説明

気化装置、及び、気化装置を備えたプラズマ処理装置

【課題】従来のフラーレン気化装置は、昇華効率が悪く、時間当たり昇華量が少ない、昇華せずに加熱容器中に残るフラーレン量が多い、昇華温度を高くすると突沸が発生するという問題があった。
【解決手段】気化装置に銅製のメッシュ膜などの伝熱部材を挿入し、その中にフラーレンを充填して加熱することにした。フラーレン全体に均一に熱が伝達されるので、昇華効率が向上し、未昇華フラーレンの量が低減し、時間あたりの昇華量が増えた。突沸の防止にも効果があった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体材料または液体材料を気化し材料ガスを生成する気化装置、及び、該気化装置により生成した材料ガスを用いて、堆積膜を形成する蒸着装置、若しくは、物理反応または化学反応により反応生成物を製造するプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開2006-193761号公報
【0003】
原子内包フラーレンは、フラーレンとして知られるC60、C70、C76、C78、C82、C84などの球状炭素分子に、アルカリ金属などの原子を内包した、エレクトロニクス、医療等への応用が期待される材料である。
原子内包フラーレンの製造方法としては、真空容器中で生成した他元素原子イオン(炭素以外の元素からなるイオン)を含むプラズマ流を堆積基板に照射し、同時に、気化装置で昇華したフラーレンガスを該堆積基板に噴射し、他元素原子イオンとフラーレンの反応により内包フラーレンを製造する方法が知られている(プラズマ照射方式)。
図6(a)は、プラズマ照射方式による内包フラーレンの製造装置の断面図である。図6(a)に示す内包フラーレンの製造装置は、真空容器61と、アルカリ金属プラズマ源と、フラーレン気化装置67と、堆積基板68とから構成される。真空容器61は、真空ポンプ62により約10-4Paの真空度に排気している。アルカリ金属プラズマ源は、接触電離によりアルカリ金属イオンと電子とからなるプラズマを生成するプラズマ源で、アルカリ金属気化装置64と加熱基板65とから構成される。アルカリ金属気化装置64により加熱昇華したLiなどのアルカリ金属ガスを高温の加熱基板65に噴射すると、アルカリ金属分子が電離して、アルカリ金属イオンと電子からなるプラズマが発生する。発生したプラズマは、電磁コイル63により発生させた磁場により閉じ込められ、加熱基板65から流れ出るプラズマ流66になる。プラズマ流66の下流に堆積基板68を配置し、フラーレン気化装置67により加熱昇華したフラーレンガスを堆積基板68に向けて噴射し、堆積基板68に対しバイアス電圧印加電源69により、正電荷のアルカリ金属イオンを加速する負の電圧を印加する。堆積基板68上でアルカリ金属イオンとフラーレン分子が反応して内包フラーレンが生成する。
【0004】
図7(a)及び(b)は、特許文献1に開示された従来の気化装置の斜視図及び断面図である。図6(a)に示す内包フラーレンの製造装置におけるフラーレン気化装置として、図7に示す従来の気化装置が用いられていた。また、特許文献1には明記されていないが、図7に示す構造の気化装置が、図6(a)に示す内包フラーレンの製造装置において、アルカリ金属を昇華する気化装置としても用いられていた。
図7に示す従来の気化装置は、外周部にヒーター線102が取り付けられた筒状の加熱容器101にフラーレン粉末103を充填して、例えば600℃の温度に加熱容器を加熱して、その熱をフラーレン粉末103に伝える。この時、昇華温度を超えたフラーレン粉末が気化して、生成したフラーレンガスを加熱容器101の開放端から取り出すものである。
【0005】
図7に示す従来の気化装置では、十分高い効率で加熱容器に充填した材料を気化させることができないという問題があった。気化した材料ガスを堆積基板上に蒸着し、気化前に充填した材料の重量、蒸着後の堆積膜の重量、気化装置に残った材料の重量を測ることにより、時間あたりの気化量を求めることができる。従来の気化装置では、気化せずに気化装置中に残る材料の量が多く、気化量が小さいという問題があった。
さらに、気化量を大きくするために、加熱温度を高くしたり、加熱時間を長くしたりすると、フラーレン粉末が、固体の塊のまま、加熱容器から飛び出し、一部のフラーレン粉末が堆積基板に付着する突沸と呼ぶ現象が発生する問題があった。突沸が起きると、蒸着の場合は、蒸着膜がきれいに形成されない、内包フラーレンの製造の場合は、フラーレンの塊はプラズマ中のイオンと反応しないので、内包フラーレンの製造効率が低下するという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、気化効率が高く、突沸が発生しない気化装置、及び、係る気化装置を備えたプラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明(1)は、開口部を有する容器に固体材料又は液体材料を入れて、前記容器を加熱して前記固体材料又は前記液体材料を気化する気化装置であり、前記容器の内部に伝熱部材を配置し、前記伝熱部材の体積の前記容器の容積に対する比が50%以上、100%以下であることを特徴とする気化装置である。
本発明(2)は、前記固体材料がフラーレンであることを特徴とする前記発明(1)の気化装置である。
本発明(3)は、前記伝熱部材が銅、ステンレス、アルミニウム、金、銀、ベリリウム、ボロンナイトライド、アルミナ、窒化シリコン又は窒化アルミからなる部材、あるいは、銅とステンレス、又は、銅とボロンナイトライドからなる複合部材であることを特徴とする前記発明(1)又は前記発明(2)の気化装置である。
本発明(4)は、前記伝熱部材が前記容器に対し着脱可能なメッシュ状の薄膜をロール状に丸めた柱状の部材であることを特徴とする前記発明(1)乃至前記発明(3)の気化装置である。
本発明(5)は、フラーレンを前記薄膜上に散布してから、前記薄膜をロール状に丸めた前記伝熱部材を前記容器に挿入して取り付けることを特徴とする前記発明(4)の気化装置である。
本発明(6)は、前記伝熱部材がたわし状の部材であることを特徴とする前記発明(1)乃至前記発明(3)の気化装置である。
本発明(7)は、前記容器が、内部に前記容器の壁部と連結した柱状の伝熱部を備えていることを特徴とする前記発明(1)乃至前記発明(5)の気化装置である。
本発明(8)は、気化により生成したガスの出力部に直径3mm以上のノズルを備えたことを特徴とする前記発明(1)乃至前記発明(7)の気化装置である。
本発明(9)は、前記容器自体の内部にヒーターを埋め込んだことを特徴とする前記発明(1)乃至(8)のいずれか1項記載の気化装置である。
本発明(10)は、前記ヒーターの形状は、櫛歯状、円筒状、プレート状又はメッシュ状をしていることを特徴とする前記発明(9)記載の気化装置である。
本発明(11)は、前記発明(1)乃至(10)のいずれか1項記載の気化装置を備えた蒸着装置、又はプラズマ処理装置である。
本発明(12)は、前記発明(11)記載の蒸着装置を備えたことを特徴とする内包フラーレン製造装置である。
本発明(13)は、前記発明(1)乃至前記発明(10)の気化装置を用いて、固体材料又は液体材料を気化する気化方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明(1)によれば、加熱容器内の固体材料又は液体材料の内部の温度均一性が向上し、気化効率の向上、突沸の防止に効果がある。
本発明(2)によれば、熱伝導率の低いフラーレンでも、加熱容器に充填したフラーレンの全体に均一加熱が可能で、昇華効率の向上、突沸の防止に効果がある。
本発明(3)によれば、熱伝導度の高い銅、ボロンナイトライドを用いた場合は、気化する材料の高効率均一加熱に効果があり、熱容量の大きいステンレスを用いた場合は、熱損失の低減に効果がある。
本発明(4)によれば、丸めた薄板の隙間に気化する材料を充填することができ、材料に対する伝熱効率が向上する。メッシュ状の薄板を用いることにより、メッシュ上の孔部を発生したガスが通過できるので、突沸防止に効果がある。
本発明(5)によれば、フラーレンのような粉状の材料を薄板間に均一に容易に充填できる。
本発明(6)によれば、金属たわしなどは入手が容易な部材であり、隙間が多いので、フラーレンのような粉状材料を多量に充填できる。
本発明(7)によれば、柱状の伝熱部を介して加熱することができるので、気化する材料内部の加熱均一性がより向上する。
本発明(8)によれば、気化装置で発生するガス流の流出方向を制御可能で、かつ、ノズル部における材料の凝固による詰まりを防止することができる。
本発明(9)では、容器(ルツボ)の内部にもヒーターとなる金属を配置しえちるので、内部からも発熱を助け温度分布安定が極めて良好になる。また、突沸はより効果的に防止される。
本発明(10)では、内部に櫛歯状などのヒーターを設け上下に電流を流して加熱することができ、容器の均一加熱に有効である。ヒーターは、電流により発熱する金属その他の導電体により構成すればよい。
本発明(11)によれば、蒸着装置又はプラズマ処理装置における生成物の品質を向上し、生成効率を向上することが可能である。
本発明(12)によれば、内包率が高い内包フラーレンを製造することが可能となる。
本発明(13)によれば、加熱容器内の固体材料又は液体材料の内部の温度均一性が向上し、気化効率の向上、突沸の防止に効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の最良形態について説明する。
【0010】
発明者らは、図7に示す構造の気化装置を基にさまざまな改良実験を行い、気化効率の向上を試みた。その結果、特に、気化効率の向上に有効であったのは、フラーレン粉末とともに、容器の内部空間とほぼ同じ大きさのメッシュボールを気化装置の加熱容器に入れた場合であった。加熱容器、メッシュボールの材質は、熱伝導度の高い銅を用いた。メッシュボールを入れた場合は、入れない場合と比較して昇華効率が高かった。これはメッシュボールを入れることで、加熱容器内の温度分布の均一性が高くなり、昇華が促進されるためと考えられる。
【0011】
(気化装置の第一の具体例)
図1(a)及び(b)は、それぞれ、本発明に係る気化装置の第一の具体例の斜視図及び断面図である。図1(a)において、加熱容器1の内部にロール状の伝熱部材が挿入してある。伝熱部材の大きさは、加熱容器の内部空間全体を満たす大きさとしている。加熱容器、及び、伝熱部材の材料は、銅、ボロンナイトライドなどの熱伝導度の高い部材を用いるのが好ましい。加熱容器内の温度分布の均一性を高め、加熱容器内に充填したフラーレンなどの気化材料を均一に加熱することができ、気化効率を高めることができる。
伝熱部材の大きさが加熱容器の全体を満たしていない場合についても、伝熱部材の体積が少なくとも加熱容器の容積の半分を満たす場合には、気化効率向上に高い効果が得られた。
また、加熱容器、及び、伝熱部材の材料は、ステンレスなどの熱容量の大きい部材を用いてもよい。熱容量の大きい部材を用いることで、加熱容器内の熱損失、及び、加熱容器から外部に放出される熱損失を小さくできるので、気化装置に供給した電力を無駄なく気化材料に供給することができる。さらに、熱伝導率の高い銅やボロンナイトライドと熱容量の大きいステンレスを組み合わせて、加熱容器及び/又は伝熱部材を作製した場合には、熱伝導率が高く、熱損失の少ない気化装置とすることが可能になるので、気化効率向上の点でより好ましい。複数の材料の組み合わせ方法は、加熱容器の場合は、積層板を用いて容器を形成してもよい。伝熱部材の場合は、例えば、銅のメッシュ板とステンレスのメッシュ板を重ねて巻いて、ロール状の伝熱部材を作製してもよい。
加熱容器中に配置する伝熱部材は、着脱可能なものであってもよいし、加熱容器に取り付けられて着脱不可能又は着脱困難なものであってもよい。
加熱容器の形状は、図1には円筒状の加熱容器を示したが、本発明の気化装置における加熱容器の形状は円筒に限定されない。筒状であれば、断面が円形でなくても、例えば四角形など任意の形状であっても、円形の場合と同様の効果が得られる。また、開口部は1個に限定されず、複数個の開口部を有していてもよい。
本発明の気化装置は、フラーレンなどの固体の気化だけでなく、油などの液体の気化に用いた場合でも、気化効率の向上、及び、突沸の防止に効果がある。一般的に、物質の固相から気相への相変化を「昇華」、液相から気相への相変化を「蒸発」と呼ぶが、本明細書では、昇華、蒸発を含めた概念を表す用語として「気化」を用いる。
伝熱部材は、メッシュ状の薄膜をロール状に巻いて、加熱容器に入れてある。メッシュ状とすることで、フラーレンなどの固体粉末を気化する場合は、メッシュの孔を通してロール状の伝熱部材の上から粉末を加熱容器内に充填することが可能である。孔部にも粉末が入り込むので、充填できる材料の量が増やせる。また、孔を通して、加熱容器の下部で気化したガスを加熱容器の外に取り出すことも可能になる。また、液体を気化する場合は、孔を通して、液体が対流するので、液体内の温度均一性がさらによくなるという効果もある。最適なメッシュの孔の大きさは、気化させる材料によっても異なるが、フラーレンの場合は、分子の大きさが約1nmと小さいため、孔の大きさが小さくても有効に機能する。例えば、10nm以上、1mm以下の孔の開いた薄膜を伝熱部材として用いるのが好ましい。
【0012】
(突沸の発生防止)
先に説明したように、従来の気化装置では、加熱温度を高くしたり、加熱時間を長くしたりすると突沸が発生する問題がある。発明者らは、突沸の発生原因を検討するに際し、フラーレンの熱伝導度が比較的小さいことに注目した。加熱容器に充填したフラーレン粉末の中で、加熱容器の壁部に近いほうは比較的短時間で温度が上昇するのに対し、壁部から遠い部分については、充填したフラーレンの表面部分においても温度が上昇しにくく、そのため、先に気化した容器内の下部や側面部におけるフラーレンガスによって、容器中央の低温部のフラーレン粉末が吹き飛ばされるために突沸が発生すると考えた。
図2(b)は、従来の気化装置による突沸の発生を説明する図である。加熱容器21に充填されたフラーレン粉末23のうち、容器壁部に近い部分では、フラーレンが短時間で昇華温度に達して気化するのに対し、容器中央部ではフラーレンの温度が低く、粉状或いは塊状の固体の状態にある。そのような固体フラーレンが、先に気化したフラーレンガス24の膨張によって圧力を受け、加熱容器21の外部に飛び出す。一部の塊状フラーレンは、堆積基板27に達し、その上に堆積する。
図2(a)は、本発明の気化装置による気化の状態を説明する図である。加熱容器11の内部には、メッシュ状薄膜をロール状に巻いた伝熱部材13が取り付けられており、伝熱部材13の隙間にフラーレン粉末14が充填されている。係る気化装置を用いてフラーレンを加熱すると、フラーレンの熱伝導度は小さくても、加熱容器11の熱が伝熱部材を通しても伝えられるので、加熱容器11内のフラーレン全体が均一に加熱される。また、伝熱部材には多数の孔が開いているので、加熱容器の下部で気化したフラーレンは孔部を経由した隙間を通じて、加熱容器の表面に出ていくことができ、上部の固体フラーレンに圧力をかけることがない。そのため突沸の発生を防止することができる。
液体を気化させる気化装置の場合でも、本発明の気化装置を用いることにより、充填された液体内の温度を均一に加熱することができるので、突沸の防止に効果が高い。
【0013】
(伝熱部材に対する気化材料の充填方法)
図1に示すロール状の伝熱部材を用いる場合のフラーレンの充填方法は、伝熱部材を加熱容器の中に挿入し、その後、フラーレンを伝熱部材の隙間に入れる。それ以外の方法として、図3(a)乃至(d)に示す方法によりフラーレンを充填することも可能である。薄膜状の伝熱部材31をテーブルなどの平坦部上に広げる(図3(a))。伝熱部材31上にフラーレン粉末32を散布する(図3(b))。次に、伝熱部材31を一端から巻いていく(図3(c))。ロール状にして、加熱容器に挿入できる状態にする(図3(d))。この方法で気化材料を伝熱部材内に充填することで、充填部材の内部に多量のフラーレンを均一に充填することが可能になる。
【0014】
(気化装置の第二の具体例)
図4(a)及び(b)は、それぞれ、本発明に係る気化装置の第二の具体例の斜視図及び断面図である。第二の具体例は、筒状の加熱容器の内部に加熱容器の壁部と連結した柱状の伝熱部を備えていることを特徴とする。特に、ヒーター線から離れた容器中央部のフラーレンに対する熱伝達効率を向上することが可能である。伝熱部の断面は円形に限定されない。四角形など任意の形状でもよい。第二の具体例の気化装置を用いる場合も、気化効率の向上、突沸の防止に効果がある。
【0015】
(気化装置の第三の具体例)
図4(c)は、本発明に係る気化装置の第三の具体例の斜視図である。第三の具体例は、加熱容器46が複数の凹部を備え、それぞれの凹部に伝熱部材48、49が取り付けられていることを特徴とする。第三の具体例の気化装置を用いる場合も、気化効率の向上、突沸の防止に効果がある。
【0016】
(気化装置の第四の具体例)
図4(d)は、本発明に係る気化装置の第四の具体例の断面図である。第四の具体例は、加熱容器50が、筒状の加熱容器の内部に加熱容器の壁部と連結した柱状の伝熱部を備えていること、及び、伝熱部が内部にヒーター線を有していることを特徴とする。特に、ヒーター線から離れた容器中央部のフラーレンに対する熱伝達効率を向上することが可能である。伝熱部の断面は円形に限定されない。四角形など任意の形状でもよい。第四の具体例の気化装置を用いる場合も、気化効率の向上、突沸の防止に効果がある。
【0017】
(気化装置の第五の具体例)
図4(e)及び(f)は、それぞれ、本発明に係る気化装置の第五の具体例の斜視図及び断面図である。第五の具体例は、ロール状の薄膜からなる伝熱部材ではなく、たわし状の伝熱部材を用いたことを特徴とする。たわし状伝熱部材の大きさは、加熱容器の内部空間全体を満たす大きさとしている。フラーレンなどの気化材料は、たわし状の伝熱部材の隙間に充填する。伝熱部材の材料は、銅などの熱伝導度の高い部材を用いるのが好ましい。加熱容器内の温度分布の均一性を高め、加熱容器内に充填した気化材料を均一に加熱することができ、気化効率を高めることができる。また、伝熱部材の材料は、ステンレスなどの熱容量の大きい部材を用いてもよい。熱容量の大きい部材を用いることで、加熱容器内の熱損失、及び、加熱容器から外部に放出される熱損失を小さくできるので、気化装置に供給した電力を無駄なく気化材料に供給することができる。第五の具体例の気化装置を用いる場合も、気化効率の向上、突沸の防止に効果がある。
【0018】
(気化方向制御ノズル)
図6(a)に示す内包フラーレンの製造装置の断面図からわかるように、気化装置67から取り出される材料ガスを効率よく堆積基板68に均等に効率よく噴射するためには、取り出す材料ガスの方向を制御する必要がある。図6(b)及び(c)は、ノズルを備えた気化装置の断面図である。図6(b)、(c)では、本発明の気化装置を、ノズル71を備えた容器に入れているが、気化装置の開放端にノズルを取り付けても、ガス流の方向を制御することが可能である。
従来は、ノズル部でフラーレンが凝固して、ノズルの開口部が狭くなる、又は詰まるという問題があった。しかし、本発明の気化装置を用い、加熱容器に銅メッシュを挿入することで、昇華状態が改善された。さらに、ノズルの直径φを3mm以上にすることで、フラーレンのノズル詰まりを防止できるようになった。図6(c)に示すように、ノズル71をヒーター線72で加熱することも、ノズル詰まりの防止に効果がある。
【0019】
(気化装置の応用)
本発明の気化装置は、フラーレンを気化させてプラズマとの反応により内包フラーレンを製造する装置に用いることができる。また、内包フラーレン以外にも、プラズマとの物理的又は化学的反応により、例えばヘテロフラーレンなどの反応生成物を製造するプラズマ処理装置や、フラーレンの薄膜を堆積する蒸着装置に用いることが可能である。また、本発明の気化装置は、フラーレン以外にもアルカリ金属などの固体材料を気化する装置に用いることができる。アルカリ金属は銅と反応するので、加熱容器の材料として、例えばステンレスを用いる必要がある。
また、先にも述べたように、本発明の気化装置は、固体材料の昇華だけでなく、液体材料の蒸発にも用いることが可能で、気化効率の向上、突沸の防止に効果が高い。
【実施例】
【0020】
図5は、本発明及び従来の気化装置による昇華効率を比較するグラフである。加熱容器は、ヒーター線を備えた市販のMIバンドヒーターを用いた。図5に×で示す従来タイプの気化装置では、伝熱部材を使用せずに、フラーレン粉末をMIバンドヒーターの加熱容器に充填した。加熱容器の直径は25mmφである。図5に白丸で示すタイプ1の気化装置では、本発明の第一の具体例(図1(a),(b))に示すように、1個の銅製ロール状伝熱部材を加熱容器に挿入し、その中にフラーレン粉末を充填した。加熱容器の直径は従来の気化装置と同じ25mmφである。図5に黒丸で示すタイプ2の気化装置では、タイプ1と同じ加熱容器に8mmφの孔が4個開いた銅製の支持部材を取り付け、その中に銅製ロール状伝熱部材を挿入し、フラーレン粉末を充填した。前記した本発明の具体例では、第三の具体例に相当する。フラーレンの充填量は、いずれの気化装置も2.0gとし、昇華温度を600℃乃至700℃として、単位時間あたりの昇華量を調べた。昇華時間は、従来タイプが1.5時間、タイプ1、タイプ2が2時間であった。その結果、従来タイプと比較して、本発明の気化装置であるタイプ1とタイプ2は、昇華効率が大幅に向上することがわかった。例えば、タイプ1の気化装置は、従来の気化装置と比較して640℃における昇華量が約6倍に増えた。本発明の気化装置を用いた評価実験により、昇華温度を高くすると昇華量が増えることが確認できた。また、高い温度で昇華しても、突沸の発生は観察されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)及び(b)は、それぞれ、本発明に係る気化装置の第一の具体例の斜視図及び断面図である。
【図2】(a)は、本発明の気化装置による気化の状態を説明する図であり、(b)は、従来の気化装置による突沸の発生を説明する図である。
【図3】(a)乃至(d)は、本発明の気化装置で用いる伝熱部材に気化材料を充填する方法の具体例を説明する図である。
【図4】(a)及び(b)は、それぞれ、本発明に係る気化装置の第二の具体例の斜視図及び断面図である。(c)は、本発明に係る気化装置の第三の具体例の斜視図である。(d)は、本発明に係る気化装置の第四の具体例の断面図である。(e) 及び(f)は、本発明に係る気化装置の第五の具体例の断面図である。
【図5】本発明及び従来の気化装置による昇華効率を比較するグラフである。
【図6】(a)は、内包フラーレンの製造装置の断面図であり、(b)及び(c)は、ノズルを備えた気化装置の断面図である。
【図7】(a)及び(b)は、それぞれ、従来の気化装置の斜視図及び断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1、11、21、41、46、50、56、101 加熱容器
2、12、22、42、47、51、53、57、102 ヒーター線
3、13、31、41、43、44、48、49、52、54、58 伝熱部材
4、14、23、32、42、45、55、59、103 フラーレン粉末
15、26 フラーレン蒸気
16、27 堆積基板
17、28 フラーレン堆積膜
24 沸騰部
25、29 塊状フラーレン
61 真空容器
62 真空ポンプ
63 電磁コイル
64 アルカリ金属気化装置
65 加熱基板
66 プラズマ流
67 フラーレン気化装置
68 堆積基板
69 バイアス電圧印加電源
70 気化装置
71 ノズル
72 ヒーター線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する容器に固体材料又は液体材料を入れて、前記容器を加熱して前記固体材料又は前記液体材料を気化する気化装置であり、前記容器の内部に伝熱部材を配置し、前記伝熱部材の体積の前記容器の容積に対する比が50%以上、100%以下であることを特徴とする気化装置。
【請求項2】
前記固体材料がフラーレンであることを特徴とする請求項1記載の気化装置。
【請求項3】
前記伝熱部材が銅、ステンレス、アルミニウム、金、銀、ベリリウム、ボロンナイトライド、アルミナ、窒化シリコン又は窒化アルミからなる部材、あるいは、銅とステンレス、又は、銅とボロンナイトライドからなる複合部材であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項記載の気化装置。
【請求項4】
前記伝熱部材が前記容器に対し着脱可能なメッシュ状の薄膜をロール状に丸めた柱状の部材であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の気化装置。
【請求項5】
フラーレンを前記薄膜上に散布してから、前記薄膜をロール状に丸めた前記伝熱部材を前記容器に挿入して取り付けることを特徴とする請求項4記載の気化装置。
【請求項6】
前記伝熱部材がたわし状の部材であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の気化装置。
【請求項7】
前記容器が、内部に前記容器の壁部と連結した柱状の伝熱部を備えていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の気化装置。
【請求項8】
気化により生成したガスの出力部に直径3mm以上のノズルを備えたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の気化装置。
【請求項9】
前記容器自体の内部にヒーターを埋め込んだことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の気化装置。
【請求項10】
前記ヒーターの形状は、櫛歯状、円筒状、プレート状又はメッシュ状をしていることを特徴とする請求項9記載の気化装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項記載の気化装置を備えた蒸着装置、又はプラズマ処理装置。
【請求項12】
請求項11記載の蒸着装置を備えたことを特徴とする内包フラーレン製造装置。
【請求項13】
請求項1乃至10のいずれか1項の気化装置を用いて、固体材料又は液体材料を気化する気化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−291330(P2008−291330A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139627(P2007−139627)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(502344178)株式会社イデアルスター (59)
【Fターム(参考)】