説明

気体発生装置および気体発生方法

【課題】電解浴の液面高さの変動を抑制しつつメンテナンスコストを低減することが可能な気体発生装置および気体発生方法を提供する
【解決手段】制御装置90には、陽極室4に設けられた液面センサ40から出力信号が与えられる。この出力信号は、陽極室4内の電解浴5の液面高さが基準高さよりも高いか否かを示す。制御装置90は、陽極室4内の電解浴5の液面高さが基準高さよりも高い場合に、インバータ回路22Iにおいて発生されるコンプレッサ22の駆動電圧の周波数を所定値分上昇させる。これにより、コンプレッサ22が備えるモータの回転速度が上昇し、コンプレッサ22から排出される水素ガスの排出圧が上昇し、陰極室3内の圧力が低下する。その結果、陰極室3内の電解浴5の液面高さが上昇するとともに陽極室4内の電解浴5の液面高さが基準高さよりも低くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体を発生する気体発生装置および気体発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体の製造工程等において、材料の洗浄および表面改質等の種々の用途でフッ素ガスが用いられている。その場合、フッ素ガス自体を用いる場合もあるが、フッ素ガスを基に合成されたNF(三フッ化窒素)ガス、NeF(フッ化ネオン)ガス、およびArF(フッ化アルゴン)ガス等の種々のフッ素系ガスを用いる場合もある。
【0003】
このような現場において、フッ素ガスを安定に供給するために、例えばHF(フッ化水素)を電気分解してフッ素ガスを発生するフッ素ガス発生装置が用いられる。
【0004】
特許文献1に示されるフッ素ガス発生装置は、電解槽を備える。電解槽内は、隔壁により陰極室および陽極室に区画されている。電解槽内にはKF−HF系混合溶融塩からなる電解浴が形成されている。陰極室内に陰極が設けられ、陽極室内に陽極が設けられている。HF供給ラインを通して電解槽内の電解浴にHFが供給され、HFの電気分解が行われる。それにより、電解槽の陰極から水素ガスが発生し、陽極からフッ素ガスが発生する。
【0005】
陰極室の上部には、水素ガスの出口が設けられている。陰極室内で発生した水素ガスは、出口から陰極側の水素ガスラインを通して排出される。水素ガスラインには、自動弁およびHF吸着塔が介挿されている。さらに、陰極室の上部には、陰極室内に不活性ガスを供給するためのパージガス出入口が設けられている。これにより、陰極室内には、不活性ガスラインからパージガス出入口を通して不活性ガスを供給することが可能となっている。不活性ガスラインにも自動弁が介挿されている。
【0006】
陽極室の上部には、フッ素ガスの出口が設けられている。陽極室内で発生したフッ素ガスは、出口からフッ素ガスラインを通して排出される。フッ素ガスラインには、HF吸着塔および自動弁が介挿されている。さらに、フッ素ガスラインにおいては、HF吸着塔および自動弁の下流側にコンプレッサユニットが設けられている。また、陽極室の上部には、陽極室内に不活性ガスを供給するためのパージガス出入口が設けられている。これにより、陽極室内にも、不活性ガスラインからパージガス出入口を通して不活性ガスを供給することが可能となっている。この不活性ガスラインにも自動弁が介挿されている。
【0007】
陰極室および陽極室には、各室内の電解浴の液面高さを検出する液面センサが設けられている。水素ガスライン、フッ素ガスラインおよび不活性ガスラインに介挿される自動弁は、液面センサにより検出される各室内の電解浴の液面高さに連動して開閉する。液面センサにより検出される液面高さに応じて自動弁が開閉することにより、電解浴の液面高さの変動が抑制される。これにより、HFの電気分解時における電解条件の変動が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−52105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、電解浴の液面高さの変動を抑制するためには、頻繁に自動弁の開閉動作が行われる必要がある。特に、液面高さが常に変動する場合には、自動弁の単位時間当たりの開閉動作が多くなる。この場合、自動弁が短寿命化し、自動弁のメンテナンス(交換および補修等)を頻繁に行わなければならない。その結果、メンテナンスコストが高くなる。
【0010】
本発明の目的は、電解浴の液面高さの変動を抑制しつつメンテナンスコストを低減することが可能な気体発生装置および気体発生方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)第1の発明に係る気体発生装置は、電気分解により第1および第2の気体を発生させる気体発生装置であって、第1室および第2室に区画され、電気分解される化合物を含む電解浴を収容する電解槽と、第1室において発生された第1の気体を排出する第1の気体排出経路と、第2室において発生された第2の気体を排出する第2の気体排出経路と、第2室内の電解浴の液面を検出する液面検出手段と、第1の気体排出経路に設けられ、モータを有する第1のポンプと、第1のポンプのモータに印加される駆動電圧を発生する第1のインバータ回路と、液面検出手段により検出される液面が予め定められた基準高さよりも高い場合に、第1のポンプのモータに印加される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方が増加するように第1のインバータ回路を制御する制御手段とを備えるものである。
【0012】
この気体発生装置においては、電解浴に含まれる化合物の電気分解が行われることにより、第1室において第1の気体が発生され、第2室において第2の気体が発生される。
【0013】
第1室において発生された第1の気体は、モータを有する第1のポンプにより第1の気体排出経路を通して排出される。第2室において発生された第2の気体は、第2の気体排出経路から排出される。第1のポンプは、第1のインバータ回路により発生される駆動電圧がモータに印加されることにより動作する。
【0014】
第2室内の電解浴の液面が液面検出手段により検出される。検出された液面が基準高さよりも高い場合に、第1のポンプのモータに印加される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方が増加するように第1のインバータ回路が制御される。
【0015】
この場合、第1のポンプのモータの回転数が上昇し、第1のポンプによる第1の気体の排出圧が上昇する。これにより、第1室内の圧力が低下する。それにより、第1室内の電解浴の液面が上昇するとともに、第2室内の電解浴の液面が基準高さ以下となるように調整される。このようにして電解浴の液面高さの変動が抑制される。
【0016】
また、第1の気体排出経路においては、第1の気体の排出圧が第1のポンプのモータの回転速度を変化させることにより調整されるので、開閉弁の開閉動作により第1の気体の排出圧を調整する必要がなくなる。これにより、開閉弁の早期劣化に伴うメンテナンスが不要となり、メンテナンス回数が低減される。その結果、気体発生装置のメンテナンスコストが低減される。
【0017】
(2)気体発生装置は、第1室内の圧力を検出する第1の圧力検出手段をさらに備え、制御手段は、液面検出手段により検出される液面が基準高さ以下である場合に、第1の圧力検出手段により検出される圧力が第1の目標値に近づくように第1のインバータ回路により発生される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方を制御してもよい。
【0018】
この場合、第1の室内の圧力が第1の圧力検出手段により検出される。液面検出手段により検出される液面が基準高さ以下である場合に、第1の圧力検出手段により検出された圧力が第1の目標値に近づくように第1のインバータ回路により発生される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方が制御される。
【0019】
これにより、第1のポンプのモータの回転数が変化し、第1のポンプによる第1の気体の排出圧が変化する。それにより、第1室内の圧力が第1の目標値に近づくように調整される。したがって、第2室内の液面高さの変動を抑制しつつ第1室内の圧力の変動を抑制することができる。
【0020】
(3)気体発生装置は、第2の気体排出経路に設けられ、モータを有する第2のポンプと、第2のポンプのモータに印加される駆動電圧を発生する第2のインバータ回路と、第2室内の圧力を検出する第2の圧力検出手段とをさらに備え、制御手段は、第2の圧力検出手段により検出される圧力が第2の目標値に近づくように第2のインバータ回路により発生される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方を制御してもよい。
【0021】
この場合、第2室において発生された第2の気体は、モータを有する第2のポンプにより第2の気体排出経路を通して排出される。第2のポンプは、モータに第2のインバータ回路が発生する駆動電圧が印加されることにより動作する。
【0022】
第2の室内の圧力が第2の圧力検出手段により検出される。第2の圧力検出手段により検出された圧力が第2の目標値に近づくように第2のインバータ回路により発生される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方が制御される。
【0023】
これにより、第2のポンプのモータの回転数が変化し、第2のポンプによる第2の気体の排出圧が変化する。それにより、第2室内の圧力が第2の目標値に近づくように調整される。したがって、第2室内の液面高さの変動を抑制しつつ第2室内の圧力の変動を抑制することができる。
【0024】
(4)気体発生装置は、第1室内の圧力を検出する第1の圧力検出手段と、第2の気体排出経路に設けられ、モータを有する第2のポンプと、第2のポンプのモータに印加される駆動電圧を発生する第2のインバータ回路と、第2室内の圧力を検出する第2の圧力検出手段とをさらに備え、制御手段は、液面検出手段により検出される液面が基準高さ以下である場合に、第1の圧力検出手段により検出される圧力が第1の目標値に近づくように第1のインバータ回路により発生される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方を制御するとともに、第2の圧力検出手段により検出される圧力が第1の目標値よりも小さい第2の目標値に近づくように第2のインバータ回路により発生される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方を制御してもよい。
【0025】
この場合、第1の室内の圧力が第1の圧力検出手段により検出される。液面検出手段により検出される液面が基準高さ以下である場合に、第1の圧力検出手段により検出された圧力が第1の目標値に近づくように第1のインバータ回路により発生される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方が制御される。
【0026】
これにより、第1のポンプのモータの回転数が変化し、第1のポンプによる第1の気体の排出圧が変化する。それにより、第1室内の圧力が第1の目標値に近づくように調整される。したがって、第2室内の液面高さの変動を抑制しつつ第1室内の圧力の変動を抑制することができる。
【0027】
また、第2室において発生された第2の気体は、モータを有する第2のポンプにより第2の気体排出経路を通して排出される。第2のポンプは、モータに第2のインバータ回路が発生する駆動電圧が印加されることにより動作する。
【0028】
第2の室内の圧力が第2の圧力検出手段により検出される。第2の圧力検出手段により検出された圧力が第2の目標値に近づくように第2のインバータ回路により発生される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方が制御される。
【0029】
これにより、第2のポンプのモータの回転数が変化し、第2のポンプによる第2の気体の排出圧が変化する。それにより、第2室内の圧力が第2の目標値に近づくように調整される。したがって、第2室内の液面高さの変動を抑制しつつ第2室内の圧力の変動を抑制することができる。
【0030】
第2の目標値は第1の目標値よりも小さい。この場合、第1室内の圧力および第2室内の圧力がそれぞれ第1および第2の目標値に近づくように調整されるので、第2室内の圧力が第1室内の圧力に比べて低くなる。これにより、第1室内の電解浴の液面が第2室内の電解浴の液面よりも高くなるように上昇することが抑制される。
【0031】
(5)気体発生装置は、第1の気体排出経路に設けられる第1の開閉弁と、第2の気体排出経路に設けられる第2の開閉弁とをさらに備え、制御手段は、電解槽において電気分解が行われる場合に第1および第2の開閉弁を開き、電解槽において電気分解が行われない場合に第1および第2の開閉弁を閉じてもよい。
【0032】
この場合、電解槽において電気分解が行われる場合に第1および第2の開閉弁が開かれ、電解槽において電気分解が行われない場合に第1および第2の開閉弁が閉じられる。
【0033】
これにより、電解槽において電気分解が行われる場合には、第1室で発生される第1の気体を第1の気体排出経路を通して排出することができる。また、第2室で発生される第2の気体を第2の気体排出経路を通して排出することができる。
【0034】
一方、電解槽において電気分解が行われない場合には、気体発生装置の外部の雰囲気が、第1の気体排出経路を通して第1室に逆流することが防止される。また、気体発生装置の外部の雰囲気が、第2の気体排出経路を通して第2室に逆流することが防止される。
【0035】
(6)第1室は陰極室であり、第2室は陽極室であってもよい。
【0036】
この場合、陽極室内の電解浴の液面が液面検出手段により検出される。検出された液面が基準高さよりも高い場合に、第1のポンプのモータに印加される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方が増加するように第1のインバータ回路が制御される。
【0037】
これにより、第1のポンプのモータの回転数が上昇し、第1のポンプによる第1の気体の排出圧が上昇する。それにより、陽極室内の圧力が低下する。そして、陽極室内の電解浴の液面が上昇するとともに、陰極室内の電解浴の液面が基準高さ以下となるように調整される。
【0038】
(7)第2の気体はフッ素であってもよい。フッ素が発生される第2室においては、化合物の電気分解時に電解浴の液面が上昇しやすい。このような場合でも、第2室内の電解浴の液面高さの変動が抑制されるので、フッ素を安定的に供給することが可能となる。
【0039】
(8)第2の発明に係る気体発生方法は、第1室および第2室に区画された電解槽を用いて電気分解により第1および第2の気体を発生させる気体発生方法であって、電解槽内に収容される電解浴に電圧を印加することにより第1室および第2室においてそれぞれ第1および第2の気体を発生させるとともに、第1室および第2室において発生された第1および第2の気体をそれぞれ第1および第2の気体排出経路を通して排出するステップと、第1の気体排出経路を通して第1の気体の排出をモータを有する第1のポンプにより制御するステップと、第2室内の電解浴の液面を検出するステップと、第1のポンプのモータに第1のインバータ回路により駆動電圧を印加するステップと、検出される液面が予め定められた基準高さよりも高い場合に、第1のポンプのモータに印加される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方が増加するように第1のインバータ回路を制御するステップとを含むものである。
【0040】
この気体発生方法においては、電解槽内に収容される電解浴に電圧が印加されることにより、第1室において第1の気体が発生され、第2室において第2の気体が発生される。第1室および第2室において発生された第1および第2の気体がそれぞれ第1および第2の気体排出経路を通して排出される。第1の気体排出経路を通しての第1の気体の排出は、モータを有する第1のポンプにより制御される。第1のポンプは、第1のインバータ回路により駆動電圧がモータに印加されることにより動作する。
【0041】
第2室内の電解浴の液面が検出される。検出された液面が基準高さよりも高い場合に、第1のポンプのモータに印加される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方が増加するように第1のインバータ回路が制御される。
【0042】
この場合、第1のポンプのモータの回転数が上昇し、第1のポンプによる第1の気体の排出圧が上昇する。これにより、第1室内の圧力が低下する。それにより、第1室内の電解浴の液面が上昇するとともに、第2室内の電解浴の液面が基準高さ以下となるように調整される。このようにして電解浴の液面高さの変動が抑制される。
【0043】
また、第1の気体排出経路においては、第1の気体の排出圧が第1のポンプのモータの回転速度を変化させることにより調整されるので、開閉弁の開閉動作により第1の気体の排出圧を調整する必要がなくなる。これにより、開閉弁の早期劣化に伴うメンテナンスが不要となり、メンテナンス回数が低減される。その結果、気体発生装置のメンテナンスコストが低減される。
【0044】
(9)気体発生方法は、第1室内の圧力を検出するステップと、検出される液面が予め定められた基準高さ以下である場合に、検出される第1室内の圧力が第1の目標値に近づくように第1のインバータ回路により発生される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方を制御するステップと、第2の気体排出経路を通して第2の気体の排出をモータを有する第2のポンプにより制御するステップと、第2のポンプのモータに第2のインバータ回路により駆動電圧を印加するステップと、第2室内の圧力を検出するステップと、検出される第2室内の圧力が第1の目標値よりも小さい第2の目標値に近づくように第2のインバータ回路により発生される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方を制御するステップとをさらに備えてもよい。
【0045】
この場合、第1の室内の圧力が検出される。検出される液面が基準高さ以下である場合に、検出された圧力が第1の目標値に近づくように第1のインバータ回路により発生される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方が制御される。
【0046】
これにより、第1のポンプのモータの回転数が変化し、第1のポンプによる第1の気体の排出圧が変化する。それにより、第1室内の圧力が第1の目標値に近づくように調整される。したがって、第2室内の液面高さの変動を抑制しつつ第1室内の圧力の変動を抑制することができる。
【0047】
第2室において発生された第2の気体は、モータを有する第2のポンプにより第2の気体排出経路を通して排出される。第2のポンプは、モータに第2のインバータ回路が発生する駆動電圧が印加されることにより動作する。
【0048】
第2の室内の圧力が検出される。検出された圧力が第2の目標値に近づくように第2のインバータ回路により発生される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方が制御される。
【0049】
これにより、第2のポンプのモータの回転数が変化し、第2のポンプによる第2の気体の排出圧が変化する。それにより、第2室内の圧力が第2の目標値に近づくように調整される。したがって、第2室内の液面高さの変動を抑制しつつ第2室内の圧力の変動を抑制することができる。
【0050】
第2の目標値は第1の目標値よりも小さい。この場合、第1室内の圧力および第2室内の圧力がそれぞれ第1および第2の目標値に近づくように調整されるので、第2室内の圧力が第1室内の圧力に比べて低くなる。これにより、第1室内の電解浴の液面が第2室内の電解浴の液面よりも高くなるように上昇することが抑制される。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、電解浴の液面高さの変動を抑制しつつメンテナンスコストを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施の形態に係るフッ素ガス発生装置の構成を示す模式図である。
【図2】図1のフッ素ガス発生装置における制御系の一部を示すブロック図である。
【図3】液面制御および圧力制御の具体例を説明するためのグラフである。
【図4】液面制御および圧力制御を用いた電気分解の一連の処理を示すフローチャートである。
【図5】液面制御および圧力制御を用いた電気分解の一連の処理を示すフローチャートである。
【図6】他の実施の形態に係るフッ素ガス発生装置の構成を示す模式図である。
【図7】さらに他の実施の形態に係るフッ素ガス発生装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、本発明の一実施の形態に係る気体発生装置および気体発生方法について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態においては、気体発生装置の一例として、フッ素ガスを発生するフッ素ガス発生装置について説明する。
【0054】
(1)フッ素ガス発生装置の構成
図1は、本発明の一実施の形態に係るフッ素ガス発生装置の構成を示す模式図である。図1に示すように、フッ素ガス発生装置100は、電解槽1を備える。電解槽1は、例えばNi(ニッケル)、モネル、純鉄もしくはステンレス鋼等の金属または合金により形成されている。電解槽1内は、隔壁2により陰極室3および陽極室4に区画されている。隔壁2は、例えばNiまたはモネルからなる。
【0055】
電解槽1内にはKF−HF系混合溶融塩からなる電解浴5が形成されている。陰極室3内に例えばNi(ニッケル)からなる陰極6が設けられ、陽極室4内に例えば低分極性炭素からなる陽極7が設けられている。HF供給管10を通して電解槽1内の電解浴5にHF(フッ化水素)が供給され、HFの電気分解が行われる。それにより、電解槽1の陰極6から主として水素ガスが発生し、陽極7から主としてフッ素ガスが発生する。
【0056】
陰極室3の上部には、陰極出口20aが設けられている。陰極出口20aには水素ガス排出管20の一端(上流端)が接続されている。陰極室3内で発生した水素ガスは、陰極出口20aから水素ガス排出管20を通して排出される。水素ガス排出管20には、上流から下流にかけてHF吸着塔24、制御バルブ21、コンプレッサ22および制御バルブ23がこの順で介挿されている。
【0057】
HF吸着塔24にはNaF等が充填される。このHF吸着塔24は、陰極室3から排出された水素ガスおよびHFの混合ガス中のHFを吸着する。コンプレッサ22にはインバータ回路22Iが接続されている。インバータ回路22Iにより発生された駆動電圧がコンプレッサ22に与えられる。
【0058】
水素ガス排出管20の下流端は、例えば工場の排気ラインに接続される。これにより、陰極室3から排出された水素ガスが、工場の排気ラインを通して排出される。
【0059】
陽極室4の上部には、陽極出口30aが設けられている。陽極出口30aにはフッ素ガス排出管30の一端(上流端)が接続されている。陽極室4内で発生したフッ素ガスは、陽極出口30aからフッ素ガス排出管30を通して排出される。フッ素ガス排出管30には、上流から下流にかけてHF吸着塔34、制御バルブ31、コンプレッサ32および制御バルブ33がこの順で介挿されている。
【0060】
HF吸着塔34にはNaF等が充填される。このHF吸着塔34は、陽極室4から排出されたフッ素ガスおよびHFの混合ガス中からHFを吸着する。コンプレッサ32にはインバータ回路32Iが接続されている。インバータ回路32Iにより発生された駆動電圧がコンプレッサ32に与えられる。
【0061】
フッ素ガス排出管30の下流端は、例えば工場の製造ラインに接続される。これにより、陽極室4から排出されたフッ素ガスが、予め定められた流量で工場の製造ライン等に供給される。
【0062】
陰極室3には、陰極室3内の圧力を測定する圧力計PS1が設けられている。陽極室4には、陽極室4内の圧力を測定する圧力計PS2が設けられている。さらに、陽極室4には、陽極室4内の電解浴5の液面高さを検出する液面センサ40が設けられている。
【0063】
HF供給管10には、自動弁11およびオリフィス12が介挿されている。電解浴5がHF供給管10に吸い込まれることを防止するために、オリフィス12の下流のHF供給管10と水素ガス排出管20との間に制御バルブ13が接続されている。なお、HF供給管10には図示しない圧力計が設けられている。
【0064】
本実施の形態においては、コンプレッサ22,32として、それぞれ金属製のベローズおよび後述するモータ22M,23M(図2)を備えるベローズコンプレッサが用いられる。コンプレッサ22,32の動作時には、モータ22M,23Mにより金属製のベローズが伸縮される。このときの、ベローズの伸縮量および伸縮周期を調整することにより、コンプレッサ22,23による気体(水素ガスおよびフッ素ガス)の排出圧を調整することができる。なお、ベローズの伸縮量とは、最も伸びた状態のベローズの長さと最も縮んだ状態のベローズの長さとの差である。
【0065】
(2)フッ素ガス発生装置の制御系
制御装置90は、CPU(中央演算処理装置)およびメモリまたはマクロコンピュータを含み、フッ素ガス発生装置100の各構成要素の動作を制御する。
【0066】
図2は、図1のフッ素ガス発生装置100における制御系の一部を示すブロック図である。図2に示すように、制御装置90には、陽極室4に設けられた液面センサ40から出力信号が与えられる。この出力信号は、陽極室4内の電解浴5の液面高さが予め定められた液面高さ(以下、基準高さと呼ぶ。)よりも高いか否かを示す。制御装置90は、液面センサ40からの出力信号に基づいて、インバータ回路22Iを制御する。
【0067】
具体的には、制御装置90は、陽極室4内の電解浴5の液面高さが基準高さよりも高い場合に、インバータ回路22Iにおいて発生される駆動電圧の周波数を所定値(例えば10Hz以上20Hz以下)分上昇させる。これにより、コンプレッサ22が備えるモータ22Mの回転速度が上昇し、ベローズの伸縮周期が短くなる。それにより、コンプレッサ22から排出される水素ガスの排出圧が上昇し、陰極室3内の圧力が低下する。その結果、陰極室3内の電解浴5の液面高さが上昇するとともに陽極室4内の電解浴5の液面高さが基準高さよりも低くなる。
【0068】
一方、制御装置90は、陽極室4内の電解浴5の液面高さが基準高さ以下である場合には、インバータ回路22Iにおいて発生されるコンプレッサ22の駆動電圧の周波数を上記の所定値分上昇させない。
【0069】
このように、制御装置90は、陽極室4内の電解浴5の液面高さが基準高さよりも高くなった場合に、その液面高さが基準高さ以下となるようにインバータ回路22Iを制御する。
【0070】
以下の説明では、制御装置90による液面センサ40からの出力信号に基づくインバータ回路22Iの制御を液面制御と呼ぶ。
【0071】
なお、上記では、インバータ回路22Iにおいて発生される駆動電圧の周波数を変化させることにより液面制御が行われる例を説明したが、液面制御は、インバータ回路22Iにおいて発生される駆動電圧の実効値を変化させることにより行われてもよい。この場合、ベローズの伸縮量が変化することによりコンプレッサ22から排出される水素ガスの排出圧が制御され、陰極室3内の圧力が変化する。その結果、陰極室3内の電解浴5の液面高さが変化するとともに陽極室4の液面高さが調整される。
【0072】
液面制御は、インバータ回路22Iにおいて発生される駆動電圧の実効値および周波数をともに変化させることにより行われてもよい。ベローズの伸縮量および伸縮周期が変化することによりコンプレッサ22から排出される水素ガスの排出圧が制御され、陰極室3内の圧力が変化する。その結果、陰極室3内の電解浴5の液面高さが変化するとともに陽極室4の液面高さが調整される。
【0073】
また、制御装置90には、陰極室3に設けられた圧力計PS1から出力信号が与えられる。制御装置90は、圧力計PS1からの出力信号に基づいて、インバータ回路22Iにおいて発生される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方を制御する。これにより、陰極室3内の圧力が調整される。
【0074】
例えば、HFの電気分解時に圧力計PS1により測定される陰極室3内の圧力の値(以下、陰極室圧力値と呼ぶ)と所定の値(目標圧力値)とが一致しない場合、制御装置90は陰極室圧力値と目標圧力値との差が減少するようにインバータ回路22Iを制御する。なお、目標圧力値は、例えば絶対圧で100kPaに設定される。
【0075】
さらに、制御装置90には、陽極室4に設けられた圧力計PS2から出力信号が与えられる。制御装置90は、圧力計PS2からの出力信号に基づいて、インバータ回路32Iにおいて発生される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方を制御する。これにより、陽極室4内の圧力が調整される。
【0076】
例えば、HFの電気分解時に圧力計PS2により測定される陽極室4内の圧力の値(以下、陽極室圧力値と呼ぶ)と所定の値(目標圧力値)とが一致しない場合、制御装置90は陽極室圧力値と目標圧力値との差が減少するようにインバータ回路32Iを制御する。なお、目標圧力値は、例えば絶対圧で100kPaに設定される。
【0077】
以下の説明では、制御装置90による圧力計PS1,PS2からの出力信号に基づくインバータ回路22I,32Iの制御を圧力制御と呼ぶ。
【0078】
制御装置90は、HFの電気分解が行われている場合に制御バルブ21,23,31,33を開状態にし、HFの電気分解が行われていない場合に制御バルブ21,23,31,33を閉状態にする。これにより、HFの電気分解が行われていない場合に、コンプレッサ22,32の下流側の水素ガスまたはフッ素ガスが陰極室3または陽極室4に吸い込まれることが防止される。また、制御装置90は、制御バルブ13の開閉状態を制御する。
【0079】
上記のように、このフッ素ガス発生装置100においては、陽極室4内の電解浴5の液面高さが基準高さよりも高くなった場合に、その液面高さが基準高さ以下となるようにインバータ回路22Iが制御される。この理由について説明する。
【0080】
図1に示す電解槽1内でHFの電気分解を行う場合には、陰極室3内の電解浴5の液面高さに比べて、陽極室4内の電解浴5の液面高さが上昇しやすい。そのため、本実施の形態では、液面センサ40からの出力信号に基づいてインバータ回路22Iを制御することにより、陽極室4内の電解浴5の液面高さが基準高さよりも高くなった場合にその液面高さが基準高さ以下となるように調整し、液面高さの変動を抑制している。
【0081】
液面制御においては、インバータ回路22Iが制御される。この理由について説明する。
【0082】
上述のように、図1のフッ素ガス発生装置100においては、陽極室4から排出されたフッ素ガスが、予め定められた流量でフッ素ガス排出管30を通して工場の製造ライン等に供給される。そのため、コンプレッサ32から排出されるフッ素ガスの排出圧はほぼ一定に保たれることが好ましい。
【0083】
そこで、本実施の形態では、インバータ回路22Iを制御することにより水素ガス排出管20に介挿されたコンプレッサ22の排出圧を変化させる。これにより、フッ素ガス排出管30から排出されるフッ素ガスの流量を大きく変動させることなく、陽極室4内の電解浴5の液面高さが基準高さ以下となるように調整することができる。
【0084】
(3)液面制御および圧力制御の具体例
図3は、液面制御および圧力制御の具体例を説明するためのグラフである。図3(a)に液面制御および圧力制御を行った場合のモータ22M,32Mの回転速度を示す。図3(a)において、縦軸は回転速度を表し、横軸は時間を表す。また、太い実線がモータ22Mの回転速度を表し、一点鎖線がモータ32Mの回転速度を表す。
【0085】
また、図3(b)に液面制御および圧力制御を行った場合の陰極室圧力値および陽極室圧力値を示す。図3(b)において、縦軸は圧力を表し、横軸は時間を表す。また、太い破線が陰極室圧力値を表し、実線が陽極室圧力値を表す。
【0086】
時点t0において、陽極室4内の電解浴5の液面高さが基準高さ以下の状態でHFの電気分解が開始される。時点t0から時点t1にかけて電解浴5の液面高さが基準高さ以下の状態で維持される場合、制御装置90は圧力計PS1,PS2(図1)からの出力信号に基づいてインバータ回路22I,32Iの制御を行う(圧力制御)。
【0087】
これにより、図3(a)に示すように、電解浴5の液面高さが基準高さ以下である期間PPにおいては、陰極室圧力値および陽極室圧力値の変動に応じてインバータ回路22I,32Iが制御されることにより、モータ22M,32Mの回転速度が緩やかに変化している。このようにして陰極室3内の圧力および陽極室4内の圧力が目標圧力値Uに近づくように調整される。
【0088】
時点t1から時点t2にかけて電解浴5の液面高さが基準高さよりも高い状態が継続される場合には、その期間LP中インバータ回路22Iにおいて発生されるコンプレッサ22の駆動電圧の周波数が時点t1における周波数に対して所定値分T上昇された状態で維持される(液面制御)。これにより、電解浴5の液面高さが基準高さ以下となるように調整される。なお、所定値Tは例えば5Hz以上15Hz以下程度に設定される。
【0089】
時点t2において、電解浴5の液面高さが基準高さ以下になると、インバータ回路22Iにおいて発生される駆動電圧の周波数がその時点t2における周波数に対して所定値T分下降される。これにより、図3(a)に示すように、モータ22Mの回転速度は、時点t2から所定値分T急峻に下降し、期間LPの開始時点(時点t1)の回転速度とほぼ同じ回転速度になる。
【0090】
図3の例では、時点t2以降、時点t3から時点t4の間、時点t5から時点t6の間、および時点t7から時点t8の間で液面高さが基準高さよりも高くなる。これらの期間LPにおいても、上記と同様にインバータ回路22Iにおいて発生される駆動電圧の周波数が各期間LPの開始時点(時点t3,t5,t7)における周波数に対して所定値分T上昇された状態で維持される(液面制御)。これにより、電解浴5の液面高さが基準高さ以下となるように調整される。
【0091】
なお、上記の各期間LPにおいて、制御装置90は圧力計PS2(図1)からの出力信号に基づくインバータ回路32Iの制御を継続している(圧力制御)。それにより、図3(a)に示すように、モータ32Mの回転速度は、各期間LPにおいても緩やかな変化を示している。
【0092】
時点t0から時点t1の間の期間PPと同様に、陽極室4内の電解浴5の液面高さが基準高さ以下である時点t2から時点t3の間、時点t4から時点t5の間、および時点t6から時点t7の間の各期間PPにおいても、陰極室圧力値および陽極室圧力値の変動に応じてインバータ回路22I,32Iが制御される。これにより、図3(b)に示すように、各期間PPにおいては、陰極室圧力値が緩やかに目標圧力値Uに近づいている。また、陽極室圧力値が緩やかに目標圧力値Uに近づいている。
【0093】
上記より、制御装置90が液面制御および圧力制御を行うことにより、電解浴5の液面高さの変動が抑制されつつ、陰極室3内および陽極室4内の圧力の変動が抑制されている。
【0094】
(4)制御フロー
図4および図5は、液面制御および圧力制御を用いた電気分解の一連の処理を示すフローチャートである。なお、以下では、制御装置90によるインバータ回路22Iの制御を説明する。初期状態においては、予めコンプレッサ22,32が所定の回転速度で動作している。
【0095】
まず、制御装置90は、図示しない入力装置等により、HFの電気分解の開始が指令されると、陰極6と陽極7との間に所定の電圧を印加し(ステップS1)、水素ガス排出管20に介挿された2つの制御バルブ21,23を開状態にする(ステップS2)。
【0096】
次に、制御装置90は、液面センサ40からの出力信号に基づいて陽極室4内の電解浴5の液面高さが基準高さよりも高いか否かを判別する(ステップS3)。
【0097】
液面高さが基準高さよりも高い場合、制御装置90は、インバータ回路22Iを制御することにより、モータ22Mの回転速度を所定値T分上昇させる(ステップS4)。例えば、制御装置90は、インバータ回路22Iにおいて発生されるコンプレッサ22の駆動電圧の周波数を現在の周波数に比べて所定値分上昇させることによりモータ22Mの回転速度を所定値T分上昇させる。
【0098】
続いて、制御装置90は、液面センサ40からの出力信号に基づいて陽極室4内の電解浴5の液面高さが基準高さよりも高いか否かを判別する(ステップS5)。この処理は、液面高さが基準高さ以下になるまで繰り返し実行される。その後、液面高さが基準高さ以下になると、制御装置90は、インバータ回路22Iを制御することにより、モータ22Mの回転速度を所定値T分下降させる(ステップS6)、ステップS3の処理に戻る。
【0099】
ステップS3において、液面高さが基準高さよりも高い場合、制御装置90は、圧力計PS1により測定される陰極室圧力値を取得する(ステップS7)。
【0100】
ここで、制御装置90においては、予め陰極室3の目標圧力値Uが記憶されている。目標圧力値Uの設定は、例えば作業者が入力装置等を操作することにより行われる。
【0101】
制御装置90は、取得された陰極室圧力値と予め設定された目標圧力値Uとが一致するか否かを判別する(ステップS8)。
【0102】
陰極室圧力値と目標圧力値Uとが一致する場合、制御装置90は図2のインバータ回路22Iを制御することにより、モータ22Mの回転速度を現在の値で維持する(ステップS9)。例えば、制御装置90は、インバータ回路22Iにおいて発生される駆動電圧の周波数を現在の値で維持することによりモータ22Mの回転速度を維持させる。
【0103】
陰極室圧力値と目標圧力値Uとが一致しない場合、制御装置90は陰極室圧力値と目標圧力値Uとの差が減少するようにインバータ回路22Iを制御し、モータ22Mの回転速度を変更する(ステップS10)。例えば、制御装置90は、陰極室圧力値と目標圧力値Uとの差が減少するように、インバータ回路22Iにおいて発生される駆動電圧の周波数を現在の値から変動させることによりモータ22Mの回転速度を変動させる。
【0104】
例えば、陰極室圧力値が目標圧力値Uよりも低い場合には、制御装置90はモータ22Mに印加される駆動電圧が低下するようにインバータ回路22Iを制御する。それにより、モータ22Mの回転速度が低下し、コンプレッサ22の排出圧が低下する。その結果、陰極室圧力値が目標圧力値Uに近づくように上昇し、陰極室圧力値と目標圧力値Uとの差が減少する。
【0105】
逆に、陰極室圧力値が目標圧力値Uよりも高い場合には、制御装置90はモータ22Mに印加される駆動電圧が上昇するようにインバータ回路22Iを制御する。それにより、モータ22Mの回転速度が上昇し、コンプレッサ22の排出圧が上昇する。その結果、陰極室圧力値が目標圧力値Uに近づくように低下し、陽極室圧力値と目標圧力値Uとの差が減少する。
【0106】
ステップS10,S11のいずれかの処理後、制御装置90は、入力装置等によりHFの電気分解の終了が指令されたか否かを判別する(ステップS12)。電気分解の終了が指令されない場合、制御装置90は、ステップS3の処理に戻る。一方、電気分解の終了が指令された場合、制御装置90は、陰極6と陽極7との間への電圧の印加を終了し(ステップS13)、水素ガス排出管20に介挿された2つの制御バルブ21,23を閉状態にする(ステップS14)。これにより、HFの電気分解が終了する。
【0107】
図4および図5のフローチャートにおいては、ステップS3〜S6の処理が上述の液面制御に相当し、ステップS7〜S10の処理が上述の圧力制御に相当する。
【0108】
上記では、制御装置90によるインバータ回路22Iの制御を説明したが、制御装置90は、HFの電気分解が開始されることにより上記ステップS7〜S10の処理と同様に、インバータ回路32Iを制御する。
【0109】
(5)効果
(5−a)このフッ素ガス発生装置100においては、制御装置90により液面制御が行われる。これにより、陽極室4内の電解浴5の液面高さが基準高さよりも高くなった場合でも、その液面高さが基準高さ以下となるように調整される。このようにして電解浴5の液面高さの変動が抑制される。
【0110】
また、液面制御は、コンプレッサ22のモータ22Mの回転速度を変化させることにより調整されるので、制御バルブ21,23,31,33等の開閉動作により水素ガス排出管20における水素ガスの排出圧を調整する必要がなくなる。これにより、制御バルブ21,23,31,33の早期劣化に伴うメンテナンスが不要となり、メンテナンス回数が低減される。その結果、フッ素ガス発生装置100のメンテナンスコストが低減される。
【0111】
(5−b)また、このフッ素ガス発生装置100においては、制御装置90が液面制御に加えて圧力制御を行う。これにより、電解浴5の液面高さの変動が抑制されつつ、陰極室3内および陽極室4内の圧力の変動が抑制される。その結果、HFの電気分解における電解条件の変動が抑制される。
【0112】
(5−c)液面制御および圧力制御は、インバータ回路22I,32Iを制御してモータ22Mの回転速度を変化させることにより行われる。これにより、制御バルブ21,23,31,33を開閉する場合に比べて、水素ガス排出管20における水素ガスの排出圧の調整、およびフッ素ガス排出管30におけるフッ素ガスの排出圧の調整を容易かつ細やかに行うことができる。そのため、電解槽1が小型化される場合でも、容易かつ細やかに各室3,4内の圧力を制御することが可能となる。したがって、フッ素ガス発生装置100の小型化が可能となる。
【0113】
(6)他の実施の形態
(6−a)上記の実施の形態では、圧力制御を行うために、陰極室圧力値および陽極室圧力値に対して共通の目標圧力値Uが設定される例を説明した。これに限らず、陰極室圧力値に対して設定される目標圧力値(第1目標圧力値)と陽極室圧力値に対して設定される目標圧力値(第2目標圧力値)とが互いに異なってもよい。この場合、例えば第2目標圧力値は、第1目標圧力値に比べて小さくなるように設定することが好ましい。
【0114】
これにより、圧力制御により陰極室圧力値が第1の目標圧力値に近づくように調整され、陽極室圧力値が第1の目標圧力値よりも小さい第2の目標圧力値に近づくように調整される。したがって、陰極室3内の圧力が陽極室4内の圧力に比べて低くなる。その結果、陰極室3内の電解浴5の液面高さが、陽極室4内の電解浴5の液面高さよりも高くなるように上昇することが抑制される。
【0115】
例えば第1の目標圧力値は絶対圧で100kPaに設定され、第2の目標圧力値は絶対圧で95kPa以上99kPa以下に設定される。
【0116】
なお、第1の目標圧力値および第2の目標圧力値は、陰極室3の容積および陽極室4の容積に応じて適宜設定してもよい。
【0117】
(6−b)上述のように、図1のフッ素ガス発生装置100においては、陽極室4に電解浴5の液面高さを検出する液面センサ40が設けられている。液面センサ40からの出力信号に基づいて制御装置90が液面制御を行う。
【0118】
これに限らず、フッ素ガス排出管30から排出されるフッ素ガスの流量が特に定められていない場合には、液面センサ40は陰極室3に設けられてもよい。また、制御装置90は、陰極室3に設けられた液面センサ40の出力信号に基づいて液面制御を行ってもよい。
【0119】
図6は、他の実施の形態に係るフッ素ガス発生装置の構成を示す模式図である。以下、図6のフッ素ガス発生装置100について、図1のフッ素ガス発生装置100と異なる点を説明する。
【0120】
図6に示すように、このフッ素ガス発生装置100においては、陽極室4に液面センサ40が設けられず、陰極室3に液面センサ40が設けられている。本例では、制御装置90は、液面センサ40の出力信号に基づいてインバータ回路32Iを制御する(液面制御)。
【0121】
例えば、陰極室3の電解浴5の液面高さが基準高さよりも高くなった場合には、制御装置90によりインバータ回路32Iにおいて発生される駆動電圧の周波数が、その時点における周波数に対して所定値分上昇される。それにより、コンプレッサ32が備えるモータ32Mの回転速度が上昇し、コンプレッサ22から排出されるフッ素ガスの排出圧が上昇し、陽極室4内の圧力が低下する。その結果、陽極室4内の電解浴5の液面高さが上昇するとともに陰極室3内の電解浴5の液面高さが基準高さよりも低くなる。
【0122】
このように、陰極室3内の電解浴5の液面高さが基準高さよりも高くなった場合でも、液面センサ40の出力信号に基づいて液面制御が行われることにより、その液面高さが基準高さ以下となるように調整される。
【0123】
(6−c)図1および図6のフッ素ガス発生装置100に限らず、2つの液面センサ40が陰極室3および陽極室4にそれぞれ設けられてもよい。制御装置90は、陰極室3および陽極室4にそれぞれ設けられた液面センサ40の出力信号に基づいて液面制御を行ってもよい。
【0124】
図7は、さらに他の実施の形態に係るフッ素ガス発生装置の構成を示す模式図である。図7のフッ素ガス発生装置100においては、陰極室3および陽極室4にそれぞれ液面センサ40が設けられている。本例では、制御装置90は、2つの液面センサ40の出力信号に基づいてインバータ回路22I,32Iをそれぞれ制御する(液面制御)。
【0125】
これにより、陰極室3内の電解浴5の液面高さが基準高さよりも高くなった場合でも、その液面高さが基準高さ以下となるように調整される。また、陽極室4内の電解浴5の液面高さが基準高さよりも高くなった場合でも、その液面高さが基準高さ以下となるように調整される。これにより、陰極室3内および陽極室4内の電解浴5の液面高さの変動を抑制することが可能となる。
【0126】
(7)請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応関係
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。
【0127】
上記実施の形態においては、水素ガスが第1の気体の例であり、フッ素ガスが第2の気体の例であり、陰極室3が第1室の例であり、陽極室4が第2室の例であり、水素ガス排出管20が第1の気体排出経路の例であり、フッ素ガス排出管30が第2の気体排出経路の例である。
【0128】
また、液面センサ40が液面検出手段の例であり、コンプレッサ22が第1のポンプの例であり、モータ22Mが第1のポンプのモータの例であり、インバータ回路22Iが第1のインバータ回路の例であり、圧力計PS1が第1の圧力検出手段の例である。
【0129】
さらに、コンプレッサ32が第2のポンプの例であり、モータ32Mが第2のポンプのモータの例であり、インバータ回路32Iが第2のインバータ回路の例であり、圧力計PS2が第2の圧力検出手段の例である。
【0130】
また、制御装置90が制御手段の例であり、制御バルブ21,23が第1の開閉弁の例であり、制御バルブ31,34が第2の開閉弁の例である。
【0131】
さらに、目標圧力値Uが第1および第2の目標値の例であり、第1の目標圧力値が第1の目標値の例であり、第2の目標圧力値が第2の目標値の例である。
【0132】
請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の要素を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明は、電気分解により気体を発生するために利用することができる。
【符号の説明】
【0134】
1 電解槽
2 隔壁
3 陰極室
4 陽極室
5 電解浴
6 陰極
7 陽極
10 HF供給管
11 自動弁
12 オリフィス
13,21,23,31,33 制御バルブ
20 水素ガス排出管
20a 陰極出口
22,32 コンプレッサ
22I,32I インバータ回路
22M,32M モータ
24,34 HF吸着塔
30 フッ素ガス排出管
30a 陽極出口
40 液面センサ
100 フッ素ガス発生装置
PS1,PS2 圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気分解により第1および第2の気体を発生させる気体発生装置であって、
第1室および第2室に区画され、電気分解される化合物を含む電解浴を収容する電解槽と、
前記第1室において発生された第1の気体を排出する第1の気体排出経路と、
前記第2室において発生された第2の気体を排出する第2の気体排出経路と、
前記第2室内の電解浴の液面を検出する液面検出手段と、
前記第1の気体排出経路に設けられ、モータを有する第1のポンプと、
前記第1のポンプのモータに印加される駆動電圧を発生する第1のインバータ回路と、
前記液面検出手段により検出される液面が予め定められた基準高さよりも高い場合に、前記第1のポンプのモータに印加される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方が増加するように前記第1のインバータ回路を制御する制御手段とを備えることを特徴とする気体発生装置。
【請求項2】
前記第1室内の圧力を検出する第1の圧力検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、
前記液面検出手段により検出される液面が前記基準高さ以下である場合に、前記第1の圧力検出手段により検出される圧力が第1の目標値に近づくように前記第1のインバータ回路により発生される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方を制御することを特徴とする請求項1記載の気体発生装置。
【請求項3】
前記第2の気体排出経路に設けられ、モータを有する第2のポンプと、
前記第2のポンプのモータに印加される駆動電圧を発生する第2のインバータ回路と、
前記第2室内の圧力を検出する第2の圧力検出手段とをさらに備え、
前記制御手段は、
前記第2の圧力検出手段により検出される圧力が第2の目標値に近づくように前記第2のインバータ回路により発生される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方を制御することを特徴とする請求項1または2記載の気体発生装置。
【請求項4】
前記第1室内の圧力を検出する第1の圧力検出手段と、
前記第2の気体排出経路に設けられ、モータを有する第2のポンプと、
前記第2のポンプのモータに印加される駆動電圧を発生する第2のインバータ回路と、
前記第2室内の圧力を検出する第2の圧力検出手段とをさらに備え、
前記制御手段は、
前記液面検出手段により検出される液面が前記基準高さ以下である場合に、前記第1の圧力検出手段により検出される圧力が第1の目標値に近づくように前記第1のインバータ回路により発生される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方を制御するとともに、前記第2の圧力検出手段により検出される圧力が前記第1の目標値よりも小さい第2の目標値に近づくように前記第2のインバータ回路により発生される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方を制御することを特徴とする請求項1記載の気体発生装置。
【請求項5】
前記第1の気体排出経路に設けられる第1の開閉弁と、
前記第2の気体排出経路に設けられる第2の開閉弁とをさらに備え、
前記制御手段は、前記電解槽において電気分解が行われる場合に前記第1および第2の開閉弁を開き、前記電解槽において電気分解が行われない場合に前記第1および第2の開閉弁を閉じることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の気体発生装置。
【請求項6】
前記第1室は陰極室であり、前記第2室は陽極室であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の気体発生装置。
【請求項7】
前記第2の気体はフッ素であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の気体発生装置。
【請求項8】
第1室および第2室に区画された電解槽を用いて電気分解により第1および第2の気体を発生させる気体発生方法であって、
前記電解槽内に収容される電解浴に電圧を印加することにより前記第1室および前記第2室においてそれぞれ第1および第2の気体を発生させるとともに、前記第1室および前記第2室において発生された第1および第2の気体をそれぞれ第1および第2の気体排出経路を通して排出するステップと、
前記第1の気体排出経路を通して第1の気体の排出をモータを有する第1のポンプにより制御するステップと、
前記第2室内の電解浴の液面を検出するステップと、
前記第1のポンプのモータに第1のインバータ回路により駆動電圧を印加するステップと、
前記検出される液面が予め定められた基準高さよりも高い場合に、前記第1のポンプのモータに印加される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方が増加するように前記第1のインバータ回路を制御するステップとを含むことを特徴とする気体発生方法。
【請求項9】
前記第1室内の圧力を検出するステップと、
前記検出される液面が予め定められた基準高さ以下である場合に、前記検出される前記第1室内の圧力が第1の目標値に近づくように前記第1のインバータ回路により発生される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方を制御するステップと、
前記第2の気体排出経路を通して第2の気体の排出をモータを有する第2のポンプにより制御するステップと、
前記第2のポンプのモータに第2のインバータ回路により駆動電圧を印加するステップと、
前記第2室内の圧力を検出するステップと、
前記検出される前記第2室内の圧力が前記第1の目標値よりも小さい第2の目標値に近づくように前記第2のインバータ回路により発生される駆動電圧の実効値および周波数の少なくとも一方を制御するステップとをさらに備えることを特徴とする請求項8記載の気体発生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−219847(P2011−219847A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93437(P2010−93437)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省、地域イノベーション創出研究開発事業「地球温暖化係数ゼロのフッ素ガスオンサイト小型発生装置の開発に関する研究」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】