説明

段ボール用の中芯原紙

【課題】貼合性(点合適性)や離解性、経済性を損なわずに、圧縮強さを改善した段ボール用の中芯原紙とする。
【解決手段】古紙パルプを主原料とし、2層からなる段ボール用の中芯原紙であって、ワイヤーパートにおいて湿紙間に澱粉の水溶液が設けられた積層体が形成され、更にコーターパートにおいて当該積層体の両面に澱粉の水溶液がフィルムトランスファー方式で塗布され、JIS P 8126:2005「紙及び板紙‐圧縮強さ試験方法‐リングクラッシュ法」に準拠した横方向の比圧縮強さが180N・m2/g以上とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、段ボール用の中芯(中しん)原紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
段ボールは軽量で安価なため、各種物品の包装、運搬に使用される産業上の基礎資材であり、一般に中芯原紙とライナをコルゲータで貼り合わせて製造される。段ボールはその用途から圧縮強度が要求されるので、特に中芯の圧縮強度が重視される。近年軽量化、資源の節約、コストダウンなどより単位面積当たりの重量の割に強度の高い中芯が普及し、その生産量が年々増大している。
このような強度の高い中芯原紙を得るための製造法としては、強度の高いパルプを原料として使用する方法(例えば、特許文献1参照。)、抄造時の紙料にポリアクリルアミドなどの合成紙力増強剤を添加する方法(例えば、特許文献2参照。)、抄造された湿紙に澱粉の水性懸濁液をスプレーする方法(例えば、特許文献3参照。)、抄造された紙に石油樹脂、ポリスチレンなどの樹脂を含浸する方法(例えば、特許文献4参照。)などが知られており、一部で実用に供されている。
これらの中芯の製造法のうち、強度の高いパルプを原料とする方法は古紙が主体の中芯原紙にあって高価なパルプを使用することは経済性の点で不利であること、ポリアクリルアミドなどを添加する方法は離解性が低下するため、損紙や段ボールの離解回収が困難となること、肝心のライナとの貼合性が低下する(段ボール接着剤とポリアクリルアミドとの親和性が比較的乏しいため、貼合速度や接着強度が出にくい)ことなどの解決すべき課題が存在する。また、澱粉スプレー法は貼合性や経済性では良好な反面、霧滴の飛散により抄紙機が汚れやすいこと、樹脂含浸法は耐水強度が得られやすい反面、貼合性、離解性、経済性などの解決すべき課題がある。このように、従来の中芯原紙には一長一短があるため、業界ではこれらの課題を解決した中芯原紙が強く要望されている。
【特許文献1】特開平07‐26494号公報
【特許文献2】特開2002‐194694号公報
【特許文献3】特開2007‐169821号公報
【特許文献4】特開2001‐121632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする主たる課題は、貼合性(貼合適性)やケース強度、経済性を損なわずに、圧縮強さを改善した段ボール用の中芯原紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題を解決した本発明は、次のとおりである。
〔請求項1記載の発明〕
古紙パルプを主原料とし、少なくとも2層からなる積層構造の段ボール用の中芯原紙であって、
ワイヤーパートにおいて湿紙間に澱粉の水溶液が設けられた積層体が形成され、更にコーターパートにおいて当該積層体の両面に澱粉の水溶液がフィルムトランスファー方式で塗布され、
JIS P 8126:2005「紙及び板紙‐圧縮強さ試験方法‐リングクラッシュ法」に準拠した横方向の比圧縮強さが180N・m2/g以上とされている、
ことを特徴とする段ボール用の中芯原紙。
【0005】
〔請求項2記載の発明〕
含有される澱粉総量が5.0〜15.0g/m2とされている、請求項1記載の段ボール用の中芯原紙。
【0006】
〔請求項3記載の発明〕
前記フィルムトランスファー方式で塗布される澱粉として、アニオン性澱粉、カチオン性澱粉及び両性澱粉のいずれか一種以上が使用されている、請求項1又は請求項2記載の段ボール用の中芯原紙。
【0007】
〔請求項4記載の発明〕
JIS P 8220:1998「パルプ‐離解方法」に準拠して原料パルプを離解し、得られた離解パルプのJIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」に準拠したフリーネスが250〜450mlCSFになるように調整されたパルプを原料とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の段ボール用の中芯原紙。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、貼合性(点合適性)や離解性、経済性を損なわずに、圧縮強さを改善した段ボール用の中芯原紙となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明の実施の形態を説明する。
本実施の形態の段ボール用の中芯原紙は、古紙パルプを主原料とし、少なくとも2層からなる積層構造とされ、ワイヤーパートにおいて例えば下側に位置する湿紙上に澱粉の水溶液が、好ましくは未糊化の澱粉の水溶液が、より好ましくは未糊化の澱粉の懸濁水溶液が設けられて、好ましくはスプレー噴霧されてから上側の湿紙が積層されて積層体が形成され、更にコーターパートにおいて当該積層体の両面に澱粉の水溶液が、好ましくは糊化澱粉の水溶液がフィルムトランスファー方式で塗布され、JIS P 8126:2005「紙及び板紙‐圧縮強さ試験方法‐リングクラッシュ法」に準拠した横方向の比圧縮強さが180N・m2/g以上とされている、ことを特徴とする。
【0010】
本実施の形態において、原料パルプは、古紙パルプを主原料(50質量%以上)とするが、その他の原料パルプは、特に限定されない。その他の原料パルプとしては、例えば、紙・板紙の製造に用いられるパルプであるサルファイトパルプ、クラフトパルプ、ソーダパルプ等のケミカルパルプ、セミケミカルパルプ、メカニカルパルプなどの木材パルプ;こうぞ、みつまた、麻などの非木材パルプ;古紙を処理して製造される古紙パルプなど各種のパルプを例示できる。また、これらは未晒パルプでも晒パルプでもよい。さらに、バージンパルプを含有させてもよいが、省資源及び原料コストの面からは現実的ではない。
【0011】
本発明は、十分な貼合性(貼合適性)や離解性、経済性を損なわずに、圧縮強さを改善した段ボール用の中芯原紙を提供するという課題を有する。古紙含有率の高いパルプを使用して製造する場合に特に有利である。本発明は、古紙パルプを60質量%以上においても、貼合性(点合適性)や離解性、経済性を損なわずに、高い圧縮強さが得られる効果を発揮する。
【0012】
古紙パルプとしては、段ボール古紙、製本、印刷工場、裁断所等において発生する裁落、損紙、幅落としした古紙である上白、特白、中白、白損等の未印刷古紙を解離した古紙パルプ、上質紙、上質コート紙、中質紙、中質コート紙、更紙等に平版、凸版、凹版印刷等、電子写真方式、感熱方式、熱転写方式、感圧記録方式、インクジェット記録方式、カーボン紙などにより印字された古紙、及び水性、油性インクや、鉛筆などで筆記した古紙、新聞古紙を離解後脱墨したパルプ(以下、DIPと略記する)、製紙スラッジ、製紙工場排水スカム等を用いることができる。原料パルプは、JIS P 8220:1998「パルプ‐離解方法」に準拠して離解し、得られた離解パルプのJIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」に準拠したフリーネスが250〜450mlCSF、好ましくは300〜400mlCSFになるように調整されたパルプであることが好適である。フリーネスが250mlCSF未満であると、抄紙工程のウエットエンドでの濾水性コントロールが困難になり、原料歩留が低下するとともに、紙層中の平均繊維長が短くなるため比圧縮強さが低下する問題が生じる。他方、フリーネスが450mlCSFを超える事は、ウエットエンドでの脱水性は良好であるがパルプ繊維同士の絡み合いが少なく、ウエットシートの強度が不足する問題が生じるほか、原料パルプに長繊維分の多い古紙を使用する必要が生じるなど、選択的な原料調整が必要になり、コストアップの問題が生じる。
本形態において、フリーネスの調節は、例えば、原料として用いる古紙の選択、公知の叩解処理などの調節手段を取ることによって、行うことができる。
【0013】
ワイヤーパートにおいては、複数のインレットを有する多層の長網抄紙機が、積層体の中芯を製造するうえで好適に用いられる。
本形態で使用される澱粉は、その種類が特に限定されず、例えば、コーンスターチ(とうもろこし澱粉)、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、アセチル化タピオカ澱粉等の各種の未加工、加工澱粉を使用することができるが、課題の一つとする経済性、圧縮強度を考慮すればコーンスターチが最も好適である。また、澱粉としては、酸化澱粉、アニオン性澱粉、カチオン性澱粉及び両性澱粉のいずれか一種、又は併用して使用されていると、理由は定かではないが湿紙の層間において澱粉の分散性が良く、より好ましいものとなる。
【0014】
ワイヤーパート(抄紙段階)において例えば下側の湿紙上に澱粉の水溶液を設ける手段について、特に好適な手段として用いられるスプレー噴霧するについて、まず、スプレー噴霧は、1流体又は気‐液の2流体スプレーを用いるのが好ましい。このスプレー噴霧におけるノズル径は、例えば未糊化の澱粉で孔が閉塞しないものを選べば良く、0.5〜2.5mm径、好ましくは0.8〜1.5mm径のノズルを適宜選択して用いる。このようなスプレーガンは、湿紙幅方向に一列設けられても良いし、多系列設けられても良く、湿紙の表面に均一に噴霧できるように工夫される。スプレーの圧力は、供給する空気圧にて微細な飛沫が得られれば特に制約はないが、0.3〜35kg/cm2、好ましくは2.0〜10kg/cm2とすることができる。吐出量は、0.4〜4.0リットル/分、好ましくは1.0〜3.0リットル/分である。また、澱粉は、未糊化の澱粉が好ましく、未糊化でパルプ繊維間に歩留易い粒子径の例えば、平均粒子径12.0〜16.0μmのコーンスターチが好ましく、平均粒子径が6.0μm未満と小さいコメ澱粉はウエットエンドにおいて脱水とともに紙層を形成する繊維間に澱粉粒子が流入し、湿紙と湿紙に重ねあわされる上層との結合力を十部に得難い問題が生じやすく、平均粒子径が20.0μmを超えるコムギ澱粉や甘藷、馬鈴薯澱粉はウエットエンドにおいて表層に留まるものの、粒子径が大きいことが原因と推察される層間強度のバラツキや紙層間への澱粉粒子の含有量(流入)が少ないため、平均粒子径が6.0μ未満と小さいコメ澱粉と同様に紙層間強度向上にさほど寄与しない。また、コーンスターチは澱粉粒径が多角形であり、紙層を形成する際にパルプ繊維への絡み合いも多くなる点からもコーンスターチが好ましい。
【0015】
湿紙の形成において、微細繊維が白水とともに抜け落ち難い湿紙の表面は、白水とともに抜け易い湿紙の裏面と比較して微細繊維が多く分布するため、物理的外圧を加えることなく例えばスプレー噴霧にて設けるコーンスターチ等の未糊化澱粉の水性懸濁液を表層に留めやすい。好適には、未糊化の澱粉の水性懸濁液をスプレー噴霧した表層に更に上側の湿紙を重ね、複数層の層構成後に、プレスパートでの脱水による強制的な脱水を付与することで、表層や湿紙層間に付与された未糊化の澱粉の水性懸濁液が湿紙層中に拡散し、100℃以上の熱が加えられるドライヤーにて糊化することで、紙層間及び紙層内部の強度向上を図ることができる。
【0016】
ここで、湿紙間に澱粉の水溶液が設けられた積層体が形成するにあたり、湿紙を2層積層する場合は、下側の湿紙(下層)上に好適には未糊化の澱粉水溶液のスプレー噴霧を行い、上側の湿紙(上層)を積層するのが好ましい。他方、湿紙を3層以上の複数積層する場合は、上下に隣接する下側の湿紙及び上側の湿紙が複数存在することになるが、少なくともいずれか1つの下側の湿紙を対象として、好ましくは全ての下側の湿紙を対象として澱粉水溶液のスプレー噴霧を行うのが好ましい。
【0017】
スプレー方式の塗布(噴霧)設備にて用いられる未糊化澱粉の水溶性懸濁液の調製方法は、特に限定されないが、好ましくは次のとおりである。すなわち、まず、未糊化の生澱粉を水に分散して、好ましくは最終澱粉糊液の濃度が10%以上になるように約10〜20%未満の濃度の水性懸濁液とする。本発明で云う「未糊化澱粉」とは、加熱処理等により生澱粉を糊化する処理を行っていない未処理の澱粉を言う。
未糊化澱粉の水溶性懸濁液のスプレーによる塗布(噴霧)は、上下に隣接する湿紙の一方の湿紙の表面(第1ワイヤー面)、好ましくは裏面(第2ワイヤー面)にもスプレーすることが可能であるが、本発明の課題である圧縮強度の高い中芯を得るに好適な構成においては、ワイヤーパートにおけるインレット吐出直後から湿紙を重ね合わせる間、好ましくは水切れ線後に噴霧されることが好適である。
【0018】
以上のようにして湿紙が積層されて形成された積層体は、両面に糊化澱粉の水溶液を塗布するが、この塗布は、コーターパートにおいてフィルムトランスファー方式のゲートロールコーターを用いて行うのが好ましい。塗布手段としては、2ロールサイズプレス方式等の各種のサイズプレスやコーターが考えられるが、湿紙表面への輪郭塗被性に優れ、内部への浸透を抑え、表裏面強度の向上が得られ易いこと、少量の塗布量でも表裏両面に被膜を形成し易いこと、などから、フィルムトランスファー方式が好適であり、中でもゲートロールコーターが好適である。
上記の「糊化澱粉」とは、その加工方法の如何を問わず、部分的に、あるいはほぼ完全に糊化された澱粉を言う。
【0019】
この際に使用する澱粉糊液の濃度は、先のスプレー方式の未糊化澱粉の水溶性懸濁液の濃度より高く、20〜25%、好ましくは22〜24%である。スプレー方式の未糊化澱粉の水溶性懸濁液の濃度より高くすることで、スプレー方式の未糊化澱粉の水溶性懸濁液による層間強度向上と、積層体表裏面における強度向上の2方面から中芯の強度を総合的に向上させることができる。澱粉糊液の濃度が20%未満では澱粉糊液が塗布された積層体(中芯原紙)の圧縮強度の増大が十分でなく、他方、25%を超えると実質上これを得るために必要な高濃度の水性懸濁液の調整が困難であり、ドライヤー表面への貼り付きや、設備汚れの原因になる。
また、本形態で使用される澱粉糊液の粘度は、5〜15CP(B型粘度計、60rpm、塗布時の温度)であるのが好ましく、6.0〜10.0CPであるのがより好ましい。澱粉糊液の粘度が15CPを超えるとゲートロールコーターでの塗布時に塗液の転写性が低下するため、塗布速度の低下を免れず、生産性の点で満足とは言い難く、他方、5CP未満では必要とする濃度が得られず、必要量を塗布するには乾燥能力を向上させる必要が有り、生産性低下の原因になるため好ましくない。
【0020】
本形態の中芯は、JIS P 8126:2005「紙及び板紙‐圧縮強さ試験方法‐リングクラッシュ法」に準拠した横方向(CD)の比圧縮強さが180N・m2/g以上、好ましくは190〜220N・m2/gとされている。比圧縮強さが180N・m2/g未満であると、段ボールシートを製函した際の十分なケース強度が得られない問題が生じる。比圧縮強さの調節は、例えば、繊維配向性、澱粉塗布量、原料古紙の選択などを適宜組み合わせ調節することによって、行うことができる。
本形態の中芯は、含有される澱粉総量が5.0〜15.0g/m2とされているのが好ましく、8.0〜15.0g/m2とされているのがより好ましい。
【0021】
本発明における、フィルムトランスファー方式に用いられる澱粉には、分子量が300万未満で、かつ塗工液(澱粉糊液)の濃度が35%、温度40℃での粘度が85cp以下、好ましくは10〜80cp、より好ましくは30〜75cpの化工澱粉が用いられる。
特に700m/分以上の高速抄紙になると澱粉粘度が低い場合には「ミスト」の問題、粘度が高いと「粘性で断紙」という問題がある。一方、本発明では生産性に優れるフィルムトランスファー方式を用い、なおかつ軽量であっても強度に優れる軽量中芯とするため、澱粉の水溶液を多く塗布したい。ところが、通常ゲートロールで澱粉の水溶液を塗布できる塗布量は0.5〜2g/m2程度である。本発明は以下に詳述する特定の澱粉の水溶液を用いることにより、生産性に優れるフィルムトランスファー方式を用いながらも、圧縮強度に優れた中芯原紙を得ることができた。
【0022】
澱粉としては、例えば酸化澱粉、カチオン化澱粉、カルボキシメチル化澱粉、α化澱粉、リン酸エステル化澱粉、エステル変性澱粉、尿素リン酸変性澱粉、未変性澱粉等、公知の種々のものを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
しかしながら、カルボキシメチルデンプン(アニオン性)、ヒドロキシアルキルデンプン(ノニオン性)、リン酸デンプン(アニオン性)等の変性澱粉は、紙中に浸透しながら、引張り強度や表面強度を向上させる効果を有するものの、中性またはアニオン性を示すため、アニオン性を呈するパルプ繊維表面への定着性に劣り、被膜性が低いという問題がある。したがって、公知の種々の澱粉の中でも特に、アニオン性を呈するパルプ繊維表面への定着性が高い、カチオン性の澱粉を用いることが好ましい。また、カチオン性の澱粉を用いると、パルプ繊維表面への定着性が向上し、被膜性に優れ貼合性も向上させることができる。
また、澱粉は、酸化澱粉を好適に用いることが出来るが、エステル変性澱粉を用いることがより好ましい。エステル変性澱粉であると、無機微粒子の定着性をより向上させることができると共に、コルゲータで中芯原紙の段繰りを行う際、段ロールとの摩擦係数を下げることができるので、中芯原紙の軽量化に伴い紙の引張強度や、伸び率の絶対値が低くなっても、段割れが発生しない。
【0023】
エステル変性澱粉において、そのエステル化の度合は特に制約されないが、導入されるエステル結合の平均数で、グルコース単位当り1〜3、好ましくは1〜2のものが好適である。このようなエステル変性澱粉の中でも、ヒドロキシエステル化澱粉が、原料澱粉に酸化処理を施し、カルボキシメチル基をヒドロキシエチル基へ還元反応させることにより容易にかつ安価に得ることができるので好ましい。より好適には、エステル変性された澱粉の末端基に疎水性基を導入した、疎水性基含有エステル変性タピオカ澱粉が好適に用いられる。さらに好適には、チキソトロピカルな挙動を示すエステル変性澱粉が用いられる。すなわち、このようなチキソトロピック性を有するエステル変性澱粉は、末端基にカルボン酸(−COOH)構造を有し、中性領域において、−COO−のようにイオン化することで水素結合による繋がりを確保できず、反発性を示す。従って、塗工において流動性を示し、基紙中に浸透しにくいため、基紙の表面に高い被膜性を呈するので好ましい。
【0024】
このようなエステル変性澱粉の原料についても特に限定されるものではないので、例えば、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、甘薯澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、モチトウモロコシ粉、高アミロース含量、トウモロコシ澱粉などの未処理澱粉、小麦粉、タピオカ澱粉、コーンフラワー、米粉等の澱粉含有物、あるいはこのような未処理澱粉及び澱粉含有物の酸化、酸処理化等を行った処理澱粉等、種々の澱粉含有物を用いることができる。これらの中でも特に、タピオカ澱粉を主原料としてエステル変性させた1−オクテニルコハク酸エステル化澱粉が、粘性、被覆性、被膜弾力性、伸展性の面で他の澱粉よりも秀でているので好ましい。さらに、ポリビニルアルコールと組み合わせて用いることで、コルゲータで中芯原紙の成形時における段割れの発生をさらに防止することができる。
【0025】
本発明に用いられる澱粉は、TAPPI T419 om−91に基づく紙中澱粉量に準拠した分析値で、澱粉が2.5〜15g/m2、好適には3.0〜10g/m2、更に好適には4.0〜10g/m2含有されるように、中芯原紙の表裏面に塗布設備にて塗布される。これにより、本発明の中芯原紙を、貼合性(貼合適性)や離解性、経済性を損なわずに、圧縮強さを改善した段ボール用の中芯原紙を得ることができる。
なお、澱粉の塗布含有量が2.5g/m2未満では、圧縮強度の維持や紙粉の発生を抑制することが困難であり、一方、澱粉の塗布含有量が15g/m2を超えると、既存のフィルムトランスファー方式に代表される塗布設備での塗布が困難であり操業性を大きく低下させると共に、抄紙機の毀損、コスト負担が大きくなる。
なお、通常ゲートロールで水溶性高分子を塗布できる塗布量は0.5〜2g/m2程度である。本発明においては、水溶性高分子として、濃度が35%以上で、温度40℃における粘度が85cp以下を示す澱粉(本件発明における実施例においては5〜15CP)を主成分に用いることにより、2.5g/m2以上の塗布を可能にし、生産性に優れる また、澱粉の水溶液には、本発明の効果に影響のない範囲内で、澱粉のほか、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド(PAM)等を用いることができる。さらに、例えばサイズ剤、填料分散剤、pH調整剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、蛍光消去剤等の公知の種々の添加剤を、単独で、あるいは2種以上を混合して添加しても良い。
【0026】
以上によると、貼合性や離解性、経済性を損なわずに圧縮強度が飛躍的に増大した中芯となる。ここでこれらの効果が発現する機構について説明する。
(1)比較的、澱粉粒子の大きい未糊化の澱粉を、抄紙機のワイヤーパートにおいてスプレー塗布することで、湿潤紙層の極表面に澱粉を高濃度で設けることが出来る。特に、ワイヤーパートにおけるインレット吐出直後から湿紙を重ね合わせる間、好ましくは水切れ線後に噴霧することで、あたかも湿潤紙層表面を被覆するように未糊化の澱粉層を設けることができる。なお、水切れ線とは、スライスリップ出口直後から固形分濃度7%程度になる水切れ線(Dry Line)を意味する。
(2)未糊化の澱粉は、抄紙工程のプレス工程での更なる脱水時に、物理的な圧力で湿紙層中に移動し、100℃以上の高温に晒される乾燥工程において糊化し、湿紙間の強度向上とともに、湿紙層の強度向上を図ることができる。
(3)特に本形態においては、少なくとも2層の層構成を有する中芯であり、各紙層間に前記(1)及び(2)の構成を設けることで、その効果は一層向上する。
(4)更に本形態においては、予備乾燥された積層体の表裏面に、フィルムトランスファー方式で、糊化した澱粉水溶液を塗布する。フィルムトランスファー方式は、従来慣用的に用いられてきた2ロールサイズプレスと異なり、紙内部まで糊液を含浸させることなく、積層体の表裏面に対し糊化澱粉を高濃度で輪郭塗工することが可能であり、スプレーで塗付した未糊化澱粉による強度向上との相乗効果にて飛躍的に圧縮強度を向上させた中芯となる。
【実施例】
【0027】
本発明に係る中芯原紙の効果を確認するため、以下のような各種の試料を作製し、これらの各試料に対する品質を評価する試験を行った。なお、本実施例は、本発明を限定するものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲において、適宜その構成を変更することができることはいうまでもない。
本発明に係る25種類の中芯原紙(これを「実施例1」から「実施例25」とする)を表1に示すような構成で作製し、またこれらの実施例1から実施例25と比較検討するための10種類の中芯原紙(これを「比較例1」から「比較例10」とする)を表2に示すような構成で作製した。
【0028】
まず、実施例1として、段ボール古紙60重量%と、雑誌古紙40重量%となるように配合した後に、ダブルディスクリファイナーで原料パルプを叩解調整し、離解パルプフリーネスが376ccになる原料パルプスラリーを作製した。次に、体積平均粒径が14.0μmのコーンスターチを水道水に懸濁分散させ、澱粉水溶液濃度12.6%の湿紙上に設ける澱粉水溶液を調整した。更に、ゲートロールで設ける澱粉水溶液を調整した。このゲートロールで設ける澱粉水溶液は、主成分として、日本コーンスターチ社製の酸化澱粉(SK−20)を用いた。
まず、このように作製した原料パルプスラリーを、原料パルプの濃度が1.0%になるように濃度調整を行い、単層の湿紙を形成し、その上に澱粉の水溶液をスプレー塗布した後、更に湿紙上に湿紙を抄き合わせ、2層の積層体をとし、その後、シュープレス方式で湿紙を搾水し、プレドライヤーで乾燥させる。次いで、ゲートロールにより、上述した澱粉水溶液を、湿紙の表裏面に塗布し、乾燥させて、坪量が214g/m2である中芯を得る。なお、抄速は800m/分である。
実施例2以降及び比較例は、実施例1を元に、表に記載の条件を当てはめ、条件を設定して実施した。また、市販の中芯A〜Cについても、各種試験を行った。
【0029】
各種試験は、温度20℃、相対湿度65%の条件で調湿後、坪量、澱粉塗布量、比破裂度及び比圧縮強さ等を測定し、表1及び表2に示した。測定方法は、次のとおりとした。
坪量:JIS P 8124:1998に準拠
澱粉含有量(総量):TAPPI T419 om−91に基づく紙中澱粉量に準拠
裂断長:JIS P 8113:1995に準拠
圧縮強さ及び比圧縮強さ:JIS P 8126:2005 リングクラッシュ法に準拠
密度・厚さ:JIS P 8118:1998に準拠
離解フリーネス:JIS P 8220:1998に準拠して、離解した中芯原紙を、JIS P 8121:1995に準拠にして、ろ水度(フリーネス)を測定した。
段ボール−垂直圧縮試験(耐圧強度):JIS Z 0403−2に準拠にして測定。
初期接着強度:下記条件にて段シートを作成し、JIS Z 0402:1995に準拠し、50×85mmの大きさの片面段ボールをロードセルの付いたピンテスターにセットする。その上にクラフトライナーを置き、自重1.5kgの熱板(120℃)により、10秒間圧着する。圧着後、直ちにライナと片面段ボールを剥がし、そのときの強度を初期接着強度として、ロードセルによって測定した。
<段シート加工>
・三菱重工製コルゲータ
・シングルフェーサー 60H
・加工速度150m/分
・のり塗工量:表3.2g/m2、裏5.0g/m2
・濃度 :表3.2%、裏3.0%
・のり :日本澱粉社製のローコンスを使用
離解性:試料を3.0cm角に裁断し、これをTAPPI標準離解機に2%濃度となるように投入した後、3,000rpmで15分間離解した。こうして得られた試料分散液からTAPPI角型シートマシンを用い、米坪量が70g/m2となるように手抄きシートを作製、脱水、乾燥した。目視にて、シート中に未離解物が見られないものを離解性良好、未離解物が残存しているものを離解性不良とした。評価基準は、◎:シート中に未離解物が全く見られない、○:シート中に未離解物が見られるが、許容範囲内、△:シート中に未離解物が見られる、×:シート中に未離解物が著しく残存している、をそれぞれ表す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
なお、エステル変性澱粉として、ナショナルスターチ社製のFILUMUKOTO370を用い、リン酸エステル化澱粉として、日本コーンスターチ社製のSK−3000を用い、酸化澱粉として、日本コーンスターチ社製のSK−20を用いた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、段ボール用の中芯(中しん)原紙として、適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
古紙パルプを主原料とし、少なくとも2層からなる積層構造の段ボール用の中芯原紙であって、
ワイヤーパートにおいて湿紙間に澱粉の水溶液が設けられた積層体が形成され、更にコーターパートにおいて当該積層体の両面に澱粉の水溶液がフィルムトランスファー方式で塗布され、
JIS P 8126:2005「紙及び板紙‐圧縮強さ試験方法‐リングクラッシュ法」に準拠した横方向の比圧縮強さが180N・m2/g以上とされている、
ことを特徴とする段ボール用の中芯原紙。
【請求項2】
含有される澱粉総量が5.0〜15.0g/m2とされている、請求項1記載の段ボール用の中芯原紙。
【請求項3】
前記フィルムトランスファー方式で塗布される澱粉として、アニオン性澱粉、カチオン性澱粉及び両性澱粉のいずれか一種以上が使用されている、請求項1又は請求項2記載の段ボール用の中芯原紙。
【請求項4】
JIS P 8220:1998「パルプ‐離解方法」に準拠して原料パルプを離解し、得られた離解パルプのJIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」に準拠したフリーネスが250〜450mlCSFになるように調整されたパルプを原料とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の段ボール用の中芯原紙。

【公開番号】特開2009−114572(P2009−114572A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287516(P2007−287516)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】