説明

毛髪内水分量の測定方法

【課題】毛髪内の局所における水分量を簡便かつ正確に測定することができる毛髪内水分量の測定方法を提供する。
【解決手段】(a)水分量既知の基準毛髪にレーザ光を照射してラマンスペクトルを測定し、毛髪の含水率とラマン散乱強度との関係を示す検量線を作成する工程と、(b)非直線偏光レーザ光を測定対象の水分量未知の毛髪に照射して、当該毛髪のラマンスペクトルを測定する工程と、(c)前記工程(b)で得られた測定結果と前記工程(a)で得られた検量線とを用いて、前記の測定対象毛髪内の局所における水分量を求める工程とを含む、毛髪内水分量の測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪内水分量の測定方法に関し、詳しくは、ラマン分光法を用いた毛髪内水分量の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シャンプー、リンス、コンディショナー等の毛髪に使用する剤には、保水成分や保湿成分等が添加されたものが数多く提供されている。また、染毛剤やブリーチ剤の開発においては、その使用後において毛髪の保水性や保湿性への影響も考慮されている。このような状況下、シャンプー、リンス、コンディショナー、染毛剤、ブリーチ剤等の毛髪に使用する剤の開発において、毛髪の局所における保水量や水の浸透の具合を把握することは、添加する保水成分を選択したり、これらの剤の毛髪内への浸透具合を把握したりする上で極めて有効であると考えられる。
【0003】
毛髪の保水量や水の浸透分布の測定技術に関して、これまで種々の方法が提案されている(例えば、特許文献1等を参照。)。しかしながら、これらの技術では、毛髪全体の平均水分量を求めており、局所的な毛髪の保水量を把握することが困難であった。
【0004】
一方、共焦点ラマン分光法によって皮膚のラマンスペクトルを測定し、その深さ方向における水分量を測定する技術が提案されている(例えば、非特許文献1及び2等を参照。)。非特許文献1に記載された方法では、ピンホールを有する板に皮膚を押し当て、ピンホールにて露出された皮膚面について共焦点ラマン測定を行っている。また、非特許文献2に記載された方法では、透明基板に皮膚を押し当て、形成された皮膚平面について透明基板越しに測定を行っている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−344279号公報
【非特許文献1】L.Chrit et al.:“In vivo chemical investigation of human skin using a confocal Raman fiber optic microprobe”,Journal of Biomedical Optics,10(4),044007(July/August 2005)
【非特許文献2】PJ Caspers et al.:“In vivo confocal Raman microscopy of the skin:noninvasive determination of molecular concentration profile”,Journal of Investigative Dermatology,116(3),434(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1又は2に記載された方法ではいずれも、皮膚面を剤に浸漬したままの状態で、皮膚内局所における化学組成情報を取得することはできない。そのため、これらの技術をそのまま毛髪の測定に適用しても、剤に浸漬した状態で、毛髪の局所における保水量を把握するのは困難であった。
また、本発明者らは、共焦点ラマン分光法を用いた毛髪内局所の水分量の測定について検討を試みた。しかし、同じ毛髪でも測定ごとに測定値が異なり、非特許文献1や2に記載されているような皮膚測定と同様の手法では、毛髪についてはうまく測定できないことが分かった。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、毛髪内の局所における水分量を簡便かつ正確に測定することができる毛髪内水分量の測定方法を提供することを目的とする。また、本発明は、水に浸漬した状態での毛髪の局所における水分量を求めることができる、毛髪内水分量の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、毛髪についてのラマンスペクトルの計測値の変動は、毛髪の繊維配向の影響に由来することを見出した。すなわち、毛髪は皮膚と異なり繊維が配向しているため、毛髪を測定装置のステージ上に配置する向きに依存してラマンスペクトルの計測値が変動することがわかった。本発明者らは、さらに鋭意検討を重ねた結果、非直線偏光レーザ光を用いてラマン分光測定を行うことにより、毛髪の繊維配向の影響を除去して毛髪水分量を正確に測定できることを見出した。本発明はこのような知見に基づきなされるに至ったものである。
【0009】
本発明は、(a)水分量既知の基準毛髪にレーザ光を照射してラマンスペクトルを測定し、毛髪の含水率とラマン散乱強度との関係を示す検量線を作成する工程と、(b)非直線偏光レーザ光を測定対象の水分量未知の毛髪に照射して、当該毛髪のラマンスペクトルを測定する工程と、(c)前記工程(b)で得られた測定結果と前記工程(a)で得られた検量線とを用いて、前記の測定対象毛髪内の局所における水分量を求める工程とを含む、毛髪内水分量の測定方法を提供することにより、前記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、毛髪内の局所における水分量を簡便かつ正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の毛髪内水分量の測定方法は、検量線を作成する工程(工程(a))と、測定対象の毛髪のラマンスペクトルを測定する工程(工程(b))と、当該測定結果と前記検量線とを用いて、測定対象の毛髪内の局所における水分量を求める工程(工程(c))とを含む。ここで、「局所」とは、レーザビームが照射されたときの焦点部分となる毛髪の一部分をいい、レーザビームの照射面積(ビーム径)、及び共焦点ラマン分光器の共焦点光学系のピンホールによって定まる範囲をいう。
【0012】
本発明では、ラマン分光計を用いて、毛髪内部のラマンスペクトルを測定する。ラマン分光測定においては、一般的な方法を使用することができ、特に、共焦点顕微ラマン法による測定が好ましい。
ラマンスペクトル中、2900cm-1付近に毛髪のタンパク質に起因するCH伸縮振動のピークが現れ、3400cm-1付近に毛髪中の水分に起因するOH伸縮振動のピークが現れる。本発明では、3400cm-1付近のOH伸縮振動の信号強度IOHと2900cm-1付近のCH伸縮振動の信号強度ICHとから強度比IOH/ICHを算出して、毛髪中の水分についてのラマン散乱強度を求める。
【0013】
本発明の方法では、まず、水分量既知の基準毛髪にレーザ光を照射してラマンスペクトルを測定し、毛髪の含水率とラマン散乱強度との関係を示す検量線を作成する(工程(a))。
【0014】
検量線作成の際におけるラマンスペクトル測定では、任意のレーザ光を用いることができるが、非直線偏光レーザ光が好ましい。なお、本明細書において「非直線偏光」とは、特定の直線方向にのみ偏光していないことを意味し、非偏光、円偏光及び楕円偏光が含まれる。試料に入射されるレーザ光は、レーザ源から照射される偏光レーザ光の直線偏光を解消する光学手段(例えば非偏光を得ることができる偏光解消板や円偏光を得ることができる4分の1波長板など)を用いることで、非直線偏光とすることができる。
ただし、直線偏光レーザを用いる場合には、毛髪の繊維配向の影響により、毛髪を測定装置のステージ上に配置する向きに依存してラマンスペクトルの計測値が変動してしまう。そのため、検量線作成の際には、毛髪の配置方向を一定にして測定する必要がある。
【0015】
毛髪の含水率とラマン散乱強度との関係を示す検量線を作成する手法は特に限定されないが、例えば以下の手順に従って検量線を作成することができる。
(1)毛髪を絶対乾燥状態(絶乾状態)とする。具体的には、脂溶性成分を抽出した白髪を五酸化二リンとともに調湿容器に入れ密封し、調湿容器をデシケーター内で一週間保管し、完全に乾燥させる。五酸化二リンは、吸湿力が2×10-5mgであり、優れた乾燥剤である。
(2)絶乾状態の毛髪についてラマン測定および秤量を行う。具体的には、密封した調湿容器内の毛髪のラマンスペクトルを非直線偏光レーザにより測定し、次いで、調湿容器から毛髪を取り出して、毛髪質量を秤量する。
【0016】
(3)毛髪を所定の湿度に調湿する。具体的には、乾燥後の毛髪を、吸湿力の異なるいくつかの調湿剤とともに調湿容器に入れ密封し、それぞれ一週間保管する。好ましい調湿剤としては、シリカゲル(吸湿力:6×10-3mg)、塩化カルシウム(吸湿力:1.4〜2.5×10-1mg、平衡湿度:31%R.H.)、塩化ナトリウム(平衡湿度:75%R.H.)、リン酸水素2ナトリウム(平衡湿度:95%R.H.)などが挙げられる。
(4)調湿状態の各毛髪についてラマン測定および秤量を行う。具体的には、密封した調湿容器内の吸湿した毛髪のラマンスペクトルを非直線偏光レーザにより測定し、次いで、調湿容器から毛髪を取り出して、毛髪質量を秤量する。
【0017】
(5)毛髪中の水分についてのラマン散乱強度を求める。具体的には、乾燥状態および調湿状態の各毛髪について測定したラマンスペクトルのうち、3400cm-1付近のOH伸縮振動の信号強度IOHと2900cm-1付近のCH伸縮振動の信号強度ICHとから強度比IOH/ICHを算出する。
(6)毛髪の含水率を求める。毛髪の含水率Rwaterは、(毛髪中の水の質量)/(毛髪中のタンパク質の乾燥質量)で表すことができ、湿度H%(相対湿度)における毛髪の含水率Rwater(H)は、下式(1)により算出することができる。
【0018】
数式(1)
含水率Rwater(H)=(W(H)−WDry)/WDry
【0019】
式中、Rwater(H)は、湿度H%(相対湿度)における毛髪の含水率を表し、W(H)は、湿度H%における毛髪の質量を表し、WDryは、毛髪の絶対乾燥質量(絶乾質量)を表す。
(7)上記(5)で求めたラマン散乱強度と上記(6)で求めた毛髪の含水率との関係を示す検量線を作成する。
【0020】
次に、非直線偏光レーザ光を測定対象の水分量未知の毛髪に照射して、当該毛髪のラマンスペクトルを測定する(工程(b))。
測定対象の毛髪についてのラマンスペクトル測定では、非直線偏光レーザ光が用いられる。非直線偏光レーザは、上述した手段によって得ることが可能である。非直線偏光レーザ光を用いてラマン分光測定を行うことにより、毛髪の繊維配向による影響を受けることなく測定することができる。
測定したラマンスペクトルのうち、3400cm-1付近のOH伸縮振動の信号強度IOHと2900cm-1付近のCH伸縮振動の信号強度ICHとから強度比IOH/ICHを算出し、測定対象の毛髪中の水分についてのラマン散乱強度を求める。
【0021】
最後に、工程(b)で得られた測定結果と工程(a)で得られた検量線とを用いて、測定対象毛髪内の局所における水分量を求める(工程(c))。
工程(b)で求めた、測定対象の毛髪中の水分についてのラマン散乱強度を、工程(a)で作成した検量線に当てはめることにより、測定対象毛髪内の局所における含水率が求められる。
毛髪中の水分量Cwaterは、(毛髪中の水の質量)/(毛髪の質量)で表すことができる。ここで、毛髪の質量は、(毛髪中の水の質量)+(毛髪中のタンパク質の乾燥質量)で表すことができる。また、湿度H%(相対湿度)における毛髪中の水分量Cwater(H)は、含水率Rwaterを用いて下式(2)により算出することができる。
【0022】
数式(2)
water(H)[質量%]=(Rwater/(Rwater+1))×100
【0023】
このようにして、測定対象毛髪内の局所における水分量を求めることができる。
【0024】
本発明によれば、測定対象毛髪内の局所における水分量を求めることができる。特に、毛髪表面からの深さを変えてラマンスペクトルを測定することで、毛髪中の局所における水の浸透分布を求めることができる。したがって、毛髪の局所的な膨潤率や剤の浸透量を簡便に測定することができる。
【0025】
毛髪表面からの深さを変えてラマンスペクトルを測定する場合、測定する深さの間隔が狭い程より精度の高い結果が得られるが、毛髪キューティクル層が大体3〜5μmであることを考慮すると、1μm〜2μmの間隔で測定すれば、所望の測定結果を得ることが容易となる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
以下の装置を用いて試験を行った。
<装置構成>
ラマン分光器:ナノファインダー30(東京インスツルメンツ社製、商品名)
励起波長632.8nm
対物レンズ:100倍(NA=1.3)、40倍(NA=0.9)
偏光解消板(シグマ光機)
(偏光解消板組み込み冶具)
対物レンズの根本に、アルミ製の偏光解消板組み込み用の冶具を取り付けた。冶具を図1に示す。
【0028】
参考例1
(毛髪ラマンスペクトルにおける毛髪繊維配向の影響)
前記装置構成において、偏光解消板を組み込まずに試験を行った。毛髪を共焦点顕微ラマン分光器のステージ上に載せて、毛髪を置く向きを変えて、直線偏光したレーザにより測定した。レーザの向き、偏光方向、試料の向きなどの位置関係を図2に示す。レーザの偏光方向をY軸方向と定め、ラマン分光器のステージ上でY軸と直行する軸をX軸とした。毛髪の配置方向は実験の座標系に対して毛髪軸がX軸方向またはY軸方向になるように置いた。毛髪軸がX軸方向である場合および毛髪軸がY軸方向である場合のそれぞれについて測定したラマンスペクトルを図2に示す。
図2から明らかなように、毛髪を置く向きにより、ピークA(α−ヘリックスのC−Cの骨格振動)、ピークB(α−ヘリックスのC−Hの変角振動)、ピークC(アミドI)、ピークD(NH伸縮振動とOH伸縮振動が重なっている領域)の形状が変化していることが分かった。
【0029】
次に、常温大気下(R.H.50%)における毛髪の水分量を、毛髪軸がX軸方向またはY軸方向になるように置いた場合に得られるスペクトルからそれぞれ求めた。水分量の測定は、P.J.Caspers et al.,In vivo confocal Raman microscopy of the skin:Noninvasive determination of molecular concentration profiles,J.Invest.Dermatol.,Vol.116,p.434-442(2001)に記載されたPuppelsらの皮膚の水分定量法に基づいて行った。
その結果、毛髪軸がX軸方向である場合の水分量は7.0%であるのに対し、毛髪軸がY軸方向である場合の水分量は12.9%であり、同一の毛髪でも約6%の差が生じることがわかった。
このように毛髪を置く向きに依存してスペクトルが変わるのは、毛髪繊維の配向の影響がラマンスペクトルに現れたためであると考えられる。
【0030】
参考例2
(非直線偏光レーザ毛髪ラマンスペクトルにおける毛髪繊維配向の影響の解消)
偏光解消板を組み込んだ装置を用いたこと以外は参考例1と同様にして試験を行った。具体的には、毛髪を共焦点顕微ラマン分光器のステージ上に載せて、毛髪を置く向きを変えて、偏光解消板を用いて励起レーザを非直線偏光(より具体的には非偏光)とした装置構成により測定した。毛髪軸がX軸方向である場合および毛髪軸がY軸方向である場合のそれぞれについて測定したラマンスペクトルを図3に示す。
図3から明らかなように、毛髪を置く向きに依存したピーク形状の変化がほぼ無いことが分かった。この結果、非直線偏光レーザ光を用いてラマン分光測定を行うことにより、毛髪の繊維配向による影響を受けずにラマンスペクトルを測定できることがわかった。
【0031】
実施例
(検量線の作成)
白髪(n=18本)を用いて、以下のようにして検量線を作成した。
まず、脂溶性成分を抽出した白髪を五酸化二リンとともに調湿容器に入れ密封し、調湿容器をデシケーター内で一週間保管し、完全に乾燥させた。五酸化二リンは乾燥状態で使用した。この状態を絶乾状態とみなした。この絶乾状態の毛髪についてラマン測定および秤量を行った。具体的には、密封した調湿容器内の毛髪のラマンスペクトルを非直線偏光レーザにより測定した。その後、調湿容器から毛髪を取り出して、毛髪質量を秤量した。
【0032】
次に、乾燥後の毛髪を、吸湿力の異なる調湿剤とともに調湿容器に入れ密封し、それぞれ一週間保管し、調湿した。調湿剤として、シリカゲル(吸湿力:6×10-3)、塩化カルシウム(吸湿力:1.4×10-1、平衡湿度:31%R.H.)、塩化ナトリウム(平衡湿度:75%R.H.)又はリン酸水素2ナトリウム(平衡湿度:95%R.H.)を用いて調湿した。また、調湿剤を用いずに室内湿度50%R.H.で調湿した。これらの調湿状態の各毛髪についてラマン測定および秤量を行った。具体的には、密封した調湿容器内の吸湿した毛髪のラマンスペクトルを非直線偏光レーザにより測定した。その後、調湿容器から毛髪を取り出して、毛髪質量を秤量した。
【0033】
乾燥状態および調湿状態の各毛髪について得られたスペクトルを図4(a)に示す。また、図4(a)に示したスペクトルのうち、2900cm-1付近のCH伸縮振動の信号強度を基準に正規化したスペクトルを図4(b)に示す。図4(b)から明らかなように、乾燥状態および調湿状態の各毛髪において水分量が変化していることがわかる。
【0034】
乾燥状態および調湿状態の各毛髪について測定したラマンスペクトルのうち、3400cm-1付近のOH伸縮振動の信号強度IOHと2900cm-1付近のCH伸縮振動の信号強度ICHとから強度比IOH/ICHを算出した。一方、調湿状態の各毛髪について、各湿度における毛髪の含水率を前記数式(1)により算出した。求めたラマン強度比IOH/ICHと毛髪の含水率との関係を示す検量線を作成した。作成した検量線を図5に示す。図5から明らかなように、局所におけるラマン強度比IOH/ICHと毛髪の含水率との間には、直線的な正の相関があることがわかった。
【0035】
(測定対象の毛髪における水分分布の測定)
大気下(R.H.30%)中で、測定対象の毛髪について毛髪表面からの深さを変えてラマンスペクトルを測定した。また、同様に、測定対象の毛髪を水に30分浸漬させた後に、水中でラマンスペクトルを測定した。
測定したラマンスペクトルのうち、3400cm-1付近のOH伸縮振動の信号強度IOHと2900cm-1付近のCH伸縮振動の信号強度ICHとから強度比IOH/ICHを算出し、測定対象の毛髪中の水分についてのラマン散乱強度を求め、上記の作成した検量線に当てはめて、測定対象毛髪内の局所における含水率を求めた。求めた含水率を前記数式(2)により毛髪の水分量(質量%)を測定した。毛髪の水分量と毛髪表面からの深さとの関係を図6に示す。
【0036】
図6から明らかなように、大気下(R.H.30%)において測定した毛髪は、水分量はほぼ一定であった。一方、水に30分浸漬させた後に水中で測定した毛髪は、キューティクル層では表面に近いほど水分が多く、コルテックス層ではほぼ一定の水分を示すことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、実施例で用いた偏光解消板組み込み冶具を示す。
【図2】図2は、参考例1で測定したラマンスペクトルを示す。
【図3】図3は、参考例2で測定したラマンスペクトルを示す。
【図4】図4は、実施例で測定した乾燥状態および調湿状態の各毛髪について得られたスペクトルを示す。
【図5】図5は、実施例で作成した検量線を示す。
【図6】図6は、毛髪の水分量と毛髪表面からの深さとの関係を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)水分量既知の基準毛髪にレーザ光を照射してラマンスペクトルを測定し、毛髪の含水率とラマン散乱強度との関係を示す検量線を作成する工程と、
(b)非直線偏光レーザ光を測定対象の水分量未知の毛髪に照射して、当該毛髪のラマンスペクトルを測定する工程と、
(c)前記工程(b)で得られた測定結果と前記工程(a)で得られた検量線とを用いて、前記の測定対象毛髪内の局所における水分量を求める工程
とを含む、毛髪内水分量の測定方法。
【請求項2】
前記工程(a)で使用するレーザ光が非直線偏光レーザ光である、請求項1記載の毛髪内水分量の測定方法。
【請求項3】
前記非直線偏光レーザ光が、レーザ源から照射される偏光レーザ光の偏光成分を解消する光学手段を介することで得られるものである、請求項1又は2に記載の毛髪内水分量の測定方法。
【請求項4】
前記非直線偏光レーザ光が円偏光レーザ光である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の毛髪内水分量の測定方法。
【請求項5】
前記工程(a)において、基準毛髪について測定したラマンスペクトルのうち、3400cm-1付近のOH伸縮振動の信号強度IOHと2900cm-1付近のCH伸縮振動の信号強度ICHとから強度比IOH/ICHを算出し、これによって検量線を作成する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の毛髪内水分量の測定方法。
【請求項6】
前記工程(c)において、前記工程(b)で得られた測定対象毛髪についてのラマンスペクトルのうち、3400cm-1付近のOH伸縮振動の信号強度IOHと2900cm-1付近のCH伸縮振動の信号強度ICHとから強度比IOH/ICHを算出し、これによって毛髪内の水分量を求める、請求項1〜5のいずれか1項に記載の毛髪内水分量の測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−204405(P2009−204405A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46041(P2008−46041)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】