説明

毛髪の柔軟性評価方法

【課題】毛髪の断面形状を考慮して柔軟性を高精度に評価することができ、さらに弾性率と毛髪の内部構造とを関連付けて評価を行うことができる毛髪の柔軟性評価方法を提供する。
【解決手段】複数の層から成る断面構造を有する毛髪の断面形状を測定し、その断面形状を楕円近似したときの長軸と短軸とを求める。毛髪の一端を固定し、少なくとも長軸および短軸のいずれか一方に沿った、固定位置から所定の距離lの位置での毛髪の荷重Pと変位との関係を測定する。横軸を変位、縦軸をPl/3I(Iは荷重Pの負荷方向に対する前記毛髪の断面二次モーメント)として測定値をプロットしたときのグラフの傾きSEを求め、その傾きSEから毛髪の各層の弾性率および/または厚みを評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪の柔軟性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪の柔軟性は、内部構造と大いに関連し、また、毛髪のしなやかさや風合いと相関するため、その評価が大変重要である(例えば、非特許文献1参照)。通常、毛髪の柔軟性を評価するには、束毛髪サンプルか単一毛髪サンプルが用いられる。束毛髪サンプルは、最も確からしい柔軟性を得るのに適しているが、毛髪間の幾何学的バラツキを平均化しているため、毛髪の力学特性変化を捉える際の感度は低下することとなる。例えば、毛髪処理等に対する柔軟性のわずかな変化を検出するには不向きである。これに対し、単一毛髪サンプルに対する特性の変化が束毛髪サンプルの特性変化を反映しているとの報告があり(例えば、非特許文献2参照)、毛髪の柔軟性の変化を議論するには単一毛髪サンプルを用いることが望ましい。
【0003】
従来、単一毛髪の柔軟性を評価する方法の一つとして、曲げ試験による手法が用いられている(例えば、非特許文献3乃至6参照)。また、本発明者等により、平行ばねを利用して高精度で荷重測定を行うことができ、毛髪に対して極微小区間の曲げ試験を行うことができる荷重測定装置が開発されている(例えば、特許文献1参照)。毛髪の曲げ試験では、柔軟性を評価するときに、毛髪の断面形状を考慮することの重要性が指摘されている(例えば、非特許文献7参照)。ここで、毛髪は、最外層のキューティクル層(キューティクルと細胞膜複合体CMC)、中間層のコルテックス層(コルテックスとCMC)、と中心部のメデュラの3層構造を成していることがわかっている(例えば、非特許文献8参照)。このため、曲げ試験から評価される柔軟性は、毛髪の内部構造、すなわち毛髪内部の各層の形状や弾性率に依存していると考えられる。
【0004】
なお、毛髪内部の各層の弾性率は、既に測定されたことがあり(例えば、非特許文献6参照)、表面に露出した最外層の柔軟性は、原子間力顕微鏡等で測定することができる(例えば、非特許文献9または10参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/084662
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Wortmann, F. J., Schwan-Jonczyk, A., “Investigating hair propertiesrelevant for hair ‘handle’. Part I: hair diameter, bending and frictionalproperties”, Int. J. Cosmet. Sci., 2006, 28, p.61-68
【非特許文献2】Robbins, C. R., Scott, G. V.,“Prediction of hair assembly characteristics from single fiber properties”, J.Soc. Cosmet. Chem., 1978, 29, p.783-792
【非特許文献3】Scott, G. V., Robbins, C. R., “A convenient method for measuring fiberstiffness”, Text. Res. J., 1969, 35, p.975-976
【非特許文献4】Scott, G. V. and Robbins, C. R., “Stiffness of human hair fibers”,J. Soc. Cosmet. Chem., 1978, 29, p.469-485
【非特許文献5】Wortmann, F. J., Kure, N., “Bending relaxation properties of humanhair and permanent waving performance”, J. Soc. Cosmet. Chem., 1990, 41, p.123-139
【非特許文献6】Sogabe, A.,Yasuda, M., Noda, A., “Physical properties of human hair 1 -Evaluation ofbending stress by measuring the major and the minor axis of human hair-“, J.Soc. Cosmet. Chem. Jpn., 2002, 36, p.207-216
【非特許文献7】Swift, J. A., “Some simple theoretical considerations on the bendingstiffness of human hair”, Int. J. Cosmet. Sci., 1995, 17, p.245-253
【非特許文献8】Robbins, C. R., “Chemical and Physical Behavior of Human Hair”, 4th ed.,Springer,2001
【非特許文献9】Parbhu, A. N., Bryson, W. G., “Disulfide bonds in the outer layer ofkeratin fibers confer higher mechanical rigidity: Correlative nano-indentationand elasticity measurement with an AFM”, Biochemistry, 1999, 38, p.11755-11761
【非特許文献10】Swift, J. A., Smith, J. R., “Atomic force microscopy of human hair”,Scanning, 2000, 22, p.310-318
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献7に記載のように、毛髪の曲げ試験では、柔軟性を評価するときに、毛髪の断面形状を考慮することが重要であることは指摘されているが、実際に毛髪の断面形状を考慮して柔軟性を高精度に評価したものは存在しない。また、曲げ試験により直接測定される弾性率と毛髪の内部構造との関連性については、これまで具体的に考慮されたことはなかった。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、毛髪の断面形状を考慮して柔軟性を高精度に評価することができ、さらに弾性率と毛髪の内部構造とを関連付けて評価を行うことができる毛髪の柔軟性評価方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る毛髪の柔軟性評価方法は、毛髪の断面形状を測定する形状測定ステップと、前記毛髪の一端を固定し、前記断面形状の所定の方向に沿った前記毛髪の荷重と変位との関係を測定する試験ステップと、前記毛髪の荷重と変位との関係から、前記毛髪の柔軟性を評価する評価ステップとを、有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る毛髪の柔軟性評価方法は、測定した毛髪の断面形状に基づいて、その断面形状の所定の方向に沿った毛髪の荷重と変位との関係を測定するため、毛髪の断面形状を考慮して柔軟性を評価することができる。毛髪の断面形状に対して、常に所定の方向に沿った測定を行うことにより、測定間の幾何学的条件を揃えることができ、統一した基準での毛髪の柔軟性評価を行うことができる。これにより、毛髪処理等に対する毛髪の柔軟性のわずかな変化でも評価することができ、評価精度を高めることができる。
【0011】
本発明に係る毛髪の柔軟性評価方法で、毛髪の荷重と変位との関係は、毛髪の曲げ試験により測定することができる。試験ステップで、毛髪の一端を固定する方法は、いかなる方法であってもよく、例えば、硬化性の樹脂を使用する方法であってもよい。また、断面形状の所定の方向に沿って毛髪の荷重と変位との関係を測定するときには、測定精度を高めるために、顕微鏡で毛髪の形状と方向とを観察しながら行うのが好ましい。なお、ここでの毛髪とは、頭髪だけでなく、眉毛等も含むものである。
【0012】
本発明に係る毛髪の柔軟性評価方法で、前記形状測定ステップは、例えば、前記断面形状を楕円近似したときの長軸と短軸とを求め、前記試験ステップは、少なくとも前記長軸および前記短軸のいずれか一方に沿った前記毛髪の荷重と変位との関係を測定することが好ましい。毛髪の断面形状は、人種や年齢、性別、毛髪の痛み具合などにより、さまざまに異なっていると考えられ、適切な断面形状を仮定して寸法の測定と試験とを実施すると共に、断面形状を考慮して断面二次モーメントを求めて最終的な柔軟性の評価を行うことが肝要である。
【0013】
本発明に係る毛髪の柔軟性評価方法で、前記試験ステップは、前記毛髪の固定位置から所定の距離lの位置での前記毛髪の荷重Pと変位との関係を測定し、前記評価ステップは、変位とPl/3I(Iは荷重Pの負荷方向に対する前記毛髪の断面二次モーメント)との関係から、前記毛髪の柔軟性を評価することが好ましい。特に、本発明に係る毛髪の柔軟性評価方法で、前記毛髪は複数の層から成る断面構造を有し、前記評価ステップは、横軸を変位、縦軸をPl/3Iとして測定値をプロットしたときのグラフの傾きSEを求め、前記傾きSEから前記毛髪の各層の弾性率および/または厚みを評価してもよい。
【0014】
この場合、本発明に係る毛髪の柔軟性評価方法は、以下の測定原理により毛髪の柔軟性を評価することができる。図3に示すように、一端が固定された、片持ちはり構造に対する毛髪の曲げ試験を考える。曲げ試験に使用する測定装置は、本発明者等により開発された特許文献1に記載の荷重測定装置を使用することができる。ここで、毛髪は、断面形状が楕円形状を成し、3層から成る断面構造を有するものとする。
【0015】
毛髪の変形が微小であり、荷重点の移動がないものすれば、以下の式が成立する。
【数1】

ここで、ρはxにおける曲率半径、Mは曲げモーメント、Aは曲げ剛性、E、Iはそれぞれ縦弾性率、断面二次モーメントである。下添え字1、2、3はそれぞれ3層構造の中心部、中間層、最外層を表す。
【0016】
長軸2a、短軸2bの楕円断面に対する短軸方向負荷に対する断面二次モーメントIは、
【数2】

である。なお、長軸方向負荷に対する断面二次モーメントIは、aとbとを入れ替えて得られる。
【0017】
微分方程式(1)に式(2)を代入し、これを境界条件dy/dx|x=0=y|x=0のもとで解くと、次式が得られる。
【数3】

ここで、荷重(P)と変位(y)との関係が負荷方向に依存することに注意が必要である。lは毛髪の固定端から荷重点までの距離である。
【0018】
得られる毛髪に対する荷重−変位線図の傾きより、Aを得ることができる。しかしながら、式(2)に示すように、Aには3つのE(E、E、E)に加えて、3つのI(I、I、I)が含まれており、Aの物理的意味を理解するのは困難である。仮に、6つの寸法(各層の長軸および短軸)を断面観察等により知り得たとしても、単一試験より3つのEを分離決定することは困難である。そこで、直接得られるAの力学的意味を考えることとする。
【0019】
最外層の長軸、および短軸をそれぞれ2a、2bとする。また、中間層および中心部の長軸、および短軸の長さがそれぞれ2aと2bのα倍、β倍(定数)であるとする。この場合、各層の断面二次モーメントは、I=I(1−α)、I=I(α−β)、I=Iβとなる。また、各層の縦弾性率を規準となるEの値、Eを用いて、E=ξE、E=ψE、E=ζEと表す。ここでξ、ψ、ζは定数である。この場合、Aは次式で表される。
【数4】

【0020】
式(5)において、A/Iに着目すれば、これは負荷方向によらない毛髪構造の弾性率を示すことがわかる。そこでこれをSE(structural elastisity)と定義する。
【数5】

【0021】
このように定義したSEは、(Pl)/(3I)−変位関係の傾きに一致し、実験により求めることができる。SEは、各層のEと厚みとに関係する。外形寸法の相違は考慮されているため、SEは個々の毛髪サンプルを比較するのにも適している。曲げ試験時には毛髪外表面に高い応力場が形成されるが、測定されるSEには内部層の特性も反映されることに注意が必要である。このように、新たな評価基準SEを用い、弾性率と毛髪の内部構造とを関連付けて、毛髪の柔軟性を評価することができる。
【0022】
本発明に係る毛髪の柔軟性評価方法で、前記形状測定ステップは、非接触で前記毛髪の断面形状を測定し、前記試験ステップは、前記毛髪の固定位置から1〜3mm離れた位置で、150μN以下の荷重範囲での前記毛髪の荷重と変位との関係を測定することが好ましい。この場合、試験試料の毛髪を損傷することなく、断面形状を測定することができ、試験ステップでの測定精度の低下を防ぐことができる。また、試験ステップで、毛髪が弾性変形する極微小区間での測定を行うことができる。断面形状の測定は、非接触であればいかなる方法で行ってもよく、例えば、レーザーを用いて行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、毛髪の断面形状を考慮して柔軟性を評価することができ、さらに弾性率と毛髪の内部構造とを関連付けて評価を行うことができる毛髪の柔軟性評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態の柔軟性評価方法で使用する荷重測定装置を示す側面図である。
【図2】本発明の実施の形態の柔軟性評価方法による(a)荷重(P)−変位(y)曲線を示すグラフ、(b)Pl/3I−変位(y)曲線を示すグラフの一例である。
【図3】(a)毛髪の曲げ試験の原理を示す側面図、(b)毛髪の内部構造を示すB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態の毛髪の柔軟性評価方法で使用する荷重測定装置を示している。荷重測定装置は、本発明者等により開発された特許文献1に記載の荷重測定装置であって、毛髪の曲げ試験を実施可能である。
図1に示すように、荷重測定装置10は、支持部材11と梁部材12と荷重部13と変位センサ14とを有している。
【0026】
支持部材11は、3方向に位置を調整可能なXYZステージ21と、XYZステージ21の上に載置された、水平2方向に微小移動可能なピエゾステージ22と、ピエゾステージ22の上に載置された、L型の側面形状を成す長さ調整ジグ23と、長さ調整ジグ23の上に取り付けられたセンサホルダ24とを有している。
【0027】
梁部材12は、一端が連結された二重はり構造カレンチバーから成り、他端が長さ調整ジグ23の下端部に取り付けられている。荷重部13は、針状のチップから成り、梁部材12の一端に固定されている。梁部材12は、長さ方向に沿ってスライドして、固定位置と荷重部13との距離を変更可能に、支持部材11に支持されている。
【0028】
変位センサ14は、静電容量センサから成り、センサホルダ24の先端に取り付けられている。変位センサ14は、梁部材12の一端部の表面との間に隙間をあけて、その表面に対向するよう取り付けられ、その表面との距離の変化を測定可能になっている。これにより、変位センサ14は、荷重部13の突出方向の変位を測定可能になっている。
【0029】
以下に、本発明の実施の形態の毛髪の柔軟性評価方法について、実際の毛髪の試験例に基づいて説明する。
試験試料(Sample)として、同一人物の3本の毛髪からそれぞれ5mm程度の3試料(合計9試料)を採取した。シャープペンシルのペン先に硬化性樹脂をポンプ注入した後、毛髪試料を挿入することにより、毛髪試料の一端を固定した。シャープペンシルを固定し、顕微鏡で観察しながら、一端が固定された毛髪試料を36度刻みで回転させて、断面形状を測定した。測定した断面形状を楕円近似し、各毛髪試料の長軸2aと短軸2bとを求めた。その結果を、表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
次に、図1に示す荷重測定装置10を使用して、各毛髪試料の曲げ試験を行った。荷重部13により、各毛髪試料の固定端からの距離lが2mmおよび2.5mmの位置に荷重を作用させ、梁部材12のたわみを変位センサ14で測定した。荷重範囲を150μN以下とし、毛髪が弾性変形する範囲で曲げ試験を行った。各毛髪試料の変形は、y=δ−δで与えられる。ここで、δはピエゾステージ22の変位であり、δは梁部材12のたわみである。毛髪試料に作用する力は、P=kδで与えられる。ここで、kはばね定数で、試験時のkは、26.8μN/μmであった。
【0032】
曲げ試験は、各毛髪試料に対して、短軸および長軸に平行な2方向で、それぞれ2箇所(固定端からの距離l=2mmおよび2.5mmの位置)への負荷で行った。負荷をかける際には、顕微鏡で毛髪の形状と方向とを観察しながら行った。曲げ試験で得られた荷重(P)と変位(y)との関係の一例を、図2(a)に示す。得られた荷重(P)と変位(y)との関係から、横軸を変位(y)、縦軸をPl/3Iとして測定値をプロットしたときのグラフを描く。図2(a)に示したものについて描いたグラフを、図2(b)に示す。
【0033】
図2(b)に示すように、異なる負荷方向により得られたデータが良く一致しているのが確認できる。全ての毛髪試料について、Pl/3I−変位(y)曲線の傾きSEを求め、表1に示す。ここで、l=2mmまたは2.5mmであり、Iは荷重Pの負荷方向に対する毛髪の断面二次モーメントであり、測定された毛髪の断面形状に基づいて、(3)式から算出することができる。
【0034】
図2(a)および(b)から、異なる負荷方向に対する荷重−変位曲線の差異は、毛髪試料の断面二次モーメントによるものであり、断面二次モーメントを考慮した新たな柔軟性の評価基準SEを使用すると、毛髪の柔軟性が負荷方向によらないことが確認された。(6)式に示すように、SEは毛髪の内部構造を反映しているため、SEを用いることにより、弾性率と毛髪の内部構造とを関連付けて、毛髪の柔軟性を評価することができる。また、SEは、外形寸法の相違も考慮されているため、個々の毛髪サンプルを比較するのにも適している。
【0035】
表1に示すように、毛髪試料A1〜A3のSEの値はそれぞれ、5.12±0.18、5.49±0.22、5.16±0.18GPaであり、誤差5%未満の高精度なSE測定を行うことができた。全毛髪試料のSEは、5.26±0.26GPaであり、値のバラつきは5%未満であった。また、毛髪試料A2のSEは、他のSEに比べて少し大きいことが確認できた。このことから、毛髪処理等によるSEの僅かな変化を検出するには、同一の毛髪を使用する必要があるといえる。
【0036】
ここで、毛髪の形状がSEに及ぼす影響について検討する。(6)式中のα=0.9、β=0.1、ξ=1、ψ=0.25、ζ=0.4の場合を考える。この場合、(6)式から、SE=0.50Eとなる。ここで、αの値のみ0.8と変化させると、SE=0.69Eとなり、毛髪の各層の幾何学的形状変化により、SEの値が大きく変動することがわかる。このことから、SEを用いることにより、毛髪の各層の弾性率や厚みを評価することができることがわかる。
【実施例1】
【0037】
本発明の実施の形態の毛髪の柔軟性評価方法を使用して、毛髪処理による毛髪の柔軟性の変化について評価を行った。評価には、3つの毛髪試料(A1−2、A2−1、A2−2)を使用し、各毛髪試料に毛髪処理を施した。毛髪処理として、WT(30秒の水処理)、ST(30秒のシャンプー処理と30秒の水処理)、CT(30秒のコンディショナー処理と30秒の水処理)を行った。各毛髪処理が終わってから40分経過した後に、各毛髪試料についてSEを測定した。
【0038】
測定したSEを、処理前の初期値で規格化した値(これをRとする)を、表2に示す。表2に示すように、WT後のRはおよそ0.9であり、WTにより毛髪は10%程度柔らかくなっている。また、ST後のRもおよそ0.9であり、STによってRはそれほど変わっていない。CT後のRはおよそ0.75である。CT後のSEの変化の内、10%はWTによりもたらされたものである。従って、15%がCTによる効果である。なお、SEの値は、少なくとも18日経過後には、元に戻った。また、WTを3回繰返したところ、Rは0.9から変化しなかった。
【0039】
【表2】

【0040】
ここで、毛髪の内部構造との関係について検討する。各毛髪処理により毛髪の各層に幾何学的変化がないと仮定する。すなわち、SEの変化が各層の弾性率の変化によるものとする。また、簡単のため、二層構造(β=0)を考える。この場合、毛髪の最外層および中間層に対する変化モデルは、それぞれ
【数6】

となる。ここで、ξおよびψは、毛髪処理前のξおよびψの初期値である。
【0041】
α=0.9、ξ=1、ψ=0.25と仮定する。この場合、(7)式および(8)式から、R=0.9、0.75に対して、ξ/ξ=0.85、0.63、ψ/ψ=0.69、0.23と求まる。このことから、実際に観察されるSEの変化以上の変化が各層に生じていることがわかる。
【符号の説明】
【0042】
10 荷重測定装置
11 支持部材
21 XYZステージ
22 ピエゾステージ
23 長さ調整ジグ
24 センサホルダ
12 梁部材
13 荷重部
14 変位センサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪の断面形状を測定する形状測定ステップと、
前記毛髪の一端を固定し、前記断面形状の所定の方向に沿った前記毛髪の荷重と変位との関係を測定する試験ステップと、
前記毛髪の荷重と変位との関係から、前記毛髪の柔軟性を評価する評価ステップとを、
有することを特徴とする毛髪の柔軟性評価方法。
【請求項2】
前記形状測定ステップは、前記断面形状を楕円近似したときの長軸と短軸とを求め、
前記試験ステップは、少なくとも前記長軸および前記短軸のいずれか一方に沿った前記毛髪の荷重と変位との関係を測定することを、
特徴とする請求項1記載の毛髪の柔軟性評価方法。
【請求項3】
前記試験ステップは、前記毛髪の固定位置から所定の距離lの位置での前記毛髪の荷重Pと変位との関係を測定し、
前記評価ステップは、変位とPl/3I(Iは荷重Pの負荷方向に対する前記毛髪の断面二次モーメント)との関係から、前記毛髪の柔軟性を評価することを、
特徴とする請求項1または2記載の毛髪の柔軟性評価方法。
【請求項4】
前記毛髪は複数の層から成る断面構造を有し、
前記評価ステップは、横軸を変位、縦軸をPl/3Iとして測定値をプロットしたときのグラフの傾きSEを求め、前記傾きSEから前記毛髪の各層の弾性率および/または厚みを評価することを、
特徴とする請求項3記載の毛髪の柔軟性評価方法。
【請求項5】
前記形状測定ステップは、非接触で前記毛髪の断面形状を測定し、
前記試験ステップは、前記毛髪の固定位置から1〜3mm離れた位置で、150μN以下の荷重範囲での前記毛髪の荷重と変位との関係を測定することを、
特徴とする請求項1、2、3または4記載の毛髪の柔軟性評価方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−225652(P2012−225652A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90500(P2011−90500)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】