説明

殺藻・殺菌剤及び殺藻・殺菌方法

【課題】本発明の課題は、水への溶解性に優れる、低コストで取り扱い性に優れた殺藻剤及び殺藻・殺菌剤を提供することにある。
【解決手段】本発明は、N−クロロ−2−ピロリジノンを含有することを特徴とする殺藻剤、並びに、下記式(I)で表される環状のN−クロロ化合物又はN,N’−ジクロロ化合物から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする殺藻・殺菌剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺藻・殺菌剤に関する。本発明の殺藻・殺菌剤は、これに限定されるものではないがクーリングタワー等の循環冷却水、各種工業用水や廃水、池、湖沼、貯水池放水路、噴水、建築物外壁などで太陽光があたり且つ大気と接する水系において発生する藻類及び一般細菌の生育及び増殖を抑制するために用いられる。
【背景技術】
【0002】
上記の水系や施設では、しばしば藻類の繁殖により、異臭の発生や外観の悪化などの他に、配管の詰まり、クーリングタワーの循環式冷却水系統においては熱交換効率の低下、散水板の閉塞などにより冷却塔が機能しなくなるなど様々な問題を引き起こす要因となっている。また、富栄養化の進んだ湖沼や用水池、内湾や入江のような閉鎖性の強い水系においては、しばしばアオコが大量発生し、これにより外観を損なうだけでなく、特異な臭気や、湖沼に生息する魚介類のへい死を招くなど甚大な被害をもたらす要因となっている。
【0003】
このような藻類及び一般細菌の生育及び増殖を抑制するための薬剤として、殺藻剤としては、アメトリン、シメトリン、プロメトリン等のトリアジン系殺藻剤が効果の高さから用いられている{「農薬ハンドブック」(1998年版 社団法人 日本植物防疫協会 編)}。しかしこれらトリアジン系殺藻剤は、水に対する溶解性が低く、製剤化の際には多量の有機溶剤を配合する必要があり、水系に添加した際には製剤中の有機溶剤が一般細菌の栄養源となってしまうなどの問題があった。また、これらトリアジン系殺藻剤は毒性や発ガン性が指摘されるなど安全性の面でも課題を有している。一方、一般細菌の生育及び増殖を抑制するための殺菌剤としては、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンなどのイソチアゾロン系化合物や2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオールに代表される有機臭素系化合物が用いられている(特許文献1および特許文献2)。しかし、イソチアゾロン系化合物は、毒性、皮膚刺激性、粘膜刺激性が強く取り扱い等が不便であり、有機臭素系化合物は、一般細菌に対する効果は比較的強いものの殺藻効果が弱いという欠点があった。このため、殺藻効果と殺菌効果の両効果を得るためには、少なくとも2種以上の成分を組み合わせる必要があり、製剤化の面では薬剤が高価となり、各成分を水系に別々に添加する場合でも、薬剤添加のためのポンプや薬液タンクなどの経費が必要になるなどの他に作業が繁雑となる課題を有している。
【0004】
近年では、水の供給の逼迫、価格の上昇に伴い、水の循環再利用が進み、殺菌・殺藻剤の必要性が益々高まっている反面、経費削減を目的としてこれら薬剤の低コスト化も望まれている。このことを受けて、安価な次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系酸化剤、アゾール系化合物及びスルファミン酸若しくはその塩を含有する殺菌殺藻剤が報告されている(特許文献3)。しかし、この次亜塩素酸塩にスルファミン酸又はその塩を添加して形成されるN−クロロスルファミン酸若しくはN,N−ジクロロスルファミン酸又はこれらの塩は、結合型塩素であり、次亜塩素酸などの遊離塩素と比較するとその殺菌効果は劣ることが知られている。また、結合型塩素は、酸化力が遊離塩素に比べて低減されるものの、高濃度では系内配管・設備の腐食などの問題を引き起こす可能性が高い。一般に次亜塩素酸などハロゲン系酸化剤の殺藻効果は、前述のアメトリンなどのトリアジン系殺藻剤に比べて低く、結合型のN−クロロスルファミン酸なども同様である。このため、殺藻効果を得るためには高濃度の添加が必要となり、結果として系内配管・設備の腐食を引き起こす危険性が高まるなどの課題があった。このように、現在使用される薬剤は、水に対する溶解性、コスト、取り扱い性、安全性等の面において様々な欠点を有しており、必ずしも満足できるものではなかった。
【0005】
なお、本発明の殺藻・殺菌剤成分の一つであるN−クロロ−2−ピロリジノンは、特許文献4にN−クロロ−5−メチル−2−オキサゾリジノンなどと併せて消毒・漂白剤としての報告があるが、殺藻効果についての記載はない。また、次亜塩素酸の安定化を目的にN−水素化合物類としてスルファミン酸やヒダントインなどと共に2−ピロリジノンを配合する方法が特許文献5や特許文献6に報告されているが、あくまでも2−ピロリジノンなどのN−水素化合物類は次亜塩素酸の安定化を目的として配合されており、本発明に示す結合型のN−クロロ化合物或いはN,N’−ジクロロ化合物としての評価はなされておらず、殺藻効果についての言及もない。さらに、特許文献7では、遊離ハロゲンとN−水素化合物類としてジメチルヒダントインを併用する微生物防除方法が報告されており、N−水素化合物類の一つとして2−ピロリジノンの記載はあるが、実施例としての評価はされておらず、殺藻効果についての言及もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭53−118527号公報
【特許文献2】特公昭55−73603号公報
【特許文献3】特許第4470121号
【特許文献4】米国特許第3591601号
【特許文献5】米国特許第3749672号
【特許文献6】特開2002−363016号公報
【特許文献7】米国特許第5565109号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、水への溶解性に優れる、低コストで取り扱い性に優れた殺藻剤及び殺藻・殺菌剤を提供することにある。
【0008】
本発明の課題はまた、腐食が望まれない金属部材と接触している水系中において藻類及び/又は細菌類を防除するための方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明を概説すれば、本発明は、
(1)N−クロロ−2−ピロリジノンを含有することを特徴とする殺藻剤、
(2)水又は水と水溶性有機溶剤の混合溶液を更に含む、水溶性の液体製剤であることを特徴とする(1)記載の殺藻剤、
(3)式(I):
【化1】

(式中のXはメチレン基、二級アミノ基又はN−クロロ基を表し、Rは炭素原子数が2〜5のアルキレン基を示す。但し、XがN−クロロ基のときRは炭素原子数が2〜3のアルキレン基である。)
で表される環状のN−クロロ化合物又はN,N’−ジクロロ化合物(但し、N−クロロ−2−ピロリジノンを除く)から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする殺藻・殺菌剤、
(4)式(I)で表される環状のN−クロロ化合物又はN,N’−ジクロロ化合物が、N−クロロ−2−ピペリドン、N−クロロ−ε−カプロラクタム、N−クロロ−ω−ヘプタラクタム、N−クロロ−2−イミダゾリジノン、N,N’−ジクロロ−2−イミダゾリジノン、N−クロロ−テトラヒドロ−2−ピリミジノン、及びN,N’−ジクロロ−テトラヒドロ−2−ピリミジノンから選ばれる1種以上であることを特徴とする(3)記載の殺藻・殺菌剤、
(5)水又は水と水溶性有機溶剤の混合溶液を更に含む、水溶性の液体製剤であることを特徴とする(3)又は(4)記載の殺藻・殺菌剤、
(6)腐食が望まれない金属部材と接触している水系中に、式(I):
【化2】

【0010】
(式中のXはメチレン基、二級アミノ基又はN−クロロ基を表し、Rは炭素原子数が2〜5のアルキレン基を示す。但し、XがN−クロロ基のときRは炭素原子数が2〜3のアルキレン基である。)
で表される環状のN−クロロ化合物又はN,N’−ジクロロ化合物から選ばれる1種以上を含有する殺藻・殺菌剤を、残留塩素濃度(Cl換算)として0.2〜10mg/Lとなるように添加する殺藻・殺菌方法、
(7)式(I)で表される環状のN−クロロ化合物又はN,N’−ジクロロ化合物が、N−クロロ−2−ピロリジノン、N−クロロ−2−ピペリドン、N−クロロ−ε−カプロラクタム、N−クロロ−ω−ヘプタラクタム、N−クロロ−2−イミダゾリジノン、N,N’−ジクロロ−2−イミダゾリジノン、N−クロロ−テトラヒドロ−2−ピリミジノン、及びN,N’−ジクロロ−テトラヒドロ−2−ピリミジノンから選ばれる1種以上であることを特徴とする(6)記載の殺藻・殺菌方法
に関する。
【0011】
本発明者は、水への溶解性に優れ、優れた殺藻効果と殺菌効果とを発揮し、低コストで取り扱い性に優れた殺藻・殺菌剤組成物を鋭意研究した結果、水溶性の液体製剤として取り扱え、水への溶解性に優れ、水溶液中において安定で、有効塩素が結合型のN−クロロ又はN,N’−ジクロロ化合物でありながら、優れた殺藻効果と殺菌効果を示し、尚且つ腐食性の低い、取り扱い性に優れた殺藻・殺菌剤組成物を見出し、本発明に至った。
【発明の効果】
【0012】
本発明の式(I)で表される環状のN−クロロ化合物又はN,N’−ジクロロ化合物は、水への溶解性に優れ、高い殺藻効果と殺菌効果を示すことを見出した。
【0013】
また、式(I)で表される環状のN−クロロ化合物又はN,N’−ジクロロ化合物は、水に任意の割合で溶解するため、水溶液として取り扱うことができ、当水溶液は、長期に渡り有効塩素濃度を維持する安定な水溶液であることも見出した。
【0014】
加えて、本発明の式(I)で表される環状のN−クロロ化合物又はN,N’−ジクロロ化合物は、対応するN−水素環状アミド化合物と次亜塩素酸ナトリウムなどの水中で次亜塩素酸を発生させる化合物との混合により安価に且つ簡単に安定な水溶液として調製出来ることも利点の一つである。
【0015】
さらには、本発明の式(I)で表される環状のN−クロロ化合物又はN,N’−ジクロロ化合物は、腐食性が極めて低く、高濃度での使用においても設備、配管を腐食してしまう危険性が低いことも利点である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0017】
本発明において式(I)で表される環状のN−クロロ化合物又はN,N’−ジクロロ化合物は、好ましくは、N−クロロ−2−ピロリジノン、N−クロロ−2−ピペリドン、N−クロロ−ε−カプロラクタム、N−クロロ−ω−ヘプタラクタム、N−クロロ−2−イミダゾリジノン、N,N’−ジクロロ−2−イミダゾリジノン、N−クロロ−テトラヒドロ−2−ピリミジノン、及びN,N’−ジクロロ−テトラヒドロ−2−ピリミジノンから選ばれる1種以上である。
【0018】
本発明において、「殺藻剤」及び「殺藻・殺菌剤」という用語は、それぞれ、所定の有効成分を少なくとも含み、他の成分が配合されていてもよい殺藻用の化合物又は組成物、並びに、殺藻及び/又は殺菌用の化合物又は組成物を指す。
【0019】
上記の他の成分としては、製剤化のための希釈剤、賦形剤等の媒体や、他の有効成分が挙げられる。他の成分は安定性を損なわない範囲内で公知の成分から選択することができる。
【0020】
本発明の殺藻剤及び殺藻・殺菌剤は任意の形態に製剤化されたものであってよい。好ましい製剤化の形態として、本発明の式(I)で表される環状のN−クロロ化合物又はN,N’−ジクロロ化合物を、水あるいは水と水溶性有機溶剤の混合溶液に溶解して形成された、水溶性の液体製剤が挙げられる。水溶性有機溶剤としては、乳酸、蟻酸、酢酸、クエン酸等の有機酸類、アセトン等のケトン類、エタノール等のアルコール類、エチレングリコール等のグリコール類、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、ジエチルカーボネート等のエステル類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、環状アミド類、ジメチルホルムアミド等の鎖状アミド類等が挙げられる。
【0021】
さらに、本発明の殺藻・殺菌剤へは、安定性を損なわない範囲内で、公知の殺菌有効成分を配合することが出来る。これらの具体例としては、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノールや2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオールなどの有機ブロモニトロ系化合物、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンや2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンなどのイソチアゾロン系化合物、ジメチルジチオカーバメートなどのジチオカーバメート化合物、2−メルカプトベンゾチアゾールナトリウムなどのチアゾール系化合物、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)−エタン、1,4−ビス−(ブロモアセトキシ)−2−ブテンやN−ブロモアセトアミドなどの有機ブロム酢酸エステル又はアミド類、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、ビス型ピリジニウム塩などの第四級アンモニウム塩などの殺菌剤成分や藻類防除剤成分が挙げられる。また、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤又は両性界面活性剤の配合も可能である。
【0022】
クーリングタワーなどの工業用循環冷却水用途では、さらにアクリル酸やマレイン酸などを含む重合体や2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸などの有機ホスホン酸等のスケール抑制剤、亜鉛塩、重合リン酸塩、有機ホスホン酸、アゾール化合物、モリブテン酸塩などの腐食抑制剤の配合も可能である。
【0023】
なお、本発明の殺藻・殺菌剤組成物及び次亜塩素酸の有効塩素濃度は、ジエチル−p−フェニレンジアンモニウム(DPD)比色法、DPD−硫酸アンモニウム鉄(II)滴定法(JIS K 0101)などの方法で測定でき、簡易な分析キットも市販されている。本発明での有効塩素濃度測定には、DPD−硫酸アンモニウム鉄(II)滴定法と平沼産業社製の有効塩素カウンタ CL−300(ヨウ素電量滴定法)を用いて行った。
【0024】
本発明の殺藻・殺菌剤の該水系への添加量は、該水系の規模、対象とする水系の水質、汚染の程度、添加頻度等により異なるために一律に決められるものではないが、通常は該水系の水において残留塩素濃度として0.1〜50mg/Lとするのが望ましい。残留塩素濃度として0.1mg/Lより低い場合には、実質的に本発明の効果が期待できず、また50mg/Lより多い場合は、経済性の面で好ましくない。なお、ここでいう残留塩素濃度とは、水中に残留する全ての有効塩素濃度を意味する。
【0025】
本発明はまた、式(I)で表される上記の化合物を、水系中に添加し、該水系中での藻類及び/又は細菌類の生育及び/又は増殖を抑制する方法に関する。この方法は特に、腐食が望まれない金属部材と接触している水系における藻類及び/又は細菌類の防除に適した方法である。驚くべきことに、従来公知のN−クロロ化合物系殺藻・殺菌剤と比較して、本発明の殺藻・殺菌剤は高濃度でも鉄や銅への腐食性が低い。金属部材の腐食を抑制しつつ藻類及び/又は細菌類を防除するためには、式(I)で表される化合物を、残留塩素濃度(Cl換算)として0.2〜10mg/L、より好ましくは2.5〜5.0mg/Lとなるように水系中に添加することが好ましい。腐食が望まれない金属部材としては、水系に接触する金属製の配管や設備が挙げられる。金属としては鉄、銅、ステンレス鋼等が挙げられる。残留塩素濃度(Cl換算)は上述の有効塩素濃度の測定方法により測定することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
実施例1では、クロロホルム[試薬、関東化学(株)製] 100g に2−ピロリジノン[試薬、関東化学(株)製] 6.8g を加え、室温下、トリクロロイソシアヌル酸[試薬、東京化成工業(株)製] 9.3g を40分かけて投入した。生じた白色スラリーを6時間攪拌後に吸引濾過した。この濾液をロータリーエバポレーターで濃縮後に氷冷してN−クロロ−2−ピロリジノンの白色結晶 9.4g を得た(収率98.4%、物性を下記に示す)。
【0028】
H−NMR(CDCl、δ):
2.28(m、4H)、4.21(t、2H)
IR(KBr、cm−1):
2968、1708、1385、1254、1135、820
【0029】
このN−クロロ−2−ピロリジノンの白色結晶9.4gに酢酸 4.6g 、水 86.0g を加えて、有効塩素濃度5.5%のN−クロロ−2−ピロリジノン水溶液 100gを調製した。なお、この水溶液は、DPD−硫酸アンモニウム鉄(II)滴定法において、塩素形態は結合型として検出された。
【0030】
実施例2では、2−ピペリドン[試薬、関東化学(株)製] 7.6gと水 42.8gとを混合し、酢酸[試薬、関東化学(株)製] 4.6gを加えた水溶液に有効塩素濃度12%の次亜塩素酸ナトリウム溶液[有効塩素濃度12%、やよい産業(株)製] 45.0gを添加して、有効塩素濃度 5.4%のN−クロロ−2−ピペリドン水溶液 100g を調製した。この水溶液は、DPD−硫酸アンモニウム鉄(II)滴定法において、塩素形態は結合型として検出された。
【0031】
実施例3では、クロロホルム100g にε−カプロラクタム[試薬、関東化学(株)製] 7.9g を加え、氷冷下、トリクロロイソシアヌル酸 8.1g を90分かけて投入した。生じた白色スラリーを6時間攪拌後に吸引濾過し、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮しN−クロロ−ε−カプロラクタムの微黄色透明のオイル 10.1g を得た(収率97.9%、物性を下記に示す)。
【0032】
H−NMR(CDCl、δ):
1.78(br.s、6H)、2.45(d、2H)、3.21(t、2H)
IR(NaCl、cm−1):
2933、2858、1672、1452、1191、980
【0033】
このN−クロロ−ε−カプロラクタムの微黄色透明オイル10.1gにγ−ブチロラクトン[試薬、関東化学(株)製]10.0g 、酢酸 4.1g 、水 75.8g を加えて、有効塩素濃度4.7%のN−クロロ−ε−カプロラクタム水溶液 100g を調製した。この水溶液は、DPD−硫酸アンモニウム鉄(II)滴定法において、塩素形態は結合型として検出された。
【0034】
実施例4では、実施例2の2−ピペリドンの代わりにω−ヘプタラクタム[試薬、東京化成工業(株)製]8.6g を水 31.8g に溶かし、γ−ブチロラクトン 10.0gを加えた以外は、実施例2と同様の操作を行い、有効塩素濃度5.4%のN−クロロ−ω−ヘプタラクタム水溶液100gを得た。この水溶液は、DPD−硫酸アンモニウム鉄(II)滴定法において、塩素形態は結合型として検出された。
【0035】
実施例5では、テトラヒドロ−2−ピリミジノン[試薬、東京化成工業(株)製] 5.0g にジクロロメタン[試薬、関東化学(株)製] 40.0g を加え、室温下、トリクロロイソシアヌル酸 8.5g を30分かけて投入した。生じた白色スラリーを8時間攪拌後に吸引濾過し、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮後に氷冷してN,N’−ジクロロ−テトラヒドロ−2−ピリミジノンの白色結晶 8.1g を得た(収率96.2%、物性を下記に示す)。
【0036】
H−NMR(CDCl、δ):
1.98(m、4H)、2.98(t、2H)
IR(KBr、cm−1):
2966、2887、1697、1475、1277、1172
【0037】
このN,N’−ジクロロ−テトラヒドロ−2−ピリミジノンの白色結晶8.1gにγ−ブチロラクトン20.0g 、酢酸 5.7g、水 66.2g を加えて、有効塩素濃度6.8%のN,N’−ジクロロ−テトラヒドロ−2−ピリミジノン水溶液 100g を調製した。この水溶液は、DPD−硫酸アンモニウム鉄(II)滴定法において、塩素形態は結合型として検出された。なお、実施例5で得られた結晶および水溶液の保管に当たっては、直射日光を避けるため遮光容器に保管した。
【0038】
実施例6では、実施例5における塩素化剤のトリクロロイソシアヌル酸を3.9gに減らして同様の操作を行いN−クロロ−テトラヒドロ−2−ピリミジノンの白色結晶5.6gを得た(収率83.2%、物性を下記に示す)。
【0039】
IR(KBr、cm−1):
3367、2887、1676、1490、1278、1172、724
【0040】
このN−クロロ−テトラヒドロ−2−ピリミジノンの白色結晶5.6gにγ−ブチロラクトン20.0g、水74.4gを加えて有効塩素濃度3.0%のN−クロロ−テトラヒドロ−2−ピリミジノン水溶液100gを調製した。この水溶液は、DPD−硫酸アンモニウム鉄(II)滴定法において、塩素形態は結合型として検出された。
【0041】
実施例7では、エチレン尿素[試薬、東京化成工業(株)製] 6.5gを酢酸エチル[試薬、関東化学(株)製]40gに分散して懸濁液とし、これに室温下、ジクロロジメチルヒダントイン15.5gを1時間かけて投入した。生じた白色スラリーを8時間攪拌後に濾過して濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、析出した白色結晶をろ過乾燥してN,N’−ジクロロ−2−イミダゾリジノン3.5gを得た(収率30.1%、物性を下記に示す)。
【0042】
IR(KBr、cm−1):
3230、1736、1715、1440、1380、1214、1054
【0043】
このN,N’−ジクロロ−2−イミダゾリジノンの白色結晶3.5gにγ−ブチロラクトン20.0g、水76.5gを加えて有効塩素濃度3.2%のN,N’−ジクロロ−2−イミダゾリジノンの水溶液 100g を調製した。この水溶液は、DPD−硫酸アンモニウム鉄(II)滴定法において、塩素形態は結合型として検出された。
【0044】
実施例1〜7の化合物の構造は次式の通りである:
【化3】

【0045】
比較例1では、水 11.9g、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液15.6g、スルファミン酸 12.0g、有効塩素濃度12%の次亜塩素酸ナトリウム溶液 60.0g及びベンゾトリアゾール 0.5g を混合してN−クロロスルファミン酸及びN、N−ジクロロスルファミン酸を含有する殺藻・殺菌剤を調製した。この殺藻・殺菌剤の有効塩素濃度は7.2%であった。この水溶液は、DPD−硫酸アンモニウム鉄(II)滴定法において、塩素形態は結合型として検出された。
【0046】
比較例2では、5,5−ジメチルヒダントイン[試薬、関東化学(株)製]13.2gを水36.8gとγ−ブチルラクトン20.0gに溶解し、有効塩素濃度12%の次亜塩素酸ナトリウム溶液30.0gを加えて1−クロロ−5,5−ジメチルヒダントインを調製した。この殺藻・殺菌剤の有効塩素濃度は、3.6%であった。この水溶液は、DPD−硫酸アンモニウム鉄(II)滴定法において、塩素形態は結合型として検出された。
【0047】
比較例3では、有効塩素濃度が12%の次亜塩素酸ナトリウム溶液のみを用いた。この溶液は、DPD−硫酸アンモニウム鉄(II)滴定法において、塩素形態は遊離型として検出された。
【0048】
試験例1 殺藻試験(緑藻と藍藻)
緑藻類としてChlorella vulgaris C−135(以下、クロレラという)を、藍藻類としてMicrocystis aeruginosa Lemmermann NIES−44(以下、ミクロキスティスという)を用いて、実施例及び比較例の殺藻・殺菌剤の殺藻効果を評価した。クロレラは、MDM培地による前培養液を吸光度O.D.420での値が0.5になるように蒸留水で希釈し、これにHEPES(N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸)を50mMになるように投入して溶解させ、苛性ソーダにてpHを8.5に調整した。ミクロキスティスは、CB培地による前培養液を吸光度O.D.440での値が0.5になるように蒸留水で希釈し、Bicine(N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン)を100mMになるように投入して溶解させ、苛性ソーダにてpHを9.0に調整した。これらを試験液とし、各10mlをL字型試験管に分注し、光照射型振盪−恒温水槽に設置した。実施例及び比較例の殺藻・殺菌剤を有効塩素濃度として所定濃度になるようにそれぞれ添加し、30℃、10KLx(明:12h、暗:12h)の条件で振盪培養し、1日おきに目視観察し、3日間観察を行った。殺藻・殺菌剤の殺藻効果は表1に記載の判定基準にて評価し、試験結果を表2に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
表2の結果より、緑藻類であるクロレラや藍藻類のミクロキスティスに対して本発明のN−クロロ化合物及びN,N’−ジクロロ化合物(実施例1〜7)は、他のN−クロロ化合物(比較例1、2)や遊離塩素(次亜塩素酸ナトリウム溶液、比較例3)と比較して、低濃度で高い殺藻効果を示した。特にアオコを構成する藍藻類であり、生物指標であるミクロキスティスに対して、本発明のN−クロロ及びN,N’−ジクロロ化合物が高い殺藻効果を示したことは非常に興味深い結果であった。
【0052】
試験例2 殺菌力試験
試験水として、某病院空調用冷却塔の冷却水を用いた。冷却水の水質を表3に示す。
【0053】
この冷却水をL字型試験管に10mlずつ分注し、実施例及び比較例で調製した各殺藻・殺菌剤を有効塩素濃度として所定濃度となるように添加して効力評価を行った。試験条件は、30℃の恒温槽中で振盪培養し、薬剤添加1時間後及び6時間後の試験水中の一般細菌数を測定して行った。結果を表4に示す。表4中の薬剤添加量は有効塩素濃度で示した。
【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
表4の結果より、本発明のN−クロロ及びN,N’−ジクロロ化合物は、低濃度で非常に優れた殺菌効果を示した。比較例1に示すスルファミン酸のN−クロロ化合物は、その殺菌効果は非常に弱く、添加1時間後では、比較例3の遊離塩素である次亜塩素酸ナトリウムよりも弱い効果しか示さず、6時間後でも低濃度の添加では殆ど効果を示さない結果であった。また、比較例2の1−クロロ−5,5−ジメチルヒダントインも高濃度添加ではある程度の殺菌効果を示すが、その効果は本発明の殺藻・殺菌剤と比較すると低い効果しか示さなかった。このことからも、本発明のN−クロロ及びN,N’−ジクロロ化合物は、結合型のN−クロロ化合物でありながら、低濃度でも速やかに殺菌効果を発揮することが示された。
【0057】
試験例4 金属腐食性
蓋付きガラス製容器中にステンレス鋼SUS304(片面#400研磨仕上、2.5×15×50mm)、鉄(SS−400、2.3×15×30mm)及び銅(C122OP、2.0×20×50mm)の試験片を立て掛け、気相部と溶液浸積部とが形成できる位置にまで上水(静岡県磐田市市水)を所定量計り込み、実施例1及び3、比較例1及び3の殺藻・殺菌剤を有効塩素濃度として2.5mg/L及び5mg/Lとなるように添加し、30℃下で試験片の腐食の程度を観察した。試験液は1週間に一度交換し、8週間後に試験片を取り出し、腐食度(gmd;g/m・day)を求め下表5のA〜Eの判定基準による評価結果と、外観観察にて薬剤未添加区(上水のみ)での腐食程度に対して各殺藻・殺菌剤の腐食の程度を下表6の判定基準により評価した。結果を組み合わせた記号にて表7に示した。
【0058】
【表5】

【0059】
【表6】

【0060】
【表7】

【0061】
表7の結果より、本発明のN−クロロ及びN,N’−ジクロロ化合物は、比較例3の遊離塩素はもとより、比較例1のスルファミン酸のN−クロロ化合物と比較しても、鉄や銅への腐食性が低く、実用濃度では、上水(磐田市市水)での腐食程度と殆ど差がみられない結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−クロロ−2−ピロリジノンを含有することを特徴とする殺藻剤。
【請求項2】
水又は水と水溶性有機溶剤の混合溶液を更に含む、水溶性の液体製剤であることを特徴とする請求項1記載の殺藻剤。
【請求項3】
式(I):
【化1】

(式中のXはメチレン基、二級アミノ基又はN−クロロ基を表し、Rは炭素原子数が2〜5のアルキレン基を示す。但し、XがN−クロロ基のときRは炭素原子数が2〜3のアルキレン基である。)
で表される環状のN−クロロ化合物又はN,N’−ジクロロ化合物(但し、N−クロロ−2−ピロリジノンを除く)から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする殺藻・殺菌剤。
【請求項4】
式(I)で表される環状のN−クロロ化合物又はN,N’−ジクロロ化合物が、N−クロロ−2−ピペリドン、N−クロロ−ε−カプロラクタム、N−クロロ−ω−ヘプタラクタム、N−クロロ−2−イミダゾリジノン、N,N’−ジクロロ−2−イミダゾリジノン、N−クロロ−テトラヒドロ−2−ピリミジノン、及びN,N’−ジクロロ−テトラヒドロ−2−ピリミジノンから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項3記載の殺藻・殺菌剤。
【請求項5】
水又は水と水溶性有機溶剤の混合溶液を更に含む、水溶性の液体製剤であることを特徴とする請求項3又は4記載の殺藻・殺菌剤。
【請求項6】
腐食が望まれない金属部材と接触している水系中に、式(I):
【化2】

(式中のXはメチレン基、二級アミノ基又はN−クロロ基を表し、Rは炭素原子数が2〜5のアルキレン基を示す。但し、XがN−クロロ基のときRは炭素原子数が2〜3のアルキレン基である。)
で表される環状のN−クロロ化合物又はN,N’−ジクロロ化合物から選ばれる1種以上を含有する殺藻・殺菌剤を、残留塩素濃度(Cl換算)として0.2〜10mg/Lとなるように添加する殺藻・殺菌方法。
【請求項7】
式(I)で表される環状のN−クロロ化合物又はN,N’−ジクロロ化合物が、N−クロロ−2−ピロリジノン、N−クロロ−2−ピペリドン、N−クロロ−ε−カプロラクタム、N−クロロ−ω−ヘプタラクタム、N−クロロ−2−イミダゾリジノン、N,N’−ジクロロ−2−イミダゾリジノン、N−クロロ−テトラヒドロ−2−ピリミジノン、及びN,N’−ジクロロ−テトラヒドロ−2−ピリミジノンから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項6記載の殺藻・殺菌方法。

【公開番号】特開2012−144451(P2012−144451A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2059(P2011−2059)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(390034348)ケイ・アイ化成株式会社 (19)
【Fターム(参考)】