説明

歯科用硬化性組成物

【課題】 歯科用硬化性組成物として適度な半透明性を有し、硬化前後の透明性変化が小さく、しかも硬化前後の色調変化が小さいため、硬化前後の目視の変化が小さいことが望まれるコンポジットレジン等に好適に使用できる歯科用硬化性組成物を提供する。
【解決手段】 (A)重合可能なビニルモノマー、
(B)それぞれ特定の屈折率の範囲にある、b1)高屈折率フィラー、b2)中屈折率フィラー、およびb3)低屈折率フィラーから実質的になるフィラー成分
(C)ラジカル重合開始剤
を含んでなる歯科用硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル重合によって重合を開始する歯科用の硬化性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、科医療の修復治療においては審美性が重視され、より自然な歯に近い修復が求められるようになってきた。一方、種々の接着性モノマーの開発により、う蝕歯牙の修復にはMI(minimal intervention)の概念が普及しつつある。この概念によれば、う蝕歯牙の治療には、う蝕部位の削除を最小限に抑え、切削により形成された窩洞にボンディング剤と呼ばれる接着剤を塗布、硬化した後、コンポジットレジンと呼ばれる充填修復剤を充填した後重合硬化せしめて治療される。このような歯牙に直接充填し重合硬化させる修復材料によって審美性を重視した治療を施すためには、予め多くの色調や透明性の異なる材料を用意して天然歯の微妙な色調を再現する方法が取られる。
【0003】
天然の歯牙には個体差が有り、しかも各々の歯の部位においても色調が異なるため、歯科医師は材料の色調を模したシェードガイドを参考にして修復材料の色調を選択し、当該色調の材料を修復部位に充填して重合硬化せしめる。使用した修復材料の色調が天然歯の色調に適合しているかどうかは、重合硬化後の材料とその周囲の天然歯を比較することで判断され、修復材料の色調が天然歯により近ければ自然な修復であると言える。
【0004】
審美的修復を満足させるためには色調と透明性が重要である。例えば、天然歯の切端部は色が薄く透明性が高い部位であり、歯頚部や歯根部は色が濃く透明性が低い部位であると言える。このような天然歯を審美的に修復するためには充填修復材料の色調と透明性をコントロールする必要がある。一般的に、充填修復材料の色調や透明性の調整には顔料などの添加剤が用いられ、これらの添加量を調節することで多様な色調を作り出している。
【0005】
歯科医師がこのような充填修復材料を用いて審美的修復を行う時は、材料の色調を模したシェードガイドを参考にして修復材料の色調を選択し、当該色調の材料を修復部位に充填して重合硬化せしめる。この時、選択した材料の色調が周囲の歯牙の色調と適合していれば問題ないが、万が一、修復材料と天然歯の色調が異なれば修復部位が目立って不自然になり、患者の満足が得られない場合は修復物を撤去した後に再充填し修復治療をやり直すことになる。硬化後の修復材料はボンディング剤により歯質と強固に接着しているために撤去が困難であり、歯科医師に多くの労力と時間を要求するとともに、患者にも多大な苦痛を与えることになる。
【0006】
このような問題を軽減するためには、修復材料の色調選択をシェードガイドや経験に頼るだけでなく、重合硬化する前の状態で修復材料と窩洞周囲の歯牙との色調が適合しているか否かを判断できるようにすることが有効である。重合硬化前の状態であれば充填修復材料は歯質と接着していないために除去・再修復が容易である
このような問題は、重合硬化性の充填修復材に用いられるビニルモノマーの屈折率が重合前後において変化することに起因する。一般的には重合前のビニルモノマーに比較して重合後のポリマーは屈折率が高くなり、これが原因となって材料の透明性及び色調が変化する。この硬化前後の透明性変化を抑えるため、充填修復材に用いられるフィラーの屈折率が種々検討されてきた(例えば、特許文献1、2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開昭63−218703号公報
【特許文献2】特開平01−186807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記先行技術によれば、モノマーとポリマーの屈折率の平均の屈折率よりも、屈折率の高いフィラーと低いフィラーを組み合わせせることによって、天然の歯牙に類似した半透明性を持たせつつ、硬化前後の透明性変化を小さくしている。このように、特定の屈折率の異なる2種類のフィラーを組み合わせることでかなり透明性の変化は小さくすることができ、好適であった。例えば、特許文献1においては硬化前後の透明度の差をコントラスト比(Yb/Yw)を用いて評価しており、また、特許文献2においては明度(L値)の差を用いて評価しており、これらの硬化前後の差が小さいことから透明性の変化が小さくなっていることが伺える。
【0009】
しかしながら、より高度な審美修復を行うためには、透明性の変化を抑制するのみならず、色調変化も小さくする必要がある。色調は、例えば国際照明委員会(CIE)で規格化されたL表色系によれば、明度Lと色度a、bで表される。この表示による色調の変化は〔(ΔL+(Δa+(Δb1/2で表され、特許文献2のようにL値のみの評価では色調変化を充分に表しきれておらず、また、色調変化の抑制も不十分である。このように、硬化前後の色調変化に関しては更なる改良が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を続けてきた。その結果、屈折率の異なる3種類のフィラー、すなわちモノマーの屈折率近辺のフィラー、モノマーとポリマーの屈折率の間のフィラー、及びポリマーの屈折率近辺のフィラーを組み合わせることで透明性の変化をより抑制し、しかも色調の変化も小さくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(A)重合可能なビニルモノマー
(B)下記に示すb1)〜b3)から実質的になるフィラー成分
b1)次式を満足する屈折率(nF1)を有する高屈折率フィラー
【0012】
【数1】

【0013】
b2)次式を満足する屈折率(nF2)を有する中屈折率フィラー
【0014】
【数2】

【0015】
b3)次式を満足する屈折率(nF2)を有する低屈折率フィラー
【0016】
【数3】

【0017】
〔但し、nは重合可能なビニルモノマーの屈折率であり、nは該ビニルモノマーを重合して得られるポリマーの屈折率である。〕
(C)ラジカル重合開始剤
を含んでなる歯科用硬化性組成物である。
【0018】
さらに、本発明は、上記の歯科用光硬化性組成物からなる歯科用充填修復材も提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の歯科用硬化性組成物は、硬化前後の色調変化及び透明性変化が小さく、材料の色調が窩洞周囲の歯牙の色調と調和しているか否かが重合硬化前に判定できるものである。
【0020】
従って、本発明の歯科用硬化性組成物は、上記特性を利用して歯科充填修復材、歯科歯冠材料、歯科シーラント、歯科セメント、歯科接着剤、歯科補修材等の用途において好適に使用できる。特に、コンポジトレジンと呼ばれる歯科充填修復材料に最適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の歯科用硬化性組成物は、各々屈折率が異なり、特定の範囲の屈折率を有する3種類のフィラーを組み合わせて用いることに特徴がある。
【0022】
F1で表される屈折率を有するフィラーは、3種類のフィラーの中で最も屈折率の高いものであり、ビニルポリマーの屈折率に近いものである。当該フィラーを以下では高屈折率フィラーとも述べるが、該フィラーの屈折率は以下の式を満足する必要がある。
【0023】
【数4】

【0024】
高屈折率フィラーの屈折率(nF1)がn+0.030よりも大きい場合には硬化前のペーストが不透明になり、硬化前後の透明性変化が大きくなる。また、nF1が(n+n)/2+0.005以下の場合には、硬化前後の色調変化が大きくなる。硬化前後の透明性変化と色調変化をより小さくする観点からは、高屈折率フィラーの屈折率は、
【0025】
【数5】

【0026】
であるのがより好ましく、
【0027】
【数6】

【0028】
であるのがより好ましい。
【0029】
本発明の高屈折率フィラーは同一の組成で表される1種類のフィラーであっても良く、前記の数式を満足すれば2種類以上のフィラーを混合して用いてもよい。
【0030】
F2で表される屈折率を有するフィラーは、3種類のフィラーの中の中間の屈折率を有するものであり、ビニルモノマーとビニルポリマーの間の屈折率のものである。当該フィラーを以下では中屈折率フィラーとも述べるが、該フィラーの屈折率は以下の式を満足する必要がある。
【0031】
【数7】

【0032】
このような中屈折率フィラーを含有しない場合、硬化性組成物の硬化前後の色調変化が大きくなる。硬化前後の色調変化をより小さくする観点からは、中屈折率フィラーの屈折率は、
【0033】
【数8】

【0034】
であるのがより好ましく、
【0035】
【数9】

【0036】
であるのがより好ましい。
【0037】
本発明の中屈折率フィラーは同一の組成で表される1種類のフィラーであっても良く、前記の数式を満足すれば2種類以上のフィラーを混合して用いてもよい。
【0038】
F3で表される屈折率を有するフィラーは、3種類のフィラーの中で最も屈折率の低いものであり、ビニルモノマーの屈折率に近いものである。当該フィラーを以下では低屈折率フィラーとも述べるが、該フィラーの屈折率は以下の式を満足する必要がある。
【0039】
【数10】

【0040】
低屈折率フィラーの屈折率(nF3)が(n+n)/2−0.015よりも大きい場合には硬化前の色調変化が大きくなる。また、nF3がn−0.050よりも小さい場合には、硬化後の硬化体が不透明になり、硬化前後の透明性変化が大きくなる。硬化前後の透明性変化と色調変化をより小さくする観点からは、低屈折率フィラーの屈折率は、
【0041】
【数11】

【0042】
であるのがより好ましく、
【0043】
【数12】

【0044】
であるのがより好ましい。
【0045】
本発明の低屈折率フィラーは同一の組成で表される1種類のフィラーであっても良く、前記の数式を満足すれば2種類以上のフィラーを混合して用いてもよい。
【0046】
本発明のように特定の屈折率を有する高屈折率フィラー、中屈折率フィラー及び低屈折率フィラーを配合することで、硬化前後の色調変化を抑制できるメカニズムは明らかではないが、3種類のフィラーを配合することで特許文献2のようにΔL*抑えるだけでなく、Δa*やΔb*をも抑制する効果があるものと考えられる。
【0047】
フィラー成分中において、各屈折率フィラーの配合比は特に制限されるものではないが、透明性変化と硬化前後の色調変化をより良好なものにする観点からは、高屈折率フィラーの配合量が20〜90質量%であり、中屈折率フィラーの配合量が5〜70質量%であり、低屈折率フィラーの配合量が1〜20質量%であるのが好ましい。硬化前後の透明性変化と色調変化を特に小さくするためには、高屈折率フィラーの配合量が30〜80質量%であり、中屈折率フィラーの配合量が10〜60質量%であり、低屈折率フィラーの配合量が2〜15質量%であるのがさらに好ましい。
【0048】
本発明において、これらフィラー成分は、上記b1)〜b3)により実質的に構成されるものであり、通常は、これら3種のフィラーのみよりなるものが使用される。本発明の効果を大きく低下させない範囲ならば、該b1)〜b3)成分以外のフィラーも少量混入されることは許容されるが、その量は、通常3質量%以内であり、特に好ましくは1質量%以内である。
【0049】
F1、nF2、nF3としては、上記の屈折率を満足すれば、公知のフィラーが何ら制限無く用いられる。該フィラーとしては一般的に、無機フィラー、有機ポリマー及び有機ポリマーに無機フィラーを添加した有機無機複合フィラーが挙げられる。各屈折率フィラーとして使用するフィラーの種類は、組合される重合可能なビニルモノマーの前記各屈折率との関係でこれら各フィラーに求められる屈折率が決定され、また、使用するフィラーも、複合物である場合にはその構成成分の組成比により屈折率が変動するため、一概には振り分けられるものではなく、要求される屈折率と、個々のフィラーの屈折率との関係から適宜に採択すればよい。
【0050】
それぞれの屈折率フィラーとして使用される無機フィラーを具体的に例示すると、例えば非晶質シリカ;、石英、クリストバライト、ユークリプタイト、スポジユメン、カーネギート、正長石、曹長石、灰長石等の天然鉱物シリカ−アルミナ−カルシア−酸化ナトリウム−酸化カリウム、シリカ−アルミナ−酸化ホウ素−酸化カリウム−酸化バリウム、シリカ−カルシア−酸化ホウ素−酸化ナトリウム−酸化カリウム−酸化亜鉛、シリカ−酸化ナトリウム−酸化カリウム−酸化鉛等を主成分とするガラス;シリカと結合可能な周期律表第I族、第II族、第III族及び第IV族からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属酸化物及びシリカを主な構成成分とする無機酸化物、例えばシリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア、シリカ−チタニア−ジルコニアを挙げることができる。ここで、上記各無機フィラーの屈折率は、非晶質シリカは約1.46であり、天然鉱物は非常に幅広く通常1.4〜1.7の範囲であり、シリカを含むガラスや無機酸化物の屈折率は、シリカと他の成分の構成比にもよるが約1.47〜1.58の範囲である。
【0051】
有機物のフィラーとしては、ビニルモノマーに溶解せずにフィラーとして作用するものであればよいが、これらを具体的に例示すると、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリn−ブチルアクリレート等の単官能性メタクリレート又はアクリレートのポリマー;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、2,2−ビス〔4−(3−メタクリロキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル9〕プロパン等の2官能性メタクリレートのポリマーまたはこれらのメタクリル基をアクリル基で置換した形のアクリレートのポリマー;トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート等の3官能あるいは4官能性メタクリレートのポリマー又はこれらのメタクリル基をアクリル基で置換した形のアクリレートのポリマー等を挙げることができる。また、上記各モノマーの共重合体を用いることも可能である。この他に、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリジアリルフタレート、ポリジエチレングリコールビスアリルカーボネート等を挙げることもできる。ここで、上記各有機フィラーの屈折率は、通常、約1.45〜1.60の範囲であり、このうち、芳香環を有しているモノマーの重合体については約1.54〜1.65の範囲にあるのが普通である。
【0052】
また、上記ポリマーを強化するために、無機フィラーを充填し有機無機複合フィラーとすることも可能である。有機無機複合フィラーとしては、本発明に使用される無機フィラーを上記ポリマー中に均一に分散せしめた構造を有するものが好適である。この有機無機複合フィラーは光透過性を有する必要があるため、無機フィラーとポリマーとの屈折率の差が0.02以内であることが望ましい。さらに、本発明の歯科用硬化性組成物を硬化後に研磨することを考慮すれば、無機フィラーの平均粒径は3μm以下であることが好ましい。
【0053】
本発明に使用されるこれらのフィラーは、補強効果の点から有機フィラーよりも、無機フィラーや有機無機複合フィラーが好ましい。さらに、本発明において、高屈折率フィラー、中屈折率フィラー及び低屈折率フィラーは、以下のようなフィラーが好適に使用される。高屈折率フィラーには、高い審美性、硬化前後の色調変化の抑制に加えて、X線造影性付与のため、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア−ジルコニア、シリカ−アルミナ−酸化ホウ素−酸化カリウム−酸化バリウムを主成分とするガラス等が好適である。また、中屈折率フィラーには、高い審美性、小さな色調変化、操作性の改良やX線造影性付与のため、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア−ジルコニア、シリカ−チタニア等や、これらの無機酸化物を含んだ有機無機複合フィラーが好ましい。また、低屈折率フィラーには、硬化前後の色調変化の抑制、保存安定性や操作性の改良、表面滑沢性の向上などから、非晶質シリカ、シリカ−チタニア等が好ましい。
【0054】
本発明に使用される高屈折率フィラー、中屈折率フィラー及び低屈折率フィラーの粒径、形状は特に限定されない。しかしながら、粒径が小さすぎるとフィラーとビニルモノマーとを混合する場合、界面の面積が大きくなりフィラーをビニルモノマー中へ多量に充填することが困難となる。その結果、硬化性組成物を重合して得られる硬化体の強度が低下する。従って本発明に使用されるフィラーの平均粒径は0.02μm以上であることが好ましい。逆に粒径の大きなフィラーを用いた場合は、一般に硬化性組成物を重合して得られる硬化体の表面は粗造となるので、フィラーの平均粒径は0.02〜100μmの範囲にあることが好ましい。特にフィラーが無機物である場合には、その粒径が大きいと硬化体の表面が粗造となるだけでなく、研磨を行っても滑沢な表面を得ることが困難となるので、平均粒径が0.02〜10μmの範囲にあることが好ましく、さらには0.05〜3μmの範囲がより好ましい。さらに、フィラーの形状が球状であれば、より滑沢な面が得やすくなり非常に好ましい。一方、フィラーが有機物や有機無機複合フィラーの場合は、粒径による研磨面への影響を受け難いため、製造の容易さ等から、平均粒径は1〜100μmの範囲であることが好ましい。
【0055】
本発明のフィラーにシリカを含有する無機酸化物を用いる場合には、その表面安定性を保持するために表面のシラノール基を減ずるのが好ましい。そのために無機酸化物を乾燥後、さらに500〜1000℃の温度で焼成する手段がしばしば好適に採用される。また、一般に前記焼成した無機酸化物は安定性を保持するために有機ケイ素化合物を用いて表面処理を行った後に使用するのが最も好適である。上記表面処理の方法は特に限定されず、公知の方法、例えば無機酸化物とγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン等の公知の有機ケイ素化合物とを、アルコール等の溶媒中で一定時間接触させた後、該溶媒を除去する方法が採用される。
【0056】
次に本発明における重合可能なビニルモノマーについて説明する。該ビニルモノマーは特に限定されず、重合性基として、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基等を有する一般に公知のものが使用できる。本発明で使用される代表的なものを例示すれば、アクリル基及び/又はメタクリル基を有する重合可能なモノマーである。また、重合可能なビニルモノマーは、モノマーの重合性や得られた硬化体の機械的物性などの理由から、二官能以上、より好適には二官能〜四官能の重合性単量体であるのが好ましい。具体的に例示すれば次のとおりである。
(I)二官能重合性単量体
(i)芳香族化合物系のもの
2,2−ビス[4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン;上記の各種メタクリレートに対応するアクリレート;及びOH基含有ビニルモノマーと、芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト等。
【0057】
(上記OH基含有ビニルモノマーとしては、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレート、あるいはこれらメタクリレートに対応するアクリレートを例示できる。また、上記のジイソシアネートとしては、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネートを例示できる。
【0058】
(ii)脂肪族化合物系のもの
1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサメチレンジオールジメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;及びOH基含有ビニルモノマーと、脂肪族ジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト等。
(上記のOH基含有ビニルモノマーとしては、先に例示したものと同様のものを挙げることができ、脂肪族ジイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)等を挙げることができる。)
(II)三官能重合性単量体
トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート等のメタクリレート;及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等。
【0059】
(III)四官能重合性単量体
ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート;及びジイソシアネート化合物とグリシドールジメタクリレートとの付加体から得られるジアダクト等;
(上記のジイソシアネート化合物としては、ジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネート等を挙げることができる。
【0060】
さらに、これらのモノマーの中でも特に好適に用いられるものを挙げると、以下の通りである。
(I)二官能重合性単量体
(i)芳香族化合物系のもの
2,2−ビス[4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン等。
【0061】
(ii)脂肪族化合物系のもの
エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサメチレンジオールジメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;OH基含有ビニルモノマーと、脂肪族ジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト等。
【0062】
(II)三官能重合性単量体
トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート等。
【0063】
(III)四官能重合性単量体
ペンタエリスリトールテトラメタクリレート等。
【0064】
上述した多官能の(メタ)アクリレート系単量体は、必要に応じて複数の種類のものを併用しても良い。
【0065】
さらに、必要に応じて、単官能の(メタ)アクリレート系単量体や、上記の多官能の(メタ)アクリレート系単量体以外の重合性単量体を用いても良い。尚、単官能の(メタ)アクリレート系単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0066】
本発明における重合可能なビニルモノマーとは単一成分の場合のみならず、複数のビニルモノマーからなるビニルモノマー混合物も含む。重合可能なビニルモノマーを複数種類用いる場合、このビニルモノマーが室温で極めて粘度が高いもの、あるいは固体である場合には、低粘度の重合可能なビニルモノマーと組み合わせて使用することが好ましい。この組合せは2種類に限らず、3種類以上であっても良い。
【0067】
上記ビニルモノマーの組合せにおける組成比は必要に応じて決定すればよいが、一般に好適に採用される組成比を示す。
(1)2官能性ビニルモノマーの芳香族化合物は30〜80質量%で、同脂肪族化合物は70〜20質量%
(2)3官能性ビニルモノマーは30〜100質量%で4官能性ビニルモノマーは0〜70質量%
(3)2官能性ビニルモノマーの芳香族化合物は10〜60質量%、同脂肪族化合物は5〜30質量%、3官能性ビニルモノマーは10〜80質量%、4官能性ビニルモノマーは0〜50質量%等の組成比が好ましい。
【0068】
本発明の硬化性組成物に好適に用いられる重合可能なビニルモノマーの屈折率は1.45〜1.55の範囲であり、該ビニルモノマーを重合して得られるビニルポリマーの屈折率は1.50〜1.60の範囲である。より好ましくは、ビニルモノマーの屈折率は1.48〜1.53の範囲であり、該ビニルモノマーを重合して得られるビニルポリマーの屈折率は1.52〜1.58の範囲である。さらに、本発明の硬化性組成物に用いられる重合可能なビニルモノマーと、該ビニルモノマーを重合して得られるビニルポリマーとの屈折率差は0.04以内であることが好ましい。
【0069】
次に、本発明で用いるラジカル重合開始剤について説明する。歯科用硬化性組成物として一般的に用いられる公知のラジカル重合開始剤が制限なく用いられるが、390〜700nmの可視光線照射により励起され重合を開始し得る光重合開始剤、過酸化物/重合促進剤からなる化学重合開始剤、過熱により重合を開始し得る熱重合開始剤を挙げることができる。好ましくは光重合開始剤または化学重合開始剤であり、より好ましくは光重合開始剤である。
【0070】
本発明で用いられる光重合開始剤としては390〜700nmの可視光線照射により励起され重合を開始し得る光重合開始剤が選択されるが、好ましくは400〜600nmの可視光で重合を開始する重合開始剤である。また、一般的に光重合開始剤としては光増感剤と光重合促進剤とを組み合わせて使用するのが好ましい。光増感剤として好適に用いられるものを例示すれば、ベンジル、カンファーキノン、α−ナフチル、アセトナフセン、p,p’−ジメトキシベンジル、p,p’−ジクロロベンジルジアセチル、ペンタンジオン、1,2−フェナントレンキノン、1,4−フェナントレンキノン、3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン、ナフトキノン等のα−ジケトン類が挙げられる。本発明における上記α−ジケトンは公知のα−ジケトンのうち少なくとも1種を選んで用いることができ、さらに2種類以上を混合して用いることもできる。また、カンファーキノンは最も好適に用いることができる。
【0071】
また光重合促進剤としては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン,N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン等の第3級アミン類;5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類;ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート等の有機過酸化物類;ジフェニルヨードニウム、ビス(p−クロロフェニル)ヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p−メトキシフェニル)ヨードニウム、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、p−イソプロピルフェニル−p−メチルフェニルヨードニウム、ビス(m−ニトロフェニル)ヨードニウム、p−tert−ブチルフェニルフェニルヨードニウム、p−メトキシフェニルフェニルヨードニウム、p−オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム、p−フェノキシフェニルフェニルヨードニウム等のカチオンと、クロリド、ブロミド、ベンゼンスルホナート、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネート等のアニオンからなる塩等のヨードニウム塩類;2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−ビフェニリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等のトリアジン類が好適に使用できる。これらの光重合促進剤のうち、少なくとも1種を選んで用いることができ、さらに2種以上を混合して用いることもできる。
【0072】
また、第3級アミン類を促進剤として用いる場合には、特に芳香族基に直接窒素原子が結合した第3級アミン類がより好適に用いられる。さらに重合促進能の向上のために、第3級アミン類に加えてクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グリコール酸、グルコン酸、α−オキシイソ酪酸、2−ヒドロキシプロパン酸等のオキシカルボン酸類の添加が効果的である。
【0073】
また、本発明で用いられる化学重合開始剤としては過酸化物と重合促進剤を組み合わせて使用される。過酸化物としては上記の有機過酸化物が挙げられ、重合促進剤としては上記の第3級アミン類、バルビツール酸類が挙げられる。
【0074】
また、本発明で用いられる熱重合開始剤としては上記の有機過酸化物類;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物類が挙げられる。
【0075】
本発明の硬化性組成物の好適な混合割合を示すと、(A)重合可能なビニルモノマー100質量部に対して、(B)フィラー成分の配合量が50〜900質量部であり、(C)ラジカル重合開始剤の配合量が0.001〜10質量部である。さらに、より好ましくは(A)重合可能なビニルモノマー100質量部に対して、(B)フィラー成分の配合量が100〜870質量部であり、(C)ラジカル重合開始剤の配合量が0.01〜3質量部である。
【0076】
本発明の硬化性組成物を重合させる場合、ラジカル重合開始剤の種類によってその重合方法は異なる。光重合開始剤の場合、光の波長は390〜700nm、好ましくは400〜600nmの範囲の光が用いられる。人体に適用される歯科用硬化性組成物に用いる場合、照射する光の波長が人体に無害であることは重要である。前記の波長範囲の光としては、ハロゲンランプ、キセノンランプ、レーザー、蛍光灯、太陽光等の光を使用することができる。また、前記の光を照射しビニルモノマーを重合する場合の温度、照射時間は照射光の強さにより異なるが、一般に所望の重合時間に合わせ適宜決定すればよい。好適には0〜60℃の範囲で、3秒から数分程度の照射を行えば充分である。
【0077】
化学重合開始剤の場合、過酸化物と重合促進剤を使用直前に混合することで化学反応が開始し、重合硬化に至る。この混合操作を充分均一に行うために硬化に至るまでの時間は数10秒から10分程度確保する必要がある。このため、重合開始剤、重合禁止剤の量を適宜選択する必要がある。
【0078】
熱重合開始剤の場合、その加熱温度は使用する重合開始剤の種類により異なるが、一般的には30〜200℃、好ましくは50〜150℃の範囲である。
【0079】
さらにまた、2−ヒドロキシ−4−メチルベンゾフェノンのような紫外線吸収剤;ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,5−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール等の重合禁止剤;2,5−ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル等の蛍光剤;顔料等の成分を本発明の硬化性組成物に添加することもできる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。まず、実施例で用いたフィラー、重合性単量体、重合触媒等の化合物の略称を以下に示す。
(1)略称・略号
・CQ:カンファーキノン
・DMBE:N,N−ジメチルp−安息香酸エチル
・3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
・GMA:2,2−ビス[(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン
・D−2.6E:2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エチレンオキサイドの繰返し単位を1分子中に平均で2.6個有する)
・D−6E:2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エチレンオキサイドの繰返し単位を1分子中に平均で6個有する)
・UDMA:1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルオキサン
・HD:ヘキサメチレンジオールジメタクリレート
・F−11:平均一次粒径0.2μmの球状のシリカ−ジルコニア(屈折率1.542)
・F−12:平均1次粒径0.2μmの球状のシリカ−チタニア(屈折率1.544)
・F−21:平均一次粒径0.2μmの球状のシリカ−ジルコニア(屈折率1.522)
・F−22:平均粒径0.2μmの球状シリカ−ジルコニアと3G/GMA/HD=25/35/40からなる平均粒径40μmの有機無機複合フィラー(屈折率1.524)
・F−23:平均1次粒径3μmの不定形シリカ−ジルコニア(屈折率1.531)
・F−31:平均一次粒径0.2μmの球状のシリカ−チタニア(屈折率1.504)
・F−32:平均1次粒径0.08μmの球状のシリカ−チタニア(屈折率1.506)
また、以下の実施例及び比較例に示した屈折率測定方法、ペースト調製方法、透明度および色調の測定方法は以下の方法を用いた。
【0081】
(1)フィラーの屈折率の測定方法
試料の無機フィラーの屈折率と同じ屈折率の溶媒を調製し、その溶媒の屈折率を試料の屈折率とした。溶媒の調製方法としては、試料を溶媒に懸濁させ、肉眼観察により最も透明に見えるような溶媒の組成を23℃の下で調製した。使用した溶媒はペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、スチレン、アニリンおよびヨウ化メチレン等であり、溶媒の屈折率はアッベ屈折計で測定した。
【0082】
(2)重合可能なビニルモノマー及び該ビニルモノマーを重合して得られるビニルポリマーの屈折率の測定方法
ビニルモノマー及びポリマーの屈折率は直接アッベ屈折計を用いて23℃の下で測定した。
【0083】
(3)透明度の測定方法
ペースト状の硬化性組成物を直径7mm、厚さ1mmの孔を有するテトラフルオロエチレン製モールドに填入し、ポリプロピレン製フィルムで圧接した。この状態で色差計(TC−1500MK−II,東京電色社製)により三刺激値の一つであるY値を測定した。このとき、Y.ミヤガワら、「ジャーナルオブレンタルリサーチ」,60(5),890−894,1981に示された方法に従い、試料の裏側に標準白色板(X=81.2、Y=82.7、Z=93.8)を置いた場合のY値(以下、Ywとする)と、試料の裏側に標準黒色板(X=0.1,Y=0.1,Z=0.2)を置いた場合のY値(以下、Ybとする)を測定し、硬化体の不透明度を示すコントラスト比を次式により算出した。
【0084】
コントラスト比=Yb/Yw
透明度は、コントラスト比を用いて次式により算出した。
【0085】
透明度=1−コントラスト比=1−Yb/Yw
透明度は0から1の範囲で変化し、その値が大きいほど透明度が高いことを示す。
【0086】
次に、試料のポリプロピレンフィルムに可視光線照射器(オプチラックスLC−T、サイブロンデンタル社製)のライトガイドを密着させ、30秒間光照射を行った。ポリプロピレンフィルムをつけたまま、上記と同じように透明度を測定し、硬化体の透明度とした。
【0087】
(4)色調の測定方法
ペースト状の硬化性組成物を直径7mm、厚さ1mmのテトラフルオロエチレン製モールドに填入し、ポリプロピレン製フィルムで圧接した。この状態で、(3)と同じ色差計を用いて、試料の裏側に標準黒色板を置き、色調(L*、a*、b*)を測定した。
【0088】
次に、試料のポリプロピレンフィルムに可視光線照射器(オプチラックスLC−T、サイブロンデンタル社製)のライトガイドを密着させ、30秒間光照射を行った。そのままの状態で、上記と同様に硬化体の色調を測定した。
【0089】
硬化前後の色調変化は次式により算出した。
【0090】
ΔE*=〔(ΔL*)+(Δa*)+(Δb*)1/2
ΔL*=硬化後のL*−硬化前のL*
Δa*=硬化後のa*−硬化前のa*
Δb*=硬化後のb*−硬化前のb*
(5)目視による硬化前後の色調変化の評価
ペースト状の硬化性組成物を直径1cm、厚さ3mmのテトラフルオロエチレン製モールドに填入し、ポリプロピレン製フィルムで圧接した後、(4)と同じ方法で光照射し、円盤状の硬化体を得た。硬化体の中心部に直径5mmの穴をあけ、硬化体作製に用いたペーストを填入し、周辺部の硬化体と中心部のペーストの色調を目視で比較した。硬化体とペーストの色調に差が見られないときを◎、わずかに色調変化が観察されるが、ほとんど分からない場合を○、やや色調に差が見られる場合を△、明らかに差が見られる場合を×で表した。
【0091】
(6)ペースト状組成物の調製方法
所定量の重合性ビニルモノマー、光重合開始剤よりなる有機マトリックスに、所定量のフィラーを配合し、赤色光下にて乳鉢を用いて均一に攪拌、脱泡して調製した。
【0092】
実施例1、比較例1、2
GMA60質量部、3G40質量部にCQ0.3質量部、DMBE0.5質量部を溶解した有機マトリックスに表1に示したフィラーを配合してペースト状の硬化性組成物を調製し、硬化前後の透明性変化を同一に合わせて、硬化前後の色調変化を測定した。
【0093】
その結果、実施例1に示すように、屈折率の異なる3種類のフィラーを用いると、比較例1や2のように2種類だけ用いた場合に比べて、硬化前後の色調変化が小さいことが分かった。
【0094】
一般的に、ΔEが2を超える辺りから色調変化は徐々に目視で確認できるようになり、それ以下であればほとんど確認できないといわれている。実施例1の色調変化は2.2であるため、硬化体とペーストの色調に差ほとんど見られないものであったが、比較例1や2は4.8と3.3であるため明らかな変化が観察された。このように、ΔEが大きくなれば、目視で明らかな相違が観察できた。
【0095】
実施例2〜5
表1に示した組成を用いた以外は実施例1と同様にしてペーストを調製し、硬化前後の色調変化を測定した。結果を表2に示した。
【0096】
実施例6、比較例3
中屈折率フィラーとしてF−22を用い、フィラー配合量を多くした以外は実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示した。実施例6は比較例3に比べて硬化前後の色調変化が小さく、目視での色調変化を確認することは困難であった。
【0097】
実施例7
表1に示した組成を用いた以外は実施例6と同様にしてペーストを調製し、硬化前後の色調変化を測定した。結果を表2に示した。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重合可能なビニルモノマー
(B)下記に示すb1)〜b3)から実質的になるフィラー成分
b1)次式を満足する屈折率(nF1)を有する高屈折率フィラー
【数1】

b2)次式を満足する屈折率(nF2)を有する中屈折率フィラー
【数2】

b3)次式を満足する屈折率(nF3)を有する低屈折率フィラー
【数3】

〔但し、nは(A)重合可能なビニルモノマーの屈折率であり、nは該ビニルモノマーを重合して得られるポリマーの屈折率である。〕
(C)ラジカル重合開始剤
を含んでなる歯科用硬化性組成物。
【請求項2】
(A)重合可能なビニルモノマー100質量部に対して、(B)フィラー成分の配合量が50〜900質量部であり、(C)ラジカル重合開始剤の配合量が0.001〜10質量部であり、該(B)フィラー成分中において、b1)高屈折率フィラーの配合量が20〜90質量%であり、b2)中屈折率フィラーの配合量が5〜70質量%であり、b3)低屈折率フィラーの配合量が1〜20質量%である請求項1記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の歯科用硬化性組成物からなる歯科用充填修復材。

【公開番号】特開2007−302631(P2007−302631A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−134453(P2006−134453)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】