説明

殺菌・静菌剤

【課題】本発明は、食品に添加することによって、風味に影響を与えずに特に耐熱性菌に対する殺菌・静菌効果を示す食品用殺菌・静菌剤を提供することを目的とする。
【解決手段】カラメルとリゾチームの配合割合を1:50〜50:1にて含有させ、さらに、アミノ酸、核酸、有機酸類およびその塩類、無機塩類、リン酸およびその塩、糖類、脂肪酸エステル、ポリリジン、キトサン、アルコールおよびバクテリオシンから選ばれる1種以上を含有させることで、殺菌・静菌効果の高い食品用殺菌・静菌剤を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は殺菌・静菌剤に関する。さらに詳しくは、食品に添加することによって、風味に影響を与えずに特に耐熱性菌に対する殺菌・静菌効果を示す食品用殺菌・静菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活のスタイルが多様化しており、出来合いの弁当類や惣菜類を家庭に持ち帰って食べる、いわゆる「中食」が広まり、その結果、食品の保存性を高める工夫が重要となっている。食品において微生物を増殖させない方法として、完全殺菌する、冷凍あるいは低温保存する等様々な手段があるが、実用的には、微生物の増殖を抑制するための食品素材や添加剤を用いる方法がとられている。
【0003】
一方、カラメルの抗菌性については、カラメルが抗微生物性を示すためには、ある一定の固形分濃度が必要であり、砂糖およびブドウ糖の加熱物質の抗菌性についてはBacillus.cereusの場合、安息香酸のほぼ1/10であることが知られている(非特許文献1)。
【0004】
また、糖質とアミノ酸をモル濃度比率10:5ないし10:10として、pHを10.0ないし12.0、ただし反応後もpHが9.0以下に下がらぬよう炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウムなどの2種以上を混合したアルカリ性緩衝剤または緩衝液を加えて調整した溶液を、加熱温度110〜130℃、加熱時間45〜90分間反応させて、液状カラメルあるいは、これをさらに濃縮、乾燥して粉末カラメルとすることを特徴とする抗菌性を持つカラメルが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、通常のカラメルのみが有する殺菌・静菌性は弱く、効果を期待して使用量を多くすると、着色の問題が生じ、風味にも影響が生じるという問題があった。
【0006】
また、従来よりリゾチームは抗菌剤として使用されているが、リゾチームの抗菌スペクトルは耐熱性菌の一部に限られており、例えば、枯草菌には抗菌作用を示すがセレウス菌には全く抗菌作用を示さない、さらに、リゾチームには食品等の加熱殺菌時における殺菌効果がほとんどないため、加熱後においても食品中に耐熱性菌が多数残存し腐敗をもたらすという問題があった。
【特許文献1】香料,No.186,p107-114(1995.6)
【特許文献2】特開昭48−019773
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明は、食品に添加することによって、風味に影響を与えずに特に耐熱性菌に対する殺菌・静菌効果を示す食品用殺菌・静菌剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、殺菌・静菌剤にカラメルおよびリゾチームを含有させることによって、風味に影響を与えずに特に耐熱性菌に対する殺菌・静菌効果を示すことを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記に掲げるものである。
項1.カラメルおよびリゾチームを含有することを特徴とする殺菌・静菌剤。
項2.カラメルとリゾチームの配合割合が1:50〜50:1(質量比)であることを特徴とする項1記載の殺菌・静菌剤。
項3.さらに、アミノ酸、核酸、有機酸類およびその塩類、無機塩類、リン酸およびその塩類、糖類、脂肪酸エステル、ポリリジン、キトサン、アルコールおよびバクテリオシンから選ばれる1種以上を含有させた項1または項2記載の殺菌・静菌剤。
項4.食品にカラメルとリゾチームを含有させることを特徴とする食品の殺菌・静菌方法。
項5.食品にカラメル0.002〜0.3質量%とリゾチーム0.001〜0.3質量%を含有させることを特徴とする食品の殺菌・静菌方法。
項6.さらに、アミノ酸、核酸、有機酸類およびその塩類、無機塩類、リン酸およびその塩類、糖類、脂肪酸エステル、ポリリジン、キトサン、アルコールおよびバクテリオシンから選ばれる1種以上を含有させることを特徴とする項4または項5記載の食品の殺菌・静菌方法。
項7.カラメル0.002〜0.3質量%とリゾチーム0.001〜0.3質量%を含有した保存性が向上した食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、風味に影響を与えずに特に耐熱性菌に対する殺菌・静菌効果を示し、カラメル、リゾチーム単体では効果のないセレウス菌にも殺菌・静菌効果を示すので、加熱工程を有する惣菜等の食品の殺菌・静菌に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1)殺菌・静菌剤
本発明でいう殺菌・静菌剤とは、食品等の殺菌、保存、抗菌、静菌、日持ち向上に関する製剤のことである。本発明は、カラメルおよびリゾチームを含有することを特徴とする殺菌・静菌剤に関するものである。
【0012】
本発明の方法が特に対象とする耐熱性菌は、80℃20分での加熱処理によっても死滅しない菌である。かかる耐熱性菌は、例えば加工食品などの各種製品の製造において一般的な加熱処理(80℃、20分)では死滅せずに残存し、保存中に増殖して、製品にpH低下、異臭発生、または外観変化などの腐敗をもたらす細菌である。かかる耐熱性菌には、バシラス属に属する細菌(B.stearothermophilus、B.subtilis、B.cereus、B.coagulansなど)、クロストリジウム属に属する細菌(Cl.thermoaceticum、Cl.thermosulfricum、Cl.sporogenesなど)、およびDesulfotomaculum nigrificans、Alicyclobacillus acidocaldariusなどが含まれる。
【0013】
本発明に用いるカラメルは、砂糖、ブドウ糖等の食用炭水化物を熱処理して得られたものであり、食品や飲料を褐色に着色するために広く用いられている食品添加物である。また、薬品や化粧品等にも用いられている。食品添加物としてのカラメルは一般的にはカラメルI、カラメルII、カラメルIII、カラメルIVを挙げることができるが、本発明に用いるカラメルは糖類を加熱処理したものを使用することが出来る。また、例えばカラメルIとカラメルIVやカラメルIとカラメルIVのように、異なる種類のカラメルを合わせて使用することも出来る。
【0014】
本発明に用いるリゾチームは、分子量14,400、129個のアミノ酸からなる塩基性タンパク質で、N−アセチルムラミン酸とN−アセチルグルコサミン間のβ−1,4−ムラミド結合を、加水分解する酵素物質をいうが、本発明にいうリゾチームとは、食品への使用が許可されているものであればよく、通常のリゾチームのほかにも、化学的、物理的に改良されたリゾチームも本発明のリゾチームとして用いることができる。具体的に本発明のリゾチームとして利用されるものとして、卵白由来、魚類の体表粘液由来、微生物由来、バクテリオファージ由来等の各種由来精製リゾチームや遺伝子操作技術を利用して調製されたリゾチーム、及び、これらのリゾチームを酸やアルカリ、加熱、加圧等により化学的・物理的に処理した改良リゾチーム等も挙げられる。本発明のリゾチームは市場で入手可能であり、卵白リゾチーム(キューピー、エーザイ、太陽化学株式会社製など)、うずら卵リゾチーム等を使用することができる。
【0015】
本発明の殺菌・静菌剤は、カラメルおよびリゾチームを含有することを特徴とするが、このカラメルとリゾチームの割合は1:50〜50:1好ましくは1:10〜10:1、さらに好ましくは1:4〜4:1である。
【0016】
本発明の殺菌・静菌剤には、本発明の目的を阻害しない限り例えば、アミノ酸、核酸、有機酸類およびその塩類、無機塩類、リン酸およびその塩、糖類、脂肪酸エステル、ポリリジン、キトサン、アルコールおよびバクテリオシンなどの抗菌性物質を1種以上用いることができ、好適には、グリシン、L−アスパラギン酸ナトリウム、5’−イノシン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、塩化カリウム、グルコース、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、エタノール、ナイシンを挙げることができる。抗菌性物質の添加量は特に制限はないが、0.001〜3質量%、好ましくは0.01〜1質量%である。抗菌性物質を含むことによって殺菌効果だけでなく保存性も向上することができる。
【0017】
本発明の殺菌・静菌剤は、粉末、顆粒および液体のいずれであってもよく、これらの製剤は常法に従い製造される。
【0018】
2)食品の殺菌・静菌方法
本発明は、カラメルとリゾチームを含有させることを特徴とする食品の殺菌・静菌方法であり、カラメルの食品への使用量は、0.002〜0.3質量%、好ましくは0.005〜0.2質量%、さらに好ましくは0.01〜0.1%が食品に含有されていればよい。0.002%以下ではリゾチームと一緒に使用しても、殺菌・静菌効果が十分ではなく、0.3質量%以上では、殺菌・静菌効果が使用量によって上がるよりも着色の問題が大きくなるが、着色の問題がないものについては、この限りではない。また、はじめからカラメルを含む食品に添加することも可能であるが、その場合には、その食品に含有する量も考慮してカラメルを添加することとなる。
【0019】
リゾチームの使用量は、0.001〜0.3質量%、好ましくは0.005〜0.2質量%、さらに好ましくは0.01〜0.1質量%である。0.001%以下ではカラメルと一緒に使用しても、殺菌・静菌効果が十分ではなく、0.3質量%以上では、食品製造コストの問題が生じる。
【0020】
本発明の殺菌・静菌剤および方法を用いる食品は、特に制限はないが、例えば無糖コーヒー、ミルクコーヒー、カフェオレ、コーヒー牛乳等のコーヒー飲料、ミルクティー、紅茶、ストレートティー、レモンティー等の紅茶飲料、緑茶、ウーロン茶、ブレンド茶等の茶系飲料、牛乳、ミルクセーキ等の乳飲料、ココア、ホットチョコレート等のカカオ飲料、しるこ、甘酒、飴湯、しょうが湯の飲料等のpHが5以上の中性飲料、果汁飲料、炭酸飲料、酸性乳飲料等のpHが5未満の酸性飲料、ドーナツ、スポンジケーキ、マドレーヌ、蒸しパン、あんパン、クリームパン、ホットケーキ、シュークリーム等の菓子類、アイスクリーム、プリン、ババロア、ヨーグルト、フルーツゼリー、コーヒーゼリー、杏仁豆腐等のデザート類、卵サラダ、マカロニサラダ、ポテトサラダ等のサラダ類、ソーセージ、ハム、焼き豚、豚カツ、トリ唐揚げ、ミートボール、しゅうまい、ぎょうざ等の畜肉加工品、調味みそ、ごまだれ、ドレッシング等の調味料類、蒲鉾、竹輪、はんぺん等の水産練り製品、柴漬け、梅干、たくあん、浅漬け、キムチ等の漬け物類、カスタードクリーム、小豆あん、フラワーペースト等の餡類、大判焼き、あんまん、にくまん、パン、ドーナツ、カステラ等の製菓類、イチゴジャム、マーマレード等のジャム類、塩辛、みりん干し、一夜干し等の水産加工品、卵焼き、オムレツ、スクランブルエッグ等の卵製品、うどん、そば、焼きそば等の麺類、卵サンド、ハムサンド等のサンドイッチ類、赤飯むすび、鮭おむすび、梅入りおむすび等のおむすび類、イカ佃煮、のり佃煮等の佃煮類、おでん、昆布煮、野菜の煮物等の煮物類、エビフライ、カキフライ、コロッケ等のフライ揚げ物食品類、豆腐、厚揚げ、薄揚げ等の豆腐加工食品類等が挙げられる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。特に記載のない限り「部」とは、「質量部」を意味するものとする。
【0022】
なお、特に記載が無い場合には、実験例、実施例で用いたカラメルI、カラメルII、カラメルIIIおよびカラメルIVは池田糖化社製、リゾチームはキューピー社製の卵白リゾチーム、グリシンは有機合成社製である。
【0023】
実験例1:殺菌試験1
Bacillus cereus IFO 15305 1.3×104 CFU/mLの懸濁液に表1に記載の殺菌剤を添加し、90℃20分加熱殺菌処理後の菌数を測定し、殺菌効果を評価した。
【0024】
具体的には、滅菌水に、Bacillus cereus IFO 15305を 1.3×104 CFU/mLとなるよう添加し十分に混合し、これを試験管に50mLずつ分注して、表1に記載の殺菌剤を添加し、90℃恒温槽にて20分間加熱した。加熱後、各検体のBacillus cereus菌数を測定した。なお、菌数の測定は、加熱後の各検体を標準寒天培地(日水製薬製、pH7.0)に植菌して、35℃で48時間培養して菌数をカウントすることで行った。
【0025】
【表1】

【0026】
また、殺菌率は、100−(加熱後菌数÷接種菌数×100)で算出した。(以下同様)
【0027】
上記より、カラメル単体、および日持向上剤として一般的に使用されるグリシンでは殺菌効果が全く認められず、リゾチーム単体でも殺菌効果はわずかに認められる程度であるが、リゾチームとカラメルを併用して使用することによって殺菌効率の著しい向上が認められた。
【0028】
実験例2:殺菌試験2
表2に記載の殺菌物質を用いて、実験例1と同様の試験を行なった。
【0029】
【表2】

【0030】
以上より、リゾチームと併用して使用することによって、カラメルの種類に関係なく殺菌効果が向上することが判った。特に、カラメルI、カラメルIIIを併用した時に殺菌効果が高かった。また、異なる種類のカラメルを併用しても殺菌効果が向上することが判った。
【0031】
実験例3:殺菌試験3
リゾチームとカラメルIを表3の配合割合、添加量を用いて、実験例1と同様の試験を行なった。
【0032】
【表3】

【0033】
上記より、カラメルとリゾチームの割合1:50〜50:1で併用した場合、殺菌効果を有することが判った。特に、カラメルとリゾチームの割合1:4〜4:1で併用した時に殺菌効果が高かった。
【0034】
実験例4
表4に記載の殺菌剤を用いて、実験例1と同様な試験を行なった。
【0035】
【表4】

【0036】
上記より、カラメルの使用量が、0.002〜0.3質量%、リゾチームの使用量が、0.001〜0.3質量%の場合、殺菌効果を有することが判った。また、カラメルとリゾチームの添加量が多いほど、殺菌効果が高くなることが判った。
【0037】
実験例5
表5に記載の殺菌剤を用いて、実験例1と同様な試験を行なった。
【0038】
【表5】

【0039】
上記より、クエン酸三ナトリウム、塩化カリウム、グリシン単体では殺菌効果はない、もしくは低いが、リゾチームとカラメルに併用して使用することによって、リゾチームとカラメル併用の場合よりも、殺菌効率の向上が認められた。
【0040】
実施例1:野菜炒め
適当な大きさにカットしたキャベツ160部、タマネギ60部、ニンジン30部を1分間炒め、表6に記載の殺菌剤を添加し、さらに2分間炒め、無菌容器に移したものを25℃にて保存し、経日的に菌数を測定した。
【0041】
【表6】

【0042】
上記より、リゾチーム単体では日持向上効果はなく、リゾチームとグリシンを併用した場合でもその効果は低いが、リゾチームとカラメル、さらにグリシンを併用して使用することによって、高い日持向上効果が得られた。
【0043】
実施例2:煮物
適当な大きさにカットした大根20部、ごぼう15部、しいたけ15部、こんにゃく15部、人参10部を調味液(薄口しょう油15部、上白糖10部、みりん5部、水60部)に浸したものに、Bacillus cereus IFO 15305を 1.1×104 CFU/gとなるよう添加し十分に混合し、表7に記載の殺菌剤を添加し、98℃恒温槽にて15分間加熱した。加熱後、各検体のBacillus cereus菌数を測定した。なお、菌数の測定は、加熱後の各検体を標準寒天培地(日水製薬製、pH7.0)に植菌して、35℃で48時間培養して菌数をカウントすることで行った。
【0044】
【表7】

【0045】
上記より、リゾチームとカラメルIを併用して使用することによって、高い殺菌効果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラメルおよびリゾチームを含有することを特徴とする殺菌・静菌剤。
【請求項2】
カラメルとリゾチームの配合割合が1:50〜50:1(質量比)であることを特徴とする請求項1記載の殺菌・静菌剤。
【請求項3】
さらに、アミノ酸、核酸、有機酸類およびその塩類、無機塩類、リン酸およびその塩類、糖類、脂肪酸エステル、ポリリジン、キトサン、アルコールおよびバクテリオシンから選ばれる1種以上を含有させた請求項1または請求項2記載の殺菌・静菌剤。
【請求項4】
食品にカラメルとリゾチームを含有させることを特徴とする食品の殺菌・静菌方法。
【請求項5】
食品にカラメル0.002〜0.3質量%とリゾチーム0.001〜0.3質量%を含有させることを特徴とする食品の殺菌・静菌方法。
【請求項6】
さらに、アミノ酸、核酸、有機酸類およびその塩類、無機塩類、リン酸およびその塩類、糖類、脂肪酸エステル、ポリリジン、キトサン、アルコールおよびバクテリオシンから選ばれる1種以上を含有させることを特徴とする請求項4または請求項5記載の食品の殺菌・静菌方法。
【請求項7】
カラメル0.002〜0.3質量%とリゾチーム0.001〜0.3質量%を含有した保存性が向上した食品。