歯車歯形測定方法、歯車歯形測定装置およびこの歯車歯形測定装置に使用する測定用親歯車
【課題】 歯車の歯形誤差を効率よく測定することがきるばかりでなく、モジュールの小さな歯車でも測定可能な歯形測定方法、歯車歯形測定装置およびこの歯車歯形測定装置に使用する測定用親歯車を提供する。
【解決手段】 高精度のインボリュート歯車のうち1つおきの歯を取り除いた形状を有する特殊マスターギア(SMG)33,36,51と、歯形形状を測定しようとするテストギア(G)34,75を回転可能に保持するとともに、特殊マスターギア(SMG)をテストギア(G)に噛み合わせつつ回転するように保持する回転保持機構62と、特殊マスターギア(SMG)とテストギア(G)とが噛み合いながら回転する際に、特殊マスターギア(SMG)の回転角と、テストギア(G)の回転角とを測定し、これら両歯車の回転角の偏差を求めることによってテストギア(G)の歯形形状を検出する検出装置64とを有している。
【解決手段】 高精度のインボリュート歯車のうち1つおきの歯を取り除いた形状を有する特殊マスターギア(SMG)33,36,51と、歯形形状を測定しようとするテストギア(G)34,75を回転可能に保持するとともに、特殊マスターギア(SMG)をテストギア(G)に噛み合わせつつ回転するように保持する回転保持機構62と、特殊マスターギア(SMG)とテストギア(G)とが噛み合いながら回転する際に、特殊マスターギア(SMG)の回転角と、テストギア(G)の回転角とを測定し、これら両歯車の回転角の偏差を求めることによってテストギア(G)の歯形形状を検出する検出装置64とを有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定用親歯車と被測定歯車を噛み合わせて回転するだけで、容易に歯形の測定を行うことができる歯形測定方法、歯形測定装置およびこの歯形測定装置に使用する測定用親歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
精密機械はもとより、自動車、重機械、OA機器、ロボット等、多くの分野で歯車は使われており、近年ではコスト削減や軽量化の為、樹脂材料を用いた歯車も増えてきている。歯車産業で特に問題になるのが歯車の精度であり、それにともなって生じる振動・騒音に関するノイズ問題の改善が急がれている。歯車の測定・評価の目的は、生産する歯車の精度を管理し歯車の運転性能を予測することにある。
【0003】
歯車の測定は、歯形、歯すじ、ピッチ、歯溝の振れ等の個別誤差測定と、片歯面かみあい試験、両歯面かみあい試験、歯あたり検査等の総合誤差測定があり、それらの測定から得られた結果を各精度等級と対比し評価している。
【0004】
一般に、歯車の個別誤差(歯形、ピッチ、歯すじ、歯溝のフレ)の評価は、市販されている歯車歯形測定機/試験機で行われている。この歯車歯形測定機は、接触式の測定子(プローブ)と、測定対象の歯車を保持する回転軸を持つ三次元測定機である。
【0005】
この測定機にて歯形測定をする場合は、三次元空間内で1歯ずつ測定子を測定対象歯車の歯溝に入れ、歯車の基礎円径に位置決めする必要がある。このため、測定子の位置決め作業が複雑であり、プログラム化されていても、連続して歯車の全ての歯の歯形誤差を測定するには、非常に時間も掛かり効率も悪い。そのため、歯車の歯形測定を、歯車の歯数に関わらず、およそ90°間隔で4つの歯のみを抜き取り検査的に歯形測定をし、精度管理としているのが一般的に歯車生産工場で行われている実情である。また、接触式の測定子が一般的であるため、測定子の先をいかに細く針状にしても、モジュールの小さい歯車(およそモジュール0.3以下)は測定できない。
【0006】
また、歯車の角度伝達誤差、それに伴う振動・騒音の原因をつきとめ改善をおこなうためには、片歯面かみあい試験が有効であり、さらに詳細を調べるためには歯形検査が必要になる。しかしながら、この2つの試験は別々の試験機を用いておこなうため、時間的にも労力的にも、そして測定精度の面でも無駄が多かった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる問題点を解決すべくなされたものであって、歯車の歯形誤差を効率よく測定することがきるばかりでなく、モジュールの小さな歯車でも測定可能な歯車歯形測定方法、歯車歯形測定装置およびこの歯車歯形測定装置に使用する測定用親歯車を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく本発明は、高精度のインボリュート歯車のうち1つおきの歯を取り除いた形状を有する測定用親歯車と、歯形形状を測定しようとする被測定歯車を回転可能に保持するとともに、前記測定用親歯車を前記被測定歯車に噛み合わせつつ回転するように保持する回転保持機構と、前記測定用親歯車と前記被測定歯車とが噛み合いながら回転する際に、前記測定用親歯車の回転角と、前記被測定歯車の回転角とを測定し、これら両歯車の回転角の偏差を求めることによって前記被測定歯車の歯形形状を検出する検出装置とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また本発明は、前記測定用親歯車と前記被測定歯車は、その噛み合い率が1未満であり、前記測定用親歯車と前記被測定歯車は、互いに噛み合う1対の歯がインボリュート噛み合い終了後の遠のき接触による噛み合いをしている間に、次に噛み合うべき1対の歯が近寄り接触による噛み合い開始し、その後インボリュート噛み合いを行うようになされていることを特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記保持機構は、前記被測定歯車を前記測定用親歯車と噛み合いながら1回転以上するように回転保持することを特徴とする。
【0011】
また本発明は、高精度のインボリュート歯車のうち1つおきの歯を取り除いた形状を有することを特徴とする。
【0012】
また本発明は、高精度のインボリュート歯車のうち1つおきの歯を取り除いた形状を有する測定用親歯車と歯形形状を測定しようとする被測定歯車とを噛み合わせた状態で回転させ、これら両歯車が噛み合いながら回転する際に、前記測定用親歯車の回転角と前記被測定歯車の回転角とを測定し、これら両歯車の回転角の偏差を求めることによって前記被測定歯車の歯形形状を測定することを特徴とする。
【0013】
また本発明は、前記測定用親歯車と前記被測定歯車はその噛み合い率が1未満であり、前記測定用親歯車と前記被測定歯車は、互いに噛み合う1対の歯がインボリュート噛み合い終了後の遠のき接触による噛み合いをしている間に、次に噛み合うべき1対の歯が近寄り接触による噛み合い開始し、その後インボリュート噛み合いを行うようになされていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、高精度のインボリュート歯車のうち1つおきの歯を取り除いた形状を有する測定用親歯車と歯形形状を測定しようとする被測定歯車とを噛み合わせた状態で回転させる手順と、これら両歯車が噛み合いながら回転する際に、前記測定用親歯車の回転角と前記被測定歯車の回転角とを測定する手順と、これら両歯車の回転角の偏差を求めることによって前記被測定歯車の歯形形状を測定する手順とをコンピュータに実行させるためのプログラムであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明にあっては、歯車の歯形誤差を、全ての歯について容易な段取りで効率よく測定でき、ノイズ問題等、歯車の性能向上の指針が得られる。また、測定子を必要としないため、モジュールの小さい歯車でもそれとかみあう歯車があれば、歯形誤差が測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、従来の歯車歯形測定装置のように、測定子(センサー、またはプローブ)を使って歯車の歯の表面を1枚1枚なぞってセンシングする手法とは全く違い、歯車同士のかみあいにより歯車の歯形誤差を測定する方法の発明であり、それを成立させる親歯車、特殊マスターギヤ(SMG)についての発明である。
【0017】
本発明の特殊マスターギア(SMG)による歯車の歯形誤差測定が成立するには、特殊マスターギア(SMG)が後述する所定の形状を有すること、測定対象となるテストギア(G)と特殊マスターギア(SMG)とが連続してかみあうこと、測定時、テストギア(G)は特殊マスターギア(SMG)とかみあいながら必ず1回転もしくは1回転以上すること、という条件が必要であり、特殊マスターギアはこの条件を満たす幾何学形状を持つ。
【0018】
測定機は、歯車かみあい回転角伝達誤差測定機(または歯車片歯面かみあい試験機、以下かみあい試験機)もしくは、それと同様の機能を果たす測定装置を用い、かみあい時の親歯車、特殊マスターギア(SMG)と測定対象となるテストギア(G)の各々の回転軸の回転角度を計測する。かみあい試験機は、1対の歯車をモータなどの動力を用いて回転させて噛合わせ、おもに歯車の幾何学的誤差に起因する歯車噛合い伝達角度の遅れ進みを測定する装置である。一般的なかみあい試験機は、駆動側、従動側の回転角度をロータリーエンコーダで読み、そのデータより伝達角度誤差を計測する。本発明では、かみあい試験機の駆動側に特殊マスターギア(SMG)を取り付け、動力の無い従動側にテストギア(G)を取り付け、幾何学条件より得られる互いの歯がかみあう位置に軸間を固定して回転させ、駆動軸、従動軸の回転角度の遅れ進み(角度伝達誤差)を測定し、そのかみあいデータに理論定義された演算をし、歯車の歯形誤差を取り出すシステムである。本発明は、インボリュートカーブを持つ歯車に対して効果があるものである。
【0019】
「特殊マスターギア(SMG)の説明と定義」
歯数Z=12の通常の平歯車を図1に示す。この歯車Gから歯を一つ置きに取り除いた特殊マスターギア(SMG)を図2に示す。この特殊マスターギア(SMG)は作用線上の全かみあい長さが法線ピッチの2倍以下でかみあう特殊ギヤで、主な形状は、通常の歯車の歯を1歯おきに歯を取り除いてある歯車、もしくは、それに相当する形状を持つギヤである。
【0020】
これら図1、図2において、符号11は外径、符号13はピッチ円直径、符号15は基礎円直径、符号17は歯底径を示す。
【0021】
この図2の特殊マスターギア(SMG)は、親歯車の精度規格に相当する精度で製作されており、精度が良く、検査用親円筒歯車(マスターギヤ)の精度規格(例、JIS B 1751−1976)相当の歯車精度を持つものである。以下欠け歯特殊マスターギヤという。
【0022】
図2の特殊マスターギア(SMG)は、歯数Z=12の歯車から、一つ置きに歯を取り除いているので、基準歯数Zb=12、実歯数 Zr=6と定義される。
【0023】
また、図3の特殊マスターギア(SMG)は、基準歯数Zb=13、実歯数 Zr=7、図4のSMGは、基準歯数Zb=15、実歯数 Zr=9である。
【0024】
また、図3、図4にある符号19の歯は、この特殊マスターギア(SMG)によるかみあい測定では測定対象の歯車の歯形誤差量を特定するのに機能しない歯である。したがって、図3、図4の特殊マスターギア(SMG)において、符号19が付されていない両隣に歯が無い位置の歯を有効歯、符号19が付されている両隣もしくは片側に歯がある位置にある歯を無効歯と定義する。
【0025】
「発明が成立することの証明1」
インボリュート歯車の歯面は、インボリュート曲線を目指して製作される。歯形誤差測定は、歯車の歯形がどれだけ正確にインボリュート曲線になっているかを測ることで、理論インボリュート曲線からの偏差を示す。
【0026】
一般的に、インボリュート歯車の歯形測定を図5に示す。この図において、基礎円21上にプローブ23のフィーラー球25を配置させ、プローブ23はX方向へΔX、歯車は時計回りにΔθ回転すると考える。
このとき、ΔXとΔθが、下記のようにRbを定数とする比例同期移動をする。
ΔX=Δθ・Rb
もし、歯形が完全なインボリュート曲線Iならば、プローブ23は変位を検出しない。もし、インボリュート曲線に対して誤差を持っていれば、そのインボリュート曲線からの変位分をプローブが検出することになる。
【0027】
この歯形誤差測定の関係を、歯車同士のかみあいと照らし合わせたものが図6図7、図8、図9である。図6は、図5においてプローブ23が位置Aにある状態を示し、図7は図6に対応する歯車同士の噛み合いを示す。図8は図5においてプローブ23が位置Bにある状態を示し、図9は図8に対応する歯車同士の噛み合いを示す。図7、図9で、歯車の一方が精度が高い(精度保証のえられた)親歯車(マスターギヤ)であるならば、その親歯車を駆動歯車として回転させることで、親歯車の歯形誤差を精度基準にしたもう一方の歯車の歯形誤差を回転角の差として検出が可能となる。
【0028】
「発明が成立することの証明2」
特殊マスターギア(SMG)の条件 図10
歯車対の1歯のみのかみあいを考える。
【0029】
図10に駆動側歯車(回転角θ1)と従動側歯車(回転角θ2)の1歯のみのかみあいを示す。この図10、図11、図12において符号は以下のように定義する。
θ1:駆動側特殊マスターギア(SMG)の回転角
θ2:従動側Gの回転角
α:かみあい圧力角
αk1,αk2:歯先圧力角
rb1,rb2:基礎円半径
invα=tanα−α(インボリュート関数)
rk1,rk2:歯先円半径
測定時は駆動側を特殊マスターギヤ(SMG)、従動側を測定対象となるテストギヤ(G)でおこなう。インボリュート歯車対のかみあい点は、常に歯面法線方向の作用線上を移動する。
【0030】
図10より、
【数1】
が一般的な定義である。
【0031】
幾何学で1歯のみの歯の接触を考えると、特殊マスターギア(SMG)の歯先がB点を越えるとGの歯先が特殊マスターギア(SMG)の歯面をこすり始め、A点からインボリュートかみあいに入り、ピッチ点Pを通過してR点でインボリュートかみあいが終わる。それ以後は特殊マスターギア(SMG)の歯先がテストギヤの歯をこすり始め、C点で離れる。
【0032】
かみあい率が1以上の歯車対のかみあいでは、接触点がAR間にあるとき、次の歯同士がかみあいを始めるため、BA間および、RC間では歯先がこするかみあいにはならない。
【0033】
特殊マスターギヤによる歯形誤差測定は、AR間では1歯対のインボリュートかみあいがなされ、RC間に移りこすり接触になっている時に、BA間で特殊マスターギヤの次の歯とテストギヤの1つ飛びに位置する歯が接触を始める関係になっていれば、歯車対は連続して回転を続けることが出来る。
【0034】
通常、かみあい率は
【数2】
(法線ピッチ=m・π・cosα(歯車の歯面直角方向におけるピッチ))
であるが、これは全かみあい長さ(もしくは作用線)上に、同時に何枚の歯がかみあうことが出来るかの条件である。
本特許の特殊マスター・ギヤは、かみあい率を1未満(インボリュートかみあいを行うAR間では1歯のかみあいを行う)で且つ、連続して回転することが出来るように、作為的に歯車の歯を切り欠いた(取り払った)形状に仕上げた歯車である。
【0035】
遠のき接触におけるかみあい偏差 図11
遠のきかみあいにおけるこすり接触域RC間での偏差を考える。特殊マスターギヤの回転角をピッチ点における歯の位置を基準にθ1、同様にテストギヤの回転角をθ2と表記する。
【0036】
インボリュートかみあい点を越え、こすり接触に変わるθ1の領域は式(1)で表せる。
【数3】
【0037】
この範囲におけるθ1が与えられるとき、θ2は次式となる。
【数4】
【0038】
したがって、法線方向の偏差は歯形誤差成分であり、その量は式(3)で得られる。
【数5】
【0039】
近寄り接触におけるかみあい偏差 図12
近寄りかみあいにおけるこすり接触域BA間での偏差を考える。近寄りかみあいは、前項で述べた事象の正反対を考えればよい。インボリュートかみあいを行う前の、こすり接触域におけるθ2の範囲とθ1は次式で与えられる。
【数6】
【0040】
近寄りかみあいであっても基準は駆動側である特殊マスターギヤであるので、法線方向の偏差は次式で与えられる。
【数7】
【0041】
計算例 図13
前項で述べた幾何条件より、特殊マスターギヤSMGとテストギヤGをかみあわせたときの偏差を回転角伝達誤差の理論曲線として図13に示す。この曲線から分かるように、かみあい試験による測定波形から特殊マスターギヤSMGとテストギヤGが1歯かみあいをしている領域を取り出し評価すればよい。図13は以下の諸元を用いて試算した結果である。
特殊マスターギヤSMG歯数z1=47を1歯おきに除去(基準歯数47実歯数24)
テストギヤ(G)歯数z2=45
共にm=1.0,α=20°,標準並歯
なお、片歯車かみあい試験機では角度で従動側歯車Gの回転伝達誤差を検出する。これを歯形誤差(長さ単位)に変化するには、基礎円半径をかける。すなわち、
歯形誤差=rb2・Δθ2(Δθ2:回転角伝達誤差)
とする。このようにして、図13の縦軸の偏差(deviation)を求める。
【0042】
「SGの歯数設定パターンについて」
図14(a)に一般的なインボリュート歯車のかみあい例を示す。
下を駆動側歯車31、上を従動側歯車32とする。例として、歯車31の歯数Z1=12枚、歯車32の歯数Z2=12枚、とした。歯車1がθ1の方向に時計回りで回転するとき、歯車2はθ2だけ、逆時計回りに回転する。
θ2=θ1・γ
γ=Z1/Z2=12/12:歯数比、加減速比
かみあう歯番号の組み合わせは、
歯車1回転の回数 1 2 3 ・ ・
1−A 1−A
2−B 2−B
3−C 3−C
4−D 4−D
5−E 5−E
6−F ・
7−G ・
8−H ・
9−I ・
10−J
11−K
12−L
となる。歯数比が違う場合は、当然かみあう歯はずれていく。
【0043】
次に、偶数特殊マスターギア(SMG)と偶数テストギア(G)の場合について図14(b)を参照して説明する。
【0044】
図14(a)の歯車31の歯を1歯おきに除去した場合を図14(b)に示す。特殊マスターギア(SMG)歯車33の歯数は半分になるので6枚で欠け歯歯車となり、歯数12枚のテストギア(G)34と1歯おきにかみあうことになる。
かみあう歯番号は、
SMG回転回数 1 2 3 4 ・ ・
1−A 1−A 1−A ・
2−C 2−C 2−C ・
3−E 3−E 3−E ・
4−G 4−G 4−G ・
5−I 5−I 5−I
6−K 6−K 6−K
という組み合わせで、重なりかみあいが生じないで1歯かみあいをする。基本的な速比は1項のγ=12/12と変わらない。
【0045】
テストギア(G)34の歯のなかで、B、D、F、H、J、Lは、特殊マスターギア(SMG)とかみあわない。このように、偶数歯数の特殊マスターギア(SMG)33と偶数歯数のテストギア(G)34のかみあいでは、歯数が異なり速比が変わって特殊マスターギア(SMG)を何回転させても、マスターギア(G)の1歯おきの歯はかみあうことはない。このB、D、F、H、J、Lの歯を特殊マスターギア(SMG)33とかみ合わせるには、図1(b)の歯の位置からテストギア(G)34の歯を1歯ずらした位置でかみあわせる必要がある。
【0046】
次いで、偶数歯の特殊マスターギア(SMG)と奇数歯のテストギア(G)の場合について説明する。図14(c)は、6枚歯の特殊マスターギア(SMG)33と13枚歯のテストギア(G)35のかみあいをしめす。ここでのかみあいの組み合わせは、
SMG回転回数 1 2 3 4 5 6 ・
1−A 1−M 1−L 1−K 1−J 1−I
2−C 2−B 2−A 2−M 2−L 2−K
3−E 3−D 3−C 3−B 3−A 3−M
4−G 4−F 4−E 4−D 4−C 4−B
5−I 5−H 5−G 5−F 5−E 5−D
6−K 6−J 6−I 6−H 6−G 6−F
となり、かみあう歯がずれるため、複数回転させることによって必ずテストギア(G)の全ての歯が特殊マスタギア(SMG)33とかみあう。
【0047】
また、奇数歯の特殊マスターギア(SMG)と偶数歯のテストギア(G)の場合について説明する。図14(d)は奇数歯の特殊マスターギア(SMG)36と偶数歯のテストギア(G)34のかみあいを示す。特殊マスターギア(SMG)36は歯数13枚の歯を1歯おきに6枚除去し最後の歯(7番)を残してある状態の7枚。ここで7番を除去してしまうと、1番と6番の間が2歯分も開くため、歯数によると回転が止まってしまう場合もある。
【0048】
この例のかみあいの組み合わせは特殊マスターギア(SMG)36が7枚、テストギア(G)34が12枚で
SMG回転回数 1 2 3 4 5 6 ・
1−A 1−B 1−C 1−D 1−E 1−F
2−C 2−D 2−E 2−F 2−G 2−H
3−E 3−F 3−G 3−H 3−I 3−J
4−G 4−H 4−I 4−J 4−K 4−L
5−I 5−J 5−K 5−L 5−A 5−B
6−K 6−L 6−A 6−B 6−C 6−D
7−A 7−B 7−C 7−D 7−E 7−F
となり、条件を満たさず、重なりかみ合いとする1番と7番以外とかみあう以外の歯のみ、1歯かみあいとして評価できる。しかし、複数回転することにより、必ずテストギア(G)34の全ての歯が特殊マスターギア(SMG)36と1歯かみあいをする。
【0049】
次いで、奇数歯の特殊マスターギア(SMG)と奇数歯のテストギア(G)の場合について説明する。
特殊マスターギア(SMG)は、図14(d)中の特殊マスターギア(SMG)36を使用し、テストギア(G)の歯数を変えた場合について考える。図は省略する。両方奇数の場合は、歯数の組み合わせにより、1歯かみあいが行われる歯を把握しておかなければ、評価できない。特殊マスターギア(SMG)7枚とテストギア(G)13枚のように、必ず同じ歯のみかみあう組み合わせもあるが、その組み合わせだけさせれば、複数回転させることによりテストギア(G)の全部の歯について1歯かみあいが評価できる。
SMG7枚、G11枚の場合
SMG回転回数 1 2 3 4 5 6 ・
1−A 1−C 1−E 1−G 1−I 1−K
2−C 2−E 2−G 2−I 2−K 2−B
3−E 3−G 3−I 3−K 3−B 3−D
4−G 4−I 4−K 4−B 4−D 4−F
5−I 5−K 5−B 5−D 5−F 5−H
6−K 6−B 6−D 6−F 6−H 6−J
7−B 7−D 7−F 7−H 7−J 7−A
SMG7枚、G13枚の場合
SMG回転回数 1 2 3 4 5 6 ・
1−A 1−A 1−A 1−A 1−A 1−A
2−C 2−C 2−C 2−C 2−C 2−C
3−E 3−E 3−E 3−E 3−E 3−E
4−G 4−G 4−G 4−G 4−G 4−G
5−I 5−I 5−I 5−I 5−I 5−I
6−K 6−K 6−K 6−K 6−K 6−K
7−M 7−M 7−M 7−M 7−M 7−M
・SMG7枚、G15枚の場合
SMG回転回数 1 2 3 4 5 6 ・
1−A 1−N 1−L 1−J 1−H 1−F
2−C 2−A 2−N 2−L 2−J 2−H
3−E 3−C 3−A 3−N 3−L 3−J
4−G 4−E 4−C 4−A 4−N 4−L
5−I 5−G 5−E 5−C 5−A 5−N
6−K 6−I 6−G 6−E 6−C 6−A
7−M 7−K 7−I 7−G 7−E 7−C
このように、歯数の組み合わせは無数に挙げられるが、上述のパターンを考慮して、測定対象となるテストギア(G)の仕様より、最適な設計を施せばよい。
【0050】
次に、歯車歯形測定装置60(歯車かみあい回転角伝達誤差測定装置)について、図15を参照して説明する。
【0051】
一般的に、歯車のかみあい回転角伝達誤差Fは次の通りである。
F=Δθ=θ2−(Z1/Z2)θ1
θ1=2πC1/R1
θ2=2πC2/R2
ここで、
θ1:駆動側歯車(特殊マスターギア)の回転角
Z1:駆動側歯車(特殊マスターギア)の歯数
R1:駆動側ロータリーエンコーダの分解能
C1:駆動側ロータリーエンコーダの出力パルス
θ2:従動側歯車(テストギア)の回転角
Z2:従動側歯車(テストギア)の歯数
R2:従動側ロータリエンコーダの分解能
C2:従動側ロータリエンコーダの出力パルス
なお、歯形誤差ΔLは、
ΔL=Δθγb2(γb2は従動側歯車Gの基礎円半径)
図15において、符号62は回転保持機構を示す。この回転保持機構は駆動軸構成部材41を有している。この駆動軸構成部材41には駆動軸43が軸受け45を介して軸支されており、この駆動軸43にはアーバー保持部47を介して駆動軸側アーバ49が連結されている。この駆動軸側アーバ49には、特殊マスターギア(SMG)51が保持されている。この特殊マスターギア(SMG)51は、駆動軸側アーバに確実に保持されて、空回りすることなく回転されなければならない。
【0052】
前記駆動軸43の他端には、ジョイント部材53を介してパルスモータ55のモータシャフト57が連結されている。このジョイント部材53は、駆動軸43とモータシャフト57に芯ずれが生じていても回転を正確に伝達できるようになっている。モータシャフト57の他端には、ジョイント部材59を介して駆動軸側ロータリエンコーダ61が接続されている。この駆動軸側ロータリエンコーダ61はハウジング63を介してパルスモータ55に装着されている。
【0053】
一方、前記駆動軸構成部材41の反対側には、従動軸構成部材65が配設されている。この従動軸構成部材65には、軸受67を介して従動軸69が軸支されている。この従動軸69には、連結用部材71を介して従動側アーバ73が連結されている。そして、このアーバ73には、前記特殊マスターギア(SMG)51に噛み合った状態のテストギア(G)75が保持されている。
【0054】
前記従動軸69の他端にはジョイント部材77を介して従動軸側ロータリエンコーダ79が接続されている。
【0055】
この従動軸側ロータリエンコーダ79と前記駆動軸側ロータリエンコーダ61とには、コンピュータに内蔵されるカウンターボードからなるパルス検出器81が接続されており、このパルス検出器81には、モータ制御とデータ取り込み保存を兼ねるコンピュータからなるメインシステム83が接続されている。このメインシステム83には、コンピュータに内蔵されるモータコントロールボードであるパルスジェネレータ85が接続されいる。そして、このパルスジェネレータ85は、モータアンプ87を介してパルスモータ55に接続されている。なお、メインシステム83には、データ出力用のプリンタ89が接続されている。なお、ロータリエンコーダ61、ロータリエンコーダ79は検出装置64を構成する。
【0056】
このような構成において、上記コンピュータからなるメインシステム83は、高精度のインボリュート歯車のうち1つおきの歯を取り除いた形状を有する測定用親歯車と歯形形状を測定しようとする被測定歯車とを噛み合わせた状態で回転させる手順と、これら両歯車が噛み合いながら回転する際に、前記測定用親歯車の回転角と前記被測定歯車の回転角とを測定する手順と、これら両歯車の回転角の偏差を求めることによって前記被測定歯車の歯形形状を測定する手順とをコンピュータに実行させるためのプログラムを有しており、このプログラムにしたがい歯車歯形測定装置60を作動させる。
【0057】
具体的には、メインシステム83は、パルスジェネレータ85、モータアンプ87を介してパルスモータ55を駆動する。すると、駆動軸43を介して駆動軸側アーバ49が回転し、特殊マスターギア(SMG)51が回転する。そして、この特殊マスターギア(SMG)51に噛み合っているテストギア(G)75が回転する。このテストギア(G)75の回転角は、従動側アーバ73、従動軸69を介して従動軸側ロータリエンコーダ79に伝達され、パルス検出器81を経てメインシステム83に伝えられる。一方、特殊マスターギア(SMG)51の回転角も駆動軸側ロータリエンコーダ61を介してパルス検出器81に伝達され、メインシステム83に伝えられる。このようにしてメインシステム83に伝達された特殊マスターギア(SMG)51の回転角とテストギア75の回転角からその偏差が検出され、プリンタ89に出力される。
次に、上記歯形誤差測定装置による測定例を示す。
【0058】
測定例1
特殊マスターギアSMGは、m=1.0,α=20°,標準並歯,歯数はz1=47から1歯おきに歯を取り除いてあるものを製作し、かみあい試験機でG(テストギヤ)m=1.0,α=20°,z2=45とかみあわせた測定結果を図16に示す。測定範囲は、テストギヤGのほぼ全ての歯の歯形誤差を得るため、テストギヤ2回転分のデータを取得した。かみあい試験機のロータリーエンコーダ最小分解能は1[秒]、歯形誤差1歯分を評価するのに400点のサンプリングでデータを得た。
【0059】
図17は図16の横軸を拡大し、例として任意の5歯分の歯形誤差が確認できるよう抜き出しプロットしたものである。
【0060】
さらに、図18に市販されている歯形試験機によるテストギヤの歯形誤差測定結果を示す。特殊マスターギアSMGにも当然製作誤差があるため完全に歯形誤差が一致しているわけではないが、誤差傾向はよく一致しており、かみあい試験より歯形誤差が測定できうることがわかる。
【0061】
測定例2
図19に、特殊マスターギアSMGと同程度の製作精度に仕上げたテストギヤG(m=1.0,α=20°,z2=50,標準並歯)とかみあわせた測定結果を、5歯分の歯形誤差が確認できるようプロットした。
【0062】
ピッチ誤差の影響による勾配は見られるが、図13で示した理論曲線に近い結果が得られている。
【0063】
さらに応用として、微小モジュールの部類に入れられるm=0.15の特殊マスターギヤ(α=20°,標準並歯,歯数はz1=317から1歯おきに歯を取り除いてある)とテストギヤを製作し、測定を試みた。結果を図20に示す。
【0064】
以上説明したように、特殊マスターギヤを用いることで、かみあい試験機により歯形誤差を評価することが出来た。また、一般的に市販の歯車歯形試験機では難しいとされている微小モジュールの歯形誤差を測定できたことで、今後の微小モジュール歯車の精度管理にこの方法の活用が期待できる。
【0065】
一般の歯車歯形試験機で微小モジュール歯車を測定しようとしても、測定子(フィーラー)が歯車の歯溝に入らず測定が難しい(一般にモジュール0.3〜0.4以下)。
【0066】
この特殊マスターギアによる方式は、上記以下のモジュールの歯形誤差が測定可能であり、またその微小モジュールの特殊マスターギアは、1歯おきに歯を取り除いてあるため、一般の歯形試験機の測定子でも歯溝に入り易く、限界はあるものの、歯形試験機でのマスターギアの精度が保証できるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】通常の平歯車を示す正面図である。
【図2】図1に示す平歯車から歯を1つおきに取り除いた歯車を示す正面図。
【図3】奇数の歯を有する平歯車から歯を1つおきに取り除いた歯車を示す正面図。
【図4】奇数の歯を有する平歯車から歯を1つおきに取り除いた歯車の他の例を示す正面図。
【図5】一般的なインボリュート歯車の歯形測定を示す図。
【図6】図5中プローブがA点にある場合を示す図。
【図7】プローブの替わりに高精度親歯車を使用して図6に示す測定を行う状態を示す図。
【図8】図5中プローブがB点にある場合を示す図。
【図9】プローブの替わりに高精度親歯車を使用して図8に示す測定を行う状態を示す図。
【図10】駆動側歯車と従動側歯車との噛み合いを示す図。
【図11】遠のき接触における噛み合いを示す図。
【図12】近寄り接触における噛み合いを示す図。
【図13】SMGによるかみあい理論曲線を示す図。
【図14】駆動歯車と従動歯車との噛み合いパターンを示す図であって、(a)は両歯車の歯数が12のときの状態を示す図、(b)は、歯数12の歯車から1歯おきに歯を除去した駆動歯車に歯数12の従動歯車を噛み合わせた状態を示す図、(c)は、歯数12の歯車から1歯おきに歯を除去した駆動歯車に歯数13の従動歯車を噛み合わせた状態を示す図、(d)は、歯数13の歯車から1歯おきに歯を除去した駆動歯車に歯数12の従動歯車を噛み合わせた状態を示す図である。
【図15】歯車かみあい試験機を示す概略構成図。
【図16】本発明の歯形測定装置による歯形測定の結果を示す図。
【図17】図16に示すグラフの横軸を拡大してプロットした歯形測定の結果を示す図。
【図18】従来の歯形試験機による測定結果を示す図。
【図19】特殊マスターギアと同程度の精度に仕上げたテストギアと噛み合わせた場合の測定結果を示す図。
【図20】微小モジュールの特殊マスターギアとテストギアについの測定結果を示す図。
【符号の説明】
【0068】
33 特殊マスターギア(SMG)
36 特殊マスターギア(SMG)
49 駆動軸側アーバ
51 特殊マスターギア(SMG)
61 ロータリーエンコーダ
64 検出装置
73 従動側アーバ
75 テストギア(G)
79 ロータリーエンコーダ
81 パルス検出器
83 メインシステム
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定用親歯車と被測定歯車を噛み合わせて回転するだけで、容易に歯形の測定を行うことができる歯形測定方法、歯形測定装置およびこの歯形測定装置に使用する測定用親歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
精密機械はもとより、自動車、重機械、OA機器、ロボット等、多くの分野で歯車は使われており、近年ではコスト削減や軽量化の為、樹脂材料を用いた歯車も増えてきている。歯車産業で特に問題になるのが歯車の精度であり、それにともなって生じる振動・騒音に関するノイズ問題の改善が急がれている。歯車の測定・評価の目的は、生産する歯車の精度を管理し歯車の運転性能を予測することにある。
【0003】
歯車の測定は、歯形、歯すじ、ピッチ、歯溝の振れ等の個別誤差測定と、片歯面かみあい試験、両歯面かみあい試験、歯あたり検査等の総合誤差測定があり、それらの測定から得られた結果を各精度等級と対比し評価している。
【0004】
一般に、歯車の個別誤差(歯形、ピッチ、歯すじ、歯溝のフレ)の評価は、市販されている歯車歯形測定機/試験機で行われている。この歯車歯形測定機は、接触式の測定子(プローブ)と、測定対象の歯車を保持する回転軸を持つ三次元測定機である。
【0005】
この測定機にて歯形測定をする場合は、三次元空間内で1歯ずつ測定子を測定対象歯車の歯溝に入れ、歯車の基礎円径に位置決めする必要がある。このため、測定子の位置決め作業が複雑であり、プログラム化されていても、連続して歯車の全ての歯の歯形誤差を測定するには、非常に時間も掛かり効率も悪い。そのため、歯車の歯形測定を、歯車の歯数に関わらず、およそ90°間隔で4つの歯のみを抜き取り検査的に歯形測定をし、精度管理としているのが一般的に歯車生産工場で行われている実情である。また、接触式の測定子が一般的であるため、測定子の先をいかに細く針状にしても、モジュールの小さい歯車(およそモジュール0.3以下)は測定できない。
【0006】
また、歯車の角度伝達誤差、それに伴う振動・騒音の原因をつきとめ改善をおこなうためには、片歯面かみあい試験が有効であり、さらに詳細を調べるためには歯形検査が必要になる。しかしながら、この2つの試験は別々の試験機を用いておこなうため、時間的にも労力的にも、そして測定精度の面でも無駄が多かった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる問題点を解決すべくなされたものであって、歯車の歯形誤差を効率よく測定することがきるばかりでなく、モジュールの小さな歯車でも測定可能な歯車歯形測定方法、歯車歯形測定装置およびこの歯車歯形測定装置に使用する測定用親歯車を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく本発明は、高精度のインボリュート歯車のうち1つおきの歯を取り除いた形状を有する測定用親歯車と、歯形形状を測定しようとする被測定歯車を回転可能に保持するとともに、前記測定用親歯車を前記被測定歯車に噛み合わせつつ回転するように保持する回転保持機構と、前記測定用親歯車と前記被測定歯車とが噛み合いながら回転する際に、前記測定用親歯車の回転角と、前記被測定歯車の回転角とを測定し、これら両歯車の回転角の偏差を求めることによって前記被測定歯車の歯形形状を検出する検出装置とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また本発明は、前記測定用親歯車と前記被測定歯車は、その噛み合い率が1未満であり、前記測定用親歯車と前記被測定歯車は、互いに噛み合う1対の歯がインボリュート噛み合い終了後の遠のき接触による噛み合いをしている間に、次に噛み合うべき1対の歯が近寄り接触による噛み合い開始し、その後インボリュート噛み合いを行うようになされていることを特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記保持機構は、前記被測定歯車を前記測定用親歯車と噛み合いながら1回転以上するように回転保持することを特徴とする。
【0011】
また本発明は、高精度のインボリュート歯車のうち1つおきの歯を取り除いた形状を有することを特徴とする。
【0012】
また本発明は、高精度のインボリュート歯車のうち1つおきの歯を取り除いた形状を有する測定用親歯車と歯形形状を測定しようとする被測定歯車とを噛み合わせた状態で回転させ、これら両歯車が噛み合いながら回転する際に、前記測定用親歯車の回転角と前記被測定歯車の回転角とを測定し、これら両歯車の回転角の偏差を求めることによって前記被測定歯車の歯形形状を測定することを特徴とする。
【0013】
また本発明は、前記測定用親歯車と前記被測定歯車はその噛み合い率が1未満であり、前記測定用親歯車と前記被測定歯車は、互いに噛み合う1対の歯がインボリュート噛み合い終了後の遠のき接触による噛み合いをしている間に、次に噛み合うべき1対の歯が近寄り接触による噛み合い開始し、その後インボリュート噛み合いを行うようになされていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、高精度のインボリュート歯車のうち1つおきの歯を取り除いた形状を有する測定用親歯車と歯形形状を測定しようとする被測定歯車とを噛み合わせた状態で回転させる手順と、これら両歯車が噛み合いながら回転する際に、前記測定用親歯車の回転角と前記被測定歯車の回転角とを測定する手順と、これら両歯車の回転角の偏差を求めることによって前記被測定歯車の歯形形状を測定する手順とをコンピュータに実行させるためのプログラムであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明にあっては、歯車の歯形誤差を、全ての歯について容易な段取りで効率よく測定でき、ノイズ問題等、歯車の性能向上の指針が得られる。また、測定子を必要としないため、モジュールの小さい歯車でもそれとかみあう歯車があれば、歯形誤差が測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、従来の歯車歯形測定装置のように、測定子(センサー、またはプローブ)を使って歯車の歯の表面を1枚1枚なぞってセンシングする手法とは全く違い、歯車同士のかみあいにより歯車の歯形誤差を測定する方法の発明であり、それを成立させる親歯車、特殊マスターギヤ(SMG)についての発明である。
【0017】
本発明の特殊マスターギア(SMG)による歯車の歯形誤差測定が成立するには、特殊マスターギア(SMG)が後述する所定の形状を有すること、測定対象となるテストギア(G)と特殊マスターギア(SMG)とが連続してかみあうこと、測定時、テストギア(G)は特殊マスターギア(SMG)とかみあいながら必ず1回転もしくは1回転以上すること、という条件が必要であり、特殊マスターギアはこの条件を満たす幾何学形状を持つ。
【0018】
測定機は、歯車かみあい回転角伝達誤差測定機(または歯車片歯面かみあい試験機、以下かみあい試験機)もしくは、それと同様の機能を果たす測定装置を用い、かみあい時の親歯車、特殊マスターギア(SMG)と測定対象となるテストギア(G)の各々の回転軸の回転角度を計測する。かみあい試験機は、1対の歯車をモータなどの動力を用いて回転させて噛合わせ、おもに歯車の幾何学的誤差に起因する歯車噛合い伝達角度の遅れ進みを測定する装置である。一般的なかみあい試験機は、駆動側、従動側の回転角度をロータリーエンコーダで読み、そのデータより伝達角度誤差を計測する。本発明では、かみあい試験機の駆動側に特殊マスターギア(SMG)を取り付け、動力の無い従動側にテストギア(G)を取り付け、幾何学条件より得られる互いの歯がかみあう位置に軸間を固定して回転させ、駆動軸、従動軸の回転角度の遅れ進み(角度伝達誤差)を測定し、そのかみあいデータに理論定義された演算をし、歯車の歯形誤差を取り出すシステムである。本発明は、インボリュートカーブを持つ歯車に対して効果があるものである。
【0019】
「特殊マスターギア(SMG)の説明と定義」
歯数Z=12の通常の平歯車を図1に示す。この歯車Gから歯を一つ置きに取り除いた特殊マスターギア(SMG)を図2に示す。この特殊マスターギア(SMG)は作用線上の全かみあい長さが法線ピッチの2倍以下でかみあう特殊ギヤで、主な形状は、通常の歯車の歯を1歯おきに歯を取り除いてある歯車、もしくは、それに相当する形状を持つギヤである。
【0020】
これら図1、図2において、符号11は外径、符号13はピッチ円直径、符号15は基礎円直径、符号17は歯底径を示す。
【0021】
この図2の特殊マスターギア(SMG)は、親歯車の精度規格に相当する精度で製作されており、精度が良く、検査用親円筒歯車(マスターギヤ)の精度規格(例、JIS B 1751−1976)相当の歯車精度を持つものである。以下欠け歯特殊マスターギヤという。
【0022】
図2の特殊マスターギア(SMG)は、歯数Z=12の歯車から、一つ置きに歯を取り除いているので、基準歯数Zb=12、実歯数 Zr=6と定義される。
【0023】
また、図3の特殊マスターギア(SMG)は、基準歯数Zb=13、実歯数 Zr=7、図4のSMGは、基準歯数Zb=15、実歯数 Zr=9である。
【0024】
また、図3、図4にある符号19の歯は、この特殊マスターギア(SMG)によるかみあい測定では測定対象の歯車の歯形誤差量を特定するのに機能しない歯である。したがって、図3、図4の特殊マスターギア(SMG)において、符号19が付されていない両隣に歯が無い位置の歯を有効歯、符号19が付されている両隣もしくは片側に歯がある位置にある歯を無効歯と定義する。
【0025】
「発明が成立することの証明1」
インボリュート歯車の歯面は、インボリュート曲線を目指して製作される。歯形誤差測定は、歯車の歯形がどれだけ正確にインボリュート曲線になっているかを測ることで、理論インボリュート曲線からの偏差を示す。
【0026】
一般的に、インボリュート歯車の歯形測定を図5に示す。この図において、基礎円21上にプローブ23のフィーラー球25を配置させ、プローブ23はX方向へΔX、歯車は時計回りにΔθ回転すると考える。
このとき、ΔXとΔθが、下記のようにRbを定数とする比例同期移動をする。
ΔX=Δθ・Rb
もし、歯形が完全なインボリュート曲線Iならば、プローブ23は変位を検出しない。もし、インボリュート曲線に対して誤差を持っていれば、そのインボリュート曲線からの変位分をプローブが検出することになる。
【0027】
この歯形誤差測定の関係を、歯車同士のかみあいと照らし合わせたものが図6図7、図8、図9である。図6は、図5においてプローブ23が位置Aにある状態を示し、図7は図6に対応する歯車同士の噛み合いを示す。図8は図5においてプローブ23が位置Bにある状態を示し、図9は図8に対応する歯車同士の噛み合いを示す。図7、図9で、歯車の一方が精度が高い(精度保証のえられた)親歯車(マスターギヤ)であるならば、その親歯車を駆動歯車として回転させることで、親歯車の歯形誤差を精度基準にしたもう一方の歯車の歯形誤差を回転角の差として検出が可能となる。
【0028】
「発明が成立することの証明2」
特殊マスターギア(SMG)の条件 図10
歯車対の1歯のみのかみあいを考える。
【0029】
図10に駆動側歯車(回転角θ1)と従動側歯車(回転角θ2)の1歯のみのかみあいを示す。この図10、図11、図12において符号は以下のように定義する。
θ1:駆動側特殊マスターギア(SMG)の回転角
θ2:従動側Gの回転角
α:かみあい圧力角
αk1,αk2:歯先圧力角
rb1,rb2:基礎円半径
invα=tanα−α(インボリュート関数)
rk1,rk2:歯先円半径
測定時は駆動側を特殊マスターギヤ(SMG)、従動側を測定対象となるテストギヤ(G)でおこなう。インボリュート歯車対のかみあい点は、常に歯面法線方向の作用線上を移動する。
【0030】
図10より、
【数1】
が一般的な定義である。
【0031】
幾何学で1歯のみの歯の接触を考えると、特殊マスターギア(SMG)の歯先がB点を越えるとGの歯先が特殊マスターギア(SMG)の歯面をこすり始め、A点からインボリュートかみあいに入り、ピッチ点Pを通過してR点でインボリュートかみあいが終わる。それ以後は特殊マスターギア(SMG)の歯先がテストギヤの歯をこすり始め、C点で離れる。
【0032】
かみあい率が1以上の歯車対のかみあいでは、接触点がAR間にあるとき、次の歯同士がかみあいを始めるため、BA間および、RC間では歯先がこするかみあいにはならない。
【0033】
特殊マスターギヤによる歯形誤差測定は、AR間では1歯対のインボリュートかみあいがなされ、RC間に移りこすり接触になっている時に、BA間で特殊マスターギヤの次の歯とテストギヤの1つ飛びに位置する歯が接触を始める関係になっていれば、歯車対は連続して回転を続けることが出来る。
【0034】
通常、かみあい率は
【数2】
(法線ピッチ=m・π・cosα(歯車の歯面直角方向におけるピッチ))
であるが、これは全かみあい長さ(もしくは作用線)上に、同時に何枚の歯がかみあうことが出来るかの条件である。
本特許の特殊マスター・ギヤは、かみあい率を1未満(インボリュートかみあいを行うAR間では1歯のかみあいを行う)で且つ、連続して回転することが出来るように、作為的に歯車の歯を切り欠いた(取り払った)形状に仕上げた歯車である。
【0035】
遠のき接触におけるかみあい偏差 図11
遠のきかみあいにおけるこすり接触域RC間での偏差を考える。特殊マスターギヤの回転角をピッチ点における歯の位置を基準にθ1、同様にテストギヤの回転角をθ2と表記する。
【0036】
インボリュートかみあい点を越え、こすり接触に変わるθ1の領域は式(1)で表せる。
【数3】
【0037】
この範囲におけるθ1が与えられるとき、θ2は次式となる。
【数4】
【0038】
したがって、法線方向の偏差は歯形誤差成分であり、その量は式(3)で得られる。
【数5】
【0039】
近寄り接触におけるかみあい偏差 図12
近寄りかみあいにおけるこすり接触域BA間での偏差を考える。近寄りかみあいは、前項で述べた事象の正反対を考えればよい。インボリュートかみあいを行う前の、こすり接触域におけるθ2の範囲とθ1は次式で与えられる。
【数6】
【0040】
近寄りかみあいであっても基準は駆動側である特殊マスターギヤであるので、法線方向の偏差は次式で与えられる。
【数7】
【0041】
計算例 図13
前項で述べた幾何条件より、特殊マスターギヤSMGとテストギヤGをかみあわせたときの偏差を回転角伝達誤差の理論曲線として図13に示す。この曲線から分かるように、かみあい試験による測定波形から特殊マスターギヤSMGとテストギヤGが1歯かみあいをしている領域を取り出し評価すればよい。図13は以下の諸元を用いて試算した結果である。
特殊マスターギヤSMG歯数z1=47を1歯おきに除去(基準歯数47実歯数24)
テストギヤ(G)歯数z2=45
共にm=1.0,α=20°,標準並歯
なお、片歯車かみあい試験機では角度で従動側歯車Gの回転伝達誤差を検出する。これを歯形誤差(長さ単位)に変化するには、基礎円半径をかける。すなわち、
歯形誤差=rb2・Δθ2(Δθ2:回転角伝達誤差)
とする。このようにして、図13の縦軸の偏差(deviation)を求める。
【0042】
「SGの歯数設定パターンについて」
図14(a)に一般的なインボリュート歯車のかみあい例を示す。
下を駆動側歯車31、上を従動側歯車32とする。例として、歯車31の歯数Z1=12枚、歯車32の歯数Z2=12枚、とした。歯車1がθ1の方向に時計回りで回転するとき、歯車2はθ2だけ、逆時計回りに回転する。
θ2=θ1・γ
γ=Z1/Z2=12/12:歯数比、加減速比
かみあう歯番号の組み合わせは、
歯車1回転の回数 1 2 3 ・ ・
1−A 1−A
2−B 2−B
3−C 3−C
4−D 4−D
5−E 5−E
6−F ・
7−G ・
8−H ・
9−I ・
10−J
11−K
12−L
となる。歯数比が違う場合は、当然かみあう歯はずれていく。
【0043】
次に、偶数特殊マスターギア(SMG)と偶数テストギア(G)の場合について図14(b)を参照して説明する。
【0044】
図14(a)の歯車31の歯を1歯おきに除去した場合を図14(b)に示す。特殊マスターギア(SMG)歯車33の歯数は半分になるので6枚で欠け歯歯車となり、歯数12枚のテストギア(G)34と1歯おきにかみあうことになる。
かみあう歯番号は、
SMG回転回数 1 2 3 4 ・ ・
1−A 1−A 1−A ・
2−C 2−C 2−C ・
3−E 3−E 3−E ・
4−G 4−G 4−G ・
5−I 5−I 5−I
6−K 6−K 6−K
という組み合わせで、重なりかみあいが生じないで1歯かみあいをする。基本的な速比は1項のγ=12/12と変わらない。
【0045】
テストギア(G)34の歯のなかで、B、D、F、H、J、Lは、特殊マスターギア(SMG)とかみあわない。このように、偶数歯数の特殊マスターギア(SMG)33と偶数歯数のテストギア(G)34のかみあいでは、歯数が異なり速比が変わって特殊マスターギア(SMG)を何回転させても、マスターギア(G)の1歯おきの歯はかみあうことはない。このB、D、F、H、J、Lの歯を特殊マスターギア(SMG)33とかみ合わせるには、図1(b)の歯の位置からテストギア(G)34の歯を1歯ずらした位置でかみあわせる必要がある。
【0046】
次いで、偶数歯の特殊マスターギア(SMG)と奇数歯のテストギア(G)の場合について説明する。図14(c)は、6枚歯の特殊マスターギア(SMG)33と13枚歯のテストギア(G)35のかみあいをしめす。ここでのかみあいの組み合わせは、
SMG回転回数 1 2 3 4 5 6 ・
1−A 1−M 1−L 1−K 1−J 1−I
2−C 2−B 2−A 2−M 2−L 2−K
3−E 3−D 3−C 3−B 3−A 3−M
4−G 4−F 4−E 4−D 4−C 4−B
5−I 5−H 5−G 5−F 5−E 5−D
6−K 6−J 6−I 6−H 6−G 6−F
となり、かみあう歯がずれるため、複数回転させることによって必ずテストギア(G)の全ての歯が特殊マスタギア(SMG)33とかみあう。
【0047】
また、奇数歯の特殊マスターギア(SMG)と偶数歯のテストギア(G)の場合について説明する。図14(d)は奇数歯の特殊マスターギア(SMG)36と偶数歯のテストギア(G)34のかみあいを示す。特殊マスターギア(SMG)36は歯数13枚の歯を1歯おきに6枚除去し最後の歯(7番)を残してある状態の7枚。ここで7番を除去してしまうと、1番と6番の間が2歯分も開くため、歯数によると回転が止まってしまう場合もある。
【0048】
この例のかみあいの組み合わせは特殊マスターギア(SMG)36が7枚、テストギア(G)34が12枚で
SMG回転回数 1 2 3 4 5 6 ・
1−A 1−B 1−C 1−D 1−E 1−F
2−C 2−D 2−E 2−F 2−G 2−H
3−E 3−F 3−G 3−H 3−I 3−J
4−G 4−H 4−I 4−J 4−K 4−L
5−I 5−J 5−K 5−L 5−A 5−B
6−K 6−L 6−A 6−B 6−C 6−D
7−A 7−B 7−C 7−D 7−E 7−F
となり、条件を満たさず、重なりかみ合いとする1番と7番以外とかみあう以外の歯のみ、1歯かみあいとして評価できる。しかし、複数回転することにより、必ずテストギア(G)34の全ての歯が特殊マスターギア(SMG)36と1歯かみあいをする。
【0049】
次いで、奇数歯の特殊マスターギア(SMG)と奇数歯のテストギア(G)の場合について説明する。
特殊マスターギア(SMG)は、図14(d)中の特殊マスターギア(SMG)36を使用し、テストギア(G)の歯数を変えた場合について考える。図は省略する。両方奇数の場合は、歯数の組み合わせにより、1歯かみあいが行われる歯を把握しておかなければ、評価できない。特殊マスターギア(SMG)7枚とテストギア(G)13枚のように、必ず同じ歯のみかみあう組み合わせもあるが、その組み合わせだけさせれば、複数回転させることによりテストギア(G)の全部の歯について1歯かみあいが評価できる。
SMG7枚、G11枚の場合
SMG回転回数 1 2 3 4 5 6 ・
1−A 1−C 1−E 1−G 1−I 1−K
2−C 2−E 2−G 2−I 2−K 2−B
3−E 3−G 3−I 3−K 3−B 3−D
4−G 4−I 4−K 4−B 4−D 4−F
5−I 5−K 5−B 5−D 5−F 5−H
6−K 6−B 6−D 6−F 6−H 6−J
7−B 7−D 7−F 7−H 7−J 7−A
SMG7枚、G13枚の場合
SMG回転回数 1 2 3 4 5 6 ・
1−A 1−A 1−A 1−A 1−A 1−A
2−C 2−C 2−C 2−C 2−C 2−C
3−E 3−E 3−E 3−E 3−E 3−E
4−G 4−G 4−G 4−G 4−G 4−G
5−I 5−I 5−I 5−I 5−I 5−I
6−K 6−K 6−K 6−K 6−K 6−K
7−M 7−M 7−M 7−M 7−M 7−M
・SMG7枚、G15枚の場合
SMG回転回数 1 2 3 4 5 6 ・
1−A 1−N 1−L 1−J 1−H 1−F
2−C 2−A 2−N 2−L 2−J 2−H
3−E 3−C 3−A 3−N 3−L 3−J
4−G 4−E 4−C 4−A 4−N 4−L
5−I 5−G 5−E 5−C 5−A 5−N
6−K 6−I 6−G 6−E 6−C 6−A
7−M 7−K 7−I 7−G 7−E 7−C
このように、歯数の組み合わせは無数に挙げられるが、上述のパターンを考慮して、測定対象となるテストギア(G)の仕様より、最適な設計を施せばよい。
【0050】
次に、歯車歯形測定装置60(歯車かみあい回転角伝達誤差測定装置)について、図15を参照して説明する。
【0051】
一般的に、歯車のかみあい回転角伝達誤差Fは次の通りである。
F=Δθ=θ2−(Z1/Z2)θ1
θ1=2πC1/R1
θ2=2πC2/R2
ここで、
θ1:駆動側歯車(特殊マスターギア)の回転角
Z1:駆動側歯車(特殊マスターギア)の歯数
R1:駆動側ロータリーエンコーダの分解能
C1:駆動側ロータリーエンコーダの出力パルス
θ2:従動側歯車(テストギア)の回転角
Z2:従動側歯車(テストギア)の歯数
R2:従動側ロータリエンコーダの分解能
C2:従動側ロータリエンコーダの出力パルス
なお、歯形誤差ΔLは、
ΔL=Δθγb2(γb2は従動側歯車Gの基礎円半径)
図15において、符号62は回転保持機構を示す。この回転保持機構は駆動軸構成部材41を有している。この駆動軸構成部材41には駆動軸43が軸受け45を介して軸支されており、この駆動軸43にはアーバー保持部47を介して駆動軸側アーバ49が連結されている。この駆動軸側アーバ49には、特殊マスターギア(SMG)51が保持されている。この特殊マスターギア(SMG)51は、駆動軸側アーバに確実に保持されて、空回りすることなく回転されなければならない。
【0052】
前記駆動軸43の他端には、ジョイント部材53を介してパルスモータ55のモータシャフト57が連結されている。このジョイント部材53は、駆動軸43とモータシャフト57に芯ずれが生じていても回転を正確に伝達できるようになっている。モータシャフト57の他端には、ジョイント部材59を介して駆動軸側ロータリエンコーダ61が接続されている。この駆動軸側ロータリエンコーダ61はハウジング63を介してパルスモータ55に装着されている。
【0053】
一方、前記駆動軸構成部材41の反対側には、従動軸構成部材65が配設されている。この従動軸構成部材65には、軸受67を介して従動軸69が軸支されている。この従動軸69には、連結用部材71を介して従動側アーバ73が連結されている。そして、このアーバ73には、前記特殊マスターギア(SMG)51に噛み合った状態のテストギア(G)75が保持されている。
【0054】
前記従動軸69の他端にはジョイント部材77を介して従動軸側ロータリエンコーダ79が接続されている。
【0055】
この従動軸側ロータリエンコーダ79と前記駆動軸側ロータリエンコーダ61とには、コンピュータに内蔵されるカウンターボードからなるパルス検出器81が接続されており、このパルス検出器81には、モータ制御とデータ取り込み保存を兼ねるコンピュータからなるメインシステム83が接続されている。このメインシステム83には、コンピュータに内蔵されるモータコントロールボードであるパルスジェネレータ85が接続されいる。そして、このパルスジェネレータ85は、モータアンプ87を介してパルスモータ55に接続されている。なお、メインシステム83には、データ出力用のプリンタ89が接続されている。なお、ロータリエンコーダ61、ロータリエンコーダ79は検出装置64を構成する。
【0056】
このような構成において、上記コンピュータからなるメインシステム83は、高精度のインボリュート歯車のうち1つおきの歯を取り除いた形状を有する測定用親歯車と歯形形状を測定しようとする被測定歯車とを噛み合わせた状態で回転させる手順と、これら両歯車が噛み合いながら回転する際に、前記測定用親歯車の回転角と前記被測定歯車の回転角とを測定する手順と、これら両歯車の回転角の偏差を求めることによって前記被測定歯車の歯形形状を測定する手順とをコンピュータに実行させるためのプログラムを有しており、このプログラムにしたがい歯車歯形測定装置60を作動させる。
【0057】
具体的には、メインシステム83は、パルスジェネレータ85、モータアンプ87を介してパルスモータ55を駆動する。すると、駆動軸43を介して駆動軸側アーバ49が回転し、特殊マスターギア(SMG)51が回転する。そして、この特殊マスターギア(SMG)51に噛み合っているテストギア(G)75が回転する。このテストギア(G)75の回転角は、従動側アーバ73、従動軸69を介して従動軸側ロータリエンコーダ79に伝達され、パルス検出器81を経てメインシステム83に伝えられる。一方、特殊マスターギア(SMG)51の回転角も駆動軸側ロータリエンコーダ61を介してパルス検出器81に伝達され、メインシステム83に伝えられる。このようにしてメインシステム83に伝達された特殊マスターギア(SMG)51の回転角とテストギア75の回転角からその偏差が検出され、プリンタ89に出力される。
次に、上記歯形誤差測定装置による測定例を示す。
【0058】
測定例1
特殊マスターギアSMGは、m=1.0,α=20°,標準並歯,歯数はz1=47から1歯おきに歯を取り除いてあるものを製作し、かみあい試験機でG(テストギヤ)m=1.0,α=20°,z2=45とかみあわせた測定結果を図16に示す。測定範囲は、テストギヤGのほぼ全ての歯の歯形誤差を得るため、テストギヤ2回転分のデータを取得した。かみあい試験機のロータリーエンコーダ最小分解能は1[秒]、歯形誤差1歯分を評価するのに400点のサンプリングでデータを得た。
【0059】
図17は図16の横軸を拡大し、例として任意の5歯分の歯形誤差が確認できるよう抜き出しプロットしたものである。
【0060】
さらに、図18に市販されている歯形試験機によるテストギヤの歯形誤差測定結果を示す。特殊マスターギアSMGにも当然製作誤差があるため完全に歯形誤差が一致しているわけではないが、誤差傾向はよく一致しており、かみあい試験より歯形誤差が測定できうることがわかる。
【0061】
測定例2
図19に、特殊マスターギアSMGと同程度の製作精度に仕上げたテストギヤG(m=1.0,α=20°,z2=50,標準並歯)とかみあわせた測定結果を、5歯分の歯形誤差が確認できるようプロットした。
【0062】
ピッチ誤差の影響による勾配は見られるが、図13で示した理論曲線に近い結果が得られている。
【0063】
さらに応用として、微小モジュールの部類に入れられるm=0.15の特殊マスターギヤ(α=20°,標準並歯,歯数はz1=317から1歯おきに歯を取り除いてある)とテストギヤを製作し、測定を試みた。結果を図20に示す。
【0064】
以上説明したように、特殊マスターギヤを用いることで、かみあい試験機により歯形誤差を評価することが出来た。また、一般的に市販の歯車歯形試験機では難しいとされている微小モジュールの歯形誤差を測定できたことで、今後の微小モジュール歯車の精度管理にこの方法の活用が期待できる。
【0065】
一般の歯車歯形試験機で微小モジュール歯車を測定しようとしても、測定子(フィーラー)が歯車の歯溝に入らず測定が難しい(一般にモジュール0.3〜0.4以下)。
【0066】
この特殊マスターギアによる方式は、上記以下のモジュールの歯形誤差が測定可能であり、またその微小モジュールの特殊マスターギアは、1歯おきに歯を取り除いてあるため、一般の歯形試験機の測定子でも歯溝に入り易く、限界はあるものの、歯形試験機でのマスターギアの精度が保証できるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】通常の平歯車を示す正面図である。
【図2】図1に示す平歯車から歯を1つおきに取り除いた歯車を示す正面図。
【図3】奇数の歯を有する平歯車から歯を1つおきに取り除いた歯車を示す正面図。
【図4】奇数の歯を有する平歯車から歯を1つおきに取り除いた歯車の他の例を示す正面図。
【図5】一般的なインボリュート歯車の歯形測定を示す図。
【図6】図5中プローブがA点にある場合を示す図。
【図7】プローブの替わりに高精度親歯車を使用して図6に示す測定を行う状態を示す図。
【図8】図5中プローブがB点にある場合を示す図。
【図9】プローブの替わりに高精度親歯車を使用して図8に示す測定を行う状態を示す図。
【図10】駆動側歯車と従動側歯車との噛み合いを示す図。
【図11】遠のき接触における噛み合いを示す図。
【図12】近寄り接触における噛み合いを示す図。
【図13】SMGによるかみあい理論曲線を示す図。
【図14】駆動歯車と従動歯車との噛み合いパターンを示す図であって、(a)は両歯車の歯数が12のときの状態を示す図、(b)は、歯数12の歯車から1歯おきに歯を除去した駆動歯車に歯数12の従動歯車を噛み合わせた状態を示す図、(c)は、歯数12の歯車から1歯おきに歯を除去した駆動歯車に歯数13の従動歯車を噛み合わせた状態を示す図、(d)は、歯数13の歯車から1歯おきに歯を除去した駆動歯車に歯数12の従動歯車を噛み合わせた状態を示す図である。
【図15】歯車かみあい試験機を示す概略構成図。
【図16】本発明の歯形測定装置による歯形測定の結果を示す図。
【図17】図16に示すグラフの横軸を拡大してプロットした歯形測定の結果を示す図。
【図18】従来の歯形試験機による測定結果を示す図。
【図19】特殊マスターギアと同程度の精度に仕上げたテストギアと噛み合わせた場合の測定結果を示す図。
【図20】微小モジュールの特殊マスターギアとテストギアについの測定結果を示す図。
【符号の説明】
【0068】
33 特殊マスターギア(SMG)
36 特殊マスターギア(SMG)
49 駆動軸側アーバ
51 特殊マスターギア(SMG)
61 ロータリーエンコーダ
64 検出装置
73 従動側アーバ
75 テストギア(G)
79 ロータリーエンコーダ
81 パルス検出器
83 メインシステム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高精度のインボリュート歯車のうち1つおきの歯を取り除いた形状を有する測定用親歯車と、
歯形形状を測定しようとする被測定歯車を回転可能に保持するとともに、前記測定用親歯車を前記被測定歯車に噛み合わせつつ回転するように保持する回転保持機構と、
前記測定用親歯車と前記被測定歯車とが噛み合いながら回転する際に、前記測定用親歯車の回転角と、前記被測定歯車の回転角とを測定し、これら両歯車の回転角の偏差を求めることによって前記被測定歯車の歯形形状を検出する検出装置と、
を備えたことを特徴とする歯車歯形測定装置。
【請求項2】
前記測定用親歯車と前記被測定歯車は、その噛み合い率が1未満であり、前記測定用親歯車と前記被測定歯車は、互いに噛み合う1対の歯がインボリュート噛み合い終了後の遠のき接触による噛み合いをしている間に、次に噛み合うべき1対の歯が近寄り接触による噛み合い開始し、その後インボリュート噛み合いを行うようになされていることを特徴とする請求項1に記載の歯車歯形測定装置。
【請求項3】
前記保持機構は、前記被測定歯車を前記測定用親歯車と噛み合いながら1回転以上するように回転保持することを特徴とする請求項1又は2に記載の歯車歯形測定装置。
【請求項4】
高精度のインボリュート歯車のうち1つおきの歯を取り除いた形状を有することを特徴とする測定用親歯車。
【請求項5】
高精度のインボリュート歯車のうち1つおきの歯を取り除いた形状を有する測定用親歯車と歯形形状を測定しようとする被測定歯車とを噛み合わせた状態で回転させ、これら両歯車が噛み合いながら回転する際に、前記測定用親歯車の回転角と前記被測定歯車の回転角とを測定し、これら両歯車の回転角の偏差を求めることによって前記被測定歯車の歯形形状を測定することを特徴とする歯車歯形測定方法。
【請求項6】
前記測定用親歯車と前記被測定歯車はその噛み合い率が1未満であり、前記測定用親歯車と前記被測定歯車は、互いに噛み合う1対の歯がインボリュート噛み合い終了後の遠のき接触による噛み合いをしている間に、次に噛み合うべき1対の歯が近寄り接触による噛み合い開始し、その後インボリュート噛み合いを行うようになされていることを特徴とする請求項5に記載の歯車歯形測定方法。
【請求項7】
高精度のインボリュート歯車のうち1つおきの歯を取り除いた形状を有する測定用親歯車と歯形形状を測定しようとする被測定歯車とを噛み合わせた状態で回転させる手順と、
これら両歯車が噛み合いながら回転する際に、前記測定用親歯車の回転角と前記被測定歯車の回転角とを測定する手順と、
これら両歯車の回転角の偏差を求めることによって前記被測定歯車の歯形形状を測定する手順と、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項1】
高精度のインボリュート歯車のうち1つおきの歯を取り除いた形状を有する測定用親歯車と、
歯形形状を測定しようとする被測定歯車を回転可能に保持するとともに、前記測定用親歯車を前記被測定歯車に噛み合わせつつ回転するように保持する回転保持機構と、
前記測定用親歯車と前記被測定歯車とが噛み合いながら回転する際に、前記測定用親歯車の回転角と、前記被測定歯車の回転角とを測定し、これら両歯車の回転角の偏差を求めることによって前記被測定歯車の歯形形状を検出する検出装置と、
を備えたことを特徴とする歯車歯形測定装置。
【請求項2】
前記測定用親歯車と前記被測定歯車は、その噛み合い率が1未満であり、前記測定用親歯車と前記被測定歯車は、互いに噛み合う1対の歯がインボリュート噛み合い終了後の遠のき接触による噛み合いをしている間に、次に噛み合うべき1対の歯が近寄り接触による噛み合い開始し、その後インボリュート噛み合いを行うようになされていることを特徴とする請求項1に記載の歯車歯形測定装置。
【請求項3】
前記保持機構は、前記被測定歯車を前記測定用親歯車と噛み合いながら1回転以上するように回転保持することを特徴とする請求項1又は2に記載の歯車歯形測定装置。
【請求項4】
高精度のインボリュート歯車のうち1つおきの歯を取り除いた形状を有することを特徴とする測定用親歯車。
【請求項5】
高精度のインボリュート歯車のうち1つおきの歯を取り除いた形状を有する測定用親歯車と歯形形状を測定しようとする被測定歯車とを噛み合わせた状態で回転させ、これら両歯車が噛み合いながら回転する際に、前記測定用親歯車の回転角と前記被測定歯車の回転角とを測定し、これら両歯車の回転角の偏差を求めることによって前記被測定歯車の歯形形状を測定することを特徴とする歯車歯形測定方法。
【請求項6】
前記測定用親歯車と前記被測定歯車はその噛み合い率が1未満であり、前記測定用親歯車と前記被測定歯車は、互いに噛み合う1対の歯がインボリュート噛み合い終了後の遠のき接触による噛み合いをしている間に、次に噛み合うべき1対の歯が近寄り接触による噛み合い開始し、その後インボリュート噛み合いを行うようになされていることを特徴とする請求項5に記載の歯車歯形測定方法。
【請求項7】
高精度のインボリュート歯車のうち1つおきの歯を取り除いた形状を有する測定用親歯車と歯形形状を測定しようとする被測定歯車とを噛み合わせた状態で回転させる手順と、
これら両歯車が噛み合いながら回転する際に、前記測定用親歯車の回転角と前記被測定歯車の回転角とを測定する手順と、
これら両歯車の回転角の偏差を求めることによって前記被測定歯車の歯形形状を測定する手順と、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2006−250625(P2006−250625A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−65592(P2005−65592)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.刊行物名、巻数、号数 MPT2004シンポジウム<伝動装置>プログラム 2.発行者名 社団法人 日本機械学会 機素潤滑設計部門 3.発行年月日 2004年11月26日
【出願人】(594167255)株式会社小笠原プレシジョン・エンジニアリング (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.刊行物名、巻数、号数 MPT2004シンポジウム<伝動装置>プログラム 2.発行者名 社団法人 日本機械学会 機素潤滑設計部門 3.発行年月日 2004年11月26日
【出願人】(594167255)株式会社小笠原プレシジョン・エンジニアリング (3)
【Fターム(参考)】
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