説明

残留型殺菌剤

【課題】 殺菌、消毒、除菌、制菌および洗浄剤で残留効果がありしかも人畜に無害な残留型殺菌剤を提供することを課題とする。
【解決手段】 平均粒子径 100nm以下の銀を含む微粒子と、水性あるいは水溶性のアクリル樹脂あるいはアクリルメラミン樹脂の少なくとも1種と、殺菌剤とを混合するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、病院、食品関係、学校、および一般家庭などの衛生管理に利用される殺菌、消毒、制菌および洗浄剤などの残留殺菌剤に関するものである。さらに詳述するならば、本発明は、これらの各剤で処理した後も、衛生効果が保持される残留型殺菌剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】消毒、殺菌は、用途上、薬事法で定義されており、それぞれ、菌を殺す、有害な菌を殺すことを意味し、自由に表示販売することはできない。また、除菌、制菌は法の適用外で菌を除く、あるいは害を最小限に抑える意味で用いられる。しかし、これらの用途に用いられる化学物質を分類するものでなく、例えばアルコールなどはいずれの用途にも用いられている。従来、殺菌、消毒、除菌、制菌に用いられる薬剤としては、エタノールなどのアルコール類、次亜塩素酸などの塩素系類、4級アンモニウム類など多くのものがある。一方、洗浄剤としては界面活性剤や石鹸があり、通常菌を殺すというよりは、むしろ菌を洗い流すものとして用いられている。ただし、薬用石鹸など殺菌剤と洗浄剤を組み合わせたものも販売されている。
【0003】〔問題点〕このような従来の殺菌、消毒、除菌、制菌および洗浄剤は、いずれの定義にしても、菌をなくするという意味で、衛生管理上、極めて重要である。しかし、問題点は、従来の剤では、それぞれの処理を行った直後は衛生的であるが、放置しておくと再度菌が付着し、これが増殖することによって衛生的でなくなるという点である。これは、殺菌剤などの薬剤が蒸発あるいは洗い流されて、処理された表面に残留しないためである。一方、上記問題点に対処するために、非揮発性の薬剤を用いた上にすすぎ洗いを行わないなどの方法で薬剤を残留させることが可能であるが、逆に残留した薬剤が食物などに移動して人体に悪影響を及ぼすことが懸念される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来の技術における前記問題点に鑑みて成されたものであり、これを解決するため具体的に設定した技術的な課題は、殺菌、消毒、除菌、制菌および洗浄剤で残留効果がありしかも人畜に無害な残留型殺菌剤を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】前記課題を効果的に解決できる具体的に構成された手段としての、本発明における請求項1に係る残留型殺菌剤は、平均粒子径 100nm以下の銀を含む微粒子と、水性あるいは水溶性のアクリル樹脂あるいはアクリルメラミン樹脂の少なくとも1種と、殺菌剤とを混合することを特徴とするものである。また、請求項2に係る残留型殺菌剤は、前記銀を含む微粒子が、銀換算で重量比 10 ppmから 5%含有されていることを特徴とする。また、請求項3に係る残留型殺菌剤は、前記水性あるいは水溶性のアクリル樹脂あるいはアクリルメラミン樹脂の少なくとも1種が、銀を含む微粒子中の銀に対して重量で 1〜 1000 倍であることを特徴とする。ここで、平均粒子径 100nm以下の銀を含む微粒子とは、金属銀の平均粒子径が 100nm以下の微粒子、もしくはシリカ、アルミナ、チタンなどの平均粒子径100nm以下である微粒子に銀イオンを担持したもののことをいう。また、殺菌剤とは、殺菌、消毒あるいは除菌あるいは制菌作用のあるもの、または洗浄により菌を除去するという意味から洗浄剤や洗剤などの洗浄作用のあるもののことをいう。
【0006】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。ただし、この実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるため具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、発明内容を限定するものではない。
【0007】本発明者らは、鋭意検討した結果、平均粒子径 100nm以下の銀を含む微粒子を水性あるいは水溶性のアクリル樹脂あるいはアクリルメラミン樹脂と共に殺菌剤中に混合分散させることにより、残留効果があり、しかも人畜に無害な殺菌剤が得られることを見出した。
【0008】すなわち、この実施の形態に係る残留型殺菌剤としては、平均粒子径 100nm以下の銀を含む微粒子と、水性あるいは水溶性のアクリル樹脂あるいはアクリルメラミン樹脂の少なくとも1種とを、共に殺菌剤中に混合分散したものであり、このうち、この残留型殺菌剤としては、前記銀を含む微粒子が、銀換算で重量比10 ppmから 5%含有されていることが望ましく、また、前記水性あるいは水溶性のアクリル樹脂あるいはアクリルメラミン樹脂の少なくとも1種が、銀を含む微粒子中の銀に対して重量で 1〜 1000 倍であることが望ましい。
【0009】平均粒子径 100nm以下の銀を含む微粒子は、金属銀の場合では公知の銀コロイドの製造法により得られ、銀イオンを担持した微粒子では市販のコロイダルシリカなどを利用し、これを銀イオン水溶液中で混和することにより得ることができる。こうして得られた前記銀を含む微粒子を殺菌剤中に混合分散することにより、残留型殺菌剤が得られる。
【0010】前記銀を含む微粒子を分散させる殺菌剤としては、例えば、第4級アンモニウム塩、ビグアナイド系化合物、アルコール類、塩素系、イソチアゾリン系、有機ハロゲン系、アルデヒド系、有機金属系、ピリジン系、イミダゾール系、チアゾール系、ハロアルキルチオ系、ヨード系、トリアジン系、フェノール系、逆性石鹸、過酸化水素、クロルヘキシジン、酸、アルカリなどの微生物に対して効果を示す薬剤を含む気体、液体ないし固体の製剤で、市販品でもよく、特に制限はない。気体を使用する場合にはスプレー等で霧吹き状態にして混合分散させて利用する、また、固体を使用する場合には液状の段階で混合分散させて固化することにより所定の固形残留型殺菌剤を得ることができる。また、一般には洗浄剤として知られている、例えば、石鹸、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤などを使用しても良い。
【0011】前記銀を含む微粒子を前記殺菌剤に混合分散させるに際しては、良好な分散状態で混合するため、ならびに分散状態を安定的に保つために、保護コロイドによって分散安定性を保持することが必要である。分散安定性が破壊されると所望の残留性が得られなくなる。ここで保護コロイドとしては、水性あるいは水溶性のアクリル樹脂あるいはアクリルメラミン樹脂が好適であり、市販品を利用することができる。ここでいう水性とはアクリルエマルジョンのように容易に水と混合できるもののことである。このようなアクリル樹脂あるいはアクリルメラミン樹脂は銀を含む微粒子の分散安定性が非常に良好である。
【0012】前記銀を含む微粒子の配合割合は、この微粒子および水性あるいは水溶性のアクリル樹脂あるいはアクリルメラミン樹脂を添加した後の殺菌効果において、銀換算で 10 ppmから 5%であることが望ましく、より好ましくは 100ppmから 1%が良い。これは銀の割合が 10 ppmより小さいと充分な残留性が得られず、また 5%より大きいと余計な着色が生じるためである。また、保護コロイドとしての水性あるいは水溶性のアクリル樹脂あるいはアクリルメラミン樹脂の添加量は、前記銀を含む微粒子中の銀に対して、重量で 1〜1000 倍であることが望ましく、より好ましくは 10 〜100 倍が良い。1 倍より少ないと充分な保護効果が得られず、また 1000 倍より多いと「べたつき」が大きくなるためである。残留型殺菌剤は前記必要成分を混合することにより得られ、特に方法に制限はないが、銀を含む微粒子と保護コロイドとをあらかじめ混合しておくのが分散安定性において優れているため好適である。
【0013】こうして得られた残留型殺菌剤は、対象物に塗布あるいは対象物を溶液中に浸すなどの通常の方法により、対象物の殺菌あるいは洗浄に使われ、これにより対象物に付着する菌が死滅あるいは除去され、衛生的な表面が得られる。さらにこのとき、前記銀を含む微粒子が対象物表面に残存する。前記銀を含む微粒子は、表面の目に見えないような傷や窪みに入り込み、洗い流しても容易に離脱せずに残留する。こうして残留した銀は、菌を殺す能力はあまり高くはないが、菌の増殖を抑制する能力は優れており、殺菌、消毒、除菌、制菌および洗浄によって衛生的になった表面の衛生度合を保持する。また、水性あるいは水溶性のアクリル樹脂あるいはアクリルメラミン樹脂からなる保護コロイドは、前記銀を含む微粒子の凝集を防ぎ、残留性を高める。なお、銀は人畜に無害であり、残留しても危険性はない。このような作用機構によって所期の目的が達成される。
【0014】
【実施例】以下、実施例につき具体的に説明する。
〔実施例1〕平均粒子径 20 nmの1%銀コロイド水分散液 90 mlに、 40 %アクリルメラミン水溶液 10 mlを加え、良く攪拌し、保護コロイド化された銀微粒子分散液を調整した。殺菌、消毒、除菌、制菌剤であるクロルヘキシジンの一種であるグルコン酸クロルヘキシジンの 5%水溶液 99 mlに、前記調整された銀微粒子分散液 1mlを加え、よく攪拌し、さらに水で 5倍に希釈して残留効果のある洗浄剤(以下、残留型洗浄剤という)を調整した。調整された残留型殺菌剤の残留効果を測定するため、残留型殺菌剤を用いて木片を殺菌処理した後、充分な量の水で洗い流し、水洗い直後の木片の表面の細菌数を測定した(試験1)。次に、処理した木片をぬれたまま 24 時間室内に放置し、その後、さらに 24 時間、温度 27 ℃、湿度 100%で培養して、表面の細菌数を測定した(試験2)。そして、さらに2週間、同じ条件で培養した後、かびの発生状況を観察した(試験3)。この結果を表1に示す。
【0015】〔実施例2〕市販の中性洗剤 99 mlに、実施例1で調整された銀微粒子分散液 1mlを加え、よく攪拌し、さらに水で 5倍に希釈して残留型殺菌剤を得た。得られた残留型洗浄剤を用いて実施例1と同様に効果の測定をおこなった。この結果を表1に示す。
【0016】〔比較例1〕殺菌剤であるクロルヘキシジンの一種であるグルコン酸クロルヘキシジンの 5%水溶液 100mlを水で 5倍に希釈して殺菌剤を調節した。この殺菌剤を用いて実施例1と同様に効果の測定を行った。この結果を表1に示す。
【0017】〔比較例2〕市販の中性洗剤 100mlを水で 5倍に希釈して洗浄剤を調整した。この洗浄剤を用いて実施例1と同様に効果の測定を行った。この結果を表1に示す。
【0018】
【表1】


【0019】この表1の結果より、実施例1および2は共に2週間経っても、比較例1および2と異なり、かびの発生がみられず、残留効果のあることが確認された。
【0020】
【発明の効果】以上のように本発明では、請求項1に係る残留型殺菌剤では、銀微粒子の保護コロイドとして水性あるいは水溶性のアクリル樹脂あるいはアクリルメラミン樹脂の少なくとも1種を用いて水親和性を良くし、殺菌剤中における銀の分散安定性を良くするとともに、対象物への塗布あるいは対象物の浸漬により殺菌あるいは洗浄が行われた後における残留効果を有し、殺菌、消毒、除菌、制菌および洗浄後に長期にわたり殺菌ないし制菌効果を発揮することができ、しかも人畜には無害な残留効果を有する殺菌剤を実現することができる。また、請求項2に係る残留型殺菌剤では、余計な着色を与えることなく効果的な残留性を付与することができる。また、請求項3に係る残留型殺菌剤では、べたつきを不必要に大きくすることなく効果的な保護効果を与えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】平均粒子径 100nm以下の銀を含む微粒子と、水性あるいは水溶性のアクリル樹脂あるいはアクリルメラミン樹脂の少なくとも1種と、殺菌剤とを混合することを特徴とする残留型殺菌剤。
【請求項2】前記銀を含む微粒子が、銀換算で重量比 10 ppmから 5%含有されていることを特徴とする請求項1記載の残留型殺菌剤。
【請求項3】前記水性あるいは水溶性のアクリル樹脂あるいはアクリルメラミン樹脂の少なくとも1種が、銀を含む微粒子中の銀に対して重量で 1〜 1000 倍であることを特徴とする請求項1または2記載の残留型殺菌剤。

【公開番号】特開2001−278714(P2001−278714A)
【公開日】平成13年10月10日(2001.10.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−89245(P2000−89245)
【出願日】平成12年3月28日(2000.3.28)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】