説明

歯面清掃方法及び歯面清掃用組成物

【課題】 従来の研磨剤を使用しなくても効率よく歯面を清掃することができ、使用する薬剤等が術者や患者の顔や衣類に飛散しないばかりでなく清掃後は簡単な水洗いで済ますことが可能な歯面清掃方法及び歯面清掃用組成物を提供する。
【解決手段】 カルシウムキレート剤と、過酸化水素または過酸化水素誘導体を含んでいる組成物を歯面に10秒〜10分間接触させることによる歯面清掃方法とする。歯面清掃用組成物には溶媒にカルシウムキレート剤と、増粘材と、過酸化水素または過酸化水素誘導体とが配合されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯面の清掃方法及びこの方法に用いる歯面清掃用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば歯科医院では漂白や矯正治療の前処理として患者の歯面を清掃する際に歯面のプラークや着色等の除去を行っていた。この従来の歯面清掃方法は、研磨砥粒をワックスやポリエチレングリコール等の媒体に分散したペースト状の研磨剤を使用し、研磨剤を高速回転するブラシ等を用いて歯面の汚れを物理的に除去する方法が一般的であった(例えば、特許文献1参照。)。また一般の家庭でも手動や電動の歯ブラシによる歯磨きや研磨で清掃する方法が一般的である。
【0003】
しかしながら、個々の歯牙に特有な複雑な凹部が存在しており、また矯正治療を行っている歯面を清掃する場合には複雑な凹部やブラケットの隙間に入り込んだプラーク等を研磨剤で物理的に除去することが非常に困難であり多くの時間を費やさなければならなかった。特に歯科医院でのロビンソンブラシ状のブラシを使用した清掃方法では研磨剤が飛散し易いので術者や患者の顔や衣類に飛び跳ねてしまうといった問題もあり、飛散を抑えるために水の配合量を抑えたりあるいは単に増粘剤を配合して飛散を抑えようとしても、清掃後に複雑な凹部やブラケットの隙間に残った研磨剤の水洗いは困難であり十分な除去ができないという問題があった。
【特許文献1】特開昭52−133306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は従来の研磨剤を使用しなくても効率よく歯面を清掃することができ、使用する薬剤等が術者や患者の顔や衣類に飛散しないばかりでなく清掃後は簡単な水洗いですますことが可能な歯面清掃方法及び歯面清掃用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は前記課題を解決するために鋭意検討した結果、カルシウムキレート剤を歯面に適用すると歯牙の表面の付着物を浮かす効果があり、同時に過酸化水素または過酸化水素誘導体を歯面に適用するとカルシウムキレート剤が付着物を浮かした直後に歯面へ過酸化水素が直接入り込むことによって歯牙を研磨しなくても確実に歯面を清掃することが可能となることを見出して本発明を完成した。
【0006】
即ち本発明は、カルシウムキレート剤と過酸化水素または過酸化水素誘導体を含んでいる組成物を歯面に所定時間適用することによる歯面清掃方法及びこれに用いる歯面清掃用組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る歯面清掃方法は歯面を効率よく清掃することができ、使用する薬剤等が術者や患者の顔や衣類に飛散せず、清掃後は簡単な水洗いですますことが可能な優れた歯面清掃方法及び歯面清掃用組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る歯面清掃方法は、カルシウムキレート剤と過酸化水素または過酸化水素誘導体を含んでいる組成物を歯面に適用する。適用する手段は組成物を歯面に確実に接触させることができれば特に限定されない。例えば、歯面に直接組成物を筆やヘラ等を用いて塗布したり、歯面清掃用組成物を入れたトレーを歯面に被せることにより歯面に接触させたり、一般家庭であれば歯ブラシに組成物を付けて軽くブラッシングしたり、歯面清掃用組成物を口腔内に含み所定時間後に吐き出したりする方法により適用すればよい。
【0009】
組成物の歯面への適用時間は、カルシウムキレート剤及び過酸化水素等の濃度により異なるが10秒〜10分間適用する。10秒未満では清掃効率が劣り、10分を超えると術者者や患者あるいは使用者への負担が大きくなり簡便な清掃方法とは言いえない。
【0010】
本発明に係る歯面清掃方法で用いる組成物は、溶媒にカルシウムキレート剤と、増粘材と、過酸化水素または過酸化水素誘導体とが配合されていることが好ましい。より好ましくはカルシウムキレート剤:0.1〜10重量%、増粘材:1〜10重量%、過酸化水素または過酸化水素誘導体:1〜20重量%、溶媒:残部から成る組成物であることが好ましい。
【0011】
本発明に係る歯面清掃方法及び歯面清掃用組成物に配合されるカルシウムキレート剤は歯面とプラーク等の汚れの間に入り込むことにより歯面の着色物を浮かす効果を持つ。カルシウムキレート剤としては、クエン酸、グリシン、メタリン酸,トリポリリン酸,テトラポリリン酸,ピロリン酸,オルソリン酸,ヘキサメタリン酸,ヘキサメタリン酸ナトリウム,メタリン酸ナトリウム,トリポリリン酸ナトリウム,テトラポリリン酸ナトリウム,ピロリン酸ナトリウム,オルソリン酸ナトリウム,メタリン酸カリウム,トリポリリン酸カリウム,テトラポリリン酸カリウム,ピロリン酸カリウム,オルソリン酸カリウム,ヘキサメタリン酸カリウム,エチレンジアミン4酢酸,ヒドロキシイミノ2酢酸,ジヒドロキシエチルギリシン,ニトリロ3酢酸,ヒドロキシエチレンジアミン3酢酸,ジエチレントリアミン5酢酸,トリエチレンテトラミン6酢酸,エチレンジアミン4酢酸ナトリウム,ヒドロキシイミノ2酢酸ナトリウム,ジヒドロキシエチルギリシンナトリウム,ニトリロ3酢酸ナトリウム,ヒドロキシエチレンジアミン3酢酸ナトリウム,ジエチレントリアミン5酢酸ナトリウム,トリエチレンテトラミン6酢酸ナトリウム,エチレンジアミン4酢酸カリウム,ヒドロキシイミノ2酢酸カリウム,ジヒドロキシエチルギリシンカリウム,ニトリロ3酢酸カリウム,ヒドロキシエチレンジアミン3酢酸カリウム,ジエチレントリアミン5酢酸カリウム,トリエチレンテトラミン6酢酸カリウム,アミノトリメチレンホスホン酸,1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸,エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸,アミノトリメチレンホスホン酸のN−オキサイド,アミノトリメチレンホスホン酸ナトリウム,1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸ナトリウム,エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸ナトリウム,アミノトリメチレンホスホン酸のN−オキサイドナトリウム,アミノトリメチレンホスホン酸カリウム,1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸カリウム,エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸カリウム,アミノトリメチレンホスホン酸のN−オキサイドカリウムを挙げることができる。
【0012】
カルシウムキレート剤の配合量は組成物中に、好ましくは0.1〜10重量%、更に好ましくは2〜5重量%配合されていれば良い。0.1重量%未満であると歯面の付着物を浮かす効果が得られ難く、10重量%を超えると後述する過酸化水素または過酸化水素誘導体の清掃効果を低減させてしまうためである。
【0013】
組成物の操作性を高めるとともに歯面に効率良く留めておくために、増粘材が配合されていることが好ましい。増粘材としては従来から歯科用組成物で広く用いられている例えば繊維素グルコース酸ナトリウム,アルギン酸ナトリウム,カルボキシメチルセルロース,カルボキシメチルセルロースナトリウム,カルボキシメチルセルロースカルシウム,カルボキシポリメチレン,メチルビニルエーテル/無水マレイン酸コポリマー,ジメチルポリシロキサン,デンプングルコース酸ナトリウム,デンプンリン酸エステルナトリウム,ポリアクリル酸ナトリウム,メチルセルロース,結晶セルロース,ヒドロキシエチルセルロース,ヒドロキシメチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ポリビニルピロリドン等の有機系増粘材や、ケイ酸マグネシウムナトリウム,ケイ酸マグネシウムナトリウムリチウム,アクリル酸/ベヘン酸コポリマー,炭酸カルシウム,ケイ酸カルシウム,ケイ酸マグネシウム,シリカ粉末,各種ガラス類,非晶質含水ケイ酸,ヒュームドシリカ等の無機系増粘材のような口腔内での使用に適している増粘材を適宜使用することができる
【0014】
組成物中の増粘材の配合量は1〜10重量%であることが好ましく、1重量%未満であると増粘の効果を得られ難く、10重量%を超えて配合すると組成物の粘度が高すぎて操作性が悪くなり、更に組成物が飛散し易くなる。増粘材のより好ましい配合量は4〜8重量%である。
【0015】
本発明に係る歯面清掃方法に使用する歯面清掃用組成物では、歯面の清掃効果を高めるために前述のカルシウムキレート剤と併用して過酸化水素または過酸化水素誘導体を配合して用いる。過酸化水素誘導体としては、例えば、過酸化水素ポリビニルピロリドン複合体、過酸化尿素、過ほう酸ナトリウム、過炭酸ナトリウムを挙げることができる。これらは組成物中に1〜20重量%配合されることが好ましく、2種以上を混合して用いても良い。
【0016】
本発明に係る歯面清掃方法に用いる歯面清掃用組成物の溶媒としては、生体に対して安全であれば特に限定されないが、口腔内での使用を考慮すると水または水溶性の例えばアルコール類等を用いることが好ましい。より詳細に述べれば、水、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、1,2ペンタジオール、1,2ヘキサンジオール、1,2オクタンジオールを好ましい例として挙げることができる。
【0017】
溶媒の配合量は他の成分の残部であるが、好ましくは70〜90重量%である。70重量%未満であると粘度が高過ぎて操作性が悪くなり、歯面に塗布し難くなる。また、90重量%を超えて配合されると他の成分の総合的な配合割合が減り清掃効果が減少してしまう。
【0018】
本発明に係る歯面清掃方法は清掃効果を高めるために必要に応じて組成物に対して光照射を行っても良い。また本発明に係る歯面清掃方法に用いる歯面清掃用組成物には、その特性に影響を与えない範囲で香料,甘味料,保存剤,着色料等の添加物が任意に加えられていても良い。また本発明に係る歯面清掃方法に用いる歯面清掃用組成物は1成分であっても良く、また、2成分あるいはそれ以上の成分からなる組成物を使用前に混合してから用いても良い。
【実施例】
【0019】
<実施例1>
表に記載した方法のみで歯面の清掃を1日3回1ヶ月間行い、歯垢及びステインが奇麗に落ちているものをA,僅かに残っている場合をB,清掃効果が得られない場合をCとして評価した。
【0020】
各実施例から明らかなように本発明に係る歯面清掃方法及びこれに用いる歯面清掃用組成物は、研磨剤を使用しなくても歯面を清掃することができることが分かる。即ち、本発明に係る歯面清掃方法及びこれに用いる歯面清掃用組成物は薬剤等が術者や患者の顔や衣類に飛散せず、清掃後は簡単に水洗い可能であり優れた清掃効果のある歯面清掃方法であると言える。
【0021】
<表1>

【0022】
<表2> 清掃効果


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムキレート剤と、過酸化水素または過酸化水素誘導体を含んでいる組成物を歯面に10秒〜10分間接触させることによる歯面清掃方法。
【請求項2】
溶媒にカルシウムキレート剤と、増粘材と、過酸化水素または過酸化水素誘導体とが配合されている歯面清掃用組成物。
【請求項3】
組成物が
カルシウムキレート剤 :0.1〜10重量%
増粘材 :1〜10重量%
過酸化水素または過酸化水素誘導体 :1〜20重量%
溶媒 :残部
である請求項2に記載の歯面清掃用組成物。
【請求項4】
カルシウムキレート剤が、
クエン酸、グリシン、メタリン酸,トリポリリン酸,テトラポリリン酸,ピロリン酸,オルソリン酸,ヘキサメタリン酸,メタリン酸ナトリウム,トリポリリン酸ナトリウム,テトラポリリン酸ナトリウム,ピロリン酸ナトリウム,オルソリン酸ナトリウム,ヘキサメタリン酸ナトリウム,メタリン酸カリウム,トリポリリン酸カリウム,テトラポリリン酸カリウム,ピロリン酸カリウム,オルソリン酸カリウム,ヘキサメタリン酸カリウム,エチレンジアミン4酢酸,ヒドロキシイミノ2酢酸,ジヒドロキシエチルギリシン,ニトリロ3酢酸,ヒドロキシエチレンジアミン3酢酸,ジエチレントリアミン5酢酸,トリエチレンテトラミン6酢酸,エチレンジアミン4酢酸ナトリウム,ヒドロキシイミノ2酢酸ナトリウム,ジヒドロキシエチルギリシンナトリウム,ニトリロ3酢酸ナトリウム,ヒドロキシエチレンジアミン3酢酸ナトリウム,ジエチレントリアミン5酢酸ナトリウム,トリエチレンテトラミン6酢酸ナトリウム,エチレンジアミン4酢酸カリウム,ヒドロキシイミノ2酢酸カリウム,ジヒドロキシエチルギリシンカリウム,ニトリロ3酢酸カリウム,ヒドロキシエチレンジアミン3酢酸カリウム,ジエチレントリアミン5酢酸カリウム,トリエチレンテトラミン6酢酸カリウム,アミノトリメチレンホスホン酸,1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸,エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸,アミノトリメチレンホスホン酸のN−オキサイド,アミノトリメチレンホスホン酸ナトリウム,1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸ナトリウム,エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸ナトリウム,アミノトリメチレンホスホン酸のN−オキサイドナトリウム,アミノトリメチレンホスホン酸カリウム,1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸カリウム,エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸カリウム,アミノトリメチレンホスホン酸のN−オキサイドカリウムから選ばれる1種または2種以上である請求項1ないし3の何れか1項に記載の歯面清掃方法または歯面清掃用組成物。

【公開番号】特開2008−81442(P2008−81442A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−263323(P2006−263323)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】