説明

殺藻剤

【構成】
サポニンを主成分とする海苔養殖用の殺藻剤。
【効果】
サポニンを含有する処理液に、海苔が付着する海苔網を浸漬することにより、短時間で珪藻を駆除することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海苔養殖中に発生する珪藻等の雑藻類を駆除する殺藻剤に関する。
【背景技術】
【0002】
海苔養殖中に、珪藻等の雑藻が海苔葉体又は海苔網に大量に付着すると海苔の生育が阻害される。また、雑藻類の付着が少なくても雑藻が付着した海苔原藻を製品にすると緑色の斑点が見え、外観を損ねる為、商品価値が低下し、海苔生産者の水揚げ金額が低下する。
海苔に付着する珪藻は、主にリクモフォラ・メロシラ等の珪藻が殆どであったが、最近ではタビュラリア等の珪藻が多量発生付着するようになってきている。これらの珪藻を完全に駆除する酸処理剤は現在のところ見出されていない。そのため、海苔の成長の抑制・乾海苔製品の品質低下をおこし大きな被害となっている。
雑藻の駆除を目的として酸性の液に海苔網を浸す酸性処理や海苔網を海上に上げて乾燥させる干出という作業が行われているが、十分な効果が現れていない。
【0003】
今までに、下記に示すような海苔養殖用の処理剤が開示されている。
例えば文献1には、「炭素数1ないし4の飽和脂肪族モノカルボン酸、炭素数2ないし4の飽和または不飽和ジカルボン酸、グリコール酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸から成る群から選ばれた有機カルボン酸の一種又は二種以上を有効成分として含有する殺藻剤」とある。この公知文献には有機酸を用いて雑藻を駆除することが記載してある。
【0004】
また、特許文献2には、「乳酸及び/又は酢酸とパラオキシ安息香酸エステルとを含有することを特徴とするケイソウ駆除用処理剤」が記載されている。この公知文献には短時間でのケイソウ駆除について記載してあるが、実用的ではない。
【0005】
従来は、雑藻を駆除するためにクエン酸、リンゴ酸等を40〜80%の範囲で含有する製品を100〜120倍希釈液にて10〜30分の処理を行っていた。この場合、海苔網を取り外して処理を行うため時間と手間がかかりすぎるという問題があった。
現在では養殖規模の拡大により、海苔網を固定したまま、潜り船を潜らせる酸処理方法が採用されている。この方法では60秒以下の短時間処理で効果を発揮する必要がある。そのため、クエン酸、リンゴ酸を主成分とする製品を高濃度で使用している。しかし、雑藻を充分には駆除できていない。120秒以上の時間をかけたり、2回処理を行ったり、濃度を濃くしたりして対応しているが、期待される効果が得られていない。
【0006】
最近の海苔養殖では、海苔生産者1軒当たりの養殖網の枚数が更に増加してきており、養殖網1枚当たりの酸処理に要する時間を短くせざるを得なくなり、より短時間、より低濃度で効果があり、かつ安全な雑藻駆除剤の開発が求められている。
【特許文献1】特開昭50−121425号公報(第1−2頁)
【特許文献2】特開平11−286407号公報(第1−3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、海苔自体に害を与えることなく、珪藻を短時間に駆除できる薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、サポニンを含有する処理液で処理することにより、珪藻を短時間に駆除できることを見出し、本発明を完成させるに至った。サポニンとしてはトリテルペン系サポニン、ステロイド系サポニン特にエンジュサポニン、キラヤサポニン、酵素処理ダイズサポニン、ダイズサポニン、チャ種子サポニン、ビ−トサポニン、ユッカフォ−ム抽出物が好ましい。
クエン酸・酢酸・乳酸・リン酸等の今までに見出されている酸成分では、タビュラリアという珪藻を完全に駆除することができなかったが、本発明の前記サポニンを主成分とする処理剤では100%駆除することが可能となった。
即ち、本発明は次の通りである。
(1)サポニンを主成分とする海苔養殖用の殺藻剤。
(2)サポニンがトリテルペン系サポニン、ステロイド系サポニンの少なくとも1種以上から成る、(1)に記載の海苔養殖用の殺藻剤。
(3)サポニンがエンジュサポニン、キラヤサポニン、酵素処理ダイズサポニン、ダイズサポニン、チャ種子サポニン、ビ−トサポニン、ユッカフォ−ム抽出物の少なくとも1種以上から成る、(1)又は(2)に記載の海苔養殖用の殺藻剤。
(4)水及び/又は海水で希釈した処理液中のサポニンの濃度が0.00005〜0.2%であることを特徴とする(1)〜(3)に記載の海苔養殖用の殺藻剤。
(5)pHを1〜4の範囲に調整してなることを特徴とする(1)〜(4)に記載の海苔養殖用の殺藻剤。
(6)pH調整剤として、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、プロピオン酸、フマル酸、コハク酸、ギ酸、酢酸、グルコン酸、アジピン酸、フィチン酸、ケトグルタル酸、イタコン酸、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸の1種以上を含むことを特徴とする(1)〜(5)に記載の海苔養殖用の殺藻剤。
(7)無機塩類を添加することを特徴とする(1)〜(6)に記載の海苔養殖用の殺藻剤。
【発明の効果】
【0009】
サポニンを含有する処理液に、海苔が付着する海苔網を浸漬することにより、短時間で珪藻を駆除することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施の形態を詳しく説明する。
本発明の殺藻殺菌剤は、サポニンを主成分としており、殺藻の処理時に海水又は水に希釈溶解、或いはそのまま使用され、海苔養殖時に発生する雑藻の駆除又は雑藻が海苔に着生することの予防を行うものである。
【0011】
本発明の殺藻殺菌剤のpH調整剤としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、プロピオン酸、フマル酸、コハク酸、ギ酸、酢酸、グルコン酸、アジピン酸、フィチン酸、ケトグルタル酸、イタコン酸、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸の1種以上を使用することができる。
【0012】
本発明で使用する無機塩類としては、次のものがあげられる。
無機塩類として具体的には、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、塩化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、リン酸ナトリウム、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウムの中から選ばれた1種または2種以上のものを用いることができる。
使用する無機塩類の量は0.5〜10.0%が好ましい。
【0013】
また、本発明の殺藻剤には、必要により肥料成分として、アミノ酸、塩安、硝酸ソーダ、硝安、硝酸カリウム、リン酸ソーダ、燐安、リン酸カリウム、硫安、糖類等を添加することもできる。
【0014】
本発明を実施するときは、前記サポニンを海水もしくは水で希釈又は溶解して使用する。
pH調整剤を併用する場合には、前記サポニンとpH調整剤を処理液に別々に添加溶解して使用することができる。前もってpH調整用の酸と前記サポニンを混合した粉剤もしくは溶解した製剤を製造しておくこともできる。
【0015】
試験例1により前記サポニン0.00005〜0.2%を含有する処理液にpH調整剤を用いると珪藻の駆除効果を高めることができ、短時間での処理が可能であることがわかる。また、サポニンを0.2%以上含有すると海苔が40秒という短い時間で傷む為、使用できないことが分かる。試験例2ではpHが5以上であると効果がなくなることを示している。試験例3からは、処理時に塩等の塩類を添加することにより珪藻の駆除効果が高くなることがわかる。
【実施例】
【0016】
(試験例1)
海水を用いて表1に示した組成の処理液を調整し、珪藻が付着した海苔葉体を一定時間(10秒、20秒、30秒、40秒、50秒、1分、1.5分、2分、2.5分、3分間)処理した後、滅菌海水にて洗浄した。処理2日後に珪藻の駆除効果を顕微鏡で調査した。
結果は表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
(試験例2)
海水を用いて表2に示した組成の処理液を調整し、珪藻が付着した海苔葉体を一定時間(10秒、20秒、30秒、40秒、50秒、1分、1.5分、2分、3分)処理した後、滅菌海水にて洗浄した。処理2日後に珪藻の駆除効果を顕微鏡で調査した。結果は表2に示す。なお、pHは塩酸で調整した。
【0019】
【表2】

【0020】
(試験例3)
海水を用いて表3に示した組成の処理液を調整し、珪藻が付着した海苔葉体を一定時間(10秒、20秒、30秒、40秒、50秒、1分、1.5分、2分、2.5分、3分間)処理した後、滅菌海水にて洗浄した。処理2日後に珪藻の駆除効果を顕微鏡で調査した。
結果は表3に示す。
【0021】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0022】
海苔養殖における珪藻を短時間で駆除することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サポニンを主成分とする海苔養殖用の殺藻剤。
【請求項2】
サポニンがトリテルペン系サポニン、ステロイド系サポニンの少なくとも1種以上から成る、請求項1記載の海苔養殖用の殺藻剤。
【請求項3】
サポニンがエンジュサポニン、キラヤサポニン、酵素処理ダイズサポニン、ダイズサポニン、チャ種子サポニン、ビ−トサポニン、ユッカフォ−ム抽出物の少なくとも1種以上から成る、請求項1又は2記載の海苔養殖用の殺藻剤。
【請求項4】
水及び/又は海水で希釈した処理液中のサポニンの濃度が0.00005〜0.2%であることを特徴とする請求項1〜3に記載の海苔養殖用の殺藻剤。
【請求項5】
pHを1〜4の範囲に調整してなることを特徴とする請求項1〜4記載の海苔養殖用の殺藻剤。
【請求項6】
pH調整剤として、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、プロピオン酸、フマル酸、コハク酸、ギ酸、酢酸、グルコン酸、アジピン酸、フィチン酸、ケトグルタル酸、イタコン酸、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸の1種以上を含むことを特徴とする請求項1〜5に記載の海苔養殖用の殺藻剤。
【請求項7】
無機塩類を添加することを特徴とする請求項1〜6に記載の海苔養殖用の殺藻剤。

【公開番号】特開2006−111562(P2006−111562A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299724(P2004−299724)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000208787)第一製網株式会社 (24)
【Fターム(参考)】