説明

歯車式無段変速機

【課題】増速機構が出力する増速した出力回転の変動を、減らすかまたはなくすことにある。
【解決手段】オフセット部材4の複数の案内溝部4aの各々の、互いに対向してその案内溝部4aの長手方向へ延在する2つの側面のうち少なくとも一方の、その長手方向に沿う形状を、直線状の場合よりもクランク3の一方向だけの揺動の角度変化を減らす曲線形状を持つものとしたことを特徴とする歯車式無段変速機である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、入力回転と同期して同方向へ回転するオフセット部材の案内溝部により複数のクランクを往復揺動させ、その往復揺動のうち片側だけの揺動に基づく回動を入力回転に加えることで増速して出力する歯車式無段変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上述の如き歯車式無段変速機としては従来、例えば特許文献1記載のものが知られており、この従来の歯車式無段変速機は、入力回転と同期して同方向へ回転するオフセット部材としてのオフセットプレートの、案内溝部としての複数のスリットに、入力回転により回転するクランク支持部材で支持した複数のクランクをそれぞれ掛合させて、オフセットプレートの回転に伴いそれらのスリットにより複数のクランクをそれぞれ往復揺動させ、それらのクランクの往復揺動のうち一方向だけの揺動をワンウェイクラッチで取り出し、その揺動による回動を差動歯車組を介して入力回転に加えることで入力回転を増速して出力回転とするとともに、クランク支持部材の中心軸線に対するオフセットプレートの中心軸線のオフセット量を変化させることでその増速分を変化させている。
【0003】
さらにこの従来の歯車式無段変速機は、後段遊星歯車組を具えており、その後段遊星歯車組は2つの回転要素に上記入力回転に応じた回転と上記出力回転とをそれぞれ入力されてそれらの回転速度の相違に応じた速度の最終出力回転を他の一つの回転要素から出力する。これにより最終出力回転は、上記入力回転と出力回転とが等速度のときは停止状態となり、出力回転が増速されるとその増速分と回転要素のギヤ比とに応じて、その出力回転の3倍の高速まで無段変速する。
【特許文献1】特表平4−503991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来の歯車式無段変速機では、オフセットプレートのスリットの長手方向に沿って延在する、そのスリットの両側面が、オフセットプレートの中心軸線に対し半径方向へ直線的に延在するものであるため、そのスリットに掛合するクランクの往復揺動の角度が正弦曲線を描くように変化するものとなり、それゆえクランクの一方向だけの揺動によって入力回転を増速した出力回転が、正弦曲線の上部を連ねたように変動するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は上記課題を有利に解決するものであり、この発明の歯車式無段変速機は、オフセット部材の複数の案内溝部の各々の、互いに対向してその案内溝部の長手方向へ延在する2つの側面のうち少なくとも一方の、その長手方向に沿う形状を、直線状の場合よりもクランクの一方向だけの揺動の角度変化を減らす曲線形状を持つものとしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
かかるこの発明の歯車式無段変速機によれば、オフセット部材の案内溝部が、クランクの一方向だけの揺動の角度変化を、その案内溝部が直線状の場合よりも減らす曲線形状を持つ側面でクランクと掛合してクランクを揺動させるので、増速機構が出力する増速した出力回転の変動を減らすかまたはなくすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。ここに図1は、この発明の歯車式無段変速機の第1実施例の構成を一部分解して模式的に示す斜視図、図2は、その第1実施例の歯車式無段変速機のコミュータギヤを示す正面図、図3(a),(b)は、従来の歯車式無段変速機の作動状態を、オフセットプレートの位置を異ならせてそれぞれ示す説明図、図4は、従来の歯車式無段変速機のクランクと上記第1実施例の歯車式無段変速機のクランクとの揺動状態の相違を模式的に示す説明図、図5(a),(b)は、従来の歯車式無段変速機のクランクと上記第1実施例の歯車式無段変速機のクランクとの揺動角度の変化状態をそれぞれ示す関係線図、そして図6(a),(b)は、上記第1実施例の歯車式無段変速機とこの発明の第2実施例の歯車式無段変速機とのオフセットプレートのスリット形状をそれぞれ示す斜視図である。
【0008】
上記第1実施例の歯車式無段変速機は、例えば車両の駆動系に用い得るもので、図1に示すように、図示しない支持部材を介して図示しない基部で第1軸線A1周りに回転自在に支持した入力軸1を具えるとともに、その入力軸1で支持してそこへの入力回転により第1軸線A1周りに回転するようにしたクランク支持部材2と、上記第1軸線A1と平行でかつその第1軸線A1から互いに反対方向へ等距離離間して対をなす1対または互いにその第1軸線周りに等間隔の複数対(図では2対)の第2軸線A2周りにそれぞれ揺動可能に上記クランク支持部材2の複数(図では十字状に位置する4本)の腕部2aで支持して、そのクランク支持部材2の回転により第1軸線A1周りに旋回するようにした複数(図では4本)のクランク3と、上記第1軸線A1と平行でかつその第1軸線A1との間のオフセット距離Dを変更可能な第3軸線A3(図3参照:図1ではA1と一致)周りに回転可能に支持するとともに、その第3軸線A3に対し半径方向へ延在して上記複数のクランク3とそれぞれ掛合する複数(図では4本)の案内溝部としてのスリット4aを設けた、オフセット部材としての円板状のオフセットプレート4とを具えている。
【0009】
ここにおけるオフセットプレート4は、例えば特許文献1に記載された各対の第2軸線A2上の2つのクランク3同士を互いに逆周りに連動させる歯車組や、それ以外の通常の伝動機構等の図示しない手段によって駆動されて、上記クランク支持部材2の回転と同期して同方向へ回転し、その回転に伴い上記複数のスリット4aにより、上記オフセット距離に応じた角度だけ上記複数のクランク3を上記第2軸線A2周りにそれぞれ往復揺動させる。
【0010】
またこの第1実施例の歯車式無段変速機は、上記第1軸線A1周りのクランク支持部材2の回転に上記複数のクランク3の往復揺動のうち、クランク支持部材2の回転方向と同じ方向だけの揺動に基づく回動を加えることでクランク支持部材2の回転を増速して出力回転とする増速機構5を具えている。
【0011】
ここにおける増速機構5は、クランク支持部材2の各腕部2aと各クランク3との間に介在する遊星歯車組6を有し、この遊星歯車組6は、腕部2aで第2軸線A2上に回転自在に支持した中心軸6aと、中心軸6a上に回転自在に嵌合したサンギヤ6bと、中心軸6aに結合したキャリヤ6cと、キャリヤ6cで回転自在に支持してサンギヤ6bと噛合させた複数(図では4個)のピニオン6dと、中心軸6aで回転自在に支持するとともにそれらのピニオン6dと噛合させたリングギヤ6eとを持ち、クランク3はリングギヤ6eの端面に突設して第2軸線A2と平行に延在させ、スリット4aに掛合させている。
【0012】
サンギヤ6bは中心軸6a上に回転自在に嵌合した中空軸7を介して反力ギヤ8に結合し、中心軸6aは図示しない支持部材を介して上記基部で、クランク支持部材2の回転により第1軸線A1周りに旋回するように支持し、中心軸6aの先端部(図1では右端部)を伝動ギヤ9に結合し、伝動ギヤ9は出力ギヤ10に噛合させ、出力ギヤ10は、第1軸線A1上に配置して図示しない支持部材を介して上記基部で回転自在に支持した出力軸11に結合している。
【0013】
そして反力ギヤ8の周囲にはコミュータギヤ12を配置して、そのコミュータギヤ12を上記基部に固定する。このコミュータギヤ12は、図1に歯のある部分のみ示し、図2に全体を示すように、リング状の部材の内周面にその部材の中心軸線周りに90度の範囲だけ歯12aを突設したものであり、これにより反力ギヤ8は、クランク支持部材2の回転によって第1軸線A1周りに旋回する間に、所定の周方向位置から90度旋回する角度範囲の間だけコミュータギヤ12と噛合して反力を発生させ、それ以外の角度範囲では自由回転可能となって反力を生じない。
【0014】
反力ギヤ8がコミュータギヤ12と噛合して反力を発生させながら第2軸線A2周りに回転すると、その回転はサンギヤ6bに伝達され、そのサンギヤ6bと、クランク3を介してスリット4aで支持したリングギヤ6eとに噛合したピニオン6dをサンギヤ6bの周囲で旋回させて、キャリヤ6cを第2軸線A2周りに回転させる。このキャリヤ6cの回転は中心軸6aを介して伝動ギヤ9に伝達され、伝動ギヤ9は、クランク支持部材2の回転によって出力ギヤ10の周囲を旋回して出力ギヤ10を回転させつつさらに伝動ギヤ9自身が回転することによって、クランク支持部材2の回転を増速して出力ギヤ10に伝達する。
【0015】
ところで、従来の歯車式無段変速機は、図3に示すように、円板状のオフセットプレート4のスリット4aにその長手方向へ直線状に延在する両側面4bを設けており、これにより、図3(a)に示すように、クランク3の旋回中心である第1軸線A1とオフセットプレート4の回転中心である第3軸線A3とが一致している場合は、ここでは円形の部材で示すクランク支持部材2とオフセットプレート4との互いに同期した同一方向への回転により、クランク支持部材2に対し各クランク3は第2軸線A2周りに回転せず固定されている。
【0016】
一方、図3(b)に示すように、クランク3の旋回中心である第1軸線A1とオフセットプレート4の回転中心である第3軸線A3とがオフセット距離Dだけオフセットしている場合は、クランク支持部材2とオフセットプレート4との互いに同期した同一方向への回転により、クランク支持部材2に対し各クランク3は第2軸線A2周りに、クランク3の旋回位置の図示の増速側でクランク支持部材2と同一回転方向へ−θから+θまで進み回転し、クランク3の旋回位置の図示の減速側でクランク支持部材2と逆の回転方向へ−θから+θまで戻り回転する。
【0017】
上記従来の歯車式無段変速機では、図3(a),(b)に示すように、オフセットプレート4のスリット4aの長手方向に延在する両側面4bを共に直線状としていたが、この第1実施例の歯車式無段変速機では、図1および図6(a)に示すように、オフセットプレート4のスリット4aの長手方向に延在する両側面4bのうち一方(上記車両の動力源からの駆動力を駆動輪に伝える駆動走行時にクランク3を押し付けられる方)の側面4bを他方の直線状の側面4bから離間する方向へ湾曲した曲線部分を持つ形状としてある。
【0018】
図4は、この発明が出力回転の増速分の変動を減らす原理を説明するもので、オフセットプレート4の両方の側面4bが直線状のスリット4a(図では直線4Aで示す)に掛合したクランク3A(図中実線で示す)と、オフセットプレート4の両方の側面4bが曲線状のスリット4a(図では曲線4Bで示す)に掛合したクランク3B(図中破線で示す)とが、クランク支持部材2とオフセットプレート4との互いに同期した同一方向への回転により揺動する状態をそれぞれ示しており、クランク3Aと比較してクランク3Bの方が遅れ位置(図4の最上部)から速く揺動角度0度に向い、その揺動角度0度から遅く進み位置(図4の最下部)へ向う。このように、スリット4aの長手方向に延在する側面を曲線状にすることでクランク3の揺動の角度変化(揺動速度)を減らすことができ、その曲線形状を適宜設定することで、クランク支持部材2の回転の所定範囲の間、クランク3の揺動の角度変化をなくすことができる。
【0019】
図5(a),(b)は、スリット4aの側面を、従来のように直線にした場合と、上記原理に基づきクランク支持部材2の回転の所定範囲の間、クランク3の揺動の角度変化をなくす曲線部分を持つようにしたこの第1実施例の場合との、クランク支持部材2の回転に伴う図示の4本のクランク3(3−1,3−2,3−3,3−4と呼び分ける)の揺動角の変化状態をそれぞれ示し、スリット4aの側面が従来のように直線の場合、図5(a)に示すように、クランク支持部材2の回転に伴って4本のクランク3−1,3−2,3−3,3−4は、互いに位相が90度ずれてそれぞれ正弦曲線を描くように揺動角が変化している。一方、スリット4aの側面がこの第1実施例における曲線部分を持つものの場合、図5(b)に示すように、クランク支持部材2の回転に伴ってその1回転の間に4本のクランク3−1,3−2,3−3,3−4は、互いに位相が90度ずれてそれぞれ、クランク揺動角の正(進み側)の増加部分でクランク支持部材2が90度回転する角度範囲R1,R2,R3,R4の間だけ一定角度+θ1の水平な直線を描き、クランク支持部材2が他の270度回転する間は正弦曲線を描くように揺動角が変化する。
【0020】
そしてこの第1実施例の歯車式無段変速機では、クランク3−1,3−2,3−3,3−4の揺動角がそれぞれ一定になるクランク支持部材2の回転角度範囲の時にそのクランク3−1,3−2,3−3,3−4にそれぞれ対応する反力ギヤ8がコミュータギヤ12と噛合して反力を発生させるように、オフセットプレート4のオフセット方向と、スリット4aの湾曲した側面4bの向きと、コミュータギヤ12の歯12aの周方向位置との関係を設定している。すなわち例えば、図3(b)に示すように、入力軸1の先端(図1では左端)側から見て、オフセットプレート4を図では左方へオフセットさせ、クランク支持部材2とオフセットプレート4とを時計方向へ回転させる場合、真上の周方向位置から右側90度の周方向位置まではクランク揺動角の正(進み側)の増加部分となるので、この角度範囲を移動する反力ギヤ8がコミュータギヤ12と噛合するようにコミュータギヤ12の歯12aの周方向位置を設定し、またこの角度範囲でクランク3がスリット4aの湾曲した側面4bと摺接するようにスリット4aの湾曲した側面4bの向きと湾曲部分の位置とを設定する。
【0021】
従って、この第1実施例の歯車式無段変速機によれば、クランク揺動角の正(進み側)の増加部分で揺動角が一定となるクランク3に対応する反力ギヤ8がコミュータギヤ12と噛合して反力を発生し、これによりその揺動角が一定となるクランク3に対応する伝動ギヤ9が出力ギヤ10を駆動するという作用を、4本のクランク3がクランク支持部材2の90度回転分ずつ順次繰り返すので、出力軸11からの出力回転の増速分を一定に維持して、その増速分の変動をなくすことができる。そしてオフセットプレート4のオフセットDを連続的に変更することで、その増速分を連続的に変化させることができる。
【0022】
なお、この第1実施例の歯車式無段変速機はさらに、従来の歯車式無段変速機のものと同様の、図示しない後段遊星歯車組を具えており、その後段遊星歯車組は2つの回転要素に上記入力回転に応じた回転と上記出力回転とをそれぞれ入力されてそれらの回転速度の相違に応じた速度の最終出力回転を他の一つの回転要素から出力し、その最終出力回転で上記車両の駆動輪を駆動する。これにより最終出力回転は、上記入力回転と出力回転とが等速度のときは停止状態となり、出力回転が増速されるとその増速分と回転要素のギヤ比とに応じて、その出力回転よりも相当高速まで無段変速する。
【0023】
図6(a),(b)は、上記第1実施例の歯車式無段変速機のオフセットプレート4とこの発明の第2実施例の歯車式無段変速機のオフセットプレート4とをそれぞれ示す斜視図であり、この第2実施例の歯車式無段変速機は、オフセットプレート4のスリット4aの形状が異なる点のみ第1実施例と相違し、他の点では第1実施例と同一の構成を具えている。
【0024】
すなわち、この第2実施例の歯車式無段変速機のオフセットプレート4のスリット4aは、そのスリット4aの長手方向に延在する両側面4bを、その一方は第1実施例の歯車式無段変速機のオフセットプレート4のスリット4aの湾曲した曲線部分を持つ側面4bと同一で、他方はその一方の側面4bを転写(平行移動)した形状としている。
【0025】
かかる第2実施例の歯車式無段変速機によれば、上記車両の動力源からの駆動力を駆動輪に伝える駆動走行時にクランク3を押し付けられる方の側面4bだけでなく、その車両の動力源からの駆動力を駆動輪に伝えず惰性で走行するコースト走行時にクランク3を押し付けられる方である反対側の側面4bも、湾曲した曲線部分を持つ形状としてあるので、駆動走行時だけでなくコースト走行時も出力回転の増速分ひいては最終出力回転の変速比を一定に維持することができる。
【0026】
図7(a),(b)は、この発明の第3実施例の歯車式無段変速機のオフセットプレート4を示す斜視図および、そのオフセットプレート4のスリット4aの形状を拡大して示す斜視図であり、この第3実施例の歯車式無段変速機は、オフセットプレート4のスリット4aの形状が異なる点およびオフセットプレート4がオフセット距離Dの方向へ移動しつつ第3軸線A3の延在方向へも移動する点のみ第1実施例と相違し、他の点では第1実施例と同一の構成を具えている。
【0027】
すなわち、この第3実施例の歯車式無段変速機のオフセットプレート4のスリット4aは、そのスリット4aの長手方向に延在する両側面4bのうち一方(上記車両の動力源からの駆動力を駆動輪に伝える駆動走行時にクランク3を押し付けられる方)の側面4bを、オフセットプレート4の、クランク支持部材2に向く側の表面では第1実施例の歯車式無段変速機のオフセットプレート4のスリット4aの湾曲した曲線部分と同様、他方の直線状の側面4bから離間する方向へ湾曲した曲線部分を持つ輪郭形状とし、その表面から反対側の表面へ向って奥へ入るにつれて湾曲した曲線部分の大きさが小さくなくように、第3軸線A3の軸線方向に延在する略錐体形状面4cとしている。
【0028】
また図8は、この第3実施例の歯車式無段変速機のオフセットプレート4を第3軸線A3周りに回転自在に支持する支持部材13の元の位置および移動後の位置を実線および破線でそれぞれ示す、図1の上部の矢印方向から見た平面図であり、この第3実施例の歯車式無段変速機では、上記支持部材13を、図8に示すように、支持部材13の下面に設けた突部と摺動自在に嵌合するオフセット案内溝14で、先の第1および第2実施例と同様のオフセット方向へ移動させると同時に第3軸線A3の延在方向へも移動させ、図8中矢印で示すようにオフセット方向へ移動させてオフセット距離Dを増大させるにつれて、オフセットプレート4がクランク支持部材2から離間してクランク3の先端部がオフセットプレート4の、クランク支持部材2に向く側の表面により近い位置でスリット4aの略錐体形状面4cに摺接するようにしている。
【0029】
この第3実施例の歯車式無段変速機によれば、第1軸線A1に対するオフセット案内溝14の傾斜角度と、スリット4aの略錐体形状面4cの形状とを適宜に設定することで、任意のオフセット量において出力回転の増速分を一定にすることができ、ひいては任意の変速比において最終出力回転を一定に維持することができる。
【0030】
以上、図示例に基づき説明したが、この発明は上述の例に限られるものでなく、特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更し得るものであり、例えば、上記各実施例ではオフセット部材の案内溝部をオフセットプレートに形成したスリットとしたが、オフセット部材
の表面に形成した溝とすることもでき、またオフセット部材の表面に設けた二本の突条の間の溝とすることもできる。
【0031】
またこの発明における増速機構は、上記各実施例のように反力ギヤ8と噛合するコミュータギヤ12を用いる代わりに、従来の歯車式無段変速機と同様に、各中心軸6aの軸受け部にワンウェイクラッチを介装したものとすることもできる。
【0032】
さらにこの発明におけるクランクは、コミュータギヤを歯が周方向に180度あるものとしたり代わりにワンウェイクラッチを用いたりして、各クランクが出力軸を180度駆動するようにすれば1対とすることもでき、また各クランクが出力軸を60度以下駆動するようにすれば3対以上とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
かくしてこの発明の歯車式無段変速機によれば、オフセット部材の案内溝部が、クランクの一方向だけの揺動の角度変化を、その案内溝部が直線状の場合よりも減らす曲線形状を持つ側面でクランクと掛合してクランクを揺動させるので、増速機構が出力する増速した出力回転の変動を減らすかまたはなくすことができ、ひいては後段遊星歯車組との組み合わせで最終出力回転の変速比の変化を減らすかまたはなくすことができる。
【0034】
なお、この発明の歯車式無段変速機においては、前記複数の案内溝部の各々の、互いに対向してその案内溝部の長手方向へ延在する2つの側面の両方の、前記長手方向に沿う形状を、前記クランクの一方向だけの揺動の角度変化を減らす曲線形状を持つものとすると、駆動走行時だけでなくコースト走行時も出力回転の増速分を一定に維持することができ、ひいては後段遊星歯車組との組み合わせで最終出力回転の変速比の変化を減らすかまたはなくすことができるので好ましい。
【0035】
また、この発明の歯車式無段変速機においては、前記複数の案内溝部の各々の、互いに対向してその案内溝部の長手方向へ延在する2つの側面のうち前記少なくとも一方の形状を、前記第3軸線の軸線方向に延在する錐体形状とすると、任意のオフセット量において出力回転の増速分を一定に維持することができ、ひいては任意の変速比において最終出力回転の変速比の変化を減らすかまたはなくすことができるので好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明の歯車式無段変速機の第1実施例の構成を一部分解して模式的に示す斜視図である。
【図2】上記第1実施例の歯車式無段変速機のコミュータギヤを示す正面図である。
【図3】(a),(b)は、従来の歯車式無段変速機の作動状態を、オフセットプレートの位置を異ならせてそれぞれ示す説明図である。
【図4】従来の歯車式無段変速機のクランクと上記第1実施例の歯車式無段変速機のクランクとの揺動状態の相違を模式的に示す説明図である。
【図5】(a),(b)は、従来の歯車式無段変速機のクランクと上記第1実施例の歯車式無段変速機のクランクとの揺動角度の変化状態をそれぞれ示す関係線図である。
【図6】(a),(b)は、上記第1実施例の歯車式無段変速機とこの発明の歯車式無段変速機の第2実施例とのオフセットプレートのスリット形状をそれぞれ示す斜視図である。
【図7】(a),(b)は、この発明の歯車式無段変速機の第3実施例のオフセットプレートを示す斜視図および、そのオフセットプレートのスリットの形状を拡大して示す斜視図である。
【図8】上記第3実施例の歯車式無段変速機のオフセットプレートを第3軸線周りに回転自在に支持する支持部材の元の位置および移動後の位置を実線および破線でそれぞれ示す、図1の上部の矢印方向から見た平面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 入力軸
2 クランク支持部材
2a 腕部
3,3A,3B,3−1〜3−4 クランク
4 オフセットプレート(オフセット部材)
4a スリット(案内溝部)
4b 側面
4c 略錐体形状面
5 増速機構
6 遊星歯車組
6a 中心軸
6b サンギヤ
6c キャリヤ
6d ピニオン
6e リングギヤ
7 中空軸
8 反力ギヤ
9 伝動ギヤ
10 出力ギヤ
11 出力軸
12 コミュータギヤ
12a 歯
13 支持部材
14 オフセット案内溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力回転により第1軸線周りに回転するクランク支持部材と、
前記第1軸線と平行でかつその第1軸線から互いに反対方向へ等距離離間して対をなす1対または互いにその第1軸線周りに等間隔の複数対の第2軸線周りにそれぞれ揺動可能に前記クランク支持部材で支持し、そのクランク支持部材の回転により前記第1軸線周りに旋回するようにした複数のクランクと、
前記第1軸線と平行でかつその第1軸線との間のオフセット距離を変更可能な第3軸線周りに回転可能に支持するとともに、前記第3軸線に対し半径方向へ延在して前記複数のクランクとそれぞれ掛合する複数の案内溝部を設け、前記クランク支持部材の回転と同期して同方向へ回転させて、その回転に伴い前記複数の案内溝部により前記オフセット距離に応じた角度だけ前記複数のクランクを前記第2軸線周りにそれぞれ往復揺動させるようにしたオフセット部材と、
前記第1軸線周りの前記クランク支持部材の回転に前記複数のクランクの往復揺動のうち一方向だけの揺動に基づく回動を加えることで前記クランク支持部材の回転を増速して出力回転とする増速機構と、を具え、
前記複数の案内溝部の各々の、互いに対向してその案内溝部の長手方向へ延在する2つの側面のうち少なくとも一方の、前記長手方向に沿う形状を、直線状の場合よりも前記クランクの一方向だけの揺動の角度変化を減らす曲線形状を持つものとしてなる歯車式無段変速機。
【請求項2】
前記複数の案内溝部の各々の、互いに対向してその案内溝部の長手方向へ延在する2つの側面の両方の、前記長手方向に沿う形状を、前記クランクの一方向だけの揺動の角度変化を減らす曲線形状を持つものとしてなる、請求項1記載の歯車式無段変速機。
【請求項3】
前記複数の案内溝部の各々の、互いに対向してその案内溝部の長手方向へ延在する2つの側面のうち前記少なくとも一方の形状を、前記第3軸線の軸線方向に延在する錐体形状としてなる、請求項1または2記載の歯車式無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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