説明

歯面測定基準設定装置および歯面測定基準設定方法

【課題】傘歯車の歯面に基づいて傘歯車の外部に傘歯車の測定基準を設定することが可能な歯面測定基準設定装置および歯面測定基準設定方法を提供する。
【解決手段】
傘歯車1に形成される歯溝に嵌合する嵌合部材111・111・111および三つの嵌合部材111・111・111における傘歯車1の歯溝との嵌合部位を結んだ仮想平面30に平行な第一基準面115aが形成される本体部材114を備える第一部材110と、第一部材110に係合しつつ第一基準面115aに垂直な方向に摺動可能であり第一部材110に係合しているときに第一基準面115aに平行な第二基準面123aが形成され三つの嵌合部材111・111・111が互いに異なる歯溝に嵌合した傘歯車1が固定される第二部材120と、を具備する歯面測定基準設定装置100により設定された第二基準面123aを基準として傘歯車1の歯面6・6・・・を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傘歯車の歯面形状を測定する技術に関する。
より詳細には、傘歯車の歯面と一定の関係を有する基準面を設定し、当該基準面を用いて測定時の傘歯車の姿勢を決定することにより測定精度を向上する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、傘歯車の歯面形状あるいはピッチ(隣り合う二つの歯の間隔)を測定する装置が知られている。例えば、特許文献1および特許文献2に記載の如くである。
【0003】
特許文献1に記載の装置は傘歯車の歯面形状を測定する装置であり、傘歯車を傘歯車の拡径側端面(傘歯車の軸線に垂直な一対の端面のうち、外径が大きい方の端面)に当接しつつ回転可能に支持するとともに傾斜可能な(板面の角度を変更可能な)傾斜板および傘歯車の歯面に当接するスタイラスを具備する。
特許文献1に記載の装置は、傾斜板に回転可能に支持された傘歯車の「歯すじ」がスタイラスの移動(摺動)方向に対して垂直となるように傾斜板の傾斜角度を調整することにより、傘歯車の歯面形状(実質的には、傘歯車の周面断面形状)を測定する。
【0004】
特許文献2に記載の装置は傘歯車のピッチを測定する装置であり、傘歯車の歯溝に嵌合して傘歯車を支持する三本の位置決めピンおよび傘歯車の拡径側端面に当接して三本の位置決めピンに押し付けるベベルギヤ押さえを具備する。
特許文献2に記載の装置は、三本の位置決めピンのうち一本の位置決めピンを移動不能に固定し、残りの二本の位置決めピンを傘歯車の軸線を中心とする円周上に沿って移動可能に支持し、当該二本の位置決めピンの基準位置(傘歯車に形成される歯溝のピッチが設計値となるときの位置)からの変位量を測定することにより傘歯車のピッチを算出する。
【0005】
しかし、特許文献1および特許文献2に記載の装置は、いずれも傘歯車の拡径側端面を基準として傘歯車を装置の所定の位置に所定の姿勢で固定するものであるため、傘歯車の拡径側端面の形状が傘歯車毎にばらつく場合には十分な測定精度を確保することが困難であるという問題を有する。
【0006】
特に、冷間鍛造により製造される傘歯車の場合、成形時のスプリングバック、芯抜き加工(傘歯車を軸支する回転軸を貫装するための貫通孔を形成する加工)時の変形、浸炭時の歪み等に起因して、一対の端面、歯底面のエッジ部分(歯底面において一対の端面に隣接する部分)および歯先面のエッジ部分(歯先面において一対の端面に隣接する部分)の寸法精度が歯面の寸法精度に比べて低い。また、成形時の材料の流動不足により歯先面のエッジ部分に欠肉部が生じる場合もあり、このような欠肉部も寸法精度の低下の原因となる。
【0007】
従って、冷間鍛造により製造される傘歯車の拡径側端面は、平滑面でなく曲面となっている、あるいは傘歯車の軸線に対して傾斜している(傘歯車の軸線に対して垂直でない)場合があり、このような拡径側端面を基準として傘歯車を所定の位置に固定しても所望の姿勢(向き)で固定することが困難であり、ひいては十分な測定精度を確保することが困難である。
【0008】
また、傘歯車の歯面を基準として傘歯車を所定の位置に所定の姿勢で保持しつつ軸中心に回転させることにより、傘歯車に形成される貫通孔(傘歯車の回転可能に支持する回転軸が貫装される孔)の振れ、すなわち貫通孔の軸線が傘歯車の歯面を基準として設定される軸線に対して傾斜しているか否かを測定する装置も知られている。例えば、特許文献3に記載の如くである。
【0009】
特許文献3に記載の装置は、回転可能に支持される円盤形状のベース、ベースの上方の盤面に固定される三個以上の球体およびダイヤルゲージを具備し、球体をそれぞれ傘歯車の歯溝に嵌合させることにより傘歯車の歯面を基準とする軸線とベースの回転中心線とを一致した状態で傘歯車をベースに固定し、ベースおよび傘歯車を一体的に回転させつつダイヤルゲージを傘歯車の貫通孔の内周面に当接させることにより貫通孔の振れを測定する。
【0010】
しかし、特許文献3に記載の装置は、貫通孔の振れの測定時に三個以上の球体が常に傘歯車の歯溝に嵌合している(歯面に当接している)ため、接触式および非接触式のいずれの方式においても歯面形状を測定することが困難であるという問題を有する。
【特許文献1】特開平1−147301号公報
【特許文献2】特開平3−33609号公報
【特許文献3】特開平9−304047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、傘歯車の歯面に基づいて傘歯車の外部に傘歯車の測定基準を設定することが可能な歯面測定基準設定装置および歯面測定基準設定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0013】
即ち、請求項1においては、
傘歯車の歯面を測定するための基準を設定する歯面測定基準設定装置であって、
前記傘歯車に形成される複数の歯溝のうち互いに異なる歯溝に嵌合する少なくとも三つの嵌合部材および前記少なくとも三つの嵌合部材における前記傘歯車の歯溝との嵌合部位を結んだ仮想平面に平行な第一基準面が形成される本体部材を備える第一部材と、
前記第一部材に係合しつつ前記第一基準面に垂直な方向に摺動可能であり、前記第一部材に係合しているときに前記第一基準面に平行となる第二基準面が形成され、前記少なくとも三つの嵌合部材が互いに異なる歯溝に嵌合した前記傘歯車が固定される第二部材と、
を具備するものである。
【0014】
請求項2においては、
前記嵌合部材は、
前記傘歯車の歯溝に嵌合するボール部材と、
前記ボール部材を前記本体部材に固定するピン部材と、
を有するものである。
【0015】
請求項3においては、
前記第二部材は、
前記傘歯車に形成された軸線方向の貫通孔に貫装される貫装部および前記貫装部の一端部に延設されるとともに前記傘歯車の縮径側端面に係合する係合部を有する軸部材と、
前記第二基準面および前記傘歯車の拡径側端面に当接する当接面が表裏に形成されるとともに前記第二基準面および前記当接面を貫通する貫装孔が形成され、前記第一部材に係合しつつ前記第一基準面に垂直な方向に摺動可能な受け部材と、
前記傘歯車の貫通孔および前記受け部材の貫装孔に貫装された前記軸部材の貫装部の他端部に螺合することにより前記拡径側端面が前記当接面に当接した状態で前記傘歯車を受け部材に固定する螺合部材と、
を備えるものである。
【0016】
請求項4においては、
前記受け部材は、
前記第二基準面および球状の凹面が表裏に形成されるとともに前記第二基準面および前記凹面を貫通する第一貫装孔が形成され、前記第一部材に係合しつつ前記第一基準面に垂直な方向に摺動可能な胴体部材と、
前記凹面に当接する球状の凸面および前記傘歯車の拡径側端面に当接する前記当接面が表裏に形成され、前記凸面および前記当接面を貫通するとともに前記第一貫装孔と合わせて前記受け部材の貫装孔を成す前記第二貫装孔が形成され、前記凸面を前記凹面に当接させつつ前記胴体部材に対して揺動可能な当接部材と、
を有するものである。
【0017】
請求項5においては、
前記第二基準面に当接する第三基準面、並びに、前記第三基準面が前記第二基準面に当接しているときに前記第二部材の軸部材および螺合部材をこれらに当接せずに収容する収容室が形成される第三部材を具備するものである。
【0018】
請求項6においては、
少なくとも三つの嵌合部材および前記少なくとも三つの嵌合部材を結んだ仮想平面に平行な第一基準面が形成される本体部材を備える第一部材と、
前記第一部材に係合しつつ前記第一基準面に垂直な方向に摺動可能であり、前記第一部材に係合しているときに前記第一基準面に平行となる第二基準面が形成される第二部材と、
を具備し、傘歯車の歯面を測定するための基準を設定する歯面測定基準設定装置を用いた歯面測定基準設定方法であって、
前記第一部材の少なくとも三つの嵌合部材をそれぞれ前記傘歯車の異なる歯溝に嵌合する嵌合工程と、
前記第一部材の少なくとも三つの嵌合部材がそれぞれ前記傘歯車の異なる歯溝に嵌合した状態を保持しつつ、前記第一部材に摺動可能に係合している前記第二部材に前記傘歯車を固定する固定工程と、
を具備するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、傘歯車の歯面に基づいて傘歯車の外部に傘歯車の測定基準を設定することが可能である、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下では図1、図2および図4を用いて本発明に係る歯面測定基準設定装置の実施の一形態である歯面測定基準設定装置100について説明する。
図1に示す歯面測定基準設定装置100は傘歯車1の歯面を測定するための基準を設定するものである。
「傘歯車の歯面を測定するための基準」は、より詳細には傘歯車の向き(姿勢)および傘歯車の位置を特定するための基準を指す。
【0021】
傘歯車1は本発明に係る傘歯車の実施の一形態である。本実施形態の傘歯車1は自動車のデファレンシャルギヤ(差動ギヤ)を構成する部材の一つであり、冷間鍛造により製造される。
傘歯車1の外形は概ね円錐台形状であり、縮径側端面2および拡径側端面3からなる一対の端面および円錐面(一対の端面に連なる曲面)を有する。
縮径側端面2は傘歯車1の一対の端面のうち、直径が小さい方の端面である。
拡径側端面3は傘歯車1の一対の端面のうち、直径が大きい方の端面である。
傘歯車1の円錐面には複数の歯4・4・・・が形成される。歯4は傘歯車1の円錐面に形成される複数の歯溝のうち隣り合う二つの歯溝で挟まれる凸条の部分である。
歯4はそれぞれ歯先面5および一対の歯面6・6を有する。
歯先面5は歯4を構成する凸条の頂面を成す面であり、傘歯車1の円錐面を兼ねる。
一対の歯面6・6は歯4を構成する凸条の壁面を成す面である。歯面6・6の一端は歯先面5に連なる。
傘歯車1には歯底面7・7・・・が形成される。歯底面7は傘歯車1に形成される複数の歯溝の底を成す面であり、それぞれ隣り合う歯4・4の歯面6・6の他端に連なる。
傘歯車1には貫通孔8が形成される。貫通孔8は縮径側端面2と拡径側端面3とを連通する(貫通孔8の一端は縮径側端面2に開口し、貫通孔8の他端は拡径側端面3に開口する)。貫通孔8の中心線と傘歯車1の軸線9とは一致する。
本実施形態の傘歯車1はいわゆる「直歯傘歯車(Straight bevel gear)」であり、傘歯車1の歯溝の長手方向が傘歯車1の円錐面(歯先面5・5・・・を繋ぐ曲面)の母線に一致する。
【0022】
本実施形態の傘歯車1は直歯傘歯車であるが、本発明に係る歯面測定基準設定装置および本発明に係る歯面測定基準設定方法の適用範囲はこれに限定されない。
すなわち、本発明に係る歯面測定基準設定装置および本発明に係る歯面測定基準設定方法を「斜歯傘歯車(Helical bevel gear)」、「曲歯傘歯車(Spiral bevel gear)」等、種々の傘歯車に適用可能である。
【0023】
図1に示す如く、歯面測定基準設定装置100は第一部材110、第二部材120および第三部材130を具備する。
【0024】
第一部材110は本発明に係る第一部材の実施の一形態である。
第一部材110は三つの嵌合部材111・111・111および本体部材114を備える。
【0025】
嵌合部材111は本発明に係る嵌合部材の実施の一形態であり、傘歯車1に形成される複数の歯溝の互いに異なる位置に嵌合する部材である。嵌合部材111はボール部材112およびピン部材113を有する。
【0026】
ボール部材112は本発明に係るボール部材の実施の一形態であり、嵌合部材111のうち実際に傘歯車1に形成される歯溝に嵌合する(隣り合う二つの歯4・4の互いに対向する歯面6・6に当接する)球状の部材である。
なお、本実施形態のボール部材112の形状は真球状(真円を当該真縁の中心点を通る軸を中心として回転することにより得られる回転体の形状)であるが、本発明はこれに限定されない。本発明に係るボール部材の他の形状の例としては、歪んだ球状(楕円を短軸または長軸を中心として回転することにより得られる回転体の形状)等が挙げられる。
【0027】
ピン部材113は本発明に係るピン部材の実施の一形態であり、ボール部材112を本体部材114に固定する部材である。
本実施形態のピン部材113は略円柱形状の部材であり、ピン部材113の直径はボール部材112の直径よりもやや小さい。ピン部材113の一端部はボール部材112に固定され、他端部は本体部材114(より詳細には、後述する底板115)に固定される。
【0028】
なお、本実施形態の嵌合部材111はボール部材112およびピン部材113の二つの部材からなり、ピン部材113の一端部にボール部材112をネジ止め、接着等の方法で固定するが、本発明に係る嵌合部材はこれに限定されない。例えば、嵌合部材111を構成するボール部材112およびピン部材113を一体成形しても良い。
【0029】
本体部材114は本発明に係る本体部材の実施の一形態であり、底板115および一対の壁板116・116を有する。
【0030】
底板115は一対の板面を有し、当該板面に垂直な方向から見て略正方形の板状の部材である。底板115の一対の板面は互いに平行かつ平滑であり、当該一対の板面の一方が第一基準面115aを成す。
底板115には孔115bが形成される。孔115bは底板115の一対の板面の中央部において一対の板面を連通する(孔115bの一端は一対の板面の一方(第一基準面115a)の中央部に開口し、孔115bの他端は一対の板面の他方の中央部に開口する)。
【0031】
底板115の一対の板面の他方(第一基準面115aの反対側となる板面)には三つの嵌合部材111・111・111、より詳細にはピン部材113・113・113の他端部が固定(本実施形態ではネジ止め)される。
【0032】
図2に示す如く、底板115の一対の板面の他方において三つの嵌合部材111・111・111が固定される位置は、底板115に形成される孔115bの中心線、すなわち底板115の中心線115cを中心とする同心円上に設定される。
また、隣り合う嵌合部材111・111の位相差(底板115の一対の板面に垂直な方向から見て、隣り合う嵌合部材111の一方が固定される位置および底板115の中心線115cを結ぶ直線と、隣り合う嵌合部材111の他方が固定される位置および底板115の中心線115cを結ぶ直線と、の成す角度)は、傘歯車1のピッチ(隣り合う歯溝間の位相差)の整数倍となる。
さらに、三つの嵌合部材111・111・111は同形状であり、第一基準面115aに平行な面である底板115の一対の板面の他方に固定される。
従って、三つの嵌合部材111・111・111をそれぞれ理想的な形状(設計図通りの形状)の傘歯車1の互いに異なる歯溝に嵌合した場合、三つの嵌合部材111・111・111における傘歯車1の歯溝との嵌合部位(歯面6・6・・・との当接部位)を結んだ仮想平面30(図4参照)は傘歯車1の軸線9に垂直となり、第一基準面115aに平行となり、かつ、底板115の中心線115cと傘歯車1の軸線9とは一致する(一直線となる)。すなわち、三つの嵌合部材111・111・111により支持される理想的な形状の傘歯車1の第一基準面115aに対する姿勢および位置は一義的に定まる。
【0033】
本実施形態では、底板115の一対の板面に垂直な方向から見て三つの嵌合部材111・111・111を頂点とする三角形は中心線115cと交差する(三つの嵌合部材111・111・111を頂点とする三角形の内側に中心線115cが配置される)。
このように三つの嵌合部材111・111・111を配置することにより、三つの嵌合部材111・111・111により支持される傘歯車1の姿勢が安定する(自重あるいは外力に起因する第一部材110に対する傘歯車1の姿勢の変動を抑制することが可能である)。
特に、三つの嵌合部材111・111・111により支持される傘歯車1の姿勢を安定させる観点からは、隣り合う嵌合部材111・111の位相差をそれぞれ120°または120°に近い値に設定することが望ましい。
【0034】
本実施形態の第一部材110は三つの嵌合部材111・111・111を備え、これらにより傘歯車1を支持するが、本発明に係る第一部材はこれに限定されず、四つ以上の嵌合部材を備えても良い。
ただし、嵌合部材を四つ以上備え、かつ各嵌合部材における傘歯車の歯溝との嵌合部位の第一基準面からの高さが揃っていない場合には、これらの嵌合部材の中から三つの嵌合部材を選択する組み合わせの数だけ傘歯車の歯溝との嵌合部位を結んだ仮想平面を設定し得ることとなり、第一部材に対する傘歯車の姿勢および位置を一義的に定めることが困難となる。
従って、各嵌合部材における傘歯車の歯溝との嵌合部位の第一基準面からの高さを精度良く揃えることにより、傘歯車の歯溝との嵌合部位を結んだ仮想平面を一義的に定める(ひいては、第一部材に対する傘歯車の姿勢および位置を一義的に定める)ことが望ましい。
【0035】
一対の壁板116・116は一対の板面を有する板状の部材であり、当該板面に垂直な方向から見て略長方形の板状の部材である。
一対の壁板116・116の一端部は底板115における対向する一対の端面にそれぞれ固定される。底板115に固定された一対の壁板116・116は底板115に固定された嵌合部材111・111・111を挟んで板面が平行となる。
一対の壁板116・116の互いに対向する板面には、それぞれ摺動溝116a・116aが形成される。
底板115に固定された一対の壁板116・116の摺動溝116a・116aの長手方向は底板115の中心線115cの長手方向に対して平行であり、第一基準面115aに対して垂直である。
【0036】
第二部材120は本発明に係る第二部材の実施の一形態である。
第二部材120は軸部材121、受け部材122、スペーサ125、ナット126およびナット127を備える。
【0037】
軸部材121は本発明に係る軸部材の実施の一形態である。
軸部材121は貫装部121aおよび係合部121bを有する。
【0038】
貫装部121aは本発明に係る貫装部の実施の一形態であり、軸部材121のうち傘歯車1の貫通孔8に貫装される部分である。貫装部121aは概ね円柱形状であり、その外径は貫通孔8の内径よりも小さい。
貫通孔8に貫装された貫装部121aの外周面と傘歯車1の貫通孔8の内周面との間にはある程度の大きさの隙間が形成されるため、貫装部121aは軸線9に垂直な方向(傘歯車1の半径方向)にある程度移動することが可能である。
【0039】
係合部121bは本発明に係る係合部の実施の一形態であり、軸部材121のうち傘歯車1の縮径側端面に係合する部分である。係合部121bは貫装部121aの一端部に延設される。
係合部121bは概ね円柱形状であり、貫装部121aおよび係合部121bは同心となる。すなわち、軸部材121の中心線および係合部121bの中心線は一直線となり、これらは軸部材121の軸線121dを成す。
係合部121bの外径は貫装部121aよりも大きく、傘歯車1の貫通孔8の内径よりも大きく、かつ第一部材110(の底板115)に形成された孔115bよりも小さい。
係合部121bの外周面と第一部材110に形成された孔115bの内周面との間にはある程度の大きさの隙間が形成されるため、軸部材121は第一部材110に形成された孔115bを貫通する(通過する)ことが可能である。
【0040】
貫装部121aの他端部(係合部121bが延設される方の端部の反対側の端部)には雄ネジ121cが形成される。
【0041】
受け部材122は本発明に係る受け部材の実施の一形態である。
受け部材122は胴体部材123および当接部材124を有する。
【0042】
胴体部材123は本発明に係る胴体部材の実施の一形態であり、受け部材122のうち第一部材110に摺動可能に係合する機能を果たす部材である。
胴体部材123は板状の部材であり、胴体部材123には第二基準面123a、凹面123b、第一貫装孔123c、係合凸条123d・123dおよび係合穴123e・123eが形成される。
【0043】
第二基準面123aは胴体部材123の表裏一対の板面の一方を成す面である。
第二基準面123aは平滑な面であり、胴体部材123の一対の端面に対して垂直である。胴体部材123の一対の端面は互いに平行であり、かつ胴体部材123の一対の端面の間隔は一対の壁板116・116の互いに対向する板面の間隔と略同じである(厳密には、胴体部材123の一対の端面の間隔は一対の壁板116・116の互いに対向する板面の間隔よりもわずかに小さい)。
【0044】
凹面123bは胴体部材123の表裏一対の板面の他方を成す面であり、所定の曲率半径の窪んだ球面である。
【0045】
第一貫装孔123cは第二基準面123aおよび凹面123bを貫通する孔である。
第一貫装孔123cの内径は軸部材121の貫装部121aの外径と略同じである(厳密には、第一貫装孔123cの内径は軸部材121の貫装部121aの外径よりもわずかに大きい)。
従って、軸部材121の貫装部121aが第一貫装孔123cに貫装されることにより、軸部材121は胴体部材123に摺動可能に支持される。
【0046】
係合凸条123d・123dはそれぞれ胴体部材123の一対の端面に形成される突起である。係合凸条123d・123dは第二基準面123aに対して垂直な方向に延び、かつ胴体部材123の一対の端面に垂直な方向に突出した形状を有する。係合凸条123d・123dは一対の壁板116・116の互いに対向する板面に形成された摺動溝116a・116aに係合する。係合凸条123d・123dの幅はいずれも摺動溝116a・116aの幅と略同じである(厳密には、係合凸条123d・123dの幅は摺動溝116a・116aの幅よりもわずかに小さい)。
【0047】
係合穴123e・123eはいずれも第二基準面123aに開口する穴である。
【0048】
係合凸条123d・123dがそれぞれ摺動溝116a・116aに係合することにより、胴体部材123は一対の壁板116・116ひいては第一部材110に係合しつつ第一基準面115aに垂直な方向に摺動することが可能である。
また、第一部材110に係合しているとき、第一基準面115aに平行な方向への胴体部材123の移動は規制される。
【0049】
一対の壁板116・116の対向する板面(摺動溝116a・116aが形成される面)は第一基準面115aに垂直である。
また、第一部材110に摺動可能に係合した胴体部材123の一対の端面は一対の壁板116・116の対向する板面に当接し、胴体部材123の一対の端面は第二基準面123aに垂直である。
従って、胴体部材123が第一部材110に係合しているときには第二基準面123aは第一基準面115aに平行となり、胴体部材123が第一部材110に対して摺動しても第二基準面123aと第一基準面115aとが互いに平行な状態が保持される。
【0050】
第一貫装孔123cは胴体部材123の中央部に配置され、第一貫装孔123cの長手方向は第二基準面123aに垂直である。
従って、第一部材110に係合している胴体部材123の第一貫装孔123cに貫装される軸部材121の軸線121d、第一部材110の底板115の中心線115c、および三つの嵌合部材111・111・111がそれぞれ異なる歯溝に嵌合している傘歯車1の軸線9は一致する(一直線となる)。
【0051】
当接部材124は本発明に係る当接部材の実施の一形態であり、受け部材122のうち傘歯車1の拡径側端面3に当接する機能を果たす部材である。
当接部材124は概ね円盤形状の部材であり、当接部材124には凸面124a、当接面124bおよび第二貫装孔124cが形成される。
【0052】
凸面124aは当接部材124の表裏一対の盤面の一方を成す面である。凸面124aは突出した球面であり、凸面124aの曲率半径は凹面123bの曲率半径と略同じである。
当接部材124は凸面124aを凹面123bに当接させつつ胴体部材123に対して揺動する(凸面124aおよび凹面123bを球面とする仮想的な球の中心からの距離を一定に保持しつつ移動する)ことが可能である。
【0053】
当接面124bは当接部材124の表裏一対の盤面の他方を成す面である。当接面124bは平滑であり、傘歯車1の拡径側端面3に当接する。
【0054】
第二貫装孔124cは凸面124aおよび当接面124bを貫通する孔である。
第二貫装孔124cの内径は軸部材121の貫装部121aの外径よりも大きく、第二貫装孔124cに軸部材121の貫装部121aを貫装したとき、貫装部121aの外周面と第二貫装孔124cの内周面との間にはある程度の隙間が形成される。
【0055】
胴体部材123の第一貫装孔123cと当接部材124の第二貫装孔124cとを合わせたものは、胴体部材123の第二基準面123aから当接部材124の当接面124bまでを貫通する孔、すなわち「受け部材122の第二基準面123aおよび当接面124bを貫通する孔」を成す。
従って、第一貫装孔123cは本発明に係る第一貫通孔の実施の一形態であり、第二貫装孔124cは本発明に係る第二貫装孔の実施の一形態であり、第一貫装孔123cと第二貫装孔124cとを合わせたものは本発明に係る貫装孔の実施の一形態である。
【0056】
スペーサ125は中央部に貫通孔が形成された円盤形状の部材である。スペーサ125は「受け部材122の第二基準面123aおよび当接面124bを貫通する孔」に貫装された軸部材121の貫装部121aにおいて第二基準面123aから突出している部分に遊嵌される。
【0057】
ナット126およびナット127は本発明に係る螺合部材の実施の一形態である。
ナット126およびナット127は傘歯車1の貫通孔8および「受け部材122の第二基準面123aおよび当接面124bを貫通する孔」に貫装された軸部材121の貫装部121aの他端部(に形成された雄ネジ121c)に螺合する。
【0058】
ナット126を締め付けることにより、軸部材121は第二基準面123aに接近する方向に引き寄せられ、軸部材121の係合部121bの端面(貫装部121aおよび係合部121bの境界部分)が傘歯車1の縮径側端面2に当接し、傘歯車1の拡径側端面3が当接面124bに当接し、スペーサ125の一対の盤面がそれぞれ第二基準面123aおよびナット126に当接する。
その結果、傘歯車1は受け部材122に強固に(受け部材122に対する姿勢および位置を変更不能に)固定される。
さらに、ナット127を締め付けてナット126に当接させることにより、ナット126が弛むこと(ひいては、傘歯車1が受け部材122に固定された状態が解除されること)を抑止することが可能である。
【0059】
第三部材130は本発明に係る第三部材の実施の一形態である。
本実施形態の第三部材130は支持部材131・132および係合ピン134・135を備える。
【0060】
支持部材131・132はいずれも直方体形状の部材であり、重力が作用する方向に対して垂直な面(水平面)であるテーブル面20に所定の間隔を空けて固定される。
支持部材131・132の上下方向の高さは同じであり、支持部材131・132の上面は第三基準面133を成す。
テーブル面20に固定された第三部材130(支持部材131・132)の第三基準面133は、テーブル面20に平行である。
【0061】
係合ピン134・135はいずれも略円柱形状の部材であり、それぞれ支持部材131・132に固定される。支持部材131・132にそれぞれ固定された係合ピン134・135は、第三基準面133から上方に突出する。
第二基準面123aを第三基準面133に当接させつつ受け部材122を第三部材130に載置したとき、係合ピン134・135はそれぞれ係合穴123e・123eに嵌合し、第三部材130に載置された受け部材122の位置は一義的に定まる。
また、このとき軸部材121の貫装部121aの他端部(第二基準面123aから突出している部分)、スペーサ125、ナット126およびナット127は支持部材131・132に挟まれた空間である収容室136に収容され、支持部材131・132(第三部材130)に当接しない。
本実施形態では係合ピン134・135をそれぞれ係合穴123e・123eに嵌合することにより第三部材130に載置された受け部材122の位置を一義的に定めるが、本発明はこれに限定されない。
例えば、受け部材の四つの側面にそれぞれ当接する突起を第三部材の第三基準面上に設けても良い。
【0062】
以下では、図3から図9を用いて歯面測定基準設定装置100を用いた傘歯車1の三次元形状測定方法について説明する。
図3に示す如く、歯面測定基準設定装置100を用いた傘歯車1の三次元形状測定方法は嵌合工程S1100、固定工程S1200、円錐頂点位置算出工程S2100、位置決め工程S2200、形状測定工程S2300を具備する。
歯面測定基準設定装置100を用いた傘歯車1の三次元形状測定方法を構成するこれらの工程のうち、前半部を成す嵌合工程S1100および固定工程S1200を合わせたものは歯面測定基準設定装置100を用いた傘歯車1の三次元形状測定方法の予備的作業たる基準設定作業に属し、後半部を成す円錐頂点位置算出工程S2100、位置決め工程S2200および形状測定工程S2300を合わせたものは歯面測定基準設定装置100を用いた傘歯車1の三次元形状測定方法の実際の測定作業(実測定作業)に属する。
そして、嵌合工程S1100および固定工程S1200を合わせたものは本発明に係る歯面測定基準設定方法の実施の一形態に相当する。
【0063】
嵌合工程S1100は第一部材110の三つの嵌合部材111・111・111をそれぞれ傘歯車1の異なる歯溝に嵌合する工程である。
図4に示す如く、嵌合工程S1100において、まず第一基準面115aが下向きとなる姿勢で第一部材110が所定の位置に配置される。
次に、縮径側端面2が下向きとなる姿勢で傘歯車1が第一部材110の一対の壁板116・116で挟まれる空間に収容され、傘歯車1に形成される複数の歯溝のそれぞれ異なるものに三つの嵌合部材111・111・111が嵌合される。
その結果、傘歯車1は第一部材110に支持され、三つの嵌合部材111・111・111における傘歯車1の歯溝との嵌合部位(歯面6・6・・・との当接部位)を結んだ仮想平面30は第一基準面115aに平行となり、かつ、底板115の中心線115cと傘歯車1の軸線9とは一致する。
なお、傘歯車1の円錐頂点40、すなわち各歯溝のピッチ円錐線41・41・・・が交差する点は軸線9上にあるため、嵌合工程S1100の終了時点では円錐頂点40は中心線115c上にある。
【0064】
ピッチ円錐線41は傘歯車1の各コーンディスタンスにおけるピッチ円を結んだ線(より厳密には、傘歯車1の軸線9を含む平面と各ピッチ円との交点を結んだ線)を成す。
なお、「ピッチ円」は傘歯車1を摩擦車(一対の端面およびこれらに挟まれる外周面を有する円錐台形状を有し、当該外周面の摩擦により駆動力を伝達するもの)に置き換えたときの外周面の断面形状(傘歯車1の軸線9に垂直な断面の形状)に相当する。
ピッチ円錐線41・41・・・は傘歯車1の軸線9に対してピッチ円錐角δだけ傾斜した直線群として設定される。
ここで、ピッチ円錐角δは、傘歯車1の歯数がZ1、傘歯車1に噛合する他の傘歯車(不図示)の歯数がZ2である場合に、(1)Z1≦Z2の場合にはδ=Arctan(Z1/Z2)[°]で表され、(2)Z1>Z2の場合にはδ=90−Arctan(Z2/Z1)[°]で表される。
【0065】
以下では、傘歯車1の歯面6・6・・・の三次元形状が十分な精度を有しており(設計データに対する寸法誤差が許容範囲内に収まっており)、かつ、拡径側端面3が仮想平面30に対して平行ではない(仮想平面30に対して所定の角度θだけ傾斜している)場合について説明を行う。
嵌合工程S1100が終了したら、固定工程S1200に移行する。
【0066】
固定工程S1200は第一部材110の三つの嵌合部材111・111・111がそれぞれ傘歯車1の異なる歯溝に嵌合した状態を保持しつつ、第一部材110に摺動可能に係合している第二部材120に傘歯車1を固定する工程である。
図3に示す如く、本実施形態では、固定工程S1200は貫装工程S1210、当接工程S1220および締結工程S1230を備える。
【0067】
貫装工程S1210は傘歯車1に軸部材121を貫装する工程である。
図5に示す如く、貫装工程S1210において、軸部材121は孔115bから第一部材110の一対の壁板116・116で挟まれる空間に進入し、傘歯車1の貫通孔8に貫装される。
貫装工程S1210が終了したら、当接工程S1220に移行する。
【0068】
当接工程S1220は受け部材122の当接面124bを傘歯車1の拡径側端面3に当接させる工程である。
図6に示す如く、当接工程S1220において、まず受け部材122が当接面124bを下向きとする姿勢(第二基準面123aを上向きとする姿勢)で第一部材110(一対の壁板116・116)に係合し、軸部材121の貫装部121aが受け部材122の貫装孔(第一貫装孔123cおよび第二貫装孔124cを合わせたもの)に貫装される。
次に、受け部材122が第一部材110に係合しつつ下方に摺動し、当接面124bが傘歯車1の拡径側端面3に当接する。
本実施形態では拡径側端面3が仮想平面30に対して平行ではないが、当接部材124が胴体部材123に対して揺動することにより、当接面124bを傘歯車1の拡径側端面3に均一に当接させる(当接面124bを傘歯車1の拡径側端面3の広い領域に当接させる)ことが可能である。
なお、第二貫装孔124cの内径は軸部材121の貫装部121aの外径よりも大きく、貫装部121aの外周面と第二貫装孔124cの内周面との間にはある程度の隙間が形成されるため、当接部材124が胴体部材123に対してある程度揺動しても第二貫装孔124cの内周面が貫装部121aの外周面に当接することはない。
当接工程S1220が終了したら、締結工程S1230に移行する。
【0069】
締結工程S1230はナット126およびナット127を軸部材121に螺合することにより傘歯車1を受け部材122に締結する工程である。
図7に示す如く、締結工程S1230において、まずスペーサ125が軸部材121の貫装部121aの他端部(第二基準面123aよりも上方に突出している部分)に外嵌される。
次に、ナット126が軸部材121の貫装部121aの他端部に螺装され、締め付けられる。
続いて、ナット127が軸部材121の貫装部121aの他端部に螺装され、締め付けられる。
ナット126およびナット127を締め付けることにより、仮想平面30、第一基準面115aおよび第二基準面123aが互いに平行、かつ軸線9、中心線115cおよび軸線121dが一直線となる状態で傘歯車1が受け部材122に固定されることとなる。
また、仮に図7において受け部材122を上方に摺動させることにより第一部材110を第二部材120から取り外した場合でも、第二部材120および第二部材120に固定された傘歯車1は、仮想平面30および第二基準面123aが互いに平行、かつ軸線9および軸線121dが一直線となる状態を保持することが可能である。
すなわち、寸法精度が傘歯車1の他の部分よりも高い傘歯車1の歯面6・6・・・に基づいて一義的に定められる平面であり、三次元形状を測定する際に基準として利用することが望ましい面である仮想平面30に対して平行な関係を有する第二基準面123aを、傘歯車1の外部に傘歯車1と一体化した状態で(第二部材120および傘歯車1を合わせたものを移動したり、あるいは姿勢変更したりしても仮想平面30と第二基準面123aとが平行な関係が保持可能な状態で)設定することが可能である。
締結工程S1230が終了したら、固定工程S1200が終了し、円錐頂点位置算出工程S2100に移行する。
【0070】
円錐頂点位置算出工程S2100は第二基準面123aに対する円錐頂点40の位置を算出する工程である。
図8に示す如く、円錐頂点位置算出工程S2100において、まず、第一部材110、第二部材120および傘歯車1を合わせたものを回転させることによりその姿勢が上下逆に変更される。
次に、係合ピン134・135がそれぞれ係合穴123e・123eに嵌合するとともに第二基準面123aが第三基準面133に当接した状態で、第一部材110、第二部材120および傘歯車1を合わせたものが第三部材130に載置される。
続いて、第一基準面115aから第二基準面123aまでの距離L1が測定される。
距離L1を測定する方法としては既知のあらゆる測距方法を採用することが可能である。
既知の測距方法の例としては、ノギスあるいはメジャーを用いる方法、光学式の測距装置を用いる方法等が挙げられる。
続いて、距離L1の測定値に基づいて、第二基準面123aから円錐頂点40までの距離Lが算出される。
図8に示す如く、第二基準面123aから円錐頂点40までの距離Lは、第一基準面115aから第二基準面123aまでの距離L1、仮想平面30から第一基準面115aまでの距離L2、および仮想平面30から円錐頂点40までの距離L3を用いて、数式「L=L1−L2+L3」で表される。
仮想平面30から第一基準面115aまでの距離L2および仮想平面30から円錐頂点40までの距離L3は、いずれも傘歯車1および第一部材110の設計図における形状に基づいて一義的に定まる値であり、定数として予め設定することが可能である。
従って、数式「L=L1−L2+L3」に距離L1の測定値、並びに距離L2および距離L3の設定値を代入することにより、第二基準面123aから円錐頂点40までの距離Lを算出することが可能である。
円錐頂点40はその性質上軸線9上にあり、第二部材120に固定されているときの傘歯車1の軸線9は第二基準面123aに対して垂直であり、かつ軸線9と第一基準面115aとの交点の位置は一義的に定まる(本実施形態の場合、第二部材120の設計上、第二基準面123aの中心点に一致する)ので、第二基準面123aに対する円錐頂点40の位置が特定される。
円錐頂点位置算出工程S2100が終了したら、位置決め工程S2200に移行する。
【0071】
本実施形態では第二基準面123aに対する傘歯車1の位置(高さ)を特定する方法として第二基準面123aから円錐頂点40までの距離Lを算出したが、本発明はこれに限定されない。
例えば、傘歯車の歯先面を滑らかに繋いだ円錐の頂点あるいは傘歯車の歯底面を滑らかに繋いだ円錐の頂点から第二基準面までの距離を算出し、これらの算出結果に基づいて第二基準面に対する傘歯車の位置(高さ)を特定しても良い。
【0072】
位置決め工程S2200は、第二基準面123aに基づいて、第二部材120に固定された傘歯車1を位置決めする(より詳細には、傘歯車1の三次元形状測定を行う装置に対して所定の位置に所定の姿勢で固定する)工程である。
図9に示す如く、位置決め工程S2200において、まず第一部材110を上方に摺動させることにより、第一部材110が第二部材120および傘歯車1を合わせたものから取り外される。
本実施形態では、円錐頂点位置算出工程S2100において第一部材110、第二部材120および傘歯車1を合わせたものを載置した位置(第三部材130の上)が傘歯車1の歯面6・6・・・の三次元形状の測定を行う位置を兼ねるため、第一部材110が第二部材120および傘歯車1を合わせたものから取り外された時点で第二部材120および傘歯車1を合わせたものの位置決めが終了する。
テーブル面20から第三基準面133までの距離L4(第三部材130の高さL4)は既知の値であるため、テーブル面20から第二部材120を介して第三部材130に載置された傘歯車1の円錐頂点40までの距離は円錐頂点位置算出工程S2100において算出された距離Lと距離L4の和(=L+L4)で表すことが可能である。また、第二部材120および傘歯車1を合わせたものは第三部材130の所定の位置(係合ピン134・135がそれぞれ係合穴123e・123eに嵌合する位置)に所定の姿勢(第二基準面123aが第三基準面133に当接する姿勢)で固定されるため、テーブル面20に対する円錐頂点40の位置および傘歯車1の姿勢を特定することが可能である。
位置決め工程S2200が終了したら、形状測定工程S2300に移行する。
【0073】
形状測定工程S2300は、三次元形状測定装置を用いて傘歯車1の歯面6・6・・・の三次元形状を測定する工程である。
「三次元形状測定装置」には接触式の三次元形状測定装置(例えば、プローブを歯面に当接させつつ走査することにより歯面の三次元形状を測定する装置等)、非接触式の三次元形状測定装置(例えば、歯面にレーザ光を照射しつつ走査して反射光を検出することにより歯面の三次元形状を測定する装置、同一の歯面を複数の異なる方向から撮像し、得られた画像に基づいて歯面の三次元形状を測定する装置等)等、既知のあらゆる三次元形状測定装置が含まれる。
図9に示す如く、本実施形態の歯面測定基準設定装置100の場合、第一部材110を第二部材120および傘歯車1を合わせたものから取り外すことにより、傘歯車1の歯面6・6・・・の側方および上方が歯面測定基準設定装置100を構成する部材等により遮られることがなく、三次元形状測定を容易に行うことが可能である。
【0074】
以上の如く、歯面測定基準設定装置100は、
傘歯車1の歯面6・6・・・を測定するための基準を設定するものであって、
傘歯車1に形成される複数の歯溝のうち互いに異なる歯溝に嵌合する三つの嵌合部材111・111・111および三つの嵌合部材111・111・111における傘歯車1の歯溝との嵌合部位(本実施形態の場合、ボール部材112と歯面6との当接部位)を結んだ仮想平面30に平行な第一基準面115aが形成される本体部材114を備える第一部材110と、
第一部材110に係合しつつ第一基準面115aに垂直な方向に摺動可能であり、第一部材110に係合しているときに第一基準面115aに平行となる第二基準面123aが形成され、三つの嵌合部材111・111・111が互いに異なる歯溝に嵌合した傘歯車1が固定される第二部材120と、
を具備する。
このように構成することは、以下の利点を有する。
すなわち、歯面測定基準設定装置100は、傘歯車1において他の部分よりも寸法精度が高い歯面6・6・・・に嵌合する第一部材110に歯面6・6・・・に基づいて設定される仮想平面30に平行な第一基準面115aを形成し、第一部材110に係合しつつ摺動可能な第二部材120に第一基準面115aに平行な第二基準面123aを形成するとともに第二部材120に傘歯車1を固定することにより、傘歯車1の外部に第二基準面123aを設定することが可能である。
また、歯面測定基準設定装置100は、第二基準面123aに対する傘歯車1の円錐頂点40の位置を容易に特定することが可能である。
従って、歯面測定基準設定装置100は、傘歯車1の測定基準(傘歯車1の位置および姿勢を特定するために用いるものであり、本実施形態では第二基準面123aおよび円錐頂点40を合わせたものがこれに相当する)を容易に設定することが可能である。
さらに、歯面測定基準設定装置100は、第二基準面123aを傘歯車1の外部かつ拡径側端面3を挟んで歯4・4・・・の反対側となる位置に設定するとともに傘歯車1と第二部材120との位置関係(ひいては、歯面6・6・・・と第二基準面123aとの位置関係)を保持しつつ第一部材110を傘歯車1および第二部材120を合わせたものから取り外し可能とすることにより、歯面6・6・・・の測定を容易とする(第一部材110により歯面6・6・・・の測定が阻害されることがない)。
【0075】
また、嵌合部材111は、
傘歯車1の歯溝に嵌合するボール部材112と、
ボール部材112を本体部材114に固定するピン部材113と、
を有する。
このように構成することにより、第一部材110は傘歯車1の歯溝以外の部分に接触することなく傘歯車1を支持することが可能であり、傘歯車1の仮想平面30と第一基準面115aとの位置関係を適正に(互いに平行に)設定することが可能である。
【0076】
また、第二部材120は、
傘歯車1に形成された軸線方向の貫通孔8に貫装される貫装部121aおよび貫装部121aの一端部に延設されるとともに傘歯車1の縮径側端面2に係合する係合部121bを有する軸部材121と、
第二基準面123aおよび傘歯車1の拡径側端面3に当接する当接面124bが表裏に形成されるとともに第二基準面123aおよび当接面124bを貫通する貫装孔(第一貫装孔123cおよび第二貫装孔124cを合わせたもの)が形成され、第一部材110に係合しつつ第一基準面115aに垂直な方向に摺動可能な受け部材122と、
傘歯車1の貫通孔8および受け部材122の貫装孔に貫装された軸部材121の貫装部121aの他端部に螺合することにより拡径側端面3が当接面124bに当接した状態で傘歯車1を受け部材122に固定するナット126・127と、
を備える。
このように構成することにより、仮想平面30と第二基準面123aとが平行となる姿勢を保持しつつ傘歯車1を第二部材120に容易に固定することが可能である。
【0077】
また、受け部材122は、
第二基準面123aおよび球状の凹面123bが表裏に形成されるとともに第二基準面123aおよび凹面123bを貫通する第一貫装孔123cが形成され、第一部材110に係合しつつ第一基準面115aに垂直な方向に摺動可能な胴体部材123と、
凹面123bに当接する球状の凸面124aおよび傘歯車1の拡径側端面3に当接する当接面124bが表裏に形成され、凸面124aおよび当接面124bを貫通するとともに第一貫装孔123cと合わせて受け部材122の貫装孔を成す第二貫装孔124cが形成され、凸面124aを凹面123bに当接させつつ胴体部材123に対して揺動可能な当接部材124と、
を有する。
このように構成することにより、傘歯車1の拡径側端面3が仮想平面30に対して平行でない場合でも、当接部材124が胴体部材123に対して揺動することにより当接面124bを傘歯車1の拡径側端面3に均一に当接させる(当接面124bを傘歯車1の拡径側端面3の広い領域に当接させる)ことが可能であり、仮想平面30と第二基準面123aとが平行となる姿勢を保持しつつ傘歯車1を第二部材120に確実に固定することが可能である。
【0078】
また、歯面測定基準設定装置100は、
第二基準面123aに当接する第三基準面133、並びに、第三基準面133が第二基準面123aに当接しているときに第二部材120の軸部材121およびナット126・127をこれらに当接せずに収容する収容室136が形成される第三部材130を具備する。
このように構成することにより、傘歯車1および第二部材120を合わせたものを所定の位置に所定の姿勢で容易に配置することが可能である。
【0079】
また、本発明に係る歯面測定基準設定方法の実施の一形態は、
三つの嵌合部材111・111・111および三つの嵌合部材111・111・111を結んだ仮想平面30に平行な第一基準面115aが形成される本体部材114を備える第一部材110と、
第一部材110に係合しつつ第一基準面115aに垂直な方向に摺動可能であり、第一部材110に係合しているときに第一基準面115aに平行となる第二基準面123aが形成される第二部材120と、
を具備し、傘歯車1の歯面6・6・・・を測定するための基準を設定する歯面測定基準設定装置100を用いた歯面測定基準設定方法であって、
第一部材110の三つの嵌合部材111・111・111をそれぞれ傘歯車1の異なる歯溝に嵌合する嵌合工程S1100と、
第一部材110の三つの嵌合部材111・111・111がそれぞれ傘歯車1の異なる歯溝に嵌合した状態を保持しつつ、第一部材110に摺動可能に係合している第二部材120に傘歯車1を固定する固定工程S1200と、
を具備する。
このように構成することは、以下の利点を有する。
すなわち、本発明に係る歯面測定基準設定方法の実施の一形態によれば、傘歯車1において他の部分よりも寸法精度が高い歯面6・6・・・に嵌合する第一部材110に歯面6・6・・・に基づいて設定される仮想平面30に平行な第一基準面115aを形成し、第一部材110に係合しつつ摺動可能な第二部材120に第一基準面115aに平行な第二基準面123aを形成するとともに第二部材120に傘歯車1を固定することにより、傘歯車1の外部に第二基準面123aを設定することが可能である。
また、本発明に係る歯面測定基準設定方法の実施の一形態によれば、第二基準面123aに対する傘歯車1の円錐頂点40の位置を容易に特定することが可能である。
従って、本発明に係る歯面測定基準設定方法の実施の一形態によれば、傘歯車1の測定基準(傘歯車1の位置および姿勢を特定するために用いるものであり、本実施形態では第二基準面123aおよび円錐頂点40を合わせたものがこれに相当する)を容易に設定することが可能である。
さらに、本発明に係る歯面測定基準設定方法の実施の一形態によれば、第二基準面123aを傘歯車1の外部かつ拡径側端面3を挟んで歯4・4・・・の反対側となる位置に設定するとともに傘歯車1と第二部材120との位置関係(ひいては、歯面6・6・・・と第二基準面123aとの位置関係)を保持しつつ第一部材110を傘歯車1および第二部材120を合わせたものから取り外し可能とすることにより、歯面6・6・・・の測定が容易である(第一部材110により歯面6・6・・・の測定が阻害されることがない)。
【0080】
図1、図2、および図4から図9に示す本実施形態の歯面測定基準設定装置100は第一部材110、第二部材120および第三部材130を具備するが、本発明はこれに限定されない。
例えば、図10に示す如く、第二部材120において当接面124bの反対側の板面から突出する軸部材121の他端部よりも長い複数の突起を当該板面に形成し、当該複数の突起の先端面を第二基準面123aとすることにより、図1に示す第三部材130を省略することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明に係る歯面測定基準設定装置の実施の一形態を示す側面断面図。
【図2】本発明に係る歯面測定基準設定装置の実施の一形態における第一部材を示す底面図。
【図3】本発明に係る歯面測定基準設定方法の実施の一形態を示すフロー図。
【図4】嵌合工程における本発明に係る歯面測定基準設定装置の実施の一形態を示す側面断面図。
【図5】固定工程のうち貫装工程における本発明に係る歯面測定基準設定装置の実施の一形態を示す側面断面図。
【図6】固定工程のうち当接工程における本発明に係る歯面測定基準設定装置の実施の一形態を示す側面断面図。
【図7】固定工程のうち締結工程における本発明に係る歯面測定基準設定装置の実施の一形態を示す側面断面図。
【図8】円錐頂点位置算出工程における本発明に係る歯面測定基準設定装置の実施の一形態を示す側面断面図。
【図9】位置決め工程および形状測定工程における本発明に係る歯面測定基準設定装置の実施の一形態を示す側面断面図。
【図10】本発明に係る歯面測定基準設定装置の別実施形態を示す側面断面図。
【符号の説明】
【0082】
1 傘歯車
6 歯面
30 仮想平面
100 歯面測定基準設定装置
110 第一部材
111 嵌合部材
114 本体部材
115a 第一基準面
120 第二部材
123a 第二基準面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
傘歯車の歯面を測定するための基準を設定する歯面測定基準設定装置であって、
前記傘歯車に形成される複数の歯溝のうち互いに異なる歯溝に嵌合する少なくとも三つの嵌合部材および前記少なくとも三つの嵌合部材における前記傘歯車の歯溝との嵌合部位を結んだ仮想平面に平行な第一基準面が形成される本体部材を備える第一部材と、
前記第一部材に係合しつつ前記第一基準面に垂直な方向に摺動可能であり、前記第一部材に係合しているときに前記第一基準面に平行となる第二基準面が形成され、前記少なくとも三つの嵌合部材が互いに異なる歯溝に嵌合した前記傘歯車が固定される第二部材と、
を具備する歯面測定基準設定装置。
【請求項2】
前記嵌合部材は、
前記傘歯車の歯溝に嵌合するボール部材と、
前記ボール部材を前記本体部材に固定するピン部材と、
を有する請求項1に記載の歯面測定基準設定装置。
【請求項3】
前記第二部材は、
前記傘歯車に形成された軸線方向の貫通孔に貫装される貫装部および前記貫装部の一端部に延設されるとともに前記傘歯車の縮径側端面に係合する係合部を有する軸部材と、
前記第二基準面および前記傘歯車の拡径側端面に当接する当接面が表裏に形成されるとともに前記第二基準面および前記当接面を貫通する貫装孔が形成され、前記第一部材に係合しつつ前記第一基準面に垂直な方向に摺動可能な受け部材と、
前記傘歯車の貫通孔および前記受け部材の貫装孔に貫装された前記軸部材の貫装部の他端部に螺合することにより前記拡径側端面が前記当接面に当接した状態で前記傘歯車を受け部材に固定する螺合部材と、
を備える請求項1または請求項2に記載の歯面測定基準設定装置。
【請求項4】
前記受け部材は、
前記第二基準面および球状の凹面が表裏に形成されるとともに前記第二基準面および前記凹面を貫通する第一貫装孔が形成され、前記第一部材に係合しつつ前記第一基準面に垂直な方向に摺動可能な胴体部材と、
前記凹面に当接する球状の凸面および前記傘歯車の拡径側端面に当接する前記当接面が表裏に形成され、前記凸面および前記当接面を貫通するとともに前記第一貫装孔と合わせて前記受け部材の貫装孔を成す前記第二貫装孔が形成され、前記凸面を前記凹面に当接させつつ前記胴体部材に対して揺動可能な当接部材と、
を有する請求項3に記載の歯面測定基準設定装置。
【請求項5】
前記第二基準面に当接する第三基準面、並びに、前記第三基準面が前記第二基準面に当接しているときに前記第二部材の軸部材および螺合部材をこれらに当接せずに収容する収容室が形成される第三部材を具備する請求項3または請求項4に記載の歯面測定基準設定装置。
【請求項6】
少なくとも三つの嵌合部材および前記少なくとも三つの嵌合部材を結んだ仮想平面に平行な第一基準面が形成される本体部材を備える第一部材と、
前記第一部材に係合しつつ前記第一基準面に垂直な方向に摺動可能であり、前記第一部材に係合しているときに前記第一基準面に平行となる第二基準面が形成される第二部材と、
を具備し、傘歯車の歯面を測定するための基準を設定する歯面測定基準設定装置を用いた歯面測定基準設定方法であって、
前記第一部材の少なくとも三つの嵌合部材をそれぞれ前記傘歯車の異なる歯溝に嵌合する嵌合工程と、
前記第一部材の少なくとも三つの嵌合部材がそれぞれ前記傘歯車の異なる歯溝に嵌合した状態を保持しつつ、前記第一部材に摺動可能に係合している前記第二部材に前記傘歯車を固定する固定工程と、
を具備する歯面測定基準設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−151538(P2010−151538A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328398(P2008−328398)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】