説明

歯科用物品、方法、及び圧縮性材料を含むキット

本発明は、圧縮性材料を含む、歯科用物品、キット、及び方法を提供する。圧縮性材料は、任意に、歯科用物品(例えば、歯科矯正装具)を歯牙構造に固着するのに有用であり得る、硬化性歯科用組成物(例えば、接着剤又はプライマー)を包含する。余分な硬化性及び/又は硬化した歯科用組成物の除去は、所望であれば、硬化性歯科用組成物が不充填又は低充填組成物である実施形態に関して促進することができる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
歯科用物品は、例えば、歯科矯正治療を含む多種多様な治療レジメンのため、歯牙構造に固着されてきた。歯科矯正治療は、偏位した歯を矯正学的に正しい位置に移動させるものである。ブラケットとして知られる小さな歯科矯正装具は患者の歯の外面に連結され、アーチワイヤは各ブラケットのスロット中に配置される。アーチワイヤは、正しく咬合するために所望の配置に歯を誘導する軌跡を形成する。アーチワイヤの末端区分は、患者の大臼歯に固定されるバッカルチューブとして知られる装具にしばしば支持される。近年、直接的若しくは間接的な方法を用いて、歯科矯正装具を歯の表面に固着するのに接着剤を使用するのが一般的になりつつある。施術者がブラケットを歯の表面に結合するため、様々な接着剤を使用することができ、多くの優れた結合強度を提供する。典型的に2年以上であり得る治療プロセスの持続時間にわたって、ブラケットが歯の表面に接着するのを維持するために高結合強度であることが望ましい。
【0002】
接着方法の使用は、典型的には、他の工程の中でも、ある量の接着剤をブラケット上に配置する、又は接着剤が上に下塗りされたブラケットを使用する工程、ブラケットを所望の歯牙構造に適用する工程、及び余分な接着剤を除去する工程を必要とする場合がある。従来の歯科矯正用接着剤は、典型的には多量に充填されるので、接着剤は白色又は歯の色を有する。十分な、ただし過剰ではない量の接着剤を使用して、ブラケットを歯牙構造に固着することが望ましい。歯牙構造上の余分な接着剤は、次第に、食物若しくは飲物による細菌の蓄積及び/又は着色汚れの部位となる可能性がある。歯科矯正治療は18〜36か月又はそれ以上続く場合があるので、細菌の蓄積は歯牙構造を損傷する可能性があり、また接着剤の変色につながることがあり、それらは両方とも望ましくない。余分な接着剤を特定し歯牙構造から除去することは、接着剤の色と歯の色とが類似している場合に、即ち接着剤に対比色が欠如していることに起因して困難な場合がある。歯牙構造と対比をなす初期色を有する色変化接着剤は、施術者が余分な接着剤を特定するのを助けてきた。しかし、余分な接着剤を除去することが典型的には依然として必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
所望に応じて、歯科用物品を歯牙構造に適用する際に、歯牙構造に対する歯科用物品の満足のいく接着を提供し、余分な接着剤の除去を簡単にする新たな接着剤及び方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
1つの態様では、本発明は、物品を歯牙構造に固着するための表面を有する歯科用物品(例えば、歯科矯正装具)と、物品の表面に固着される圧縮性材料とを包含する物品を提供する。好ましくは、圧縮性材料は、物品の表面に機械的に固着されるか、物品の表面に化学的に固着されるか、又はそれらの組み合わせである。任意に、圧縮性材料は硬化性歯科用組成物を包含する。特定の実施形態では、硬化性歯科用組成物は不充填又は低充填組成物である。
【0005】
別の態様では、本発明はキットを提供する。いくつかの実施形態では、キットは、物品を歯牙構造に固着するための表面、及び物品の表面に固着される圧縮性材料を有する歯科用物品(例えば、歯科矯正装具)、並びに本明細書に記載されるキットを使用するための取扱説明書とを包含する。任意に、キットは、例えば、圧縮性材料と組み合わせて使用して、本明細書に記載されるように歯科用物品を歯牙構造に固着することができる、硬化性歯科用組成物を更に包含することができる。特定の実施形態では、硬化性歯科用組成物は不充填又は低充填組成物(例えば、プライマー若しくはセルフエッチングプライマー)である。他の特定の実施形態では、キットは、例えば、歯科用物品を歯牙構造に固着する前に歯牙構造に適用することができるセルフエッチングプライマーを更に包含する。
【0006】
更に別の態様では、本発明は、歯科用物品を歯牙構造に固着する方法を提供する。特定の実施形態では、方法は、物品を歯牙構造に固着するための表面を有する歯科用物品(例えば、歯科矯正装具)を提供する工程と、硬化性歯科用組成物を包含する圧縮性材料を提供する工程と、硬化性歯科用組成物を包含する圧縮性材料を歯牙構造及び歯科用物品の表面と接触させる工程と、歯科用組成物を硬化する工程とを包含する。特定の実施形態では、その表面に固着される硬化性歯科用組成物を包含する圧縮性材料を有する歯科用物品が提供される。特定の実施形態では、硬化性歯科用組成物は不充填又は低充填組成物(例えば、プライマー若しくはセルフエッチングプライマー)である。
【0007】
本明細書に記載される物品、キット、及び方法を有利に使用して、歯科用物品(例えば、歯科矯正装具)を歯牙構造に固着することができる。例えば、従来の歯科矯正用接着剤は、接着剤が歯科矯正装具の基部と歯牙構造との間の隙間を充填して、硬化の際に適切な接着剤特性を提供するように、より高い充填剤荷重を利用する。しかし、過剰に充填された接着剤は、施術者が除去するのが困難であるか、又は時間がかかる場合がある。本明細書に記載される物品、キット、及び方法は、任意に、(a)歯科用物品の表面(例えば、歯科矯正装具の基部)と歯牙構造との間の隙間を充填することができる圧縮性材料と、(b)有利に不充填又は低充填であり得る硬化性歯科用組成物との組み合わせを包含する。圧縮性材料と不充填又は低充填硬化性歯科用組成物との組み合わせは、適用のための適切な取扱い特性と硬化の際の適切な接着剤特性とを提供することができる一方、所望に応じて、施術者が余分な歯科用組成物を簡単に除去することを可能にする。あるいは、そのような余分な不充填若しくは低充填の硬化性又は硬化した歯科用組成物は、典型的には、ブラッシングによって数日以内に除去され得る。別の代替例では、そのような余分な不充填若しくは低充填の硬化性又は硬化した歯科用組成物は、例えば、好ましくは追加の保護を歯牙構造に提供することができるシーラントとして、歯の上に残ることができる。
【0008】
定義
本明細書で使用するとき、「歯科用組成物」は、歯牙構造に付着(例えば、固着)することができる材料(例えば、歯科用又は歯科矯正用材料)を表す。歯科用組成物としては、例えば、接着剤(例えば、歯科用及び/又は歯科矯正用接着剤)、セメント(例えば、ガラスアイオノマーセメント、樹脂変性ガラスアイオノマーセメント、及び/又は歯科矯正用セメント)、プライマー(例えば、歯科矯正用プライマー)、修復材、ライナー、シーラント(例えば、歯科矯正用シーラント)、及びコーティング剤が挙げられる。歯科用組成物は、歯科用物品を歯牙構造に固着させるのに使用されることが多い。
【0009】
本明細書で使用するとき、「余分な」歯科用組成物(例えば、余分な接着剤)は、歯科用物品を歯牙構造上で十分に圧搾した後に、歯科用物品の周辺又はその付近にある不要な歯科用組成物を指し、ばりと呼ばれる場合が多い。
【0010】
本明細書で使用するとき、「歯科用物品」は、歯牙構造に付着(例えば、固着)させることができる物品を指す。歯科用物品としては、例えば、歯冠、ブリッジ、ベニヤ、インレー、オンレー、充填剤、歯科矯正装具及び装置、並びに補綴物(例えば、部分義歯又は完全義歯)が挙げられる。
【0011】
本明細書で使用するとき、「歯列矯正装具」は、歯列矯正用ブラケット、バッカルチューブ、舌固定装置、歯列矯正用バンド、開口器(bite openers)、ボタン、及びクリートが挙げられるが、これらに限定されない、歯牙構造に接着することが意図されるあらゆる装置を指す。装具は、接着剤を受け入れる基部を有し、それは金属、プラスチック、セラミック、又はそれらの組み合わせで作られるフランジであることができる。あるいは、基部は、1つ以上の硬化した接着剤層(即ち、単層若しくは多層接着剤)から形成される特注基部であることができる。
【0012】
本明細書で使用するとき、「パッケージ化」物品は、容器に受け入れられた歯科矯正装具又はカードを指す。好ましくは、容器は、例えば水分及び光を含む環境条件からの保護を提供する。
【0013】
本明細書で使用するとき、「剥離」基材は、物品の使用前又は使用中に物品から除去される、物品と接触する基材を指す。
【0014】
本明細書で使用するとき、「歯牙構造」は、例えば、天然及び人工の歯表面、骨、歯型などを含む表面を指す。
【0015】
本明細書で使用するとき、「層」は、層とは異なる材料の全部分又は一部分にわたって延在する不連続(例えば、模様付きの層)又は連続(例えば、模様無し)材料を指す。層は、均一な厚さ又は変動する厚さのものであってよい。
【0016】
本明細書で使用するとき、「多層」接着剤は、2つ以上の明確に異なる層(つまり、組成が異なり、及び好ましくは異なる化学的特性及び/又は物理的特性を有する層)を有する接着剤を指す。
【0017】
本明細書で使用するとき、「模様付き層」は、模様付き層とは異なる材料の選択された部分のみにわたって延在する(及び任意にそれに付着する)不連続材料を指す。
【0018】
本明細書で使用するとき、「模様無し層」は、模様無し層とは異なる材料の全部分にわたって延在する(及び任意にそれに付着する)連続材料を指す。
【0019】
一般的に、ある層とは異なる別の材料「の上の」、「にわたって延在する」、又は「に付着する」当該層とは、当該層と当該層とは異なる材料との間に1つ以上の付加層を任意に包含するものと広義に解釈されるものとする。
【0020】
本明細書で使用するとき、「硬化性」は、例えば、(例えば蒸発及び/又は加熱による)溶媒の除去、重合及び/若しくは架橋を誘導するための加熱、重合及び/若しくは架橋を誘導するための照射により、並びに/又は重合及び/若しくは架橋を誘導するための1以上の成分の混合により、硬化(例えば、重合又は架橋)又は固化し得る物質又は組成物を記述するものである。「混合」は、例えば、2以上の部分を組み合わせ、混合し、均質な組成物を形成することにより実施することができる。あるいは、2以上の部分を、接合面で(例えば、自然発生的に又は剪断応力の適用により)相互混合(intermix)する分離層として提供し、重合を開始させてもよい。
【0021】
本明細書で使用するとき、「硬化した」は、硬化(例えば、重合又は架橋)又は固化した物質又は組成物を指す。
【0022】
本明細書で使用するとき「硬化剤」は、樹脂の硬化を開始させるものを指す。硬化剤としては、例えば、重合開始剤系、光反応開始剤系、及び/又は酸化還元開始剤系を挙げることができる。
【0023】
本明細書で使用するとき、「光退色性」は、化学線に曝露した際の色の消失を指す。
【0024】
本明細書で使用するとき、「(メタ)アクリレート」という用語は、アクリレート、メタクリレート、又はそれらの組み合わせへの言及を略したものであり、「(メタ)アクリル」はアクリル、メタクリル、又はそれらの組み合わせへの言及を略したものである。
【0025】
本明細書で使用するとき、化学用語「基」は置換することが可能である。
【0026】
本明細書で使用するとき、「1つ(“a” or “an”)」は1つ以上を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】その表面に圧縮性材料が固着される歯科用物品を示す、本発明の一実施形態の側面図。
【図2】その基部に圧縮性材料が固着される歯科矯正装具を示す、本発明の好ましい一実施形態の斜視図。
【図3】図2の歯科矯正装具の側面図。
【図4】その基部に圧縮性材料が固着される歯科矯正装具を、カバーを部分的に開いてある容器内に包含するパッケージ化物品を示す、本発明の特定の実施形態の斜視図。
【図5】歯科矯正装具、圧縮性材料、及び歯科矯正装具を歯牙構造に固着する前の歯牙構造を示す、本明細書に記載されるような、歯科矯正装具を歯牙構造に固着する方法の代表的な一実施形態の図。
【図6】歯科矯正装具、圧縮性材料、及び歯科矯正装具を歯牙構造に固着している間又はその後の歯牙構造を示す、本明細書に記載されるような、歯科矯正装具を歯牙構造に固着する方法の代表的な一実施形態の図。
【図7】間接固着方法に使用される配置デバイスを使用して歯科用装具を患者の歯に適用する作用を示す拡大横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書に記載される物品、キット、及び方法は、歯科用物品の表面(例えば、歯科矯正装具の基部)と歯牙構造との間の隙間を充填することができる圧縮性材料を包含する。本明細書に記載される物品、キット、及び方法は、任意に、圧縮性材料と、有利に不充填又は低充填であることができる硬化性歯科用組成物との組み合わせを包含する。圧縮性材料と不充填又は低充填硬化性歯科用組成物との組み合わせは、適用のための適切な取扱い特性と、硬化の際の適切な接着特性とを提供することができるとともに、所望に応じて施術者が余分な歯科用組成物を簡単に除去することを可能にする。あるいは、そのような余分な不充填若しくは低充填の硬化性又は硬化した歯科用組成物は、典型的には、ブラッシングによって数日以内に除去され得る。
【0029】
本発明の物品、キット、及び方法は、歯科用物品を歯牙構造に適用し、硬化性歯科用組成物を硬化すると、固着の一部となる圧縮性材料を包含する。本明細書で使用するとき、「圧縮性材料」は、典型的には、歯科用物品を歯牙構造上に置く及び/又は位置付けるのに用いられる、圧力を加えると体積が減少する材料である。本明細書で使用するとき、圧縮性材料は弾性及び/又は非弾性材を包含することができる。いくつかの実施形態については、歯科用物品を歯牙構造上に置いた及び/又は位置付けた後(例えば、歯科用組成物を硬化及び/又は硬化(hardening and/or curing)する前及び/又は最中)に、圧縮性材料を圧縮するのに使用される圧力を維持する必要がないという点で、非弾性圧縮性材料が有利であり得る。
【0030】
例えば、多孔質材料、発泡材料、及びカプセルを包含する材料を包含する多種多様な圧縮性材料を、本発明の物品、キット、及び方法に使用することができる。圧縮性材料は、親水性材料、疎水性材料、又はそれらの組み合わせであることができる。圧縮性材料はあらゆる色であることができ、特定の実施形態には白色又はオフホワイトの圧縮性材料が好ましい。
【0031】
圧縮性材料が多孔質材料である実施形態では、多種多様な多孔質材料を、本発明の物品、キット、及び方法に使用することができる。本明細書で使用するとき、「多孔質材料」は孔(例えば、空隙及び/又は脈管)を包含する材料である。好ましい実施形態では、孔は互いに連通しているので、その中に含まれる材料(例えば、硬化性歯科用組成物)は、例えば多孔質材料を圧縮している間、孔の間を通過する(例えば、パーコレートする)ことができる。
【0032】
代表的な多孔質材料としては、発泡体(例えば、セルロース発泡体、ガラス発泡体、ポリマー発泡体、及びそれらの組み合わせを包含するポリマー発泡体)、スポンジ、不織布、ガラスウール、綿繊維、セルロース繊維、及びそれらの組み合わせが挙げられる。代表的な材料は、例えば、米国特許第4,605,402号(イスクラ(Iskra))、第4,865,596号(ワイズマン(Weisman)ら)、第5,614,570号(ハンセン(Hansen)ら)、第6,027,795号(カブラ(Kabra)ら)、第6,645,618号(ホブス(Hobbs)ら)、日本特許出願公開JP63170437(サカドウ(Sakadou)ら)、及びナシュト(Nacht)らの「マイクロスポンジ:新規な局所的にプログラム可能なデリバリーシステム(The microsponge: a novel topical programmable delivery system)」、局所的薬剤送達製剤(Topical Drug Delivery Formulations)、D.W.オズボーン(D.W. Osborn)及びA.H.アンマン(A.H. Amman)編、マレル・デッカー(Eds.),(Marel Dekker)、ニューヨーク(New York)、299〜325ページ(1990年)に記載されている。
【0033】
ポリマー発泡体としては、例えば、米国特許第5,770,636号(ワーンシング(Wernsing)ら)及び第5,817,704号(シブリー(Shively)ら)に記載されているような連続気泡発泡体、例えば、ウェスターマン(Westerman)らの英国スポーツ医学雑誌(British Journal of Sports Medicine)、36:205〜208(2002年)に記載されているような独立気泡発泡体、又はそれらの組み合わせを挙げることができる。あるいは、独立気泡発泡体は、例えば、米国特許第6,645,618号(ホブス(Hobbs)ら)に記載されているように配向しマイクロファイバー化した場合に、多孔質繊維性物品に変換することができる。発泡体構造の表面における親水性/親油性の均衡は、例えば米国特許第6,750,261号(クリア(Clear)ら)に記載されているように、調製中に、例えば高分子電解質又は官能化粒子を使用して修飾することができる。いくつかの実施形態では、発泡体は、熱的手段、化学的手段(例えば、酸エッチング、コロナ処理、プラズマエッチング、グロー放電、若しくは火炎処理)、及び/又は光化学的手段(例えば、紫外線照射)によって表面修飾することができる。
【0034】
特定の実施形態では、ポリマー発泡体は、少なくとも50体積%、好ましくは少なくとも70体積%、より好ましくは少なくとも85体積%、更により好ましくは少なくとも95体積%の空隙体積を有する。特定の実施形態では、ポリマー発泡体は、最大99.9体積%、好ましくは最大99.5体積%、より好ましくは最大99体積%、更により好ましくは最大98体積%の空隙体積を有する。ポリマーの嵩密度が典型的にはほぼ1であるポリマー発泡体の場合、発泡体密度は空隙体積と密接に相関する。
【0035】
特定の好ましい実施形態では、多孔質材料は、少なくとも部分的にその孔の中に硬化性歯科用組成物を包含する。そのような実施形態では、空隙体積の少なくとも80体積%、好ましくは少なくとも90体積%、より好ましくは100体積%が硬化性歯科用組成物で充填される。
【0036】
圧縮性材料が多孔質発泡体(例えば、セルロース発泡体、ガラス発泡体、ポリマー発泡体、及びそれらの組み合わせ)である特定の実施形態では、発泡体を当該技術分野において既知の多種多様な方法によって調製することができる。例えば、多孔質発泡体は、1つ以上の起泡剤を材料に組み込み、起泡剤(1つ以上)を活性化することによって調製することができる。発泡剤とも呼ばれる起泡剤は、プラスチック、ゴム、及び熱硬化性樹脂を発泡させて、気泡質構造を材料に付与するために使用することができる。化学起泡剤は、活性化温度まで加熱されたとき、分解してガスを放出することによってセルを形成する。一方、物理的発泡剤は、通常は室温で液状であり、加熱すると揮発する。発泡体はまた、泡若しくは中空カプセルを材料中に分散することによって、又は物理的発泡剤を封入し、加熱すると泡に拡張する微小球を使用することによって調製することができる。あるいは、連続気泡発泡体は、油中水型エマルションを混合し、油相を熱的又は化学的に重合し、次に水を除去することによって作成することができる。圧縮性材料が多孔質発泡体である特定の実施形態では、多孔質発泡体は、硬化性歯科用組成物を発泡させ、少なくとも部分的に硬化させることによって調製することができる。
【0037】
圧縮性材料がカプセルを包含する実施形態では、カプセルは好ましくは中空であり、歯科用装具を歯牙構造に適用する間に通常の圧力を受けることによって破裂することができる。任意に、カプセルは、硬化性歯科用組成物を少なくとも部分的に、カプセルの外表面上に包含することができる。任意に、中空のカプセルは、カプセル内に少なくとも部分的に位置する硬化性歯科用組成物を包含することができる。例えば、マイクロカプセル(即ち、典型的には10マイクロメートル未満の直径を有するカプセル)、ガラスビーズ、中空プラスチックビーズ、及びそれらの組み合わせを包含する、多種多様なカプセルを使用することができる。代表的な材料は、例えば、米国特許第4,303,730号(トロビン(Torobin))、第4,336,338号(ダウンズ(Downs)ら)、第5,045,569号(デルガド(Delgado))、及び第5,861,214号(キタノ(Kitano)ら)に開示されている。
【0038】
特定の実施形態では、本発明の物品、キット、及び方法は、圧縮性材料が、好ましくは圧縮性材料の層がその表面に固着した歯科用物品を包含する。圧縮性材料がその表面に固着した歯科用物品は、下塗りされた接着剤上に剥離基材(例えば、剥離ライナー)を有する歯科用物品(例えば、プレコート歯科矯正装具)とは区別すべきである。物品の使用前又は使用中に除去されるように設計された剥離基材とは対照的に、歯科用物品の表面に固着される圧縮性材料は、物品を使用する間、歯科用物品上に残るように設計されており、実際には、歯科用物品を歯牙構造に適用し、硬化性歯科用組成物を硬化すると、固着の一部となる。
【0039】
圧縮性材料がその基部に固着される歯科用物品の代表的な一実施形態を図1に示す。図1では、代表的な物品2は、歯牙構造に固着するための表面7を有する歯科用物品5を包含する。代表的な物品2は、歯冠、ブリッジ、ベニヤ、インレー、オンレー、充填物、歯科矯正装具及び装置、並びに補綴物(例えば、部分義歯又は全体義歯)を包含するがそれらに限定されない、多種多様な歯科用物品を表すことができる。代表的な物品2は、歯科用物品5の表面7に固着される圧縮性材料22を更に包含する。任意に、圧縮性材料22は硬化性歯科用組成物を更に包含する。
【0040】
図1に示される代表的な実施形態では、圧縮性材料22は歯科用物品5の表面7全体にわたって延在する。圧縮性材料22は、硬化性歯科用組成物と組み合わせて、歯牙構造からの意図しない分離に抵抗するのに十分な強度を有する固着によって、全体的又は少なくとも部分的に物品2を歯牙構造にしっかり固定する役割を果たすことができる。任意に、圧縮性材料22は硬化性歯科用組成物を更に包含する。一実施形態では、圧縮性材料22は、メーカーによって歯科用物品5の表面7に固着される。好ましい実施形態では、圧縮性材料22は、歯科用物品5の表面7に機械的に固着されるか、歯科用物品5の表面7に化学的に固着されるか、又はそれらの組み合わせである。本明細書で使用するとき、「化学的に固着される」は、物理的手段によって(例えば、フック、ループ、突出部など、及びそれらの組み合わせを使用して)固着される、又は取り付けられることを意味する。本明細書で使用するとき、「化学的に固着される」は、化学的手段によって(例えば、イオン結合、共有結合、水素結合、ファン・デル・ワールス相互作用など、及びそれらの組み合わせによって)固着される、又は取り付けられることを意味する。
【0041】
圧縮性材料22は硬化性歯科用組成物を更に包含することができる。一実施形態では、硬化性歯科用組成物をその中に有する圧縮性材料22が供給される。圧縮性材料22が、メーカーによって歯科用物品5の表面7に固着され、硬化性歯科用組成物をその中に有して供給される実施形態では、本明細書に記載されるように、物品をパッケージ化物品として供給することが好ましいことがある。別の実施形態では、施術者が硬化性歯科用組成物を圧縮性材料に添加することができる。例えば、施術者は、硬化性歯科用組成物を圧縮性材料22に適用することができ、又は圧縮性材料22を硬化性歯科用組成物に浸漬若しくは液浸することができる。
【0042】
物品2は、任意に、圧縮性材料22と接触させて、歯科用組成物(例えば、図1には示されない、歯科矯正用接着剤、歯科矯正用プライマー、若しくはそれらの組み合わせ)の付加層(1つ以上)を包含することができることを理解すべきである。具体的には、そのような付加層(1つ以上)は、表面7と圧縮性材料22との間、表面7とは反対側の圧縮性材料22上、又は両方であることができる。そのような層は同じ面積を覆っても覆わなくてもよく、及び、独立に、圧縮性材料22の全部分又は一部分にわたって延在する不連続(例えば、模様付きの層)又は連続(例えば、模様無し)材料であってもよい。
【0043】
圧縮性材料がその基部に固着される歯科矯正装具の代表的な実施形態を、図2及び3に示す。図2及び3では、代表的な歯科矯正装具は数字10で指定されており、ブラケットであるが、バッカルチューブ、ボタン、及び他の取付具など、他の装具もまた可能である。装具10は基部12を包含する。装具10はまた、基部12から外向きに延びる本体14を有する。基部12は、金属、プラスチック、セラミック、及びそれらの組み合わせで作られたフランジであってもよい。基部12は、細線ワイヤスクリーンなどのメッシュ状構造を含むことができる。基部12は、粒子(破片、砂、球体、又は刻み目を任意で含む他の構造など)を含むことができる。あるいは、基部12は、1つ以上の硬化した歯科用組成物層(1つ以上)から形成される特注基部であることができる。タイウィング16は本体14に接続され、アーチワイヤスロット18はタイウィング16の間の空間を通って延在する。基部12、本体14、及びタイウィング16は、口腔に使用するのに適した、治療の間に適用される補正力に十分に耐える強度を有する多数の材料のいずれか1つで作られてもよい。好適な材料としては、例えば、金属材料(ステンレス鋼など)、セラミック材料(単結晶又は多結晶アルミナなど)、及びプラスチック材料(繊維強化ポリカーボネートなど)が挙げられる。任意に、基部12、本体14、及びタイウィング16は一体型の構成要素として一体に作られる。
【0044】
図2及び3に示される代表的な実施形態では、圧縮性材料22は装具10の基部12全体にわたって延在する。圧縮性材料22は、硬化性歯科用組成物と組み合わせて、一連の治療の間、歯からの意図しない分離に抵抗するのに十分な強度を有する固着によって、全体的又は少なくとも部分的に装具10を患者の歯にしっかり固定する役割を果たすことができる。任意に、圧縮性材料22は硬化性歯科用組成物を更に包含する。
【0045】
一実施形態では、圧縮性材料22はメーカーによって装具10の基部12に固着される。好ましい実施形態では、圧縮性材料22は、装具10の基部12に機械的に固着されるか、装具10の基部12に化学的に固着されるか、又はそれらの組み合わせである。
【0046】
圧縮性材料22は、硬化性歯科用組成物を更に包含することができる。一実施形態では、硬化性歯科用組成物をその中に有する圧縮性材料22が供給される。圧縮性材料22がメーカーによって装具10の基部12に固着され、硬化性歯科用組成物をその中に有して供給される実施形態では、本明細書に記載されるように、物品をパッケージ化物品として供給することが好ましいことがある。代表的な容器は当該技術分野において周知であり、例えば、米国特許第5,172,809号(ジェイコブス(Jacobs)ら)及び第6,089,861号(ケリー(Kelly)ら)に記載されている。別の実施形態では、施術者が硬化性歯科用組成物を圧縮性材料に添加することができる。例えば、施術者は、硬化性歯科用組成物を圧縮性材料22に適用することができ、又は圧縮性材料22を硬化性歯科用組成物に浸漬若しくは液浸することができる。
【0047】
歯科矯正装具10は、任意に、圧縮性材料22と接触させて、歯科用組成物(例えば、図2及び3には示されない、歯科矯正用接着剤、歯科矯正用プライマー、若しくはそれらの組み合わせ)の付加層(1つ以上)を包含することができることを理解すべきである。具体的には、そのような付加層(1つ以上)は、基部12と圧縮性材料22との間、基部12とは反対側の圧縮性材料22上、又は両方であることができる。そのような層は同じ面積を覆っても覆わなくてもよく、及び、独立に、圧縮性材料22の全部分又は一部分にわたって延在する不連続(例えば、模様付きの層)又は連続(例えば、模様無し)材料であってもよい。
【0048】
図4を参照すると、図2及び3に示される代表的な実施形態と同じ又は異なるものであることができる、歯科矯正装具42を包含するパッケージ化物品40の代表的な一実施形態が示される。パッケージ44は容器46及びカバー48を包含する。カバー48は、最初に提供されるときは容器46に剥離可能に接続しており、容器46から剥がすとパッケージが開き、歯科矯正装具42を取り出せる。図4では、カバー48は容器46から剥離されており、パッケージ44が部分的に開いている。
【0049】
好ましい実施形態では、パッケージは、硬化性歯科用組成物(例えば、光硬化性材料)の劣化に対して、長時間経過後でさえも良好な保護を提供する。そのような容器は、硬化性歯科用組成物が、任意に、色変化特性を接着剤に付与する染料を包含する実施形態に特に有用である。そのような容器は、好ましくは、広いスペクトル範囲にわたって化学線からパッケージを遮断し、その結果、歯科用組成物は保管中に早期に退色することがない。
【0050】
好ましい実施形態では、パッケージは、ポリマー及び金属粒子を含む容器46を包含する。一例として、容器46は、例えば、米国特許公開第2003/0196914 A1(ツオウ(Tzou)ら)に開示されているような、アルミニウム充填剤と混合するか、又はアルミニウム粉末でコーティングされたポリプロピレンで作られてもよい。色変化染料は光感受性が非常に高いことが既知であるが、ポリマーと金属粒子の組み合わせは、そのような染料への化学線の通過に対して非常に有効なブロックを提供する。そのような容器はまた、良好な蒸気防護特性を示す。結果として、硬化性歯科用組成物(1つ以上)の粘弾性的特性は、長時間にわたってほとんど変化しない可能性が高い。例えば、そのような容器の改善された防湿特性は、接着剤の取扱い特性の劣化に対して十分な保護を提供するので、歯科用組成物は、早期に硬化若しくは乾燥したり、あるいは満足のいかないものになることがない。そのような容器に適したカバー48は、化学線を実質的に透過しないあらゆる材料で作ることができるので、歯科用組成物は早期に硬化しない。カバー48に適した材料の例としては、アルミホイルとポリマーの積層体が挙げられる。例えば、積層体はポリエチレンテレフタラート、接着剤、アルミホイル、接着剤、及び配向ポリプロピレンの層を含んでもよい。
【0051】
いくつかの実施形態では、圧縮性材料及び硬化性歯科用組成物を包含するパッケージ化歯科矯正装具は、例えば、米国特許第6,183,249号(ブレナン(Brennan)ら)に記載されているような剥離基材を包含してもよい。
【0052】
いくつかの実施形態では、パッケージ化物品は一組の歯科矯正装具を包含することができ、その際、装具の少なくとも1つはその上に圧縮性材料を有する。物品及び装具セットの更なる例は、米国特許出願公開第2005/0133384 A1(シナダー(Cinader)ら)に記載されている。パッケージ化歯科矯正装具は、例えば、米国特許出願公開第2003/0196914 A1(ツオウ(Tzou)ら)、及び米国特許第4,978,007号(ジェイコブス(Jacobs)ら)、第5,015,180号(ランドクレフ(Randklev))、第5、328、363号(チェスター(Chester)ら)、及び第6、183、249号(ブレナン(Brennan)ら)に記載されている。
【0053】
歯科用組成物
本発明の物品、キット、及び方法に有用な硬化性歯科用組成物は、典型的には、1つ以上の硬化性成分及び硬化剤を包含する。任意に、本明細書に記載される硬化性歯科用組成物は、例えば、反応開始剤系、エチレン系不飽和化合物、及び/又は1つ以上の充填剤を包含することができる。本明細書に記載される硬化性及び硬化した歯科用組成物は、歯牙構造に接着(例えば、固着)することができる材料を利用する、様々な歯科装具及び歯科矯正装具に使用することができる。そのような硬化性及び硬化した歯科用組成物における使用としては、例えば、接着剤(例えば、歯科用及び/又は歯科矯正用接着剤)、セメント(例えば、ガラスアイオノマーセメント、樹脂変性ガラスアイオノマーセメント、及び歯科矯正用セメント)、プライマー(例えば、歯科矯正用プライマー)、修復材、ライナー、シーラント(例えば、歯科矯正用シーラント)、コーティング、及びそれらの組み合わせとしての使用が挙げられる。
【0054】
本明細書に記載される硬化性歯科用組成物(例えば、硬化性歯科用組成物)は、典型的には硬化性(例えば、重合性)成分を包含し、それによって硬化性(例えば、重合性)組成物を形成する。硬化性成分としては、エチレン系不飽和化合物(酸性官能基を含む、又は含まない)、エポキシ(オキシラン)樹脂、ビニルエーテル、光重合システム、酸化還元硬化システム、ガラスアイオノマーセメント、ポリエーテル、ポリシロキサンなどのような様々な化学物を挙げることができる。いくつかの実施形態では、歯科用組成物は、硬化した歯科用組成物を適用する前に硬化する(例えば、従来の光重合及び/又は化学重合技術によって重合する)ことができる。他の実施形態では、歯科用組成物は、歯科用組成物の適用後に硬化する(例えば、従来の光重合及び/又は化学重合技術により重合する)ことができる。
【0055】
特定の実施形態では、歯科用組成物は光重合可能であり、即ち、歯科用組成物は、化学線を照射すると歯科用組成物の重合(又は硬化)を開始する光反応開始剤(即ち、光反応開始剤系)を含有する。そのような光重合性組成物は、フリーラジカル重合可能であるか、又はカチオン重合が可能であることができる。他の実施形態では、歯科用組成物は化学硬化性であり、即ち、歯科用組成物は、化学線の照射に依存せずに歯科用組成物を重合、硬化、又は別の方法で硬化することができる、化学反応開始剤(即ち、反応開始剤系)を含有する。そのような化学硬化性歯科用組成物は、場合によっては「自己硬化(self-cure)」組成物と称され、ガラスアイオノマーセメント(例えば、従来の、及び樹脂修飾したガラスアイオノマーセメント)、酸化還元硬化系、及びそれらの組み合わせを包含してもよい。
【0056】
本明細書に開示されるような歯科用組成物に使用することができる、好適な光重合性成分としては、例えば、エポキシ樹脂(カチオン活性のエポキシ基を含有する)、ビニルエーテル樹脂(カチオン活性ビニルエーテル基を含有する)、エチレン系不飽和化合物(フリーラジカル活性の不飽和基、例えば、アクリレート及びメタクリレートを含む)、並びにそれらの組み合わせが挙げられる。同様に、単一化合物中にカチオン活性の官能基とフリーラジカル活性の官能基との両方を含有する重合性材料も好適である。例としては、エポキシ官能性アクリレート、エポキシ官能性メタクリレート、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0057】
エチレン系不飽和化合物
本明細書に開示される歯科用組成物は、酸官能基を有する又は有さないエチレン系不飽和化合物の形態の、1つ以上の硬化性成分を包含してもよく、それによって硬化性歯科用組成物を形成する。
【0058】
好適な硬化性歯科用組成物は、エチレン系不飽和化合物(フリーラジカル活性の不飽和基を含有する)を包含する、硬化性成分(例えば、光重合性化合物)を包含してもよい。有用なエチレン系不飽和化合物の例としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性アクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性メタクリル酸エステル、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0059】
歯科用組成物(例えば、光重合性組成物)は、1つ以上のエチレン系不飽和基を有するモノマー、オリゴマー、及びポリマーを包含してもよい、フリーラジカル活性の官能基を有する化合物を包含してもよい。好適な化合物類は、少なくとも1つのエチレン性不飽和結合を含み、及び付加重合可能である。そのようなフリーラジカル重合性化合物としては、モノ−、ジ−又はポリ−(メタ)クリレート類(即ち、アクリレート類及びメタクリレート類)例えば、メチル(メタ)クリレート、エチルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、アリルアクリレート、グリセロールトリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−プロパンジオールジ(メタ)クリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,2,4−ブタントリオールトリメタクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)クリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ビス[1−(2−アクリロキシ)]−p−エトキシフェニルジメチルメタン、ビス[1−(3−アクリロキシ−2−ヒドロキシ)]−p−プロポキシフェニルジメチルメタン、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)クリレート、及びトリスヒドロキシエチル−イソシアヌレートトリメタクリレート;(メタ)クリルアミド類(即ち、アクリルアミド類及びメタクリルアミド類)例えば、(メタ)クリルアミド、メチレンビス−(メタ)クリルアミド、並びにジアセトン(メタ)クリルアミド;ウレタン(メタ)クリレート類;ポリエチレングリコール類のビス−(メタ)クリレート類(好ましくは、分子量200〜500)、米国特許第4,652,274号(ボッチャー(Boettcher)ら)に記載されているような、アクリレート化されたモノマー類の共重合性混合物、米国特許第4,642,126号(ザドール(Zador)ら)に記載されているような、アクリレート化されたオリゴマー類、及び米国特許第4,648,843号(ミトラ(Mitra))に開示されているもののような、ポリ(エチレン部が不飽和の)カルバモイルイソシアヌレート類;ビニル化合物類、例えばスチレン、ジアリルフタレート、ジビニルサクシネート、ジビニルアジパート及びジビニルフタレートが挙げられる。他の好適なフリーラジカル重合化合物としては、例えば、PCT国際公開特許WO−00/38619(グーゲンベルガー(Guggenberger)ら)、PCT国際公開特許WO−01/92271(ヴァインマン(Weinmann)ら)、PCT国際公開特許WO−01/07444(グーゲンベルガー(Guggenberger)ら)、PCT国際公開特許WO−00/42092(グーゲンベルガー(Guggenberger)ら)に開示されているようなシロキサン官能性(メタ)クリレート類並びに例えば、米国特許第5,076,844号(フォック(Fock)ら)、米国特許第4,356,296号(グリフィス(Griffith)ら)、欧州特許公開第0373 384号(ヴァーゲンクネヒト(Wagenknecht)ら)、欧州特許公開第0201 031号(ライナーズ(Reiners)ら)、及び欧州特許公開第0201 778号(ライナーズ(Reiners)ら)に開示されているようなフルオロポリマー官能性(メタ)クリレート類が挙げられる。所望する場合、2つ以上のフリーラジカル重合性化合物の混合物を使用することが可能である。
【0060】
硬化性成分は、単一分子内にヒドロキシル基及びエチレン系不飽和基もまた含有してよい。そのような物質の例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及び2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートのようなヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;グリセロールモノ−又はジ−(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパンモノ−又はジ−(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールモノ−、ジ−、及びトリ−(メタ)アクリレート;ソルビトールモノ−、ジ−、トリ−、テトラ−、又はペンタ−(メタ)アクリレート;及び2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−エタアクリロキシプロポキシ)フェニル]プロパン(ビスGMA)が挙げられる。好適なエチレン性不飽和化合物はまた、多種多様な民間の供給元、例えばシグマ−アルドリッチ社(Sigma-Aldrich)(セントルイス)から入手可能である。必要であれば、エチレン性不飽和化合物の混合物を使用できる。
【0061】
特定の実施形態では、硬化性成分としては、PEGDMA(約400の分子量を有するポリエチレングリコールジメタクリレート)、ビスGMA、UDMA(ウレタンジメタクリレート)、GDMA(グリセロールジメタクリレート)、TEGDMA(トリエチレングリコールジメタクリレート)、米国特許第6,030,606号(ホームズ(Holmes))に記載されるようなビスEMA6、及びNPGDMA(ネオペンチルグリコールジメタクリレート)が挙げられる。所望であれば、この硬化性成分の様々な組み合わせを使用することができる。
【0062】
好ましくは、本明細書に開示される歯科用組成物は、不充填組成物の総重量を基準として、少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも15重量%のエチレン系不飽和化合物(例えば、酸官能基を有する及び/又は有さない)を包含する。本明細書に開示されるような特定の歯科用組成物(例えば、1つ以上のエチレン系不飽和化合物及び反応開始剤系からなる不充填歯科用組成物)は、不充填組成物の総重量を基準として、99重量%、又は更にはそれ以上のエチレン系不飽和化合物(例えば、酸官能基を有する及び/又は有さない)を包含することができる。本明細書に開示されるような他の特定の歯科用組成物は、不充填化合物の総重量を基準として、最大99重量%、好ましくは最大98重量%、より好ましくは最大95重量%のエチレン系不飽和化合物(例えば、酸官能基を有する及び/又は有さない)を包含する。
【0063】
酸官能基を有するエチレン系不飽和化合物
本明細書に開示される歯科用組成物は、酸官能基を有するエチレン系不飽和化合物の形態の、1つ以上の硬化性成分を包含してもよく、それによって硬化性歯科用組成物を形成する。
【0064】
本明細書で使用するとき、酸官能基を有するエチレン系不飽和化合物は、エチレン系不飽和並びに酸及び/又は酸前駆体官能基を有するモノマー、オリゴマー、及びポリマーを包含することを意味する。酸−前駆体官能基としては、例えば、無水物類、酸ハロゲン化物類、及びピロホスフェート類が挙げられる。酸官能基としては、カルボン酸官能基、リン酸官能基、ホスホン酸官能基、スルホン酸官能基、又はそれらの組み合わせを挙げることができる。
【0065】
酸官能基を有するエチレン系不飽和化合物としては、例えば、α,β−不飽和酸性化合物、例えば、グリセロールホスフェートモノ(メタ)アクリレート類、グリセロールホスフェートジ(メタ)アクリレート類、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(例えば、HEMA)ホスフェート類、ビス((メタ)アクリルオキシエチル)ホスフェート、((メタ)アクリルオキシプロピル)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシプロピル)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシ)プロピルオキシホスフェート、(メタ)アクリルオキシヘキシルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシヘキシル)ホスフェート、(メタ)アクリルオキシオクチルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシオクチル)ホスフェート、(メタ)アクリルオキシデシルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシデシル)ホスフェート、カプロラクトンメタクリレートホスフェート、クエン酸ジ−又はトリ−メタクリレート、ポリ(メタ)アクリレート化オリゴマレイン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリマレイン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリカルボキシル−ポリホスホン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリクロロリン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリスルホネート、ポリ(メタ)アクリレート化ポリホウ酸、などが挙げられる。これらは、硬化可能成分系内の成分として使用してもよい。また、不飽和炭酸類のモノマー類、オリゴマー類、及びポリマー類、例えば、(メタ)クリル酸類、芳香族(メタ)クリレート化酸類、(例えば、メタクリレート化トリメリット酸)、及びそれらの無水物類を使用することが可能である。本発明の好ましい方法に使用される特定の組成物としては、少なくとも1つのP−OH部分を有する、酸官能基を有するエチレン系不飽和化合物が挙げられる。
【0066】
これら化合物の特定のものは、例えば、イソシアナトアルキル(メタ)クリレート類とカルボン酸との間の反応物として得られる。酸官能基及びエチレン性不飽和構成成分の両方を有するこの種の追加の化合物は、米国特許第4,872,936号(エンゲルブレヒト(Engelbrecht))及び第5,130,347号(ミトラ(Mitra))に記載されている。エチレン系不飽和部分及び酸部分の両方を含有する多種多様のこのような化合物を使用することが可能である。所望する場合、このような化合物の混合物を使用することが可能である。
【0067】
酸官能基を有する更なるエチレン系不飽和化合物としては、例えば、米国特許出願公開第2004/0206932(アブエリアマン(Abuelyaman)ら)に開示されているような重合性二ホスホン酸;AA:ITA:IEM(例えば、米国特許第5,130,347号(ミトラ(Mitra))の実施例11に記載されているような、AA:ITAコポリマーを十分な2−イソシアナトエチルメタクリレートと反応させて、コポリマーの酸性基の一部分を末端メタクリレート基に変換することによって作成した、末端メタクリレートを有するアクリル酸:イタコン酸のコポリマー);並びに、米国特許第4,259,075号(ヤマウチ(Yamauchi)ら)、第4,499,251号(オムラ(Omura)ら)、第4,537,940号(オムラら)、第4,539,382号(オムラら)、第5,530,038号(ヤマモト(Yamamoto)ら)、第6,458,868号(オカダ(Okada)ら)、及び欧州特許出願公開EP 712,622(トクヤマ(Tokuyama Corp.))及びEP 1,051,961(クラレ(Kuraray Co., Ltd.))に列挙されているものが挙げられる。
【0068】
本明細書に開示される歯科用組成物は、また、エチレン系不飽和化合物と酸官能基の組み合わせを包含する組成物を包含することができる。好ましくは、歯科用組成物は自己接着性及び非水性である。例えば、このような組成物は、少なくとも1つの(メタ)アクリルオキシ基及び少なくとも1つの−O−P(O)(OH)基を包含する第1化合物で、式中、x=1又は2で、及び前記少なくとも1つの−O−P(O)(OH)基及び前記少なくとも1つの(メタ)アクリルオキシ基が、C1〜C4炭化水素基によって互いに結合しているもの;少なくとも1つの(メタ)アクリルオキシ基及び少なくとも1つの−O−P(O)(OH)基を包含する第2化合物で、式中、x=1又は2で、及び前記少なくとも1つの−O−P(O)(OH)基及び前記少なくとも1つの(メタ)アクリルオキシ基が、C5〜C12炭化水素基によって互いに結合しているもの;酸官能基を有さないエチレン系不飽和化合物;反応開始剤系;並びに充填剤を包含することができる。このような組成物は、例えば米国仮出願番号第60/600,658号(ルヒターハント(Luchterhandt)他)(2004年8月11日出願)に記載されている。
【0069】
好ましくは、本明細書に開示される歯科用組成物は、不充填組成物の総重量を基準として、少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも15重量%の酸官能基を有するエチレン系不飽和化合物を包含する。本明細書に開示される特定の歯科用組成物(例えば、1つ以上のエチレン系不飽和化合物及び反応開始剤系からなる不充填歯科用組成物)は、不充填組成物の総重量を基準として、99重量%、更にはそれ以上の酸官能基を有するエチレン系不飽和化合物を包含することができる。本明細書に開示される他の特定の歯科用組成物は、不充填組成物の総重量を基準として、最大99重量%、好ましくは最大98重量%、より好ましくは最大95重量%の酸官能基を有するエチレン系不飽和化合物を包含する。
【0070】
エポキシ(オキシラン)又はビニルエーテル化合物
本明細書に開示される硬化性歯科用組成物は、エポキシ(オキシラン)化合物(カチオン活性エポキシ基を含む)又はビニルエーテル化合物(カチオン活性ビニルエーテル基を含む)の形態の1つ以上の硬化性成分を包含してもよく、それによって硬化性歯科用組成物を形成する。
【0071】
エポキシ又はビニルエーテルモノマーは、硬化性成分として歯科用組成物で単独で使用することができるか、又は他の種類のモノマー(例えば本明細書に記載されるようなエチレン系不飽和化合物)と組み合わせて使用することができ、化学構造の一部として、芳香族基、脂肪族基、脂環式基、及びそれらの組み合わせを含むことができる。
【0072】
エポキシ(オキシラン)化合物の例としては、開環によって重合が可能なオキシラン環を有する有機化合物を含む。それらの材料は、モノマー性エポキシ化合物及びポリマー型エポキシ包み、脂肪族、脂環式、芳香族、又は複素環式であることができる。これらの化合物は、一般的に平均で、1分子あたり少なくとも1つの重合性エポキシ基を有し、一部の実施形態では少なくとも1.5、他の実施形態では1分子あたり少なくとも2つの重合性エポキシ基を有する。ポリマー性エポキシドとしては、末端エポキシ基を有する直鎖状のポリマー(例えば、ポリオキシアルキレングリコールのジグリシジルエーテル)、骨格にオキシラン単位を有するポリマー(例えば、ポリブタジエンポリエポキシド)、及びペンダントになったエポキシ基を有するポリマー(例えば、グリシジルメタクリレートポリマー又はコポリマー)などが挙げられる。エポキシドは純粋化合物であるか、又は1分子あたり1つ、2つ、又はそれ以上のエポキシ基を含有する化合物との混合物であってよい。1分子あたりのエポキシ基の「平均」数は、エポキシ含有材料中のエポキシ基の総数を現存するエポキシ含有分子の総数で割ることで決定される。
【0073】
エポキシ含有材料は、低分子量のモノマー性材料から高分子量のポリマーまで変化し、それらの骨格鎖及び置換基の性質において非常に変化し得る。許容される置換基の例としては、ハロゲン、エステル基、エーテル、スルホネート基、シロキサン基、カルボシラン基、ニトロ基、ホスフェート基などが挙げられる。エポキシ含有材料の分子量は、58〜100,000以上で変動し得る。
【0074】
本発明の方法に使用する樹脂系反応性成分として有用な好適なエポキシ含有材料は、米国特許第6,187,836号(オクスマン(Oxman)ら)及び第6,084,004号(ワインマン(Weinmann)ら)に列挙されている。
【0075】
樹脂系反応性成分として有用な他の好適なエポキシ樹脂としては、3,4−エポキシシクロへキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−2−メチルシクロへキシルメチル−3,4−エポキシ−2−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、及びビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−メチル)アジパートに代表されるエポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどのシクロヘキサンオキシド基を含有するものが挙げられる。この性質の有用なエポキシドの更に詳細なリストについては、米国特許第6,245,828号(ワインマン(Weinmann)ら)及び第5,037,861号(クリベロ(Crivello)ら)、並びに米国特許出願公開第2003/035899(クレック(Klettke)ら)を参照のこと。
【0076】
本明細書に開示される歯科用組成物に有用であり得る他のエポキシ樹脂としては、グリシジルエーテルモノマーが挙げられる。例としては、多価フェノールとエピクロロヒドリン(例えば、2,2−ビス−(2,3−エポキシプロポキシフェノール)プロパンのジグリシジルエーテル)のような過剰クロロヒドリンと反応させることで得られる多価フェノールのグリシジルエーテルである。この種のエポキシドの更なる例は、米国特許第3,018,262号(シュローダー(Schroeder))、及び「エポキシ樹脂ハンドブック(Handbook of Epoxy Resins)」(リー(Lee)及びネビル(Neville)著、ニューヨーク州、マグローヒルブック社(McGraw-Hill Book)、1967年)に記載されている。
【0077】
樹脂系反応性成分として有用な他の公的なエポキシドは、シリコンを含有するものであり、その有用な例は、国際特許出願公開WO 01/51540(クレック(Klettke)ら)に記載されている。
【0078】
樹脂系反応性成分として有用な更なる好適なエポキシドとしては、酸化オクタデシレン、エピクロロヒドリン、酸化スチレン、酸化ビニルシクロヘキサン、グリシドール、グリシジルメタクリレート、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、及び、米国特許出願公開第2005/0113477 A1(オクスマン(Oxman)ら)に提供されているような、他の市販されているエポキシド類が挙げられる。
【0079】
様々なエポキシ含有材料の混合物も意図される。そのような混合物の例としては、低分子量(200未満)、中分子量(200〜10,000)及び高分子量(10,000超)のような2つ以上の重量平均分子量分布を有するエポキシ含有化合物が挙げられる。別の方法として、又はそれに加えて、エポキシ樹脂は、脂肪族及び芳香族、又は極性及び非極性などの官能性のような異なる化学特性を有するエポキシ含有材料の混合物を含有してもよい。
【0080】
カチオン系活性官能基を有する有用な硬化性成分の他の型としては、ビニルエーテル、オキセタン、スピロオルトカーボネート、スピロオルトエステルなどが挙げられる。
【0081】
所望であれば、カチオン系活性官能基及び遊離活性官能基の双方を単一分子内に含有してもよい。このような分子は、例えば、ジエポキシド又はポリエポキシドと1つ以上のエチレン系不飽和カルボン酸を反応させることで得ることができる。このような材料の例は、UVR−6105(ユニオンカーバイド社(Union Carbide)より入手可能)と1等量のメタクリル酸の反応生成物である。エポキシ及び遊離活性官能基を有する市販材料としては、日本のダイセル化学(Daicel Chemical)から入手可能なCYCLOMER M−100、M−101、又はA−200のようなCYCLOMERシリーズ、及びジョージア州アトランタ(Atlanta)のラッドキュアースペシャルティズ(Radcure Specialties)、UCBケミカルズ(UCB Chemicals)から入手可能なEBECRYL−3605が挙げられる。
【0082】
カチオン系の硬化性成分は、ヒドロキシル含有有機物質を更に包含してもよい。好適なヒドロキシル含有物質は、少なくとも1個、好ましくは少なくとも2個のヒドロキシル官能基を有する任意の有機物質であってもよい。好ましくは、ヒドロキシル含有物質は、2個以上の一級又は二級の脂肪族ヒドロキシル基を含有する(即ち、ヒドロキシル基が非芳香族炭素原子に直接結合している)。ヒドロキシル基は末端に位置するか、ポリマー又はコポリマーの側鎖であることができる。ヒドロキシル含有有機材料の分子量は、極低(例えば、32)〜極高(例えば、100万以上)で変動できる。好適なヒドロキシル含有材料は、低分子量(つまり、32〜200)、中分子量(つまり、200〜10,000)、又は高分子量(つまり、10,000超)を有することができる。本明細書で使用するとき、分子量は全て重量平均分子量である。
【0083】
ヒドロキシル含有材料は天然で非芳香族であるか、芳香族基を含有してよい。ヒドロキシル含有材料は、窒素、酸素、硫黄などのような分子の骨格鎖内にヘテロ原子を含有する。ヒドロキシ含有材料は、例えば、天然由来又は人工調製されたセルロース性材料から選択されてよい。ヒドロキシ含有材料は、熱不安定性基又は光分解不安定性基を実質的に含むべきではない;つまり、材料は、100℃未満の温度において、又は重合性組成物における所望の光重合条件中に発生し得る化学光の存在下で揮発性成分を分解又は遊離すべきではない。
【0084】
本発明の方法に有用な好適なヒドロキシル含有物質は、米国特許第6,187,836号(オクスマン(Oxman)ら)に列挙されている。
【0085】
硬化性成分は、ヒドロキシル基及びカチオン系活性官能基を単一分子内に含有してもよい。一例としては、ヒドロキシル基及びエポキシ基の双方を含む単一分子である。
【0086】
ガラスアイオノマー
本明細書に記載される硬化性歯科用組成物は、典型的にはその主成分として、エチレン系不飽和カルボキシル酸(例えば、ポリアクリル酸、コポリ(アクリル、イタコン酸)など)ホモポリマー又はコポリマーを用いる従来のガラスアイオノマーセメント、フルオロアルミノシリケート(「FAS」)ガラス、水、及び酒石酸などのキレート化剤など、ガラスアイオノマーセメントを包含してもよい。従来のガラスアイオノマー(即ち、ガラスアイオノマーセメント)は、典型的には、使用直前に混合される典型的に粉末/液体の処方で提供される。ポリカルボン酸の酸性反復単位とガラスから浸出するカチオンとの間におけるイオン性反応に起因して、混合物は暗所で自己硬化するであろう。
【0087】
ガラスアイオノマーセメントは、樹脂変性ガラスアイオノマー(「RMGI」)セメントもまた包含してよい。従来のガラスアイオノマーと同様に、RMGIセメントはFASガラスを用いる。しかしながら、RMGIの有機部分は異なる。RMGIの1つの型において、ポリカルボン酸は、酸性反復単位のいくつかが側鎖硬化可能基で置換するか、又はエンドキャップするように変性され、例えば、米国特許第5,130,347号(ミトラ(Mitra))に記載されるような第2硬化機構を提供するために、光反応開始剤が付加される。側鎖硬化可能基としては、通常、アクリレート又はメタクリレート基が用いられる。別の種類のRMGIでは、セメントは、ポリカルボン酸、アクリレート官能性モノマー又はメタクリレート官能性モノマー、及び光反応開始剤を含み、例えば、マチス(Mathis)らの「新規ガラスアイオノマー/コンポジット樹脂ハイブリッド修復剤(Properties of a New Glass Ionomer/Composite Resin Hybrid Restorative)」、アブストラクト51番、歯科学術誌(J. Dent Res.)、66:113(1987年)、及び米国特許第5,063,257号(アカハネ(Akahane)ら)、第5,520,725号(カトウ(Kato)ら)、第5,859,089号(キアン(Qian))、第5,925,715号(ミトラ(Mitra))、及び第5,962,550号(アカハネ(Akahane)ら)に記載されている。別の種類のRMGIでは、セメントは、ポリカルボン酸、アクリレート官能性モノマー、又はメタクリレート官能性モノマー、及び酸化還元硬化系又は他の化学硬化系を含み、例えば、米国特許第5,154,762号(ミトラ(Mitra)ら)、第5,520,725号(カトウ(Kato)ら)及び第5,871,360号(カトウ(Kato))に記載される。RMGIの他の型において、セメントには、米国特許第4,872,936号(エンゲルブレヒト(Engelbrecht))、5,227,413号(ミトラ(Mitra))、5,367,002号(ファン(Huang)他)、及び第5,965,632号(オルロフスキ(Orlowski))に記載されるような様々なモノマー含有又は樹脂含有成分が挙げられる。RMGIセメントは、好ましくは、粉末/液体又はペースト/ペースト系として処方され、混合及び塗布される水を含有する。ポリカルボン酸の酸性反復単位とガラスから浸出するカチオンとの間におけるイオン性反応に起因して、歯科用混合物は暗所で硬化することができ、市販のRMGI生成物も、典型的には、歯科用硬化ランプからの光にセメントを暴露すると硬化する。酸化還元硬化系を含有し、化学放射線を照射せずに暗所で硬化することができるRMGIセメントは、米国特許第6,765,038号(ミトラ(Mitra))に記載されている。
【0088】
光反応開始剤系
特定の実施形態では、本発明の歯科用組成物は光硬化性であり、即ち、歯科用組成物は、光硬化性成分と、化学線を照射すると歯科用組成物の重合(又は硬化)を開始する光反応開始剤(即ち、光反応開始剤系)とを含有する。そのような光重合性組成物は、フリーラジカル重合可能であるか、又はカチオン重合が可能であることができる。
【0089】
ラジカル光重合性組成物を重合させるための好適な光反応開始剤(即ち、1以上の化合物を包含する光反応開始剤系)としては、二元系及び三元系が挙げられる。典型的3元光反応開始剤類としては、米国特許第5,545,676号(パラゾット(Palazzotto)ら)に記載されているような、ヨードニウム塩、光増感剤、及び電子供与体化合物が挙げられる。好ましいヨードニウム塩は、ジアリールヨードニウム塩、例えば、ジフェニルヨードニウムクロライド、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロホウ酸塩、及びトリルクミルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸塩である。好ましい光増感剤は、400nm〜520nm(好ましくは、450nm〜500nm)の範囲内のいくらかの光を吸収するモノケトン及びジケトンである。より好ましい化合物は、400nm〜520nm(更により好ましくは、450〜500nm)の範囲内のいくらかの光を吸収するα−ジケトンである。好ましい化合物は、カンファーキノン、ベンジル、フリル、3,3,6,6−テトラメチルシクロヘキサンジオン、フェナントラキノン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン及び他の1−アリール−2−アルキル−1,2−エタンジオン、並びに環状α−ジケトンである。最も好ましいのは、カンファーキノンである。好ましい電子供与体化合物としては、置換アミン、例えば、エチルジメチルアミノベンゾエートが挙げられる。カチオン系重合可能樹脂を光重合させるために有用な他の好適な三級光反応開始剤系は、例えば米国特許第6,765,036号(デデ(Dede)他)に記載されている。
【0090】
フリーラジカル光重合性組成物を重合するために好適な他の光反応開始剤としては、典型的に380nm〜1200nmの機能的波長範囲を有するホスフィンオキシドの部類が挙げられる。好ましいホスフィンオキシドフリーラジカル反応開始剤は、380nm〜450nmの機能的波長範囲を有し、米国特許第4,298,738号(レッケン(Lechtken)ら)、第4,324,744号(レッケンら)、第4,385,109号(レッケンら)、第4,710,523号(レッケンら)、及び第4,737,593号(エルリッチ(Ellrich)ら)、第6,251,963号(コーラ−(Kohler)ら);及び欧州特許出願公開EP0 173 567 A2(イング(Ying))に記載されているもののようなアシル及びビスアシルホスフィンオキシドである。
【0091】
380nm〜450nmの波長範囲の光を照射するとフリーラジカルによる反応開始が可能な市販のホスフィンオキシド光反応開始剤としては、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(イルガキュア(IRGACURE)819、チバスペシャリティーケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals)、ニューヨーク州タリータウン(Tarrytown))、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−(2,4,4−トリメチルペンチル)ホスフィンオキシド(CGI 403、チバスペシャリティーケミカルズ)、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとの25:75重量混合物(イルガキュア1700、チバスペシャリティーケミカルズ)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとの1:1重量混合物(ダロキュア(DAROCUR)4265、チバスペシャリティーケミカルズ)、及びエチル2,4,6−トリメチルベンジルフェニルホスフィネート(ルシリン(LUCIRIN)LR8893X、BASF社、ノースカロライナ州シャーロット(Charlotte))が挙げられる。
【0092】
典型的には、ホスフィンオキシド反応開始剤は、歯科用組成物の総重量を基準として、0.1重量%〜5.0重量%など、触媒的に有効な量で光重合性組成物中に存在する。
【0093】
三級アミン還元剤類を、アシルホスフィンオキシドと組み合わせて使用してもよい。本発明で有用な三級アミンとしては、エチル−4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾエート及びN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートが挙げられる。アミン還元剤が存在する場合、それは、歯科用組成物の総重量を基準として、0.1重量%〜5.0重量%の量で光重合性組成物中に存在する。その他の反応開始剤の有用な量は、当業者には周知である。
【0094】
カチオン系光重合性組成物の重合に好適な光反応開始剤としては、二元系及び三元系が挙げられる。典型的な三要素光反応開始剤としては、欧州特許EP 0 897 710(ウェインマン(Weinmann)他);米国特許第5,856,373号(カイサキ(Kaisaki)他)、第6,084,004号(ウェインマン(Weinmann)他)、第6,187,833号(オックスマン(Oxman)他)、及び第6,187,836号(オックスマン(Oxman)他);及び米国特許第6,765,036号(ディディ(Dede)他)に記載されるようなヨードニウム塩、光増感剤、及び電子供与化合物が挙げられる。本発明の歯科用組成物は、電子供与体として1つ以上のアントラセン系化合物を包含することができる。いくつかの実施形態では、歯科用組成物は、複数の置換アントラセン化合物、又は置換アントラセン化合物と非置換アントラセンの組み合わせを含む。光反応開始剤系の一部としてのこれらの混合アントラセン電子供与体を組み合わせることによって、同マトリックスにおける単一供与体光反応開始剤系と比較した際、著しい硬化深さ及び硬化速度及び温度非感受性が向上する。アントラセン系電子供与体を有するそのような組成物は、米国特許出願公開第2005/0113477 A1(オクスマン(Oxman)ら)に記載されている。
【0095】
好適なヨードニウム塩としては、トリルクミルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリルクミルヨードニウムテトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル−フェニル)ボレート)、及び、例えばジフェニルヨードニウムクロライド、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、及びジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレートなどのジアリールヨードニウム塩が挙げられる。好適な光増感剤は、450nm〜520nm(好ましくは、450nm〜500nm)の範囲内でいくらかの光を吸収するモノケトン及びジケトンである。より好適な化合物は、450nm〜520nm(更により好ましくは、450nm〜500nm)の範囲内でいくらかの光を吸収するα−ジケトンである。好ましい化合物は、カンファーキノン、ベンジル、フリル、3,3,6,6−テトラメチルシクロヘキサンジオン、フェナントラキノン及び他の環状αジケトンである。最も好ましいのは、カンファーキノンである。好適な電子供与化合物には、例えばエチル4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート及び2−ブトキシエチル4−(ジメチルアミノ)ベンゾエートなどの置換アミン;及び多環縮合芳香族化合物(例えば、アントラセン)が挙げられる。
【0096】
反応開始剤系は、所望の硬化(例えば、重合及び/又は架橋)速度を提供するために十分な量で存在する。光反応開始剤において、この量は、光源、放射エネルギーに曝露される層の厚さ、及び光反応開始剤の吸光係数に部分的に依存するであろう。好ましくは、開始剤系は、歯科用組成物の重量を基準として、少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.03重量%、最も好ましくは少なくとも0.05重量%の総量で存在する。好ましくは、開始剤系は、歯科用組成物の重量を基準として、10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、最も好ましくは2.5重量%以下の総量で存在する。
【0097】
酸化還元反応開始剤系
特定の実施形態では、本発明の歯科用組成物は化学硬化性であり、即ち、歯科用組成物は、化学硬化性成分と、化学線による照射に依存することなく歯科用組成物を重合、硬化、又は別の方法で硬化することができる化学反応開始剤(即ち、反応開始剤系)とを含有する。そのような化学硬化性歯科用組成物は、場合によっては「自己硬化性」組成物と称され、ガラスアイオノマーセメント、樹脂修飾ガラスアイオノマーセメント、酸化還元硬化系、及びそれらの組み合わせを包含してもよい。
【0098】
化学硬化性歯科用組成物は、硬化性成分(例えば、エチレン系不飽和重合性成分)と、酸化剤及び還元剤を包含する酸化還元剤とを包含する酸化還元硬化系を包含してもよい。本発明に有用な好適な硬化性成分、酸化還元剤、任意の酸官能性成分、及び任意の充填剤は、米国特許出願公開第2003/0166740(ミトラ(Mitra)ら)及び第2003/0195273(ミトラら)に記載されている。
【0099】
樹脂系(例えば、エチレン性不飽和構成要素)の重合を開始することが可能なフリーラジカルを製造するために、還元剤及び酸化剤は、互いに反応するか、ないしは別の方法で協働すべきである。この種類の硬化は、暗反応である。即ち、光の存在に依存せず及び光が存在しない状態下で進行可能である。還元剤及び酸化剤は、好ましくは十分に貯蔵安定性があり、望ましくない着色がなく、典型的な歯科条件下においての保存及び使用を可能にする。それらは、樹脂系と十分に混和性(及び好ましくは水溶性)であって、硬化性歯科用組成物の他の成分中に容易に溶解する(及びそこからの分離を促進する)ことができるべきである。
【0100】
有用な還元剤類としては、米国特許第5,501,727号(ワング(Wang)ら)に記載されているようなアスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体類、及び金属錯体アスコルビン酸化合物;アミン類、特に三級アミン類、例えば、4−第3ブチルメチルアニリン;芳香族スルフィン酸塩類、例えば、p−トルエンスルフィン酸塩類及びベンゼンスルフィン酸塩類;チオ尿素類、例えば、1−エチル−2−チオ尿素、テトラエチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、1,1−ジブチルチオ尿素、及び1,3−ジブチルチオ尿素;及びそれらの混合物が挙げられる。他の二級還元剤類は、塩化コバルト(II)、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン(酸化剤の選択に依存する)、亜ジチオン酸塩又は亜硫酸塩アニオンの塩類、及びそれらの混合物を包含してもよい。好ましくは、還元剤はアミンである。
【0101】
好適な酸化剤はまた、当業者によく知られており、及び過硫酸及びその混合物、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、セシウム、及びアルキルアンモニウム塩類が挙げられるが、それらに限定されない。追加の酸化剤類としては、過酸化物類、例えば、過酸化ベンゾイル類、ヒドロペルオキシド類、例えば、クミルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、及びアミルヒドロペルオキシド、並びに遷移金属の塩類、例えば塩化コバルト(III)及び塩化第二鉄、硫酸セリウム(IV)、過ホウ酸並びにそれらの塩類、過マンガン酸及びその塩類、過リン酸及びその塩類、並びにそれらの混合物が挙げられる。
【0102】
複数の酸化剤又は複数の還元剤を使用することが望ましい場合がある。少量の遷移金属化合物を添加して、酸化還元硬化速度を速めてもよい。いくつかの実施形態では、米国特許出願公開第2003/0195273(ミトラ(Mitra)ら)に記載されているような、重合性成分の安定性を向上するため、二級イオン塩を包含することが好ましいことがある。
【0103】
還元剤及び酸化剤は、適切なフリーラジカル反応速度を得るのに十分な量で存在する。これは、任意の充填剤を除く硬化性歯科用組成物の成分を全て組み合わせ、硬化した質量が得られるか否かを観察することによって評価することができる。
【0104】
好ましくは、還元剤は、硬化性歯科用組成物の成分の総重量(水を含む)を基準として、少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.1重量%の量で存在する。好ましくは、還元剤は、硬化性歯科用組成物の成分の総重量(水を含む)を基準として、10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の量で存在する。
【0105】
好ましくは、酸化剤は、硬化性歯科用組成物の成分の総重量(水を含む)を基準として、少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.10重量%の量で存在する。好ましくは、酸化剤は、硬化性歯科用組成物の成分の総重量(水を含む)を基準として、10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の量で存在する。
【0106】
還元剤又は酸化剤は、米国特許第5,154,762号(ミトラ(Mitra)ら)に記載されているように、マイクロカプセル化することができる。これは、一般に、硬化性歯科用組成物の貯蔵安定性を向上し、必要であれば、還元剤及び酸化剤をともにパッケージ化することを可能にする。例えば、カプセル化用材料を適切に選択することにより、前記酸化剤及び還元剤を酸官能性構成成分及び任意の充填剤とともに組み合わせ、及び安定した保管状態に維持することができる。同様に、非水溶性カプセル化用材料を適切に選択することにより、前記酸化剤及び還元剤をFASガラス及び水とともに組み合わせ、安定した保管状態に維持することができる。
【0107】
酸化還元硬化系は、他の硬化系と、例えば、米国特許第5,154,762号(ミトラ(Mitra)ら)に記載されているような硬化性歯科用組成物と組み合わせることができる。
【0108】
充填剤
特定の好ましい実施形態では、硬化性歯科用組成物は不充填である。他の特定の実施形態では、硬化性歯科用組成物は充填剤を更に包含する。充填剤は、歯科用修復組成物に現在使用されている充填剤など、歯科用途に使用される組成物に組み込むのに適した多種多様な材料の1つ以上から選択することができる。
【0109】
充填剤は、好ましくは超微粒子状である。充填剤は、単峰性又は多峰性(例えば、二峰性)の粒径分布を有することができる。好ましくは、充填剤の最大粒径(粒子の最大寸法、典型的には直径)は、30マイクロメートル未満、より好ましくは20マイクロメートル未満、最も好ましくは10マイクロメートル未満である。好ましくは、充填剤の平均粒径は0.1マイクロメートル未満、より好ましくは0.075マイクロメートル未満である。
【0110】
充填剤は、無機物質であり得る。それはまた、樹脂系(即ち、硬化性構成成分)に不溶性の架橋型有機物質であり得、及び所望により無機充填剤で充填することもできる。充填剤は、いずれにしても非毒性であるべきであり、口内に使用するのに適しているべきである。充填剤は、放射線不透過性又は放射線透過性であり得る。充填剤は典型的には実質的に水に不溶性である。
【0111】
好適な無機充填剤の例は、天然起源材料又は合成材料であり、以下が挙げられるが、これらに限定されない:石英(即ち、シリカ、SiO);窒化物(例えば、窒化ケイ素);例えば、Zr、Sr、Ce、Sb、Sn、Ba、Zn、及びAl由来のガラス及び充填剤;長石;ホウケイ酸ガラス;カオリン;タルク;ジルコニア;チタニア;米国特許第4,695,251号(ランドクレブ(Randklev))に記載されているもののような低モース硬度充填剤;並びに、サブミクロンシリカ粒子(例えばオハイオ州アクロン(Akron)デグサ社(Degussa Corp)からの「OX50」、「130」、「150」、及び「200」シリカを包含する商品名称エアロジル(AEROSIL)として入手可能な発熱性シリカ、及びイリノイ州タスコラ(Tuscola)キャボットコーポレーション(Cabot Corp.)からのCAB−O−SIL M5シリカのような発熱性シリカ。)好適な有機充填剤粒子の例としては、充填又は非充填粉砕ポリカーボネート、ポリエポキシドなどが挙げられる。
【0112】
好ましい非酸反応性充填剤粒子は、石英(即ち、シリカ)、サブミクロンシリカ、ジルコニア、サブミクロンジルコニア、及び米国特許第4,503,169号(ランドクレブ(Randklev))に記載された種類の非ガラス質微小粒子である。これら非酸反応性(non-acid-reactive)充填剤の混合物は更に、有機及び無機の物質から調製される混合充填剤でもよい。
【0113】
前記充填剤は更に、酸反応性(acid-reactive)充填剤であってもよい。好適な酸反応性充填剤としては、金属酸化物、ガラス、及び金属塩が挙げられる。典型的な金属酸化物としては、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、及び酸化亜鉛が挙げられる。典型的なガラスとしては、ホウ酸ガラス、リン酸ガラス、及びフルオロアルミノシリケート(「FAS」)ガラスが挙げられる。FASガラスが特に好ましい。FASガラスは、典型的には、十分な溶出性のカチオンを含有するので、ガラスが硬化性歯科用組成物の成分と混合されたとき、硬化した歯科用組成物が形成される。ガラスはまた、典型的には、十分な溶出性のフッ化物イオンを含有するので、硬化した歯科用組成物は抗う食性を有するようになる。ガラスは、フッ化物、アルミナ、及び他のガラス形成成分を含有する溶解物から、FASガラス製造技術における当業者によく知られている技術を使用して作ることができる。FASガラスは、通常十分に超微粒子状の粒子の形態であるので、他のセメント構成要素と都合よく混合され得、得られた混合物が口内に使用されるとき、よく機能するであろう。
【0114】
一般に、FASガラスの平均粒径(典型的には、直径)は、例えば、沈殿分析器を使用して測定した場合、12ミクロン以下、典型的には10ミクロン以下、より典型的には5ミクロン以下である。好適なFASガラス類は、当業者によく知られており、及び多種多様な民間の供給元から入手可能であり、多くは、商品名ヴィトレマー(VITREMER)、ヴィトレボンド(VITREBOND)、リリイ・X・ルーティング(RELY X LUTING)・セメント、リリイ・X・ルーティング(RELY X LUTING)・プラス・セメント、フォタック−フィル(PHOTAC-FIL)クイック、ケタック−モラー(KETAC-MOLAR)、ケタック−フィル(KETAC-FIL)プラス(3M ESPE歯科用製品(ミネソタ州、セントポール))、フジII LC及びフジIX(G−Cデンタル工業社(G-C Dental Industrial Corp.)(日本、東京))、及びCHEMFIL・スペリオール(Superior)(デンツプライ社(Dentsply International)、(ペンシルベニア州、ヨーク))の市販のものなど、現在利用可能なガラス・アイオノマー・セメント内に見出される。所望する場合、充填剤の混合物を使用することが可能である。
【0115】
充填剤及び樹脂間の結合を高めるために、前記充填剤粒子の表面を更に、カップリング剤で処理することができる。好適なカップリング剤の使用は、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、などを包含する。特定の実施形態では、シラン処理ジルコニア−シリカ(ZrO−SiO)充填剤、シラン処理シリカ充填剤、シラン処理ジルコニア充填剤、及びそれらの組み合わせが、特に好ましい。
【0116】
他の好適な充填剤は、米国特許第6,387,981号(ジャン(Zhang)ら)及び第6、572、693号(ウー(Wu)ら)、並びに国際特許出願公開WO 01/30305(ジャンら)、WO 01/30306(ウィンディシュ(Windisch)ら)、WO 01/30307(ジャンら)、及びWO 03/063804(ウーら)に開示されている。これらの参考文献に記載されている充填剤構成成分としては、ナノサイズシリカ粒子、ナノサイズ金属酸化物粒子、及びそれらの組み合わせが挙げられる。ナノ充填剤も、米国特許第7,090,721号(クレイグ(Craig)ら)及び第7,090,722号(ブッド(Budd)ら)、並びに米国特許出願公開第2005/0252413 A1(カンガス(Kangas)ら)及び第2005/0256223 A1(コルブ(Kolb)ら)に記載されている。
【0117】
硬化性歯科用組成物が1つ以上の充填剤を包含する実施形態では、硬化性歯科用組成物は、好ましくは、少なくとも1重量%の充填剤、より好ましくは少なくとも2重量%の充填剤、最も好ましくは少なくとも5重量%の充填剤を包含する。硬化性歯科用組成物が1つ以上の充填剤を包含する実施形態では、硬化性歯科用組成物は、好ましくは、最大で85重量%の充填剤、より好ましくは最大で50重量%の充填剤、最も好ましくは最大で25重量%の充填剤を包含する。
【0118】
特定の好ましい実施形態では、不充填又は低充填硬化性歯科用組成物は、余分な硬化性及び/又は硬化した歯科用組成物の容易な掃除を提供する。低充填硬化性歯科用組成物は、典型的には、最大で35重量%の充填剤、より好ましくは最大で20重量%の充填剤、最も好ましくは最大で10重量%の充填剤を包含する。不充填及び/又は低充填硬化性歯科用組成物の例としては、プライマー及び/又はセルフエッチングプライマーが挙げられる。
【0119】
特定の好ましい実施形態では、硬化性歯科用組成物(例えば、充填又は不充填)は、本明細書に記載される方法では、例えば口腔温度(例えば、37℃)で適用の間流動性である。本明細書で使用するとき、「流動性」の硬化性歯科用組成物は、歯科用組成物が口腔温度(例えば、37℃)においてその自重で変形又は流動することを意味する。特定の「流動性」の硬化性歯科用組成物は、室温(例えば、20〜25℃)においてそれらの自重で変形又は流動する。
【0120】
任意の光退色性及び/又は示温性染料
いくつかの実施形態では、本発明の硬化性歯科用組成物は、好ましくは、歯牙構造とは著しく異なる初期色を有する。色は、好ましくは、光退色性又は示温性染料を使用することによって歯科用組成物に付与される。歯科用組成物は、好ましくは、歯科用組成物の総重量を基準として、少なくとも0.001重量%の光退色性又は示温性染料、より好ましくは少なくとも0.002重量%の光退色性又は示温性染料を包含する。歯科用組成物は、好ましくは、歯科用組成物の総重量を基準として、最大1重量%の光退色性又は示温性染料、より好ましくは最大0.1重量%の光退色性又は示温性染料を包含する。光退色性及び/又は示温性染料の量は、その吸光計数、人間の目が初期色を識別する能力、及び所望の色変化に応じて変動してもよい。好適な示温性染料は、例えば、米国特許番号第6,670,436号(バーガス(Burgath)ら)に開示されている。
【0121】
光退色性染料を含む実施形態において、光退色性染料の色形成及び退色特性は、例えば、酸強度、誘電率、極性、酸素量、及び大気の湿分含量を含む様々な要因によって変動する。しかしながら、染料の退色特性は、歯科用組成物に光を照射し、色の変化を評価することによって、容易に決定することができる。好ましくは、少なくとも1つの光退色性染料は、硬化性樹脂に少なくとも部分的に可溶性である。
【0122】
光退色性染料の代表的な型は、例えば、米国特許第6,331,080号(コール(Cole)ら)、第6,444,725号(トロム(Trom)ら)、及び第6,528,555号(ニクトウスキィ(Nikutowski)ら)に記載されている。好ましい染料としては、例えば、ローズベンガル(Rose Bengal)、メチレンバイオレット(Methylene Violet)、メチレンブルー(Methylene Blue)、フルオレセイン(Fluorescein)、エオシンイエロー(Eosin Yellow)、エオシンY(Eosin Y)、エチルエオシン(Ethyl Eosin)、エオシンブルイッシュ(Eosin bluish)、エオシンB(Eosin B)、エリスロシンB(ErythrosinB)、エリスロシンイエロー調ブレンド(Erythrosin Yellowish Blend)、トルイジンブルー(Toluidine Blue)、4’,5’−ジブロモフルオレセイン(4’,5’-Dibromofluorescein)、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0123】
本発明の組成物における色変化は、光によって開始する。好ましくは、歯科用組成物の色変化は、例えば、十分な時間可視光又は近赤外(IR)光を放射する歯科用硬化灯を使用して、化学線を使用して開始される。本発明の歯科用組成物の色変化を開始するメカニズムは、硬化メカニズムが樹脂を硬化するのとは別々であっても、又はほぼ同時であってもよい。例えば、重合が化学的(例えば酸化還元開始)又は熱的に開始する際に組成物は硬化され、初期色〜最終色の色変化は化学線への曝露の際の硬化プロセスに続いて起こり得る。
【0124】
組成物における初期色〜最終色までの色変化は、好ましくはカラーテストによって定量化される。カラーテストを使用する場合、ΔE値が決定され、この値は三次元色空間における色の総変化を示す。人間の目は、通常の照明条件においておおよそ3ΔE単位の色変化を検出できる。本発明の歯科用組成物は、好ましくは、少なくとも20のΔE;より好ましくは少なくとも30のΔE;最も好ましくは少なくとも40のΔEを有する能力がある。
【0125】
種々の任意の添加物
任意に、本発明の組成物は、溶媒(例えば、アルコール(例えば、プロパノール、エタノール)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エステル(例えば、酢酸エチル)、他の非水性溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロロリジノン))、及び水を含有してもよい。
【0126】
所望の場合、本発明の歯科用組成物は、指示薬、染料、色素、阻害物質、促進剤、粘度調整剤、湿潤剤、緩衝剤、安定剤、及び当業者には明白であろう他の類似の成分などの添加物を含有することができる。粘度調整剤は、熱感応性粘度調整剤(例えば、BASFワイアンドット社(BASF Wyandotte Corporation)、ニュージャージー州パーシパニー(Parsippany)から入手可能なプルロニック(PLURONIC)F−127及びF−108など)を包含し、調整剤上の重合性部分又は調整剤と異なる重合性構成成分を任意に包含してもよい。このような熱感応性粘度調整剤は、米国特許第6,669,927号(トロム(Trom)ら)及び米国特許公開第2004/0151691号(オクスマン(Oxman)ら)に記載されている。
【0127】
更に、薬剤又は他の治療用物質を、任意に歯科用組成物に添加することができる。例としては、歯科用組成物に使用されることが多い種類の、フッ化物源、増白剤、抗う歯剤(例えば、キシリトール)、カルシウム源、リン源、無機構成成分補給剤(例えば、リン酸カルシウム化合物)、酵素、息清涼剤、麻酔剤、凝固剤、酸中和剤、化学療法剤、免疫反応変性剤、チキソトロピー剤、ポリオール、抗炎症剤、抗菌剤(抗菌性脂質構成成分に加えて)、抗真菌剤、口腔乾燥症治療剤、減感剤などが挙げられるが、これらに限定されない。上述のいずれかの添加剤の組み合わせを用いてもよい。当業者は、このような添加剤のどれか1つの、選択及び量を、過度な実験をすることなく、所望の結果を達成するために選ぶことができる。
【0128】
方法
圧縮性材料がその表面に固着される歯科用物品(例えば、歯科矯正装具)は、当該技術分野において周知の方法(例えば、直接又は間接固着方法)を使用して歯牙構造に固着されてもよい。
【0129】
図5に示される実施形態では、圧縮性材料22は硬化性歯科用組成物を包含する。圧縮性材料22は、歯科矯正装具10の基部12に固着されるようには提供されないものとして図5に示される。しかしながら、歯科矯正装具10は、任意に、本明細書に記載されるように装具10の基部12に固着される圧縮性材料22を有するものとして提供することができる。直接固着方法を包含する実施形態では、装具10の基部12は、任意に、本明細書に記載されるような圧縮された圧縮性材料から形成することができる特注基部であり得る。
【0130】
一実施形態では、圧縮性材料22(単独であるか、又は歯科矯正装具10の基部12に固着されるかのどちらか)は、その中に硬化性歯科用組成物を有して供給される。別の実施形態では、硬化性歯科用組成物は、施術者によって圧縮性材料22(単独であるか、又は歯科矯正装具10の基部12に固着されるかのどちらか)に付加することができる。例えば、施術者は、硬化性歯科用組成物を圧縮性材料22に適用することができ、又は、圧縮性材料22を硬化性歯科用組成物に浸漬若しくは液浸することができる。
【0131】
歯科用物品(例えば、歯科矯正装具)は、本明細書に記載される圧縮性材料及び硬化性歯科用組成物を使用して、直接的及び/又は間接的方法を用いて歯牙構造に固着することができる。図5に示される実施形態では、硬化性歯科用組成物を包含する圧縮性材料22は、歯牙構造50及び歯科矯正装具10の基部12と接触され、硬化性歯科用組成物が硬化される。この処置の間、歯科矯正装具は、図6に示されるように、装具と歯牙構造との間のあらゆる間隙を実質的に充填するのに十分な圧力で、歯牙構造に適用される。歯牙構造の表面は平面ではないことがあるため、圧縮性材料22は、ある領域では本質的に完全に圧縮され(例えば、最大で10%の元の間隙体積が残っている)他の領域では本質的に圧縮されない(例えば、元の間隙体積の少なくとも90%が残っている)か、又はある程度だけ圧縮される。特定の実施形態では、圧縮性材料22を可能な限り完全に圧縮して、装具10と歯牙構造50との間の距離を最小限にすることは、装具の処方を正確に表現するのに有利である。特定の実施形態では、圧縮性材料22は、1.2ミリメートル(mm)(0.05インチ)〜2.5mm(0.1インチ)の初期(非圧縮)厚さと、少なくともいくつかの部分において0.12mm(0.005インチ)〜0.25mm(0.01インチ)の圧縮厚さ(例えば、非圧縮厚さの0.1倍の圧縮厚さ)とを有することができる。図6に示されるように、圧縮性材料22を圧縮することで、余分な硬化性歯科用組成物24が装具10の周辺又はその付近で、圧縮された圧縮性材料22から歯牙構造50上に滲出する。
【0132】
いくつかの実施形態では、硬化中に圧縮性材料に圧力を加えて、圧縮性材料の反発を防ぐことができる。他の実施形態では、圧縮性材料は、圧力が緩和された後であっても圧縮されたままとなる。
【0133】
歯牙構造は未治療又は治療済みであることができる。いくつかの実施形態では、歯牙構造50は、圧縮性材料22が歯牙構造50と接触する前に、セルフエッチングプライマーで治療される。そのような実施形態では、硬化性歯科用組成物は、典型的には、圧縮性材料を圧縮している間、又はその直後に硬化させることができる。いくつかの実施形態では、硬化性歯科用組成物はセルフエッチング性であり、歯牙構造は装具10を適用する前は未治療であることができる。そのような実施形態では、硬化性歯科用組成物は、好ましくは、硬化性歯科用組成物を硬化させる前のある期間(例えば、15秒以上)歯牙構造に接触する。
【0134】
歯科矯正装具10を歯牙構造50に適用する際、硬化性歯科用組成物及び/又は圧縮性材料を硬化させて(例えば、圧縮性材料が発泡し部分的に硬化した歯科用組成物である実施形態の場合)、歯科矯正装具を歯牙構造に接着することができる。歯科用組成物を硬化させる様々な適切な方法が当該技術分野において既知である。例えば、ある実施形態では、硬化性歯科用組成物は、紫外線又は可視光への曝露によって硬化することができる。他の実施形態において、硬化性歯科用組成物は、2つ以上の部分を結合する際に硬化する多部分組成物として提供することができる。
【0135】
本明細書に記載される圧縮性材料は間接的固着方法に使用することができる。間接的固着方法の場合、歯科矯正装具を、例えば、一般に配置用デバイスを使用して、患者の歯列弓の型(例えば、複製の石膏又は「石材」型)上に置き、後で患者の歯牙構造上に取り付けるための特注基部を提供することができる。一実施形態では、歯科矯正装具は、複製の石膏又は「石材」型に固着するための、その基部に固着される圧縮性材料を有する。したがって、例えば、硬化性歯科用組成物を硬化する際に、圧縮性材料を圧縮して特注基部を形成することができる。代表的な間接的固着方法は、例えば、米国特許出願公開第2005/0074716 A1(クリアリー(Cleary)ら)に記載されている。別の実施形態では、ブラケットは、配置用デバイスを形成する間、一時的接着剤を使用して型上の適所で保持される。型から外すときと患者の口に挿入するときとの間の任意のときに、圧縮性材料及び硬化性組成物をブラケット基部に付加することができる。
【0136】
別の実施形態では、間接的固着配置用デバイスを、装具が取り付けられた患者の歯の迅速プロトタイプ作成型(rapid prototyping model)(例えば、ステレオリソグラフィ、選択的レーザー焼結、溶融付着モデリングなど、又はそれらの組み合わせによって調製される)の周りに形成することができる。そのような迅速プロトタイプ作成型(rapid prototyping model)は、患者の歯の印象材、患者の歯の型、又は直接歯を走査することによって供給されたデータから製造することができる。ブラケットは、例えば、一時的接着剤によって、又は例えば米国特許出願公開第2006/0257821−A1(シナダー(Cinader)ら)に記載されているようなガイドとの摩擦嵌めによって、配置用デバイスを形成する間、適所で保持することができる。圧縮性材料は、ステレオリソグラフィ型から取り外した後にブラケット基部に付加することができる。ブラケットが配置ガイドとの摩擦嵌めによって適所で保持される実施形態では、圧縮性材料は、ガイド内に配置する前にブラケットに固着することができる。既に存在していない場合、硬化性歯科用組成物を、迅速プロトタイプ作成型(rapid prototyping model)から取り外した直後から患者の口に配置する直前までの任意のときに、圧縮性材料に付加することができる。
【0137】
間接的固着方法の更に別の実施形態では、配置用デバイスに提供された歯科矯正装具は、患者の歯に固着するための特注基部(任意に、圧縮された圧縮性材料から形成することができる)に固着される圧縮性材料を包含することができる。図7を参照すると、配置用デバイス50(シェル60、マトリックス材料70、及び装具80を含む)が断面図で示される。装具80は、任意に硬化性歯科用組成物を包含することができる、圧縮性材料84が固着されている特注基部82を包含する。配置用デバイス50を次に、メーカーによってパッケージ内に置き、施術者のオフィスに配送することができる。
【0138】
患者がオフィスに戻ってくると、固着処置が行われる。いずれかの歯の準備工程が完了した後、パッケージ(存在する場合)を開き、配置用デバイス50をパッケージから取り出す。例えば、圧縮性材料84がすでに硬化性歯科用組成物を包含していない場合、硬化性歯科用組成物を圧縮性材料84に付加することができる。シェル60を次に、対応する歯の上に位置付け、任意に揺動するヒンジ状の動作で載置する。図7では、患者の歯は数字90によって指定されている。マトリックス材料70の空洞の形状はその下にある歯の形状と一致するので、装具80は、装具80を複製上で以前に位置付けたのに対応する正確に同じ位置で、下にある歯90に接して同時に載置される。好ましくは、次に、圧縮性材料84が十分に圧縮されるようなときまで、及び多くの場合、硬化性歯科用組成物及び/又は圧縮性材料(例えば、圧縮性材料が発泡し部分的に硬化した歯科用組成物である実施形態の場合)が硬化するまで、シェル60の咬合面、舌面、及び頬面に圧力が加えられる。任意に、指の圧力を使用して、装具80を患者の歯90のエナメル質面にしっかり押し付けてもよい。
【0139】
装具80を患者の歯90のエナメル質面に適用すると、硬化性歯科用組成物及び/又は圧縮性材料(例えば、圧縮性材料が発泡し部分的に硬化した歯科用組成物である実施形態の場合)を硬化して、装具80を患者の歯90のエナメル質面に接着することができる。歯科用組成物を硬化する様々な適切な方法が当該技術分野において既知である。例えば、ある実施形態において、硬化性歯科用組成物は、紫外線又は可視光への曝露によって硬化することができる。他の実施形態において、硬化性歯科用組成物は、2つ以上の部分を結合する際に硬化する多部分組成物として提供することができる。
【0140】
硬化性歯科用組成物が硬化すると、シェル60が患者の歯列弓から慎重に取り外される。好ましくは、シェル60が、装具80に沿って歯列弓の上で適所にあるままのマトリックス材料70から最初に分離される。次に、マトリックス材料70が装具80から分離される。任意に、歯石除去器などの手持ち器具を使用して、マトリックス材料70が装具80から剥離されるときに、各装具80を患者のそれぞれの歯90の表面に接して保持する助けとしてもよい。しかしながら、比較的柔らかいマトリックス材料が用いられる場合、ないしは別の方法で装具80から容易に剥離する場合、新しい接着剤固着の断裂を回避する助けとするため、歯石除去具を使用することは任意である。別の選択肢として、シェル60は、硬化性歯科用組成物が硬化する前にマトリックス材料70から分離されてもよい。この選択肢は、硬化性歯科用組成物が光硬化性接着剤を包含するときに特に有用である。マトリックス材料70が装具80から分離されると、装具80のスロットにアーチワイヤが置かれ、適所で結紮される。
【0141】
有利なことに、硬化性歯科用組成物が不充填又は低充填である実施形態では、施術者は、余分な歯科用組成物(例えば、硬化した又は未硬化の)を歯牙構造から除去する必要がないことがある。
【0142】
余分な歯科用組成物を除去することが望ましい場合、不充填又は低充填歯科用組成物(例えば、硬化した又は未硬化の)の除去は、典型的には、施術者若しくは患者による、水でのすすぎ、練り歯磨きの適用、ブラッシング、又はそれらの組み合わせによって行うことができ、そのことが、過剰に(excess highly)充填された硬化した歯科用組成物を除去する間に起こり得る、装具の移動及び/又はエナメルの損傷のリスクを低減することができる。別の実施形態では、そのような余分な不充填若しくは低充填の硬化性又は硬化した歯科用組成物は、例えば、好ましくは歯牙構造を付加的に保護することができるシーラントとして歯の上に残ることができる。
【0143】
本発明の目的及び利点を以下の実施例で更に例示する。ただし、これらの実施例に列挙される特定の材料及びそれらの量、並びに他の条件及び詳細は、本発明を過度に限定するものと解釈すべきではないことに留意されたい。別段の指定がない限り、全ての部分及び百分率は重量基準であり、全ての水は脱イオン水であり、全ての分子量は重量平均分子量であり、全ての化学物質及び試薬はシグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich Corp.)(ミズーリ州セントルイス(St. Louis))から得たものである。
【実施例】
【0144】
本明細書で使用するとき、
「SEP」は、3M(3M Co.)(ミネソタ州セントポール(St. Paul))からTRANSBONDプラスセルフエッチングプライマー(TRANSBOND Plus Self Etching Primer)の商品名で入手可能な歯科矯正用セルフエッチングプライマーを指し、
「TBXTプライマー」は、3M(3M Co.)(ミネソタ州セントポール(St. Paul))からTRANSBOND XTプライマー(TRANSBOND XT Primer)の商品名で入手可能な不充填歯科矯正用プライマーを指し、
「TBXT接着剤」は、3M(3M Co.)(ミネソタ州セントポール(St. Paul))からTRANSBOND XT接着剤(TRANSBOND XT Adhesive)の商品名で入手可能な充填歯科矯正用接着剤を指す。
【0145】
固着強度試験
ウシの歯に固着されるブラケットの接着強度を、以下の標準化方法を使用して決定した。最初に、各サンプルを、QTEST/5機械試験機(MTSシステムズ(MTS Systems Corporation)(ミネソタ州エデンプレーリー(Eden Prairie))に取り付けた試験取付具内で上向きにした歯肉側タイウィングとともに装填した。直径0.05cm(0.020インチ)の標準的な円形ワイヤを、咬合側タイウィングの下でループにし、試験機のクロスヘッドに取り付けた。初期のクロスヘッド位置を調節してワイヤを張った後、ブラケットが剥離するまで毎分5ミリメートル(毎分0.2インチ)で上向きに移動させた。最大抵抗力を記録し、ブラケット基部の測定表面積で割って、固着強度を得た。報告された固着強度値はそれぞれ、10回反復した測定の平均を表す。
【0146】
(実施例1)
固着強度試験用に基材を準備するため、軟組織を取ったウシの切歯を、唇側面を露出させた状態で円形のアクリル円板に埋め込んだ。次に、埋め込んだ歯の唇側面を、水中に軽石を含むスラリーで擦り洗いし、すすいだ。各歯を最初にエッチングし、下塗りして、固着用のエナメル質面を準備した。これは、製品の取扱説明書に従って、封入されていたアプリケータを使用して、SEPを3〜5秒間エナメル質面上に擦り付けることによって達成した。次に、エアシリンジを使用して緩やかな気流を約3秒間固着領域に向けて、SEPコーティングを延ばし、余分な水分を除去した。
【0147】
固着用の発泡体を準備するため、3Mディスポーザブル・ミニスポンジ・アプリケータ(3M Disposable Mini-Sponge Applicator)(製品番号7522S、3M(3M Co.)(ミネソタ州セントポール(St. Paul))から入手可能)をTBXTプライマーに浸漬して、発泡体を完全に飽和させた。次に、プライマーで充填された発泡体を、ヴィクトリー・シリーズ(Victory Series)の上側中央ブラケット(製品番号017−401又は類似物、3Mユニテック(3M Unitek)(カリフォルニア州モンロヴィア(Monrovia)))とエナメル質面との間に挟み込んだ。ブラケット及び発泡体を歯の上に完全に載置した後、オーソラックス(Ortholux)LED硬化灯(3Mユニテック(3M Unitek)(ミネソタ州セントポール(St. Paul)))を使用して、ブラケットの近心側及び遠心側をそれぞれ5秒間照射することによって、プライマーを硬化させた。
【0148】
固着したサンプルを、25℃の水中で24時間貯蔵した。続いて、上述の手順に従って、これらのサンプルに対する固着強度試験を進めた。実施例1のこれらの試験の結果を表1に示す。
【0149】
【表1】

【0150】
比較例1
固着強度試験用の基材を準備するため、軟組織を取ったウシの切歯を、唇側面を露出させた状態で円形のアクリル円板に埋め込んだ。次に、埋め込んだ歯の唇側面を、水中に軽石を含むスラリーで擦り洗いし、すすいだ。各歯を最初にエッチングし、下塗りして、固着用のエナメル質面を準備した。これは、製品の取扱説明書に従って、封入されていたアプリケータを使用して、SEPを3〜5秒間エナメル質面上に擦り付けることによって達成した。次に、エアシリンジを使用して緩やかな気流を約3秒間固着領域に向けて、SEPコーティングを延ばし、余分な水分を除去した。
【0151】
次に、約10グラムのTBXT接着剤を、シリンジを介してヴィクトリー・シリーズ(Victory Series)の上側中央ブラケットの基部に塗布した(ブラケット基部を覆うのにちょうど間に合う)。接着剤を付けたブラケットを歯の表面上に完全に載置し、余分な接着剤をブラケット基部の周辺から除去した。次に、接着剤を、オーソラックス(Ortholux)LED硬化灯を使用して、ブラケットの近心側及び遠心側をそれぞれ5秒間照射することによって硬化させた。
【0152】
固着したサンプルを全て、25℃の水中で24時間貯蔵した。続いて、上述の手順に従って、これらのサンプルに対する固着強度試験を進めた。比較例1に対する固着強度の結果もまた表1に示す。発泡体ベースの接着剤と対照接着剤との比較は、発泡体接着剤が著しく低い固着強度をもたらしたことを示している。しかしながら、接着剤は両方とも、ブラケット当たり8MPaを超える臨床的に許容可能な固着強度をもたらしている。測定した固着強度の標準偏差は2つの接着剤間で類似していた。
【0153】
上述の説明及び実施例は理解を明確にするためにのみ提示してきた。本明細書から無用の限定が理解されるべきではない。本発明は、図示し記載した厳密な詳細事項に限定されるものではないが、それは、当業者には明白な変形例が、特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲内に含まれるためである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品を歯牙構造に固着するための表面を有する歯科用物品と、
前記物品の前記表面に固着される圧縮性材料とを備える、物品。
【請求項2】
前記圧縮性材料が、前記物品の前記表面に機械的に固着されるか、前記物品の前記表面に化学的に固着されるか、又はそれらの組み合わせである、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記歯科用物品が歯科矯正装具である、請求項1に記載の物品。
【請求項4】
前記圧縮性材料が多孔質材料である、請求項1に記載の物品。
【請求項5】
前記多孔質材料が、発泡体、スポンジ、不織布、ガラスウール、綿繊維、セルロース繊維、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項4に記載の物品。
【請求項6】
前記発泡体が、セルロース発泡体、ガラス発泡体、ポリマー発泡体、発泡され少なくとも部分的に硬化した歯科用組成物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項5に記載の物品。
【請求項7】
前記圧縮性材料が硬化性歯科用組成物を更に含む、請求項1に記載の物品。
【請求項8】
前記圧縮性材料が、前記硬化性歯科用組成物を少なくとも部分的にその孔内に有する多孔質材料である、請求項7に記載の物品。
【請求項9】
前記硬化性歯科用組成物が、
エチレン系不飽和化合物と、
硬化剤とを含む、請求項7に記載の物品。
【請求項10】
前記硬化性歯科用組成物が流動性である、請求項7に記載の物品。
【請求項11】
前記流動性の硬化性歯科用組成物が不充填又は充填されている、請求項10に記載の物品。
【請求項12】
前記硬化性歯科用組成物が、前記硬化性歯科用組成物の総重量を基準として、最大85重量%の充填剤を含む、請求項11に記載の物品。
【請求項13】
前記硬化性歯科用組成物がプライマー又はセルフエッチングプライマーである、請求項7に記載の物品。
【請求項14】
前記圧縮性材料がカプセルを含む、請求項1に記載の物品。
【請求項15】
前記カプセルが、マイクロカプセル、ガラスビーズ、中空プラスチックビーズ、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項14に記載の物品。
【請求項16】
前記圧縮性材料が、少なくとも部分的に前記カプセル内に、少なくとも部分的に前記カプセルの外表面上に、又はそれらの組み合わせに位置する硬化性歯科用組成物を更に含む、請求項14に記載の物品。
【請求項17】
物品を歯牙構造に固着するための表面と、前記物品の前記表面に固着される圧縮性材料とを有する歯科用物品と、
キットを使用するための取扱説明書とを備える、キット。
【請求項18】
前記歯科用物品が歯科矯正装具である、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
セルフエッチングプライマーを更に含む、請求項17に記載のキット。
【請求項20】
硬化性歯科用組成物を更に含む、請求項17に記載のキット。
【請求項21】
前記硬化性歯科用組成物がプライマー又はセルフエッチングプライマーである、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
歯科用物品を歯牙構造に固着する方法であって、前記方法が、
前記物品を歯牙構造に固着するための表面を有する歯科用物品を提供する工程と、
硬化性歯科用組成物を含む圧縮性材料を提供する工程と、
前記硬化性歯科用組成物を含む前記圧縮性材料を、前記歯牙構造及び前記歯科用物品の前記表面と接触させる工程と、
前記歯科用組成物を硬化させる工程とを含む、方法。
【請求項23】
接触させる工程が、
前記硬化性歯科用組成物を含む前記圧縮性材料が表面に固着された前記歯科用物品を提供する工程と、
前記圧縮性材料がその上に固着された前記物品の前記表面を、前記歯牙構造に適用する工程とを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記歯科用物品が歯科矯正装具である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記歯牙構造が天然の歯表面を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記歯牙構造が歯の型を含み、前記歯科用組成物の硬化が、間接的固着方法に使用される前記歯科矯正装具上の特注型を形成する、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
硬化性歯科用組成物を含む圧縮性材料を提供する工程が、多孔質の圧縮性材料を硬化性歯科用組成物と接触させる工程を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
前記圧縮性材料を前記歯牙構造と接触させる前に、セルフエッチングプライマーを前記歯牙構造に適用する工程を更に含む、請求項22に記載の方法。
【請求項29】
前記硬化性歯科用組成物がプライマー又はセルフエッチングプライマーである、請求項22に記載の方法。
【請求項30】
前記歯科用物品を前記歯牙構造に固着する工程が、余分な硬化性又は硬化した歯科用組成物を除去する工程を含まない、請求項22に記載の方法。
【請求項31】
余分な硬化性又は硬化した歯科用組成物を除去する工程を更に含む、請求項22に記載の方法。
【請求項32】
余分な硬化性又は硬化した歯科用組成物を除去する工程が、水ですすぐ工程、練り歯磨きを適用する工程、ブラッシングする工程、又はそれらの組み合わせを含む、請求項31に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−507682(P2010−507682A)
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−534777(P2009−534777)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/081708
【国際公開番号】WO2008/051775
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】