説明

気孔偏在焼成ペレット及びその製造方法

【課題】貯留中、強度が低下せず、かつ、被還元性に優れた焼成ペレットを提供する。
【解決手段】鉄鉱石粉と、CaCO3及び/又はMgCO3を含む副原料鉱石粉の混合粒状物を焼成したペレットであって、(x1)表層部が、気孔率:20%以上の気孔連通組織からなり、(x2)中心部が、気孔率:20%未満の気孔閉塞組織からなることを特徴とする気孔偏在焼成ペレット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気孔が表層部に偏在する高炉装入用の焼成ペレットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、高炉装入原料の一部として従来から使用されている焼成ペレットは、焼結鉱に比べ、高温での還元性に劣るので、高炉で使用した際には、焼結鉱を使用した場合に比較して、高炉内に形成される融着帯が肥大して、炉内通気性が悪化したり、還元材比が上昇したりする。
【0003】
焼成ペレットの上記欠点は、次の理由によると考えられている。焼成ペレットは、高炉の炉内を降下するに従って、炉内を上昇する還元ガスで加熱され、鉄酸化物が還元されるが、還元初期に表層部で生成する還元鉄が緻密な外殻を形成し、還元ガスの焼成ペレット内部への拡散を阻害するので、還元後期では、鉄酸化物の還元速度が著しく低下する。
【0004】
このため、焼成ペレットは、総合的な還元性が焼結鉱に比較して劣っている。さらに、焼成ペレットは、融着帯を形成する1200℃以上の領域に達しても、中心部にスラグが集中して残留する形態をなしているので、融着帯での収縮が大きい。
【0005】
焼成ペレットの上記欠点を改善する方策として、CaO及び/又はMgOを添加して、焼成ペレットを自溶化し、被還元性を改善することが試みられている。例えば、特許文献1には、CaOよりMgOの方が、還元性改善効果が高いことが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、CaOやMgOの濃度と、CaOやMgO源の粒度の最適化がなされ、CaO/SiO2を0.8以上、MgO/SiO2を0.4以上とし、粒度を44μm〜1mmとすれば、高温での還元率が、さらに改善されることが開示されている。
【0007】
しかし、自溶化した焼成ペレット(自溶性焼成ペレット)は、雨や、空気中の湿分を吸収すると、ペレット中のスラグ中のCaO、MgO等の水和反応が経時的に進行し、これに伴う体積膨張で、組織が崩壊し、圧潰強度が低下する(以下「経時劣化」という。)という問題を抱えている。
【0008】
特許文献3には、自溶性焼成ペレットの経時劣化を解決する方策として、特許文献2に開示の方策とは逆に、CaOやMgO源の粒度を小さくすること、具体的には、44μm以下を20%以上とすることが開示されている。
【0009】
以上述べたように、焼成ペレットの自溶化は、焼成ペレットの被還元性を改善するが、一方で、経時劣化の問題を抱えることになり、これまで、被還元性と経時劣化を同時に改善する方策は提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭50−021917号公報
【特許文献2】特開平01−136936号公報
【特許文献3】特開平07−197137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記現状に鑑み、ペレットの輸送や貯留中に経時劣化がなく、かつ、被還元性に優れた焼成ペレットと、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らの検討によれば、単に、気孔率を高くしたり、気孔径を拡大したりすれば、焼成ペレットの被還元性は向上するが、ペレット圧潰強度は低いレベルにとどまり、さらに、原料貯留期間の経時劣化による圧潰強度の低下量は増大する。
【0013】
単に、気孔率を高めたり、気孔径を拡大した場合に、原料貯留期間の焼成ペレットの圧潰強度の低下量が増大する理由は、焼成ペレットの気孔を通じて水分の吸収量が増加し、焼成ペレットのスラグ中のCaO、MgO等の水和反応が進行し、水和反応に起因する組織崩壊(CaO、MgOからCa(OH)2、Mg(OH)2を生成する時の体積膨張による組織破壊)が助長されるからであると考えられる。
【0014】
そこで、本発明者らは、従来は殆ど検討がなされていなかった焼成ペレットの気孔構造及び組織に着目し、全体の気孔率を高く維持しつつ、表層部と中心部の気孔構造及び組織を調整することによって、被還元性に優れ、かつ、原料貯留期間の圧潰強度の経時劣化量が少ない焼成ペレットを製造することを目指した。
【0015】
本発明者らは、新たに、鉄鉱石そのものの特性に着目して、各種銘柄の粉鉄鉱石及び副原料を用いた焼成ペレットを製造し、組織の性状・形態を調査した。その結果、鉄鉱石の結晶粒径(以下、「粒径」は直径を意味する。)によっても、自溶性焼成ペレットの焼成後の気孔構造が大きく変化することを見出した。
【0016】
即ち、次の知見を得るに至った。
【0017】
(i)平均粒径が20μm以下のヘマタイト結晶粒で構成されているカラジャス鉄鉱石粉等の鉄鉱石粉と、ドロマイト等のCaCO3及び/又はMgCO3を含む副原料鉱石粉の混合粒状物を焼成すると、表層部は、スラグを内包しない気孔連通組織であるのに対し、中心部は、カルシウム−シリケートスラグを内包する気孔閉塞組織である焼成ペレット、即ち、中心部に比べて表層部に気孔が偏在した“気孔偏在型の焼成ペレット”となる。
【0018】
(ii)気孔偏在型の焼成ペレット(以下「気孔偏在焼成ペレット」ということがある。)は、経時劣化が小さく(原料貯留期間の圧潰強度の経時劣化量が少ない)、かつ、被還元性に優れている。
【0019】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
【0020】
(1)鉄鉱石粉と、CaCO3及び/又はMgCO3を含む副原料鉱石粉の混合粒状物を焼成したペレットであって、
(x1)表層部が、気孔率:20%以上の気孔連通組織からなり、
(x2)中心部が、気孔率:20%未満の気孔閉塞組織からなる
ことを特徴とする気孔偏在焼成ペレット。
【0021】
(2)前記気孔連通組織のスラグ含有率が5質量%以下であり、前記気孔閉塞組織のスラグ含有率が10質量%以上であることを特徴とする前記(1)に記載の気孔偏在焼成ペレット。
【0022】
(3)前記(1)又は(2)に記載の気孔偏在焼成ペレットを製造する方法において、
(y1)平均粒径が20μm以下のヘマタイト結晶粒を含む鉄鉱石と
(y2)CaCO3及び/又はMgCO3を含む副原料を、SiO2が1.8〜2.2、複合塩基度(CaO+MgO)/SiO2が2.0〜1.5となるように混合し、
(y3)前記混合物を造粒した粒状物を焼成する
ことを特徴とする気孔偏在焼成ペレットの製造方法。
【0023】
(4)前記焼成を、1200〜1350℃、25〜50分、行うことを特徴とする前記(3)に記載の気孔偏在焼成ペレットの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ペレットの貯留期間の圧潰強度の経時劣化量が少なく、かつ、被還元性に優れた焼成ペレットを、高炉装入原料として提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】光学顕微鏡で撮像した本発明ペレットの断面組織を示す図である。
【図2】光学顕微鏡で撮像した本発明ペレットの中心部と表層部の組織(倍率:500倍)を示す図である。(a)は、中心部の組織を示し、(b)は、表層部の組織を示す。
【図3】光学顕微鏡で撮像した従来ペレットの中心部と表層部の組織(倍率:500倍)を示す図である。(a)は、中心部の組織を示し、(b)は、表層部の組織を示す。
【図4】従来のペレトと本発明のペレットの組織構造を模式的に比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明について、詳細に説明する。
【0027】
前述したように、本発明者らは、従来は殆ど検討されていなかった焼成ペレットの気孔構造及び組織に着目し、全体の気孔率を高く維持しつつ、表層部と中心部の気孔構造及び組織を調整することによって、被還元性に優れ、かつ、原料貯留期間の圧潰強度の経時劣化量が少ない、焼成ペレットを製造することを目指し、各種銘柄の粉鉄鉱石及び副原料を用いて焼成ペレットを製造し、組織の性状・態様を調査した。
【0028】
(基礎的な調査の結果)
以下に、調査の一結果について説明する。
【0029】
ブラジル産カラジャス鉱石、又は、ブラジル産MBR鉱石を粒径125μm以下に粉砕した鉄鉱石粉と、MgCO3とCaCO3を主成分として含有する副原料鉱石粉を、表1に示す成分組成となるように混合した原料を造粒して、粒径8〜15mmの粒状物を製造した。
【0030】
上記粒状物を、焼成炉で、焼成温度:1280℃、焼成時間:36分焼成して、焼成ペレット(以下、カラジャス鉱石を用いたものを「本発明ペレット」、MBR鉱石を用いたものを「従来ペレット」と呼ぶ。)を製造し、その組織と性状を調査した。
【0031】
ここに、カラジャス鉱石の結晶粒子径は、概ね1〜20μmであるのに対して、MBR鉱石の結晶粒子径は概ね50〜100μmとされている。
【0032】
【表1】

【0033】
表2に、本発明ペレットと従来ペレットの品質について比較調査した結果の代表的な数値を示す。本発明ペレットは、従来ペレットに比較して、特に加重軟化時の還元性に優れ、かつ、圧潰強度の経時劣化が小さいという、有利な効果を有することが確認された。
【0034】
【表2】

【0035】
次に、本発明ペレットと従来ペレットの組織構造の違いを検討する。
【0036】
図1に、光学顕微鏡で撮像した本発明ペレットの断面組織を示す。通常の融液反応で、全体的に、ヘマタイトと気孔を主体とする組織が形成されているが、中心部と表層部で、気孔構造及びヘマタイト以外の組織の態様が異なっていることが解る。
【0037】
図2に、光学顕微鏡で撮像した本発明ペレットの中心部と表層部の組織を示す。図2(a)は、中心部の組織を示し、図2(b)は、表層部の組織を示す。ペレットの中心部と表層部の組織において、明らかに、気孔構造及び気孔率が異なっていることが解る。
【0038】
本発明者らが詳細に分析した結果、次のことが判明した。
【0039】
(i)本発明ペレットの中心部では、焼成反応で生成したカルシウム−シリケート(化学式:CaO・SiO2)系融液が固化したスラグ部が、気孔を閉塞している組織(以下「気孔閉塞組織」という。)となっている。
【0040】
(ii)同表層部では、焼成反応で生成した気孔が、ほぼ生成したままの形状で集合し、カルシウム−シリケート系融液が固化したスラグ部が殆ど存在しない組織(以下「気孔連通組織」という。)となっている。
【0041】
一方、図3に、従来ペレットの中心部と表層部の気孔構造及び組織の態様を対比して示す。図3(a)は、中心部の気孔構造及び組織の態様を示し、図3(b)は、表層部の気孔構造及び組織の態様を示す。図3(b)に示す従来ペレットの表層部には、カルシウム−シリケート系融液が固化したスラグ部が存在して、図3(a)に示す従来ペレットの中心部の気孔組織に比べ、気孔が少ない組織となっていることが解る。
【0042】
このように、本発明ペレットの気孔構造及び組織は、従来ペレットの気孔構造及び組織とは顕著に異なるものである。
【0043】
表3に、本発明ペレットと従来ペレットの表層部と中心部における上述した組織構造の定性的な違いとともに、気孔及びスラグの面積率の測定例を対比して示す。
【0044】
【表3】

【0045】
本発明ペレットの表層部では、従来ペレットの表層部に比べて気孔率が格段に高く、カルシウム−シリケート系融液が固化したスラグ部の割合(スラグ率)が、1.7%と極端に小さい。また、本発明ペレットの中心部では、従来ペレットの表層部に比べて気孔率が低く、カルシウム−シリケート系融液が固化したスラグ部の割合(スラグ率)が大きいことが定量的にも示される。
【0046】
観察によると、気孔率が20%を境に、気孔の構造が変化するようである。20%以下では断面形状が円形であることから閉塞した気孔であると推定された。また、20%を超えると、断面形状は凹凸を増し、気孔同士が連続していることを窺わせた。
【0047】
このように、本発明ペレットは、表層部に、高炉での被還元性に寄与する気孔が集合して残存する気孔連通組織を有し、中心部に、カルシウム−シリケート系融液が固化したスラグ部が気孔を閉塞した気孔閉塞組織を有する焼成ペレットと言える。
【0048】
図4に、本発明ペレットの全体的な気孔構造及び組織構造を、従来ペレットと対比して模式的に示す。従来ペレットは、全体的にほぼ均質の気孔構造及び組織構造となっているが、本発明ペレットは、表層部が、気孔連通組織からなり、中心部が、カルシウム−シリケート系融液が固化したスラグ部が気孔を閉塞した気孔閉塞組織からなるものである。
【0049】
表層部が気孔連通組織であり、中心部が気孔閉塞組織である二層構造をとることが、本発明の基礎をなす新規な知見である。
【0050】
本発明の焼成ペレットにおいて、図2に示す新規な気孔構造及び組織構造が実現する理由は、次のように推測される。
【0051】
本発明ペレットの原料である元鉱石の粒子(鉱石粒子)は、20μm以下の微細なヘマタイト結晶粒の集合組織で構成されていて、加熱された鉱石組織が軟化融着する時、上記集合組織は、微細な20μm以下のヘマタイト結晶粒単位にまで、粒界で、個々に分断される。
【0052】
個々に分断された結晶粒が再結合する時に生じた空隙、及び、ドロマイトの脱炭酸反応(CO2ガス発生)によって生じた空隙が、多数の微細気孔となってペレット内部に残存する。
【0053】
一方、個々に分断された鉱石粒子は、多数の微細気孔を包含したまま結合するので、ペレット内部には、微細で複雑な気孔形状を持った海綿状の骨格が形成される。さらに昇温が進むと、温度がより高い表層部から融液が生じ始める。
【0054】
融液は、次第に中心部でも形成されるが、ペレットは、通常のペレットとは異なり、多孔質で海綿状の気孔組織を持っているので、表層部に生じた融液は、表面張力により、ペレットの内部に入り込む。ペレットの内部に入り込んだ融液は、ペレット中心部で、安定した球状形態を形成する。
【0055】
このため、ペレットの表層部は、融液部分が抜けた海綿状組織となる一方、中心部は緻密な構造となる。
【0056】
本発明の新規な組織構造のペレットでは、その表層部が海綿状組織となるので極めて被還元性が高くなる。また、中心部においても、海綿状組織の気孔を通じて、還元ガスがペレット中心部まで容易に浸透するので、ペレット中心部における還元も進行し易い。
【0057】
新規な組織構造のペレットにおいて、圧潰強度の経時劣化が小さい理由は、次のように推測される。
【0058】
(i)焼成反応で生成する融液が、ペレットの中心部に集中して固化するので、固化したスラグ(水に対し不安定なスラグ)が、水や空気中の湿分に触れる機会が少なくなり、体積膨張を伴う消石灰の生成がなくなる。
【0059】
(ii)消石灰が生成して中央部で体積膨張があっても、表層部に形成された海綿状の気孔連通組織が、体積膨張で生じる内部応力を吸収する。
【0060】
即ち、ペレット表層部における気孔率が高く、かつ、1μm以下の微細な気孔の割合(%)が高ければ、中央部で大きな内部応力が発生しても、吸収することができるので、組織内部に割れが発生しない。
【0061】
(請求項1に係る発明の詳細な説明)
本発明の気孔偏在焼成ペレット(本発明ペレット)は、上記知見に基づくもので、
(X1)表層部が、スラグ組織を内包しない気孔連通組織、及び、
(X2)中心部が、スラグ部が気孔を閉塞した気孔閉塞組織、
からなることを基本的な特徴とするものである。
【0062】
ここに、ペレットの中心部は、ペレットの中心からペレットの球相当径の1/3までの範囲とし、表層部は、ペレットの表面からペレットの球相当径の1/3までの範囲を目処とする。中間部は、両者の混在した組織を呈するのが一般的である。
【0063】
ただし、ペレットの中心部及び表層部の範囲は、上記範囲に限定されるものではない。焼成ペレットの中央部及び表層部の範囲は、気孔構造及び組織の全体的態様及び/又は部分的態様を考慮して、適宜、設定すればよい。
【0064】
ペレット表層部の気孔連通組織は、前述したように、圧潰強度の経時劣化が小さく、かつ、被還元性に優れた組織であるので、ペレット表層部の気孔率は、特に限定する必要はないが、気孔率20%を境として連通化することはすでに述べた。
【0065】
また、そのために表層部の気孔率が20%以上で、ペレットの高炉での被還元性も格段に向上する。還元率をさらに改善する観点から、気孔率は、30%以上がより好ましい。また、表層部の気孔率の上限は特に定めないが、40%を超えるものは実現していない。
【0066】
本発明ペレットの中心部の気孔閉塞組織の気孔率は20%以下となるが、10%以下がより好ましい。気孔率が20%以下であれば、焼成ペレットの圧潰強度の経時劣化が小さく、かつ、圧潰強度自体も高めることができる。
【0067】
なお、ペレット中心部の気孔閉塞組織は、表層部の組織に比べ、気孔率が顕著に小さい組織であるが、表層部の気孔率を含めた焼成ペレット全体の気孔率は、従来ペレットの気孔率と同等又は同等以下であるので、全体の気孔率の増加に起因する圧潰強度の低下の問題は生じない。
【0068】
(請求項2に係る発明の詳細な説明)
本発明の効果の多くは、上記気孔構造の実現で発揮されるが、さらに、スラグ分の適正な配置により、さらに好ましい結果が得られる。即ち、表層部の気孔貫通組織のスラグ含有率を5%以下とし、中心部の気孔閉塞組織のそれを10%以上になるように分配する。
【0069】
これにより、主要組織として、スラグ中のCaO、MgOの水和反応の進行に伴う圧潰強度の経時劣化が生じる原因となるカルシウム−シリケート系融液が固化したスラグ組織を、表層部に比べて多く含有させる。
【0070】
ペレット中心部の気孔閉塞組織は、気孔率が表層部の組織に比べて顕著に小さい組織であるので、CaO、MgO等の水和反応の進行が抑制され、その結果、水和反応による体積膨張に起因する圧潰強度の経時劣化は小さくなる。
【0071】
(請求項3に係る発明の詳細な説明)
本発明ペレットの製造方法の基本的な要件について説明する。原料である鉄鉱石は、ヘマタイトの結晶粒子の粒径が20μm以下である必要がある。これにより、加熱された鉱石組織が軟化融着する時、鉱石粒子は、その粒界で個々に分断されて、中心部の緻密化を促進する。
【0072】
なお、現在ヘマタイト系鉄鉱石でこの条件を満たすものはカラジャス鉱石しかないが、本発明は、カラジャス鉱石に限定されるものではない。また、ゲーサイト系鉱石(マラマンバ鉱石やピソライト鉱石)ではその結晶粒子径は一般的に20μm以下であると考えられる。
【0073】
しかし、現在のそれら鉱石ではSiO2,Al23含有量がともに高いため、原料の化学成分が表1に規定する範囲を超えてスラグ生成量が過剰となり、本発明の構造を有する焼成ペレットとはならない。
【0074】
さらに、スラグ形成成分では、SiO2が1.8〜2.2質量%の範囲において、複合塩基度(CaO+MgO)/SiO2を1.5〜2.0に調整することが必要である。SiO2量の規定は、複合塩基度との規定と相まって全体のスラグ量を決め、この範囲を外れると所望のペレット構造が得られない。
【0075】
複合塩基度の規定においては、1.5未満であると、より低い温度で融液が生成し始めるので、融液量が多くなり過ぎ、形成された気孔を塞いで、気孔率が低下する。一方、2.0超であると、ペレットの組織内において融液量が過多となる弊害は少なくなるものの、その高炉での使用にあたってスラグボリュームを上昇させてしまう。
【0076】
ペレットの塩基度は、還元性状を最大に発現させ、スラグボリュームを極力上昇させないような複合塩基度に調整することが好ましい。
【0077】
本発明ペレットにおいては、CaOとMgOの総量で気孔の存在形態が大きく変化したが、CaOとMgOの間に、気孔の存在形態に及ぼす影響に大きな差は認められなかった。
【0078】
そこで、本発明ペレットにおいて所要の気孔組織を得るため、上述したように、複合塩基度を指標として採用し、鉄鉱石粉と副原料を混合して製造した焼成前の粒状物の化学成分を規定している。
【0079】
本発明のペレットは、上述の原料を塊成化したものである。このとき、塊成化物の粒径は、通常のペレットが有する粒径でよいが、好ましくは、10mm以上、15.0mm以下である。
【0080】
(請求項4に係る発明の詳細な説明)
造粒及び焼成の工程に関しては、通常の焼成ペレット製造法に準じた方法でよい。即ち、前述の原料を造粒機で粒状物とし、それを、焼成炉で焼成する。焼成温度と焼成時間は、通常の焼成温度と焼成時間でよい。焼成温度は、1200〜1350℃、好ましくは、1250〜1300℃であり、焼成時間は、25〜50分、好ましくは35〜40分である。
【0081】
(製造方法の一形態)
次に、本発明ペレットの製造方法の一形態を説明する。カラジャス鉄鉱石を粉砕した微粉と、ドロマイト粉を混合して、表1に示す成分組成の原料とし、その原料を、皿型造粒機で造粒して粒状物とする。上記鉄鉱石の微粉は、粒径が小さいほど好ましく、粒径50μm以下がより好ましい。ドロマイト粉も、粒径が小さいほど好ましく、粒径50μm以下がより好ましい。
【0082】
ここに、複合塩基度調整にドロマイトを使用したのは、それがCaOとMgOを同程度含有しており、両成分を同時に調整できて好ましいことによるが、この限りではない。焼成方法については、(請求項4に係る発明の詳細な説明)で述べたとおりである。
【0083】
ペレットの気孔率は、所望の気孔率に応じて、ドロマイトの添加量を、適宜、設定することで制御可能である。しかし、高炉での使用条件からドロマイトの添加量が制約を受ける場合は、さらに炭材を添加して調整することもできる。炭材は、焼成中にガス化するので、その添加量の増加により気孔量が増加する。
【実施例】
【0084】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0085】
本発明ペレットの実機規模製造試験として、有効面積500m2のグレート型ペレット焼成機を使用し、10日間の試験製造を行った。原料として、カラジャス鉄鉱石とドロマイトを使用し、気孔率の制御と加熱用燃料の削減のため、粉コークスを添加した。使用したカラジャス鉱石を適宜サンプリングし、それを樹脂埋め・研磨して断面を顕微鏡で観察してその結晶粒子径を測定したところ、1〜10μmの範囲であった。
【0086】
これら原料をボールミル及びローラープレスで粒径50μm以下の比率が90質量%以上となるまで粉砕した後、水分9〜11質量%となるように調整しつつ皿型造粒機で造粒して、10〜15mmの生ペレットを製造した。焼成の最終段における温度は、1250〜1300℃で調整された。
【0087】
表4に、試験操業の結果を、1日の平均データとして示す。
【0088】
【表4】

【0089】
10日の間、SiO2は、1.8〜2.2質量%、及び、複合塩基度は1.5〜2.0の範囲となるように調整された。その結果、CaOは2.1〜2.7質量%、MgOは1.0〜1.4質量%の範囲で推移した。また、粉コークスは、還元率の推移を確認しつつ、62.0〜98.7kg/tの範囲で調整した。
【0090】
その結果、10日間を通じて、圧潰強度247〜291daN、JIS還元率86.3以上、60日後の強度劣化9.8daN以下の、被還元性に優れ、かつ、強度の経時劣化の小さい自溶性焼成ペレットを製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0091】
前述したように、本発明によれば、ペレットの貯留中において、ペレット強度の経時劣化がないので、圧潰強度が高く、かつ、被還元性に優れた焼成ペレットを、高炉装入原料として提供することができる。よって、本発明は、鉄鋼産業において利用可能性が高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鉱石粉と、CaCO3及び/又はMgCO3を含む副原料鉱石粉の混合粒状物を焼成したペレットであって、
(x1)表層部が、気孔率:20%以上の気孔連通組織からなり、
(x2)中心部が、気孔率:20%未満の気孔閉塞組織からなる
ことを特徴とする気孔偏在焼成ペレット。
【請求項2】
前記気孔連通組織のスラグ含有率が5質量%以下であり、前記気孔閉塞組織のスラグ含有率が10質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の気孔偏在焼成ペレット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の気孔偏在焼成ペレットを製造する方法において、
(y1)平均粒径が20μm以下のヘマタイト結晶粒を含む鉄鉱石と
(y2)CaCO3及び/又はMgCO3を含む副原料を、SiO2が1.8〜2.2、複合塩基度(CaO+MgO)/SiO2が2.0〜1.5となるように混合し、
(y3)前記混合物を造粒した粒状物を焼成する
ことを特徴とする気孔偏在焼成ペレットの製造方法。
【請求項4】
前記焼成を、1200〜1350℃、25〜50分、行うことを特徴とする請求項3に記載の気孔偏在焼成ペレットの製造方法。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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