説明

殺菌剤

【課題】界面活性剤を用いた効果的な殺菌剤を提供する。
【解決手段】多価陽イオンが除去されかつナトリウムイオンが付与された水と、例えば脂肪酸塩のような界面活性剤とを含む殺菌剤。
【効果】この殺菌剤残留性がなく、適用された処理物は、菌類が殺菌されるとともに菌類の繁殖が抑制され、衛生状態が維持されやすい。このため、この殺菌剤は、例えば、浴室用、洗濯槽用、台所用、トイレ用、洗面台用、排水パイプ用および日用雑貨品用として用いられた場合に特に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌剤、特に、界面活性剤を用いた殺菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
界面活性剤を含む洗浄剤は、界面活性剤による洗浄作用とともに、殺菌性を示すことが知られている。例えば、特許文献1は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤および安息香酸ナトリウムを水性媒体中に溶解した液体洗濯用洗剤を開示しており、この液体洗濯用洗剤は、洗浄力および貯蔵安定性において優れているとともに、殺菌活性を有するものとされている。
【0003】
【特許文献1】特開平1−197598号公報
【0004】
しかし、界面活性剤を含む洗浄剤を用いて洗浄した場合、界面活性剤の一部が洗浄物に残留することが多い。そして、残留した界面活性剤は、細菌やカビ等の菌類の栄養源となり、却って菌類の繁殖を促進する可能性がある。
【0005】
本発明の目的は、界面活性剤を用いた効果的な殺菌を実現することにある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の殺菌剤は、多価陽イオンが除去されかつナトリウムイオンが付与された水と、界面活性剤とを含んでいる。
【0007】
この殺菌剤を処理物に対して適用すると、処理物に付着している菌類は、界面活性剤の作用により殺菌される。そして、この殺菌剤に含まれる界面活性剤は、多価陽イオンが除去されかつナトリウムイオンが付与された水の作用のために処理物上に残留しにくく、菌類の栄養源になりにくい。したがって、この殺菌剤が適用された処理物は、菌類が殺菌されるとともに菌類の繁殖が抑制され、衛生状態が維持されやすい。
【0008】
このため、この殺菌剤は、例えば、浴室用、洗濯槽用、台所用、トイレ用、洗面台用、排水パイプ用および日用雑貨品用の殺菌剤として用いられた場合に特に有効である。
【0009】
本発明の殺菌剤において用いられる界面活性剤は、通常、脂肪酸塩である。特に、不飽和脂肪酸塩が好ましい。不飽和脂肪酸塩としては、例えば、リノール酸、リノレン酸、ミリストレイン酸およびパルミトレイン酸からなる群から選ばれた少なくとも一つが用いられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の殺菌剤は、多価陽イオンが除去されかつナトリウムイオンが付与された水と界面活性剤とを含むため、界面活性剤が菌類の栄養源になるのを防止することができ、処理物を効果的に殺菌処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の殺菌剤は、多価陽イオンが除去されかつナトリウムイオンが付与された水(以下、「機能水」と云う場合がある)と界面活性剤とを含んでいる。
【0012】
本発明において用いられる機能水は、水道水、地下水、河川水、湖沼水および井戸水などの水(原水)を陽イオン交換樹脂により処理し、原水に含まれるカルシウムイオン(二価の陽イオン)、マグネシウムイオン(二価の陽イオン)、銅イオン(二価の陽イオン)、鉄イオン(二価および三価の陽イオン)およびアルミニウムイオン(三価の陽イオン)等をイオン交換樹脂側のナトリウムイオン(一価の陽イオン)と交換して得られるものである。
【0013】
原水を処理するために用いられる陽イオン交換樹脂は、架橋した三次元の高分子の母体、例えばスチレンとジビニルベンゼンとの共重合体に対し、スルホン酸基を導入した合成樹脂であり、スルホン酸基部分がナトリウム塩を形成しているものである。
【0014】
機能水において、多価陽イオンの濃度は、通常、0.2ミリモル/リットル未満に設定されているのが好ましく、実質的なゼロレベルを意味する測定限界未満に設定されているのが特に好ましい。ここで、多価陽イオンの濃度は、ICP発光分光分析法に基づいて測定した場合の濃度を意味する。
【0015】
一方、機能水において、ナトリウムイオンの濃度は、通常、0.3ミリモル/リットル以上500ミリモル/リットル未満に設定されているのが好ましく、0.5ミリモル/リットル以上200ミリモル/未満に設定されているのがより好ましい。ここで、ナトリウムイオンの濃度は、ICP発光分光分析法に基づいて測定した場合の濃度を意味する。
【0016】
本発明において用いられる界面活性剤は、特に限定されるものではなく、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤などである。
【0017】
陰イオン界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩(石けん)、アルキルベンゼンスルホン酸塩、硫酸アルキル塩、α―オレフィンスルホン酸塩およびN−アシルグルタミン酸塩などを挙げることができる。これらの陰イオン系界面活性剤は、二種以上のものが併用されてもよい。
【0018】
陽イオン界面活性剤としては、例えば、N−アルキルトリメチルアンモニウムクロライドおよびN−アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライドなどを挙げることができる。これらの陽イオン系界面活性剤は、二種以上のものが併用されてもよい。
【0019】
両性界面活性剤としては、例えば、N−アルキル−β―アラニンおよびN−アルキルカルボキシベタインなどを挙げることができる。これらの両性界面活性剤は、二種以上のものが併用されてもよい。
【0020】
非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、脂肪酸ジエタノールアミドおよび脂肪酸ショ糖エステルなどを挙げることができる。これらの非イオン系界面活性剤は、二種以上のものが併用されてもよい。
【0021】
本発明において、上述の各種の界面活性剤は、他の種類の界面活性剤と併用することもできる。
【0022】
本発明において用いられる界面活性剤として好ましいものは、脂肪酸塩、特に、炭素数が5〜22の飽和脂肪酸若しくは不飽和脂肪酸のアルカリ金属塩である。飽和脂肪酸のアルカリ金属塩と不飽和脂肪酸のアルカリ金属塩とは併用することもできる。
【0023】
飽和脂肪酸塩は、炭素数が12〜16のものが特に好ましく、具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸およびパルミチン酸のナトリウム塩およびカリウム塩を挙げることができる。一方、不飽和脂肪酸塩は、炭素数が14〜18のものが好ましく、炭素間の不飽和結合数の多いものが特に好ましい。このような不飽和脂肪酸の具体例としては、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸のナトリウム塩およびカリウム塩を挙げることができる。
【0024】
脂肪酸塩としては、殺菌剤の殺菌力をより高めることができることから、不飽和脂肪酸塩、特に、リノール酸、リノレン酸、ミリストレイン酸およびパルミトレイン酸の塩、殊にナトリウム塩を用いるのが特に好ましい。
【0025】
本発明の殺菌剤において、界面活性剤の使用量は、通常、機能水の1リットル当りの割合が10mg〜400gに設定されているのが好ましく、100mg〜200gに設定されているのがより好ましい。界面活性剤の量が10mg未満の場合は、本発明の殺菌剤が効果的な殺菌作用を示さない可能性がある。逆に、400gを超えると、処理物に界面活性剤が残留しやすくなり、残留した界面活性剤を栄養源として処理物において却って菌類が繁殖しやすくなる可能性がある。
【0026】
本発明の殺菌剤は、上述の機能水および界面活性剤の他に、本発明の目的を損なわない程度において他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、グレープフルーツオイル、スペアミントオイル、ナツメッグオイルおよびマンダリンオイル等の香料や、トコフェロール、アスコルビン酸ステアリン酸エステル、エリソルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸、クエン酸およびジブチルヒドロキシトルエンなどの酸化防止剤を挙げることができる。香料や酸化防止剤は、二種以上のものが併用されてもよい。
【0027】
本発明の殺菌剤は、原水を上述の陽イオン交換樹脂により処理し、それにより得られる機能水に対して界面活性剤および必要に応じて上述の他の成分を適宜添加することで容易に調製することができる。したがって、この殺菌剤は、量産が容易であり、安価に製造することができる。
【0028】
本発明の殺菌剤を適用可能な処理物は、殺菌処理が要望されるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、浴室(特に、浴槽、床、壁および排水口等)、洗濯機の洗濯槽、台所(特に、流し台、床および壁等)、トイレ(特に、便器、床および壁等)、洗面台、排水パイプ、日用雑貨品(例えば、食器、雨具、履物、衣類およびリネン類等)および野菜や果物等の食品などである。
【0029】
本発明の殺菌剤を用いて上述の処理物を洗浄する場合は、通常、これらの処理物に対して当該殺菌剤を塗りつける。また、処理物に対して殺菌剤を掛け流しながら、布帛、スポンジまたはブラシなどの洗浄具を用いて処理物の所要箇所を擦ったり拭ったりすることもできる。このようにして殺菌剤を適用した洗浄物は、そのまま乾燥させてもよいが、機能水のみを用いて水洗いした後に乾燥させるのが好ましい。
【0030】
また、本発明の殺菌剤を食品に対して適用する場合は、殺菌剤中に食品を浸漬し、その後に食品の水洗い、好ましくは機能水による水洗いをするのが好ましい。
【0031】
さらに、履物、衣類およびリネン類のような吸水性の日用雑貨品に対して本発明の殺菌剤を適用する場合は、本発明の殺菌剤にこれらの日用雑貨品を漬けて揉み洗いし、その後、当該日用雑貨品の水洗い、好ましくは機能水による水洗いをするのが好ましい。日用雑貨品に対するこのような処理は、手作業で実施されてもよいし、種類によっては洗濯機を用いて実施されてもよい。
【0032】
本発明の殺菌剤は、上述のような機能水と界面活性剤とを含むものであるため、界面活性剤の作用により処理物に付着しているカビ類や細菌等の各種の菌類を殺菌することができる。また、処理物に対して適用された殺菌剤の界面活性剤は、機能水の作用のために処理物に残留しにくいため、栄養源となって処理物において菌類の繁殖を促進する可能性が小さい。しかも、界面活性剤は、処理物に付着している、菌類の栄養源となる汚れを併せて洗い落すこともできる。したがって、本発明の殺菌剤が適用された処理物は、菌類が殺菌されるとともに菌類の繁殖が抑制され、衛生状態が維持されやすい。
【0033】
上述の実施の形態では、機能水として多価陽イオンが除去されかつナトリウムイオンが付与された水を用いているが、機能水は、多価陽イオンが除去されかつナトリウムイオン以外のアルカリ金属イオン、例えばカリウムイオンが付与されたものであってもよい。このような機能水は、上述の陽イオン交換樹脂として、スルホン酸基部分がカリウムなどのアルカリ金属塩を形成しているものを用い、この陽イオン交換樹脂を用いて原水を処理することで得ることができる。
【実施例】
【0034】
実施例1〜4
マグネチックスターラー上に配置された、排水経路を有する内容積が460ミリリットルのガラス製円筒水槽(内径70mm×高さ120mm)内に、表1に示す材料からなる板状の試験片(1.0×26×76mm)を起立した状態で配置し、また、撹拌子を投入した。そして、二ヶ月間に渡り、25℃の温度下において試験片に対し、午前10時、午後1時および午後4時の一日三回、洗浄操作を実施した。
【0035】
各洗浄操作では、洗浄工程と濯ぎ工程とをこの順に実施した。洗浄工程では、先ず、試験片の半分が浸るよう水槽内へ水150ミリリットルを供給した。そして、この水1リットル当りに対して石鹸(三浦工業株式会社製の商品名“軟太郎せっけん”)1.13gを添加して殺菌剤を調製し、また、この殺菌剤1リットルに対して人工皮脂汚れ組成物0.109gを添加した。次に、マグネチックスターラーを作動させ、水槽内の水を5分間撹拌した。ここで用いた水は、愛媛県松山市の水道水を陽イオン交換樹脂を用いて処理して得られた機能水であり、多価陽イオンの濃度が0.2ミリモル/リットル未満であり、かつ、ナトリウムイオンの濃度が0.3ミリモル/リットル以上500ミリモル/リットル未満の条件を満たしたものである。また、ここで用いた人工皮脂汚れ組成物は、0.109g当りにオレイン酸0.056g、トリオレイン0.031g、コレステロール0.003g、スクアレン0.005gおよびゼラチン0.014gを含むものである。
【0036】
一方、濯ぎ工程では、水槽内の水の全量を排水し、水槽内に上述の機能水のみを150ミリリットル供給して5分間撹拌した。この濯ぎ工程は、2回繰り返して実施した。
【0037】
上述の洗浄操作を実施していない時間帯においては、水槽内に上述の殺菌剤のみを貯留し、試験片が当該殺菌剤中に浸漬された状態を維持した。また、上述の二ヶ月の間、一週間に一回、クロカビ(Cladosporium sphaerospermum NBRC4460)およびアオカビ(Penicillum digitatum NBRC7876)をそれぞれ略10個/ミリリットルになるよう殺菌剤へ添加した。
【0038】
二ヶ月後、水槽から試験片を取り出し、この試験片を100ミリリットルの滅菌リン酸緩衝液中に浸漬した。そして、試験片の付着物を滅菌したヘラで滅菌リン酸緩衝液中へ掻き落とし、また、この滅菌リン酸緩衝液中で試験片を30分間超音波洗浄した。
【0039】
比較例1〜4
殺菌剤を調製するための水として機能水に替えて愛媛県松山市の水道水をそのまま用いた点を除き、実施例1〜4と同様に操作した。
【0040】
実施例5〜8
水1リットル当りに対して石鹸1.13gを添加するのに替えて合成洗剤(花王株式会社製の商品名“アタック”)0.67gを添加した点を除き、実施例1〜4と同様に操作した。
【0041】
比較例5〜8
殺菌剤を調製するための水として機能水に替えて愛媛県松山市の水道水をそのまま用いた点を除き、実施例5〜8と同様に操作した。
【0042】
評価1
実施例1〜8および比較例1〜8において、二ヶ月間処理された試験片に付着していたカビ胞子数および一般細菌数を測定し、また、同試験片に付着していた有機物量を測定した。さらに、各実施例および比較例において用いた水槽におけるカビの発生状況を判定した。測定方法および判定方法は次の通りである。結果を表1に示す。
【0043】
(カビ胞子数)
超音波洗浄後の滅菌リン酸緩衝液を滅菌リン酸緩衝液で希釈し、その100マイクロリットルをクロラムフェニコールを含むPDA(ポテトデキストロースアガー)平板培地を用いた平板塗抹法により25℃で5日間培養し、生育する真菌の集落数を目視で計数した。超音波洗浄後の滅菌リン酸緩衝液の希釈率は、実施例1〜8については1倍に、比較例1〜8については10倍に設定した。そして、この結果に基づいて、試験片に付着していたカビ胞子数を下記の式(1)により算出した。
【0044】
【数1】

【0045】
(一般細菌数)
超音波洗浄後の滅菌リン酸緩衝液を滅菌リン酸緩衝液で希釈し、その1ミリリットルを標準寒天培地を用いた平板混釈法により35℃で3日間培養し、生育する細菌の集落数を目視で計数した。超音波洗浄後の滅菌リン酸緩衝液の希釈率は、実施例1〜8については1,000倍に、比較例1〜8については10,000倍に設定した。そして、この結果に基づいて、試験片に付着していた一般細菌数を下記の式(2)により算出した。
【0046】
【数2】

【0047】
(有機物量)
上水試験方法2001年版(社団法人日本水道協会)に規定された過マンガン酸カリウムによる滴定法により超音波洗浄後の滅菌リン酸緩衝液のCODを算出し、これを有機物量とした。
【0048】
(水槽のカビ発生状況)
二ヶ月後の水槽の内部の状況を肉眼で観察し、下記の基準でカビ発生状況を判定した。
○:カビ汚染はほとんど認められない。
△:カビ汚染が若干認められる。
×:カビ汚染がはっきりと認められる。
【0049】
【表1】

【0050】
表1によると、機能水に石鹸若しくは合成洗剤を添加した殺菌剤を用いて洗浄操作を実施した実施例1〜8の試験片は、比較例1〜8の試験片に比べ、カビ胞子数および一般細菌数が少なく、有機物量が少ない。また、実施例1〜8で用いた水槽は、比較例1〜8で用いた水槽に比べてカビの発生が少ない。したがって、実施例1〜8で用いた殺菌剤は、殺菌効果に優れている。
【0051】
実施例9
水に石鹸(三浦工業株式会社製の商品名“軟太郎せっけん”)を溶解し、濃度が0.01重量%の石鹸水(殺菌剤)を調製した。ここで用いた水は、愛媛県松山市の水道水を陽イオン交換樹脂を用いて処理して得られた機能水であり、多価陽イオンの濃度が0.2ミリモル/リットル未満であり、かつ、ナトリウムイオンの濃度が0.3ミリモル/リットル以上500ミリモル/リットル未満の条件を満たしたものである。
【0052】
実施例10
濃度を0.05重量%に変更した点を除き、実施例9と同様にして石鹸水(殺菌剤)を調製した。
【0053】
比較例9
愛媛県松山市の水道水に石鹸(三浦工業株式会社製の商品名“軟太郎せっけん”)を溶解し、濃度が0.01重量%の石鹸水を調製した。
【0054】
比較例10
濃度を0.05重量%に変更した点を除き、比較例9と同様にして石鹸水を調製した。
【0055】
評価2
実施例9、10および比較例9,10において調製した石鹸水に白癬菌(Trichophyton rubrum NBRC32409)を略30個/ミリリットルになるよう加え、25℃の温度で30日間放置した。この間、石鹸水中の白癬菌数の変化を毎日測定した。結果を図1に示す。参考のため、図1には、実施例9、10で用いた機能水のみに対して同様に白癬菌を加えて菌数の変化を測定した場合(図1に「機能水のみ」と表示)および比較例9、10で用いた水道水のみに対して同様に白癬菌を加えて菌数の変化を測定した場合(図1に「水道水のみ」と表示)の結果を併せて示している。また、白癬菌数は次のようにして測定した。
【0056】
100ミリリットルの三角フラスコに入った白癬菌入りの石鹸水(50ミリリットル)をホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製の商品名“エースホモジナイザー AM−3”)を用いて10,000rpmで5分間攪拌し、菌を解離した後、石鹸水に超音波を当てた。この石鹸水から採取した100マイクロリットルの試料を希釈せずにクロラムフェニコールを含むPDA(ポテトデキストロースアガー)平板培地を用いた平板塗抹法により25℃で5日間培養し、生育する白癬菌の集落数を目視で計数した。そして、この結果に基づいて、石鹸水に含まれる白癬菌数を下記の式(3)により算出した。
【0057】
【数3】

【0058】
図1によると、実施例9、10の石鹸水は、白癬菌の殺菌効果に優れている。
【0059】
実施例11〜19
愛媛県松山市の水道水を陽イオン交換樹脂を用いて処理して得られた機能水へ表2に示す脂肪酸ナトリウム塩を加えて溶解し、5mMの脂肪酸ナトリウム塩水溶液(殺菌剤)を調製した。この脂肪酸ナトリウム塩水溶液に白癬菌(Trichophyton mentagrophytes)を略2×104個/ミリリットルになるよう加えて35℃で振盪した後、70時間に渡って白癬菌数の変化を測定した。白癬菌数は、次のようにして測定した。振盪後の白癬菌入り脂肪酸ナトリウム塩水溶液から採取した100マイクロリットルの試料を適宜希釈し、それをクロラムフェニコールを含むPDA(ポテトデキストロースアガー)平板培地を用いた平板塗抹法により25℃で5日間培養し、生育する白癬菌の集落数を目視で計数した。そして、この結果に基づいて、殺菌剤に含まれる白癬菌数を下記の式(4)により算出した。結果を図2に示す。
【0060】
【数4】

【0061】
【表2】

【0062】
図2によると、脂肪酸ナトリウム塩水溶液は、炭素数が12〜16の脂肪酸ナトリウム塩を用いた場合に殺菌力が特に強く、また、同じ炭素数の脂肪酸ナトリウム塩であっても不飽和脂肪酸ナトリウム塩、特に、炭素−炭素二重結合数が多い不飽和脂肪酸ナトリウム塩ほど殺菌力が強いことがわかる。
【0063】
実施例20
愛媛県松山市の水道水を陽イオン交換樹脂を用いて処理して得られた機能水にミリスチン酸ナトリウム塩を加えて溶解し、濃度が5mMの殺菌剤を調製した。この殺菌剤に黒カビ(Cladosporium sphaerospermum NBRC4460)を略1×105個/ミリリットルになるよう加えて35℃で振盪した後、経時的な黒カビの胞子数の変化を測定した。黒カビの胞子数は、次のようにして測定した。先ず、黒カビを含む殺菌剤を滅菌リン酸緩衝液で適宜希釈した。そして、その100マイクロリットルをクロラムフェニコールを含むPDA(ポテトデキストロースアガー)平板培地を用いた平板塗抹法により25℃で5日間培養し、生育する黒カビの集落数を目視で計数した。そして、この結果に基づいて、殺菌剤に含まれる黒カビの胞子数を下記の式(5)により算出した。結果を図3に示す。
【0064】
【数5】

【0065】
実施例21
ミリスチン酸ナトリウム塩に替えてリノレン酸ナトリウム塩を用いた点を除いて実施例20と同様に操作し、黒カビの胞子数の経時的な変化を測定した。結果を図3に示す。
【0066】
実施例22
愛媛県松山市の水道水を陽イオン交換樹脂を用いて処理して得られた機能水にミリスチン酸ナトリウム塩を加えて溶解し、濃度が5mMの殺菌剤を調製した。この殺菌剤に大腸菌(E.coli NBRC3301)を略1×105個/ミリリットルになるよう加えて35℃で振盪した後、経時的な大腸菌数の変化を測定した。大腸菌数は、次のようにして測定した。先ず、大腸菌を含む殺菌剤を滅菌リン酸緩衝液で適宜希釈した。そして、その100マイクロリットルを標準寒天培地を用いた平板塗沫法により35℃で3日間培養し、生育する大腸菌の集落数を目視で計数した。そして、この結果に基づいて、殺菌剤に含まれる大腸菌数を下記の式(6)により算出した。結果を図4に示す。
【0067】
【数6】

【0068】
実施例23
ミリスチン酸ナトリウム塩に替えてリノレン酸ナトリウム塩を用いた点を除いて実施例22と同様に操作し、大腸菌数の経時的な変化を測定した。結果を図4に示す。
【0069】
実施例24
愛媛県松山市の水道水を陽イオン交換樹脂を用いて処理して得られた機能水にミリスチン酸ナトリウム塩を加えて溶解し、濃度が5mMの殺菌剤を調製した。この殺菌剤に黄色ブドウ球菌(S.aureus NBRC13276)を略1×105個/ミリリットルになるよう加えて35℃で振盪した後、経時的な黄色ブドウ球菌数の変化を測定した。黄色ブドウ球菌数は、次のようにして測定した。先ず、黄色ブドウ球菌を含む殺菌剤を滅菌リン酸緩衝液で適宜希釈した。そして、その100マイクロリットルを標準寒天培地を用いた平板塗沫法により35℃で3日間培養し、生育する黄色ブドウ球菌の集落数を目視で計数した。そして、この結果に基づいて、殺菌剤に含まれる黄色ブドウ球菌数を下記の式(7)により算出した。結果を図5に示す。
【0070】
【数7】

【0071】
実施例25
ミリスチン酸ナトリウム塩に替えてリノレン酸ナトリウム塩を用いた点を除いて実施例24と同様に操作し、黄色ブドウ球菌数の経時的な変化を測定した。結果を図5に示す。
【0072】
実施例26
愛媛県松山市の水道水を陽イオン交換樹脂を用いて処理して得られた機能水にリノール酸ナトリウム塩を加えて溶解し、濃度が1mMの殺菌剤を調製した。この殺菌剤に白癬菌(Trichophyton mentagrophytes)を略1×104個/ミリリットルになるよう加えて35℃で振盪した後、経時的な白癬菌数の変化を測定した。白癬菌数は、実施例11〜19と同様の方法により測定した。結果を図6に示す。
【0073】
実施例27
リノール酸ナトリウム塩に替えてリノレン酸ナトリウム塩を用いた点を除いて実施例26と同様に操作し、白癬菌数の経時的な変化を測定した。結果を図6に示す。
【0074】
比較例11
機能水に替えて愛媛県松山市の水道水をそのまま用いた点を除いて実施例26と同様に操作し、白癬菌数の経時的な変化を測定した。結果を図6に示す。
【0075】
比較例12
機能水に替えて愛媛県松山市の水道水をそのまま用いた点を除いて実施例27と同様に操作し、白癬菌数の経時的な変化を測定した。結果を図6に示す。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施例の評価2の結果を示すグラフ。
【図2】実施例11〜19の結果を示すグラフ。
【図3】実施例20、21の結果を示すグラフ。
【図4】実施例22、23の結果を示すグラフ。
【図5】実施例24、25の結果を示すグラフ。
【図6】実施例26、27および比較例11、12の結果を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価陽イオンが除去されかつナトリウムイオンが付与された水と、
界面活性剤と、
を含む殺菌剤。
【請求項2】
浴室用である、請求項1に記載の殺菌剤。
【請求項3】
洗濯槽用である、請求項1に記載の殺菌剤。
【請求項4】
台所用である、請求項1に記載の殺菌剤。
【請求項5】
トイレ用である、請求項1に記載の殺菌剤。
【請求項6】
洗面台用である、請求項1に記載の殺菌剤。
【請求項7】
排水パイプ用である、請求項1に記載の殺菌剤。
【請求項8】
日用雑貨品用である、請求項1に記載の殺菌剤。
【請求項9】
前記界面活性剤が脂肪酸塩である、請求項1から8のいずれかに記載の殺菌剤。
【請求項10】
前記脂肪酸塩が不飽和脂肪酸塩である、請求項9に記載の殺菌剤。
【請求項11】
前記不飽和脂肪酸塩がリノール酸塩、リノレン酸塩、ミリストレイン酸塩およびパルミトレイン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一つである、請求項10に記載の殺菌剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−81428(P2008−81428A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262117(P2006−262117)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】