説明

殺菌装置

【目的】殺菌装置の製造コストの低減を図る。
【構成】過酸化水素水Mを貯留する貯留霧化タンク10内の底部に,水平面に対して傾斜した超音波出射面1aを有する超音波振動子1が過酸化水素水Mに没して設けられている。上記超音波振動子1の超音波出射面1aから出射する超音波によって,過酸化水素水Mが霧化される。粒径の小さな霧化された過酸化水素水mが,加熱された殺菌ガス給送管30を通して殺菌工程まで搬送され,殺菌ガス給送管30の先端に設けられた噴霧ノズル33から噴霧され,殺菌対象物Cに吹き付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,殺菌装置,特に包装容器を含む包装材等の表面を殺菌する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
包装材等の殺菌は,たとえば過酸化水素水を霧状にして包装材等の表面に吹付けることによって行われる。特許文献1には,高温に加熱された加熱ガス化チャンバー(一般には「気化管」と呼ばれている)内に噴霧器(噴霧ノズル)から霧状の過酸化水素水を噴霧し,チャンバー内で気化し,包装材等に向けて噴霧する殺菌装置が開示されている。噴霧器から噴霧される霧状の過酸化水素水の粒径は大きくかつ不均一なため,その霧状過酸化水素水を直接に噴霧すると,過酸化水素水のしずく(液滴)が噴霧口から落ちたり(ボタ落ち),包装材等への過酸化水素水の吹付けムラが生じ,乾燥工程で過酸化水素が乾燥し難く,残留過酸化水素量が多くなる場合もある。上記従来技術では,噴霧器から噴霧される過酸化水素水を加熱ガス化チャンバー内で加熱し,これによって得られる小さい粒径の過酸化水素を包装材等に吹付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3214347号公報
【0004】
過酸化水素の沸点は約115℃である。噴霧器から噴霧される過酸化水素水を加熱ガス化チャンバー内で気化するには,チャンバー内を200℃〜300℃程度の高温に加熱しなければならない。殺菌装置の運転開始時には加熱ガス化チャンバーを上記温度まで昇温し,運転終了時には加熱ガス化チャンバーを常温まで冷却しなければならないので,この昇温や冷却に長時間を費やす。このため作業員の待ち時間が長くなる。また,運転中は加熱ガス化チャンバー内を高温状態に保持しなければならないので,消費電力が大きい。さらに,加熱ガス化チャンバーおよび噴霧器のいずれもが比較的高価であるので,殺菌装置の製造コストが高くなる。また,複数列の殺菌装置の場合には,複数の噴霧器および複数の加熱ガス化チャンバーを設けることが必要となるため,殺菌装置全体の価格はさらに高くなる。
【発明の開示】
【0005】
この発明は,殺菌装置の製造コスト,および運転コストの低減を図ることを目的とする。
【0006】
この発明はまた,殺菌装置の運転開始までの待ち時間,および運転終了時の待ち時間の短縮化を図ることを目的とする。
【0007】
この発明による殺菌装置は,下部に殺菌液を貯留し,上部に霧化空間を形成する貯留霧化タンク,上記貯留霧化タンク内の底部に設けられ,超音波出射面が水平面に対して傾斜している超音波振動子,上記貯留霧化タンク内の霧化空間に連通し,上記貯留霧化タンク内で霧化された殺菌液を含む殺菌ガスを殺菌工程まで給送する殺菌ガス給送管,および殺菌工程において上記殺菌ガス給送管の先端に設けられた殺菌ガスの噴霧ノズルを備えるものである。
【0008】
殺菌ガス給送管内を給送される殺菌ガスは,霧化空間内において霧化された殺菌液のみならず,霧化された殺菌液が蒸発(気化)して気体となったもの,殺菌液が溶媒(たとえば水)によって希釈されている場合には溶媒が霧化されたもの,その気体(たとえば,水蒸気),後述する送り出しガスやアシストガス,その他の液体および気体の一部または全部を含むものであってもよい。
【0009】
この発明による殺菌装置は,殺菌ガスを殺菌対象物に吹付けて,殺菌対象物の表面の殺菌処理を行うものである。この発明において,「殺菌」の概念は,「滅菌」,「減菌」,「消毒」の概念を含む。
【0010】
貯留霧化タンク内の底部に設けられている超音波振動子の超音波出射面は同タンク内に貯留されている殺菌液中に没する。超音波振動子の超音波出射面から出射する超音波が,直接に殺菌液に伝わる。超音波振動子の超音波出射面から出射する超音波によって,貯留霧化タンクの殺菌液が霧化される。超音波振動子によって霧化される殺菌液は,噴霧器から噴霧されるものに比べてその粒径が小さくかつ均一である。また,超音波振動子は,その超音波出射面が水平面に対して傾斜しているので,超音波出射面を水平面と平行に設ける場合に比べて霧化効率がよい。
【0011】
この発明によると,超音波振動子の超音波出射面から出射される超音波によって殺菌液が霧化されるので,噴霧器は不要である。しかも,超音波によって得られる霧状の殺菌液は粒径が小さくかつ均一である。したがって噴霧器および気化管を備えた従来の殺菌装置よりも,殺菌装置の製造コストの低減を図ることができる。また,気化管を高温に加熱するまでの待ち時間および運転終了時に気化管を冷却するまでの待ち時間も必要なく,殺菌装置の運転の効率化が実現する。気化管を高温に加熱するための大きな電力消費も必要なく,従来の殺菌装置よりも殺菌装置の運転コストの低減を図ることもできる。
【0012】
好ましい実施態様では,上記殺菌ガス給送管内の殺菌ガスを加熱する加熱装置がさらに備えられる。より好ましくは,殺菌ガス給送管の全長にわたって加熱する。殺菌ガス給送管内において霧化された殺菌液が加熱されるので,霧化された殺菌液の殺菌ガス給送管内での結露が抑制される。一実施態様では,殺菌ガスを殺菌液の沸点以上に加熱する。
【0013】
一実施態様では,上記加熱装置は,上記貯留霧化タンクの近くの方が遠方よりも温度が高くなるように,上記殺菌ガス給送管内の殺菌ガスを加熱する。結露が生じやすい貯留霧化タンクの近くにおいて殺菌ガス給送管内の結露が効果的に抑制される。
【0014】
好ましくは,上記殺菌ガス給送管は,上記貯留霧化タンクの上部からほぼ垂直方向に延びた部分を有する。貯留霧化タンクに近い位置の殺菌ガス給送管内で霧状の殺菌液がたとえ結露しても,結露した殺菌液を貯留霧化タンク内に落下させて戻すことができる。垂直方向に延びた部分を最も高い温度で加熱するとよい。
【0015】
他の実施態様では,送り出しガス供給管を含む送り出しガス供給装置が設けられ,送り出しガスが上記貯留霧化タンク内の上記霧化空間に供給される。上記貯留霧化タンク内の霧化空間で霧化された殺菌液が,送り出しガスによって上記殺菌ガス給送管へ効率よく送り出される。好ましくは,上記送り出しガス供給管は上記貯留霧化タンクの壁面の複数箇所に開口しており,霧化空間に複数箇所から送り出しガスが供給される。上記送り出しガス供給管は,上記貯留霧化タンク内の制御された殺菌液の液面よりも上方位置に水平向きまたは斜め上向きに送り出しガスを吹き出すように,上記貯留霧化タンクの壁面に開口させるとよい。貯留霧化タンクに貯留されている殺菌液の液面が送り出しガスによって乱されるのが防止される。
【0016】
一実施態様では,殺菌装置は,上記貯留霧化タンク内の殺菌液の液面を検出する液面検出装置,および上記液面検出装置の検出に基づいて,上記貯留霧化タンク内の殺菌液の液面が常にほぼ一定となるように殺菌液を供給する殺菌液供給装置を備える。貯留霧化タンクの下部に一定容量の殺菌液が貯留され,液面を一定に保つことによって安定した霧化が期待される。
【0017】
好ましくは,貯留霧化タンク内に殺菌液を供給する殺菌液供給装置の殺菌液供給管の先端が,上記貯留霧化タンク内の制御された殺菌液の液面近くで開口するように配管される。上記殺菌液供給装置によって貯留霧化タンク内に殺菌液が供給(補充)されるときに,貯留霧化タンク内に貯留されている殺菌液の液面を乱さないようにすることができる。
【0018】
好ましくは,上記殺菌ガス給送管の途中にアシストガスを供給するアシストガス供給管を含むアシストガス供給装置が備えられる。殺菌対象物への殺菌ガスの付着量を安定化することができる。アシストガス供給管内のアシストガスを加熱装置によって加熱して,加熱されたアシストガスを上記殺菌ガス給送管に供給してもよい。
【0019】
一実施態様では,上記殺菌ガス給送管は殺菌工程付近において複数の支管に分岐し,各支管の先端にそれぞれ噴霧ノズルが設けられる。複数の殺菌対象物を同時に殺菌することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】殺菌装置の主要部の一構成例を概略的に示す。
【図2】殺菌装置の噴霧部の一例を示す斜視図である。
【図3】殺菌装置の噴霧部の他の例を示す一部切欠き斜視図である。
【図4】殺菌装置の主要部の他の構成例を概略的に示す。
【実施例】
【0021】
図1は殺菌装置の主要部の一構成例を概略的に示している。殺菌装置は貯留霧化タンク10を備えている。貯留霧化タンク10は,耐過酸化水素性に優れたステンレス,ポリ塩化ビニル等によって円筒状または角筒状につくられ,底面部15と,周面部(側面部,側壁)16と,上面部(天板)17とから構成され,後述する送り出しガス供給口12,過酸化水素水流出口13等を除いて密閉空間を形成している。
【0022】
貯留霧化タンク10内に過酸化水素水(たとえば濃度35%)を供給する過酸化水素水供給装置(殺菌液供給装置)50は,過酸化水素水を貯留する過酸化水素水貯留タンク51と,過酸化水素水供給管52と,過酸化水素水を過酸化水素水貯留タンク51から過酸化水素水供給管52を経て貯留霧化タンク10に送り出すポンプ53とから構成されている。過酸化水素水供給管52は,貯留霧化タンク10の上面部17から貯留霧化タンク10内に入り,後述するように貯留霧化タンク10内の過酸化水素水Mの液面近くまで延びている。
【0023】
貯留霧化タンク10には,貯留霧化タンク10内の過酸化水素水の液面レベルを検出する液面検出装置60が設けられている。この液面検出装置60は連通管61を備えている。連通管61は,過酸化水素水Mの制御すべき液面レベルの上方および下方の位置において貯留霧化タンク10の周面に開口し,この上下の位置をつないでいる。連通管61内の垂直部分に液位(液面レベル)センサ62が設けられている。液位センサ62によって,貯留霧化タンク10内に貯留されている過酸化水素水Mの液位(液量)が高位,中位および低位の3つのレベルで検知される。もちろん連続的に検知してもよい。液位センサ62による検知液位に応じて,ポンプ53が制御され,これによって過酸化水素水貯留タンク51から貯留霧化タンク10内に供給される過酸化水素水Mの量が調整される。貯留霧化タンク10内の過酸化水素水Mは所定の一定液位に保たれる。過酸化水素水Mは,貯留霧化タンク10内の下部に比較的浅く貯留され,貯留霧化タンク10内の上部には空間(霧化空間11という)が広がっている。
【0024】
貯留霧化タンク10に貯留された過酸化水素水Mの液面を乱さないようにするために,上述のように過酸化水素水供給管52の先端が貯留霧化タンク10内の過酸化水素水Mの液面近くで開口している。過酸化水素水供給管52の先端開口を貯留霧化タンク10の内壁に接触させておき,貯留霧化タンク10の内壁を伝わせて過酸化水素水Mを貯留霧化タンク10内に供給してもよい。
【0025】
貯留霧化タンク10の底面部15に形成された開口15aに超音波振動子1が水密に固定されている。超音波振動子1の超音波出射面1aは貯留霧化タンク10内の底面よりも低い位置にあり,かつ上方を向いている(霧化空間11の方を向いている)。したがって,超音波振動子1の超音波出射面1aは過酸化水素水M中に没している。超音波振動子は貯留霧化タンク10内の底面部に凹部を形成してその凹部内に固定してもよいし,開口や凹部を設けずに貯留霧化タンク10内の底面上に固定してもよい。
【0026】
超音波振動子1は,比較的高い発振周波数,たとえば2.4MHzの発振周波数によって振動する。超音波振動子1が振動すると,その超音波出射面1aから超音波が出射し,過酸化水素水Mの液面から液柱が噴出し,液柱から霧化された過酸化水素水mが霧化空間11中に飛散する。3μm程度のほぼ均一な粒径の霧状の過酸化水素水mが得られる。
【0027】
超音波振動子1は,その超音波出射面1aが過酸化水素水Mの液面(水平面)に対して傾斜している。超音波振動子1の超音波出射面1aを過酸化水素水Mの液面と平行(水平)とする場合に比べて霧化効率が向上する。
【0028】
超音波振動子1の霧化能力は超音波振動子(超音波出射面1a)と過酸化水素水Mの液面との距離に大きく影響される。上述したように,過酸化水素水Mの液位は常にほぼ一定に保たれるように調整されているので,常にほぼ一定量の安定した霧化動作が期待される。
【0029】
貯留霧化タンク10の側壁16には,上記過酸化水素水Mの液面よりも上方位置に,4つの送り出しガス供給口12があけられ(図1には2つの送り出しガス供給口12が示されている),また貯留霧化タンク10の天板17に1つの過酸化水素流出口13があけられている。送り出しガスはこの実施例では空気(エア)である。送り出しガス(エア)供給装置20は,エア・コンプレッサ25と,エア・コンプレッサ25から供給される圧縮空気を貯留霧化タンク10にあけられた4つの送り出しガス供給口12まで途中で分岐して導く送り出しガス供給管21とを備えている。送り出しガス供給管21の分岐箇所よりもエア・コンプレッサ25側には,開閉および流量調整用のバルブ22,空気清浄用のフィルタ23およびレギュレータ24が設けられている。コンプレッサ25には,ミスト・セパレータおよびエア・ドライヤ(いずれも図示略)が設けられている。
【0030】
このようにして,適度に乾燥され,かつ清浄された送り出しエアが4つの送り出しガス供給口12から貯留霧化タンク10内の霧化空間11に送り込まれる.送り出しエアの流量は,貯留霧化タンク10の容量,送り出しガス供給管21および殺菌ガス給送管30の管径等に依るが,貯留霧化タンク10の容量が20Lの場合には30〜100L/min程度である。送り出しエアは常温以上であればよく,加熱したものでもよい。送り出しエアとしては無菌エアを用いることもできる。送り出しガス供給口12は2つでも,5つ以上でもよい。貯留霧化タンク10内の過酸化水素水Mの液面が送り出しガスの供給によって乱れないようにするために,送り出しガス供給管21の先端の開口12は貯留霧化タンク10の側壁16において液面に対して平行な方向を向いている。先端開口12が斜め上方を向くように,送り出しガス供給管21をタンク10の側壁16近くにおいて斜めに配管してもよい。
【0031】
殺菌ガス給送管30は,その一端が貯留霧化タンク10の天板17の過酸化水素流出口13に接続され,殺菌場所(図2,図3参照)まで配設されている。貯留霧化タンク10の霧化空間11内で発生した過酸化水素水Mの霧mは,送り出しガス供給管12から吐き出される送り出しエアによって過酸化水素流出口13の方に送り出され,送り出しエアとともに殺菌ガス給送管30内を流れて,殺菌場所まで給送される。
【0032】
殺菌ガス給送管30の外側周囲には,その全長にわたって加熱装置(たとえば,リボンヒータ)31が設けられている。加熱装置31によって殺菌ガス給送管30の内部は120℃〜150℃程度に加熱され,かつその温度に保持される。水の沸点は100℃であり,過酸化水素の沸点は約115℃である。殺菌ガス給送管30に霧状の過酸化水素水mが流入すると,殺菌ガス給送管30内において,霧状の過酸化水素水mに含まれる水および過酸化水素は,それらの少なくとも一部が蒸発して気体となる。殺菌ガス給送管30には,霧状の過酸化水素水m,気化された過酸化水素,水蒸気およびエア(送り出しエア)が流れる。殺菌ガス給送管30を流れる霧状過酸化水素水m,気化された過酸化水素,水蒸気および空気を含むこれらの気体および液体の混合体(これらのうちの一つ以上存在しない場合,他の気体または霧状液体が存在する場合を含む)を,まとめて殺菌ガスGという。
【0033】
殺菌ガス給送管30を加熱装置31によって加熱することによって,殺菌ガス給送管30内での霧状の過酸化水素水mの結露が抑制され,殺菌ガス給送管30の先端からの過酸化水素水のしずく(液滴)落ち(ボタ落ち)が防止される。結露は,貯留霧化タンク10に近い位置の殺菌ガス給送管30内で生じやすいので,好ましくは,貯留霧化タンク10の近くの殺菌ガス給送管30内が,遠方よりも高い温度で加熱される。たとえば,貯留霧化タンク10に近い位置では,殺菌ガス給送管30の内部温度が150℃程度となるように加熱し,遠方になるにつれて少しずつ加熱温度を低くして,殺菌ガス給送管30の先端付近では120℃程度に加熱する。
【0034】
殺菌ガス給送管30は,貯留霧化タンク10の天板17から,たとえば,150mm〜300mm程度,ほぼ垂直方向に延びている。これは,たとえ貯留霧化タンク10に近い位置の殺菌ガス給送管30内で結露が発生しても,結露した過酸化水素水を貯留霧化タンク10に落下させて過酸化水素水Mに戻すようにするためである。
【0035】
アシストガスはこの実施例ではアシストエアである。アシストガス(エア)供給装置40は,上述のエア・コンプレッサ25(送り出しガス供給装置20と共用)と,エア・コンプレッサ25から供給される圧縮空気を殺菌ガス給送管30まで給送するアシストガス供給管41とを備えている。アシストガス供給管41には,バルブ42,フィルタ43およびレギュレータ44が設けられ,フィルタ43によって清浄されたエアが供給される。もちろん,アシストエアには無菌エアを用いてもよい。アシストガス供給管41の一部にも加熱装置45が設けられ,殺菌ガス給送管30に合流する手前でアシストエアが120℃〜200℃に加熱される。アシストエアの流量は,後述する噴霧ノズルの形状,サイズ,殺菌対象物の形態等に応じて適宜設定される。アシストエアは,貯留霧化タンク10に供給される送り出しエアのみでは噴霧が安定しない場合や,殺菌対象物の形態によっては殺菌ガスGの付着量が十分でない箇所が発生するおそれがある場合などに用いられる。
【0036】
図2は,殺菌工程が実施される位置に配置される噴霧ノズルによって殺菌対象物に殺菌ガスを噴霧する様子を示す。複数の円錐形状の噴霧ノズルが一列に配列され,その下を,リテーナに保持された殺菌対象物であるカップ(包装容器)が搬送される。
【0037】
殺菌ガス給送管30は,殺菌工程において複数の支管32に分岐し,支管32のそれぞれに噴霧ノズル33が取り付けられている。支管32および噴霧ノズル33にも加熱装置31が設けられている。リテーナ70には複数の穴71があけられている。この穴71に入れられたカップCのフランジが穴71の周縁に引っかかり,カップCはリテーナ70によって保持される。
【0038】
複数の噴霧ノズル33は,搬送されるリテーナ70の表面から5mmから10mm程度の間隔をあけて上方に位置している。リテーナ70が噴霧ノズル33の位置に到達するとリテーナ70の搬送が一時停止し,噴霧ノズル33から吹き出す殺菌ガスGがカップCの内面およびフランジに付着する。その後乾燥工程を経て殺菌が完結する。
【0039】
この実施例の殺菌装置を用いて殺菌ガスGを吹付けたカップCについて過酸化水素の付着量を測定したところ,従来の噴霧器および加熱ガス化チャンバーを備えた殺菌装置(特許文献1を参照)を用いた場合とほぼ同じ付着量が確認された。殺菌効果について,従来の殺菌装置と同様の効果を得ることができた。そして,この実施例の殺菌装置は,上述のように超音波振動子1の超音波出射面1aから出射される超音波によって霧状の過酸化水素水mを得るので従来の殺菌装置のように噴霧器は必要とされず,さらに超音波によって得られる霧状の過酸化水素水mは粒径が小さくかつ均一であるので加熱ガス化チャンバーを備える必要もない。従来の殺菌装置よりも殺菌装置の製造コストの低減を図ることができる。また,加熱ガス化チャンバーを高温に加熱するまでの待ち時間および運転終了時に加熱ガス化チャンバーを冷却するまでの待ち時間も必要なく,殺菌装置の運転の効率化も実現する。加熱ガス化チャンバーを高温に加熱するための大きな電力消費も必要とされず,殺菌装置の運転コストの低減も図ることができる。このように,この実施例の殺菌装置は,従来の殺菌装置と同様の殺菌効果を確保しつつ,殺菌装置の製造コスト,殺菌装置の運転の効率化,および殺菌装置の運転コストのいずれの観点からも,従来の殺菌装置に比べて有利である。
【0040】
図3は,殺菌装置の殺菌ガス噴霧部の他の例を示す一部切欠き斜視図であり,シートSを殺菌する例を示している。
【0041】
殺菌対象物がシートSの場合には,シートSの幅よりも少し長いスリット35aを有しており,スリット35aから殺菌ガスGを吹出す2つの噴霧ノズル35が,シートSの搬送路をその上下(表裏)から挟む位置に設けられる。殺菌ガス給送管30は2つの支管34に分岐し,各支管34の先端のそれぞれに上記噴霧ノズル35が設けられる。噴霧ノズル35にもその外側周囲に加熱装置31が設けられ,所定温度に加熱されている。連続搬送されるシートSの両面に向けて,噴霧ノズル35のスリット35aから殺菌ガスGが吹出す。シートSの両面に殺菌ガスGが付着する。その後乾燥工程を経て殺菌が完結する。
【0042】
図4は殺菌装置の主要部の他の例を示している。図1に示す殺菌装置の主要部と異なる部分についてのみ説明する。
【0043】
貯留霧化タンク10Aの天板17Aは,上方に突出するように湾曲しかつ傾斜している。殺菌ガス給送管30は天板17Aの中央部(頂点)に接続されている。天板17Aの湾曲に沿って霧状の過酸化水素mを殺菌ガス給送管30に効率よく送り込むことができる。
【0044】
アシストガス供給管41は,殺菌ガス給送管30中を流れる殺菌ガスGの向きに沿う方向に,斜めに殺菌ガス給送管30に接続されている。殺菌ガス給送管30に供給されるアシストガスの向きが,殺菌ガス給送管30中を流れる殺菌ガスGの向きとほぼ同じ向きとなる。殺菌ガス給送管30の一部を二重の管構造にして,中心に殺菌ガスを流し,その周囲の環状部分にアシストガスを流して,中心の殺菌ガスに周囲から合流させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 超音波振動子
1a 超音波出射面
10,10A 貯留霧化タンク
11 霧化空間
20 送り出しガス供給装置
21 送り出しガス供給管
30 殺菌ガス給送管
31 加熱装置
33,35 噴霧ノズル
40 アシストガス供給装置
41 アシストガス供給管
50 過酸化水素水供給装置
52 過酸化水素水供給管
53 ポンプ
60 液面検出装置
62 液位センサ
m 霧化された過酸化水素水
M 過酸化水素水
G 殺菌ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部に殺菌液を貯留し,上部に霧化空間を形成する貯留霧化タンク,
上記貯留霧化タンク内の底部に設けられ,超音波出射面が水平面に対して傾斜している超音波振動子,
上記貯留霧化タンク内の霧化空間に連通し,上記貯留霧化タンク内で霧化された殺菌液を含む殺菌ガスを殺菌工程まで給送する殺菌ガス給送管,および
殺菌工程において上記殺菌ガス給送管の先端に設けられた殺菌ガスの噴霧ノズル,
を備える殺菌装置。
【請求項2】
上記殺菌ガス給送管内の殺菌ガスを加熱する加熱装置をさらに備える,請求項1に記載の殺菌装置。
【請求項3】
上記加熱装置は,上記殺菌ガス給送管内の殺菌ガスの温度を,上記貯留霧化タンクの近くの方が遠方よりも高くなるように加熱するものである,請求項2に記載の殺菌装置。
【請求項4】
上記加熱装置は,上記殺菌ガスを殺菌液の沸点以上に加熱するものである,請求項2または3に記載の殺菌装置。
【請求項5】
上記殺菌ガス給送管は,上記貯留霧化タンクの上部からほぼ垂直方向に延びた部分を有する,請求項1から4のいずれか一項に記載の殺菌装置。
【請求項6】
上記貯留霧化タンク内の霧化空間で霧化された殺菌液を上記殺菌ガス給送管に送り出すガスを上記霧化空間に供給する送り出しガス供給管を含む送り出しガス供給装置をさらに備える,請求項1から5のいずれか一項に記載の殺菌装置。
【請求項7】
上記殺菌ガス給送管の途中にアシストガスを供給するアシストガス供給管を含むアシストガス供給装置をさらに備える,請求項1から6のいずれか一項に記載の殺菌装置。
【請求項8】
上記貯留霧化タンク内の殺菌液の液面を検出する液面検出装置,および
上記液面検出装置の検出に基づいて,上記貯留霧化タンク内の殺菌液の液面が常にほぼ一定となるように殺菌液を供給する殺菌液供給装置をさらに備える,請求項1から7のいずれか一項に記載の殺菌装置。
【請求項9】
上記送り出しガス供給管は,上記貯留霧化タンク内の制御された殺菌液の液面よりも上方位置に,水平向きまたは斜め上向きに送り出しガスを吹き出すように,上記貯留霧化タンクの壁面に開口している,請求項6に記載の殺菌装置。
【請求項10】
上記送り出しガス供給管は上記貯留霧化タンクの壁面の複数箇所に開口している,請求項6または9に記載の殺菌装置。
【請求項11】
上記殺菌ガス給送管は,殺菌工程付近において複数の支管に分岐し,各支管の先端にそれぞれ上記噴霧ノズルが設けられている,請求項1から10のいずれか一項に記載の殺菌装置。
【請求項12】
殺菌液供給装置に接続された殺菌液供給管の先端が,上記貯留霧化タンク内の制御された殺菌液の液面近くで開口している,請求項8に記載の殺菌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−147578(P2011−147578A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10684(P2010−10684)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】