説明

殺虫性化合物の製造中間体およびその製造方法

【課題】−10℃程度の温度条件下においても安定に保存することが可能であり、殺虫性化合物の製造中間体として有用な有機金属化合物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(I):


(式中、Xは、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表わす。)で示される有機マグネシウム化合物およびその製造方法、ならびにこの有機マグネシウム化合物の製造中間体として有用なジブロモ化合物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺虫性化合物の製造中間体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、下記一般式(A)で表わされるヒドラジン化合物等のピラゾール−5−カルボキサミド誘導体は、殺虫性化合物として有用であることが知られている(たとえば特許文献1)。
【0003】
【化1】

【0004】
ここで、R1はハロゲン原子で置換されていてもよいC1−C6アルキル基を表し、R2は水素原子、またはハロゲン原子で置換されていてもよいC1−C6アルキル基を表し、R3はハロゲン原子で置換されていてもよいC1−C6アルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC3−C6アルコキシアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC3−C6アルケニル基、またはハロゲン原子で置換されていてもよいC3−C6アルキニル基を表し、R4はハロゲン原子、またはハロゲン原子で置換されていてもよいC1−C6アルキル基を表し、R5は水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよいC1−C6アルキル基を表す。
【0005】
従来、上記殺虫性化合物の重要な製造中間体として、下記式(B)で示される1−(3−クロロ−2−ピリジル)−3−ブロモ−1H−ピラゾール−5−イル リチウム塩が知られている。
【0006】
【化2】

【0007】
しかし、上記式(B)で示されるリチウム塩は、−10℃程度の低温条件では不安定であり、その保存には、たとえば−78℃の極低温条件を必要とする。このような極低温条件下での保存は、特に工業的規模の製造時においては、設備上の負担が大きい。
【特許文献1】国際公開第07/043677号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、−10℃程度の温度条件下においても安定に保存することが可能であり、上記一般式(A)で表わされる殺虫性化合物の製造中間体として有用な有機金属化合物およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記一般式(I):
【0010】
【化3】

【0011】
(式中、Xは、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表わす。)で示される有機マグネシウム化合物を提供する。
【0012】
また、本発明は、下記式(II):
【0013】
【化4】

【0014】
で示されるジブロモ化合物および、当該ジブロモ化合物を、下記一般式(III):
R−MgX (III)
(式中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基またはビニル基を表わす。また、Xは、前記と同じ意味を表わす。)で示されるグリニヤール化合物と反応させることを特徴とする上記一般式(I)で示される有機マグネシウム化合物の製造方法を提供する。
【0015】
さらに本発明により、上記一般式(I)で示される有機マグネシウム化合物を、下記一般式(IV):
HC(=O)−Q (IV)
(式中、Qは、炭素数1〜6のアルキル基で置換されたアミノ基または炭素数1〜3のアルコキシ基を表わす。)で示される化合物と反応させることを特徴とする、下記式(V):
【0016】
【化5】

【0017】
で示されるホルミル化合物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、室温付近の温度条件下においても安定に保存することが可能であり、殺虫性化合物の製造中間体として有用な化合物を誘導することができる。かかる安定性により、工業生産における設備上の負担を低減することができる。また、本発明の製造中間体およびこれから製造される他の製造中間体から、上記一般式(A)で表わされる殺虫性化合物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<有機マグネシウム化合物>
本発明の有機マグネシウム化合物は、下記一般式(I):
【0020】
【化6】

【0021】
で示される化合物であり、該化合物を経由して上記一般式(A)で表わされる殺虫性化合物を製造することができるとともに、その保存安定性から該殺虫性化合物の製造中間体として極めて有用である。本発明の有機マグネシウム化合物は、そのピラゾール環上に−MgX基を有しており、いわゆるグリニヤール試薬の一種である。
【0022】
上記一般式(I)において、Xはハロゲン原子であり、具体的には、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等である。好ましくは、Xは塩素原子または臭素原子である。本発明の有機マグネシウム化合物は、Xが異なる2種以上の有機マグネシウム化合物の混合物であってもよい。本発明の有機マグネシウム化合物は、上記した式(B)で示されるリチウム塩と比して、保存安定性がより高い。
【0023】
上記一般式(I)で示される本発明の有機マグネシウム化合物の製造方法として、次に示す製造方法を好適に用いることができる。すなわち、下記式(II):
【0024】
【化7】

【0025】
で示されるジブロモ化合物を、下記一般式(III):
R−MgX (III)
で示されるグリニヤール化合物と反応させる方法である。
【0026】
一般式(III)におけるXは、上記したとおりであり、得られる有機マグネシウム化合物の収率等の観点から、Xは塩素原子または臭素原子であることが好ましい。一般式(III)で示されるグリニヤール化合物は、Xが異なる2種以上の混合物であってもよい。また、Rは、炭素数1〜6のアルキル基またはビニル基であり、得られる有機マグネシウム化合物の収率等の観点からは、Rは炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。炭素数1〜6のアルキル基を具体的に示せば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基等である。
【0027】
上記一般式(III)のグリニヤール化合物を用いた反応によれば、本発明の有機マグネシウム化合物を高収率で得ることができる。また、一般式(III)のグリニヤール化合物を用いた反応においては、ピラゾール環の3位のBr基へのMgの挿入反応はほとんど起こらず、選択的に本発明の有機マグネシウム化合物を得ることができる。
【0028】
一般式(III)で示されるグリニヤール化合物を用いた本発明の有機マグネシウム化合物の製造における、一般式(III)のグリニヤール化合物の使用量は、上記式(II)で示されるジブロモ化合物1モルに対して、通常0.5〜5モル程度であり、好ましくは1〜3モル程度である。
【0029】
反応温度は、通常−80〜100℃程度であり、好ましくは、−20〜30℃程度の範囲である。反応時間は、反応温度や一般式(III)のグリニヤール化合物の使用量および種類等により異なるが、通常、0.1〜100時間であり、典型的には、0.1〜3時間程度である。
【0030】
該グリニヤール化合物を用いた反応は、通常、溶媒の存在下に実施する。溶媒としては、たとえば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル、ならびにこれらの混合溶媒などを挙げることができる。好ましくは、テトラヒドロフラン、テトラヒドロフランと芳香族炭化水素との混合溶媒である。溶媒の使用量は、特に制限されないが、上記式(II)で示されるジブロモ化合物1質量部に対して、たとえば0.1〜100質量部程度とすることができる。好ましくは、3〜20質量部程度である。ここで、本発明においては、該グリニヤール化合物を用いた反応は、好ましくは上記式(II)で示されるジブロモ化合物を含む溶液S1中に、一般式(III)に示されるグリニヤール化合物を含む溶液S2を滴下することにより行なわれ、この場合、上記溶媒量は、溶液S1およびS2に含有される溶媒の合計量である。なお、溶液S1中の溶媒と溶液S2中の溶媒とは同じであっても異なっていてもよい。一般式(III)に示されるグリニヤール化合物の調製は、従来公知の方法により行なうことができる。
【0031】
反応の進行は、たとえば反応混合物を一部取り出し、適切な試剤を用いてクエンチした後、該試剤と有機マグネシウム化合物との反応物および原料であるジブロモ化合物の量を薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等のクロマトグラフィーやNMRなどの手段を用いて、定性的または定量的に分析することにより確認することができる。クエンチ用試剤としては、有機マグネシウム化合物が上記手段により検出可能な化合物に変換される限り特に制限されるものではないが、水、重水、アルコール類、二酸化炭素、クロロギ酸エステル、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記することがある。)、ジメチル硫酸、メチルクロライド、アセトンなどを挙げることができる。たとえば、重水をクエンチ用試剤とする場合、有機マグネシウム化合物の−MgX基は−D基に転換され、クロマトグラフィー法により定量分析可能な下記式(X’):
【0032】
【化8】

【0033】
で示される化合物を生じる。クエンチ用試剤の種類に応じて、カルボキシル体、アルコキシカルボニル体、ホルミル体、メチル体等に変換することができる。また、クエンチ用試剤として、後述する特定のホルミル化合物が用いられてもよい。クエンチによりこれらの変換物が得られることは、グリニヤール化合物との反応により、一般式(I)で示される有機マグネシウム化合物が生成していることの証明ともなる。
【0034】
反応終了後の反応混合物中に含まれる有機マグネシウム化合物は、好ましくは単離されることなく、上記一般式(A)で表わされる殺虫性化合物を製造するための次段階の製造中間体に変換される。本発明の有機マグネシウム化合物は良好な安定性を有しており、したがって、反応混合物の保存、および該反応混合物を用いた反応は、必ずしも極低温で行なわれる必要はない。上記次段階の製造中間体としては、有機マグネシウム化合物の−MgX基がカルボキシル基に置換されたカルボキシル体、ホルミル基に置換されたホルミル体などを挙げることができる。カルボキシル体は、たとえば反応混合物に二酸化炭素ガスを接触させることにより得ることができる。また、−MgX基がホルミル基に置換されたホルミル体、すなわち、下記式(V):
【0035】
【化9】

【0036】
で示される化合物は、有機マグネシウム化合物を、下記一般式(IV):
HC(=O)−Q (IV)
で示される化合物と反応させることにより得ることができる。
【0037】
ここで、一般式(IV)中、Qは、炭素数1〜6のアルキル基で置換されたアミノ基または炭素数1〜3のアルコキシ基を表わす。アミノ基は、2つのアルキル基で置換されていることが好ましく、この場合、各アルキル基は、炭素数1〜3のアルキル基であることがより好ましい。一般式(IV)で示される化合物の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド等のギ酸アミド類、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸n−プロピル、ギ酸イソプロピル等のギ酸エステル類を挙げることができ、好ましくはギ酸アミド類が挙げられる。
【0038】
上記一般式(IV)で示される化合物との反応は、具体的には、有機マグネシウム化合物と一般式(IV)で示される化合物とを混合することにより行なうことができる。たとえば、有機マグネシウム化合物を含む反応混合物に、一般式(IV)で示される化合物を添加することによっても行なうことができる。一般式(IV)で示される化合物の使用量は、上記式(I)で示される有機マグネシウム化合物1モルに対して、通常0.8〜10モル程度であり、好ましくは1.0〜5モル程度である。
【0039】
反応温度は、通常−80〜100℃程度であり、好ましくは、−20〜30℃程度の範囲である。反応時間は、通常、0.1〜100時間であり、典型的には、0.1〜5時間程度である。
【0040】
反応終了後は、たとえば、洗浄、分液、濃縮等の、通常の後処理操作を行なうことにより、ホルミル体を単離することができる。単離されたホルミル体は再結晶、カラムクロマトグラフィー等により、さらに精製することができる。また、単離されたホルミル体は、精製することなく、次工程に使用することもできる。あるいは、後処理操作の一部または全部を行なうことなく、次工程に進んでもよい。
【0041】
<ジブロモ化合物>
上記式(II)で示されるジブロモ化合物は、工業的に入手容易な原料を用いて、以下に示す方法により好適に製造することができる。
【0042】
【化10】

【0043】
以下、各工程について説明する。
まず、2,3−ジクロロピリジンとヒドラジンとの反応により、ヒドラジン化合物(VI)を得る。本反応において、ヒドラジンの使用量は、2,3−ジクロロピリジン1モルに対して、通常1〜10モル程度であり、好ましくは2〜5モル程度である。反応温度は、通常50〜100℃程度である。反応時間は、通常10〜100時間程度である。溶媒としては、たとえば、n−ブタノール等のアルコール、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、クロロホルム等のハロゲン化脂肪族炭化水素、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル、水、ならびにこれらの混合溶媒などが用いられる。
【0044】
ついで、ヒドラジン化合物(VI)とカルボン酸クロライド(VII)との反応により、エステル化合物(VIII)を得る。ヒドラジン化合物(VI)は、3−クロロピリジン−2−イルヒドラジンであり、カルボン酸クロライド(VII)は、アルコキシカルボニル基含有カルボン酸クロライドである。ここで、カルボン酸クロライド(VII)中のYは、炭素数1〜3のアルキル基を表わす。カルボン酸クロライド(VII)の具体例としては、メチルマロニルクロライド、エチルマロニルクロライド等を挙げることができる。好ましくは、エチルマロニルクロライドである。なお、当該反応により得られるエステル化合物(VIII)は、塩酸塩の形態であってもよい。
【0045】
本反応において、カルボン酸クロライド(VII)の使用量は、ヒドラジン化合物(VI)1モルに対して、通常1〜10モル程度であり、好ましくは1〜5モル程度である。反応温度は、通常−10〜100℃程度であり、好ましくは、0〜30℃程度の範囲である。反応時間は、通常、0.1〜10時間程度である。溶媒としては、たとえば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、クロロホルム等のハロゲン化脂肪族炭化水素、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル、酢酸エチル等のエステル、メチルイソブチルケトン等のケトン、アセトニトリル、プロピオニトリル等のアルキルニトリル、ならびにこれらの混合溶媒が挙げられる。なかでも、アセトニトリルが好ましく用いられる。
【0046】
反応終了後は、通常の後処理操作を行なうことにより、エステル化合物(VIII)を単離してもよいし、後処理操作の一部または全部を行なうことなく、次工程に進んでもよい。
【0047】
続く工程は、エステル化合物(VIII)またはその塩酸塩よりジブロモ化合物(II)を得る工程である。該工程は、エステル化合物(VIII)を塩基と反応させる操作、および、該操作により得られる化合物を臭素化剤と反応させる操作よりなる。第1の操作において使用できる塩基としては、たとえば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の金属水酸化物を挙げることができる。使用する塩基の量は、エステル化合物(VIII)1モルに対し、1〜10モル程度である。
【0048】
反応温度は、−10〜100℃程度とすることができ、好ましくは、0〜50℃程度の範囲である。反応時間は、通常、0.1〜100時間であり、典型的には、1〜10時間程度である。溶媒としては、たとえば、メタノール、エタノール、n−ブタノール等のアルコール、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、クロロホルム等のハロゲン化脂肪族炭化水素、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル、酢酸エチル等のエステル、メチルイソブチルケトン等のケトン、アセトニトリル、プロピオニトリル等のアルキルニトリル、DMF、N−メチルピロリドン(以下、NMPと略記することがある。)、1,3−ジメチルイミダゾリジノン(以下、DMIと略記することがある。)、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略記することがある。)などの非プロトン系高極性溶媒、水ならびにこれらの混合溶媒が挙げられる。なかでも、メタノール、エタノール、n−ブタノール等のアルコールが好ましく用いられる。反応終了後は、反応混合物を中和した後に、濃縮する等の後処理操作を行なうことにより、中間生成物を単離することができる。
【0049】
続く第2の操作において使用できる臭素化剤としては、オキシ臭化リン、五臭化リンが挙げられる。臭素化剤の使用量は特に制限されず、エステル化合物(VIII)1モルに対して、オキシ臭化リンの場合には、2〜10モル程度であり、好ましくは2〜5モル程度である。また、オキシ臭化リンは溶媒量用いられてもよい。反応温度は、0〜200℃程度とすることができ、好ましくは、30〜120℃程度の範囲である。反応時間は、通常、1〜100時間であり、典型的には、5〜20時間程度である。溶媒を用いる場合、溶媒としては、たとえば、クロロホルム等のハロゲン化脂肪族炭化水素、アセトニトリル、プロピオニトリル等のアルキルニトリル、ポリリン酸、ならびにこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0050】
反応終了後は、通常の後処理操作を行なうことにより、上記式(II)で示されるジブロモ化合物を単離することができる。単離されたジブロモ化合物は、上記有機マグネシウム化合物を調製するにあたり、再結晶、カラムクロマトグラフィー等により精製されてもよい。また、ジブロモ化合物は、後処理操作の一部または全部、精製を行なうことなく、上記有機マグネシウム化合物の調製に用いられてもよい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
<実施例1>
【0053】
【化11】

【0054】
ジブロモ化合物(II) 0.3376gを脱水THF3.40gに溶解し、−10℃に冷却した。次に、−10℃でイソプロピルマグネシウムクロリド(i−PrMgCl)の11%THF溶液(ジブロモ化合物(II)に対して2.0当量相当)を滴下し、同温で保温して、有機マグネシウム化合物(I)を反応系中に生成させた。保温30分の時点で反応混合液の0.2mLをサンプリングして重水でクエンチし、クエンチ後の生成物を1H−NMRを用いて測定したところ、ジブロモ化合物(II)は残存しておらず、ほぼ全てが重水素体(X’)に転換されていた。
【0055】
<比較例1>
【0056】
【化12】

【0057】
化合物(X) 1.03gを脱水THF約10gに溶解し、−10℃に冷却した。次に、−10℃でリチウム ジイソプロピルアミド(i−Pr2NLi)のTHF溶液(化合物(X)に対して1.1当量相当)を滴下し、同温で保温した。保温30分の時点で反応混合液の0.2mLをサンプリングして重水でクエンチし、クエンチ後の生成物を1H−NMRを用いて測定したところ、化合物(X)の34%が重水素体(X’)に転換されていた。また、化合物(X’)と同程度の量の副生成物が確認された。
【0058】
<実施例2>
【0059】
【化13】

【0060】
ジブロモ化合物(II) 0.3376gを脱水THF3.40gに溶解し、−80℃に冷却した。次に、−80℃〜−75℃でイソプロピルマグネシウムクロリド(i−PrMgCl)の11%THF溶液(約1mol/L)1.87gを滴下し、同温で保温して、有機マグネシウム化合物(I)を反応系中に生成させた。保温30分の時点で反応混合液の0.2mLをサンプリングして重水でクエンチし、クエンチ後の生成物を1H−NMRを用いて測定したところ、ジブロモ化合物(II)の96.8%が重水素体(X’)に転換されていた。合計1時間の保温の後、同温下、反応混合液にギ酸エチル0.11gを添加した後、−80℃〜−75℃で1.5時間、−50℃〜−45℃で1時間、−10℃〜−9℃で1時間、および室温で14時間保温した。得られた混合物に室温下、水4.04gを添加し、酢酸エチル3.37gで抽出した後分液した。油層を、水3.37g、飽和食塩水3.37gで順次洗浄した後、硫酸マグネシウム上で乾燥し、濃縮してホルミル体(V)の粗製物を得た。該粗製物についてH−NMR測定を行なったところ、ジブロモ化合物(II)は残存しておらず、10%のホルミル体(V)と90%の化合物(X)が確認された。
【0061】
<実施例3>
ジブロモ化合物(II) 0.3373gを脱水THF3.38gに溶解し、−10℃に冷却した。次に、−11℃〜−10℃でイソプロピルマグネシウムクロリドの11%THF溶液(約1mol/L)1.87gを滴下し、−11℃〜−9℃で30分保温して、有機マグネシウム化合物(I)を反応系中に生成させた。この時点で反応混合液よりサンプリングを行ない、重水にてクエンチし、クエンチ後の生成物を1H−NMRを用いて測定したところ、ジブロモ化合物(II)の100%が重水素体(X’)に転換されていた。さらに、室温に昇温して35分保温した後、反応混合液を再び−12℃〜−9℃に冷却した。同温でギ酸エチル0.22gを添加し、−12℃〜−10℃で33分保温した後、更に同温で0.23gのギ酸エチルを添加し、0℃〜5℃で30分保温した。同温で水0.67gを添加してクエンチし、得られた混合物に室温下、水3.37gを添加し、酢酸エチル3.37gで抽出し分液した。油層を水3.37g、飽和食塩水3.37gで順次洗浄した後、硫酸マグネシウム上で乾燥し、濃縮してホルミル体(V)の粗製物を得た。該粗製物についてH−NMR測定を行なったところ、ジブロモ化合物(II)は残存しておらず、23%のホルミル体(V)と77%の化合物(X)が確認された。
【0062】
<実施例4>
ジブロモ化合物(II) 0.3371gを脱水THF3.39gに溶解し、−10℃に冷却した。次に、−13℃〜−8℃でイソプロピルマグネシウムクロリドの11%THF溶液(約1mol/L)1.88gを滴下し、−17℃〜−4℃で38分保温して、有機マグネシウム化合物(I)を反応系中に生成させた。次に、−12℃〜−8℃でDMF0.23gを添加し、−12℃〜−9℃で1時間保温した後、同温で飽和塩化アンモニウム水溶液1.69gを添加し、更に昇温して室温下20℃で3時間保温し、室温下一晩静置した。得られた混合物に水3.37gを加えて酢酸エチル3.37gで抽出し、分液した。油層を水3.37g、飽和食塩水3.37gで順次洗浄した後、硫酸マグネシウム上で乾燥し、濃縮してホルミル体(V)の粗製物を得た。該粗製物についてH−NMR測定を行なったところ、ジブロモ化合物(II)は残存しておらず、50%のホルミル体(V)と50%の化合物(X)が確認された。
【0063】
<実施例5>
ジブロモ化合物(II) 0.3373gを脱水THF3.39gに溶解し、室温下18℃〜24℃でイソプロピルマグネシウムクロリドの11%THF溶液(約1mol/L)1.89gを滴下し、20℃〜26℃で2時間攪拌して、有機マグネシウム化合物(I)を反応系中に生成させた。次に、25℃〜28℃でDMF0.23gを添加し、25℃〜28℃で2.5時間保温した後、同温で飽和塩化アンモニウム水溶液1.70gを添加した。得られた混合物を10℃に冷却して水3.37gを加えて酢酸エチル3.36gで抽出し、分液した。油層を水3.39g、飽和食塩水3.37gで順次洗浄した後、硫酸マグネシウム上で乾燥し、濃縮してホルミル体(V)0.254gを得た(収率87.5%)。得られたホルミル体(V)についてH−NMR測定を行なったところ、ジブロモ化合物(II)は残存しておらず、100%ホルミル体(V)であった。
【0064】
得られたホルミル体(V)の1H−NMRデータは次のとおりである。
1H−NMR(CDCl3,TMS)δ(ppm):7.11(s,1H)、7.47(dd,1H)、7.96(d,1H)、8.54(d,1H)、9.79(s,1H)。
【0065】
<実施例6:3−クロロ−2−(3,5−ジブロモピラゾール−1−イル)ピリジンの調製>
(1)3−クロロピリジン−2−イルヒドラジンの調製
【0066】
【化14】

【0067】
2,3−ジクロロピリジン200.88gとn−ブタノール402.10gとの混合物に、室温下、ヒドラジン一水和物203.83gと炭酸カリウム183.85gを加えた。次に、攪拌しながら昇温し、内温109℃〜111℃で31時間攪拌を続けた。得られた反応混合物を29℃まで冷却し、水401.0gを添加して、室温下30分攪拌した後に濾過した。濾上物を、n−ブタノール100g、水200gで順次洗浄した後、真空減圧下50℃で乾燥して、3−クロロピリジン−2−イルヒドラジン(ヒドラジン化合物(VI))を187.81g取得した。
【0068】
得られた3−クロロピリジン−2−イルヒドラジンの1H−NMRデータは次のとおりである。
1H−NMR(CDCl3,TMS)δ(ppm):8.10(dd,1H)、7.47(dd,1H)、6.65(dd,1H)、6.24(bs,1H)、3.98(bs,2H)。
【0069】
(2)[N’−(3−クロロピリジン−2−イル)−ヒドラジノカルボニル]酢酸エチルエステルの調製
【0070】
【化15】

【0071】
3−クロロピリジン−2−イルヒドラジン(ヒドラジン化合物(VI))14.25g、アセトニトリル142.50gとの混合物に、内温21℃〜25℃の範囲内で、攪拌しながら含量90%のエチルマロニルクロライド15.00gを滴下した。同温で2時間攪拌を続けた後、エチルマロニルクロライド1.00gを追加し、室温下一晩攪拌を続けた。得られた反応混合物を減圧下に濃縮し、40℃で真空乾燥して、[N’−(3−クロロピリジン−2−イル)−ヒドラジノカルボニル]酢酸エチルエステル一塩酸塩(エステル化合物(VIII))29.64gを得た。
【0072】
得られた[N’−(3−クロロピリジン−2−イル)−ヒドラジノカルボニル]酢酸エチルエステル一塩酸塩の1H−NMRデータは次のとおりである。
1H−NMR(DMSO−d6,TMS)δ(ppm):10.53(bs,1H)、8.07(dd,1H)、8.01(d,1H)、6.95(dd,1H)、4.10(q,2H)、3.46(s,2H)、1.21(t,3H)。
【0073】
(3)3−クロロ−2−(3,5−ジブロモピラゾール−1−イル)ピリジンの調製
【0074】
【化16】

【0075】
[N’−(3−クロロピリジン−2−イル)−ヒドラジノカルボニル]酢酸エチルエステル一塩酸塩(エステル化合物(VIII))29.00gと99.5%エタノール290.00gとの混合物を冷却し、攪拌しながら内温4℃〜10℃で濃度1mol/Lの苛性ソーダの99.5%エタノール溶液300mLを滴下した。室温雰囲気中で3時間攪拌を続けた時、内温は24.6℃だった。得られた混合物を再び冷却し、内温10℃以下で濃度1mol/Lの苛性ソーダの99.5%エタノール溶液20mLを滴下した。その後室温雰囲気中で一晩攪拌を続けた。得られた反応混合物を冷却し、内温20℃以下で濃塩酸を滴下して反応溶液のpHを3.97に調整した。次に、混合物を減圧下濃縮して溶媒と水を留去し、40℃下真空中で乾燥して粉末46.77gを得た。この粉末に水140.31gを加え、室温下1時間攪拌した後に濾過し、濾上物に水140.31gを掛けて洗った後減圧下に乾燥して、中間生成物19.67gを得た。
【0076】
上記の操作にて得られた該中間生成物9.00gとオキシ臭化リン25.23gとの混合物を加熱し、100℃で14時間攪拌した。得られた反応混合物を室温に冷却した後に、水50g、モノクロロベンゼン(MCB)50gを添加して攪拌した。次に冷却しながら、内温6〜13℃で48%苛性ソーダ水溶液21.14gを滴下してpHを10.39に調整した。次に、固形物を濾過して除去した後、濾液に、水およびMCBを追加して分液し、油層を濃縮して残渣4.55gを得た。この残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製して、3−クロロ−2−(3,5−ジブロモピラゾール−1−イル)ピリジン(ジブロモ化合物(II))3.21gを得た。H−NMR測定を行なったところ、純度は100%であった。高速液体クロマトグラフィーにおける面積百分率(LC面百純度)は、92.4%であった。
【0077】
得られた3−クロロ−2−(3,5−ジブロモピラゾール−1−イル)ピリジンの1H−NMRデータは次のとおりである。
1H−NMR(CDCl3,TMS)δ(ppm):8.55(d,1H)、7.95(d,1H)、7.47(dd,1H)、6.53(s,1H)。
【0078】
<参考例1>
【0079】
【化17】

【0080】
化合物(b)1.85gとテトラヒドロフラン60mlとの混合物に、氷冷下、化合物(a)6.0gを加え、氷冷下に3時間攪拌した。室温まで昇温した反応混合物に、さらに化合物(b)0.46gを追加し、室温で15時間攪拌した。反応混合物を減圧下に濃縮し、得られた残渣に水を注加し、残った固体を濾別した。該固体を水および酢酸エチルで順次洗浄し、化合物(c)4.96gを得た。
【0081】
化合物(c)の1H−NMRデータは次のとおりである。
1H−NMR(DMSO−d6,TMS)δ(ppm):3.63(s,3H)、6.55(s,2H)、7.71(s,1H)、7.79(s,1H)、9.25(s,1H)、10.32(s,1H)。
【0082】
化合物(c)3.67g、炭酸カリウム3.04gおよびN−メチルピロリドン50mlの混合物に、氷冷下、ヨウ化メチル3.12gと1−メチル−2−ピロリジノン2mlとの混合物を滴下し、氷冷下に4時間攪拌し、さらに室温で3時間攪拌した。反応混合物に水を注加し、酢酸エチルで抽出した。有機層を水洗後、無水硫酸マグネシウムで乾燥、減圧下に濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、化合物(d)2.83gを得た。
【0083】
化合物(d)の1H−NMRデータは次のとおりである。
1H−NMR(CDCl3,TMS)δ(ppm):3.11−3.18(m,6H)、3.76(bs,3H)、4.86(bs,1.4H)、5.23(bs,0.6H)、7.17−7.25(m,1H)、7.57(d,1H,J=2Hz)。
【0084】
<参考例2>
【0085】
【化18】

【0086】
化合物(d)0.33g、ホルミル体(V)0.24g、o−クロラニル0.25gおよび1,4−ジオキサン2mlを混合し、窒素雰囲気下、加熱還流条件にて7時間攪拌した。室温まで放冷した反応混合物に、炭酸水素ナトリウム水溶液を注加し、酢酸エチルで抽出した。有機層を水洗後、無水硫酸マグネシウムで乾燥、減圧下に濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、化合物(e)0.35gを得た。
【0087】
化合物(e)の1H−NMRデータは次のとおりである。
1H−NMR(DMSO−d6,TMS)δ(ppm):2.71(s,1.4H)、2.83(s,1.6H)、2.94(s,1.5H)、3.06(s,1.5H)、3.35−3.70(m,3.0H)、7.41(s,0.5H)、7.45(s,0.6H)、7.47(s,0.6H)、7.60−7.64(m,1.3H)、8.07(d,0.5H,J=2Hz)、8.13(s,0.5H)、8.18(d,1.0H,J=8Hz)、8.50(m,1.0H)、10.52(s,0.5H)、10.67(s,0.5H)。
【0088】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】

(式中、Xは、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表わす。)
で示される有機マグネシウム化合物。
【請求項2】
下記式(II):
【化2】

で示されるジブロモ化合物を、下記一般式(III):
R−MgX (III)
(式中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基またはビニル基を表わす。また、Xは、前記と同じ意味を表わす。)
で示されるグリニヤール化合物と反応させることを特徴とする、上記一般式(I)で示される有機マグネシウム化合物の製造方法。
【請求項3】
下記式(II):
【化3】

で示されるジブロモ化合物。
【請求項4】
上記一般式(I)で示される有機マグネシウム化合物を、下記一般式(IV):
HC(=O)−Q (IV)
(式中、Qは、炭素数1〜6のアルキル基で置換されたアミノ基または炭素数1〜3のアルコキシ基を表わす。)
で示される化合物と反応させることを特徴とする、下記式(V):
【化4】

で示されるホルミル化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−46400(P2009−46400A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−211325(P2007−211325)
【出願日】平成19年8月14日(2007.8.14)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】