説明

気体溶解水供給システム

【課題】 設置工事費の低減と表層部に循環流を発生させる浅層曝気をもできる気体溶解水供給システムを実現する。
【解決手段】 原水を汲み上げ溶解タンクに送水するポンプを具備する気体溶解水供給システムにおいて、水中に配置された空気駆動の送水ポンプと、水中に配置された溶解たんくと、前記送水ポンプの排気を所定水深位置にて吐出する吐出手段とを具備したことを特徴とする気体溶解水供給システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は海(港湾)、湖沼、河川、ダム、堀等の貧酸素水域の水中へ酸素を供給することにより水質の改善を図る気体溶解水供給システムに関するものである。
更に、詳述すれば、設置工事費の低減と表層部に循環流を発生させる浅層曝気をも実現できる気体溶解水供給システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
気体溶解水供給システムに関連する先行技術文献としては次のようなものがある。
【0003】
【非特許文献1】横河電機株式会社発行、横河技報、2003年4月21日発行、Vol.47 No.2、P47、図4。
【特許文献1】特開2002−346351号公報
【特許文献2】特開2004−188263号公報
【0004】
所で、今日、海(港湾)、湖沼、河川、ダム、堀等には生活排水や産業排水等が流入しており、こうした排水中には有機物、栄養塩類が含まれている。これらの一部は水底に沈降して有機汚泥となる。
水中の微生物はこれらを分解するため溶存酸素を消費するので、底層の水への酸素供給が消費量より少ないと貧酸素状態となってしまう。
【0005】
底層水が貧酸素状態に陥ると、底泥中の有機物は嫌気分解され、硫化物やメタンガス等の生物にとって有害な物質が生成される。
また、底泥が酸素不足になると底泥中の栄養塩が溶出し易くなり、水中の栄養塩濃度を高め、アオコの発生や赤潮を引き起こすなど環境悪化の原因となる。
【0006】
図3は、港湾、湖沼、ダム湖等(以下総称して湖沼と称する。)において夏季は水面付近は温度Tが高く、水深が下がると急に温度が低下する温度躍層Aが形成された状態を模式的に示すもので、水底は温度が一番低くなっている(実線Cは温度分布曲線を示している)。
こうした状態では下層の温度が低く密度が大きい水は水塊を形成しており、表層付近の水温が高く密度が小さい水との混ざり合いはほとんどない。
【0007】
従って、表層付近の溶存酸素濃度の高い水は、底層へ供給されることはなく、底層の貧酸素状態は解消されない状態となっている。
このようなことは水温による場所だけでなく、汽水域のように塩分濃度の急激な変化が起きる塩分躍層の形成によっても同様な現象を生ずる。
【0008】
図4に示された酸素溶解手段2は、貧酸素状態になっている底層の水を汲み上げ、その水に酸素を溶かし込んで溶存酸素濃度を上昇させた後、元の底層に戻す。
温度の低い水を元の温度の低い水域に戻すことにより、同密度の水域(水深)での水と良く混ざり合い乍ら底泥を掻き混ぜることもなく拡がる。
【0009】
溶解タンク21は、図4に示す様に、陸上または水上に設置する事が考えられる。
水位が変動する場合は、ポンプ22の吸込揚程が実用的には4m以下にすることが求められることから、フロート23に搭載し、水上に設置する。
【0010】
なお、酸素溶解手段2としては、例えば、図5に示す装置が使用される。
図5において、21は気密に加工された溶解タンクであり、気体を溶解すべき水が例えば8分目程度注入されている。
この溶解タンク21の近傍には図では省略するが空気や酸素などを供給するためのポンプや気体ボンベ、ガス発生装置などの気体供給手段が配置されている。
【0011】
24はノズルであり、溶解タンク21の天井付近に水面に対して直角方向に設けられ、上方から水面に出射するように配置されている。
22は液体供給手段として機能するポンプであり、例えば、逆止弁25を介して湖沼1から水を汲み上げて、ノズル24から溶解タンク21内に水を供給する。
【0012】
26は調節弁であり、通常は開とされて溶解タンク21内で気体が溶解された水を浄化すべき場所に放出するが、溶解タンク21内の水が所定レベル位置以下になった場合は開閉度を調節して水位を調整したり、気体調節弁27を閉として気体の供給を停止させることによって水位調整を行なう。
【0013】
なお、図では省略するが溶解タンク21には、溶解タンク内の水量を測定するためのレベル計や、溶解タンク21内の圧力を測定するための圧力計が取付けられている。
ノズル24の出射方向の真下に、略水平に邪魔板28が配置されている。
29は気体供給手段で、ポンプ22の前段や後段または溶解タンク21に設けられている。
エジェクタ31は、ポンプ22と溶解タンク21との間に設けられている。
【0014】
上記の構成において溶解タンク21の上方に所定の圧力に加圧された気体(例えば酸素,オゾン)が導入される。
未溶解ガスが増加してくると、水は予め設定した水位以下になるが、その場合は所定の水位になるように気体調節弁27で気体の流量を調節したり、調節弁26を調節して吐出量を調整したり、大気開放弁32を開として、溶解タンク21内の未溶解ガスを大気放出したりして水位を制御する。
【0015】
所で、図6に示す如く、気体溶解装置を水中に配置することにより、溶解タンク21を加圧する(通常0.1〜0.2MPa)必要が無くなり、その分のエネルギー効率が良くなる事が分かっている。
図5の装置では、溶解タンク21の吐出部に設けた調節弁26を絞り、溶解タンク21の内圧を上昇させているが、溶解タンク21を水中に設置すると、その水深の圧力が溶解タンク21加わる為、調節弁26を絞る必要が無くなり、その分のエネルギーが節約できる利点がある。
【0016】
一方、図7に示す様に、水中にて、パイプ36から散気を行い、積極的にその吐出口361より上部を掻き混ぜて、表層の水質悪化を防止することが良く行われている(散気方式曝気循環装置、浅層曝気装置)。
このような装置においては、循環力が大きく、成層を破壊し、水温が均一化する。従って、底泥巻き上げを生ずる為、水底付近には吐出口361を配置できない。
【0017】
また、吐出口361以深の循環力は殆ど無い為、嫌気化が進む。従って、嫌気化を解消する為、深層曝気を、別に行う必要がある。
この為に、吐出口361以深の溶存酸素濃度を向上させる為の深層曝気装置(気体溶解方式もその一つ)を同時に設置することが多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
このような装置においては、以下の間題点がある。
酸素供給をしたい場所は陸地から離れていることが多く、その場合は、フロートに酸素溶解装置を搭載するか、水中に溶解タンクを設置するかの何れかになる。
こうした場合、ポンプ駆動の為の電源線を数100m敷設することになるが、距離が延びれば延びる程、電源線の線径も太く、重いものになり、その設置工事に掛かる費用も労力も増大する。
【0019】
本発明の目的は、上記の課題を解決するもので、設置工事費の節約と表層部に循環流を発生させる浅層曝気を同時に実現する気体溶解水供給システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
このような課題を達成するために、本発明では、請求項1の気体溶解水供給システムにおいては、
原水を汲み上げ溶解タンクに送水するポンプを具備する気体溶解水供給システムにおいて、水中に配置された空気駆動の送水ポンプと、水中に配置された溶解タンクと、前記送水ポンプの排気を所定水深位置にて吐出する吐出手段とを具備したことを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項2の気体溶解水供給システムにおいては、請求項1記載の気体溶解水供給システムにおいて、
前記吐出手段は、前記送水ポンプに一端が接続されたパイプと、このパイプの他端に設けられた浮子とを具備したことを特徴とする。
【0022】
本発明の請求項3の気体溶解水供給システムにおいては、請求項1または2記載の気体溶解水供給システムにおいて、
前記送水ポンプと前記溶解タンクとを接続する配管内の液体または前記溶解タンクに前記排気の一部を供給したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の請求項1によれば、次のような効果がある。
深層曝気装置の送水ポンプの駆動が圧縮空気で良い為、空気パイプで良いので、使用するケーブルの費用やその設置費用が大幅に削減できると共に、浅層曝気も同時に可能となる気体溶解水供給システムが得られる。
【0024】
本発明の請求項2によれば、次のような効果がある。
吐出手段は、送水ポンプに一端が接続されたパイプと、パイプの他端に設けられた浮子とを有するので、水底から決められた高さの位置より浅層曝気をすることが出来る安価な気体溶解水供給システムが得られる。
【0025】
本発明の請求項3によれば、次のような効果がある。
送水ポンプを駆動した後の排気を送水ポンプと溶解タンクとを接続する配管内の原水または溶解タンクに供給し原水に溶解させることから、送水ポンプ駆動の圧縮空気を有効利用出来るエネルギー効率が良い気体溶解水供給システムが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下本発明を図面を用いて詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例の要部構成説明図である。
図において、図4と同一記号の構成は同一機能を表す。
以下、図4との相違部分のみ説明する。
【0027】
図1において、空気駆動の送水ポンプ41は水中に配置されている。
空気パイプ411は、送水ポンプ41に空気を供給する。
溶解タンク42は、水中に配置されている。
吐出手段43は、送水ポンプ41の排気を、所定水深位置にて吐出する。
【0028】
この場合は、吐出手段43は、送水ポンプ41に一端が接続されたパイプ431と、パイプ431の他端に設けられた浮子432とを有する。
気体供給手段44は、送水ポンプ41と溶解タンク42との間に酸素ガス等(空気、オゾン)を供給する。
排気手段45は、未溶解のガスを溶解タンク42から放出する。
【0029】
以上の構成において、送水ポンプ41を駆動した圧縮空気を、可撓性配管のパイプ431と浮子432により任意の水深に設けられた空気吐出口433から放出し、吐出口433より上部の水を循環させる。
【0030】
この結果、
深層曝気装置の送水ポンプ41の駆動が圧縮空気で良い為、空気パイプ411で良いので、使用するケーブルの費用やその設置費用が大幅に削減できると共に、浅層曝気も同時に可能となる気体溶解水供給システムが得られる。
【0031】
吐出手段43は、送水ポンプ41に一端が接続されたパイプ431と、パイプ431の他端に設けられた浮子432とを有するので、水底から決められた高さの位置より浅層曝気をすることが出来る安価な気体溶解水供給システムが得られる。
【0032】
なお、前述の実施例においては、酸素ガスの供給を送水ポンプ41と溶解タンク42との間に設けると説明したが、これに限ることはなく、送水ポンプ41の吸引側や溶解タンク42への直接供給であっても良い。また、1箇所に限定せず、これらの内の複数箇所から供給しても良い。
【0033】
供給する酸素ガスは、ボンベやPSA(Pressure Swing Adsorption)を使用した酸素濃縮器などからの供給でも良い。
また、酸素ガスの濃度は80%以上が望ましく、オゾンガスを含んでいても良い。
【0034】
図2は、本発明の他の実施例の要部構成説明図である。
本実施例においては、
溶解タンク51は、水中に配置されている。
送水ポンプ41の排気の一部は、送水ポンプ41と溶解タンク51とを接続する配管52内の液体に供給されている。
【0035】
この場合は、配管52に設けられたエジェクタ53に、送水ポンプ41の排気の一部が供給されている。
なお、エジェクタ53はなくても良いし、送水ポンプ41の排気の一部は溶解タンク51に供給しても良い。
【0036】
この結果、送水ポンプ51を駆動した後の排気を、送水ポンプ41と溶解タンク51とを接続する配管52内の原水または溶解タンクに供給し原水に溶解させることから、送水ポンプ51駆動の圧縮空気を有効利用出来るエネルギー効率が良い気体溶解水供給システムが得られる。
【0037】
要するに、酸素ガスを供給するよりも酸素溶解水の酸素濃度は低下するが、酸素ガスを製造するエネルギーが必要ないことや、溶解用の圧縮空気を態々製造しなくとも送水ポンプ駆動用の圧縮空気である排気を利用できることからエネルギー効率が向上する。
【0038】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。
したがって本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形をも含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例の要部構成説明図である。
【図2】湖沼などに形成される温度躍層の説明図である。
【図3】湖沼などに形成される温度躍層の説明図である。
【図4】従来より一般に使用されている従来例の構成説明図である。
【図5】図3の要部構成説明図である。
【図6】従来より一般に使用されている他の従来例の構成説明図である。
【図7】従来より一般に使用されている他の従来例の構成説明図である。
【符号の説明】
【0040】
1 湖沼
2 酸素溶解手段
21 溶解タンク
22 ポンプ
221 電源線
23 フロート
24 ノズル
25 逆止弁
26 調節弁
27 気体調節弁
28 邪魔板
29 気体供給手段
31 エジェクタ
36 パイプ
361 吐出口
41 送水ポンプ
42 溶解タンク
43 吐出手段
431 溶解タンク
432 浮子
433 空気吐出口
44 気体供給手段
45 排気手段
51 溶解タンク
52 配管
53 エジェクタ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を汲み上げ溶解タンクに送水するポンプを具備する気体溶解水供給システムにおいて、
水中に配置された空気駆動の送水ポンプと、
水中に配置された溶解タンクと、
前記送水ポンプの排気を所定水深位置にて吐出する吐出手段と
を具備したことを特徴とする気体溶解水供給システム。
【請求項2】
前記吐出手段は、前記送水ポンプに一端が接続されたパイプと、
このパイプの他端に設けられた浮子と
を具備したことを特徴とする請求項1記載の気体溶解水供給システム。
【請求項3】
前記送水ポンプと前記溶解タンクとを接続する配管内の液体または前記溶解タンクに前記排気の一部を供給したこと
を特徴とする請求項1または請求項2記載の気体溶解水供給システム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−69064(P2007−69064A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−255874(P2005−255874)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】