説明

段ロール及びその再加工方法、及びシングルフェーサ

【課題】片面段ボールシートを製造するシングルフェーサで、使用後の段ロールを再加工するに際し、段ボールシート製造時の中芯消費量アップを抑制する。
【解決手段】上段ロール10の山部12の円弧状曲面の曲率を加工前と比べて大きくするように再加工する。また、下段ロール20の山部22の円弧状曲面の曲率を加工前と比べて大きくするように再加工する。このとき、上段ロール10の山部12の最大径をできるだけ維持するように研磨する。これによって、上下段ロール10,20の山部と谷部とを結ぶ段ロールの傾斜面長を短縮できるので、再加工後の上下段ロール10、20によって成形される両面段ボールシートjの波形中芯eの中芯dの消費量増加率を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片面段ボールシートを製造するシングルフェーサにおいて、中芯の消費量を低減可能にした段ロールの再加工方法、この再加工方法によって再加工された段ロール、この段ロールを備えたシングルフェーサ、及び有用な両面段ボールシートを製造可能なシングルフェーサに関する。
【背景技術】
【0002】
波形中芯と裏ライナとを接合して片面段ボールシートを製造するシングルフェーサには、加圧ロール方式と、加圧ベルト方式とがある。以下、これらのシングルフェーサの構成を簡単に説明する。
図7は、加圧ロール方式のシングルフェーサを示す。図7において、このシングルフェーサ100Aは、一対の上下段ロール102及び104と、下段ロール104に対設された加圧ロール106と、糊付装置108とを備えている。
【0003】
上下段ロール102、104は、外周面に軸方向に向く波形溝を有し、これらが互いに噛合している。平坦なシート状をなす中芯dが矢印a方向から供給され、上下段ロール102、104のニップ部に通されて、波形中芯eに成形される。糊付装置108では、糊容器110内に貯留された糊gが糊付ロール112で掬い上げられ、ドクターロール114で糊膜調整が行なわれる。糊付ロール112の表面に付着した糊gは、波形中芯eの段頂部に塗布される。
【0004】
加圧ロール106に供給された平坦シート状の裏ライナfは、糊付けされた波形中芯eと共に、加圧ロール106と下段ロール104とのニップ部に通され、加圧される。これによって、波形中芯eと裏ライナfとが接着されて、片面段ボールシートhが製造される。
【0005】
次に、図8により、加圧ベルト方式のシングルフェーサの構成を簡単に説明する。このシングルフェーサ100Bは、加圧ロール106の代わりに、上段ロール102の表面に押圧されるエンドレス加圧ベルト116が装備されている。下段ロール104に供給された平坦シート状の中芯dは、上下段ロール102,104間を通って波形中芯eに形成される。
【0006】
次に、波形中芯eの段頂部に、糊付ロール112によって糊gが塗布される。その後、平坦シート状の裏ライナfと、段頂部に糊gが塗布された波形中芯eとが、上段ロール102とエンドレス加圧ベルト116間を通って加圧され接合される。こうして、片面段ボールシートhが製造される。
こうして製造された片面段ボールシートは、製造ラインの下流側で、裏ライナfが接着されていない段頂部に平坦シート状の表ライナが接着されて、両面段ボールシートが製造される。なお、波形中芯eのなす波形は「フルート」と呼ばれている。
【0007】
シングルフェーサの上下段ロールは、高強度鋼で製造され、その表面は硬質Crメッキ又はタングステンカーバイト溶射等が施されて高い耐摩耗性を有する。しかし、使用に伴い摩耗が進行する。摩耗が進行すると、定期的に交換され、段ロールの外表面を研磨し直して、再使用される。段ロールの幅は、紙シート幅と比べて大きいので、幅方向に均一に摩耗せず、中央部だけ摩耗する傾向にある。そのため、波形表面が幅方向に均一になるように研磨し直す必要がある。
【0008】
特許文献1には、紙シートと段ロールとの滑りによって生じる段ロール表面の摩耗に起因した段ロールの損傷を防止するために、段ロールの改良されたフルート形状が開示されている。
また、特許文献2には、段ロール間の紙シートの送り込みが幅方向に均一に行なわれ、これによって、紙シートに生じるしわを防止できる段ロールの研削方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2002−500116号公報
【特許文献2】特開2004−42259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図9は、シングルフェーサで製造された片面段ボールシートに、表ライナiを接着して製造された両面段ボールシートjを示す。従来の段ロールの再加工方法は、山部と谷部の円弧状曲面の曲率を変えることなく、新品時と同じ段高が幅方向で均一に得られるまで段ロール外周を研磨するやり方である。従来の再加工方法では、再加工を実施すると、段頂部の直径が短くなる。そのため、段ロールの周長が短くなるが、段ロールの段山数は変わらないので、相対的に、単位長さの表裏ライナf、iに対して、段山のピッチが短くなる。
即ち、図9に示すように、再加工後の波形中芯eの段山ピッチPは、再加工前のPに対して短くなる。これによって、中芯dの消費量、即ち、段繰率(中芯長/表裏ライナ長)が増大する。
【0011】
図10の表は、再加工回数と段繰率との関係を示している。再加工の回数が増すほど、段繰率と中芯消費量は増加している。段ロールの硬化層深さからみて、再加工の限界回数は6回程度であるが、中芯消費量が増大するので、通常3回程度までに留め、3回程度の再加工後、段ロールを廃却している。
【0012】
次に、中芯消費量の増加率及びそれによるコストアップの例を示す。Aフルートを用い、1日の生産量を10万m、平均紙幅を1.7m、中芯の坪量を125g/mとする。
段ロール新品時で、1年間の芯消費量は0.125kg/m×1.7m×10万m/日×1.594(段繰率)×20日/月×12月/年=8129.4トン。
中芯のコストを56円/kgとして、中芯費用は455,246千円となる。
再加工3回後で、1年間の中芯消費量は、
0.125kg/m×1.7m×10万m/日×1.597(段繰率)×20日/月×12月/年 = 8144.7トン
となる。中芯のコストを56円/kgとして、中芯費用は456,103千円となり、新品時と比べて、857千円のコストアップとなる。
【0013】
再加工6回後の中芯消費量は、
0.125kg/m×1.7m×10万m/日×1.601(段繰率)×20日/月×12月/年 = 8165.1トン
となる。中芯のコストを56円/kgとして、中芯費用は457、246千円となり、新品時と比べて、2,000千円のコストアップとなる。このように、再加工による中芯のコストアップは無視できない金額となっている。
【0014】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、使用後の段ロールを再加工するに際し、段ボールシート製造時の中芯消費量の増加を抑制して、紙シートのコストアップを抑制することを第1の目的とする。
また、経済的で包装箱として有用な性能を有する両面段ボールシートを製造可能なシングルフェーサを実現することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる目的を達成するため、本発明の段ロールの再加工方法は、波形外周面を有し、波形の中芯と裏ライナとからなる片面段ボールシートを製造するシングルフェーサに組み込まれ、該片面段ボールシートの製造に使用された後の段ロールを再加工する方法において、山部の段頂部の研磨を最小限に留めて段ロールの最大径を維持しながら、該段頂部を含めた山部の曲面をその曲率が加工前と比べて大きくなるように加工するものである。
【0016】
本発明方法では、段ロールの再加工において、山部の段頂部の研磨を最小限に留めて段ロールの最大径を維持しながら、山部の曲面の曲率を加工前と比べて大きくすることにより、山部の段頂部と谷部の最深部との間を結ぶ段ロールの傾斜面長を短縮し、これによって、中芯の消費量アップを抑制できる。
【0017】
本発明方法において、山部が複数の異なる曲率からなる曲面を有した段ロールであるとき、該曲面が傾斜面と交わる交点を結ぶ直線と該曲面とで囲まれる断面の断面積が加工前と比べて小さくなるように加工するとよい。前記構成の段ロールでは、このように加工することで、山部の曲面の曲率を加工前と比べて大きくでき、山部の段頂部と谷部の最深部との間を結ぶ段ロールの傾斜面長を短縮できる。そのため、中芯の消費量アップを抑制できる。
【0018】
また、本発明方法において、山部の形状がボーンフルート形をなす段ロールであって、山部が中芯と接触する始点と終点とを結ぶ直線と山部の曲面とで囲まれる断面の断面積が加工前と比べて小さくなるように加工するとよい。前記構成の段ロールでは、このように加工することで、山部の曲面の曲率を加工前と比べて大きくでき、中芯の消費量アップを抑制できる。
【0019】
本発明方法において、再加工における山部の曲面の曲率増加分に合わせ、噛合する相手側段ロールの谷部の最深部の研磨を最小限に留めて該最深部を含めた曲面をその曲率が大きくなるように加工し、中芯の走行方向下流側の段ロールの山部の曲面の曲率と、該段ロールと噛合して波形中芯を形成する中芯の走行方向上流側の段ロールの谷部の曲面の曲率との差と、中芯の走行方向上流側の段ロールの山部の曲面の曲率と、中芯の走行方向下流側の段ロールの谷部の曲面の曲率との差とを実質的に同一になるように加工するとよい。
【0020】
このように、再加工時に山部のみならず、該山部に相対する谷部の曲面の曲率が大きくなるように加工すると共に、一対の段ロールの互いに相対する山部と谷部の曲面の曲率の差を、再加工前後で実質的に同一となるように再加工することにより、中芯の消費量アップを抑制しながら、再加工後の段ロールの中芯の圧縮成形性能を良好に維持できる。
なお、本明細書で言う山部又は谷部の「曲面」は、例えば円弧状曲面であり、また、円弧状曲面に限らず、例えば楕円形の一部をなす曲面、その他の形状の曲面であってもよい。
【0021】
また、本発明の段ロールは、前記再加工方法を施された段ロールであり、かかる構成を有する段ロールを使用することにより、中芯の消費量アップを抑制できる。
【0022】
また、第1の本発明のシングルフェーサは、互いに噛合する波形外周面を有し、波形の中芯を形成する一対の段ロールと、波形中芯の段頂部に糊を塗布する糊付装置と、糊付け後の波形中芯と裏ライナとを一方の段ロールと共に加圧して接合する加圧装置とを備えたシングルフェーサにおいて、請求項3又は請求項4に記載の段ロールを少なくとも1個備えているものである。
【0023】
第1の本発明のシングルフェーサは、前記再加工方法を施された段ロールを備えているので、中芯の消費量アップを抑制できる。
【0024】
第1の本発明のシングルフェーサにおいて、加圧装置が中芯の走行方向下流側の段ロールと共に波形中芯と裏ライナとを加圧してこれらを接合する加圧ロールであるとき、山部が本発明の再加工方法を施された段ロールが、中芯の走行方向下流側の段ロールと共に波形中芯を形成する中芯の走行方向上流側の段ロールのみに使用されるようにするとよい。シングルフェーサを構成する加圧装置が加圧ロールである場合、加圧ベルトと比べて、段ロールとのニップ部に大きな局所面圧が加わる。そのため、紙シートの切断防止の観点から、山部の円弧状曲面の曲率を大きくした本発明の段ロールは、波形中芯の形成を行う中芯の走行方向上流側の段ロールに適用するのが好ましい。
【0025】
第1の本発明のシングルフェーサにおいて、加圧装置が中芯の走行方向下流側の段ロールと共に中芯と裏ライナとを加圧して中芯と裏ライナとを接合する加圧ベルトであり、山部が本発明の再加工方法を施された段ロールが中芯の走行方向下流側の段ロール又は該段ロールと共に波形中芯を形成する中芯の走行方向上流側の段ロールの少なくとも一方に使用されるようにするとよい。
シングルフェーサを構成する加圧装置が加圧ベルトである場合、加圧ロールと比べて、段ロールとのニップ部にそれほど大きな局所面圧が加わらない。そのため、山部の円弧状曲面の曲率を大きくした本発明の段ロールを一対の段ロールのどちらに適用しても支障をきたさない。
【0026】
また、第2の本発明のシングルフェーサは、互いに噛合する波形外周面を有し、波形中芯を形成する一対の段ロールと、波形中芯の段頂部に糊を塗布する糊付装置と、糊付け後の波形中芯と裏ライナとを一方の段ロールと共に加圧して接合する加圧装置とを備えたシングルフェーサにおいて、中芯と裏ライナとの接合に使用される中芯の走行方向下流側の段ロールの山部の曲面の曲率より、該中芯の走行方向下流側の段ロールと噛合して波形中芯を形成する中芯の走行方向上流側の段ロールの山部の曲面の曲率が大きくなるように構成し、裏ライナとの接合部に形成される波形中芯の曲面より、表ライナとの接合部に形成される波形中芯の曲面の曲率のほうが大きい両面段ボールシートを製造可能に構成したものである。
【0027】
第2の本発明のシングルフェーサは、裏ライナとの接合部に形成される波形中芯の曲面より、表ライナとの接合部に形成される波形中芯の曲面の曲率を大きくできる為、第1の本発明のシングルフェーサと同様に、中芯の消費量を抑制でき、段ボールシートのコストを低減できる。
また、中芯と裏ライナとの接合に使用される中芯の走行方向下流側の段ロールの山部の曲面の曲率は、該段ロールと噛合して波形中芯を形成する中芯の走行方向上流側の段ロールの山部の曲面の曲率より小さく形成されているため、波形中芯と裏ライナと加圧接合する時、紙シートに高い局所面圧が加わらない。そのため、加圧ロール方式のシングルフェーサに適用しても、紙シートが切断されるおそれがない。
【0028】
また、裏ライナとの接合部に形成される波形中芯の曲面より、表ライナとの接合部に形成される波形中芯の曲面の曲率が大きい両面段ボールシートを製造できる。該両面段ボールシートから段ボール箱を形成したとき、段ボール箱の内側面を形成する裏ライナに接着される波形中芯の接着部の曲率が小さく形成され、段ボール箱の外側面を形成する表ライナに接着される波形中芯の接着部の曲率が大きく形成される。
【0029】
そのため、裏ライナのクッション性を確保し、被包装物に対する保護効果を維持しながら、表ライナと波形中芯との接着部に塗布される糊の塗布量を低減でき、コスト低減を達成できる。また、表ライナと波形中芯との接着部に塗布される糊の塗布量を低減できるため、糊の固化時の収縮を低減でき、これによって、表ライナの平滑性及び印刷適正を確保することができる。
【0030】
第2の本発明のシングルフェーサにおいて、中芯と裏ライナとの接合に使用される中芯の走行方向下流側の段ロールの山部の円弧状曲面の曲率と、該段ロールと噛合して波形中芯を形成する中芯の走行方向上流側の段ロールの谷部の曲面の曲率との差を、中芯の走行方向上流側の段ロールの山部の曲面の曲率と中芯の走行方向下流側の段ロールの谷部の曲面の曲率との差を実質的に同一にするとよい。これによって、裏ライナとの接着部、及び表ライナとの接着部の波形中芯の圧縮成形性能を良好に維持できる。そのため、前記両面段ボールシートの性能をさらに向上できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明方法によれば、波形外周面を有し、波形中芯と裏ライナとからなる片面段ボールシートを製造するシングルフェーサに組み込まれ、該片面段ボールシートの製造に使用された後の段ロールを再加工する方法において、山部の段頂部の研磨を最小限に留めて段ロールの最大径を維持しながら、該段頂部を含めた山部の曲面をその曲率が加工前と比べて大きくなるように加工するので、従来と比べて、段ボールシート製造時の中芯消費量アップを抑制して、紙シートのコストアップを低減できる。
【0032】
また、前記本発明方法により再加工された本発明の段ロール、及び本発明の段ロールを備えた第1の本発明のシングルフェーサも前記本発明方法と同様の作用効果を得ることができる。
【0033】
また、第2の本発明のシングルフェーサは、互いに噛合する波形外周面を有し、波形中芯を形成する一対の段ロールと、波形中芯の段頂部に糊を塗布する糊付装置と、糊付け後の波形中芯と裏ライナとを一方の段ロールと共に加圧して接合する加圧装置とを備えたシングルフェーサにおいて、中芯と裏ライナとの接合に使用される中芯の走行方向下流側の段ロールの山部の曲面の曲率より、該段ロールと噛合して波形中芯を形成する中芯の走行方向上流側の段ロールの山部の曲面の曲率が大きくなるように構成し、裏ライナとの接合部に形成される波形中芯の曲面より、表ライナとの接合部に形成される波形中芯の曲面の曲率のほうが大きい両面段ボールシートを製造可能に構成したので、段ボール箱の内側面となる裏ライナ側はクッション性を確保し、被包装物に対する保護効果を維持しながら、表ライナ側は波形中芯との接着部に塗布される糊の塗布量を低減でき、コスト低減と表ライナの平滑性及び印刷適正を確保することができる。
【0034】
また、波形中芯と裏ライナとを加圧する中芯の走行方向下流側の段ロールの山部の曲面の曲率は、噛合して波形中芯を形成する中芯の走行方向上流側の段ロールの山部の円弧状曲面の曲率より小さく形成されているため、波形中芯と裏ライナとの加圧接合時に、紙シートに高い局所面圧が加わらないため、加圧ロール方式のシングルフェーサに適用しても、紙シートが切断されるおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明方法により再加工された段ロールの第1実施形態に係る断面図である。
【図2】本発明方法により再加工された段ロールの第2実施形態に係る断面図であり、(A)は再加工前、(B)は再加工後を示す。
【図3】本発明方法により再加工された段ロールの第3実施形態に係る断面図である。
【図4】第2の本発明のシングルフェーサに組み込まれた段ロールの一実施形態を示す断面図である。
【図5】図4の段ロールを備えたシングルフェーサで製造された段ボール箱の断面図である。
【図6】本発明及び従来方式による両面段ボールシートの中芯消費量増加率を示す表である。
【図7】加圧ロール方式のシングルフェーサの断面図である。
【図8】加圧ベルト方式のシングルフェーサの断面図である。
【図9】従来の再加工方法を施された段ロールで製造された両面段ボールシートの中芯消費量増加率を示す表である。
【図10】従来の再加工方法を施された段ロールによって製造された両面段ボールシートの新品時と再加工後を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この考案の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0037】
(実施形態1)
本発明方法及び装置の第1実施形態を図1により説明する。図1は、シングルフェーサに組み込まれた上段ロール10と下段ロール20との噛合部を示し、該噛合部に中芯dを通した状態を示す。本実施形態は、上段ロール10の山部12及び下段ロール20の山部22の円弧状曲面が同一曲率半径R1aを有し、上段ロール10の谷部14と下段ロール20の谷部24の円弧状曲面が同一の曲率半径R1b(曲率半径R1aとは異なる。R1a<R1b)を有する場合の例である。
【0038】
このシングルフェーサを約1年ほど稼動させると、上下段ロール10、20の紙シートに接する領域が摩耗し、外周面がロール幅方向で均一でなくなるので、再加工する必要がある。図中、実線25が新品時の下段ロール20の外周面であり、破線26が下段ロール20の山部22が摩耗した後の外周面を示す。そして、二点鎖線27が下段ロール20の再加工線である。この再加工線27に沿って下段ロール20を研磨する。一点鎖線28が従来の再加工方法による再加工線である。なお、図1では、上段ロール10の再加工線は省略している。
【0039】
下段ロール20の山部22の再加工前の円弧状曲面の曲率半径R1a及び山部22の再加工後の円弧状曲面の曲率半径R2aと、谷部24の再加工前の円弧状曲面の曲率半径R1b及び谷部24の再加工後の円弧状曲面の曲率半径R2bとは、R2a<R1a、R2b<R1b、(R1a−R2a)≒(R1b−R2b)の関係にある。即ち、再加工線では、下段ロール20の山部22、谷部24の円弧状曲面は、再加工前と比べて、曲率が大きくなるように研磨される。また、山部22の再加工前後の曲率の差と谷部24の再加工前後の曲率の差とが、略同一になるように研磨される。この理由は、再加工後の中芯dの圧縮空間を再加工前と略同一の圧縮空間を保持することで、中芯dの圧縮成形性能を良好に維持するためである。
【0040】
一方、再加工線28で示される従来の再加工方法は、再加工前後で、山部22の円弧状曲面の曲率半径がR1aのままであり、谷部24の円弧状曲面の曲率がR1bのままである。上下段ロール10、20の段山の高さHは、本実施形態及び従来方法とも、再加工前後で同一に維持される。なお、本実施形態において、図示していないが、上段ロール10の再加工線も、下段ロール20と同様の手法で再加工線を設定する。
上下段ロール10、20の最大径を形成する山部12,22の段頂部は、極力研磨しないで、上下段ロール10、20の最大径を小さくしないようにする。即ち、両側の円弧状曲面との間で滑らかな曲線を形成するために必要な最小限の研磨に留める。
【0041】
本実施形態によれば、上下段ロール10、20の山部12,22及び谷部22,24で、上下段ロール10、20の最大径の減少を最小限に留めながら、山谷部の円弧状曲面の曲率を大きくすることにより、上下段ロールの山部と谷部とを結ぶ段ロールの傾斜面長を短縮できる。これによって、中芯dの消費量アップを抑制して、紙シートのコストアップを低減できる。
【0042】
なお、本実施形態において、上下段ロール10、20の山部12、22のみを再加工線に沿って再加工するようにしても、中芯消費量を低減できる。上下段ロール10、20の谷部14,24を再加工せずに、元の曲率半径R1bのままとしても、山部と谷部の曲面形状の相違が許容範囲であれば、中芯dの成形を支障なく行なうことができる。あるいは、上下段ロール10、20のうち、一方の段ロールの山部のみを前記再加工線に沿って加工するようにしてもよい。これによっても、中芯dの消費量アップを抑制できる。
【0043】
但し、図7に示す加圧ロール方式のシングルフェーサに組み込まれた段ロールに、山部の円弧状曲面の曲率を大きくした本発明の再加工方法を施す場合、波形中芯eを形成する上段ロール102にのみ適用した方が好ましい。その理由は、加圧ロール106と共に波形中芯eと裏ライナfとを接着する下段ロール104に適用すると、下段ロール104の山部の曲率が大きくなるので、下段ロール104と加圧ロール106とのニップ部で局所面圧が高くなり過ぎ、該ニップ部で片面段ボールシートhが切断するおそれがあるからである。
【0044】
図8に示す加圧ベルト方式のシングルフェーサでは、上段ロール102と加圧ベルト116とのニップ部で、さほど大きな局所面圧が発生しない。そのため、本発明の再加工方法を上段ロール102及び下段ロール104の両方もしくは一方のどちらのロールに適用しても支障ない。
【0045】
(実施形態2)
次に、本発明方法及び装置の第2実施形態を図2により説明する。本実施形態は、上段ロール又は下段ロールの山部の曲面32が、2つの異なる曲率からなる曲面で構成されている場合の例である。
【0046】
図2に示すように、段ロールの山部の曲面32が2つの異なる曲率半径R及びRからなる曲面で形成されているとき、傾斜面34と交わる曲面32の始点Bと終点Cとを結んだ直線Lと曲面32とで囲まれる領域の面積をAとする。また、再加工後の同一領域の面積をAとする。面積Aが面積Aより小さくなるように、再加工後の曲率半径R、R、及び再加工線36を決め再加工する。このとき、本図2では一例としてR、R<R<Rの関係を示している。ただ,A<Aを満足すれば曲率半径の大小をあえて限定するものではない。なお,曲面32は、2つの異なる曲率半径を持つ曲面以外に、2つ以上の例えば円や楕円形の一部を形成する曲面、その他の形状の曲面であってもよい。
【0047】
段ロールの最大径を形成する段頂部は、両側の曲面との間で滑らかな曲線を形成するために必要な最小限の研磨に留める。かかる再加工線36に沿って再加工することにより、中芯dの消費量アップを抑制でき、紙シートのコストアップを抑制できる。
【0048】
(実施形態3)
次に、本発明方法及び装置の第3実施形態を図3により説明する。本実施形態は、上下段ロール40、50の山部42,52の形状が、所謂ボーンフルート形と呼ばれる形状である場合の例である。図3に示すように、ボーンフルート形は、上下段ロール40、50の山部42,52に対して、該山部と谷部44及び54を結ぶ傾斜面46及び56が中芯dに対して後退した形状となっている。そのため、斜面46及び56の領域で、中芯dに加わる面圧が低減されるため、中芯dの搬送速度を大きくしても、中芯dが切断するおそれが少ないという利点がある。
【0049】
再加工前の山部42,52の円弧状曲面の曲率半径はRである。本実施形態では、上段ロール40の再加工線を二点鎖線48とし、下段ロール50の再加工線を二点鎖線58としている。該再加工線48及び58の曲率半径Rは、再加工前の曲率半径Rより小さい。図3では、上下段ロール40、50が中芯dを介して噛合した状態において、下段ロール50の再加工線58のみを図示している。再加工線58を例に取って説明する。
【0050】
山部52が中芯dと接触する始点D及び終点Eを結んだ直線Lと、山部52の円弧状曲面とで囲まれる再加工前の領域の面積をAとし、再加工後の同一領域の面積をAとする。再加工後の同領域面積Aが再加工前の面積Aより小さくなるように、山部52の円弧状曲面の曲率を決めればよい。再加工後の中芯dの表面は、ライン(破線)d’となる。上段ロール40の再加工線48も同様の手法で決定すればよい。
なお、本実施形態においても、段ロール40,50の最大径を形成する段頂部は、両側の円弧状曲面との間で滑らかな曲線を形成するために必要な最小限の研磨に留める。
【0051】
本実施形態によれば、ボーンフルート形の上下段ロール40、50の山部42,52を再加工線48,58に沿って再研磨することにより、上下段ロール40、50の山部42、52間に介在する中芯dの長さを短縮できる。これによって、中芯dの消費量アップを抑制でき、紙シートのコストアップを低減できる。
なお、本実施形態において、上下段ロール40、50のどちらか一方のみを、再加工線48又は58に沿って再加工するようにしても、中芯dの消費量アップを抑制できる。
【0052】
(実施形態4)
次に、第2の本発明のシングルフェーサの一実施形態を図4及び図5により説明する。図4において、上下段ロール60及び70はシングルフェーサに組み込まれている。上段ロール60の山部62の円弧状曲面の曲率半径Rより、下段ロール70の山部72の円弧状曲面の曲率半径R10は小さく構成されている。
尚、上下段ロールの配置は、シングルフェーサのロール配置により上下が逆となる場合がある。
【0053】
図5に示すように、かかる構成の上下段ロールを備えたシングルフェーサで製造された両面段ボールシートjは、裏ライナfと接着された波形中芯eの接着部の円弧状曲面の曲率半径Rより、表ライナiと接着された波形中芯eの接着部の円弧状曲面の曲率半径R10は小さくなっている。
【0054】
このように、下段ロール70の山部72の円弧状曲面の曲率半径R10が小さく構成されているため、下段ロール70の山部の段頂部と谷部の最深部との間を結ぶ段ロールの傾斜面長を短縮できる。そのため、中芯の消費量アップを抑制できるので、紙シートのコストアップを低減できる。
【0055】
また、裏ライナfと接着された波形中芯eの接着部の円弧状曲面の曲率半径Rは小さく形成されていないので、裏ライナfのクッション性が確保され、被包装物に対する保護効果が維持される。表ライナ側は波形中芯との接着部に塗布される糊の塗布量を低減でき、コスト低減を達成できる。また、糊の塗布量を低減できるため、糊の固化時の収縮を抑制でき、これによって、表ライナの平滑性及び印刷適正を確保することができる。
【0056】
なお、本実施形態では、裏ライナfと波形中芯eとを加圧し接着するために使用される上段ロール60の山部62の曲率半径Rが大きいので、加圧時の局所面圧が小さい。そのため、加圧ロール方式又は加圧ベルト方式のどちらのシングルフェーサにも適用できる。
【実施例】
【0057】
本発明方法及び従来方法による再加工を実施したシングルフェーサ、及び第2の本発明のシングルフェーサにより、片面段ボールシートを製造した場合の試算結果を図6に示している。No.1に示す段ロールを用いて、従来方法(No.2)及び本発明方法(No.3)とも、段ロールの表面を1回当り直径で0.5mm研磨し、この研磨を6回行った場合を示している。No.4は、第2の本発明のシングルフェーサにて試算を行なった結果である。
【0058】
従来方法(No.2)では、再加工前後の山部及び谷部の曲率半径が代わっていない。これに対し、本発明方法(No.3)では、中芯成形側段ロールの山部の曲率半径がΔ0.13mm(1.5mm→1.37mm)だけ低減し、該山部と相対して中芯dを挟む裏ライナ接着側段ロールの谷部の曲率半径もΔ0.13mm(2.0mm→1.87mm)だけ低減している。これによって、中芯dの圧縮成形性能を良好に維持できる。
No.2とNo.1の比較により,従来の方法では、再加工により中芯消費量が0.44%増加していることがわかる。しかしながら、No.3とNo.1の比較により、本発明によれば中芯の消費量には増分がないことがわかる。即ち本発明により中芯の消費量の増大を抑えることが可能となる。
【0059】
第2の本発明のシングルフェーサ(No.4)は、当初から裏ライナ接着側段ロールの山部の曲率半径;1.5mm>中芯成形側段ロールの山部の曲率半径;1.37mmの関係になっている。図6のNo.4とNo.1の比較でも明らかなように、本発明の再加工方法及び第2の本発明のシングルフェーサでは、本発明のほうが、新品の時点においてさえも、既に中芯消費量を0.88%低減可能となっていることがわかる。また再加工時には、従来の再加工方法と比べて、更に中芯消費量の増加率が抑制出来ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、段ボールシートを製造する場合に、中芯の消費量アップを抑制して、紙シートのコストアップを低減できると共に、包装性能が向上した段ボール箱を実現できる。
【符号の説明】
【0061】
10、40、60,102 上段ロール
12,22,32、42,52、62,72 山部
14、24、44,54,64,74 谷部
16、26、34、48,58 再加工線
20、50,70,104 下段ロール
25 新品時下段ロール外周面
26 摩耗線
27,28 再加工線
30 上段ロール又は下段ロール
32 山部曲面
34、46、56 傾斜面
100A、100B シングルフェーサ
106 加圧ロール
108 糊付装置
116 エンドレス加圧ベルト
1a、R1b〜R10 曲率半径
B、D 始点
C、E 終点
H 段山高さ
d 中芯
e 波形中芯
f 裏ライナ
g 糊
h 片面段ボールシート
i 表ライナ
j 両面段ボールシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波形外周面を有し、波形中芯と裏ライナとからなる片面段ボールシートを製造するシングルフェーサに組み込まれ、該片面段ボールシートの製造に使用された後の段ロールを再加工する方法において、
山部の段頂部の研磨を最小限に留めて段ロールの最大径を維持しながら、該段頂部を含めた山部の円弧状曲面をその曲率が加工前と比べて大きくなるように加工することを特徴とする段ロールの再加工方法。
【請求項2】
山部が複数の異なる曲率からなる曲面を有した段ロールであって、該曲面が傾斜面と交わる交点を結ぶ直線と該曲面とで囲まれる断面の断面積が加工前と比べて小さくなるように加工することを特徴とする請求項1に記載の段ロールの再加工方法。
【請求項3】
山部の形状がボーンフルート形をなす段ロールであって、山部が中芯と接触する始点と終点とを結ぶ直線と山部の曲面とで囲まれる断面の断面積が加工前と比べて小さくなるように加工することを特徴とする請求項1に記載の段ロールの再加工方法。
【請求項4】
再加工における山部の曲面の曲率増加分に合わせ、噛合する相手側段ロールの谷部の最深部の研磨を最小限に留めて該最深部を含めた曲面をその曲率が大きくなるように加工し、中芯の走行方向下流側の段ロールの山部の曲面の曲率と、該段ロールと噛合して波形中芯を形成する中芯の走行方向上流側の段ロールの谷部の曲面の曲率との差と、中芯の走行方向上流側の段ロールの山部の曲面の曲率と、中芯の走行方向下流側の段ロールの谷部の曲面の曲率との差とを実質的に同一になるように加工することを特徴とする請求項1に記載の段ロールの再加工方法。
【請求項5】
波形の外周面を有し、波形中芯と裏ライナとからなる片面段ボールシートを製造するシングルフェーサに組み込まれて中芯の波形を形成する段ロールにおいて、
山部が請求項1〜3のいずれかの項に記載の再加工を施されてなることを特徴とする段ロール。
【請求項6】
谷部が請求項4に記載の再加工を施されてなることを特徴とする請求項5に記載の段ロール。
【請求項7】
互いに噛合する波形外周面を有し、波形中芯を形成する一対の段ロールと、波形中芯の段頂部に糊を塗布する糊付装置と、糊付け後の波形中芯と裏ライナとを一方の段ロールと共に加圧して接合する加圧装置とを備えたシングルフェーサにおいて、
請求項5又は6に記載の段ロールを少なくとも1個備えていることを特徴とするシングルフェーサ。
【請求項8】
前記加圧装置が中芯の走行方向下流側の段ロールと共に波形中芯と裏ライナとを加圧してこれらを接合する加圧ロールであり、請求項5に記載の段ロールが中芯の走行方向下流側の段ロールと共に波形中芯を形成する中芯の走行方向上流側の段ロールのみに使用されることを特徴とする請求項7に記載のシングルフェーサ。
【請求項9】
前記加圧装置が中芯の走行方向下流側の段ロールと共に中芯と裏ライナとを加圧して中芯と裏ライナとを接合する加圧ベルトであり、請求項5又は6に記載の段ロールが中芯の走行方向下流側の段ロール又は該段ロールと共に波形中芯を形成する中芯の走行方向上流側の段ロールの少なくとも一方に使用されることを特徴とする請求項7に記載のシングルフェーサ。
【請求項10】
互いに噛合する波形外周面を有し、波形中芯を形成する一対の段ロールと、波形中芯の段頂部に糊を塗布する糊付装置と、糊付け後の波形中芯と裏ライナとを一方の段ロールと共に加圧して接合する加圧装置とを備えたシングルフェーサにおいて、
中芯と裏ライナとの接合に使用される中芯の走行方向下流側の段ロールの山部の曲面の曲率より、該段ロールと噛合して波形中芯を形成する中芯の走行方向上流側の段ロールの山部の曲面の曲率が大きくなるように構成し、
裏ライナとの接合部に形成される波形中芯の曲面より、表ライナとの接合部に形成される波形中芯の曲面の曲率のほうが大きい両面段ボールシートを製造可能に構成したことを特徴とするシングルフェーサ。
【請求項11】
中芯の走行方向下流側の段ロールの山部の曲面の曲率と、該段ロールと噛合して波形中芯を形成する中芯の走行方向上流側の段ロールの谷部の曲面の曲率との差を、中芯の走行方向上流側の段ロールの山部の曲面の曲率と中芯の走行方向下流側の段ロールの谷部の曲面の曲率との差とを実質的に同一としたことを特徴とする請求項10に記載のシングルフェーサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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