説明

気体サイクロン及びそれを用いた触媒前駆体粉末の捕集方法

【課題】気流中の付着性の粉体を閉塞することなく捕集するのに適した気体サイクロン、及びそれを用いた触媒前駆体粉末の捕集方法を提供する。
【解決手段】本発明の気体サイクロンは、気体サイクロンの下部排出管の内部に回転するスクレーパーを具備していることを特徴とし、及び触媒前駆体粉末の捕集方法は、触媒成分を含有するスラリーを乾燥器で乾燥し、得られる触媒前駆体粉末を含有する気流を、気体サイクロンの下部排出管の内部に回転するスクレーパーを具備している気体サイクロンに供給し、スクレーパーを連続回転させながら触媒前駆体粉末を捕集することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付着性の粉体を閉塞することなく捕集するのに適した気体サイクロン、及びそれを用いた触媒前駆体粉末の捕集方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気相接触触媒等は、通常、触媒成分を含む混合溶液又はスラリーを乾燥して得られる触媒前駆体を成型、焼成して製造される。
例えば、メタクロレインを気相にて分子状酸素または分子状酸素を含有するガスにより酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる触媒は、リン、モリブデン、バナジウム等の触媒成分を含む混合溶液または水性スラリーをスプレードライヤーで乾燥し、得られる触媒前駆体粉末を成型し、乾燥し、次いで焼成して製造される(特許文献1参照。)。
【0003】
気流中の粉末は、通常、気体サイクロン及びバグフィルターを用いて捕集されるが、上記の触媒前駆体粉末は付着性であり、分離性能を上げるために気体サイクロンの円錐部下端の開口径が小さくなっていることもあり、触媒前駆体粉末が円錐部下端に押え付けられて開口部を閉塞するので、定期的に停止して閉塞物を除去する必要があった。
【0004】
液体サイクロンの下部排出管の閉塞防止装置として、下部排出管内を往復動させる進入体を有する装置が知られている(特許文献2参照。)。
しかしながら、このような進入体を往復動させる方法は、上記した触媒前駆体のような付着性の粉体に適用した場合、閉塞の防止が不十分であり、進入体の往復動によって気流が乱れる場合があり、分離性能が低下するという問題も有している。
【特許文献1】特開2003−1113号公報
【特許文献2】特開2002−66386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、気流中の付着性の粉体を閉塞することなく捕集するのに適した気体サイクロン、及びそれを用いた触媒前駆体粉末の捕集方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、気流中の付着性の触媒前駆体粉末でも閉塞することなく、また分離性能を低下させることなく捕集する方法について鋭意検討した結果、気体サイクロンの下部排出管の内部に円環または半円環と回転軸からなるスクレーパーを設け、連続回転させることによって、付着性の触媒前駆体粉末を閉塞することなく、また分離性能を低下させることなく捕集できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち本発明は、気体サイクロンの下部排出管の内部に回転するスクレーパーを具備していることを特徴とする気体サイクロンである。
本発明において、スクレーパーが円環または半円環と回転軸からなるものが好ましい。
また、触媒成分を含有するスラリーを乾燥器で乾燥し、得られる触媒前駆体粉末を含有する気流を、気体サイクロンの下部排出管の内部に回転するスクレーパーを具備している気体サイクロンに供給し、スクレーパーを連続回転させながら触媒前駆体粉末を捕集することを特徴とする触媒前駆体の捕集方法である。
本発明において、触媒成分を含有するスラリーがリン、モリブデン、バナジウム成分を含有している場合に特に有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、付着性を有する触媒前駆体粉末でも閉塞することなく、また分離性能を低下させることなく捕集することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、メタクロレインを気相にて分子状酸素または分子状酸素を含有するガスにより酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる触媒は、リン、モリブデン、バナジウム等の触媒成分を含む混合溶液または水性スラリーを乾燥器で乾燥し、得られる気流中の触媒前駆体粉末を捕集する方法を例に、本発明を詳細に説明する。
【0010】
触媒は、通常、次のようにして製造される。まず主として水溶液として触媒原料を混合し、沈殿を析出させ、水性スラリーとする。この水性スラリーを乾燥することにより、触媒前駆体粉末が得られる。触媒前駆体粉末は必要に応じて他の成分を添加して、所定形状の触媒前駆体成型品に成型される。成型品は所定の条件にて乾燥され、次いで焼成することにより、触媒が得られる。
【0011】
触媒調製に用いる原料としては各元素の酸化物、硝酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、水酸化物、ハロゲン化物などを組み合わせて使用することができる。例えば、モリブデン原料としてはパラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、塩化モリブデン等が、バナジウム原料としては、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウム、塩化バナジウム等が、また、アンチモン原料としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等が使用できる。
【0012】
触媒成分を含む混合溶液又はこれらの水性スラリーは、通常、乾燥器で約200〜250℃で乾燥され、乾燥した触媒前駆体を含む気流は、気体サイクロンに供給され、大部分の触媒が捕集され、捕集されなかった触媒前駆体はバグフィルターで捕集される。
乾燥器としては、噴霧乾燥器(スプレードライヤー)、気流乾燥器、横型連続流動層乾燥器などが用いられる。
捕集した触媒前駆体粉末は必要に応じて他の成分を添加して、所定形状の触媒前駆体成型品に成型し、乾燥し、次いで焼成して触媒を得る。
【0013】
図1は、本発明の気流中の触媒前駆体の捕集装置の一実施態様の模式図である。
噴霧乾燥器1に熱風12を供給し、触媒成分を含有するスラリー11を噴霧する。200〜250℃の熱風中で水分が気化し、触媒前駆体粉末を含む気流が得られる。この気流は気体サイクロン2に供給され、触媒前駆体粉末が捕集される。捕集されなかった触媒前駆体粉末はバグフィルター3で捕集される。バグフィルターからは水分を含むガス13が排出される。気体サイクロン2及びバグフィルターで捕集された触媒前駆体粉末はホッパー4に貯蔵される。ホッパーから触媒前駆体粉末14が次の成型機に送られる。
【0014】
図2は、本発明の気体サイクロンの一実施態様の模式図である。
気体サイクロン20には供給管21から触媒前駆体粉末を含む気流が供給され、触媒前駆体粉末が捕集される。捕集されない触媒前駆体粉末を含む気流が排気管22から排出される。気体サイクロンの円錐部下端の下部排出管の内部に回転するスクレーパー24を備えている。下部排出管の下には小さいホッパー23を備えているが、これは無くてもよく、直接、大きなホッパーに接続されていても良い。
【0015】
従来の気体サイクロンは下部排出管の内部に回転するスクレーパー24は備えておらず、付着性の触媒前駆体粉末を捕集する場合には閉塞が起こるのに対して、スクレーパーを連続して回転させることによって、閉塞を防止すると共に、気流を乱して分離性能を低下させることも無く、連続して触媒前駆体粉末の捕集が可能になる。
スクレーパーの回転数は、スクレーパーの構造、触媒前駆体粉末の種類等によっても変わるが、通常、5〜20rpm、好ましくは7〜15rpmである。
【0016】
サイクロンの円錐部にはエアノッカー25が設けられており、これを作動させて円錐部を微振動させて付着を防止する。エアノッカーは円錐部に限らず、付着しやすい個所に設けられるが、エアノッカーでは下部排出管の閉塞を防止することができず、回転するスクレーパーが必要である。
【0017】
図3は、スクレーパーの構造を示す平面の断面模式図である。(A)は半円環27と回転軸26からなるスクレーパー、(B)は円環28と回転軸26からなるスクレーパーである。
スクレーパーの形状は、これらに限らず、櫛状のスクレーパー等も挙げられるが、下部排出管の円周方向に沿って動く円環または半円環と回転軸からなるスクレーパーが好ましく用いられる。スクレーパーの円環または半円環は、通常、ステンレス鋼の棒または平板から作製される。
下部排出管の中央部分に回転軸がなく、半円環または円環からなる構造のスクレーパーでも良いが、強度の観点から図3に示すような回転軸を有するものが用いられる。
【0018】
このような回転するスクレーパーを下部排出管に有する気体サイクロンを用いて、スクレーパーを回転させて触媒前駆体粉末の捕集を行うことによって、定期的に停止して付着物を除去することなく、長期間にわたって触媒前駆体粉末の捕集が可能になる。
【実施例】
【0019】
以下に実施例をあげて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0020】
図1、図2および図3(A)に示すと同様の気体サイクロン及び捕集装置を用いて触媒前駆体の捕集を行った。
気体サイクロンの下部排出管の内径は227mmφ、スクレーパーは半円環と回転軸からなり、半円環の中心の直径が200mmφで、半円環は幅30mm×厚さ6mmの板状である。
【0021】
特許文献1に記載の実施例1と同様にして得たスラリーを、約216℃の熱風を約2400Nm/hrで供給しているスプレードライヤーS−50R(ニロ ジャパン株式会社製)に約170kg/hr(スラリー濃度:約22重量%)で供給し、得られた触媒前駆体を含有する気流を気体サイクロン及びバグフィルターに供給し、触媒前駆体を捕集した。この時、スクレーパーは約9.5rpmで回転させた。また、エアノッカーを作動させ気体サイクロンに微振動を与えて行った。
気体サイクロンから約34kg/hr、バグフィルターから約3kg/hrで触媒前駆体を捕集した。
【0022】
約400時間経過したところで運転を停止し、気体サイクロンの解放点検を実施した結果、サイクロン下部における閉塞は見られなかった。なお閉塞の有無は、定常的には前後の差圧を測定することによって行った。
スクレーパーのない気体サイクロンを用いた場合は、約200時間程度で閉塞したので、予め約130〜150時間毎に停止して付着物の除去を行っていたのに対して、格段に改良されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の気流中の触媒前駆体の捕集装置の一実施態様の模式図である。
【図2】本発明の気体サイクロンの一実施態様の模式図である。
【図3】スクレーパーの構造を示す平面の断面模式図であり、(A)は半円環と回転軸からなるスクレーパー、(B)は円環と回転軸からなるスクレーパーである。
【符号の説明】
【0024】
1 噴霧乾燥器
2 気体サイクロン
3 バグフィルター
4 ホッパー
11 スラリー
12 熱風
13 排気ガス
14 触媒前駆体粉末
20 気体サイクロン
21 供給管
22 排気管
23 ホッパー
24 スクレーパー
25 エアノッカー
26 回転軸
27 半円環
28 円環


【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体サイクロンの下部排出管の内部に回転するスクレーパーを具備していることを特徴とする気体サイクロン。
【請求項2】
スクレーパーが円環または半円環と回転軸からなることを特徴とする請求項1記載の気体サイクロン。
【請求項3】
触媒成分を含有するスラリーを乾燥器で乾燥し、得られる触媒前駆体粉末を含有する気流を、気体サイクロンの下部排出管の内部に回転するスクレーパーを具備している気体サイクロンに供給し、スクレーパーを連続回転させながら触媒前駆体粉末を捕集することを特徴とする触媒前駆体の捕集方法。
【請求項4】
触媒成分を含有するスラリーがリン、モリブデン、バナジウム成分を含有していることを特徴とする請求項3記載の触媒前駆体の捕集方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−268327(P2007−268327A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93736(P2006−93736)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】