説明

歯科用修復材

【課題】 歯科用修復材中における顔料の分散性をより向上させ、色ムラを防止する。
【解決手段】重合性単量体を含む(A)液材と、(A)液材に溶解する(b)有機ポリマーを含む(B)粉材と、(A)液材若しくは(B)粉材の内少なくともいずれか一方に含まれる(c)重合開始剤とを含む歯科用修復材において、(b)有機ポリマーの少なくとも一部を、顔料を担持し、重合性単量体100質量部に対して2質量部を添加して回転速度300rpmにて23℃の液温下で3分間攪拌後、重合性単量体への溶解率が40重量%以上となる(b1)顔料担持用有機ポリマーとした歯科用修復材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
粉材と液材とを混ぜ合わせて使用する歯科用修復材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科修復の要望が機能性から審美性へと変遷することによって、歯科用修復材の色調が益々重要になってきている。歯科用修復材の色調は、有機物あるいはチタニア等の無機物を顔料として添加することにより表現されており、顔料の添加量の調整によって様々な色調が表現されている。
【0003】
しかし、顔料が均一に分散していなければ、所望の色調が得られず、更に分散性が悪い場合には色ムラが生じる。特に、粉材と液材とから成る歯科用修復材は、使用の際に粉材と液材とを混合するため、混合の際に顔料が均一に分散する必要がある。
【0004】
粉材と液材とから成る歯科用修復材料は、義歯の補修、暫間歯等に使用される歯科用常温重合レジン、動揺歯の暫間固定等に使用される歯科用セメント、入れ歯の補修材であるリベース材、あるいは治療と治療の間において暫定的に歯に詰める仮封材等として利用される。これらの粉材と液材とから成る歯科用修復材の使用方法としては、大きく分けて、練和法と筆積み法が挙げられる。練和法とは、粉材と液材とを一定量ずつ採り、ヘラ等を用いて練和する方法である。筆積み法とは、豚毛などの動物の毛を用いた筆または合成繊維製の筆の先に液材を充分に浸み込ませ、その筆の先を粉材に接触させることにより混ぜる方法である。筆積み法においては、筆に含まれる液材が粉材の隙間に毛細管現象によって浸入することにより、液材と粉材とが混じり合う。
【0005】
練和法および筆積み法において、共に、液材と粉材との混合時に顔料が均一に分散することが要求されるが、特に、筆積み法においては、顔料を均一に分散させるのが難しい。それは、筆積み法において、粉材と液材とが接触する際に外部からの力がほとんど加わらないからである。このため、特に、筆積み法において、顔料の分散性が不十分となり、色ムラが生じていた。このような問題を解決するために、例えば、粉材の主要構成材である有機ポリマー粒子の表面に顔料をコーティングし、有機ポリマーと顔料の分布を均一にする方法が提案されている(非特許文献1を参照)。
【0006】
【非特許文献1】株式会社ジーシーの歯科医療ホームページ(URL:http://www.gcdental.co.jp)のジーシーユニファストスリーの紹介ページ(URL:http://www.gcdental.co.jp/unifast3/)「平成19年2月23日検索」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述の従来技術には、次のような問題がある。粉材中の有機ポリマーと顔料の分布を均一にできたとしても、有機ポリマーが液材中に十分溶解しなければ、顔料が歯科用修復材中に均一に分散しない。
【0008】
本発明は、上記課題を解決すること、すなわち、顔料の分散性を向上させた粉材と液材とから成る歯科用修復材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、顔料を担持すると共に、液材への溶解性が特定の速度以上である顔料担持用有機ポリマーを含有してなる粉材を用いると、顔料が均一に分散し、色ムラのない歯科用修復材となることを見出だし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、重合性単量体を含む(A)液材と、該(A)液材に溶解する有機ポリマー(b)を含む粉材(B)と、該(A)液材若しくは該(B)粉材の内少なくともいずれか一方に含まれる重合開始剤(c)とを含む歯科用修復材において、(b)有機ポリマーの少なくとも一部を、顔料を担持し、重合性単量体100質量部に対して2質量部を添加して回転速度300rpmにて23℃の液温下で3分間攪拌後、上記重合性単量体への溶解率が40重量%以上となる(b1)顔料担持用有機ポリマーとする歯科用修復材としている。
【0011】
また、本発明は、特に、重合性単量体をメチル(メタ)アクリレートを主成分とし、(b1)顔料担持用有機ポリマーをポリエチル(メタ)アクリレートとする歯科用修復材としている。
【0012】
また、本発明は、さらに、重合性単量体をメチル(メタ)アクリレートを主成分とし、(b1)顔料担持用有機ポリマーを、メチル(メタ)アクリレートとエチル(メタ)アクリレートの共重合体であって、かつエチル(メタ)アクリレートのモル比の方が多い共重合体とする歯科用修復材としている。
【0013】
かかる本発明の歯科用修復材を用いると、粉材と液材とが接触する際に、粉材中の顔料を担持した有機ポリマーが液材にすばやく溶解し、顔料が液材中に均一に分散する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、歯科用修復材中における顔料の分散性をより向上させることができ、色ムラを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る歯科用修復材の実施の形態について説明する。
【0016】
本発明の実施の形態に係る歯科用修復材は、粉材と液材とに分割して包装、保存されており、使用時に両材を混和したペーストとして用いる修復材である。粉材は、主に、有機ポリマーおよび顔料を含む。顔料は、歯科用修復材に審美性を付与するために機能するものであり、修復材中に均一に分散する必要がある。顔料は、有機ポリマーの少なくとも一部に担持される。有機ポリマーは、顔料を担持するための有機ポリマーであって、液材を構成する重合性単量体に容易に溶解する顔料担持用有機ポリマーのみでも良いが、顔料を担持させていない有機ポリマーと併用しても良い。こうした顔料を担持させていない有機ポリマーは、上記顔料担持用有機ポリマーと同様の溶解性を有する有機ポリマーであっても良いが、該顔料担持用有機ポリマーよりも重合性単量体に対する溶解性の低い有機ポリマー(これを、低溶解性有機ポリマーという。)であるのが好ましい。
【0017】
このように低溶解性有機ポリマーを粉材に配合しておくことにより、粉材と液材とを混合・練和して得られるペーストに、良好な初期流動性を付与することができる。すなわち、粉材と液材とを混合・練和すると、顔料担持用有機ポリマーが液材成分に溶解して粘度が上昇する。ここで、低溶解性有機ポリマーも液材成分により膨潤して粘度を上昇させるが、その粘度上昇速度は、顔料担持用有機ポリマーよりも遅い。したがって、最終的に適切な粘度となるように、粉末状の低溶解性有機ポリマーと顔料担持用有機ポリマーの双方を配合しておくと、初期には該最終粘度よりも粘度が低く流動性に優れたペーストとなり、よって付形性などの操作性に優れた修復材とすることができる。
【0018】
粉材には、有機ポリマー(少なくとも顔料担持用有機ポリマーを含む)および顔料以外に、無機フィラーを加えてもよい。無機フィラーを加えることにより、最終的な組成物の硬度を調整することができる。すなわち、本実施の形態に係る歯科用修復材に無機フィラーを添加することにより、ペースト状となった修復材の最終的な硬度が高くなる。したがって、保存安定性、練和性、経済性等の観点から決定された他の配合成分(上記有機ポリマー、顔料、後述する液材を構成する重合性単量体等)を所定の割合で混合して得られる組成物では硬度が柔らかくなりすぎるような場合には、粉材に無機フィラーを加えておき、硬度調整材として機能させることができる。なお、該無機フィラーは、粉材、液材のいずれに加えても良いが、保存安定性、練和性等の観点から粉材に配合する方が好ましい。
【0019】
液材は、重合性単量体を主成分とする。重合性単量体としては、特にラジカル重合性単量体を好適に使用することができる。また、重合開始剤は、粉材若しくは液材の少なくともいずれか一方に配合される。
【0020】
次に、粉材に含まれる有機ポリマー、顔料および無機フィラー、液材の主成分である重合性単量体、および粉材若しくは液材の少なくともいずれか一方に含まれる重合開始剤について詳しく説明する。
【0021】
(1)有機ポリマー
有機ポリマーとして、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート−エチル(メタ)アクリレート共重合体、架橋型ポリメチル(メタ)アクリレート、架橋型ポリエチル(メタ)アクリレート、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0022】
これらの有機ポリマーの中で、顔料を担持する顔料担持用有機ポリマーとして使用できるものは、以下の方法で顔料担持用有機ポリマーを重合性単量体に溶解させたときの溶解率が40重量%以上、好ましくは60重量%以上、特に好ましくは80重量%以上となるものである。その方法とは、重合性単量体100質量部に2質量部の顔料担持用有機ポリマーを入れ、300rpmの回転速度で23℃の液温下で3分間攪拌後、重合性単量体中に溶解していない顔料担持用有機ポリマーの量を測定して、溶解した顔料担持用有機ポリマーの量を求めるという方法である。
【0023】
より好適な方法としては、重合性単量体10gに顔料担持用有機ポリマー200mgを入れて、300rpmの回転速度で23℃の液温下で3分間攪拌後、重合性単量体と顔料担持用有機ポリマーとの混合物から1gを取り出し、それを遠心分離して、沈殿した顔料担持用有機ポリマーの量を計測するという方法である。この場合、溶解率(重量%)は、(200mg−沈殿物)×100/200mgの式にて算出される。なお、遠心分離は、回転速度15000rpmにて、10分間行う。
【0024】
上記の顔料担持用有機ポリマーのなかでも、易溶解性や取扱いの容易さ等の点で、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリプロピル(メタ)アクリレート、ポリn−ブチル(メタ)アクリレート等の、炭素数1〜20(より好ましくは1〜10)のアルコールの(メタ)アクリル酸エステルに基づく単量体単位が50〜100モル%(より好ましくは80〜100モル%)であるホモポリマー又はコポリマーが好ましい。
【0025】
顔料担持用有機ポリマーは、粉末状であればその大きさに制限はないが、粉材としての取り扱い易さ(流動性、凝集性)や、液材への易溶解性の点から、体積平均粒子径が0.1〜100μmの粉末であるのが好ましく、1〜80μmの粉末であるのがより好ましく、5〜50μmの粉末であるのがさらに好ましい。
【0026】
また、顔料担持用有機ポリマーを含めた有機ポリマーの質量平均分子量や分子量分布は特に限定されるものではないが、質量平均分子量が小さすぎる場合には、液材と接触して得られたペーストの操作性が不良であったり、あるいはTgが0℃を下回ったり、極端な場合には液状になる場合がある。一方、質量平均分子量が極めて大きなものは合成・入手が困難であるのみならず、ペーストの操作性が良好になり難い場合がある。したがって、本実施の形態に係る歯科用修復材の粉材に配合される有機ポリマーとしては、質量平均分子量が2万〜500万のものが好適であり、5万〜100万のものがより好ましい。
【0027】
なお、上記有機ポリマーなどの重合体における質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと略す)により測定される、標準ポリスチレン換算分子量である。
【0028】
顔料担持用有機ポリマーとしては、液材を構成する重合性単量体に易溶解性を示すように、単量体の種類や割合に応じて、質量平均分子量や分子量分布、平均粒子径等の異なる1または2種以上の有機ポリマーを選択することができる。
【0029】
上記粉末状の低溶解性有機ポリマーとしては、本発明の効果を妨げない範囲であれば特に制限なく用いることができる。なかでも、(メタ)アクリル系ポリマーが物性に大きな影響を及ぼさないことから好適に用いられる。そのような低溶解性有機ポリマーを具体的に示すと、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリプロピル(メタ)アクリレート、ポリイソプロピル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリイソブチル(メタ)アクリレート、ポリヘキシル(メタ)アクリレート、ポリ−2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ポリシクロヘキシル(メタ)アクリレート等や、これらのポリマーを構成する各重合性単量体のうちの異なるもの2種以上のコポリマーからなるポリ(メタ)アクリレート系の有機ポリマーが挙げられる。該有機ポリマーとしては、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。なお、これらの低溶解性有機ポリマーは、前記した重合性単量体100質量部に2質量部の有機ポリマーを入れ、300rpmの回転速度で23℃の液温下で3分間攪拌後、重合性単量体中に溶解していない有機ポリマーの量を測定する方法により、その溶解率を評価した場合において、0.5重量%以上は有しているもの、特に、1〜10重量%のものが好ましい。
【0030】
上記低溶解性有機ポリマーの粒径は、特に制限はないが、練和時の練和感のよさを維持させる点や練和後の組成物の触感をよりよく保つ観点から、体積平均粒子径が0.1〜200μmの粉末であることが好ましく、1〜150μmの粉末であることがより好ましい。上記低溶解性有機ポリマーとしては、該ポリマーを構成する単量体単位の種類や割合、質量平均分子量や分子量分布、平均粒子径等の異なる2種以上の有機ポリマーを併用してもよい。
【0031】
本発明において有機ポリマーの配合量は、本発明の効果を妨げない範囲であれば特に制限されないが、調製した粉材と液材の練和感、最終組成物の柔らかさを良好なものとするため、重合性単量体100質量部に対して、5〜400質量部の範囲で用いることが好ましく、50〜300質量部の範囲で用いることがより好ましく、80〜250質量部の範囲で用いるのが特に好ましい。本発明では、上記有機ポリマーの少なくとも一部を前記した(b1)顔料担持用有機ポリマーとするわけであるが、その配合量は、歯科用修復材に必要量の顔料を配合する観点や、粉材と液材とを混合・練和した際の適度な初期流動性を付与する観点から、重合性単量体100質量部に対して、有機ポリマーのみの重量で0.05〜400質量部の範囲で用いることが好ましく、0.1〜250質量部の範囲で用いることがより好ましく、0.5〜100質量部の範囲で用いるのが特に好ましい。
【0032】
(2)顔料
顔料は、有機顔料、無機顔料など公知の顔料から所望する色調になるように適宜単独もしくは混合して使用することができる。具体的には、黒酸化鉄、黄色酸化鉄、弁柄、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の無機顔料や、フタロシアニン系等の多環式顔料若しくはアゾ系顔料等の有機顔料を使用できる。
【0033】
顔料の有機ポリマーへの担持は、有機ポリマー表面へ顔料を付着させても良いし、該有機ポリマーの粒子内部に顔料を含有させても良い。有機ポリマーは表面から液に溶解するので、顔料の分散性の観点からは、有機ポリマー表面へ顔料を付着させる方法により実施するのがより好ましい。ここで、有機ポリマー表面へ顔料を付着させる方法としては、ボールミル、ヘンシェルミキサーなどを用いて、有機ポリマーと顔料とを機械的混合することにより行えば良い。有機ポリマーの粒子内部に顔料を含有させる方法としては、有機ポリマーを熱的に溶融し、または、有機溶媒などに溶解し、得られた有機ポリマーの溶液に顔料を混合し、その後、冷却、または、有機溶媒を除去し、固形化した有機ポリマーを粉砕することにより行えばよい。さらには、有機ポリマーを重合する際に、原料の重合性単量体に顔料を混合し、この重合性単量体組成物を重合することにより得ても良い。有機ポリマーへの顔料の担持量は特に制限を受けないが、担持量が少なすぎると、歯科用修復材に所望の色調を付与するために必要以上の顔料担持用有機ポリマーを配合しなくてはならなくなるため、無機顔料の場合、顔料担持用有機ポリマーに対して1重量%以上であるのが好ましく、5重量%以上であるのがより好ましく、有機顔料の場合、顔料担持用有機ポリマーに対して0.1重量%以上であるのが好ましく、0.5重量%以上であるのがより好ましい。他方、この有機ポリマーへの顔料の担持量が多すぎると、顔料担持有機ポリマーの粒子に対して顔料を均一に担持させることが困難になるため、無機顔料の場合、20重量%以下であるのが好ましく、15重量%以下であるのがより好ましく、有機顔料の場合、10重量%以下であるのが好ましく、5重量%以下であるのがより好ましい。
【0034】
(3)無機フィラー
また、粉材には、無機フィラーを添加することもできる。これにより硬化体の強度を向上させることができる。代表的な無機フィラーを具体的に例示すれば、石英、シリカ、アルミナ、シリカチタニア、シリカジルコニア、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等が挙げられる。さらに無機フィラーの内、カチオン溶出性フィラーとしては、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム等の水酸化物、酸化亜鉛、ケイ酸塩ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス等の酸化物が挙げられる。これらもまた、1種または2種以上を混合して用いても良い。
【0035】
また、これらの無機フィラーに重合性単量体を予め添加し、ペースト状にした後、重合させ、粉砕して得られる粒状の有機−無機複合フィラーを用いる場合もある。これらフィラーの粒径は特に限定されず、一般的に歯科用材料として使用されている平均粒子径0.01〜100μmのフィラーを目的に応じて適宜使用できる。また、フィラーの屈折率も特に限定されず、一般的な歯科用フィラーが有する1.4〜1.7の範囲のものが制限なく使用できる。
【0036】
(4)重合性単量体
本実施の形態に係る歯科用修復材の液材の主成分は重合性単量体である。重合性単量体には、ラジカル重合性単量体、カチオン重合性単量体等が挙げられるが、ここでは、ラジカル重合性単量体を好適に用いる。ラジカル重合性単量体としては、ビニル基等の重合性不飽和結合を有するものであれば、特に限定されることなく、例えば、(メタ)アクリレート系、ジビニルベンゼン等の芳香族化合物系、アルキルビニルエーテル等のエーテル系の重合性単量体を使用することができる。それらの中でも、重合性の良さなどから、(メタ)アクリレート系の単量体が好適に用いられる。当該(メタ)アクリレート系の重合性単量体を具体的に例示すると、次に示すものが挙げられる。
【0037】
(4.1)単官能ラジカル重合性単量体
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルキルエステル;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、プロピオンオキシエチル(メタ)アクリレート、ブタノンオキシエチル(メタ)アクリレート;1H,1H,3H−ヘキサフルオロブチルメタクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルメタクリレート、1H,1H,6H−デカフルオロヘキシルメタクリレート及び1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチルメタクリレート等の含フッ素(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0038】
(4.2)二官能ラジカル重合性単量体
エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレート、2,2−ビス(メタクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(3−メタクリロキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル]プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシジプロポキシフェニルプロパン、2−(4−メタクリロキシエトキシフェニル)−2−(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2−(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)−2−(4−メタクリロキシトリエトキシフェニル)プロパン、2−(4−メタクリロキシジプロポキシフェニル−2−(4−メタクリロキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシイソプロポキシフェニルプロパン、及びこれらのアクリレート等が挙げられる。
【0039】
(4.3)三官能ラジカル重合性単量体
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0040】
(4.4)四官能ラジカル重合性単量体
ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が挙げられる。
【0041】
これらのモノマーの中でも有機ポリマーの溶解性を考慮すると、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アセトキシエチル(メタ)アクリレート、プロピオンオキシエチル(メタ)アクリレート、ブタノンオキシエチル(メタ)アクリレート;1H,1H,3H−ヘキサフルオロブチルメタクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルメタクリレート、1H,1H,6H−デカフルオロヘキシルメタクリレート及び1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチルメタクリレート等の含フッ素(メタ)アクリレートを好適に用いることができ、これらのモノマーに他のモノマーを組み合わせて使用することも好ましい。
【0042】
更に、上記(メタ)アクリレート系重合性単量体以外に、他の重合性単量体を混合して重合することも可能である。これらの他の重合性単量体を例示すると、フマル酸モノメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン等のスチレン誘導体;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物を挙げることができる。これらの他の重合性単量体は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0043】
(5)重合開始剤(重合触媒)
本発明の実施の形態に係る歯科用修復材には、前記のラジカル重合性単量体を重合させるための重合開始剤が配合される。当該重合開始剤としては、公知の重合開始剤が使用可能である。歯科分野で用いられる重合開始剤としては、化学重合開始剤(常温レドックス開始剤)、光重合開始剤、熱重合開始剤等があるが、口腔内で硬化させることを考慮すると、化学重合開始剤及び/又は光重合開始剤が好ましい。
【0044】
化学重合開始剤は、2成分以上からなり、使用直前に全成分が混合されることにより室温近辺で重合活性種を生じる重合開始剤である。このような化学重合開始剤としては、アミン化合物/有機過酸化物系のものが代表的である。該アミン化合物を具体的に例示すると、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエタノール−p−トルイジンなどの芳香族アミン化合物が例示される。
【0045】
代表的な有機過酸化物としては、公知のケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリールパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネートに分類される有機過酸化物が好ましい。使用する有機過酸化物は、適宜選択して使用すればよく、単独又は2種以上を組み合わせて用いても何等構わないが、中でもハイドロパーオキサイド類、ケトンパーオキサイド類、パーオキシエステル類及びジアシルパーオキサイド類が重合活性の点から特に好ましい。さらにこの中でも、硬化性組成物としたときの保存安定性の点から10時間半減期温度が60℃以上の有機過酸化物を用いるのが好ましい。
【0046】
また、アリールボレート化合物が酸により分解してラジカルを生じることを利用した、アリールボレート化合物/酸性化合物系の重合開始剤を用いることもできる。アリールボレート化合物は、分子中に少なくとも1個のホウ素−アリール結合を有する化合物であれば特に限定されず公知の化合物が使用できるが、その中でも、保存安定性を考慮すると、1分子中に3個または4個のホウ素−アリール結合を有するアリールボレート化合物を用いることが好ましく、さらには取り扱いや合成・入手の容易さから4個のホウ素−アリール結合を有するアリールボレート化合物がより好ましい。これらアリールボレート化合物は2種以上を併用しても良い。
【0047】
上記の酸性化合物としては、酸性基含有ラジカル重合性単量体が好適に使用でき、1分子中に少なくとも1つの酸性基、又は当該酸性基の2つが脱水縮合した酸無水物構造、あるいは酸性基のヒドロキシル基がハロゲンに置換された酸ハロゲン化物基と、少なくとも1つのラジカル重合性不飽和基とを有する化合物であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。ここで酸性基とは、該基を有するラジカル重合性単量体の水溶液又は水懸濁液が酸性を呈す基である。当該酸性基としては、カルボキシル基(−COOH)、スルホ基(−SOH)、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)}等、並びにこれらの基が酸無水物や酸ハロゲン化物等となったものが例示される。このような酸性基含有ラジカル重合性単量体の具体例としては、前記ラジカル重合性単量体において例示した通りである。
【0048】
また、このようなアリールボレート化合物/酸性化合物系の重合開始剤に更に、有機過酸化物及び/又は遷移金属化合物を組み合わせて用いることも好適である。有機過酸化物としては、前記の通りである。遷移金属化合物としては、+IV価及び/又は+V価のバナジウム化合物が好適である。
【0049】
さらに、化学重合開始剤として好ましいものを例示すれば、(x)ピリミジントリオン誘導体(例えば、1−シクロヘキシル−5−メチルピリミジントリオン、1−シクロヘキシル−5−エチルピリミジントリオン等)、(y)ハロゲンイオン形成化合物(例えば、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド等)及び(z)第二銅形成化合物又は第二鉄イオン形成化合物(例えば、アセチルアセトン銅、酢酸第二銅、オレイン酸銅、アセチルアセトン鉄等)との組み合わせを挙げることができる。この化学重合開始剤系のものは、硬化後の変色が起こりにくく、本発明の硬化性組成物を歯科修復材の目的に使用した場合の触媒系として特に好ましい。
【0050】
光重合開始剤としては、重合活性の良さ、生体への為害性の少なさ等の点からα−ジケトン類が好ましい。またα−ジケトンを用いる場合には、第3級アミン化合物と組み合わせて用いることが好ましい。これら光重合開始剤は1種あるいは2種以上を混合して用いても差し支えない。上記の各重合開始剤はそれぞれ単独で併用されるだけでなく、必要に応じて複数の種類を組み合わせて併用することもできる。
【0051】
重合性単量体と顔料担持用有機ポリマーとを次のような組み合わせとすると、粉材と液材とを混合した際に顔料の分散性がより良くなる。重合性単量体が、メチル(メタ)アクリレートを主成分とするものであって、顔料担持用有機ポリマーがポリエチル(メタ)アクリレートである、顔料担持用有機ポリマーの溶解率が高くなり、顔料がより均一に分散する。ここで、メチル(メタ)アクリレートを主成分とする重合性単量体とは、重合性単量体の少なくとも50モル%を占めてメチル(メタ)アクリレートが含有されるものであり、さらには重合性単量体の少なくとも80モル%を占めてメチル(メタ)アクリレートが含有されているのが好ましく、重合性単量体の実質的全量がメチル(メタ)アクリレートであるのが最も好ましい。また、同様に、重合性単量体が、メチル(メタ)アクリレートを主成分とするものにおいて、顔料担持用有機ポリマーがメチル(メタ)アクリレートとエチル(メタ)アクリレートの共重合体であっても、該エチル(メタ)アクリレートのモル比の方が多い共重合体、より好適にはエチル(メタ)アクリレートのモル比が60%以上を占める共重合体、特に好適にはエチル(メタ)アクリレートのモル比が80%以上を占める共重合体である、顔料担持用有機ポリマーの溶解率がより高くなり、顔料がより均一に分散する。
【0052】
(6)その他
(6.1)可塑剤
可塑剤は、特に限定されず、通常、歯科用分野に使用されるものが使用できる。代表的なものを例示すれば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブヂルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジイソノニルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等のフタル酸エステル、ジブチルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート、ジブチルセバチート、ジオクチルセバチート、ジブチルマレエート、ジブチルフマレート等のフタル酸以外の二塩基酸エステル、グリセロールトリアセテート等のグリセリンエステル、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル等である。上記エステル類の内、脂肪族エステルは、炭素原子数1〜12、さらには1〜8のものが好ましい。特に、上記記載の可塑剤の内、フタル酸エステルが好適である。これらの可塑剤は、必要に応じて1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0053】
(6.2)紫外線吸収剤・重合禁止剤
本発明の実施の形態に係る歯科用修復材には、さらに紫外線に対する変色防止のため、公知の紫外線吸収剤を添加してもよい。また、保存安定性を向上させるために、公知の重合禁止剤を配合することも好ましい。
【実施例】
【0054】
次に、本発明の実施例について、比較例と比較しながら説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0055】
下記の各実施例および各比較例において使用した各種の材料、顔料を担持する有機ポリマーの重合性単量体への溶解性および顔料分散性の各評価方法は、以下の通りである。
【0056】
1.粉材
1.1 有機ポリマー
有機ポリマーには、エチル(メタ)アクリレート(EMA)とメチル(メタ)アクリレート(MMA)の共重合体(EMA−MMA共重合体という。)、ポリエチル(メタ)アクリレート(PEMA)およびポリブチル(メタ)アクリレート(PBMA)を使用した。EMA−MMA共重合体、PEMAおよびPBMAには、以下に示す合計9種類のものを用いた。
【0057】
(1)ME10−110L
質量平均分子量:250,000、平均粒子径:110μm、EMA/MMA比:10/90のEMA−MMA共重合体
(2)ME50−80
質量平均分子量:500,000、平均粒子径:80μm、EMA/MMA比:50/50のEMA−MMA共重合体
(3)ME50−30
質量平均分子量:500,000、平均粒子径:30μm、EMA/MMA比:50/50のEMA−MMA共重合体
(4)ME60−45L
質量平均分子量:250,000、平均粒子径:45μm、EMA/MMA比:60/40のEMA−MMA共重合体
(5)ME80−45LL
質量平均分子量:125,000、平均粒子径:45μm、EMA/MMA比:80/20のEMA−MMA共重合体
(6)E70
質量平均分子量:500,000、平均粒子径:70μmのPEMA
(7)E35
質量平均分子量:500,000、平均粒子径:35μmのPEMA
(8)E10
質量平均分子量:500,000、平均粒子径:10μmのPEMA
(9)B30
質量平均分子量:500,000、平均粒子径:30μmのPBMA
【0058】
1.2 顔料マスター
顔料マスターとしては、以下の白顔料マスター、赤顔料マスター、黄色顔料マスターおよび青顔料マスターの合計4種類を作製し、粉材の構成材料の一部に使用した。
(1)白顔料マスター
上記の有機ポリマーの一種類(当該有機ポリマーは、これに顔料を担持するため、「顔料担持用有機ポリマー」と称する。)45gと、顔料であるチタニア(石原産業株式会社製、商品名:CR−50)5gと、無機フィラーであるシリカ(トクヤマ社製、商品名:DM−30)0.15gとを、直径約10mmのアルミナボール500gと共に、内容積400mlのアルミナポットに入れ、乾式にて6時間混合して、白顔料マスターを作製した。
(2)赤顔料マスター
顔料担持用有機ポリマー49.5gと、顔料であるクロモフタールレッドBRN(長瀬産業株式会社製)0.5gと、無機フィラーであるシリカ(トクヤマ社製、商品名:DM−30)0.15gとを、直径約10mmのアルミナボール500gと共に、内容積400mlのアルミナポットに入れ、乾式にて6時間混合して、赤顔料マスターを作製した。
(3)黄顔料マスター
顔料担持用有機ポリマー49.5gと、顔料であるクロモフタールイエローGR(長瀬産業株式会社製)0.5gと、無機フィラーであるシリカ(トクヤマ社製、商品名:DM−30)0.15gとを、直径約10mmのアルミナボール500gと共に、内容積400mlのアルミナポットに入れ、乾式にて6時間混合して、黄顔料マスターを作製した。
(4)青顔料マスター
顔料担持用有機ポリマー49.5gと、顔料であるクロモフタールブルーA3R(長瀬産業株式会社製)0.5gと、無機フィラーであるシリカ(トクヤマ社製、商品名:DM−30)0.15gとを、直径約10mmのアルミナボール500gと共に、内容積400mlのアルミナポットに入れ、乾式にて6時間混合して、青顔料マスターを作製した。
【0059】
1.3 無機フィラー
無機フィラーには、シリカ(トクヤマ社製、商品名:DM−30)を用いた。
【0060】
1.4 重合開始剤
粉材側に入れる重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、1−シクロヘキシル−5−メチルピリミジントリオン、アセチルアセトン銅を用いた。
【0061】
1.5 粉材の製造方法
複数種の有機ポリマー(合計100g)と、顔料マスター(白顔料マスター5gの場合と、4種の顔料マスター(4種の合計で12g)の場合がある)と、シリカ(0.1gまたは0.3g)と、1種または2種の重合開始剤(合計約2g)とを揺動ミキサーにて混合して、粉材を作製した。
【0062】
2.液材
2.1 重合性単量体
メチル(メタ)アクリレート(MMA)、アセトアセトキシエチルメタクリレート、およびプロピオンオキシエチルメタクリレートとトリエチレングリコールジメタクリレートの組み合わせの3種類を用いた。
【0063】
2.2 重合開始剤
液材側に入れる重合開始剤としては、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエタノール−p−トルイジン、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライドを用いた。
【0064】
2.3 液材の製造方法
1種または2種の重合性単量体(合計100g)と、重合開始剤(0.3gまたは1.5g)とを容器に入れて、スターラー攪拌機を用いて1時間攪拌して、液材を作製した。
【0065】
3.顔料担持用有機ポリマーの溶解性評価方法
φ27mm×55mmの内容積20mlのガラス製サンプル管に、重合性単量体10gと顔料担持用有機ポリマー200mgとを入れて、約23℃の液温下、回転速度300rpmにて3分間攪拌した。続いて、攪拌後の混合溶液から1gを取り出して、回転速度15000rpmにて10分間遠心分離を行った。遠心分離後の沈殿物の質量を測定して、重合性単量体に溶解した顔料担持用有機ポリマーの割合を求めた。具体的には、(200mg−沈殿物)×100/200mgの式にて溶解率(重量%)を求めた。
【0066】
4.顔料分散性評価方法
筆積み法により、液材を含んだ筆先を粉材に接触させてレジン泥を作製し、当該レジン泥をポリプロピレンシートで圧接した。筆積み法の実施による液材と粉材の各減量分から、レジン泥を構成する液材と粉材との重量比(粉液比)を求めた。ポリプロピレンシートで圧接したレジンが硬化した後、そのレジンの硬化体の厚みをマイクロメータにて測定した。各レジンの硬化体の厚みは、0.3mmとなるようにした。レジンの硬化体における顔料の分散性は、色差計(有限会社東京電色製、商品名:TC−1800MKII)を用いて4点測定を行い、各点間の色のバラツキの程度(標準偏差の値)から評価した。白色の顔料のみを用いた場合には、Yb/Yw(後述する)の標準偏差の値が0.080以下を合格とした。また、白色の顔料とそれ以外の色の顔料とを混合して用いた場合には、ΔE*(後述する)の標準偏差の値が2以下を合格とした。
【0067】
次に、各実施例の評価結果について比較例と比較しながら説明する。
【0068】
1.実施例1〜5、比較例1,2
表1に、実施例1〜5および比較例1,2における歯科用修復材の粉材および液材を構成する各構成材を示す。表2に、実施例1〜5および比較例1,2において使用した顔料担持用有機ポリマーの特性および各顔料担持用有機ポリマーを用いたレジン硬化体の顔料分散特性を示す。
【0069】
表2中のEMA/MMAは、ポリマーを構成するEMAとMMAとのモル比を示す。また、表2中のMwおよびDav.は、それぞれ、質量平均分子量および平均粒子径を示す。表2中のYbは、国際照明委員会(CIE)の規格であるCIECAM97sというカラーアピアランスモデルにおいて、背景の相対輝度を決定するパラメータである。また、表2中のYwは、同モデルにおいて、順応白色の刺激値を決定するパラメータの一つである。したがって、Yb/Ywは、白色の色調を示すパラメータとなる。表2中の平均値および標準偏差は、それぞれ、4つの測定点におけるYb/Ywの平均値およびそのばらつき度合いを示す。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
表1に示すように、実施例1〜5、比較例1,2において、粉材における顔料を担持していない有機ポリマーには、ME10−110LとME50−80とME60−45Lの混合物を用いた。表1中の顔料担持用有機ポリマーには、表2に示すように、E10(実施例1)、E35(実施例2)、ME80−45LL(実施例3)、ME60−45L(実施例4)、ME50−30(実施例5)、ME50−80(比較例1)およびME10−110L(比較例2)を用いた。液材の主成分である重合性単量体には、MMAを用いた。その他の構成材料は、表1に示すとおりである。
【0073】
実施例1〜5の各溶解率と各標準偏差の関係から明らかなように、各顔料担持用有機ポリマーの溶解率が43.2重量%以上の場合に、標準偏差が0.042以下となり、色ムラの極めて低いレジン硬化体が得られることがわかった。一方、比較例1および比較例2の場合には、顔料担持用有機ポリマーとして、液材を構成するMMAに溶解しにくいME50−80およびME10−110Lをそれぞれ使用したため、標準偏差が0.098以上となり、色ムラのあるレジン硬化体しか得られなかった。ここで、ME50−30とME50−80は、平均粒子径のみが異なるEMA/MMA=50/50のEMA−MMA共重合体である。同じ種類の共重合体でありながら、ME50−30を用いたレジン硬化体はME50−80を用いたものよりも色ムラの著しく低い結果が得られたことから、平均粒子径の小さい方がMMAへの溶解性が高く、色ムラが低くなったものと考えられる。
【0074】
また、表2において、実施例1から比較例2へとEMAの比率が低くなるにしたがって、溶解率(重量%)も実施例1から比較例2へと低くなる傾向が認められた。この結果から、重合性単量体にMMAを使用する場合には、EMAの比率が大きい顔料担持用有機ポリマーを用いた方が、溶解性が高まり、顔料の分散性も良くなると考えられる。
【0075】
2.実施例6〜10、比較例3,4
表3に、実施例6〜10および比較例3,4における歯科用修復材の粉材および液材を構成する各構成材を示す。表4に、実施例6〜10および比較例3,4において使用した顔料担持用有機ポリマーの特性および各顔料担持用有機ポリマーを用いたレジン硬化体の顔料分散特性を示す。
【0076】
表4中のL*、a*およびb*は、それぞれ、CIEが定めた均等色空間の一つであるL*a*b*表色系(日本では、JIS Z8729で規格されている。)の各パラメータである。L*は明度指数である。a*およびb*は、それぞれ色相および彩度を決めるクロマティクネス指数(色度座標)である。表4中のΔE*および標準偏差は、それぞれ、色差および当該色差のばらつき度合いを示す。
【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
表3に示すように、実施例6〜10、比較例3,4において、粉材における顔料を担持していない有機ポリマーには、ME10−110LとME50−80とME60−45Lの混合物を用いた。また、顔料マスターには、表3に示す白顔料マスター、赤顔料マスター、黄顔料マスターおよび青顔料マスターの4種類を混ぜて用いた。また、表3中の各顔料マスター中の顔料担持用有機ポリマーには、表4に示すように、E10(実施例6)、E35(実施例7)、ME80−45LL(実施例8)、ME60−45L(実施例9)、ME50−30(実施例10)、ME50−80(比較例3)およびME10−110L(比較例4)を用いた。液材の主成分である重合性単量体には、MMAを用いた。その他の構成材料は、表3に示すとおりである。
【0080】
実施例6〜10の各溶解率と各標準偏差の関係から明らかなように、各顔料担持用有機ポリマーの溶解率が43.2重量%以上の場合に、標準偏差が1.063以下となり、色ムラの低いレジン硬化体が得られることがわかった。一方、比較例3および比較例4の場合には、顔料担持用有機ポリマーとして、液材を構成するMMAに溶解しにくいME50−80およびME10−110Lをそれぞれ使用したため、標準偏差が2.665以上となり、色ムラのあるレジン硬化体しか得られなかった。ここで、ME50−30およびME50−80が同じ種類の共重合体でありながら、ME50−30を用いたレジン硬化体はME50−80を用いたものよりも色ムラの著しく低い結果が得られたことから、平均粒子径の小さい方がMMAへの溶解性が高くなるために、色ムラが低くなったものと考えられる。
【0081】
また、表4において、実施例6から比較例4へとEMAの比率が低くなるにしたがって、溶解率(重量%)も実施例6から比較例4へと低くなる傾向が認められた。この結果から、重合性単量体にMMAを使用する場合には、EMAの比率が大きい顔料担持用有機ポリマーを用いた方が、溶解性が高まり、顔料の分散性も良くなると考えられる。
【0082】
3.実施例11,12、比較例5,6
表5に、実施例11,12および比較例5,6における歯科用修復材の粉材および液材を構成する各構成材を示す。表6に、実施例11,12および比較例5,6において使用した顔料担持用有機ポリマーの特性および各顔料担持用有機ポリマーを用いたレジン硬化体の顔料分散特性を示す。表6中の実施例11において、BMA=100は、顔料担持用有機ポリマーがブチル(メタ)アクリレート(BMA)のみからなる有機ポリマーであることを示す。
【0083】
【表5】

【0084】
【表6】

【0085】
表5に示すように、実施例11,12および比較例5,6において、粉材における顔料を担持していない有機ポリマーには、E70とE35の混合物を用いた。表5中の顔料担持用有機ポリマーには、表6に示すように、B30(実施例11)、E10(実施例12)、E35(比較例5)およびME80−45LL(比較例6)を用いた。液材を構成する重合性単量体には、アセトアセトキシエチルメタクリレート(AAEM)を用いた。その他の構成材料は、表5に示すとおりである。
【0086】
実施例11および実施例12の各溶解率と各標準偏差の関係から明らかなように、各顔料担持用有機ポリマーの溶解率が63.2重量%以上の場合に、標準偏差が0.021以下となり、色ムラの極めて低いレジン硬化体が得られることがわかった。一方、比較例5および比較例6の場合には、顔料担持用有機ポリマーとして、液材の主成分であるAAEMに溶解しにくいE35およびME80−45LLをそれぞれ使用したため、標準偏差が0.083以上となり、色ムラのあるレジン硬化体しか得られなかった。ここで、E10とE35は、平均粒子径のみが異なるPEMAである。同じ種類の有機ポリマーでありながら、E10を用いたレジン硬化体はE35を用いたものよりも色ムラの著しく低い結果が得られたことから、平均粒子径の小さい方がAAEMへの溶解性が高くなるために、色ムラが低くなったものと考えられる。
【0087】
4.実施例13〜15、比較例7
表7に、実施例13〜15および比較例7における歯科用修復材の粉材および液材の各構成材を示す。表8に、実施例13〜15および比較例7において使用した顔料担持用有機ポリマーの特性および各顔料担持用有機ポリマーを用いたレジン硬化体の顔料分散特性を示す。
【0088】
【表7】

【0089】
【表8】

【0090】
表7に示すように、実施例13〜15および比較例7において、粉材における顔料を担持していない有機ポリマーには、E70とE35の混合物を用いた。表7中の顔料担持用有機ポリマーには、表8に示すように、B30(実施例13)、E10(実施例14)、E35(実施例15)およびME80−45LL(比較例7)を用いた。液材の主成分である重合性単量体には、プロピオンオキシエチルメタクリレートとトリエチレングリコールジメタクリレートとの混合物を用いた。その他の構成材料は、表7に示すとおりである。
【0091】
実施例13〜15の各溶解率と各標準偏差の関係から明らかなように、各顔料担持用有機ポリマーの溶解率が62.1重量%以上の場合に、標準偏差が0.055以下となり、色ムラの低いレジン硬化体が得られることがわかった。一方、比較例7の場合には、顔料担持用有機ポリマーとして、液材の主成分であるプロピオンオキシエチルメタクリレートとトリエチレングリコールジメタクリレートとの混合単量体に溶解しにくいME80−45LLを使用したため、標準偏差が0.095となり、色ムラのあるレジン硬化体しか得られなかった。ここで、E10とE35は、平均粒子径のみが異なるPEMAである。同じ種類の有機ポリマーでありながら、E10を用いたレジン硬化体はE35を用いたものよりも色ムラの比較的低い結果が得られたことから、平均粒子径の小さい方がプロピオンオキシエチルメタクリレートとトリエチレングリコールジメタクリレートとの混合単量体への溶解性が高くなるために、色ムラが低くなったものと考えられる。
【0092】
上述の各実施例から明らかなように、顔料担持用有機ポリマーが同一であっても、液材を構成する重合性単量体が変わると溶解性も変わり、顔料の分散性も変化した。顔料担持用有機ポリマーの重合性単量体への溶解率が40重量%以上の場合には、レジン硬化体における色ムラが低く、良好な歯科用修復材となることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明に係る歯科用修復材は、義歯の補修、暫間歯等に使用される歯科用常温重合レジン、動揺歯の暫間固定等に使用される歯科用セメント、入れ歯の補修材であるリベース材、あるいは治療と治療の間において暫定的に歯に詰める仮封材等に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性単量体を含む(A)液材と、
上記(A)液材に溶解する(b)有機ポリマーを含む(B)粉材と、
上記(A)液材若しくは上記(B)粉材の内少なくともいずれか一方に含まれる重合開始剤(c)と、
を含む歯科用修復材において、
上記(b)有機ポリマーの少なくとも一部を、
顔料を担持し、
上記重合性単量体100質量部に対して2質量部を添加して回転速度300rpmにて23℃の液温下で3分間攪拌後、上記重合性単量体への溶解率が40重量%以上となる(b1)顔料担持用有機ポリマーとすることを特徴とする歯科用修復材。
【請求項2】
前記重合性単量体がメチル(メタ)アクリレートを主成分とするものであり、
前記(b1)顔料担持用有機ポリマーが、ポリエチル(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項1に記載の歯科用修復材。
【請求項3】
前記重合性単量体がメチル(メタ)アクリレートを主成分とするものであり、
前記(b1)顔料担持用有機ポリマーが、メチル(メタ)アクリレートとエチル(メタ)アクリレートの共重合体であって、かつエチル(メタ)アクリレートのモル比の方が多い共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の歯科用修復材。