殺菌装置、液体循環装置および養液栽培システム
【課題】 養液循環式の養液栽培は、根部伝染性病害が発生すると、同一循環路にあるすべての株に短期間に、病害が蔓延し、著しい被害が発生する。このため、様々な養液の殺菌方法が開発されている。
【解決手段】 複数本の針状電極の列を複数行有するクラスタ電極を、その一面に複数有する板状電極101を、水槽104(流路)上に排液103に非接触に配置する。直流または交流電源から電力を供給して、板状電極101と排液103の間にコロナ放電を発生させ、水槽104を流れる排液103を殺菌する。
【解決手段】 複数本の針状電極の列を複数行有するクラスタ電極を、その一面に複数有する板状電極101を、水槽104(流路)上に排液103に非接触に配置する。直流または交流電源から電力を供給して、板状電極101と排液103の間にコロナ放電を発生させ、水槽104を流れる排液103を殺菌する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば養液栽培用の養液など、液体の殺菌に関する。
【背景技術】
【0002】
養液栽培は、土壌の代わりに、鉱物から加工されるロックウール、天然有機質資材のモミがらやヤシがらなどの代替培地または流路(水中)に根をはらせ、必要な栄養成分を含む養液を供給して、植物を栽培する方法である。土壌から感染する植物病害の心配が少ない、植物への給水管理が容易、土壌が肥沃でない土地でも栽培可能、作業性が良い、露地栽培よりも習熟が容易等の利点を有し、トマト、キュウリ、メロン、イチゴ、バラなどの栽培に、近年、急速に拡大している。
【0003】
例えばトマトの養液栽培には、トマト一株当たり一日、数百ミリリットルから数リットルの養液を必要とする。ただし、供給する養液すべてを植物が吸収するわけではないので、吸収されなかった養液は排液になり、河川や地下水を汚染する危惧がある。そのため、排液を再利用する養液循環式の養液栽培が望まれる。
【0004】
ただし、特許文献1にも記載されているように、養液循環式の養液栽培は、根部伝染性病害が発生すると、同一循環路にあるすべての株に短期間に、病害が蔓延し、著しい被害が発生する問題がある。このため、様々な養液の殺菌方法が開発されている(非特許文献1参照)。これら殺菌方法について整理すると次のようになる。なお、下記のイニシャルコストおよびランニングコストは、一日当り10トンの養液を処理する設備を用意し、一日10トンの養液を殺菌する場合を想定した。
【0005】
● 熱による方法
95℃、30秒または85℃、180秒で完全殺菌が可能で、残留物がない特徴がある。ただし、カルシウム(Ca)の沈殿が発生するので、養液をpH<4に保つ必要がある。また、夏場に養液の温度が上がりすぎる場合は、冷却装置も必要になる。イニシャルコストは400万円、ランニングコストは1600円である。
【0006】
● 紫外線による方法
波長260nm付近の紫外線を照射して細菌のDNAに化学変化を起して、DNAのコピー機能を止めることで殺菌する方法だが、養液の透過率を保つため前ろ過が必要、低圧水銀ランプの定期的なメンテナンスが必須、養液中の鉄(Fe)やマンガン(Mn)が不溶化するなどの問題がある。イニシャルコストは83万円、ランニングコストは1750円である。
【0007】
● オゾンによる方法
養液中にオゾンを供給して殺菌する方法で、残留物がない特徴がある。ただし、養液中の有機物を分解する、マンガン(Mn)を酸化するなどの問題がある。また、養液をpH<4に保たないと、オゾンの半減期が長くなり、オゾンが残留する心配がある。ランニングコストは1680円である。なお、オゾン発生量が毎時150ミリグラム、風量毎分5リットルで水中ポンプ付きの装置が35万円で販売されている。
【0008】
● 緩速砂ろ過による方法
50〜80cmに積んだ砂の層にゆっくり養液を通すことで、物理的な吸着、沈殿および篩効果、並びに、微生物によって殺菌する方法で、省エネルギ性が特徴である。ただし、ウィルスやセンチュウには効果が不足、閉塞時にメンテナンスが必要、養液中のマンガン(Mn)が除去される、などの欠点がある。イニシャルコストは320万円、ランニングコストは390円である。
【0009】
● 膜ろ過による方法
膜孔径が0.1μm程度の膜によって細菌等を除去する方法で、省スペースで大容量の処理ができる特徴を有する。ただし、フィルタの目詰まりが発生し易く、フィルタのメンテナンスが欠かせない。イニシャルコストは125万円、ランニングコストは280円である。
【0010】
● その他
上記のほかに、過酸化水素水、ヨウ素、銀、電解水(強酸性水、pH2.7以下)、界面活性剤、微生物、光触媒の使用が検討されている。
【0011】
【特許文献1】特公平7-28617号公報
【非特許文献1】峯洋子「循環培養液の殺菌・除菌技術」、農業技術体系 大辞典 野菜編、農山漁村文化協会、追録第26号・2001年、養液栽培96の82-90
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、液体を効率よく殺菌することを目的とする。
【0013】
また、残留物がなく、構造が簡単で、メンテナンスフリーの、液体の殺菌装置を提供することを他の目的とする。
【0014】
さらに、上記の殺菌装置を使用した液体循環装置および養液栽培システムを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前記の目的を達成する一手段として、以下の構成を備える。
【0016】
本発明にかかる殺菌装置は、流路を通過する液体を殺菌する殺菌装置であって、前記流路の上に前記液体に非接触に配置され、複数本の針状電極の列を複数行有するクラスタ電極を、その一面に複数有する板状電極と、前記板状電極と前記液体の間にコロナ放電を発生するための電力を供給する電源とを有することを特徴とする。
【0017】
本発明にかかる液体循環装置は、養液栽培システムの養液を循環する液体循環装置であって、前記養液の循環路に、上記の殺菌装置を配置したことを特徴とする。
【0018】
また、所定の容器または流路に液体を供給する供給手段と、前記所定の容器または流路を通過した前記液体を溜めるタンクと、前記タンクとの間で前記液体を循環して、前記液体を殺菌する上記の殺菌装置と、前記タンクに溜まった前記液体を前記供給手段に戻す循環手段とを有することを特徴とする。
【0019】
本発明にかかる養液栽培システムは、上記の液体循環装置を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、液体を効率よく殺菌することができる。
【0021】
また、残留物がなく、構造が簡単で、メンテナンスフリーの、液体の殺菌装置を提供することができる。
【0022】
さらに、上記の殺菌装置を使用した液体循環装置および養液栽培システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明にかかる実施例の殺菌装置を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では、本発明の殺菌装置を、養液循環式の養液栽培における養液の殺菌に適用する例を説明するが、本発明の殺菌装置は、養液だけでなく、非燃焼性であれば他の液体の殺菌にも適用することができる。
【0024】
[装置の原理]
出願人は、汚染液体または汚染土壌の有害物質を分解する、図1に示す構成のコロナ放電発生装置を提案している。
【0025】
図2は、図1に示す板状電極101の詳細を示す図で、二枚の板状電極101を略平行に配置し、その一方の電極101の、他電極と対向する面に針または細い棒状の電極102を、その長さの1/2以下の間隔で一列に並べ、その電極列を、電極102の長さの1/4〜1/2程度の間隔で数行並べる(この電極102の行列集合を「クラスタ」または「クラスタ電極」と呼ぶ)。
【0026】
さらに、クラスタを、板状電極101の長手方向に電極102の列が略直交するように、電極102の長さの1.5〜5倍程度の間隔を開けて配置する。なお、板状電極101は金属製の平板が好ましいが、導電性があり、コロナ放電に耐える材料であればよく、また、電極102の先端と対向する板状電極102の間隔がほぼ一定に保たれていれば、その断面が若干弧を描いていても構わない。
【0027】
そして、クラスタが取り付けられた板状電極101の電位が、もう一方の板状電極101に対して高電位になるように、図1に示す直流または交流電源から高電圧を印加すると、クラスタ化したすべての針状電極102と板状電極101の間に安定したストリーマコロナ放電が発生する。その際、ストリーマコロナは、クラスタを構成する各針状電極102からシャワーのように広がり、その中にはイオン、電子、励起種などの高エネルギ粒子および中性解離原子などの活性種が存在する。そのため、有害化学物質を含んだガスが、このストリーマコロナのシャワーを通過するとき、高エネルギ粒子や活性種によって分解あるいは転化され、無害化あるいは低毒化される。
【0028】
[装置の概要]
上記の知見を基に、発明者らは、リアクタ内に循環養液を通して、ストリーマシャワーにより養液を殺菌する装置を開発した。図3は実施例の殺菌装置の構成例を示す図である。
【0029】
図3に示すように、殺菌装置は、リアクタ内の水槽104の内側底面に配置した板状電極101、並びに、水槽104の上に液面に触れないように配置した、針状電極102のクラスタを備える板状電極101を有する。この水槽104に、ポンプPによって養液栽培の排液103を継続して導き、堰および邪魔板によって水槽104の液面を安定化する。つまり、水槽104は、排液103の流路の一部として機能する。この状態で、板状電極101の間に直流または交流電源から高電圧を印加し、水槽104内の排液103に上側からストリーマコロナシャワーを照射する。そして、ストリーマコロナシャワーを通過した排液103を、再び、養液栽培用に給液する。
【0030】
なお、養液が導電性を有する場合、養液が板状電極101と同等に機能するので、必ずしも水槽104内側の底面に板状電極101を設置する必要がなく、回路の配線が養液に接する、あるいは、挿入されているだけでもよい。
【0031】
[殺菌効果]
発明者らは、次の試料を用意して、実施例の殺菌装置の殺菌効果を調べた。
試料A1:菌1を懸濁した純水
試料A2:菌2を懸濁した純水
試料B1:菌1を懸濁したEC 0.5養液
試料B2:菌2を懸濁したEC 0.5養液
ここで、菌1はホウレンソウ萎凋病菌
菌2は根腐れ萎凋病のトマト株から分離した未同定の菌
養液処方は大塚SA処方
【0032】
上記の試料をそれぞれ、殺菌装置に一分間当り12リッタ、6リッタおよび3リッタの流量で水槽104に供給した。この状態で、電源装置から約18Wの電力を供給してストリーマコロナ放電を発生し、ストリーマコロナシャワーを液体に照射した。そして、ストリーマコロナシャワーの照射開始から5分後、10分後、20分後、30分後および60分後の試料をサンプリングして菌の死滅率を測定した。
【0033】
図4から図7は各サンプルの細菌の死滅率の測定結果を示す図である。何れの試料の測定結果も、ほぼ照射時間に比例した死滅率の増加が認められ、実施例の殺菌装置が液体の殺菌に有効であることを示している。
【0034】
上記の試験中、リアクタ内の温度および水槽104から流出する液の温度(配管表面の温度)を測定したが、同様の流量でストリーマコロナ放電を発生しない場合の温度変化と差はなかった。従って、液体の加熱による殺菌効果ではないことは明らかである。また、上記の試験前後のサンプルにイオン組成の変化があるか否かを調べたが、イオン組成の変化は認められなかった。
【0035】
[殺菌原理]
発明者らは、上記の試験結果から、ストリーマコロナ放電によって液体中に発生するオゾンが殺菌作用を示す一要素と考え、実施例の殺菌装置においてオゾンの検出実験を行った。水槽104にイオン交換水を注入し、直流正極性コロナ放電を発生して、赤外吸収スペクトル測定および発光分光測定を行った。
【0036】
図8はリアクタ内のガスの赤外吸収スペクトル測定の結果を示す図で、波数[cm-1]に対する吸収度を示している。980〜1070cm-1の波数領域でオゾンの吸光度の増加が示され、オゾンの発生が確認された。
【0037】
図9は放電の発光を分光分析した結果を示す図で、微弱ではあるが、オゾンのスペクトルがみられる。
【0038】
[養液栽培システムへの適用]
図10は実施例の殺菌装置を養液循環式の養液栽培システムに適用する場合の原理を示す図である。
【0039】
給液タンク1に蓄えられた養液は、ポンプ2によって栽培ベッド3に供給される。栽培ベッド3を通過した養液は、排液タンク4に一旦蓄えられた後、ポンプ5によって殺菌装置6へ供給される。殺菌装置6によって殺菌された養液は、給液タンク1に戻される。
【0040】
図10に示す原理的な構成によれば、給液タンク1→栽培ベッド3→排液タンク4→殺菌装置6→給液タンク1の循環路に流れる養液の速度に合った能力(水槽104のサイズ、板状電極101の面積、放電用の供給電力など)をもつ殺菌装置6を用意すれば、殺菌装置6を通過した排液だけを循環することができるので、大きな殺菌効果を得ることができる。その反面、循環路に流れる養液の速度に見合う殺菌装置6は、大型になり、価格も高くなると考えられる。
【0041】
上記の点を考慮したのが、図11に示す養液循環式の養液栽培システムに適用可能な液体循環装置の構成例で、排液タンク4と殺菌装置6の間で排液103を循環することで、殺菌装置6の小型化および低価格化を図った構成である。なお、図11に示す液体循環装置は、養液だけでなく、循環利用される様々な液体の殺菌に適用可能である。
【0042】
給液タンク1に蓄えられた養液は、ポンプ2によって栽培ベッド3に供給される。栽培ベッド3を通過した養液は、排液タンク4に一旦蓄えられる。例えば、所定時間(例えば夜間の12時間など)に殺菌装置6およびポンプ5を稼働して、排液タンク4と殺菌装置6の間で排液を循環して、排液を殺菌する。
【0043】
所定時間経過後(例えば翌朝)、ポンプ7によって排液タンク4の殺菌された排液を給液タンク1に戻し、蒸発や植物体による吸収などによって不足した養液を、タンク8およびポンプ9によって供給する養液成分および給水によって補い、再び、養液として栽培ベッド3に供給する。
【0044】
栽培ベッド3の面積が10アール(トマトを養液栽培するとして収穫量は概略1,000kg/月)だとすると、養液の供給量は4,000リットル/日になる。排液の回収率を50%とすると、一日の回収液量は2,000リットルになり、この排液を翌日の最初の給水までに殺菌する殺菌装置6は次のようになる。
板状電極101の面積:1.8m2
水槽104を流れる排液の深さ:15mm
ストリーマコロナ放電用電力:1.8kW
【0045】
このような構成によれば、排液にストリーマコロナシャワーを約12時間(夜間)照射することになり、少なくとも50%の細菌を死滅することができる(養液ECは0.5dS/mとする)。従って、夜間は常に殺菌装置6を稼動することで、菌濃度の上昇を抑え、病気発生のリスクを抑えることができる。
【0046】
このように、養液循環路に殺菌装置6を組み込んだ養液循環装置にするだけで、養液栽培システムの排液を効率的に殺菌することができる。殺菌装置6の設置面積は小さく、電力消費も小さい。また、残留物もなく、養液の透過率を保つためのフィルタ、養液のpH管理なども不要である。従って、養液循環式の養液栽培システム用として、イニシャルコスト、ランニングコストともに低価格の、メンテナンスフリーの殺菌装置および養液循環装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】コロナ放電発生装置の構成例を示す図、
【図2】コロナ放電発生装置に使用する板状電極を説明する図、
【図3】実施例の殺菌装置の構成例を示す図、
【図4】試料A1におけるストリーマコロナシャワー照射時間と細菌の死滅率の関係を示す図、
【図5】試料A2におけるストリーマコロナシャワー照射時間と細菌の死滅率の関係を示す図、
【図6】試料B1におけるストリーマコロナシャワー照射時間と細菌の死滅率の関係を示す図、
【図7】試料B2におけるストリーマコロナシャワー照射時間と細菌の死滅率の関係を示す図、
【図8】リアクタ内のガスの赤外吸収スペクトル測定の結果を示す図、
【図9】放電の発光を分光分析した結果を示す図、
【図10】実施例の殺菌装置を養液循環式の養液栽培システムに適用する場合の原理を示す図、
【図11】養液循環式の養液栽培システムに適用可能な液体循環装置の構成例を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば養液栽培用の養液など、液体の殺菌に関する。
【背景技術】
【0002】
養液栽培は、土壌の代わりに、鉱物から加工されるロックウール、天然有機質資材のモミがらやヤシがらなどの代替培地または流路(水中)に根をはらせ、必要な栄養成分を含む養液を供給して、植物を栽培する方法である。土壌から感染する植物病害の心配が少ない、植物への給水管理が容易、土壌が肥沃でない土地でも栽培可能、作業性が良い、露地栽培よりも習熟が容易等の利点を有し、トマト、キュウリ、メロン、イチゴ、バラなどの栽培に、近年、急速に拡大している。
【0003】
例えばトマトの養液栽培には、トマト一株当たり一日、数百ミリリットルから数リットルの養液を必要とする。ただし、供給する養液すべてを植物が吸収するわけではないので、吸収されなかった養液は排液になり、河川や地下水を汚染する危惧がある。そのため、排液を再利用する養液循環式の養液栽培が望まれる。
【0004】
ただし、特許文献1にも記載されているように、養液循環式の養液栽培は、根部伝染性病害が発生すると、同一循環路にあるすべての株に短期間に、病害が蔓延し、著しい被害が発生する問題がある。このため、様々な養液の殺菌方法が開発されている(非特許文献1参照)。これら殺菌方法について整理すると次のようになる。なお、下記のイニシャルコストおよびランニングコストは、一日当り10トンの養液を処理する設備を用意し、一日10トンの養液を殺菌する場合を想定した。
【0005】
● 熱による方法
95℃、30秒または85℃、180秒で完全殺菌が可能で、残留物がない特徴がある。ただし、カルシウム(Ca)の沈殿が発生するので、養液をpH<4に保つ必要がある。また、夏場に養液の温度が上がりすぎる場合は、冷却装置も必要になる。イニシャルコストは400万円、ランニングコストは1600円である。
【0006】
● 紫外線による方法
波長260nm付近の紫外線を照射して細菌のDNAに化学変化を起して、DNAのコピー機能を止めることで殺菌する方法だが、養液の透過率を保つため前ろ過が必要、低圧水銀ランプの定期的なメンテナンスが必須、養液中の鉄(Fe)やマンガン(Mn)が不溶化するなどの問題がある。イニシャルコストは83万円、ランニングコストは1750円である。
【0007】
● オゾンによる方法
養液中にオゾンを供給して殺菌する方法で、残留物がない特徴がある。ただし、養液中の有機物を分解する、マンガン(Mn)を酸化するなどの問題がある。また、養液をpH<4に保たないと、オゾンの半減期が長くなり、オゾンが残留する心配がある。ランニングコストは1680円である。なお、オゾン発生量が毎時150ミリグラム、風量毎分5リットルで水中ポンプ付きの装置が35万円で販売されている。
【0008】
● 緩速砂ろ過による方法
50〜80cmに積んだ砂の層にゆっくり養液を通すことで、物理的な吸着、沈殿および篩効果、並びに、微生物によって殺菌する方法で、省エネルギ性が特徴である。ただし、ウィルスやセンチュウには効果が不足、閉塞時にメンテナンスが必要、養液中のマンガン(Mn)が除去される、などの欠点がある。イニシャルコストは320万円、ランニングコストは390円である。
【0009】
● 膜ろ過による方法
膜孔径が0.1μm程度の膜によって細菌等を除去する方法で、省スペースで大容量の処理ができる特徴を有する。ただし、フィルタの目詰まりが発生し易く、フィルタのメンテナンスが欠かせない。イニシャルコストは125万円、ランニングコストは280円である。
【0010】
● その他
上記のほかに、過酸化水素水、ヨウ素、銀、電解水(強酸性水、pH2.7以下)、界面活性剤、微生物、光触媒の使用が検討されている。
【0011】
【特許文献1】特公平7-28617号公報
【非特許文献1】峯洋子「循環培養液の殺菌・除菌技術」、農業技術体系 大辞典 野菜編、農山漁村文化協会、追録第26号・2001年、養液栽培96の82-90
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、液体を効率よく殺菌することを目的とする。
【0013】
また、残留物がなく、構造が簡単で、メンテナンスフリーの、液体の殺菌装置を提供することを他の目的とする。
【0014】
さらに、上記の殺菌装置を使用した液体循環装置および養液栽培システムを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前記の目的を達成する一手段として、以下の構成を備える。
【0016】
本発明にかかる殺菌装置は、流路を通過する液体を殺菌する殺菌装置であって、前記流路の上に前記液体に非接触に配置され、複数本の針状電極の列を複数行有するクラスタ電極を、その一面に複数有する板状電極と、前記板状電極と前記液体の間にコロナ放電を発生するための電力を供給する電源とを有することを特徴とする。
【0017】
本発明にかかる液体循環装置は、養液栽培システムの養液を循環する液体循環装置であって、前記養液の循環路に、上記の殺菌装置を配置したことを特徴とする。
【0018】
また、所定の容器または流路に液体を供給する供給手段と、前記所定の容器または流路を通過した前記液体を溜めるタンクと、前記タンクとの間で前記液体を循環して、前記液体を殺菌する上記の殺菌装置と、前記タンクに溜まった前記液体を前記供給手段に戻す循環手段とを有することを特徴とする。
【0019】
本発明にかかる養液栽培システムは、上記の液体循環装置を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、液体を効率よく殺菌することができる。
【0021】
また、残留物がなく、構造が簡単で、メンテナンスフリーの、液体の殺菌装置を提供することができる。
【0022】
さらに、上記の殺菌装置を使用した液体循環装置および養液栽培システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明にかかる実施例の殺菌装置を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では、本発明の殺菌装置を、養液循環式の養液栽培における養液の殺菌に適用する例を説明するが、本発明の殺菌装置は、養液だけでなく、非燃焼性であれば他の液体の殺菌にも適用することができる。
【0024】
[装置の原理]
出願人は、汚染液体または汚染土壌の有害物質を分解する、図1に示す構成のコロナ放電発生装置を提案している。
【0025】
図2は、図1に示す板状電極101の詳細を示す図で、二枚の板状電極101を略平行に配置し、その一方の電極101の、他電極と対向する面に針または細い棒状の電極102を、その長さの1/2以下の間隔で一列に並べ、その電極列を、電極102の長さの1/4〜1/2程度の間隔で数行並べる(この電極102の行列集合を「クラスタ」または「クラスタ電極」と呼ぶ)。
【0026】
さらに、クラスタを、板状電極101の長手方向に電極102の列が略直交するように、電極102の長さの1.5〜5倍程度の間隔を開けて配置する。なお、板状電極101は金属製の平板が好ましいが、導電性があり、コロナ放電に耐える材料であればよく、また、電極102の先端と対向する板状電極102の間隔がほぼ一定に保たれていれば、その断面が若干弧を描いていても構わない。
【0027】
そして、クラスタが取り付けられた板状電極101の電位が、もう一方の板状電極101に対して高電位になるように、図1に示す直流または交流電源から高電圧を印加すると、クラスタ化したすべての針状電極102と板状電極101の間に安定したストリーマコロナ放電が発生する。その際、ストリーマコロナは、クラスタを構成する各針状電極102からシャワーのように広がり、その中にはイオン、電子、励起種などの高エネルギ粒子および中性解離原子などの活性種が存在する。そのため、有害化学物質を含んだガスが、このストリーマコロナのシャワーを通過するとき、高エネルギ粒子や活性種によって分解あるいは転化され、無害化あるいは低毒化される。
【0028】
[装置の概要]
上記の知見を基に、発明者らは、リアクタ内に循環養液を通して、ストリーマシャワーにより養液を殺菌する装置を開発した。図3は実施例の殺菌装置の構成例を示す図である。
【0029】
図3に示すように、殺菌装置は、リアクタ内の水槽104の内側底面に配置した板状電極101、並びに、水槽104の上に液面に触れないように配置した、針状電極102のクラスタを備える板状電極101を有する。この水槽104に、ポンプPによって養液栽培の排液103を継続して導き、堰および邪魔板によって水槽104の液面を安定化する。つまり、水槽104は、排液103の流路の一部として機能する。この状態で、板状電極101の間に直流または交流電源から高電圧を印加し、水槽104内の排液103に上側からストリーマコロナシャワーを照射する。そして、ストリーマコロナシャワーを通過した排液103を、再び、養液栽培用に給液する。
【0030】
なお、養液が導電性を有する場合、養液が板状電極101と同等に機能するので、必ずしも水槽104内側の底面に板状電極101を設置する必要がなく、回路の配線が養液に接する、あるいは、挿入されているだけでもよい。
【0031】
[殺菌効果]
発明者らは、次の試料を用意して、実施例の殺菌装置の殺菌効果を調べた。
試料A1:菌1を懸濁した純水
試料A2:菌2を懸濁した純水
試料B1:菌1を懸濁したEC 0.5養液
試料B2:菌2を懸濁したEC 0.5養液
ここで、菌1はホウレンソウ萎凋病菌
菌2は根腐れ萎凋病のトマト株から分離した未同定の菌
養液処方は大塚SA処方
【0032】
上記の試料をそれぞれ、殺菌装置に一分間当り12リッタ、6リッタおよび3リッタの流量で水槽104に供給した。この状態で、電源装置から約18Wの電力を供給してストリーマコロナ放電を発生し、ストリーマコロナシャワーを液体に照射した。そして、ストリーマコロナシャワーの照射開始から5分後、10分後、20分後、30分後および60分後の試料をサンプリングして菌の死滅率を測定した。
【0033】
図4から図7は各サンプルの細菌の死滅率の測定結果を示す図である。何れの試料の測定結果も、ほぼ照射時間に比例した死滅率の増加が認められ、実施例の殺菌装置が液体の殺菌に有効であることを示している。
【0034】
上記の試験中、リアクタ内の温度および水槽104から流出する液の温度(配管表面の温度)を測定したが、同様の流量でストリーマコロナ放電を発生しない場合の温度変化と差はなかった。従って、液体の加熱による殺菌効果ではないことは明らかである。また、上記の試験前後のサンプルにイオン組成の変化があるか否かを調べたが、イオン組成の変化は認められなかった。
【0035】
[殺菌原理]
発明者らは、上記の試験結果から、ストリーマコロナ放電によって液体中に発生するオゾンが殺菌作用を示す一要素と考え、実施例の殺菌装置においてオゾンの検出実験を行った。水槽104にイオン交換水を注入し、直流正極性コロナ放電を発生して、赤外吸収スペクトル測定および発光分光測定を行った。
【0036】
図8はリアクタ内のガスの赤外吸収スペクトル測定の結果を示す図で、波数[cm-1]に対する吸収度を示している。980〜1070cm-1の波数領域でオゾンの吸光度の増加が示され、オゾンの発生が確認された。
【0037】
図9は放電の発光を分光分析した結果を示す図で、微弱ではあるが、オゾンのスペクトルがみられる。
【0038】
[養液栽培システムへの適用]
図10は実施例の殺菌装置を養液循環式の養液栽培システムに適用する場合の原理を示す図である。
【0039】
給液タンク1に蓄えられた養液は、ポンプ2によって栽培ベッド3に供給される。栽培ベッド3を通過した養液は、排液タンク4に一旦蓄えられた後、ポンプ5によって殺菌装置6へ供給される。殺菌装置6によって殺菌された養液は、給液タンク1に戻される。
【0040】
図10に示す原理的な構成によれば、給液タンク1→栽培ベッド3→排液タンク4→殺菌装置6→給液タンク1の循環路に流れる養液の速度に合った能力(水槽104のサイズ、板状電極101の面積、放電用の供給電力など)をもつ殺菌装置6を用意すれば、殺菌装置6を通過した排液だけを循環することができるので、大きな殺菌効果を得ることができる。その反面、循環路に流れる養液の速度に見合う殺菌装置6は、大型になり、価格も高くなると考えられる。
【0041】
上記の点を考慮したのが、図11に示す養液循環式の養液栽培システムに適用可能な液体循環装置の構成例で、排液タンク4と殺菌装置6の間で排液103を循環することで、殺菌装置6の小型化および低価格化を図った構成である。なお、図11に示す液体循環装置は、養液だけでなく、循環利用される様々な液体の殺菌に適用可能である。
【0042】
給液タンク1に蓄えられた養液は、ポンプ2によって栽培ベッド3に供給される。栽培ベッド3を通過した養液は、排液タンク4に一旦蓄えられる。例えば、所定時間(例えば夜間の12時間など)に殺菌装置6およびポンプ5を稼働して、排液タンク4と殺菌装置6の間で排液を循環して、排液を殺菌する。
【0043】
所定時間経過後(例えば翌朝)、ポンプ7によって排液タンク4の殺菌された排液を給液タンク1に戻し、蒸発や植物体による吸収などによって不足した養液を、タンク8およびポンプ9によって供給する養液成分および給水によって補い、再び、養液として栽培ベッド3に供給する。
【0044】
栽培ベッド3の面積が10アール(トマトを養液栽培するとして収穫量は概略1,000kg/月)だとすると、養液の供給量は4,000リットル/日になる。排液の回収率を50%とすると、一日の回収液量は2,000リットルになり、この排液を翌日の最初の給水までに殺菌する殺菌装置6は次のようになる。
板状電極101の面積:1.8m2
水槽104を流れる排液の深さ:15mm
ストリーマコロナ放電用電力:1.8kW
【0045】
このような構成によれば、排液にストリーマコロナシャワーを約12時間(夜間)照射することになり、少なくとも50%の細菌を死滅することができる(養液ECは0.5dS/mとする)。従って、夜間は常に殺菌装置6を稼動することで、菌濃度の上昇を抑え、病気発生のリスクを抑えることができる。
【0046】
このように、養液循環路に殺菌装置6を組み込んだ養液循環装置にするだけで、養液栽培システムの排液を効率的に殺菌することができる。殺菌装置6の設置面積は小さく、電力消費も小さい。また、残留物もなく、養液の透過率を保つためのフィルタ、養液のpH管理なども不要である。従って、養液循環式の養液栽培システム用として、イニシャルコスト、ランニングコストともに低価格の、メンテナンスフリーの殺菌装置および養液循環装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】コロナ放電発生装置の構成例を示す図、
【図2】コロナ放電発生装置に使用する板状電極を説明する図、
【図3】実施例の殺菌装置の構成例を示す図、
【図4】試料A1におけるストリーマコロナシャワー照射時間と細菌の死滅率の関係を示す図、
【図5】試料A2におけるストリーマコロナシャワー照射時間と細菌の死滅率の関係を示す図、
【図6】試料B1におけるストリーマコロナシャワー照射時間と細菌の死滅率の関係を示す図、
【図7】試料B2におけるストリーマコロナシャワー照射時間と細菌の死滅率の関係を示す図、
【図8】リアクタ内のガスの赤外吸収スペクトル測定の結果を示す図、
【図9】放電の発光を分光分析した結果を示す図、
【図10】実施例の殺菌装置を養液循環式の養液栽培システムに適用する場合の原理を示す図、
【図11】養液循環式の養液栽培システムに適用可能な液体循環装置の構成例を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路を通過する液体を殺菌する殺菌装置であって、
前記流路の上に前記液体に非接触に配置され、複数本の針状電極の列を複数行有するクラスタ電極を、その一面に複数有する板状電極と、
前記板状電極と前記液体の間にコロナ放電を発生するための電力を供給する電源とを有することを特徴とする殺菌装置。
【請求項2】
さらに、前記流路内に、前記板状電極に対向配置された、前記クラスタ電極をもたない電極を有し、前記電源は、前記板状電極と前記流路の電極間に前記電力を供給することを特徴とする請求項1に記載された殺菌装置。
【請求項3】
前記針状電極の列は、前記流路の流通方向に略直交して配置されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された殺菌装置。
【請求項4】
前記液体は養液栽培用の養液であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載された殺菌装置。
【請求項5】
養液栽培システムの養液を循環する液体循環装置であって、
前記養液の循環路に、請求項1から請求項4の何れかに記載された殺菌装置を配置したことを特徴とする液体循環装置。
【請求項6】
所定の容器または流路に液体を供給する供給手段と、
前記所定の容器または流路を通過した前記液体を溜めるタンクと、
前記タンクとの間で前記液体を循環して前記液体を殺菌する、請求項1から請求項4の何れかに記載された殺菌装置と、
前記タンクに溜まった前記液体を前記供給手段に戻す循環手段とを有することを特徴とする液体循環装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載された液体循環装置を有することを特徴とする養液栽培システム。
【請求項1】
流路を通過する液体を殺菌する殺菌装置であって、
前記流路の上に前記液体に非接触に配置され、複数本の針状電極の列を複数行有するクラスタ電極を、その一面に複数有する板状電極と、
前記板状電極と前記液体の間にコロナ放電を発生するための電力を供給する電源とを有することを特徴とする殺菌装置。
【請求項2】
さらに、前記流路内に、前記板状電極に対向配置された、前記クラスタ電極をもたない電極を有し、前記電源は、前記板状電極と前記流路の電極間に前記電力を供給することを特徴とする請求項1に記載された殺菌装置。
【請求項3】
前記針状電極の列は、前記流路の流通方向に略直交して配置されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された殺菌装置。
【請求項4】
前記液体は養液栽培用の養液であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載された殺菌装置。
【請求項5】
養液栽培システムの養液を循環する液体循環装置であって、
前記養液の循環路に、請求項1から請求項4の何れかに記載された殺菌装置を配置したことを特徴とする液体循環装置。
【請求項6】
所定の容器または流路に液体を供給する供給手段と、
前記所定の容器または流路を通過した前記液体を溜めるタンクと、
前記タンクとの間で前記液体を循環して前記液体を殺菌する、請求項1から請求項4の何れかに記載された殺菌装置と、
前記タンクに溜まった前記液体を前記供給手段に戻す循環手段とを有することを特徴とする液体循環装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載された液体循環装置を有することを特徴とする養液栽培システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−255674(P2006−255674A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80517(P2005−80517)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【出願人】(504193837)国立大学法人室蘭工業大学 (70)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【出願人】(504193837)国立大学法人室蘭工業大学 (70)
【Fターム(参考)】
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