説明

殺菌性化合物及び殺菌性組成物

【課題】従来品に匹敵する殺菌性を有するとともに、安全性が高く、取扱いが容易な殺菌性化合物を提供する。
【解決手段】本発明の殺菌性化合物は、ベンズイミダゾール化合物のN−アルキル変性物であり、当該アルキル基の炭素数が5以上である化合物からなる。当該化合物におけるアルキル基の炭素数は6〜10であることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性が高く、取扱いが容易な殺菌性化合物、及びその殺菌性化合物を含む殺菌性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、塗料、接着剤、澱粉糊、にかわ、合成ゴムラテックス、セメント混和液等の産業製品には、細菌、カビ、酵母等の微生物が繁殖しやすく、品質の劣化や悪臭の発生等の原因となっている。そこで、これをコントロールするために、防腐剤、防カビ剤等の殺菌剤が使用されている。殺菌剤としては種々の化合物が知られているが、その中でも、特にイソチアゾリン化合物は、幅広い抗菌スペクトル有するため、各種産業分野において広く使用されている。例えば、特許文献1には、チオフェン系化合物及びイソチアゾリン系化合物を含有する工業用殺菌組成物が記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、イソチアゾリン化合物は、イソチアゾリン環の開裂により生成する反応種が、タンパク等に結合することで殺菌性を発揮するというメカニズムを有するものである。そのため、しばしばこれを取り扱う従事者が、皮膚にアレルギー反応を引き起こすおそれがある。
【0004】
本発明は、このような問題点に鑑みなされたものであり、従来品に匹敵する殺菌性を有するとともに、安全性が高く、取扱いが容易な殺菌性化合物を提供することを目的とするものである。
【0005】
【特許文献1】特開2003−55110号公報
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、殺菌成分として、ベンズイミダゾールを母体とし、そのN位(1位)を特定鎖長のアルキル基で変性した化合物が有効であることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.ベンズイミダゾール化合物のN−アルキル変性物であり、当該アルキル基の炭素数が5以上であることを特徴とする殺菌性化合物。
2.前記アルキル基の炭素数が6〜10である項1.記載の殺菌性化合物。
3.項1.または項2.記載の殺菌性化合物を有効成分として含む殺菌性組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の殺菌性化合物は、従来品に匹敵する殺菌性を発揮することができる。しかも、本発明の殺菌性化合物は、安全性が高く、皮膚炎症等を引き起こし難く、取扱いが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0010】
本発明の殺菌性化合物は、ベンズイミダゾール化合物のN−アルキル変性物であり、当該アルキル基の炭素数が5以上である化合物である。このような本発明化合物は、優れた殺菌性を発揮するとともに、安全性が高く、取扱いも容易である。
【0011】
本発明の殺菌性化合物の母体となる化合物は、ベンズイミダゾール化合物であり、本発明では特に[化1]に示す化合物が好適である。なお、本発明の効果が阻害されない範囲内であれば、一部に置換基を有するものも使用可能である。
【0012】
【化1】

【0013】
本発明の殺菌性化合物は、[化2]に示すように、上記ベンズイミダゾール化合物のN位(1位)に、炭素数5以上のアルキル基(−R)を有するものである。
【0014】
【化2】

【0015】
N位(1位)がアルキル変性されていない化合物では、微生物の細胞膜中におけるリン脂質との疎水性相互作用が小さいか、もしくは、細胞内の酵素に基質として認識されないために酵素阻害が起きず、十分な殺菌性が得られない。
また、アルキル基の炭素数が5未満である場合は、殺菌性において満足な性能を得ることができない。本発明において、このアルキル基の炭素数は5以上であることが必須であるが、好ましくは5〜12、より好ましくは6〜10、さらに好ましくは7〜9である。アルキル基の炭素数がこのような範囲内であれば、より広範な種類の微生物に対して、安定した殺菌効果を発現することが可能となる。
上記アルキル基は、直鎖アルキル基、分岐アルキル基のいずれであってもよいが、本発明では直鎖アルキル基が好適である。
【0016】
本発明殺菌性化合物は、ベンズイミダゾール化合物のN−アルキル化により製造することができる。例えば、非プロトン性極性溶媒中にベンズイミダゾールを溶解し、アルカリを加え、加熱を開始する。ベンズイミダゾールが脱プロトン化されたところに、1位炭素に脱離基を有するアルキル化合物を滴下し、滴下終了後、還流させながら約5時間反応させる。反応停止後に、生成する塩を除去し、さらに溶媒を蒸留法により除去することで、粗精製の目的化合物を製造することができる。さらに公知の方法により、精製を行うことで、高純度の目的化合物が得られる。
【0017】
本発明の殺菌性化合物は、塩として存在するものであってもよい。本発明の殺菌性化合物が塩であれば、水への溶解性向上、結晶性の向上等を図ることができ、当該化合物を水溶液、粉末、粒状等の各種形態に製剤化する際に有効である。カビ等の至適pH2〜8.5の範囲内において、当該化合物の溶解性を高めることも可能である。
また、本発明化合物を塩とした場合、イミダゾール環の窒素原子上の非共有電子対にプロトンが配位し、分子が陽電荷を帯びた状態になるものと考えられる。当該化合物の多くが陽イオンとして存在することにより、微生物を構成するリン脂質やタンパク質との相互作用が高まり、殺菌効果が向上することも期待できる。
このような塩は、[化3]に示す構造で表すことができる。なお、Xn−は有機性または無機性のアニオン基であり、nは整数である。
【0018】
【化3】

【0019】
有機性アニオン基を与える酸としては、例えば、酢酸、アジピン酸、アスコルビン酸、安息香酸、ベンゼンスルホン酸、酪酸、樟脳酸、樟脳スルホン酸、クエン酸、シクロヘキシルスルファミン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルタミン酸、2−ヒドロキシエチルスルホン酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、ヒドロキシマレイン酸、乳酸、リンゴ酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、蓚酸、パモ酸、フェニル酢酸、ピバリン酸、プロピオン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、酒石酸、トシル酸、ウンデカン酸、アスパラギン酸等が挙げられる。また、無機性アニオン基を与える酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、重炭酸、重硫酸、臭化水素酸、過硫酸、リン酸、2リン酸、ヨウ化水素酸等が挙げられる。
【0020】
これらの酸により得られる塩の中でも、薬学上許容される、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トシル酸塩、蓚酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、アスコルビン酸塩、乳酸塩、リンゴ三酸塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩等であれば安全性が高くなる。特に、これらの中でも塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、メタンスルホン酸塩、トシル酸塩、蓚酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等が好適である。
このような塩は、慣用的な化学合成法によって合成することができる。具体的には、水中または有機溶媒中、あるいはこれらの混合溶媒中において、1当量以上の酸とベンズイミダゾール化合物を反応させる方法等により合成できる。この際、過剰な酸を真空下で除去してもよいし、イオン交換樹脂を用いてアニオン基を交換することも可能である。
【0021】
本発明の殺菌性化合物は、目的とする用途等に応じた形態で使用すればよく、例えば化合物自体をそのまま使用することもできるし、当該化合物を有効成分として含む殺菌性組成物として使用することもできる。本発明化合物を殺菌性組成物として使用する場合、その形態としては、殺菌性化合物を媒体に溶解ないし分散、乳化させた形態、あるいは殺菌性化合物、結合材、その他添加剤等を適宜混合した形態等が挙げられる。
【0022】
媒体としては、例えば、水、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類等が挙げられる。結合材としては、例えば、セメント、石膏、水ガラス等の無機質結合材、酢酸ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等の有機質結合材等が挙げられる。このような結合材を含む殺菌性組成物は、塗料として使用することができ、またシート材等の成形体用組成物等として使用することもできる。添加剤としては、例えば、顔料、骨材、繊維、造膜助剤、可塑剤、凍結防止剤、防腐剤、防黴剤、消泡剤、増粘剤、レベリング剤、pH調整剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、吸着剤、架橋剤、触媒等が挙げられる。
【0023】
殺菌性組成物における殺菌性化合物の配合量は、適宜設定すればよい。殺菌性組成物を塗料等として用いる場合は、通常、殺菌性組成物中の殺菌性化合物の比率が10〜5000ppm(好ましくは100〜2000ppm)程度となるようにすればよい。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0025】
(合成方法)
20mmolのベンズイミダゾールを30mlのDMF(N,N−ジメチルホルムアミド)に溶解させ、さらに30mmolのナトリウムメトキシドを加え、窒素雰囲気下にて、加熱しながら攪拌した。溶液の色に変化が認められた後に、40mmolの臭化アルキルを滴下し、還流させながら5時間攪拌を行った。反応停止後、反応液をろ過し、沈殿物を除去した後に、減圧蒸留にて溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:メタノール=20:1)にて精製を行い、TLC(ジクロロメタン:メタノール=10:1)にて、スポットがRf=0.6〜0.8に現れる画分を集め、濃縮し、前記[化2]に示す殺菌性化合物を得た。
【0026】
なお、臭化アルキルとしては、炭素数5〜12の直鎖アルキルを有するものを用意し、それぞれの臭化アルキルを使用して上記合成方法により計8種の殺菌性化合物を製造した。
【0027】
(試験方法)
上記方法で得られた8種の殺菌性化合物、及びOIT(2‐オクチル‐4‐イソチアゾリン‐3‐オン)について、以下の試験を実施し、殺菌性を評価した。
【0028】
各殺菌性化合物を4mg/mlになるようにエタノールで溶解させた試験液を作成し、これを30mm×30mmに切断したろ紙の上に0.1ml滴下した。これを風乾し、試験片とした。
クロラムフェニコールを添加したポテトデキストロース寒天平板培地の中央に、上記試験片を静置した。次いで、スルホこはく酸ジオクチルナトリウム50mlを蒸留水に添加し、オートクレーブした滅菌水に、カビ胞子を5白金耳加え、ガーゼでろ過した胞子懸濁液を、上記寒天培地に1ml滴下し、28℃に設定したインキュベーターにて1週間培養を行った。カビ胞子としては、表1に示すものをそれぞれ使用した。
【0029】
培養後の状態を確認し、以下の基準にて評価を行った。結果を表2に示す。
◎:試験片上に菌糸の伸長が認められない
○:試験片の1/3未満に菌糸の伸長が認められる
△:試験片の1/3以上2/3未満に菌糸の伸長が認められる
×:試験片の2/3以上に菌糸の伸長が認められる
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンズイミダゾール化合物のN−アルキル変性物であり、当該アルキル基の炭素数が5以上であることを特徴とする殺菌性化合物。
【請求項2】
前記アルキル基の炭素数が6〜10である請求項1記載の殺菌性化合物。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の殺菌性化合物を有効成分として含む殺菌性組成物。

【公開番号】特開2008−179610(P2008−179610A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311839(P2007−311839)
【出願日】平成19年12月1日(2007.12.1)
【出願人】(000180287)エスケー化研株式会社 (227)
【Fターム(参考)】