば切削加工に十分な強度であり、仮焼温度が800(℃)以上であればこれを満たす。また、線収縮率は1(%)以下であれば、仮焼ブロックの本焼成時の収縮ばらつきが0.5(%)未満の極めて小さい値に留まって歯冠と支台歯との適合性の高い人工歯が得られる。
【0042】
これに対して、仮焼温度が700(℃)では、線収縮率が0.11〜0.13(%)、平均値で0.12(%)と小さく、その結果仮焼ブロックからの収縮のばらつきが小さいものの、曲げ強さが2.31〜2.75(MPa)、平均値で2.46(MPa)に留まるので、強度が不足して加工困難である。また、仮焼温度が1000(℃)では、線収縮率が0.90〜1.10(%)、平均値で1.01(%)にもなり、延いては仮焼ブロックの本焼成時の収縮ばらつきが0.5(%)以上になるため、寸法精度の高いフレームが得られない。すなわち、歯冠と支台歯との適合性が悪く、フレームが嵌め込み困難であったり、緩すぎる等の問題がある。仮焼温度が高くなるほど曲げ強さは高くなるので、1000(℃)以上では切削加工に耐えうる十分な強度を有するが、収縮の進行に伴って収縮ばらつきが大きくなるため、寸法精度が低下するのである。
【0043】
図4は、上述した試験における仮焼温度と線収縮率との関係をグラフにまとめたものである。仮焼温度が900(℃)程度までは収縮が殆ど進まず、温度が変化しても線収縮率は殆ど変化しない。平均値で0.031(%/100℃)程度に留まる。しかしながら、900(℃)を超えると明らかに収縮が進み、温度変化に対する収縮率変化は0.73(%/100℃)程度に増大する。また、1000(℃)を超えた辺りから収縮の進行が著しく、1000〜1200(℃)の間の温度変化に対する収縮率変化は8.54(%/100℃)程度にもなる。
【0044】
上記図4に示すグラフから明らかなように、温度変化に対して線収縮率が敏感に変化する1000(℃)以上の領域では、仮焼時の炉内の温度ばらつき等に起因して線収縮率の大きな相違が生じる。そのため、仮焼時の収縮ばらつきを抑制して延いては本焼成後の寸法精度を高めるためには、このような変化傾向の無い領域で仮焼を施すことが好ましい。変化傾向が著しいのは1000(℃)以上であるが、上述したように900(℃)を超えた辺りから線収縮率が大きくなる傾向が認められ、900〜1000(℃)の間の線収縮率変化は0.73(%)になるから、その変化が十分に小さいと言えるのは950(℃)までである。950(℃)以下の仮焼温度であれば、平均した100(℃)当たりの線収縮変化率は0.53(%)に留まる。
【0045】
また、前記円盤状の仮焼ブロック10は、上述したような角柱ブロックとは収縮挙動がやや相違するので、下記の表2に曲げ強さおよび線収縮率の試験結果を別にまとめた。仮焼時の係留時間は3時間である。曲げ強さは前記角柱ブロックと同様な寸法の角柱を切り出して評価した。また、表2において、直径1、2は、互いに直交する2方向を代表的に選んだもので、厚みは円盤の中央位置で測定した。
【0046】
【表2】

【0047】
上記の表2において、円盤状ブロックにおいても、仮焼温度が700(℃)では曲げ強さが2.64〜3.33(MPa)、平均値で2.96(MPa)に留まるので、切削加工等に耐えられるだけの強度が得られない。800(℃)になると、5.06〜6.69(MPa)、平均値で5,62(MPa)の曲げ強さを有するので、円盤ブロックの場合も、800(℃)以上であれば強度的に問題の無いことは明らかである。
【0048】
一方、線収縮率は、950(℃)では0.86〜0.97(%)、平均値で0.92(%)、すなわち、1(%)以下に留まるので、収縮ばらつきは許容範囲に留まる。しかしながら、1050(℃)で仮焼すると、試料1では、線収縮率が5.27〜5.48(%)、平均値で5.35(%)にもなり、試料2でも、5.30〜5.36(%)、平均値で5.33(%)にもなるので、線収縮率が著しく大きく、ばらつきも大きくなるので、使用に耐えない。
【0049】
上述したように、円盤状ブロックでは、角柱状ブロックに比べて線収縮率が大きくなるが、仮焼温度が950(℃)以下であれば、1.0(%)未満の線収縮率に留まる。したがって、強度が十分に高く、且つ線収縮率が1.0(%)未満に留まる800〜950(℃)の仮焼温度とすることが寸法精度の十分に高い仮焼ブロック10を得るために必要である。
【0050】
また、1個の試料における互いに直交する3軸方向の収縮率のばらつきをみると、仮焼温度が800(℃)の場合には、試料1で0.05(%)、試料2で0.03(%)、試料3で0.01(%)で、何れも0.05(%)以下である。また、仮焼温度が900(℃)の場合には、試料1で0.06(%)、試料2で0.01(%)、950(℃)の場合には、0.11(%)、1050(℃)の場合には、試料1で0.18(%)、試料2で0.06(%)であるから、何れも線収縮率が十分に小さいが、0.05(%)は超える。したがって、仮焼温度を800(℃)とすることが、寸法精度面では最も好ましいと言える。
【0051】
下記の表3は、前記表1に示した試験で用いたものとは異なる2種のジルコニア原料A,Bを用意して、その表1に示したものと同一形状の角柱ブロックを用意し、仮焼温度800(℃)にて、仮焼処理を施した結果をまとめたものである。上記2種の原料A,Bは、何れも前記表1のものと同様な酸化イットリウムを3(mol%)添加したTZP原料である。表3において、「No.」欄は試料番号、「理論密度比」欄は、仮焼体の密度の焼結体理論密度6.089(g/cm3)に対する割合(%)、「線収縮率」欄は、成形寸法が77(mm)の長さ方向における収縮率(%)である。
【0052】
【表3】

【0053】
上記の表3に示されるように、原料Aを用いた場合には、800(℃)で仮焼した場合の理論密度比は47.1〜47.3(%)、平均値で47.2(%)で、線収縮率は、0.22〜0.25(%)、平均値で0.24(%)である。また、原料Bを用いた場合には、理論密度比が48.3〜48.9(%)、平均値で48.7(%)、線収縮率は0.26〜0.30(%)、平均値で0.28(%)である。前記表1に示した結果も含めて見れば、理論密度比および線収縮率共に、原料の相違に起因すると考えられる若干の相違が認められるものの、800(℃)で仮焼した場合の理論密度比は、47.1〜48.9(%)、線収縮率は0.22〜0.30(%)の範囲内にある。
【0054】
すなわち、少なくとも理論密度比が47〜49(%)の範囲内であれば、線収縮率が十分に小さい1(%)以下に留まるので、仮焼ブロックの収縮ばらつきが0.5(%)未満の極めて小さい値に留まり、仮焼体毎の収縮率のばらつきや個々の仮焼体の場所による線収縮率のばらつきが極めて小さくなる。
【0055】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【符号の説明】
【0056】
10:仮焼ブロック、12:削り出すフレームの外形、14:フレーム、16,18,20:コアエレメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ジルコニウムを主成分とする成形体に脱脂処理および仮焼処理が施されて成り、本焼成時の線収縮率が19.0(%)以上且つ22.0(%)以下であることを特徴とする歯科用セラミック仮焼体。
【請求項2】
酸化ジルコニウムを主成分とする成形体に脱脂処理および仮焼処理が施されて成り、焼結体の理論密度の47(%)以上且つ49(%)以下の密度を有することを特徴とする歯科用セラミック仮焼体。
【請求項3】
3点曲げ強度が3〜6(MPa)の範囲内である請求項1または請求項2の歯科用セラミック仮焼体。
【請求項4】
仮焼温度が800(℃)以上且つ950(℃)以下の範囲内である請求項1または請求項2の歯科用セラミック仮焼体。
【請求項5】
91.00〜98.45(wt%)の酸化ジルコニウムと、1.5〜6.0(wt%)の酸化イットリウムと、0.05〜0.50(wt%)のアルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、インジウムの少なくとも一つの酸化物とを含むものである請求項1乃至請求項4の何れか1項の歯科用セラミック仮焼体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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