説明

歯科用根管充填材料

(i)23℃で100Pas未満の粘度を有するアミノ末端プレポリマー、(ii)該アミノ末端プレポリマー(i)と重付加可能な化合物、(iii)少なくとも3mm/mmAlの最小限の放射能不透過度をもたらす40〜85重量%の充填剤からなる、重合開始剤の非存在下で硬化可能な歯科用根管封止組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合触媒の非存在下で付加重合により硬化可能な歯科用根管封止組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用根管封止組成物は、多くの場合、ニードルの管(canal)を通して根管内に適用される。ニードル管の寸法が小さいため、組成物は低い粘度を有することが必要とされる。あるいは、歯科用根管封止組成物は、レンチュロス(lentulos)又はガッタパーチャチップを用いるにより適用される。したがって、粘度は、薄層が形成され得るように低くなければならない。適用技術とは関係なく、材料の粘度は、組成物が根管の歯質管内に侵入し得るように充分低くなければならない。
【0003】
歯科用根管封止組成物の適用は、X線処理により確認される。放射能不透過性を条件とするため、この組成物は、相当な量の放射能不透過性充填剤を含有することが必要とされる。
【0004】
歯科用根管封止組成物は、適用例において二成分系ペースト/ペースト系を開示している特許文献1により知られている。この二成分系ペースト/ペースト系は、等モル量の低分子量ジアミンと低分子量ジアクリレートを、任意で組成物の粘度を調整するための反応性希釈剤の存在下で付加重合させることに基づいている。
【0005】
最近、第一級モノアミン及び/又は二第二級(disecondary)ジアミン並びにジエポキシド(特許文献2)、ジアクリレート(特許文献1)及びビスアクリルアミド(特許文献3)から構成される根管封止材料が開示された。これらの材料は、いくつかの有益な特性、例えば、低速付加重合による相対的に長い作用期間、高放射能不透過性、低容積収縮、低溶解性及び気密シール能などを示す(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3及び非特許文献4)。
【0006】
しかしながら、歯科用根管封止組成物中における低分子量アミンの存在は、深刻な欠点をもたらす。かかるアミンの根管からの漏出により、細胞に傷害性のある効果が高頻度で観察される。さらに、特許文献3の硬化組成物は相当な溶解性を示し、それにより、細胞の傷害性の問題が悪化し、適用にさらなる問題が生じる。最後に、低分子量アミンの高い蒸気圧及びプラスチックパッケージへの高い浸透率により、特許文献3の組成物は、産業上での利用には問題がある。(非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7及び非特許文献8)。
【0007】
特許文献3で具体的に開示されるポリアミノエステルは、粘性が高く、またその粘度を低下させるために、相当な量の反応性希釈剤の使用が必要とされる。しかしながら、反応性希釈剤は、付加重合によって重合できず、重合開始剤の存在が必要とされる。
【0008】
特許文献4には、2段階反応によって得ることのできる重合性マクロモノマーが開示されており、第1段階ではジエポキシドを二第二級ジアミンと反応させて中間体プレポリマーを得て、これを第2段階において2,3−エポキシプロピル−(メタ)アクリレートと反応させるというものである。対応する参照例5によれば、中間体プレポリマーは単離されない。したがって、特許文献4は、中間体プレポリマーを開示できていない。さらに、特許文献4は、23℃で100Pas未満の粘度を有するアミノ末端プレポリマーを提供するのに適した中間体プレポリマーを開示していない。
【特許文献1】国際公開第02/13767号
【特許文献2】米国特許第5,624,976号
【特許文献3】国際公開第02/13768号
【特許文献4】米国出願公開第2002/0143108号
【非特許文献1】Int. Endod. J. 2003 Jan; 36(1):54-63
【非特許文献2】Int. Endod. J. 1999 Sep; 32(5):415-8
【非特許文献3】Aust. Endod. J. 2001 Apr; 27(1):33-5
【非特許文献4】J. Endod. 1999 Mar; 25(3):172-7
【非特許文献5】Endod. Dent. Traumatol. 1998 Aug; 14(4):182-5
【非特許文献6】Endod. Dent. Traumatol. 2000 Dec; 16(6):287-90
【非特許文献7】J. Endod. 2000 Aug; 26(8):462-5
【非特許文献8】J. Endod. 2000 Apr; 26(4):228-9
【非特許文献9】Acta Polym. 37(1986) 272
【非特許文献10】Angew. Makromol. Chem. 147(1987)71
【非特許文献11】Acta Polym. 45(1994) 73
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、低粘度、低細胞傷害性及び低溶解度を有する一方、優れた機械的特性、例えば、低収縮率及び柔軟性を有し、及び製造及び適用時に取り扱いの問題を生じない歯科用根管封止組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題は、請求項に従って解決される。本発明は、重合開始剤の非存在下で硬化可能な歯科用根管封止組成物を提供するものであり、この組成物が、
(i)23℃で100Pas未満の粘度を有するアミノ末端プレポリマーであって、
(a)1モルの下記式(I)の化合物
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、
Zは、
n価のC2〜42炭化水素基を表し、この基は1〜6個の酸素原子を含有していてもよく、1〜6個のC1〜4アルキル基で置換されていてもよく、
Xは、
単結合又は
1〜6アルキル基で置換された酸素原子若しくは窒素原子
を表し、
Lは、
単結合又は
任意で置換されたC1〜16アルキレン基、
任意で置換された、C6〜14アリーレン基、
任意で置換されたC7〜16アルキレンアリーレン基、
任意で置換されたC7〜16アリーレンアルキレン基を表し、
この基は、1〜6個のC1〜4アルキル基で置換されていてもよく、及び
nは2〜6の整数を表す)と、
(b)少なくともnモルの1種類以上の化合物であって、
(b1)下記式(II)
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、
Aは、
二価の飽和脂肪族C2〜16炭化水素基又は二価の飽和脂環式C3〜6炭化水素基を表し、この基は、1〜6個の酸素原子を含有していてもよく、1〜6個のC1〜4アルキル基で置換されていてもよく、
及びRは、同じであるか又は異なっていており、
水素原子、C1〜6アルキル又はC3〜14シクロアルキル基を表し、この基は、C1〜4アルキル基、C1〜4アルコキシ基、フェニル基及びヒドロキシ基から選択される1つ以上の基で置換されていてもよい)、
又は
(b2)式(III)
R’NH (III)
(式中、R’は、
置換若しくは非置換のC〜C18アルキル基、
置換若しくは非置換のC〜C18シクロアルキル基、
置換若しくは非置換のC〜C30アラルキル基を表し、この基は、C1〜4アルキル基、C1〜4アルコキシ基、フェニル基及びヒドロキシ基から選択される1つ以上の基で置換されていてもよい)
の、任意でさらなるジアミン化合物又はポリアミン化合物と組合される、少なくともnモルの1種類以上の化合物と、を反応させることにより得ることができるアミノ末端プレポリマー、
(ii)上記アミノ末端プレポリマー(i)と重付加することができる化合物、
(iii)少なくとも3mm/mmAlの最小限の放射能不透過度をもたらす40〜85重量%の充填剤
からなる。
【0015】
本発明はまた、歯科用組成物、好ましくは歯科用根管封止組成物における、23℃で100Pas未満の粘度を有するアミノ末端プレポリマーの使用を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
式(I)において、Zは、任意で1〜6個の酸素原子を含有するn価のC2〜42炭化水素基であり、これは、1〜6個のC1〜4アルキル基で置換されていてもよい。好ましくは、Zは、n価のC2〜22炭化水素基である。Zは、二価(n=2)、三価(n=3)、四価(n=4)、五価(n=5)、又は六価(n=6)であり得る。好ましいZは、二価又は三価、最も好ましくは二価である。上記炭化水素基は、1〜6個のC1〜4アルキル基で置換されていてもよい。アルキル基の具体例は、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル又はtert−ブチルである。上記炭化水素基は、1〜6個の酸素原子を上記炭化水素基内に、脂肪族若しくは芳香族エーテル結合、ケト基、カルボン酸基、ヒドロキシル基又はエステル基の形態で含有していてもよい。具体的には、Zは、二価の置換若しくは非置換のC〜C18アルキレン基、置換若しくは非置換のC6〜14アリーレン基、置換若しくは非置換のC〜C18シクロアルキレン基、置換若しくは非置換のC〜C30アリーレンアルキレンアリーレン基であってもよい。好ましくは、Zは、2〜4個の酸素原子を有していてもよく、1〜6個のC1〜4アルキル基で置換されていてもよい飽和脂肪族C2〜18炭化水素鎖を表すか、又はZは、1〜6個のC1〜4アルキル基で置換されていてもよい置換若しくは非置換のC〜C30アリーレンアルキレンアリーレン基であってもよい。特に、Zは、アルキレン基又は2,2−ビス(フェニレン)プロパン基−CC(CH−であってもよい。
【0017】
式(I)において、Xは、単結合又はC1〜6アルキル基で置換された酸素原子若しくは窒素原子を表す。好ましくは、Xは酸素原子である。
【0018】
式(I)において、Lは、単結合、又は任意で置換されたC1〜16アルキレン基、任意で置換されたC6〜14アリーレン基、任意で置換されたC7〜16アルキレンアリーレン基、任意で置換されたC7〜16アリーレンアルキレン基であってもよく、この基は、1〜6個のC1〜4アルキル基で置換されていてもよい。C1〜16アルキレン基の例は、メチレン、エチレン、プロピレン又はブチレンである。C6〜14アリーレン基の例は、p−フェニレン又はm−フェニレンである。C7〜16アルキレンアリーレン基の例は、−(CH−(式中、xは1〜6の整数である)である。C7〜16アリーレンアルキレン基の例は、−C(CH−(式中、xは1〜6の整数である)である。好ましくは、Lは、任意で置換されたC1〜16アルキレン基、特に、メチレン基である。
【0019】
好ましい実施形態では、Xが酸素原子であり、及び/又はLが、アルキレン基、好ましくはメチレン基であり、及び/又はX−Lが−OCH−である。
【0020】
式(II)において、Aは、二価の飽和脂肪族C2〜16炭化水素基又は二価の飽和脂環式C3〜6炭化水素基であり、これらの基は、2〜16個の炭素原子、好ましくは4〜10個の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝鎖アルキレン基、又は3〜6個の炭素原子、好ましくは4〜6個の炭素原子を有するシクロアルキレン基に基づいていてもよい。上記炭化水素基は、1つ以上のC1〜4アルキル基で置換されていてもよい。アルキル基の具体例は、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル又はtert−ブチルである。上記炭化水素基は、1〜6個の酸素原子を、アミノ基と連結された炭素鎖内に、又は側鎖内に含有していてもよい。好ましくは、二価の飽和脂肪族C2〜16炭化水素基又は二価の飽和脂環式C3〜6炭化水素基は、エーテル結合の存在及びかさ高い基の非存在により、高度に柔軟である。好ましい実施形態では、Aは、エーテル結合を含有していてもよい直鎖アルキレン基に基づく二価の基である。好ましい実施形態では、Aは−(CHO(CHO(CH−であってもよい。
【0021】
及びRは、同じであっても異なっていてもよく、水素原子、C1〜6アルキル基又はC3〜14シクロアルキル基を表す。C1〜6アルキル基としては、1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜4個の炭素原子を有する直鎖状又は分鎖状アルキル基が挙げられ、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル及びn−ヘキシルが挙げられる。C3〜14シクロアルキル基としては、3〜14個の炭素原子を有するものが挙げられ、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル及びシクロヘキシルが挙げられる。C1〜6アルキル基及びC3〜14シクロアルキル基は、C1〜4アルキル基、C1〜4アルコキシ基、フェニル基及びヒドロキシ基から選択される1つ以上の基で任意に置換されていてもよい。C1〜4アルキル基としては、1〜4個の炭素原子を有する直鎖状又は分鎖状アルキル基が挙げられ、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルが挙げられる。C1〜4アルコキシ基としては、1〜4個の炭素原子を有する直鎖状又は分鎖状アルコキシ基が挙げられ、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ及びtert−ブトキシが挙げられる。R及びRは水素が好ましい。
【0022】
プレポリマーの調製において、式(II)の化合物は、式RNHのアミン化合物(式中、Rは、C1〜6アルキル又はC3〜14シクロアルキル基を表し、C1〜4アルキル基、C1〜4アルコキシ基、フェニル基及びヒドロキシ基から選択される1つ以上の基で置換されていてもよい)、又はさらなるジアミン化合物若しくはポリアミン化合物と組合せて使用してもよい。式RNHのアミン及び/又はさらなるジアミン化合物若しくはポリアミン化合物は、プレポリマーの調製のための反応に使用される式(II)の化合物の最大n/1.5モル、好ましくはn/20〜n/2モルの代わりに使用することができる(ここで、nは上記で定義されたとおりである)。式(II)のジアミンとの組合せで使用される成分の量は、プレポリマーの粘度が、100Pas、好ましくは80Pas、より好ましくは20Pasを超えないように選択される。
【0023】
好ましいアミノ末端プレポリマーは、下記式:
【0024】
【化3】

【0025】
(式中、
Rは、
請求項1に定義されるZ、好ましくは、
二価の置換若しくは非置換のC〜C18アルキレン基、
二価の置換若しくは非置換のC6〜14アリーレン基、
二価の置換若しくは非置換のC〜C18シクロアルキレン基、
二価の置換若しくは非置換のC〜C30アリーレンアルキレンアリーレン基を表し、
は、
水素又は
置換若しくは非置換のC〜C18アルキル基、
置換若しくは非置換のC〜C18シクロアルキル基、
置換若しくは非置換のC〜C30アラルキル基を表し、
は、
二価の置換若しくは非置換のC〜C18アルキレン基、
二価の置換若しくは非置換のC〜C18シクロアルキレン基、
二価の置換若しくは非置換のC〜C30アラルキレン基を表し、及び
nは整数である)
により特徴づけられる。
【0026】
最も好ましくは、アミノ末端プレポリマーは、下記式:
【0027】
【化4】

【0028】
(式中、R及びRは上記で定義されたとおりである)
のうちの1つのプレポリマーである。
【0029】
アミノ末端プレポリマーを根管充填材料の一成分として適用することは、低分子量アミンの含量が大きく低減されるため有益である。したがって、パッケージ材料との適合性及び生体適合性が改善される。さらに、重合収縮率が低下する。
【0030】
第二級アミン末端エポキシド−アミンプレポリマーの合成は、非特許文献9、非特許文献10及び非特許文献11に記載されている。これらのプレポリマーは、さらなる付加重合又は根管封止剤の組成物のいずれにも適用されない。
【0031】
アミノ末端プレポリマー(i)と重付加することができる化合物は、二官能性若しくは多官能性アクリレート、二官能性若しくは多官能性エポキシド、二官能性若しくは多官能性イソシアネート、二官能性若しくは多官能性イソチオシアネート、二官能性若しくは多官能性アクリルアミド、又は二官能性若しくは多官能性マレイミドから選択される。
【0032】
歯科用根管封止材料は、アミノ末端プレポリマーと、二官能性若しくは多官能性のエポキシド、アクリレート、アクリルアミド、マレインイミド、イソシアネート、チオイソシアネートとを、これらの化合物を均一に混合した直後に付加重合することにより重合させる。
【0033】
放射能不透過性充填剤の適用により、少なくとも3mm/mmAl、好ましくは、少なくとも5〜7mm/mmAl、最も好ましくは、少なくとも7mm/mmAlの放射能不透過度がもたらされる。充填剤としては、以下の化合物:La、ZrO、BiPO、CaWO、BaWO、SrF、及びBiなどの無機系充填剤、ポリマー粒などの有機系充填剤、又は有機系充填剤及び/又は無機系充填剤の組合せが好適である。
【0034】
本発明の歯科用根管封止組成物は、少なくとも3mm/mmAlという硬化された組成物の最小限の放射能不透過度をもたらす充填剤40〜85重量%を含有する。この充填剤には、La、ZrO、BiPO、CaWO、BaWO、SrF、及びBiが挙げられる。本発明の硬化された組成物の放射能不透過度は、少なくとも3mm/mmAl、好ましくは、少なくとも5〜7mm/mmAl、最も好ましくは、少なくとも7mm/mmAlである。
【0035】
歯科用根管充填材料は、強固な封止のための封止剤とコーンとの適合性を保証するため、封止用に適用されるものと同じ材料の予備製作根管コーンを形成するのに使用することができる。
【0036】
好ましくは、本発明の歯科用根管封止組成物は、本発明のプレポリマーの粘度より低い粘度を有する希釈剤、特に反応性の希釈剤を含有しない。さらに、歯科用根管封止組成物は、重合開始剤を含有する必要がない。好ましい実施形態では、歯科用根管封止組成物は、成分(i)〜(iii)から本質的に成る。成分(i)〜(iii)から本質的に成る歯科用根管封止組成物は、歯科分野で一般的な添加剤、例えば、着色剤、抗生物質製剤及びイオン放出剤などを、上記組成物の25重量%を超えない、好ましくは10重量%を超えない合計量で含有していてもよい。
【0037】
本発明の歯科用根管封止組成物の好ましい実施形態は、40〜85重量%の充填剤及び15〜60重量%のアミノ末端プレポリマー並びに該アミノ末端プレポリマーと重付加することができる化合物を含有する。本発明に使用されるアミノ末端プレポリマーは、通常、オリゴマーの混合物である。したがって、アミノ末端プレポリマー及びこのアミノ末端プレポリマーと重付加することができる化合物の量は、オリゴマーの混合物を基準に計算される。
【0038】
本発明の歯科用根管封止組成物は、好ましくは、使用前に混合する二成分系組成物である。二成分系組成物は、好ましくは、粉末/液体系、粉末/ペースト系、ペースト/ペースト系又は液体/ペースト系である。ペースト/ペースト系又は液体/ペースト系は、両成分がスタティックミキサーによって混合されるアプリケーターによって塗布することができる。
【0039】
本発明は、特定のジアミンを特定のジエポキシド化合物又はオリゴエポキシド化合物に添加すると、低い粘度を有すると同時に、低分子量アミンの存在に関連して浮上する問題が排除されたプレポリマーが生じるという認識に基づくものである。
【0040】
本発明の歯科用根管封止組成物に含有されるプレポリマーは、23℃で100Pas未満の粘度を有する。好ましくは、プレポリマーの粘度は、1〜80Pas、より好ましくは1〜20Pasの範囲である。粘度が高すぎると、組成物をニードルの管を介して適用するのが困難になる。粘度が低すぎると、組成物の取り扱いが困難になる。
【0041】
本発明の歯科用根管封止組成物は、重合開始剤の非存在下で硬化性である。硬化機構は、アミノ末端プレポリマー(□)とアミノ末端プレポリマー(i)と重付加することができる化合物との付加反応の付加反応に基づく。アミノ末端プレポリマー(i)と重付加することができる化合物は、好ましくは、二官能性若しくは多官能性アクリレート、二官能性若しくは多官能性エポキシド、二官能性若しくは多官能性イソシアネート、二官能性若しくは多官能性イソチオシアネート、二官能性若しくは多官能性アクリルアミド、又は二官能性若しくは多官能性マレイミドから成る群の要素である。二官能性若しくは多官能性アクリレート及び二官能性若しくは多官能性マレイミドが、第一級及び第二級アミノ基との反応における選択性に関して好ましい。
【0042】
上記特定のアミノ末端プレポリマーの使用により、低分子量アミンと関連する問題が排除されるか、又は少なくとも大きく低減される。さらに、上記特定のプレポリマーの使用により、低粘度を有する歯科用根管封止組成物がもたらされることは驚くべきことである。この目的のため、プレポリマー内で硬質部分の生成を回避することは必須である。
【0043】
本発明の組成物は、従来の手法を用いることにより根管に適用することができる。具体的には、本発明の組成物は、シリンジの管を介して根管内に適用することができる。さらに、本発明の組成物は、予備製作根管コーンの製造にも使用することができる。本発明の組成物で作製されたコーンを、それぞれの本発明の歯科用根管封止組成物と組合せて使用すると、コーンとこの封止組成物との適合性が保証され、それにより、強固に封止することができる。本発明による組成物を用いて得られた硬化生成物は、根管封止組成物としての適用に必須である柔軟性に関して、特に優れた機械的特性を有する。
【0044】
次に、アミノ末端プレポリマーの調製のための一般的な方法を開示する。プレポリマーは、
(a)1モルの下記式(I)の化合物と、
【0045】
【化5】

【0046】
(式中、
X及びZは、上記で定義されたとおりであり、
nは、2〜6の整数表す)及び
(b)少なくともnモルの1種類以上の化合物であって、
(b1)下記式(II)
【0047】
【化6】

【0048】
(式中、A、R及びRは、上記で定義されたとおりである)及び/又は
(b2)下記式(III)
R’NH (III)
(式中、R’は、上記で定義されたとおりである)
の、任意でさらなるジアミン化合物又はポリアミン化合物と組合される、少なくともnモルの1種類以上の化合物と、
を反応させることにより得ることができる。
【0049】
反応は、溶媒の非存在下で行なってもよく、好適な溶媒の存在下で行なってもよい。反応の温度は、好ましくは、10℃〜150℃の範囲、より好ましくは20℃〜80℃の範囲である。反応時間は、反応系の温度及び反応性に依存し、通常、数時間から数日の範囲である。反応の終了は、IRスペクトル等の従来の方法によって確認でき、すべてのアクリル由来の炭素−炭素二重結合が消失したとき反応の終点に達する。反応を溶媒の非存在下で行なう場合、化合物(I)及び(II)の反応によって得られるプレポリマーを、反応混合物の追加処理なしで、そのまま使用してもよい。プレポリマーの調製において、式(II)の化合物を、式RNH(式中、Rは上記で定義されたとおりである)のアミンと組合せて使用してもよい。式RNHのアミンは、プレポリマーの調製のための反応に使用されるn/10〜n/2モルの式(II)の化合物の代わりに使用することができる。
【0050】
ここで、本発明を、具体的な実施例に関してさらに説明する。動的粘度は、Bohlin CS50レオメーターを23℃で使用することにより測定した。
【実施例】
【0051】
[実施例1(JK 5−99−3)]
25.000g(233.30mmol)のベンジルアミン及び23.592g(116.65mmol)の1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルを、加熱下で均一に混合し、24時間50℃で重合させた。
【0052】
収率:48.592(100% of th.)
η23℃=2.377±0.041 Pa
2436;416.56
IR:3028、2863、2860(CH/CH)、1451、1105、738(CH/CH)cm−1
13C-NMR:137.2(4)、128.3(2)、128.1(3)、126.8(1)、75.2(8)、71.5(7)、70.5(9)、57.8(5)、55.5(6)、27.3(10)ppm
【0053】
【化7】

【0054】
JK 5−102−3:2.784g(6.683mmol)の調製済みプレポリマーを、3.422g(6.683mmol)のエトキシル化ビスフェノールAジアクリレート(SR−601、Sartomer)と均一に混合し、37℃で反応させた。
【0055】
[実施例2(JK 5−109−1)]
29.357g(198.08mmol)の2,2−(エチレンジオキシ)−ジエチレンアミン及び20.031g(99.04mmol)の1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルを均一に混合し、7日間60℃で重合させた。
【0056】
収率:49.388(100% of th.)
η23℃=12.900±0.420 Pa
2250;498.66
IR:3497(OH)、2924;2866(CH/CH)、1454、1340(CH/CH);1252(C−O−C);1099(CH−OH)cm−1
【0057】
JK 5−109−3:2.000g(4.011mmol)の調製済みプレポリマーを、2.053g(4.011mmol)のエトキシル化ビスフェノールAジアクリレート(SR−601、Sartomer)と均一に混合し、37℃で反応させた。30分後、37℃でゲルの形成が起こった。
【0058】
JK 5−109−4:2.000g(4.011mmol)の調製済みプレポリマーを、1.317g(4.011mmol)の3,(4),8,(9)−ビス(アクリルアミドメチル)トリシクロ−5.2.1.02,6デカン)と均一に混合し、37℃で反応させた。14時間後、37℃でゲルの形成が起こった。
【0059】
[実施例3]
10.000g(29.375mmol)のビス−2,2−[4−(2,3−エポキシプロポキシ)−フェニル]−プロパン及び6.296g(58.751mmol)のベンジルアミンを、加熱下で均一に混合し、20時間100℃で重合させた。
【0060】
収率:16.296(100% of th.)
3542;554.73Mn(vpo)620g/mol、Tg 11℃
【0061】
[実施例4]
10.000g(29.375mmol)のビス−2,2−[4−(2,3−エポキシプロポキシ)−フェニル]−プロパン及び4.722g(44.063mmol)のベンジルアミンを、加熱下で均一に混合し、20時間100℃で重合させた。
【0062】
収率:14.722(100% of th.)
6375;1002.30g/molMn(vpo) 1100g/mol、Tg 30℃
【0063】
[適用例1]
(プレポリマーペースト)
実施例2にしたがって、2,2−(エチレンジオキシ)−ジエチレンアミン及び1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルの付加反応により調製された4.870g(9.77mmol)のアミノ末端プレポリマー、9.325gのタングステン酸カルシウム、2.331gの酸化ジルコニウム及び0.541gのAerosil A 200を均一に混合した。
【0064】
(ジアクリレートペースト)
5.000g(9.77mmol)のエトキシル化ビスフェノールAジアクリレート(SR−601、Sartomer)、9.917gのタングステン酸カルシウム、2.479gの酸化ジルコニウム、0.050gのarosil A 200及び0.025gの酸化鉄(III)を均一に混合した。
【0065】
使用直前、0.977gのプレポリマーペーストと1.000gのジアクリレートペーストを均一に混合し、37℃で1時間重合させた。ISO 6876による放射能不透過度は11.9mm/mmAlであった。
【0066】
[適用例2]
(プレポリマーペースト)
実施例2にしたがって、2,2−(エチレンジオキシ)−ジエチレンアミン及び1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルの付加反応により調製された1.871g(3.75mmol)のアミノ末端プレポリマー、4.461gのタングステン酸カルシウム、1.115gの酸化ジルコニウム及び0.208gのAerosil A 200を均一に混合した。
【0067】
(ジアクリルアミドペースト)
1.000g(4.20mmol)のN,N’−ビスアクリルアミド−N,N’−ジエチル−1,3−プロパン、1.000g(3.31mmol)3.967gのタングステン酸カルシウム、0.992gの酸化ジルコニウム、0.010gのAerosil A 200及び0.005gの酸化鉄(III)を均一に混合した。
【0068】
使用直前、1.098gのプレポリマーペーストと1.000gのジアクルアミドペーストを均一に混合し、37℃で8時間重合させた。ISO 6876による放射能不透過度は12.7mm/mmAlであった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用根管封止組成物であって、
(i)23℃で100Pas未満の粘度を有するアミノ末端プレポリマーであって、
(a)1モルの下記式(I)の化合物
【化1】

(式中、
Zは、
n価のC2〜42炭化水素基を表し、該基は、1〜6個の酸素原子を含有していてもよく、1〜6個のC1〜4アルキル基で置換されていてもよく、
Xは、
単結合又は
1〜6アルキル基で置換された酸素原子若しくは窒素原子
を表し、
Lは、
単結合又は
任意で置換されたC1〜16アルキレン基、
任意で置換されたC6〜14アリーレン基、
任意で置換されたC7〜16アルキレンアリーレン基、
任意で置換されたC7〜16アリーレンアルキレン基を表し、
該基は、1〜6個のC1〜4アルキル基で置換されていてもよく、及び
nは2〜6の整数を表す)と、
(b)少なくともnモルの1種類以上の化合物であって、
(b1)下記式(II)
【化2】

(式中、
Aは、
二価の飽和脂肪族C2〜16炭化水素基又は二価の飽和脂環式C3〜6炭化水素基を表し、該基は、1〜6個の酸素原子を含有していてもよく、1〜6個のC1〜4アルキル基で置換されていてもよく、
及びRは同じか又は異なっており、水素原子、C1〜6アルキル基又はC3〜14シクロアルキル基を表し、該基は、C1〜4アルキル基、C1〜4アルコキシ基、フェニル基及びヒドロキシ基から選択される1つ以上の基で置換されていてもよい)、
又は
(b2)式(III)
R’NH (III)
(式中、R’は、
置換若しくは非置換のC〜C18アルキル基、
置換若しくは非置換のC〜C18シクロアルキル基、
置換若しくは非置換のC〜C30アラルキル基を表し、
該基は、C1〜4アルキル基、C1〜4アルコキシ基、フェニル基及びヒドロキシ基から選択される1つ以上の基で置換されていてもよい)
の、任意でさらなるジアミン化合物又はポリアミン化合物と組合される、少なくともnモルの1種類以上の化合物と、
を反応させることにより得ることができる、アミノ末端プレポリマー、
(ii)該アミノ末端プレポリマー(i)と重付加することができる化合物、及び
(iii)少なくとも3mm/mmAlの最小限の放射能不透過度をもたらす40〜85重量%の充填剤
からなる、歯科用根管封止組成物。
【請求項2】
前記Zが、2〜4個の酸素原子を有していてもよく、1〜6個のC1〜4アルキル基で置換されていてもよい飽和脂肪族C2〜18飽和炭化水素鎖、又は1〜6個のC1〜4アルキル基で置換されていてもよい置換若しくは非置換のC〜C30アリーレンアルキレンアリーレン基を表す、請求項1に記載の歯科用根管封止組成物。
【請求項3】
前記Xが酸素原子であり、及び/又は前記Lが、アルキレン基、好ましくはメチレン基であり、及び/又はX−Lが−OCH−である、請求項1又は2に記載の歯科用根管封止組成物。
【請求項4】
前記nが2である、請求項1〜3のいずれかに記載の歯科用根管封止組成物。
【請求項5】
前記アミノ末端プレポリマーが、
下記式
【化3】

(式中、
Rは、
請求項1に定義されるZ、好ましくは、
二価の置換若しくは非置換のC〜C18アルキレン基、
二価の置換若しくは非置換のC6〜14アリーレン基、
二価の置換若しくは非置換のC〜C18シクロアルキレン基、
二価の置換若しくは非置換のC〜C30アリーレンアルキレンアリーレン基を表し、
は、
水素又は
置換若しくは非置換のC〜C18アルキル基、
置換若しくは非置換のC〜C18シクロアルキル基、
置換若しくは非置換のC〜C30アラルキル基を表し、
は、
二価の置換若しくは非置換のC〜C18アルキレン基、
二価の置換若しくは非置換のC〜C18シクロアルキレン基、
二価の置換若しくは非置換のC〜C30アラルキレン基を表し、及び
nは整数である)
のいずれか1つで表されるプレポリマーである、請求項1〜4のいずれかに記載の歯科用根管封止組成物。
【請求項6】
前記アミノ末端プレポリマーが、下記式
【化4】

(式中、R及びRは、請求項5に定義されるものである)
のいずれか1つで表されるプレポリマーである、請求項5に記載の歯科用根管封止組成物。
【請求項7】
前記アミノ末端プレポリマー(i)と重付加することができる化合物が、二官能性若しくは多官能性アクリレート、二官能性若しくは多官能性エポキシド、二官能性若しくは多官能性イソシアネート、二官能性若しくは多官能性イソチオシアネート、二官能性若しくは多官能性アシルアミド、又は二官能性若しくは多官能性マレイミドから選択される、請求項1〜6のいずれかに記載の歯科用根管封止組成物。
【請求項8】
前記充填剤が、La、ZrO、BiPO、CaWO、BaWO、SrF、又はBiを含む、請求項1〜7のいずれかに記載の歯科用根管封止組成物。
【請求項9】
二成分系組成物の形態である、請求項1〜8のいずれかに記載の歯科用根管封止組成物。
【請求項10】
前記二成分系組成物が、粉末/液体又はペースト/ペースト系である、請求項12に記載の歯科用根管封止組成物。
【請求項11】
予備製作根管コーンの製造のための、請求項1に記載の歯科材料の使用。
【請求項12】
23℃で100Pas未満の粘度を有するアミノ末端プレポリマーであって、
(a)1モルの下記式(I)の化合物
【化5】

(式中、
Zは、n価のC2〜42炭化水素基を表し、該基は1〜6個の酸素原子を含有していてもよく、1〜6個のC1〜4アルキル基で置換されていてもよく、
Xは、
単結合又は
1〜6アルキル基で置換された酸素原子若しくは窒素原子
を表し、
Lは、
単結合又は
任意で置換されたC1〜16アルキレン基、
任意で置換された、C6〜14アリーレン基、
任意で置換されたC7〜16アルキルアリーレン基、
任意で置換されたC7〜16アリールアルキレン基を表し、
該基は、1〜6個のC1〜4アルキル基で置換されていてもよく、及び
nは2〜6の整数を表す)と、
(b)少なくともnモルの1種類以上の化合物であって、
(b1)下記式(II)
【化6】

(式中、
Aは、
二価の飽和脂肪族C2〜16炭化水素基又は二価の飽和脂環式C3〜6炭化水素基を表し、該基は、1〜6個の酸素原子を含有していてもよく、1〜6個のC1〜4アルキル基で置換されていてもよく、
及びRは、同じであるか又は異なっており、水素原子、C1〜6アルキル又はC3〜14シクロアルキル基を表し、該基は、C1〜4アルキル基、C1〜4アルコキシ基、フェニル基及びヒドロキシ基から選択される1つ以上の基で置換されていてもよい)、
又は
(b2)式(III)
R’NH (III)
(式中、R’は、
置換若しくは非置換のC〜C18アルキル基、
置換若しくは非置換のC〜C18シクロアルキル基、
置換若しくは非置換のC〜C30アラルキル基を表し、該基は、C1〜4アルキル基、C1〜4アルコキシ基、フェニル基及びヒドロキシ基から選択される1つ以上の基で置換されていてもよい)
の、任意でさらなるジアミン化合物又はポリアミン化合物と組合される、少なくともnモルの1種類以上の化合物と、
を反応させることにより得ることができる、歯科用組成物におけるアミノ末端プレポリマー。

【公表番号】特表2007−515443(P2007−515443A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546012(P2006−546012)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2004/014430
【国際公開番号】WO2005/063171
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(502289695)デンツプライ デトレイ ゲー.エム.ベー.ハー. (28)
【Fターム(参考)】