説明

毛髪処理剤組成物

【課題】優れた保湿性、コンディショニング効果を有し、自然な仕上がりを与える毛髪処理剤組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】(1)ポリ−γ−L−グルタミン酸および/またはその塩、(2)塩から成る酸化剤及び(3)少なくとも1種のカチオン性界面活性剤を含有することを特徴とする毛髪処理剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は毛髪処理剤組成物、更に詳しくは、塩から成る酸化剤に対してポリ−γ−L−グルタミン酸および/またはその塩とカチオン性界面活性剤とを配合したことを特徴とする毛髪処理剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
人の皮膚は、角質層によって覆われており、乾燥した大気中においても水分を失うことなく生命活動を維持できるのは、外界と接しているこの角質層が存在しているからであることはよく知られている。角質層は薄く柔軟で且つ体内の水分を保ち、健常な皮膚状態を維持するように調節している。
【0003】
しかしながら、我々は環境要因等(例えば、温度変化、湿度変化、光、水との接触、洗剤の使用等)により、しばしば表皮に何らかの損傷をきたすことがある。ダメージを受けた皮膚は、硬く、弾力性も失われ、カサカサとした肌荒れ状態となる。こうした肌荒れ皮膚は、近年、急増傾向にあるアトピー性皮膚炎との関連性も指摘されており、深刻なスキントラブルを招く恐れもある。
【0004】
荒れ肌には、角質細胞の剥離によるものと、乾燥により皮膚の健康状態が悪化して表皮の硬化や損傷に至るものがある。前者の荒れ肌はコレステロール、セラミド、脂肪酸等の角質細胞間脂質の溶出、および紫外線、洗剤等に起因する角質細胞の変性や表皮細胞の増殖・角化バランスの崩壊による角層透過バリアの形成不全等によって発生する。この荒れ肌を予防または治癒する目的で、角質細胞間脂質成分又はそれに類似する合成の角質細胞間脂質を供給するなどの検討が行われている。この角層細胞間脂質は、有棘層と顆粒層の細胞で生合成された層板顆粒が、角層直下で細胞間に放出され、伸展し、層板(ラメラ)構造をとり、細胞間に広がったものである。層板顆粒はグルコシルセラミド、コレステロール、セラミド、リン脂質等から構成されるが、角層細胞間脂質にはグルコシルセラミドは殆ど含まれていない。すなわち、層板顆粒中のグルコシルセラミドは、β−グルコセレブロシダーゼによって加水分解を受け、セラミドに変換され、このセラミドがラメラ構造をとる結果、角層細胞間脂質として角層透過バリアの形成を改善し、荒れ肌防御のバリアの働きを持つと考えられる。洗浄剤による肌荒れはセラミドの補充が有効であり、肌荒れの改善に高い効果を示すことが報告されている(非特許文献1)。
【0005】
一方、後者の荒れ肌には、毛髪処理剤組成物には皮膚の恒常性維持の他、皮膚からの水分揮散を防止し、皮膚を構成する表皮、角質層に水分を保持させ皮膚に保湿性、柔軟性を保たせみずみずしい肌を保持する等の目的で保湿剤が配合されている。従来より用いられてきた保湿剤としては、オリーブ油、等の植物油やラノリンのような動物由来の脂質に代表される親油性の保湿剤の他に親水性の保湿剤としては、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール等の水溶性多価アルコール、ヒアルロン酸及びキサンタンガムのような多糖類、ポリエチレングリコールなどの水溶性高分子、ピロリドンカルボン酸塩及びアミノ酸に代表される低分子量の天然保湿因子、植物抽出エキス等が知られている。
【0006】
このように様々な種類の親水性、親油性の保湿剤が存在するが、安全性を重要視する風潮などから、昨今では動物由来のものや化学合成品は避けられる傾向にあり、好ましくは天然物や微生物による発酵生産物で、さらには生体のみならず環境にも負荷の少ない生分解性の素材が期待され注目を浴びている。
【0007】
一方で、微生物が生産するバイオポリマーが有望視されている。バイオポリマーの中でも、アミノ酸が縮重合して構成されるポリアミノ酸と呼ばれる一群のバイオポリマーには、様々な機能が見出されており、その潜在能力に注目が集まっている。従来、ポリアミノ酸として、ポリ−γ−グルタミン酸(以下、「PGA」と表記することがある)、ポリ−ε−リジンおよびシアノファイシンの3種類が同定されている。
【0008】
PGAは、グルタミン酸のα−アミノ基とγ−カルボキシル基とがアミド結合したポリアミノ酸である。PGAは、古くから日本人に親しまれている納豆の糸引きの主体物質として知られる、吸水性のポリアミノ酸であるが、このように親しまれてきた背景として、その魅力的な機能性によるところが大きい。PGAの魅力的な機能としては、生分解性及び高吸水性を兼ね備えている点が知られている。これらの機能を利用して、上述した毛髪処理剤組成物をはじめ、医療品、食品等、種々の分野、用途で用いられることが期待されている。
【0009】
最近、ポリアミノ酸の構造的特徴(構成アミノ酸の光学活性や種類、分子サイズ、結合様式など)がその機能性に強く反映されていることが分かってきた。よく知られているところでは、生分解性と高吸水性を兼ね備えている点が挙げられる。それらの機能を利用し、食品、化粧品、医療品などの多くの分野で、種々の用途があるものと期待されている。しかし、現在、製品化されているPGAは、化学的にヘテロなDL−PGAである。具体的には、PGAは、納豆菌やその類縁菌から生産され、D−グルタミン酸及びL−グルタミン酸が不規則に結合しており、その含有比率や、配列は生産菌の培養毎に変動する。一般に、ポリアミノ酸の構造的特徴(構成するアミノ酸の光学活性や種類、分子サイズ、結合様式など)は、その機能に強く影響を与える。上記DL−PGAは、分子毎に構造が異なるため、その性質も分子毎に異なる。これでは、所望の品質を有するDL−PGAを安定して製造することが困難である。
【0010】
ホモポリ−γ−グルタミン酸を生産する菌も報告されている。例えば、炭疸菌Bacillus anthracisはD−グルタミン酸のみからなるポリ−γ−D−グルタミン酸(以下、D−PGAと記載することもある)を生産する事が報告されている(非特許文献2)。しかし、本菌は強い病原性を有する細菌であるため、工業的なPGA生産菌としては不適切であり、生産されるD−PGAの分子量も小さい。また、好アルカリ性細菌Bacillus haloduransは、L−グルタミン酸のみからなるポリ−γ−L−グルタミン酸および/またはその塩(以下L−PGAと記載することもある)を生産する事も報告されている(非特許文献3)。しかし、本菌の生産するL−PGAは分子量が極めて小さく、実用的な性能を得るには不十分である。
【0011】
一方、高分子量のホモポリ−γ−グルタミン酸の生産菌として、好塩性古細菌Natrialba aegyptiacaが分子量10万〜100万程度のL−PGAを生産することが報告されている。しかし、本菌は液体培養条件下では分子量が10万程度と小さい、かつ殆どポリ−γ−L−グルタミン酸および/またはその塩を生産しないため、工業的な生産菌として問題があった(非特許文献4、特許文献1)。
【0012】
上記以外に、L−PGAを生産する生物としては、ヒドラ等が挙げられるが、ヒドラの場合も同様に分子量が極めて小さいという問題がある(非特許文献3)。
【0013】
一方本発明者らは、均一な光学純度でかつ高分子量のポリ−γ−L−グルタミン酸および/またはその塩を液体培養などで大量に調製することを可能とした。より具体的には、数平均分子量が130万以上で、かつ均一な光学純度のポリ−γ−L−グルタミン酸および/またはその塩を、培養液1Lあたり4.99g以上の高い生産性で取得している(特許文献2)。
【0014】
また、ポリ−γ−L−グルタミン酸の架橋方法と架橋体(特許文献3)、並びにポリ−γ−L−グルタミン酸及びポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体のうち少なくとも一方を含むことを特徴とする毛髪処理剤組成物(特許文献4)の報告がある。
【0015】
従来より、毛髪にウェーブをかける方法としては、例えばチオグリコール酸塩やシステイン等の還元剤を主剤とする第1剤により毛髪ケラチンのシスチン結合を切断し、臭素酸塩や過酸化水素等の酸化剤を主剤とする第2剤によりシスチン結合の再結合を行う等の手段が用いられている。しかしながら、この方法によると、酸化、還元という悪条件下で毛髪を処理するため、毛髪の強度低下や感触の劣化が起こり、ブラシ等の使用によって引っかけ等の現象が起こるため、キューティクルの剥離や枝毛、断毛の原因となる。
【0016】
第1剤処理の段階においては、アルカリ剤が毛髪を膨潤させるため、毛髪中の蛋白質の分解やアミノ酸の流出等が起こり、第2剤処理の段階では、第1剤で損傷を受けた毛髪が、さらに酸化によって損傷を受ける。そのため従来より、パーマネントウェーブの処理過程において、持続的なコンディショニング効果を与える試みとして様々な研究開発が行われている。例えば、パーマネントウェーブ第2剤に特定のカチオン性高分子化合物と陰イオン性界面活性剤又は両性界面活性剤を配合したもの(特許文献5〜8)、特定のカチオン性高分子化合物を配合したもの(特許文献9,10)、特定のシリコーン重合体を配合したもの(特許文献11,12)等が提案されている。しかしながら、この方法によると、酸化、還元という悪条件下で毛髪を処理するため、毛髪の強度低下や感触の劣化が起こり、ブラシ等の使用によって引っかけ等の現象が起こるため、キューティクルの剥離や枝毛、断毛の原因となる。しかしながら、上記技術はいずれも処理後の感触の改善は認められるが、毛髪にごわつき感を残すことがあるなどの点があり、特にカチオン性高分子配合によるものは、毛髪にハリコシを与え、結果的にごわつき感を与える結果となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特表2002−517204号公報
【特許文献2】特開2007−314434号公報
【特許文献3】特開2008−120910号公報
【特許文献4】特開2008−120725号公報
【特許文献5】特開昭56−92810号公報
【特許文献6】特開昭57−31605号公報
【特許文献7】特開昭57−212111号公報
【特許文献8】特開昭61−183214号公報
【特許文献9】特公昭63−28884号公報
【特許文献10】特公昭64−3843号公報
【特許文献11】特開平1−110611号公報
【特許文献12】特開平2−255608号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】ジャーナル オブ バイオサイエンス アンド バイオエンジニアリング、94,187(2002)
【非特許文献2】Handy, W. E., and H.N. Rydon,Biochem J., 40, 297-309 (1946)
【非特許文献3】生物と化学 Vol.40, No.4, p212-214 (2002)
【非特許文献4】Hezayen, F. F., B. H. A. Rehm, B. J. Tindall and A. Steinbuchel, Int. J. Syst. E., 51, 1133-1142(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、処理後の毛髪の感触に優れ、ごわつき感を解消しかつ櫛通り性を高め、毛髪の損傷を低減する毛髪処理剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
斯かる実情において、本発明者らは鋭意研究を行ったところ、臭素酸塩等を含むパーマネントウェーブ用第2剤においてはポリ−γ−L−グルタミン酸および/またはその塩、カチオン界面活性剤の1種または2種以上を含有すると、その組成物は透明もしくは均一に配合できることを見出した。さらにこれで毛髪を処理後、水洗するとこの塩から成る酸化剤を含む毛髪処理剤組成物が希釈される結果、ポリ−γ−L−グルタミン酸および/またはその塩とカチオン性界面活性剤の複合塩が毛髪上で形成され、毛髪に対する優れた保湿性、コンディショニング効果を有し、自然な仕上がりを与えることができることを見出した。
【0021】
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
(1)(1)ポリ−γ−L−グルタミン酸および/またはその塩、(2)塩から成る酸化剤及び(3)少なくとも1種のカチオン性界面活性剤を含有することを特徴とする毛髪処理剤組成物。
(2)ポリ−γ−L−グルタミン酸が、ポリ−γ−L−グルタミン酸分子同士の架橋構造を有することを特徴とするポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体であることを特徴とする(1)の毛髪処理剤組成物。
(3)ポリ−γ−L−グルタミン酸の平均分子量が100万以上であることを特徴とする(1)または(2)の毛髪処理剤組成物。
(4)ポリ−γ−L−グルタミン酸の平均分子量が200万以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかの毛髪処理剤組成物。
(5)ポリ−γ−L−グルタミン酸の平均分子量が350万以上であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかの毛髪処理剤組成物。
(6)ポリ−γ−L−グルタミン酸の吸水倍率が10倍以上5000倍以下であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかの毛髪処理剤組成物。
(7)塩から成る酸化剤が臭素酸塩であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかの毛髪処理剤組成物。
(8)カチオン性界面活性剤が、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、ラノリンのカチオン化物、塩化γ-グルコンアミドプロピルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム、塩化トリ(ポリオキシエチレン)ステアリルアンモニウム及び加水分解ポリペプチドのカチオン化物から成る群から選ばれる1種以上であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかの毛髪処理剤組成物。
【発明の効果】
【0022】
本発明の毛髪処理剤組成物は、すすぎ時のきしみ感、指通り、乾燥後のごわつきのなさ、しっとり感が良好であり、処理後毛髪の損傷も少ないものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の「ポリ−γ−L−グルタミン酸」とは、L−グルタミン酸のみからなるホモポリマ−である。その構造は式(I)にて示される構造である。α−COOHの水素は水素であっても良いし他の金属対イオンでも良い。例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、マンガン、カルシウム、亜鉛及び鉄等一般的なものあれば限定する必要はない。そのなかでも好ましくはナトリウムである。
【0024】
【化1】

【0025】
本発明の「分子量」とはプルラン標準物質の分子量換算にて算出した数平均分子量(Mn)のことを指す。
【0026】
本発明のポリ−γ−L−グルタミン酸は、既存の方法で得ることができる。たとえば、特許文献2(特開2007−314434号公報)に記載された方法で、ポリ−γ−L−グルタミン酸を得ることができる。以下に、一例として、特許文献2を参考にしたポリ−γ−L−グルタミン酸の製造方法を述べるがこれに限定されるものではない。
【0027】
たとえば、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センタ−に、ナトリアルバ エジプチアキア(Natrialba aegyptiaca)0830−82株(受託機関名:独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センタ−、受託日:平成18年4月4日、受託番号:FERM BP−20872)、ナトリアルバ エジプチアキア(Natrialba aegyptiaca)0830−243株(受託機関名:独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センタ−、受託日:平成18年4月4日、受託番号:FERM BP−20873)、またはナトリアルバ エジプチアキア(Natrialba aegyptiaca)0831−264株(受託機関名:独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センタ−、受託日:平成18年4月4日、受託番号:FERM BP−20874)として寄託されている菌株をもちいてポリ−γ−L−グルタミン酸を得る場合、液体培養によりポリ−γ−L−グルタミン酸を得ることができる。または、特許文献2(特開2007−314434号公報)に記載された方法で微生物を変異処理し、液体培養によりポリ−γ−L−グルタミン酸を生産できる微生物を作製し、ポリ−γ−L−グルタミン酸を生産することもできる。また、ナトリアルバ エジプチアキア(Natrialba aegyptiaca)を常法により固相培養し、ポリ−γ−L−グルタミン酸を生産することもできる。
【0028】
液体培養する場合には、振とう培養、通気攪拌培養など好気条件などで行うことが望ましい。その際の培養温度は、30〜50℃、好ましくは35〜45℃が適当である。また、培地のpHは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、塩酸、硫酸またそれらの水溶液などによって調整できるが、pH調整できれば限定されない。培養pH5.0−9.0、好ましくはpH6.0−8.5で培養するのが望ましい。また、培養期間は、通常2〜7日間程度でよい。また、培養時のNaCl濃度は10〜30%、好ましくは15〜25%で培養するのが望ましい。また、Yeast Extract濃度は0.1〜10%、好ましくは0.5〜5.0%濃度で培養するのが望ましい。また、固体培養の場合においても前期液体培養の場合と応用に、培養温度は30〜50℃、好ましくは35〜45℃、培養時のpHは5.0−9.0、好ましくはpH6.0−8.5、培養時のNaCl濃度は10−30%、好ましくは15〜25%、Yeast Extract濃度は0.1−10%、好ましくは0.5−5%濃度が採用される。このようにして培養すると、ポリ−γ−L−グルタミン酸は、主として菌体外に蓄積されて前記した培養物中に含まれる。特に限定はされないが、PGA生産液体培地−1(22.5% NaCl、2% MgSO・7HO、0.2% KCl、3% Trisodium Citrate、1% Yeast Extract、0.75% Casamino acid)を使用してもよく、各添加量は菌株にあわせて適宜調整すればよい。
【0029】
培養液中のポリ−γ−L−グルタミン酸の定量方法としては、ポリ−γ−L−グルタミン酸を含む試料から、硫酸銅やエタノ−ルを用いて沈澱させ、その沈殿物の重量測定およびKijerder法による総窒素の測定を行なうもの(M.Bovarnick,J.Biol.Chem.,145巻、415ペ−ジ、1942年)、塩酸加水分解後のグルタミン酸量を測定する方法(R.D.Housewrigt,C.B.Thorne,J.Bacteriol.,60巻、89ペ−ジ、1950年)及び、塩基性色素との定量的な結合を利用した比色法(M.Bovarnick et al.,J.Biol.Chem.,207巻、593ペ−ジ、1954年)が知られているが好ましくは、塩基性色素との定量的な結合を利用した比色法である。
【0030】
塩基性色素としてはクリスタルバイオレット、アニリンブル−、サフラニンオ−、メチレンブル−、メチルバイオレット、トルイジネブル−、コンゴレッド、アゾカルマイン、チオニン、ヘマトキシリンなどがあげられるが、サフラニンオ−が好ましい。
【0031】
この培養物からポリ−γ−L−グルタミン酸を分離、採取するには、硫酸銅やエタノ−ルを用いて沈澱させるなどの前記の公知の方法を用いればよい。一例を挙げると、例えば、培養液を遠心分離し、菌体を取り除く。続いて、得られた上清液に3倍量の水を加え希釈した後、pHを3.0に調整する。pH調整後、5時間 室温で攪拌した。その後、3倍量のエタノ−ルを加え、ポリ−γ−L−グルタミン酸を沈殿物として回収した。沈殿物を0.1mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)に溶解させ、低分子物質を透析により除去する。透析後、得られた液を核酸除去のため、DNase、RNase処理を行っても良いし、次いでタンパク質除去のために、Proteinase処理を行っても良い。Proteinase処理後、透析により低分子物質を除去しても良い。透析後、凍結乾燥等により、乾燥ポリ−γ−L−グルタミン酸を得ればよい。また、必要により陰イオン交換樹脂を用いた精製を行うことができるが、一般的な条件で精製可能である。
【0032】
本発明に使用するポリ−γ−L−グルタミン酸の分子量は、特に限定されないが、好ましくは50万以上、より好ましくは80万以上、さらに好ましくは100万以上、特に好ましくは130万以上である。
【0033】
L−PGAの分子量の上限値は特に限定されるものではないが、前述のL−PGAの製造方法によれば、例えば、600万、最大で1500万のL−PGAを得ることができる。
【0034】
このポリ−γ−L−グルタミン酸および/またはその塩は、古細菌によって生産されるために、納豆菌によって生産されるポリ−γ−L−グルタミン酸および/またはその塩と比べて特有の臭気が軽減することで、化粧品、医薬部外品、医療用品、衛生用品または医薬品の用途に利用しても品質を損なうことがない。
【0035】
本発明で用いる酸化剤は塩から成る酸化剤であり、例えば、臭素酸塩(例えば、臭素酸カリウム、臭素酸ナトリウムなど)、過硫酸塩、過ホウ酸塩(例えば、過ホウ酸ナトリウム等)、過炭酸塩、過ヨウ素酸塩等が挙げられる。なお、上記塩における金属としてはアルカリ金属(Na又はK等)又はアルカリ土類金属(Mg又はCa等)などが挙げられ、好ましくはアルカリ金属である。酸化剤の配合量は、毛髪処理剤組成物中において一般的には0.5〜20重量%が好ましい。
【0036】
アニオン性高分子化合物の配合量は、毛髪処理剤組成物中において一般的には0.01〜50重量%、好ましくは0.01〜20重量%、最も好ましくは0.01〜5重量%である。配合量が0.01重量%未満では、コンディショニング効果の向上が不十分となり好ましくなく、配合量が50重量%を越えると、毛髪への過剰な残留から毛髪にべたつき等を生じる場合があり、好ましくない。
【0037】
本発明で用いるカチオン性界面活性剤の例としては、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウムなどの塩化アルキルトリメチルアンモニウム;塩化ジラウリルジメチルアンモニウム、塩化ジセチルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムなどの塩化ジアルキルジメチルアンモニウム;エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウムなどのラノリンのカチオン化物;塩化γ-グルコンアミドプロピルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム、塩化トリ(ポリオキシエチレン)ステアリルアンモニウム、N−(3−トリメチルアンモニウム−2−ヒドロキシプロピル)−ポリペプチドなどの加水分解ポリペプチドのカチオン化物などが挙げられるが、これらは塩化物に限らず臭化物やメタスルフォン酸塩等であってもよい。
【0038】
これらのカチオン性界面活性剤は単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。カチオン性界面活性剤の配合量は、得られる質感と効果のバランスから、毛髪処理剤組成物中において一般的には0.1〜50重量%であり、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは0.1〜5重量%である。配合量が0.1重量%未満では、コンディショニング効果の向上が望めず好ましくなく、配合量が50重量%を越える場合は、毛髪をすすぐ際のきしみ感の改善や処理後の毛髪のしっとり感の改善はあるが、沈殿を生ずる場合があるなど安定性の面から好ましくない。
【0039】
また、本発明の毛髪処理剤組成物には、炭酸塩、リン酸塩、クエン酸塩等のpH調整剤、EDTAのような金属イオン封鎖剤、グリセリンや1、3−ブタンジオールのような湿潤剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤のような浸透補助剤、香料、各種ビタミン類、植物抽出液、タンパク質及びタンパク質加水分解物、油分、紫外線吸収剤、防腐剤、水、アルコール、増粘剤、着色料等、本発明を損なわない範囲で配合することができる。
【0040】
本発明の毛髪処理剤組成物の剤型は特に制限されず、液状、乳液状、フォーム状等、ペースト状、ゲル状、クリーム状等の任意の剤型とすることができる。毛髪処理剤組成物は、通常、水を主溶媒とするものであるが、本発明の毛髪処理剤組成物も水を主溶媒とした液体状のものが好ましい。
【0041】
本発明の毛髪処理剤組成物は、通常、水または水を主剤とする水性媒体に、塩から成る酸化剤、少なくとも1種のアニオン性高分子化合物、及び少なくとも1種のカチオン性界面活性剤を添加し、また、必要に応じ、その他の任意成分を添加し、混合することによって調製することができる。あるいは、既に酸化剤を含有した状態に調製されている毛髪処理剤組成物に少なくとも1種のアニオン性高分子化合物と少なくとも1種のカチオン性界面活性剤とを添加して調製してもよい。
【0042】
本発明の毛髪処理剤組成物は、ストレートパーマ用第2剤として使用してもよいし、ウエーブ付与用第2剤として使用してもよい。なお、本発明の毛髪処理剤組成物は、パーマネントウェーブ用第2剤の用法としてコールド二浴式、加温二浴式、用時調製発熱二浴式、およびコールドまたは加温二浴式縮毛矯正式のいずれの施術法においても有用である。
【0043】
以下、本発明を実施例に基づき、より詳細に説明する。なお、本発明は、特に実施例に限定されるものではない。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、以下の実施例に示す「%」は全て「重量%」である。
【0044】
〔製造例1;ポリ−γ−L−グルタミン酸の製造〕
Natrialba aegyptica(受託番号:FERM BP−10749)のL乾燥アンプルに、0.4mlのPGA生産用液体培地(22.5% NaCl、2% MgSO・7HO、0.2% KCl、3% Trisodium Citrate、1% Yeast Extract、0.75% Casamino acid)を加えて懸濁液を得た。0.2mlの当該懸濁液を、PGA寒天培地(10% NaCl、2% MgSO・7HO、0.2% KCl、3% Trisodium Citrate、1% Yeast Extract、0.75% Casamino acid、2% Agar)に接種し、37℃で3日間培養して、シングルコロニーを得た。
【0045】
次に、5本の18ml容試験管に、それぞれ、3mlのPGA生産液体培地(22.5% NaCl、2% MgSO・7HO、0.2% KCl、3% Trisodium Citrate、1% Yeast Extract、0.75% Casamino acid、pH7.2)を入れ、さらに、上記シングルコロニーを白金耳で1白金耳掻き取り植菌した。植菌後の試験管を、37℃、300rpmで3日間培養して、さらに、得られた培養液0.5mlを、50ml PGA生産液体培地を入れた500ml容坂口フラスコ10本にそれぞれ植菌し、37℃で5日間培養した。培養後、得られた培養液を遠心し、菌体を取り除いて上清を回収した。
【0046】
次に、回収した上清に3倍量の水を加え希釈した後、1N硫酸でpHを3.0に調整した。pHを調整した後、室温で5時間攪拌した。その後、3倍量のエタノールを加えて遠心分離を行い、沈殿物を回収した。この沈殿物がL−PGAである。
【0047】
回収したL−PGAを0.1mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)に溶解して、これを、低分子物質等の不純物を除去するために透析した。次に、透析後の液体に含まれる核酸を除去するために、当該液体に、MgClが1mM、DNaseI(TAKARA社製)が10U/ml、RNaseI(ニッポンジーン製)が20μg/mlとなるように加えて、37℃で2時間インキュベートした。次いでタンパク質を除去するために、核酸を除去した後の液体にProteinase K(タカラバイオ製)を3U/mlとなるように添加して、37℃で5時間インキュベートしてProteinase K処理を行なった。
【0048】
Proteinase K処理の後、超純水で透析し、低分子物質を除去した。次に、L−PGAを陰イオン交換樹脂(Q sepharose Fast Flow、GE ヘルスケア バイオサイエンス社製)に吸着させ、0.5MのNaCl水溶液で洗浄した後、1MのNaCl水溶液で溶出した。得られた溶液を、さらに超純水で透析し、透析後の溶液を凍結乾燥することにより、L−PGAのナトリウム塩(以下、「L−PGA・Na塩」と表記する)を得た。なお、超純水は、MilliQ(Millipore社製の純水製造装置)で作製した。
【0049】
〔製造例2;ポリ−γ−L−グルタミン酸の分子量分析−1〕
製造例1で得たL−PGA・Na塩の平均分子量を、GPC分析にて測定した。その結果、Mw=7,522,000、Mn=3,704,000、Mw/Mn=2.031であることが確認された(プルラン換算)。
【0050】
なお、GPC分析は、以下の条件で行なった。
装置:HLC−8220GPC(東ソー社製)
カラム:TSKgel α−M(東ソー社製)
流速:0.6ml/min
溶出液:0.15M NaCl水溶液
カラム温度:40℃
注入量:10μl
検出器:示差屈折計
【0051】
〔製造例3;ポリ−γ−L−グルタミン酸の分子量分析−2〕
製造例1において、1.0MのNaCl水溶液溶出した後、さらに、1N HClを用いて、pHを2.0に調製した以外は、製造例1と同様の操作を行なって得たL−PGA・Na塩の平均分子量をGPC分析により測定した。その結果、Mw=2,888,000、Mn=1,327,000、Mw/Mn=2.176であることが確認された(プルラン換算)。なお、本製造例におけるGPC分析は、製造例2と同様の操作で行なった。
【0052】
〔製造例4;ポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体の作製〕
製造例1で得たL−PGA・Na塩の5%水溶液を作製した。
【0053】
次に、L−PGA・Na塩水溶液を、窒素を用いて3分間バブリングした後、蓋付き10mlサンプル瓶に、2ml分取して蓋を閉めた。
【0054】
次に、サンプル瓶に、線源をコバルト60とするγ線照射装置を用いてγ線を照射した。照射線量は、5kGyとなるように照射した。γ線照射後に得られた生成物を、サンプル瓶から取り出し、余分な水分を80メッシュの金網で水切りした後、凍結乾燥することで、L−PGA架橋体粉末を得た。なお、上記余分な水分には、未架橋のL−PGAが含まれており、当該水切りは、未架橋のL−PGAを除去することが主たる目的である。
【0055】
以下、実施例における配合量は重量%である。表1及び表2に処方を示す毛髪処理剤組成物(実施例1〜5、比較例1〜3)を調製し、下記の評価項目に従って評価した。
【0056】
(1)毛髪の状態毛髪処理剤組成物を7日間室温で放置後、目視観察により以下のとおり評価した。
〇:透明で均一である △:白濁している ×:白濁し分離している
【0057】
(2)毛髪の感触化学的に処理されていない毛髪束(1.5g、長さ12cm)に、直径12mmのパーマネントウェーブ用ロッド、下記に示すチオグリコール酸系及びシステイン系パーマネントウェーブ用第1剤組成物、表1に示す各試料(パーマネントウェーブ第2剤)を用いてウェーブヘアを得た(第1剤により25℃、15分間処理、第2剤により25℃、15分間処理)。第2剤の処理後水洗時、専門パネル3名にて、すすぎ時のきしみ感、すすぎ時の指通りを以下の評価基準に従って評価した。その後、自然乾燥の後、乾燥後のごわつきのなさ、乾燥後のしっとり感を評価した。
評価基準◎:極めて良好な感触である ○:良好な感触である △:やや悪い感触である×:悪い感触である
【0058】
(3)毛髪の損傷毛髪の感触の際に処理した毛束について引っ張り強度試験行った。すなわち処理毛束より各50本を島津製作所製オートグラフAGS−50Aを用いて破断重量を測定し、その平均値を求めた。測定条件は、温度25℃、湿度90%の条件で測定部位10mm、テストスピード20mm/minで行った。破断重量が低下するほど毛髪は損傷を受けていると評価される。
【0059】
チオグリコール酸系パーマネントウェーブ第1剤組成物の処方
(配合成分) (重量%)
チオグリコール酸アンモニウム液(50%) 14
ポリオキシエチレン(20E.O.)オレイルエーテル 1
アンモニア水(28%) pH 9.0に調整
金属封鎖剤 適量
香料 適量
精製水 全量100.0に調整
【0060】
システイン系パーマネントウェーブ第1剤組成物の処方
(配合成分) (重量%)
DL−システイン酸塩酸 8
ポリオキシエチレン(20E.O.)オレイルエーテル 1
アンモニア水(28%) pH 9.0に調整
金属封鎖剤 適量
香料 適量
精製水 全量100.0に調整
【0061】
チオグリコール酸系パーマネントウェーブ第1剤組成物で第1剤処理を行った実施例及び比較例の処方と評価結果を表1に示し、システイン系パーマネントウェーブ第1剤組成物で第1剤処理を行った実施例及び比較例の処方と評価結果を表2に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、ポリ−γ−L−グルタミン酸および/またはその塩、塩から成る酸化剤及び(3)少なくとも1種のカチオン性界面活性剤を含有することにより、すすぎ時のきしみ感、指通り、乾燥後のごわつきのなさ、しっとり感が良好であり、処理後毛髪の損傷も少ない、毛髪処理剤組成物を提供することができる。さらに、従来のポリ−γ−L−グルタミン酸よりも、原料コストが安価であり、大量生産可能となり、長期にわたる使用に十分に耐え得ることからも、産業界に大きく寄与することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ポリ−γ−L−グルタミン酸および/またはその塩、(2)塩から成る酸化剤及び(3)少なくとも1種のカチオン性界面活性剤を含有することを特徴とする毛髪処理剤組成物。
【請求項2】
ポリ−γ−L−グルタミン酸が、ポリ−γ−L−グルタミン酸分子同士の架橋構造を有することを特徴とするポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体であることを特徴とする請求項1に記載の毛髪処理剤組成物。
【請求項3】
ポリ−γ−L−グルタミン酸の平均分子量が100万以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の毛髪処理剤組成物。
【請求項4】
ポリ−γ−L−グルタミン酸の平均分子量が200万以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の毛髪処理剤組成物。
【請求項5】
ポリ−γ−L−グルタミン酸の平均分子量が350万以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の毛髪処理剤組成物。
【請求項6】
ポリ−γ−L−グルタミン酸の吸水倍率が10倍以上5000倍以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の毛髪処理剤組成物。
【請求項7】
塩から成る酸化剤が臭素酸塩であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の毛髪処理剤組成物。
【請求項8】
カチオン性界面活性剤が、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、ラノリンのカチオン化物、塩化γ-グルコンアミドプロピルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム、塩化トリ(ポリオキシエチレン)ステアリルアンモニウム及び加水分解ポリペプチドのカチオン化物から成る群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の毛髪処理剤組成物。

【公開番号】特開2012−1505(P2012−1505A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139333(P2010−139333)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】